レイトオータム

韓国英語
小林めぐみ
映画タイトル
製作年
DVD 情報
原題 만추(晩秋)(邦題レイトオータム 英語名 Late Autumn)
2010 年 (韓国)
日本で入手可 日本語字幕
(113 分)
監督
キム・テヨン
映画について
この映画をきっかけにキム・テヨン監督と主演女優タン・ウェイが交際
を始め、二人は 2014 年にゴールインしています。またタン・ウェイは
第 47 回百想芸術大賞の女優最優秀演技賞を受賞するなど、韓国での存
在感が高まっています。
主要キャスト
タン・ウェイ(アンナ役)
、ヒョンビン(フン役)
、キム・ジュンソン(ワ
ン・ジン役)、キム・ソラ(オクチャ役)ほか
あらすじ
夫を殺した罪で服役中のアンナ(タン・ウェイ)は、母の葬儀に出席す
るため 72 時間の出所を許されるが、シアトルに向かう長距離バスの中
で突然見知らぬ男フン(ヒョンビン)に運賃を貸してほしいと頼まれる。
いきがかりでお金を貸したアンナだったが、フンはその後も憂いに満ち
た雰囲気の漂うアンナに話しかけ続ける。そして必ず借りたお金を返す
と腕時計をアンナに押しつけて別れるが、ひょんなことから二人は再会
する。アンナは、夫を死なせる原因となった初恋のワン・ジンが自分の
ことなど忘れたかのように幸せな家庭を築いていることに強い喪失感
を抱いていた。フンの明るさで、アンナの閉ざされた心が少しずつ開き
始めるが、ジゴロを生業とするフンは妻を寝取られた男に狙われていた
…
英語の特徴
この映画のセリフの大半は英語で(一部中国語、韓国語)
、アジア系英
発音・文法・語 語を聞くことができます。中国出身の女優タン・ウェイも流暢な英語を
彙
話していますが、ここではヒョンビン扮するフンの韓国英語に主眼を置
いて見てみましょう。なお、二人ともセリフがほとんど英語であること
に不安を感じつつも、2 か月間英語の練習をしながら意欲的に撮影に取
り組んだとのことです。
ヒョンビンの英語は、全体的に強弱のリズムが弱く平坦に聞こえます
が、一つ一つの音はかなり注意深く発音されていて、韓国英語によく見
られる/z/が[ʒ]、/f/が[p]となったりするような現象はほとんど観察でき
ません。韓国語の影響と考えられる特徴は、非常に細かいところですが、
/s/に続く破裂音/p, t, k/が呼気を伴っているところです。標準英語では通
常/p, t, k/は、/s/に続く場合などでは呼気なしで発音されるため、例えば
(c) 世界の英語を映画で学ぶ研究会
http://eureka.kpu.ac.jp/~myama/worldenglishes/
‘top’は[thɑp]と発音されるものの‘stop’は[sthɑp] ではなく[stɑp]と発音さ
れます。一方ヒョンビンの英語では“Stop raining.” (0:38:44) の‘stop’が
[sthɑp]と発音されるなど、/t/音は総じて[th]で発音されています。これは
英語の/t/をそのまま韓国語のㅌ(/th/)で代用しているため起こる現象と
考えられます。
ちなみにワン・ジン役のキム・ジュンソンは、香港生まれの韓国系ア
メリカ人。韓国の TV ドラマにも多数出演していますが、流暢な中国語
と英語を操り、多くの視聴者が中国系アメリカ人と間違えたそうです。
映 画 の み ど こ 1966 年製作の韓国映画『晩秋』のリメイク。往年の名作として、韓国国
ろ
内で何度もリメイクされている作品ですが、本作品はタン・ウェイ、ヒ
ョンビンという中国と韓国のトップスターを起用し、シアトルを舞台と
しています。キム・テヨン監督は『晩秋』のシナリオを書く際、中国人
女性と韓国人男性の話にしたらどうなるかと思いつき、そこから舞台を
あえて異国で陰鬱な雰囲気のあるシアトルに設定したとしています。古
典的な『晩秋』をイメージしていた視聴者にとっては、この設定は不評
だったようですが、World Englishes や異文化理解の視点からは、とても
貴重な作品と言えます。アメリカで中国人と韓国人が出会い、英語で会
話をするという状況は実際に日常的に起こっているはずですが、そのよ
うな交流を映画の中心に据えた作品は多くありません。かたや服役中の
女、かたやジゴロの男が出会うという設定が非常に特殊な状況であるこ
とはさておき、アンナとフンが互いの共通言語である英語を中心に、時
には外国語で話す相手の様子や言語以外のメッセージから相手の気持
ちを読み取ろうとする姿は、移民者同士のコミュニケーションの形とし
て自然に感じられます。主役二人の英語が母語ではないことがかえって
作品にリアリティーを与えているといえるでしょう。
印象に残る場面として、なかなか打ち解けないアンナの気持ちを和ま
せようと、フンが少し離れたところにいたアメリカ人らしきカップルの
会話を想像して即興で話を作るシーンがあります。それに応えてアンナ
も話を作り出すのですが、そんな「疑似会話」を交わすことで、心を開
き始める様子が見て取れます。また中国語で身の上話をするアンナにフ
ンが中国語でハオ(good)、フェイ(bad)と相槌を入れるというシーンがあ
りますが、中国語がわからなくても真摯に耳を傾けてくれるフンのおか
げで、アンナも救われた気持ちになったのではないでしょうか。
この映画は、舞台が 2000 年代のアメリカとは思えないほど時代がか
った雰囲気で、全体を通して物悲しく重苦しい展開のため、好みが分か
(c) 世界の英語を映画で学ぶ研究会
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れると思いますが、じわじわと心に残る作品です。
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