Review Article ‒ Full Translation 遺伝性血液凝固異常症の治療の進歩 Advances in the treatment of inherited coagulation disorders M. A. Escobar Department of Pediatrics and Internal Medicine, Division of Hematology, University of Texas Medical School at Houston, Houston, Texas 要 約: 遺 伝 性 血 液 凝 固 異 常 症 は, 血 友 病 の 原 が で き る。 プ ー ル 血 漿 由 来 製 剤 に は, 血 液 媒 介 因 と な る X 連 鎖 遺 伝 性 の 第 VIII 因 子( FVIII ) ウイルス感染症のリスクが理論上残るが,精製法お ま た は FIX 因 子 欠 乏 症 な ど の 種 々 の 凝 固 因 子 の よびウイルス不活化法の大幅な進歩により,この懸 欠乏,および常染色体劣性遺伝疾患によって引き 念は後退している。インヒビターの発生は,依然 ,プロトロンビン 起こされるフィブリノゲン( FI ) として遺伝性出血性疾患患者にとって最大の難問 ( FII ), FV, FVII, FX, FXI, FXIII, FV・ FVIII であり,出血を抑制および予防する治療法を複雑 重複のヘテロ欠乏症など広範囲に及ぶ。先天性血 にし,感受性の高い患者にアレルギー反応および 友 病 A( FVIII 欠 乏 症 )お よ び B( FIX 欠 乏 症 ) アナフィラキシー反応のリスクをもたらす。本レ 患 者 に 対 す る 過 去 20 年 間 の 著 し い 治 療 の 進 歩 ビューは,( 1 )バイオエンジニアリングによって, は, 凝 固 因 子 補 充 製 剤 の 製 造, 安 定 供 給 度, お 薬物動態特性およびバイオアベイラビリティを よび患者アクセスの改善に由来するものである。 改善し,生物活性を維持し,遺伝子組換え型血液 遺 伝 子 組 換 え 蛋 白 質 技 術, 機 能 を 改 善 さ せ た り 凝固蛋白の免疫原性を潜在的に消失させることを 潜在的に免疫原性を低減させたりするための 目指した新たな止血療法の進歩に光を当て,( 2 )現 標的蛋白質の修飾,進歩した製剤技術によるバイ 在開発パイプラインにある,新たな凝固因子製剤に オアベイラビリティの最適化および活性の維持 関する重要な臨床試験の概要を示すことを目的と と い っ た バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー の 進 歩 は, 血 友 病 する。 および他に治療選択肢がほとんどない劣性遺伝 Key words:血友病,新たな止血療法,遺伝性凝固因 性出血性疾患患者に新たな治療法をもたらすこと 子欠乏症,新たな凝固因子製剤,遺伝性出血性疾患 緒 言 連鎖疾患にフォンヴィレブランド因子( VWF )の欠 乏または欠損を加えると,遺伝性出血性疾患の大 遺伝性血液凝固異常症は,種々の凝固因子欠乏 多数( 95 ∼ 97% )を占める( 1,2 )。残る 3 ∼ 5% は, 症からなる。X 連鎖疾患は,トロンビン生成の欠 フィブリノゲン( FI ),プロトロンビン( FII ),FV, ( 血友病 A )ま 乏をもたらし,第 VIII 因子( FVIII ) FVII,FX,FXI,FXIII,FV・FVIII 重複欠乏症を たは FIX( 血友病 B )の欠乏と関連付けられる。X もたらす常染色体劣性遺伝性出血性疾患に起因す るものである( 1,2 )。 Correspondence: Miguel A. Escobar, MD, Associate Professor, Department of Pediatrics and Internal Medicine, Division of Hematology, University of Texas Health Science Center, Houston, 6655 Travis Street, Suite 400 HMC, Houston, TX 77030, USA. Tel.: +713 500 8360; fax: +713 500 8364; e-mail: [email protected] Haemophilia (2013), 19, 648–659 © 2013 John Wiley & Sons Ltd 4 先天性血友病 A および B 患者に対する過去 20 年間の治療の進歩により,凝固因子補充製剤の製 造,安定供給度,および患者アクセスが改善され た( 1 )。ヒト血漿由来製剤には,血液媒介ウイルス 感染症のリスクが理論上残るが,精製法およびウイ 遺伝性血液凝固異常症の治療の進歩 ルス不活化法の大幅な進歩により,そのリスクは極 とした turoctocog alfa および完全長 rFVIII の第 I 相, めて低下している。インヒビターの発生は,依然と オ ー プ ン ラ ベ ル, 初 回 臨 床, 多 施 設 共 同, 順 次 して遺伝性出血性疾患患者が直面する最大の難問 投 与 試 験 に よ り, 両 者 の 生 物 学 的 同 等 性 が 認 であり,出血の抑制法および予防法を複雑にし,罹 め ら れ た。 各 患 者 に 完 全 長 rFVIII 50 IU/kg を (3) 患率および死亡率を上昇させる 。 単回投与後,4 日間の休薬期間を挟み,turoctocog 遺伝性出血性疾患の治療に関する止血療法の新た alfa 50 IU/kg を単回投与したところ,薬物動態の 1 次 お よ び 2 次 パ ラ メ ー タ は 同 程 度 で あ っ た。 安 全 性 の 懸 念 は な く,turoctocog alfa 単 回 投 与 後 72 時間時点でインヒビターの発生は認められな かった( 8 )。血友病 A 患者を対象とした turoctocog alfa の第 III 相臨床試験が 3 件実施されている。2 件は,PTPs( Previously Treated Patients )患児,お よび手術を施行する PTPs 患者を対象に,出血予防 な進歩,および開発パイプラインにある新たな製 の安全性および有効性を評価した試験であり,既に 遺伝子組換え蛋白質技術,標的蛋白質の修飾に よる機能の改善および免疫原性の低減,革新的な製 剤技術による用量の最適化,活性の維持,患者の治 療遵守の促進などと言い換えられるバイオテクノ ロジーの進歩は( 3 ),治療選択肢が限定される血友 病患者および劣性遺伝性出血性疾患患者に対して 極めて大きな希望となっている。本レビューでは, 剤に関する臨床試験の状況について焦点を当てる 。 ( Table 1 ) 終了している。現在実施中のもう 1 件の第 III 相試 験は以前の試験に続くもので,出血エピソードの 予防またはオンデマンド療法による出血エピソー FVIII 欠乏症の治療の進歩 比活性の上昇,半減期の延長,および抗原性の 低下 開発中の新たな FVIII 製剤( Table 1 )には,ヒ (4) ト 細 胞 株 由 来 遺 伝 子 組 換 え 型 FVIII( rFVIII ) [ Human-cl rhFVIII, Octapharma AG 社( Lachen, Switzerland )] お よ び ブ タ rFVIII[ OBI-1, Inspiration Biopharmaceuticals 社( Laguna Niguel, CA, USA )]が挙げられる。新たな rFVIII 製剤のう ち,OBI-1,BAY 81-8973[ 完 全 長 rFVIII,Bayer Pharma AG 社( Berlin, Germany )], Human- cl rhFVIII は開発が最も進んでおり,現在第 II/III 相 ドの治療を目的として投与された患者を対象に, turoctocog alfa の有効性および安全性を評価する ( Table 1 )。 それ以外には,FVIII の有効性の維持を改善する ことに大きな重点が置かれている。半減期( t1/2 )の 延長法には,rFVIII 分子とポリエチレングリコー ル( PEG )ポリマーまたはポリシアル酸ポリマー とを標的にした結合( 9 ),PEG 化リポソーム中への rFVIII の取り込み( 10 ),免疫グロブリン IgG の Fc 領域( fragment, crystallizable )との融合( 11 )が挙げ られ,Fcγ 受容体( FcRn )を介した rFVIII のリサ イクリングを可能にし,その結果,反復的なエン ドサイトーシスにより分解を阻止し,循環血中に 臨床試験において安全性および有効性を評価中で 再 び FVIII を 放 出 す る( 3,11,12 )。 親 水 性 構 造 を 有 ある( Table 1 )。 する PEG との結合により,FVIII と肝細胞のクリ rFVIII バリアントの開発は,FVIII の機能活性に 必要とされない B ドメインサブユニットの除去に より,急速な進歩を遂げている( 5 )。Turoctocog alfa ( NN7008 )は,第 3 世代の新たな B ドメイン除去 rFVIII 蛋 白 質[ Novo Nordisk A/S 社( Bagsvaerd, Denmark )]で,動物またはヒト由来成分を用い アランス受容体( FVIII 血漿濃度を調節する主要消 ることなく合成され,重要な生化学的特性を保持 1: NN7088, Novo Nordisk A/ S 社( Bagsvaerd, Denmark ), BAY 94- 9027, Bayer Pharma AG 社( Berlin, Germany ), BAX 855, Baxter/ Nektar したまま,これ以外の FVIII 製剤と同等の in vitro 機能活性を有する( 6,7 )。重症血友病 A 患者を対象 失経路 )との相互作用が一時的に遮断されると共 に( 9 ),免疫細胞との相互作用およびインヒビター 発生リスクを阻止する可能性がある( 3,13,14 )。PEG 化長時間作用型 FVIII 製剤については,第 I ∼ III 相臨床試験 3 件による評価が実施中であり[ Table 5 Full Translation: M. A. Escobar 6 遺伝性血液凝固異常症の治療の進歩 7 Full Translation: M. A. Escobar 8 遺伝性血液凝固異常症の治療の進歩 9 Full Translation: M. A. Escobar 10 遺伝性血液凝固異常症の治療の進歩 Therapeutics 社( Deerfield, IL, USA )],長時間作用 型の rFVIII 融合蛋白質は,第 III 相試験 1 件が実施 ( Waltham,MA, 中である[rFVIIIFc,Biogen Idec 社, USA )/ Swedish Orphan Biovitrum 社( Stockholm, ( Table 1 ) 。 Sweden )] ( PEGLip-pdFVIII )の安全性および有効性を検討 した反復投与,オープンラベル,探索的試験では, 週 1 回の FVIII 定期補充療法レジメンは出血時投 与療法に比して,出血頻度の顕著な低下を示した ( 17 ) 。 ( Table 1 ) 薬物動態学的特性,有効性,安全性,免疫原性の 改善に向け,ショ糖添加 PEG 化リポソーム rFVIII FIX 欠乏症の治療の進歩 製 剤 で あ る NecLip-rFVIII-FS[ BAY 79-4980, Kogenate® FS,Recoly NV 社( Brussels, Belgium )/ Bayer Pharma AG 社( Berlin, Germany )] も 開 発, ( 15 ) 。重症血友病 A 患者を対 検討された( Table 1 ) 象 に BAY 79-4980 を 単 回 輸 注 し た 盲 検 化, 比 較 対照,多施設共同,クロスオーバー第 I 相試験で は, 非 修 飾 型 の rFVIII に 比 し て, 出 血 エ ピ ソ ー し,重症血友病 A 患者を対象にした二重盲検ラ 比活性の上昇,半減期の延長,および抗原性の 低下 rFIX の 1 つノナコグアルファ[ベネフィクス ®, Pfizer 社( New York, NY, USA )]は既承認薬であ り,血友病 B 患者の急性出血エピソードの治療お よび予防( 1 次および 2 次定期補充療法)用に市販 されている( 1 )。FIX 治療の改善戦略として重点が置 かれているのは,rFIX の機能的および薬物動態学 ン ダ ム 化 ク ロ ス オ ー バ ー 第 I 相 試 験 で は,BAY 的特性の強化であり,特に顕著なのは,血漿 t1/2 の 79-4980 および rFVIII 単回輸注後の薬物動態から, BAY 79-4980 の優越性は示されなかった( 16 )。中間 延長およびバイオアベイラビリティの向上による投 解析により,有効性主要評価項目の未達が示され 由来 FIX 濃縮製剤の免疫原性の軽減である。rFIX たため,第 II 相有効性・安全性試験は中止された の血漿 t1/2 延長戦略の 1 つ( Table 1 )は,部位特異 ドを伴わない日数の平均値が増加した( 10 )。しか 。 ( Table 1 ) 与回数の減少,ならびに遺伝子組換え型または血漿 的なグリコ PEG 化( glycoPEGylation )を用いるも 最 近, 血 友 病 A 患 者 を 対 象 と し て 実 施 さ れ ので,これにより 40-kDa の PEG 分子が活性化ペ た PEG 化 リ ポ ソ ー ム 製 剤 で あ る 血 漿 由 来 FVIII プ チ ド で あ る FIXa に 結 合 す る[ NN7999,Novo 11 Full Translation: M. A. Escobar ( 18 ) Nordisk A/S 社( Bagsvaerd, Denmark )] 。血友病 の PTPs 患者 16 名を対象にした非出血時の初回ヒ ト投与第 I 相試験は,NN7999 が rFIX より血漿 t1/2 が 5 倍長く,回収率が高いことを明らかにした( 19 )。 現在,血友病 B 患者を対象とした NN7999 の出血 り約 3 倍長く,検出可能なインヒビターを生じな いこと,重篤な有害事象を認めないことが示され ( 23 ) 。さらに,12 歳以上の血友病 B の た( Table 1 ) エピソードに対する出血時投与療法,定期補充療法 PTPs 患者を対象にした出血エピソードの予防およ び治療について,rFIXFc 静脈内投与の長期曝露( 第 III 相 )を含む安全性および有効性( 第 II/III 相 )を の薬物動態ならびに長期的な有効性および安全性を 検討する複数のオープンラベル多施設共同臨床試 評価する多施設共同単盲検第 III 相試験を実施中で 験が開始されており,その結果は,2013 年初頭に 。 あり,2013 年中の終了が予定されている( Table 1 ) 明らかにされる予定である( Table 1 )。 IB1001[Inspiration Biopharmaceuticals 社( Laguna Niguel, CA, USA )]は,血友病 B 患者の出血治療 および予防用として開発中の遺伝子組換え型 FIX である。IB1001 は,ヒト FIX のアミノ酸残基 338 もう 1 つの戦略は,rFIX とアルブミンが結合し た融合蛋白質の遺伝子組換え発現を用いた rFIX-FP [ CSL654, CSL Behring 社( King of Prussia, PA, 試験)では,IB1001 の全体的な血漿 FIX 補充濃度 USA )]に関わるもので,これは全身性の FIX 消失 の遅延,および FIX の t1/2 延長を目的としたもので ある( 24 )。CSL654 の安全性および薬物動態を検討 したオープンラベル国際多施設共同用量漸増第 I 相 試験( PROLONG-9FP 試験 )では,重症血友病 B 患者を対象にした結果について,CSL654 の忍容性 の達成について,ノナコグアルファに比し非劣性で は良好で,過敏症反応などの有害事象がなく,終 をアルギニンからアラニンに置換すると,触媒活性 が上昇したという発見に基づいている( 20 )。終了し た第 I 相試験(重症血友病 B 患者 32 名を対象とし たランダム化,二重盲検,クロスオーバー薬物動態 ( 21 ) 。IB1001 の有効性および 末相 t1/2 が現在の rFIX より 5 倍超長く,検出可能 安全性は,大手術時の出血に対する予防を含めた出 なインヒビターを生じないことが最近報告された あることが認められた 血時投与療法と定期補充療法の両方を用いたピボタ ル非ランダム化二重盲検クロスオーバー第 II/III 相 ( 25 ) 。 ( Table 1 ) ダム化オープンラベル第 III 相試験は,遺伝子組換 非 修 飾 型 の rFIX で あ る BAX 326[ Baxter Healthcare 社( Deerfield, IL, USA )]について,前 向き比較対照多施設共同第 III 相試験が現在行われ ており,重症または中等症血友病 B の PTPs 患者を え型 FIX が得られる細胞株(チャイニーズハムス 対象とした薬物動態,比較有効性,安全性,免疫原 ター卵巣細胞)由来蛋白質に対する患者の抗体発 性が評価中である( Table 1 )。 。血 臨床試験において現在検討中である( Table 1 ) 友病 B のPTPs 患者を対象とした IB1001 の非ラン 生率が予測率より高いことから,最近中止された 。 ( Table 1 ) rFIX の機能的特性を増強するそれ以外の新たな 戦略は,非臨床モデルにおいて早期に期待された t1/2 を延長する rFIX 融合蛋白質の作成は,血友病 が,ヒト臨床試験では依然として検証中である。戦 B 患者の新たな治療増強法開発の重要なターゲッ トになっている。戦略の 1 つに挙げられるのは, 免疫グロブリン G の Fc 領域を rFIX 1 分子に付着 さ せ た rFIXFc[ Biogen Idec 社( Waltham, MA ), USA/ Swedish Orphan Biovitrum 社 ( Stockholm, Sweden )]である( 22 )。18 歳以上の男性血友病 B の PTPs の被験者を対象とした rFIXFc の薬物動態学 略として挙げられるのは,( 1 )活性型の FIX と FX 部位内アミノ酸の部位特異的変異体( 27 ),( 3 )経口 的特性および安全性を検討したオープンラベル用 相もしくは第 I/II 相試験における患者の募集あるい 量漸増臨床試験( 第 I/IIa 相 )では,忍容性が良好 は試験を開始する臨床開発の初期段階にあること であること,終末相の活性 t1/2 の平均値が rFIX よ を追記する。FIX 遺伝子療法の現状に関してのより 12 との構造的および機能的相同性に基づいた遺伝子 組換え型 FIX-FX 混合製剤( 26 ),( 2 )FIX 活性触媒 投与用のバイオカプセル型 rFIX( 28 )である。 最後に,FIX の欠乏または欠損の克服を目的とし た遺伝子導入治療が,ヒト被験者を対象とした第 I 遺伝性血液凝固異常症の治療の進歩 信頼性が高い詳細情報については,本領域屈指の研 投与用の NN7128 と皮下投与用の NN7129( 42 )の両 究者による優れたレビュー 2 報が最近発表されて 剤は,重大な安全性の懸念を生じずに薬物動態の改 ( 29,30 ) いる 。 善を示したが,インヒビター保有患者に対する定期 投与については有効性の用量 - 反応性が認められな かったため,両剤のさらなる開発は中止された。 凝固因子インヒビターに対する活性型第 VII 因子による治療,あるいは FVIIa 欠乏 症治療の進歩 血 漿 t1/2 を 延 長 さ せ る 別 の 方 法 は,PEG 化 リ ポ ソ ー ム rFVIIa 製 剤 で あ る NecLip-rFVIIa [ LongSeven,Recoly NV 社( Brussels, Belgium ); 児および成人とも短く,止血まで反復投与を要す PEGLip- rFVIIa, Omri Laboratories, Ltd. 社( Nes Ziona, Israel )]は,インヒビター保有重症血友病 A 患者を対象とした第 I/II 相試験において,安全性お よび有効性を検証されている( 43 )。PEG 化リポソー ムは FVIIa,FVIII,その他の蛋白質と高い親和性 る( 32 )。この薬物動態学的特性により,rFVIIa では, および特異性をもって結合することが明らかにさ インヒビター保有患者の出血予防を目的とした,定 れている( 15 )。定期投与を受けた患者を対象として, 期投与レジメンの有用性が制限される。しかし,二 rFVIIa および PEG 化リポソーム rFVIIa を,10 日 次定期投与についての前向きランダム化試験では, 間の休薬期間を設け無作為に輸注し,有効性をトロ 重篤な出血の頻度の低下,および患者の QOL の改 ンボエラストグラフィおよびトロンビン生成アッ 血漿半減期の延長および作用発現の増強 rFVIIa は,血友病患者およびインヒビター保有 患者に対する安全かつ有効な止血治療であること が 立 証 済 み で あ る が( 31 ),rFVIIa の 血 漿 t1/2 は 小 ( 33,34 ) 。rFVIIa の機能的特性および セイにより評価した。その結果,PEG 化リポソー 効力を改善するため,バイオエンジニアリング戦略 ム rFVIIa は止血の有効性を有意に改善し,凝固時 では,現在多大な取り組みがなされている。 間の短縮,血餅硬度の上昇,およびトロンビン生成 rFVIIa の 血 漿 t1/2 の 延 長 に 重 点 を 置 い た 戦 略 に 挙 げ ら れ て い る の は,rFVIIa 蛋 白 質 の グ リ コ PEG 化( 35 ), 本 FVII 蛋 白 質 構 造 体 内 の 特 定 の ア ミノ酸残基を標的にした PEG 化( 15 ),PEG 化リポ ソームを用いた rFVIIa 製剤( 15 ),アルブミンなどの について,rFVIIa に比し迅速な発現および高いト 善が認められた ( 36 ) ロンビンピーク値達成を示した( 43 )。さらに,PEG 化リポソーム rFVIIa 療法では,血栓症のリスク上 昇を認めなかった。 凝固因子とアルブミンまたは免疫グロブリン G である。それ以外に,直接的な の Fc 領 域 な ど 高 分 子 蛋 白 質 と の 融 合 も,FVIIa 合理的分子設計による rFVIIa の効力および止血作 の終末相血漿 t1/2 の延長戦略として積極的に検討 高分子との融合 ( 37 ∼ 40 ) 用発現速度の増強を目的とした方法がある 。 分子工学を用いたこれら複数の蛋白質由来の製剤 が, 非 臨 床 試 験 か ら 臨 床 試 験 段 階 へ 進 ん で い る さ れ て い る( 36,44 )。 こ れ ら の 製 剤 の 試 験 は 主 に 非 臨 床 段 階 に 留 ま り, 現 時 点 で 入 手 可 能 な 臨 床 段階の有効性および安全性データは存在しない ( 36 ) 。 ( Table 1 ) 。 ( Table 1 ) グ リ コ PEG 化 rFVIIa[ NN7128,Novo Nordisk 速 効 型 rFVIIa ア ナ ロ グ vatreptacog alfa A/S 社( Bagsvaerd, Denmark )]は,健常志願者を 対象とした第 I 相試験( 35 ),およびインヒビター [ NN1731,Novo Nordisk A/S 社( Bagsvaerd, Den- 保有の有無を問わない小規模血友病患者コホート 発されたものである。本活性は,プロテアーゼド ( 41 ) mark )]は,プロトロンビナーゼ活性を増強して開 において検証されている。 メインにおける 3 個のアミノ酸置換により,他の NN7128 の単回投与または反復投与レジメンでは, 組織因子との相互作用を必要とせずに活性型立体 用量比例的な薬物動態を伴う in vivo における有意 構造状態の本剤を安定させることによるものであ な t1/2 の延長を示し,血栓症など重篤な有害事象は る( 38 )。Vatreptacog alfa の安全性および薬物動態は, なく,中和抗体の発現は認められなかった。静脈内 健常男性被験者を対象としたランダム化,プラセ を対象とした試験 13 Full Translation: M. A. Escobar ボ対照,並行群間比較デザイン,用量漸増第 I 相試 劣性遺伝性出血性疾患の新たな治療 験において評価された( 37 )。本試験由来データから, vatreptacog alfa が安全で忍容性良好であることが 示された( 37 )。Vatreptacog alfa の薬物動態プロファ イルは,初期の急速な分布相に続く緩徐な消失相と 凝固因子補充製剤および新たな非ペプチド性止 血分子についての戦略 FI,FVII,FX,FXI,FXIII な ど 一 部 の 劣 性 遺 特徴付けられた( 37 )。さらに直近では,関節出血を 伝性欠乏症の一部については,凝固因子補充製剤 呈した思春期および成人インヒビター保有血友病 が入手可能または開発中である( Table 1 )。極め 患者を vatreptacog alfa 最大 3 回漸増投与群または て稀ではあるが,罹患者が重大な傷害もしくは外 rFVIIa 最大 3 回標準推奨用量( 90 μg/kg )投与群に 傷,または大手術を経験すると,各欠乏症から重 無作為に割り付けた,前向き,多施設共同,ランダ 大な出血リスクおよび出血性合併症が生じる可能 ム化,二重盲検比較対照第 II 相試験から,予備的 性がある( 48 )。高純度血漿由来 FX 濃縮製剤[ Bio な安全性および有効性の結果が報告された( 45 )。上 された( 45 )。Vatreptacog alfa の開発は,抗薬剤抗体 Products Laboratory Ltd. 社( Elstree, Hertfordshire, United Kingdom )],および良好な比活性を有する rFXIII-A2 サブユニット[ NN1841 ] ( Novo Nordisk A/S 社,Bagsvaerd, Denmark )な ど の 凝 固 因 子 製 剤がそれぞれ第 III 相臨床試験に進んでいる( Table 1 )。 最近まで FX 濃縮製剤は入手不能であり,FX 欠 が発生し,中和作用の可能性があることから最近中 乏症患者の治療には,新鮮凍結血漿またはプロト 記インヒビター保有患者における vatreptacog alfa の評価は,有効性に関する検証力に乏しい安全性試 験とされたが,その薬物動態プロファイルは確認 され,本速効型 rFVIIa アナログは忍容性が良好で, 急性関節出血の抑制に有効( 98% )であることが示 ( 46 ) 止された 。 ロンビン複合体濃縮製剤( PCC )を必要としていた もう 1 つの新たな rFVIIa アナログである BAY が,血栓塞栓性合併症のリスク上昇を伴っていた。 86-6150[ Bayer Pharma AG 社( Berlin, Germany )] は,本 FVII 分子アミノ酸配列内の 2 ヵ所の部位を 標的とした置換を用いて最近開発された。2 個のア 十分に定義された量の FX を含有する複数の第 X ミノ酸の置換により終末相 t1/2 が延長したのに対し, 体インヒビターと関連付けられている FX に対す N 末端付近( γ-カルボキシグルタミン酸ドメイン) の 4 個のアミノ酸を置換すると,酵素活性を損な る免疫原性がない( 49 )。高純度 FX 濃縮製剤が重症 および中等症 FX 欠乏症の治療に与える薬物動態, わずに活性化血小板表面との結合増加により効力を 有効性,安全性を検討し,手術経験がある FX 欠 ( 47 ) 改善することが示された 。最近終了したインヒ ビター保有の有無を問わない血友病 A または B 患 者を対象にした第 I/II 相単回投与用量漸増試験にお 因子濃縮製剤( Table 1 )が最近開発され,このうち ある高純度濃縮製剤には,PCC に含まれ抗 FX 抗 乏症被験者を対象にした出血抑制を評価するため, 第 III 相治療臨床試験 2 件が被験者を募集中である ( Table 1 )。 いて,BAY 86-6150 は,線形の薬物動態プロファ FXIII 欠乏症の治療には,先天性 FXIII 欠乏症被 ,t1/2 は 5 ∼ イルを有し(用量範囲 6.5 ∼ 90 μg/kg ) 験者を対象にしたヒト血漿由来 FXIII 濃縮製剤の第 7 時間であった( 47 )。血栓形成マーカーの用量比例 II/III 相治療試験が行われている。最近終了した試 験と実施中の試験がある( Table 1 )。遺伝子組換え 型 FXIII A サブユニットのホモ二量体が開発され, 健常志願者および先天性 FXIII 欠乏症患者を対象に 的な上昇は認められず,用量制限毒性もみられな かった。患者 1 名に FVIIa に対する抗体が確認さ れたが,これらの抗体は,中和作用が確認されず, BAY 86-6150 投与前から存在していた。抗体価は BAY 86-6150 曝露後最大 50 日間変化しなかったこ した臨床試験では,安全性および有効性が認めら とから,これらの抗体は本凝固因子製剤に対する新 な有害事象を認めなかった( 50 ∼ 52 )。rFXIII-A2 を用 規抗体ではないことが示された( 47 )。 いて最近終了した多施設共同,多国間,オープン 14 れ,患者の血餅溶解に有意な正常化がみられ,重篤 遺伝性血液凝固異常症の治療の進歩 ラベル,単一群,反復投与第 III 相試験では,先天 凝固因子製剤に関し,効力を増強し,不活性化に対 性 FXIII A サブユニット欠乏症患者の定期補充療 抗し,活性持続時間を延長し,免疫原性を低下させ 法について,本剤が安全かつ有効であることを示し るような最先端の戦略が実行され,患者の治療選択 ( 53 ) た 。 肢の拡大には明るい展望が見えているが,それ以外 血友病またはそれ以外の劣性遺伝性出血性疾 の遺伝性出血性疾患患者に対する新たな治療選択 患患者の止血を達成する別の方法には,凝血促進 肢の発見を推進することも必要である。広範囲の遺 特性を有する非蛋白質分子の臨床的進展が挙げら 伝性血液凝固異常症に適切に対応できる,新規性が れる( Table 1 )。新たな治療法については,現在ヒ あって効果が高まった止血療法の今後に楽観をも トを対象にした次の試験が初期段階にある。( 1 )血 たらしてくれる十分な力を有する臨床試験と,健全 液凝固カスケードのほぼいずれの標的生体分子と 性の高い製品開発パイプラインがしっかりと結び の 結 合 に も 設 計 可 能 な, リ ボ ー ス ま た は デ オ キ ついていると言える。 シリボースの小型のオリゴヌクレオチドである アプタマー( 54 )。( 2 )既知の止血特性を有する強 分子。優れたレビューが発表されており,こうし 謝 辞 Dr. Escobar は, 本 稿 の 構 想, 内 容, お よ び 構 成 に 寄 与 し た。 記 述 お よ び 編 集 に は Jeffrey M. Palmer, PhD( ETHOS Health Communications, Newtown, Pennsylvania, USA )の 支 援 を 得, 国 際 的な Good Publication Practice ガイドラインに従っ て,Novo Nordisk 社 か ら 資 金 援 助 を 受 け た。Dr. Escobar は,本稿作成に関し,いかなる種類の報酬 た分子レベルでの新たな止血法開発の根拠につい も受けなかった。 アニオン性化合物である非抗凝固性の硫酸化多糖 ( NASP )からなる海藻から得られるフコイダン( 55 )。 ( 3 )mRNA の翻訳エラーまたは不安定化を引き起 こし,凝固因子である蛋白質の欠乏または機能不 全をもたらし得るナンセンス変異に対し,リード スルーを誘導するように合成および設計された低 ( 56 ) て,より詳細な情報を得ることができる 。 結 論 遺伝性出血性疾患患者のケアと管理は,治療選 開 示 MA Escobar は,Novo Nordisk 社 お よ び Pfizer 社から研究費を受け,Alnylam,Baxter,Biogen, Grifols,Kedrion,Pfizer,Novo Nordisk の 各 社 か 択肢が限定されるため,臨床医にとっては依然とし ら顧問会議およびコンサルテーションに対する謝 て重要な課題である。そのうち血友病患者に対する 礼を受けている。 References 1 Roberts HR, Key N, Escobar MA. Hemophilia A and hemophilia B. In: Beutler E ed. Williams Hematology, 8th edn. New York, NY: McGraw Hill, 2010. 2 Escobar MA, Roberts HR. Less common congenital disorders of hemostasis. In: Kitchens CS ed. Consultative Hemostasis and Thrombosis, 3rd edn. Philadelphia, PA: W.B. 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