食べて、祈って、恋をして

インドネシア英語
映画タイトル
Eat, Pray, Love(食べて、祈って、恋をして)
DVD 情報
日本で入手可/英語字幕あり (140 分)
小林めぐみ
製作年
2010 年 (アメリカ)
監督
ライアン・マーフィー
映画について
エリザベス・ギルバートの同名小説を原作とする映画
主要キャスト
ジュリア・ロバーツ(リズ・ギルバート役)、ハビエル・バルデム(フ
ェリペ役)
、ジェームズ・フランコ(デヴィッド役)
、ビリー・クラダッ
プ(スティーヴン役)
、リチャード・ジェンキンス(リチャード役)
、ヴ
ィオラ・デイヴィス(デリア役)
、マイク・オマリー(アンディ役)
、ハ
ディ・スピヤント(クトゥ役)
、クリスティン・ハキム(ウェイアン役)
、
ルカ・アンジェンテロ(ジョヴァンニ役)、ツヴァ・ノヴォトニー(ソ
フィー役)ほか
あらすじ
作家として安定した地位を築いているリズは、あるとき夫との結婚生活
に疑問を抱き始め、バリ島の占い師の予言に導かれるかのように、離婚
を決意、周囲の反対を押し切ってイタリア、インド、バリを旅すること
にする。リズは旅を通して、少しずつ自分を取り戻していくが…
英語の特徴
この映画では、アメリカ英語の他にイタリア英語、インド英語、インド
発音・文法・語
ネシア(バリ)英語、スウェーデン英語、スペイン(設定上はポルトガ
彙
ル)英語などを聞くことができます。ここでは、映画で触れる機会の少
ないインドネシアの英語に着目します(“medicine man”と呼ばれる占い
師のクトゥとバリの伝統薬剤師ウェイアンの英語)
。ウェイアンを演じ
るクリスティン・ハキムはインドネシアを代表する女優です(ジョグジ
ャカルタ出身)。一方、クトゥはバリ在住の実在の占い師で、本来なら
ば舞台であるバリの地元のことばバリ語も考慮に入れるべきところで
すが、クトゥを演じるスピヤントの出身地がインドネシアであること以
外不明であることもあり、ここではインドネシア英語として見ていきま
す。以下は、映画の冒頭に出てくるクトゥのセリフ(抜粋)です。
“You are a world traveler. You will live a long time, have many friends, many
experiences. Also you will lose all your money. I think in next 6 to 10 months.
(…) and live here for three or four months, and teach me English.”(0:02:00)
ここで下線部の発音はそれぞれ world traveler「ワトラフェラー」
、live
「リフ」、have「ハフ」
、experiences「エクスペンセス」
、lose「ルース」
、
next「ネクス」、four「フォラ」
、English「イングリス」となっています。
まず world traveler や next などで子音の脱落が見られます。特に連続子
(c) 世界の英語を映画で学ぶ研究会
http://eureka.kpu.ac.jp/~myama/worldenglishes/
音の語末の子音が脱落する傾向が強いようです。また/v/は/f/, /z/は/s/で
代用されていますが、これはインドネシア語に/v/や/z/の音がないことに
起因する現象と言えます。そのため、主人公の Liz はずっと Liss と呼ば
れていますし、ウェイアンの次のセリフ “Want too much happiness, too
much pleasure”(2:00:55)では、pleasure が pressure「プレッシャー」と聞こ
え、意味を取り間違えそうなくらいです。また sh の音も元来インドネ
シア語にはない音のためか(外来語にのみ使用)
、/s/で代用されていま
す。
その他はクトゥのセリフ“You girl from California? …So long ago we
meet.” (1:33:50~)のように、be 動詞が欠落する、過去の話でも現在形を
使用する、などといった現象がときどき見られます。
映画のみどこ
この映画の見どころは、まずイタリア、インド、バリの風景でしょう。
ろ
題名のとおりイタリアでは食べて、インドでは祈って、そしてバリでは
恋をして、と異国の地で様々な経験をするわけですが、自分を見つめ直
す主人公の成長がこの映画の主題です。このような自分探しの旅を、何
もかも満たされたアメリカ人女性のぜいたくな悩みととることも、人生
のバランスを崩しがちな現代人に必要な憩いととることもできるでし
ょう。とはいえ、バリの占い師のことばは、この映画の起点でもあり終
着点でもあり、陳腐でもそれなりに心に響くものがあります。
なお、この作品は作家の自叙伝的物語のため、言語に関する視点も
多々含まれています。イタリアでは、言語とは口だけで話すのではなく、
手によるジェスチャーも大事なのだと指摘される場面があるのですが、
イタリア式ジェスチャーがとても生き生きとしていました。(ステレオ
タイプすぎるきらいもありますが。
)バリで出会った少女の名前“Tutti”
がイタリア語では「みんな」という意味を持っていることも、この旅を
通して自分だけではなく他者にも目を向け始めた主人公の成長を象徴
するシンボルのような気がします。また、ロンドン、ニューヨーク、ロ
ーマを一言で表したら、自分を一言で表したら…といった問いかけが映
画で出てくるのですが、自分ならば何と表すか考えてみるのもおもしろ
いでしょう。最後に、イタリアで食べ過ぎて太ってしまったスウェーデ
ン人の女性ソフィーがリズに英語でお腹についた贅肉を何というのか
尋ねるシーンがあるのですが、答えは何でしょうか。“Muffin top”(カッ
プからはみ出たマフィンの上部)だそうです。
その他
原作の続編 Committed: A Sceptic Makes Peace with Marriage (2010)では、
紆余曲折を経て、筆者が再婚に至った経過が書かれています。
(c) 世界の英語を映画で学ぶ研究会
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