NPO法人日本海洋深層水 - NPO日本海洋深層水協会

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NPO法人日本海洋深層水協会メールマガジン 第 23 号
(2010 年 6 月 17 日)
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NPO法人日本海洋深層水協会
メルマガ編集チーム
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目次
<協会制作記事> 海洋深層水と淡水化
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海洋深層水と淡水化
<世界の水需要と海水淡水化>
世界には水資源が不足しており、その供給を海水の淡水化に頼っている国や地域が中東やアフリカ
をはじめとして、中米、アジアなどに数多くあります。
下の図は、1905 年を基準とした世界の人口と水需要の伸び率のグラフに、1975 年を基準とした海
水淡水化施設の生産水量の伸び率を重ねて示したものです。この図から世界の水需要は人口の伸び率
を上回っており、この水需要の一端をまかなうために海水淡水化施設の導入が急速に増加しているこ
とが分かります。
100
90
80
人口
水需要
1925
1950
淡水化施設
70
60
50
40
30
20
10
0
1900
1975
2000
2025
世界の人口、水需要と海水淡水化生産水量の伸び率(*1 より作成)
世界全体の海水淡水化施設の生産容量は 2003 年には 3,700 万 m3/日でしたが、この時には、2015
年にその容量が 6,200 万 m3/日になると予測されていました(Global WaterIntelligence*1)
。しか
し、2009 年の実績では 6,980 万 m3/日と、その予測を上回り、現在では 2016 年には 13,250 万 m3
/日に達するものと推定されています(野村証券 2010 年)。
ちなみに、わが国の生活用水の使用量は現在約 4,300 万 m3/日ですので、2009 年の時点で、わが
国の生活用水需要の 1.6 倍に当たる水量が、海水淡水化によって製造されている勘定になります。
現在、海水淡水化施設が多く建設されているのは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェー
トなどの中東地域で世界の約50%を占めています。次いで米国やカリブ海地域を含む北米地域が約
17%、スペイン、イスラエル、アルジェリアなどの地中海沿岸地域が約12%、中国、インド、パ
キスタンなどのアジア地域が約10%となっています。
<世界と日本の海水淡水化施設>
サウジアラビアは世界最大の海水淡水化プラントの稼働国であり、アラビア湾沿岸と紅海沿岸で多
数の海水淡水化プラントを操業しています。都市部ではオアシスや地下水だけでは供給水量が足りな
いため、海水淡水化プラントからの供給なしには生活が維持できない状況で、生活用水や工業用水の
主要な水源として利用され、さらに余剰分は農業用水としても利用されています。
中東地域では油の価格が安いことから、これまで蒸発式による海水淡水化施設が主流を占めていま
したが、近年では、製造コストがより安価な逆浸透膜式による施設が増えてきています。
写真 世界最大の蒸発式海水淡水化プラント
(サウジアラビア・アシュベール、日産 100 万トン)
日本では 1970 年代から工業用、生活用の海水淡水化プラントが設置されるようになり、水資源の
乏しい離島において一日当たりの造水能力が数十∼数百トンの小規模な逆浸透膜式プラントが多数設
置されて来ました。
逆浸透膜式による淡水化プラントは蒸発式に比べてエネルギー消費量が少なく、大規模なものから
小規模なものにまで適用できるため、わが国の海水淡水化による生活用水の約9割、工業用水の約8
割が逆浸透膜式によって作られています。
我が国最大の海水淡水化施設は、日量5万トンの造水能力を有する福岡地区水道企業団の「海の中
道奈多海水淡水化センター」で 2005 年 6 月に稼動しました。福岡都市圏は大きな河川やダム適地が
少なく、頻繁に渇水が心配される水資源に恵まれない地域で、新たな水資源として貢献しています。
また、沖縄本島の人口増加、経済の発展、観光客の増加等による水需要の増大と慢性的な渇水対策
のため、沖縄県では北谷町宮城に造水能力日量 4 万トン、沖縄本島の水需要の 10%を供給できる能力
をもつ大規模海水淡水化プラントを建設し 1997 年から稼働しています。
写真 逆浸透膜式による海水淡水化装置(福岡地区水道企業団)
<海洋深層水による淡水化の優位性>
現在の海水淡水化施設では、主に表層海水が使われており、海洋深層水を使った施設は、海洋深層
水取水施設での脱塩水製造など、ごく小規模なものが稼働しているにすぎません。
しかしながら、
表層の海水では工場排水の排出、
農耕地や市街地からの農薬や生活排水などの流入、
原油流出事故の発生等による汚染が進んでいます。
逆浸透膜による海水淡水化では、膜の表面に汚れや微生物が付着すると、膜の透水性能(造水量)
や脱塩性能が大きく低下し水質が悪化するという問題があります。
この点で、海洋深層水は水質悪化の原因となる有機物濃度が低く、表層海水と比べてはるかに清浄
なため、逆浸透膜の寿命を大幅に延ばすことができます。また、海水のろ過などの前処理がほとんど
不要となるため、取水費用を除いた海水淡水化設備のコストが従来の標準型海水淡水化設備の 60%程
度になるとの試算もあり、施設の建設費を大幅に減額することができます。
さらに、前処理工程から出てくる廃棄物の処理がほとんど不要になり、取水管や濾過槽に生物など
が付着することがなく、その清掃や保守作業がほとんど必要ないというメリットもあります。
また、よく「深いところから海洋深層水をくみ上げるには、ポンプの電気代が多くかかるのでは?」
という質問がありますが、これは誤解で、海洋深層水は水圧でポンプ室近くまで自力で上がって来る
ので、表層海水を汲み上げる場合と比べてポンプの電気代は大差がありません。
<今後の展望>
21 世紀は「水の世紀」と言われています。人口の増加と生産活動の発展などにより世界的に水の需
要量が増加する一方、水資源の枯渇や水質の悪化が地球規模で重要な課題となり、生活用水や工業用
水、農業用水を得るために持続的な水資源を確保・利用する技術が求められています。
海洋深層水は、その取水地が限定され、取水施設の建設にコストがかかるので、これを水不足解決
の切り札として期待するのには無理があるかもしれません。
しかし、海洋深層水が取水できるところでは、水資源の確保として非常に有効な手段であり、海洋
深層水を地域冷房や発電所の冷却水などに利用したあとに、淡水化に使うような海洋深層水多目的利
用システムの構想(下図参照)も提案されています。
今後、このような構想が実現され、水資源、エネルギー資源としての海洋深層水の利活用が、人々
のより豊かな生活に貢献していくことを願ってやみません。
今回の執筆に当たっては、
旭有機材工業㈱ の園田孝一様から提供いただいた海水淡水化に関する資
料を参考にさせて頂きました。厚くお礼申し上げます。
(参考文献) 国土交通省 水資源局水資源部:
『日本の水資源』
(平成 21 年版)
IDA、Desalination Year Book 2008-2009
NSJ 日本証券新聞 2010.4.28
(Mornio)
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