多様化する骨粗鬆症治療薬とその選択 Ⅲ.続発性・他疾患関連骨粗鬆症の薬物治療選択 5.消化管関連骨粗鬆症の薬物治療 Osteoporosis associated with gastrointestinal disease 松浦 稔・本澤 有介・仲瀬 裕志 Minoru Matsuura(助教),Yusuke Honzawa/京都大学医学部附属病院 消化器内科 Hiroshi Nakase(講師)/同 内視鏡部 key words 消化管疾患に合併する骨粗鬆症のうち,臨床的に遭遇する頻度が高いものとして胃 切除後や炎症性腸疾患に伴う骨粗鬆症が挙げられる.その発症要因としては,高齢, 閉経,喫煙などの一般的な因子に加え,腸管切除に伴う消化機能低下や栄養障害,炎症, 治療薬剤など,消化管疾患そのものと深く関連する因子が複雑に絡み合い,また各疾 患によっても大きく異なる.消化管疾患に対する薬物治療や内視鏡治療の進歩に伴い, 今後,高齢患者や長期経過例が増えていくことが予想され,患者 QOL 向上の観点か らも消化管疾患に合併する骨粗鬆症の正しい理解とその対策が必要である. 炎症性腸疾患 胃切除 骨粗鬆症 炎症 ステロイド剤 くされる原因不明の難治性疾患であ 症については 1940 年代にすでに報告 り,近年,若年者を中心にその患者数 されており,長期的な合併症として以 消化管疾患に合併する骨粗鬆症と が急速に増加している.本稿では,骨 前より知られているが,骨密度の減少 しては,消化管切除(特に胃切除,小 粗鬆症を合併する代表的な消化管疾患 は胃切除後比較的早期から認められる 腸切除)や炎症性腸疾患(クローン病, のうち,実際の臨床で遭遇する頻度の ことが報告されているため注意が必要 潰瘍性大腸炎) ,セリアック病が代表 高い胃切除後に伴う骨粗鬆症と IBD である.また胃切除の術式による検討 的なものである.抗潰瘍薬の開発や における骨粗鬆症を中心に概説する. では,亜全摘(部分切除)術と全摘術, はじめに また Billroth Ⅰ法と Billroth Ⅱ法の間 ピロリ菌に対する除菌治療の普及,内 視鏡的治療の進歩に伴い,胃切除術 胃切除術と骨粗鬆症 が行われる例は減少しているが,胃 における骨粗鬆症の合併率に有意差は ないことが報告されている 1). 癌に対する根治的治療など依然とし 1.疫学 て胃切除術を必要とする場合も少な 胃切除後の骨病変には骨量低下の 2.病因と病態生理 くない.一方,クローン病(Crohn s みならず骨軟化症の所見も混在する 胃切除後に生じる骨粗鬆症の正確な disease:CD)や潰瘍性大腸炎(ulcera- ため,それらを厳密に区別することは メカニズムは不明であるが,基本的に tive colitis:UC)に代表される炎症性 困難であるが,胃切除後にみられる骨 はカルシウムの吸収障害とそれに伴う 腸疾患(inflammatory bowel disease: 軟化症の発生頻度は 10 ∼ 20%,骨粗 続発性副甲状腺機能亢進症による骨吸 IBD)は主として腸管局所に炎症が生 鬆症については約 32 ∼ 42%と報告さ 収の亢進と考えられている.ガストリ じ,生涯にわたる治療の継続を余儀な 1) れている .胃切除後に生じる骨粗鬆 THE BONE Vol.29 No.2 2015- 夏号 SAMPLE ン分泌細胞を含む胃前庭部の切除は胃 181 ( )83 Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.
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