Kitakyushu Model 北九州モデル Pollution 環境保全 Japanese/ 日本語 Contents Page 1 はじめに 1.1 1.2 2 3 3 3 3 7 11 16 16 16 20 戦略の構成要素:管理対策の策定 22 大気 水質 土壌汚染 クリーナープロダクション 政策策定とその手法 22 25 27 31 33 戦略の検証と測定ツール 37 目的 37 5.1 1 2 2 目的 特徴分析と予測 目的、目標及び数値目標 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 5 目的 大気の現状・政策調査 水質の現状・政策調査 土壌汚染の現状・政策調査 戦略策定: 汚染源の特定と定量化 3.1 3.2 3.3 4 目的 公害管理方針 現状・政策調査 2.1 2.2 2.3 2.4 5.2 5.3 5.4 5.5 2 6 主な考慮事項 主な具体策 ステークホルダーとの協議 期待される効果と取り組むべき課題 調達と資金手当 6.1 6.2 目的 主な考慮事項 37 37 39 39 40 40 40 1-1 北九州市における公害対策の歴史 1 はじめに 北九州市は、明治 34 年(1901 年)の官営八幡製鉄所の操業 開始以来、化学、窯業、セメント、電力などの工場が進出し、大 工業地帯として発展してきた。 1.1 目的 この方法論は、大気、水及び土壌汚染に関するものである。人の活動によって生じた大 気、水及び土壌汚染は、人の健康に害を及ぼし、生態系に影響を与え、水を汚染し、汚 染によって既存の環境に影響を与え、建物の外観を汚しもろくさせる結果を招く可能性 がある。水質の低下により、産業・観光などの地域経済にも影響が出てくる。公害管理戦 略の目的は、一定期間における汚染物の排出を抑制し、環境の質を改善し、人の健康、 自然及び人工の環境を保護するための数値目標を達成するフレームワーク(問題や解 決策を考える時の基礎となる項目・構造)を提供することである。 しかしながら、1960 年代から 1970 年代にかけての急激な経済 発展の過程で、住工が極めて密着した都市形成が進展したた め、工場からの排ガスが市民生活を脅かし、工場排水や生活 排水によって中小河川の水質汚濁が進み、洞海湾は「死の海」 といわれるまでに公害が激化した このようななか、1971 年に北九州市公害防止条例の制定、 1972 年に北九州地域公害防止計画の策定と、公害防止に関 する各種施策を実施した。 同時に、市民・事業者・行政が一体となって精力的かつ総合的 1.2 公害管理方針 汚染管理は、以下のようなプロセスから成る。 対象エリアでの重要な汚染物は何かを決定する。 当該エリアの現状の汚染状況を把握する。 対象エリアの汚染物の発生源を特定する。 発生源とその汚染度を定量化する。 汚染状況を改善し、その効果を定量化するための行動を決める。 上記を踏まえ、汚染改善計画を作成し、エリアの汚染状況を継続して観測し、状況 に応じた対策をとる。 通常は、人の健康、自然及び人工の環境を保護するための特定の環境・排出基準の数 値目標を達成することを念頭に置いて対策を検討する。環境・排出基準は、国家レベル で設定されているが、WHOが提唱している国際的な基準もある。特に影響を受けやすい 地域では、その政策に対応した、異なる(より厳しい)排出基準を設定することが適切な 場合がある。 な取組を実施したことにより、1980 年代には公害問題は劇的に 改善され、経済協力開発機構の環境白書(1985 年)では「灰色 の街から緑の街に変わった」と評された。 公害を克服した 1980 年代から、政策の重点は公害対策から快 適な都市環境の創造へと移行した。 依然として、都市生活型公害である自動車排ガスによる大気汚 染、光化学オキシダント等の問題があり、工場等に対する厳し い監視、指導を実施している。 ●Reference <Toolkit> ・Water pollution control administration(E) ・Air conservation administration(E) ・Environmental impact assessment system in Japan(E) ・Kitakyushu City Biodiversity Strategy(E) <Case Study> ・公害克服の歴史(水質)(J) ・環境と開発と女性(北九州の環境と女性の公害追放運動)(J) ・Women and the Environment(E) 2 環境基準には、達成すべき大変有意義な数値目標がある一方で、いくつかの汚染物は 安全のための閾値が設定されていない。それ故、基準が達成されているか否かに拘らず、 環境の改善には、絶え間ない努力が必要である。特に危険物の場合、一定の濃度が観 測されたら、汚染物を排出する活動を禁止することが適切かもしれない。 2 現状・政策調査 2.1 目的 現状・政策の調査は、公害管理戦略を策定する際の最初の段階である。机上や他のリ サーチ方法によって、情報収集する。場合によって、現地調査も必要である。 2.2 大気の現状・政策調査 2.2.1 重要な汚染物の定義 都市環境において、汚染物の発生源は多様である。通常、最も重要なのは、以下の通り である。 工場、事業所からの排出 発電所からの排出 道路交通からの排出 建物の暖房からの排出 通常、最も重要な汚染物は、化石燃料の燃焼に伴うものや工業プロセスで直接排出され るものである。交通は、都市生活にとって不可欠であるが、自動車の排気は、常に重要 な汚染物である。したがって、 窒素酸化物や浮遊粒子状物質は、常に大気管理の対象 とする。他の汚染物は、現地の状況による。 3 ●Reference <Case Study> ・現状・政策調査チェックリスト(北九州版) (J/E/C) 汚染のチェックリストを表Ⅵ-1に示す。 表Ⅵ- 1: 大気汚染のチェックリスト エリアで大気中に汚染物を排出する産業はあるか。(砕 石、セメント、鉱山、精錬、ごみ焼却など) はい–関連する汚染物を明らかにするため にプロセス上の特別な情報が必要 石炭、石油発電所はあるか。 はい–硫黄酸化物、粒子状物質、窒素酸化 物 エリアに石油精製所はあるか。 はい–炭化水素 エリアに製鉄所はあるか。 はい–粒子状物質、硫黄酸化物、窒素酸化 物 エリアに窒素化学肥料製造工場があるか。 はい-窒素酸化物 自動車が広く普及しているか。 はい-窒素酸化物、粒子状物質、PM2.5 触媒コンバーターは広く普及し、維持されているか。 いいえ–一酸化炭素 加鉛ガソリンは、まだ使用しているか。 はい–鉛 現地仕様のディーゼル燃料には、硫黄が 0.5%以上含ま れているか。 はい-硫黄酸化物 対象エリアに港はあるか。 はい-硫黄酸化物 対象エリアに主要な空港はあるか。 はい-ベンゼン 石炭、石油が広く暖房に使われているか。 はい-硫黄酸化物、粒子状物質、PM2.5 石炭は、発電に使われており、硫黄二酸化物を発生源か ら除去する装置はない。 主な燃料貯蔵庫はあるか。 はい-硫黄酸化物 バイオマスが広く料理や暖房に使われているか。 はい-粒子状物質 4 はい-ベンゼン 2.2.2 基礎調査と政策検討 都市の大気の汚染状況は、汚染源から排出される量や汚染源からの距離によって希薄 化されたり分散されたりすることによって、汚染濃度がかなり変動する。都市環境内では、 主要道路とか産業施設のような大きな大気汚染源に近い汚染の「ホットスポット(局所汚 染)」が存在することが多い。気候も、大気汚染物の希薄化、分散に強い影響を及ぼす ため、一時的に大きな変化が見られることがある。風速が強いと、汚染物は比較的早く拡 散してしまう。更に、多くの発生源が様々に変化する。道路の排気物は、交通量によって 変化するし、一日の中でも変化する。産業からの排気物は、工場の生産量やシフトパタ ーンにもよるので、ほとんど一定していない。そのため、最低でも 6 ヶ月間、できれば、1 年間の大気情報を入手することが重要である。この情報によって、広域の状況変化を把 握することができる。 基礎調査は、現地モニタリングで入手した大気関連情報の検証だけでなく、より広域を 対象とした汚染濃度モデルの検証にも利用できる。 汚染濃度モデルは、大気管理プロ セスの終わりの方の成果物であり、基礎調査は、第一段階で完結するものではない。 大気の基礎調査では、そのエリアの汚染レベルの傾向を明らかにするため、可能であれ ば、5年前からの情報を検証する。情報は、確かな情報源から入手すべきである。 情報 が計測データであれば、情報の質や不確実性に影響することから、その計測方法にも言 及しておくことが重要である。 政策検討では、大気に関する市町村、地方及び国の関連政策を検証する。これには、 汚染物の産業規制、自動車の排出物抑制、一定の発生源、大気基準、目標など汚染物 排出に影響するかもしれない他の政策についての情報を含む。 表Ⅵ-2 は、このプロセスで入手すべき情報のチェックリストである。 2.2.2-1 北九州市の公害対策時の大気汚染調査 北九州市では、北九州地区における大気汚染及び気象条 件の実態を把握し、適正な公害行政措置の指針を得ると ともに、新企業立地または工場拡張等に伴って発生する 公害を未然に防止し、汚染の現状を積極的に改善する方 策を、科学的手法を用いて検討するための基礎資料をつ くることを目的として、下記の取組を(複数年にわた り)行った。 大気汚染調査 測定体制の整備 亜硫酸ガス、降下ばいじんの測定(10ヵ 年) 大気汚染特別調査 北九州地区開発整備地域等調査(環境大気調 査) 気象調査(高度別気流調査) 自動車排出ガス調査 大気汚染の人体に及ぼす影響調査 ばい煙発生施設実態調査 2.2.2-2 現在の大気汚染監視体制 北九州市では、市内 19 箇所に配置された測定局と公害 監視センターをテレメーターで結んだシステムで、環境 基準が定められた 11 項目の大気汚染物質の常時監視を 行っている。さらに、移動測定車による調査を行って常 時監視を補完している。 2.2.2-3 北九州市の検査体制 北九州市では急増する試験検査業務への対応のため、独 自の体制と施設・設備を整備した。 表Ⅵ-2 現状・政策調査 チェックリスト-大気 必要な情報 5 チェックリスト ●Reference <Case Study> ・公害行政の歩み(J) ・北九州市公害対策史(J/E) 政策と規制 管理・管轄 大気汚染と産業 大気汚染と交通 6 市町村、地方及び国レベルで、大気管理について、いかなる政策がある か。 市町村、地方及び国レベルで、交通管理について、いかなる政策がある か。これらの政策の目標は何か。交通量を減らしたり、汚染が少なくなる ような交通手段へのモーダルシフトをすることを模索しているか。これらの 政策は、どのようにして実行し監視しているか。 対象エリアに適用される大気基準には、どのようなものがあるか。 対象エリア内の大気は、計測しているか。計測しているとすれば、どのよ うな手法を使用し、どのようにしてデータの質を検証し、管理しているか。 このデータは、閲覧可能か。 対象エリアの大気を管理するためにどのようなプロセスがあるか。 産業排出物の抑制の仕組みとして何があるか。 自動車からの排出物の排出を抑制する規制はあるか。この規制は、どの ようにして実行しモニターしているか。 大気管理、役割と責任に関して、既存関係団体間の調整をどのようにし ているか。(市町村、地方自治体、民間企業、NGO、地域活動団体 (CBOs)、インフォーマルセクターなどを含む)。 誰が、企業からの排出物の抑制責任を持つか。 誰が、大気基準の達成責任や汚染物の排出を減らす法令・政策の実行 責任を持つか。 上記団体は、誰と一緒に、エリアの大気管理を実施しているか。 規制当局には、産業プロセスからの排出物の定期的なモニターを実施 する仕組みがあるか。 規制当局は、各プロセスからの排出物を継続して記録しているか。 規制当局は、産業プロセスからの排出物の累積された影響を考慮してい るか。もし、そうであれば、どのようにしているか。 自動車からの排出物を抑制する法令はあるか。 この法令は、将来も継続して改善していくようになっているか。 経済面・財務面 対象エリア内の自動車の流れに関する情報はあるか。 交通手段に関する情報はあるか。将来、どのように変化するか。 古い自動車や工場のように大気汚染がひどいものに対して、罰金や納 付金を取ることがあるか。 2.3 水質の現状・政策調査 2.3.1 重要な汚染物の確認 水由来の汚染物は、大気汚染物と比べて多様であることが多く、汚染物の発生源そのも のも多様である。水汚染物の主な発生源は、以下の通りである。 産業からの排出 燃料貯蔵庫からの漏出 長年汚染された土壌 広域に拡散した農業排出物 雨天時に地表を洗う都市の雨水 排水処理 下水を含む未処理の汚水排出 固体・液体廃棄物処理から浸透したもの 発生源が地下であったり、地表から地下に通じる通路があったりする場合、汚染物は地 表水に直接、間接に排出されるだけでなく地下水に影響を及ぼすことがある。 主要な汚染物は、以下の4つに分類される。 (1) 有機汚染物、(2) 無機汚染物 7 有機汚染物は、生物分解性を有するため、水中の溶存酸素を消費して低下させ、植物 体系、動物体系にダメージを与える。有機、無機汚染物共に、人間や植物体系、動物体 系に有害であれば、健康に直接影響を及ぼす。 (3) 水系感染症の病原性汚染物、(4) 放射性汚染物 汚染によって、酸性度、伝導度、水温、富栄養化といった水の物理的、化学的特性が変 化する。巨視的には、都市から排出された浮遊物や漂流ごみが、公海や港の水環境を 汚染している。 水汚染の発生源調査のための最初のチェックリストが表Ⅵ-3である。 表 Ⅵ-3 水質汚濁のチェックリスト 質問 汚染物 下水道システムがあるか。 いいえ–有機・無機下水が、汚染物、病原体、目に見える汚染 に関連している はい–下水処理施設があるか。もしなければ、汚染物は、処理 されずに排出されている可能性が高い。 下水道システムは、産業排水と分離さ れているか。 いいえ–下水には、産業関連の汚染物が含まれている可能性 が高い。 対象エリア内に管理状態の良くない、 もしくは管理していない廃棄物埋立て 処分場があるか。 はい–廃棄物から浸透した有機・無機汚染物の可能性を考え る。不溶性の有機物 (例:水に溶けないもの) は、マントル流の ように発生源から移動する可能性がある。可溶性の汚染物 は、相当な濃度でその発生源から遥か彼方に流れていく。た とえ良く管理された埋立て処分場であっても現地の水質には、 何らかの影響を及ぼすことに留意すべきである。 はい–そのエリアの長年の産業活動を勘案し、特定の活動から 排出されてきたであろう汚染物の性質を把握する。 はい–その産業の特性を把握し、その工程から排出されるであ ろう汚染物や、設置された排水処理施設のタイプを確認する。 想定される流出先(地表水、下水管の地下水)を確認する。 はい–汚染物と指定したものに対して、特別な制限を設け、そ 以前、産業用に使われ、汚染された 土壌や廃棄物処理のエリアがあるか。 エリアに液体を排出するような産業が あるか。 排水は、規制もしくは、認可制度で制 8 2.3.2-1 北九州市の公害対策時の水質汚濁調査 御されているか。 水路や地下水の水質を定期的にモニ ターしているか。 対象エリアの主な受容体と目標を考え る。 2.3.2 の排出の記録、排出を許可した記録をとっているか。もしそう であれば、その記録や許可書は汚染物を確認するのに使える か。 はい–この情報をそのエリアの汚染物を確認することに使用す る。 特定の水源に対して、どの程度の配慮を払うべきかによって、 そのエリアへの影響と目標を決める。例えば、 現地の地表水や地下水は、飲み水、農業、産業に使われて いるか。 自然保護地区、植物体系、動物体系といったエコロジカル な受容体には、きめ細かい配慮がなされているか。 水が娯楽や美容目的に使われているか。 水体系の全体像を考える。 基礎調査と政策検討 地理的に離れた位置に複数の排出源がある場合、対象エリアの水質は、かなり変動する ことがある。それ故、対象エリアの現状を完全に把握するためには、広範囲の情報が必 要である。既知の物質が排出されている場所では、モニタリングで数値を把握する。しか しながら、水路に排出される物質が分かっていない場合(地表に堆積した汚濁物が混入 した雨水、化学肥料のような農業排出物や未確認の排出物)もある。その場合、これらに よる重大な影響を把握するために、十分に詳細な調査を実施する必要がある。水質は、 季節によって変化する。特に、雨量の増加は、水汚染を薄め、雨水に混入する地表の汚 濁物の量を増加させることになる。 こうした要素を、エリアの調査をする場合に考慮する 必要がある。 水質調査を実施している規制当局から、一定期間の水質変化に関する情報を得ること が可能である。既に、水質改善を実施している先導的な企業を見分けるために、規制当 局から情報を入手することも重要である。政策検討では、水質に関する市町村、地方及 9 工場地帯の発展とともに、北九州市の河川・洞海湾の水 質汚濁が大きな問題となっていた。北九州市では、洞海 湾周辺の主要工場の排水状況について調査を実施した が、根本的な原因究明には至らず、また、一地方自治体 での水質汚濁対策では限界があることも認識された。 こうした事情を背景に、抜本的な国・県の施策が求めら れるという認識のもと、県及び国の関係省庁との緊密な 協議、総合的な浄化対策の立案・実施を図った。 対策を検討していくうえでの基礎情報の収集として、北 九州市は、国の行政機関(経済企画庁)と連携し、下記 の取組を行った。 洞海湾水質汚濁調査 ・洞海湾水域指定調査 ・洞海湾沿岸工場排水調査 ・洞海湾低質調査 紫川水質汚濁調査 ・紫川水質基準調査 ●Reference <Case Study> ・公害行政の歩み(J) ・北九州市公害対策史(J/E) 2.3.2-2 北九州市の水環境調査 北九州市の公共用水域の水質は、水質汚濁防止法に基づ く上乗せ排出基準の設定や瀬戸内海環境保全特別措置法 等に基づく工場・事業所に対する規制、公共下水道の整 備等の施策の実施によって改善されている。 河川 32 地点、海域 18 地点で、環境項目等の監視測定を 行っている。 ●Reference <Toolkit> ・水質規則の手引(J) び国レベルの関連政策を検証する。これには、水環境への汚染物排出の変化をもたら すかもしれない水質基準、産業の汚染物の規制に関する政策などの情報を含む。 表Ⅵ-4 は、このプロセスで入手すべき情報のチェックリストである。 表Ⅵ-4 現状・政策調査 チェックリスト-水質 必要な情報 チェックリスト 政策と規制 市町村、地方及び国レベルで、水質管理について、いかなる政策がある か 市町村、地方及び国レベルで、排水の回収・処理について、いかなる政 策があるか。これらの政策の目標は何か。排出前の処理を増やすことに よって水質を改善しようと努めているか。 対象エリアに適用される水質基準には、どのようなものがあるか。 対象エリア内の水質(地表水・地下水)は、計測しているか。計測してい るとすれば、どのような手法を使用し、どのようにしてデータの質を検証 し、管理しているか。このデータは閲覧可能か。 対象エリアの水質を管理するためにどのようなプロセスがあるか。 産業排出物の抑制の仕組みとして何があるか。環境に排出される前に、 こうした処理をすることが必要となっているか。 水質管理、役割と責任に関して、既存関係団体間の調整をどのようにし ているか。(市町村、地方自治体、民間企業、NGO、地域活動団体 (CBOs)、インフォーマルセクターなどを含む)。 誰が、産業から地表水、地下水への排出物の抑制の責任者か。 誰が、水質基準の達成や汚染物の排出を減らす法令・政策の実行の責 任者か。 上記団体は、誰と一緒に、エリアの水質管理を実施していくか。 規制当局には、産業プロセスから地表水、地下水への排出物の定期的 なモニターを実施する仕組みがあるか。 管理・管轄 水汚染と産業 10 水の使用形態ごとの 需要 経済面・財務面 規制当局は、各プロセスからの排出物を継続して記録しているか。 規制当局は、産業プロセスからの排出物の累積された影響を考慮してい るか。もし、そうであれば、どのようにしているか 特定の地域における水の使用形態の記録はあるか。 将来の需要予測はあるか。 どのように使用されているか。例:飲料水、農業、産業、娯楽、自然保 護、観光等 地域の汚染源の影響と水質の目標を判断するために、水の受容体の感 度状況図を作る。 特に産業からの水汚染に対して、罰金とか納付金を取ることがあるか。 企業は、排水を適切に処理するために、余分な金を払う必要があるか。 2.4.1-1 北九州市の土壌汚染対策 2.4 2.4.1 土壌汚染の現状・政策調査 重要な汚染物の定義 土壌汚染は、色々な原因によって起きるが、そのほとんどは、以下のような土地利用に起 因する可能性が高い。 過去、現在において貯蔵、供給といった産業活動をしている。 過去、現在において埋立て・廃棄物処理をしている。 過去、現在において鉱物の発掘作業をしている。 土壌汚染は、発生した場所に限定される場合と、地下水に染み出たり、汚染物が大気中 に拡散したりして、他の土壌を汚染するという場合がある。(セクション2.2と2.3) 現れる汚染の性質は、その場所で過去及び現在に実施された活動によって生じた汚染 物による。無機・有機汚染物は、幅広い範囲で土壌に現れることがある。産業用に大規 模に使用されている土地から、金属や硫酸塩、シアン化物などの無機化合物、燃料、潤 11 1991 年 国が「土壌環境基準」を設定 2003 年 国が「土壌汚染対策法」を施行 北九州市では、1988年「工場・事業所及びその跡地の土壌 染対策指導要領」を策定。その後、法の整備・改正等に伴い 2011 年改定した。要領では、調査方法や対策方法を定め、 事業所等に指導を行っている。 滑油、芳香族炭化水素やアスベストが検出されることが多い。塩素溶剤、ダイオキシン、 農薬や放射性物質のような他の汚染物も、過去や現在の特別な使用形態により、現れる ことがある。その場所での活動や土壌状況によって、二酸化炭素、メタン、ラドンや炭化 水素蒸気といった有害ガスが現れることもある。 土壌汚染の発生源調査のためのチェックリストを表Ⅵ-5に示す。 表Ⅵ-5 土壌汚染のチェックリスト 質問 汚染物 エリアに過去に産業施設があったか、もしくは 現在、産業施設があるか。 工業(もしくは商業)用の燃料貯蔵庫がある か。 エリアに過去に大規模な原料貯蔵庫や供給施 設が、あったか、もしくは現在、大規模な原料 貯蔵庫や供給施設があるか。 はい-漏出や廃棄物処理による汚染の可能性を考慮 に入れる。関連する汚染物を確認するために施設に 関する特別な情報が必要。 対象エリア内にあまり適切に管理されていな い、もしくは管理されていない埋立て処分場が あるか。(セクション2.3参照) あまり適切に管理されていない、もしくは管理 されていない廃棄物処理をした可能性がある か。(セクション2.3参照) エリアに過去に大規模な鉱山発掘作業をした か、もしくは現在、大規模な鉱山発掘作業をし ているか。 自然環境において、エリアに危険物を発生さ 12 はい–漏れ出す可能性を考慮に入れる。関連する汚 染物を確認するために施設に関する特別な情報が必 要。しかしながら、燃料漏れは、比較的普通に発生す る。 はい–埋立て処分場から有機・無機汚染物が浸出す る可能性や、ガスが発生する可能性を考える必要が ある。 はい–埋立て処分場から有機・無機汚染物が浸出す る可能性や、ガスが発生する可能性を考える必要が ある。そのエリアの長年の産業活動を勘案して、廃棄 物処理で発生した汚染物の性質を把握する。 はい–関連する汚染物を確認するために、作業の性 質を考える。離れた場所に廃棄物を埋めた可能性と、 汚染物と土壌ガスの発生源となる可能性のある、その 場所もしくは離れた場所での廃棄処理について考慮 する。 はい–重金属、土壌ガスのような関連する汚染物を確 せる可能性があるような、発生源はあるか。 2.4.2 認するために、現地の地質や土壌状況を考慮に入れ る。 基礎調査と政策検討 土壌汚染の性質、分布及びレベルは、過去から現在までの様々な土地利用や土壌状 態によって、エリア全体に様々な形で現れてくる。汚染物の性質や水理・地質状況によ っては、土壌や地下水内で汚染物が移動し、深刻な影響が発生する可能性がある。 土 壌汚染の可能性は、現状を正しく把握するために、現地の状況を勘案して、広範囲で考 える必要がある。 土壌汚染の初期調査は、机上で情報を検討することが通常である。その後、対象エリア を拡大し、汚染の可能性が大きい過去・現在の利用に関する情報や以前疑義が生じた 汚染に関連する情報について、概要情報だけで検討を行う。この調査は、重大な土壌 汚染の可能性のあるエリアを強調する場合に使用される。さらに、どの程度の汚染が発 現する可能性が高いかを完全に把握するためには、もっと詳細なアセスメントが必要に なる場合が多い。この作業は、最も汚染された、影響を受けやすいエリアをターゲットに して実施する。さらに詳細な情報は、土地の開発や建物の使用認可にあたって、公共機 関に対してその場所に関する情報提供を求めることとなる開発計画を実行する際に入手 できる。 方針検討では、土壌汚染に関する市町村、地方及び国レベルの関連政策を検証する。 これには、産業規制、水汚染、廃棄物の埋立て規制、建設計画の管理情報が含まれる ことが多い。土壌と地下水の質に関する基準や目標を考慮する。 土壌汚染を管理し、必要であれば、浄化対策を要求する仕組みも考えるべきである。こ れには、土壌浄化を法的に強制する場合や、将来の再開発区域の一部として浄化する よう行政権限のもと計画的に進めていく場合がある。そのような力を強化していくのに最 も適した規制主体はどこかを確認する必要がある。 13 2.4.2 北九州市の土壌汚染対策 ●Reference <Toolkit> ・土壌汚染対策指導要領(J) 政策検討で重要なことは、市町村、地方及び国レベルの土地管理アプローチの基本的 な実施方法を理解することである。主に2種類のアプローチがある。 • 健康や広域環境へのリスクを最小限にとどめる汚染レベルに関する絶対基準を、土地 浄化に課す。このアプローチでは、その後の追加の改良を行う必要がなく、将来の様々 な土地利用を可能にするような基準までの浄化を求めるものである。しかしながら、その 結果、浄化コストは高くなり、開発の障害にもなる。 実際の利用や、利用計画をもとにリスクアセスメントを行い、健康や環境に汚染が現れて いないとういう結果が得られれば、「利用に適する」と判断する。このアプローチは、地域 開発の本質と浄化コストのバランスを取ることができるという点で、開発の推進を支援する ために利用される。 表Ⅵ-6は、このプロセスで入手すべき情報のチェックリストである。 表Ⅵ-6 現状・政策調査 チェックリスト -土壌汚染 必要な情報 チェックリスト 政策と規制 市町村、地方及び国レベルで、土壌汚染管理について、いかなる政策 があるか。 これらの政策の目的は何か。決められた基準にまで汚染を減らすことを 模索しているか、「利用に適する」によるリスクアセスメント基準を採用して いるか、それらは、規制当局によって実施されているか、それらは、浄化 アプローチに基づく開発となっているか。 漏れ防止や汚染発生を避けるため、適切な産業界の環境管理につい て、国及び地方、市町村の政策にはどのようなものがあるか。 関連する土壌汚染基準には、どのようなものがあるか。色々な土地の利 用及び汚染にさらされる可能性のある人たちに応じた基準になっている か。 対象エリアに適用される水質基準には、どのようなものがあるか。 14 管理・管轄 土壌汚染と産業 経済面・財務面 15 対象エリア内の水質(地表水・地下水)は、計測しているか。計測してい るとすれば、どのような手法を使用し、どのようにしてデータの質を検証 し、管理しているか。このデータは、閲覧可能か。 対象エリアの土壌汚染を管理するためにどのようなプロセスがあるか。 土壌汚染管理に関係する、他の公害抑制の仕組みがあるか。 土壌質管理、役割と責任に関して、既存関係団体間の調整をどのように しているか。(市町村、地方自治体、民間企業、NGO、地域活動団体 (CBOs)、インフォーマルセクターなどを含む)。 誰が、産業から土、水への排出物の抑制責任を持つか。 誰が、土壌汚染の基準の達成責任や汚染物の排出を減らす法令・政策 の実行責任を持つか。 上記団体は、誰と一緒に、エリアの土壌質管理を実施していくか。 規制当局には、環境管理と産業のコンプライアンスをモニターする仕組 みがあるか。 規制当局は、工場での漏出や汚染発生を避けるためモニターし、継続し て記録しているか。 特に産業からの土壌汚染に対して、罰金とか納付金を取ることがあるか。 誰が、最終的に土壌汚染の浄化の責任を持つか。 土壌汚染の浄化は、どうしたらできるようになるか。現在の政策には、表 れていない開発はあるか。 3 戦略策定: 汚染源の特定と定量化 3.2.2-1 大気の特徴分析、シミュレーション 新企業立地または工場拡張等に伴って発生する公害を未 然に防止し、汚染の現状を積極的に改善する方策を、科 3.1 目的 対象エリアにおける汚染発生源の特定と定量化、いわゆる排出インベントリーの整備を 行う。これにより、汚染発生源の場所とそこから排出される汚染の量を把握する。 学的手法を用いて検討するための基礎資料をつくること を目的として実施された。 汚染モデル作成の際に参考となる他の発生源の分も含む。環境の質に関する適切な規 制について、達成すべき数値目標として、また人の健康の重要な指標として、プロジェク トの最初の時点で、よく理解しておくことが重要である。測定情報を整理し、適切なデー タ管理で更なる測定を行うことが、ここでの重要な作業である。 北九州地区産業公害総合事前調査 気象調査による基礎データ収集、風洞実験による 拡散試験およびコンピュータによる拡散計算を実 施。将来の汚染予測(5 年後の予測)の結果に基づ き企業の改善指導を行った。(その後、第 2 次風 洞実験も実施し、同様の取組を行った。) 3.2 特徴分析と予測 また、国により窒素酸化物に係る総量規制のも と、環境基準達成のための方策を検討するための 3.2.1 基礎資料が求められた。 環境規制と監視 北九州市では、多様な汚染源の影響をモデル化 通常は、土壌、大気、水及び廃棄物の環境基準は、国レベルで設定されるが、ときには、 地域レベルで設定されていることもある。市町村で基準がない場合は、WHO国際基準を 適用してもよい。特に、汚染物の自然発生源があるようなエリアでは、どんな基準を適用 すべきかを確認したほうがよい。 現在の環境測定データを、エリアの現在の環境状況が特徴分析できるように取りまとめる。 しかしながら、これによって、データの矛盾が露呈し、各環境トピックスを更にモニターす る計画を作成する必要が出てくる場合もある。 し、環境基準達成のための施策検討の基礎資料と するため、自動車排出ガス、煙突からの排出ガ ス、幹線道路・補助幹線道路からの影響をシミュ レーションした。 窒素酸化物汚染予測シミュレーション 二酸化窒素に関わる環境基準達成の対策検討の基 礎資料を得るための調査に始まり、複数調査を実 3.2.2 大気 排出インベントリーを、発生源の種類別、場所別に整理する。煙突のような固定の発生 源から排出される汚染物もある。他に道路や家庭の暖房から排出される広域な汚染物も ある。 表 Ⅵ-7 に例を示す。 16 施。そのなかで拡散予測モデル作成と地域シミュ レーションが行われた。以降の調査でもこのモデ ルが活用されている。 ●Reference <Case Study> ・公害行政の歩み(J) ・北九州市公害対策史(J/E) 表Ⅵ-7 大気汚染源の特徴分析 汚染源の種類 排出インベントリー図 発電、産業排 出、焼却、大規 模な商業熱プラ ント 発生源の位置、発生源 を組み合わせた状況図 幹線道路 車線-交通の流れ、速 度、交通手段の変化、 発生源の組合せ 交通の流れ 交通の速度 交通手段(例:重量物 運搬車、バス、 軽量物 運搬車、 自家用車の 比率) 道路 エリア内の複合的発生 源–通常、1km2。 基幹 場所を確認するために、 対象エリアを1 km2に分 割する。 各基幹場所内: 年間総輸送距離 交通手段 家庭暖房と小規 模ボイラー 上記のようにエリア源泉 内の混合した排出 –通 常、1km2 詳細な個別データの発 生源の検討が必要でな い場合、上記のように通 常、1km2 各所の人口といった代 替の統計値によって、 排出物を推定する。 飛行回数、入出港回 数、航空機・船舶の種 類、燃料の種類のよう な輸送統計値を使っ 他の交通源(例: 空港、港) 17 他の必要な情報 汚染物の最大排出率 流出速度と気温 堆積の高さと幅 現地の建物の容積 データの入手元 規制当局の計測データ 汚染排出データに関連する プラントの種類や規模といっ た情報を使った排出要素 (例:AP42 http://www.epa.gov/ttnchie1 /ap42/)を元にした見積デー タ 交通量は、高速道路規制当 局から入手し、計測もしくはモ デル化できる。 汚染物排出データは、通常、 速度、燃料タイプと自動車の タイプの関係を元に自動車か らの排出による排出要素を使 った情報から取る。 交通のいくつかの見積データ は、高速道路規制当局から入 手できる。 それ以外の見積もりは、人口 データや典型的な自動車利 用データを使って行う。 燃料消費データや人口情報 による見積 空港や港の運営主体から輸 送統計値を入手する。 アメリカ合衆国環境保護庁 (EPA)や現地の情報によって て、排出物を推定す る。 排出要素を把握する。 排出インベントリーを作成するのは、複雑なプロセスであるが、表 7は、プロセスの概要を 示している。 大気の質に関するモデル化で利用するための詳細なインベントリーを作成 するには、膨大なデータ収集と整理が必要となる。 3.2.3 水質 3.2.3-1 水質のシミュレーション 水質の管理対策を作成するには、水汚染源の詳細を明らかにし、そのエリアで分かって いる発生源の特性を整理することが必要である。いくつかの例を表Ⅵ-8に示す 洞海湾の海水が自浄作用で 5 年後に回復するために許容 表 Ⅵ-8 水質汚染源の特徴分析 経済企画庁と連携した前述の調査結果をもとに、経済企 汚染源の種類 産業排出 排水処理 広域汚染(例:流 出) 廃棄物処理 18 場所 他の必要な情報 発生源の位置、浸み出 て行く発生源のエリア 水路に排出されるポイン ト エリア発生源 汚染物の排出量、濃 度、最大排出率 汚染物の排出量、濃 度、最大排出率 汚染物の排出量、考え られるレベルの見積 廃棄物処理場所の性 質は、空気を通さない 材質か。廃棄物の種 類。 エリア発生源 される、湾内に放出される排水の COD 負荷量を把握する ために行われた。 データの入手元 画庁でボックスモデルにより予測計算を実施。(その結 免許・許可条件、AP42 果を踏まえ、洞海湾の工場排水の水質基準は極めて厳し い水準に設定されることとなった) 免許・許可条件 集水エリア、水質計測場所 廃棄物処理実績と計画 ●Reference <Case Study> ・公害行政の歩み(J) ・北九州市公害対策史(J/E) 3.2.4 土壌汚染 土壌汚染の管理対策を作成するには、土壌汚染源と広がりを明らかにし、可能性のある 発生源の特性に関する情報を整理することが必要である。土壌汚染の管理で考慮すべ き特性のいくつかの例を、下記表Ⅵ-9 に示す。 表Ⅵ-9 土壌汚染源の特徴分析 汚染源の種類 場所 他の必要な情報 現在、最近の工 業・商業・鉱物発 掘作業現場 浸み出し・排出位置、通 常業務・流出・廃棄物の 処理・再利用に関するエ リア発生源 長年に亘る工業・ 商業・鉱物発掘 作業現場 浸み出し・排出位置、通 常業務・流出・廃棄物の 処理・再利用に関するエ リア発生源 現在、最近の埋 立て場所 エリア発生源 使用された、もしくは生 み出された潜在的な汚 染物の性質と量。 廃棄物処理。 土で覆ったり、環境保 護計測をするような過 去、現在の場所管理。 判明している現在の土 壌汚染と前回の浄化 作業 使用された、もしくは生 み出された潜在的な汚 染物の性質と量。 廃棄物処理・再利用の エリア。 過去、現在の場所管 理。 判明している現在の土 壌汚染と前回の浄化 作業。 廃棄物処理場所の性 質、構造物の形態。 処理される廃棄物の種 類。 19 汚染データの入手元 免許・許可条件 場所管理計画 経年的な場所情報 前回実施した土壌調査と浄 化報告 経年的なサイト情報・状況図 前回実施した土壌調査と浄 化報告 免許・許可条件 廃棄物処理実績と計画 モニター実績 3.3-1 公害防止条例 長年に亘る埋立 て・廃棄物処理 場所 エリア発生源 判明している課題(例: 浸出液、埋め立てガス に関するもの) 廃棄物処理場所の性 質、構造物の形態。 処理される廃棄物の種 類。 判明している課題(例: 浸出液、埋め立てガス に関するもの) 公害防止に関する市民の要望に応え、法を補完し、きめ細や かな公害行政を推進するという、市の積極的な姿勢を示すた め、1970 年 4 月に北九州市公害防止条例が制定された。こ 経年的なサイト情報・状況図 前回実施した土壌調査と浄 化報告 れにより、法律の規制対象外となっている公害発生施設に対 しても、公害防止上必要な措置がとられることとなった。 3.3-2 公害防止協定 北九州市では、住工一体の街づくりの観点から、北九州 市長と企業の代表者が公害防止に対する取り決めを締結 することが、企業の進出条件の 1 つとされている。 大気、水質等の総合的な環境保全対策について締結する もので、具体的な数値による実効性の高いものとなって 3.3 目的、目標及び数値目標 いる。法律・条例を補完・代替し、実務的には法律以上 の上乗せ規制、未規制事項上乗せ措置、着工前の事前チ ェック等を行うことで、公害防止の実効性を高めてい 3.3.1 目的 目的及び数値目標では、良質な大気や水のある快適な環境をめざす明確な道筋を示し、 たとえ関連する基準や目標を達成していたとしても、より継続的な向上に向けて活動す るように考案されなければならない。 る。 3.3-3 公害防止計画 北九州市は、国の環境基本法第 17 条の規定に基づき福岡 県知事が策定する公害防止計画の策定に、福岡県の行政機 関と連携して取り組んでおり、積極的な関与をしている。 3.3.2 目的、目標及び数値目標の策定 新しい政策を策定するには、その政策の対象となるエリアを決定し、環境基準を達成す るために必要な手段を考える。これには、政策策定におけるすべてのステークホルダー、 つまり住民、規制当局、国及び地方、市町村の政府機関の代表及び、産業や自動車産 業からの代表者などを巻き込むことが重要である。環境・規制基準は各国の政府によっ て設定されている場合もあるが、国際的には WHO の基準を適用することも可能である。 このプロセスで必要と思われることは、以下のとおりである。 取り入れるべき現状の市町村、地方及び国の数値目標を確認する。 (戦略が他の重 要な政策や戦略と合致しているかを確認する。) 1972 年度に 1981 年度を目標年次とした「北九州地域公害 防止計画」が策定された。 その後、未だ解決を要する問題が残されていたため、引き続 き総合的な公害防止施策を講じる必要があるとして、1977 年 度、1982 年度、1992 年度、1997 年度、2002 年度、2007 年 度に 5 か年の延長計画を策定している。 現在では、周防灘等の水質汚濁対策や洞海湾のダイオキシ ン対策など改善すべき課題も残っており、今後とも公害防止 に係る施策を総合的に推進する必要があることから、2011 年 度に 2020 年度を目標とする公害防止計画が策定された。 ●Reference <Toolkit> ・北九州地域公害防止計画(平成 24 年 3 月)(J) 20 3.3.3 現状の数値目標が主な目的と目標(例:背伸びしたくらいの数値目標も必要)に合っ た施策を実行するのに十分であるかを確認する。 取り入れようとする現状の計測、モニター及び報告制度(例:国際的なベストプラクテ ィス、政府要件)を確認する。 公害管理の指標と数値目標を、より広範囲な都市の持続可能なフレームワークにど う関連付けるかを考慮する。例えば、それらが他の政策目的・目標と利害が一致して いるのか、それとも背反しているのか。 目的、目標及び数値目標の例 公害に対する包括的な目的、目標及び数値目標は以下のとおりである。 目的 プロジェクトは公害管理のために下記のビジョンを達成することを目指す。 大気の保全と改善 産業からの汚染物の排出を削減することによる土壌と水の品質向上 生物多様性を維持、向上させるための湖や池などの保全 資源の有効的な利用 大気、水、土壌の品質の相互作用を考慮 目標 公害管理プロセスにより下記の目標を実現することを目指す。 大気、水、土壌の品質の保全と改善 公害管理プロセスの実施 汚染されていると考えられる土地の削減 原生植物や生物生息地の保護と拡張 大気、水、土壌への影響を軽減させるため、現行の開発の影響を改善 21 4.1.3-1 北九州市の緩和対策―大気 数値目標 数値目標の設定は、多数の国・地方・市町村の規制基準、地方のベストプラクティスガイ ドライン、持続可能性評価ツールなどから、重要な基準を選び出すことである。場合によ っては、次のような段階的な数値目標も検討されたい。 ○数値目標 1: 現状維持 基本もしくは規制を満たすための最低限の基準である。大気、水、土壌に関する国 の基準などがあてはまる。 ○数値目標 2: 通常の数値目標 達成するためには努力が必要で、現実的に達成しうるレベルの基準である。現行で もっとも厳しい国際基準などを目指すべきである。 ○数値目標 3: かなり高い数値目標 公害管理の例外レベルまで考慮した基準である。これらの数値目標の達成は法的 要件ではないが、ベストプラクティス事例となりうるものであり、将来にわたって向上 し続ける挑戦的なものである。 4 戦略の構成要素:管理対策の策定 4.1 大気 4.1.1 目的 公害防止協定 コミュニティサイクル 都心部7箇所に電動自転車を 24 時間どこで も貸出・返却できるサイクルステーションを 設ける 次世代自動車(EV、PHV 等)の導入 低公害車を率先して市の公用車として導入 し、市民や企業への積極的な PR を実施 EV 充電器の設置 市内の EV 充電ネットワークを整備。公共施 設等 55 箇所に設置している ノーマイカーデーの普及促進 2007 年度よりイベント等の来場者に地元商店 街で得点が受けられるキャンペーンを実施。 2010 年度には、全市域で第 2、4 水曜をノー マイカーデーとし 5 か月間試行。2011 年には 市内飲食店等の協力のもと、継続的に実施し ており、全市的に企業・市民が参加。 エコドラ北九州プロジェクト モーダルシフトの推進 新門司フェリーターミナルや北九州貨物ター ミナルなどの物流基盤整備により、過度にト ラックに依存しない体制を整備 住宅の断熱化 北九州エコハウスや環境配慮型住宅 大気汚染を軽減するための管理対策を策定するには、まず観測された大気汚染レベル に対する様々な発生源からの影響具合を把握する必要がある。これにより優先順位付け 22 新エネルギーの導入 太陽光、小水力、廃棄物、コージェネレーシ ョンの各種発電の取組促進 を行い、特定の緩和対策の効果を確認することができ、さらに選択した対策について費 用対効果評価を行うこともできる。 (4.1.3-1 つづき) 4.1.2 都市計画マスタープランの全体構想と地域別構想 の策定など 主な考慮事項 市全体の大気モデルは、次のタイプのアセスメントを実施するために必要である。排出 量インベントリーの全ての情報を入手し、気象及び地形データを合わせて、対象エリアの 汚染物濃度を計算する。モデルの成果物は、どこに対策が必要な公害のホットスポット があるか、及び別々の主要な排出源からの影響を確認することができる。 北九州市都市計画マスタープラン、紫川エコ リバー構想、北九州市環境首都総合交通戦略 ●Reference <Case Study> 4.1.3 ・北九州市の環境(2012 年度版)(J) 主な具体策 求められる汚染レベルの軽減や重要な発生源が明らかになれば、様々な緩和対策を考 えることができる。一般的な緩和対策について、表Ⅵ-10 に示す。 表Ⅵ-10: 緩和対策の例 –大気 汚染源の種類 緩和対策 備考 工業 プロセス技術の変更 排出量が少ない技術への移行 工業 排出量削減技術の利用促 進 交通 低排出ゾーン 交通(自家用車) 公共交通機関の利用促進 排出量を削減する技術利用の促進 このアプローチを効果的にするには、企業に対して 規制しなければならない。 重量物運搬車や古いタイプの車など特に汚染を発 生させる車両をターゲットにする際に利用できる。 決められたエリアでの公害を軽減させる。 利用者を自家用車から多勢が利用できる交通手段 (バス、電車、地下鉄)に転換させる。 道路上の車両の総数を削減することが可能 交通(自家用車) パークアンドライド 市の中心部の自家用車数を削減する。 交通 ガソリン以外の燃料の利用 いくつかの燃料はより排出量を減らすことができる (ガス、電気など)。 23 汚染源の種類 緩和対策 備考 これらの車両は大気の品質を大幅に良くすることが 可能である。 車両の定期的な検査を行い、要求されている基準 を超えた排出を行っている車両のタイプを特定す る。 検査は地方の規制可能な排出基準に従う。 交通量を他の場所に移管する可能性はあるが、当 該地域への集中は軽減できる。 汚染がひどい燃料の削減のために広く使用されて いる。 抑制対象エリアの場合、硫黄の排出を削減できる。 交通 車両排出規制 交通 歩行者専用道路化 家庭 煙の規制 家庭 汚染の少ない燃料使用の 促進 当該地域の排出量を削減するため、ガスや電気で の暖房利用を促す。 一般 汚染の少ない発電の促進 石炭や石油などの燃料を使用することから、よりクリ ーンな発電及び再生可能エネルギーの利用に転 換する。 一般 汚染濃度の改善を促進す るための計画プロセスを利 用 都市計画区域の土地利用により環境状況が改善さ れるよう、計画プロセスを利用する。 4.1.4 期待される効果と取り組むべき課題 期待される効果 24 最新型の車両を使用することによる燃料消費の低減。 公害にさらされる機会が減ることによる公衆衛生の向上。 都市部の外観の向上(ビルのしみや、大気や水の汚染の軽減)。 4.2.3-1 北九州市の緩和対策―水質 取り組むべき課題 4.2 汚染の少ない燃料の入手方法。 計画プロセスにおいて相反する要件が生じる場合がある(例:市中心部の再利用は、 都市部にある公害型産業を活性化する可能性がある)。 水質 下水道の整備 工業排水の監視・指導 浄化センターへの有害物質等の流入を防止す るため、特定事業場を中心に監視・指導を実 施(特定事業場 850 社、782 件の立入検査 (2011 年度実績) 4.2.1 独自の基準の設定 目的 水質管理の目標は、エリアの水と地下水の水質を管理し、改善していくことである。この ためには、水汚染の発生源と水質低下の原因を解明することが必要である。このことによ り、緩和対策が工夫され、有効な計測方法を考えることができる。また、選択したアプロ ーチの費用対効果を測ることができる。 4.2.2 有害物質を使用する工場・事業場に対する監視・ 指導 福岡県は、国の一律排水基準での環境基準達 成が困難な洞海湾地域について、上乗せ排水 基準条例を制定。市は、北九州市公害防止条 例により、水質汚濁防止法で対象となってい ない工場・事業場を対象に、国の一律排水基 準と同じ基準で規制をすることとした。 廃棄物焼却工場および最終処分場での処理 主な考慮事項 都市環境における水質のアセスメントは、複雑なプロセスである。発生源の相互作用が 複雑であることから、汚染物の主な発生源の影響を個々に調べることが、最も実践的な アプローチである。 どのように汚染物が水中に広がるかを予測し、色々な場所での汚染 物のレベルを特定するアセスメントモデルを作成する。さらに、影響度や水源利用を考 慮することで、検討について優先順位を付け、統合的な方法で実施することができる。 4.2.3 焼却工場ではバグフィルターや塩化水 素除去装置を設置し、燃焼排ガス中の 汚染物質を除去。 灰冷却汚水や洗煙排水などの汚水は、 凝集沈殿やキレートなどによる処理を 行った後、下水道へ放流。 最終処分場では、処分場内の水が外海 へ浸出するのを防ぐため、護岸の内側 に防水シートを敷設し。土砂による腹 付工事を施工。処分場内の余水につい ては、場内の排水処理施設で処理した 後、放流している。 主な具体策 特定の場所や重要な発生源の汚染レベルを下げる必要があることを理解した上で、 色々な緩和対策を考える。いくつかの一般的な緩和対策を表Ⅵ-11 に示す。 産業廃棄物に対する抜取り検査 処分場へ搬入される産業廃棄物について、抜 取り検査を実施し、不適正な廃棄物の搬入を 予防 表 Ⅵ-11 緩和対策の例―水質 ●Reference <Case Study> ・北九州市の環境(2012 年度版)(J) 25 汚染源の種類 緩和対策 備考 工業 排出場所での処理 工業 排出物の現場処理– 例: 複数のプロセスから排水 を集め、特別なプロセスで 処理する。 下水ネットワーク内で排水 処理も一緒に行う。 もっと厳しい排出基準 スペースの大きさによる– 小規模であると商業的に 成り立たないかもしれない。 各プロセスから出る排水が同じ種類であることが必 要だが、運営上、大きなコスト削減ができる。 工業 工業 工業 排水処理 排水処理 排水処理 廃棄物処理 廃棄物処理 広域汚染(例:地表に 堆積した汚染物質を 含んだ雨水) 26 その場でのリサイクル、排 水の再生 もっと厳しい排出基準 処理プロセスの変更 環境に未処理のものを排 出するのを避けるための 効率的な下水回収 汚染物が地下水へ流れ出 ないように免許・許可条件 の改善 埋立処分場内で浸出液を 自発的に管理する。現地 処理システムの導入 排出前に簡単に検出し、 処理できるようなシステム を導入する。(例:前処理 と油脂分離器) 産業排水が一般排水処理のプロセスに害を及ぼ さないようにする、もしくは、させないようにする。 必要になる処理が、合理的に実行可能であり、余 分なコストがかからないことを確認する。 全体コストを削減できる。 処理コストは上がるが、全体として大きな環境改善 をもたらす。 もっと効率的な処理がなされる。 新しいインフラの導入が必要 処理場に新しいインフラを導入するために相当の 設備投資が必要。 現地処理によって、環境に影響する汚染レベルを 下げることができる。 新しいインフラの導入のために相当の設備投資が 必要 4.2.4 期待される効果と取り組むべき課題 期待される効果 新しい処理プロセスの利用により、資源を再生することができる。 新しい設備の組合せにより、産業のコスト削減ができる。 産業の持続可能性の達成度の向上により投資家の意識を改善することができる。 現地の調査機関や文化的な機関と一緒に仕事することで、地域のスキルを育成し、 成長分野に現地の労働力を提供することができる。 取り組むべき課題 地域の環境、社会及び経済政策を、うまく統合して策定しなければならない。 いくつかの処理プロセスを利用する場合、土地の余裕、コスト、土地利用などの制約 がある。 産業の経済負荷のため、いくつかの緩和対策は制約されるかもしれない。 コスト増の過程で、競争力が落ちる可能性がある。 4.3 土壌汚染 4.3.1 目的 土壌汚染の広がりと影響を軽減させるための管理対策の策定は、汚染された土地の分 布、性質を解明し、汚染と関連する潜在的リスクを考慮することが必要である。これにより、 達成されるメリットを最大化する管理対策を優先順位付けし、最も適切なリソースを利用 する。 4.3.2 主な考慮事項 土壌汚染のアセスメントは、起こっている汚染の形態やレベルに加え、人の健康、水資 源あるいはより広範な環境といった現在または想定されるものへの潜在的な影響を考慮 27 したリスクアセスメント基準を使って実施する。リスクアセスメントでは、土地利用と土壌、 地下水のそれぞれで、異なる潜在的な汚染源を考慮する必要がある。 4.3.3-1 北九州市の緩和対策―土壌汚染 汚染状況や土地利用状況は変わりやすいために、フェーズごとにリスクアセスメントが必 要であることが多い。最初の概要アセスメントは、特定された潜在的汚染源、そのエリア の全般的な土壌状況、さらには現行の、あるいは将来の土地利用データを元に実施す る。リスクアセスメントの結果により、規制あるいは開発計画においてさらに考慮する必要 がある、懸念される主なエリアを明らかにすることができる。次の段階では、特定場所の 要件を確認するため、より詳細なリスクアセスメントが必要となる。再度、机上調査や現地 調査が必要な場合もある。 4.3.3 主な具体策 土壌汚染の潜在的リスクがあるエリアの分布や性質が解明できれば、様々な緩和対策を 考えることができる。一般的な緩和対策を表Ⅵ-12 に示す。 北九州市では、住工一体の街づくりの観点か ら、北九州市長と企業の代表者が公害防止に 対する取り決めを締結することが、企業の進 出条件の 1 つとされている。 大気、水質等の総合的な環境保全対策につい て締結するもので、具体的な数値による実効 性の高いものとなっている。法律・条例を補 完・代替し、実務的には法律以上の上乗せ規 制、未規制事項上乗せ措置、着工前の事前チ ェック等を行うことで、公害防止の実効性を 高めている エコタウンの開発・推進 土壌汚染により、人の健康あるいは広範な環境に、受け入れがたいリスクを引き起こさな いようにするため、いくつかの緩和対策が採られる。その緩和対策は、その場所がもっぱ ら特別注意を要することなく利用できるようにする一方で、土壌浄化の作業も含まれるこ とが多い。 土壌浄化作業には、汚染のレベル、汚染が移動する可能性、有害物質、汚染にさらされ るリスクの可能性を低減できる多様な技術がある。従来の掘削して別の場所に廃棄する 方法から土壌洗浄、微生物を利用した環境浄化、入れ替えやふるい分け、安定化、酸 化、熱処理などの処理、あるいはカバーシステムや遮断壁、浸透性反応バリアのような遮 断システムまである。場所に適した浄化技術として何を選択するかは、現状の汚染の性 質とレベル、土壌の状況、期待する成果、その土地の制約条件によって決まる。 公害防止協定 Waste 参照 廃棄物焼却工場および最終処分場での処理 焼却工場ではバグフィルターや塩化水素除去 装置を設置し、燃焼排ガス中の汚染物質を除 去。 灰冷却汚水や洗煙排水などの汚水は、凝集沈 殿やキレートなどによる処理を行った後、下 水道へ放流。 最終処分場では、処分場内の水が外海へ浸出 するのを防ぐため、護岸の内側に防水シート を敷設し。土砂による腹付工事を施工。処分 場内の余水については、場内の排水処理施設 で処理した後、放流している。 PCB 処理事業 掘削し、別の場所に廃棄する従来方法を捨てて適切に選択された浄化処理技術を使用 することは、廃棄物を最小化し、クリーンな土壌を運び入れるという必要性を極力減らす ものである。そのようなアプローチは土地をより持続可能なものにする。掘削した汚染土 岡山県以西 17 県の PCB 廃棄物(トランス、 コンデンサ、PCB 汚染物等)を処理する体制 を整備。 ●Reference <Case Study> ・北九州市の環境(2012 年度版)(J) 28 壌を埋立地に廃棄することを思いとどまらせるための地方あるいは国レベルでの課税や、 跡地の開発を促す減税など様々な誘導策で、持続可能な土地開発方法を奨励する。 表Ⅵ-12 緩和対策の例 – 土壌汚染 汚染源の種類 工業 工業 工業 緩和対策 進行中の土壌汚染を軽減させるため の適切な環境管理システムの免許・許 可制度 現場での廃棄物発生や埋立て処理を 少なくするために、現場でのごみのリ サイクル、再生の奨励。 重大な土壌汚染の浄化作業への規制 要件 工業(過去) 重大な土壌汚染の浄化作業への規制 要件 工業/工業(過去) 再開発の一環として土壌浄化作業を 推進/要求する計画プロセスの利用 29 備考 ライセンスの必要条件が合理的で実 行可能であり、過剰なコストを要しな いことを、確保することが必要 あらゆるコストを削減できる。 土壌汚染と地下水/地表水の水質へ の影響の関連性がある場合、特に当 てはまる あらゆる要件が合理的で、実行可能 であることが必要 土壌汚染と地下水/地表水の水質へ の影響の関連性がある場合、特に当 てはまる。 あらゆる条件が合理的で、実行可能 であり、過剰なコストを要しないことが 必要。 現在の責任者に相当なコストを課すこ とになりうることがあり、場合によっては 大元の汚染者でないこともある。手段 が実施されるようにするためには、規 制が必要な場合がある。 あらゆる条件が合理的で実行可能で あり、再開発を妨げうる過剰なコストを 要しないことが必要 浄化のための「利用に適する」アプロ ーチにより、画一的、単一的な浄化基 準に比べて、再開発がより促進され る。 廃棄物処理 汚染物が地下水/埋立ガスに過剰に 浸出するのを避けるための免許・許可 条件の改善 廃棄物処理 埋立処分場内で浸出液を自発的に管 理する。現地処理システム(発生現場 で処理を行う)の導入 下水システムの排出前に簡単に検出 し、処理できるようなシステムを導入す る。(例:前処理と油脂分離器) 土壌汚染から 受け入れがたいリスク を引き起こす開発をしないことを確保 する計画プロセスの利用 広域汚染(例:地表 からの流出) 全て 4.3.4 持続可能な再開発の促進のため、課 税あるいは減税を実施することの可能 性を検討 処理場の新しいインフラに対する相 当な投資が必要となる場合がある。 現地処理は、外部環境に出る汚染の レベルを軽減させる。 新しいインフラに対する相当の投資が 必要 あらゆる条件が地域の開発計画と両 立することを確保する必要がある。 浄化のための「利用に適する」アプロ ーチにより、現在よりも神経質になら ずに、土地を安全に利用できる。 期待される効果と取り組むべき課題 期待される効果 土壌汚染リスクの軽減による公衆衛生の改善 地下水、地表水源の質の向上 工業用地内での管理により、漏出や廃棄物を最小限にすることができる。 30 「利用に適する」管理政策が、適切に導入されることによって、再開発が進む可能性 がある。 取り組むべき課題 浄化作業については、相当のコストがかかる恐れがある。コストが過大とならないよう にするため、責任主体のコスト負担をどのように明確にするかについて、慎重に考慮 する必要がある。 「利用に適する」管理政策を採択することによって土地取引で追加コストが発生する のは敬遠される。 潜在的な土壌汚染の可能性がある場合、土地利用計画の優先順位付けの制約とな る。 4.4 クリーナープロダクション 4.4.1 目的 クリーナープロダクションは、廃棄物を最小限にする生産効率と、環境負荷を最小限に する製品を追求することである。そうすることによって、収益性を改善することも狙ってい る。 4.4.2 主な考慮事項 クリーナープロダクションにおける主な考慮事項を表Ⅵ-13 に示す 表Ⅵ-13 クリーナープロダクションの例 技術 原材料の改善 原材料の削減 汚染プロセスの排除 31 例 低硫黄燃料の利用 石炭、石油からガスへの代替 廃棄物発生がより少なくなる高品質原料の利用 現場発電を止めて、基幹電力を使用 プロセスの簡略化 より効率的なプロセスの代替 プロセスのオペレーションの変更 長期間に亘り開発されてきたプロセスの集約 高効率ボイラーの利用 効率性をモニターしコントロールする、プロセスコ ントロールの利用 硫黄ガス回収煙道の設置 廃熱の利用 新しい設備の設置 プロセスにおけるリサイクル 4.4.3-1 北九州市のクリーナープロダクション 北九州市では、公害克服・経済発展の過程で、古くから クリーナープロダクションの考え方に基づく、産業振興 が進められた。省エネ・省資源の取組を通じ、結果とし て企業は生産性向上、競争力強化を実現でき、住工一体 の成長に繋がるという考え方に基づく。 北九州市の SOx 排出量は、27,575t(1970 年)から 607t (1990 年)となったが、削減効果の 75%はクリーナープ ロダクションの取組がもたらした。 4.4.3 主な具体策 KITA 北九州市の代表的企業(新日鉄化学、新日 鉄、安川電機、TOTO 等)の OB で構成され、 クリーナープロダクションのノウハウを蓄 積。途上国の開発支援を行っており、現地の 技術レベルに即したクリーナープロダクショ ンの指導や、研修プログラムを提供 クリーナープロダクションの主な具体策を表Ⅵ-14に示す。 これは、クリーナープロダクションの適用対策を決定するため、対象となるプロセスでの実 施可能性を検証するときに利用する。 表Ⅵ-14 クリーナープロダクションの主な対策 対策 原材料の変更 技術の変更 オペレーションの改良 32 望ましい対処 有毒有害物質を、他のより無害な物質に変更 原料として再生可能資源を利用 耐用期間の長い原料の利用 原料の浄化 よりクリーンな技術への変更 設置装置の変更 プロセス環境の最適化 自動化の拡張 プロセスコントロールの改善 設備配置の改善 生産スケジュールの変更 エネルギー管理 メンテナンスプログラム 業務手順 研修プログラム エコプレミアム創造事業 市内の産業・技術分野の取組や成果の中か ら、環境配慮型製品・技術及びサービスを 「北九州エコプレミアム」として選定、その 拡大、浸透を図っている。 製品・技術 148、サービス 30 を選定(2011 年時点) よりグリーンな技術の開発 省エネインバータ、節水型水栓、高効率電磁 鋼板技術など、地元企業による技術開発が進 む 生産方法の改良 再利用とリサイクル 優れたプロセスコントロール 高水準のメンテナンス、清掃 リサイクルできる環境に優しいデザイン 製品寿命の延長 梱包の簡素化・集約化 有害物質の削減 原材料、排水、排熱、冷却水を一か所で回収、再利用する。 廃棄物を有益な副産物にする 廃棄物の分別と保管 (4.4.3-1 つづき) 排熱の再利用 新門司工場、日明工場、皇后崎工場では。ご みを焼却する際に発生する熱を蒸気エネルギ ーとして回収し、自家発電や施設の空調設備 等に利用。 余剰エネルギーについては他の公共施設に供 給。 余剰電力については九州電力に売電し収入を 得ている 4.4.4 より効率的なプロセスと省エネルギー生産によるコスト削減 原材料の採取や運搬の必要量が減少することによる間接的な環境改善 環境汚染の削減 廃棄物の発生と、その後の廃棄物処理による環境への影響の削減 取り組むべき課題 4.5 クリーンなプロセスへの投資 よりクリーンな原料への転換、それによるコスト増加の可能性 リサイクル、再生資源の市場が限られている。 政策策定とその手法 政策とは、行政において優先度が高いと考えられている核心を示すものである。政策に は、望ましい状況あるいは達成したい成果といった目標が明示されている。それに続く戦 略では、明示された目標を実現するためのアプローチについて提示する。 33 ※Waste 参照 期待される効果と取り組むべき課題 期待される効果 エコタウンの開発・推進 ●Reference: <Case Study> ・History and performance of Cleaner Production No1(E) ・History and performance of Cleaner Production No2(E) ・平成 24 年度 北九州エコプレミアム(J) 4.5-1 規制 クリーナープロダクション政策には様々な目標があるが、多くの政策に共通の要素がある。 環境を守りつつ、競争力と生産効率を向上することができる経済ツールとして、クリ ーナープロダクションのコンセプトを普及させることを目指す 汚染排出者に対して予防的手段を講じさせる義務と目標を備えたフレームワークを 提供する。 自然資源と原材料の利用を最適化し、排出物とその影響を最小化することを目指す どのようにエンドオブパイプの緩和対策を最小化し、予防的対策に切り替えるか。 大気 法に基づき、硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじん、そ の他の有害物質について規制を行っている 水質 健康項目(カドミウムなど 8 項目、ジクロロメタン等 の 19 項目)、生活環境項目(BOD)、要監視項目(ク ロロホルム等 26 項目)について、基準を設定・調査 土質 公害対策基本法に基づき、土壌環境基準としてカドミ ウム、シアン等 10 項目から基準を設定。その後、項 クリーナープロダクション施策は、その実施を後押しする法律や政策の体系が整ってい れば、より効果的である。従って、クリーナープロダクションを広めるには、環境政策の最 上位の文書に、そのコンセプトが織り込まれなければならない。そこでは、予防こそが環 境保全の主原則であることが強調されなければならない。 目は追加され、現在約 30 項目について基準を設定、 調査 4.5-2 公害防止協定 北九州市では、住工一体の街づくりの観点から、北九州 市長と企業の代表者が公害防止に対する取り決めを締結 クリーナープロダクションの政策策定は4段階でおこなう。 第1段階 – 現状と支援確保の分析 – この段階では、政策的な関与を必要とする課題も しくは問題を確認する。最初の現状分析で、何が既に実施され、誰がステークホルダー かを明らかにする。政策立案者は、これらの課題の重要性を認識する必要があり、それ がなされて初めて政策策定が開始できる。 第2段階 – 優先順位付けと目標の設定 – クリーナープロダクション政策策定の主体とな る組織が必要である。これにはステークホルダーの代表者と技術専門家を含む。この組 織の役割は、ニーズや優先事項を確認する前に、クリーナープロダクション導入のメリット とデメリットを見極めながら現状を分析することである。 第3段階 –政策策定 – 優先事項を特定し合意が得られれば、全体的な政策やアクション プランの策定を通して、課題に取り組み、その解決策を見出すためのプログラムをつくる。 34 することが、企業の進出条件の 1 つとされている。 法律の不備、条例制定権の限界を補完・代替し、実務的 には法律以上の上乗せ規制、未規制事項上乗せ措置、着 工前の事前チェック等を行うことで、公害防止の実効性 を高めている。 企業にとっては、同協定を締結することで、公害防止施 策、設備等の設置(クリーナープロダクション)等を行 う動機づけとなっている。 政策、アクションプランについては、まず詳細な技術レベルで策定し、その実行に際して は、政府の十分な支援が必要である。 第4段階 –実行と評価 – 最終段階では、政策とアクションプランを遂行し、政策目標を達 成する。実行段階では、何が成功裏に達成できたかを評価し、まだ変更が必要かどうか を判別するためにモニタリングを組み入れる。最終的に、目的が達成されたかどうかを確 認し、政策の有効性と効率性を判定するため、政策・プログラム評価を行う。この評価に より、機能しなかった要素や新たに取り組むべき課題が判明することがある。この段階で、 政策策定サイクルを、はじめからやり直さなければならない場合もある。 政策手法は、特定の目標を達成するために利用される、ツールあるいはメカニズムであ る。政策手法は、一般的に3種類ある。 法的手法 – 特定の行動を要求または命令し、禁止事項や許容事項、さらにはある 活動の実施方法を規定する。 経済的手法 – 経済的条件を変えることによって、特定の行動に向かうインセンティ ブを作る。 情報的手法 – 情報提供によって行動を変えることを狙う。 これらのアプローチの例を表Ⅵ-15に示す。 35 公害防止に関しては、汚染物質の規制を行うだけでは 不十分であることから、事業者による汚染物質処理施設 の設置や改善に対し、市内の中小企業者を対象に経済的 な支援制度を設けている。 4.5-4 北九州市のクリーナープロダクションの PR 活動 北九州市では、環境に対する意識啓発およびクリーナープロ ダクションへの社会的な動機づけにつなげる代表的な取組と して下記に取り組んでいる エコプレミアム産業創造事業 エコアクション 21 の認証・登録の支援 KITA を通じた国際協力 各種の市民参加型事業、行事の実施 パンフレット類の発行 ホームページ等での環境規制情報、調査結果の公開 公教育の場での環境学習(環境教育副読本) 施設見学の受入れ(環境学習ツアー、環境修学旅行) ●Reference 表Ⅵ-15 政策手法の例 法的手法 4.5-3 公害防止資金融資制度 環境基準と規制: 排出規制 大気環境基準 水質、土質環境基準 プロセス基準‐特定技術の使用義務 製造禁止と商取引規制 輸入関税 製品輸入禁止(例:オゾン破壊物質) <Toolkit> ・水質規制の手引き 北九州市(J) <Case Study> ・北九州市の環境(2012 年度版)(J) 経済的手法 情報的手法 36 原材料が枯渇しないような分配 資源としての利用制限 補償手段の要求 相応の負担 – 汚染活動によって引き起こされた損害に対する補償金支払義務; 環境に関する罰金、納付金、税、クリーンアッププログラムの導入 費用、従業員や第三者への補償 公的支出ツール: 助成金、地方交付金、ある活動を実施することに対する税控除 – 例: リサイクル産業に対する価格支援 収入につながる手法: 排出量に比例した税、使用料、納付金、これらはある行動をやめさ せるのに十分な高いレベルに設定すべきである。 予算的には、収入になったり、支出になったりする手法 潜在的な有害物質、危険な活動に対して、罰金を徴収し、その物 質がリサイクルされたり、元に戻されたり、あるいは利用を止める、 といった場合には払い戻す。 数値目標の設定 数値目標の設定は環境改善を進めるための主な手法の1つ。リサ イクル数値目標の設定、特定の廃棄物の流れにおける排出削減 などがある。 社会への認知、表彰 これらはクリーナープロダクションの意識付け、導入推進に有効な 手法である。 製品のラベル付け エコラベルのような仕組みの利用は良く使われる。消費者の製品 選択を通じてクリーナープロダクションを奨励するのに役立つ。 環境規制情報の公開 大気、水、土への汚染に関する情報を公開することで、ステークホ ルダーが環境改善の議論をできるようになる。 業界実務規範 この手法の目的は、関連情報を提供し、業界基準に照らし自社を ベンチマークできるようにすることで、産業に対し改善の支援をす ることにある。 公共教育キャンペーン 環境話題に関する情報を提供することで、一般の人々はクリーナ ープロダクションを指向する利益を理解し、変化に向けた大きな力 となる。 5.3-1 取組の検証・計測を行い、改善策につなげる PDCA サイ クルに実効性をもたせるため、通常の大気・水質調査に 加え下記の取組を実施 「緊急時」「事故時」の市民生活の安全を図るな どの目的のもと、毎月随時ばい煙測定車を運行 し、市内各工場におけるばい煙発生施設の集じん 状況の監視を実施した。 5 戦略の検証と測定ツール 5.1 目的 また、将来の動向を踏まえた新しい政策や規制の作成と、実行を監視する施策も必要で ある。 5.3 主な具体策 実行可能性と環境性の検証と計測は、大気・水質・土壌管理の専門家、大気・水質・土 壌管理に精通したアドバイザーや行政の代表者などによって実施されるべきものである。 37 特殊気象情報制度 北九州市の場合、前面を海に背後を山地に囲ま れ、深く入りこんだ洞海湾が中心部に位置してい る。その地形特性から、大気中に拡散される亜硫 酸ガスなどが拡散されず地上近くに滞留しやす い。 そのためスモッグの発生が予想される気象条件が 出現した場合に、緊急時対象工場に通報し、燃料 の切替準備または削減(20%)、を要請する、とい う北九州市独自の制度を設けている。 主な考慮事項 大気と水の環境汚染は、すでに測定可能である。そのため、正確な計測ができるような モニタリング施策が必要である。 大気汚染常時監視システムの構築 公害監視センターを設置し、市内の各観測局で測 定したデータを同センターに直接送り(テレメー ターシステムを活用)、24 時間集中監視する体制 を構築した。 決定した公害管理戦略は、人の健康を守るために設計された、国内外の環境基準に照 らして検証すべきである。そのためには、測定プログラムで達成された環境レベルに関 する情報と、環境基準との比較が必要となる。 5.2 公害パトロール 立入検査 県知事から北九州市長へ工場の規制事務権限が委 譲され、ばい煙発生施設への立入検査が強化され た。 工場排水についても、1 工場につき 2-6 回/年の排 出水検査、立入検査を実施していた。 ●Reference <Case Study> ・北九州公害監視センター(J) ・Kitakyushu Air Pollution Monitoring Center (E) 財務実績の検証と計測は、大気・水質・土壌管理の専門家の支援の下、ファイナンシャ ルアドバイザー、大気・水質・土壌管理に精通したアドバイザーや行政の代表などによっ て実施されるべきものである。 社会的性能の検証と計測は、雇用創出、経済成長への貢献、戦略により影響を直接もし くは間接的に受けるより広範囲なステークホルダーのメリットなど、様々な要素に関連す るものである。これについてはより広範囲な持続可能性評価やステークホルダーとの協 議、ある特定の目的をもった経済的評価などの形式をとることもあり、大気・水質・土壌管 理の専門家の支援の下、上記分野に関連する専門家や、大気・水質・土壌管理に精通 したアドバイザーや行政の代表などを集めて実施される。ステークホルダーとの協議に ついては以降のセッションに記述する。 表Ⅵ-16 は、大気・水質・土壌管理戦略に適用されるチェックリストである。 表Ⅵ-16 主な検証と計測ツールのチェックリスト-大気・水質・土壌管理戦略 項目 実現可能性 環境の達成度 検証と計測ツール 導入した緩和対策の達成度評価 他の類似環境で使われた緩和対策の適用 大気、水質、土壌のモデル化 大気、水、土壌の環境モニタリング 許可条件のモニタリング 環境影響評価(Environmental Impact Assessment (EIA)). 戦略的環境影響評価(Strategic Environmental Assessment (SEA)) コスト 実績に基づいた資本的支出と運営コストの試算表 財務の達成度 ライフサイクルにおける代替コスト 純現在価値(NPV)、プロジェクト内部収益率(IRR)などを算出するための DCF法(企業の将来の収益獲得能力を評価する方法) 38 社会的効果 5.4 ステークホルダーとの協議による持続可能性評価(ASPIRE Tool) 貧困と社会分析 能力育成とナレッジマネジメント計画 再定住アクションプラン 期待される効果と取り組むべき課題 期待される効果 39 汚染物質の管理に関する戦略の策定が、資源の再生、再利用につながる 検証と測定は、戦略の一部として策定された政策提案及び実施計画が、目的に即 しているかどうかを確認することができる 検証と測定の結果は、意思決定から施策実行へのプロセス進行を助けてくれる 戸畑区婦人会 戸畑地域では工場から排出されたばい煙等で 洗濯物も外に出せない状況にあった。婦人会 は 1960 年に工場側に改善を要求するととも に、行政に対し仲介・斡旋を依頼した。婦人 会は自分たちで汚染実態の記録、資料収集を 行い、科学的根拠をもって、工場との交渉に 臨んだ。結果、1964 年に行政の仲介のもと 和解が成立し、その後の公害対策が促進され た。行政が仲介役を務めて企業と住民が和解 に至った初めてのケースであった。 ステークホルダーとの協議 上記に加え、全てのステークホルダーが参加して、定性的な戦略の検証を実施するべき である。これには、規制当局、地方自治体、業界団体及び市民が含まれる。ステークホ ルダーとの誠意ある協議は、意義ある対話集会を開ける最も早い段階において、利害団 体との関係を築くことになるであろう。各ステークホルダーは異なった優先順位を持って いるため、協議には、各々違った方法や手段のアプローチを取る必要がある。そのため ステークホルダーとの協議は、環境関連のコミュニケーションや公開協議の専門家がス テークホルダー毎に準備、実施、管理する必要がある。また、エネルギーや廃棄物のよう な関連トピックと統合して協議を行うこともある。 ステークホルダーとの協議は、今後サービス提供者になる可能性のある事業者や融資 者にも対象を広め、その代表者とのワークショップ形式で行う。そこでは市場関係者に戦 略的な提案が説明され、全般的なコメントや意見が寄せられることが期待できる。 5.5 5.4-1 ステークホルダーとの協議 北九州市は、市民生活と産業発展の両立する住工一体の 街づくりを重視している。あらゆる取組において、ステ ークホルダーの意見を取りまとめる仕組を構築している 北九州市公害防止対策審議会 北九州市における公害対策の施策および事業 の推進にあたり、基本的な方向付けに関し検 討を実施。学識経験者、市民代表(市議会議 員 3 名、衛生総合連合会会長、婦人会連絡協 議会副会長)、業界代表者で構成。 北九州市公害対策連絡会議 市長を始めとした関係部局が連携し、北九州 市における公害に関する事務を総合的に調整 し、公害対策の円滑な推進を図るために設置 された。 提案が実現可能なこと、主なステークホルダーの懸念について考慮していることが 明らかになる (5.4-1 つづき) 大気汚染防止法における県知事権限が市長に 移譲されたことを契機に、市の大気汚染防止 対策の徹底と企業の考え方の意思疎通を図る ことを目的に設置。福岡通産局、福岡県、北 九州市、事業者で構成(参加企業は市のばい 煙排出量の 97%を占めていた)。 取り組むべき課題 6 6.1 利用可能な技術とコスト 企業のコスト増加や利益減少を望まない経済的な圧力 検証結果として望ましい、もしくは期待された結果が出なかった場合に別の選択肢 を考える必要がある ステークホルダーたちの相反する期待や目標を調整し、バランスを取る必要がある 調達と資金手当 目的 公害管理戦略の実行によって生じるリスクについて検討することは、戦略の実行におけ る潜在的な制約とリスクを特定するために重要である。 6.2 主な考慮事項 公害管理戦略の遂行に必要なインフラや影響緩和措置のための調達及び資金手当を 成功させるには、公害管理戦略に関するリスクの認識及び理解が必要である。調達を始 める前に、専門的、法律的、財政的な調達とリスク管理のアドバイスが行える専門家を含 めたリスク毎のワークショップを開催する必要があり、このようなステークホルダーには、公 害管理に精通したアドバイザーや行政の代表者などを含める場合もある。 40 北九州市大気汚染防止連絡協議会 市は、この協議会を場として、企業側に国や 県、市の諸政策への協力を求めた。企業側に とっては、規制等に関する行政との事前協議 の場を確保することで、必要な情報交換を図 りながら、規制等の実現性について企業側の 率直な意見を行政に提示できるメリットがあ り、有益な場として迎えられた。 北九州市 PCB 処理監視委員会 PCB 処理施設の立地検討時に、専門家による 検討委員会が設置され、安全性確保・情報公 開について検討を行うとともに、100 回を超 える市民説明会が開催された。こうした市民 との意見交換の取組が発展し、市民の安心 感・信頼感のもと安全かつ適正に事業が行わ れるよう専門家・市民による機関として設 置。事業の計画、建設、操業の各段階を通し て監視を行い、市に提言する役割を果たして いる。
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