Introduction of Masuda Lab. Main Theme Solvation and Dynamic Process in Solution (溶媒和と溶液内の動的過程) 溶液状態の特徴は、乱雑さと構造性両者の側面を持ち、かつこれらが時間的に揺 動していることである。このような溶液状態の特性が、ときに、化学反応の経路や その速度に決定的な役割を果たしている。一方、タンパクのような生体高分子や非 晶質(アモルファス)も、反応場としては、同様の特徴を持つ。このように溶液状態 を時間的空間的に揺らぐ場として捉えれば、化学反応をはじめとするさまざまな動 的過程の普遍的な場であると考えることができる。 本研究室では、溶液内の化学反応をはじめとする様々な動的過程 に対して、溶媒 あるいは溶媒和がどのように関与しているかを実験的に示すことを目的としている。 (溶媒和あるいは溶液そのものの(動的)構造への関心も含まれる) 電荷移動反応速度に対する溶媒の(動的)効果 反応の過程で電荷の移動が起こる(双極子モーメントの変化が生ずる)反応では,極性溶媒は,その 反応速度におおきな効果をもたらす。このような溶媒効果については,旧来から,反応系,生成系の 溶媒和による安定化(reorganization energy) に基づいた解釈がなされてきた。(Marcus Model) 一方,反応速度が,溶媒和の緩和時間(10-11 −10-12 s, 概ね溶媒分子の配向緩和時間に相当)に 匹敵するほど速くなると,遷移状態理論の前提が崩れ,溶媒の動態(ダイナミックス)が直接反応速 度を支配するようになる。しかしながら,溶媒(溶媒和)の様々なダイナミックス(比較的遅い溶媒 分子の集団的(誘電連続体としての)緩和(10-11−10-12 s)や,速い局所的あるいは慣性的な 運動(緩和時間:10-12−10-13 s)など)のうち,どのような溶媒の運動モードが,電解移動 反応速度にどのような寄与をもたらすかについては,理論的にいくつかのモデルは提示されているが, 実験的実証はほとんどなされていない。 このような観点から,本研究室では,様々な電荷移動反応 速度に対する溶媒効果に関する研究を行っている。 τs: τs: + – + − 溶媒和の 緩和時間 + − + – 溶媒和の 緩和時間 + − + – 研究例 分子内電子移動反応: M2+−M3+ ⇆ M3+−M2+ + + Y- YFe(III) Fe(II) -X- -X- Fe(II) Fe(III) -Y -Y 混合原子価二核フェロセン〔Fe(II), Fe(III)〕及びそ の誘導体に関する系統的な研究においては,溶媒 の遅い連続体的な緩和モードと速い局所的な運動 モード双方が分子内電子移動速度に寄与するが, 双方の運動モードの寄与の大きさは,溶媒〔和〕 の緩和時間あるいは,電荷移動に伴う双極子モー メントの変化の大きさに依存する。これらの結果 + を,反応場の周波数特性および反応場への摂動の O-H....O O....H-O, N-H....N N....H-N, N-H .... O N....H-O 大きさの観点から見ると,電荷移動反応速度の溶 媒依存性については,流体における周波数依存の 摩擦の考え方で,概ね整理できることが示された。 分子内プロトン移動反応 O-H....O O....H-O, N-H....N N....H-N, + - N-H .... O N....H-O 一方、水素結合が介在した分子内プロトン移動では、水素結合系と溶媒分子間のきわめて局所 的な相互作用がその反応速度を支配している。また、溶媒との相互作用により、反応・生成系 のみならず、遷移状態における電子状態が変化し、その反応速度の溶媒効果は、上記の電子移 動系とは著しく異なっていることが示された。(たとえば、極性溶媒中で反応速度は増加す る!) J. Phys. Chem. A 110, 7077 (2006), J. Phys. Chem. A 101, 2245 (1999) など
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