滞在型市民農園「クラインガルテン下郷」について

「ふくしま地域化セミナー」
日時:平成 22 年 10 月 12 日(火)
会場:ふくしま自治研修センター 講堂
事例発表1
滞在型市民農園「クラインガルテン下郷」について
さ とう
ふみ のり
下郷町事業課 主査 佐藤 史紀
氏
はじめに
町で開設した滞在型市民農園「クラインガルテン下郷」について説明させていただきます。
まず初めに、町の概要です。下郷町の位置と概要ですが、福島県の南西部にあって、町の中心
を阿賀川が流れているところです。南側は栃木県との県境に接しているところに位置していま
す。町の集落の標高については、標高 400 メートルから 750 メートルのところに各集落があっ
て、南側の県境は 2,000 メートル弱程度の栃木県との県境の那須山系の山になっています。町
の気候は日本海型の影響が強く、積雪型の寒冷地ということで夏は高温多湿で冬は毎年 50 セン
チ程度の積雪があるところです。町の人口は、9月現在、6,725 人で、世帯数が 2,265 世帯にな
1
っています。人口は減尐が続いていて、概ねここ数年ではだいたい1年で 100 名程度は減ると
いう右肩下がりの減尐ということで、6,700 人台まで減尐しています。町の総面積ですが、だい
たい3万へクタールで、町の 87%が森林あるいは原野になっています。観光分野ですが、町の
一番有名なところとしては国の重要伝統的建造物保存地区として大内宿が有名な観光地となっ
ています。平成 20 年9月に、甲子トンネルが開通して、下郷町から県南方面、白河方面のアク
セスがだいぶ変わってきました。観光面においても、県南あるいは首都圏から会津地方への観
光ルートということで、会津地方の玄関口として下郷町の観光の流れが変わっているところで
す。
クラインガルテンの事業について
次に、用語の説明をしたいと思います。クラインガルテンという言葉の意味は、元々ドイツ
語で、日本語に直訳すると小さな庭、英語ならスモールガーデンだと思いますが、今は市民農
園という意味合いで、だいぶ日本国内でも定着しています。発祥のドイツで、200 年の歴史が
あるそうで、大都市の郊外に位置し、農地に休憩小屋が併設していて、子どもの情操教育の場
であるとか、戦時中には食料確保の場にも使われてきたようです。今は、都市住民による新鮮
な野菜栽培がこのクラインガルテンで行われていて、主に、ドイツでは都市住民の日常の場と
いうことで、クラインガルテンが 200 年間親しまれてきたわけです。日本でのクラインガルテ
ンの話をしたいと思いますが、山村に開設される場合が多いということで、今のところ 47 件の
クラインガルテンが開設されています。日本のクラインガルテンを語る場合に、農業体験とか
都市農村交流あるいは二地域居住がキーワードになっていて、クラインガルテンを通した山村
地域の振興ということで、利用する側の都市住民にとっては、非日常の場にあるのが日本の場
合です。
2
実際に下郷町で開設したクラインガルテンの目的を説明したいと思います。町では、
「第四次
下郷町振興計画」が平成 17 年から 26 年までの 10 カ年計画ということで立ち上がりました。町
の最優先計画となっていて、キーワードの「誇れる郷土に広がる交流」ということで、交流型
の町づくりをしていきましょうという全体の計画になっています。今現在、下郷町が掲げる問
題点は、通過型の観光、これは大内宿が代表的かと思いますが、首都圏から来て大内宿で蕎麦
を食べて夜は会津若松市の東山温泉あたりで入浴して一泊して帰るという観光パターンがあり
まして、下郷町からすれば観光のお客さんは通過型でしかないという問題があります。次に、
交流人口の地域間格差は、大内宿で観光客の皆さんが地元の方と触れ合うことができるんです
が、それ以外の集落については、大内宿以外の皆さんは観光客と交流する機会がないというの
が問題です。そのほかに人口の減尐で、この計画の中で、通過型の観光から滞在型の交流に持
っていきたい。観光分野だけではなく農業を含むようなあらゆる分野で交流を拡大したい。あ
とは人口減尐対策として、行く行くは何人かでも定住の促進につなげたいという目標がありま
した。この一つの解決手段として、イラストにあるような滞在型の市民農園というものを計画
したものです。これは福島県内初の行政が開設した滞在型がキーワードとなる農園となります。
次に整備計画の策定として、どのように計画を進めたのかの説明となります。福島県初で我々
も手探り状態でしたので、専門家に相談しようということで、県庁経由で相談したところ、県
では福島県景観アドバイザーという方がいらっしゃって、そのアドバイザーである宮城大学の
3
森山先生を紹介していただきました。早速、大学経由で森山先生にお願いをして、下郷町でク
ラインガルテンをやりたいんですがどうやったらいいでしょうかと、研究を委託する形でお願
いしました。先生は、10 人位の学生を連れてきて、予定地周辺の地形とか植生とか景観を現地
調査されました。その後、それを元に施設のレイアウトや休憩施設の建築計画などを成果品と
して出していただきました。更にこの成果品を、町長をはじめとした町サイドとすり合わせし、
最終的な全体のイメージということで計画が進んでいきました。
これが実際できた施設で、
「クラインガルテン下郷」の施設概要となっています。所在地はご
覧のとおりで、こちらは元々町で持っていた町有地の農地になっています。開園が平成 22 年4
月で 10 区画が開園しました。管理者は町の直営になっています。左の写真はラウベと言われる
農地に付帯した休憩施設になっていて、延べ床面積がだいたい 30 平米です。1区画の敷地は
300 平米で、そこにこのラウベと 200 平米の農地が付いて、セットでの貸し出しとなります。
1区画の年間貸出料は 40 万円で、これは年間前払いで4月に役場に納めていただくことになり
ます。貸し出しは、1 年ごとの単年度契約ですが、最長5年間は延長できます。また、右半分の
写真は管理棟で、223 平米ありますが、中には研修室が2部屋と調理実習室があって、区画を
利用された方と地元の農業者の人との交流の場として、栽培の講習会とか収穫祭なんかを実施
する予定です。
「活用した補助事業」ですが、補助事業については、農林水産省の補助事業で、
「元気な地域
4
づくり交付金事業」という事業を活用しています。この事業は今は名前が変わって「農山漁村
活性化プロジェクト支援交付金」という事業名となっています。補助の事業主体は町で、総事
業費は1億 4,600 万円程度、費用の負担は国が 50%、県が4%、町が 46%で、平成 20 年度か
ら 21 年度にかけて実施したものです。20 年度は測量・設計、21 年度は造成・工事を実施して
います。この事業費はあくまでも補助対象費ということですので、補助対象外として町が実施
した単独分の造成工事と併せますと、
1億 9,000 万円程度の全体の総事業費がかかっています。
次に「利用者募集の方法」です。この事業は工事と並行して実際に施設を利用していただく
利用者の募集をしたわけですが、その方法として、まず一つ目はパンフレットを町で作りまし
た。そして県の観光交流課にご協力いただき、県で発行している「ふくしまファンクラブ通信」
の中に、このチラシを同封させていただいて、約 4000 通を配布しました。また、町でやってい
る在京下郷会への配布や、町の広報誌にも掲載しました。二つ目の方法は、町のホームページ
に、ブログ形式で載せまして、工事の進捗状況も含めながら、今度こういう施設ができますよ
ということでお知らせしました。結果として、10 区画の募集に対して、40 件ほどの問い合わせ
が来ました。その中で、実際に応募をいただいたのが 18 件で、この中から抽選で利用者を決め
させていただきました。
「施設利用者の状況」ですが、年代、人数、地域とありますが、まず利用者の年代は 30 歳
5
代の人が1人で山形県の方、50 歳代が1人で福島県の方、あとは 60 歳代以上の方で、60~64
歳が5名で福島県、埼玉県、千葉県、神奈川県、65 歳以上が3名で埼玉県、東京都となってい
ます。主に退職世代の方の利用が多くて、だいたい7割程度が関東圏からのご利用という状況
になっています。
この写真が、実際の農園の利用状況になっています。上の写真は全体の写真になります。契
約後は常時利用可能で、鍵を利用者にお渡ししていますので、いつ来ても自由に使ってもらっ
ていいですよという契約になっています。ラウベと畑は、原則個人管理ということで、我々町
職員とか、町がお願いしている管理人さんは余計な手出しをしないというスタイルでやってい
ます。管理機などの農機具は管理棟に置いてありまして、燃料満タン返しを条件に、無料で貸
し出ししています。
ここからが核心というか重要な部分ですが、
「交流事業」ということで、利用者の人に使って
もらうばかりでなく、こちらから何かお手伝いというか仕掛ける部分がほしいということで、
町で「クラインガルテン下郷ふれあい支援協議会」を今年の2月、施設開設の前に立ち上げま
した。これは地元の農業者とか行政区長、農協、県農林事務所、町で構成していて全 17 名で構
成した協議会です。中身としては、利用者のためのお助け部隊で、3班に分かれて、農作物の
栽培の指導、農業体験の企画、年間予定とか、交流事業の計画を地元のメンバーで企画してい
ます。②の情報交換会は、初顔合わせと書いてある通り、開所式の際に皆さんの方で情報交換
会を行いました。利用者の方から下郷町なら何の作物が合っているんですか、という話が出ま
6
した。町の自然条件とか、食料品をどこに買いに行ったらいいですか、有害鳥獣はどうやって
気をつけたらいいですか、というような話が情報交換会で出ました。③は実際の営農指導で、
地元の農家の方が利用者の要望に応じて指導を行っているものです。④は各種体験事業で、こ
れは6月に開催したものですが、近くに三倉山湿原があって、こちらで木道を敷設したり周辺
に水芭蕉を植えたりして、地元の方と利用者の方にも一緒に入ってもらって共同で作業したと
いう事業もやりました。④―2は7月に行ったそば蒔き体験です。これは管理棟裏に共同で使
うような畑があって、そこに下郷町特産の秋そばを植えようということで、利用者の方と協議
会の方が指導しながらそば蒔きをやりました。10 月には「そば」の刈り取り体験で、利用者と
共同で「そば」の刈り取りをしたところです。隣の写真はジャム作り体験で、これは管理棟の
前に実りました食用ほおずきを、南会津農林事務所さんにいろいろご指導いただきましてジャ
ム作り体験を 9 月に行いました。女性の方に大変人気でして、畑の作業は旦那さんがやって、
女性の方はジャム作りに非常に興味を持ってやっていただいたということです。
効果と課題
「これまでの効果」で、大きく3点挙げさせていただきました。まず一つ目が、交流イベン
トを通して、地元の人たちとクラインガルテンの利用者の方と交流の場が持てた。2番目に利
用者から広がる交流ということで、これもクラインガルテンの利用者の方が、
「今度福島に農地
を借りたから遊びに来いよ」と言って友達を呼んだり、兄弟を呼んだりして、自分の畑を見せ
て、会津地方の観光をしたり、下郷町の温泉旅館なんかを使っていただいて、それぞれ利用者
ばかりではなく利用者から交流が広がっていきます。3番目に各種メディアの注目で、テレビ
とか新聞とか雑誌にそれぞれ掲載して、これによって利用者予備軍と書かせていただきました
が、クラインガルテンを利用してみたいなとか、町に興味を持ったりとか、メディアに注目し
てもらうことによって拡大していったというのが3番目の効果です。
7
「今後の課題」で、4月に開園して半年経ったところですが、課題としては、交流イベント
の実施ということで、これから秋の収穫祭を考えているところです。こちらから仕掛けるイベ
ントだけではなく、
10 区画の利用者の方が自ら考えていくイベントもやっていきたい。あとは、
地域の伝統行事なんかにも積極的に参加してもらい交流を図りたいなと思っています。会報の
発行ですが、まだ発行はしていないんですが、クラインガルテン通信みたいな会誌みたいなも
のを発行して、皆さんにお知らせしていきたい。冬期間の利用方法で、下郷町は雪が降るので
農園の冬場の利用ができなくなるので、クロスカントリーとか漬物の加工品関係も、雪ならで
はの利用方法をこれから考えていきたいと思っています。
「今後の整備予定」ですが、赤で囲んであるのは今現在使用している部分です。黄色の部分
は、今年から来年にかけて、今年で 10 棟、来年で 10 棟ということで建設して、最終的に 30
区画までやっていきたいという考え方です。
最後に「中・長期的な課題」ですが、ガルテンの利用者の中にはいろんな考えを持った方が
いらっしゃいます。健康志向の方とか、農村に興味があって行く行くは住んでみたいという本
8
物志向の方がいたり、一方、レジャー志向で利用される方とか、一時の園芸ブームみたいな形
で利用されている方ももしかしたらいるのではないかと考えています。市民農園整備促進法と
か特定農地貸付法という法律があって、その中でクラインガルテンの利用の年数は5年間に定
められています。促進法では、均等の機会を与えるという意味で、5年間で卒業してください
ということになっています。そういうことでレジャー志向の方が卒業された場合には、別のク
ラインガルテンに移られてしまうんじゃないかと考えています。一方で、本物志向の方を下郷
町の農村の方へいかに振り向いてもらえるかということが、この事業の核心部分になるかと思
います。本物志向を振り向かせるには、受け入れる側が本物の農村でなければならないという
ことで、この辺がこの事業の本質になってくるのではないかなと思います。以上で発表を終わ
ります。
9