市販されていない雑誌のアルマイト論文

市販されていない雑誌のアルマイト論文
Technical papers of aluminum surface finishing appeared in the journals not for sale.
安清一、丸田正敏、布留川宏、佐藤敏彦
Chung Il AHN, Masatoshi MARUTA, Hiroshi FURUKAWA, Toshihiko SATO
研究会誌、公設研究所紀要、会社技報などに
アルマイト関連の有益な技術論文がある。
1. はしがき
上述の機関誌は「非売品」とは限らない
が、限定配布などの為に、雑誌の存在すら
知らない技術者も多い。これらの雑誌に掲
載されている論文の題名と概要は各機関の
ホームページで公表されている場合がある。
そして、幾つかの論文は科学技術振興機構
で入手できる。そこで、幾つかの掲載論文
を以下に紹介する。
2. 研究会誌の論文
「近畿アルミニウム表面処理研究会会
誌」の 2005 年の233号と234号で、坂
口雅章が「アルマイト染色の管理とトラブ
ル対策①」と「アルマイト染色の管理とト
ラブル対策②」を連続執筆している。①が
11ページで、②が10ページである。多
年の実務経験の集大成であるので、「染色」
以外のアルマイト作業の「管理とトラブル
対策」にも役立つ有益な内容である。なお、
坂口論文の執筆スタイルは、各種のトラブ
ルを(1)写真で示し、
(2)トラブル状況を
文章で紹介し、(3)トラブル原因を述べ、
(4)トラブル対策を助言している。この執
筆スタイルは Arthur W. Brace 著;ANODIC
COATING DEFECTS----Their Causes and
Cure(1992)と同じ書式である。Brace の著
書は1件のトラブルを1ページ毎に説明し
ている(図 1)。
図1
Brace の本の1ページ
表面技術協会ライトメタル表面技術部会
は「アルミニウム研究会誌」を発行してい
る。部会のホームページ(http://www.soc.
nii.ac.jp/sfj/lmpage.htm)に掲載論文の
題名が報告されている。この機関誌での御
すすめは年に2回発行される「学会報告」
の特集号である。表面技術協会、軽金属学
会、電気化学会、日本化学会などの春季講
演大会と秋季講演大会で発表されたアルマ
イト関連の全講演概要が収録されている。
学会での最新研究動向を知る為には不可欠
の研究会誌である。部会に入会すれば、会
誌を定期購読できる。
1
ードとなり、現在に於いても環境対応脱脂
剤の研究開発が急務となっている」との言
及もある。
更に、
「キレート剤は硬水軟化作用として
使用されるが、軟水についても脱脂性向上
の一手段として、キレート剤を添加するケ
ースもある。一般的には EDTA(エチレ
ンジアミン四酢酸)や NTA(ニトリロ三
酢酸)が使用されているが、前述した窒素
フリーの観点から、現在ではキレート剤の
代替品の検討も積極的に行われている」と
注意を喚起している。
軽金属製品協会は機関誌として、
「アルミ
プロダクツ」(図 2)を787円(税込み)
で販売している。特集でアルマイト技術の
解説と現状報告や、外国アルマイト事情が
掲載されたりする。この目次は同協会ホー
ムページ(http://www.apajapan.
3. 業界機関誌の論文
日本パウダーコーティング協同組合
( http://www.powder-coating.or.jp/info
/index.html)は年 4 回発行の技術情報誌、
「パウダーコーティング」を発行している。
この機関誌に豊島幹人、川越亮助共著;最近の
環境対応型脱脂剤の現況、Vol.5, No.3(2005)
が掲載されている。「環境に関する基礎知
識」の副題が付いている良い論文であるの
で詳細に紹介する。
「はしがき」の節で、
「近年の種々の化学
薬品及び工業薬品に対して、環境規制を遵
守する事は化学メーカーとしての企業責務
であり、そのため、脱脂剤を例にとると、
りん及び窒素フリーの環境対応型脱脂剤の
開発が急務となっている。さらに、脱脂剤
中に含まれる界面活性剤として一般的に利
用されているノニルフエノールに対しては、 org/APA2/framepage2.htm)でわかる。
代替成分の検討が必要である。よって、本
稿では、現在の環境対応型脱脂剤の使用状
況を交え、環境対応型脱脂剤の現況につい
て解説する」と述べている。急務になった
理由は
(1)富栄養化に影響を及ぼす、りんや窒素
に対する排水規制の強化
( 2 ) 平 成 1 3 年 に 施 行 さ れ た PRTR
( Pollutant Release and Transfer
Register:環境汚染物質排出・移動登
録)法の施行
等が上げられると言っている。また、
「ノニオン系の界面活性剤であるノニルフ
エノールエトキシレート (NPE)につい
ては、その主原料となっているノニルフエ
ノールが環境省によって、内分泌撹乱作用
があるという見解が示唆され、ノニルフエ
ノール代替の界面活性剤の開発が急がれて
いる。以上の理由により、“りんフリー”、
“窒素フリー”、
“ノニルフエノールフリー”
の 3 種が環境対応型脱脂剤開発のキーワ
図2
協会誌の表紙
4. 公設研究所紀要の論文
都道府県が設置している産業技術研究所
の幾つかはアルマイト研究を行っていて、
その研究成果は研究報告書またはホームペ
ージに公開されている。東京都立産業技術
研究所の土井正が開発したクエン酸による
ニッケルめっき技術はアルマイトの電解着
色に応用できるし、同研究所の莚正勝らは
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「アルミニウム陽極酸化皮膜の加熱による
クラックの発生」の論文を発表している。
これらの論文は研究所のホームページ
( http://www.iri.metro.tokyo.jp/publis
h/report/index.html)にフル・ペーパで掲
載されている。
「福島県ハイテクプラザ(http://www.
fukushima-iri.go.jp/)は、福島県が県内
における工業の振興を図るため設置した公
設試験研究機関(他県では工業試験場、工
業技術センター、産業技術研究所などと称
される機関と同様の公設試)です」と自己
紹介している研究所ホームページには、
「ア
ルミニウム合金鋳物AC2Aへの陽極酸化
処理」、「硬質アルマイト皮膜のクラック発
生に関する考察」、「酸化チタン系光触媒の
応用化に関する研究」、「タンニン類を利用
しためっき皮膜防食技術」の研究概要が公
表されている。「AC2Aへの陽極酸化処
理」の論文では、フッ酸エッチング浴への
酢酸の添加を推奨している。「タンニン類」
の研究概要は、
「六価クロムは人体や環境汚
染の問題で国内外で法的規制の動きがある
ため、これらを含まない化成処理技術の開
発が望まれています。こうした中で、(株)
サンビックスで開発、実用化されたタンニ
ン酸を用いたクロムフリー化成処理技術は、
耐食性や耐候性の点で問題があり、室内環
境での使用に限定されています。そこで、
さらに耐食性や耐候性を向上させ、亜鉛め
っきの主な用途である自動車関連での使用
に耐えうる化成皮膜の開発に取り組みまし
た。今年度は、亜鉛めっきで根強い需要の
ある光学機器用の黒色化成処理をクロムフ
リーで行う技術の開発に取り組みました。
その結果、クロムを全く用いずに、タンニ
ン酸を用いた色落ちしない黒色化成処理皮
膜を作製することができました。今後は、
耐食性向上等、皮膜のさらなる改良を行う
とともに、皮膜構造の解析やタンニン酸の
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分離精製技術、有機系水性コーティング材
の開発も併せて行っていく予定です」と書
かれている。
都道府県が設置している産業技術研究所
のホームページ・リンク集が「全国公設試
WWWサーバー」(http://unit.aist.go.
jp/collab-pro/ci/wholesgk/link/kousets
ushi/kousetsushi.htm)のページに掲載さ
れているので、どの公設試が表面処理研究
を実施しているかがわかる。幾つかの調査
結果を以下にリスト・アップする。
酸化チタン薄膜の防汚機能評価法に関す
る研究(北海道立工業試験場)、めっき技術
の木質系材料への応用化に関する研究(秋
田県産業技術総合研究センター)、チタンの
鏡面研削(山形県工業技術センター)、酸化
チタン薄膜上に形成したシリコン被覆表面
の光触媒酸化と親水化特性(群馬県立群馬
東毛産業技術センター)、マグネシウム合金
による新しい陽極酸化処理法の開発(新潟
県工業技術総合研究所)
茨城県工業技術センターのトップページ
には「Mgの茨城へ」の大文字が描かれて
いるので、驚いた(図 3)。
図3
技術センターのトップページ
更に、マグネシム合金への表面処理技術
の開発(山梨県工業技術センター)、多孔質
アルミニウム合金の開発(愛知県産業技術
研究所)、部分軟化アルミニウム合金板の容
器成形に関する研究(名古屋市工業研究所)、
アルミニウム陽極酸化皮膜の機能化(富山
県工業技術センター)などの研究がある。
福井県工業技術センター(http://www.
fklab.fukui.fukui.jp/kougi/)のホームペ
ージは「研究成果小冊子 配信サービス」
(図 4)を実施している。図 4 中の表にリ
スト・アップされている論文の1編または
数編を選んで、所定形式の電子メールを送
信すると、PDFファイルの論文を添付し
た返信メール(図 5)が数分後に送られて
くる。福井県工業技術センターだけが実施
している論文配信サービスはビジネスホテ
ルへの宿泊をインターネット予約すると、
数分後に宿泊予約確認メールが自動返信さ
れるシステムと同じ方式である。
図4
論文配信サービスの申込ページ
図5
論文が添付されている返メール
した自動車塗装」の研究が京都市産業技術
研究所工業技術センターで行われた。岡山
県工業技術センターは、
「堀金属表面処理工
業㈱と共同で、マグネシウム製品の腐食を
防止する新たな表面処理技術を開発した。
この技術は六価クロムを使用しない環境調
和型陽極酸化処理技術として国内メーカー
3社で実用化されており、この度、2004 年
度日本金属学会技術開発賞を受賞した」と
報告している。その他に、マグネシウム合
金への高機能めっき技術の開発(広島県立
東部工業技術センター)、皮膜中の六価クロ
ムの環境変化による溶出挙動(広島市工業
技術センタ-)などの研究もある。
沖縄県工業技術センターの「分野別研究
報告書一覧(金属化学分野)」のページに「ア
ルミサッシ塗膜の剥離方法に関する研究」、
「ジンククロメート処理の欠陥と対策」、
「金属構造物の防食技術開発に関する研
究」など 20 編の研究題名と概要が示されて
いる。
5. 会社技報の論文
日本パーカライジング技報(http://www.
parker.co.jp/gihou/parker_gihou.shtml)
には「マグネシウム製品用表面処理機能の
変遷と新対応処理」、「金属防食におけるク
ロムフリー技術の新しい視点」、「耐久性に
優れた表面調整剤の導入」、「ベトナム工場
アルマイト処理ライン紹介」などの論文が
掲載されている。
上村工業株式会社のホームページ(http
://www.uyemura.co.jp/index2.html)に
「テクニカル レポート」の目次が掲載さ
れている。「表面技術の展望(久米道之)」、
「アルミニウム表面技術の展望(高橋英
明)」、「マグネシウムの表面処理(高谷松
文)」、「アルミニウムの表面処理(平山良
夫)」、
「チタンの表面処理」、
「ウエムラグル
ープのASEAN地域への対応」などの報
「陽極酸化処理工程中における発生水素
の回収用隔膜の性能」と「屋外用漆を利用
4
文リストが掲載されている。科学技術振興
機構(JST)に申し込めば、これらの論
文のコピーを入手できる。
「日本ペイントが発行する塗料技術誌
“テクノコスモス”」が同社のホームページ
( http://www.nipponpaint.co.jp/r&d/cos
mos18.html)に公開されている。
「アルミニ
ウム用電着塗料のつや消し技術」、「光触媒
酸化チタンを用いたコーティング材」、「宮
古島ウェザリング試験場」などの報文があ
る。これら“テクノコスモス”誌の論文は
オンラインで読める。
富士電機グループの技報である「富士時
報」の 2001 年、第 5 号(http://www.
fujielectric.co.jp/company/tech/jihou_
2001/contents2001_5.html ) に 丸 尾 哲 弘
著;金属表面処理用任意波形電源装置の論
文が掲載されていて、同論文の要約は「ア
ルミサッシの着色や各種金属への電気めっ
きに代表される金属の表面処理には,特殊
波形での電解処理が皮膜の均一化,歩留り,
多色化対応および高機能皮膜対応で有効で
ある。金属表面処理用任意波形電源の応用
例として,本稿ではアルミサッシの着色用
途での大容量器〔富山軽金属工業(株)向
け 50V,10kA 器〕とプリント基板銅めっき
用途での実験結果について報告する」であ
る。佐藤敏彦らは、以前に同論文をJST
で有料コピーして、概要をアルトピア誌で
紹介したが、ホームページのPDFファイ
ル・マークをクリックすると丸尾論文の全
文をオンラインで読める。
活性剤やキレート剤の環境負荷に対しても
注意を払う必要がある事を川越と豊島の共
著論文は警告している。アルマイト技術に
携わる技術者は、最近の数年で環境規制が
激変した事を強く認識する必要がある。
昔、都道府県が設置していた工業技術研
究所は、「***県工業試験所」の統一名称で
あったので、
「公設試」の略称が使われてい
た。この名残で現在も「公設試」の略称が
使われる。現在の「公設試」での表面処理
研究は「ナノマテリアル」、「光触媒」、「チ
タン」、「マグネシウム」の流行語を付けて
いるテーマが多かった。
最近の「公設試」での、もう一つの変化
は研究結果の情報公開が進んだ事である。
多数の「公設試」が研究報告論文をPDF
ファイルで提供している。特に、福井県工
業技術センターの電子メール配信方式は、
「公設試」にとってもメリットがある。
「公
設試」は、どの論文がどのような人に請求
されたかがわかる。更に、勤勉な研究者と
タックス・イーターの研究者の識別にも役
に立つであろう。
なお、本稿は安清一と佐藤敏彦のディス
カッション内容と丸田・布留川と佐藤敏彦
のディスカッション内容を作文した原稿で
ある。
● 安清一、Chung il AHN
アノダ ANODA
● 丸田正敏, Masatoshi MARUTA
キザイ株式会社 KIZAI Co. Ltd.
● 布留川宏、Hiroshi FURUKAWA
キザイ株式会社 KIZAI Co. Ltd.
● 佐藤敏彦, Toshihiko SATO
芝浦工業大学名誉教授
6. むすび
坂口論文はアカデミックな学会誌には掲
載拒否されるであろうが、アルマイト技術
者には貴重な論文である。坂口論文を何度
も読み返せば、若いアルマイト技術者の現
場対応の技術力が向上する。
Professor emeritus of Shibaura Technical
University
各種の表面処理液に少量添加される界面
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