CQ ham radio 1987 年 6 月号 283∼287 頁 - So-net

CQ ham radio
2 月号の VOX への
2 月号の VOX への
お便りから
お便りから
2 月号で NJM2027 を使った
VOX を紹介しましたが、今月はま
ずこの VOX についてのお便りか
ら始めてみることにしましょう。
最初のお便りは JF1FUB 相良
さんからのもので、2 台とも作ら
れたそうですが、ポケトラ用 VOX
の発振対策は参考になります。
相良さんのとられた対策は、ま
ず NJM2072 のピン 2 を 0.022μ
F のコンデンサーでアースしたこ
と、またリグまで(1m ほど)と
マイクまで(30cm ほど)のコー
ドに全部同軸ケーブル(1.5D-2V)
を使ったとのことです。また、セ
ットをビールのミニ・スチール缶
に組み込んだとのことで、いずれ
も納得のいく対策です。
その結果、
2 台ともうまく働いているそうで
す。
つぎは JE1LSP 黒沢さんから
のもので、机上用のものを作られ
たとのこと。最初は一度送信する
と送信しっぱなしというトラブル
に見舞われたそうですが、ピン 7
を根元から切ったところトラブル
June 1987
1987 年 6 月号
283∼287 頁
が止まったそうです。ピン 7 は未
使用で浮いていたために、ここか
ら RF が回り込んだのでしょう。
これも、トラブルの原因は思わぬ
ところにもあるという良い教訓を
私たちに教えてくれています。
リモコン用の赤外線素子
リモコン用の赤外線素子
さて、今月は赤外線で遊んでみ
ようというわけです。
実は、昨年買い替えたテレビに
赤外線のリモコン装置が付いてい
ました。最初はリモコンなんて…
と思っていたのですが、使ってみ
るとこれがなかなか便利なもので、
今ではなくてはならないものにな
っています。
そして、このリモコンがなかな
か高感度なのに驚き、いつかはや
ってみようと思っていました。
一方、別のことで第 1 図、写真
1 に示したような、赤外 LED と赤
外フォト・ダイオードを使ってみ
る機会があり、さっそく赤外線で
遊んでみることにしたというわけ
です。
第 1 図に示した TLN105(送信
用〉と TPS703(受信用)はペア
283
になっているもので、これはテレ
ビのリモコンに使われているもの
です。リモコン用の特長は指向特
性が広いということで、さらに送
信用の TLN105 は光出力が大き
く、受信用は可視光をしゃ断する
フィルタを持っています。
余談ですが、TPS703 にはカソ
ードを示す部分があるのですが、
これがとてもわかりにくいのです。
そこで第 1 図にはアノード(A)
とカソード(K)が書いてないの
ですが、中身はダイオードなので
テスターで調べる(導通があった
とき、黒のテスト棒のほうがアノ
ード)のが確実です。
…というわけで、TLN105 と
TPS703 を前に何で遊ぼうかいろ
いろと考えたのですが、とりあえ
ず第 2 図のようなリモート・キー
を作ってみることにしました。こ
れは、キーのほうにリモート・キ
ーの送信機を持たせ、リモート・
キーの受信機を無線機につないで
おくというもので、オペレート・
デスクの上くらいならキーを自由
に移動させて使うことができます。
また、リモート・キーの送信機と
受信機を向かい合わせれば、2∼
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3m くらい離れてもリモコンが可
能です。
これでおわかりのように、リモ
ート・キーは送信機と受信機の二
つを作ることになります。では、
送信機から製作を始めることにし
ましょう。
なお、赤外線もやはり電波と同
じ電磁波です。TLN105 から発射
される赤外線の波長は 940nm(ナ
ノメーター)
、周波数になおせば約
319THz(テラヘルツ)というこ
とになります。この周波数は電波
法の範囲外ですから、だれでも自
由に実験できます。
送信機の作り方
送信機の作り方
TLN105 はパルス動作や高周波
による変調が可能なので、リモー
ト・キーでは 1kHz ほどの可聴周
波の信号で AM 変調をしてやるこ
とにしました。
第 3 図がリモート・キーの送信
機の回路で、
単 3 乾電池 2 個の 3V
で働かせることにします。1kHz
の信号は 74HC00 で作っており、
キー・アップのときには消費電流
はほとんどゼロです。ですから、
電源スイッチは不要です。なお、
キーをたたくと 130∼150mA の
電流が流れます。これで、第 1 図
によると光出力は 8.5mW ほどと
いうのですから、効率はずいぶん
悪いことになりますね。
発振用の NAND ゲートに 4000
シリーズではなく 74HC シリーズ
を使ったのは、電源電圧が 3V し
かないからです。ちなみに、74HC
シリーズのほうが低い電圧まで働
きます。
発振周波数は C と R で変わりま
すが、第 3 図では R を 33kΩに選
んだので、周波数は約 1.3kHz に
なっています。
さて、リモート・キーの送信機
をどのようにまとめるかですが、
ここでは娘の JS1VPF が愛用し
ているハイモンドの HK-704 をち
ょっと借りてきて、タカチ電機の
SS160 というプラスチック・ケー
スに取り付け、写真 2 のようにケ
ースとキーの一体形にしてみるこ
とにしました。以後、このように
まとめることにして話をすすめま
す。
第 1 表が、リモート・キーの送
信機の組み立てに必要な部品の一
覧です。本機の心臓部である
TLN105 、 そ れ に 受 信 機 で 使 う
TPS703 は、東京・秋葉原ラジオ
ストアーの中にあるタカヒロ電子
(℡03-251-8727)で求めました。
CQ ham radio
部品のうち、3×6 のビスはプリン
ト板の取り付け用、また 4mm の
ビスとナットはキーをケースに取
り付けるためのものです。
第 4 図が、送信機のプリント・
パターンです。取り付け用の穴は、
ケースの SS160 に合わせてあり
ます。もし送信機をキーと一体に
しないで別に作るのなら、プリン
ト板はずっと小形にできます。プ
リント・パターンで注意しなけれ
ばならないのは、74HC00 の使わ
ないユニットの入力端子の処理で
す。第 4 図ではこれをすべてアー
スしてありますが、この処理を忘
れるとキー・アップ時の消費電流
が増えてしまいます。
プリント板の加工(写真 3)が
終わったら部品を取り付けて組み
立て、ケースに収めます。組み立
ての様子は写真 4 に示したとおり
で、電池ホルダーと TLN105 は接
着剤でケースに取り付けました。
完成したら、クリスタル・イヤ
フォーンを Tr1 のべースにつなぎ、
キーを押したときに 1kHz 付近で
June 1987
発振していることを確認しておき
ましょう。これで TLN105 からは
赤外線が発射されているはずです
が、これは目で確認することはで
きません。
10∼1000 倍(20∼60dB)にわた
って変えられます。ちなみに、参
受信機の作り方
考文献によれば 80dB ほど増幅す
リモート・キーの受信機では、
るとなっています。
赤外フォト・ダイオードで受けた
ところで、他の機会に赤外線の
送信機からの信号(約 1kHz)を
受信機をいじっていて気がついた
増幅し、無線機をキーイングする
のは、白熱電灯からの 50/60Hz の
ための出力を作ります。
妨害(参考文献の p.137 に示され
第 5 図が、リモート・キーの受
信機の回路です。IC1-1 はアンプで、 ているように、白熱電灯の発光ス
ペクトルは、赤外領域に及んでい
VR1 を回すことによってゲインを
受信機の作り方
285
る)をかなり受けるということで
した。
そこで、本機ではこの 50/60Hz
をカットするためにハイパス・フ
ィルターを入れました。
IC1-2 がそのハイパス・フィルタ
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ーで、カットオフ周波数はほぼ
1kHz です。
さて、こうして得られる送信機
からの信号は約 1kHz のオーディ
オ信号ですから、信号の検出には
2 月号の VOX の製作で使ったレ
ベル検出用 IC の NJM2072 が使
えます。IC2 がこれで、増幅とレ
ベル検出を行っています。
まず、NJM2072 のアンプです
が、ピン 2 をオープンしたままだ
とゲインは 10 倍(約 20dB)です。
そこで、ピン 1 とピン 2 の間に 1k
Ωの抵抗器を入れて、ゲインを
100 倍(40dB)まで増やしてやり
ます。これで、IC1-1 のアンプと合
わせて 80dB のゲインが確保でき
ます。
つぎに、NJM2072 ではピン 5
につなぐコンデンサーによってデ
ィレイ・タイムが変わります。
VOX の場合には長いディレイ・タ
イムが必要だったので 4.7μF と
か 10μF といった値が使われま
した。でも、リモート・キーでは
ディレイ・タイムがあっては具合
が悪いので 0.1μF にしてありま
す。
キーイングは最近の無線機はた
いてい電子スイッチで良いはずな
ので OUT2 だけでも良いと思っ
たのですが、どのような無線機に
も対応できるよう、リレーによる
OUT1 も用意しました。
ついでに、
この OUT1 で LED を点滅させて
モニターになるようにしてありま
す。
なお、LED のモニターだけでは
心もとないので、圧電ブザーによ
CQ ham radio
る音のモニターも用意しました。
第 2 表が、リモート・キーの受
信機の組み立てに必要な部品の一
覧です。フォト・ダイオードの
TPS703 の求め方は、送信機のと
ころでお話したとおりです。
受信機のほうはケースが大切で、
フォト・ダイオードが外光からの
影響を受けないようなものを使う
必要があります。本機では送信機
と同じタイプのタカチ電機のプラ
スチック・ケース SS125B を使い
ました(写真 2)。ちなみに、型名
の最後についている B は黒色の意
味です。以後、プリント板のレイ
アウトや取り付け穴の位置も、こ
の SS125B を使ったときのもので
す。
第 6 図が、受信機のプリント・
パターンです。プリント板の加工
(写真 5)が終わったら、部品を
取り付けて組み立てます。
プリント板の組み立てが終わっ
たところで、ハイパス・フィルタ
ーを含めた全体の周波数特性を調
べてみました。
第 7 図がその結果で、目的の信
号の 1kHz に対して妨害信号の
50/60Hz は 50dB 以上減衰される
ことがわかります。
第 8 図は、受信機をケースに収
める場合の全体のつなぎ方です。
なお、TPS703 の取り付けはケー
スに 2.8×7mm の長方形の穴をあ
け、頭がケースの表面と同じにな
るように差し込んで接着剤で固定
June 1987
します。
組み立てが終わったら電源を加
え、VR1 を回してみます。ゲイン
を上げていくと入力がないのに
LED が光り圧電ブザーが鳴りま
すので、その手前のところにセッ
トします。これで、送信機のキー
をたたいたときに受信機が働けば
完成です。
なお、受信機の電源を AC100V
から供給する場合、1 次側の
AC100V を 0.0047μF くらいのコ
ンデンサーでアースしないと動作
が不安定(IC1-1 のゲインが上げら
れない)になるという現象があり
ました。
使い方については誌面がなくな
ってしまいましたので、各自工夫
して遊んでみてください。
<参考文献>
○「センサ・インターフェーシン
グ No4」昭和 59 年 7 月、CQ 出
版社。
END
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