金融論B 資料4 9 金融政策

金融論B 資料4
担当:楠美 将彦 e-mail:[email protected]
http://www.takachiho.ac.jp/ ˜mkusumi/index.html
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金融政策
キーワード
アナウンスメント効果
インターバンク市場
エージェンシーコスト
インフレ ーション・ターゲティング
オープン市場
貸出政策
貨幣乗数
貨幣乗数理論
金融技術革新
金融政策運営の 2 段階アプローチ
金融政策の運営目標
金融政策のタイムラグ
金融政策の波及メカニズム
クレジット・ビュー
公開市場操作
公定歩合操作
コミット メント効果
最終目標
時間軸効果
準備預金制度
準備預金の積み進捗率
準備率操作
情報の非対称性
信用秩序の維持
政策効果の非対称性
ゼロ金利政策
操作目標
中央銀行の独立性
中間目標
ハイパワード マネー
ファイナンシャル・アクセラレ ーター
ベース・マネー
補完貸付制度
マネタリー・ベース
マネー・ビュー
リザーブ・ターゲティング
流動性の罠
レンディング・ビュー
ロンバート 型貸出制度 9.1
9.1.1
金融政策と中央銀行
金融政策の意味
金融政策
総需要管理政策の支柱
• 中央銀行および中央銀行以外の経済主体によってなされる金融の諸制度の導入や変更、あるいは
金融上の指導、監督など の政策
• 中央銀行を政策主体としてなされる経済政策の一環であり、物価の安定や完全雇用の達成など の
公共的な目的を達成するために 、各種の政策手段を用いて、経済活動のマクロ的側面に働きかけ
る政策
9.1.2
中央銀行の独立性
日本銀行の目的
• 銀行券の発行
• 通貨および 金融の調節
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• 信用秩序の維持
日本銀行の独立性の高まり
• 政策委員会に権限を集中
• 政府が必要と判断したときのみ、政策委員会に出席する
• 政府の権限である意見調整は 、延期するだけの権限のみがあり、最終決定は委員会の多数決
• 政府による日銀役員の解任権や業務命令権の廃止
バブルのときに政府の圧力があったとされている
日本銀行の透明性の高まり
政策決定プロセスの透明性を高める → アカウンタビリティ(説明責任) が強まった
• 議事要旨や議事録を公表する
• 半年に 1 回、国会への報告義務を課してる
48
9.2
9.2.1
金融政策の目標
物価の安定
最終目標
1. 物価の安定
2. 完全雇用の確保( 景気の維持)
3. 国際収支の均衡ないし 為替レートの安定( 近年の為替相場制では、より為替レートの安定に重点)
物価の安定[ 最も重視するもの]
• 個別の財・サービ スの価格を集計した平均値とし ての一般物価 (物価指標) が安定すること
• 市場メカニズムが作動するための基本的な前提
物価の不安定化の影響
• 交換手段 (決済機能) とし ての貨幣の機能が失われる
• 所得や資産の分配を不公平にする
資産価格の安定をどう位置づけるか
• 資産価格の安定は最終目標には含めるべきではない(ゼロインフレが望ましいというわけでは
ない )
• 資産価格の動きは企業の投資行動や家計の消費活動に影響する
• 資産価格の動きは経済動向に関する有用な情報を提供する情報変数とし て有用
9.2.2
景気の維持と為替レート の安定
政策目標間にはトレード ・オフの関係があることがある
右下がりのフィリップ ス曲線
物価上昇率と失業率との間に安定的な負の関係がある
近年:インフレは景気の短命化をもたらすので、物価を安定させることが 、景気を安定させ、持続
的な経済成長を可能にする
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物価の安定と為替レート の安定
為替レートの乱高下
• 為替リスクの増大
• 企業の将来の事業計画など に大きな不確実性をもたらす
直接の金融政策目的とし ないほうが良い。(失敗例.プラザ合意に基づく円高阻止のための低金利政
策による、バブルの発生)
二つを同時に追求することは基本的に不可能である。
9.2.3
インフレーション・ターゲティング
近年の世界的な傾向とし て、中央銀行が物価の安定を唯一の目標として金融政策の運営をすべき
インフレ ーション・ターゲティング
特定の期間のインフレ 率について明示的な目標レンジを設定し 、これを対外的に公表する [ 狙い ]
1. 物価は金融政策の最終目標であるため、目標とし て最も明確である
2. 目標レンジを対外的に公表し 、それを達成することができれば 、中央銀行の信任確保
につながる
3. 物価統計は速報性が高く、ターゲティングを行うのに適している
[ 背景と特徴]
• 必要以上のインフレを招かないための、独立性を補助する手段
• 目標の採用自体が将来のインフレ 率や金融政策の予想に影響する
インフレ 目標を達成するための有効な政策手段が存在することが 導入の前提条件(目標を達成する
ための有効な政策手段があることが前提、目標が達成できないと信頼性の低下につながる。)
9.2.4
金融政策の運営目標
最終目標を確実にタイミング良く達成するためには 、いくつかの問題がある。
• 政策効果が出るまでに時間がかかる
• 非政策要因( 石油ショック、天候不順)による攪乱
運営目標
金融政策運営の目安となる金融変数
( 直接、最終目標( 物価)を見ない )
運営目標の分類
政策手段 → 操作目標 → 中間目標 → 最終目標
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操作目標 金融政策のスタンスをストレートに反映する変数( ハイパワード・マネー、銀行
準備、インターバンク市場金利)
( 直接コントロール可能)
( 日本では 、無担保コール
翌日物金利)
中間目標 最終目標と密接な関係がある変数( マネーサプライ、金融機関貸出増加額、貸出
金利、債券利回り )
• 中央銀行が操作目標を通じて中間目標となるべき金融変数を的確にコントロール
し うる
• 中間目標から最終目標の間には安定した因果関係が認められ 、フィード バックが
生じない
• その変数に関する情報を迅速に入手できる
2 段階アプ ローチ
政策手段→運営目標 運営目標→最終目標
中間目標
70 年代以降市場金利からマネーサプライへ( マネーサプライの伸び率を目標とし た)
1. マネーサプライと物価の因果関係から 、物価安定のためにはマネーサプライのコントロールが必
要との認識が高まったため
2. インフレが進行するもとで 、市場金利の適格性が疑問視されたため
現在は、マネーサプライも重視し すぎず、総合的判断材料の 1 つとしている
51
9.3
9.3.1
金融政策の手段
貸出政策
中央銀行が民間銀行に貸し 出しを行う際、その貸し 出しの諸条件を変更したり、貸出量それ自体を
調整する政策手段
• 金融機関からの優良な手形を再割引する方式
• 国債や手形を担保に金融機関に貸出を行う( 現在の主流)
公定歩合操作
中央銀行の貸出に適用される公定歩合を変更する政策
従来 短期金融市場では 、公定歩合が最も割安な資金調達手段( 効果が大きい )
1995 年 7 月以降 コール・レートが公定歩合を下回る(日銀借入に対するインセンティブは消滅)
中央銀行貸出は最後の貸し 手機能に基づく可能性が大きい
アナウンスメント 効果( 告知効果、シグナル効果)
中央銀行のアナウンスをどれだけ信頼するかというクレディビリティ(信頼性)に効果は影響される
公定歩合の引き上げ → 経済が抑制される
• 金融機関は貸出を手控える( 金融機関は現在の貸出を抑制する )
• 企業は資金調達の困難を予測 → 企業は投資計画の縮小を考える
公定歩合以外にも「 無担保コール翌日物金利」を誘導目標とし ている。
現在の日銀貸出は、国債などの担保を差し入れておけば 、日銀が受動的に貸出に応じる「ロ
ンバート型」である。
( 毎回審査をし ない )
9.3.2
公開市場操作
公開市場で、中央銀行が市場価格を基準に債券・手形など の売買を行う
日本銀行が個々の金融機関と直接に債券や手形を売買する方式が中心であった( 英米では最も中心
的な金融政策の手段である。))
9.3.3
準備率操作
民間金融機関の預金など の債務の一定比率(法廷準備率)相当分を無利子で中央銀行に預け入れる
ことを強制する制度
準備率の引き上げ
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• 民間金融機関の準備需要( 無利子)の増大( 公開市場操作の売り操作と実質的に同じ )
公開市場操作の手段が充実するにつれて、準備率を変更する頻度も少なくなる( 代替関係)
表 1: 市中銀行に対して買いオペをし た場合
中央銀行
国債
+ 100
中央銀行預け金
+ 100
( 準備預金)
市中銀行
国債
− 100
中央銀行預け金
+ 100
表 2: 一般投資家に対して買いオペをし た場合
中央銀行
国債
+ 100
中央銀行預け金
+ 100
投資家
国債
− 100
預金
+ 100
市中銀行
中央銀行預け金
+ 100
現金
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+ 100
9.4
日本銀行の金融調節
コール・手形レートを政策目標の方向と水準に誘導
9.4.1
準備預金制度
ある月の平均預金残高に対して一定の準備率を乗じて得られる所要準備額をその月の 16∼15 日の間
に日銀預け金 (準備預金) の平均残高とし て積み立てるよう義務付けられている
預金の種類ごとに法定準備率は異なる( 円定期預金、円その他預金、など )
9.4.2
準備預金の積み進捗率
積み進捗率
αt =
Σtj=1 Rj
準備預金残高の累積額
=
Tθ
全体の総額
αt 積み期間中の t 日目の「 積み進捗率
Rj 積み期間中の j 日目の準備預金残高
θ 一日平均所要準備額
T 法定積み日数 (積み立て期間の日数)
所要積み立て残額対比
At = Rt −
T θ − Σtj=1 Rj
対総額不足額
=
T − t
残り日数
不足していると、インターバンク市場の金利上昇を招きやすくなる
9.4.3
インターバンク市場と準備預金
日本銀行
日銀貸出( BL )
銀行券( CU )
手形・国債( BS ) 準備預金( R )
海外資産( F A )
政府預金( DG )
日本銀行の当座預金( 準備預金) → インターバンク市場の需給 → 金利調整
銀行券 日本銀行によって発行される銀行券の残高
準備預金 保有理由:
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1. 準備預金制度による義務
2. 民間金融機関相互の資金決済に備える
3. 金融機関の窓口での現金による預金払い戻しに備える
政府預金 租税や国債など の受け入れた資金
BL + BS + F A = CU + R + DG
R = (BL + BS + F A) − CU − DG
ΔR = (ΔBL + ΔBS + ΔF A) − ΔCU − ΔDG
日銀貸し 出しの増加、手形国債の増加( 買いオペ )、海外資産の増加によって、準備預金は( R) は
増える。
9.4.4
金融調節と資金需要
準備預金の増加( 減少) =
銀行券の還流( 増発)
+
財政資金の払い超( 上げ超)
+
日本銀行の信用供与( 吸収)
結果とし て、準備預金の変化を生み出し 、その上でコール・手形レートに変化を生み出す。
R(rC ; α) = (BL + BS + F A) − CU − DG
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9.5
金融政策の波及効果
9.5.1
金融政策の波及メカニズム(金融引き締めのために、インターバンク市場の金利上昇をねらう )
1. 貸出の限界採算悪化によって金融機関貸出を抑制する経路 (企業への貸出金利を硬直的にし てい
た高度成長期に支配的)
2. 金利の上昇による資金調達コストの増加が企業や家計の支出活動を直接抑制する経路(ケインズ
的な経路)
3. 金利の上昇が資産価格の下落を引き起こし 、企業や家計の支出行動を抑制すると同時に 、担保価
値の下落を通じて金融機関の貸し 出し 態度を慎重にさせる経路
4. 日本の金利の上昇が海外との金利格差の変化を通じて円高を招き、国内物価上昇を沈静化させる
と同時に 、輸出の減少、輸入の増加を通じて総需要を抑制する経路
2∼4は 、これから重要視される
金利機能を貫徹させるマーケット・オリエンテッド (市場志向) な政策運営に徹することが要請される
予防的、機動的な政策決定・措置が必要
9.5.2
日本銀行の量的金融緩和政策
1998.2∼2000.8 ゼロ金利政策 (無担保コール翌日物金利をほぼゼロにする)
2001.3∼ 量的緩和政策
量的緩和政策の中身
1. 「 操作目標」を無担保コール翌日物金利から日本銀行当座預金に変更し 、その残高を
増額した
2. 消費者物価の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで量的緩和を継続するとい
う実施期間を明示した(コミット メント効果( 時間軸効果))
3. 資金供給のため、長期国債の買い入れを増額する
4. ロンバート型貸出制度の実施
買いオペでいわゆる札割れ( 金融機関からの申し 込みが予定に満たない)が生じた
量的緩和実施の理由
デフレ スパイラルの懸念が表面化したため
( 各種の契約が名目値であるため、物価の下落に柔軟に調整されない )
物価の下落に柔軟に対応できない理由
1. 名目賃金の下方硬直性
2. ゼロ金利制約( 金利のルートが絶たれる)
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3. 債務の実質的な負担増加(物価下落は借金の増加)
この量的緩和政策は 、流動性の罠の状況に類似している
「コールなど の市場金利」は「 準備預金供給量」の減少関数である。
(この 2 つは独立に決定できない。)
(市場金利が 0 になると、大量の日銀当座預金を供給しても無数の準備預金量が存在している。)
↓
金利が変動しなくても、量的緩和は経済活動に貢献する。
( 金利が起点であると考えると、この効果はあり得ないだろう。)
9.5.3
金融政策のタイムラグと政策効果の非対称性
( イ)金融政策のタイムラグ
金融政策では効果ラグが大きい
内部ラグ
認知ラグ 政策の介入を必要とする事態が生じてから 、その必要を政策当局がはっきりと認知す
るまでの遅れ
決定ラグ 新たな政策の必要を認知してから 、実際にその政策を実行するまでの遅れ
外部ラグ
効果ラグ 政策が発動されてから効果が最終的な政策目標に及ぶまでの遅れ
(ロ)政策効果の非対称性
引き締め政策によって景気を崩すことは比較的容易( 直接的な効果が大きい )
緩和政策によって景気を浮揚させることは容易ではない
9.5.4
ハイ・パワード ・マネーとマネーサプ ライ
貨幣乗数アプ ローチ (貨幣乗数理論)
マネーサプライがど のようなメカニズムによって決定するか
マネーサプ ライの定義 M = C + D
ハイパワード マネーの定義
H = C + R:
民間金融機関保有の支払い準備に民間非金融部門の現金有価( 流通現金)を加えたもの
( すべての現金通貨の発行残高と民間金融機関の中央銀行預け預金残高( 準備預金)の合計)
( 銀行券と準備預金の合計)
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M マネーサプライ
C 企業、家計など が保有する現金通貨( 流通現金)
D 預金
H ハイパワード マネー (マネタリーベース、ベースマネー)
R 民間金融機関保有の支払準備 (中央銀行預け金と手元保有現金の合計)
マネーサプ ライとハイパワード マネーの関係( 貨幣乗数公式)
中央銀行は、ハイパワード マネーの供給量をコントロールすることによって、マネーサプライをコ
ントロールできる
M=
1+α
H
α+β
where
α=
C
R
,β =
D
D
α 現金・預金比率
β 準備・預金比率
1+α
貨幣乗数
α+β
問題点 1:貨幣乗数の安定性
• ハイパワード マネーとマネーサプライの対前年比の伸び率はパラレルではない
• 貨幣乗数それ自体も下方トレンド を持っている
要するに 、機械的な貨幣乗数アプローチは 、経済情勢など に関わらず、銀行・企業の行動が不変で
あるとし ている。 → 貨幣供給量が金利に依存しないことになる。
問題点 2:ハイパワード マネーとマネーサプ ライの因果関係
1
R となる。
β
これを書き直すと、以下の式になる。
現金を無視すると、D =
R = βD
預金の一定率を準備とし て保有している事を示す式と見ることができる。
(M → H )
日本銀行の論理
マネーサプライからハイパワード マネーへの因果関係を重視する
58
9.5.5
ハイパワード マネーと市場金利
ハイワパワード マネー → インターバンク市場 → インターバンク市場金利
ハイパワード マネーに対する金融機関や民間非金融部門の需給
ハイパワード マネーの需給均衡条件
R(rC ; α) + CU = (BL + BS + F A) − DG
この式は次のようにとることもできる。
• 金融機関全体の準備預金に対する需給均衡式から決定される
• ハイパワード マネーの需給均衡から決定される
三位一体の関係
• インターバンク市場
• 準備預金
• ハイパワード マネー
日本銀行の論理
ハイパワード マネーの量を (少なくとも短期的には ) コントロールできない
( 金利をコントロールしたいため、ハイパワード マネーは受動的になる。)
9.5.6
銀行貸出とマネーサプ ライ
銀行貸出によってマネーサプライは決定される。
日本銀行
中央銀行貸出( B)
銀行券(C)
その他中央銀行保有資産(O) 中央銀行当座預金(R)
市中銀行
中央銀行当座預金(R)
預金(D)
貸出(L)
中央銀行借入( B)
B+O
=
C +R
R+L
=
D+B
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貨幣供給の源泉
C +D = L+O
日銀の負債項目( 現金)+市中銀行の負債項目 (預金)
=
市中銀行の貸出+中央銀行保有資産 (除中央銀行貸出)
市中銀行の貸し 出しの変化が同額のマネーサプライの変化を生み出す
貨幣供給の変化が本質的には貸出( 銀行信用)の変化を通じて生じる
9.5.7
マネー・ビューとクレジット ・ビュー
マネー・ビュー
金融政策は、LM曲線のシフトを通じて、金利を変化させ、民間支出の変化を通じて実体経済に影
響する( 貨幣に注目)
• 預金という銀行部門の負債に注目
• 債券と貸出が完全に代替的であることを仮定
クレジット ・ビュー(レンディング・ビュー)
銀行貸出の増減が直接に総需要を変動させるルートを重視する。(信用に注目)
条件
1. 金融政策の変更が銀行の貸し 出し行動を変化させること(→インターバンク市場金利
が銀行の貸出を変化させる)
2. 銀行貸し 出しは債券発行と完全には代替的ではないこと(→中小企業にはより良く当
てはまる。情報の非対称性がより大きいため。)
ファイナンシャル・アクセラレーター仮説
企業の正味資産ないし バランスシートの変化が 、
企業の設備投資など の変化を通じて、景気の変動を加速させる
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