「せたがや子育て応援アプリ」による子育て支援情報の提供

特集
ICTで子育て支援
世田谷区/子育て支援情報の提供による育児不安の軽減
「せたがや子育て応援アプリ」による
子育て支援情報の提供
世田谷区子ども・若者部子ども育成推進課計画担当 佐藤 里奈
まちの情報
世田谷区 ・面積/58.05km2 ・総人口/86.4万人 ・世帯数/46万世帯(平成27年6月現在)
では子どもの数が増加し続けています。特に平成21
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世田谷区の概況
年からは、0歳から5歳の子どもが毎年1,000人近く
増え続けており、27年6月1日現在の5歳以下人口
世田谷区は、東京23区の西側に位置している住宅
は43,784人でした。これは、全国的にも数少ない傾
都市です。公園や緑地、国分寺崖線などまとまりの
向です。子どもの数が増え続けている主な要因とし
ある緑や、東京唯一の渓谷である等々力渓谷など良
て出生率の回復があげられ、17年に0.8であった合
好な緑や水に恵まれています。都心に近く交通の便
計特殊出生率は、25年には1.04まで上昇しています。
のよい良好な住宅地としての性格が強く、区内就業
25年の出生数は7,731人で、こちらも増加傾向にあり
率が28.1%であるのに対して区外就業率は57.7%(平
ます。就学前の子どもの数の増加や、就労している
成22年国勢調査より)と、その性格は数値にも表れ
母親の増加に伴い、保育需要は全国の自治体で見ら
ています。また、23区の中で一番人口が多い区であ
れる状況をしのぐ勢いで増加しています。需要に応
ることも世田谷区の特徴です。人口割合を年齢区分
えるべく保育施設の整備を進めており、5年間で新
別に見ると、年少人口割合11.8%、生産年齢人口割
たに4,712人の定員を確保してきました。それにもか
合68.0%、老年人口割合20.2%となっております。
関わらず、保育施設の整備を上回る勢いで需要は増
このように、
規模の大きな自治体ではありますが、
えており、27年4月時点の待機児童数は前年度より
行政サービスにおいては地域に密着したサービスの
73人増の1,182名となり、今後も待機児解消に向けた
提供を目指しております。地域の実情に沿ったまち
取組みを進めていく必要があります。
づくりや地域福祉の推進などの重要課題への取組み
また、子育て家庭の家族形態や就労形態も多様化
ができるように、本庁、5ヵ所の総合支所、27ヵ所
する中、保育だけでなく、様々な形の子育て支援が
の出張所・まちづくりセンターの3層構造による地
求められています。
域行政を展開しています。
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区における子育てを取り巻く状況
(1)背景・きっかけ
少子化という全国的な流れがある中で、世田谷区
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月刊
「せたがや子育て応援アプリ」の
概要について
H27.8月
平成27年度から、
「子ども・子育て支援新制度」
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世田谷区/「せたがや子育て応援アプリ」による子育て支援情報の提供
がスタートすることに伴い、子どもや保護者の身近
供しています(図-1)。アプリで手に入る主な情
な場所で保育を始めとする様々な子育て支援に関す
報は、以下の七つです。
る情報提供や相談・助言等を行う利用者支援事業の
①施設マップ
実施が自治体に求められました。世田谷区では、保
おむつ替え・授乳スペース、公園・児童館・おで
育所の入園申請窓口である子ども家庭支援センター
かけひろば、幼稚園・保育施設等の検索をする機能
のほか、親子で集えるひろば(地域子育て支援拠点
です(図-2)
。
事業)で、利用者支援事業を順次展開していくこと
②子育て支援ナビ
としました。
子育て支援情報や申請・手続きなどの情報を閲覧
しかし、それだけでは多様化する子育て家庭に情
する機能です。
報を届けるにはまだ不十分です。外出しない方や、
③保育施設検索ナビ
忙しくて集いの場へ出掛けることができない方も
幼稚園・保育施設を、施設の種別、最寄り駅、現
います。そこで、
自宅にいながらにして、
個々のニー
在地からの距離、延長保育の有無で検索を行い、施
ズに沿った情報提供を図る利用者支援事業の一端
設情報を閲覧する機能です。
を担うツールとして、アプリを活用できるのでは
④お知らせ配信機能
ないかと考えました。
利用者の登録した情報(子どもの生年月日、お住
また、核家族化やひとり親世帯の増加、地域のつ
まいの地域等)に応じた情報(乳幼児の健康診断や
ながりの希薄化などにより保護者が孤立しがちであ
予防接種の時期到来のお知らせ等)を通知する機能
ることから、出産や子育てに感じる不安感、負担感
です(図-3)
。
の軽減が課題とされています。
⑤保育施設空き情報検索
そこで、妊娠期から小学
校就学前の子育て家庭を対
図−1
アプリのトップページ
図−2
施設マップ
象に、この世代の多くが日
常的に利用しているスマー
トフォンで、
「好きな時に」
「好きな場所で」
「気軽に」
子育て支援情報を取得でき
るようにすることで、不安
感の軽減、待機児童の減少、
孤立化の予防、効果的な情
報伝達を図る「せたがや子
育て応援アプリ」を構築す
ることにしました。
(2)サービス概要
せたがや子育て応援アプ
リは、妊娠期から小学校就学
前 の 子 育 て 家 庭 を 対 象 に、
様々な子育て支援情報を提
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現在空きのある保育施設を一覧表示する機能です
【短時間で、パソコンがなくても最新の情報を確認
でき、不安感を軽減します】
(図-4)
。
⑥イベント一覧
スマートフォンを持っていれば、いつでも、どこ
区が実施する子育てに関するイベントを一覧表示
でも情報を確認できるため、世田谷区で作成してい
する機能です。
る子育ての冊子を読む時間がない人や、家でパソコ
⑦緊急情報検索
ンを開く暇がない人等が、家事の合間や仕事の休憩
緊急時に必要な情報(24時間診療を行っている病
時間など、いつでも情報をチェックできます。外出
院など)を閲覧する機能です。
時には、現在地近くのおむつ替えスペースの検索が
(3)スマートフォンを用いることによる特徴と生
み出す効果
可能です。この機能は、安心して外出できる環境を
生み出すことに一役買っています。
様々な情報が満ちあふれている昨今、自分が必要
な情報を見極めることも大変な時代となっていま
【保育施設検索ナビで、施設のミスマッチを減らし
待機児童を減らします】
す。そのような時代においても、必要な人に必要な
保育施設を、施設の種別、最寄り駅、延長保育の
情報を届けることができるというアプリ最大のメ
有無で絞り込んで検索ができます。また、スマート
リットを活かせば、必要な情報へスムーズにたど
フォンの GPS 機能を利用して現在地からの距離で
り着くことが可能です。アプリでは、子どもの年
も検索が可能です。このように条件を絞ることによ
齢やお住まいの地域など、個々の子育て家庭の状
り、通園可能範囲で就労状況等にマッチする施設を
況に合わせて、提供する情報やサービスを選択す
ご案内できます。そのことによって希望施設の選択
ることができます。
肢を広げ、施設のミスマッチを軽減し、待機児童の
減少につなげられる可能性
図−3
お知らせ配信機能
図−4
保育施設 空き情報検索
があります。
【最新のイベント情報を発信
し、地域の子育て家庭の孤
立化を予防します】
身近な子育てイベント情
報を分かりやすい形で発信
し、地域の子育て家庭同士
や、世田谷区の施設サービス
とつながるきっかけを提示
することで、子育て家庭の孤
立化を予防します。
【お知らせ通知機能で、効果
的に子育て情報を配信しま
す】
子どもの生年月日を登録
することで、乳幼児健診・予
防接種の情報が自動的に配
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世田谷区/「せたがや子育て応援アプリ」による子育て支援情報の提供
信されてくるプッシュ通知機能により、アプリを開
率が高い情報ツールです。今後も、アプリに興味を
いていなくても情報が届いたことを確認できます。
持っていただけるように、効果的な周知方法を検討
このような取組みから、子育て家庭のニーズと子
していきたいと考えています。
育て支援サービスを適切に結びつけ、自らが子育て
アプリの運用開始後、他自治体から多くの問い合
プランをイメージできるようにし、子育てへの不安
わせをいただいています。世田谷区のアプリが、他
感や負担感の軽減を図ります。
自治体の先駆的な事例となることができていれば幸
いです。アプリの開発をする自治体が増えると、近
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利用者の声
隣の自治体と連携したサービスの提供を検討するこ
とも可能になってきます。先ほど話題に挙げたアン
アプリの開発にあたっては、地域で子育てを支え
ケートにも、「リンクでよいので、周辺の自治体の
る活動を行っている NPO 法人に企画段階から参加
情報を知りたい」との回答がありました。保育施設
していただき、子育て家庭へのニーズ調査及び機能
などは、自分の住んでいる区外の施設を利用したい
の企画等に協力していただきました。アプリ公開後
と考える方もいらっしゃいます。近隣の自治体との
は、NPO 法人と地域の子育て世帯と協力し、アプ
連携が生まれることで、そうしたニーズにも応えら
リを使用した際の感想やご意見をいただくためにア
れるようになります。
ンケートを実施しました。
アプリでは子育て家庭のニーズに合った最新の情
アンケートによると施設マップがおおむね好評
報を提供できるため、自治体の特徴に合わせて柔軟
で、特に、おむつ替え・授乳スペースを検索できる
に情報提供ができるツールの一つとなりえます。世
点が良いという声が多く見られました。他には、子
田谷区では、保育所の入園申請窓口である子ども家
連れで入れるレストランが分かるとよい等、子育て
庭支援センターの窓口等でアプリを用いて、来庁す
当事者ならではの視点からも意見をいただくことが
る子育て家庭からの問い合わせに対応するなど、分
できました。
かりやすく説明する窓口ツールとしても活用してい
さらに細かな条件で絞って検索ができるとよい、
ます。このように、アプリを構築したきっかけでも
アプリ内の関連する情報同士をリンクさせてほしい
ある利用者支援事業の一端を担うツールとしても効
等、軽微な手直しで済むものについては、意見をい
果も発揮しています。
ただき次第随時対応しています。
今後も、「せたがや子育て応援アプリ」が ICT を
内容の大幅な変更を要するものについては、利用
利活用した区民にとって身近で手軽な情報収集ツー
者の視点を取り入れ、より使い勝手の良いアプリに
ルであることができるよう、利用者の声に耳を傾け
できるよう、今後の課題として対応を検討していく
て改良を重ねて参ります。また、世田谷区のアプリ
構築を皮切りに自治
予定です。
体のアプリ運用が増
5
えていき、自治体間
事業の成果
でノウハウを共有し
アプリを公開して8ヵ月が経った5月末時点で、
たり知恵を出し合っ
ダウンロード数は約6,800件でした。4月末時点か
たりできるようにな
らは555件増えており、徐々に利用者が拡大してい
ることを楽しみにし
ます。スマートフォンは、子育て世代において普及
アプリ起動時画面
ています。
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