第3章 畜産業の振興 - 内閣府 沖縄総合事務局

第3章
畜産業の振興
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右上:
左上:
石垣牛の育成のために、名藏湾に面し
畜産担い手総合整備事業で導入したト
た山裾を整備した放牧地 (石垣市)
ラクターその他牧草収穫機械(伊江村)
左下:
右下:
沖縄ブランド豚「アグー」生産の基と
なる沖縄アグー豚(雌)(名護市)
国産食肉の安全性確保に係る正確な情
報提供の場として開催した「食肉出張講
座」(那覇市)
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第1節
畜産
沖縄県の畜産業は、本土復帰以降、順調な発展を遂げ、現在では、農業産出額の
4割強を占めるなど、沖縄農業の中で重要な地位を占めています。平成24年の産出
額は385億円で、これを畜種別にみると、肉用牛が144億円(37%)で最も多く、次
いで豚131億円(34%)、鶏66億円(17%)、乳用牛42億円(11%)となっています。
近年、肉用牛の産出額は豚の産出額を上回り、本土復帰直後と比較しても大きく
伸びています(図Ⅲ-1)。その原因は、
① 食生活の変化による牛肉需要の高まりや子牛の価格安定対策等により繁殖雌
牛の飼養頭数が増大したこと
② 飼料生産基盤整備が進められ、亜熱帯性気候を活かした生産性の高い飼料生
産が展開できたこと
③ 機械化やコントラクター(農作業受託組織)等の活用により、投入する労働
力を大幅に軽減できたこと
等があげられます。
一方、豚については、飼養技術の向上や養豚団地の整備等により、飼養頭数が増
加したため産出額が増加し、200億円弱で推移する時期もありましたが、飼養地域
の混住化等を背景とした環境問題、後継者不足等から飼養戸数及び頭数が減少しま
した。しかしながら近年は経営の安定化を図るため、預託経営が増え、その結果、
飼養規模が拡大したことから横ばい傾向にあります。
図Ⅲ-1 畜種別産出額の推移
資料:農林水産省「生産農業所得統計」
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(1)肉用牛
肉用牛については、亜熱帯性気候で牧草の単収が高いこと等を背景に、子牛の
価格安定対策等の実施、飼料生産基盤や施設整備の進捗等により、平成に入り飼
養頭数は増加傾向で推移していましたが、平成22年をピークに平成23年以降は減
少傾向にあります。また、飼養戸数は、近年横ばいで推移しています(図Ⅲ-2)。
1戸当たり飼養頭数は、平成25年は25.4頭と全国の43.1頭を下回っています。
他方、子取り用雌牛の割合は62.4%と、全国の23.4%に比べ高く、繁殖経営が多
いことが特徴となっています(表Ⅲ-1)。
図Ⅲ-2 肉用牛の頭数規模別飼養戸数及び飼養頭数の推移
資料:農林水産省「畜産統計」
注:平成3年以降の頭数規模別飼養戸数及び飼養頭数は、試験場等の非営利的な飼養者は含まない。
注:H12 年の頭数規模別飼養戸数のデータはない。
表 Ⅲ - 1 肉 用 牛 の 飼 養 戸 数 ・ 飼 養 頭 数 ( 平 成 25年 )
(単位:戸、頭、%)
沖縄県
全国
飼養戸数
3,010
61,300
飼養頭数
沖縄県
全国
76,400
2,642,000
飼養頭数
76,400
2,642,000
1戸当たり飼養頭数
25.4
43.1
子取り用雌牛
飼養頭数
47,700
618,400
子取り用雌牛の割合
資料:農林水産省「畜産統計」
- 90 -
62.4
23.4
<県内肉用子牛の取引価格が高値で更新>
沖縄県内における家畜市場の取引価格の推移
(黒毛和種・子牛)
平成24年の夏頃から沖縄県内の家畜市場
における黒毛和種の子牛価格が上昇を続
け、平成25年12月には、県内家畜市場の平
均取引価格が510,885円となり、最高値を
更新しました。
その要因としては、全国的な子牛の取引
頭数が減少傾向にあることが考えられてい
ます。
県内における肉用牛農家の大半を占める
繁殖経営にとっては、好景気である一方、
子牛価格の高騰に伴い、肥育農家の購買意
欲の減退等により子牛取引価格の下落も想
定され、今後の取引価格の動向に注視しな
ければなりません。
平成25年における黒毛和種子牛の平均取
引価格は451,891円、取引頭数は25,421頭
です。なお、取引頭数の9割近くが県外か
らの購買者による買い付けとなっていま
す。
各市場で50万円を超える取引価格が増えている。
(八重山家畜市場(H25.4))
(2)乳用牛
乳用牛については、高齢化、後継者不足等といった要因から飼養頭数は平成10
年以降大幅に減少しましたが、ここ数年は5,000頭前後で推移しています。 平成
25年の飼養戸数は80戸、飼養頭数は4,650頭となっています。また、1戸当たり
の経産牛飼養頭数は42.8頭で、北海道を除く都府県平均の35.9頭を大きく上回っ
ています(図Ⅲ-3)。
近年の生乳生産量は28千t前後で推移し、平成25年は28,281tとなっています
(図Ⅲ-4)。
一方で、若手の酪農経営者に加えて新たに酪農を志す新規就農者が増加してき
ており、今後の沖縄県の酪農をリードしていく担い手として期待されています。
図Ⅲ-3 乳用牛の飼養頭数等の推移
図Ⅲ-4 生乳生産量の推移
(頭)
(戸、10頭)
1000
50
900
42.8頭
1戸当たりの搾乳牛飼養頭数(右目盛)
45
800
40
700
35
飼養頭数
600
30
(t)
35000
400
20
15000
300
15
200
100
80戸
0
15
19
20
21
27,360
28,049
28,281
22
23
24
25
10000
5
5000
0
10
27,969
10
飼養戸数
平.元
28,750
25000
20000
4,650頭
29,612
30000
25
500
33,039
22
23
24
0
H19
25
20
21
資料:農林水産省「牛乳乳製品課統計」
資料:農林水産省「畜産統計」
注:25 年は月報値より集計。
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<事例Ⅲ-1:那覇市おもろまちで搾乳体験等のイベント開催>
県内の酪農に対する理解を深めるた
め、酪農を取り巻く環境や担い手を紹介
したパネル展、県産牛乳の試飲やバター
作り体験等の特別展示を、平成25年12月
に那覇第2地方合同庁舎で開催し、多く
の方が来場しました。
また、本庁舎の屋外に「ふれあい広場」
を 開 設 し 、 天久小 学 校の生徒(104名)
等を対象に、乳搾りの体験や子牛とのふ
れあい体験を行いました。生徒からは「牛
がとっても大きい!」、「子牛の心臓の音
が良く聞こえた!」などの感想がありま
した。
県内酪農家の協力を得て行われた乳搾り体験
(那覇第2地方合同庁舎内(那覇市おもろまち))
(3)豚
豚については、混住化の進行等を背景とした環境問題、農家の高齢化及び配合
飼料価格の高騰等を背景として、飼養戸数は、昭和48年の17,300戸をピークに大
幅に減少し、平成25年は285戸と近年横ばいになっています(図Ⅲ-5)。
また、飼養頭数は、平成25年は246,800頭、1戸当たりの飼養頭数は866頭と全
国(1,739頭)の5割程度の状況にあります(表Ⅲ-2)。
図Ⅲ-5 豚の飼養戸数及び飼養頭数の推移
(戸、百頭)
(百頭)
4,000
10
8.7
1戸当たりの飼養頭数(右目盛)
3,500
9
8
3,000
246,800頭
飼養頭数
2,500
7
6
2,000
5
4
1,500
3
1,000
2
飼養戸
500
285戸
0
1
0
平.元
10
15
19
20
21
23
24
25
資料:農林水産省「畜産統計」
表 Ⅲ - 2 豚 の 飼 養 戸 数 ・ 飼 養 頭 数 ( 平 成 25年 )
沖縄県
全国
飼養戸数
285 戸
5,570 戸
飼養頭数
246,800 頭
9,685,000 頭
資料:農林水産省「畜産統計」
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1戸当たり飼養頭数
866 頭
1,739 頭
(4)採卵鶏
採卵鶏については、後継者不足や環境問題等から、飼養戸数は減少傾向で推移
し、平成25年は46戸となっています。飼養羽数については、ここ数年1,400~1,5
00千羽で推移し、平成25年は1,454千羽となっています。また、1戸当たりの飼
養羽数は、増加傾向にあるものの、31.6千羽と全国(65.0千羽)の5割程度とな
っています(図Ⅲ-6、表Ⅲ-3)。
図Ⅲ-6 採卵鶏の飼養戸数等の推移
資料:農林水産省「畜産統計」
表 Ⅲ - 3 採 卵 鶏 の 飼 養 戸 数 ・ 飼 養 羽 数 ( 平 成 25年 )
沖縄県
全国
飼養戸数
46戸
2,650戸
飼養羽数
1,454 千羽
172,238 千羽
1戸当たり飼養羽数
31.6 千羽
65.0 千羽
資料:農林水産省「畜産統計」
(5)山羊
沖縄県では、古くから山羊肉の食文化がありますが、近年、生産者の高齢化や
低価格山羊肉の輸入等により、飼養戸数及び頭数ともに減少傾向にあります(図
Ⅲ-7、表Ⅲ-4)。
図Ⅲ-7 山羊の飼養戸数・飼養頭数
資料:沖縄県畜産課「家畜・家きん等の飼養状況調査」
表 Ⅲ - 4 山 羊 の 飼 養 戸 数 ・ 飼 養 頭 数 ( 平 成 24年 )
沖縄県
飼養戸数
1,362戸
飼養頭数
8,380頭
資料:沖縄県畜産課「家畜・家きん等の飼養状況調査」
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1戸当たり飼養頭数
6.15頭
第2節
配合飼料価格の高騰と自給飼料の生産拡大
(1)配合飼料価格の高騰
原料 の ほとん どを輸 入穀物に依 存し
てい る 配 合飼料 の 価格は、主な原料と
なる と う もろこ し の国際価格が、アメ
リカ に お けるバ イ オ燃料向け需要の増
加に よ り 高水準 で 推移していること、
また、最近の円安の進行・定着により、
高騰しています(図Ⅲ-8)。
図Ⅲ-8 配合飼料価格の推移
(円/トン)
70000
60000
50000
40000
30000
(参考)肉用牛配合飼料の小売価格
平成24年の月別肉用牛肥育用配合
飼料価格の平均は62,230円/t *1
20000
H12.1 13.1 14.1 15.1 16.1 17.1 18.1 19.1 20.1 21.1 22.1 23.1 24.1 25.1 26.1
資料:農林水産省生産局畜産振興課「流通飼料価格等実態調査」
注:バラ及び袋物の全畜種の税抜き加重平均工場渡し価格。
畜産経営においては、品質の向上、増体を目的として、とうもろこし等の高タ
ンパク穀物を含む濃厚飼料(配合飼料)が主要な費用を占めています。我が国は
配合飼料の主原料となるとうもろこしのほとんどを輸入に依存 *2 しています。
生産費における飼料費は、養豚で66%を占め、牧草等の粗飼料を主餌とする子
牛でも37%を占めています(図Ⅲ-9)。
このため、とうもろこし価格の高騰を受けた配合飼料価格の上昇は、畜産経営
を大きく圧迫しています。
図 Ⅲ - 9 畜 産 物 生 産 費 ( 費 用 合 計 ) の 内 訳 ( 平 成 24年 度 ) 沖 縄 県
労働費
5,066円
(17%)
飼料費を除く
物財費
肥育豚
5,181円
(17%)
(1頭当たり)
30,553円/頭
労働費
175,185円
(36%)
飼料費
20,306円
(66%)
子牛
(1頭当たり)
488,110円/頭
飼料費
179,294円
(37%)
飼料費を除く
物財費
133,631円
(27%)
資料:農林水産省「農業経営統計調査 畜産物生産費」
注:構成比(%)については、表章単位未満を四捨五入しているため、その合計が 100%にならない場合がある。
*1
*2
農林水産省「農業物価統計」の農業生産資材の小売価格
我が国のとうもろこしの輸入相手国とその占める割合は、①米国(52%)、②ブラジル(32%)、③アルゼ
ンチン(6%)、④その他(10%)です(財務省「貿易統計」(平成24年度輸入量))。
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(2)自給飼料の生産拡大
畜産 物 の安定 的な生 産を図って いく
ため に は 、輸入 飼 料に依存せず、国内
の飼 料 自 給力を 高 めていくことが重要
であ り 、 沖縄県 酪 農・肉用牛生産近代
化計画 ( 平成32年 度目標)では、亜熱
帯性 気 候 を活か し て、飼料自給率を平
成22年の56%から60%へ増加させるこ
ととしています。
自 給飼 料の生 産 拡大については、復
帰以 降 、 肉用牛 の 生産振興を目的とし
て、 八 重 山地域 を 中心に農業農村整備
事業 等 が 実施さ れ てきたことから、飼
料作物の作付面積は年々拡大し、平成2
5年では5,750haとなっており、このほ
とんどが永年性牧草です(図Ⅲ-10)。
沖縄総合 事務局 では引き 続き、飼料生
産基 盤 の 拡大に 向 けた取組を推進して
まいります(事例Ⅲ-2)。
図 Ⅲ - 10 牧 草 等 の 作 付 け 面 積 等 の 推 移
収穫量(牧草)
(千ha)
7
(万㌧)
作付面積(牧草)
5,750
6
5
70
60
59.2
50
4
面
積3
収
40 穫
30 量
2
20
1
10
0
0
平.元
10
20
21
22
23
24
資料:農林水産省「作物統計」
注:収穫量の 24 年のデータはなし。
整備された草地
<事例Ⅲ-2:第11回放牧サミットの開催>
平成25年11月26日(火)、27日(水)、一般
社 団 法 人 日 本草地 畜 産種子協会主催、沖縄 総
合 事務 局 後 援によ る 第11回放牧サミットが石
垣市において開催されました。
このシンポジウムは、「放牧を実践して、低
コ ス ト ・ 高 所得経 営 を実現しよう」をテー マ
に 、 最 近 の 配合飼 料 価格高騰が畜産経営に 影
響 を 及 ぼ し ている こ とから、畜産経営コス ト
の 大 半 を 占 める飼 料 費や労働費等を低減で き
家 畜 へ の 負 担軽減 、 農地保全にも貢献する 多
様 性 を 持 っ た技術 で ある放牧畜産の推進と 普
及 定 着 を 図 る目的 で 開催し、全国から多く の
方 々 が 参 加 しまし た 。シンポジウムでは、 4
名 の 講 師 か ら放牧 に よる畜産経営の事例紹 介
等 の 講 演 が 行われ 、 その後のパネルディス カ
ッ シ ョ ン で は、放 牧 経営における各地域の 課
題 や 問 題 点 につい て 参加者と講師との意見 交
換が行われました。
ま た 、27日 ( 水)に は、石垣市内で放牧に
よ る 肉 用 牛 繁殖経 営 を営む2つの牧場の現 地
研 修 会 を 開 催し、 牧 場概要説明後、参加者 か
ら 放 牧 経 営 を実践 す る中での飼養管理や草 地
管理に関する質問等が交わされました。
- 95 -
80
講師による事例紹介
現地研修(宮良牧場)
25
第3節
畜産環境対策の取組
県内の畜産業が発展する一方、畜産経営に伴う環境への影響が懸念されていま
す。特に市街地の拡大により地域住民と畜産農家の混住化が進展している沖縄本
島中南部等では、住民から悪臭や水質汚濁を中心に苦情が寄せられています。
このため、畜産業の振興に併せて、家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促
進を図ることが重要になっています。
このような状況の下、平成11年7月に家畜排せつ物法 *1 が制定され、畜産業を
営む者は、農林水産大臣が定める管理基準(排せつ物の管理施設は、床を不浸透
性の材料とすること等)に従って家畜排せつ物を管理することとなりました。
このため、畜産農家へ同法の周知徹底を図るとともに、堆肥舎等関係施設の整
備を促進し、特に、管理基準の不適合農家に対しては、県が指導・助言等を行う
ことにより、改善を促してきました。
この結果、今では管理基準が適用
図 Ⅲ- 11 家畜 排せ つ物 法管理 基準 対応 状況
され る1,595戸 *2 の全農家が管理基
畜産農家 3,842戸
準に適合しています(平成24年12月
管理基準適用農家
管理基準対象外農家
1日現在)(図Ⅲ-11)。
1,595戸
2,247戸
また、沖縄県における畜産経営に
41.5%
58.5%
起因する苦情発生の件数も減少傾向
にあります。畜種別にみると、養豚
管理基準適用農家
1,595戸
に対する苦情が27件と全体の約53%
施設整備
簡易対応
その他
を占め、苦情種別にみると、水質汚
1,145戸
290戸
30戸 1.9%
71.8%
18.2%
濁、悪臭及びこれらの複合要因が45
件 と 全 体 の 約 90 % を 占 め て い ま す
周年放牧
ほ場へ直接散布
83戸 5.2%
47戸 2.9%
(図Ⅲ-12)。
※「その他」には、廃棄物処理としての委託処分、発酵床など畜舎での
排せつ物管理等が含まれる。
資料:沖縄県農林水産部「平成24年度家畜排せつ物法施行状況等調査」
図 Ⅲ - 12 苦 情 発 生 件 数 ( 左 : 畜 種 別 、 右 : 苦 情 種 別 )
(件)
400
(件)
400
乳用牛
350
ブロイラー
採卵鶏
豚
肉用牛
その他
水質汚濁と害虫発生
悪臭発生と害虫発生
悪
臭
350
300
300
250
250
200
200
150
150
100
100
50
50
害虫発生
水質汚濁
水質汚濁と悪臭発生
0
0
昭.60
平.2
12
19
20
21
22
23
24
昭.60
7
12
19
20
21
資料:沖縄県農林水産部「畜産経営に起因する苦情発生状況調査」
*1
*2
家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(平成11年法律第112号)
家畜排せつ物法の管理基準は、牛10頭、豚100頭、鶏2千羽以上を飼養する農家等に適用。
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22
23
24