第 3 章 線形写像 3.1 写像に関する復習 これから、線型空間から線型空間への写像を考える。そ T S のために、まず、写像に関する言葉を確認しておく。ほと んどが1章に書いたことの繰り返しである。S 、T を集合 x としたとき、S の元 x に対し、T の元 F (x) が一意に決ま F (x) F るとする。このとき、F を S から T の写像といい、 F : S → T, F (S):値域 x 7−→ f (x), T のように表わす。S を F の定義域、 S F −1 (U ) F (S) := {F (x) | x ∈ S } U F (x) x を F の像 または 値域という。U ⊂ T に対し、 F F −1 (U ) := {x ∈ S | F (x) ∈ U } 逆像 を F による U の逆像という。値域が数であるような写像 を、特に 関数という。 T S F (S) = T のとき、すなわち、任意の y ∈ T に対し F (x) = y となる x ∈ S が存在するとき、F を全射 とい x う。また、F (x1 )、F (x2 ) が等しいのは、x1 = x2 の場合の F (x) F みであるとき、すなわち x1 , x2 ∈ S, x1 ̸= x2 =⇒ F (x1 ) ̸= F (x2 ) 全射 T S であるとき、F を単射という。F が全射かつ単射のとき、F は全単射 または 一対一であるという。写像 F : S −→ T 、 G : T −→ U としたとき、写像 T ∋ x 7−→ G(F (x)) ∈ U F (x1 ) x1 F x2 を、F と G との合成といい、G ◦ F と書く。また、x ∈ S に F (x2 ) それ自身を対応させる S から S への写像 S ∋ x 7−→ x ∈ S 単射 を 恒等写像といい、1S で表す。集合 S 、T に対して、二 つの写像 F : S −→ T 、G : T −→ S が、 { { G ◦ F = 1S x ∈ S =⇒ G(F (x)) = x すなわち F ◦ G = 1T y ∈ T =⇒ F (G(y)) = y T S を満たすとき、G を F の逆写像といい、F −1 で表わす。こ x F (x) F F −1 のとき、F は全単射である。1対1対応、すなわち逆写像 が定まるときは、像 F −1 (y) は、ただひとつの要素から成 逆写像 り立っていて、それが、逆写像の像になっている。 27 3.2 3.2.1 線型写像とは? 定義 定義 3.1 V 、V ′ を K 上線型空間とする。V から V ′ への写像 F : V −→ V ′ が、任意の x、y ∈ V に対し、 F (x + y) = F (x) + F (y), F (αx) = αF (x) を満たすとき、F を K 上の線型写像という。V からそれ自身への線型写像を線型変換という。 定義より、F : V −→ V ′ が線型写像で、V の零元を o、V ′ の零元を o′ とすると、x ∈ V に対し、 F (o) = F (0x) = 0F (x) = o′ がいえるので、V の零元は V ′ の零元に移る。また、F が線型写像であるとき、 F (α1 x1 + · · · + αn xn ) = α1 F (x1 ) + · · · + αn F (xn ) . であるから、x1 、· · · 、xn の線型結合は、F によって F (x1 )、· · · 、F (xn ) の線型結合へ移る。 例 a11 . . 例: A = . am1 ··· ··· a1n .. n m . ∈ Mat(m, n; K) とするとき、K から K への写像 amn −→ K m : Kn ∈ FA ∈ 3.2.2 7−→ x Ax は線型写像である。実際、x、y ∈ K n に対し、 FA (x + y) = A(x + y) = Ax + Ay = FA (x) + FA (y), F (αx) = A(αx) = αAx = αFA (x) となる。このような線型写像 FA を行列写像という。(例終) 例: C2 からそれ自身への写像 [ −→ C2 ∈ C2 : ∈ F ] [ ] x1 x1 + 1 7−→ x2 x2 [ ] [ ] 1 3 は、線型写像ではない。例えば、x = 、x = ∈ C2 、α ∈ C に対し、 2 4 [ F (x + y) = 5 6 ] [ , F (x) + F (y) = である。(例終) 28 7 6 ] ∴ F (x + y) ̸= F (x) + F (y) 例: (a, b) を実数上の開区間、 C0 (a, b) := {f (x) | f : (a, b) で連続な関数 }, C1 (a, b) := {f (x) | f : (a, b) で微分可能で導関数が連続な関数 } とするとき、f 、g ∈ C0 (a, b)、または、f 、g ∈ C1 (a, b)、α ∈ R に対し、 (f + g)(x) := f (x) + g(x), (αf )(x) := αf (x) とすると、C0 (a, b)、C1 (a, b) は線型空間になる。このとき、C1 (a, b) から C0 (a, b) への写像 D を −→ C 0 (a, b) ( ) df f′ = dx ∈ C1 (a, b) : ∈ D f′ 7−→ f で定義すると、D は線型写像である。実際 f 、g ∈ C0 (a, b) に対し、 (D(f + g))(x) = (f + g)′ (x) = f ′ (x) + g ′ (x) = (D(f ) + D(g))(x), (D(αf ))(x) = (αf )′ (x) = αf ′ (x) = αD(f )(x) より、D(f + g) = D(f ) + D(g)、D(αf ) = αD(f ) が成り立つ。(例終) 例: 上の例の C0 (a, b) から R への写像 I を −→ f R ∫ 7−→ ∈ : C0 (a, b) ∈ I b f (x) dx a とすると、I は線型写像である。(例終) 問題: 上の I が R 上線型写像であることを示せ。 問題: F : V −→ V ′ 、G : V ′ −→ V ′′ がともに K 上の線型写像であるとき、F と G の合成 G ◦ F : V ∋ x 7−→ G(F (x)) ∈ V ′′ も線型写像になることを示せ。 線型写像全体のなす集合について考えよう。 命題 3.2 V 、V ′ を K 上の線型空間、V から V ′ への K 上の線型写像全体の集合を def L(V, V ′ ) := { F : V −→ V ′ : 線型写像 } とすると、F 、G ∈ L(V, V ′ )、α ∈ K に対し、和 F + G とスカラー倍 αF を def. def. (F + G)(x) := F (x) + G(x), (αF )(x) := αF (x) (x ∈ V ) で定めると、集合 L(V, V ′ ) は線型空間になる。このときの零元は V の全ての元に対し、V ′ の零元 o′ を対応させる零 写像である。 問題: L(V, V ′ ) が上の演算に対し線型空間になることを示せ。 29 3.3 3.3.1 像と核 定義 線型写像から定義される重要な部分空間として、次を定義する。 定義 3.3 V 、V ′ を K 上線型空間、F : V −→ V ′ を K 上の線型写像、o′ を V ′ の零元とするとき、F の 像 Im F と、核 Ker F を、 Ker F = F −1 ({o′ }) = { x ∈ V |F (x) = o′ } Im F = F (V ) := { F (x) | x ∈ V } , で定義する。 V′ V V′ V Ker F = F −1 ({o′ }) F F o′ Im F := F (V ) 命題 3.4 V 、V ′ を K 上線型空間、F : V −→ V ′ を K 上の線型写像とするとき、 (i) Im F は V ′ の部分空間。 (ii) Ker F は V の部分空間。 (証明) (i) x′ 、y′ ∈ Im F とすると、x′ = F (x)、y′ = F (y) であるような x、y ∈ V が存在する。F は線型写像だか ら、x′ + y′ = F (x) + F (y) = F (x + y) となる。ここで、x + y ∈ V より、F (x + y) ∈ F (V ) = Im F 。また、α ∈ K に対し、αx′ = αF (x) = F (αx) ∈ F (V ) = Im F だから、x′ + y ∈ V ′ 、αx′ ∈ V ′ がいえたことになり、Im F は部分空 間である。 (ii) (i) と同様に示せる。練習問題とする。(証明終) 問題 : 上の命題の (ii) を証明せよ。 線形写像の核、像を具体的に求めるには、後に出てくる次元定理(定理 3.6)を用いると簡単になるところがあるので、そちら を示してからまとめて例をあげることにする。その前に、Im F や Ker F から、F の性質がわかることに注意をしておこう。 命題 3.5 F : V −→ V ′ が線型写像で、o を零元とするとき、F が単射 ⇐⇒ Ker F = {o}。 (⇒) は明らか。 (⇐)を証明する。Ker F = {o} から、F (x) = F (y) ⇒ x = y をいえばよい。 F が線型写像だから、 F (x) = F (y) =⇒ F (x) − F (y) = o′ =⇒ F (x − y) = o′ =⇒ x − y ∈ Ker F = {o} がいえる。(証明終) 30 ∴ x=y 3.3.2 次元定理 定理 3.6 V 、V ′ を K 上有限次元線型空間、F : V −→ V ′ を線型写像とするとき、 dimK V = dimK KerF + dimK Im F がなりたつ、より具体的には、V の基底 ⟨b1 , · · · , bn ⟩ で、⟨b1 , · · · , bk ⟩ が Ker F の基底、⟨F (bk+1 ), · · · , F (bn )⟩ が Im F の基底になるようなものがとれる。 次元定理を感覚的に表すものとして、次のような図がよく使われる。 F V′ V n − k = rank F n−k Im F Ker F (証明の概略) k = dimK Ker F 、n := dimK V とし、V ′ の零元を o′ とする。Ker F の基底を ⟨b1 , · · · , bk ⟩ とすると、基底 の延長を用いて、V の基底として、⟨b1 , · · · , bk , bk+1 , · · · , bn ⟩ がとれる。このとき、Im F の基底が ⟨F (bk+1 ), · · · , F (bn )⟩ | {z } Ker F の基底 であることをいえばよい。詳しくは練習問題(証明終) 問題 : ⟨F (bk+1 ), · · · , F (bn )⟩ が V ′ の部分空間 Im F の基底になることを示せ。 定義 3.7 線型写像 F に対し、dimK Im F を F のランクといい、rank F で表す。また、dimK Ker F を F の退化次 数といい、ddim F で表す。 これらを用いると、次元定理の式は dimK V = rank F + ddim F と書ける。「ランク」という行列でも出てきた言葉を 使っているのは、行列写像のランクがそのまま、前期に求めた行列のランクになっているからである。 3.3.3 核、像を具体的に求める 例: C3 から C3 への C 上線型写像 F を −→ C3 ∈ C3 : ∈ F x1 3x1 + x2 7 → x2 + 12x3 x2 − x3 x1 − 4x3 31 とする。このとき、 x1 x = x2 ∈ Ker F 3x1 + x2 = 0 x2 + 12x3 = 0 x1 − 4x3 = 0 ⇐⇒ x3 4 ⇐⇒ (t : 任意定数) x = t −12 1 ⇐⇒ x1 = 4t x2 = −12t x3 = t (t : 任意定数) 4 となるので、Ker F = t −12 t ∈ C である。ddim F = dimC Ker F = 1 と次元定理より、dimC Im F = 2 1 ⟨ ⟩ 4 を延長した C3 の基底のうち、Ker F の基底でない2つのベクトルを F で だから、Ker F の基底 −12 1 ⟨ 4 1 0 ⟩ 1 3 3 移せば Im F の基底が得られる。例えば、 −12 , 0 , 1 は C の基底で、F 0 = 0 、 1 0 0 0 1 0 1 3 1 F 1 = 1 は Im F の基底になる。よって、Im F = s 0 + t 1 s, t ∈ C となる。(例終) 0 0 1 0 例: C4 から C4 への C 上線型写像 F を −→ x1 x2 x 7−→ 3 x4 とする。このとき、 x1 x2 x ∈ Ker F 3 x4 ⇐⇒ x1 + x3 − 2x4 x2 − x3 + 5x4 2x + x + 5x + x 1 2 3 4 x1 + 3x2 + 13x4 x1 + x3 − 2x4 = 0 x − x + 5x = 0 2 3 4 2x1 + x2 + 5x3 + x4 = 0 x + 3x + 13x = 0 1 2 4 ⇐⇒ C4 ∈ C4 : ∈ F x1 x2 x3 x4 = −3s + 2t s − 5t s t =s −3 1 1 0 32 + t 2 −5 0 1 (s, t : 任意定数) + t s, t ∈ C となる。よって、 ddim F = dimC Ker F = 2。これと次 がいえ、Ker F = s 0 1 −3 2 1 0 ⟨ ⟩ 1 −5 0 1 元定理より、rank F = dimC Im F = 2 となる。 は C4 の基底であるから、 1 , 0 , 0 , 0 0 1 0 0 0 1 0 0 1 1 1 0 1 1 0 0 s, t ∈ C は、Im F の基底になる。よって、Im F = s + t = F = 、F 1 2 0 1 0 2 3 1 3 0 1 0 −3 1 1 2 −5 0 となる。(例終) 問題: 次の C 上線型写像 F の核、退化次数、像、ランクを求めよ。 C2 x1 x2 x3 (2) F [ 7−→ x1 + 3x3 C3 : x1 x2 x3 ] −5x2 + x3 −→ C3 ∈ −→ ∈ C3 : ∈ F ∈ (1) x1 + 2x2 7−→ x2 + 2x3 x1 − 4x4 例: P4 = {p(x) | p(x) : x の 4 次以下の複素係数多項式 } とすると、P4 は、通常の和とスカラー倍によって C 上線型 空間になる。このとき、P4 から P4 への線型写像 D2 を、 −→ P4 p ∈ : P4 ∈ D2 7−→ p′′ ( ) d2 p ′′ p := 2 dx とする。このとき、 Ker D2 = { a1 x + a0 | a1 , a0 ∈ C} = P1 , Im D2 = { } b2 x2 + b1 x + b0 | b2 , b1 , b0 ∈ C = P2 である。よって、ddim D2 = 2、rank D2 = 3。(例終) 3.4 線型同型 定義 3.8 V から V ′ への 全単射な K 上線形写像 F が存在するとき、F を線型同型写像 という。V と V ′ は 線型同 型であるといい、V ≃K V ′ と書く。 V と V ′ の間に同型写像があるということは、二つの線型空間としての構造が等しいということである。 定理 3.9 V 、V ′ を K 上有限次元線型空間とするとき、V ≃ V ′ ⇐⇒ dimK V = dimK V ′ 33 (証明) (⇒) dimK V = n とし、V の基底を ⟨b1 , · · · , bn ⟩ とする。このとき、⟨F (b1 ), · · · , F (bn )⟩ が V ′ の基底で あることが F が同型写像であることよりいえる。詳しくは練習問題。 (⇐) を示す。V 、V ′ の基底を それぞれ ⟨b1 , · · · , bn ⟩、⟨b′1 , · · · , b′n ⟩ とする。V から V ′ への写像 F を : V′ −→ V ∈ ∈ F α1 b1 + · · · + αn bn 7−→ α1 b′1 + · · · + αn b′n で定義すると、F は全射な線形写像で、Ker F = {o′ } (o′ : V ′ の零元)より単射だから、F は全単射。(証明終) 問題 : V 、V ′ を有限次元線形空間 F : V −→ V ′ を同型写像、dimK V = n 、V の基底を ⟨b1 , · · · , bn ⟩ とする。こ のとき、⟨F (b1 ), · · · , F (bn )⟩ が V ′ の基底であることを示せ。 上の定理で、V ′ = K n 、 K n の基底を自然基底 ⟨e1 , · · · , en ⟩ とすると、次が成立する。 系 3.10 V を K 上有限次元線型空間、dimK V = n < ∞ とし、⟨b1 , · · · , bn ⟩ を V の基底のひとつとする。このとき、 v ∈ V に対し、基底 ⟨b1 , · · · , bn ⟩ に関する座標ベクトルを対応させる下の写像は線型同型。 −→ V Kn ∈ : ∈ F v = α1 b1 + · · · + αn bn α1 . . 7−→ . = α1 e1 + · · · + αn en αn つまり、「線型性」という構造だけに着目するならば、全ての有限次元線型空間の構造は次元だけで決まり、基底が与え られると数ベクトルのなす空間と「同じ」と考えてよいことがいえる。 3.5 3.5.1 線型写像の行列表現 行列表現 V 、V ′ を K 上有限次元線型空間、dimK V = n < ∞、dimK V ′ = m < ∞、B := ⟨b1 , · · · , bn ⟩ を V の基底、 B′ := ⟨b′1 , · · · , b′m ⟩ を V ′ の基底、F : V −→ V ′ を線型写像とする。このとき、F (b1 )、· · · 、F (bn ) は V ′ の元だか ら、b′1 、· · · 、b′m の線型結合で、 F (b1 ) = c11 b′1 + c21 b′2 + · · · + cm1 b′m .. (cij ∈ K , i = 1, · · · , m, j = 1, · · · , n) . ′ ′ ′ F (bn ) = c1n b1 + c2n b2 + · · · + cmn bm と書ける。これを、行列の積の演算法を用いて、形式的に c11 . ′ ′ [F (b1 ), · · · , F (bn )] = [b1 , · · · bm ] .. cm1 34 ··· ··· c1n .. . cmn と書くことにする。こうして、V 、V ′ の基底を一組ずつ選ぶと、線型写像 F : V −→ V ′ から、Mat(m, n; K) の元が c11 · · · c1n . .. . 定まる。このようにして、線型写像 F を行列で表すことを 行列表現といい、定まる行列 . を、基 . cm1 · · · cmn ′ 底 B := ⟨b1 , · · · , bn ⟩、B′ := ⟨b′1 , · · · , b′n ⟩ に関する表現行列といい、MB B (F ) または M(F ) と書くことにする。 定理 3.11 V 、V ′ を K 上有限次元線型空間、dimK V = n < ∞、dimK V ′ = m < ∞、F : V −→ V ′ を線型写像と する。このとき、V の基底 B := ⟨b1 , · · · , bn ⟩、V ′ の基底 B′ := ⟨b′1 , · · · , b′m ⟩ を選ぶと c11 . ′ ′ [F (b1 ), · · · , F (bn )] = [b1 , · · · bm ] .. cm1 ··· ··· c1n .. . cmn ′ により、F の表現行列 MB B (F ) ∈ Mat(m, n; K) が得られる。 例 A := [aij ] = [a1 , · · · , an ] ∈ Mat (m, n; C) とし、FA を行列写像 : Cn −→ Cm ∈ ∈ FA 7−→ x Ax とする。このとき、B := ⟨e1 , · · · , en ⟩ を Cn の、B′ := ⟨e′1 , · · · , e′m ⟩ を Cm の自然基底とする。FA (ej ) = aj (j = 1, · · · , n)に注意すると、 [FA (e1 ), · · · , FA (e)] = A = [e′1 , · · · , e′m ]A ′ となるので、MB B (FA ) = A となる。 例: C 上線型空間 P2 := { p | p : 2 次以下の x の複素係数多項式 } の元 qj を qj (x) = xj (j = 0, 1, 2)で定義すると、 B := ⟨q0 , q1 , q2 ⟩ は P2 の基底である。a ∈ C を固定したとき、C 上線型写像 P2 −→ P2 ∈ : ∈ F p(x) 7−→ p(x + a) の表現行列を求めよう。各基底の対応は、 F (q0 )(x) = 1 = q0 (x), F (q1 )(x) = q1 (x + a) = x + a = (aq0 + q1 )(x), F (q2 )(x) = q2 (x + a) = (x + a)2 = a2 + ax + x2 = (a2 q0 + 2aq1 + q2 )(x) となるから、F により、q0 、q1 、q2 は、 F (q0 ) = q0 F (q1 ) = aq0 + q1 F (q2 ) = a2 q0 + 2aq1 + q2 a 0 1 0 と変換されている。よって、MB B (F ) = 0 [F (q0 ), F (q1 ), F (q2 )] = [q0 , q1 , q2 ] 0 0 ⇐⇒ 1 a2 1 2a となる。(例終) 1 35 a 1 0 a2 2a 1 例: (−∞, ∞) 上連続な関数 f1 (x) := ex 、f2 (x) := e2x は R 上線型独立である。B := ⟨f1 , f2 ⟩ を基底に持つ実数値関数 の集合 V := {f = αf1 + βf2 | α, β ∈ R} は、R 上2次元線型空間。R 上線型写像 V −→ V ∈ : ∈ F f (x) 7−→ f (x + a) の 基底 B、B に関する表現行列 MB B (F ) を求めてみよう。各基底の対応は、 (F (f1 ))(x) = f1 (x + a) = ex+a = ea ex = (ea f1 )(x), となるから、 { F (f1 ) = ea f1 , (F (f2 )(x)) = f2 (x + a) = e2(x+a) = e2a e2x = (e2a f2 )(x) [ ⇐⇒ F (f2 ) = e2a f2 , [F (f1 ), F (f2 )] = [f1 , f2 ] ea 0 0 e2a ] [ ∴ MB B (F ) = ea 0 0 e2a ] となる。(例終) 例: (−∞, ∞) 上連続な関数 f1 (x) := cos x、f2 (x) := sin x は R 上線型独立である。B := ⟨f1 , f2 ⟩ を基底に持つ実数値 関数の空間 V = {f = αf1 + βf2 | α, β ∈ R} は R 上2次元線型空間である。R 上線型写像 −→ f ( ) df ′ f = dx V ∈ : V ∈ D 7−→ f ′ により、B の要素は (D(f1 ))(x) = − sin x = −f2 (x)、(D(f2 ))(x) = cos x = f1 (x) のように変換されるから、 { [ ] [ ] D(f1 ) = −f2 , 0 −1 0 −1 B ⇐⇒ [D(f1 ), D(f2 )] = [f1 , f2 ] ∴ MB (D) = D(f2 ) = f2 1 0 1 0 となる。(例終) 問題: 上の例と同じく、f1 (x) = cos x、f2 (x) = sin x とし、B := ⟨f1 , f2 ⟩ を基底にもつ空間を V = {f = αf1 +βf2 | α, β ∈ R} とする。このとき、a ∈ R に対し、V から V 自身への線型写像 F を F : V ∋ f (x) 7−→ f (x + a) ∈ V で定義す る。B、B に関する F の表現行列 MB B (F ) を求めよ。 命題 3.12 V 、V ′ 、V ′′ を K 上有限次元線型空間、V の基底を B := ⟨b1 , · · · , bn ⟩、V ′ の基底を B′ := ⟨b′1 , · · · , b′m ⟩、 V ′′ の基底を B′′ := ⟨b′′1 , · · · , b′′l ⟩ とする。F : V −→ V ′ 、G : V ′ −→ V ′′ としたとき、F と G の合成 G ◦ F : ′′ V ∋ v 7−→ G(F (v)) ∈ V ′′ は線型変換で、G ◦ F の B、B′′ に関する表現行列 MB B (G ◦ F ) ∈ Mat(l, n; K) は、 ′′ B′ B′′ B′ MB (G) ∈ Mat(l, m; K) と M (F ) ∈ Mat(m, n; K) の積 M (G) M (F ) に等しい。 B′ B B′ B ′′ ′ B (証明) G ◦ F が線型写像になることは、6.2.2 節の練習問題で示したので、G ◦ F の表現行列が MB B′ (G)MB (F ) とな ′ ることをいえばよい。[F (b1 ), · · · , F (bn ))] = [b′1 , · · · , b′m ]MB B (F ) の両辺に G を作用させると、 ′′ ′ ′′ ′′ B B [(G◦F )(b1 ), · · · , (G◦F )(bn )] = [G(F (b1 )), · · · , G(F (vn ))] = [G(b′1 ), · · · , G(bm )]MB B (F ) = [b1 , · · · , bl ]MB′ (G)MB (F ) となる。よって、 ′′ ′′ ′ ′′ ′′ B B [b′′1 , · · · b′′l ]MB B (G ◦ F ) = [(G ◦ F )(b1 ), · · · , (G ◦ F )(bn )] = [b1 , · · · , bl ]MB′ (G)MB (F ) 36 ′′ ′′ ′ B B より、MB (証明終) B (G ◦ F ) = MB′ (G)MB (F )。 例 : C 上線形写像 F : P3 −→ P3 、D : P3 −→ P2 を D : P3 , −→ P2 p(x) 7−→ p(x + a) ( ) dp ′ p = dx ∈ P3 ∈ −→ ∈ P3 : ∈ F p′ 7−→ p で定義する。このとき、合成写像 D ◦ F : P3 −→ P2 は ((D ◦ F )(p))(x) = p′ (x + a) である。qj (x) = xj (j = 0, 1, 2, 3) とし、P3 の基底 B を B = ⟨q0 , q1 , q2 , q3 ⟩、P2 の基底 B′ を B′ = ⟨q0 , q1 , q2 ⟩ とすすると、 (F (q0 ))(x) = 1 = q0 (x + a) = q0 (x), (F (q1 ))(x) = a + x = (aq0 + q1 )(x), (F (q2 ))(x) = a2 + 2ax + x2 = (a2 q0 + 2aq1 + q2 )(x), (F (q3 ))(x) = a3 + 3a2 x + 3ax2 + x3 = (a3 q0 + 3a2 q1 + 3aq2 + q3 )(x) より、 a2 a3 1 0 0 2a 1 0 3a2 3a 1 0 [F (q0 ), F (q1 ), F (q2 ), F (q3 )] = [q0 , q1 , q2 , q3 ] 0 0 1 a 1 a a2 a3 1 0 0 2a 1 0 3a2 3a 1 0 ′ MB (F ) = ′ B 0 0 =⇒ また、 (D(q0 ))(x) = 0, (D(q1 ))(x) = 1 = q0 (x), (D(q3 ))(x) = 3x2 = (3q2 )(x) (D(q2 ))(x) = 2x = (2q1 )(x), より、 0 1 0 [D(q0 ), D(q1 ), D(q2 ), D(q3 )] = [q1 , q2 , q3 ] 0 0 0 2 0 0 0 0 3 0 MB B (D) = 0 0 ′ =⇒ 1 0 0 0 2 0 0 0 3 である。さらに、 ((D ◦ F )(q0 ))(x) = 0 ((D ◦ F )(q1 ))(x) = 1 = q0 (x), ((D ◦ F )(q2 ))(x) = 2a + 2x = (2aq0 + 2q1 )(x), ((D ◦ F )(q3 ))(x) = 3a + 6ax + 3x = (3a q0 + 6aq1 + 3q2 )(x) 2 2 2 より、 0 [(D ◦ F )(q0 ), (D ◦ F )(q1 ), (D ◦ F )(q2 ), (D ◦ F )(q3 )] = [q0 , q1 , q2 ] 0 0 0 ′ MB B ((D ◦ F )) = 0 0 =⇒ 1 2a 0 0 2 0 3a2 1 2a 0 0 2 0 3a2 6a 3 6a 3 となるが、確かに、 ′ MB B ((D 0 ◦ F )) = 0 0 1 0 0 2a 2 0 0 1 3a2 6a = 0 0 3 0 0 37 0 2 0 1 a a2 a3 1 0 2a 1 3a2 3a 0 0 1 0 0 0 0 3 0 ′ B′ = MB B (D)MB′ (F ) となっている。(例終) V 、 V ′ を K 上有限次元線型空間とし、V から V ′ への K 上線型写像のなす集合を L (V, V ′ ) とする。このとき、F 、 G ∈ L (V, V ′ )、α ∈ K 、v ∈ V に対し、(F + G)(v) = F (v) + G(v)、(αF )(v) = αF (v) とすると、L (V, V ′ ) は K 上 線型空間だった。この線型空間と行列全体のなす空間の関係を行列表現を用いて調べてみよう。 命題 3.13 V 、V ′ を K 上有限次元線型空間、dimK V = n < ∞、dimK V ′ = m < ∞、F ∈ L(V, V ′ ) とする。 V の基底を B := ⟨b1 , · · · , bn ⟩、V ′ の基底を B′ := ⟨b1 , · · · , b′n ⟩ とすると、F ∈ L(V, V ′ ) に対し、その表現行列 ′ ′ B MB B (F ) ∈ Mat(m, n; K) を対応させる下の写像 MB は線型同型になる。 : L(V, V ′ ) −→ Mat(m, n; K) ∈ ∈ ′ MB B ′ 7−→ F MB B (F ) (証明) 練習問題。(証明終) 前節で、「基底が決まれば線型空間は数ベクトル空間と同じ」と書いたが、そういう言い方をすると、この定理は、「基 底を決めれば線型写像は行列と同じ」ということを言っている。 3.5.2 行基本変形 前節の例のように、A := [aij ] = [a1 , · · · , an ] ∈ Mat (m, n; C) とし、FA を行列写像 : Cn −→ Cm x ∈ ∈ FA 7−→ Ax とする。このとき、B := ⟨e1 , · · · , en ⟩ を Cn の、B′ := ⟨e′1 , · · · , e′m ⟩ を Cm の自然基底とすると、 [FA (e1 ), · · · , FA (e)] = A = [e′1 , · · · , e′m ]A ′ B となるので、MB (FA ) = A だったが、このとき、基底の変換行列を T −1 として、B′′ を基底変換した Cm の基底を B′′ := [b1 , · · · , bm ] = [e′1 , · · · , e′m ]T −1 とすると、 [FA (e1 ), · · · , FA (e)] = [e′1 , · · · , e′m ]T −1 (T A) ′′ となるので、MB B (FA ) = T A となる。T を前期の基本行列 Pm (i; α)、Qm (i, j)、Rm (i, j; α) の適当な合成とすると、 0 ··· 0 1 ∗ ∗ ··· ∗ .. .. 0 ··· . 0 1 . . .. . . ∗ ··· 0 . TA = 0 ··· · · · 0 1 0 0 ··· . .. . . . 0 ··· ··· 0 ととれる。このとき、行が零ベクトルにならない一番下を k 列目とすると、FA (bk+1 ) = · · · = FA (bm ) = o なので、 ⟨bk+1 , · · · bm ⟩ は Ker FA の基底である。⟨b1 , · · · , bk ⟩ は、Im FA の基底になるので、rank FA = k となり、前期に定 義した行列 A のランク rank A と等しい。(例終) 38 3.5.3 固有ベクトルと行列の対角化 前期に考えた行列の対角化も、線形写像の行列表現で説明することができる。この節では、正方行列 A = [aij ] ∈ Mat(n, n; C) が相異なる n 個の固有値 λ1 、· · · 、λn をもち、それぞれの固有ベクトルを p1 、· · · 、pn とする。準備 として、次の補題を証明しておく。 補題 3.14 p1 、· · · 、pn は線型独立で、⟨p1 , · · · , pn ⟩ は Cn の基底をなす。 (証明) p1 、· · · 、pr (r = 2, · · · , n)が線型独立であることを示せばよい。r に関する数学的帰納法で示す。 r = 2 のとき : α1 p1 + α2 p2 = o · · · (∗) (α1 、α2 ∈ C)とする。両辺に A を作用させると o = A(α1 p1 + α2 p2 ) = α1 Ap1 + α2 Ap2 = α1 λ1 p1 + α2 λ2 p2 これと、(*) の λ2 倍を辺々引くと、α1 (λ1 − λ2 )p1 = o となるが、p1 ̸= o、λ1 ̸= λ2 より、α1 = 0。これより、α2 = 0 もいえるから、主張は成立。 r = k で成立 ⇒ r = k + 1 で成立 : α1 p1 +· · ·+αk+1 pk+1 = o · · · (∗∗)(α1 、· · · 、αk+1 ∈ C)とする。これに A を施して 得られる α1 λ1 p1 +· · ·+αk+1 λk+1 pk+1 = o から、(**) の λk+1 倍を引くと、α1 (λ1 −λk+1 )p1 +· · ·+αk (λk −λk+1 )pk = o 帰納法の仮定を用いると、 α1 (λ1 − λk+1 ) = · · · = αk (λk − λk+1 ) = 0 がいえるが、λj (j = 1, · · · , k + 1)は互いに相異なるので、α1 = · · · = αk = 0 。これより、αk+1 = 0 もいえる。 (証明 終) これより、行列写像の定義域、値域の Cn の基底を、固有ベクトルからなる基底 ⟨p1 , · · · , pn ⟩ に変換することを考えて みる。行列写像 −→ Cn ∈ : Cn ∈ FA x 7−→ Ax の、Cn の自然基底 B := ⟨e1 , · · · , en ⟩ に関する行列写像の表示は [FA (e1 ), · · · , FA (en )] = [e1 , · · · , en ]A · · · (∗) だった。このとき (∗) の両辺に、行列 P = [p1 , · · · , pn ] をかける。 [FA (e1 ), · · · , FA (en )]P = [e1 , · · · , en ]AP このとき、左辺は [FA (e1 ), · · · , FA (en )]P = [ n ∑ pi1 FA (ei ), · · · , i=1 n ∑ ] [ pin FA (ei ) = FA i=1 ( n ∑ ) pi1 ei ( , · · · , FA i=1 = [FA (p1 ), · · · , FA (pn )] となり、右辺は [e1 , · · · , en ]AP = [e1 , · · · , en ]P (P −1 AP ) = [p1 , · · · , pn ](P −1 AP ) となるので、 [FA (p1 ), · · · , FA (pn )] = [p1 , · · · , pn ](P −1 AP ) 39 n ∑ i=1 )] pin ei ′ −1 がいえる。つまり、Cn の基底 B′ := ⟨p1 , · · · , pn ⟩ に対し、MB AP となる。一方、pj は固有ベクトルだ B′ (FA ) = P から、 [FA (p1 ), · · · , FA (pn )] = [λ1 p1 , · · · λn pn ] = [p1 , · · · pn ] λ1 O .. O . λn が成り立ち、 [p1 , · · · pn ] λ1 O .. O . = [p1 , · · · , pn ](P −1 AP ) λn =⇒ λ1 O .. O . = P −1 AP λn となる。つまり、行列の対角化は、Cn の自然基底を A の固有ベクトルからなる基底に変換することで得られる。 40
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