有機化学命名法 命名法には、①IUPAC(International Union of Pure & Applied Chemistry:国際純正及び応用化学連合,化学 者の最高議決機関)の規則に基づく命名、②ACS(American Chemical Society:アメリカ化学会系)による命名、③慣 用名、の三通りがある。①と②の違いは、宣言の順序が少し違うだけで、本質は同じ。本講義では、①IUPAC を基本とする。ただし③は、いまだにけっこう使用されており、また、古い文献を読むときには amyl alcohol のような慣用名を知らないと訳がわからない[ex. CH3(CH2)4OH の命名: IUPAC pentan-1-ol = ACS (1-)pentanol(1-は無くても OK)= 慣用 pentyl alcohol = 旧慣用 amyl alcohol,なお amyl の語源は amylose や amylopectin で、”でんぷん質の”という意味] 。したがって諸君らにとっては不幸なことに、①~③を全部マス ターせねばならない。 数詞と単純な炭化水素の命名 数詞 1 mono (IUPAC,ACS,慣用) alkane alkene alkyne CH4 該当なし 該当なし CH3CH3 CH2=CH2 CH≡CH ethane,同左,同左 ethene,同左,ethylene ethyne,同左,acetylene CH3CH2CH3 CH2=CHCH3 CH≡CCH3 propane,同左,同左 prop-1-ene,1-propene,propylene prop-1-yne,1-propyne,propyne CH3(CH2)2CH3 CH2=CHCH2CH3 CH≡CCH2CH3 butane,同左,同左 but-1-ene,1-butene,butylene but-1-yne,1-butyne,butyne CH3CH=CHCH3 CH3C≡CCH3 but-2-ene,2-butene,2-butylene but-2-yne,2-butyne,同左 (CH3)2CHCH3 (CH3)2C=CH2 該当なし 2-methylpropane,同左,isobutane 2-methylprop-1-ene,2-methyl-1-propene,isobutylene CH3(CH2)3CH3 CH2=CH(CH2)2CH3 CH≡C(CH2)2CH3 pentane,同左,同左 pent-1-ene,1-pentene,pentene pent-1-yne,1-pentyne,pentyne (CH3)2CHCH2CH3 (CH3)2CHCH=CH2 (CH3)2CHC≡CH methane,同左,同左 2 di 3 tri 4 tetra 5 penta 2-methylbutane,同左,isopentane 3-methylbut-1-ene,3-methyl-1-butene,同左 CH3-C(CH3)2-CH3 3-methylbut-1-yne,3-methyl-1-butyne,同左 該当なし 該当なし 2,2-dimethylpropane,同左,neopentane 6 hexa hexane hex-1-ene,1-hexene,hexene hex-1-yne,1-hexyne,hexyne 7 hepta heptane hept-1-ene,1-heptene,heptene hept-1-yne,1-heptyne,heptyne 8 octa 9 nona 22 docosa ・・・・ 10 deca 11 undeca 30 triaconta 12 dodeca 13 trideca ・・・・ 20 (e)icosa 21 hen(e)icosa 40 tetraconta ・・・・ 炭素数=1∼4の鎖状化合物は古来から知られていた(⇒生体,天然物由来)ので、全てそれら慣用名が approved name(許容された命名)として IUPAC 名にも採用されている。たとえば、tetrane ではなく butane であるよう に。以下、alkene,alkyne,alcohol でも同様。 閑話休題 現在は WEB 検索できるので必要なくなっているが、一昔前は化学者にとっての文献検索は一苦労だった。数 ある学術刊行誌(Journal)の目次を全て当たるわけにいかない(第一、それだけの種類の Journal を毎号全部取 り寄せている図書館は国会図書館だけ)ので、全ての論文の Abstract(Summary, Synopsis, Zusammenfassung) だけをまとめた冊子,Chemical Abstract,が作られた。ただしそれだけでは条件検索できないので、検索用の 冊子,Index,も同時に必要になる。主な検索語は著者名(Author Index)と物質名(Subject Index)であり、例え ば Subject Index の hydrogen という項目をみると、その該当年度において「hydrogen」を Abstract や内容に 含む原著論文の抜粋が Chemical Abstract のどこに掲載されているのかを示す番号が並べられている。該当年度 の Chemical Abstract の掲載番号部分を見ると、相当する Abstract が載っており、それを見て、本当に必要な 論文かどうかを判断した上で、大元の Journal を取り寄せる。(今は、一気に Online 検索できるようになった。 昔の一日仕事が、現在は数分で済む。) さて、そうすると、Subject Index における化合物名には、統一性が無いと非常に困る。CH3-CH=CH-CH3 を 例にとると、 現在の IUPAC では but-2-ene だが、昔は 2-butene だとか butene-(2)などの命名が入り乱れていた。 そこで、Chemical Abstract を編纂している ACS は、自分たちの権限を利用して ACS による化合物命名のルー ルを作り、Subject Index を作成することにした。ACS 命名法の出来がかなり良かったせいもあって、長らく主 役の座にあったが、もう少し systematic な IUPAC に取って代わられつつある。たとえば、CH3-CH=CH-CH2OH について ACS では 2-butenol であって「2-」が何の位置番号に相当するのか直ぐには分からない。IUPAC であ れば but-2-en-1-ol というように必ず官能基の直前に位置番号が入るので分かりやすい。ACS 信奉者は、 「書面な らば IUPAC も便利だが、 発音できないじゃないか」と反論する。確かに、 化学者の国際会議で英語で but-2-en-1-ol と発音する人はいない(なんて発音すればいいんだろう?)。皆、2-butenol と言っている。 何れにしろ、現在の刊行物は全て IUPAC 命名を用いることになってきており、Journal によっては IUPAC 以外の命名を使用しただけで論文を却下されることもある。少なくとも化学の領域で生きていくためには、「共 通言語」ともいうべき IUPAC 命名をマスターせねばならない。 化学の起源は結構古く、昔は原料を自然界(動植物)から得ていた。それらの原料(化学物質)には慣用名が付けら れており、次のような例がある。 CH3(CH2)4 CH2 C=C H (CH2)7COOH C=C HH H CH3(CH2)11OH 慣用名 IUPAC 名 linoleic acid cis, cis-octadeca-9,12-dienoic acid リノール酸 cis, cis-オクタデカ-9,12-ジエン酸 lauryl alcohol dodecan-1-ol ラウリルアルコール CHO O furfral furan-2-carbaldehyde フルフラール リノール酸は植物油の一成分で、植物油[グリセリンの(不飽和)脂肪酸のトリエステル]を加水分解すると得ら れるので古くから知られており、慣用名がある。ラウリルアルコールはヤシ油を加水分解して得た脂肪酸を還元 して得る。フルフラールは、植物体の構成成分の一つであるヘミセルロースを酸と加熱すると得られる。Furan (フラン)は酸素を含む不飽和五員環の慣用名かつ IUPAC 名であり、フルフラールとともに Fructose が語源で ある。このような環状化合物で古来から知られているものには必ず慣用名があって、IUPAC でも approve(使 用してよいと許容されていること)されている。鎖状化合物であるラウリルアルコールは approve されていない。 もう理解できたと思うが、いくら便利になっても「検索語が分かりません」では WEB 検索できない。命名法 をマスターしておらず、化合物の IUPAC・ACS・慣用英名を導き出せなければ(あるいは間違えていれば)話 にならない。ついでに言っておくと、命名法ができなければ試薬一つ購入できない。 異性体の命名法 母体の炭化水素に置換基が付くと、その置換基の種類と置換位置により、種々の異性体ができる。 ex.1) 置換基が異なる CH3(CH2)2-CH-(CH2)3CH3 CH3(CH2)2-CH-(CH2)3CH3 CH3 CH2CH3 4-methyloctane 4-ethyloctane ex.2) 同じ置換基だが、置換位置が異なる CH3(CH2)2-CH-(CH2)3CH3 CH3CH2-CH-(CH2)4CH3 CH3 CH3 4-methyloctane 3-methyloctane 例 1,2 のように単純であれば簡単に命名できるが、複数種の置換基が種々の位置に置換しているとき、どのよう な『優先順位』をもって命名すべきか、考えねばならない。 (1) 主官能基と置換基(副官能基)・・・・官能基の優先順位 CH2=CH-CH-CH2-CH=CH2 左の炭化水素の母体はどれになるのだろうか? (CH2)17CH3 下に炭素数 18 の長い鎖 があるが、alkane(alkyl 基)よりも alkene(alkenyl 基)の方が優先順位が 高い。したがってこの化合物の母体(主鎖)は、短くても二重結合を2つ含む 3-octadecylhexa-1,5-diene ブルー鎖部分であり、- (CH2)17CH3 の長い鎖はただの置換基である。 このように、官能基の優先順位によって、どの部分が母体に相当するのかが決定される。有機化学Ⅱまでの 範囲では、主官能基の序列は alkyl(R-)と halo(X-) >C=C< < ≒ -C≡C- < -OH(hydroxy) のようになる(>C=C<と-C≡C-は微妙、それぞれの単元を見よ)。 (2) alkyl(R-)と halo(X-)置換基を有する飽和鎖状炭化水素の命名 alkyl(R-)と halo(X-)は全く同等の優先順位の置換基とみなす。 ルール 1 最も長い炭素鎖を母体とする 例) CH3CH2 CH3 C CH3CH2 2-ethyl-2-methylbutane ではない! 3,3-dimethylpentane が正解 書き方にだまされるな! 青字5炭素が母体 CH3 ルール 2 同じ炭素数の母体鎖の取り方が複数可能な場合は、①置換基数の多い母体鎖を優先する、②その上 で、最初の置換基の位置番号が最も小さいものを優先する。 CH3 例) CH3CH2CH2-CH-CH2-CH-CH3 この例題は、1)一番上の左から右へ一直線、2) 一番上 の右から左へ一直線、3) 左上炭素から真ん中を下へ、 CHCH3 4) 右上炭素から真ん中を下へ、のどの取り方でも母体 CH2CH3 7炭素になる。どれが正しいか? 1)は 4,6-位の二置換、2)は 2,4-位の二置換、3)は 4,5-位の二置換、4)は 2,4,5-位の三置換なので、4) が正しい。したがって、2,5-dimethyl-4-propylheptane となる。上記ルール①の「置換基数の多い 母体鎖を優先する」は、 『なるべく複合置換基を作らない』と同意義である。正しい命名の 2,5-dimethyl -4-propylheptane には 3 個の置換基があり、複合置換基が含まれていないが、仮に 2)に基づいて 命名すると 2-methyl-4-(1-methylpropyl)heptane となり、置換基は 2 個で、そのうちの 1 個は複合 置換基である(1-methylpropyl)になっている。複合置換基はカッコ付けが必須でわずらわしく、また 紙上の文字列ならまだ理解できるが、音声のみで伝えようとすると、聞き手には容易に理解できない 欠点がある。 ルール 3 置換基の宣言は、アルファベット順に行う。 例 1) C(CH3)3 5-(1,1-dimethylethyl)-4,6-dimethyldecane CH3(CH2)2-CH-CH-CH-(CH2)3CH3 CH3 CH3 -C(CH3)3 は、慣用名では t-butyl(tert-butyl)基だが、IUPAC では複合置換基で(1,1-dimethylethyl)基となる。複合置換基では 最初のアルファベット、すなわちこの例では「d」を採用する。これに 対し、4,6-dimethyl は単官能性の methyl 基が二つある(di)と言っているにすぎないので、アルファベット 順位側に採用される文字は m である。したがって、(1,1-dimethylethyl)の方が先に宣言される。 I 例 2) Br F 6-bromo-5-chloro-3-ethyl-4-fluoro-8-iodo-7-methylundecane CH3(CH2)2-CH-CH-CH-CH-CH-CH-CH2CH3 母体は左右一直線の部分であることは明白。左から Cl CH3 CH2CH3 数えると最初の置換基 -I は 4-位、右からだと最初の 置換基- CH2CH3 は 3-位なので右から番号付けする。 しかし、宣言はアルファベット順に行う。 [よく使われる複合置換基]IUPAC(=ACS), 慣用 【重要、注意!】 複合置換基では、母体−R に接続する炭素を複合置換基の中の 1-位と定義する。たとえば、次の例においては、 (②)CH3 C①が複合置換基の中の 1-位であり、②CH3 は 2-位である。他の2つの CH3 は複合置 CH3−C①−R ② CH3 換基の中の置換基ということになる。したがってこの複合置換基の命名は、 1,1-dimethylethyl になる。つまり、複合置換基の主体鎖は『必ず直鎖でなければならな (②) い』ので、この場合は ethyl しか選択の余地がない。したがって、2-methylpropan-2-yl などは正しくない。 −CH(CH3)2 1-methylethyl, isopropyl −CH2CH(CH3)2 2-methylpropyl, isobutyl −CH(CH3)CH2CH3 1-methylpropyl, sec-butyl −C(CH3)3 1,1-dimethylethyl, t-butyl −CH2C(CH3)3 2,2-dimethylpropyl, neopentyl −CH2CH2CH(CH3)2 3-methylbutyl, isopentyl* −C(CH3)2CH2CH3 1,1-dimethylpropyl, t-pentyl* −CH2F 1-fluoromethyl** −CH2Cl 1-chloromethyl** −CH2Br 1-bromomethyl** −CH2I 1-iodomethyl** *) 昔は、isopentyl=isoamyl,t-pentyl=t-amyl という慣用名が使われていたが、近年、IUPAC により amyl の使用が禁じられた。t- は、tert- と書かれることもある。n-, sec-, t(ert)-はいずれも必ずイタリックで 示し、それぞれ一級(normal:通常の)、二級(secondary)、三級(tertiary)を表す。neo は、“新しい”の意。 **) IUPAC では位置番号を省略しないので 1-halomethyl が正しいのだが、halomethyl がまかり通っている。 C(CH3)3 例) 4-(1-bromomethyl)-6-(1-chloromethyl)-5-(1,1-dimethylethyl)- CH3(CH2)2-CH-CH-CH-(CH2)6CH3 tridecane CH2Br CH2Cl (3) alkyl(R-)と halo(X-)置換基を有する飽和環状炭化水素(脂環式炭化水素)の命名 環員数 環名 3 cyclopropane 4 cyclobutane 5 cyclopentane 6 cyclohexane 7 cycloheptane 8 ・・・・ cyclooctane ・・・ ルール 1 同等の置換基[たとえば alkyl と halo]が複数置換した飽和環状炭化水素では、置換位置番号の総 和が、最も小さくなるように「時計回り」または「反時計回り」に番号付けを行う。 Cl 2-bromo-4-chloro-1-methylcyclohexane(置換位置数字合計=7) アルファベット順位側からは Br が最上位なのだが、その置換位置を 1 番に指定すると Br 1-bromo-5-chloro-2-methylcyclohexane(置換位置数字合計=8)となり、総和が 大きくなってしまうのでダメ。なお、宣言はあくまでアルファベット順に行う[(2)ルール 3]。 CH3 ルール 2 ルール 1 による番号付けが複数通り可能な時には、アルファベット順位側により決する。 Cl 1-bromo-5-chloro-4-ethyl-2-methylcyclohexane CH2CH3 1-chloro-5-bromo-2-ethyl-4-methylcyclohexane Br が正しい。 とか、 4-bromo-2-chloro-1-ethyl-5-methylcyclohexane とか、 2-bromo-4-chloro-5-ethyl-1-methylcyclohexane CH3 などは全て間違い ルール 3 鎖状+環状飽和炭化水素であるとき、環員数≧鎖状炭素数ならばアルキル基を有する環状飽和炭化 水素として命名し、環員数<鎖状炭素数ならばシクロアルキル基を有する鎖状炭化水素として命名する。 CH3-CH-CH2CH3 CH3-CH-(CH2)4CH3 1-(1-methylpropyl)cyclohexane 2-cyclohexylheptane【2-(cyclohexan-1-yl)heptane】 付記:上記右において、IUPAC 命名法を愚直に実行すると、C6H11-基は cyclohexan-1-yl になる(こちら の方が本来は正しい)が、通常は cyclohexyl 基(この言い方は ACS に近い)としている。 (4) 不飽和鎖状炭化水素 飽和鎖状炭化水素 alkane 二重結合をn個持つ n=1:>C=C< 三重結合をm個持つ alkene* n=2:>C=C<・・・・>C=C< m=1:−C≡C− alkadiene alkyne** m=2:−C≡C-・・・- C≡C− alkadiyne n=3:>C=C<・・・>C=C<・・・>C=C< alkatriene m=3:alkatriyne,m=4:alkatetrayne n=4:alkatetraene,n=5:alkapentaene m=5:alkapentayne *),**) alkaene や alkayne とすると母音重複になってしまうので、alkene や alkyne に短縮する [注意] p.1 で示した通り数詞は__a(母音)で終わっているので、たとえば pentaene ではなく、母音重複を避 けて pentene になる。Diene, triene・・・では母音重複にならないので、普通に pentadiene でかまわない。 ルール 1 不飽和結合がなるべく多く入るように母体炭化水素を設定する。 ③ ② ① 例 1) CH3(CH2)4-CH-CH=CH2 ⑥ ⑤ 3-pentylhexa-1,5-diene (ACS: 3-pentyl-1,5-hexadiene) ④ CH2=CHCH2 ⑨ ⑧ ⑦ ④ 4-(ethen-1yl)nona-1,7-diene(ACS: 4-ethenyl-1,7-nonadiene) ③ ethen-1-yl 基:−CH=CH2,簡略形 ethenyl,慣用名 vinyl 基。 例 2) CH3CH=CH(CH2)2-CH-CH=CH2 ① ② CH2=CHCH2 ルール 2 二重結合と三重結合が混在するときは、alkenyne (ene+yne)と表記する。(yne+ene)ではない! また、どちらの不飽和結合であっても差し支えないが、より末端に近い方を若い位置番号とする。 CH3CH=CHCH2C≡CH hexa+ene+yne ⇒ hexenyne ⇒ hex-4-en-1-yne (ACS: 4-hexen-1-yne) ↑青字は母音重複で消える ルール 3 二重結合と三重結合の位置番号が、左右どちらの末端から付けても同じになるときは、①二重結合 を優先する、②その他の置換基の置換位置により決する。 ① ② ⑦ ⑥ ⑥ ⑦ 例 1) CH2=CH(CH2)3C≡CH ③ ② heptenyne ⇒ hept-1-en-6-yne (ACS: 1-hepten-6-yne) ① 例 2) CH2=CH(CH2)2-CH-C≡CH 3-bromohept-6-en-1-yne (ACS: 3-bromo-6-hepten-1-yne) Br (5) 不飽和環状炭化水素[ただし、ベンゼンなどの芳香族を除く] 不飽和結合の炭素の位置番号が最も小さくなるように番号付けする。 例 1) Br 6-bromo-1-chlorocyclohex-1-ene (ACS: 6-bromo-1-chloro-1-cyclohexene) Cl -Cl の付いた二重結合炭素が 1-位、隣の二重結合炭素が 2-位、したがって、時計 回りに番号付けすると-Br の付いた炭素は 6-位になる。 例 2) 2-methylcyclohexa-1,3-diene (ACS: 2-methyl-1,3-cyclohexadiene) - CH3 が付いた二重結合炭素を 1-位にすると、その左下(下の頂点)の炭素が 2-位に CH3 なり、時計回りに番号付けしていくと上の方の二つの二重結合炭素は 5,6-位になっ てしまう。したがって、下の頂点の二重結合炭素を 1-位、- CH3 が付いた二重結合 炭素を 2-位として、反時計回りに番号付けする。 例 3) F 5-fluorocyclohexa-1,3-diene (ACS: 5-fluoro-1,3-cyclohexadiene) 上の頂点の二重結合炭素を 1-位にすると、-F が付いた炭素は 6-位になってしまう。 下の頂点の二重結合炭素を 1-位にし、反時計回りに番号付けして-F が付いた炭素 を 5-位とするのが正解。 (6) アルコール IUPAC (ACS)命名法[一語] 慣用命名法[二語] R-H ⇒ R-OH R- + -OH : : alkane+ol ⇒ alkanol alkyl alcohol alkene+ol ⇒ alkenol alkenyl alcohol alkyne+ol ⇒ alkynol alkynyl alcohol -OH 基は、alkyl や halo よりも上位の官能基なので、-OH の付いている炭素の位置番号がなるべく小さ くなるように命名される。 (6)-1 飽和鎖状炭化水素のアルコール 例) 構造 CH3OH CH3CH2OH CH3CH2CH2OH (CH3)2CHOH IUPAC, ACS, 慣用 methanol, methanol, methyl alcohol ethanol, ethanol, ethyl alcohol propan-1-ol, propanol, n-propyl alcohol [注] n-propanol はダメ、以下同様 propan-2-ol, 2-propanol, isopropyl alcohol [注] isopropanol はダメ、以下同様 CH3(CH2)2CH2OH butan-1-ol, 1-butanol, n-butyl alcohol (CH3)2CHCH2OH 2-methylpropan-1-ol, 2-methyl-1-propanol, isobutyl alcohol CH3CH2CH(OH)CH3 butan-2-ol, 2-butanol, sec-butyl alcohol (CH3)3COH (CH3)3CCH2OH (C6H5)3COH 2-methylpropan-2-ol, 2-methyl-2-propanol, t-butyl alcohol 2,2-dimethylpropan-1-ol, 2,2-dimethyl-1-propanol, neopentyl alcohol 1,1,1-triphenylmethanol, triphenylmethanol, triphenylcarbinol n-(bormal)や iso,t-は慣用名にしか使えない。たとえば、n-,iso,t-と IUPAC 母体名を無理やりくっつけ た n-propanol, isopropanol, sec-butanol, t-butanol は全て間違い。最後の carbinol は、置換基が三つと も鎖状炭化水素でない三級アルコールに特有の命名法であり、 C-OH の形を carbinol(carbon の ol)と して命名する。 【慣用名の接頭辞について】 iso : 「構造の異なる(異性体の)」の意味。たとえば C3H7OH には、CH3CH2CH2OH(下記の n-に相 当)と CH3CH(OH)CH3 があるが、後者を isopropyl alcohol とする。なお、後者は後述する sec-propyl alcohol と言えなくもないが、慣用名ではより簡単な(ハイフンや位置番号が無い) isopropyl alcohol を採用する。 n- : 「通常の(normal)」の意味。n-はイタリックで書く。C3H7OH の例で言うと、CH3CH2CH2OH が n-propyl alcohol。 prim-: 「一級の(primary)」の意味。ただし、略号や接頭辞的に使われることは稀なので、prim-と略 さずに、primary と full spelling する。たとえば、 『C4 の枝分かれアルコールのうち、CH3CH2CH(OH)CH3 は sec-アルコール、(CH3)3COH は tertアルコールであるが、(CH3)2CHCH2OH は primary(=一級) アルコールである』などのように。 sec- : 「二級の(secondary)」の意味。sec-はイタリックで書く。直ぐ上を見よ tert-または t-: 「三級の(tertiary)」の意味。tert-または t-はイタリックで書く。上を見よ。最近は、 tert-でなく t-で表示することが多くなった。なお、tBu のように斜体上付きにする場合もある。 (6)-2 飽和環状炭化水素を有するアルコール OH 例) CH2OH IUPAC cyclohexan-1-ol ACS 1-cyclohexanol 慣用 cyclohexyl alcohol Br OH IUPAC 3-bromo-5-methylcyclohexan-1-ol ACS 3-bromo-5-methyl-1-cyclohexanol CH3 慣用 3-bromo-5-methylcyclohexyl alcohol IUPAC 1-cyclohexylmethanol CH3CHCH(OH)CH3 IUPAC 3-cyclopentylbutan-2-ol ACS cyclohexylmethanol ACS 3-cyclopentyl-3-butanol 慣用 cyclohexylmethyl alcohol 慣用 相当する命名法無し -OH が付いている炭素を含む鎖または環が必ず母体になり、しかも-OH の付いている炭素が 1-位になる。 三番目の例では、下線を引いてある 1 炭素の鎖(methanol)が母体であり、cyclohexyl は置換基の扱い。 四番目の例は有効な慣用名が無い:sec-butyl alcohol を母体にしたくなるが、sec-とか tert- (t-)という宣 言に加えて置換基を入れてはならないことに決められている。 (6)-3 例) 不飽和鎖状炭化水素のアルコール 構造 CH2=CH-OH CH2=CHCH2-OH IUPAC, ACS, 慣用 vinyl alcohol という慣用名があるが、この分子は実在しない(互変異性) prop-2-en-1-ol, 2-propenol, allyl alcohol CH2=CHCH2CH2-OH but-3-en-1-ol, 3-butenol, − CH2=CHCH(OH)CH3 but-3-en-2-ol, 3-buten-2-ol CH3CH=CHCH2-OH but-2-en-1-ol, 2-butenol, crotyl alcohol CH3C≡CCH2-OH CH2=C(CH3)CH2-OH but-2-yn-1-ol, 2-butynol, − 2-methylprop-2-en-1-ol, 2-methyl-2-propenol, methallyl alcohol ここにおいて、IUPAC と ACS 命名法の差が歴然とする。IUPAC 命名は発音しにくいし、音声により第 三者に伝えるのが難しい欠点があると述べたが、文字列であると systematic で分かりやすい。たとえば 3例目の“3-butenol”という ACS 命名は、位置番号の 3-が何と連結しているのか一瞬では分からない ― -OH 基(ol)が付いている炭素は 1-位なのだから、 「3-」は二重結合の位置なのだ ― と考えてようやくわ かる。この程度は単純な例であるからまだ良いが、もっと複雑になると困る。一方 IUPAC の“but-3-en-1-ol” は、それぞれの官能基の直前に位置番号が入っているのでまぎれが無い。(発音しにくいけど) 【構造式を見て、“but-3-en-1-ol”と直ぐに書ける人は少ないだろう。分子構造全体を見渡して、butene のアルコールなのだから “butenol”と書いてしまい、次に en の位置が-3-、ol の位置が-1-、というように butenol とか。】 順序立てて「書き足していく」方法をとるのが良い。 -3- -1- (6)-4 不飽和環状炭化水素を有するアルコール OH IUPAC cyclohex-2-en-1-ol ACS 2-cyclohexenol OH IUPAC ACS 5-iodocyclohex-3-en-1-ol 5-iodo-3-cyclohexenol I CH2OH CH3CHCH(OH)CH3 IUPAC 1-(cyclohex-3-en-1-yl)methanol ACS IUPAC 3-(cyclopent-2-en-1-yl)butan-2-ol ACS 3-cyclopentenyl-2-butanol 3-cyclohexenylmethanol 3,4番目の例では、環構造部分は置換基である。その時の環構造部分の位置番号は、母体のアルコール 入り炭化水素に接続する炭素が必ず 1-位となる。たとえば、IUPAC では cyclohex-3-en-1-yl のように 1位であることを明記しているが、ACS では 3-cyclohexenyl のように 1-位の接続を暗黙の了解として省略 してしまい、むしろ不飽和結合の位置である「3-」のみを示す。 (6)-5 -OH 基が置換基(副官能基)になるとき 複数の-OH 基があって、それらが同一母体鎖にあるのならば alkanediol や alkanetriol で済むが、同一母 体鎖でなかったらどうするか? -OH の主官能基名は -ol であるが、このときは置換基(副官能基)名の hydroxy を用いる。 HOCH2CH2CHCH2OH CH2CH2OH 左の例は-OH 基が3個あるが、一番長い青色部分が母体鎖。したがって、 3-(1-hydroxymethyl)pentane-1,5-diol [ACS: 3-(hydroxymethyl)-1,5pentanediol] となる。なお、IUPAC では複合置換基である 1-hydroxymethyl の 1-を必ず示すことになっているが、 しばしば省略されている。 HOCH2CH=CHCH(CH2)5OH (CH2)4OH 左の例では、炭素数が一番大きいので青色部分が必ず母体鎖の一部にな ることは明らか。残りは、赤色部分(3炭素)と黒色部分(4炭素)のどちら かであるが、二重結合を持っている3炭素系が優先する。したがって、4-(4-hydroxybutyl)non-3-ene-1,9-diol となる。なお、4-は nonene 骨格の4番目の炭素を指定する位置番号で、4-は hydroxybutyl 基 の4番目の炭素に hydroxy が置換していることを意味する位置番号。hydroxybutyl 基の 1-位は、母体炭化 ① ② ③ ④ 水素に接続するメチレンであり、位置番号は-CH2CH2CH2CH2OH である。[この化合物に ACS 命名を行 おうとするとうまくいかない。4-(4-hydroxybutyl)-1,9-(3-nonene)diol とでもするしか、やりようが無い] (7) アルコール性置換基[RO- という副官能基] 母体炭化水素に置換している RO-基を alkoxy[炭素数 4 までの直鎖のとき]、または alkyloxy[①炭素数 4 以下であっても更に置換基があるときないしハイフンがあるとき(=位置番号があるとき)、および②炭素 数 5 以上]とする。IUPAC において、①,②を下記では区別してあるので、参照せよ。Alkoxy という言い 方は alkyloxy がつづまった簡略形である。Alkyloxy ないし alkoxy という官能基名はエーテル命名のとき に頻繁に出てくるのだが、次の単元の alkoxide(RO−:アニオン)と密接に関係するので、ここで説明してお く。なお、「alkoxy」と「alkoxide」 、なので、spelling を間違えないように。 構造 IUPAC, ACS, 慣用 CH3O- methoxy, methoxy, methoxy CH3CH2O- ethoxy, ethoxy, ethoxy CH3CH2CH2O- propoxy, propoxy, propoxy (CH3)2CHO- 1-methylethoxy, isopropoxy, isopropoxy CH3(CH2)3O- butoxy, butoxy, butoxy (CH3)2CHCH2O- 2-methylpropyloxy①, 2-methylpropoxy, isobutoxy CH3CH2CH(CH3)O- 1-methylpropyloxy①, 2-butoxy, sec-butoxy (CH3)3CO- 1,1-dimethylethoxy, t-butoxy, t-butoxy CH3(CH2)4O- pentyloxy②, pentyloxy②*, pentoxy (CH3)2CHCH2CH2O- 3-methylbutyloxy①, 3-methylbutoxy, isopentoxy CH3CH2CH(CH3)CH2O- 2-methylbutyloxy①, 2-methylbutoxy, 2-methylbutoxy CH3(CH2)2CH(CH3)O- 1-methylbutyloxy①, 2-pentoxy, sec-pentoxy (CH3)3CCH2O- 2,2-dimethylpropyloxy①, 2,2-dimethylpropoxy, neopentoxy CH3CH2C(CH3)2O- 1,1-dimethylpropyloxy①, 1,1-dimethylpropoxy, t-pentoxy CH3(CH2)5O- hexyloxy②, hexyloxy②*, hexoxy(ヘキソキシ) CH3(CH2)6O- heptyloxy②, heptyloxy②, heptyloxy CH3(CH2)7O- octyloxy②, octyloxy②, octyloxy *) ACS でも(C5)pentyloxy、(C6)hexyloxy が正しいのだが、pentoxy、hexoxy がまかり通っている。 (8) アルコールの塩(アルコラート,アルコキシド) Alcohol:R-OH の塩である M+(RO)−[あるいは M+−OR]を Alcoholate(アルコラート)または Alkoxide(アルコキシド) と総称する。“ate”という語尾は、母体から H+を取り去ったマイナスイオン(anion)を意味し、alcohol⇒ alcoholate であることは容易に理解できる。Alkoxide は alkane oxide がつづまった言い方であり、 alcoholate,alkoxide ともに同じ RO−というアニオンである。IUPAC では alcoholate を主として採用する が alkoxide も禁じていない。ただし本講義では、本来の alcoholate を採用する。 ACS や慣用名では methoxide, ethoxide, propoxide, butoxide となるが、①C4 以下でも置換基や位置番 号がある場合 または ②C5 以上 は 「---alkanoxide」や「alkan-#-oxide」(#は位置番号)とする。たと えば、3-methylbutan-2-oxide,pentanoxide など。[oxide が 1-位のとき、ACS・慣用名では pentan-1-oxide でなく pentanoxide でよい] 【重要!】大部分の有機化学教科書が、アルコールの塩を RO−M+のように記載しているが、明らかに IUPAC の規則(cation・anion の順に並べる)に違反している。Na+(CH3O)−または Na+−OCH3 とすべきである。 構造 IUPAC, ACS, 慣用(①,②は、上記文中の区分に相当する) Na+(CH3O) − sodium methanolate, methoxide, methoxide or methanolate or methylate K+(C2H5O)− potassium ethanolate, ethoxide, ethoxide or ethanolate or ethylate Li+(CH3CH2CH2O) − lithium propan-1-olate①, propoxide, propoxide or propanolate or propylate Li+[(CH3)2CHO]− lithium propan-2-olate①, isopropoxide, isopropoxide or isopropanolate or isopropylate Na+[CH3(CH2)3O]− sodium butan-1-olate①, butoxide, butoxide or butanolate or butylate Na+[(CH3)2CHCH2O]− sodium 2-methylpropan-1-olate①, 2-methylpropan-1-oxide①,isobutoxide or isobutanolate or isobutylate Na+[CH3CH2CH(CH3)O] − sodium butan-2-olate , 2-butanoxide , sec-butoxide ① ① Na+[(CH3)3CO]− sodium 2-methylpropan-2-olate①, 2-methyl-2-propanoxide①, t-butoxide Rb+[CH3(CH2)4O]− rubidium pentan-1-olate②, pentanoxide②, pentoxide Rb+[(CH3)2CH(CH2)2O]− rubidium 3-methylbutan-1-olate, 3-methylbutanoxide①, isopentoxide Rb+[CH3CH2CH(CH3)CH2O]− rubidium 2-methylbutan-1-olate, 2-methylbutanoxide①, 同左 Rb+[CH3(CH2)2CH(CH3)O]− Rb+[(CH3)3CCH2O]− rubidium 2,2-dimethylpropan-1-olate, 2,2-dimethylpropoxide①, neopentoxide Rb+[CH3CH2C(CH3)2O]− Cs+[C6H11O]− rubidium pentan-2-olate, 2-pentanoxide②, sec-pentoxide rubidium 1,1-dimethylpropan-1-olate, 1,1-dimethylpropoxide①, t-pentoxide caesium cyclohexan-1-olate, cyclohexyloxide②, cyclohexoxide (発音はシクロヘキソキシド) Cs+[CH3(CH2)6O] caesium heptan-1-olate, heptanoxide , heptanoxide Cs+[CH3(CH2)7O]− caesium octan-1-olate, octanoxide②, octanoxide − ② 既に注意したように IUPAC でも butan-1-olate などは、-1-を省略して butanolate とされることがある。 【重要・必読!】混同しやすい間違いを指摘しておく。R- = (CH3)3C- を例として説明する。 Alkyl Alcohol Alkyloxy Alkolate CH3 CH3 CH3 CH3 CH3-C-CH3 CH3-C-CH3 CH3-C-CH3 OH O CH3-C-CH3 Na+ O− alkyl と alkyloxy は置換基であり、 『化合物(母体)』ではない。このときはなるべく枝分かれが多くなるよ うに青色の最長直鎖を主体鎖として命名し、alkyl: 1,1-dimethylethyl,alkyloxy: 1,1-dimethylethoxy とす る。「なるべく枝分かれが多くなるように」とは、-#-yl を伴う表現を避けることと同意義である。たとえば、 [ 1,1-dimethylethyl の か わ り に (2-methylpropan)-2-yl ] と か 、[ 1,1-dimethylethoxy の か わ り に (2-methylpropan)-2-yloxy]とするような、-#-yl 表現は使わない。他方、alcohol や alcoholate はそれ自体が 『化合物(母体)』であるから、なるべく長い母体鎖を重視し、Alcohol : 2-methylpropan-2-ol, alcoholate: (sodium) 2-methylpropan-2-olate とする。 (9) エーテル R-O-R’ において、IUPAC, ACS では大きい母体の炭化水素基(たとえば R’-)に、小さい炭素数の RO-基 =alkoxy 基(=alkyl+oxy)が置換している、と考えて命名する。 ex) alkyloxyalkane(alkoxyalkane), alkyloxyalkene(alkoxyalkene), alkenyloxyalkene(alkenoxyalkene), alkenyloxyalkyne (alkenoxyalkyne), alkynyloxyalkyne (alkynoxyalkyne) alkoxy(=alkyl+oxy がつづまった)という表現は母体炭化水素名が数詞と関係ない C1~C4でハイフンが ないとき(methoxy, ethoxy, propoxy, butoxy)であり、C1~C4だがハイフンがある(=位置番号がある)、 または母体名数詞が C5 以上は、butan-2-yloxy[×but-2-yloxy]や pentyloxy[×pentoxy]である。Alkenoxy ないし alkynoxy に関しては、IUPAC では実用性が無く ACS のみがかかわる。(cf. CH3CH=CHCH2O-な らばハイフンが自動的に入るので but-2-en-1-yloxy とせざるを得ない。見ての通り butenoxy にはならず、 butenyloxy である。ACS は、2-butenoxy で良い)。 慣用名は、Ayl Byl ether (三語)とする。Ayl, Byl ともに alkyl, alkenyl, alkynyl のいずれかであり、宣 言順序は、単純にアルファベット順。 構造 IUPAC, ACS, 慣用 CH3OCH2CH3 1-methoxyethane [methoxyethane], methoyethane, ethyl methyl ether CH3CH2OCH(CH3)2 2-ethoxypropane, 2-ethoxypropane, ethyl isopropyl ether (CH3)3CO(C6H11) 1-(1,1-dimethylethoxy)cyclohexane [(1,1-dimethylethoxy)cyclohexane], (1,1-dimethylethoxy)cyclohexane, t-butyl cyclohexyl ether (C6H11)OCH(CH2CH3)(CH2)5CH3 3-(cyclohexan-1-yloxy)nonane [3-(cyclohexyloxy)nonane]*, 3-cyclohexyloxynonane, cyclohexyl 3-nonyl ether CH3(CH2)3OCH2CH=CH2 3-(butan-1-yloxy)prop-1-ene [3-(butyloxy)prop-1-ene]*, 3-butoxy-1-propene, allyl butyl ether CH3(CH2)4OCH=CH2 pentan-1-yloxyethene [pentyloxyethene]*, pentyloxyethene, pentyl vinyl ether CH2=CHOCH(CH3)CH2C≡CH 4-(ethen-1-yloxy)pent-1-yne [4-(ethenyloxy)pent-1-yne]*, 4-ethenyloxy-1-pentyne, − *) 上記で、たとえば、3-(cyclohexan-1-yloxy)nonane の-1-を省略した形[IUPAC として正しくないが一般に 使われている]が 3-(cyclohexyloxy)nonane である。前者は cyclohexan-1-yloxy (cyclohexanyloxy) なのに、 後者は cyclohexyloxy となっている。前者の -#- がある置換基名は alkan-#-yl (alkane の#-位の炭素から結合 腕を出す) に依存しており、基本的には「母体名-#-yl」である。後者は普通の alkyl 基名が基準になっている。 (10) 立体異性の表記 立体異性は、命名のトップに、必ずイタリック体で宣言する。 (10)-1 光学異性体 CH3 CH3③ 左は 2-bromobutane の光学異性体の一つ。 図(A)の矢印の方向である C−H 軸に沿って C Br 眺め、見えた通りに図(B)のように中央の交 H CH2CH3② ①Br CH2CH3 点にキラル C(その裏に H がある:いずれも 図示せず) 、周りに置換基を配置する。でき (A) (B) あがった「ハンドル図」において、置換基の重 みが「時計回り」か「反時計回り」であるかを、それぞれ(R)-または(S)-で表す[必ずカッコ付きのイタリック]。 置換基の重みの判別は、置換基の元素の原子番号による。原子番号が大きい方を「高位」とし、高位から順に数 字を付ける。図(B)のハンドル図では、明らかに Br が①-位であるが、残る2つのメチルとエチル基の一番目元 素はいずれも C である。このようなときは、二番目の元素を見る。メチル基では、一番目の C に付いている二 番目の元素は 3H、エチル基だと二番目の元素は 2H&1C であり、エチル基の方が高位になる。図(B)の丸数字は 反時計回りなので、(S)-体ということになり、この化合物は(S)-2-bromobutane である。 CH3 CH3③ 交点にキラル C がある(この表記法では“書き入れない”ことに決 C Br CH2CH3② ①Br H CH2CH3 (C) H④ (D) められている) 『Fischer 投影式』という便利な構造表記法がある。同じ(S)-2-bromobutane について、図(C)のように、手前の 2つの置換基(ここでは Br とエチル基)を結ぶ辺の二等分点を通って中央のキラル C を眺めると、図(D)[≒ Fischer 投影式]のように、Br と CH2CH3 基が手前に、H と CH3 が奥に見える。最低位(④の H)が上下のどち らかにあるときは、それ以外の①~③の回り方を見る。この例は反時計回りなので(S)-体ということになる。【注 キラル炭素上に H が無く、したがって、たとえば-CH3 が最低位となるような場合もある。】 意! 正式の Fischer 投影式では、 「左右・上下の線の太さは同一」かつ「左右・上下の置換基の字体の大きさも同一」 に書くが、基本的な考え方は図(D)と同じである。 ★もしも最低位が左か右に来てしまったらどうするか? ⇒ とりあえず最低位を除いた他の3つで時計回り・反時計まわりを決める。真の答えは、「その逆」に なる。「時計回り」なら逆の(S)-、「反時計回り」なら逆の(R)-体である。 ✪Fischer 投影式を回転すると、絶対配置が反転してしまうことがある。最初の位置から、どちらかの方向 に 90°回転すると、絶対配置は反転する。続けて、さらに 90°同じ方向に回転すると絶対配置は再び反 転し、元に戻る。⇒ 0,180,360°の回転は同じ絶対配置、90,270°の回転は絶対配置が反転する。 【重要!】 前ページの図(A)は普通の四面体立体構造、図(B)は Newman 投影に近似の形、図(D)は最も実用的 に使われる Fischer 投影式に近似の表記、である。これらを常に相互変換できるよう、訓練すること。特にキ ラル二炭素系になると、かなり難しく、しかも『脱離反応』では絶対に必要な作業になってくる。 質問 1.キラル炭素は、sp3 混成で、その置換基 R1~R4 がすべて異なる場合であった。それでは sp3 窒素はキラル中 具体的には、ethylmethylpropylamine[アンモニアの3個の水素をそれぞれ CH3-, 心になれるのか? CH3CH2-, CH3CH2CH2-で置換したアミン]には、対掌体があるのか? 2.Butylethylmethylpropylammonium ion[アンモニウム イオンの4個の水素をそれぞれ CH3-, CH3CH2-, CH3CH2CH2-, CH3CH2CH2CH2-で置換]ではどうか? (10)-2 幾何異性体−その 1,環状化合物の幾何異性体 CH3 環状化合物は、鎖状化合物とは異なって C−C 軸の自由回転ができない。 したがって、axial(アキシャル,軸方向の:a)と equatorial(エカトリアル,平面方向の:e) の違いが出てくる。赤いメチル基は a であり、ブルーは e である。この 二つのメチル基は cis-の関係にある。All cis-の配置でシクロヘキサンの全ての炭 CH3 素に置換基が付いているとき、1-位の置換基が a なら 2-位 e,3-位 a, 4-位 e,5-位 a,6-位 e のように、交互になる。 flip C(CH3)3 H Ha Hb C(CH3)3 H Ha Hb CH3 CH3 Ha Hb [1] Chair conformer A CH3 C(CH3)3 flop [2] Boat conformer(不安定) H [3] Chair conformer B Axial を赤で、equatorial を青で表示してある 前ページの化合物は、cis-1-(1,1-dimethylethyl)-2-methylcyclohexane なのだが、立体的に図に表す場合 どれが最も正しいのだろうか? [1]の椅子型配置は、3-位と 5-位の axial 水素が、1-位の axial 置換基で ある 1,1-dimethylethyl と立体的に同じ方向に伸びていて三次元的には非常に近く、かなり大きな歪エネ ルギーを生じる。このように、1,3,5- axial 位同士の立体反発を「1,3-diaxial 相互作用」という。[1]の左 側の角を曲がり矢印方向に持ちあげると[2]の Boat conformer になる。このとき、赤, 青の水素,および その両隣の炭素上の水素(要するに 3,4,5-位の水素)の axial,equatorial の関係が反転する。次に、[2] の右側の角を曲がり矢印方向に引き下げると[3]の Chair conformer になる。やはりこのときに、置換基 の axial,equatorial の関係が反転する。[3]では、1,1-dimethylethyl 基は equatorial 位なので立体反発は 無くなり、その代わりに 2-位の methyl 基が axial 位となって、4-位(Ha の水素),6-位の axial 水素(書いて ない)と 1,3-diaxial 相互作用をするようになる。すなわち、[1]では【1-位 1,1-dimethylethyl 基→3,5-位 axial 水素】の立体反発であるのに対し、[3]では【2-位 methyl 基→4,6-位 axial 水素】の立体反発になっ ており、[3]の方が圧倒的に歪みが少なく安定である。実際 van’t Hoff 式[ΔG0=−RTlogeKp (Kp は定圧 平衡定数)]のΔG0 に[1]と[3]のエネルギー差を代入して計算すると、[1]の存在確率は 1%にも満たない ことが分かる。したがって、cis-1-(1,1-dimethylethyl)-2-methylcyclohexane の立体構造は、[3]が正しい ことになる。なお、[1]→[2]→[3]のような操作を、flip-flop という。[flip,flop:パタン・パタンという動 作を表す名詞・動詞] C(CH3)3 (CH3)3C CH3 CH3 A B 上記の A と B は、いずれも cis-1-(1,1-dimethylethyl)-2-methylcyclohexane であるが、どう回転してみ ても重なりあわない。要するに、鏡像体(enantiomer)なのである。cis-1-(1,1-dimethylethyl)-2-methyl -cyclohexane と言ったのであれば、上記の化合物の両方を同時に指定していることになる。A の構造式 のみを指定するのであれば(1S,2R)-1-(1,1-dimethylethyl)-2-methylcyclohexane と示すべきであり、B の 構造式のみを指定するのであるならば(1R,2S)-1-(1,1-dimethylethyl)-2-methylcyclohexane と正確に表 現すべきである。環状化合物においては、meso-体であって cis,trans-の指定のみでかまわない場合[ex. cis-1,4-dimethylcyclohexane,trans-1,4-dimethylcyclohexane, cis-1,3-dimethylcyclohexane など。いず れも meso-体であり、meso-cis-1,3-dimethylcyclohexane のように重複表現してもよい]と、cis,transだけでは不足であって、R,S-の絶対配置までをも宣言する必要がある場合[ex. trans-1,3-dimethylcyclohexane には、(1R,3R)-と(1S,3S)-体がある]を使い分けねばならない。なお、この例で(1R,3R)-と(1S,3S)体が等量含まれているラセミ混合物であったら、rac-trans-1,3-dimethylcyclohexane とするか、あるい は、(1R,3R)-&(1S,3S)-1,3-dimethylcyclohexane と書かねばならない。 【??】cis-1,2-および trans-1,2-dimethylcylohexane:cis-は meso-,trans-は enantiomer の対、本当か!? (10)-3 幾何異性体−その 2,alkene の幾何異性体 CH3 CH3 CH3 C=C H H C=C H cis-but-2-ene H 左記の cis,trans-表記は説明の必要がないであろう。これらは 二重結合炭素について二置換なのだが、三置換・四置換体では CH3 trans-but-2-ene どうすればよいのだろうか? R1 R3 三置換以上の alkene については、①R1 と R2 のどちらが高位であるか、②R3 と R4 のどち らが高位であるか、を調べた上で、③高位-高位の配置が cis の場合[R1 と R3 が高位、また C=C は R2 と R4 が高位]には(Z)-、高位-高位の配置が trans の場合[R1 と R4、または R2 と R3] R4 R2 には(E)-と表記する。Z:zusammen(同じ側に)、E:entgegen(反対側に) 例 2) 例1) CH3 CH3 HC≡C C=C H (3E,5Z)-6-(1-chloromethyl)-3- CH3 CH2Cl C=C CH2CH3 (CH3)3C -(1,1-dimethylethyl)- 4,8-dimethylnona- C=C (E)-3-methylpent-2-ene H -3,5-dien-1-yne CH2CH(CH3)2 例 2)における HC≡C-基と(CH3)3C-基の比較はどうなるのだろうか? 第一世代 第二世代 第三世代 HC≡C-基 C 3×C 6×C・3×H (CH3)3C-基 C 3×C 9×H HC≡C-基の第一世代は C であり、第二世代はその C から三重線を別々にたどって 3 個の C に到着する。第三 世代は 3 個の C から、1本はそれぞれの H へ、2本はそれぞれ三重結合を逆にたどって元の C へ行きつく。こ のように、多重結合は、勝負が決まるまで2つの炭素の間を行ったり来たりする。 第一世代 第二世代 第三世代(6C3H) CC HC≡C-基 HC≡C- -C -C -C H -C C- C H -C C H -C C CC なお、例 2)の-CH2Cl 基と-CH2CH(CH3)2 基の比較は、「炭素数が多いから」と即断して間違えないように。-Cl は原子番号が大きいので、それが出現した第二順位の時点で、-CH2Cl 基が「高位」になる。 本教員の守備範囲は有機化学Ⅱ(§12)までなので、おおむね alkene までを概説してある。この先は、自分で作 成してもらいたい。各種ある成書は若干の参考にはなるが、少なくとも私には「役に立った」という感想を持て なかった。むしろ下記の WEB から探し出して、根気よく勉強することを推奨する。 https://www.google.com/search?as_q=%E5%8C%96%E5%90%88%E7%89%A9%E5%91%BD%E5%90%8D%E 6%B3%95&x=0&y=0&hl=ja&lr=lang_ja&as_sitesearch=chemistry.or.jp 「化学」という学問領域は長い歴史を持っているので、命名法一つとっても IUPAC の決定自体が紆余曲折し ている。たとえば『誘起効果(Inductive effect)*』 (次ページ)のように、定義が逆転するような極端な例すら ある。これらは、その時々の進歩に伴って改定されてきたのであり、科学史そのものでもある。構造式・化合物 命名・反応式・各種物理化学公式は、全て化学の標準言語であり、この領域を専門とするからには避けて通れな い。同時に、これらは無数にあるので、記憶など出来ようはずがない。理解してもらいたい。有機化学は多分に 誤解を受けているが、「暗記すれば何とかなる」学問領域では無い。 *) 誘起効果(Inductive effect): しばしば「I効果」と略記される。異種原子間の結合は電気陰性度の違い により分極する(双極子モーメント,μ,を生ずる)。たとえばクロロメタン H3C−Cl における C−Cl 結合は、 塩素の大きな電気陰性度によって結合性σ分子軌道の電子雲が塩素側に大きく偏っている。(実測のμと結合距 離から計算すると、C は 22%+電荷を帯び、Cl は 22%−電荷を帯びる)このとき、 「Cl は C に対し−I効果を 「C は Cl に対し+I効果(I+効果)を有する」ことになる。こ 有する」と表現する。(I−効果ともいう)逆に、 の定義は40年ほど前だと全く逆転していて、Cl は C に対し+I効果を有する、としていた。 教科書によっては混同を避けるため、−I効果を「電子吸引のI効果」、+I効果を「電子供与のI効果」と 表現している。 電子を吸引する性質の原子または原子団を(electron) acceptor と表現する。逆に電子を与える性質の原子また は原子団を(electron) donor という。上記の例では、-Cl はσ-acceptor である。 結合性π分子軌道と lone pair 軌道(非結合性分子軌道)の関与を考えあわせた「π軌道における電子雲の偏り」 を Mesomery(メソメリー)効果ということがある。たとえば下記のような例である。出来上がりの結果は『双極 共鳴式』である。 CH2=CH−C−CH3 + CH2=CH−C−CH3 + :CH2−CH=C−CH3 :O: :O:− :O:− ‥ ‥ 上記のように、カルボニル基の酸素は、その電気陰性によってσ電子・π電子の両方を吸引しているので、σ -acceptor であり、かつπ-acceptor でもある。したがってカルボニル基近傍の炭素は nucleophile の攻撃による 極性反応に対して活性になる。上記の例では、離れた炭素への共役付加を起こしやすいだろう。
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