あもんノート http://amonphys.web.fc2.com/ ユークリッド幾何学、ニュートン力学から、相対論、宇宙論、量子論、素粒子論、そ してひも理論まで、理論物理学を簡潔にかつ幅広く網羅したノートです。TOP へは上 の URL をクリックして行けます。 目次 1 2 ひも理論入門 1.1 相対論的粒子の作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 1.2 e=1 ゲージ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 1.3 粒子の物理的状態と on-shell 性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 1.4 南部・後藤作用とポリヤコフ作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 1.5 共形ゲージと共形対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 1.6 ひもの運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 1.7 ユークリッド化と複素座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 1.8 ゴーストの運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 1.9 共形カレントと共形保存量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 1.10 ヴィラソロ代数と中心電荷 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 1.11 ひも理論の BRS 変換と重力子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 1.12 2 次元のスピノルと超ひも理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 1.13 ひも理論の発展 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 1 1 ひも理論入門 ひも理論 (弦理論, string theory) は、もともとはハドロンの性質を説明するた めに考案された理論ですが、その後、量子重力を含む理論になり得ることが指摘 され、特にフェルミオンを導入したものは万物の理論 (theory of everything) の候 補と考えられています。ここではまず簡単な相対論的粒子の系で特異系の量子論 を復習し、次に同様な方法でひも理論を構成し、その性質を見てゆくことにしま しょう。 1.1 相対論的粒子の作用 質量 m の相対論的粒子の作用は、世界線の長さ ×(−m) で、 Z Sm = −m dτ と書かれるのでした。ここで τ は固有時間です。世界線上の適当なパラメータを λ, 世界線各部のローレンツ座標を xµ (λ), ローレンツ計量を ηµν とすれば、ミン コフスキー計量構造 : dτ 2 = ηµν dxµ dxν に注意して、 Z √ Sm = −m dλ x· ˙ x˙ と書くこともできます。ドットは λ 微分、センタードットはローレンツ計量によ る内積を意味します (図 1)。 √ そうすると、ラグランジアンは L = −m x· ˙ x˙ であり、xµ の正準共役変数は、 ∂L mx˙ µ pµ = µ = − √ ∂ x˙ x· ˙ x˙ となり、正準変数の間に p·p = m2 という拘束条件を生じてしまいます。このた め正準量子化を行えません。こうした困難が生じるのは、世界線のパラメータ λ の与え方が任意で、このため再パラメータ化 (reparameterization) : δλ = λ0 − λ = −θ(λ) に関して作用 Sm が不変だからです。すなわち系がローカル対称性を持っていて、 特異系になっているからです。 x0µ (λ0 ) = xµ (λ) ∴ x0µ (λ − θ(λ)) = xµ (λ) ∴ x0µ (λ) = xµ (λ + θ(λ)) = xµ (λ) + θ(λ)x˙ µ (λ) 2 図 1: 世界線 に注意すると、力学変数 xµ の無限小変換は、 δxµ (λ) = θ(λ)x˙ µ (λ) と書かれます。このローカル対称性を固定しなければ正準量子論が得られないの は当然でしょう。 いま、e(λ) を補助変数として、 1 S=− 2 µ Z dλ x· ˙ x˙ + m2 e e ¶ という作用を考えると、これは元の作用 Sm と等価です。実際このとき e に関す る運動方程式は、 √ x· ˙ x˙ e= m となるため、これを S に戻せば Sm が得られます。しかしいぜんとして S は、 δxµ = θx˙ µ , ˙ + θe˙ δe = θe という再パラメータ化に対して不変です。 1.2 e=1 ゲージ そこで、生成汎関数 : Z[J] = Z DxDe eiS+J·x .Z DxDe eiS から再パラメータ化の自由度を抜き出し、この自由度を固定する処理を行いましょ う (ゲージ固定)。特に e = 1 に固定するなら、恒等式、 Z δe Dθ Det δ [e − 1] = 1 δθ 3 および、 µ ¶ Z µZ µ ¶ ¶ δe d d = Det e + e˙ = DcDb exp dλ b e + e˙ c Det δθ dλ dλ に注意して、 Z Z[J] = DxDcDb e ˜ iS+J·x .Z ˜ DxDcDb eiS , Z ˜ = − 1 (x· ˙ x˙ + m2 ) − ibc˙ L 2 を得るでしょう。このゲージ固定を特に e=1 ゲージといいます。c, b は実グラス マン数の変数で、ゴーストを意味します。 ˜ から得られる正準共役変数は、 有効ラグランジアン L S˜ = ˜ dλ L, ˜ ∂L = −x˙ µ , ∂ x˙ µ ˜ ∂L = −ib ∂ c˙ なので、今度の場合は拘束条件はなく、 [xµ , x˙ ν ] = −iη µν , [xµ , xν ] = [x˙ µ , x˙ ν ] = 0, および、簡便量子化、 {c, b} = −1, {c, c} = {b, b} = 0, により正準量子論を得ることができます (他は可換)。運動方程式は、 x¨µ = 0, c˙ = b˙ = 0 となるので、x˙ µ , c, b はそれぞれ保存量です。ハミルトニアンは、 ˜ ˜ ∂L ∂L µ ˜ = 1 (−x· ˜ c˙ − L ˙ x˙ + m2 ) H = µ x˙ + ∂ x˙ ∂ c˙ 2 となり、これも確かに保存量になっています。 ネーターの定理の観点から、系の 4 元運動量は x˙ µ です。ここでのハミルトニア ˜ は世界線の再パラメータ化のグローバル部分 (並進部分) からくる保存量で ンH あり、系のエネルギーとは異なるので注意してください。 1.3 粒子の物理的状態と on-shell 性 ˜ が保存量であることに注意して、物理的状態空間を、 ハミルトニアン H ˜ >= 0} Vphys = { |f > | H|f 4 ˜ は世界線の再パラメータ化の並進部分の生成子なので、こ で定義しましょう。H の仮定は、物理的状態、すなわち我々の量子世界が、パラメータ λ の並進変換に 対し不変であることを意味しています。パラメータ λ は物理的な量ではないので、 ˜ は保存量なので、この仮定は初期条件と この仮定はいたって自然です。また、H みなすこともできます。 いま、4 元運動量 x˙ µ の固有値 k µ , ゴースト c の固有値 γ を与える固有ベクト ルを |k, γ > とすると、 x˙ µ |k, γ > = k µ |k, γ >, c|k, γ > = γ|k, γ > ˜ γ > = 0 から、 ですが、これが物理的状態にあるとすれば、H|k, k·k = m2 です。すなわち物理的状態においては、4 元運動量 x˙ µ の固有値は必ず on-shell に あるというわけです。 ちなみに ξ を無限小のグラスマン数として、 δB xµ = ξcx˙ µ , δB c = 0, δB b = iξ (x· ˙ x˙ − m2 ) 2 で BRS 変換を定義すると、 ˜=− δB L ¢ ξ d ¡ c(x· ˙ x˙ + m2 ) 2 dλ が確かめられるので、有効作用 S˜ は BRS 変換に対して不変です。ネーターの定 理から得られる保存量は、 QB = 1 ˜ c(−x· ˙ x˙ + m2 ) = cH 2 となり、BRS 電荷と呼ばれます。明らかに Q2B = 0 で、すなわち BRS 電荷のベキ 零性が成立します。 ˜ > = 0 は、ゲージ場の量子論で知られるような一般的 ここでの物理的条件 H|f な物理的条件 QB |f > = 0 の十分条件になっていて、 ˜ > = 0 ⇒ QB |f > = 0 H|f であることに注意してください。 (余談) たかが 1 粒子の量子力学が相対論的な場合はそれが特異系であるために、このようにレ ベルの高い話になります。相対論的な場合は粒子よりむしろスカラー場の量子論の方が、ローカ ル対称性を持たないため、初等的なレベルで済むわけです。 5 1.4 南部・後藤作用とポリヤコフ作用 それではひも理論に進みましょう。 空間的にひも状の物体はミンコフスキー時空において 2 次元の面を描くことに なります。これを世界面といいます。世界面上の適当なパラメータ (2 次元座標) を σ a (α = 0, 1), 世界面各部のローレンツ座標を X µ (σ) とすると (図 2)、微小固有時 間 dτ に対して、 dτ 2 = ηµν dX µ dX ν = ηµν ∂X µ ∂X ν α β dσ dσ . ∂σ α ∂σ β よって世界面における 2 次元計量は、 g¯αβ = ηµν ∂X µ ∂X ν = ∂α X ·∂β X ∂σ α ∂σ β となります。ここでもセンタードットはローレンツ内積を意味します。 図 2: 世界面 ひも理論の作用は世界面の面積に比例したものと仮定され、 Z p 1 2 SNG = − d σ − det g¯ 2πα0 と書かれます。これを南部・後藤作用といいます。α0 はひも理論における唯一の 定数で、作用の無次元性から質量次元 −2 です。よってこの理論が量子重力を意 味していると考えた場合、α0 は万有引力定数程度の量 ( ∼ (1019 GeV)−2 ) という ことになります。以下、α0 = 1 の単位系をとります。 gαβ (σ) を補助場として、 1 S=− 4π Z p d σ − det g g αβ ∂α X ·∂β X 2 6 はポリヤコフ作用と呼ばれますが、これは南部・後藤作用と等価です。実際、 δ det g = det g g αβ δgαβ , δg αβ = −g αγ g βδ δgγδ に注意すると、gαβ の場の方程式は、 µ ¶ δS 1 αβ γδ 1p αγ βδ − det g g g −g g g¯γδ = 0 =− δgαβ 4π 2 ∴ gαβ g γδ g¯γδ = 2¯ gαβ を与えますが、g γδ g¯γδ = k とおくことで、 gαβ = 2 g¯αβ k が任意の 0 でない実数 k に対して解であるとわかります。これを S に戻して gαβ を消去すると、南部・後藤作用 SNG が得られます。 ポリヤコフ作用は、再パラメータ化 (2 次元一般座標変換) : δX µ = θα ∂α X µ , δgαβ = θγ ∂γ gαβ + ∂α θγ gγβ + ∂β θγ gαγ に対して不変になっています (δσ α = −θa )。また、ワイル変換 (スケール変換) : δgαβ = λgαβ に対しても不変になっています。ここで θa , λ は共に世界面の座標 σ α に依存した 無限小量で、 それゆえこれら対称性は自由度 3 のローカル対称性です。 1.5 共形ゲージと共形対称性 ひも理論の生成汎関数は、ポリヤコフ作用を S として、 Z .Z DXDg eiS Z[J] = DXDg eiS+J·X ですが、補助場 gαβ を 2 次元ローレンツ計量 ηαβ に固定すれば、自由度 3 のロー カル対称性を全て殺せます。恒等式、 Z δg Dθ Det δ [ g − η ] = 1 δθ および、cγ , aαβ (= aβα ) を実グラスマン数として、 µZ ¶ Z δg Det = DaDc exp d2 σ cγ (−gαβ ∂γ + gγβ ∂α + gαγ ∂β )aαβ δθ 7 であることに注意すれば、 Z .Z ˜ ˜ iS+J·X Z[J] = DXDaDc e DXDaDc eiS , Z Z 1 2 α S˜ = − d σ ∂α X ·∂ X − i d2 σ cγ ∂α (−δγα aββ + 2aαγ ) 4π を得るでしょう。添字の上げ下げはローレンツ計量で行っています。あるいは、 bαγ = 2π(−δγα aββ + 2aαγ ) で変数変換すれば、bαα = 0, bαβ = bβα が成り立ち、有効作 用は、 µ ¶ Z 1 1 2 α γ α S˜ = − dσ ∂α X ·∂ X + ic ∂α bγ 2π 2 となります。このゲージ固定を共形ゲージといいます。 ポリヤコフ作用が、一般座標変換 + ワイル変換 : δgαβ = θγ ∂γ gαβ + ∂α θγ gγβ + ∂β θγ gαγ + λgαβ に対して不変であったことに対応し、有効作用 S˜ は、 ∂α θβ + ∂β θα = −ληαβ を満たす変換パラメータ θα による一般座標変換に対して不変です。この変換は角 度を変えない変換になっているため、共形変換と呼ばれ、共形変換に対して不変 な性質は共形対称性 (conformal symmetry) と呼ばれます。変換パラメータ θα は 完全に自由ではないため、共形対称性はローカル対称性ではありません。いわば 無限自由度のグローバル対称性であり、それゆえ共形対称性を持つ理論は無限個 の保存量を持ちます。 1.6 ひもの運動 有効作用 S˜ の式から、ひも座標 X µ (σ) の運動方程式は、 ∂α ∂ α X µ = 0 です。いま、閉じているひも (閉弦) を考え、σ 1 = 0 ∼ 2π とし、周期的境界条件 1 を課すと、{ einσ | n ∈ Z } が完全系を成すことに注意して、 X 1 µ X = fnµ (σ 0 ) einσ n∈Z とおけます。これを運動方程式に代入して、f¨nµ = −n2 fnµ . ドットは σ 0 による微 分を意味します。よって、 ( xµ + uµ σ 0 (n = 0) µ fn = 0 0 Aµn einσ + Bnµ e−inσ (n 6= 0). 8 ここで xµ , uµ , Aµn , Bnµ は定数です。これを X µ の式に戻すわけですが、後の便 宜上、 i i uµ = 2πpµ , Aµ−n = √ αnµ , Bnµ = √ α ¯ nµ 2n 2n と置換して、 ´ i X 1 ³ µ −in(σ0 +σ1 ) µ µ µ 0 µ −in(σ 0 −σ 1 ) X = x + 2πp σ + √ αn e +α ¯n e 2 n6=0 n を得ます。これが X µ の一般解の式です。X µ の実性 : X µ∗ = X µ は、 xµ∗ = xµ , pµ∗ = pµ , µ αnµ∗ = α−n , µ α ¯ nµ∗ = α ¯ −n であれば満たされます。 X µ の正準共役は −(2π)−1 X˙ µ となるので、正準交換関係は、 [X µ (σ), X˙ ν (σ 0 )]σ0 =σ00 = −2πi η µν δ(σ 1 −σ 01 ) で与えられ、他は同 σ 0 値において可換です。これは、 [xµ , pν ] = − i µν η , 2π ν ν 0 [αnµ , αm ] = [¯ αnµ , α ¯m ] = −nδn+m η µν µ において満たされます (他は可換)。αnµ と α−n = αnµ∗ (n = 1, 2, · · · ) が交換せず、 これらが場の量子論における生成消滅演算子の役割を果たします。生成消滅演算 子が多数あるのは、ひもが色々な振動モードを持つからで、大別して αnµ と α ¯ nµ の 2 種類が存在するのは、ひもが閉じていることにより、右回りと左回りの振動モー ドが存在するためです。 ネーターの定理の観点から、系の 4 元運動量は、 ´ 1 ˙µ 1 X ³ µ −in(σ0 +σ1 ) µ µ µ −in(σ 0 −σ 1 ) √ P = X =p + αn e +α ¯n e 2π 2 2π n6=0 であり、よって pµ はひもの重心の 4 元運動量を意味します。pµ の固有値が物理 的条件によりどのように束縛されるかが重要になってきます。 1.7 ユークリッド化と複素座標 共形変換の式 : ∂α θβ + ∂β θα = −ληαβ をばらして書くと、 ∂0 θ0 = − λ 2, ∂1 θ1 = 9 λ 2, ∂0 θ1 + ∂1 θ0 = 0 ですが、θα = −δσ a だったので、これらは、 ∂δσ 0 ∂δσ 1 = ∂σ 0 ∂σ 1 , ∂δσ 1 ∂δσ 1 = ∂σ 0 ∂σ 0 を意味します。また、 τ = iσ 0 , σ = σ1 で世界面座標のユークリッド化を行えば、 ∂δτ ∂δσ = ∂τ ∂σ, ∂δτ ∂δσ =− ∂τ ∂σ となります。さらに、 z = eτ +iσ で世界面の複素座標 z を定義すれば、共形変換は、 δz = ²f (z) と表せます。ここで ² は無限小の実数、f は任意の複素関数です。実際このとき、 δz = zδτ + izδσ に注意して、上式は、 ∂δσ d f (z) ∂δτ +i = ²z ²f (z) ∂τ ∂τ dz z δτ + iδσ = ∴ z ∂δτ ∂δσ d f (z) +i = i²z ∂σ ∂σ dz z µ µ ¶ ¶ ∂δτ ∂δσ ∂δτ ∂δσ ∴ +i =0 − + ∂τ ∂σ ∂τ ∂σ を与えますが、これは τ を実数とみなすユークリッド化の観点において、共形変 換の式を意味しています (∗) 。 一方、共形ゲージにおける有効作用 S˜ は、世界面上の一般座標を χα として、 ¶ µ Z p 1 1 d2 χ − det g g αβ ∂α X ·∂β X + ig αβ cγ ∇α bβγ , S˜ = − 2π 2 ∇α bβγ = ∂α bβγ −Γδ βα bδγ −Γδ γα bβδ と書けるはずです。ここで計量と接続係数は、 gαβ ∂σ γ ∂σ δ ηγδ , = ∂χα ∂χβ Γαβγ = 1 (−∂α gβγ + ∂γ gαβ + ∂β gγα ) 2 で与えられます。特に複素座標 : z = eτ +iσ , z¯ = eτ −iσ 10 においては、 ∂σ 0 1 = ∂z 2iz, ∂σ 0 1 = ∂ z¯ 2i¯ z, ∂σ 1 1 = ∂z 2iz, ∂σ 1 1 =− ∂ z¯ 2i¯ z に注意して、 gz z¯ = gz¯z = − 1 2z z¯, g z z¯ = g z¯z = −2z z¯ ( 他の成分は 0 ), 1 1 Γz¯z¯z¯ = − ( 他の成分は 0 ) z, z¯ = b11 , b01 = b10 から bz z¯ = bz¯z = 0 であることに注意して、有 Γz zz = − となり、また、b00 効作用は、 Z ¡ ¢ 1 dzd¯ z ∂z X ·∂z¯X + icz ∂z¯bzz + icz¯∂z bz¯z¯ S˜ = 2π となります。 複素座標におけるひも座標の運動方程式が、 ∂z ∂z¯X µ = 0 となることに注意してください。その解は、任意の z の関数と任意の z¯ の関数の 和です。一方、ひも座標の一般解を複素座標で表すと、 ¢ i X 1 ¡ µ −n µ µ µ αn z + α ¯ nµ z¯−n X = x − iπp log(z z¯) + √ 2 n6=0 n ですが、これは確かにそのような形式になっています。 (*注) 複素関数を 2 次元ユークリッド空間上の写像 R2 → R2 と見たときにこれが共形になるこ とは比較的有名な話で、初等的な関数論において習うことも多いでしょう。共形対称性に関する保 存量を構成するためにはユークリッド化および複素座標の導入が不可欠となり、このため共形対 称性を持つ理論の量子論は数学的に難解になりがちです。 1.8 ゴーストの運動 有効作用 S˜ の式から、ゴーストの運動方程式は、 ∂z¯cz = ∂z¯bzz = ∂z cz¯ = ∂z bz¯z¯ = 0 です。すなわち cz , bzz は z だけの関数で、また、cz¯, bz¯z¯ は z¯ だけの関数になり ます。よって一般解は、 X X cz = i cn z −n+1 , bzz = bn z −n−2 n∈Z n∈Z 11 cz¯ = i X c¯n z¯−n+1 , bz¯z¯ = n∈Z X ¯bn z¯−n−2 n∈Z のように書けます。ここで cn , bn , c¯n , ¯bn はグラスマン数の係数です。 ∂z 1 ∂z 0 c + c = iz(c0 + c1 ), 0 1 ∂σ ∂σ µ 0 ¶ ∂σ ∂σ 0 ∂σ 1 ∂σ 1 ∂σ 0 ∂σ 1 1 = + b00 + 2 b01 = − 2 (b00 + b01 ) ∂z ∂z ∂z ∂z ∂z ∂z 2z cz = bzz に注意すると、cz /(iz) および z 2 bzz が実であり、このことから、 c∗n = c−n , b∗n = b−n です。c¯n , ¯bn についても同様で、c¯∗n = c¯−n , ¯b∗n = ¯b−n . また、 1 1 (∂0 + ∂1 ), ∂z¯ = (∂0 − ∂1 ) 2iz 2i¯ z に注意すると、有効作用のゴースト部分は、 Z ¡ ¢ 1 d2 σ zcz (∂0 − ∂1 )bzz + z¯cz¯(∂0 + ∂1 )bz¯z¯ 2π dzd¯ z = 2z z¯ dσ 0 dσ 1 , ∂z = となるので、bzz の正準共役は (2π)−1 zcz であり、 bz¯z¯ の正準共役は (2π)−1 z¯cz¯ で す。よって正準反交換関係は、 {bzz (z), z 0 cz (z 0 )}σ0 =σ00 = 2πi δ(σ 1 −σ 01 ), {bz¯z¯(¯ z ), z¯0 cz¯(¯ z 0 )}σ0 =σ00 = 2πi δ(σ 1 −σ 01 ) で与えられ、他は同 σ 0 値において反可換です。これらは、 0 {bn , cm } = {¯bn , c¯m } = δn+m (他は反可換) において満たされることが確かめられるでしょう。 1.9 共形カレントと共形保存量 共形変換はユークリッド化のもとでは一般的な複素関数による変換となるため、 その無限小変換は、 X δz = − ²n z n+1 n∈Z と表せます。ここで ²n は複素数です。また、ユークリッド化の観点では z の複素 共役が z¯ であり、よって、 X δ¯ z=− ²¯n z¯n+1 n∈Z 12 です。ここで ²¯n = ²∗n . そうすると、ひも座標 X µ (z, z¯) の無限小変換は、 X¡ ¢ δX µ = ²n z n+1 ∂z X µ + ²¯n z¯n+1 ∂z¯X µ n∈Z となり、一方でゴーストについては、運動方程式 ∂z¯bzz = ∂z bz¯z¯ = 0 に注意して、 X¡ ¢ δbzz = ²n z n+1 ∂z bzz + 2²n ∂z z n+1 bzz , n∈Z δbz¯z¯ = X¡ ¢ ²¯n z¯n+1 ∂z¯bz¯z¯ + 2¯²n ∂z¯z¯n+1 bz¯z¯ n∈Z となります。また、有効ラグランジアン密度は、複素座標において、 ¢ 1 ¡ L˜ = ∂z X ·∂z¯X + icz ∂z¯bzz + icz¯∂z bz¯z¯ 2π ですが、その共形変換は、やはり運動方程式を用いて、 à à ! ! X X 1 1 δ L˜ = ∂z ²n z n+1 ∂z X ·∂z¯X + ∂z¯ ²¯n z¯n+1 ∂z X ·∂z¯X 2π 2π n∈Z n∈Z と計算されます。よって共形変換の保存カレントを Tnα , T¯nα (α = z, z¯) とすると、 ネーターの定理から、 X¡ ¢ ²n Tnz + ²¯n T¯nz = n∈Z ∂ L˜ 1 X ∂ L˜ µ δb − δX + ²n z n+1 ∂z X ·∂z¯X, z¯z¯ µ ∂∂z X ∂∂z bz¯z¯ 2π n∈Z X¡ ¢ ²n Tnz¯ + ²¯n T¯nz¯ = n∈Z 1 X ∂ L˜ ∂ L˜ µ δb − δX + ²¯n z¯n+1 ∂z X ·∂z¯X zz µ ∂∂z¯X ∂∂z¯bzz 2π n∈Z ですが、ここから、 ¢ 1 n+1 i ¡ n+1 z z ∂z X ·∂z X + z c ∂z bzz + 2∂z z n+1 cz bzz , 2π 2π ¢ 1 n+1 i ¡ n+1 z¯ T¯nz = z¯ ∂z¯X ·∂z¯X + z¯ c ∂z¯bz¯z¯ + 2∂z¯z¯n+1 cz¯bz¯z¯ 2π 2π z z ¯ および、Tn = T¯n = 0 を得ます。 Tnz¯ = そうすると、例えば、 Z 2π Z 0 Ln = 2i dσ Tn = 2i 0 dz z z¯=s iz µ ¶ Z 1 z 1 z¯ 1 Tn + Tn = dz Tnz¯ 2iz 2i¯ z is z z¯=s はネーターの定理により保存量となり、s = e2τ に依存しません。よって特に s = 1 (σ 0 = 0) において表すと、 I dz n+1 (α) (c) (α) z ∂z X ·∂z X, Ln = Ln + Ln , Ln = 2πi 13 I ¢ dz ¡ n+1 z n+1 z L(c) = z c ∂ b + 2∂ z c b z zz z zz n 2π H となります。ここで は z z¯ = 1 (単位円) 上の積分を意味します。同様に、 Z 2π ¯ n = −2i L dσ T¯n0 0 に対して、 I d¯ z n+1 z¯ ∂z¯X ·∂z¯X, 2πi ¢ d¯ z ¡ n+1 z¯ n+1 z¯ ¯ (c) = L z ¯ c ∂ b + 2∂ z ¯ c b z¯ z¯z¯ z¯ z¯z¯ n 2π ¯ n が共形対称性に基づく保存量で、n ∈ Z ですから、これは無限個あ です。Ln , L ります。 ¯n = L 1.10 ¯ (α) L n + I ¯ (c) L n , ¯ (α) L n = ヴィラソロ代数と中心電荷 ひも座標の一般解から、 i X µ −n−1 ∂z X µ = − √ , αn z 2 n∈Z α0µ := √ 2πpµ となることに注意すると、 I dz n+1 1X (α) Ln = z ∂z X ·∂z X = − αn−k ·αk 2πi 2 k∈Z µ を得ますが、n = 0 のときは αn−k と αkν が交換しないため、これらの順序に関す る不定性を生じます。そこで上式は n 6= 0 の場合とし、n = 0 のときは、 1X (α) L0 = − : α−k ·αk : −a 2 k∈Z とします。ここで、 ( : α−k ·αk : = α−k ·αk (k ≥ 0) αk ·α−k (k < 0) は正規順序積で、a は不定の定数です。αkµ (k = 1, 2, · · · ) を全て消滅演算子とみ なしています。 (α) Ln の交換関係は、交換子の中では定数を加える不定性が消えることに注意す ると、任意の整数 n, m に対し、 1 XX (α) [αn−k ·αk , αm−l ·αl ] [L(α) , L ] = n m 4 k∈Z l∈Z 14 ですが、交換子のライプニッツ則から、 [ab, cd] = [ab, c]d + c[ab, d] = [a, c]bd + a[b, c]d + c[a, d]b + ca[b, d] ν 0 であること、および [αnµ , αm ] = −nδn+m η µν を用いれば、 (α) [L(α) n , Lm ] ¢ 1 X¡ =− (n−k)αk ·αn+m−k + (k−m)αn+m−k ·αk 2 k∈Z (α) と計算されます。n + m 6= 0 のとき右辺は (n − m)Ln+m となりますが、n + m = 0 のときは演算子の交換による定数項を生じ、結果、 (α) (α) 0 (α) [L(α) n , Lm ] = (n − m)Ln+m + δn+m An (α) と書けます。一般にこのような交換関係を持つ代数 Ln をヴィラソロ代数といい、 (α) 定数 An を中心電荷 (central charge)、あるいはアノマリーといいます。中心電荷 を直接的に導出しようとすると ∞ − ∞ のようなトリッキーな問題を生じるため、 ここでは間接的なアプローチでこれを評価することにしましょう。 まず、ヤコビ恒等式 : (α) (α) (α) (α) (α) (α) (α) (α) [ [L(α) n , Lm ], Lk ] + [ [Lm , Lk ], Ln ] + [ [Lk , Ln ], Lm ] = 0 (α) (α) (α) が、特に n + m + k = 0 において、(n−m)Ak + (m−k)An + (k−n)Am = 0 を 与えることに注意します。すなわち中心電荷は、任意の整数 n, m について、 (α) (α) (n−m)A−n−m + (2m+n)A(α) n − (2n+m)Am = 0 を満たすはずで、この式の一般解は、 3 A(α) n = C3 n + C1 n と表されます。2 つの未定係数 C3 , C1 は以下のように定まります。 √ いま、ひもの基底状態 |0 > を、全ての消滅演算子および α0µ = 2πpµ によって 消える状態としましょう : αnµ |0 > = 0 (n ≥ 0), (α) < 0|0 >= 1. (α) そうすると、L1 および L−1 が共に基底状態を消すことが確かめられるので、 (α) (α) (α) < 0| [L1 , L−1 ] |0 > = 0 ですが、ヴィラソロ代数の式と L0 の式から左辺は −2a+ (α) (α) (α) (α) A1 と評価されます。よって A1 = 2a. また、L2 は基底状態を消しますが、L−2 においては −(1/2)α−1 ·α−1 の項だけが基底状態を消さないことに注意すると、 (α) (α) (α) (α) < 0| [L2 , L−2 ] |0 > = < 0|L2 L−2 |0 > = 15 D 1 < 0|α1 ·α1 α−1 ·α−1 |0 > = 4 2. (α) ここで D = δµµ は時空の次元です。一方、ヴィラソロ代数の式と L0 の式から上 (α) (α) 式の左辺は −4a + A2 と評価されるので、A2 = (D/2) + 4a. これら結果から未 定係数 C3 , C1 が定まり、 A(α) n = D 3 (n − n) + 2an 12 を得ます。 (c) 次に共形保存量のゴースト部分 Ln についても同様に代数構造を調べてみます。 P P ゴーストの一般解 : cz = i cn z −n+1 , bzz = bn z −n−2 を用いると、 I ¢ X dz ¡ n+1 z n+1 z L(c) = z c ∂ b + 2∂ z c b (n−k)bn+k c−k z zz z zz = n 2π k∈Z を得ますが、n = 0 のときはやはり演算子の順序に関する不定性を生じるため、上 式は n 6= 0 の場合とし、n = 0 のときは正規順序積を用いて、 X X (c) L0 = − k : bk c−k : = k(c−k bk + b−k ck ) k∈Z k>0 0 とします。{bn , cm } = δn+m に注意すると、 X (c) ] = (n − m) (n+m−k)bn+m+k c−k , L [L(c) m n k∈Z (c) 0 A(c) = (n − m)Ln+m + δn+m n . (c) ここでゴースト部の中心電荷 An は、やはりヤコビ恒等式から、 3 A(c) n = B3 n + B1 n と表されることになります。未定係数 B3 , B1 を決定するために、基底状態 |0 > について、 bn |0 > = cn |0 > = 0 (n > 0) (c) を仮定すると、L1 は基底状態を消すことがわかり、 (c) (c) (c) (c) < 0| [L1 , L−1 ] |0 > = < 0|L1 L−1 |0 > = < 0|(b1 c0 + 2b0 c1 )(−b−1 c0 − 2b0 c−1 )|0 > = −2 < 0|(c0 b0 + b0 c0 )|0 > = −2. (c) (c) ところがこの式の左辺はヴィラソロ代数の式と L0 の式から A1 となるため、 (c) (c) (c) (c) A1 = −2 です。同様に < 0| [L2 , L−2 ] |0 > の評価から A2 = −17 を得るでしょ う。結果、ゴースト部の中心電荷は、 1 3 A(c) n = − (13n − n) 6 16 となります。 (α) (c) (α) (c) Ln = Ln + Ln および Ln , Ln が互いに交換することに注意すると、 0 [Ln , Lm ] = (n − m)Ln+m + δn+m An . ここで、 D − 26 3 −D + 24a + 2 n + n 12 12 は、ひも座標およびゴースト部から来る中心電荷の合計です。これが恒等的に消 える条件は D = 26 かつ a = 1 のときであることに注意してください。時空の次 元 D = 26 は、ひも理論の臨界次元と呼ばれます。 ¯n = L ¯ (α) ¯ (c) 以上の事柄は L n + Ln についてもまったく同様に成り立つことがわか (c) An = A(α) n + An = るでしょう。 1.11 ひも理論の BRS 変換と重力子 無限小のグラスマン数を ξ とし、BRS 変換を、 δB X µ = ξcz ∂z X µ , δB cz = ξcz ∂z cz , δB bzz = ξ (i∂z X ·∂z X + cz ∂z bzz + 2∂z cz bzz ) ¢ 1 ¡ ∂z X ·∂z¯X + icz ∂z¯bzz + icz¯∂z bz¯z¯ で定義すると、有効ラグランジアン密度 : L˜ = 2π に関して、 ¢ ξ ¡ δB L˜ = ∂z (cz ∂z X ·∂z¯X −icz ∂z¯cz bzz ) + ∂z¯(cz ∂z X ·∂z X −icz ∂z cz bzz ) 2π となるので、有効作用 S˜ は BRS 変換に対して不変で、その保存カレントは、運 動方程式を用いて、 JBz = 0, JBz¯ = 1 (cz ∂z X ·∂z X −icz ∂z cz bzz ) 2π となります。よって保存量である BRS 電荷は、 µ ¶ Z 2π I 1 1 dz QB = 2 dσ JB0 = 2 JBz + JBz¯ iz 2iz 2i¯ z 0 I dz (−icz ∂z X ·∂z X − cz ∂z cz bzz ) = 2πi であり、正規順序積をとって、 X 1XX QB = L(α) (n − m) : c−n c−m bn+m : c − n −n 2 n∈Z n∈Z m∈Z 17 と計算されます。実性 (エルミート性) : Q∗B = QB が確かめられるでしょう。ま た、計算は少し大変ですが、 XX X {QB , QB } = ([Ln , Lm ] − (n−m)Ln+m ) c−n c−m = An c−n cn n∈Z m∈Z n∈Z が確かめられ、BRS 電荷のベキ零性は中心電荷 An が 0 のときにのみ実現される ことがわかります : Q2B = 0 ⇔ An = 0 ⇔ (D = 26 かつ a = 1). 一般に BRS 電荷のベキ零性は特異系の量子論が無矛盾であるための必要条件なの で、ひも理論は 26 次元時空においてのみ無矛盾となり得るわけです。(なり得るだ けで、本当に無矛盾かどうかは当然ながら知る由がありません。) また、もう一つの BRS 変換を、 δ¯B X µ = ξcz¯∂z¯X µ , δ¯B cz¯ = ξcz¯∂z¯cz¯, ¡ ¢ δ¯B bz¯z¯ = ξ i∂z¯X ·∂z¯X + cz¯∂z¯bz¯z¯ + 2∂z¯cz¯bz¯z¯ で定義すると、同様にしてその BRS 電荷は、 X 1XX (α) ¯ ¯ QB = Ln c¯−n − (n − m) : c¯−n c¯−m¯bn+m : 2 n∈Z n∈Z m∈Z となります。 ひも理論の物理的状態空間を、 ¯ B |f > = 0} Vphys = { |f > | QB |f > = Q で定義しましょう。このように物理的状態を BRS 不変な状態として定義するのは、 特異系の量子論における常套手段でした。また、初期条件として、ゴーストの振 動がないことを仮定しましょう : cn |f > = bn |f > = c¯n |f > = ¯bn |f > = 0 (n > 0). そうすると、この初期条件を満たす物理的状態 |f > について、 ¯ (α) |f > = 0 (n ≥ 0) Ln(α) |f > = L n であることがいえます。共形変換は物理的な自由度でないため、直観的には物理 的な状態ベクトルは共形変換に対して不変であると考えられます。すなわち全て (α) ¯ (α) の整数 n について Ln |f > = L n |f > = 0 であることが予想されるのですが、実 際には n ≥ 0 においてのみこれが成り立つというわけです。理論の無矛盾性から a = 1 であり、このとき、 X (α) L0 = −π 2 p·p + N − 1, N = − α−k ·αk k>0 18 ¯ (α) = −π 2 p·p + N ¯ − 1, L 0 ¯ =− N X α ¯ −k · α ¯k k>0 ¯ はひもの振動に関する個数演算子を意味 となることに注意してください。 N, N X ¯ (α) αn−k ·αk (n 6= 0) でした。L しています。一方、L(α) n についても同様です。 n = k∈Z いま、ゴーストを含めあらゆる振動が存在せず、かつ 26 元運動量 pµ の固有値 が k µ となる固有ベクトルを |k > とします : pµ |k > = k µ |k >, αnµ |k > = α ¯ nµ |k > = 0, cn |k > = bn |k > = c¯n |k > = ¯bn |k > = 0 (n > 0). ¯ |k > = 0 であることに |k > は明らかに初期条件を満たします。また、N |k > = N 注意すると、 k·k = −π −2 のときに |k > は物理的状態になります。k·k は質量 2 乗を意味するので、この状 態は負の質量 2 乗を持ち、すなわちタキオン (超光速粒子) を意味しています。物 理的状態にタキオンモードが存在してしまうのは好ましくない結果ですが、この タキオンモードは実は超対称化することで消えることがわかっています。 次に、 µ ν |k, φ > = φµν α−1 α ¯ −1 |k > ¯ =1 という状態を考えてみましょう。これはひもが基本振動をする状態で、N = N を与えます。これが物理的状態であるためには、 k·k = 0, k µ φµν = 0, k ν φµν = 0 (α) (α) ¯ によって |k, φ > でなければなりません。後ろの 2 式はそれぞれ L1 および L 1 が消えるために必要です。このように振動するひもは零質量粒子となり、ちょう ど重力場の量子と考えられる重力子のような性質を持っています。これを本当の 重力子とみなしましょうというのが、量子重力理論としてのひも理論であるわけ です。 ¯ ≥2 他にも様々な高振動モードの物理的状態が存在しますが、それらは N = N を与える状態で、よって質量を持ちます。その質量は (α0 )−1/2 ∼ 1019 GeV という 巨大なものになるので、超高エネルギーが実現されない限り観測にはかからない と考えられます。 ちなみにここでは閉じたひもについてのみ考えましたが、開いたひもで同様の ことを考えると、振動モードが左右に分離せず、1 つしかないことになるため、 µ |k, ε > = εµ α−1 |k > (k·k = k·ε = 0) のような状態が零質量の物理的状態になりま す。これがゲージ粒子に相当すると考えられるわけです。 19 1.12 2 次元のスピノルと超ひも理論 θ を無限小量とし、2 次元座標 σ α に対する無限小線形変換を、 δσ α = −θ²α β σ β とします。もしこれがローレンツ計量構造を不変にするなら、²αβ = −²βα であ り、よって ²αβ を 2 次元レビ・チビタとみなすことで上式は 2 次元ローレンツ変換 SO(1, 1) を意味します。また、∂α σ α = 2 の変分を考えることで、座標微分 (一般 に共変ベクトル) ∂α のローレンツ変換式として、 δ∂α = θ²β α ∂β を得るでしょう。これは具体的には、δ∂0 = θ∂1 , δ∂1 = θ∂0 を意味し、よって、 ∂± = ∂0 ± ∂1 を定義すれば、そのローレンツ変換式は、 δ∂± = ±θ∂± ∴ ∂±0 = e±θ ∂± と分離されます。一方、 Ψ0± (σ 0 ) = e±θ/2 Ψ± (σ) のように振る舞う 2 つの場 Ψ± (σ) をスピノルと呼びましょう。そうすると、 Ψ− ∂+ Ψ− , Ψ+ ∂− Ψ+ , Ψ+ Ψ− 等は SO(1, 1) のスカラーとなります。 さて、ひも理論において、座標 X µ (σ) に、新たにフェルミオン座標 Ψµ± (σ) を 追加しましょう (µ = 0 ∼ D − 1)。フェルミオン座標は世界面上のスピノルで、実 グラスマン数に値をとるものとします。共形ゲージにおいて、作用が、 µ ¶ Z 1 1 S=− d2 σ ∂α X ·∂ α X + iΨ− ·∂+ Ψ− + iΨ+ ·∂− Ψ+ + (ゴースト部) 2π 2 となる理論を考えると、これは世界線上のローレンツ変換のみならず、 δX µ = 2iξ+ Ψµ+ + 2iξ− Ψµ− , δΨµ± = −ξ± ∂± X µ という変換に対しても不変であることが確かめられます。ここで ξ± は無限小の グラスマン数パラメータです。このようにボゾンとフェルミオンを混合する変換 を一般に超変換といい、超変換に対して不変な性質を超対称性 (supersymmetry)、 超対称化されたひも理論は超ひも理論 (superstring theory) と呼ばれます。 20 上の超ひも理論の臨界次元は D = 10 になることが知られています。また、超ひ も理論には物理的タキオンモードが存在しません。これに対しフェルミオン座標 を持たないこれまでのひも理論は、ボゾニックひも理論と呼ばれ、区別されます。 時空が実座標だけでなく、フェルミオン座標、すなわちグラスマン数の座標を 持っていることを奇異に思われるかもしれません。しかしグラスマン数で与えら れる方向の次元は我々には感知できないと考えられます。また、10 次元のうち 6 次元分が小さくコンパクト化されていて、このため我々は時空が 4 次元であるか のように認識する、と考えることができます。これはかつて時空の次元を 5 次元 と仮定することで重力と電磁力を統一しようと試みたカルツァ・クライン理論の 考え方を流用しています。 一方、実際に量子重力を含む万物の理論として考えられている理論は、パリティ を破る (カイラルでない) 混成超ひも理論 (heterotic superstring) で、例えばその作 用は、やはり共形ゲージで、 à ! Z n X 1 1 A d2 σ ∂α X ·∂ α X + iΨ− ·∂+ Ψ− + i ΨA + (ゴースト部) S=− + ∂− Ψ+ 2π 2 A=1 と書かれます。Ψµ− が時空のフェルミオン座標を意味しているのに対し、ΨA + は別 の内部空間の表現になっています。これは D = 10 かつ n = 32 で無矛盾になり 得ることが知られています。グローバル SO(32) 対称性を持つことから、SO(32) 型と呼ばれます。この他 E8 ×E8 型の超ひも理論も有力視されています。 フェルミオン座標を持つことで、理論にはフェルミオンモードが存在し、コンパ クト化された余剰次元との共鳴により様々な種類を持つことになるでしょう。そ れがレプトンやクォークであると考えられるわけです。また、これらモードを超 変換した超対称粒子 (超対称パートナー) が同様に物理的状態にあると予想されま すが、そのような粒子はいまだ 1 つも見つかっておらず、超対称粒子を発見する ことは高エネルギー加速器実験の課題の 1 つになっています。 1.13 ひも理論の発展 ボゾニックひもにせよ、超ひもにせよ、ここに示してきたひも理論は全て自由 場の理論になっています。ひもの相互作用に関しては大別して 2 つの考え方があ ります。 ひとつは、ひもの世界面として自明でないトポロジーを考えれば、それが自動 的にひもの相互作用を意味するという考え方です。粒子の世界線においては、そ れが “線” であるがゆえ、相互作用を生むためには頂点 (分岐点) の存在を仮定しな ければなりません。しかし “面” においてはそのようなものを仮定する必要がない のです (図 3)。 21 図 3: ひもの散乱 よって、生成汎関数 : Z[J] = Z DXDg eiS[X,g]+J·X .Z DXDg eiS[X,g] の経路積分を世界面のトポロジーまで含めて全て行えば、ひもの散乱振幅を計算 することができます。その計算手法が色々と研究され、一定の成果が得られてい ます。 もう一つは、ひも理論はあくまで “ひもの量子力学” であって、この理論は第二 量子化されなければならないとする考え方です。量子力学をさらに量子化し、場 の量子論となり、それが本当の量子論であると考えたようにです。ひも理論を第 二量子化した理論はひもの場の理論と呼ばれます。ひも理論がすでに 2 次元の場 の理論であるため、これは汎関数場の理論になります。 この場合、ひもの相互作用項は第二量子化の際にひも理論とは別に手で加えら れます。そしてその相互作用項が真空の相転移により運動項を生み出すと考える ことができます。これは、ひもがその隣に生成された小さなひもと融合すること により、あたかも運動 (変形) したかのように見えることに相当しています。この ようなことは粒子では起こり得ず、ひもならではの特徴です。結果、例えばボゾ ニックひもの場の理論の作用は、 S= 1 Ψ·(Ψ ∗ Ψ) 3g 2 という単純な式になり、ここで · や ∗ はある種の内積および外積的演算です。g は 結合定数です。この理論には、もはや世界面や時空という幾何学的描像はなく、単 に代数構造が存在するだけです。このような理論は原幾何学的理論 (pregeometry) と呼ばれます。26 次元時空とその内部の 2 次元世界面は、この理論の解析的表現 の 1 つとして現れると考えられるわけです。 22 この他、M 理論の研究が進んでいるようです。これは 5 つのタイプの超ひも理 論と 11 次元超重力理論が、M 理論と呼ばれる 1 つの理論のそれぞれ異なった極限 に相当するだろうという話です。M 理論はまだ完成していませんが、もしその作 用が記されれば、おそらく 11 次元時空における 5 次元膜および 2 次元膜の運動と いう描像を与えるだろうと予想されています。この場合、5 次元膜の 1 つが我々の 宇宙である可能性もあり、このような描像に基づく仮説的な宇宙論は膜宇宙論な どと呼ばれます。 一方、M 理論の低エネルギー有効場理論は 11 次元超重力理論になるであろうと 考えられています。それゆえ、くりこみ不可能であることから見捨てられていた 11 次元超重力理論が、再び意味のある近似的量子重力理論として注目されるよう になっています。 23 索引 あ わ e=1 ゲージ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 M 理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 ワイル変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 か カルツァ・クライン理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 共形ゲージ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 共形対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 共形変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 原幾何学的理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .22 混成超ひも理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .21 さ 再パラメータ化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 重力子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 スピノル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 世界面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 相対論的粒子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 た タキオン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 中心電荷 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 超対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 超対称粒子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 超ひも理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 超変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 な 南部・後藤作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 は ひもの場の理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .22 ひも理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 ヴィラソロ代数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .15 フェルミオン座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 複素座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 閉弦 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 ボゾニックひも理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 ポリヤコフ作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 ま 膜宇宙論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 や ユークリッド化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .10 ら 臨界次元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 24
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