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低周波数用吸音材の開発 - 昭和電線ホールディングス

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低周波数用吸音材の開発
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低周波数用吸音材の開発
Development of Sound Absorbing Materials Used for Low Frequency
石川和久
老後哲朗
平井 進
Kazuhisa ISHIKAWA
Tetsuro ROGO
Susumu HIRAI
山添秀敏
三宅清市
Hidetoshi YAMAZOE
Seiichi MIYAKE
近年,騒音規制法規制対象外の低周波騒音の人体への影響が問題視されてきている。低周波音は,波長が長
いために,パッシブ対策により騒音の低減を図るとすると,現状では吸音材や遮音材を厚くする必要があり,
実用上は困難であった。本報では制振性を付与した発泡体と多孔質体との積層構造により,100Hz ∼ 500Hz に
おいて,コンパクトで吸音性能の高い吸音材を開発したので報告する。
Recently, the influence of the low frequency noise on the human body that is not the object of regulation law for noise
control becomes a problem. In order to attempt the reduction in the low frequency noise by passive noise control, sound
absorbing materials and sound insulation materials had to thicken, because wavelength is long. Therefore it was difficult
in the practical use. This paper introduces the results that in 500 Hz frequency band from 100 Hz, the compact and high
performance sound absorbing material is developed by laminated structure of the damping foam and porous material.
1.は じ め に
周波数帯域 500 Hz 以上では,グラスウールやロックウー
ルなど市販されている吸音材で十分な騒音低減効果を発揮
騒音規制法規制対象外の低周波数騒音の人体への影響が
することから,本開発においては 100 Hz ∼ 500 Hz におい
問題視されてきている。低周波音は建具や家具のがたつき
て,騒音低減効果を発揮するコンパクトな吸音材を開発す
を引き起こし,人体には頭痛やめまい,不眠などといった
ることを目標とした。具体的な開発目標値を以下に記す。
症状を引き起こすことがある。近年,我々の社会活動は 24
(1)周波数帯域: 100 Hz ∼ 500 Hz
時間化し,特に都市部では「夜は静かな時間」という常識
(2)残響室法吸音率: 0.5 以上
はなくなり,騒音発生源となるインフラ設備が夜を通して
(3)吸音材厚さ: 100 mm 以下
運転される頻度も増えている。環境省においても 2000 年度
から本格的に低周波数騒音の実体調査を開始し,5 年後を
目処に評価基準が設けられる見込みである。
低周波数騒音対策としては,当社で販売しているアクテ
3.吸音のメカニズム
吸音には多孔質吸音構造,穴あき板吸音構造,板状吸音
構造,膜状吸音構造がある。
ィブノイズコントロールシステムが有効である 1)。アクテ
多孔質吸音構造は図 1 に示すように材料中に多数の細い
ィブノイズコントロールシステムは 50 ∼ 150 Hz の低周波
隙間や連続気泡を有する多孔質材料を利用した構造で,最
数騒音に対して優れた騒音低減効果を発揮するシステムで
も一般的に多く利用されている吸音機構である。多孔質吸
ある。このアクティブノイズコントロールシステムは吸音
音材料としてはグラスウールやロックウールなど繊維系の
材や遮音材などパッシブ騒音対策を併用することにより,
材料や連続気泡を有するポリウレタンフォームなどがあげ
さらに効果的な騒音対策が可能になる。そこで我々は新た
られる。また,図 1 に示すように背後空気層を設けて使用
にコンパクトで吸音性能の高い吸音材の開発に着手した。
されることもある。これらの多孔質吸音材料はその隙間に
2.開 発 目 標
アクティブノイズコントロールシステムは周波数帯域 50
∼ 150 Hz の範囲において騒音低減効果を発揮する。また,
入射した音波が隙間の空気を振動させ,この空気の粘性に
よって,音波のエネルギーが熱エネルギーに変換され,音
波の減衰が起こり,これが吸音作用になる。
多孔質吸音材料の音響特性を予測する手法についてはこ
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
42
多孔質材料
Vol. 53, No. 1 (2003)
性抵抗のみではなく多孔質材料の骨格部分や,膜材料など
の弾性や制振性が有効に作用すると推測し,制振部材を積
背後空気層
極的に吸音材へ適用することを検討した。
剛壁
板状または膜状材料
図 1 多孔質吸音構造
空気層
れまで多くの研究がなされている。代表的なものとして,
図 3 板状及び膜状吸音構造
2)
Delany & Bazley は実験データから,材料の流れ抵抗と音
響特性の実験式を導いており,グラスウールなど繊維系の
多孔質材料については比較的良い予測結果が得られてい
4.低周波数用吸音材の構成
る。また,Allard3)は Biot Theory4)を用いて,多孔質材料
のフレームの弾性を考慮した場合の音の伝搬をモデル化し
開発した低周波数用吸音材の構成を図 4 に示す。下層に
ており,連続気泡を有するポリウレタンフォームなど弾性
は多孔質材料である密度 32 kg/m3 のグラスウールを使用
を持つ材料については Biot Theory を用いた音響特性の予
し,表層には発泡材料を含浸発泡させ,被膜付き発泡体を
5)
形成した。また,図 4 には拡大断面組織の写真を示してい
測が盛んに研究されている 。
穴あき板吸音構造は図 2 に示すように穴の開いた板と空
気層からなる構造でヘルムホルツの共鳴器と呼ばれる吸音
機構を利用したものである。穴の径が十分小さい場合には,
る。発泡体の白い部分は空気が入っていた殻で,黒い部分
は骨格である。
表層被膜付き発泡体は当社で販売している粘弾性ダンパ
穴の部分の空気は質量として取り扱え,背後空気層はバネ
ー用粘弾性材料をベースとしている 6)。この粘弾性材料は
の作用をするために振動系を形成する。この時に穴の部分
高い制振性を有する材料であり,この粘弾性材料の構成要
の空気が激しく振動し,管壁などとの摩擦損失によって音
素であるイソシアネートと水の反応により炭酸ガスを発生
波の減衰が起こり,これが吸音作用になる。穴あき板吸音
させ発泡体を形成した。
機構はある周波数にピークを持った吸音性能を示す。
開発した被膜付き発泡体の制振性を評価するために損失
板状吸音構造及び膜状吸音構造は図 3 に示すように板状
係数を測定した結果を図 5 に示す。グラスウールや一般的
材料または膜状材料と背後空気層により構成される。この
な吸音用ポリウレタンフォームと比較して,損失係数が大
場合には板または膜の部分と背後空気層の間で振動系を形
きく,高い制振性を有している。
成し,ある周波数にピークを持った吸音性能を示すように
なる。
この被膜付き発泡体の発泡組織及び被膜組織を制御する
ことと,発泡体骨格部分に高い制振性を付与した材料を使
本低周波数用吸音材料の開発においてはこれらの吸音機
構を複合して低周波数騒音の低減を図った 。特に Biot
用することにより,中・低周波数帯域で効果を発揮する吸
音構造体を得た。
Theory で示されているように,吸音においては空気の粘
穴あき板材料
被膜付発泡体
空気層
グラスウール
被膜付発泡体
グラスウール
壁
音
源
質
量
バ
ネ
図 2 穴あき板吸音構造
図 4 低周波用吸音材の構成
低周波数用吸音材の開発
43
1
6.ま と め
開発品
グラスウール
吸音用ポリウレタンフォーム
被膜付き発泡体と密度 32 kg/m3 のグラスウールの積層
体により 100 Hz ∼ 500 Hz において吸音特性が良好な吸音
損失係数(−)
0.1
材を得ることができた。今後はさらに高周波数帯域におい
ても同時に吸音が達成できる吸音材の開発を進める。
0.01
謝 辞
本実験を進めるにあたり,株式会社東芝 研究開発セン
ターの皆様より多大なご協力を頂きました。ここに感謝申
0.001
10
100
1000
周波数(Hz)
10000
し上げます。
1
図 5 損失係数測定結果
蟀
蟀
開発品
グラスウール
0.8
蟀
(1)試験装置:リオン㈱製損失係数測定システム
(2)試料寸法:長さ 300 mm,幅 25 mm,厚さ 25 mm
吸音率
[損失係数測定方法]
蟀
0.6
蟀
0.4
(3)鋼板厚さ: 1.5 mm
蟀
蟀
蟀
(6)試験片保持方法:中央支持
蟀
蟀
0.2
(5)加振法:電磁加振機
蟀
厚さ:25mm
0
100 125 160 200 250 315 400 500 630 800 1000 1250 1600 2000
周波数(Hz)
(7)損失係数算出方法:半値幅法
(a)厚さ25mm吸音率測定結果
5.残響室法吸音率
蟀 蟀
1
開発した低周波数用吸音材及び比較対照として密度 32
kg/m3 のグラスウールの残響室法吸音率測定を行った。
蟀
蟀
0.8
試験方法
蟀
0.6
(1)測定試料
① 開発品:厚さ 25 mm,50 mm,100 mm
蟀
蟀
0.4
② グラスウール:厚さ 25 mm,50 mm,100 mm
蟀
蟀
(2)残響室:株式会社東芝 研究開発センター殿残響室
蟀
蟀
0.2
不整形 7 面体
蟀 蟀
厚さ:50mm
0
100 125 160 200 250 315 400 500 630 800 1000 1250 1600 2000
周波数(Hz)
(3)測定条件
① 測定周波数: 100 ∼ 2000 Hz
(b)厚さ50mm吸音率測定結果
2
吸音材面積: 6 m (3 m × 2 m)残響室内床に敷
1
吸音率
蟀
0.4
0.2
400 Hz,厚さ 50 mm では 250 Hz にピークを持った吸音特
性を示し,厚さ 100 mm では 250 Hz 以下において吸音率が
0.8 以上ある吸音特性が得られている。
蟀
蟀
蟀
蟀 蟀
開発品
グラスウール
蟀
蟀
厚さ:100mm
グラスウールは高周波数帯域で吸音率が高くなっている
のに対して,開発した低周波数用吸音材は厚さ 25 mm で
蟀
0.6
試験結果
残響室法吸音率の測定結果を図 6 に示す。
蟀 蟀
蟀
の算出に使用)
スピーカー
蟀
0.8
温度/湿度:温度: 9 ℃ 湿度: 60 %(空気音速
④ 測定器:残響時間自動測定装置,マイクロフォン,
蟀
蟀
きつめる。
③
開発品
グラスウール
残響室仕様 容積: 245 m3,表面積: 210 m2,
②
蟀
蟀
吸音率
5.1
蟀
蟀
(4)試験温度: 28 ℃
5.2
蟀
0
100 125 160 200 250 315 400 500 630 800 1000 1250 1600 2000
周波数(Hz)
(c)厚さ100mm吸音率測定結果
図 6 残響室法吸音率測定結果
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
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Vol. 53, No. 1 (2003)
参考文献
1)昭和電線レビュー,Vol.52,No.1,p.86(2002)
2)M.E. Delany and E.N. Bazley : Acoustic properties of fibrous
absorbent materials, Applied Acoustics 3, pp.105-116 (1970)
3)J.F. Allard : Propagation of sound in porous media - Modeling
sound absorbing materials , Elsevier Applied Science (1993)
石川 和久(いしかわ かずひさ)
技術開発センター 機能材料開発室 材料 G
主査
1988 年入社
ゴム・プラスチックを主体とした材料の研
究・開発に従事
4)Biot, M.A. : J. Acoustic. Soc. Am, Vol.28, No.2, pp.168-191 (1955)
5)例えば,中川博,山口道征:各種多孔質材料の音響特性− Biot の
理論を用いた音響特性の予測・その 1 −,日本音響学会講演論文
集,pp.885-886(2002.3)
6)曽田五月也,他:建築用高機能粘弾性ダンパーの開発,昭和電線
老後 哲朗(ろうご てつろう)
技術開発センター 機能材料開発室 材料 G
主査
1985 年入社
新製品および新事業のための企画業務に従事
レビュー,Vol.48,No.2,pp.96-102(1998)
平井 進(ひらい すすむ)
技術開発センター 機能材料開発室長
1974 年入社
電線および非電線の材料の研究・開発に従事
山添 秀敏(やまぞえ ひでとし)
免制振ユニット 制振部営業課 主査
1983 年入社
騒音制御システムの開発・設計に従事
三宅 清市(みやけ せいいち)
免制振ユニット 制振部防振課 主幹
1981 年入社
制振・防振装置の開発・設計に従事
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