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アメリカ英語
出口菜摘
映画タイトル
The Help(ヘルプ 心がつなぐストーリー)
製作年
2011 年
DVD 情報
日本で入手可/英語字幕あり (146 分)
監督
テイト・テイラー
映画について
キャスリン・ストケットンが 5 年の歳月をかけて完成させた同名の小説の
映画化。小説は 60 あまりの出版社から出版を断られましたが、2009 年に
出版されてから徐々に口コミで広がり、NY タイムズのベストセラーリス
トに 103 週ランクインのロングセラーになりました。デジタル版を合わせ
て 1130 万部以上を売り上げる記録的ミリオンセラーです。現在、42カ
国語に翻訳されています。映画化にあたっては、ストケットの幼馴染みで
あるテイト・テイラーが監督・脚本を担当しました。映画も小説同様に評
判が高く、第 84 回アカデミー賞では、エイブリーン役を演じたヴィオラ・
デイヴィスが主演女優賞にノミネート、ミニー役を演じたオクタビア・ス
ペンサーが助演女優賞を受賞しています。他にもアメリカ映画俳優組合
賞、アフリカン・アメリカン映画批評家協会賞など多くの賞を受賞した映
画です。
主要キャスト
エマ・ストーン(ユージニア・スキーター・フェラン役)
、ヴィオラ・デイ
ヴィス(エイビリーン・クラーク役)
、オクタヴィア・スペンサー(ミニ
ー・ジャクソン役)
あらすじ
舞台は 1962 年のアメリカ南部、ミシシッピー州のジャクソン。ライター
を志すスキーターは、大学卒業後故郷の新聞社に就職し、家事相談コラム
を担当する。コラム執筆のために「ヘルプ」と呼ばれる黒人メイドと交流
と持つなかで、黒人メイドを差別する白人上流階級に違和感を持ち始め、
彼女たち・黒人メイドの物語を出版したいと思うようになる。
英語の特徴
この映画は、アメリカ南部のミシシッピー州を舞台に、黒人メイドが自
発音・文法・語彙 分の体験を白人女性スキーターに語るという設定をとっていて、南部英
語・アフリカ系アメリカ英語に触れる英語教材として適しています。ここ
ではその一部紹介します。
アフリカ系アメリカ英語の音声的特徴として、二重母音/ai/が長母音
/a:/と発音されることがありますが、この特徴は、映画の中の印象的な台
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詞に見つけることができます。黒人メイドのエイビリーンが雇い主の子ど
もであるメイポプリに対して、“you is kind, you is smart, you is important”と
おまじないのように言う場面が何回かあります。
(0:02:44)(1:19:39)この台
詞では、“kind”が「カァィンド」ではなく「カァーィ」と発音されていま
す。また、語尾の[d]が省略されるのも、アフリカ系アメリカ英語の特徴で
す。
(この台詞には文法的間違いがありますが、主語の人称によって動詞
が変化することは、アフリカ系アメリカ英語特有とは言い切れません。
)
また母音の直前以外で/r/が発音されないという特徴があり、例えば、 “it
[a diaper] don’t get changed till I get there in the morning”(0:56:35)というエイ
ビリーンの台詞では、
「モーニン」と[r]音は落ちています。
さらに、アフリカ系アメリカ英語の文法的特徴があらわれているのが“I
done raised 17 kids in my life.”(0:02:17)という台詞です。この “done”は完
了形 “have”の代わりに使用され、完全に動作が終了したことを強調しま
す。 “I done something terrible awful to that woman.”(0:38:34) “If you leave Mr.
Johnny … then Miss Hilly done won the whole ball game. Then she done beaten
me… and she done beat you.”(1:47:36)など、台詞の前後を踏まえて、そのニ
ュアンスを確認してみてもよいでしょう。
南部英語特有の人称代名詞として、“y’all”が映画のなかで度々使われま
す。 “Y’all make it quick”(0:17:50)、 “Well, thanks to y’all, I can announce that
we already filled”(0:53:18)など。これは、 “you”と “all”が短縮されたもの
で、
「あなた達」という意味です。
映画のみどころ
「白紙のメタファー」というものが、英米圏の文学作品にしばしば用い
られ、さらにフェミニズム批評においても注目されてきました。このメタ
ファーが意味しているのは、
「白紙」=女性や子ども、社会的立場の弱い
者を意味し、
「ペン」を持つ男性・権力者が彼らの価値観を「白紙」に書き
込んでいくという社会構造まで射程に入れています。
「書く」という行為
がいかに特権的であり、時に暴力的であったかを思い出すと、黒人メイド
たちの声が出版されるという映画のプロットや、メイドのエイブリーンが
作家になるという最終場面どいに、この映画の力強さを感じます。
その他
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