(Re=23000)の空力特性評価 - FLAB

1C11
LESによる石井翼(Re=23,000)の空力特性評価
○野々村拓(宇宙研),小嶋亮次(東大院,現JR東海),安養寺正之,大山聖,藤井孝藏(宇宙研)
Aerodynamic Characteristics of Ishii Airfoil (Re=23,000) using LES
Taku Nonomura (ISAS), Ryoji Kojima (University of Tokyo), Masayuki Anyoji, Akira Oyama and Kozo Fujii (ISAS)
Key Words :Low Reynolds number, LES
Abstract
In this study, aerodynamic characteristics of Ishii airfoil at Reynolds number 23,000 are evaluated by large-eddy
simulation. For the computational analysis, sixth-order compact scheme for spatial differencing and second-order
backward differencing for temporal integration are adopted. The results show that flow around Ishii airfoil has trailing
edge separation at low angles of attack, it has leading edge separation and reattachment at medium angles of attack and it
has only leading edge separation at high angle of attack. This characteristic is almost same as that of NACA0012 which is
previously studied. However, the airfoil characteristics of Ishii airfoil are much better than those of NACA0012. This is
because of both enhancement in lift by pressure side camber and reduction in drag by pressure side shape.
1.はじめに
してきた(9,10).厚翼では,低迎角で後縁剥離,迎角を
現在,JAXAの研究者を中心に火星探査飛行機の成
立性が議論されている.(1)火星での飛行は,密度が地
上げていくと剥離点が徐々に前に移動し,前縁剥離遷移-再付着する流れ場となり,その後失速に至る.
球の1/100程度しかないことから,低レイノルズ数
一方で薄翼では,低迎角では付着流れであり,迎角
条件となり,その空力設計は従来のものと大きく異
を上げると3度程度で剥離するが,剥離点が前縁に固
なる.このため,火星上での条件を模擬した低レイ
ノルズ数での空力特性を把握することが重要になる
定され,前縁剥離-遷移-再付着流れ場となる.この際,
剥離泡はその長さが迎角にともなって長くなり,こ
低レイノルズ数領域での翼面上の流れ特性には,
の剥離泡のバースト後失速に至る.これら一連の研
層流剥離が起きやすいために高い迎角条件において
究より,基本的な対称翼の特性が明らかになってき
高い揚力係数C L を得にくいという問題がある.(2-5)そ
れに加え,その剥離流が遷移できる程の高いレイノ
た.
しかしながら,低レイノルズ数では
ルズ数になると,剥離した流れが翼面上に再付着し,
結果として剥離泡を形成する場合がある.この剥離
泡は,流れの非定常性を生む原因となることや,揚
力などの空力特性に影響を与えることが広く知られ
1)
前縁がとがっていること(剥離点を固定しレイ
2)
ノルズ数依存性を減らす)
翼上面がフラットである(剥離領域を小さくす
3)
翼下面でのキャンバが強い(翼下面での揚力を
ている.そのため,剥離泡が存在するレイノルズ数
領域での翼型設計には,剥離泡の挙動を含む非定常
流れ場の評価は必要不可欠である(2-5).
高レイノルズ数では剥離泡は,迎角を増すごとに
る)
稼ぐ)
剥離泡の長さ(剥離点から再付着点までの距離)が減
といった特性が重要であることが知られている(1-2).
少する"Short Bubble"と,その逆の"Long Bubble"の2
大山ら (11)は火星大気環境において迎角を2[deg]に固
種類に分別されるが,低レイノルズ数では,これら
の特徴は曖昧となる.近年,低レイノルズ数域での
定し,二次元翼型周りの流れをReynolds Averaged
Navier-Stokes(RANS)方程式によって数値解析し,C L
前縁半径と翼厚の大きいNACA0012やSD7003といっ
最大,抗力係数C D 最小を目的関数とした二次元翼型
た 翼 型 上 の 剥 離 泡 の 挙 動 を Direct-Numerical
の最適化進化計算を行なった.大山らの結果からも
Simulation(DNS)やLarge-Eddy Simulation(LES)を用い
た解析結果が報告されている(6-8).我々のグループで
上記の翼型形状特性の一部が低レイノルズ数で良い
ことが得られている(11).
もLESを用いて厚翼(NACA0012)や薄翼(NACA0002)
このような翼型形状をもち,低レイノルズ数で性
の非定常流れ場を解析し,その空力特性を明らかに
能の良いものとして,石井翼が挙げられる.この翼
は前述の,
表1
2)
翼上面がフラットである(剥離領域を小さくす
3)
翼下面でのキャンバが強い(翼下面での揚力を
る)
稼ぐ)
マッハ数
0.2
一様流の条件
レイノルズ数
23,000
表2 迎角の条件
翼形状
石井翼
しながら,これまでの実験計測では,性能が良いこ
NACA0012
LESの迎角
0.0, 1.0, 2.0, 3.0,
4.0, 5.0, 6.0, 7.0
8.0, 9.0
3.0, 6.0, 9.0
とは分かっているが,何故性能が良いのかといった
ことには未だ答えられておらず,剥離泡の挙動を含
NACA0002
3.0, 6.0, 9.0
といった形状特性をもっていると考えられる.しか
めた非定常流れ場の特性も十分に明らかになってい
ない.
そこで本研究では,低レイノルズ数で性能が良い
火星探査飛行機の翼型として検討されている石井翼
を対象に,3次元のLES計算を行いその非定常流れ場
を明らかにするとともに,この翼型の空力性能が良
い理由を明らかにしていく.その際,以前行なった
対称翼の解析で得られた空力特性を比較し,議論す
る.
2.解析対象
本研究では,石井翼型まわりの流れ場特性を解析
した.一様流速度は問題の簡単化のために圧縮性を
無視できる範囲内で,計算効率を考えマッハ数0.2と
した.レイノルズ数は,過去の他の翼型の数値計算,
同じ翼型の実験と合わせ,23,000とした.迎角 αを0
~9[deg]まで1[deg]おきに変化させてLES解析を行な
った.この際流れに乱れがない理想的な条件とした.
比較のため,厚翼を代表してNACA0012翼型,薄翼を
代表してNACA0002翼型のLES解析結果およびRANS
解析結果を用いた.これらの比較対象の翼型に対し
ては α=3,6,9[deg]でLES解析を行っており,特にこれ
らのαに於いて石井翼との比較を行なっている.比較
対象のRANS解析の結果は定性的議論には耐えうる
ことは分かっているが,定量的な議論には一部疑問
が残るため本論文では αに対するプロットを書く際
の参考データとするのに留めた.本研究で用いた翼
形状を図1に,解析したケースおよび比較したケース
の一様流条件および迎角αの条件を表1,2それぞれに
まとめる.
一様乱れ
なし
RANSの迎角
0.0, 1.5, 3.0, 4.5,
6.0, 7.5, 9.0
0.0, 1.5, 3.0, 4.5,
6.0, 7.5, 9.0
3.解析手法
ISAS/JAXA で 開 発 さ れ た 流 体 解 析 ソ ル バ ー
LANS3D(12)を用いて,3次元LES解析を行なった.以
下に計算手法の詳細を示す.
3次元定常圧縮性Navier-Stokes方程式を支配方程式
として解析を行った.支配方程式は,一様流音速と
翼のコード長cによって無次元化を行っている.空間
差分には6次精度コンパクト差分法(13)を,数値安定性
のための10次精度3重対角フィルター(14) (フィルター
係数0.495)と合わせて用いた.乱流解析には,この3
重対角フィルターが最小格子幅以下での乱流のエネ
ルギー散逸を模擬できるとし,サブグリッドスケー
ルモデルを用いない陰的なLESを行った.また,時間
積分は2次精度後退差分をADI-SGS法 (15) 内部反復3
回(16)で収束させている.境界条件として,スパン方
向は周期境界としてある.比較対象の計算結果の一
部はRANS計算であるが,この計算手法は文献を参考
にされたい.
計算手順は以下のようにした.2次元流れ場を前も
って計算しておき,それを3次元に拡張して初期解と
し,十分流れを発達させるために,無次元時間幅
∆t=3.2x10-4で10万ステップ計算した後,さらに同じ∆t
で10万ステップ計算を行った.また,後で議論する
平均解は,最後の10万ステップの時間方向,さらに
はスパン方向の平均である.
3D-iLESケースの計算に用いた翼型周りのCトポロジ
ーの格子を図2に示す.スパン方向には,コード長の
20%長さをとっている.格子点数の詳細を表3に示す.
また,本計算格子を用いて,α=6.0°の条件で3次元
LES解析を行い,その結果を時間方向,スパン方向に
平均した解から算出される壁座標に基づいた,コー
ド長方向の格子幅分布を図3に示す.図3より,本解
析での計算格子は
図1 翼形状.点線:石井翼,破線:NACA0012,実
線NACA0002
∆ξ+<25,∆η+<3,∆ζ+<15
を保っており,乱流解析には十分な格子と判断する.
を持った渦(それぞれ赤色と青色)が繋がったような
ζ
ξ
ヘアピン状の渦が形成される.背面のx方向速度分
布から,これらのケースではヘアピン状の渦が発生
する場所付近から後縁にかけて,剥離せん断層が消
滅している.これは,上記に示した2次元的な渦が
× η
周期的に発生し,結果としてヘアピン状の渦が翼面
上に絶えず存在することで,剥離流が再付着してい
ると考えられる.剥離,再付着位置に関しては次の
節の平均場で詳しく述べるが,α=4.0~8.0[deg]のケー
図2
スでは,剥離→遷移→再付着する流れ場となる.
最後に α=9.0[deg]のケースに関してだが,迎角の
計算格子
増加によって前縁からの剥離せん断層の角度が増
表3 計算格子点数
η
ζ
200
101
25
∆ξ+, ∆η+
20
15
10
∆ξ+
∆ζ+
∆η+
し,翼面から離れている.低い迎角の結果と同様に,
1
剥離せん断層の途中から発生した2次元的な渦が崩
壊して縦渦を生ずるが,巻きこまれた縦渦が翼面上
0.8
を移流することで剥離を抑えられた α=4.0~8.0[deg]
0.6
のケースとは異なり,α=9.0[deg]のケースでは3次元
0.4
∆ζ +
ξ
615
的な縦渦が翼面から離れる方向に伸びていくと共
に,翼面付近では流れ方向とは逆向きの流れが存在
5
0.2
している.これも同様に後の平均場にて示すが,こ
0
0
のケースでは剥離した流れが再付着しない前縁失
0.00
0.50
x/c
1.00
図3 格子幅の分布
4.石井翼まわりのLES結果
4.1 石井翼周りの瞬間流れ場
LESによる計算結果の瞬間場における,速度勾配
速型の流れ場となる.
このような翼上面流れ場の遷移は,過去の研
究 (9-10) でNACA0012翼で見られた流れ場パターンと
全く同様ある.上記では石井翼の翼下面流れ場は議
論していないが,全ての迎角で付着しており,これ
も過去の研究でNACA0012翼で見られた流れ場パタ
テンソルの第二不変量(Q値)の等値面をx方向渦度で
色付けしたものと,背景にx方向速度分布を表示し
ーンと全く同様である
た鳥瞰図を図4に迎角毎に示す.
図4の α=0.0~3.0[deg]のケースにおいて,背面のx
4.2 石井翼周りの平均流れ場
LES解析によって得られた解を時間方向,スパン
方向速度分布および渦構造(Q値)から,前縁付近では
付着,後縁で迎角により一部剥離を起こして2次元
方向に平均した解((以下,平均解)の議論および比
渦を生成している.後縁での剥離は図からはわかり
づらいが,後で平均場を用いて詳細に議論する.こ
れらのケースでは迎角を大きくすることで後縁剥
離の位置が前方に若干ながら移動している.また,
上記で説明したスパン方向に軸を持つ2次元的な渦
は剥離が見られる計算ケースの全てにおいて確認
されるが,これは剥離せん断層内の速度勾配を起因
とした Kelvin-Helmholtz Instability(K-H不安定性)に
よって発生している.
次に, α=4.0~8.0[deg]では,背面のx方向速度分布
から翼の最大キャンバ位置よりも前縁側で流れが
剥離している.また,剥離せん断層の内側には低速
の死水領域が形成されている.さらに,等値面を見
ると,後縁手前にて剥離せん断層内からスパン-z方
向に軸を持った渦が周期的に生成,放出されている.
この渦は後縁付近において崩壊し,+xと-x方向に軸
較検討を行う.
平均解のx方向速度分布と断面内流線(黒線:外
部流,白線:循環流)を迎角毎に図5に示す.瞬間
場での議論と同様, α=0.0~3.0[deg]では後縁付近か
ら剥離する後縁剥離流れとなっている.
α=4.0~8.0[deg]では,崩壊して形成された3次元的な
渦が翼面に沿って移流していたが,平均場では結果
として,剥離流が翼面に再付着している.また,剥
離せん断層からは2次元的な渦が周期的に放出され
るが,平均場では剥離せん断層と再付着する流線の
内側に閉じた循環領域が形成されている.これが剥
離泡である.
最後に, α=9.0[deg]では,剥離した流れが再付着す
ることなく後縁を通りすぎ,前縁型の失速を起こし
ている.また剥離流の内側には翼面全体に渡って循
環領域が形成され,翼面に沿って流れが逆流してい
る.平均場に関しても,その特性はNACA0012のそ
れとほぼ同様である.剥離形態を表にまとめる.
めである.
次に平均場から得られたCfを基に作成した剥離
再付着点位置を図6に示す.α=0.0 [deg]では付着流れ
となっている.また α=1.0~3.0[deg]で後縁剥離を起
こしており,迎角が大きくなるにつれて一気に剥離
点が前方に移動することがわかる. α=4.0~8.0[deg]
において剥離点が最大化キャンバ位置よりも前方
に存在する前縁剥離となり,迎角が上がるにつれて
剥離点は少しずつではあるがさらに前方に移動す
(a)α=0[deg]
る.剥離した流れは後縁で再付着する.再付着する
点は,α=4.0~5.0[deg]では前方に移動するが,α=7.0
~8.0[deg]では後方に移動する.このことからこの剥
離泡をShort Bubble, Long Bubbleに特徴づけること
は難しい.最後に α==9.0[deg]では再付着することな
く,剥がれた流れ場となる.平均場で得られた流れ
場も後縁剥離→前縁剥離再付着→前縁剥離の流れ
場となっており,NACA0012と同様の流れ場構造と
いえる.
(b)α=1[deg]
4.3 石井翼周りの空力係数
平 均 場 か ら 得 ら れ た Cp 分 布 を 図 7 に 示 す .
α=0.0~3.0[deg]では,上面の圧力分布は前縁付近で負
圧のピークが観察され,その後なだらかに負圧が弱
まっていく.一方下面では,後縁側で正圧が上昇し
ている.これは後述する高迎角でも同様であり,下
面後縁側のキャンバによるものである.
一方 α=4.0~8.0[deg]では,上面の圧力分布は前縁付
(c)α=2[deg]
近で負圧のピークが観察されるのは変わらないが,
その後流れ場の考察で議論した剥離泡の部分でフ
ラットな圧力分布が得られており,乱流遷移,再付
着する部分で急激に負圧が小さくなる.下面の圧力
分布は後縁側のキャンバ部分で正圧を稼いでおり,
低迎角と同様の特性を持っている.
α=9.0[deg]では,流れ場としては失速した状態で
あり,上面の圧力分布は前縁部分を除き全体的にフ
ラットな分布となっている.
(d)α=3[deg]
次に,C L ,C D ,揚抗比L/D分布を図8, 9, 10にそれ
ぞれ示す.図8より,C L は迎角に対しおおよそ線形
に増えていくが,流れ場の特徴が変わる
α=0.0~3.0[deg]において若干の傾きの変化が見られ
る.図9より,C D は迎角に対しおおよそ,2乗で増え
ており,一般的な翼型の抵抗特性と同様である.図
10より,L/D分布より,L/D最大は α=4.0[deg]で18程
度をとっている.この値は後述の対称翼との比較で
議論するが非常に高い値である.一般的な高レイノ
(e)α=4[deg]
ルズ数流れに比べ高い迎角でL/D最大となる.これ
は過去の研究で議論されており,粘性抵抗が大きい
ために,高迎角を取って圧力抵抗を一部大きくなっ
たとしても大きな揚力を取るメリットが大きいた
図4
瞬間流れ場,背景:速度分布,等値面:速度
勾配テンソルの第2不変量
(f)α=5[deg]
(a)α=0[deg]
(g)α=6[deg]
(b)α=1[deg]
(h)α=7[deg]
(c)α=2[deg]
(i)α=8[deg]
(d)α=3[deg]
(j)α=9[deg]
0
u/uinf
(e)α=4[deg]
1.25
図5
図4
続き
平均流れ場,背景:速度分布,黒線:付着流
れの流線,白線:循環流れの流線
AOA[deg]
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
Separation point
Reattachment point
剥離領域
付着領域
0
(f)α=5[deg]
図6
付着領域
0.5
x/c
1
石井翼まわりの流れ場の剥離点,再付着点位
置
-1.5
AOA
-1
AOA=0~4
Cp
-0.5
0
AOA
0.5
1
1.5
(g)α=6[deg]
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
x/c
(a)α=0.0∼4.0[deg]
-2
AOA=5~8
-1.5
-1
AOA
Cp
-0.5
0
0.5
AOA
1
(h)α=7[deg]
1.5
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0.8
1
x/c
(a)α=5.0∼8.0[deg]
-2
AOA=9
-1.5
-1
Cp
-0.5
0
0.5
(i)α=8[deg]
1
1.5
0
0.2
0.4
0.6
x/c
図7
(j)α=9[deg]
0
u/uinf
図5
続き
1.25
(c)α=9.0[deg]
石井翼周りのC P 分布
1.00
とがわかる.∆α=9[deg]では同様に前縁剥離してその
特性変化
0.90
0.80
後縁剥離
0.70
失速
CL
0.60
まま剥がれた流れ場となる.石井翼とNACA0012にお
いて流れ場特性は全く同じものと考えられ,石井翼
は厚翼と同様の流れ場特性を持つ翼型であると結論
0.50
0.40
前縁剥離再付着
0.30
づけられる.
0.20
0.10
5.2 平均流れ場の比較
0.00
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
AOA
図8
の平均流れ場を図12に示す.前述の議論と同様に,
前縁剥離再付着
NACA0002では前縁剥離から剥離泡をつくり,迎角が
大きくなるにつれて剥離泡が長くなり失速に至るこ
0.14
0.12
0.10
失速
CD
0.08
とが分かる.一方石井翼およびNACA翼においては,
0.04
∆α=3[deg]では後縁剥離,∆α=6[deg]では前縁剥離再付
着,∆α=9[deg]では,前縁から剥離しそのまま剥がれ
0.02
た流れ場となる.瞬間場同様,石井翼とNACA0012
後縁剥離
0.06
において流れ場特性は全く同じものと考えられ,石
0.00
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
AOA
図9
L/D
石井翼,NACA0002,NACA0012の ∆α=3, 6, 9[deg]
石井翼のC L
井翼は厚翼と同様の流れ場特性を持つ翼型であると
結論づけられる.
石井翼のC L
20.00
18.00
16.00
14.00
12.00
10.00
8.00
6.00
4.00
2.00
0.00
5.3 空力特性の比較
本節では,まずC L ,C D ,L/D特性を議論し,その
差が何に起因しているかを詳細に議論する.
C L ,C D ,L/Dを図13, 14, 15にそれぞれ示す.図13
から,NACA0002翼は迎角に対し線形なC L 特性を持
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
AOA
図10
石井翼のC L
っている.一方NACA0012翼は強い非線形性を持っ
ており,低迎角で揚力が非常に低いことが分かる.
上面の流れ場がNACA0012とほぼ同様の石井翼は,
若干の非線形性が∆α=4~5[deg]の間で見られるが,そ
5.石井翼とNACA0012,NACA0002との比較
の性能はNACA翼よりも遥かに良いことがわかる.
本章では石井翼とNACA0012,NACA0002の比較を
行う. 0度が0揚力迎角となる対称翼と異なり,石井
上面の流れ場は前述のようにNACA0012と石井翼で
ほとんど変わらないのにも関わらず,この違いは興
翼は0揚力迎角がおおよそ-1度である.この1度の差は
味深い.この違いは圧力分布を用いて後で議論する.
流れ場を議論する際に大きく影響を与えるため,こ
次に図14から,NACA0002 は ∆α=3[deg]までは,
れ以降迎角を合わせる際には,0揚力迎角からのずれ
(∆α)を合わせることで議論を行う.例えば,∆α=3[deg]
CD が 非 常 に 小 さ い が そ の 後 一 気 に 大 き く な る .
∆α=3[deg]は,前縁剥離泡が形成される迎角であり,
と表記した場合,石井翼ではα=2[deg],NACA翼では
α=3[deg]のデータを見ていることになる.
前縁剥離泡ができてからは抵抗値が非常に大きくな
5.1 瞬間流れ場の比較
ることが分かる.
一方NACA0012は∆α=3までは迎角が大きくなるにつ
れC D が大きくなるが, ∆α=4~6[deg]までC D がほぼ一
石井翼,NACA0002,NACA0012の ∆α=3, 6, 9[deg]
定になりその後一気にC D が大きくなる.これらの翼
の瞬間流れ場を図11に示す.緒言でも述べたように
型に比べ,石井翼のC D は小さく,迎角が上がるにつ
ΝΑCA0002は前縁剥離した流れが2次元渦を生成し,
乱流遷移を促していることが分かる.これにより
れ徐々に上昇しており,滑らかな分布となっている.
図15から,L/Dを比べると,NACA0002とNACA0012
∆α=3, 6[deg]では剥離泡が生成されていると考えられ,
∆α=9[deg]では再付着できず前縁剥離してそのまま剥
に比べ小さな抵抗値,NACA0012と比べ大きな揚力値
をもっていることから,石井翼は他の2つよりも6程
がれた流れ場となる. 一方,石井翼およびNACA0012
は ∆α=3[deg]では後縁で流れが剥離し2次元的渦を作
度大きな最大揚抗比を持っていることがわかる.一
般的なキャンバなしの薄翼,厚翼と比較し,石井翼
っている. ∆α=6[deg]では前縁から剥離した流れが2
は非常に高い性能を持っていることが確認された.
次元的渦をつくりそれが崩壊し乱流遷移しているこ
ここからは,石井翼とNACA0012の流れ場は同じに
も関わらず,何故石井翼の性能が高いかを議論して
生するC Dp および下面で発生するC Dp を図18に示す.
いきたい.
ま ず , CL に 注 目 す る . 石 井 翼 は 前 述 の よ う に
ここでC Dp の発生場所で抵抗成分を2つに分けたが,
厳密には下面の流れと上面の流れは関連しているた
NACA0012と比較して,C L の非線形性もなく性能も
め,完全な分解にはならないが,傾向を見るのには
非常に高い.この違いが何故現れるのかをC p 分布か
問題ないと考えている.図18より,NACA0012と石井
ら比較する. ∆α=3, 6[deg]のC p 分布を図16に示す.
NACA0002 の 分 布 は 参 考 の た め に 示 し て お く .
翼のC Dp の差の多くは下面で生成されている.すなわ
ち,全体のC D に関しても下面の形状が大きく影響し
NACA0012と石井翼を比較すると上面の圧力分布は
ており,石井翼の下面の形状が高い空力性能につな
ほとんど変わらない事がわかる.一方で下面の圧力
がっているといえる.このことから火星探査航空機
分布は後縁側で正圧を稼いでおり,これが揚力の違
いとなっていると考えられる.この違いは下面キャ
の翼型設計には,下面形状の選定が重要であること
が明らかになった.NACA0002に関しては∆α=3[deg]
ンバによるものと考えられる.下面キャンバを持っ
では,やはり下面のC Dp によって全体のC D が変化して
が与えたもので
いるが,前縁剥離渦ができてからの∆α=6[deg]では,
あるが,石井翼もこの効果によって揚力を大きくす
ることができていると考えられる.
上面のC Dp が急激に大きくなっており,NACA0002周
りの流れ場で形成される前縁からの強い剥離泡は抵
次に,C D に注目する.まず∆α=3, 6[deg]において圧
抗という観点からは望ましくない可能性が示唆され
たほうが良いとの指摘はSchmitz
(1-2)
力抵抗係数C Dp および粘性抵抗係数C Dv 成分に分解し
た.
た.これを図17に示す.図17から,3ケースのC Dp の
差はC Dv の差よりも大きく,C Dp が全体のCDの大小に
強く影響を与えていることが分かる.C Dp が上面下面
のどちらで生成されているか調べるため,上面で発
∆α
Ishii Airfoil
NACA0012
NACA0002
3
剥離泡
後縁剥離
後縁剥離
剥離泡
剥離泡
剥離泡
前縁失速
前縁失速
前縁失速
6
9
図11
∆α
瞬間流れ場の比較
Ishii Airfoil
0
u/uinf
NACA0012
1.25
NACA0002
3
剥離泡
後縁剥離
後縁剥離
剥離泡
剥離泡
剥離泡
前縁失速
前縁失速
前縁失速
6
9
図12
平均流れ場の比較
0
u/uinf
1.0
-2
1.00
ISHII airfoil
NACA0012
NACA0002
-1.5
0.80
-1
CL
Cp
0.60
0.40
ISHII airfoil
NACA0012
NACA0002
0.20
0.00
-0.5
0
0.5
1
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
0
0.2
∆α [deg]
ISHII airfoil
NACA0012
NACA0002
CD
0.10
0.08
4.0E-02
3.0E-02
2.5E-02
0.04
2.0E-02
0.02
1.5E-02
0.00
1.0E-02
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
∆α [deg]
5.0E-03
0.0E+00
ISHII wing
C D の比較
図14
L/D
1
CD
CDp
CDv
3.5E-02
0.06
NACA0012
NACA0002
(b)∆α=3[deg]
20.00
18.00
16.00
14.00
12.00
10.00
8.00
6.00
4.00
2.00
0.00
ISHII airfoil
NACA0012
NACA0002
8.0E-02
7.0E-02
6.0E-02
CD
CDp
CDv
5.0E-02
4.0E-02
3.0E-02
2.0E-02
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
∆α [deg]
図15
1.0E-02
0.0E+00
ISHII wing
L/Dの比較
ISHII airfoil
NACA0012
NACA0002
-1.5
-1
NACA0012
NACA0002
(b)∆α=6[deg]
図17 C D の成分毎比較
-2
Cp
0.8
(b)∆α=6[deg]
図16 続き
0.14
0.12
0.6
x/c
C L の比較
図13
0.4
2.5E-02
pressure side
suction side
oveall
-0.5
2.0E-02
0
1.5E-02
0.5
1
1.0E-02
0
0.2
0.4
0.6
x/c
(a)∆α=3[deg]
図16 C p の比較
0.8
1
5.0E-03
0.0E+00
ISHII airfoil
NACA0012
NACA0002
(a)∆α=3[deg]
図18 C Dp の成分毎比較
7.0E-02
6.0E-02
5.0E-02
(7) Galbraith, M. C., & Visbal, M. R., “Implicit Large
pressure side
suction side
oveall
Eddy Simulation of Low-Reynolds-Number
Transitional Flow Past the SD7003 Airfoil,” AIAA
paper 2010-4737.
4.0E-02
(8) 中江雄亮,本橋龍郎,小紫誠子,桑原邦郎,“
3.0E-02
低レイノルズ数領域における NACA0012 翼型
周りの 3 次元流れのシミュレーション,” 数理解
2.0E-02
1.0E-02
0.0E+00
ISHII airfoil
NACA0012
NACA0002
(b)∆α=6[deg]
図18 続き
析研究所講究録,1539 巻,pp. 157-164,2007.
(9) R. Kojima, T. Nonomura, A. Oyama, and K. Fujii,
“Large-Eddy Simulation of the flow over a Thin
Airfoil at Low Reynolds Number,” ICCFD6, 2010.
(10) 小嶋亮次,野々村拓,大山聖,藤井孝藏,“低レ
6.結言
本論文では,石井翼まわりの流れのLES解析を行い,
流れ場の詳細を明らかにするとともに,その結果を
他の翼型と比較してその高い空力特性の理由を議論
した.
イノルズ数における厚翼と薄翼周り流れの
iLES 解析による特性比較,” 第 24 回数値流体力
学シンポジウム,2010.
(11) Akira Oyama, and Kozo Fujii, “A Study on Airfoil
Design for Future Mars Airplane,” AIAA Paper
流れ場の特性は迎角を上げるに従い後縁剥離,前
縁剥離再付着,前縁剥離となり,厚翼の流れ場と全
2006-1484, 2006.
(12) K. Fujii, and S. Obayashi, “High-resolution upwind
く同一のものとなった.一方で,空力係数で比較す
scheme for vortical-flow simulations” Journal of
ると一般的な厚翼であるNACA0012よりも性能が非
Aircraft、Vol. 26, pp 1123-1129.
(13) Lele, S.K., “Compact Inite Difference Scheme with
Spectral-Like
Resolution,”
Journal
of
常に高いことが分かった.これはNACA0012に比べ下
面キャンバでの正圧が大きく,これが原因となって
揚力を稼いでいること,また下面での圧力抵抗が小
さいことに起因していることが明らかになった.こ
れらの結果は低レイノルズ数での翼型設計には,下
面の形状が大きく影響を与えることを示唆している.
本知見から今後最適な翼型設計の際に注意して下面
の形状を選ぶ必要があることが明らかとなった.
謝辞
数値解析にはJAXAのJSSを用いた.ここに記して
謝意を表する.火星探査航空機WG空力班のメンバに
は本研究に対し貴重なコメントを頂いた.
参考文献
(1) http://flab.eng.isas.jaxa.jp/meav/.
(2) Schmitz, F. W., ”Aerodyamics of the Model
Airplane Part1,” RSIC-721, 1967.
(3) Schmitz, F. W., ”The Aerodyamics of Small
Reynolds Number,” NASA TM-51, 1980.
(4) 李家賢一, ”翼型上に生ずる層流剥離泡” なが
れ 22, 15-22, 2003.
(5) Lissaman, P. B. S., “Low-Reynolds-number
Airfoils,” Annual Review in Fluid Mechanics,”
pp.223-239, 1983.
(6) Shan H, Jiang L, Liu C., “Direct numerical
simulation of flow separation around a NACA 0012
airfoil,” Computers & Fluids 34, 2005, 1096-1114.
Computational Physics, Vol. 103, pp. 16-22, 1992.
(14) Gaitonde,D.V. and Visbal,R.M.,“Pade Type
Higher-Order
Boundary
Filters
for
the
Navier-Stokes Equations,” AIAA Journal,Vol. 38,
No.11,p. 2103-2112,2000.
(15) 藤井孝藏, “有限体積法の最前線―高速気流計算
法の最近の動向”,日本計算工学会誌,第 3 巻,
第 3 号,p. 158-166.
(16) Chakravarthy, S. R., “Relaxation Methods for
Unfactored Implicit Upwind Schemes,” AIAA
Paper 84-0165.