パソコンでHF帯用オールモード受信機を体験できる

パソコンで HF 帯用オールモード受信機を体験できる
数千円で販売されている,TV 受信用 USB チューナを使ったソフトウェア・ラジオで HF 帯の受信をす
るための周波数コンバータを紹介します.簡単に HF 帯を受信することができます.
JA7TDO 三浦 一則
Kazunori Miura
TV チューナ用 USB ドング
ルを利用したソフトウェア・
ラジオ
● R820TとRTL2832uのおもなス
ソフトウェア・ラジオ用の基板
R820T は, 内 部 に PLL 発 振 回
こ こ で 紹 介 し た TV ド ン グ ル
が本誌に付録として付いたのは,
路を内蔵したシリコン・チューナ
(R820T と RTL2832u 使用)は,ソ
2006 年 12 月号です.そのころから
です.規格上の受信周波数は,42
フトウェア・ラジオとして使った
ソフトウェア・ラジオが日本国内
〜 1002MHz,受信感度は,− 97.5
場合,規格上は,42 〜 1002MHz
でも知られ,以降,多くのアマチ
dBm となっています.これを I C
までが受信可能範囲です.これを
ュア無線家を魅了してきました.
経由で RTL2832u からコントロー
周波数コンバータを使って HF 帯
近年,TV チューナ用 USB ドン
ルしています.また,クロック用
(1.9 〜 30MHz)を受信しようと思
グル
(TV ドングルという呼び方
の 発 振 回 路 を 内 蔵 し て お り,
います.
もされている)を利用したソフト
RTL2832u が必要とするクロック
ここでは,+ 50MHz となる周
ウェア・ラジオが話題になってい
(28.8MHz)を供給することが可能
波数コンバータ(アップ・コンバ
ペック
2
HF 帯を受信するための
周波数コンバータ
ます.
です.
ータ)
を作ってみました
(写真 1).
今 回 使 っ た TV ド ン グ ル は,
Realtek 社 の RTL2832u は, デ
元 の 信 号 に, 回 路 で 作 っ た 50
DVB というデジタル TV 受信用
ータシートが公開されておらず,
MHz の信号をミキサで混合し,
で,海外で販売されています.感
多くのユーザーが解析を行い,ス
元の信号+ 50MHz の信号を取り
度が良いので人気があります.
ペックや動作コマンドなどが調べ
出します
(図 1).
この TV ドングルは,シリコン・
られています.これまでにわかっ
回路図を図 2(p.98)
に示します.
チューナに Raphael 社 R820T,復
て い る 簡 単 な ス ペ ッ ク は,8bit
例えば 7.1MHz の信号に 50MHz
調 / コントローラに Realtek 社の
ADC 0.9Msps 〜 3.2Msps,clock
の信号を混合すると,7.1MHz の
RTL8232u を使用した製品です.
28.8MHz,USB 2.0 full/high
信号は,
国内でも販売している業者がある
speed controler,supply 3.3V,
ようなので,簡単に購入してみた
DVB-T COFDM Demodulator,
い人は,インターネットで検索し
Supports Zero-IF inputなどです.
の信号に変換されます.TV ドン
てみてください(※この TV ドン
以上からわかるように,RTL
グルのソフトウェア・ラジオで,
グルとコンバータ,ケースをセッ
2832u は,36.125MHz,4.57MHz,
この 57.1MHz の信号を受信する
トにして頒布予定.詳細は p.100
ZERO-IF の三つの IF に対応して
わけです.
を参照のこと).
います.
実際に使うときは,ソフトウェ
96
7.1MHz + 50MHz = 57.1MHz
TV ドングル内蔵 ソフトウェア・ラジオ用 周波数コンバータ
USB増設用パターン
HF/VHF切り替え
スイッチ
VHF
VHF入力端子
HF
HPF
ミキサ
TVドングル
ノイズ・フィルタ
LPF
保護ダイオード
LED
USB端子
RFゲイン
HF入力端子
写真1 製作した周波数コンバータ
(TVチューナ用USBドングル付き)
42MHz以上なので受信できる
50MHzの信号をプラスする
57.1MHz
7.1MHz
受信したい
周波数
(TVドングルSDRが受信できる)
42MHz
(受信できない)
7.1MHz
+
50MHz
50MHz
図1 周波数コンバータ
(アップ・コンバータ)
の働き
ア・ラジオの周波数表示を−50
に示します.
MHz と す る こ と で, 周 波 数 を
ミキサは安価なアナログ・スイッ
チで代用しています.
+ 50MHz したことを意識しない
● ミキサ
使ったアナログ・スイッチは,
で,7.1MHz を TV ド ン グ ル の ソ
二つの周波数を混ぜるのがミキ
NXP の CBT3306 で す.2ch の ア
フトウェア・ラジオで受信できる
サです.
ナログ・スイッチを並列にして,
よ う に な り ま す.3.5MHz な ら
周波数変換のために混合する信
ON 抵抗が下がるようにしていま
53.5MHz を,28MHz な ら 78MHz
号の周波数を 50MHz と低くとる
す.アナログ・スイッチの ON 抵
に周波数を変換して受信します.
ことにより,扱う周波数の上限を
抗が低いほど変換時の損失が少な
周波数コンバータの構成を図 3
低めに抑えています.
これにより,
くなります.
Feb. 2014
97
V+
10μH*
1μ
1μ
10μH*
GND
AGND
S1
V+
220
50MHz OSC
5
4
3
2
1
4
220
GND
USB
USB
外側USB 内側USB
静電対策ダイオード RFアンプ
μPC1688
NUP1301×2
0.1μ
AGND
10μH
IN
0.33μH 0.33μH
180p
OUT
OUT
1k
AGND
10μH
0.1μ
AGND
5600p
1
2
3
82p
4
AGND AGND
0.1μ
0.1μ
VR
10k
入力
AGND AGND
GND
1k
AGND
82p
3
2
10μH
4
3
2
1
4
3
2
1
USB
VCC
0.1μ
AGND
出力
8
アナログ・
スイッチ
CBT3306
7
6
5
100p
33p
0.1μH
100p
0.1μH
AGND
※ *はノイズ・フィルタ用
※ GNDとAGNDは別
AGND
AGND
図2 周波数コンバータ部分の回路
LPF
RFアンプ
ミキサ
HPF
(50MHz)
図3 周波数コンバータの構成
OUT
TVドングルの
アンテナ端子へ
(
)
局発
れることによって,少しだけ信号
コンバータ回路に簡単なフィルタ
を損失してしまいます.
を入れてノイズを減らしています.
信号をカットし,30MHz 以下の
● RF アンプ
● USB パターン
信号を通過させる LPF を,出力
LPF と HPF での損失を補うた
基板の上には,内側を向けた
側には 50MHz より下の信号をカ
めに,広帯域の RF アンプを入れ
USB ジャックと,外側を向けた
ットし,50MHz 以上の信号を通
ました.ここで使ったのは,NEC
USB ジャックの二つのパターン
過させる HPF を入れました.こ
のμPC1688 というローノイズの
があります.未使用の USB パタ
れにより,アンテナから,30MHz
RF アンプ IC です.アマチュア無
ーンには,例えば,違う IC を使
以下の信号だけ入力され,コンバ
線機でも使われています.
った TV ドングルと聞き比べてみ
● ローパス・フィルタ(LPF)とハ
イパス・フィルタ(HPF)
入力側には,30MHz より上の
たい場合を想定しています.ただ
ー タ で HF 帯 の 信 号 に 50MHz の
信号を加えた信号だけが出力され
● USB 電源用フィルタ
し,このコンバータ基板にドング
るようにしてあります.
USB の電源は,パソコンから回
ルを 2 個同時に刺すことはできま
ただし,この LPF と HPF を入
り込むノイズが多いので,周波数
せん.
98
TV ドングル内蔵 ソフトウェア・ラジオ用 周波数コンバータ
アンテナ
Windows7以降
アップ・コンバータ
SDR
LED
USB端子
HF入力端子
HF/VHF切り替え
スイッチ
ドライバとSDR#,HDSDR他
をインストール
(目的の周波数+50MHzを受信)
VHF入力端子
TVドングル
周波数コンバータ基板
パソコン
HF帯を受信
図4 周波数コンバータの使い方
周波数コンバータを
使ってみて
● 使い心地
Start ボタンを押すと受信を開
手軽にパソコンで HF 帯が聞け
始します.周波数を 57MHz に設
● 使い方
るので,とても重宝します.モー
定すると,受信信号が見えてくる
HF/VHF 切り替えスイッチを
ドやフィルタ幅などはソフトウェ
はずです
(図 5).
HF 側にして(LED が黄緑色に点
ア上で変更できます.バンド・ス
ソフトウェアが表示する周波数
灯)
,HF アンテナ端子に HF 用の
コープで電波の入感状況を見れる
をシフト表示する方法を簡単に紹
ア ン テ ナ を つ な ぎ ま す( 図 4).
のも面白いです.バンドの切り替
介します.
USB 端子
(B タイプ)には,パソコ
えは,ソフトウェア・ラジオのソフ
HDSDR は,
「Options」
から,
「RF
ンをつなぎます.電源は USB 端
トで周波数を変更するだけです.
front-end frequency options &
子から供給されます.
HDSDR の場合,ソフトを起動
Calibration」を 選 び, 図 6 の よ う
あとはパソコンにインストール
すると ExtIO ボタンが青になりま
に
「SDR Down/Up Converter」に
してある SDR 用のソフトウェア
す.もしここが変化しないなら,
50000000 と 入 力 す れ ば, 表 示 が
(HDSDR や SDR# など)
を使って,
ドライバの書き換えに失敗してい
正しくなります.なお,SDR# も
ソフトウェア・ラジオとして使い
るので,やり直してください.
同じような機能があります
(Shift
ます.
ExtIO ボ タ ン を ク リ ッ ク す る
に−50000000 と入れる)
.
HF/VHF 切り替えスイッチを
と,RTL Settings が 表 示 さ れ ま
以前 CQ ham radio の付録に付
VHF
(USB 側)にして,VHF 用ア
す. こ こ で は,Sample Rate
(帯
いたソフトウェア・ラジオに比べ
ンテナ端子にアンテナをつなげ
域幅)
,Buffer Size
(64kB が適当)
,
ると,とても使い勝手が良くなり
ば,コンバータの電源が OFF に
Tuner Gain( 信 号 を 見 な が ら 調
ました.パソコンの操作だけで,
なり,アンテナは直接 TV ドング
整)などを設定できます.慣れな
スムーズに HF 帯内をチューニン
ルに接続されます.つまり,周波
いうちは,AGC は使わずにマニ
グできます.
数を変換していない状態でソフト
ュアルでゲイン調整してください.
パソコンや周波数コンバータの
ウェア・ラジオとして使うことが
周波数コンバータ回路にも RF
スプリアスが出る場所もあります
でき,42MHz 以上の周波数を受
ゲイン調整用トリマがついている
が,コスト・パフォーマンスを考
信することができます.
ので,アンテナに合わせて調整し
えると我慢できると思います.
ただし,この場合,HPF(ハイ
てください.
パス・フィルタ)を通した状態で
帯域幅は最大 3.2Msps まで設定
● 実用周波数範囲
VHF を受信することになります.
できますが,そのまま受信すると
この組み合わせで作ったソフト
HPF での減衰が気になる方は,外
復調信号が荒くなります.適当に
ウ ェ ア・ ラ ジ オ は, 理 論 上 は 0
付け用の USB 端子に TV ドングル
幅を狭めるとよいでしょう.でき
MHz から受信可能なはずですが,
を移動して使うこともできます.
れば2.4Msps以下がよいでしょう.
実用になるのは,およそ 3MHz 以
Feb. 2014
99
図5 HDSDRで7MHzを受信した例
(表示周波数は
修正前なので,57MHzとなっている)
図6 周波数表示を修正する
50000000と入力する
上です
(局部発振回路に使用して
りませんが,ここで紹介した TV
ないと処理できないことがある)
.
いる発振器のスプリアスの影響が
ドングルを使ったソフトウェア・
WindowsXP を使っている方も多
大きいため).
ラジオを動かすためには,ある程
いと思いますが,その場合は,パ
度のパソコン・スペックが要求さ
ソコンの CPU 能力やメモリの容
● パソコンのスペック
れます.Windows7 以降なら,ほ
量によって動作できない場合があ
周波数コンバータのことではあ
ぼ大丈夫です(ただしメモリが少
ります.
近日発売 !
TVドングルを使った
ソフトウェア・ラジオ体験キットHF版
9,800 円
(限定販売,税込)
(実装済みアップ・コンバータ基板,ケース,TV ドングル,説明書,説明用 CD-ROM を含むセット.ドライバを使った簡単な組み立てが必要)
本稿で紹介した TV ドングル内蔵ソフトウェア・ラジオ用周
波数コンバータです.別途 SDR 用ソフトウェアが動作するパソ
コンが必要です.
100
■詳細は,CQ 出版社販売部のページで
http://www.cqpub.co.jp/hanbai/kit.htm