世界の太陽光発電の拡大を見る

負担は少なくなる。太陽光発電が増えれば石
らさなければならない電力会社の立場からの
油などに頼る割合もすくなくなる。CO2削
ごまかしだ。まず負担するのは太陽光発電を
減のためのクレジットを買う費用も削減でき
設置する発電者で、しかしこれは単なる負担
る。
ではなくて将来への投資であり太陽光発電が
負担、負担と強調するのはその発電量を減
大規模に普及することによる利益は大きい。
世界の太陽光発電の拡大を見る
市民エネルギー研究所 井田 均
長い間世界のトップを走っていた日本の
考えると、非常に高い買い取り価格だ。
太陽光発電も、2005年にドイツに抜かれた。
我々日本人の感覚からすると、この高い
近年は米国やスペインにも急追されている。
買い取り価格の元で、ドイツでもすぐに太
1994年度から始まった(財)新エネルギー
陽光パネルの設置希望が殺到するかと思わ
財団による建設費補助が2005年度を最後に
れたが、それ程でもなかった。これはドイ
打ち切られたことが大きく影響している。
ツが地球の中では北に位置し、強い太陽エ
その後日本政府は1 kW 当たり7万円の補
ネルギーに恵まれていないことが理由だと
助を3年ぶりに2009年度から再開するが、
思われる。
その間、諸外国は、大規模太陽光設備を中
オランダのアメルスフォールトはニュー
心に爆発的な普及を遂げている。
タウンに1 MW を超える太陽光発電施設
先進諸外国の動きを見よう。
を持つ世界最大級の太陽光発電の町だが、
そこのパネルは住宅の南向きの壁に垂直に
ドイツ 太陽光は2004年から拡大
設置されているものさえある。それほど太
ドイツの太陽光発電からの電力買い取り
陽の位置は低く太陽エネルギーは弱い。ド
は、風力からと同じで、1991年の電力供給
イツはそのアメルスフォートよりさらに北
法で始まった。買い取り価格は電力料金の
にある。募集を開始しても応募が殺到しな
90%で、これも風力発電と同水準だ。
かったのは、ドイツの国民が太陽エネル
2000年4月施行の再生可能エネルギー法
ギーに大きな期待を持てなかったからだろ
で、太陽光は固定価格買い取り制度の対象
う。だが、連邦政府の10万戸ルーフトップ
になった。1 kWh 当たり506
. 2ユーロセン
政策などにより、2003年に35万 kW の上限
トと高い買い取り価格が設定され、20年間
を超えた。
が保証された。募集ワクは35万 kW とされ
2000年4月に決めた買い上げ価格、
た。ドイツの平均的家庭の電力料金が1
506
. 2ユーロセントは、2003年までの間、
kWh 当たり194
. ユーロセントであることを
2回にわたり小幅に低下され、50ユーロセ
−16−
ント前後になった。また2002年7月には35
有利」
のルールをより強調する狙いからだ。
万 kW だった募集ワクが100万 kW に拡大
これは、実際に施行されなかったが、
された。
2007年11月7日に出された「再生可能エネ
2004年1月には、
8月実施の改正再生可
ルギー報告書」に書かれた数字の同42.28
能エネルギー法の太陽光に関してだけの先
ユーロセントや、やはり施行されなかった
行適用で、
買い上げ価格の引き上げが実施
2007年12月 5 日 の「政 府 案」の 同42.48
された。
発電能力30kW 未満からは1 kWh
ユーロセントより引き下げ幅は小さくなっ
当たり574
. ユーロセント、
30kW から100kW
ている。
までは同546
. ユーロセント、
100kW 超から
また屋根の上に乗せない地上据え置き型
は同540
. ユーロセントとなった。
2割近い
の太陽光発電設備に関しても、2004年から
引き上げで、
電力料金のほぼ3倍になった。
次第に低下してきた価格では同33.18ユー
このため、200
4年から太陽光発電が急成
ロセントだったのを、同3
1.94ユーロセン
長した。太陽光発電の技術向上と設置費の
トへ引き下げた。
低減も大きい。2
005年にはそれまで設置量
さらにこれまで壁面に太陽光パネルを設
で世界最大を誇っていた日本を抜き、2006
置したケースでは、屋根に乗せた場合より
年末には日本の2倍近い設置量に達してい
も5ユーロセントを上乗せしていたが、こ
る。ドイツの太陽光発電は揺るがぬ世界
の上乗せ分は廃止した。
トップの座に躍り出たのだ。
あと電力会社の系統線に接続せず、自家
消費専用の太陽光発電システムにも発電量
2009年から買い取り価格引き下げ
(=消費量)に応じて同25.01ユーロセント
2004年に「30kW 未満の太陽光発電設備
を支払う制度を新たにスタートさせた。
からは1 kWh 当たり574
. ユーロセント」
ドイツ政府は、この制度改定によっても
だった買い上げ価格は、翌年からは5%ず
太陽光発電の普及ペースは低下しないと見
つ低下する。これは最初は設備費が高いの
ている。
で、なかなか手がけようとしない国民が多
いことが予想されることから、設置費用の
スペイン 太陽光にも拡大策
低下を待つことを防ぐ狙いからだ。こうし
スペインでの太陽光発電からの電力買い
て、2004年に1 kWh 当たり574
. ユーロセ
上げは、固定価格で買い取る「フィード・
ントだった買い上げ価格は2009年には同
イン・タリフ制度」と呼ばれる国王令2818
444
. 1ユーロセントになるはずだった。
/1998で決められている。2003年までは
これをさらに3.15%下げ、
同43.01ユーロ
5 kW 未満の太陽光発電設備で発電した電
セントとする制度変更が2008年6月6日に
力は1 kWh 当たり最大39.6ユーロセント
決定、
2009年年初から実施された。
太陽光発
(約63円)で買い上げられていた。電力料
電は早く手掛ける方が有利だという
「先行
金が同8ユーロセント弱だから、電力料金
−17−
の5倍で購入されていたことになる。5
5.75倍)で25年 間、そ れ 以 降 は 4 倍。
kW 以上の設備からは同216
. ユーロセント
100kW 以上は2
2.98ユーロセント(電力料
金の3倍)で25年間、それ以降は24
. 倍と
(約34円)で購入されていた。
200
4年に制定された勅令第436/200
4に
買い取り条件は良い。100kW 以上につい
よって改定され、100kW 未満からは最初
ても、買い上げ価格はやや落ちるが同様の
の25年間年ごとの電力料金の5.75倍に相当
好条件だ。
する同4
4.04ユーロセント(約70円)とな
この結果、
「2010年までにスペイン全土
り、26年目からは電力料金の46
. 倍に相当
に4
00MW」という政府が目標としていた
する買い上げ価格になる。100kW を超え
数字も2007年8月に早々と達成しただけで
る容量のものからは、電力料金の3倍の価
なく、好条件での買い上げ制度により、
格の同2
2.98ユーロセント
(36.6円)
で買い
2008年末にはスペインに大規模太陽光発電
上げることになった。
所が多数出現している。
この他設備建設に関する助成として、系
デアラルコン太陽光公園(60MW、2008
統連系 PV システム助成・融資制度があり、
年 9 月 完 成)
、ア メ ド 太 陽 光(30MW、
エネルギー多様化・省エネルギー研究所
2008年10月完成)
、ソーラーメリダ公園/
(IDAE)とスペイン金融公庫が1
00kW 以
ドンアルバロ(30MW、2008年9月完成)
、
下の太陽光発電施設の建設費の20%を助成
プランタソーラーフエンテアラモ
している。さらに太陽光発電設備の建設者
(26MW)
、プランタ太陽光発電・デ・ルカ
の70%に対して低利融資を提供している。
イネナ・デラストレス(232
. MW、2008年
IDEA とグリーンピースが共同で州立大
8月完成)
、アベルトゥラ太陽光発電公園
学に各2.5kWの太陽光発電設備を52基設置
(231
. MW)
、ソーラーホヤデロス・ビンセ
する。これらの施設で2010年までにスペイ
ン テ ス 公 園(23MW)
、ウ ェ ル タ ソ ー
ン全土に14万37
00kW の太陽光発電設備を
ラー・アルマラズ(221
. MW、2008年9月
整備する方針だ。
完 成)
、ソ ー ラ ー パ ー ク・カ ル ベ ロ ン
2007年には、
ドイツで2003年から200
4年
(21MW)
、プランタソーラーラ・マガスコ
にかけて見られたような太陽光の急拡大が
ナ(20MW、2008年9月完成)などだ。
スペインで起きている。
9月に上限とされ
世界の20MW 以上の大規模太陽光発電
た40万 kW の85%を超え2008年9月に新し
設備のリストを見ても、1位、2位、5位
い法が決まるまでは、
1 kWh 当たり4
40
.4
∼9位、12位∼20位と18MW 以上の太陽
ユーロセントで上限なしの買い上げ制度が
光発電のほとんどがスペインで、他はドイ
保たれるので、
駆け込み申請が続いていた。
ツ、ポルトガル。韓国があるに過ぎない。
2008年9月までのスペインの買い上げ制
2008年までのスペインの太陽光普及策が奏
度 で は、100kW ま で は 1 kWh 当 た り
功したことが分かる。
44.04ユーロセント(平均的電力料金の
−18−
買い上げ制度を改定
が8%低下したら募集ワクは8%拡大す
2008年9月28日までの制度が終了、その
る)
後適用される太陽光発電からの買い上げ制
このような仕組みで応募が減少しないよ
度によると、屋根の上に設置される20kW
うに工夫が凝らされているのだ。
未満の設備からは1 kWh 当たり34ユーロ
セント、2
0kW 以上からは同32ユーロセン
新たな目標も
トで購入するとされた。また地上据え置き
政府目標を前倒しで達成し、2007年末の
型では同32ユーロセントだ。
累積導入量では欧州ではドイツに次ぐ2位、
それまでの買い上げ価格に比較すると2
世界でも4位の位置にある。2010年には累
割を超える大幅な引き下げだが、これも設
積の太陽光設備量を1200MW にするとい
備価格の低下によるものと国民の加熱気味
う新たな目標も出ている。
の太陽光設置ブームを平静に戻す狙いから
2020年には太陽光発電で全発電量の
だと説明されている。
20%を賄うことも話題に上っている。スペ
しかも個人住宅用の小規模な太陽光より、
インは太陽光発電大国への道を歩み始めて
MW 級の大規模なものに狙いを定めている。
いる。
2009年からの買い上げ制度を定めた「タリ
フ2009」によると、規模が20kW 未満の家
米国 年々拡大
庭用の募集ワクは2009年27MW、2010年
サンフランシスコに本社を置く電力会社
30MW、2011年33MW と少ないが、20kW
のパシフィック・ガス・アンド・エレクト
以上の大規模なものは、2009年240MW、
ロ ニ ッ ク(PG&E)は、2009年 初 頭 に、
2010年26
5MW、2011年292MW と 募 集 ワ
800MW(80万 kW)という世界最大の太
クが大きく設定されている。
陽光発電所をカリフォルニア州内に建設す
そして、年間の四半期ごとの応募状況に
る計画を発表した。2012∼2013年の完成
よって募集ワクを変化させる。四半期の応
を目指す。
募が募集ワクの75%に達したら、買い上げ
一方、スペインのバイオ技術大手のアベ
価格を最大25
. %減らし、募集ワクを同じ
ンコアノエネルギー部門のアベンコア・
率増やす。反対に、応募が募集ワクの50%
ソーラーは、大規模な太陽光発電所を米
に達しなかったら、買い上げ価格は上がり、
国・アリゾナ州に建設すると発表した。
募集ワクは減少する。もし応募が募集ワク
建設予定地はフェニックスから西南に
の50%と75%の間だったら、買い上げ価
112km の地点。2011年までに完成、発電
格と募集ワクはそのままとされる。
と送電を開始する予定で、280MW(28万
年間の買い上げ価格の低下は10%以内に
kW)を発電、7万世帯の電力需要を賄う。
制限する。年間の募集ワクは買い上げ価格
同社はアリゾナ州公益事業局へ30年間電
の低下と反比例する。
(もし買い上げ価格
力を販売。アベンゴア・ソーラーはこれに
−19−
より40億ドル(約4000億円)の収益を見込
の各国が電力料金の数倍の値段で太陽光か
み、アリゾナ州にも10億ドル(約1000億
ら買電しているのを見れば、拡大策の方向
円)の経済効果をもたらすと考えている。
が見える。
連邦政府は2007年に13都市に2008年に
融資制度では限界がある。発電した電力
1
2都市を加えた計25都市を「ソーラー・ア
を高値で買い上げる姿勢が太陽光普及・拡
メリカ・シティ」に指定、2015年までに太
大の効果的な方策だろう。取り組むことで
陽光発電のコストを他の発電源に遜色ない
市民が儲かるシステムが太陽光を普及・拡
レベルまで引き下げる技術・産業育成を担
大するのだ。電力料金と同額でしか買いあ
う努力を義務づけられた。2008年に加わっ
げない日本の政府と電力会社の姿勢にこそ
た都市では、デンバー、ヒューストン、サ
問題がある。負担の増加分は国民全体で公
ンアントニオなどだ。
平に負担しよう。そうしたとしても1家族
米国の太陽光発電は年々拡大、2007年末
ごとの負担額は1カ月で28
. ユーロに過ぎ
には、ドイツ、日本に次ぐ世界第3位にな
ないという試算がドイツでなされている。
り、日本を追い越す勢いだ。これも米国の
日本でも大差ないだろう。
連邦政府と各州の力を合わせた連係プレー
我々日本人が、どういった社会を望むの
の賜物だと言えよう。
か。原発の廃棄物に怯えながら生きるのか。
太陽光や風力など自然にやさしいエネル
日本はどうすべきか
ギーに頼るのか。それは新しい産業を生み、
翻って我が日本だ。1994年から始めた太
雇用も創出するだろう。我々が選択すべき
陽光への融資制度が終了した2005年に、ド
道は明らかだ。あと必要なのはそうした社
イツに抜かれ世界トップに座を滑り降りた
会を選ぶ政治的判断だけだ。
のは象徴的だ。太陽光を伸ばしてきた海外
さあ、今こそ決断しよう!
「地球号の危機」ニュースレター No.3
47
2009年 4月20日発行
発 行 財団法人 大竹財団
新住所 〒1
0
30
-0
2
7 東京都中央区日本橋3−4−1
5 八重洲通ビル2階
TEL 033
- 2723
- 900 FAX 033
- 2781
- 380
メールアドレス [email protected]
ホームページ http://www.ohdake-foundation.org
定 価 1部200円 送料90円
年間購読料2,000円(送料含)
購読申込先 (財)大竹財団
振込銀行 りそな銀行東京中央支店 当座0802682
郵便振替 001903
- 6
- 0834
−20−