(社)資源・素材学会 北海道支部 平成 24 年度春季講演会 講演要旨集 講演番号 A-5 pp9-10 より引用 腐植物質分画法を用いた天北地域珪藻質泥岩と褐炭の有機物組成 幌延 RISE 玉村修司,遠藤亮,大味泰,金子勝比古 北大・工 五十嵐敏文 1.はじめに 北海道天北地域は,かつて新第三系に産する石炭や石油, 天然ガスの商業的採鉱が行われ,豊富ガス田は現在も稼行され るなど化石燃料に富んだ地域として知られている。また,本地域 の新第三系声問層や第四系を帯水層とする地下水には,メタン 生成微生物やこれらに由来するメタンガスが認められている 1,2)。 化石燃料と微生物起源のメタンが伏在する地域では,未利用有 機物のメタン化を微生物活動により促進し,在来のメタンと合わ せた回収が期待できる。 メタン生成微生物の活動に由来するメタン鉱床は,しばしば有 機物の熟成度が未成熟なケロジェンの分布地帯に発達している。 図1 声問層,宗谷夾炭層の分布とサンプリング地点 ここで未成熟な有機物とは,石油や天然ガスが生成される熱変 性(~100℃)を受ける前の地層中の有機物を指す。また,炭層メ 2・2 有機物の分画 タン(Coalbed methane; CBM)の中には,メタン生成微生物に由 風乾後 106 µm 以下に粉砕された Ko を 100g,So1 および So2 来するメタンが主要な起源となっているものも報告されている。 を40gずつ採取し,試料容量のおよそ3倍程度のベンゼンとエタ 一般的に,堆積岩中の有機物は有機溶媒に可溶なビチュメン ノールの混合溶液(6:4)により,脂質の超音波抽出(20 分)を行っ と不溶なケロジェンに,表層土壌中の有機物は腐植物質の構成 た。上澄み液と固相をろ過により分離し,残渣に対して同様の超 要素に分画される。ここで腐植物質は,アルカリ可溶の高分子有 音波抽出処理を繰返した。抽出された脂質溶液はビーカーの中 機物画分を構成するフミン酸・フルボ酸と,アルカリ・酸不溶のヒ で乾固され,残渣として得られた脂質の重量を測定した。 ューミンの総称である。未成熟なケロジェンは比較的高濃度のア 脂質抽出後の試料 10g に対し 70 mL の割合で 0.5 M NaOH ルカリ可溶画分を含むとされるが,これまで堆積岩中の有機物 溶液を加え,一晩攪拌(260 rpm)した。その後,10,000 rpm 10 分 に対して腐植物質の分画方法を適用した研究例は乏しい。未成 の遠心分離により上澄み液を回収し,残渣に対する同様の抽出 熟なケロジェンが分布する地層はしばしばメタン生成微生物の を Ko で 3 回,So1 と So2 で 4 回繰返した。アルカリ抽出溶液は 生息環境となっていることから,ケロジェン中の腐植物質構成割 6M HCl 溶液添加により pH 1.0 以下とし,液相(フルボ酸画分溶 合を明らかにすることにより,メタン生成微生物と地層中有機物と 液)と残渣(フミン酸画分)に分離した。残渣(フミン酸画分)10 g の関わりについてより詳細に考察できることが期待される。 に対しておよそ70 mLの割合で 0.1M NaOH溶液を添加し,数時 そこで比較的熟成度が低いと想定される,天北地域新第三紀 間攪拌(260 rpm)した。その後遠心分離(10,000 rpm 10 分)により 鮮新世の声問層(珪藻質泥岩)と中新世宗谷夾炭層(褐炭)に対 固相と液相に分離し,液相は 6M HCl 溶液添加により pH 1.0 以 し,腐植物質分画方法の適用による有機物組成の解明を試み 下とした。数時間以上放置後,遠心分離(3000 rpm 10 分)により た。 液相と残渣(フミン酸画分)に分離し,液相は破棄した。フミン酸 画分は,その 2 倍程度の容量の超純水に懸濁させ,透析による 2.試料と方法 脱塩後に凍結乾燥し,精製フミン酸の粉末を取得した。 フルボ酸画分溶液(< pH 1.0)は,0.50 µm のフィルターでろ過 2・1 試料 され, 1~2 M NaOH 溶液添加により中性とし凍結乾燥した。得 声問層は日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センター られた粉末量に応じ,Ko は 200 mL,So1 と So2 は 120 mL の 1M の 250 m の調査坑道から採取された試料(Ko)を用いた。宗谷夾 NaOH 溶液を添加し,マグネチックスターラーで一晩撹拌させフ 炭層は,幌延町上幌延の法面露頭から採取された試料(So1)と, ルボ酸を抽出した。その後遠心分離(10,000 rpm 10 分)によりフ 幌延町問寒別の河床露頭から採取された試料(So2)を用いた。 ルボ酸抽出溶液と残渣に分離した。フルボ酸抽出溶液は, 道北域における声問層と宗谷夾炭層の地表分布および各試料 0.01M NaOH 溶液を膜外部液とした透析に供された。ここで膜外 のサンプリング地点を図 1 に示す。 部液をアルカリ性としたのは SiO2 の析出を防ぐためである。透析 は外部液中の Si 濃度が 1 mg/L 以下になるまで継続し,その後 は外部液を超純水に交換し,Si濃度が0.01 mg/L未満となるまで 酸)の H/C 比は,IHSS のフミン酸(フルボ酸)のそれらよりも高い 透析を継続した。その後,フルボ酸画分溶液を凍結乾燥し,精 傾向にあり,その程度はSo1 < So2 < Koの順序で大きかった。Ko 製フルボ酸の粉末を取得した。 とSo2から精製されたフミン酸の酸素含有量は,IHSSフミン酸より 2・3 分析 も低い傾向が認められた。 褐炭試料(So1,So2)はビトリナイト反射率を測定した。有機物 の分画過程で得られる各種溶液や,透析過程における膜外部液 は,全有機炭素濃度や窒素濃度(TNM-1 付属の Shimadzu TOC-VCSH)などの分析に供した。精製フミン酸・フルボ酸は C,H,N,O 元素分析(Elementar Analytical VARIO EL III)および 13C NMR(JEOL JNM-GX270)分析に供した。 3.結果と議論 So1 と So2 のビトリナイトの反射率の平均値は,それぞれ 0.361 図3 各試料から精製されたフミン酸・フルボ酸と IHSS 標準フミン 3) および0.435であり, So1は褐炭,So2は亜瀝青炭に相当した 。 酸・フルボ酸の H/C と O/C モル比 図2(a)に各試料の有機炭素に占めるヒューミン,脂質およびアル カリ可溶画分の構成割合を示す。同じ宗谷夾炭層に分類される 各試料から精製されたフミン酸の 13C NMR 分析による炭素組 試料でも,So1 のヒューミンの構成割合(約 20 %)は So2 のそれ 成と,IHSS による土壌,泥炭から精製された標準フミン酸の炭素 (約 95 %)と比べて 5 倍程度小さかった。脂質の構成割合は,Ko 組成(%)を比較したところ(図4),飽和脂肪族炭素と置換脂肪族 で 10 %程度と最も高く,So2 で 5 %程度,So1 で 0.5 %程度であった。 炭素の含有量は,IHSS フミン酸のそれら含有量よりも,1.0~4.2 図2(b)に,アルカリ可溶画分の炭素組成を示す。フミン酸態炭素 倍の範囲で高い傾向が認められた。一般的に飽和脂肪族炭化 の構成割合は So1 で 93.2 %と最も高く,So2(61.4 %),Ko(40.3 %) 水素の H/C は高いことから,これらの傾向は各精製フミン酸の が続いた。対照的に,フルボ酸態炭素の構成割合は So1 で H/C 比が IHSS フミン酸の H/C 比よりも高い傾向(図3)と調和し 1.47 %と最も低く,Ko と So2 で 14~15 %の範囲に分布した。透析 た。 一方で各精製フミン酸のカルボニル炭素含有量は,IHSS 過程で膜外に浸出された低分子量有機物の構成割合は,Ko で フミン酸のそれら含有量よりも,0.47~0.78 倍の範囲で低い傾向 45 %と最も高く,So2(23 %),So1(7 %)の順番で低くなった。これら が認められ,Ko と So2 の O/C 比が比較的低い傾向(図3)と調和 低分子量有機物の N/C 比は,Ko で対応する精製フミン酸・フル した。 これらのことから,(石炭試料を含む)堆積岩由来のフミン ボ酸の N/C 比よりも著しく低かったのに対し,So1 と So2 で対応 酸・フルボ酸は,土壌・泥炭由来のそれらに比べ,脂肪族炭素に するそれらと類似した。 富み,特にフミン酸の方でカルボニル炭素に乏しい傾向が示唆 された。 図4 各試料から精製されたフミン酸と IHSS 標準フミン酸の 13C NMR 分析による炭素組成 4.引用文献 図2 (a)試料全体と(b)アルカリ可溶画分の炭素組成 図3に精製フミン酸・フルボ酸の H/C と O/C モル比を示す。 比較のために,International Humic Substance Society(IHSS)によ る土壌,泥炭から精製された標準フミン酸・フルボ酸の H/C と O/C モル比も示した。各試料から精製されたフミン酸(フルボ 1) S. Shimizu, M. Akiyama, Y. Ishijima, K. Hama, T. Kunimaru, Y. Naganuma: Geobiol., 4 (2006), 203-213. 2) 石島洋二,平井祐次郎,酒井利彰:平成 18 年度 地圏環境研究事業 研究成果報告書,pp.245-247. 3) S. Killops, V. Killops: Introduction to organic geochemistry, (Blackwell publishing, Malden, MA, 2005), pp.125.
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