委託試験成績(平成27年度) 担当機関名 福島県農業総合センター 部・室名 浜地域研究所 実施期間 平成 26 年度~平成 27 年度(終了) 大課題名 Ⅱ 高品質・高付加価値農産物の生産・供給技術の確立 課題名 福島県浜通りにおける春まきタマネギ生産体系の確立 マルチ栽培における機械化体系の確立 相双地方は気温条件からタマネギの春まき作型に適した環境であるこ 目的 とから、端境期で市場価格が高い 7 月に収穫・出荷が可能である。また放 射性物質の影響を受けにくい作物として震災復興に大きく貢献すると考 えられる。 本試験では、春まきタマネギのマルチ栽培について検討し、収量及び作 業性を明らかにする。 担当者名 門田 敦生 1.試験場所 福島県農業総合センター浜地域研究所 2.試験方法 前年度は移植機、収穫機、ピッカーの作業性を調査し、移植機は手作業に比べ作業 能率が良く、比較的小規模の栽培面積でも導入可能であると考えられた。 本年度はマルチ栽培について検討し、収量及び作業性を明らかにする。 (1)試験場所 福島県農業総合センター浜地域研究所 普通畑 (2)耕種概要 ア 供試品種:もみじ 3 号(秋まき用中晩生品種) イ 播種:2 月 5 日 播種板使用 ウ 育苗:288 穴セルトレイ(培土;タマネギ専用養土 H-200、追肥;ハイポネックス 液肥)、無加温 3 重被覆ハウスで育苗 エ 移植:4 月 10 日 苗移植機使用 オ 施肥量(kg/10a):N-20、P 2 O 5 -30、K 2 O-20(N444、CDU555、過リン酸石灰) カ 栽植密度:1 畝 4 条植え 条間 20cm、25cm×株間 10cm キ 除草:移植後に除草剤(モーティブ乳剤)使用 ク 防除:殺虫剤 2 回、殺菌剤 1 回 ケ 収穫:7 月 13 日 収穫機、ピッカー使用 コ 乾燥・貯蔵:100%遮光フィルムを張ったハウスにおいてコンテナに入れ風乾、貯 蔵 (3)供試機械 移植機;ヤンマーPH2、2 条用 収穫機;ヤンマーHT20A、2 条用 ピッカー;ヤンマ ーHP90T、4 条用 トラクタ;ヤンマーEF338V ロータリ;佐野アタッチ研究所 VTRN-JE (4)区の構成(1 区 20 株 2 反復) 区名 移植作業 機械化マルチ有 移植機使用 機械化マルチ無 手作業マルチ有 手作業 手作業マルチ無(対照区) マルチ被覆 有り 無し 有り 無し 収穫作業 収穫機でマルチ回収及び掘り起こし後、ピッカーで収穫 収穫機で掘り起こした後、ピッカーで収穫 手作業 3.試験結果 (1)倒伏時期、収量及び品質 倒伏日は機械化マルチ有区で最も早く 7 月 7 日であり、手作業で移植を行った区の 倒伏日は共に 7 月 13 日であった(表 1)。機械化マルチ無区は収穫までに 8 割の株が倒 伏しなかった。各区の球径、球重及び腐敗発生率に差はなかった。規格内収量は 10a 当たり 3251~4306kg であった。2015 年 7 月下旬のタマネギの市場価格(太田市場)は 1kg 当たり 166 円であり、この時期に青切り出荷を行うことで、10a 当たり 50 万円以 上の売り上げが見込まれた。 (2)地温及び土壌水分 マルチの有無による、地温及び土壌水分の差はほとんどなかった(図 1、2)。 (3)10a 当たりの作業時間 移植の 2 日前から移植日まで降雨が続き、移植は小雨条件で行った。機械化体系区 と対照区(手作業マルチ無区)の移植作業時間の差は、マルチ有の場合は 82.6h/10a、 マルチ無の場合は 88.2h/10a であった(表 2)。機械化体系区と対照区の移植及び収穫 作業の合計時間の差は、マルチ有の場合は 101.2h/10a、マルチ無の場合は 110.0h/10a であった。 (4)移植機の移植精度 移植機を用いて移植した場合、移植株の植付姿勢は、マルチ有の場合は 94.5%が、 マルチ無の場合は 80.9%が 45°から 90°の間で良好であった(表 3)。 (5)機械収穫後調査 ピッカーにより収穫し、球に傷が付かなかった株の割合は、ほ場に植えた株の 88.6% であった(表 4)。ピッカーにより拾い上げられなかった株の割合は 10.3%であり、その 多くは規格外であった。 4.主要成果の具体的データ 表1 タマネギの倒伏時期、収量及び品質 区名 機械化マルチ有 機械化マルチ無 手作業マルチ有 手作業マルチ無(対照区) 倒伏日 7月 7日 7月13日 7月13日 球径(cm) 球重 総収量 直径 高さ (g/球) (kg/10a) 6.1 6.3 6.7 6.7 6.1 5.9 6.6 6.3 133 131 160 157 3624 3562 4366 4269 注1)倒伏日は8割の株が倒伏した日 注2)「機械化マルチ無」区は収穫日(7月13日)までに8割の株が倒伏しなかった 注3)規格内収量は、総収量から規格外、腐敗発生がみられた個体の収量を引いた値 注4)分散分析により、球径及び球重の項目について5%水準で差が認められなかった 30 25 ( 温 度 20 ℃ ) 15 10 平均気温 図1 平均気温及び地温 マルチ無区地温 注1)平均気温は気象庁過去のデータ(相馬市)を参照 マルチ有区地温 腐敗 発生率 (%) 2.6 2.5 0 0 規格内 収量 (kg/10a) 3251 3313 4306 4205 40 40 30 30 土 壌 水 20 分 % ( 降 水 量 20 ㎜ ( ) ) 10 10 0 0 降水量 マルチ無区土壌水分 図2 降水量及び土壌水分 マルチ有区土壌水分 注1)降水量は気象庁過去のデータ(相馬市)を参照 表2 作業時間及び作業時間の差 区名 機械化マルチ有(a) 機械化マルチ無(b) 手作業マルチ有(c) 手作業マルチ無(対照区、d) (a)-(d) (b)-(d) (c)-(d) 移植 (h/10a) 24.8 19.2 142.1 107.4 -82.6 -88.2 34.7 収穫 (h/10a) 8.2 5.0 33.7 26.8 -18.6 -21.8 6.9 合計 (h/10a) 33.0 24.2 175.8 134.2 -101.2 -110.0 41.6 注1)移植時間には畝立または畝立及びマルチ設置の時間を含む 注2)マルチ有区の収穫時間にはマルチ除去の時間を含む 注3)作業人数は1人 表3 移植精度 区名 欠株率 (%) 機械化マルチ有 13.0 機械化マルチ無 16.3 手作業マルチ有 0 手作業マルチ無(対照区) 0 植付姿勢 45°≦90° 0°<45° 0°(転倒) (%) (%) (%) 94.5 4.0 1.4 80.9 12.8 6.3 96.1 3.9 0 100 0 0 注1)128株を調査 表4 機械収穫後調査 収穫率 傷なし 傷あり (%) (%) 88.6 1.1 計 (%) 89.7 規格外 (%) 7.6 取り残し率 S規格 M規格以上 (%) (%) 2.0 0.7 計 (%) 10.3 注1)収穫率及び取り残し率は、ほ場に植えていた個体数に対する割合 注2)規格:S;直径5cm以上6cm未満、M;6cm以上7cm未満、L;7cm以上8cm未満、2L;8cm以上 表5 機械化体系における作業機別経済的利用規模 機械化体系 固定費 購入 価格 移植機 収穫機 ピッカー (千円) 1,015 1,328 1,296 減価 償却 費率 (%) 14.3 14.3 14.3 手作業 変動費 修理 費率 固定 費率 計 (%) 4.0 4.0 4.0 (%) 18.3 18.3 18.3 (千円/年) 186 243 237 燃料 費 労働 費 作業 能率 計 (円/時) (円/時) (時/ha) (千円/ha) 371 1,962 88 292 934 1,962 28 116 545 1,962 22 79 作業 可能 面積 (ha) 1.3 5.0 6.4 労働 費 作業 能率 計 作業 可能 面積 (円/時) (時/ha) (千円/ha) 1,082 1,038 1,123 (ha) 0.1 1,082 0.5 268 290 注1)福島県特定高性能農業機械導入計画を参照し作成 注2)燃料費には潤滑油費を含み、農林水産省平成18年農業生産資材の購入価格を参照 注3)機械化体系の労働費は厚生労働省平成26年賃金構造基本統計調査報告を参照 注4)移植機の作業能率は、過去10年の日別降水量を基に、晴天時(2014)及び降雨時(2015)作業日数を算出し計算 注5)手作業の労働費は農林水産省平成18度臨時雇用賃金を参照 注6)機械化体系及び手作業の実作業率は0.7とした 注7)マルチを利用しない体系を想定し算出 注8)移植作業には畝立の時間を含まない 注9)作業人数は1人 5.経営評価 移植・収穫作業の機械化やマルチを導入したことによる、収量や品質の向上はなかった。 移植機の固定費は 18 万 6 千円/年、変動費が 29 万 2 千円/ha であり、手作業体系での労 働費は 112 万 3 千円/ha であった(表 5)。収穫機とピッカーの固定費は、それぞれ 24 万 3 千円/年及び 23 万 7 千円/年、変動費がそれぞれ 11 万 6 千円/ha 及び 7 万 9 千円/ha であり、 手作業の労働費は 16 万 2 千円/ha であった。 6.利用機械評価 前年度の移植作業は晴天条件で行ったが、本年度の移植作業は小雨条件で行った。表 5 に示される移植機の作業能率は、作業期間とされる 20 日間の過去 10 年間の日別降水量を 基に晴天及び雨天日数を調査し、晴天時は昨年度の、雨天時は今年度の作業能率を用いて 算出した。なお、昨年度のマルチ無の場合の移植作業能率は、移植機使用の場合 8.0h/10a、 手作業の場合 117.1h/10a であった。 移植機の作業可能面積は、作業期間を 20 日、オペレーターを 1 人とした場合、1.3ha で あった(表 5)。一方、手作業による移植作業の作業可能面積は、作業人数を 1 人とした場 合、0.1ha であった。収穫機及びピッカーの作業可能面積は、作業期間を 25 日、オペレー ターをそれぞれ 1 人とした場合、それぞれ 5.0ha 及び 6.4ha であった。一方、手作業によ る収穫作業の作業可能面積は、作業人数を 1 人とした場合、0.5ha であった。 一部、収穫機によるマルチの取り残しがみられた(写真 6)。 7.成果の普及 8.考察 今年度の調査の結果、マルチの有無による収量の差はなかった。移植機を使用した場合、 少雨条件下であっても、対照区と比べ 82.6h/10a 以上の作業時間短縮が可能であった。移 植作業と収穫作業の機械化により、対照区と比べ 101.2h/10a 以上の作業時間短縮が可能で あった。収穫機及びピッカーを使用したことによる、タマネギの取り残しや損傷はほとん どなかった。 9.問題点と次年度の計画 なし 10.参考写真 写真 1 移植機による移植作業 写真 2 移植後 44 日目の様子 写真 3 写真 4 収穫機による堀取り・葉切り・整列作業 写真 5 ピッカーによる拾い上げ作業 写真 6 収穫時の様子 マルチの取り残し
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