『噺の継承、その二』 『ごあいさつ』 桂 歌之助

本日の出演者
『ごあいさつ』
本日は御来場頂き誠に有り難うございます。
夏休み中はテレビ番組でも海外を旅するものが多かった。素晴らしい
街並みや環境で暮らしている人々を見ると、「いいなぁ、行ってみたいな。こ
んな所で暮らしたら素敵だな。」と思います。アメリカの旅行雑誌によると
世界の観光地ランキング二年連続一位だったのが京都なのだそうです。
言わば世界の多くの人が京都を訪れたいと思っているのです。しかし、今
日お越しの皆さんに国内で行きたい所のアンケートをとって京都が一位
になるでしょうか。おそらくならないでしょう。それはきっと近くにあり過ぎるから。
私は仕事柄、関西以外にもあちこちに伺いますが、「お家はどちらで。」
と聞かれて、「宝塚です。」と答えたら大抵、「良い所にお住まいですね。」
と言われます。宝塚歌劇にぞっこんの噺家の後輩なぞは「夢は宝塚に住
むことです。」と力を込めて言うのです。
先日、阪急宝塚駅前に歌劇の像が出来ました。観劇に行く人達がそ
の前で写真を撮り、弾む足取りに笑顔を乗せて花の道へと向かいます。
目の前の仁川駅を含む阪急今津線は映画にもなりました。近くにあり過
ぎると分からない。海外に憧れる前に、まず自分が住む街を見つめようと
思います。皆さん、歌劇以外の宝塚の魅力を是非教えて下さい。もちろ
ん、さらら寄席もその一つですが。
桂 歌之助
『噺の継承、その二』
東京五輪の事が何かと話題です。中でもエンブレムもいわゆる「パク
リ疑惑」が特にインターネット上では随分話題になっています。
前回のこの欄で書いた様に、我々は先輩からネタの稽古をつけて頂き
継承するのですが、その時その先輩のオリジナルのギャグや工夫も同時
に受け継ぎます。人から「あそこのギャグは新鮮で面白いですね。」と言わ
れると、「いや、あれは教えてくれた先輩が考えたものです。」と答えますが、
そこに後ろめたさはありません。また他の噺家の高座に接して面白い工夫
やギャグを聞くとお稽古を抜きで「あのギャグを使わせて頂いて良いです
か?」と許可だけ貰って自分の落語に織り込む事もあります。ここにも後ろ
めたさはありません。
大変自由だと思われるかも知れませんが、稽古も許可も無しに勝手に
自分のネタのような顔をして高座で喋ると我々の世界でも「パクった」と非
難されます。それより何より、やはり自分独自の工夫やギャグを生み出す
のが表現者として最上の事であります。