FISメディカルガイド

FIS メディカルガイド 2013 版
目次
1. FIS 大会主催者によるメディカルサポートシステム
1.1
メディカルサービス
1.2
設備と医療
1.3
人員/スタッフ
1.3.1
医療・救助サービス責任者
1.3.2
スキーパトロール
1.3.3
外傷対応チーム
1.3.4
チームドクター
1.4
チームへの情報伝達
2. FIS メディカルスーパーバイザー 〜役割と責任〜
3.
2.1
FIS メディカルスーパーバイザーの具体的な役割と責任
2.2
組織上の立場
2.3
大会前の準備事項
2.4
大会中の実施事項
2.5
大会後の報告事項
医療・救助サービス責任者の役割
3.1
医療・救助サービス責任者の責任事項
4. スキーチームの遠征に帯同するドクター 〜役割と責任〜
4.1
チームドクター
4.2
大会における規則と競技会場における安全手順
4.3
合宿と大会におけるチームの緊急時行動計画
4.4
チームドクターによる健康に関する配慮
4.5
推奨される免疫状況
4.6
選手の健康維持のために推奨されること
4.7
遠征における配慮
4.8
適切な水分補給の推奨
4.9
鉄分の摂取と不足
4.9.1
鉄分の減少、不足および貧血の診断におけるパラメーター
4.9.2
推奨される治療法
4.9.3
鉄分の吸収を促進する、または抑制する因子
4.10
女性競技者の三徴
1
4.10.1 スクリーニングと評価
4.10.2 予防策
4.10.3 女性競技者の三徴に関する語彙集
5. 青少年や小児のための注意事項
5.1
一般的事項〜身体的、生理的、心理学的〜
5.2
筋骨格系コンディションの管理
5.3
骨端症と炎症
5.4
その他の注意事項
5.5
一般的な小児福祉
6. チームドクター、薬および医療行為に関する事項(遠征時に持参する薬の法律的状況)
7. 事故管理
7.1
受傷現場の評価
7.1.1
安全管理 〜コース又は競技場内の正式な入場許可〜
7.1.2
受傷現場の評価
7.2
受傷者の評価
7.2.1
プライマリーサーベイ
7.2.2
セカンダリーサーベイ
7.3
ショック
7.3.1
ショックの症状
7.3.2
搬送されるまでの応急処置
7.4
搬送、情報伝達および書類作成
7.4.1
状況の無線連絡 〜無線 SOAP〜
8. スキーとスノーボードにおける環境問題と状況
8.1
標高への順応と高山病
8.1.1
高山病の分類
8.1.2
予防策
8.1.3
推奨される治療方法
8.2
概日リズム、運動能力および時差ぼけの変化
8.3
低体温と推奨ガイドライン
8.3.1
予防策
8.3.2
治療
8.3.3
低体温の診断/治療に対する注意事項
2
8.4
凍傷の診断と治療
9. アンチドーピング
9.1
総則
9.2
FIS アンチドーピング活動の概説
10. 大会外傷報告 〜FIS 外傷サーベイランスシステム〜
10.1
スキーやスノーボードにおける損傷
10.2
FIS 外傷サーベイランスシステム
10.3
データの収集
10.4
役割と責任 〜誰が何をすべきか〜
10.5
FIS・ISS 運営委員会と報告
11. FIS 脳振盪ガイドライン
11.1
概要
11.2
背景
11.3
脳振盪とは何か。
11.3.1 脳振盪の理解の重要性
11.4
脳振盪の兆候
11.5
脳振盪を疑われる場合の対応
11.6
医師や医療関係者がいる場合
11.7
記憶に関する質問の例:
11.8
医師や医療関係者がいない場合
11.9
初期症状
11.10 脳振盪の診断と管理の変異因子
11.11 小児および青少年
11.12 脳振盪又は脳振盪の疑い後の競技活動再開
11.13 競技復帰が医師によって管理されているとき
11.14 競技復帰が医師によって管理されていないとき
11.15 症状の再発 〜24時間の休養〜
11.16 語義
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はじめに 2011年6月
FIS メディカルガイドは「小型の医療専門書」になるためや、ICR または各競技規定の
代わりとして作られたものではない。このメディカルガイドの主な意図は、トップレベル
のスキーやスノーボードチームに帯同するメディカルスタッフが、医療的な問題を取り扱
う上で参考となる資料を提供することである。
ICR Article 221.6 は、FIS 競技会における医療事項について、以下のように規定している:
大会主催者
大会主催者から
主催者から求められる
から求められる医療サービス(メディカルサービス)
求められる医療サービス(メディカルサービス)
一 FIS 競技会に関わる全ての者の健康と安全は、全ての大会主催者が優先すべき事項であ
る。これには競技者ばかりでなく、大会関係者(ボランティア、コース整備者や観客)も
含まれる。
このメディカルサポートシステムの具体的な構成はいくつかの要因に影響される:
-主催される大会の大きさ、レベルや様式(世界選手権、ワールドカップ、コンチネンタ
ルカップ、FIS レベル、その他)とともに、その地域の医療水準や地理的位置と環境。
-推定される競技者、支援スタッフや観客の数
-大会医事委員会が担当する責任範囲(競技者、支援スタッフ、観客)も決められるべき
である。
主催者及び医療・救助サービス責任者は、公式トレーニングあるいは競技会が始まる前
に、レースディレクターか技術代表と必要な救助設備が用意されているか確認しなければ
ならない。競技中に一次医療計画の実行を妨げるような事故や問題が発生した場合に備え
て、予備の計画を公式トレーニングあるいは大会を再開する前に用意しなければならない。
医療用設備や資源、スタッフおよびチームドクターについての具体的な要件は、各競技
規定と FIS メディカルガイドに示されている。
FIS とその国の協会は、各大会主催者が可能な最高医療水準を各メンバー国や特定の場所
に準備する必要がある。十分な医療設備や避難計画の用意、あるいは現地の医療水準を超
えるものを大会主催地に用意することを大会主催者の責任とする。
スポーツへの参加は健康生活の促進や支援になる。全ての選手の健康、幸福および安全
は、選手やチームと一緒に働く全医療スタッフの第一の願望である。選手やチームへ医療
サポートやケアを提供するということは重要な責任で、ときには独特で挑戦的な場面もあ
るが、それ以上に価値のあることである。トップアスリート達と一緒に働く上で、過酷な
場面で決断を迫られることも多いが、多くの場面で選手一人だけではなくチーム全体を成
功へと導けることが、この仕事の独特で特別な特典である。
FIS メディカルガイドは、スキーチームと一緒に働く医療スタッフが、医療関係あるいは
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他の関連した問題について決断するときに参考書として提供できるように作られている。
FIS メディカル委員会は、このガイドを1年毎に見直すことを計画している。そのため、
国際スキー連盟によって明らかになった各スポーツ競技の論点や問題について繰り返して
評価や判定を提供していく。
FIS メディカル委員会
*翻訳担当スタッフ(敬称略、五十音順、○は監修者)
全日本スキー連盟 情報・医・科学部
相澤 充
奥脇 透
○古賀 英之
白土 貴史
杉原 徳彦
藤木 崇史
渡邊 耕太
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FIS メディカルガイド
1.FIS 大会主催者によるメディカルサポートシステム
1.1 メディカルサービス
ICR 221.6 に記述されているように、FIS 大会に関わる全ての者の健康と安全は、全ての
大会主催者が優先すべき事項である。
特定の医療支援システムの範囲と具体的な構成はいくつかの要因によって決まり、以下
のものが要因として含まれるが、限定されたものではない:
•主催する大会の大きさとレベル(世界選手権、ワールドカップ、コンチネンタルカップ、
FIS レベル、その他)
•推定される競技者、支援スタッフと観客の数
•FIS が要求する特定の水準を満たすことができない場合、現地の医療水準は満たさなけ
ればならない。
•大会主催地の地理、地形、気候と天候
•メディカルケアに関しての現地の法律や風習
医療・救助サービス責任者は、公式トレーニングあるいは競技会が始まる前に、救助設
備が用意されていることをレースディレクターか技術代表と一緒に確認しなければならな
い。大会中に事故が発生した場合に備えて、公式トレーニングあるいは競技会を再開する
前に、予備の計画を用意しておかなければならない。
1.2 医療用設備と資源
大会組織委員会(OC)は、適切な救急医療サービスを各公式トレーニングや競技会の当
日に確実に準備しておかなければならない。厳密に構成された医療計画には、現地の医療
水準のほかに、以下のものも含まれる:
•競技会場のベースまたはフィニッシュエリアにごく近い場所に設置された、初期のトリ
アージや簡単な処置ができるような、医療装備と適切なスタッフを備えたテントあるい
は診療所
•観客のための公共医療施設
•選手のためのコースにおける最良の医療ケア
•コース中間の医療用ステーション
•搬送に使われた時のバックアップ計画を含めた二次救命処置(ALS)の搬送用救急車
•公式トレーニングあるいは競技中にいつでも利用できる、十分に装備された二次救助処
置チームと代用搬送の準備(アルペンスピード系、フリースタイルアエリアル、スキー
クロス、スノーボードクロス、ビッグエアー、スキーフライング競技)
•救助用ヘリコプターあるいは医療用避難方法は、現地の法律に基づいて用意されなけれ
ばならない。その選ばれた避難方法により受傷者がコース内(スキー場の坂)から直ち
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に避難できなければならない。
(アルペンスピード系、フリースタイルアエリアル、スキ
ークロス、スノーボードクロス、ビッグエアー、スキーフライング競技)
1.3 人員・スタッフ
具体的な仕事内容は、大会の具体的な用件に基づいて作られる。
1.3.1 医療・救助サービス責任者
医療・救助サービス責任者(*日本では大会組織員会の医事委員長に当てはまるか)は、
大会で提供される全ての医療サービスへの指揮や調整に関する責任がある。通常、この責
任者は組織委員会の一員であり、大会での医療問題について委員会へ報告する。医療・救
助サービス責任者は、救急医療、トリアージや避難順序について有能であり、また大会種
目の全てのシステムの運営に精通しており、さらにそのスポーツで起こりうる外傷や事故
に関しても十分に理解していなければならない。この責任者が医師ではない場合、医師を
大会のアドバイザーとして任命するべきである。
具体的な責任:
•大会に必要な医療用設備と資源の概要の作成
•負傷した選手の避難計画の設置 – 競技場内の受傷した場所から最初のトリアージ、そ
れから病院あるいは必要に応じて外傷センターへ搬送する。
•ワーキング相互関係を通して避難計画をサポートするため、全ての必要な設備、資源や
人員を確保すること。
•一つ以上の主要避難処置が使用された場合の予備の運営可能な計画やシステムの作成
•推定観衆の規模に基づいて大会の訪問者や観客のための分けた計画及びスタッフの配
置
•具体的なスタッフの役割と責任を明確にし、全関係者にそれらの内容を明確に伝える。
•組織委員会と大会スタッフと一緒に緊急医療計画を見直し、大会の他の局面との相互作
用について議論する。– コミュニケーションプロトコル(共通語)を明らかにする
•医療・救助サービス責任者は、全ての医療計画を、最初のチームキャプテンミーティン
グで全コーチとチーム医療スタッフとともに確認すべきである。またこの時に、同責任
者は具体的なメディカル・ミーティング及びオリエンテーションを設け、全チームドク
ターたちあるいは医療スタッフと、詳しい避難医療計画を確認するべきである。
•公式トレーニングや競技中に起こった全ての事故を記録し追跡し、それぞれ負傷した選
手のための FIS 受傷報告書を作成することを手伝う。
1.3.2 スキーパトロール
•負傷した選手の最初の対応者として行動する。
•スキーパトロールは、スキー技術に関して経験豊富であること。
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•スタッフはコース沿いに、いつでも選手が見える場所にいる。
•スタッフの人数は大会環境とコースによって決められる。
•空いたスタッフの場所を埋めるための追加スタッフの手配は、競技進行が遅れないよう、
事故後に素早く効率よく対応する。
1.3.3
外傷対応チーム
•大会の具体的な要件については、全医療計画から決められる。全般的に、どんな怪我を
した選手にも最大4分以内に着けるように、コース沿いに配置されること。
•これらのチームは一般的に、医学的に訓練され、高度な心臓または外傷救命処置に長け
ている人材および/または高度な気道管理能力のある救急医療士からなる。
1.3.4 チームドクター
・チームドクターは、大会医療スタッフの指導のもとで、競技選手のケアや安定化に関
する領域を補助することができる。
1.4 チームへの情報伝達
競技プロトコルの一般的な医療規模を、全チームに情報パックにして医療スタッフのた
めに公開し、渡さなければならない。以下にその内容を示す:
•具体的な全てのステーション内容(スタッフ、装備、用品)が書かれたコース上の医療
支援マップ
•事故が起こったコースからヘリコプター搬送までの各負傷レベルの避難プロトコル
•選手が負傷レベルに基づいて搬送される診断所またはレベル1の外傷センターの住所
と連絡先
•医療・救助サービス責任者の連絡先
•全ての現地医療サービス施設の連絡先と住所のリスト。この情報は、現地の診療所、医
師、歯科医院、薬局およびレベル1の外傷センターの連絡方法を含むべきである。
•チームの医療問題を取り扱うスタッフためのメディカル・ミーティングは、最初の公式
トレーニング前(アルペン滑走競技は最初のコースインスペクションの後)あるいは競
技前に行い、議事録と署名した出席者リストをとっておく必要がある。これによってコ
ースからの避難順序について、さらに詳しく情報が提供できる。このミーティングの行
われる時間は、チームキャプテンミーティングで伝えられるべきである。
2.FIS メディカルスーパーバイザー 〜役割と責任〜
スキーとスノーボードの全ての主要大会(オリンピックと世界選手権)において、FIS
は、スポーツ特有の問題について大会の組織委員会に対する障害担当またはアドバイザー
として行動する、一人以上のメディカルスーパーバイザーを任命する。メディカルスーパ
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ーバイザーは、FIS 医事委員会から FIS 事務総長へ、FIS 理事会から承認を得るために推
薦される。この過程は通常、大会予定日から約 1 年前に行われる。
一般的に、
この推薦されるメディカルスーパーバイザーは FIS 医事委員会の一員であり、
医療とアンチドーピングの分野で最新の知識を持っているものとする。もし委員の中から
推薦できない場合、委員会の総意があった上で、委員会以外の者に FIS メディカルスーパ
ーバイザーを務めてもらうことができる。FIS のメディカルスーパーバイザーの任務上、同
時にチームドクターとしてや組織委員会のドクターとして務めることはできない。
FIS 理事会に承認された後、任命されたスーパーバイザーの名前と詳しい連絡先が大会主
催者へ通知され、その大会に望ましい医療支援サービスに関する FIS メディカルガイドに
ついての推奨事項も示される。
FIS メディカルスーパーバイザーと連絡を取り、大会中に提供される医療サービスの構成
や実行についての全ての情報を提供することは、組織委員会の責任である。
2.1 FIS メディカルスーパーバイザーの具体的な役割と責任
•大会組織委員会に対する渉外担当あるいはアドバイザーとして行動すること。
•FIS が指定した大会の望ましい医療サービスを促進すること。
•大会中に起こり得る医療問題について高い見識を持つこと。
•組織委員会に勧告ができるよう、大会事業計画(ロジスティック)やスケジュールの「流
れ」(運用)について高い見識を持つこと。
2.2 組織上の立場
•競技開始の数日前(トレーニング中)から、可能なら競技の全期間に現地に入ること。
•アドバイザーや FIS スタッフとして、日々の事業計画への同意を、組織委員会とともに
集約すること。
•大会前後を通じて、アンチドービングコントロールの事業促進をアンチドーピング機関
とともに集約すること。スーパーバイザーは直接ドービングコントロールあるいは血液
検査には関わらないが、これらの要件の適切な実行ができるよう事業を行う。
2.3 大会前の準備事項
•大会に関わる全ての医療支援サービス、安全問題、アンチドービング活動の計画、準備
および実行のための FIS 認定ガイドラインについて、大会組織委員会と情報交換するこ
と。
•FIS ガイドラインが完全に取り入れられていることを確認するため、また施設の構成、
場所および利用状況を把握するため、現地訪問や医療用チェックリストを完成すること
を約束すること。
•全医療支援サービスとアンチドーピングコントロールの事業内容と実行について、大会
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前のチームドクターミーティングで積極的に話し合うこと。
•大会、セレモニー、表彰式およびメディア対応といった全ての局面に関わるアンチドー
ピング事業について確認すること。
2.4 大会中の実施事項
•大会でサービスを提供している全ての機関の間に立って促進役や問題解決人として行
動すること。
•大会期間中、全ての FIS オフィシャルと一緒に緊密な連携を維持すること。
•医療、安全問題およびアンチドーピングの規定に関して、FIS 及び WADA 規定の実行
と促進の責任をもつこと。
•FIS 及び WADA の規定にない、どのような医療あるいはアンチドーピングの問題に関
しても、直接レースディレクター/TD と話し合うこと。
2.5 大会後の報告事項
メディカルスーパーバイザーは、大会前の検討事項、事前の現地訪問、大会中の全ての
医療サービス、公式トレーニングや競技中に継続した外傷、および大会期間中に起こった
アンチドーピング活動または問題について、詳細を含めた広範囲の報告書を提供する。こ
の報告書は以下に送付される:
•FIS 事務総長
•FIS 医事委員会および医事委員会委員
•大会の組織委員会
3.医療・救助サービス責任者の役割
医療・救助サービス責任者は大会で提供される全医療サービスの指揮をとり、調整する
責任がある。医療・救助サービス責任者は組織委員会の一員であり、大会に関連した医療
問題を委員会に報告する。医療・救助サービス責任者は救急医療、トリアージおよび避難
過程に対して有能なチームのリーダーである。委員長とそのチームは、大会に重要な全て
のシステムの実行過程に精通しており、またそのスポーツによって起こり得る外傷や事故
に関しても高い見識を持っていなければならない。
チームドクターは、エリア内の医療サービス、専門医の名前、チームの治療のために受
け取れる薬、医療機関の電話番号と、大会主催国やエリアの特定の医療規定についての情
報を得るため、医療・救助サービス責任者と連絡をとるべきとする。
チームドクターは、選手やスタッフに最高の医療環境を提供できるよう援助するが、大
会組織委員会(OC)の一員ではない。
医療上の問題を組織委員会へ訴えるのはチームドクターの任務ではない。全ての医療上
および組織的問題については、チームドクターは医療・救助サービス責任者に報告するべ
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きである。
3.1 医療・救助サービス責任者の責任事項
•大会で必要な医療用設備と資源の概要の作成
•負傷した選手の避難計画の立ち上げ – 競技場内のあらゆる場所における、受傷部位か
ら最初のトリアージ、さらに病院あるいは必要なら外傷センターへの搬送まで。
•避難計画を支援するための、全ての必要な施設、医療資源とスタッフの確保と調整
•一つ以上の主要な避難処置が実行された場合の、予備となる運営可能な計画やシステム
の作成
•推定観衆の規模に基づいて大会の訪問者や観客のための別個の計画及びスタッフの設
置
•スタッフの役割と責任を具体的に明確にし、全関係者にその内容をきちんと伝えること
•組織委員会と大会スタッフが一緒になって、緊急医療計画を確認し、大会にける他の局
面との相互の影響について議論すること– コミュニケーションプロトコル(共通語)を
明らかにすること
•また全ての医療計画を、最初のキャプテンミーティングで全コーチとチーム医療スタッ
フと確認すべきである。この時に医療・救助サービス責任者は、詳しい避難医療計画を
全チームドクターや医療スタッフと確認するオリエンテーションのために、具体的なメ
ディカル・ミーティングを開催すべきである。
•医療・救助サービス責任者は、技術代表が公式トレーニングや競技中に起こった外傷や
事故を記録するのを支援するべきであり、特におのおのの受傷した選手のための FIS 受
傷報告書を完成することを手伝うべきである。
医療・救助サービス責任者は、全ての医療あるいは医療関連の組織的問題について、チ
ームドクターが最初に連絡を取る者とする。医療・救助サービス責任者は通常、医師であ
るべきである。もし医療・救助サービス責任者が医師でない場合、チームドクターが責任
を持って大会のアドバイザーとして任命されるべきである。
チームドクターにとってチームキャプテンミーティングに出席することは、組織委員会
委員や他の大会役員たちと個人的な連絡の交換ができる良い機会になるので、非常に有益
である。チームキャプテンミーティングはコミュニケーションチャンネルを最大限に活用
できる最高の場である。
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4.スキーチームの遠征に帯同する医師
4.スキーチームの遠征に帯同する医師 〜役割と責任〜
4.1
チームドクター
チームドクターは、選手の健康管理において選手、理学療法士、トレーナーやコーチ
らに対し最大限のアドバイスを行う。この仕事は、責任重大で、かつしばしば時間に追
われる状況にあるため困難なときもあるが、とてもやりがいのあるものである。そして、
重大な場面でプレッシャーの中、選手の健康状態や能力に関して、トレーニングや競技
に対する決断を余儀なくされる。その決断は、選手だけではなく、そこに関わる多くの
人たちにも影響しうる。チームドクターの最大の目標は、最善の医療により、選手たち
の健康を安全かつ長期的に保つことである。
この目標を達成するにあたって、チームドクターは幅広い医療知識を持つ必要があり、
さらに選手に最善の医療行為や管理を提供するために様々な専門家との関係を持つ必要
がある。チームドクターは、外傷、筋骨格系障害およびスポーツ外傷に対し、広く実用
的な知識を持つべきである。慢性的な障害や外傷、病気に対して医学的な管理を適切に
行うために、チームドクターはチームやサポートスタッフおよび選手個人の協力を得な
がら十分な時間を費やし、合宿や競技会場といった現場でサポートを行うべきである。
このような関係作りは、スポーツ現場における医療知識の普及に役立つ。
4.2
大会における規則と競技会場における安全手順
チームドクターは遠征中に、選手やスタッフに医療行為を行う。ドクターはそれぞれ
に様々な経験から、会場での医療スタッフと医療規則について議論するだけでなく、大
会関係者と現地の医療支援の改善点について議論することが重要である。チームスタッ
フ緊急処置プロトコル(付録1)は、緊急時に関係者全員が医療行為を行えるように、
情報を編成しておくことが重要である。大会規則の概略の把握だけでなく、トレーニン
グ中の緊急時の対応に関し、チームスタッフ内で役割を決めておくことも役に立つ。
チームドクターは言葉の壁をなくすことにより、選手の治療や既往歴を確認する上で
とても役に立つ。大会中のプロトコルでチームドクターの役割と責任を明確に定義する
ことは、事故が起こった際に医療行為の調整がしやすくなる。チームドクターは、より
深刻な場面で第一対応者とともに選手に診療を行うことができる。これを実行するため、
チームドクターは競技会場では身分証を携帯している必要がある。
4.3
合宿と大会におけるチームの緊急時行動計画
スタッフの変更や大会期間中の一部あるいは全てに欠員が出る場合、包括的な緊急時
実行計画を作成・設置することが必要である。チームドクターは、医療スタッフがいる
場合と、いない場合の計画の製作をアドバイスすることができる。実際には緊急時にお
いて、どのスタッフがどの責任を持つのか、全体として効率よく機能的に行動できるか
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を討議する。傷害が起こった時に所在や連絡方法、病院への受診等を明確にするため、
チームの全部門で緊急時実行計画が作成されるべきである。
4.4
チームドクターによる健康に関する配慮
年に1回の健診・スクリーニングの推奨
全ての選手は、年に1回はメディカルチェックとして、既往歴、内科的診察、整形外
科的診察、血液検査、安静時と負荷時の心拍数や血圧測定・心電図検査を受け、過去の
検査とも比較してスクリーニングを行うべきである。さらに2、3年ごとに、直近のシ
ーズンの傷害への検査に加え、胸部レントゲン撮影や呼吸機能検査も行うことを推奨す
る。これらの検査は、傷害のリスクや健康状態、慢性的な疾患を評価するためにシーズ
ンオフの早い時期に受け、見つかった問題に対し十分な時間を費やすべきである。最も
重要なことは、選手やコーチ、トレーナー、チームドクター間で、問題解決に向けての
情報交換や治療プランの調整が行われていくことである。
傷害からの医学的・機能的復帰許可
傷害から復帰するには、いかなる選手も診察や機能的評価でトレーニングへの復帰許
可を得る必要がある。検査は傷害や選手の競技特性による。最初の復帰許可では、コン
ディショニングや競技に合わせた軽度なトレーニングに限定し、練習を続けていくうち
に徐々に、高いレベルの練習へと上げていく。完全復帰の許可は、回復状況を見ながら
決定される。プロトコルは、選手が最高の状態で完全復帰ができるよう、ドクターとチ
ームメディカルスタッフ、コーチの間で決定していく。
4.5
推奨される免疫状況
免疫は一般的な健康管理の重要な要素で、学校のシステムから離れた選手でしばしば
見落とされている。発展途上国ではまだワクチンでは防ぎきれない感染症があるため、
広く世界を飛び回るには大きな問題となる。
世界中の全ての地域における推奨される免疫をリスト化するのは難しく、年齢や健康
状態、遠征先、遠征期間によっても病気のリスクや予防接種の必要性が異なる。以下の
リストは、スキーやスノーボード選手、スタッフがよく訪れる地域で推奨されるワクチ
ンをまとめたものである。
特定の国へ入国する際、法的に必要とされる予防接種は刻々と変化し、予測できない。
詳細な最新の推奨については、WHO(世界保健機関)から得ることができる:
www.who.org.
ワクチンの副作用はまれであり、一般的には全身的なものよりはむしろ局所的なもの
である。重篤なアレルギー反応の既往は、ワクチンに対する唯一の絶対的禁忌である。
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しかし、経口ポリオ、黄熱病、水痘・帯状疱疹、麻疹や流行性耳下腺炎、風疹のような
弱毒生ワクチンは、免疫不全や妊娠中の患者には禁忌である。
破傷風とジフテリア – この種の病気を子供の時に発症した人は、破傷風・ジフテリア
(Td)の予防接種を10年に1回受けるべきである。外科的処置や裂傷を縫合した既
往がある人は予防接種を受けている可能性がある。過去数年にジフテリアのアウトブ
レイク(感染症の集団発生、パンデミックとも言う)が、ロシア、アルバニア、ドミ
ニカ共和国、ブラジル、エクアドルとアジア、アフリカ地方の国々で起こっている。
インフルエンザ – これらのウイルスは毎年、南半球や北半球で、それぞれの冬に流行
する。高齢者や免疫不全の者らに罹患率と死亡率が高い深刻な病気である。しかしな
がら選手の免疫システムには、厳しい練習やストレスによってかなりの負担がかかっ
ている。それゆえ、年に1回(遠征の状況によって可能であれば1回以上)の予防接
種を受けることが高く推奨される。
A 型肝炎 – 発展途上国特有のウイルス性疾患である。アメリカ合衆国、カナダ、西ヨ
ーロッパ、日本、オーストラリア、ニュージーランド以外の国へ出る場合には予防接
種を受けることが推奨される。衛生設備の基準が低い地域で有病率が高い。遠征する
者は汚染された水や食べ物を摂取するリスクがあり、水は沸騰、料理は 85 度以上で最
低1分間加熱することでウイルスを不活性化することができる。ワクチンは2回に分
けて接種し、最初のワクチンを受けてから6〜12ヶ月後に2回目を受ける。抗体は
最初のワクチンから2〜4週後に発現する。
B 型肝炎 – このウイルス感染は罹患率と死亡率が高く問題である。全ての人に B 型
肝炎ワクチンを接種することが、この病気を効果的に制御するために推奨される。遠
征中、リスクが高い人(医療従事者や、新しいパートナーと性的接触を持つ者)や流
行地域で医療又は歯科処置が必要な者には一般的に推奨される。新生児や2歳以下の
子供には通常予防接種を行う。これは3回に分け0ヶ月、1〜4ヶ月、6〜18ヶ月
に接種を行っている。
麻疹 – 遠征する全ての者に、麻疹に対して確実に免疫があることが高く推奨されてい
る。初回のワクチンは小児期に行われていて、次に高校あるいは大学の入学時に2回
目が行われている。1957 年以降に生まれた者で、まだ2回の麻疹のワクチン接種を受
けておらず、麻疹に対する抗体価が上がっていない者は、遠征前にワクチンを接種す
るべきである。海外遠征する者は2回の予防接種を1ヶ月の間隔をあけて受ける必要
がある。
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風疹 – 風疹は世界中の多くの国における風土病であり現在も流行中である。海外遠征
する者は、抗体価または1歳の誕生日以降のワクチン接種の証明書を通じて、風疹に
対する免疫獲得を確認しておくべきである。
ポリオ(急性灰白髄炎)–
ポリオ(急性灰白髄炎) 世界的には、ほぼ根絶されている。この予防接種は、ポリ
オがまだ完全に根絶されていない第三世界諸国へ遠征する者に受けるように推奨され
る。2種類のワクチンがある:OPV – 成人用で一回服用型の経口弱毒生ワクチン、IPV
– 2回の注射を4週の間隔をあけ受ける不活化ワクチンである。最初のワクチンを小
児期に受けた者で、ポリオウイルスに暴露される危険がある地方へ遠征する場合は、
注射型の予防接種を受ける必要があるかもしれない。
水痘帯状疱疹 – このウイルスは小児期にかかる水疱瘡として知られている。成人が感
染すると合併症により罹患率や死亡率が高くなることから、さらなる健康リスクにさ
らされる。小児期の水疱瘡の既往は、免疫獲得の目安になる。もし不安である場合は、
血清学的検査によって確認することができる。また、免疫がない場合は、成人用の新
しいワクチンを接種することを推奨する。これは、1、2か月の間隔をあけ2回に分
けて接種するワクチンである。
4.6
選手の健康維持のために推奨されること
国際大会での成績を追求する中で、選手はあらゆる手段を講じるべきである。可能な
限り、全ての不安要素を排除するべきである;選手は全てにおいて先を見据え、行動し
なければならない。病気に罹患してしまうと数日から一週間程の練習を無駄にしてしま
い、最悪、大事な競技会を欠場してしまうことになりうる。体調不良が長引けば、シー
ズンの大半の練習、あるいは競技会を無駄にし、これまでの経歴を台無しにすることも
ありうる。
睡眠 – 睡眠による休養は、他にかえられない。夜間に8時間以上の睡眠をとる事と、
厳しい練習や大会期間中には昼寝も入れるようにする。
水分補給 – 適切な水分補給は、短期的にも長期的にもパフォーマンスと健康に極めて
重要である。
栄養摂取 – エネルギー消費に対して、十分な栄養素を取れていないと身体はエネルギ
ーを補充できず、病気に罹りやすくなってしまう。ハードなトレーニングや大会期間
15
中には、普段の食事に合わせビタミンやミネラルといったサプリメントを栄養補助と
して摂ることを考えるべきである。1
適切な回復時間・休養 – 時間は、体調回復の最も重要な因子である。精神的及び肉体
的ストレスは病気に罹患しやすくする。心身ともにリラックスするために十分な時間
を取るようにする。
暖かく、乾燥していること〜練習後のシャワー-練習後はシャワーを浴び、汗で濡れ
暖かく、乾燥していること〜練習後のシャワー
た服から乾いた服へ着替える。
常識 – 飲み物や食器の共有、キスなどをする時は有病者との接触は避け、病気の選手
は隔離するように注意する。十分に換気されていない公共の場での長時間にわたる滞
在や、一晩あるいは二日以上徹夜が続くとき、激しい練習や競技会あるいは遠征の予
定がある時は十分に健康に配慮する。手を洗う!
手を洗う!病原菌は手から顔や鼻、目や口など
手を洗う!
を通じ体内に侵入する。
苦しまない 〜適切な治療方法を探す〜 予防対策を取っていながらも、選手が病気に
罹ってしまったら、診断結果から適切な治療が行えるよう配慮するべきである。早期
に対応することで、病気で苦しむことや、慢性疾患を長引かせることを避ける。
警告サイン – 病気の可能性がある以下の「ヒント」に十分な注意を払い、練習や日常
生活に適切な処置が必要である。
•
疲労、目のかゆみ、くしゃみ、鼻詰まり
•
急な疲労感、眠気や不機嫌、短気
•
フラフラする、やる気が起きない
•
全身の痛みや異常な筋肉痛
•
異常な発汗
•
喉の渇き、喉の痛み
•
急な体重の増減、食欲の減少
サプリメントを使用する際の特別な注意事項。全てのサプリメントが厳密に規定に沿
って製造されているわけではないので、表示されていない物質でアンチドーピングの規
定に反するものが含まれている恐れがある。そのため選手がダイエットサプリメントを
使用するときは、十分な注意が必要である。サプリメントの誤用により、ドーピング検
査で陽性となった症例が多く報告されており、そのようなサプリメントの使用はラベル
表示が徹底されていないからといって聴聞会での言い訳にはならない。
(資料:WADA)
1
16
病気になった際のトレーニング負荷の調整:
ウイルス性疾患あるいは細菌感染の時、あらゆる代謝(運動)は病気からの回復を
妨げる。特に急性期の時に、これは重要である。急性期を過ぎれば、軽い運動は回復
の促進に繋がる。経過を見ることにより、体調に合わせたトレーニング負荷の参考と
する。
疲労:特徴的な症状はないが、そのトレーニングレベルにおいて過労を感じる。
―トレーニング量を少なくし、強度なトレーニングを1、2日間避ける。また、
完全休養も考慮する。
風邪・上気道感染症:軽度の水溶性鼻汁や鼻閉、その他特定の症状なし
―1、2日の休養;体調をみつつ、もう1日休むことも考える。
水溶性鼻汁や鼻閉の症状の増加、(軽度の)喉の痒みや痛み
―最低2日は休み、3日目に症状の再評価をする。
ハードな練習は1週間ほど控え、練習量も減らす。
風邪:典型的な風邪、熱は出るときもあればない時もある。
―急性期症状(発熱・寒気、頭重感や頭痛)の間はトレーニングを中止する。軽
い有酸素運動などからトレーニングを再開する。厳しいトレーニングは完全に回
復するまでしてはならない。
インフルエンザのような頭痛、体の痛み、熱や寒気、喉の痛み(有るときも無いと
きもある)、咳等。
―急性期の間(熱が下がり、咳が落ち着くまで)はトレーニングを避け、急性期
を過ぎたら回復ガイドラインに従う。
4.7
遠征における配慮
冬季スポーツのトレーニングや競技会への参加は、多くの国内外の遠征を要する。移
動は、更なるストレスを与えることになる―これにより体は順応しようとするが、免疫
組織には負担になる。トレーニング、外国の食品、睡眠パターンの変化、「新しい」細
菌への暴露等々の更なるストレスが加わる。これらを踏まえ、選手はストレスを可能な
限り最小限に抑えるために、先見的に行動しなければならない。上記で示されたものに
加え、選手は海外で病気になった時のために、使い慣れた常備薬やサプリメントを持っ
ていくことを推奨する。選手は病気が軽度なうちに治療を開始し、症状を悪化させるの
を防ぎ、外国の地で必要な薬を探す手間を避けるため、自宅から常備薬を持参すること
17
を考慮するべきである。チームドクターは、一般的な風邪や上気道感染に対する推奨薬
を個人で持ってきてもらうようにリストを提供し、チームを支援する。
適切な水分補給の推奨
4.8
脱水は多くの要因から発生し、トレーニングや飛行機での移動、標高や(暑さや寒さ
に関係なく)乾燥した気候といった様々なメカニズムから消費される水分に対して、摂
取量が不十分であることである。脱水では通常、電解質も水と共に失われる。水分は、
補うべき重要な要素ではあるが、電解質の補充(体液の塩分 –ナトリウム、カリウム–)
も同様に重要である。脱水は、疲労や頭痛、粘膜の乾燥、鼻出血、喉の痛み、目の乾燥
と痒みの原因になる。これらの症状は粘液の過剰生産や粘膜の腫れを引き起こし、結果
として鼻閉や軽度の上気道感染の原因となる。
水と電解質の吸収を(ただ体内を通過するだけではなく)最大限する方法は、様々な
種類の水分を摂取することである。
例:
•
水(極端に純水でなく – 自然湧水又は水道水が最適)
•
スポーツ飲料(糖分、電解質と一緒に)
•
スープ
•
フルーツジュース
•
新鮮な果物
•
ホットチョコレート
•
ハーブ茶(ノンカフェイン)
•
ミルクシェイク
(コカコーラや紅茶、コーヒー等に含まれる)カフェインやアルコールの摂取は制限
するか、避けるようにする – これらには利尿作用があるため、体内の水分が失われる。
もし長距離の移動、又は脱水の危険が高まる環境へ遠征する時は、移動する前に十分
な水分補給をし、移動中や行き先で十分に水分を確保する。喉の渇きはすでに脱水にな
っている証拠である – 脱水の徴候や症状が一度でも出てからでは、すでに遅すぎるので
ある。
水分・電解質の補充の一般的推奨:
通常必要な水分量 2〜3リットル/日
競技場練習 競技場に滞在する1時間毎に、250ml
– 水半分、スポーツ飲料半分(多糖類、果糖電解質の混合)
典型的な4時間の競技場のセッションでは半リットル(1/2 ℓ)を:
•
標高が2000m を超えるとき、
•
気候が暖かく、晴れているとき、
18
•
湿度が60%以下のとき
鉄分の状態と不足
4.9
(クロスカントリー選手のための FIS 栄養ガイド参考)
鉄分の状態は選手の活動量にとても重要な要素である。鉄分には3つの主要機能があ
る:
•
酸素の運送(ヘモグロビン)と貯蔵(ミオグロビン)
•
エネルギー生産と細胞拡散
•
免疫や中枢神経系における機能的役割
鉄分(Fe)不足は女性の栄養不足の中で最も多い。また負荷のかかる練習をこなす選
手たちにもよく見られる栄養問題として報告され、男女関係なく様々なスポーツ選手に
見られる。鉄分不足は直接、有酸素運動や多くの無酸素運動時の回復に影響する。また
積極的休養や一晩の休養のような低級回復比率にも影響する。高地への暴露は、鉄欠乏
性貧血の選手には特に困難である。このような状況で標高に適応するのは難しい。
鉄分不足は通常、三つのステージに分類できると言われている。ステージ1では、貯
蔵鉄が減少し、血清フェリチン値が低い。従来貯蔵鉄が減少しても機能障害は起きない
とされていたが、鉄分が減少した選手がサプリメントを摂り、食事による摂取量を補う
と、トレーニングの適応力が改善されるといった新しいデータが示された。しかし、鉄
分の減少から主に懸念されているのはステージ2(鉄欠乏)への進行である。実際に、
各季節におけるトレーニング強度と量の変化が鉄欠乏のステージ2へと進行する危険性
を高めてしまうことが女性選手に多いといった報告がある。運動量が減り、激しい疲労
を感じるなどの症状は、ステージ2の表れであり、これは血清鉄の低下やトランスフェ
リン飽和濃度の減少、血清フェリチンの低下によって判定できる。ステージ3の鉄欠乏
性貧血は、ヘモグロビンやヘマトクリット値の減少が起こる最も深刻なステージとされ、
運動量の低下や回復の遅延、易感染性はこのステージの明白な徴候と症状である。
19
鉄分の減少、不足および貧血の診断におけるパラメーター
4.9.1
ステージ
鉄分値の変化
血中フェリチン
ヘモグロビン
(mcg/l)
mcg/l)
(g/dl)
g/dl)
トランスフェ
リン飽和
(% )
通常の貯蔵鉄
全ての鉄分値は通常範
>30
>12
12−40
<30
通常範囲内の
20−40
囲内
ステージ1
低フェリチン、通常よ
り高い血中トランスフ
減少
モグロビン
ェリン飽和濃度、通常
のヘモグロビンとヘマ
トクリット値
ステージ2
鉄欠乏
低フェリチン、低トラ
<12
通常範囲内の
<16−20
ヘモグロビン
ンスフェリン、低血清
鉄、減少したトランス
フェリン飽和濃度、赤
血球プロトポルフィリ
ンの増加、通常のヘモ
グロビン
ステージ3
鉄欠乏性貧血
低ヘモグロビン、低色
<10
<12
<16
素性、小球性、赤血球、
平均赤血球容積の減
少、低ヘマトクリット、
低血清鉄、低トランス
フェリンとトランスフ
ェリン飽和濃度
値に影響する要因:脱水、炎症、(悪性)腫瘍、感染、急激な運動、長時間の激しい運動
鉄欠乏性貧血の選手は選手全体の割合としては低いが(3%)、鉄分減少は 37%の
選手(男女共)に認め、持久系スポーツや女性、青年期の選手に関しては、スポーツ
20
の種類やトレーニング強度に関係なく鉄分減少の選手の割合が高くなる。クロスカン
トリー選手においては鉄分が減少(血清フェリチン値 <20-30 mg/dL)した選手は 42
〜50%の割合と報告されている。しかし、これらのデータは 1980 年代のものであり、
鉄分サプリメントが近年のように日常的に活用されていない時代に報告されたもので
ある。鉄分サプリメント摂取はエリート選手の中で鉄分減少や欠乏を防ぐためや、高
地トレーニングの適応化のために一般的に行われている。IOC の研究(全研究参加者
74%)から鉄分減少の選手が少なくなっていることが判明したのも、鉄分サプリメン
トの使用頻度が高くなったからと考えられる。
鉄分の恒常性を保つことは、様々な選手において普段の練習へ取り組むためにも大
きな問題である。これまでにも鉄分減少の原因については様々な報告があるが、どれ
も医学的に状況を完全に説明出来ていない。例えば、過度な汗をかく、消化管出血、
機械的損傷、鉄分吸収不全などが原因とされている。その他の原因として、月経期間
中の過度な出血、成長期、食事による鉄分摂取不十分や、血液量の増加などがある。
4.9.2 推奨される治療法
治療は貯蔵鉄を正常化することを目標とし、おおよそ6週間かかるが、各選手、遺
伝的要素や練習負荷、標高や食事によって様々である。治療は、吸収されやすい鉄分
の食事による摂取量の増加や鉄分サプリメントの摂取であり、また出血量を減らすこ
と(例:月経による損失)も試みる。鉄分サプリメントを摂取中は、フェリチンの量
を監視することが重要である。選手はフェリチンの量を、最初の摂取日から6〜8週
間毎に検査を繰り返し、摂取期間を計画するべきである。
45〜60mg の鉄が含まれる鉄分サプリメントは、コップ一杯のオレンジジュースと一
緒に服用されるべきである。食べ物やその他のマルチビタミン、ミネラル剤が鉄分の
吸収を阻害する可能性があるため、鉄分サプリメントは食事 30 分前、または後に摂取
するべきである。鉄分サプリメントの副作用の一つに便秘があるため、サプリメント
服用期間中は十分な水分摂取とともに高度な食物線維食を摂取する必要がある。もし
便秘が続く場合、選手はサプリメントを2日に1回の服用とするべきである。
食品から得られる鉄分量は、鉄分の摂取量だけではなく、生物学的利用能や食事の
構成によっても異なる。鉄分は2種類の形態で食べ物に存在する:ヘムと非ヘム鉄で
ある。ヘム鉄は主に動物製品に含まれ、豚肉やレバー、家禽食品、魚から 30〜40%、
牛や羊、鶏肉から 50〜60%含まれている。非ヘム鉄は野菜や穀物、果物のような農産
物に含まれており、また、肉や魚、栄養強化食品、液体鉄分サプリメントにも非ヘム
鉄は含まれている。これら全てを摂取するのには、限界がある。
一緒に摂取した食べ物によって、鉄分の吸収量が明らかに変化することが非ヘム鉄
の特徴である。ビタミン C と肉類や鶏肉、魚に含まれるヘム鉄は非ヘム鉄の吸収を4
21
倍に増やす食事の要素である。食事中のこれらの物質の量が増えると、非ヘム鉄の吸
収も増加する。食事中にこれらの促進食物が入っていないと、非ヘム鉄の吸収量はと
ても低くなる。鉄分の運送と競合するミネラルが豊富な食べ物(例えば、亜鉛やカル
シウム、マンガン)は、鉄分の吸収を減少させてしまう。さらに、非ヘム鉄の利用を
減少させてしまう多数の抑制物質がある。下の表は鉄の吸収の促進効果と抑制効果を
示す物質のリストである。促進物質が豊富な時は、鉄分不足の人の非ヘム鉄吸収が最
大 20%まで上がる。促進物質の欠如あるいは抑制物質の含有が高い食事は、非ヘムの
吸収を2%まで減らしてしまう。
4.9.3
鉄分吸収を促進する、または抑制する因子
鉄吸収促進物質
例
鉄吸収抑制物質
例
ビタミン C が豊富
柑橘系果実とジュ
フィチン酸
穀物、豆類、大豆
な食べ物
ース
発酵食品
味噌、ザワークラウ
(低 pH 値)
ト
ヘム鉄
肉類、魚、家禽食
製品
タンニン
ーブ茶、ココア
カルシウム
品
有機酸
アルコール
紅茶、コーヒー、ハ
牛乳、チーズ、ヨー
グルト
クエン酸と酒石酸
ビール、ワイン、リ
植物タンパク質由
大豆タンパク質、豆
来のペプチド
類、ナッツ類
シュウ酸
ルバーブ、苺
キュール
選手やコーチ、スポーツ科学者たち全員が、パフォーマンス向上のために、最適な
ヘモグロビン値とヘマトクリット値を知りたいと考えているが残念ながら、この問題
の答えは出ていない。血液ドーピングは違法であり健康に危険を与えるが、(クロス
カントリーを含む)いくつかのスポーツでは、しばしば行われている。過剰な鉄の貯
蔵(血清フェリチン高値)は心臓病、脳卒中、肝硬変、糖尿病のリスクを高めるため、
選手やサポートスタッフは鉄サプリメントの大量摂取に十分注意しなければならない。
従って、女性クロスカントリー選手は血清フェリチンのレベルを 35〜200 mcg/l の間
に保つことを推奨し、鉄の状態をモニターすることなく鉄分サプリメントを使用する
べきではない。
22
4.10
女性競技者の三徴
(クロスカントリー選手のための FIS 栄養ガイド参考)
女性競技者の三徴(TRIAD)は、摂食障害、無月経(月経周期の欠落)、骨粗しょう
症(骨量の低下)から成り、1990 年代初頭に初めて認識されるようになった。今日 TRIAD
のそれぞれの疾患が慢性化すると、TRIAD が無症状または重症でなくても、女性競技者
のパフォーマンスや健康に影響を及ぼすとされている。最近の IOC の「女性競技者の三
徴についての声明」は、IOC ウェブサイトから確認できる。
4.10.1 スクリーニングと評価
スクリーニングと評価は、女性選手のトレーニング前の身体的評価に不可である。
もし選手に三徴(TRIAD)の1つでも認めた場合は、他についてもスクリーニングを
受けるべきである。スクリーニングの詳細に関してはクロスカントリー選手のための
FIS 栄養ガイドの付録Fを参照;神経性食思不振症や神経性過食症の徴候と症状もまた
記載されている。
選手の近くにいる者(コーチ、理学療法士、トレーナー、チームメイト)が、摂食
障害や TRIAD の警告サインを、見逃さないのが重要である。神経性食思不振症の行動
や身体的特徴は神経性過食症よりも気づくことが簡単である。トレーニング強度の急
激な変化など、心身がもろい時期に特徴が表面化しやすくなる。一方で、1つないし
2つくらいの身体的症状や行動的特徴を持つ選手が、決して摂食障害または TRIAD で
あるという訳ではないが、進行するリスクがあるのは確かである。
1度でも選手に TRIAD の1つあるいはそれ以上の疾患が検出された場合、治療チー
ムに紹介し直ちに対応を行う必要がある。TRIAD 治療チーム(医者、栄養士、心理学
者、生理学者)の範囲は、選手の障害の重症度に基づいて決定していく。チームドク
ターには、他の基礎疾患の鑑別をするために更なる検査を要するかもしれない。一般
的に選手を全てのチーム練習や競技会から外す必要はないが、選手の TRIAD の重症度
や他のチームメイトへの影響にもよる。選手は、調整したトレーニング計画でチーム
の一員であるまま、一貫した治療を受けられることが最適である。トレーニングや競
技会への復帰は、まずは治療の成功と医師の判断によって決められる。スタッフある
いはコーチが治療過程に関わることは、コーチと選手の関係を築くだけでなく、関係
者にも学習の機会になるため勧められる。選手と密に接し続けることは、特に摂食障
害の引き金となる要因がたくさんあるときにはコーチ‐選手関係のためにも重要な好
機となりうる。(以下の例を参照)
23
4.10.2 予防策
女性選手と一緒に働くスタッフにとって、摂食障害の引き金要因を理解することは
必須である。
摂食障害の引き金要因
•
急な練習負荷の増加(量または強度)
•
種目特性のトレーニングの早期開始
•
早期ダイエット行動
•
トラウマになる出来事(愛する人の死亡、ケガ、あるいはコーチの死亡)
選手の中には、体重や体脂肪を減らすことを気にすることからで摂食障害へ伸展
する例がしばしばみられる。しかし、コーチや同僚、科学者から選手への言葉の伝
わり方で引き起こされることのほうが多いかもしれない(例えば、使われた言葉や
状況、選手が減量を目的としていたかどうか)。女性選手の中には、競技外の友人
やアイドルといった、選手ではない女性との比較により減量を自身に課すこともあ
る。その他の重要な要因として選手には急激な、あるいはある一定期間の減量を強
いられることもしばしば見受けられる。これが頻繁な体重増減を導き、摂食障害の
引き金要因へと繋がる。もし、選手に減量が必要になった場合、主要な準備期間へ
の移行期であるオフシーズンを選ぶべきである。減量の計画は選手一人で行わせず、
特に高い練習量や強度の間に減量を達成しなければならない時は、栄養士と協力を
しながら行われるべきである。
TRIAD の予防として、安全で有効な練習環境を確保することは女性選手と活動し
ていく上で最優先されるべきことである。TRIAD についての教育は、その有病率を
減らすための有効な手段である。教育は選手、コーチ、保護者に直接向けられ、摂
食障害や成長と発達について、体重や体組成、健康状態、運動パフォーマンスと練
習や競技会のための栄養補給の関係性といった内容を中心に行うべきである。
細身よりも強さと健康に重点を置き、若年の女性選手の練習時の心理学的側面につ
いても説明するべきである。「どんなことをしても勝利する」のようなメッセージ
はチームの考え方にはしてはいけない。食事のパターンや月経周期、外傷や病気に
加え、パフォーマンスや技術の変化、気分の状態、安静時心拍数、生化学的マーカ
ーをまめに監視することが重要である。
24
4.10.3 女性競技者の三徴に関する語彙集
女性競技者の三徴
女性競技者の
摂食障害、無月経、骨粗鬆症の症候群で、1992年に初
めて確認された。
摂食障害
神経性食思不振症や神経性過食症、摂食障害、他は確認さ
れていない。
障害性摂食
結果的に選手の健康やパフォーマンスに影響し得る異常な
食事形態の広範囲な表現
エネルギーバランス
エネルギー摂取 – エネルギー消費 = 0
低エネルギー利用
運動によるエネルギー消費以下の栄養エネルギー摂取
エネルギー制限
減量した体重を保つために摂取カロリーを抑制する行為
正常な月経
35日より短い定期的な月経周期
無月経
初期:第二次性徴に関係なく、16歳以降の初潮。
第二次:3連続の月経周期の消失、又は年間3周期以下
希発(過少)月経
不規則な月経周期:周期が36日以上、又は年間6〜9周
期以下
骨粗鬆症
骨密度の低下(WHOではYAM値の標準偏差<2.5 )
骨減少(症)
骨密度の低下(WHOではYAM値の標準偏差:1–2.5 )
疲労骨折
骨に対して反復性あるいは長期間の力がかかったことを原
因とする通常は微細な骨の破損
5.青少年や小児のための注意事項
5.青少年や小児のための注意事項
5.1 一般的事項〜身体的、生理的、心理学的〜
一般的事項〜身体的、生理的、心理学的〜
役員やコーチ、教師、保護者は若い選手の身体的、生理的、心理学的能力の個人差に
注意しなければならない。小児期や青年期を通じて身長、体重、筋力や耐久性は大きく
変化、スポーツパフォーマンスの素質も変化する。思春期にはバランスやコーディネー
ションに一時的に変化が生じるため、その間にはパフォーマンスに限界が生じることを
25
認識すべきである。同年代の小児においては体格に大きな差異があることは明らかであ
り、特にこの差異は青年期の男子に特に明らかである。大会への参加の制限基準を決定
する際には、のこれら全ての要因を考慮しなければならない。
•
若い選手に対する十分なケアを行うこと。楽しむことと安全は極めて重要であ
る。
•
疼痛、圧痛、可動域制限や障害を訴える小児、青少年については即座に適切な
専門医を受診する。
•
既往を有する場合(喘息、糖尿病など)には特別な配慮を有する;個々のコン
ディションの限度内で大会参加は奨励されるべきである。
•
全ての練習は適切なウォームアップ後に行われるべきである。
•
若い選手の練習の回数、時間及び負荷はモニターされるべきである。ダメージ
をもたらすほどの頻度は避けるべきである。
•
選手は安全を考慮して定められたルールを尊重しなければならない。用具(バ
インディングやプレートの高さ、スキーの長さや曲率半径など)、プロテクタ
ーや競技自体の条件(地形、コースの長さやタイプ、標高差)は外傷から可能
な限り選手を守るため、若年選手の体格と成熟度に基づいて調整される。
•
競技特異的なプロテクターは推奨される場合には装着するべきである。特に、
バックプロテクターは全競技で全年代の小児に勧められている。ヘルメットの
装着は必須である。
•
日照、標高、寒さ、体感温度などの気候状況には特に対策がとられるべきであ
る。。単位体重当たりの体表面積が相対的に高い若年選手は体温を奪われやす
く、凍傷や低体温症になりやすい。
•
栄養摂取は選手の成長期にとても重要である。摂食障害の徴候に十分に注意し
(青年期に多い)、普段から、練習前、また特に急成長期には十分な栄養摂取
を確保する。
•
練習中の十分な水分補給を確保する。
•
選手の成長と発達(身長、体重、月経など)をモニターする。コーチは才能に
ついての指標を開発し、大器晩成型の才能を見落とさないようにする。
•
成長における絶好の機会を最大限に生かす。例えば、アジリティー、バランス、
協調運動とスピードは6〜9歳の時に学ぶのが最適と言われ、より競技特異的
な技術は10〜12歳で学ぶのが最適である。様々な冬季スポーツ及びその他
の分野のスポーツの両者にまたがって、様々なスポーツへの参加を奨励する。
•
若年選手がスポーツ競技を続けていけるよう、モチベーションを上げる要因を
認識し奨励する – 勝利はしばしば最も重要度の低い要因である。やる気を起
こす要因は、楽しむこと、技術の向上、新しい技術を学ぶこと、友達と一緒に
いること、新しい友達を作ることなどであることが示されている。家族の参加
26
や熱心なリーダーシップの存在も影響力のある重要な要因である。プログラム
は、スポーツのこれらの側面を引き出せるよう調整されるべきである。
5.2
筋骨格系コンディションの管理
青少年の外傷は、成人の骨と成長中の骨との違い、特に成長軟骨の存在により、成人
の外傷とは異なる。
•
骨端線(成長軟骨板)と骨幹端部の間の接合部は捻れ、特にせん断力に弱い。
•
腱付着部(骨端部)は相対的に弱く、炎症や剥離損傷を起こしやすい。
•
長管骨の骨幹部はより弾性があり、不完全な若木骨折を生じる。
•
関節軟骨は小児や青少年ではより厚く、またリモデリングし得る。
若年選手の骨折は以下の 3 群に分類できる:
•
骨幹端骨折 – 若木骨折の治療は通常単純に固定する。他の種類の完全骨折は
大人と同様に治療すべきである。骨癒合は成人よりも早い。
•
骨端線骨折 –通常の成長過程を妨げる危険もあるため、特別な配慮が必要であ
る。比較のために両側のレントゲンを撮影すべきである。慎重な解剖学的整復
が、特に関節内骨折の場合、重要である。しかし、整復が正確であっても長期
的予後が不良なこともある。
•
剥離骨折 – 例えば、前十字靭帯脛骨付着部の剥離骨折は小児では実質部損傷
よりも多くみられる。損傷部位によっては手術的加療が必要とされる。
骨端症と炎症
5.3
この種類の障害は、小児期での発症は珍しいとされていたが、小児のスポーツ外傷の
30〜50%を占めると考えられる。様々な関節外の骨端症は繰り返す張力負荷、すなわち
オーバーユースに関連していると考えられる。これらには、オスグッド・シュラッター
病(脛骨粗面の骨端線で生じる骨軟骨炎)、シンディング・ラーセン・ヨハンソン病(膝
蓋骨の遠位端と膝蓋腱の近位端の接合部に生じる同様の病態)、シーバー病(踵骨のア
キレス腱付着部の骨端症)が含まれる。
基本的な治療とリハビリテーションは以下のごとくである:
•
筋腱のストレッチ
•
局所のアイシング
•
抗炎症薬
•
骨端部のストレスを軽減しつつ、安全に参加しうるアクティビティーへの変更
27
安静は疼痛を軽減することが知られているが、回復過程を速めるという証拠はない。
その他の注意事項
5.4
若年選手に生じる疼痛は外傷によるものであるかもしれないが、その他の病態を除外
することが重要である。
例えば、
股関節痛
•
ペルテス病(4〜10 歳で多い)
•
大腿骨頭すべり症(12〜15 歳で多い)
膝関節痛
•
オスグッド・シュラッター病
•
シンディング・ラーセン・ヨハンソン病
股関節病変 – 股関節の検査は膝関節痛を訴える若年選手の評価には必須である。
5.5
一般的な小児福祉
良好な運動指導のガイドライン、及び小児(18歳未満の選手 – この定義は国ごとに
様々である)の保護と福祉のための国の政策が定められるべきである。
政策は良い指導方法と、スポーツ内外で起こりうる虐待に対する認識についてのセク
ションを含むべきである。
虐待は身体的、感情的、性的、又はネグレクトの 4 つの形態のうちの1つ、もしくは
複数をとる。スポーツにおける小児虐待は、技術指導時の不適切な接触、過度の身体負
荷を与える不適切なトレーニング方法、小児に対する指導時の身体的あるいは感情的攻
撃から、年少者への性的暴行や性行為まで及ぶ。
いじめの対象になっている若年選手の一般的な兆候と症状の出現を認識することはと
ても重要である – これらは、予想外のパフォーマンスの低下から、うつや集中力の低下
などの行動の変化、頻繁な所有物の損失などが含まれる。いじめは身体的、又は言葉・
感情的虐待の形で行われうる。
全ての虐待の形態は、対象となる小児の長期的問題に発展することがあり、その認識
と適切な管理(警察や社会福祉機関などへの紹介など)が必要である。これらの問題に
ついての報告機構が設置されるべきである。
国のガイドラインの一部として導入された身元調査によって、過去に虐待を犯した個
人の小児へのアクセスを防止する利点があるかもしれない。
28
6.チームドクター、薬および医療行為に関する事項(遠征時
6.チームドクター、薬および医療行為に関する事項(遠征時に持参する薬の法律的状況)
チームドクター、薬および医療行為に関する事項(遠征時に持参する薬の法律的状況)
チームドクターの行為は国と現地の法律、医事役員による規約が適用される。これには
薬の使用や運搬が含まれる。
チームドクターは、医事・救急サービス責任者と国・現地・州の規約を明確にするため
連絡をとることが奨励されている。
7.事故管理
7.事故管理
事故や怪我への対応における主な目標は、命を守り、医療施設へ出来る限り速く搬送す
ることである。これは「ロード・アンド・ゴー」としてよく参照される。介入の範囲は事
故が起こった場所や、医療や救急搬送の利用可能範囲によって変わる。一番近い外傷セン
ターへ負傷した選手を搬送するのに必要な時間、怪我の内容や程度は、病院到着前の対処
において重要な決断的要素である。病院または外傷センターまでの予想移動時間が 20 分以
内であれば、治療の中心は生命にかかわる状況や搬送の安定化である。また、予想搬送時
間が 20 分以上であれば、さらなる綿密な検査が適切である。
7.1
受傷現場の評価
7.1.1
安全管理 〜コース又は競技場内の正式な入場許可〜
医療スタッフはコース役員、大会医療スタッフ、技術代表またはコーチらから無線
通信で、コース内に入り事故の手当てをするのに安全であることが正式に伝えられる。
コースまたは競技場が閉鎖され安全な状態になるまでは、医療スタッフは事故の現場
に立ち入りしてはならない。これを守らないと医療スタッフや選手、コース上の役員
に深刻な怪我を招く恐れがある。
7.1.2
現場評価
初めて事故に接近する時、現場の評価として医療スタッフは総合的に何が起こった
のか調査するべきである。記録の中心的な項目は以下を含むべきである:
•
現場での安全性-これは必ず確保されなければならない。どのような環境によ
る危険性が存在するのか?評価は患者の位置、気候、視界、競技の継続、コー
スの一時閉鎖、雪崩の危険性、斜面や雪面の地形、障害物など、に基づいて行
われるべきである。
•
一人かそれ以上の患者 – さらなる援助が必要か判断する。
•
適切な搬送手順(スキーパトロール、救急車、ヘリコプター)は、現場評価が
終わり次第すぐに行われるべきである。
•
受傷機転(MOI: Mechanism of injury)– だいたい何が起こったのか。
29
怪我の明白な症状– 反応する・しない、話す・呼吸する、出血、四肢の変形な
•
ど。
もし患者が病院または外傷センターへ搬送される場合は、その施設はただちに
•
患者の全体的状態や致命度、兆候や反応力、名前、年、性別、明確なもしくは
疑われる外傷、怪我した過程、事故の時間や病院への予想到着時刻と競技場内
で完了した処置を通知するべきである。
7.2
受傷者の評価
一般的に事故現場において、現状の評価は、事故現場に到着した時点で患者の全体的
な状況から判断される。その環境の中で行うことのできる手当を生命に関わるどのよう
な状況に対してでも直ちに行い、外傷センターへの搬送の安定化と準備を素早く行う。
通常、患者の評価は二段階で行われる。 –プライマリーサーベイおよびセンカンダリー
サーベイ
7.2.1
•
プライマリーサーベイ
反応の評価– 脊椎損傷の可能性が考えられる;患者の反応を評価するための会
話をしている間、前額部に手を置き、頭部を安定させる。もし患者の反応がな
い場合、言葉での刺激を与えることによる、患者の開眼反応やはっきりとした
動作での反応があるかなど、言葉に対する反応の評価をする。それでも患者の
反応がない又は反応が分かりにくい(はっきりしていない)場合、深刻な外傷
だと判断する。もし患者が言葉の刺激では反応しない場合、耳朶を摘まみ痛み
の刺激を試みる。
•
常に脊椎損傷を念頭におき、特に無反応または反応に変化がある患者には頚椎
の損傷である可能性を考える。頚椎を安定させ、評価および搬送の間も安定化
を維持する。
•
気道、呼吸、循環(ABC’s: Airway, Breathing, and Circulation)の評価と
安定化
1.
気道 –呼吸状態が正常の場合、患者の頭・首を安定させ仰臥位になるよ
う動かすための援助を待機する。もし呼吸をしていない場合、気道を開
けるよう、素早く患者を仰臥位に動かす。最も効果的な方法は、頭部後
屈顎先挙上法である。エアウェイの開通を維持するために、経口もしく
は経鼻のエアウェイを挿入する前に咽頭反射を確認する。患者が喉を詰
まらせた場合は、エアウェイの挿入をしてはならない。
2.
呼吸 – 患者が息をしていない、または有効でない呼吸をしている場合、
人工呼吸を開始する。人工呼吸は5秒間に 1 呼吸(12/min)とし、各呼
吸を2秒間保つべきである。酸素が利用可能になったら直ちに 10 L/min
の高流量の酸素または非再呼吸式マスクのさらなる使用を開始する。
30
3.
循環 – 頚動脈の脈拍を見極める。特に低体温症の患者のかすかな脈も見
逃さないよう45秒までの測定を必ず行う。脈拍は存在するが自発呼吸
がない場合、人工呼吸を続行する。もし脈拍が無い場合、外部からの心
肺蘇生を開始する –60/min の 胸部圧迫を行い、15回目に一度止め2
回人工呼吸を入れる。標高の高いところで行われる心肺蘇生には、追加
の支援が、適切な循環動態を得るための十分な圧迫を継続するためにも
必要になる可能性がある。
4.
AED – 自動体外式除細動器 – 心停止の患者には、AED の使用が可能で実
行するのに安全な環境であれば、直ちに行われるべきである。ほとんど
の AED の使い方は以下のような簡単なステップである:
循環が無いことを確かめる – 10 秒間以上、脈拍なし
胸部を拭き乾燥させる
胸部にパッドをつける – 一つを右上胸部ともう一つを左下側へ
電極ケーブルを AED に繋げる
AED に心拍律動を分析させる又は分析ボタンを押す
全員が患者から離れていることを確認する
AED が表示したら、患者に電気ショックを送る
•
酸素補充
1. 十分な酸素がないと、不十分な酸素が体の細胞へ行き渡る。酸素補充は酸
素の供給を改善し、痛みを和らげ呼吸しやすくする。
人工呼吸
( 16%の酸素の供給
蘇生マスク
( 16%の酸素以外と
50%の補足酸素の供給
バッグバルブマスク ( 21%の酸素以外と
(自動膨張バッグ)
•
100%の補足酸素の供給
重度出血の管理
31
傷から噴き出る又は急な流れの出血は、呼吸停止もしくは心停止など、生命に
関わる可能性が十分にある。傷部を直接圧迫して血液の損失を素早く効果的に
管理する。これは衣服を切って行う可能性もある。動脈駆血帯は一般的に必要
ではないが、もし使用する場合、直接圧迫を継続しながら、5 分ごとに開放し
て、駆血帯が必要か評価すべきである。
7.2.2
セカンダリーサーベイ
ABC’s(気道、呼吸、循環)が安定してからの急速な全身チェック
•
1. 頭部 – 裂創、出血、打撲、瞳孔反射、鼻、耳、口を診る。頭蓋や顔に傷や
変形がないか触診する。
2. 頸部 – 安定を保ちながら、圧痛がないか触診する。
3. 胸部 – 呼吸の異常があるか観察し、創傷の観察と圧痛の触診をする。
4. 腹部・骨盤 –何らかの異常があるか観察する、圧痛があるか触診する。
5. 四肢 – 変形の有無を観察する、循環、運動、感覚をチェックする。
障害(能力欠如)– グラスゴーコーマスケールを含めて神経所見を評価する。
•
意識や反応のレベルを事故発生から搬送されるまでの間記録する。
低温暴露– スキーやスノーボードの典型的な環境から主に懸念されることは
•
低体温症である。患者を毛布や服などで直ちに覆う。また、患者を寒い場所か
ら直ちに移動させる。服を脱がせるのは患者が暖かい場所にいるときだけにす
るべきである。
7.3
ショック
心臓、血管、血液等の循環系は体内の細胞へ酸素を届ける、血液や組織を十分に酸素
化するこのシステムの機能不全は「ショック」と言われている。循環の低下(低血圧)
に伴う組織、特に脳への酸素運搬量の低下に対して体がどのように反応するかを漠然と
表す言葉として表されている。
7.3.1
ショックの症状
•
心拍数が多い(頻脈?)
•
血圧が低い(低血圧?)
•
呼吸が増え、浅い
•
皮膚が冷たく、湿り、赤くなる(時としてスキーやスノーボードにおける環境
下では判断するのは難しい)
•
落ち着きがなく、興奮している。
32
毛細血管の再灌流(循環)の遅れ
•
7.3.2
7.4
搬送されるまでの応急処置
•
ABC’s(気道、呼吸、循環)の確保
•
出血の管理、骨折の安定化
•
気道確保の維持
•
補助酸素の供給
•
低体温症を防ぐため環境から遮断する
•
使用可能であれば、静脈内輪液をおこなう
•
使用可能で呼吸状態が良好であれば、痛みの管理
運搬、情報伝達および書類作成
競技場内での全ての治療は記録され、搬送中に情報伝達されるべきである。患者の意
識レベルや呼吸、循環動態に関しては継続的に監視されなければならない。心臓のモニ
タリング、血液酸素飽和度、血圧は、もし使用可能であれば、運搬中も一定の間隔で監
視、記録されるべきである。治療の時系列を記録して、患者が搬送される病院の外傷チ
ームに情報伝達されるべきである。
7.4.1 状況の無線
状況の無線連絡
無線連絡〜
連絡〜無線 SOAP (Situation, Observation,
Observation, Assessment, Plan)
Plan)
•
場面、場所、受傷機転、病歴
•
所見と最初のバイタルサイン
•
評価と創造される問題点
•
退避計画と必要な追加支援・備品など
8.スキーとスノーボードの環境問題と状況
8.スキーとスノーボードの環境問題と状況
8.1
標高への順応と高山病
スキーやスノーボードの選手は、中等度から高度な標高(5-12,000ft 又は 1550-3660m)
での練習を経験する。高山病症候群は 7000ft(2100m)以下で発症するのは珍しいが、
14,000ft 以上ではよくみられる。急速に山を登ると、症候群を引き起こす多数の生理的な
問題が起こる。8000ft(2440m)の地点で、「正常」の PaO2 は酸素飽和度 92%で 60 で
ある。換気は数日間に渡り呼吸性アルカローシスを引き起こし、血漿量を数時間で 10-15%
減少させるが、サードスペースへの液体成分の移動が抹消浮腫をきたす可能性がある。最
終的に赤血球とヘマトクリットが増え、時に正常上限値を超える。安静時心拍数が高くな
33
るが、心拍出量は一回拍量の低下により落ちる。体は徐々に順応し 10 日間で 80%順応する。
急性の高山病の危険は最初の何日かが最も高い。
8.1.1 高山病の分類
3つの主な高山病:
急性高山病(AMS: Acute Mountain Sickness)は最も一般的で、胃腸障害、倦怠感、
立ちくらみ、睡眠障害、違和感などの1つまたそれ以上の症状を同時発生する持続的な
鈍い頭痛である。到着後8時間以内に症状が出ることは珍しく、たいてい初日の睡眠時
間後に起こり、最大の症状は 72-96 時間に起きる。夜間低酸素になった早朝の頭痛は最
悪である。高度な標高での呼吸困難は起こりうることなので、一般的に診断基準の一部
ではない。また、認知機能の損失も起こりうる。高度不耐症の過去の発症歴は再発の可
能性がある。
高地肺水腫(HAPE: High Altitude Pulmonary Edema)は進行性呼吸困難や最終的に
はラ音や喘鳴を伴う咳である。微熱 <100.00(37.8)は一般的で、患者がぼんやりとし、
チアノーゼが現れる、また深刻な病状になるとピンク泡状の痰がでる。胸部レントゲン
で両側性の淡い浸潤影が(たいてい右側の方が強い)見える。
高地脳浮腫(HACE: High Altitude Cerebral Edema)は珍しいとされているが重篤な
病気である。運動失調や食欲不振、嘔吐、混乱などと最終的に意識消失に繋がる症状も
ある。頭部 CT では早期に浮腫の所見は無く正常と見られるが、MRI では異常が顕著に
わかる。
8.1.2 予防策
例えば 5000ft で一時停止または一晩休養するなどゆっくりと登山することは軽度な高
山病の病歴がある人でも約 50%防ぐことが証明されている。選手ではない場合、登山す
る 24 時間前と 3 日間以上継続してアセタゾールアミド 125 mg 又はデキサメタゾンを摂
取すると効果がある。しかし、どちらの薬も WADA によって選手が摂取することは認め
られていない。ニフェジピン XL 20mg の8時間ごとの投与も使用することができ、高血
圧でない人でも低血圧の原因にはならない。全ての者に対して、水分補給に特別な注意
をもつことは必須であり、それによって、高地でよく見られる失神や血栓塞栓病も防ぐ
ことができる。NSAIDS は予防策として使用されたが、有効でないことが分かった。
8.1.3 推奨される治療方法
一度症状が出始めたら、ニフェジピンを使用することが可能である。酸素が利用可能
であれば、2-3 L/m を特に夜に使用することが必要となる。アセトアミノフェン又は
NSAIDS は頭痛に効き、過剰に水分補給を摂ることは抹消浮腫を悪化させてしまう可能
性があるが有効である。最も効果的な治療法は下山である;時には 1000ft 下るだけでも
34
十分である。活動は軽度に、完全休養は過換気への傾向を誇張する。完全に症状がなく
なれば全練習を再開できる。
8.2
概日リズム、運動能力および時差ぼけの変化
スポーツ競技は世界各地で行われ、アスリートにとって各競技間の調整期間は短い。冬
季スポーツは特定の自然環境が必要となり、人間の介入は非常に限られている。住んでい
る場所によっては、スキーヤーとスノーボーダーは雪がある地へ練習や競技参加のため移
動しなければならない。競技は大陸を越え、現代の飛行機やスポーツの普遍的な魅力のお
かげで、世界中で開催されている。これは選手やコーチにとっては飛行機でいくつものタ
イムゾーンを越え迅速に移動し、それに付随した時差ボケに耐えることを意味する。
人間の体は飛行移動によって生じた急な時間変化をただちに調整するようには進化され
ていない。この急な時間変化の結果が「時差ぼけ」である。時差ぼけの原因は、人間の体
が日常の 24 時間周期に正常状態を作るための調整からなる。これらの調整を概日リズムと
言う。いくつかの重要な生理的過程は、時間依存性であり1日時間と共に変化する、また
は明暗周期が 24 時間に変化することである。時差ぼけは、出発地から新しいタイムゾーン
の明暗周期の時間へと変更することによって、内部概日リズム(又は体内時計)のズレを
生む。重要過程での体のリズムとホルモンレベルは最初のタイムゾーンの明暗周期に影響
されたまま機能する。時差ぼけの症状は、日中の定期的な深刻な疲労や見当識障害、混乱、
夜に睡眠が出来なくなる、様々な運動能力への影響、短気になるなどがある。時差ぼけの
影響の深刻さには個人差があり、様々な段階で選手の運動能力を妨げる。
概日リズムの変更に影響される重要な生理的機構の一つの例に正常睡眠様パターンがあ
る。脳は全ての人間に睡眠・活動の周期を判断する生まれつき備わった内臓システムを持
つ。脳内の松果腺は絶えず日中の光の明度の変化を感知する。それはペプチドメラトニン
を夕方、早めに生産し、成人は夜の 10:30 頃に生産が最大になる。脳内のメラトニン濃度
の増加は睡眠へ誘導し、体内温度をかすかに1℃以下下げる。運動能力は体温に関係して
いる。低い体温は筋力の低下、関節の柔軟性の低下と相関連している。メラトニンの最大
脳内生産が数時間変更された時、体温を低くする効果や眠りたいという欲望と一緒に出る
眠気は運動機能の減少の原因となる。
残念ながら、概日リズムの変更に対する一時的な適応の潜伏は、時差ぼけによって発生
したタイムゾーンの変更よりもかなり長くなる。役立つ情報として、新しいタイムゾーン
で時間変更によって起こった概日リズムの 1 時間補正のために1日を必要とする。例えば、
アメリカの東海岸からヨーロッパ大陸へ渡ると6時間の時間変更が起きる。完全な概日リ
ズムの調整は大体6日掛かる(1日当たり1時間の調整)とする。正式に、西から東へ移
35
動する方が東から西へ行くよりも運動能力を弱わらせると考えられていた。しかし、最新
の科学的証拠はこの説を正しくないと示した。時差ぼけによって起きる深刻な障害はどの
方向へ移動しても運動能力を妨げる。
概日リズムに敏感な最大運動能力のもう一つ大きな影響力のある要因は、副腎のコルチ
ゾール産生である。副腎はおおよそ肝臓の近くに位置し、運動機能に関連したいくつかの
重要なホルモンを生み出す。コルチゾールは朝、最高レベルに達する。コルチゾールは脂
質貯蓄の運用を高め、筋肉活動の燃料になるブドウ糖生産を高めることに関連したホルモ
ンの活動を強化する。最大運動能力は増加したコルチゾール生産に深く関与している。運
動能力に影響するその他重要なホルモンのシステム(脳下垂体によって生産する成長ホル
モンなど)は時差ぼけによって生じた概日リズム不調に深く関与している。
明らかに、これらの概日リズム不調は運動能力の最大化を確保するためにも対処されな
ければならない。しかし、どのようにして対処するのかが問題である。今までにも睡眠様
式の変更を飛行移動前に行うなどたくさんの試みをしてきた。これらは睡眠薬や刺激物を
摂取し、人工的に選手の明暗周期を変えることが 関わっている。残念ながら、これらは成
功する確率は低い。トレーニングやその他の活動といった競技以外のことで選手に割り当
てられている時間は、その選手の故郷のタイムゾーンの明暗周期に影響され帰るのは不可
能である。
例えもし、睡眠覚醒周期が成功的に飛行移動の数日前に変えられたとしても、他の重要
な概日リズムに影響するシステム(概要は上記にある)は睡眠に関与しておらず、一時的
な変化は最大運動能力の深刻な低下をもたらす。飛行移動の数日前の睡眠様式や食事の時
間、練習時間の変更などは時差ぼけの対処を成功する確率が低い。確実に時差ぼけを対処
する方法は、選手の概日リズムが新しいタイムゾーンに再調整出来る時間を設けることで
ある。ずれたタイムゾーンの時間を1日当たり1時間ずつ概日リズムの補正として行うこ
とが概算である;個人差はあるが、多くの人に効果的な調整方式としてこれを実行するこ
とが勧められている。再調整に十分な日にちを遠征時に確保するのはスケジュール上難し
いときもあるが、大会組織やコーチらが時間変更問題へ認識があれば時差ぼけ問題の軽減
へと繋がる。
さらなる解釈への勧め:
Lemmer, B. et al. Jet lag in athletes after eastward and westward time-zone
transition. Chronobiol Int. 2002 Jul;19(4):743-64.
36
Waterhouse et al. identifying some determinants of "jet lag" and its symptoms: a
study of athletes and other travellers. Br J Sports Med. 2002 Feb;36(1):54-60.
8.3
8.3 低体温と推奨ガイドライン
スキーやスノーボードの競技と練習は低体温が起こりやすい環境で行われる。低体温は
環境にさらされて体温が奪われていくのに対応できるほど体の発熱、保温ができなくなっ
て起こる。熱損失はさらされる環境の温度、湿度や風の冷却効果による。風の冷却効果が
体温低下に与える影響力は冬季競技においてしばしば見落とされがちだが、深刻な低体温
を招く恐れがある。
急性低体温―数時間(2-3 時間)内に深部体温が急激に下がることをいう。一般的に冷水
に潜って衣服が濡れて起こるか、降雨や強風などにより周囲の温度が急激に下がり起こる
ことが多い。
慢性低体温―あまり過酷ではない環境下で基本的な予防配慮を怠ったために長時間にわ
たり徐々に深部体温が下がることを意味する。
8.3.1 予防策
熱損失は熱伝導、対流、放熱を通じて起こる。ほとんどのケースは適切な衣服の着用、
濡れないようにすること、無理をしないこと、十分な水分補給と栄養摂取といったこと
で熱損失を最低限にし、低体温を防ぐことができる。
8.3.2 治療
基本原則が低体温のどのレベルでも適用される。つまり患者を露出環境から直ちに非
難させ臥位で安静にさせ濡れた衣服を着替えさせることでさらなる熱損失を防がなけれ
ばならない。
8.3.3 低体温の診断と治療の注意事項
軽度低体温―深部体温
32~35℃(90~95℉)
軽度低体温
37
兆候と症状:一般的に激しい震え、手先など細部の運動神経の鈍り、軽度の混乱や決
断力の低下、思考力の低下などが見られる。発音の不明瞭さや運動失調は低体温の明
らかな兆候である。
治療:この段階では環境露出を防ぐことができれば、震えながら熱を生み、自身を温
めなおすことができる。震えるためにエネルギーを消費するので疲労が起こり、これ
が回復の妨げになることがある。温かい高エネルギー飲料を利用して十分な水分と栄
養を補給することで必要なエネルギーを補える。温かい水筒は温めなおす手助けにな
るかもしれないが、皮膚への直接接触は避ける。運動でも熱生産を増加することがで
きるが、深部体温の急低下、「アフタードロップ現象」を招くことがある。そのため
軽度の運動は保護された環境下で 45~60 分の震えの後でのみ行われるべきである。
中等度の低体温―深部体温
28~32℃(82~90℉)
中等度の低体温
兆候と症状:深部体温が下がり、震えが次第に抑制され自身を温めなおすことが不可
能になる。精神状態にも変化が現れ、患者は無関心になり筋肉の硬直が進み、その後
心拍数が遅くなり呼吸も減る。
治療:震えが抑制されるため自発的な復温が起こらない。体と体の接触で温める方法
が温かい水筒の利用と同じように効果的かもしれない。温め加湿した酸素もまた役立
つ。
重度の低体温―深部体温<28℃(82℉)
重度の低体温
兆候と症状:固定散瞳だが意識のある状態で、硬直し脈が感じられず呼吸が停止して
いるがまだ死亡はしていない。復温後も呼吸と心拍がないと確認されるまで患者は死
亡と判断されない。
治療:急激に復温しようとすると致死性不整脈を引き起こす可能性があるため十分注
意して手当てすべきであり、水平位を保つことで心室細動を防ぐ必要がある。心臓機
能のチェックも必要である。加湿した酸素で体内深部の復温を開始すべきである。
8.4 凍傷の診断と治療
凍傷は細胞や組織が部分的に凍りつき死んだ状態をいう。組織死には様々な段階があり、
段階に応じた個別の治療勧告がある。新陳代謝を活発にして組織を治すために十分な水分
38
と栄養補給を継続する必要がある。トロンボキサンの生産を抑制し細胞の損傷を最低限に
するため自然解凍の前に 400mg のイブプロフェンを使用する。
軽度の凍傷
皮膚が小部分的に白くなるが温めることですぐ通常状態に戻るような表面レベルの凍
傷を指す。特別な治療は必要ない。
浅い部分での凍傷(表層)
肌の露出部分は白く冷たく麻痺しているが下層組織が柔らかくしなやかである。肌と
肌の接触や急速復温で温めなおすことができる。復温の際過度の熱を当ててはならない。
復温の過程で水ぶくれができることがある。表面火傷の治療として水ぶくれの管理も行
うこと。
全層(深部組織)
筋肉や腱、骨といった深部組織に関連した凍傷。組織は硬くしなやかさがない。乾燥
した保温材で凍傷組織を保護し、患者を直ちに避難させるべきである。管理された環境
下であれば、水浴(40℃~42℃)で凍傷部分を完全に入浴させることで急速復温しても
良い。過度に熱を当てることは避け、鎮痛剤や麻酔薬で痛みの治療をする。出血性の水
ぶくれが起こる。感染の進行を最低限に抑えるよう治療すること。
予防:
寒い環境への肌の露出を最低限にする ― 頭、顔、首をカバーすること
復温の際、循環を抑制してしまうため、きついブーツは避けること
乾燥状態を保ち、肌を湿らすような接触を避けること
代謝を維持するため十分な水分補給とカロリー摂取をすること
大会外傷報告 〜FIS サーベイランスシステム〜
10.
10.1
スキーやスノーボードにおける外傷
全てのスキースポーツで外傷は起き、最も多いのがアルペンスキー競技、スノーボー
ド、フリースタイルスキーである。障害の重症度は異なるが、膝及び頭部外傷は特に懸
案事項であり、スノーボードでは手首の骨折やその他上肢の外傷も多い。これらのよう
39
な障害はしばしば長期間の離脱を要し、慢性的な問題や永久的な障害の危険も高くなり、
また重度の頭頚部外傷では死に至ることもある。
効果的な外傷予防のためには、リスクファクターや外傷メカニズムに対する包括的な
情報が必要である。
FIS 外傷サーベイランスシステム
10.2
トップレベルの選手の外傷の数を減らすため、FIS は外傷サーベイランスシステム
(ISS)を設置した。FIS ISS はノルウェーの Oslo Sports Trauma Research Center と
オーストリアのザルツブルク大学との協力によってなる FIS ISS 運営委員会の主導で行
われる。
FIS ISS の主な目的は、スキーとスノーボードにおける国際レベルのエリート選手の障
害の傾向についての信頼しうるデータを提供することである。具体的な目的は以下のと
おりである。
•
全 FIS 競技の障害パターンをモニターする
•
経時的に傷害リスクの傾向をモニターする
•
特定の競技における特定の障害のタイプに対する原因究明のための研究に対
するバックグラウンドデータの提供(例えば、アルペンスキー、スノーボード、
フリースタイルスキーにおける膝や頭部外傷)
FIS ISS の最終目的は障害頻度を減らすことであり、それには FIS ISS によって提供
されたデータに基づいたルールやレギュレーション、装備又は指導技術などの変更が含
まれる。
データの収集
10.3
FIS ISS は FIS 医事委員会によって既に設けられた傷害報告システムを基に開発され
ており、2006-2007 の冬季シーズンからデータ収集を開始した。FIS ISS の障害および滑
走時間のデータは全 FIS 競技大会から集められている。
FIS ISS における報告義務のある障害は以下に定義される:
大会中もしくは公式トレーニング中に生じた、医療スタッフによる診察を要した障害
詳細な傷害報告を各障害ごとに作成する。この報告書は以下を含む:
•
大会情報
•
個人情報
•
障害の種類
•
傷害の部位
•
傷害の重症度
•
障害時の状況
40
•
コースの状況
•
気候状況
•
風の状況
•
障害を記録したビデオの有無
もし同じ事故から複数の障害が生じた場合、報告書には全ての障害の情報を含む必要
がある(脳振盪を起こした選手が、同時に肋骨骨折と気胸を生じたようなケースなど)。
この傷害報告は FIS により医学目的のために収集され、そのプロトコルはノルウェーの
研究倫理委員会に提出される。ISS における全てのデータは匿名化され、障害を生じた選
手の個人情報は保護される。
役割と責任 〜誰が何をすべきか〜
10.4
•
大会の技術代表(TD)は大会中及び公式トレーニング中に生じた全ての障害の
障害報告書を収集する必要がある。W 杯では、TD は障害報告書を3日以内に
FIS 事務局にメール又はファックスで送らなければならない。その他の大会で
は、TD は報告書を郵送できる。
•
障害報告書の完成のためには専門的な医療情報を収集する必要があり、TD は
可能な限り医療に精通した個人(大会のメディカルスーパーバイザー、医師、
理学療法士、アスレチックトレーナー、スキーパトロール)に協力を求めるべ
きである。
•
大会の TD はチームのコーチやその他スタッフらに障害のビデオや録画テープ
があるか確認し、障害のビデオテープのコピーを獲得するため連絡先を提供す
る。
•
FIS 事務局は障害報告書に障害情報及び個人情報の記載漏れがないかを確認
する。
•
Oslo Sports Trauma Research Center は W 杯大会の障害データを継続的にモ
ニターし、足りない情報を得るため TD やチームスタッフ、選手と足りない情
報を得るため積極的に連絡をとる。同時に FIS のデータベースより、滑走時間
についてのデータも収集する。
•
Oslo Sports Trauma Research Center は障害報告書をコーチや選手のインタ
ビューやチームのメディカルスタッフの記録などの他の情報と比較し、報告書
の正当性を確認する。
•
シーズンの終了後、Oslo Sports Trauma Research Center は録画ビデオを障
害報告書と共に確認し、障害メカニズムの解明のための分析を行う。
41
FIS ISS 運営委員会と報告
10.5
運営委員会は、FISによって任命された委員長とOslo Sports Trauma Research Center
(OSTRC)に任命された他の2名を含む、三人の委員からなる。運営委員会はFIS代表
のEero Hyvärinen 氏(委員長)、Hans Spring氏、Hubert Hörterer氏と、OSTRCとザ
ルツブルク大学からの代表で成り立っている。運営委員会は年に二回会議が行われ、研
究グループの代表から定例の報告書を受け取る。運営委員会はアルペンテクニカルエク
イップメントのFISワーキンググループやFIS大会ディレクターなどの他の研究グループ
と密に連絡を取り合って活動する。
報告書はFIS医事委員会に提示され、それによって関連するFIS委員会・委員長は各委
員にさらなる詳しい情報伝達が出来るように、医事委員会へと招かれる。その報告書は
危機管理のプロセスのもととなり、データはFISの大会で起こりうる障害リスクの同定し、
選手の健康を守るためにできる限りの努力をするために使用される。
FIS 脳振盪ガイドライン
11.
概要
11.1
脳振盪は選手の長期福利を守るためにもきわめて慎重に対処されなければな
•
らない。
脳振盪の疑いのある選手は直ちに競技から外れ、競技または練習を再開しては
•
ならない。
•
脳振盪の疑いのある選手は医学的に評価されなければならない。
•
脳振盪の疑いのある選手、又は脳振盪と診断された選手は段階的競技復帰プロ
トコル(GRTP: a graduated return to play protocol)を必ず経なければなら
ない。
対象選手は競技復帰する前に必ず医学的に許可を受けなければならない。
•
11.2
背景
FIS は選手の福利を真剣に捉え、スポーツガイドラインにおける脳振盪チューリッヒコ
ンセンサス(2008/2012)に従うことを目的とする。ガイドラインは医師やその他の医療
関係者、そしてチーム管理者、教師、保護者と選手に使用されるよう作成された。ガイ
ドラインは脳振盪を受傷した選手が効果的に管理され、彼らの長期健康と福利を守るこ
とを保証するためのものである。脳振盪の分野の科学的知識は絶えず進化していくため、
統一見解としての FIS ガイドラインは、これらの変化に確実に対応していかなければな
らない。
42
11.3
脳振盪とは何か。
脳振盪とはなにか。脳振盪とは外傷が原因で脳に直接的または間接的に外力が伝わり、
脳の機能に一時的な障害を生じる複雑な過程である。その進行と消退は急速で自然にお
こる。選手は意識消失を伴わずに脳振盪を起こすこともある。脳振盪は順次消退してい
く段階的な臨床的兆候と症状の組み合わせにより生じる。脳振盪は構造上というよりも
機能上の障害を反映し、通常の神経学的画像所見は通常正常である。
11.3.1 脳振盪の理解の重要性
幸いにも、ほとんどが脳振盪には至らないが、脳振盪を生じさせる外力は冬季スポ
ーツではよく起こる。脳振盪の初期症状はバリエーションが大きい。回復はしばしば
兆候や症状の急速な消退と認知の変化(数分から数日)とともに自然に起こる。この
ことが、選手が脳振盪の症状を受傷時に無視したり、診断された脳振盪から完全に回
復する前に競技復帰してしまう可能性を増加させうる。その結果より重度の脳障害や
復帰時期の遷延が生じ得る。この重度の、また遷延する障害を生じる可能性のために、
脳振盪が完全に回復するまでの包括的な医学的評価とフォローアップが必要である。
脳振盪の完全な回復前の競技復帰により、選手はより小さな外力により脳振盪の再発
を生じうる。我々は、繰り返す脳振盪が選手の競技人生を短くし、不可逆的な神経損
傷を生じうることを懸念する。選手は自分を守るためにも、自分自身と医療スタッフ
に対して正直でなければならない。
11.4
脳振盪の兆候とは何か。
選手が脳振盪を起こしている可能性を示す兆候と症状を表 1 に示す。もし選手に頭頚
部への直達外力あるいは他の部位から頭部へ伝わる外力の結果として表 1 で示されたい
ずれかの症状が表れる場合、脳振盪が疑われる。
表1:よくある脳振盪の早期兆候と症状
指標
兆候
症状
頭痛、めまい、霧の中にいるような感覚
身体的兆候
意識消失、うつろな表情、嘔吐、不適切なプレイ動作、足のふら
つき、反応の鈍化
行動の変化
不適切な感情、苛立ち、緊張や不安に感じる
認知障害
反応時間の鈍化、混乱/失見当識、注意力や集中力の低下、脳振盪
発症前後の記憶の喪失
睡眠障害
眠気
43
ステージ1:脳振盪の診断と管理
脳振盪を疑われる場合の対応
11.5
下記の図1は、選手が脳振盪の疑いがあるときどう対処すべきか示している。医師や
医療関係者がいる場合、いない場合の両者の対処法についても示している。選手が脳振
盪の疑いがある場合は、競技から直ちに外れ、競技を再開させてはならない。
11.6
11.6 医師や医療関係者がいる場合
頭部外傷や脳振盪の引き起こす可能性のある外傷が生じ、医師または医療関係者がい
る場合、選手は検査を行い、もし表 1 に示されたいずれかの長耕哉症状が認められたり、
ポケット脳振盪識別ツール(PCRT: pocket concussion recognition tool)の5つの記憶
に関する質問を正しく回答出来なかった場合、選手は包括的な医学的評価のために競技
直ちに外れなければならない。選手のバランスの評価このコース外評価の一部となりう
る。選手は一度脳振盪の疑いで競技から外れたら、再参加してはならない。
記憶に関する質問の例:
11.7
•
今日どこの会場に私たちはいますか?
•
1 本目のトップは誰でしたか?
•
先週あなたはどこの大会に参加していましたか?
•
前回の大会であなたは何位でしたか?
選手は緊急管理手順に従って安全に移動されなければならない。頚髄損傷が疑われる
場合には、適切な脊髄の適切な脊髄のケアのトレーニングを受けた救急医療関係者によ
ってのみ移動されるべきである。
もし医師が競技場にいる場合は、彼らは脳振盪あるいは脳振盪疑いの選手の包括的な
医学的評価の一助として、スポーツ脳振盪評価ツール
スポーツ脳振盪評価ツール SCAT3
(http://www.fis-ski.com/uk/medical/medical.html)又は、その他の診断ツールを使用
できる。SCAT3
SCAT3 は 10 歳以上の選手のみ使用可能とする。
脳振盪の疑いのある選手はその後の診断に関係なくステージ 2、段階的競技復帰プロト
コルに進む。
11.8
医師や医療関係者がいない場合
医師または医療関係者が不在の場合、受傷した選手は見当識を失い、自身の状況に関
して判断が出来ない可能性がある。頭部外傷もしくは脳振盪を引き起こす可能性のある
外傷後、表 1 に示すいずれかの兆候を示す選手を見た選手やコーチ、大会役員、チーム
管理者、運営者、保護者は、その選手をケアする義務があり、選手を確実にコースから
安全に移動させることに全力を尽くさなければならない。
44
選手を一人にしてはいけない、また乗り物を運転してはならない。もし医師が現地に
いない場合は、選手はできるだけ早く医師を受診し、診断と包括的な評価を受けなけれ
ばならない。
ポケット脳振盪識別ツール(PCRT
(PCRT)
PCRT)(付録 3)は、外傷発生時に医師がいない場合に、
脳振盪の疑いがあるかの同定の一助として使用可能である。最も重要なことは、選手が
以下に該当するかどうかである:
a. 表1のいずれかの症状を示す、あるいは
b. PCRT の記憶に関する質問のいずれかでも答えられない、あるいは
c. バランスの喪失や PCRT にある危険信号症状を示す、あるいは
d. 脳振盪を疑わせる懸念がある
該当する場合、脳振盪があると疑われなければならず、選手は競技から外れ、直ちに
医師または救急部に診断と包括的な評価を受けなければならない。
脳振盪の疑いのある選手はその診断に関係なくステージ 2、段階的競技復帰プロトコル
に進む。
PCRTは以下のリンクからアクセス出来る:
http://www.fis-ski.com/uk/medical/medical.htm
11.9
初期症状
脳振盪の初期症状は脳振盪が疑われる原因となる外傷後いつでも(典型的には最初の
24-48 時間以内に)表れる恐れがある。
45
図1
ステージ1:診断と初
期管理
外傷発生
医師がいる
医療関係者が
いる
コース外での評価、選手は
脳振盪の疑いがある
コース外での評価、選手は
脳振盪の疑いがある
選手は競技から外れ、さら
なる参加はしてはならない
診断およびSCAT2に
よる評価
選手は競技から外れ、さ
らなる参加はしてはなら
ない
医師または救急部の受診、診
断とさらなる評価
ステージ2へ
段階的競技復帰
46
医師不在
コース外での評価、選手は
脳振盪の疑いがある
選手は競技から外れ、
さらなる参加はしては
ならない
11.10 脳振盪の診断と管理の変異因子
脳振盪の診断と管理の変異因子
変異因子とは段階的競技復帰を含む脳振盪の調査や管理に影響を与えるものである。
時にこれらの因子が症状の遷延や持続の可能性を予期しうる(表
表 2)。
表 2:脳振盪の変異因子
因子
変数
症状
数
期間(>10日)、重症度
兆候
長時間の意識消失(>1分)、健忘
後遺症
震盪性痙攣
時間
頻度 – 経時的に繰り返す脳振盪
タイミング – 全回受傷から短い
最近であること — 最近の脳振盪又は外傷性脳損傷
閾値
連続した脳振盪が徐々により少ない外力で生じ、または回復が
遅くなる。
年齢
小児(<10歳)及び青少年(10−18歳)
合併症及び既往
片頭痛、うつ病又は他の精神疾患、注意欠陥過活動性障害
(ADHD)、学習障害、睡眠障害
薬
向精神薬、抗凝固薬
行動
危険なプレイスタイル
スポーツ
ハイリスク、コンタクトスポーツ、ハイレベル
11.11 小児および青少年
ガイドラインは全年齢の選手に適応される一方、成長過程の脳に対する脳振盪によっ
て生じ得る危険性のため、小児や青少年には特に注意が必要である。
10歳未満の小児には異なった脳振盪の症状が表れる可能性があるため、診断ツール
を用いた医師による評価が必要である。成人と同様、小児(10歳未満)および青少年
(10–18歳)に脳振盪の疑いがある場合は直ちに医師を受診する。加えて、専門医に
よる医学的評価が必要な場合もある。小児や青少年の治療に責任のある医師は選手の競
技復帰について指示するが、より慎重な段階的競技復帰が推奨される。小児および青少
年においては、無症状の休養期間と段階的な負荷の期間を延長することが適切である。
小児及び青少年は医師の許可なしに競技復帰してはならない。
47
医師の使用に限り、SCAT
医師の使用に限り、SCATSCAT-3-CHILD脳振盪評価プロト
CHILD脳振盪評価プロトコルは以下のリンクからダウン
脳振盪評価プロトコルは以下のリンクからダウン
ロードできる:http://www.fis-ski.com/uk/medical/medical.html
ロードできる:
ステージ2:段階的競技復帰(
Graduated Return to Play)
)
ステージ :段階的競技復帰(GRTP:
:段階的競技復帰(
11.12 脳振盪又は脳振盪の疑い後の競技活動再開
脳振盪、または脳振盪の疑いがあると診断された後は、選手の完全な協力のもと、症
例ごとに GRTP によって管理されるべきである。これは症状が消失する時間によって異
なる。脳振盪は、残存する症状がなくなるまで、身体的にまた認知的に休養が得られる
よう管理されることが重要である。集中力や注意力を要する活動は最低でも連続する 24
時間投薬なしに(頭痛薬、抗うつ薬、睡眠薬、カフェイン等によって症状がマスクされ
ることがある)消失するまで避けなければならない。
表 2 の変異因子にも考慮すべきである。医師に管理された段階的競技復帰(GRTP)過
程を図 2 に示す。
11.13 競技復帰が医師によって管理されているとき
もし、(場合に応じて医療関係者の援助と共に)医師が選手の回復を管理している場
合、選手は GRTP プロトコルの各ステージに従い、完了すれば最短で6日間後に競技へ
復帰をすることが可能である。
GRTP プロトコルの各ステージで医師が選手を観察する時もあるが、プロトコルの管
理の責任は保ったまま医療関係者に観察を任せるときもある。GRTP はトーナメントを
含む全ての場面で適応される。
最低限の GRTP プロトコルの指針は表 3 に示されている。
脳振盪、または脳振盪の疑いのある選手が無症状かつその状態が続いていれば、選手は
GRTP を開始しうる。
選手が運動を再開する前に必ず 24 時間無症状であることを確認し(レベル 1)、次の
ステージへと進むことができる(レベル 2)。GRTP プロトコルにおいては、選手は脳振
盪の症状(SCAT3 に症状のチェックリストが提供されている)が現時点のステージで(休
養と運動の時間を合わせた 24 時間において)表れていなければ、次のステージへと進む
ことができる。これは連続した 24 時間の休養の間無症状でなければならないレベル 1 か
ら、レベル 2 へ進むことを含む。
選手が無症状のまま各ステージを完了した場合、選手はリハビリテーションプロトコ
ルを修了するのに約 1 週間を要する。もし、この過程中に症状が表れた場合、選手は前
のステージへと戻り、最低でも24時間の休養の間に症状が出ないことを確認してから
プロトコルを再開する。
48
レベル4の修了後、選手はフルコンタクトの練習を再開し、医師と選手は選手が練習
を行えるか最初に確認しなければならない。フルコンタクトの練習は脳振盪の観点から
は競技復帰と等しい。しかし、完全競技復帰自体はレベル6に到達してからである(表
表 3)。
表 3:GRTP プロトコル
リハビリテーションステー
リハビリテーションの各ステ
ジ
ージの機能的エクササイズ
1. 活動なし、医師の管理が
無症状での身体的、認知的休
ある場合は受傷から最低2
養の完了
各ステージの目標
回復
4時間、それ以外は受傷から
最低14日間
2. 24時間の期間中の軽い
ウォーキング、水泳またはサ
有酸素運動
イクリングマシン、予想最大
心拍数の増加
心拍数<70%を維持。耐久性ト
レーニングは無し。24時間
の無症状。
3. 24時間の期間中のスポ
ランニング練習。頭部への衝
ーツ特異的な運動
撃を伴う運動は無し。24時
動作の追加
間の無症状。
4. 24時間の期間中のノン
複雑な動作の練習へと進む。
運動、協調運動、認知的負
コンタクトの練習
(例:通過練習など)耐久性
荷
練習の開始。24時間の期間
中無症状。
5. フルコンタクト練習
6. 24時間後、競技復帰
医師の許可の後、通常練習に
自信の再取得、コーチによ
参加
る機能的技術の評価
リハビリ修了
完全復帰
49
医師が課程を
管理
24時間以上の無
活動後、症状は
あるか?
図2
ステージ2:
段階的競技復帰
症状なし
症状あり
GRTPプロトコルが医師に
よって管理されている場合
レベル1(完全休養)24時
間後、症状の再発なし
レベル2(軽い有酸素運動)24
時間後、症状の再発なし
レベル3(スポーツ特異的運動)
24時間後、症状の再発なし
レベル4(雪上練習復帰)
24時間後、症状の再発なし
レベル5(練習と競技の完全復帰)
24時間後、症状の再発なし
レベル6(競技完全復帰)
50
症状が24時間なくなる
まで完全休養。レベル
1の再参加
11.14 競技復帰が医師によって管理されていないとき
選手が医師に脳振盪の診断を受ける、あるいは GRTP を管理してもらう手段がない極
端な状況もありうる。これらの状況下では、もし選手が脳振盪の兆候がある場合、その
選手は脳振盪の疑いとして扱われなければならず、図 3 の GRTP 過程の概要に従い、受
傷後最低でも 21 日間は競技へ復帰してはならない。
その選手に関わる他の選手、コーチ、
大会運営者はその選手がガイドラインに従うことを確実にする。
もし選手が脳振盪と医師に診断されたが、医師による GRTP の管理が不可能な場合は、
選手は図 3 の GRTP 過程の概要に従い、受傷後最低でも21日間は競技へ復帰してはな
らない。
上記の場合、14日間の競技または練習からの離脱後、脳振盪の症状がなければ、GRTP
過程を開始することができる。
理想的には、選手の異常兆候を気付くことができる、選手のことをよく知っている第
三者がその過程を管理、観察すべきである。ポケット脳振盪識別ツール(PCRT、以下の
リンクからアクセスできる:http://www.fis- ski.com/uk/medical/medical.html)はその過程
の管理に有用である。
選手が運動を再開する前に必ず 14 日間無症状であることを確認し(レベル 1)、次の
ステージへと進むことができる(レベル 2)。GRTP プロトコルにおいては、選手は脳振
盪の症状(SCAT3 に症状のチェックリストが提供されている)が現時点のステージで(休
養と運動の時間を合わせた 24 時間において)表れていなければ、次のステージへと進む
ことができる。
選手が無症状のまま各ステージを完了した場合、選手はリハビリテーションプロトコ
ルを修了するのに約 1 週間を要する。もし、この過程中に症状が表れた場合、選手は前
のステージへと戻り、最低でも24時間の休養の間に症状が出ないことを確認してから
プロトコルを再開する。
レベル4の修了後、選手はフルコンタクトの練習を再開し、医師と選手は選手が練習
を行えるか最初に確認しなければならない。フルコンタクトの練習は脳振盪の観点から
は競技復帰と等しい。しかし、完全競技復帰自体はレベル6に到達してからである(表
表 3)。
医師による競技復帰への許可は常に求められるべきである。
青少年及び小児は医師の許可なしに競技復帰することはできない。
51
14日間のスポーツ活動中止後
第3者が過程を管理
14日間の無活動後、
症状はあるか?
図3
症状なし
症状あり
レベル1(完全休養)
症状が14日間な
くなるまで完全休
養。レベル1の再
参加
ステージ2:
段階的競技復帰
GRTPプロトコ
ルが医師によっ
て管理されてい
ない場合
24時間後、症状の再発
なし
レベル2(軽い有酸素運動)
24時間後、症状の再発なし
レベル3(スポーツ特異的運動)
24時間後、症状の再発なし
レベル4(雪上練習復帰)
24時間後、症状の再発なし
レベル5(練習と競技の完全復帰)
24時間後、症状の再発なし
レベル6(競技完全復帰)
受傷後21日目以降
52
11.15 症状の再発 〜24時間の休養〜
選手は脳振盪後できるだけ早く競技へ復帰したいものである。選手、コーチ、管理者、
保護者、そして教師らは、以下に注意して行動しなければならない:
a.
全ての症状が治まったことを確実にする
b.
GRTP プロトコルに従ったことを確実にする
c.
医師(場合によっては医療関係者)の指示に厳密に従ったことを確実にする
これらを実行する上で、全ての配慮が選手の競技寿命と長期における健康のリスクを
減らすことができる。
脳振盪の管理過程(上記で示されたものも含む)に関わる全ての人は、脳振盪受傷後
に GRTP を修了後も、うつ病やその他の精神衛生上の問題を含む症状の再発に警戒しな
ければならない。もし症状が再発した場合、選手は直ちに医師を受診しなければならな
い。そして脳振盪の管理過程に関わる全ての者もしくは症状の再発に気づいた者は、対
象の選手ができるだけ早く医師の診察を受けることを確実にするべきである。
11.16 語義
GRTP ( graduated return to play) :段階的競技復帰
医療関係者:
適切な資格を有し、脳振盪の症状の同定と脳振盪を生じた選手の管理について訓
練を受けた理学療法士、看護師、整骨師、カイロプラクター、救急医療隊員、又は、
アスレチックトレーナー。
Medical Practitioner:医師
選手:FIS 競技大会の参加者
SCAT (Sports Concussion Assessment Tool):スポーツ脳振盪評価ツール
ポケット CRT(Pocket Concussion Recognition Tool): ポケット脳振盪識別ツール
引用:
引用:
Zurich 2012 – Consensus Statement on Concussion in Sport
(Br J Sports Med 2013;47:250-258 doi:10.1136/bjsports-2013-092313)
FIS 脳振盪ガイドライン – 2013 年 7 月
53