食品ロス ~商慣習の見直し に向けて~

時 の 話 題 ~平成25年度 第20号(H25.9.30調査情報課)~
食品ロス
~商慣習の見直し
に向けて~
日本では、食べられるのに破棄される食品、いわゆる食
品ロスが年間 500~800 万トン排出されており、これまでも
様々な食品ロス縮減対策が講じられてきた。しかし、大き
な効果が得られていない状況が続いている。食品ロスの大
きな要因の一つである商慣習を中心に現状をまとめた。
1 現状
(1)食品ロスの量
日本国内における年間の食品廃棄量は、食料消費全体の約2割にあたる約 1,800 万トン
あり、このうち、売れ残りや期限切れの食品、食べ残しなど、本来食べられたはずの、い
わゆる「食品ロス」は 500 万~800 万トン(平成 22 年推計)とされている。これは、我が
国におけるコメの年間収穫量(平成 24 年約 850 万トン)に匹敵し、発展途上国などへの世
界各国からの食料援助量(平成 23 年で年間 390 万トン)を大きく上回る量である(図1)。
(2)食品ロスの内訳と推移
食品ロスは大別して、食品関連従
事者(製造業、卸売業、小売業、外
食産業)が排出する事業系廃棄物の
300~400 万トンと、一般家庭から排
出される家庭系廃棄物 200~400 万
トンとに分けられる。
また、その推移を平成 17 年度から
平成 22 年度の5年間で比較すると、
図1
世界の食料援助量と日本の食品ロス
平成 13 年の食品リサイクル法の施行や、国や自治体による食品ロスに対する普及活動な
どの対策にも関わらず、食品ロスの量は平成 17 年度の 500~900 万トンに比べて平成 22
年度は 500~800 万トンであり、依然として食品ロスの量は多い(図2)。
(※時の話題 平成 21 年度 第 27 号「食品ロスの削減」参照)
特に事業系廃棄物においては、廃棄物としての量は 159 万トン減少しているが、食品
ロスの量は大きく減少しておらず、制度として改善の余地がある。
図2
食品ロスの推移
(平成 17 年度推計)食品ロス 500~900 万トン
(平成 22 年度推計)食品ロス 500~800 万トン
事業系廃棄物
家庭系廃棄物
事業系廃棄物
家庭系廃棄物
(800万トン)
(1,100万トン)
(641万トン)
(1,072万トン)
うち、食品ロス
うち、食品ロス
300~400 万トン
200~400 万トン
うち、食品ロス
300~500 万トン
うち、食品ロス
200~400 万トン
図1及び2
出典:政府広報オンライン・農林水産省HPより作成
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(3)「3分の1ルール」の商慣習
「3分の1ルール」とは、飲料や、即席麺、缶詰、スナック菓子など加工食品を扱う業
界に長年続く、賞味期限までの3分の1を過ぎた商品を小売店が引き取らない商慣習であ
る。
この商慣習、
「3分の1ルール」は、法律上の根拠はなく、明文化もされていないが、全
国の流通現場では、現在も広く定着している慣習である。
我が国の流通過程は、大きく分類すると、
「メーカー、卸、小売り」という流れが一般的
であり、小売りは、できるだけ新鮮な商品を販売したい意向を持っている。
農林水産省が日本の消費者意識は世界一、鮮度に厳しいとしているように、その背景に
は、我が国の消費者の意向がある。
このような背景から生まれた「3分の1ルール」の商慣習は、納品期限を越えた商品に
ついては、小売りは卸に受取拒否をすることができるというルールである。メーカーや卸
側から言えば、納品期限を越えると小売りに出荷できなくなることになる。この場合の「納
品期限」は、一般に製造日から賞味期限までの3分の1を経過した日にちを言う。
また、小売の店頭販売は、販売期限までとされている。この場合の「販売期限」は、一
般に製造日から賞味期限までの3分の2を経過した日にちを言う。
さらに、販売期限を過ぎた賞味期限までの商品については、店頭から撤去、廃棄または、
一部値引きして販売される。
こうした3分の1ルールで受け取り拒否となった返品された商品などは、ディスカウン
ト店などに転売されるが、その量はごく一部で、その大部分は、品質が保証できない、あ
るいはブランドの毀損や値崩れを防ぐといった理由で、大半は破棄され、その結果、食品
ロスとなる。そのような食品ロスの額は、2010 年度の調査で 1,139 億円にも上るとされる。
こうした3分の1ルールが事業系廃棄物の食品ロスの発生量が減らない理由の一つとな
っている(図3)。
図3 3分の1ルールの概要
3分の1ルールによる期限設定の概念図(賞味期限6ヶ月の場合)
納品期限
製造日
販売期限
賞味期限
2ヶ月
2ヶ月
小売
卸
メーカー
店頭での
販売
( 小売
2ヶ月
店頭から
撤去・破棄
)
(一部値引き販売)
(
小売
)
卸・メーカーへの返品、受取拒否。
年間:1,139億円。(2010)
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出典:農林水産省HPより作成
(4)欧米諸国の商慣習
納品期限が経過すると、食品を返 図4 欧米諸国との比較
品する商慣行は欧米諸国にも存在す
製造日
る。
欧米の納品期限は、製造日から賞
アメリカ
味期限までの2分の1から4分の3
イギリス
で運用されるケースが多く、アメリ
カでは2分の1、イギリスでは4分
の3、フランス、イタリア、ベルギ
フランス
イタリア
ーは3分の2が一般的である(図
ベルギー
4)。
日本
日本の3分の1の納品期限は、欧
米諸国と比較しても短く、厳しさが
際立っている。
納品期限
賞味期限
2 国の取組
出典:農林水産省HPより作成
(3分の1ルールの見直しに向けて)
国は、経済産業省と農林水産省のサポートの下、3分の1ルールの見直しに向けて、
関係業界と連携し、平成 24 年 10 月に食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチー
ムを発足させた。
ワーキングチームの検討の結果、
「もったいないを取り戻そう!」を合言葉にした、食
品ロス削減のための国民運動を推進するため、趣旨に賛同する食品・飲料メーカー、卸
売業者、小売業者の参加により、試行的に納品期限を「3分の1」から、
「2分の1」へ
と緩和し、それによる返品や食品ロスの削減効果を検証するパイロットプロジェトを平
成 25 年8月から実施した。
※
パイロットプロジェクト参加企業
●
小売業者、卸売業者については、現在検討中の
企業が加わる可能性がある。
小売業者(9企業)
イオンリテール(株)、イズミヤ(株)、(株)イトーヨーカ堂、(株)セブン‐イレブン・ジャパン、
(株)東急ストア、(株)ファミリーマート、ミニストップ(株)、ユニー(株)、
(株)ローソン
●
卸売業者(14企業)
伊藤忠食品(株)、加藤産業(株)、国分(株)、コンフェックス(株)、
(株)昭和、
(株)高山、
トモシアホールディングス(株)、(株)ドルチェ、(株)ナシオ、(株)日本アクセス、(株)ハセガ
ワ、三井食品(株)、三菱食品(株)
、(株)山星屋
●
メーカー(12企業)
飲料:アサヒ飲料(株)
、(株)伊藤園、キリンビバレッジ(株)、
サントリー食品インターナショナル(株)、日本コカ・コーラ(株)
菓子:江崎グリコ(株)、亀田製菓(株)、
(株)不二家、
(株)ブルボン、
(株)明治、森永製菓(株)、
以上、35企業
(株)ロッテ
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パイロットプロジェクトは、平成 25 年8月から 図5 パイロットプロジェクトの流れ
半年間の期間で実施され(図5)
、平成 26 年3月
今後のスケジュール
中旬に最終報告を作成する。
その結果、納品期限が「2分の1」へと緩和さ
プロジェクト開始
平成25年8月
れたことによる食品ロス削減の効果が見られた
場合、広く広報を行うとともに、商慣習の緩和を
中間報告
平成25年11月中旬
推奨する。
プロジェクト終了 平成26年2月末
ただし、具体的な納品期限の設定や、実施地域、
カテゴリー、品目等については、あくまで各企業
平成26年3月中旬
最終報告
間での判断に基づく。
出典:農林水産省HP
食品ロス
より作成
消費者から変わろう
人間が食べるために生産される食料は、世界でざっと 40 億トンで、うち3分の1が失われ
ている。国連食料農業機関(FAO)がそう推計している。
日本では食品ロスが 500~800 万トンともいわれ、コメの収穫量に匹敵する。そこで、菓子、
飲料など加工食品を対象にロスを減らす実験を、大手企業 35 社が今月から半年間の予定で始
めた。
加工食品では、賞味期限までの3分の1を過ぎた商品は、小売店が引き取らない商慣習があ
る。これがメーカー側でロスを増やす温床になっている。
欧米ではもっと遅くまで出荷できることから、実験では賞味期限の半分まで受け入れ、ロス
の減り具合を調べる。
新鮮さ、便利さ、選択肢の豊富さを求める顧客に応える企業努力は大切だ。しかし、その代
償として大量の農産物や食品が捨てられている現実を直視する必要がある。
捨てる方が簡単で安上がり、ロスが出ないようにすると売り上げが減る。そんな呪縛から企
業が逃れるには、まず私たち消費者が考えを改めなければならない。
資源の無駄遣いを招く流通・消費構造から脱却することが、先進国に生きる私たちの責任で
ある。
(平成 25 年8月 18 日付
3
朝日新聞より抜粋)
今後の課題
食品業界の慣習である3分の1ルールの見直しに向けて具体的な動きが始まった。結果
が明らかとなるのは来年となるが、民間企業が取組むことには大きな意義があり、納品期
限の緩和による食品ロスの効果が見られた場合には、国は商慣習の見直しに向けて、一層
の働きかけをすべきである。
また、家庭系廃棄物の食品ロスに対する行政や民間企業による、食育や外食時の持ち帰
り運動など、消費者側における問題も意識啓発などに引き続き取り組むことが重要である。
食品ロスの問題は、短期的に大きな改善を図ることは難しいが、各方面において地道に
対策を継続して進める必要がある。
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