DEVELOPMENT SOLUTIONS AUTOSAR 開発パートナーシップ 車両ネットワークの電気/電子システムアーキテクチャに関するオープン規格 AUTOSAR(Automotive Open System Architecture=車両オープンシステムアーキテクチャ)は、車両ネット ワークの業界オープン規格を開発・導入する目的で設立されたコンソーシアムです。AUTOSAR運営委員会のスポー クスマンを務めるDr.ユルゲン・ボルトラッツィ氏(ダイムラー・クライスラー社)にインタビューし、AUTOSARの 規格が車載ソフトウェアの開発にどのように貢献するのかについて伺いました。 まず、AUTOSARの目的についてお聞か せください。 AUTOSARの目的は、将来の車載アプ リケーションにおけるニーズを視野に入 れたオープンなシステム規格を定義する ことです。中でも特に力を注いでいるの が、インターフェースとシステムの機能 の標準化です。 AUTOSARにはどのようなメンバーが パートナーとして参加していますか? AUTOSARのメンバーは3層構造に なっています。コアパートナーは、BMW、 ボッシュ、コンチネンタル、ダイム ラー・クライスラー、フォード、GM、 PSA、シーメンス、トヨタ、フォルクス ワーゲンの各社で、この顔ぶれを見れば わかるように、車載ソフトウェア標準化 のための国際開発パートナーシップを結 成するという基本目標は十分に達成され ています。この中心メンバーに加え、現 在その数が増加しつつあるプレミアムメ ンバーと、第3グループに属するアソシ エートメンバーがあります。ちなみに ETASはプレミアムメンバーの一員です。 自動車メーカは、ソフトウェアエンジニア リングを再び社内で行おうとしているので しょうか? AUTOSARの目的は、モジュール化と オープン規格の策定、そして一貫性のあ るツール環境の提供を通じて、車載ソフ トウェアの複雑化が抱える問題に対処す ることです。したがって自動車メーカ内 で開発するソフトウェアの数を増やすと いったこと自体は、AUTOSAR本来の目 的ではありません。 量産車に採用されて信頼性が実証されてい る基本ソフトウェアモデルを、 AUTOSARのオープン規格に取り入れ る予定はありますか?もしあるとすればど の程度でしょうか? 実績があり評価を得た既存のソフト ウェアコンポーネントは可能な範囲で使い 続けるというのが、AUTOSAR策定にお ける基本姿勢です。多少の修正が加えられ ることはあるにせよ、AUTOSARが規定 する将来のエンジニアリングプロセスに関 する骨格は、既存のソフトウェアコンポー ネントで構成されることになるでしょう。 その場合、ラッパーコードを追加すること は既存のCコードをAUTOSARの世界に 取り入れるための適切な方法であるとお考 えですか? AUTOSARが既存のCコードを取り入 れる際、それを支援するために別のプロ グラムコードを追加導入することはもち ろん可能です。既存のコードセグメント をカプセル化し、新しい車両シリーズに 採用することは、今日すでに一般的に行 われています。AUTOSARでは、既存の コードをAUTOSARの規格に適合するイ ンターフェースの中にラッピングするこ とで、そのようなコードの採用を推し進 めていく考えでおります。 機能の開発とソフトウェアエンジニアリン グ間の移行作業が円滑に進まないことが頻 繁にありますが、AUTOSARではこの 点について、どのような改善案を用意して いますか? Dr.ユルゲン・ボルトラッツィ(42歳) エアランゲン・ニュルンベルク大学で電気工学を専攻。 「マイクロシステムのデ ザイン手法」というテーマの論文で博士号を取得。エアランゲン大学とカールス ルーエ大学の大学院での研究を経て、1994年ダイムラー・ベンツ社に入社。R&D部 門でモデルベース開発やコード生成、テスト生成といった新しいデザイン手法の導 入を担当。その後、乗用車のエンジニアリング部門にてソフトウェアコンピテンス センタの立ち上げに注力。1999年以降はボディエレクトロニクスの開発とアーキテ クチャコンセプトを担当、さらに今後のEクラスおよびCLKクラスの車両に関する 電気/電子システムのエンジニアリング責任者でもある。 06 RT J1.2005 DEVELOPMENT SOLUTIONS AUTOSARの新しいターゲットアーキ テクチャによって、秩序あるプロセスの 枠組が形成されます。それにより、プロ セスに関係するすべての人は、スムーズ に移行作業を行うことができるようにな ります。 オープン規格を策定することは、ツールの 開発とエンジニアリングツール市場にどの ような影響をもたらすのでしょうか? まず押さえておきたいのは、AUTOSAR は、ソフトウェアエンジニアリングの生産 効率を大幅に向上させたいと考えている点 です。もちろん、エンジニアリングツール メーカが新しいツールをゼロからデザイン するか、既存のソリューションを新しい仕 様に対応させるかは彼らの判断であり、私 たちが働きかけるような事柄ではありませ ん。ただ私たちとしては、そうした分野で も新しい動きが出てくるものと考えていま す。 ツールはゼロから新規に開発した方がよい のではないでしょうか? 確かにそうでしょう。ただ新しいツー ルに切り替えると、ユーザがそれを使い こなせるまでに膨大な時間がかかるとい う点も忘れるわけにいきません。ではど うするかといえば、AUTOSAR規格のた めだけに使用するツールを例外的に新規 開発すればよいのです。使用実績のある 既存のツールをAUTOSARに合わせて チューニングすれば、作業の大半はそれ を用いて行うことができます。ですから ユーザはそのようにすると思います。既 存のツールはさまざまなプロセスチェー ンに統合されていて、ユーザがすでにそ ういった環境で恩恵を受けている事から すれば当然のことです。つまり、既存の ツールを手直しし、AUTOSARの規格に 適合するインターフェースを持たせれば よいということです。 Manufacturers' Software InitiativeやHIS、OSEKといった他の コンソーシアムに対して、AUTOSAR はどのような影響を与えますか? 言うまでもないことですが、AUTOSAR は、OSEKやHISを始め、この種の他の委 員会とも良好な関係にあり、そこからさま ざまな相互作用が生まれています。各団体 はそれぞれの優先目標を掲げて活動してい ますが、それ自体は前向きに捉えるべきで す。例えば診断に関するオープン規格を拡 張していくといった動きは、AUTOSARの 目標には含まれていません。しかし、 AUTOSAR自体も診断のツールや方法を理 想的な形に統一していく必要性は感じてい るわけです。そこで私たちは、こと診断の 標準化に関しては、ISOと歩調を合わせる ようにしています。 オープン規格の策定を進める中でモジュー ル化のアプローチが進展した場合、サプラ イヤは自社製品と互換性を持つライバル製 品の登場や、自社の貴重なソースコードの 公開を迫られるといった事態を懸念する必 要はありませんか? この種の問題は関係者全員の間で、よ りオープンかつフレキシブルに討議し合 う必要があると思いますが、そもそもそ のような懸念は的外れです。というのも 組込みソフトウェアはメカトロニクスや 車両センサ、アクチュエータ等の技術と 緊密に結びついており、その開発には膨 大な量の特殊なノウハウが要求されるか らです。 ハードウェアとソフトウェアが別々のサプ ライヤから提供されるケースが増えている ように見えます。こうした傾向は続くので しょうか? 現時点ではそういったケースは例外的 ですが、傾向として今後はさらに増える ことが予想されます。 AUTOSARのランタイム環境は、これ まで以上に大きなハードウェアリソースを 必要とするという話を耳にしますが、例え ばASCETによる自動コード生成を見る かぎり、必要なリソースは必ずしも増加し ていないようです。AUTOSARで画期 的な自動コード生成法が策定されたので しょうか? AUTOSARは、生産性と品質向上への 期待に応えるためにも、自動コード生成 の高速化を図りました。ただしソフト ウェアセグメントによっては、今後もハ ンドコーディングが必要なことに変わり はないでしょう。自動コード生成がいか に早く浸透するかは、市場にどれだけ多 様な製品が登場するかにかかっています。 有名な企業だけでなく、小規模のソフト ウェア会社もAUTOSARの活動による 影響を受けるわけですが、彼らにも新たな オープン規格の策定に参加する道が開かれ ているのでしょうか? あるいは多額の投 資を余儀なくされたり、活動参加の道が閉 ざされるといった状況が待ち構えているの でしょうか? 私たちはオープン規格の策定に携わっ ているだけですから、AUTOSARが何ら かの制約を設けることはありません。も ちろん、前提条件としてエンジニアリン グツールをまず購入する必要があります が、これについてはAUTOSARが配慮す ることではありません。 ところで、開発プロセスに対する先進的な オープン規格の策定は果たして望ましいこ となのでしょうか? AUTOSARが行っているオープン規格 の策定は、開発やエンジニアリングのプ ロセスを対象としたものではなく、ツー ルのアーキテクチャやツール間のデータ 変換フォーマットに関するものです。も ちろん、自動化によって生産性が改善さ れることになれば、プロセスにも関係す ることになります。 コスト、時間、品質に関して、 AUTOSARのメンバーはオープン規格 の策定にどのような期待を抱いているので しょうか? オープン規格化の効果は、AUTOSAR の規格がどこまで受け入れられるかだけ ではなく、各コンソーシアムのメンバー による実装状況、さらにはソフトウェア や保証条件に適用されるビジネスモデル にも関係することであり、簡単に数字を 示すことはできません。しかし、私たち 全員がソフトウェアエンジニアリングに 関わる大幅なコスト削減を期待している ことは事実です。 新しいビジネスモデルが必要になることは ありませんか? ソフトウェアはE C U の一部であり、 ECUサプライヤはサードパーティーのソ フトウェアに対しても責任を負うという 考え方が今日でも依然として存在してい ます。この分野にも新しいアプローチが 見られることは確かですが、現時点で、 それがどのような方向に進むのかを予想 することは困難です。 AUTOSARのコンセプトが業界に受け 入れられるようになった場合、採用され るのはどの領域で、それはいつごろにな ると予想されますか? AUTOSARのオープン規格をベースに した最初の製品が量産体制に入るのは 2007年か2008年で、採用される分野はボ ディエレクトロニクスか、シャーシまた はパワートレインの制御システムになる と予想されます。これらの分野は、分散 型の機能と多数のECUを使用している点 が大きな特徴です。この件については、 2004年秋に最初のパイロットプロジェク トが立ち上げられています。 07 J2005.1 RT
© Copyright 2024 Paperzz