米国のクリーンパワープランとEIAによる予測

平成 27年 9月 10日
カレント・トピックス
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
～米国のクリーンパワープランと
EIA による予測～
<石炭開発部石炭開発課
秋月>
2015 年 8 月 3 日、米国のクリーンパワープラン（ CPP）が公表となった。CPP
は 2014 年 6 月にドラフトが公表され、大きな反響を呼んでおり、 200 万以上の
パブリックコメントが寄せられたという。今回はこのドラフトを微修正する形で
最終版が決定された。2015 年 12 月にパリで開催が予定されている COP21（国連
気候変動枠組条約第 21 回締約国会議）において、国際的な枠組みへの合意を目
指している中、米国の気候変動対策は国際的にも影響力が大きいと言える。 EIA
による最終版 CPP に基づいた将来予測はまだないが、2014 年の CPP のドラフト
に基づいた EIA の予測をまとめ、 CPP 最終版の概要とともに紹介する。
2015 年 8 月 3 日に公表された CPP 最終版は昨年公表されたドラフトよりも積
極的で、柔軟になっている。 CPP 最終版は米国の温室効果ガスの排出を 2030 年
までに、 2005 年比で 32％削減することにしている。
2014 年 6 月公表のドラフトからの主要な変更点は以下の通り。
2014 年ドラフト
2015 年最終版
削減目標
30％ (2005 年比 )
32％ (2005 年比 )
中間遵守期間
2020 年～
2022 年～
構成要素
構成要素①
構成要素①
既存石炭火力発電所の効率を
既存石炭火力発電所の効率を
改善する。
改善する。
構成要素②
構成要素②
石炭から天然ガスへシフトす
石炭から天然ガスへシフトす
る。
る。
構成要素③
構成要素③
風力や太陽光などの再生可能
風力や太陽光などの再生可能
エネルギー発電を増加する。
エネルギー発電を増加する。
構成要素④
構成要素④
省エネルギーを促進する。
削除
2014 年の CPP のドラフトを基にした予測になるが、2015 年 5 月 27 日に、EIA
が将来のエネルギーミックス予測、 2015 年 6 月 5 日に発電所の推移予測を公表
している。
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図 1 エネルギーミックスの実績と予測（出展： EIA）
http://www.eia.gov/todayinenergy/detail.cfm?id=21392
図 2 発電所のリタイアと新設（出展： EIA）
http://www.eia.gov/todayinenergy/detail.cfm?id=21532
EIA の Annual Energy Outlook 2015(AEO2015)の参照ケースと比較すると、CCP
のベースケースでは 2020 年に約 40GW の石炭火力発電所がリタイアとなる。
AEO2015 と同様に、 CPP 実施下でも効率の悪い天然ガス発電所もリタイアとな
るが、石炭火力発電所のリタイアを埋め合わせるように、高効率の天然ガス、風
力、太陽光発電の新設が予測される。
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2015 年 5 月 22 日、2015 年 6 月 10 日には CPP が石炭生産・石炭価格に与える
影響の予測を公表している。
図 3 CPP のドラフトを基にした石炭価格予測（出展： EIA）
http://www.eia.gov/analysis/requests/powerplants/cleanplan/
ケース名
参照（ AEO）
説明
EIA/AEO2015 参照ケース。 AEO2015 は 2040 年までのエネ
ルギー供給、需要、価格に関する年ごとの予測を提示してい
る。参照ケースは概して 2014 年 10 月時点における連邦、州、
地域の法規制に基づいている。
参照＋ CPP；ベース政策（ CPP）
AEO2015 参照ケースを下敷きに提案中の Clean Power Plan
をモデル化したもの
CPP 延長（ CPPEXT）
AEO2014 参照ケースを下敷きに CO2 排出量を 2040 年に
2005 年水準の 45%以下とするために CO2 排出目標を 2030 年
以降まで延長・継続実施したもの。
原子力＋ CPP（ CPPNUC）
法令遵守計算において現在計画されていない新規原子力発
電所からの発電を想定した Clean Power Plan 適用モデル。
AEO2015 参照ケースを下敷きにしている。
代替的ベースラインを用いたケ
ース
高経済成長（ AEOHEG）
EIA/AEO2015 の高経済成長ケース。参照ケースよりも高い
GDP 成長を見込んだ結果、高い電力需要と燃料価格をもたら
す。
石油・天然ガス高資源
EIA/AEO2015 の石油・天然ガス高資源ケース。参照ケース
（ AEOHOGR）
よりも楽観的な国内石油・天然ガス供給を見込んだ結果、低
い天然ガス価格をもたらす。
高経済成長＋ CPP（ CPPHEG）
AEO2015 高経済成長ケースを下敷きに Clean Power Plan の
実施したもの。
石油・天然ガス高資源＋ CPP
AEO2015 石油・天然ガス高資源ケースを下敷きに Clean
（ CPPHOGR）
Power Plan を実施したもの。
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図 4 CPP ドラフトを基にした石炭生産予測（出展： EIA）
http://www.eia.gov/todayinenergy/detail.cfm?id=21592
西部、中部、アパラチア地域で、いずれ石炭生産も AEO2015 の参照ケースより
も減少している。この差は CPP ドラフトの中間遵守期間の開始年である 2020 年
から始まっており、特に Powder River Basin を含む西部側で 2024 年において参
照ケースと 2.14 億トンの差が出ている。
CPP 実施下の価格の予測では、 CPP ドラフトの中間遵守期間の開始年である
2020 年に、石炭生産量と同様、価格も落ち込む予測となっている。しかし、 EIA
はドラフトの CPP に基づき、再生可能エネルギーの拡大、天然ガスの価格上昇、
エネルギー需要全体の拡大を予想しており、2030 年以降は更なる規制がないこと
を前提に、 2024 年から石炭火力発電所の稼働率が上昇することを予測している。
石炭火力発電所の稼働率は 2024 年には 60％と予想されているが、 2040 年にか
けて 71％まで上昇し、これに伴う石炭需要のため石炭生産、石炭価格とも回復に
転じるという予測となっている。しかし、それでも石炭生産量は 2040 年までに
は 2013 年の水準には戻らない。
EPA は最終版 CPP に基づき、 2030 年のエネルギーミックスについて、石炭を
27％、天然ガスを 33％になると予測している。EIA によると 2014 年は石炭が 39％、
天然ガスが 27％となっており、石炭の割合を大幅に引き下げ、天然ガスの割合は
増加する構図となっている。
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図 5 2014 年のエネルギーミックス実績と 2030 年の予測（出展： EIA、 EPA）
上に示した 2014 年の CPP ドラフトに基づく EIA の予測と比較すると、2030 年
における天然ガスの割合が増大しており、石炭の割合もわずかに多い。また、中
間遵守期間を 2022 年に 2 年間後ろ倒しにしたことで、エネルギーミックスに与
える影響もなだらかになる可能性がある。しかし、2030 年における温室効果ガス
の削減目標も 32％に 2 ポイント引き上げており、いずれにせよ、 CPP の政策の
下、石炭需要は一時的には縮小されることになるだろう。その後、石炭生産や石
炭価格が上昇するためには、再生可能エネルギーの拡大等によって石炭消費以外
の分野で温室効果ガスがどれだけ削減できるか、また、石炭価格と天然ガス価格
とを比較して、どれだけ石炭にコストメリットがあるか、という点が焦点になる
だろう。
以上
おことわり：本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱
物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう
最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあり
ます。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガ
ス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本
資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源
機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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