〈環境問題〉の社会学

稚内新エネルギー研究会 2005年度 第1回環境セミナー(2005/07/30・於:稚内北星学園大学)
〈環境問題〉の社会学
張江洋直(稚内北星学園大学)
はじめに
現代の社会学においては「環境問題の社会学」と「環境社会学」とは一定の対立を孕んだも
のとして捉えられている[満田,2005]が、本報告では、基本的には両者を含んだものとして「〈環
境問題〉の社会学」とし、必要な範囲で、両者の差異について触れておきたい。
*「環境問題の社会学(Sociology of Environmental Issues)」……公害問題などに端を発する。
*「環境社会学(Environmental Sociology)」……地球環境問題→地球温暖化問題を典型とする。
↓ ・地球環境問題(global environment problems) ……globalization
・グローバル化を辞書的に定義すると、
「世界的規模に広がること。政治・経済・文化
などが国境を越えて地球規模で拡大することをいう」[三省堂『デイリー新語辞典』]。
→ここで、
「国民国家」に留意しておこう。
1.地球環境問題に2層性
*地球環境問題とは「南北問題」と構造的には同一。
→この層を象徴化するのが、インディラ・ガンジー首相のストックホルム会議での言葉。
ストックホルム会議:国際連合人間環境会議;人間環境に関わる諸問題について包括的に検討
した初めての国際会議。1972 年ストックホルムで開催。人間環境宣言・環境国際行動計画の他
に、四つの決議を採択。その実施のため、ユネップ(UNEP=国際連合環境計画)が設立された。
「貧困は最大の環境汚染原因である。」→この指摘は現在にあっても妥当なものである。
→このことは、
「デジタル・ディヴァイド(digital divide)」の国際間格差にもそのまま該当。
→「地球環境問題は地域的解決を通して対処する」
。
↓ 一見すると妥当にみえるこの方向性は、じつは大きな理論的な陥穽である。
「それぞれの地域での公害問題と地球環境問題とは、その原因が本質的に異なり、とくに
解決のための社会的仕組みが全く違っている」[満田,2005]。
*地球規模で考え、地元で行動する(Think Globally,Act Locally.)。
・
「生態系破局」=地球という生態系(ecosystem)の「破局」
↓
・
「大量消費社会」+「途上国の絶対貧困・人口爆発・環境破壊」 (南北問題)
(大量採取→)大量生産→大量消費(→大量廃棄)
2.リスク社会と〈環境問題〉
2.リスク社会と〈環境問題〉
*「
「リスク」は「成長」や「ゆたかさ」に代わる、一九八〇年代以降の現代社会を象徴す
るキーワードである」[長谷川,2004]。
→・(大衆消費社会)「豊かさのパラドクス」[満田,2005]
・
「豊かな社会」における「不確実性の増大」→リスクの蔓延。=
科学的知識の普及
→・科学イメージの変更。=・19 世紀型から 20 世紀型科学へ、そして 21 世紀型の模索へ!
参照[村上,2000]
*富の分配とリスクの分配の論理について[Beck,1986]
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配布資料
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稚内新エネルギー研究会 2005年度 第1回環境セミナー(2005/07/30・於:稚内北星学園大学)
・自然科学からみた有害部室の分配と社会のリスクのある状況。
・近代化に伴うリスクは科学的知識に依存する。
・科学の合理性と社会の合理性は異なる。
・招来の可能な出来事としてのリスクが行動を促す。
・文明に伴うリスクが地球的規模で拡大する。
・リスクが満ちた状況と階級状況とは異なる。
リスクは、それを生み出し、それから利益を得ているものをも襲う……。リスクはそれが
拡大する過程で社会的なブーメラン効果を発生させる。つまり、リスクを前にして、富め
る者も力を持つ者も安全ではない。
[Beck,1986]
・国際間の新たな不平等
・世界社会というユートピア
・困窮によって生じた連帯から不安によって生じた連帯への移行か
リスク社会には対立やコンセンサスの新しい源泉がある……。リスク社会の課題は、困窮
の克服にあるのではなく、リスクの克服に置かれる。リスク社会では、リスクを克服する
ための問題意識や政治的な組織形態がまだ確立されていないので、リスクのダイナミズム
が解き放たれると、民族国家間の境界、同盟体制や経済ブロック間の境界は消えてしまう。
階級社会は、民族国家単位で組織できる。これに対して、リスク社会では客観的にみて「リ
スクが共有されている」ので、最終的には世界社会というカテゴリーでしかリスクが満ち
た状況に対処しえない。
[Beck,1986]
3.サブ政治という指摘=科学のサブ政治化
政治は社会福祉国家において「介入国家」という権力を獲得した。しかし……今や社会を
形成する潜在的可能性は政治システムから科学=経済的近代化というサブ政治システムに
移っている。政治と非政治との間の不明確な転換が生じる。政治的なものが非政治的にな
り、非政治的なものが政治的になる。……「経済的躍進」の必要性が唱えられ「経済の自
由」の保障が要求されることによって優越的な政治的形成力を有するようになるものがあ
る。それは、政治=民主主義的システムではない。優位に立つのは、民主主義的に正当化
されていない、経済という非政治的システムや科学=技術という非政治的システムとなる。
これは、正当性によって覆い隠されているが、一種の革命であり、民主主義的介入から免
れている事態である。
[Beck,1986]
文献
Beck,U.
1986
Risikogesellschaft,Suhrkamp.=1998,東廉・伊藤美登里訳、
『危険社会』法政出版.
長谷川公一
2004
「リスク社会という時代認識」
『思想』No.963,岩波書店.
平川秀幸
1999
「リスク社会における科学と政治の条件」
『科学』1999 年3月号,岩波書店.
満田久義
2005
『環境社会学への招待』朝日新聞社.
村上陽一郎
2000
『科学の現在を問う』講談社現代新書.
鳥越皓之
2004
『環境社会学』東大出版.
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