資料9

2007/02/07
ポップアップデータロガーを用いたミナミマグロ幼魚の遊泳行動調査
~個体の経験する海洋環境と遊泳行動の同時モニタリング~
海洋生産科学専攻
H06205
藤岡
紘
【背景と目的】
豪州南西海域におけるミナミマグロ(Thunnus maccoyii,以下 SBT)幼魚の
回遊生態を明らかにするために,4 シーズン,個体識別型超音波発信機(以下,
音響タグ)と設置型受信機による行動追跡を実施してきた.その結果,幼魚の
分布パターンは年変動することが明らかとなり,その要因として水塊構造との
対応が検討されている.しかしながら,音響タグによる行動データと海洋観測
の照らし合わせには位置精度や測定間隔の差が生じ,例えば,
「幼魚は冷水塊の
近くを遊泳している」という以上の解釈を付け加えるのは困難である.そのた
め,個体の経験する海洋環境と鉛直遊泳行動との相互作用に関する正確な記録
が必要である.そこで,本調査ではデータロガー(以下,ロガー)にタイマー
式切り離し装置を搭載した新しい回収システムを適用し,野外で自由遊泳する
幼魚から,1 秒以下の間隔で個体が直接経験している特に鉛直遊泳行動様式(深
度・温度・遊泳速度・摂餌イベント)について 48 時間の連続測定を試みる.ま
た,温度-深度記録計および温度-塩分記録計を用いて調査海域の鉛直海洋構造を
把握する.
【日程と材料】
調査期間および
年 1 月 6 日~30 日,調査は西オーストラリア
調査期間および調査場所
および調査場所:2007
調査場所
州西岸の Fremantle から南岸 Esperance までの海域を対象とした(図 1).過去
の知見より,この海域には当歳および 1 歳を中心とした幼魚が多く分布してい
ることが知られている.
実験個体:SBT
幼魚 1 個体 (FL75cm 以上,活力の良い個体を選別)
実験個体
材料:ロガー(PD2GT:リトルレオナルド社製)
,切り離し装置・タイマー,
材料
フロート,ロガー設定用 PC およびインターフェース,装着台,アルゴス送信機,
VHF アンテナ大型 1 台,小型 1 台(大:ブーム長さ 3.65m,最大エレメント長
さ 1.02m,重量 3.4kg 台,小:ブーム長さ 1.11m,最大エレメント長さ 1.02m),
VHF 受信機,アンテナ付属ケーブル,メモリー式 CT 計(塩分・温度記録計)
および TD 計(温度・深度記録計)(アレック電子社製)
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【方法と手順】
1.調査海域で曳網によって幼魚を捕獲する.活力
活力の
活力の良い個体を
個体を選別する.
選別
2.あらかじめ準備しておいた装着台に幼魚をのせ,打ち抜き針を使用し幼魚
の第一背鰭基部にロガー
ロガーを
装着後直ぐに
ロガーを外部装着する.装着後直
外部装着
装着後直ぐに放流
ぐに放流する.また,
放流
個体放流場所で CT 計および TD 計を用いて海洋観測を実施する.
3.48
48 時間後
時間後にタイマー切り離し装置が作動し,ロガーは魚体から切り離され
る.海面に浮上後,衛星信号と電波信号を発信する.
4.位置特定専用の衛星
衛星(
衛星(アルゴス)
アルゴス)により探索範囲
により探索範囲を
探索範囲を絞る.ロガーの位置情
報は衛星から基地局に送信され,その後河邊研究室の PC に送信される.位
置情報の送信時間間隔は約 2 時間,時間差は 1~2 時間である.位置精度は
測位原理上誤差を含んでおり,数百
数百 m~数十 km である.また,位置情報
はロケーションクラスと呼ばれる7つのクラスに分類される(表 1).
5.調査船
調査船に
2)
,4.で決定した探
調査船に VHF アンテナと
アンテナと VHF 受信機を
受信機を設置し(図
設置
索範囲に航走する.VHF アンテナ大型,小型それぞれの探知範囲は 7km,
3km である.一回の航走においてより広域の電波信号を探索するために,
調査船の右舷方向に大型アンテナ,左舷方向に小型アンテナを固定する(図
3).航走中に電波を探知すると,より強い発信信号が得られる方向
方向の
方向の探索,
探索
電波受信機による探知距離
探知距離の
探知距離の調節(ロガーまでの距離を徐々に短くする)
調節
を適宜行い,ロガーを回収する.回収後,PC およびインターフェースを用
いてデータをダウンロードする.また,回収場所で CT 計および TD 計を用
いて海洋観測を実施する.
手順3.4.5.の模式図を図 4 に示す.
【結果】
1 月 24 日に大陸棚斜面域(緯度:34.678 経度:119.643,深度 120m)で捕
獲した FL78.5cm の個体にロガーを装着し,12 時 05 分に放流した(図 5).装
着時間は 2 分であった.切り離しタイマーを 48 時間に設定していたため,ロガ
ーの予定海面浮上時刻は 1 月 26 日の 12 時 05 分であったが,1 月 25 日 7 時 30
分頃何らかの衝撃により個体からロガーがはずれて海面に浮上した.その後,
衛星信号,VHF 信号を探知して 1 月 25 日 14 時 10 分に大陸棚域(緯度:34.510
経度:119.502,深度 65m)で回収した.得られた行動記録は 19 時間 30 分で
あった.また,調査時期の幼魚の移動情報を詳しく知るために,調査期間中に
捕獲した 56 個体に音響タグを,他個体には通常標識を 1 個体当たり 2 本装着,
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放流した(図 6).さらに生物情報として,放流に適さない魚については体長,
体重を測定し,胃袋を採取すると同時に筋肉片と耳石を採取した.胃内容物は
船上で選別,個体数の計数,全容量の測定を実施した.
また夏季の広域の鉛直海洋構造を把握するために,ロガー装着・放流時,回
収時を含め陸棚域,陸棚斜面域,沖合域において合計 44 点で CT 計および TD
計を海底直上または 200m 深まで降ろしデータを取得した.これらの機器は鉛
直観測時以外も連続注水したバケツ中に置き,全航海を通じて表面水温,塩分
を連続記録した.
表 1.各ロケーションクラスと誤差
LC3:150m以下
LC2:150~350m
LC1:350~1,000m
LC0:1,000m以上
LCA:46km 以下
LCB:73km 以下
LCZ:位置算出できず
図 1.調査海域図(黒実線囲み部分)
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図 2.VHF アンテナの設置例と電波発信器の探索風景
左:VHF アンテナ(大)を設置した調査船,右:VHF アンテナ(小)および
VHF 受信機による電波信号の探索風景
3km
7km
図 3.VHF アンテナの設置方向と電波信号の探索範囲の模式図
送信
4 . 探索範囲を
探索範囲 を 絞 る
(数百m~数十 km)
転送
衛星信号
電波信号
5.電波信号を
電波信号を頼りに探索
りに探索
(受信範囲 3-7km)
3.ロガーは
ロガーは一定時間後に
一定時間後に魚体から
魚体から切
から切り離される
図 4.データロガーの回収までの概要
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図 5.ポップアップデータロガーの装着風景
図 6.通常標識を装着した SBT 幼魚
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