けんさの豆知識

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2011 年 11 月発行
[38]マイコプラズマ肺炎について
マイコプラズマ肺炎は、かつては4年周期でオリンピックの開催年に流行して「オリンピッ
ク病」と呼ばれていました。しかし最近はこの傾向は崩れ、散発的な流行がみられ毎年増加
傾向にあります。
今回は特に、検査部で関与している抗マイコプラズマ抗体についてお話します。
Ⅰ マイコプラズマ感染症
<病原体>
肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)。
急性呼吸器感染症および肺炎の病原体です。
活性酸素を過剰に産生して呼吸器粘膜を軽く
傷害する作用のほかには、直接的に組織を傷害する能力はないといわれています。
<潜伏期>
2~3週間。
<感染>
小児・若年成人が中心です。乳幼児にも感染はおこりますが、不顕性が多く、その後再感
染することがあります。肺炎発生は5歳以上に多くみられます。
飛沫感染で、学校・幼稚園・保育園・家族内・職場など小集団内で流行することが多いよ
うです。
<症状>
乾いた咳から痰がからんでくるような咳が続き、夜間や早朝に強くなる特徴があります。
発熱、頭痛や全身倦怠感・咽頭痛を伴うことも多くあります。
肺炎にしては症状が軽かったり、初期は風邪と診断されたりすることも多く、そのため診
断が遅れることがあります。
<治療>
マクロライド系(ジスロマックなど)やテトラサイクリン系(ミノマイシンなど)抗菌薬
が第一選択薬となります。
一般の細菌とは異なってペニシリン系やセフェム系は無効です。
最近ではマイコプラズマ肺炎が流行していますが、
マクロライドの耐性菌が多くみられて
おります。参考に厚生労働省からの「感染症発生情報」をご紹介します。下記のホームペ
ージをごらんください。
▼感染症発生情報▼
> <マイコプラズマ肺炎の発生状況について(定点当たり報告数の推移)>
> http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/18myco.html
> <マイコプラズマ肺炎(2006 年までの発生状況等)>
> http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/324/inx324-j.html
> <マクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の発生について>
> http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3814.html
> <注目すべき感染症 マイコプラズマ肺炎(IDWR 第 43 号 P6~8)>
> http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2011/idwr2011-43.pdf
> <薬剤耐性菌や診断・治療についての研究班によるレビュー>
> http://strep.umin.jp/mycoplasma/index.html
Ⅱ 検査法
マイコプラズマ感染症の診断法は、菌体を直接検出する方法(培養・PCR 検査など)と、
血清診断法があります。
菌体を直接検出する方法は特殊な機器・手技が必要で時間もかかるため、血清診断法が
多く利用されています。血清診断法では抗マイコプラズマ抗体を検出しています。
<抗マイコプラズマ抗体>
マイコプラズマに感染してから抗 IgM 抗体が産生されるまで5~10日かかるので、感
染初期には抗 IgM 抗体が陰性になることが多いです。マイコプラズマ感染症において特
異的*抗 IgM 抗体、*抗 IgG 抗体はともに一度感染して産生されると、半年から長ければ
1年以上も血中に残存するといわれているので、診断するときは十分注意が必要です。
(陰性化するまでは、個人差はありますが長期間を要すると考えられています。
)
*感染すると初期に抗 IgM 抗体が産生されその後抗 IgG 抗体が産生されます
<抗マイコプラズマ抗体検査>
検査方法
感度
特異性
検出抗体
判定時の注意点
PA 法
外注検査
(微粒子凝集法)
高い
高い
IgM+IgG
(主に IgM)
**ペア血清で4倍以上の上昇で感染
イムノカード法 院内検査
(酵素免疫測定法)
高い
高い
IgM
偽陽性が多い
**ペア血清:急性期なるべく早い時期に採血(1回目) 2~3週後に回復期の採血(2回目)と
2回採血をしその差で結果を判定します
他に CF 法、ELISA 法、イムノクロマトグラフ法などがあります。
当院ではイムノカード法を行っています。
イムノカード法は抗 IgM 抗体を迅速に検出するように開発されましたが、
・抗体が陽性化するまで発症後数日かかる(その間は偽陰性)
・陰性化するまでは半年から数年かかるので偽陽性例が多い
・陽性持続期間も長いため急性感染を確定する方法ではない
という問題点があります。
左図はイムノカード法の陽性例と陰性例です。
4つの工程を経て色が発色したか・しないかで判定します。
PA 法でもイムノカード法でも単一血清による検査では抗体が検出されてもそれが既往感
染である可能性を否定できません。急性感染の確定診断には、PA 法によりペア血清での抗
体価の変動をみることが感染の判定となります(通常4倍以上の抗体価の上昇で判断します)