平成25 年11 月 改訂 無機分析化学 B 概要 無機分析化学実験その2解説 無機分析化学実験その2 解説概要 「無機分析化学 B」は「無機分析化学実験その2」を行うにあたり,この実験に 必要な化学的知識と実験操作に関するバックグラウンドを解説する科目である。 したがって,この講義を聴くにはあらかじめ実験書を読み,その中の操作を予 習して整理しておくことが肝要である。 【1】 実験 A 銅化合物の合成 [目的]銅複塩および銅錯体の合成をとおして,沈殿(結晶)生成の現象を理解するとともに, ろ過などの合成における基本操作を習得する。 [関連事項の解説] * 錯塩と複塩 ・物質は,原子の集合形式によって①分子,②金属結晶,③イオン結晶に大別される。 ・錯体と錯イオン‥‥(上の分類では分子に含まれる) 中心イオンまたは中心原子に,別種のイオン,分子,多原子イオンが結合(配位)した 集合体を,錯体または配位化合物という(complex,coordinationcompound)。中心のイ オンまたは原子に配位しているイオンや分子を配位子(ligand)という。 陽イオンまたは陰イオンである錯体を錯イオンという。オキソ酸を含めることもある。 例)[Co(NH3)6]3+,[PtCl4]2−,[SiF6]2− [Cu(H2O)6]2+,[Cu(NH3)4]2+ 錯イオンを含む塩(イオン化合物)を錯塩という。(これはイオン結晶) 例)[Co(NH3)6]Cl3,K4[Fe(CN)6],[Cu(NH3)4]SO4 問:例に挙げた錯イオン・錯塩の名称を日本語で記せ。 「解 説」 ・式中で配位子を並べる順序 1. 陰イオン性配位子 2. 陽イオン性配位子 3. 中性配位子 (それぞれの分類の中では配位原子の記号のアルファベット順) ・配位子特有の名称の例 F−フルオロ,Cl−クロロ,Br−ブロモ,I−ヨード,O2−オキソ,OH−ヒドロキソ,S2−チオ, CN−シアノ,H2O アクア,NH3 アンミン ・錯陰イオンの中心原子名の後ろには ----酸 を付ける。 ・配位子の数は接頭語で示す。モノ,ジ(ビス),トリ(トリス),テトラ,ペンタ,ヘキサ,‥ ・ 複 塩‥‥(これはイオン結晶) 二種以上の塩が結合した形式で表すことができる化合物のうち,それぞれの成分イオン がそのままイオンとして化合物中に存在するものを複塩(doublesalt)という。 例)KCl + MgCl2 → KMgCl3 (KCl・MgCl2) ‥‥複塩 (塩化マグネシウムカリウム) 2 KCl + PtCl2 → K2[PtCl4] ‥‥錯塩 [ 硫 酸 銅 ( Ⅱ ) ア ン モ ニ ウ ム の 合 成 ]‥‥(複塩)(NH4)2Cu(SO4)2・6H2O 正式名称:ビス(硫酸)銅(II)二アンモニウム六水和物 1 (1)(NH4)2Cu(SO4)2·6H2O の沈殿生成 CuSO4・5H2O + (NH4)2SO4 + H2O ̶→ (NH4)2Cu(SO4)2・6H2O 沈殿をつくるときの方針:不純物による汚染が少なく,ろ過が容易な結晶をつくる。ろ液へ の損失はなるべく少なくする。 *「60℃で溶解。できるだけゆっくり室温まで冷却」するのは何故か? 沈殿生成過程 過飽和溶液(準安定状態) → 結晶核発生 → 結晶の成長 過飽和度大 ⇒核発生速度大 ⇒多数の小径の結晶 ⇒表面積大 ⇒不純物の吸着大 結晶成長速度も大 ⇒結晶の欠陥 ⇒不純物の捕捉 過飽和度小 ⇒核発生速度小 ⇒大径の結晶 ⇒表面積小 ⇒不純物の吸着少 結晶成長速度も小 ⇒結晶の欠陥少 ⇒不純物の捕捉少 沈殿の粒子径は,溶液の(相対的過飽和度)に逆比例する。 (相対的過飽和度)=(Q−S)/S Q:混合溶液の濃度,S:沈殿の溶解度,Q>S 大きい沈殿をつくるには(相対的過飽和度)を小さくする必要がある。 そのためには,高い温度で(Q−S)が小さい溶液を,小さい(相対的過飽和度)を保ち ながら徐々に冷却する。さらに大きい結晶を得るには沈殿の温浸を行う。 沈殿の温浸:沈殿を母液中に放置すると小さい結晶が溶解し,大きい結晶表面に再沈殿する。 また,個々の小粒子の凝結もおこる。液を加温してこの速度を速めることが多い。 *温度による溶解度の差(数値は無水塩を基準とした値) 20℃‥16.2 g / 100 g溶液,25℃‥17.9 g / 100 g溶液,60℃‥24.0 g / 100 g溶液 注)60℃より高い温度で析出させると,この複塩は分解する。 参考 [分子量] CuSO4・5H2O 249.7 CuSO4 159.6 (NH4)2Cu(SO4)2・6H2O 399.9 実験では CuSO4・5H2O 12.5 g (0.050 mol),H2O (NH4)2SO4 132.2 (NH4)2Cu(SO4)2 291.9 3 25 cm ,(NH4)2SO4 6.6 g (0.050 mol) 問 1)この溶液中には,100gの溶液あたり無水塩として何 g 含まれているか? 注)この溶液の質量に注意 (33.1g) 問 2)相対的過飽和度はいくらか? (0.38at60℃) 問 3)溶解している塩を完全に回収したとすると,理論上は何 g の六水塩が得られるか? 注)溶解度は溶液 100g 当たりの無水塩であることに注意 (20.0g) 実験書中の「収率」:完全に回収したときの理論収量に対する実験で得られた収量の比 (2)ブフナーロート(ヌッチェ)による吸引ろ過 「続実験を安全に行うために」(化学同人)p58 59,「B.吸引ろ過」を参照せよ。 ・ブフナーロートの穴が隠れるようにろ紙を敷く。 ・ろ紙はロートの内径よりわずかに小さいものを用いる。 ・吸引瓶を介して水流ポンプ(アスピレーター)につなぐ。 2 [テトラアンミン銅(Ⅱ)硫酸塩の合成]‥‥(錯塩) CuSO4・5H2O + H2O ̶→ [Cu(H2O)6]2+ + SO42− [Cu(H2O)6]2+ + 4 NH3 ̶→ [Cu(NH3)4]2+ + 6 H2O CuSO4・5H2O + 4 NH3 ̶→ [Cu(NH3)4]SO4・H2O + 4 H2O (1)「水溶液中の銅イオンは水和イオンである」 固体の CuSO4・5H2O 中では銅イオンは平面正方形の[Cu(H2O)4]2+ 錯イオンとして存在し,SO42−イオンと結晶をつくっている。この とき Cu 原子の上下には別々の SO42−の酸素原子が位置している。 それぞれの SO42−は 1 個の H2O 分子と水和していて,この H2O 分 子 は 他 の SO42 − と 水 素 結 合 し て い る 。 水 に 溶 か す と 電 離 し て [Cu(H2O)6]2+イオンをつくる。 一般に 6 配位錯体の形は中心金属イオンの電子配置が対称的で あれば正八面体である。しかし Cu2+イオンの錯体([Cu(H2O)6]2+な ど)は特に歪みが大きく,xy 平面の 4 つの配位子との結合距離は短く結合は強いが,平面に 垂直な z 軸方向の配位子との結合距離は長い。そのため,平面正方形の 4 配位錯体とみなす ことができるほどである。 (参考)6 配位八面体錯体では,最外殻の 5 つの d 軌道はエネルギーの高い 2 つの eg 軌道と低 い 3 つの t2g 軌道に分裂している。Cu2+イオンの最外殻のd電子が 9 個で配置が非対称であ るために上記のように歪んでいる。詳しくは 3 年次の「物質機能化学 B」で習う。 (2)「アンモニア水を加えるとテトラアンミン銅(Ⅱ)イオンとなり,液の色は深青色に変わる」 NH3 分子は H2O 分子よりも Cu2+イオンとの結合力が強いので,配位子の H2O が NH3 と入 れ替わる。しかし,z 軸の 2 つの配位子は遠くて弱い結合なので,NH3 分子と H2O 分子の結 合力の差が有効にはたらかず,圧倒的に多数の水分子の存在のために配位子は H2O 分子のま まである。そのため,この 2 個の H2O を省略して 4 配位正方形の錯体[Cu(NH3)4]2+と記述 することが多い。 Cu2+イオンの最外殻の d 電子は 9 個なので,d 軌道のうちエネルギーの高い eg 軌道には 1 個分の空きがある。エネルギーが低い t2g 軌道の d 電子が,このエネルギー差に相当するエネ ルギーの光を吸収すると eg 軌道へ遷移する。軌道間のエネルギー差が大きいほど,高いエネ ルギーの光(短波長の光)を吸収する。 (参考) E=hν , ν =c/λ ( ν 振動数, λ 波長) 配位子が中心金属イオンの d 軌道準位を分裂させる能力の順を分光化学系列という。 I−<Br−<Cl−<F−<OH−<C2O42− H2O<-NCS<py NH3<NO2−<CN− 配位子が H2O から NH3 に変わると,近赤外部にあった吸収は可視部の赤色部分に移動し,溶液 は紫がかった深青色に変わる。(ピーク波長は 800nm→ 570nm) (参考) 溶液による光の吸収と溶液の色 可視領域の光を混合すると白色光となる。二つの色の光を混合すると白色光となる場合, 一方の色をもう一方の色の補色という。溶液に白色光が透過するとき,溶液がある色の光 を吸収すると,透過してくる光は吸収光の補色の光である。(吸収に幅があるため,実際 には濃青色に見える) 3 波長/nm 380 435 435 480 480 490 490 500 500 560 色 紫 青 緑青 青緑 緑 補色 黄緑 黄 橙 赤 赤紫 波長/nm 560 580 580 595 595 650 650 780 色 黄緑 黄 橙 赤 補色 紫 青 緑青 青緑 (3)「アンモニア水を少しずつゆっくり,沈殿が完全に溶けるまで加える」 溶液が強い酸性でなければ,次のように配位子が交換していく。H2O → OH− → NH3 目で見てどのように変化するだろうか? (ヒント:Cu(OH)2 は青白色で水に不溶) (4)「壁を伝わらせながらエタノールを少しずつ加える」 [Cu(NH3)4]SO4 はエタノールには不溶なので,溶液に少しずつ静かにエタノールを加えて溶 解度を下げていく。これは,複塩の実験の(1)で温度を徐々に下げるのと同じく,過飽和度を 小さく保つためである。30 分放置するのも沈殿の温浸と同様の効果である。エタノールの添 加量が多すぎると他の塩も沈殿するので,上澄み液における沈殿の生成をよく観察しながら 滴下し,加えすぎないようにする。 (5)ブフナーロート(ヌッチェ)による吸引ろ過 複塩の実験の記述(p2)を参照せよ。ただし,ここではアンモニアを使うので,必ずドラ フト(フード)中で操作すること。 (6)ロート上の結晶の洗浄 最初の 3 回:濃アンモニア水+エタノール (エタノール:錯イオンの溶解防止,濃アンモニア水:アンミン錯体の分解防止) 次の 3 回 :エタノール(水分の除去) 乾燥後収量をはかり,6.3 g(0.025 mol)の CuSO4・5H2O から理論的に得られる量に対する実 際の収量の比,つまり収率を求めよ。 4 【2】 実験 B 水溶液の pH とガラス電極電位との関係 [目的]ガラス電極を用いた pH 測定の原理と,緩衝液による pH 緩衝作用の原理を実験をとおし て理解する。 [関連事項の解説] * 水溶液の酸性・塩基性 ・酸と塩基 Arrhenius の酸塩基 Brφnsted の酸塩基 Lewis の酸塩基 酸(acid) 水溶液中で H+ を生じる物質 H+ (proton)供与体 電子対受容体 塩基(base) 水溶液中で OH−を生じる物質 H+ (proton)受容体 電子対供与体 水溶液の pH を取り扱うには Brφnsted の定義が便利である。 ・Brφnsted の酸塩基 (acid) ⇄ H+ + (base) + (共役酸と共役塩基) + H は単独では存在しない。H を受け取ったり供給したりする相手が必要(単純な水溶液では水 が相手)。相手に対して酸として働くときは→,塩基として働くときは← 酸と塩基の反応‥‥HA + B− ⇄ HB + A− , HA + B ⇄ HB+ + A− 酸を水に溶かす‥‥HA + H2O ⇄ H3O+ + A− 塩基を水に溶かす‥B− + H2O ⇄ HB + OH− , B + H2O ⇄ HB+ + OH− 水の解離平衡 ‥‥H2O + H2O ⇄ H3O+ + OH− 問)HA は CH3COOH,B−は OH−または PO43−,B は NH3 として上式を書け。 強酸・強塩基の場合は水に溶解すると平衡 ⇄ は実質的に → となる。 強酸 B が NaOH,KOH etc.の場合は NaOH → Na+ + OH− ・純水中では H3O+と OH−の濃度(活量)は等しい。 水のイオン積 KW=a(H3O+)・a(OH−) = [H3O+]・[OH−] = [H+]・[OH−](略記) 温度/℃ KW 1014/mol2dm−6 010254050 0.1130.2921.0082.9175.747 25℃の純水中では,[H3O+]=[OH−]=1.00 10−7 mol dm−3 ・ 酸,塩基や塩の水溶液中でも水のイオン積の値は保たれる。 酸の水溶液‥‥純水よりも H3O+の濃度が高く,OH−の濃度が低い⇒ 酸性水溶液 塩基の水溶液‥純水よりも H3O+の濃度が低く,OH−の濃度が高い⇒ 塩基性水溶液 ・水溶液の酸性・塩基性の尺度 p H 酸性の尺度は H3O+の濃度(活量)‥‥[H3O+] しかし,[H3O+]の濃度範囲は広いので対数表示が便利‥‥p H pH=−log([H3O+]/moldm−3)=−log[H+]⇦略記 塩基性の尺度として p O H も定義できる‥‥pOH=−log[OH−] 水のイオン積の式を使うと,pH と pOH は次のように容易に変換できる。 pKW=pH+pOH, 25℃では pH+pOH=14.00 [ガラス電極による pH 測定の解説] pH 計は,特殊なガラスの薄膜をはさんでその両側に接触している二つの溶液の[H+]の差を感 知し,それを電位差として取り出す装置である。その原理を簡単に解説する。 * 電池の起電力と膜電位 5 電池は,二つの電極系(電極系:溶液相に電極相を浸した系,単に電極という)から構成さ れる。二つの溶液相が別々の場合は,溶液相間で電気量が自由に移動できるようにして組み合 わせる。この両電極間に電位の差があれば,それが電池の起電力として測定される。電池を図 で示したとき,左側の電極の電位 EL に対する右側の電極の電位 ER を起電力 ΔE という。起電力 は電圧計で測定できる。( 電位の記号はφであるが E と書くこともある。ここでは実験書にしたがっ て E を用いた。 ) ΔE=ER−EL ‥‥(1 ) pH 計には同じ種類の二つの電極(この場合は銀-塩化銀電極Ag│AgCl│Cl−aq)から構成され る電池を使う。 一般に,ある電極内で(2 )式の電気化学的平衡が成立しているとき,電極電位は(3 )式(Nernst 式)で表される。( E0:標準電極電位,R:気体定数,F:ファラデー定数,aA:A の活量) ( 電 気化学的な反応式は,右向きが還元方向になるように表す。) aA+bB+‥+ne−⇄cC+dD‥ ‥‥(2 ) E = E0 " RT acC # aDd # ## ln nF aaA # aBb # ## ‥‥(3 ) この pH 計の銀-塩化銀電極内では次式の電気化学的平衡が成立している。 AgCl+e−⇄Ag+Cl− したがって,この電極の電位は次式で表される。(AgCl と Ag の活量はいずれも 1,n=1) E = E0 ! RT ln aCl - F ‥‥(4 ) (4)式から,この電極の電位は[Cl−]が一定ならば一定値を示し,液の pH には依存しないこと がわかる。 一方の銀-塩化銀電極は外部との境界がガラス薄膜でできているので,これと通常の銀-塩化 銀電極を使って次のような電池を組む。(|は相の界面,:はガラス薄膜,̀は液絡を表す) Ag|AgCl|Cl−aq( a 一定):pH 未知溶液̀Cl−aq( a 一定)|AgCl|Ag 電池の̀を挟んだ左側と右側の電極系の電位を比較すると,左側の電極系には銀-塩化銀電極 の電位 EAgCl/Ag にさらにガラス薄膜の両側に生じた膜電位 EM が加わって,その分だけ右側電極 の電位 EAgCl/Ag との差が生じている。したがって,この電池の起電力 ΔE を測定すれば,膜電 位 EM が求まる。(液絡の両側の電位差は小さく,pH 標準液による校正でキャンセルされる。) ΔE=−EM ‥‥(5 ) * ガラス薄膜に生じる膜電位と測定液の pH このガラス薄膜は陰イオンは透過しないが,膜中のNa+イオンや Li+イオンは移動できる。 膜の両面の水和層は水素イオンをよく吸着し,両側の溶液間に H+イオンの濃度差があれば,膜 の両面間に次のように膜電位を生じる。(この式では活量を[]に書き換えた) EM = " RT + ln H nF { [ ] X " ln [H + ] S} ‥‥(6 ) ここで[H+]S,[H+]X はそれぞれ電極の内液 s と pH 未知溶液 x の水素イオン濃度である。ln を log に変換し(2.303 を乗じる),さらに n=1 であるから(7 )式が得られる。 6 2.303RT {pH( X) " pH (S)} F EM = = (1.984 " 10#4 T ) {pH(X) # pH(S)} ‥‥(7 ) 25℃では, EM V = 0.0592 { pH( X) " pH(S)} ‥‥(8 ) ! 一定温度で,同じ測定装置の電極を使えば,pH(S)は一定であるから k≡1.984 10−4 !T・pH(S) と置けば,(7 )式は EM=(1.984 10−4T)pH(X)−kとなり, (5 )式の関係を使って,電池の起電力 ΔE は次式で表される。( これは実験書の(2 )式である。) ΔE=−EM=k−(1.984 10−4T)pH(X) =k+s・pH(X) ‥‥(9 ) k は個々の電極に固有の値をもつ。また,ΔE を pH(x)に対してプロットすると直線の勾配 s は (−1.984 10−4T)になるはずであるが,ガラス薄膜が理想的にできていないので,これも電 極によって少しずつ異なる値となる。実際の pH 計では,二種の pH 標準溶液を使ってメーター の指示する値を電気回路的に校正し,校正された pH 領域で測定する(pH 標準溶液の pH は次表 を参照)。 ( 注 ) (3 )式以下の式に用いられている定数の値 R=8.314JK−1mol−1(気体定数),F=9.648 104Cmol−1(Faraday定数) T(熱力学的温度)とt(Celsius温度)の関係 t=T−T0, T0=273.15K, ∴t=T−273.15 pH 標準溶液と 25℃におけるpH の値(25℃) (A) 酒石酸水素カリウム(25℃における飽和溶液) pH:3.557 (B) フタル酸水素カリウム( m=0.05molkg−1) pH:4.008 (C) KH2PO4 Na2HPO4 ( m=0.025molkg−1) −1 ( m=0.025molkg ) pH:6.865 −1 (D) KH2PO4 ( m=0.00870molkg ) Na2HPO4 ( m=0.03043molkg−1) −1 (E) Na2B4O7 ( m=0.01molkg ) pH:7.413 pH:9.180 m:質量モル濃度(溶媒 1kg当たりの溶質の物質量) [実験操作] (1)「試料溶液の調整」 調整する 10 種の試料溶液は全て pH の値が異なる pH 緩衝溶液である。緩衝溶液の pH(理論 値)の求め方については下の[緩衝液とその p H ]で解説する。(報告事項①) (2)「装置の校正」 二つの pH 標準溶液(pH4.01 と 6.86)を使って目盛りの指示を校正する。実験書の手順にし たがって丁寧に行う。 (3)「起電力と pH の測定」 実験書の手順にしたがって,各試料溶液の起電力(電位差)と pH を測定する。 * 測定操作を行う際には,実験書の《注意》の項を厳守すること。 7 (報告事項②) [緩衝液とその pH] 緩衝液:少量の酸や塩基を加えたり,水で希釈したときに,溶液自身が pH の変化を抑える はたらき(緩衝作用)をもった溶液。緩衝液には弱酸とその塩との混合水溶液、また は弱塩基とその塩との混合水溶液が使われる。(用いる塩は,弱酸の場合は弱酸と強 塩基との塩,弱塩基の場合は弱塩基と強酸との塩) 塩 :酸と塩基の反応によって生成するイオン性化合物を塩という。強酸と強塩基の塩を 純水に溶解すると完全に解離するが,pH は変化しない(例 NaCl→Na++Cl−)。 しかし,弱酸と強塩基の塩や強酸と弱塩基の塩は,水溶液中で完全に解離はするが, 水溶液は中性ではない。弱酸と強塩基の塩の水溶液は弱い塩基性を示し,強酸と弱塩 基の塩の水溶液は弱い酸性を示す。 (解 説) まず,酢酸と酢酸ナトリウムの混合水溶液を例にして,弱酸とその塩の混合水溶液の緩衝 作用のしくみを考えてみる。 CH3COONa は,上述のように完全に解離して酢酸の共役塩基 CH3COO−となる。この多量の CH3COO − の生成によって酢酸の解離平衡 CH3COOH+H2O⇄CH3COO−+H3O+ ‥‥(1 0 ) は左に移動し,酢酸の解離は抑えられる。したがって,溶解した酢酸の濃度を CA,溶解した 塩の濃度を CS とすれば,近似的に [CH3COOH]≒CA [CH3COO−]≒CS と見なすことができる。 Ka を酢酸の酸解離定数とすれば,この溶液のオキソニウムイオン濃 度と pH はそれぞれ(12)式,(13)式のようになる。 [ Ka + ] H 3O = K a ! [ CH COO ] [ H O ] = = " 3 3 [ CH3 COOH] + [ H O ] # CC + 3 S ‥‥(1 1 ) A CA C ‥‥(1 2 ), pH = pK a + log S ‥‥(1 3 ) CS CA 同じ溶液中では濃度の比は物質量 n(単位は mol)の比であるから,これらの式は最初に溶 かした物質量の比を使って(1 4 )式,(1 5 )式のように書ける。 (物質量/mol)=(濃度/moldm-3) [H O ] = K 3 + a " nA nS pH = pK a + log (体積/dm3) ‥‥‥‥(1 4 ) nS n = pK a " log A nA nS ‥‥(1 5 ) (1 4 )式,(1 5 )式は弱酸とその塩の緩衝液に一般的に適用できる。(1 5 )式を Henderson 式という。 このような弱酸とその塩の混合水溶液は,弱酸の水溶液に強塩基水溶液を添加しても調製 できる(中和滴定における中和曲線の pH 変化がなだらかな領域に相当する)。この場合,加 えた強塩基の量が塩の量に相当する(酸の量はそれだけ減少する)。また,塩の水溶液に強 酸を加えても調整できる(塩の量はそれだけ減少する)。 この溶液に少量の強酸を加えると(1 0 )式の平衡が左に移動するので,[H3O+]の増加は平 8 ! 衡が移動した分だけ抑えられる。強酸や強塩基の添加によって([CH3COO−]/[CH3COOH]) の比が 1.1 0.9 の間で変化しても,(1 3 )式,(1 5 )式の右辺第 2 項の値の変化は 0.05 以下である。(計算してみよ) 緩衝容量(緩衝能):緩衝容量が大きい緩衝液は,おおきな pH 変化を起こすことな く多量の酸や塩基を加えることができる。緩衝容量は,( 1 ) HA と A−の濃度が高い ほど大きく,( 2 ) その比によっても支配され,比が1のとき最大である(このと き pH=pKa)。緩衝容量があるのはほぼpKa 1の pH 範囲である。 従って,ある pH の緩衝液をつくるには,その pH に近い pKa をもった弱酸(または 弱塩基)とその塩を選ぶと,緩衝容量が大きい緩衝液をつくることができる。 (問)実験で用いる NaH2PO4/Na2HPO4 緩衝液の場合はどちらが酸で,どちらが塩基か? 緩衝液が弱塩基とその塩の混合水溶液の場合も,緩衝作用を同様に考えることができる。 例えば,アンモニアと塩化アンモニウムの混合水溶液の場合,NH4Cl は完全に解離する。酢 酸の解離平衡(10)式に相当するアンモニアの平衡は, NH4++H2O⇄NH3+H3O+, NH4++OH−⇄NH3+H2O‥‥(1 6 ) である(水の解離平衡が成立するので,どちらの式も同じことである)。多量の NH4+の生 成によって(1 6 )式の平衡は右へ移動する。溶解した NH3 の濃度を CB,溶解した NH4Cl の 濃度を CSとすれば,近似的に [NH3]≒CB,[NH4+]≒CS と見なすこと ができる。 (1 6 )式から NH3 の共役酸は NH4+であることが分かる。ここで,共役関係にある酸 HA の酸 解離定数 Ka と塩基 A-の塩基解離定数 Kb の関係を見てみよう。 [A ][H O ] - 3 + HA+H2O⇄A−+H3O+ Ka = A−+H2O⇄HA+OH− Kb = Ka・ Kb=[H3O+][OH−]=KW , pKa+pKb=pKW [HA ] [ HA] [ OH" ] [ A- ] 塩基の Kb や pKb が既知ならば,その共役酸の Ka や pKa は上の式で容易に求まる。 (アンモニアと塩化アンモニウムの混合水溶液の場合は,HA=NH4+,A−=NH3 である。) したがって,その塩基の共役酸の Ka や pKa を使えば,(1 4 )式,(1 5 )式に相当する式は (1 7 )式と(1 8 )式となる。ここで,n B は溶液中に溶かした塩基の物質量,n S は溶かし た塩の物質量である。 (アンモニアと塩化アンモニウムの混合水溶液の場合は,n B=nNH3, n S=nNH4Cl である。) [ H O ] = KK 3 + W b pH = pK a + log " nS n = Ka " S nB nB ‥‥(1 7 ) nB n n = pK a " log S = (pK W " pK b ) " log S ‥‥(1 8 ) nS nB nB (1 6 )式の共役関係を考えれば,n S は弱酸とその塩の水溶液における酸の物質量であり, n B!は共役塩基の物質量であるから,共役酸の Ka や pKa をつかった(1 7 )式と(1 8 )式は, 実は弱酸とその塩の水溶液における(1 4 )式と(1 5 )式と同じことになる。 (酸の Ka と pKa の値は実験書の付表 1 にある。また,NH3 の pKb は 4.76 である。) 9 弱塩基とその塩の緩衝液は,弱塩基の水溶液に強酸を添加しても調製できる。この場合, 加えた強酸の量が塩の濃度に相当する(塩基の量はそれだけ減少する)。また,塩の水溶 液に強塩基を加えても調整できる(塩の量はそれだけ減少する)。 この緩衝液に少量の強酸や強塩基を加えても,(1 6 )式の平行の移動によって pH の変 化は抑えられる。( (1 8 )式で確かめてみよ ) 緩衝液の計算問題 問1)0.100moldm−3 酢酸ナトリウム水溶液 20.0cm3 に,0.100moldm−3 酢酸 10.0cm3 を加えて 調整した緩衝液の pH を計算せよ。(酢酸の pKa=4.56) (Ans.4.86) 問 2)0.200moldm−3 の酢酸 30.0cm3 に 0.100moldm−3 の水酸化ナトリウム 25.0cm3 を加えてで きる水溶液の pH を計算せよ。 −3 (Ans.4.41) −3 問 3)0.200moldm の酢酸と 0.200moldm の酢酸ナトリウムからなる緩衝液がある。この緩衝 液 10.0cm3 に,0.100moldm −3 の塩酸 1.0cm3 を加えたときの pH 変化 Δ pH を求めよ。 (Ans.–0.043) −3 3 −3 問 4)0.100moldm の NH3 水溶液 5.00cm と 0.0200moldm 塩酸 10.00cm3 を混合して調整し た溶液の pH を計算せよ。(NH3 の pKb=4.76) (Ans.9.42) 問 5)0.100moldm−3 の酢酸ナトリウム水溶液 20.0cm3 に,0.100moldm−3 塩酸 5.00cm3 を加え て調整した緩衝液の pH を計算せよ。 (Ans.5.04) −3 3 −3 問 6)0.100moldm の塩化アンモニウム水溶液 20.0cm に,0.100moldm 水酸化ナトリウム水 溶液 10.0cm3 を加えて調整した緩衝液の pH を計算せよ。 10 (Ans.9.24) 【3】 実験 C pH 指示薬の酸解離定数の測定 【2】実験 C ではガラス電極 pH 計を使えるようになったし,緩衝液についても勉強した。こ の実験 B では,分光光度計を使って pH 指示薬(indicator)の酸解離定数 Ka(酸解離指数 pKa) を求め,pH と指示薬の変色の関係を定量的に測定する。 [実験の概要] ① リン酸塩緩衝液または酢酸塩緩衝液を使って,pH 指示薬水溶液の pH を,色の変化が観察さ れる領域内の種々の値に調整する。このときの緩衝液は,弱酸水溶液に強塩基を添加するか, 弱塩基水溶液に強酸を添加して調製する(7 9 頁参照)。 ② 分光光度計を使って,これらの溶液の吸収極大波長における吸光度を測定する。 ③ それぞれの溶液の pH を pH 計で測定する。 ④ これらのデーターから,指示薬の酸解離指数 pKa の値および pH と変色率の関係を求める。 [光の吸収と吸光度] 物質(化学種)による可視光線・紫外線の吸収は,その化学種の基底状態にある電子が,光 エネルギー( E=hν )を吸収して励起状態に遷移(電子遷移)することによって生じる。そ の吸収の大きさは波長によって異なるので,波長に対してプロットすると,その化学種に特有 な吸収スペクトル(吸収曲線)が得られる。 強度 I0 の単色光が溶液層を透過して強度 I になったとき,溶液層の吸収の大きさは次の値で 示される。 t =I/ I0(透過度,transmittance), % T =100t(透過率), A =log(I0/ I)=−logt (吸光度,吸光指数,absorbance) 吸光度は溶液層の厚さ lに比例し(Lambert の法則), 溶液の濃度 c に比例する(Beer の法則)。 A =a・l・c a :吸光係数(absorptioncoefficient) A = ε ・l・c ε :モル吸光係数(molarabsorptioncoefficient) ( l =1cm, c =1moldm−3のときの a ) この式を導いてみよう。光は光子(photon)というエネルギーをもつ粒子と考えられ,光子 が化学種に吸収されるためには両者の衝突が必要である。その衝突回数は光子の数と化学種の 数に比例する。いま,断面積 xycm2 の溶液層の厚さ dlcm を透過したときの光子の数の変化 量を dI とする。( 光の強さは,進行方向に垂直な単位面積を通過する光子の数に比例する。 ) dI=−k″NI N=NA (c ( N : xy・dl cm3 中の化学種の数, I: xy 面を通過する光子の数) 10−3) (xydl)=k'cdl ∴dI=−kcdl・I (c:モル濃度) ( k=k ’・ k ’’,減少だから k に負号がついている ) 厚さ l の溶液層全体では( 積分して解の ln を log に変換する ), I "k I dI l となり, A が得られる。 log = c l = "# c l " I 0 I = #k " 0 c dl I 0 2.303 I0 A = log = " c l I ! 溶液の吸光度には溶媒やセルの窓の吸収も加わるので,測定ではこれを差し引く必要がある。 実際の測定は分光光度計のマニュアルを参照すること。 11 [pH 指示薬の酸解離指数と変色率] pH 指示薬は弱酸または弱塩基で,溶液中の共役酸型(非解離型)と H+を解離した共役塩基 型(解離型)の色(吸収光の補色)が異なるために,特有の pH 領域を挟んだ両側で溶液の透 過色が異なるものである。弱酸(または弱塩基の共役酸)を HIn,弱酸の共役塩基(または弱 塩基)を In−で表すと,溶液中では次の酸解離平衡(電離平衡)が成立している。 HIn+H2O⇄H3O++In− この HIn の酸解離定数 Ka は次式で表される。([H3O+]を[H+]と略記する) [H ] [In ] + Ka = - [HIn] ‥‥(1 ) 溶液中の[In−]と[HIn]の比は溶液の[H+]によって変化する。(1 )式を書き換えると(2 )式が得 ! られる。指示薬濃度に対して充分な濃度の緩衝液を用いれば,溶液の pH は緩衝液の pH とみて よい。 pK a = pH - log [ In-] [ HIn] ‥‥(2 ) (2 )式の右辺第2項がゼロ,つまり([In−]/[HIn])=1のときpH=pKa となる。 指示薬のどちらかの型の吸収のみがある波長で吸光度 A を測定 ! すれば,最大吸光度 Amax の 1/2 になる pH( そこでは[In−]/[HIn] =1である)から pKaが求まる(実験書・図1)。 (Amax - A) A Amax/2 また,右図のように In−の吸収波長で測定している場合を例 Amax (A) − にとれば,[In ]/[HIn]= A /(Amax− A )であるから,log{A pH /(Amax−A)}は(2 )式の右辺第2項に等しい。したがって,pH log{A/(Amax−A)}のプロット(実験書・図2)で得られる 直線から正確な pKaの値を求めることができる。(右下図) 0 (問)上の平衡が次式で表される場合,(2 )式はどのよう な式になるか自分で導いて見よ。( 右図はどうなるか? ) HnIn+nH2O⇄nH3O++Inn− pKa pH 得られた pKa の値を使って(2 )式から各 pH における([In−]/[HIn])の値を求めれば,こ れから各 pH における変色率(指示薬全体の濃度[In−]+[HIn]に対する[In−]または[HIn]の比) が計算できる。これらの変色率の計算値を使って実験書・図3のような pH 描ける。一方の化学種が 10% 90%となる pH 領域が変色域である。 12 変色率のグラフを 緩衝液の pH の計算方法については前章に記した。ここで pH に関する章を終 わるに当たって,あらためて酸,塩基,塩の水溶液の pH を理論的に計算す る方法について学ぶことにしよう。 (実際には,時間の都合で【4】を終了した後に回しても良い) [ 酸 ・ 塩 基 水 溶 液 の p H ] (以下,H3O+を H+と略記することが多いので注意) * 強酸 HA の水溶液 強酸は水溶液中では完全に解離している(HA→H++A−)。溶液中の正負の電荷は等しいは ずであるから,濃度 CA の強酸水溶液中では次式が成り立つ。 [H+]=[A−]+[OH−]=CA+[OH−] + − + ‥‥(1 ) − [H ]と[OH ]の間には水のイオン積 [H ]・[OH ]=KW の関係があるから,これを考慮す ると次式が得られる。 [H+]2−CA[H+]−KW=0 ‥‥(2 ) この 2 次方程式を解くと,[H+]は次式で与えられる。 [ H ] = 12 "#$C + A % + C A2 + 4K W & ' ‥‥(3 ) ① 一般的には(3 )式を使って[H+]から pH を求めればよい。 ② ! 酸の濃度が高くて C A > > 2 √ K W の条件が充たされれば,[H+]と pH は次の近似式が 使える。( >>の条件は 20 倍程度以上の差と考えてよい ) [H+]=CA, pH=−logCA ‥‥(4 ) ③ 酸の濃度が非常に低くて C A < < 2 √ K W の条件が充たされる場合には,[H+]は(5 ) 式で近似される。( <<の条件は 20 倍程度以上の差と考えてよい ) [H ] = C2 + A + KW ‥‥‥‥(5 ) 問)次の塩酸の pH を計算せよ。 (1)! 2.00 10−3 mol dm−3 (2) 1.00 10−7 mol dm−3 (3) 1.20 10−9 mol dm−3 * 強塩基 BOH の水溶液 強塩基も水溶液中で完全に解離している(BOH→B++OH−)。溶液中の正負の電荷は釣り合 っているから,濃度 CB の強塩基水溶液中では次式が成立する。 [OH−]=[B+]+[H+]=CB+[H+] ‥‥(6 ) 強酸の場合と同様に,水のイオン積の条件を入れると(7 )式が得られる。 [OH−]2−CB[OH−]−KW=0 ‥‥(7 ) これを解けば,[OH−]は次式で表される。 [OH ] = 12 #$%C " B & + C B2 + 4K W ' ( ‥‥‥‥(8 ) ① (8 )式を使って得た[OH−]から pOH を求めれば,pH=pKW−pOHの関係から pH は容易 に求められる。 ! ② 塩基の濃度が高くて C B > > 2 √ K W の条件が充たされれば(8 )式は(9 )式で近似さ れ,pH=pKW−pOHの関係から pH が求められる。 13 [OH−]=CB, pOH=−logCB ‥‥(9 ) ③ 塩基の濃度が非常に低くて C B < < 2 √ K W の条件が充たされる場合には(1 0 )式で近 似できるので,これから pOH を求め pH=pKW−pOHの関係から pH が得られる。 [OH " ] = C2B + K W ‥‥‥‥(1 0 ) 問)次の水酸化ナトリウム水溶液の pH を計算せよ。 (1) 5.00 10−2 mol dm−3 (2) 3.00 10−7 mol dm−3 (3) 2.00 10−9 mol dm−3 * 弱酸の水溶液 弱酸や弱塩基は水溶液中で完全には解離していない。解離の程度は,酸や塩基の酸解離定 数 Ka または塩基解離定数 Kb の値によって決まる。ここでは,一塩基の弱酸 HA( 例えば CH3COOH) の水溶液の pH を計算する方法を考える。 HA+H2O⇄H3O++A− 弱酸 HA を濃度 CA で溶解した水溶液では,物質収支と電荷のバランスから次の式が成り立 [HA]+[A−]=CA つ。 ‥‥(1 1 ) [H ]=[A ]+[OH ] ‥‥(1 2 ) + − − また,水溶液中で成立している平衡関係は,酸解離平衡と水のイオン積である。 [ H + ] [ A" ] Ka = KW=[H+][OH−] [HA] ‥‥(1 3 ) ‥‥(1 4 ) − + (1 2 )式と(1 1 )式から,[A ]=[H ]−[OH−], [HA]= CA−([H+]−[OH−]) とな るから,これらを(1 3 )式に代入すると次式が得られる。 Ka = [ H + ] ( [ H + ] " [OH " ] ) C A " ( [H + ] " [OH " ] ) ‥‥(1 5 ) これを KW=[H+][OH−]を使って書き換えると,[H+]について三次の式が得られる。三次 式を解くのは簡単ではないので,条件によって近似式を用いる。 ① K a C A > > K W の条件を充たす溶液ならば,[H+]>>[OH−]が成立するので,(1 5 )式中 の[OH−]は無視できる。 2 [ H+ ] Ka = + CA "[H ] , [H+]2+Ka[H+]−KaCA=0 ‥‥(1 6 ) [H+]はこの二次方程式を解いて得られ((1 7 )式),得られた[H+]から pH が求められる。 [ H ] = 12 { + } K a2 + 4K aC A " K a ‥‥(1 7 ) ② √ C A > > √ K a の条件( Ka が非常に小)を充たす場合には(1 1 )式は CA≒[HA]となり, (12)式から CA >>[A−]=[H+]−[OH−] が成立する。したがって,式(15)は Ka = [ H ] ([ H ] " [OH ] ) = + " # [H ] % [ H ] " + + CA + $ KW & + ( H ' [ ] CA , KaCA=[H+]2−KW となり,[H+]は(1 8 )式によって得られる。 [ H+ ] = K a C A + KW ‥‥‥‥(1 8 ) 14 ③ K a C A > > K W と√ C A > > √ K a の両方の条件が成立する場合には,(1 8 )式は(1 9 )式で 近似されるので,pH は(2 0 )式によって簡単に求められる。 [ H+ ] = pH = KaCA ‥‥(1 9 ) 1 (pK a " logC A ) 2 ‥‥(2 0 ) 問 1)0.100moldm−3の酢酸水溶液の pH を求めよ。(酢酸の pKa=4.56) 問 2)トリクロロ酢酸( Ka=2.00 10−1moldm−3)の 0.100moldm−3 水溶液の pH を求め よ。 * 弱塩基の水溶液 弱塩基の水溶液の pH も弱酸の場合と全く同じようにして求めることができる。ここでは, 一酸弱塩基 B(例えば NH3)の濃度 CB の水溶液を考える。B+H2O⇄BH++OH− 弱塩基 B の水溶液中では,次の物質収支と電荷のバランスが成立している。 [B]+[BH+]=CB ‥‥(2 1 ) [H ]+[BH ]=[OH ] ‥‥(2 2 ) + + − また,水溶液中で成立している平衡関係は,塩基解離平衡と水のイオン積である。 [ BH + ] [OH " ] Kb = KW=[H+][OH−] ‥‥‥‥(2 3 ) [ B] + ‥‥‥‥(1 4 ) − + (2 2 )と(2 1 )式から [BH ]=[OH ]−[H ], [B]=CB−([OH−]−[H+]) となるから, (2 3 )式は次式となる。 Kb = [OH " ] ( [OH" ] " [H + ] ) C B " ( [ OH" ] " [ H + ] ) ‥‥(2 4 ) (弱酸の(15)式に相当) これをKW=[H+][OH−]を使って書き換えると,[OH−]について三次の式が得られるが,三 次式を解くのは簡単ではない。弱酸の場合と同様に,条件によっては近似式が使える。 ① K b C B > > K W の条件を満たす溶液中では[OH−]>>[H+]が成立するので,(2 4 )式中 の[H+]は無視できる。 2 [OH " ] Kb = " C B " [OH ] , [OH−]2+Kb[OH−]−KbCB=0 ‥‥(2 5 ) [OH−]はこれを解いて得られる((2 6 )式)。その値から pOH を求め,pH=pKW−pOHの 関係から pH は容易に求められる。 [OH ] = 12 { } K b2 + 4 K bC B " K b " ‥‥(2 6 ) ② √ C B > > √ K b ( Kb が非常に小さい場合)の場合には(2 1 )式は CB≒[B] となり, (2 2 )式から CB>>[BH+]=[OH−]−[H+]が成立する。したがって,(2 4 )式は " [OH ] ( [OH ] " [H ] ) = " Kb = " CB + # [OH ] % [OH ] " KW " $ [OH ] CB " & ( ' , KbCB=[OH−]2−KW と近似され,変形した次式から[OH−]が得られる。これから,pOH を求め pH に変換する。 15 [OH " ] = K bC B + K W ‥‥(2 7 ) ③ √ C B > > √ K b と K b C B > > K W の両方の条件が成立する場合には(多くの弱塩基水溶液 では成立する)(2 7 )式は次式で近似される。(2 9 )式で得られた pOH から pH=pKW−pOH の 関係を使って pH は容易に求められる。 [OH " ] = pOH = K bC B ‥‥(2 8 ) 1 (pK b " logC B) 2 ‥‥(2 9 ) 問)0.100moldm−3のアンモニア水溶液の pH を求めよ。(NH3 の pKb=4.76) [塩の水溶液の pH] 酸と塩基の反応によって生じるイオン性化合物を塩(salt)という。強酸と強塩基の塩を 純水に溶解すると,塩は完全に解離するが pH は変化しない(例NaCl→Na++Cl−)。し かし,弱酸と強塩基の塩や強酸と弱塩基の塩は純水に溶解すると,完全に解離はするが水溶 液は中性ではない。前者は弱い塩基性を示し,後者は弱い酸性を示す。 * 弱酸と強塩基の塩の水溶液 弱酸 HA と強塩基 BOH との塩 AB(例えば CH3COONa)を水に溶解すると,塩は完全に A−と B+ に解離する。水の解離平衡による H3O + が存在するので,解離で生成した A − によって平衡 A − + H3O + ⇄ HA + H2O は 右 へ 進 め ら れ , H3O + が 消 費 さ れ る の で 水 の 解 離 平 衡 2H2O⇄H3O++OH− が右へ進むことになる。 したがって,溶液全体としての平衡関係は次式のように表される。( 塩が水と反応して元の 酸と塩基に変化するので,塩の加水分解という。 ) A−+H2O⇄HA+OH−‥‥(3 0 ) A−は弱酸 HA の共役塩基なので,実はこの平衡は弱塩基の水溶液中の平衡と同じである(15 頁,B+H2O⇄BH++OH−)。HA の共役塩基 A−の塩基解離定数 Kb(A−)は(3 1 )式で表される (これは弱塩基溶液の(2 3 )式と同形である)。ここで Ka(HA)は弱酸 HA の酸解離定数である。 K b(A " ) = [HA] [OH " ] [ A" ] = KW K a (HA) ‥‥(3 1 ) したがって,「 弱酸と強塩基の塩の水溶液」の pH の計算は次のような置き換えを行えば, 「 弱塩基の水溶液」 (15 頁 16 頁(2 1 2 9 )式参照)と同じ方法で計算できる。 ① C B ⇒ C S ( CS は溶解した塩の濃度で,これが弱塩基の溶解濃度となる) ② B ⇒ A − , B H + ⇒ H A (B と A−はそれぞれ BH+と HA の共役塩基) ③ K b ⇒ K b (A−) (Kb(A−)=KW/ Ka(HA)) このような置き換えを行えば,溶液の条件によって(2 6 ),(2 7 ),(2 9 )式のいずれかを 使って求められる。 Kb(A−)の値は 10−10moldm−3程度の大きさなので,よほど希薄でない限り 二つの条件の両方を充たし,(2 9 )式と同形の式(置き換えをした式)が使える。 問)0.100moldm−3酢酸カリウム水溶液の pH を求めよ。(酢酸の pKa=4.56) 16 * 弱塩基と強酸の塩の水溶液 弱塩基 B と強酸 HA との塩 BHA(例えば NH4Cl)を水に溶かすと,弱塩基の共役酸 BH+と強 酸の共役塩基 A−に完全に解離する。生じた BH+の酸解離平衡が成立するので溶液は酸性を示 す(例BH+=NH4+)。 BH++H2O⇄B+H3O+ ‥‥(3 2 ) この平衡は弱酸の水溶液中の平衡と同じである(13 頁,HA+H2O⇄H3O++A−)。B の共 役酸 BH+の酸解離定数 Ka(BH+)は次式で表される(これは弱酸溶液の(1 3 )式と同形である)。 ここで Kb(B)は弱塩基 B の塩基解離定数を表す。 K a(BH + ) = [ +] [ ] [ B] H KW = + K b( B) BH ‥‥‥‥(3 3 ) したがって,「 弱塩基と強酸の塩の水溶液」 の pH の計算は,次のような置き換えを行えば 「弱酸の水溶液」 (14 頁 15 頁(1 1 2 0 )式参照)と同じ方法で計算できる。 ① C A ⇒ C S ( CS は溶解した塩の濃度で,これが弱酸の溶解濃度となる) ② H A ⇒ B H + , A − ⇒ B (HA と BH+はそれぞれ A−と B の共役酸) ③ K a ⇒ K a (BH+ ) (Ka(BH+)=KW/ Kb(B)) このような置き換えを行えば,溶液の条件によって(1 7 ),(1 8 ),(2 0 )式のいずれかを 使って求められる。 Ka(BH+)の値は 10−10moldm−3程度の大きさなので,よほど希薄でない限り 二つの条件の両方を充たし,(2 0 )式と同形の式(置き換えをした式)が使える。 問)0.0500moldm−3塩化アンモニウム水溶液の pH を求めよ。(NH3 の pKb=4.76) * 弱酸と弱塩基の塩の水溶液 弱酸 HA と弱塩基 B との塩(例CH3COONH4)は水に溶かすと BH+と A−に完全に解離するが, 生じた BH+と A−のそれぞれについて酸・塩基の平衡が成立する。そのために計算はやや複雑 になるのでここでは詳述しないが,塩濃度 CS が比較的高い場合の近似式を挙げておく。 [H ] = + K a( HA) K a( BH+ ) = K a( HA) K W K b ( B) ‥‥‥‥(3 4 ) 1" % 1 pH = $pK a( HA) + pK a( BH+) ' = pK a( HA) ( pK b( B) + pK W ‥‥(3 5 ) & 2 2# [ ] ! 式からわかるように,このような塩の水溶液の pH は塩濃度に無関係である。 ! 問)0.0200moldm−3酢酸アンモニウム水溶液の pH を求めよ。(酢酸の pKa=4.56,NH3 の pKb=4.76) 17 【4】 実験 D 酸化還元滴定 [酸化剤と還元剤の反応] * 酸化剤と還元剤 実験 B で電極電位のことを学んだ。電極内で,ある化学種の酸化型 Ox と還元型 Red の間に Ox+ne−⇄Red の平衡が成立しているとき,この電極の電位は次の Nernst 式で表される。 (5 頁(2)式(3)式参照) E = E0 " RT a Red ln nF a Ox ‥‥(1 ) R=8.314JK−1mol−1, F=9.648 104Cmol−1 一般の水溶液系でも,ある化学種の酸化型と還元型の対(redox 対)が平衡に存在していれば, その redox 対について Nernst 式で表される電極電位が考えられる。 E 0 は Ox も Red も a=1 であるときの電極電位で標準電極電位とよばれ,その酸化還元対(redox 対)に特有の値をも つ。また,活量が 1 でなくても aOx=aRedのときには電極電位 E=E0となる。 いま,電位が高い redox 対((2 )式)の水溶液と低い redox 対((3 )式)の水溶液を混合する と,どのような変化が起こるだろうか。 ((2),(3)は電極反応であるが,半反応ともいう。) Oxh+ne−⇄Redh Oxl+ne−⇄Redl ‥‥(2 ) ‥‥(3 ) 電子は負電荷(−e)をもっているので,高い電位の場に存在する方が,低電場に存在するとき よりも電気的なエネルギーは低い。したがって,電位が高い redox 対は低い redox 対から電子 を受け取る能力をもち,電位が低い redox 対は高い redox 対に電子を与える((高電位側 redox 対)←e− ̶(低電位側 redox 対))ので,(2 )式は右へ,(3 )式は左へ進む。 つまり,電位が高い redox 対の酸化型 Oxh(酸化剤)は低い redox 対の還元型 Redl(還元剤) を酸化し,Redl(還元剤)は Oxh(酸化剤)を還元する。 Oxh+Redl→Redh+Oxl‥‥(4 ) その結果,(1 )式右辺第 2 項の aRed,aOxが変化して,電位が高い redox Eh t=0 対の電位は下がり,電位が低い redox 対の電位は上がる。双方の物質量 が充分あれば,双方の電位が等しくなるまで酸化還元反応が進むことに El t=0 平衡 なる。 * 酸化還元滴定 酸化還元反応において反応する酸化剤と還元剤の物質量の間に一定の関係があれば,完全に 反応するまでに要した一方の物質量から,他方の物質量を求めることができる。実際には,含 まれる物質量が未知の酸化剤もしくは還元剤の水溶液を,濃度が既知である還元剤もしくは酸 化剤の溶液で反応が完結するまで滴定し,滴定に要した物質量(物質量=濃度 体積)から未 知の物質量を求める。(逆に,濃度既知の溶液を未知の溶液で滴定することもある。) 【4-1】環境水の COD の測定 [関連事項の説明] * C O D (化学的酸素要求量 chemicaloxygendemand) 河川水や廃水中の有機物含量の指標 の一つ。水中の被酸化性有機物を一定の酸化条件で酸化し,酸化に要した酸化剤の量を,酸化 剤として酸素を用いたときの酸素量(O2mg/dm3=O2ppm)に換算して表す。実験書では COD(O2) の記号を用いている。通常,酸化剤として過マンガン酸カリウムを酸性で用いるので,酸素要 求量のかわりに,消費した過マンガン酸カリウムの量を過マンガン酸カリウム要求量 COD(KMnO4)として指標に使うこともある。 * 逆滴定 試料溶液に標準液の一定過剰量を加えて充分反応させた後,残っている標準液を 18 滴定し,問題の成分の量を間接的に求める滴定法。もとの物 質が微量の場合や,逆滴定の方が終点がはっきりする場合に 最初の酸化剤or還元剤 過剰量の還元剤or酸化剤 用いられる方法。C2O42−を MnO4−で滴定した方が終点がはっき りするので,この実験では逆滴定を用いる。 過剰量を酸化剤or還元剤で滴定 * 過マンガン酸カリウム(酸化剤)とシュウ酸ナトリウム(還元剤)の反応 過マンガン酸カリウムは水溶液中で MnO4−イオンに解離している。これが redox 対の Ox 型で ある。強酸性水溶液中における半反応の平衡は次式で表される。(電極反応や半反応の式は Ox を 左辺に,Red を右辺に記す) MnO4−+8H++5e−⇄Mn2++4H2O この半反応の電位は(1 )式により次式で表され,標準電極電位の値は E 0 = + 1 . 5 0 7 V で ある。 Mn 2+ ] [ 0.059V E = E0 " log 5 [MnO -4 ] (中性溶液では MnO4−+2H2O+3e−⇄MnO2+4OH−E0=+0.595V の反応が起こり,生じた MnO2(固体)は MnO4−をさらに分解する触媒の作用をする。) ! シュウ酸ナトリウムは水溶液中で解離して C2O42−になっている(二塩基の弱酸なので,酸性 では HC2O4−との間で解離平衡が成立している。pKa1=1.04,pKa2=3.82)。C2O42−が redox 対の Red 型である。 2CO2+2e−⇄C2O42−E 0 = − 0 . 4 7 5 V したがって,両方の redox 対を混合すれば,MnO4−が C2O42−を酸化する反応が生じる。酸化で移 動する電子数と還元で移動する電子数は等しいので,この反応の反応式は次式である。 2MnO4−+16H++5C2O42−→2Mn2++10CO2+8H2O * ファクター 標準液の濃度を正確に表すための係数。例えば,0.1moldm−3 の標準液の実 際の濃度が 0.1028moldm−3であるとき,この濃度を 0.1000moldm−3 1.028と考え,1.028 をファクター(factor)という。 [実験](実験書参照) ① 前処理 試料となる環境水を採取し前処理(懸濁物のろ過,Cl−の除去)をする 1 ) 。 ② 空実験と KMnO4 溶液の標定 空実験で容器とイオン交換水の被酸化性物質を酸化し,次いで 0.002moldm−3 の KMnO4 溶液の濃度を精密に標定し,ファクターf o を求める。 (i) 0.005moldm−3 のシュウ酸ナトリウム(COONa)2標準溶液(ファクターf r )および希硫酸 を調製する。 (ii) 滴定に先立ち,使用する容器に入れたイオン交換水 100cm3 中の酸化される物質(被酸 化性物質)を,硫酸で酸性にした後,5cm3 程度( b 1 cm3)の KMnO4 溶液を加えて加熱して 2 ) , 完全に被酸化性物質を酸化してしまう。 (iii) この溶液にホールピペット でシュウ酸ナトリウム標準溶液 10.00cm3 を加え,温かいうちに KMnO4 溶液で終点まで滴定し(b2 cm3)過剰の C2O42−を酸化する。 MnO 4C2O42MnO 4- イオン交換水中の被酸化性物質 ?(mmol) 5×0.002×fo×b 1 (mmol) 2×0.005×fr×10.00(mmol) 5×0.002×fo×b 2 (mmol) 空実験において授受される電子の物質量の関係 19 (KMnO4 溶液のファクターが求まれば,合計量( b 1 + b 2 )から被酸化性物質を酸化するに要す る KMnO4 溶液の量を求めることもできる。) * 標準溶液,ビュレットの使用法,ホールピペットの使用法,メスシリンダーの使用法は「一般 化学実験」のテキストの,それぞれ 30 31 頁,125 126 頁,127 128 頁,129 頁に記載され ているので,必ず予習して参考にすること。 (iv) 空実験によって被酸化性物質がなくなった溶液に,再び希硫酸を加えた後 5cm3 程度の KMnO4 溶液をビュレットから滴下して加える(精確な体積 a 1 cm3)。次に,シュウ酸ナトリ MnO 4で精確に 10.00cm 加える。この C2O42溶液を 60 80℃に加熱したのち, MnO 4 5×0.002×fo×a 1 (mmol) ウム標準溶液をホールピペット 2×0.005×fr×10.00(mmol) 3 5×0.002×fo×a 2 (mmol) 標定操作において授受される電子の物質量の関係 直ちに KMnO4 溶液で滴定する(精 3 確な体積a 2 cm )。 *この滴定は反応初期の速度が遅いので,KMnO4 溶液の一定量に既知量の(COONa)2溶液を (過剰になるように)加えて加熱し,暖かいうちにその過剰量を KMnO4 溶液で逆滴定する。 ③環境水の滴定 標定に用いた被酸化性物質がついていない容器(中の溶液は捨て,洗浄はし ない)にメスシリンダーで環境水 100cm3 をはかり入れ,希硫酸 10cm3 を加えて酸性にする。こ れに 5cm3 程度の KMnO4 溶液をビュレットから加えて(精確な体積v 1 cm3)5 分間加熱沸騰させ 2 ), 環境水中の被酸化性物質を充分酸化する。加熱終了後,直ちにシュウ酸ナトリウム標準溶液をホ ールピペットで精確に 10.00cm3 加え,C2O42−の過剰量を速やかに KMnO4 溶液で滴定する(精確な 体積v 2 cm3)。 *(実験操作① ② ③の註釈) 1 ) 塩化物イオンが含まれているかどうかを調べる理由。 塩化物イオン Cl−が存在するとこれも MnO4−イオンによって酸化される。 ( 下式の E0 の値参照 ) HClO+H++2e−⇄Cl−+H2O E 0 = 1 . 4 8 2 V Cl2+2e−⇄2Cl− E 0 = 1 . 3 5 8 V 2 ) 反応の最初の段階の速度が遅いので,反応速度を上げるために 100℃に加熱する。その ために沸石 1 2 個を入れておだやかに加熱して沸騰させる。沸石はガラス管やガラス棒 で容易に作ることができ,溶液を突沸しないように沸騰させる働きをする。 ④ COD への換算 滴定値から試料中の被酸化性物質の量を求め,COD(O2)と COD(KMnO4)に換算す る。 (i) KMnO4 溶液の標定‥‥( f o の決定) 使用した MnO4−と C2O42−の濃度をファクターを使って表すと, C(MnO4−)=2.00 fommoldm−3,および C(C2O42−)=5.00 frmmoldm−3 である。 MnO4−と C2O42−の酸化還元反応で移動する電子の物質量は,反応した MnO4−の物質量の 5 倍, C2O42−の物質量の 2 倍であって, (MnO4−が受け取った e−の物質量)=(C2O42−が失った e−の物質量) であるから,次式が成り立つ。 2.00 f o ( a 1+ a 2) ∴f o = 1 0 . 0 0 10−3 5mmol=5.00 f r / ( a 1 + a 2 ) f r 10.00 10−3 ‥‥実験書(1 )式 20 2mmol (ii) 環境水の滴定‥‥( n を求める) 100cm3の環境水中の被酸化性物質を酸化するときに,酸化剤が受け取った e−の物質量 n を 求める。 n =(MnO4−が受け取った e−の全物質量)−(C2O42−が失った e−の物質量) ={2.00 f o 10−3 ( v 1+ v 2) 5}mmol−{5.00 ={(v1+ v2)fo−10.00fr} 10.00 f r 10.00 10−3 2}mmol −3 10 mmol ‥‥実験書(2 )式 (iii) n から COD への換算 O2 が酸化剤としてはたらくときには,1mol の O2 は 4mol の e−を受け取って消費される。 O2+4e−→2O2− したがって, n mmol の e−は(n /4)mmol の O2 に相当する。O2 の分子量は 32.0 であるから, 100cm3 の環境水の酸化によって消費される O2 の質量は(n /4) の環境水では(n /4) 10 32.0mgであり,1.00dm3 32.0mgである。 COD の単位は ppm である。環境水の密度を 1.00kgdm−3とすると,環境水 1.00dm−3に対し て酸素 1mg が要求されるとき,COD(O2)=1ppm に相当する。したがって,次式によって COD(O2)が求められる。 C O D ( O 2 ) =(n /4) 10 32.0ppm ‥‥実験書(3 )式 同様に,1mmolの KMnO4(分子量 158)は 5mmol の e−に相当するから,COD(KMnO4)は次式で 得られる。 C O D ( K M n O 4 ) =(n /5) 10 158ppm ‥‥実験書(4 )式 【4-2】銅化合物中の銅の定量 [目的] 銅化合物中の銅イオンをヨウ素滴定法(酸化還元滴定の一種)で定量し,銅の含有量を求め る。試料の銅化合物は,硫酸銅(II)五水和物(代表的な塩)と,実験 A で合成した硫酸銅(II) アンモニウム六水和物(複塩)およびテトラアンミン銅(II)硫酸塩一水和物(錯塩)の 3 種で ある。 [ヨウ素滴定法] ヨウ素とヨウ化物イオンの redox 対は,標準電極電位が過マンガン酸イオンの redox 対 ( E0=+1.507V)とシュウ酸イオンの redox 対( E0=−0.475V)の中間の値をもつ。 I2+2e−⇄2I− E 0 = 0 . 5 3 6 V ‥‥(1 ) − そのため,I はこの値より高い E0 をもつ酸化剤で酸化され,I2 はこの値より低い E0 の還元剤で 還元される。ヨウ素滴定にはいくつかの種類があるが,この実験で用いる方法は,この redox 対より E0 が高い酸化剤で I−から I2 を生成させ,生成した I2 を E0 が低い S2O32−(還元剤)で滴 定し,酸化剤の物質量を求める方法である。 [実 験] ① Na2S2O3 標準溶液の調製と標定 0.05moldm−3の Na2S2O3 標準溶液を調製し,その濃度を精確に標定する。標定のための一 次標準物質には KIO3 を用いる(0.01moldm−3KIO3 標準溶液の調製は実験書参照)。I−イオ ンが存在する酸性溶液中では,1分子の IO3−イオンは(4 )式のように 3分子の I2 を生成す る。((2 )式と(3 )式から(4 )式を導く際,酸化反応と還元反応で移動する電子数は等しいこ とに注意せよ。) 21 2IO3−+12H++10e−→I2+6H2O 5 − ) I2+2e ←2I − − − E 0 = 1 . 1 9 5 V ‥‥(2 ) E 0 = 0 . 5 3 6 V ‥‥(3 ) + IO3 +5I +6H →3I2+3H2O ‥‥(4 ) KIO3 標準溶液に KI を加えて硫酸酸性にし,反応(4 )で生成した I2 を Na2S2O3 標準溶液で 滴定する。 I2+2e−→2I− S4O62−+2e−←2S2O32− 2− − 2− I2+2S2O3 →2I +S4O6 E 0 = 0 . 5 3 6 V ‥‥(5 ) E 0 = 0 . 0 8 V ‥‥(6 ) ‥‥(7 ) したがって,この標定における全体の反応は(8 )式で表される。((4 )式+3 − 2− + − 2− IO3 +6S2O3 +6H →I +3S4O6 +3H2O − (7 )式) ‥‥(8 ) − 滴定の終点近くで I2 と平衡に存在する I3 (I2+I ⇄I3)の濃黄色が薄くなり,液が淡 黄色になったところで澱粉指示薬を加え,澱粉に吸着した I2 の青紫色が消える点が終点であ る。滴定値からこの標準溶液のファクターを求める。 この滴定では,(i)滴定は速やかに行う,(ii)よく攪拌して局所的に高濃度にならな いようにするなど注意しなければならない点がいくつかある。それらは,理由とともに 実験書に詳しく書いてあるので,よく読んで注意深く実験せよ。 ② 試料溶液の調整 3 種の銅化合物 CuSO4・5H2O,(NH4)2Cu(SO4)2・6H2O,[Cu(NH3)4]SO4・H2O それぞれの 0.1moldm −3 の試料溶液を調製する。これらのうち,[Cu(NH3)4]SO4・H2O の水溶液では銅は [Cu(NH3)4]2+錯イオンとして存在し,その redox 対の電極電位が低いので I−を酸化できない。 この方法で定量するには,硫酸酸性にして[Cu(H2O)6]2+イオンにする必要がある。 [Cu(NH3)4]2++4H++6H2O→[Cu(H2O)6]2++4NH4+ 硫酸を加えていくと,まず Cu(OH)2 の白色沈殿を生じ,さらに酸性になると[Cu(H2O)6]2+イオ ンとなって溶解する。この操作は慎重に行わなければならないが,実験書に詳しく書いてあ る。 ③ 試料溶液の滴定 3 種の試料溶液のそれぞれを,標定した 0.05moldm−3の Na2S2O3 標準溶液で滴定し,銅(II) の含有量を求める。 Cu の定量分析にヨウ素滴定法を用いるには,試料溶液中の Cu2+イオンが I−イオンを酸化 して I2 を生成しなければならない。ところが Cu2+/Curedox 対の E0 は0.342V, Cu2+/Cu+redox 対の E0 は0.153V なので, E0 の値からみて Cu2+イオンはI2/I−redox 対 ( E0=0.536V)の I−イオンを酸化しないはずである。しかし,過剰に I−イオンが存在す ると(9 )式のような redox 対が存在できるので, 2Cu2++2I−+2e−⇄Cu2I2 2+ E 0 = 0 . 8 6 V ‥‥(9 ) − (1 2 )式のように Cu が I を酸化することになる。 2Cu2++2I−+2e−→Cu2I2 E 0 = 0 . 8 6 V ‥‥(1 0 ) I2+2e−←2I− 2+ E 0 = 0 . 5 3 6 V ‥‥(1 1 ) − 2Cu +4I →Cu2I2+I2 ‥‥(1 2 ) 2+ この反応の結果,2molの Cu は 1molの Cu2I2 と 1molの I2 を生じる。この I2 は過剰の I−の存在では溶液中で I3−と平衡関係にある。(I2+I−⇄I3−) こうして生じた I2 を Na2S2O3 標準溶液で滴定すれば,(1 5 )式の反応で I2 が還元される。 22 I2+2e−→2I− 2− − E 0 = 0 . 5 3 6 V ‥‥(1 3 ) 2− E 0 = 0 . 0 8 V S4O6 +2e ←2S2O3 2− − 2− I2+2S2O3 →2I +S4O6 − ‥‥(1 4 ) ‥‥(1 5 ) 2− したがって,過 剰 I イ オ ン の 存 在 下 で の S 2 O 3 イ オ ン に よ る C u 2+ イ オ ン の 滴 定 の全体の 2− 反応は,(1 2 )式と(1 5 )式より(1 6 )式のように書ける。(S4O6 :四チオン酸イオン) 2Cu2++2I−+2S2O32−→Cu2I2+S4O62− ‥‥(1 6 ) こうして,消費した S2O32−の量から Cu2+の量を求めることができる。 実際には,試料溶液の 10.00cm3 を採って水でうすめ,過剰に I−を存在させるために KI を 加えて I2 を生成させる。 2Cu2++4I−→Cu2I2+I2 ‥‥(1 2 ) 遊離した I2 を Na2S2O3 標準溶液で滴定する。 I2+2S2O32−→2I−+S4O62− ‥‥(1 5 ) 標定の場合と同様に,終点近くで溶液が淡黄色になったところで指示薬を加える。滴定につ いても実験書に詳しく操作と備考が書いてあるので,よく読んで注意深く実験する。 滴定値から,試料溶液中の Cu2+の量を(1 6 )式の物質収支を使って求め,固体中の銅(II) の含有量と純度を求める。つまり,(i)滴定に要した S2O32−の物質量から試料溶液 10.00cm3 中の Cu2+の物質量を求め,(ii)この値から秤量した化合物中の Cu2+の物質量 n を求める。 (iii)この n の値を使って固体化合物中の Cu の含有量と純度を求める。 試料のうち,CuSO4・5H2O は純粋な試薬なので,実験がうまく行われていれば実験値は理論 値と一致するはずである。 以上 23 無機分析化学 B 資料 錯体の命名法 国際命名法規則(英語)は国際純正応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry; IUPAC)で統一的にまとめられた。(1971年、1990年に勧告) 日本語命名規則は,日本化学会の化合物委員会で IUPAC 規則を翻訳した。 化学式 1)錯体部分を [ 2) [ ] でくくる。 ] の中は、中心金属原子,陰イオン性配位子,中性配位子の順に並べる。 3)配位子の各グループの中では,化学式の先頭の元素記号に従い,アルファベット順 に並べる。例 [CoBrCl(H2O)2(NH3)2] 4)配位子が多原子の時は化学式を( )で囲む。 5)複雑な有機配位子は,略号で表す。略号は,少数の炭化水素を除いて小文字を使う。 名 称 1)配位子の名前を先に,中心原子を最後にする。中心原子の酸化数はローマ数字で ( )内に示す。 例 [PtCl2(NH3)2] ジアンミンジクロロ白金(II) 2)配位子の順序はアルファベット順にする。 3)陰イオン性の錯体名の語尾は -ate(ー酸イオン)で終わる。陽イオン性,中性錯体 では,とくに区別する語尾を使わない。陽イオン性錯体は,錯イオン部分を命名し,陰イ オン名を,-ide で終わるときはー化物,-ite, -ate で終わるときはー酸塩の接辞をつけて 記す。 例 K4[Fe(CN)6] ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム [Co(NH3)6]Cl3 ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物 [CoCl(NH3)5]SO4 ペンタアンミンクロロコバルト(III)硫酸塩 4)配位子の名称 (a)中性配位子 分子そのままの名称。有機配位子は有機化合物命名法。 例外 NH3 アンミン H2O アクア CO カルボニル NO ニトロシル (b)陰イオン性配位子 陰イオンの英語名の語尾 -ide, -ite, -ate を -ido, ito, -ato(または -o)に変えて,ーイド, ーイト,ーアトとする。 例 フルオロ(fluoro) FCl クロロ(chloro) - OH - CNCH3COO - ニトラト(nitrato) NO3- ニトロ(nitro) - NO2 ヒドロキソ(hydroxo) SCN シアノ(cyano) H- アセタト(acetato) 24 - チオシアナト(thiocyanto) ヒドリド(hydrido) CO3 2- カルボナト(carbonato) 5)配位子の数を示す接頭語 複雑な配位子の接頭語を使うときは対称を( 例 )で囲む。 トリス( 2, 2'-ビピリジン) 2 3 4 5 6 単純な配位子 ジ トリ テトラ ペンタ ヘキサ 複雑な配位子 ビス トリス テトラキス ペンタキス ヘキサキス 6)配位している原子の指定 (a)配位子が結合する原子を示す必要があるときは,その元素記号をイタリックで配 位子の後に記す。 Na2 K2 O C S O C S S C O S C O Ni Ca S C S C O O O C S O C S ビス(ジチオオキサラト -S, S')ニッケル(II)酸ナトリウム ビス(ジチオオキサラト -O, O')カルシウム(II)酸カリウム (b) SCN- と NO2- については、次のように区別している。 M-SCN チオシアナト M-NO2 ニトロ M-NCS イソチオシアナト M-ONO ニトリト 7)異性体の指定 (a) 幾何異性体:cis-, trans-; fac-, mer- (b) 光学異性体:D-, L-; !", #- 8)架橋配位子 橋かけしている配位子の前に µ- の記号をつける。 H O Co Co N H2 µ-アミド-µ-ヒドロキソ d軌道の形 d xy d xz d x2 d yz t2 g !y dz2 2 eg 25 d軌道の分裂(結晶場分裂)) eg 0.6Do 0.4Do E d Do 結晶場分裂エネルギー t2g 単独の金属イオン Ti4+ 縮重 d 軌道をもつ 八面体錯体 仮想的錯体 [TiF6]2- 錯体(complex)とは何か ・金属陽イオンと配位子から構成 配位子:金属陽イオンのまわりに結合する原子や原子団 ・分子性無機化合物 一酸化炭素,アンモニア,水,酸素分子,窒素分子,塩素原子,酸素原子, 硫黄原子,アルキルラジカル ・有機化合物 ピリジン,ベンゼン,ポルフィリン,エチレン,ブタジエン 1 名前の由来 「錯」:混じる,乱れる,背く こんがらがってすっきりしないときに用いる 19世紀末:有機化合物や無機化合物における結合理論では説明できない金属化合物 ウェルナー Komplex Verbindung 錯塩、錯体 ⇩ 錯体 には 結合が複雑でわかりにくい という意味が込められている 2. 歴史 ・最初の発見 1704年 Diesbach (ベルリンの絵の具製造業者): Prussian Blue(紺青)KFeIIFeIII(CN)6 の合成 1798年 Tassaert (フランス): CoCl3・6NH3 の合成 最初のアンミン錯体 complex salt(錯塩)と呼ぶ 当時は Berzelius の電気的二元説が支配的であった 1869年 Blomstrand(スウェーデン): CoCl3・6NH3 の構造について考察 1885年 鎖状構造説 Jorgensen(デンマーク): 多くのコバルトおよびクロムのアンミン錯塩を合成して構造を考察 26 錯 体 色 名 前 現在の式 沈殿する Cl- の数 CoCl3・6NH3 黄色 ルテオ塩 [Co(NH3)6]Cl3 3 CoCl3・5NH3 紫 プルプレオ塩 [CoCl(NH3)5]Cl2 2 CoCl3・5NH3 ・H2O 赤 ロゼオ塩 [Co(H2O)(NH3)6]Cl3 3 CoCl3・4NH3 緑 プラセオ塩 trans-[CoCl2(NH3)4]Cl 1 CoCl3・4NH3 すみれ ビオレオ塩 cis-[CoCl2(NH3)4]Cl 1 ・Blomstrand-Jorgensen の鎖状構造説 有機化合物と同じ様なアンモニアの鎖状構造を考えた。 2種類の塩化物イオン:コバルトと直接結合 :コバルトから離れている 27 イオン化しない 塩化銀として沈殿 ・Werner の配位説 1893年 Alfred Werner 1913年 Werner ノーベル賞受賞 (a) 論文「無機化合物の構造に関する寄与」を発表 アンミン錯体を分類すると次の2つに分けられる。 MA6 型:CoX3・6NH3 とその誘導体 MA4 型:PtX2・4NH3 とその誘導体 (b) イオン X はイオンとして作用する場合としない場合がある (c) MA6 型は正八面体,MA4 型は平面構造である。 従って幾何異性体や光学異性体が存在する。 (d) 金属との結合には二種類の結合がある 配位説における仮定 (1)たいていの元素は二つの原子価を示す 主原子価 (Hauptvalenz):金属の酸化数(酸化状態)に相当 副原子価 (Nebenvalenz):これを配位数と呼ぶ (2)どの元素も主原子価と副原子価の両方を満足させようとする傾向がある (3)副原子価は中心イオンの周りに一定の方向を持っている 配位説による構造 CoCl3・6NH3 CoCl3・4NH3 CoCl3・5NH3 CoCl3・3NH3 六配位錯体の八面体構造と異性体の数 ・ウェルナー以降の歴史 1920年 Sidgwich :配位結合の概念を提唱 1930年 Pauling :原子価結合理論 1930年 Bethe, Van Vleck :結晶場理論 1960年 分子軌道法の発達 1954年にノーベル賞受賞 錯体化学に応用されるのは1950年以降 配位子場の理論 有機金属化学の発達 石油化学工業 28 1970年 生物無機化学 1980年 光化学、エネルギー化学、材料化学との結びつき 1990年 超分子化学(分子集合体の化学) 3. 機能性物質 定義 (a) (b) 錯塩、錯体、配位化合物:中心となる原子またはイオンと配位子からなる化合物 配位子:ローンペアー電子で配位可能な原子を持つイオンまたは分子。単座配 位子、多座配位子(二座、三座、四座など) (c) 配位数:中心イオンに結合した配位原子の数 (c) キレート化合物:多座配位子を含む配位化合物 5員環および6員環キレートが最も安定である 5員環キレート 6員環キレート 29 無機塩の溶解度 30 ・錯体の安定度定数 錯体の生成平行定数(生成定数,錯形成定数とも言う) 生成物の活量を反応物の活量で割った値(一般には活量の替わりに濃度を使う) ・逐次安定度定数と全安定度定数 Cu2+ + NH3 [Cu(NH3)] [Cu(NH3)2] 2+ 2+ [Cu(NH3)3] Cu 2+ 2+ + NH3 + NH3 + NH3 + 4NH3 [Cu(NH 3 )2 + ] K1 = 2+ [Cu ][NH 3 ] [Cu(NH3)]2+ 2+ [Cu(NH 3 )2 2+ ] K2 = 2+ [Cu(NH3 ) ][NH 3 ] 2+ [Cu(NH3 )3 2+ ] K3 = 2+ [Cu(NH 3 )2 ][NH 3 ] [Cu(NH3)2] [Cu(NH3)3] [Cu(NH3)4] 2+ [Cu(NH3)4] 2+ [Cu(NH 3 )4 2+ ] K4 = 2+ [Cu(NH3 )3 ][NH 3 ] [Cu(NH3 )4 2+ ] !4 = 2+ 4 [Cu ][NH 3 ] [Cu(NH3 )4 2+ ] !4 = 2+ [Cu ][NH 3 ]4 [Cu(NH3 )2+ ] [Cu(NH 3 )2 2+ ] [Cu(NH 3 )32 + ] [Cu(NH 3 )4 2+ ] = 2+ ! ! ! [Cu ][NH 3 ] [Cu(NH 3 ) 2+ ][NH 3 ] [Cu(NH 3 )2 2+ ][NH 3 ] [Cu(NH 3 )3 2+ ][NH3 ] = K1 • K 2 • K3 • K4 log[NH3]free アンモニアを含む溶液中に存在する銅錯体 の組成と割合 {[Cu(NH3)x]2+} 31 pH 指示薬の pKa と変色(吸収スペクト) 32
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