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The Veils

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The Veils
Sun Gangs
まったく、フィン・アンドリュースという
男の才能は計り知れない。このザ・ヴェ
イルズ3枚目のアルバム『Sun Gangs』を
聴いて、改めて感嘆した。曲を書き、歌
詞を生み出す才能、そして歌を歌う才能。
父親がバリー・アンドリュース(XTCの元
メンバー)であるという血筋だけでは到
底説明のつかない、まさに天賦としかい
いようのないものを、フィンというアー
ティストは持っている。それは、ここまで
ザ・ヴェイルズを追いかけてきたファン
であれば誰もが認めるところだろう。何
しろ、ザ・ヴェイルズのファースト・アル
バムがリリースされたとき、彼はまだ19
歳で、そこに収められた楽曲の大部分
は彼が14、15歳のころに書かれたもの
だったのだ。
2006年9月(日本盤は12月)にリリース
された彼らのセカンド・アルバム『ナック
ス・ヴォミカ』は、フィンにとっては起死回
生の1枚だった。絶賛とともに迎えられ
たデビュー作『ラナウェイ・ファウンド』の
リリース直後に、バンドをいったん解散
したフィンは、文字通りたったひとりでツ
アーを回る。2007年のサマーソニックで
来日を果たした「ザ・ヴェイルズ」も、実
質的にはフィンのソロ・ユニットだった。
なぜ彼はバンドを解体したのか。『ナック
ス・ヴォミカ』リリース時の筆者との
インタヴュー(『rockin on』2007年1月号
掲載)で、フィンはこう語っている。「『ザ・
ラナウェイ・ファウンド』のときは何もかも
が初めてで、僕も幼かった。いきなり音
楽業界に放り込まれた、ただの子供
だったんだよね」「アルバムを完成させ
てツアーに出て、6か月くらい周ったとき
かな…… このラインナップじゃ次作は
無理だ と思ったんだ」。要するに、最初
のヴェイルズはある意味で「与えられ
た」バンドであり、フィンが心から望んだ
形ではなかった、ということだ。個々のメ
ンバーは確かなスキルを持っていて、ア
イディアも豊富ではあったし、フィンの
持ってくる楽曲を的確に形にすることが
できる面々だった。しかしそれは、彼が
求めるバンド像とはかけ離れていたの
である。
とはいえ、ひとりで音楽をやり続けると
いうことも、彼の望むところではなかった。
ツアーを終えたころ、心身ともに疲れ果
てていた彼は、「これ以上曲が書けるの
か」と悩むほどにまで追い込まれていた
という。自身も「すべてを失った」と述懐
するとおり、バンドとしてはおろか、
ミュージシャンとしての未来すら消えか
かっていたのである。彼は傷を癒すため
に、故郷であるニュージーランドへ帰る。
そこで再会したのが、ハイスクールの
The Veils
Sun Gangs
の手ごたえを感じたことは間違いなく、
今回のアルバムも基本的にはその延長
線上に位置する作品だと考えていい。
ただし、前記のようないきさつがあった
ことも影響してか、アルバム全体をヒリ
ヒリした緊張感と切実さが覆っていた
『ナックス・ヴォミカ』に較べると、『Sun
Gangs』の世界観はすいぶんと穏やかだ。
もちろん、激しいエモーションがほとばし
る The Letter のような楽曲もあるもの
の、全体としては、ようやく安住の地を
見つけたような落ち着きと優しさが、こ
同級生、ソフィア・バーン(B)とリアム・
のアルバムのカラーを決定づけている。
ジェラードだった。気の置けない友人と
そう、まるで嵐が過ぎ去ったあとに晴れ
のセッションを通して、フィンはおそらく
渡った空のように。激動の季節を乗り越
初めて、バンドで音楽を作る歓びを覚え
えたフィン・アンドリュースは、いま、よう
ていったのだろう。やがてその3ピース
やく、全力で前へと歩きはじめたといえ
は「ザ・ヴェイルズ」として、新たな一歩
るのかもしれない。
を踏み出した。ヴェイルズの「真のデ
フィンは本作について「祈りとラヴレ
ビュー・アルバム」といってもいい『ナック
ターと個人的に持っているレコードのと
ス・ヴォミカ』は、そんなドラマティックな
てもモダンなミクスチャー」と説明してい
展開のなかで生まれたのだ。
るが、そのとおり、このアルバムはおそ
らくザ・ヴェイルズの3枚のアルバムの
そして本作『Sun Gangs』。前作から2年
なかでももっともフィンのパーソナルな
半を経て届いた3作目で、ラインナップ
部分が透けて見える作品である。彼自
は再び変化している。具体的にはドラ
マーのヘニングとギターのダンが加入し、 身の音楽的ルーツ(ボブ・ディランやジェ
キーボードを担当していたリアムが脱退。 フ・バックリィなど、魅力的な歌い手た
ち)からの影響を惜しげもなく開陳し、シ
ソフィアとフィンを加えた4人が、現在の
ンプルでありながら味わい深い作品に
メンバーである。前作でフィンがかなり
仕立て上げている。力強いドラムとコー
ラスが印象的な“Sit Down By The
Fire”(この曲のみ、バーナード・バトラー
がプロデュースを担当している)。静謐
なピアノとともにしっとりと歌い上げるレ
ナード・コーエン風バラード Sun Gangs 。
ビートルズ Tomorrow Never Knows と
セックス・ピストルズ Anarchy In The
U.K. が正面衝突したようなサイケデリッ
ク・ロックンロール Killed By The
Boom ……前作以上に触れ幅の大きい
楽曲のなかで、際立つのはやはりフィン
の類まれな「声」だろう。ソフィアとリアム
という気の置けないバンドメイトとともに
作り上げていった『ナックス・ヴォミカ』を
経て、4ピースのバンドに発展した今作
での彼の表現は、むしろ自分自身のも
のへと変化しているように感じる。8分以
上に及んで即興的なセッションが続く
“Larkspur”ですらその声が聞こえてきた
瞬間に「フィン・アンドリュースの曲」に
なっているのだから、その存在感と迫力
には驚くほかない。このあたりも、おそら
くはバンドとしてのザ・ヴェイルズが安定
期に入ったことで、個性をよりストレート
に打ち出せるようになってきたことの表
れだろう。
確かに、これまでのフィン・アンド
リュースの遍歴は、万事順調とはいい
がたいものだった。ラフ・トレードからの
鳴り物入りのデビュー以降、批評的な成
功こそ手に入れたものの、彼はつねに
葛藤し、よりよい表現のフィールドを追
い求めてきた。それはそのままアーティ
ストとしての成長の過程であり、その痕
跡はこれまでの作品にすべて刻み付け
られている。
そして、そんな遍歴の果てに手にした成
熟が、この『Sun Gangs』では鳴ってい
る。天才フィン・アンドリュースの今後に
さらなる期待を抱かせる、充実のサー
ド・アルバムである。
2009年4月
小川智宏(rockin’on)
収録曲:
1. Sit Down By The Fire*
2. Sun Gangs
3. The Letter
4. Killed By The Boom
5. It Hits Deep
6. Three Sisters
7. The House She Lived In
8. Scarecrow
9. Larkspur
10. Begin Again
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www.theveils.com
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