2007年度修士論文 想起する記憶の内容によるRDIの効果の検討 一シャイネスの改善を目的として一 兵庫教育大学大学院学校教育研究科 学校教育専攻 学籍番号 臨床心理学コース MO6125H: 吉里肇 目次 頁 第1章序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 1 1.Eye Move享ne耳t Desensitization and Reprocessingとは・・∴……………・…・…1 2.Resource Develop ment and Installationとは……………・…・・……………2 2.1.RDIについての先行研究………………・…∵・…・………・・…・… …3 2.2.:RDIに関する先行研究の問題点…・…………・・……・……………・」・・4 3.シャイネスとは……・・…・……・・・… ……・…・・・・・・・… ……・……・・…6 3.1、シャイネスに関する先行研究…・…・・…・…・・……・…・……・・…・……7 3.2.シャイネス研究の問題点・……・…・・…・・・・…………・・∴…・・…・……・8 4.対人不安とは・…・・… …・…・・… 4.1.対人不安のモデル………・・… 4.1.1.Leaeyのモデル…・………・ 4.1.2.Clark&WeIlsのモデル・…… 一・・・・・・・… @P・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 11 。。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ・。・… 5.感情と記憶の理論・・……………・… 5.1.Resou罫ce AllocatioロTheory・一… …・ 5.2ゴ▽igilance述A70idance Theory・・・・… ∴ 5.3.Adaptive In董brmation processing_.. @ 。・・・・・・・・・・・・・・・・・… o 電 ■ ● o ● G ● g o ・ ● ● o ■ ● ・・。・・・・・・… @ 6・12 @。・・・・・・・・・・… 12 。・… 。・・・・・・… 13 @。・。・・一・・・・・・・・・・・… 。14 ・一一。・・・・… @。・・・・・… 。・・。。一・・… 14 ”。●●.○●●’の○●。”●。’。’ … 諱宦怐E・・… 。’・。・・。・・。・・・・・・・・・・・・・… 。・・14 。・… 15 6.対人不安に対するEMDR及びRDIの効果・………・………・…・……・…・・16 7.本研究の目的・…………………………………・・・……・…………・17 第2章研究P・・・・・・・・・・・・・・・・・… ゼ・・・・・・・… 19 1.全体の目的…・… …… …… ……・・… ………・…・……・・……・・・・… 19 2.仮説・・……・…・……・・…・・………・…・… …・・…・… 6……・・・… …20 3.研究1予備調査…・……・………’・’一●’●●●.●’”.…●.●●’●’●.曹●.’D’●●”●.20 3.1.、目的…・・………………・……・・……・………………・…・……20 3.2.方法…………・……・・…・……・………・……・・…………… …21 3.2.1.材料…・・……………・…・・…… ………・……………・…・…21 含,2.2.対象者・………… …・…σ……………・…・・… ………・…・…・21 32.3.手続き…・・……………・・………・…… …・L・・……………・…22 4.結果および考察・…・…・…・……・・…・……・・…・…・・……………・…23 4.1.WSS合計得点に関する性差による検討……・…………・………………23 42.WSS合計得点による対人不安傾向高群および対人不安傾向低群への弁別……・・23 5研究1本実験:・…・・…・…・…・………・・・・・・・・・… …・・…・…… ’・…・…24 5.1.目的・…・・…・………・……・…………… …・・・………・…・……24 5.2.方法……・・…………・・…・・…・…・……・・……」…………・・…・24 52,1.実験協力者……・………・………・…………… ……・∵…・…・24 52.2.材料…・・………………………………・……−……・……・…25 (1)旧本語版Positive and Negaもive Af飴ct Scale…………・・……………・・25 (2)想起する内容を区分したRDI実施用紙・………………・…・・…………% 5.2.3.手続き・・… ……………・・………・・……… ………・……・…・27 6,結果…∴……・……・・…・…り・…・……・・………・……・・……・…・27 6、1.想起した記憶の同一線一二同一線及び実体験一モデルの妥当性の確認…・……27 6.2.各群の等質性の確認…・・…・・………・…………・・……・…………・28 6.3.RDIの効果における性別の要因の検討………………………・………・28 β.4.想起する記憶を操作したRDIによるVoRの変化の検討………………・・…29 6.5。想起する記憶を操作したRDIによるSUDsの変化の検討…・・…………・・…30 6.6.想起する記憶を操作したRDIによるPANAS・Pの変化の検討……・………し・3ユ 6.7.想起する記憶を操作したRDIによるPANAS・Nの変化の検討・…・…・………33 7,研究1の考察………・……一・………・…・……・……………・……35 第3章研究H・… 。・・・・・・・・・・・・・・・… 。・∴・・… 36 1.研究H全体の目的・……………∴… …・…・…………・…・・……一…38 2.仮説……・・…………・…・・…・・・・・・……・・………・………・…・・…38 3.方法……・……・………………………・・一…………・・………・・39 3.1.実験協力者……・… ………… ………………・………・………・・39 3.2.材料……・・……∴…・………・・………・………………μ・……39 4.糸吉果・・・・・・・・… 。・。・・・・・・・… 一・… 7・・・… ◎・p・一・・・・・・・・・・… 。い・・・・・・・・・… 39 4.1.RDIに用いた記憶の重要度に関する弁別・…………・・… …・……一…・・39 4.2.RDIに用いた記憶の鮮明度に関する弁別………・・……・…・・……・……40 4.3.想起した記臆の重要度及び鮮明度の高低によるRDI後のVbRの変化の検討・…・41 4、4.想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によるRDI後のSUDsの変化の検討・…43 4、5。想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によるRDI後のPANAS・Pの変化……45 4.6.想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によるRDi後のPA:NAS・N4)変化……47 5.研究Hの考察____..__._.___・・_…_.…∴・・………48 第4章総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 51 1.本研究の概要・・・… ……・…・…… …。・…・…・…∫… ……………岬…51 2.本研究における成果………………・・……・…・・……・・3・……………52 2.1.研究1における成果…・……∵……・…∴…………・…・……←.’’”●52 22.研究Hたおける成果……………・・…… …・…・・……・・・… ………・53 3。今後の検討すべき課題…・・……………●●●●●’●’●●’像●●”●●●●’’’’”●’●●.’●●.54 3.1.さらなる要因分析…………・・……・…・…・…・●・●‘m’.’●●●●”●’..◎σ●54 3.2.RDIの効果のフォローアップについて………・………・………………55 3.3.他の技法とのパッケージ療法につい℃・・…・………・…・………・……・・56 3.4.アナログ研究の限界…・……………・…………・……・・………・…56 引用文献・・・・・・・・・・… 護射舌辛・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ … 6・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 58 。 ・ ・ … D … 。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ … 66 第1章序論 1.Eye Movement Desensitization and Reprocessingとは Eye Movement Desensitization鋤d Reprocessing〈眼球運動による脱感作と最処理 法;以下EMDR)は, Shapiroによって開発された心理療法である。 EMDRは,クライ 1エントが:Post Traulnatic Stress Disorder(心的外傷後ストレス障害;以下PTSD)による 外傷体験や,不安,恐怖などを喚起しうる場面を思い浮かべながらセラピストが一定の速 度で動かす指を目で追うことで不快な記憶が再処理される心理療法である。これまでにト ラウマ記憶を処理することが可能であると実証されている心理療法℃ある。 例えば,Vah Et七en&Taylor(1998)は, PTSD患者に対して薬物療法とEMDRを含む 心理療法を行った研究を元にメタ分析を行い,EMDRと行動療法が薬物療法よりも優れ 15週のフォローアップにおいても効果が維持されたと報告している。さらに,EMDRが 行動療法と比較して治療セッションが短いことを挙げ,行動療法より効率的であったと述 べている。同様iにBradle3 Gf6ene, Russ, Dutra,&Westen(2005)は, EMDRの効果につ いてはCognitive Beh鼠vior Therapy(認知行動療法;以下C8T)などと同程度であるとしな がらも,CBTにおいて宿題が課されることが多いにもかかわらず, EMDRにおいては宿 題がなく効率的であると述べている。また,Jaberghaderi, Gree捻wald, Rubin, Dolatabadi搬,&Zand(2004)は,性的虐待によるPTSDを発症している女性に対して EMDRとCBTを実施し両者共にPTSDの兆候が有意に減少することを明らかにし, EMD:Rの方がC:BTと比較してより治療セッションの回数が少ないという点において効果 的であったとしている。さらに,Pow鋤McGoldriek,.Brown, Buchanan, ShafpうSwanson, &K:aratzias(2002)は, PTSD患者に対してEMDRと暴露療法及び認知再構成法を織り交 ぜた治療技法と統制群を用いて効果の測定を行い,EMDR及び暴露療法と認知再構成法は 統制群と比較して有意にPTSDの症状を改善することを明らかにし, EMDRの方が少な いセジション数で改善するという点でより効率的であったと報告している。このように, EMDRに対して肯定的な研究結果が発表されつつある。 このように:EMDRはPTSDに対する治療効果が確認されてきており,他の様々な精神 健康問題(e.g,解離性障害:Twombly;2000,人格障害:Fensterhei搬,1996,不安障害:De 一ト Jongh&恥n Broeke,1988;,鈴木,2003)に対しての効果も期待されている心理療法である。 一しかしながら,クモ恐怖症に対してEMDRと行動療法の技法としてのエクスポージャ ーによる治療効果の研究を行っている一連の研究では,一貫してEMDRと行動療法の効 果は示されているとしながらも,EMDRで示される不安の減少の大部分は主観的な尺度に おいて顕著であると報告している(e.g,, Muris, Maastric批, Merckelbach,1995;Muris,& 鍛erckelb母ck,1997;Muris, Merckelhack, H:oldriロ£t, S寿senaa篤 1998;Muris, Merckelack, van Haaften, Naye鵯1997)。 この結果は,単一の恐怖症に対してはEMDRのみで治療を行うのではなく,エクスポ ージャーなどの実際の行動を改善することを目的とする技法とのパッケージ療法を考慮し て治療を行う必要性を示唆していると考えられる。 また,EMDRを実施する際に患者にトラウマ体験の処理に対する準備が出来ていないま ま,外傷的な記憶の再処理を試みると有害な結果をもたらすことがあり,EMDRの手続き は,厳密に8つの段階がある。具体的には,第1段階:生育歴・病歴聴取と治療計画の設 定,第2段階:治療同盟を確立するための準備,第3段階:眼球運動による処理を開始す る前にターゲットとなりうる記憶の評価,第4段階:眼球運動を中心とした脱感作,第5 段階:もとの否定的認知に代わるものとして設定された肯定的認知の植え付け,第6段階: 肯定的認知が植え付けられた後に,ターゲットとなる記憶と肯定的認知の両方を思い浮か べて,身体感覚として不快感はないかを確認するボディースキャン,第7段階:各セッシ ョンの終了時にクライエントの感情が安定した状態に戻るための終了の手続き,第8段 階:次回のセッションにおいて,前回処理をおこなったターゲットに対する再評価といっ たものである(岩井,2004)。また,、ζのように厳法な手続きを踏まえても,否定的な記憶の 多い複雑性PTSD患者などにとっては,千分な準備が出来ない場合がありEMDRによっ て処理をおこなう前の準備が重要と言われている。その準備段階で用いられる技法の一つ にResource Develop lnent a撮Iustallation(資源の開発と植え付け;以下RDI)がある。 以下にR:DIについての概略を述べる。 2.Res◎urce Development and Ins七allationとは EMDRは,先述したとおり,様々な精神健康問題に対して効果が報告されている心理療 法である。しかしながら,患者にトラウマ体験の処理に対する準備が出来ていないまま, 一2一 外傷的な記憶の再処理を試みると有害な結果をもたらすことがあり,EMDR手続きの準備 が重要と言われている。その準備段階で用いられる技法の一つにRDIがある。例えば, 1(om&Leeds(2002)は,2名の複雑性PTSD患者に対してSingle Sub5ect Designを用い て,複雑性PTSDに対するRDIの効果を検討している。その結果, RDIは複雑性PTSD の患者に対しても効果があったと報告している。K:orn&Leeds(2002>によると,RDIを行 うことによって,妨害されていた肯定的な記憶のネットワークへのアクセスが可能になり 安全に外傷的記憶を処理する準備を整えることが出来ると述べている。また,市井(2007) によると,、RDIは,否定的な記憶をすぐに処理できない不安定で否定的記憶に満ちたクラ イエントに対しても有効であり,さらに,より健康度の高い治療を求めるレベルではない 成人に対しても予防的な効果を果たすと述べている。 RDIを行うことのメリットとして,ポジティブな情動及び身体的に満足のいく状態が, 増加されることが挙げられる。例えば,即時の情緒沈静,自我強化,現在のストレッサー に直面してもポジティブな記憶ネットワークへのアクセスが増加,自発的な対処行動の増 加,自我の安定が高まることなどがあげられる。また,RDIは,対象者が自分自身で用い ることも可能な技法でもあり.RDIの技法を対象者自身が習得し実施することで,不快な 状態から開放される可能性も考えられる。 RDIの治療プロトコルは,対象者がポジティブな感情を感じる映像・音・言葉・身体感 覚・行動などの記憶を先に同定しておき,その記憶を強化することを通して,対象者の安 定化を図り,負担を軽減するものである。 Korh&Leeds(2002)は, RDIを8段階のプロトコルとして標準化している。具体的1と は,第1段階は必要:な資源を見つける.第2段階は資源の開発で,資源を達成資源・関係 資源・シンボル的な資源の3領域から選択する。第3段階は資源の記憶について,映像・ 音・におい・感情・身体感覚など知覚・感覚レベルで気づいてもらう。第4段階は資源の ノ チェックで,その資源の認知の妥当性を確認する。第5段階は資源の反復で,資源につい て言葉で繰り返す。第6段階は資源の植え付けで,資源について想起してもらいながら, 両側性の刺激を加え資源を植え付ける。第7段階は資源の強化で,資源と言語的・感覚的 な手がかりとを結びつける。第8段階は将来の鋳型の構築で,近い将来起こりうる小さな ストレス場面を思い浮かべて,対処できるようになるかを確認する(:Kom&Leeds,2002)。 このようにEMDR及びRDIは,想起する記憶の内容がポジティブな内容:かネガティブ な内容かという差異はあるものの,対象者の記憶を用いて治療的介入を行う心理療法であ 一3一 るといえる。以下にRDIについての先行研究を述べる。 2、1.RDIについての先行研究 これまでにRDIについての実証的な研究は,いくつかなされている。例えば先述した, K:orn&Leeds(2002)は,2名の複雑性PTSD患者に対してSingle SuわjecもDesignを用い て,RDIを用いた効果の検討を行っている。その結果, RDIは複雑性PTSDの患者に対 しても効果があったと報告している。 また,Ichii(2003)は,抑うつ餌向を示している大学生に対してRDIとCogni七ive Therapy(認知療法;以下CT)を実施し効果の検討をしている。その結果, RDIとCTは同 様の効果の持続を示したが,RDIの方が改善の効果に即効性が見られたとしている。この 結果は,治療に対する動機づけの点や,治療からのドロップアウトを防止する観点から見 ても有効であろうと述べている。 さらに,城間(2004)は,大学生の抑うつ傾向の軽減に及ぼすRDIの効果の維持を検討し ている。その結果RDIの効果が,約8ヶ月間という長期的な維持を示したと述べている。 さらに,上原(2005)は,抑うっ傾向のある大学生を実験協力者として,RDIに用いる資 源を自己のポジティブな側面に注目をおく群と,自己のお手本となる対象との関係に注目 をおく群の2群を設定し,その効果を比較している。その結果,群と介入時期の交互作用 は有意ではなく,両方の群において介入の前後で抑うつ傾向が軽減することが明らかにな り,:RDIの抑うつ傾向に対する効果が確認された。すなわち, RI)1は否定的な記憶をすぐ に処理できない不安定な,否定的記憶に満ちたクライエントでなくとも,より健康度の高 い,治療を求めるレベルではない抑うつ傾向を示す大学生に対する予防的な介入としても 用いることが可能であることが考えられる6 岡田(2006)は,抑うつ傾向を示している大学生を対象にRDIの効果の検討を行っている。 その結果,抑うつ傾向を示す大学生に対するRDIは従来の自伝的記憶の想起方法でポジテ ィブな記憶を想起した場合と比較して,有意に感情制御の効果を示すことを明らかにした。 この締果は,抑うっ的な大学生において感情や感覚を明確にするRDIを用いた手続きでポ ジティブな自伝的記憶を想起すると,より強固に感情を制御することが出来る可能性を示 唆している。 一4・ 2.2.RDIに関する先行研究の問題点 これまでいくつかのRDIに関する先行研究を概観してきたが, RDIの先行研究につい ては問題点も考えられる。例えば先述した,Korn&Leeds(2002)の研究では, RDIの効果 を示してはいるものの,対象者が2名と少ないという問題や,統制群との比較及び他の治 療を行う群との比較が必要であると考えられる。 また,上原(2005)は,自己のポジテ.イブな側面の想起に伴い,「それを思い出すと問題と なっているストレス場面をうまく乗り切れる自信が湧いてくるような経験はありません か」という教示を行っているが,この教示だと,自己のポジティブな側面が,閥題となっ ている側面と同じ内容を含んでいるものなのか,それともその問題とは無関係でポジティ ブな側面なのかが不明確であり,手続きを精緻化する上で課題となると考えられる。 さらに,岡田(2006)は,抑うつ傾向に対するRDIの効果を検討する際に,例外探し的に ポジティブな記憶を想起してもらう群と,非類似の記憶を想起してもらう群との効果の比 較検討を行っている。その結果,非類似の記憶でRDIを行った群がPOMSめ「活気」得 点が増加する可能性を示唆しているが,実験協力者の人数不足など不十分な検討に終わっ ている。 また,Ichii(2003),城間(2004),上原(2005),岡田(2006)などの一連の研究の実験協力 者は,抑うつ傾向にある大学生に限られている。この点について,岡田(2006)は,従来の RDIの効果検討は抑うつを対象とした研究が大部分であり,不安障害をはじめとする抑う つ以外の対象へのRDIについては改めて記憶の内容によるRDIの効果の検討をする必要 性があると述べている。様々な精神健康問題を有する個々人は多くのバイアスを示すとと が明らかになっている。例えば守谷・佐々木・丹野(2007)は,対人不安傾向高群は,肯定 的にも否定的にも考えられる対人場面において否定的な判断バイアスを示すことを報告し ており,RDIに用いる記憶においてもこの判断バイアスがRDIの効果に影響を及ぼす可 能性がある。 このようにRDIについての先行研究は,未だに研究の数や研究対象が限られており,臨 床的使用においても実証すべきことが多く残されていると考えられる。そのため,様々な 症状に対してRDIが適用可能かを検討することは大変意義深いと考えられる。 ところで、RDIは対象者の自伝的記憶を用いる心理療法と考えられる。自伝的記憶と感 情の関係について,榊(2005)は,自伝的記憶の記銘時におけるポジティブ度・想起時のポ r5一 ジティブ度・重要度という要因を用いて感情制御を促進する自伝的記憶の性質を検討して いる。その結果,実験協力者にとって,いかにポジティブな記憶かというポジティブ度の 要因と比較して,いかに重要な記憶かという重要性の要因が自伝的記憶の想起による気分 の変化に有意な影響を示したと述べている6この結果から,RDIに用いる記憶を選択する 際に対象者にとろてその記憶が重要なものかという検討も必要になると考えられる。 ところで先ほど確認したとおり,RDIは,その性質上ポジティブな感情を強化する方法 であり,:PTSDをはじめとした病理群ではない健常者に対しても効果の期待できる方法で あると考えられる。この点についてSeligm鋤(2002)は,ポジティブ心理学という観点から, 心理学はこれまで生活の悪い面を修復することにとらわれていたが,生活の良い面をも考 慮に入れていく必要があるとしている。つまり,このように一般健常者におけるポジティ ブな感情や,行動及び思考の増進という観点にたって研究を進めることは妥当であり必要 であると考えられる。その点を考慮すると,一般健常者においてもポジティブな感情が高 まることは,ポジティブ感情は記憶でのポジティブ事象への接近範囲を広げる(lseh, Johロson, Merts&Robinson,1985;Tbasedale&Fogar幅1979)ことや,この記憶特徴は 認知にも反映され,比較的中性的な刺激についてもポジティブな側面への認知を高める (lsen&Shalke蔦1982)といった研究から重要であると考えられる。 さらに,Maybery&G蛾ham(2001)1ま,一般にストレスフルな状況と考え一られている状 況の1つに,対人ストレスイベントがあり,これは最も遭遇頻度の高いストレスフルな状 況であると述べている。また,岸本・増田(1989)は,このような対人場面において大学生 男女がシャイネスをどの程度問題視するかを検討し,シャイネスを問題であると回答した 大学生は81%にも及んだことを報告している。これらのζとから,シャイネスは,広く一 般健常者にとっても問題となりうる問題であり,改善の必要性が考えられるだろう。そこ で,以下にシャイネスについて述べる。 3.シャイネスとは 日常的に経験するシャイネスとは,人と会話を行う場合や,何らかの対人場面において, ネ安や恥ずかしいといった感情などを体験することを指す。一般にシャイな人は,丁対人場 面で情動的覚醒を自覚し,動悸・発汗・赤面など特有の身体的特徴を伴い(感情・生理的側 面),本人が本来望んでいるような社会的行動が抑制され(行動的側面),他者からの否定的 一6一 評価を懸念し,Elhs(1962)の提唱した不合理な信念を伴う(認知的側面)とされている(坂 野,1995)。例えば,Pilkonis(1977a)は,対人揚面として異性のサクラを用いたシャイネス 傾向の影響を検討し,シャイネス傾向が高いほど口数や視線が合うことが少なく,会話を 始あるまでの時間が長いと述べている。Leary(1983a)によると,シャイネスの経験は, 「初対面の人に紹介されること」「誰かと初めてデートをすること」「就職のために面接を 受けること」「スピーチを行うことゴ「皆から注視されること」「見知らぬ人たちでいっぱい の部屋に入っていくこと」「試験を受けること」「権威のある地位の人と話ナこと」「物笑い の種になるζと」などであるとしている.これらの状況に共通していることは,「他人の評 価を予測するか,またはそれに直面する」という状況である。 ζのような場面に遭遇した場合われわれは,その人の話す内容や,ふるまい,そのとき 相互作用を行っている他者の態度等によって,今後の対応を検討し,その都度行動や言動 などを変更しなければならないだろう。このように対人場面は随伴的な場面であり,日常 の会話を考えてもその通りである。さらに,その際会話に関わっている人は,相互のかか わりを滑,らかに進行するために,相手の発言に応じて適切な発言をしなくてはならない。 そのような対人場面におけるシャイネスについて,Joae5, Cheek&Briggs(1986)は,入の 幸福,社会的適応,職業上の成功の妨げになりうると述べている。しかし,シャイネスと いうものは,多かれ少なかれ,誰しもが感じる感情であることも確かである。 このような不安の中のシャイネスという下位概念に焦点をあてて,検討している研究は, 不安全般の研究に比較して少ないが,いくらか存在する。以下にシャイネスに関する先行 研究を述べる。 3.1.シャイネスに関する先行研究 シャイネスに関する心理学的研究は,Zimbardo, P G.を中心とした研究に端を発する。 Zimbarao(1977)は,臨床的なデータを通じてシャイネスが様々な対人関係での不適応に影 響を及ぼすことを示し,その不適応を改善するためには,シャイネスを引き起こす原因を 解明し,それを取り除く必要があると示唆した。 こ「のような,シャイネスに関する研究として最も広く行われているのは,シャイネスと 社交性との関連についての調査である(根回,2002)。これらの研究において示されている結 果によると,シャイネスと社交性は独立した丙子であると考えられる5例えば,Cheek& 一7一 Buss(1981)は,シャイネスと社交性を示す因子を別々に抽出することを試みており,その 結果としてシャイネスを独立した因子として抽出している。その他にシャイネスと周辺領 域の関連の検討として,外向性(Pilkonis,1977b),主張性(Jones, Briggs,&S面th,1986) などが挙げられる。これらの研究によると,シャイネスと社交性,主張性,外向性は負の 相関が示されている。また,同様にシャイネスと正の相関を示した概念として,うつ(Alfbno, Join鋤&Per場1994),恐怖(Jones et aL,1986)などが挙げられる。 また,欧米では1970年代ごろから,シャイネスを測定する尺度の構成も進んでいる(e,g,, Watson&Friend,1969;Jones&Russe1,1982;Cheek&Buss,1981;McCroske又1970; Lea取1983)。それから10年ほど遅れて日本でも欧米のシャイネス尺度を翻訳するという 形でシャイネス研究が発展し,日本独自のシャイネス尺度などの作成へと発展してきてい る(e.g.,相川,1991;鈴木・山口・根建,1997など)。 岸本(2003>は,上述した7つのシャイネス尺度の下位項目を用いて因子分析を行ってい る。その結果,これらの尺度が測定しているシャイネスの因子としては,第1因子F対人 不安・緊張」,第2因子「評価懸念」,第3因子「適切な行動」,第4因子「おしゃ尽り」, 第5因子「生理的な変化」の5因子であることを明らかにした。この結果を,Lang(1968) における不安の3要素モデルで考えると,第1及び第2因子は主観的要素,第3及び第4 因子は行動的要素,第5因子は生理的要素と対応していると考えられる。 3.2.シャイネス研究の問題点 先述したとおりシャイネスが誘発される場面は多く,社会的にも問題視され,様々な研 究がなされてきている。さらに,根建(2002)は,シャイネスは臨床心理学や社会心理学の 観点から見て’も重要:な問題であるとしている。この点について,Bau膿eister& Leary(1995)は,対人関係の重要性についてはWbll・Being研究の観点からもコンセンサス を得られている内容であると述べている。また,健康心理学の観点である健康の増進と維 持という点からも重要であると考えられる。 このように臨床的にも社会的にも重要であると考えられるシャイネスという概念である が,先行研究にはいくつか問題点が指摘できる。まず第1に,「対人不安」・「聴衆不安」・ 「デート不安」拝あがり拝「スピーチ不安」・「シャイネス」などといった概念との関係が 不明瞭な点である。このことについて,Leary(1983!は,厳密に区分するのならば「対人・ 一s一 不安」・「聴衆不安」・「デート不安」・「あがり」・「スピーチ不安」と「シャイネス」の概念 は同義ではないとしながらも,対人不安という上位概念の中にシャイネスを含むこれらの 多様な用語は統合して考えられることを示唆している。 さらに,第2にシャイネスという用語の定義についての問題である。それは,第1の問 題同様にシャイネスの研究において,シャイネスという概念の定義が一致した見解として 存在していないことを示している(関口・長江・伊藤・宮田・根建,1999)。 例えば,定義の中にシャイネスの現象的な特性として抑制行動や回避行動のパターンの みを含めているものもある。watson&Friend(1969)は,他人から評価される不安を「対 人場面における苦悩・不快・恐怖・不安などの経験」であり,「対人場面を意図的に回避す ること」や「他者から否定的な評価を受けることへの恐れ」と定義している。しかしこの ような定義には問題がある。なぜならば,・シャイネスのような内面的感情と回避行動また は抑制行動のような外面的様相との間には必ずしも必然的な結びつきはないからである。 確かに対人場面に敏感な人たちは,「無口」で「抑制的」で「逃げ腰な」態度を示しがち である。だが,Pilkonis(1977)や菅原(1998)が述べているように,行動的には問題ないが 実際には心の中で不安を感じている人もいるはずである。そのため,watson& Friend(1969)の研究のように行動論で不安を定義するこどは難しいことになる(Lea堀 1983)。 Leary(1986)は,このような問題点を考慮して,シャイネスとは,「現実の,あるいは想 像上の他者からの評価の結果起こる,対人抑制と社会不安に特徴づけられる,感情・行動 症候群」と定義している。しかしながら,このLeary(1986)の定義にも問題がある。㍉例え ばCheek&Watson(1989)によると,この定義によると不安などの感情的な輝験と,行動 の抑制が同時に起こる必要があり,シャイネスを自覚しているにもかかわらず行動面では 聞題が生じない人(e.g., Cheek&B“ss,1981)はシャイネスの定義から外れてしまうこと や,感情という用語に認知的過程を混在している点を指摘している。例えばゴ Pilkonis(1977a)は,自らをシャイだと認める人たちについてのクラスター分析を行い,人 前で堂々とうまく振舞えないといった行動面に悩むグループと,行動的には表出されない が,人前で高まる不安の感覚に悩むグループとに区分できることを示している。さらに菅 原(1998)は,対人不安傾向と対人消極傾向は異なった因子として抽出され,対人不安傾向 は公的自意識や拒否回避欲求との正の相関,自尊感情との負の相関を示し,対人消極傾向 は社会的スキルや賞賛獲得欲求との負の相関を示すことを明らかにしている。このように, 堵9一 内面的な感情と回避行動との間には別々の過程があると考えられる。 そこでCheek&watso纂(1989>は,シャイネスに対する新たなモデルとして3要素モデ ル(Thre6 Component ModeDを提唱している。このモデルによるとシャイネスとは,認 知・感晴・行動のいずれかもしくは複数の問題を伴う症候群として定義することができる。 例えば,Cheek&Melchior(1990)によると,シャイネスの認知的兆候として,鋭敏な公 的自意識,自己非難的思考,他者からの否定的評価への恐れを挙げ,感情的兆候として, 情動的覚醒を自覚すること,動悸,発汗,赤面といった特有の身体的兆候を挙げている。 さらに行動的兆候として,望ましい社会的行動の欠如を挙げ,、これらの症状が様々に生じ る症候群であると述べている。 Cheek&Watson(1989)のモデルは, Lang(1968,19771による不安のモデルとも一致し ており,さらに不安や恐怖といった問題に対して実証された心理療法、である認知行動療法 (以下CBT)におけるアプローチとも一致している。 アメリカの臨床心理学者であるEllis(1962)が先鞭をつけたCBTは,1970年代以降に, 欧米を中心に大きく発展してきた。このC:BTによるシャイネスへの治療効果が有効であ ること(e.g.,長江・根建・関口,1999;伊藤・根建・長江,2000;根建,2002)から,シ ャイネスは3つの側面からアプローチすることが重要であり,自然だと考えられる。 市井(2004)は,認知行動療法では,症状を行動面,認知面,生理面といった3側面で理 解することが多く,個々のクライエントの症状に対して,3つのどの側面が優位なのかを 判断し,その側面に焦点を当てた治療を施すことを考えると述べている。このようなアプ ローチをとった研究例はH:aug, Bre捻ne, Johnsen,&Bemtzen(1987)があり,クライエン .トの問題としている側面と,治療アプローチが一致した群が,クライエントの問題として いる側面と,治療アプローチが一致していない群と比較して,治療が有効であった。この ことからも,CBTのアプローチが妥当であることが明らかである。このように不安を3 側面に分類する意義は,その不安の3側面に最適なアプローチが,選択可能になることか ら臨床的な意義が高いといえるだろう。 そこで,本研究では,シャイネスの定義を,現実の,あるいは想像上の対人場面におい て,他者からの評価に直面したり,もしくはそれを予測したりすることから生じる不安状 態であり,そのシャイネスの反応は,認知・生理・行動といった3側面から構成されてお り,その3側面を総合的にとらえるべきものであると定義する。加えて,Leary(1983)が 述べている通り,シャイネス研究を行うに当たり対人不安の概念を流用する必要性がある 一10・ と考えられるので,以下に対人不安について述べる。 4.対人不安とは 丹野(2001)によると,対人不安には症状の強弱があり,普通の人にも見られる程度の軽 いものを,「対人不安」と呼び,シャイネス,対人緊張,気おくれ,あがり,人見知りなど が含まれると述べている。同時に,対人不安より苦痛が強まり,生活に支障が出るように なったものが対人恐怖であるとしている。 DSM・W−TR(A血erica Psychiatric Association,2000)は,対人恐怖症を目本における文 化特異的な恐怖症であり,DSM・IV・TRの社会恐怖とある面で類似していると述べている。 また丹野(2001)は,DSM・IVにおけるSocial Phobiaを対人場面における恐怖であるとし, 対人恐怖としてめ診断定義として流用している。DSM・W・TRによる社会恐怖の定義を Tab16.1に示す。 Table,1DS腔押一TRにおける社会恐怖の診断基準 A♂ よい人こ.の剛で’人の注 谷びるか し ょい 瓜・’況 こはイ丁映 る い う状況の1つまたはそれ以上に対する顕著で持続的な恐怖,その人は,自分が恥をかかされた り,恥ずかしい思いをしたりするような形で行動(または不安症状を呈したり)することを恐れ 注:子どもの場合は,よく知っている入とは年齢相応の杜会関係を持つ能力があるという証拠 が存在し,その不安が,大人との交流だけでなく,同年代の子どもとの問でも起こるものでな ・ければならない, B,恐怖している社会的状況への暴露によって,ほとんど必ず不安反応が誘発され,それは状況依 存症,または状況誘発性のパニック発作の形をとることがある, 注:子どもの場合は,泣く,かんしゃくを起こす,・立ちすくむ,またはよく知らない人と交流 する状況から遠ざかるという形で,恐怖が表現されることがある. C その人は,恐怖が過剃であること,または不合理であることを認識している. 注;子どもの場合,こうした特徴のない場合もある. D.恐怖している社会的状況または行為をする状況は回避されてレ.・るか,またはそうでなければ, 強い不安または苦痛を感じながら耐え忍んでいる. E,恐怖している社会的状況または行為をする状況の回避,不安を伴う予期,または苦痛のため に,その人の正常な毎日の生活習慣,職業上の(学業上の)機能,または社会活動または他者と の関係が障害されており,またはその恐怖症があるために著しい苦痛を感じている、 F.18歳未満の人の場合,持続期間は少なくとも6ヶ月である. 心.その恐怖または回避は,物質(例:薬物乱用,投薬)またな』般身体疾患の直接的な生理学野作 用によるものではなく,他の精神疾患(例:広場恐怖を伴う,または伴わないパニック障害,「 分離不安障害,身体醜形障害,広汎性発達障害,または分裂病質人格障害)ではうまく説明さ H.一般身体疾愚または他の精神疾患が存在している場合,基準Aの恐怖はそれに関連がない,例 えば,恐怖は,吃音症,パーキンソン病の振戦,または神経性無食欲症または神経性大食症の 凸オ た 示 こ (のi熟で オい ,1レ 4、1.対入不安のモデル 4.1.1.Leaeyのモデル Leary(1983)は,一般的な人が感じる対人不安についてのメカニズムをモデル化してい る。このモデルは,丹野(2001)が,対人不安の認知理論の士:台をなしてめると述べている。 Leary(1983)によると,対人不安は,他者によい印象を与えたいという欲求が有るにもか かわらず,それをなしえる自信が無いときに生じると考えられている。このモデルは Figure.1のように示すことができる。 Leary(1983)のモデルでは,「自己」を「主我ユと「自己イメージ」に区分して考えてい る。「主我」は主体としての自己であり,噛己イメージ」は,客体としての自己である。 人は,呈示したい自己イメージについての自己呈示欲求①と,自己呈示の効力感②・③を 比較検討し,望んだとおりの自己イメージを呈示できる場合は,対人不安は生じないが, それが出来ない場合には対人不安が生じるとしている。 自己イメージ 、i ’率、、③ i \ 1 \ i \、 自 i・ ♪ 己 i / 三 /ノ ,1/② ’i ’●・・....。…..岬. 實 Flgure.1 Leary(1983)の対人不安理論 ①は自巳呈示欲求 ②と③は自己呈示の効力感 一12一 イメージ上の他者 4.12.Clark&W611sのモデル Clark&Wblls(1995)やWells&Clark(1997)のモデルは,丹野(2001)によると認知療法 におけるABC図式で表現することが可能である。 丹野(2001)によると対人恐怖の人は,(1)対人恐怖スキーマと呼ばれる独特の信念を持っ ている。(2)恐れている場面に遭遇すると(3)自動思考が浮かんできて,その場面を危険であ ると認知する。すると,(4)「観察者視点の自己注目」.という特殊な状態になる。こうした 状態になると,(5)不安症状やく6)不合理な対処行動などが生じてくるとしている。このモデ ルに従うならば,対人恐怖の治療には対人恐怖スキーマを変えることが有効であると考え られる(Figure2)。 〈A:出来事〉 〈B:認知〉 〈C:感情〉 5.不安症状 3.自動思考 4.観察者視点 の自己注目 2.対人場面 1、対人恐怖スキーマ Flgure.2対人恐怖の認知モデル(丹野,2001)より 一13一 〈D:行動〉 6.不合理な 対処行動 Leary(1983)やClark&W611s(1995>やWblls&Clark(1997)のモデルを検討すると,対 人不安という1症状にとって自己に対する認知やイメージが重要な要因となっていると考え られる。近年の認知心理学や神経心理学などの見地からすると,自己イメージや自己認知 に対して記憶という概念が重要な要素として述べられている(e.g.,小松・太田,1999)。ま ちこのような不安についての先行研究においては,独立変数として感情を用いるなどし て,記憶という認知的な指標を用いて検討を行っているものが多い(e.g.,:Lofしus&Bur血s, 1982;Wagenaa鶏 1986;Bradley;Gree聾wa.ld, Petr防 &1.ang,1992;Dobson& Markham,1992;Wenzel&H:olt,2002)。そこで以下にこのような不安などを含む感情と記 憶の理論を検討する。 5.感情と記憶の理論 5.1.Resource Allocatioh Theory Ellis&Ashbrook(1988)は,記憶課題の実施において,注意が記憶課、題とかかわりのな い不適切な側面に向けられるならば記憶が低下すると述べており,人が記憶課題のような 情報処理課題を遂行する際にはリソース(心的エネルギー)を必要とし,課題の適切な側 面にリソースを配分しなければ,記憶成績が低下するというResource allocaもion theory を提唱している。 この理論では,記憶課題に関して課題と直接関係のない個人の心的状態は課題に関して 妨害的に作用するということになる。対人不安傾向にもこの理論が適用できるならば,対 人不安傾向の高い実験協力者は,対人不安を誘発するような不快刺激の記憶課題を実施す ると,記憶成績が低下するということになる。 5.2V茎gilance・Avoidance Theory 瓢oog, Mathews&Wbinman(1987)の提案しているVigilance・Avoida益ce Theoryによる と,特性不安傾向の高い個々入は,おそらく彼らの周りの不安刺激を発見することを促進 するためにその不安に関する注意バイナスを示すが,長い間その状況に自分を晒すことに 耐えられず,実際にはその状況の精緻化処理を回避するということになる。そのため,特 一14一 性不安傾向の高い個々人は,その不安場面を現実的に評価するために不安場面を正確に再 生することが困難になる。 対人不安傾向においてもこの理論が適用できるならば,:Resource allocation theoryと同 様に,対人場面で不快感情を喚起する刺激の記憶課題の再生成績が低下すると考えられる。 吉里・皆川(2005)は,吉里・皆川(2004)によって作成された快一不快という次元および 興奮一安静という次元で感情を喚起する会話文を用いで対人不安傾向の高低によって実 験協力者を弁別し,対人場面の想起に及ぼす個人差要因の検討を行っている。その結果, 会話文の快一不快度と興奮一安静度の交互作用が,対人不安傾向の低い群にのみ見られ, 対人不安傾向の低い実験協力者は,興奮度の高い不快な感情を喚起する会話文を有意に再 生していることが明らかになった。この結果は,対人不安傾向の高い実験協力者は,刺激 内容の不快な部分にリソースを消費してしまうために,記憶課題の精緻化処理を行わない という:Ellis&Ashbrook(1988)の提唱しているRe source AHocation Theoryを支持するも のであると考えられる。 さらにこの結果を,Mogg, et al.(1987)の強調しているVigilance−Avoidance Theo増に 当てはめて検討すると,対人不安傾向の高い個々人は,対人場面での不安を発見すること を促準ずるために不安に関する注意バイアスを示すが,長い間その状況に自分を晒すこと に耐えられず,実際にはその状況の精緻化処理を回避するということになる。一 サのたダ), 対人不安傾向の高い個々人は,その不安場面を現実的に評価するためにおこなう必要があ る不安場面の正確な再生処理をおこなうことが困難になるのではないかと考えられる。こ の結果は,、対人不安傾向の高い実験協力者が対人不安を維持してしまうことに影響を与え ていると考えられる。 5.3ムdaptive I陰{brma七io益Processin9 Adapting Ihfbmlation Processi丑g(適応的情報処理モデル;以下AIP)は,:EMDRの治療 セッションの問に観察された臨床上の現象を説明し,そして実践中の臨床家を効果的な適 用に導くために作成されたものである(胡桃沢,2004)。AIPでは,体験された出来事のイメ ージ,感覚,思考や感情そして身体感覚などの記憶の要素はひとつの情報の集合体として 記憶のネットワーク内に貯蔵されており,それらが記憶のネットワーク内のほかの情報と 相互に連結していると考えられている(東郷,2007)。 一15一 このモデルによると不快な記憶は,日常生活の中で類似の状況に遭遇し,意識化するこ とにより処理が促進され,過去の出来事として貯蔵されていく。しかしながら,ひどい心 的外傷を経験すると,神経伝達物質やアドレナリンなどの変化によって神経系統のアンバ ランスが生じ,機能不全の状態に陥り,その出来事の際のイメージ・音・感情や身体感覚 を含む情報は神経学的に混乱した状鱒のまま維持される(Shapiro,2001)。このような記憶 をEMDRで処理することによって,肯定的な記憶のネットワークに関連付けを行い,現 在の行動の修正や肯定的な感情を引き出すことが可能になると考えられている。 6.対人不安に対するEMDR及びRDIの効果 シャイネスに言及したEMDRの効果の検討の先行研究は見うけられないが,対人不安 に対する治療効果の検討は,本邦においてこれまでに1件報告されている。鈴木(2003)の 症例報告によると,思春期・青年期の代表的な問題として対人不安を取り上げ,EMDRの 適用を試みている。その結果,対人不安の症状形成がより明らかになり,治療の効果とし てはこれまでにエビデンスの構築されているその他の心理療法と遜色ない経過をたどった と報告している。また,EMDRを用いることのメリットとして,対人不安を生じさせる原 因となった記憶の苦痛度についてSubjective Unit of Disturb鋤ce Scale(主観的障害単 位;以下SUDs)を用いることや再処理が十分に行われたことを示す単位としてのvalidity of CQgHition(認知の妥当性;以下VbC)など治療の効果を数値で示すことができ,治療効果 をクライエントと治療者が認知し,共有できる点が大きな特徴であると述べている。しか しながら,鈴木(2003)の報告は事例研究であり,今後シャイネスを含む対人不安全般に対 するEMDRの効果の検討が望まれるだろう。 ところで,EMDRを抑うつ傾向に対して用いた一連の研究(e.g., Ichii,2003;城間, 2004;上原,2005;岡田,2006)において,EMDRが有効であったと報告している研究が多 い。これらの研究はEMDRにおけるRDIという技法を用いて介入を行っている。 AI董bno, Joine鴨&Perry(1994)によると,シャイネスとうつは正の相関が示されることを報告して いることから,シャイネ冬に対してもRDIが効果を有する可能性が示唆される。 しかしこれまで,RDIに用いるポジティブな感情を生じさせる記憶を,問題となってい る場面と関連のある記憶か,そうでない記憶かという記億の同一線一非同一線の次元及び, 対象者本人が体験した記憶か,対象者が良いお手本と感じた他者のイメージかという記憶 一16一 の実体験一モデルという2次元で記憶の内容を耳分し効果の検討をしている研究は,不十 分な検討に終わっている(e.g.,上原,2005;岡田,2006)♂さらに,榊(2005)は,自伝的記 憶の愚暗時におけるポジティブ度・想起時のポジティブ度・重要度という要因を用いて感 情制御を促進する自伝的記憶の性質を検討している。その結果,実験協力者にとっていか にポジティブな記憶かというよりもむしろ,いかに重要な記憶かという点が出来事の想鐸 による気分の変化に有意な影響を示したことを報告している。この結果から,RDIに用い る記憶を選択する際にも対象者にとってその記憶の重要度は,RDIの効果に関連すると考 えられる。また,東郷(2006)は,高校生の自尊感情を高める目的でRDIを実施し,その際 に記憶のポジティブ度・重要度・鮮明度といった要因による検討を行っている。その結果, RDIの効果に影響のある要因として,記憶のポジティブ度及び記憶の重要度を挙げ記憶の 鮮明度は影響しないごとを明らかにしている。 7.本研究の目的 本研究全体の目的は,大学生のシャイネスに対するRDIの効果の検討を行うこととする。 その際RDIの治療プロトコルの中の要因として,実験協力者を対人場面においてシャイネ スを感じている健常な大学生及び大学院生を対象として,想起する内容の異なるRDIにお けるシャイネスの軽減効果の検討を行うことを目的とする。 具体的には研究1において,RDIを実施する際に取り上げる記憶として,対処したい問 題と関連の強い記憶(以下;同一線上の記憶1)と関連の無い記憶(以下;非同一線上の記憶2) の要因,そして,対象者が実際に体験したことのある記憶(以下;実体験)と対象者が実際 に体験したわけではなく他者やアニメのキャラクターなどの対処したい問題に対して高い 能力を有すると被験者が感じるモデル(以下;モデル)の要因が混在している点に着目し, 1同一線の記憶とは,例えば対象者が対処したい問題として「友人を遊びに誘う場面で断られるかどうか について不安に感じる」ことを挙げた場合,例外的に友人等の他者を何かに誘う場面で成功をして,ポジ ティブな感情を想起した記憶等が考えられる。 2非同一線の記憶とは,例えば対象者が対処したい問題として「友人を遊びに誘う場面で断られるかどう かについて不安に感じる」ことを挙げた場合,他者の前で発表をして,とても賞賛され嬉しかった記憶等 の対処したい場面と関連性が低い記憶が考えられる。 一17. 想起する記億の内容がRDIの効果に与える影響を検討する。 そして研究Hとして,榊(20σ5)の述べている記憶の内容の重要性という概念及び東郷 (2006)の述べている記憶の鮮明度がRDIの効果に与える影響を検討することを目的とす る。具体的には,RDIに用いた記憶について各実験協力者に対して重要度及び鮮明度を評 定してもらいそれを基準として重要度高群・重要度低群及び鮮明度高群・鮮明度低群に区 分しRDIの効果に与える影響を検討する。 一186 第2章研究1 1.全体の目的 本研究全体の目的は,大学生のシャイネスに対するRDIの効果の検討を行うことである。 先述したとおり,これまでのRDIの先行研究は,対象者を拗うっ傾向のある大学生を対象 としたものがほとんどであり(e.g。, Ichii,2003;城間,2004;上原,2005;岡田2006),シ ャイネスに対してRDIを実施した先行研究は見受けられない。しかし, Alfb簸。, Joi珠e鴨& Perry(1994)は,シャイネスと抑うつ傾向の関連を検討し,両者は緩やかな相関関係がある こ≧を報告している。このことから,撫うつ傾向を対象としたRDIの効果の検討を基にシ ャイネスへの効果を検討する。拗うつ傾向を対象とした先行研究の結果からは,RDIを実 施した場合と実施後を比較すると実施後のほうが有意に抑うつ傾向に伴う不快感情が低下 していると考えられる。 しかしこれまで,RDIに用いるポジティブな感情を生じさせる記憶を,問題となってい る場面と関連のある記憶か,そうでない記憶かという記憶の同一線一非同一線の次元及び, 対象者本人が体験した記憶か,対象者が良いお手本と感じた他者のイメージかという記憶 の三二験一モデルという2次元で記憶の内容を区分し効果の検討をしている研究は,不十 分な検討に終わっている(e、9.,上原,2005;岡田,2006)。そこで研究1では,想起する記 憶の内容を操作的に定義し,同一線×実体験・同一線×モデル・非同一線×実体験・非同 一線×モデルの4群におけるRDIの効果の検討を目的とする。具体的な4群の概要につい てはFiguτe.3に示す。 非同一線 叢 同一線 十 十 実体験 実体験 由 一 非同{線 同一線 士モrrル 差 十 cfル Figure.3 R創に用いる記憶の蔓国 一19り 2.仮説 研究1における仮説としては,以下の3点が考えられる。 1.抑うつ傾向に対してRDIを実施した先行研究の結果によると, RDIによって掬うつ傾 向の低下が報告されている。Alfbno, et、al.(1994)が述べているように,抑うつ傾向とシャ イネス傾向は関連があることを考慮すると,シャイネス傾向に対してもRDIは同様に効果 を示す。 2.上原(2005)によると,RDIに用いる記憶を実験協力者が実際に体験した記憶に限定す る群と,実験協力者が実際に体験した記憶ではなく自己のお手本となりうるモデルとの関 係に注目をおく群の2群で比較した場合,群の主効果は見られず全ての群においてRDI の主効果が示されている。そのことより,RDIに用いる記憶を実体験とモデルに区分した 場合,効果に差は見られず両三とも有意にRDIの効果が示される。 3.岡田(2006)によると,例外探し的に記憶を想起してもらう群(同一線)と,非類似の記憶 を想起してもらう群(非同一線)によるRDIの効果を検討し,非類似の記憶でRPIを行った 群がより効果が報告されたとしている。また,守谷他(2007)の研究においても対入不安傾 向高群は,対人場面における曖昧で肯定的にも否定的にも判断できる状況において否定的 な解釈をしてしまう判断バイアスを報告している。このことより,RDIに用いる記憶を同 一線の記憶と非同一線の記憶に区分した場合,同一線の記憶では,否定的な解釈をおこな いやすくなる可能性があるため,非同一線の記憶によるRDIを用いた群のほうがより効果 が示される。 3.研究1’ ¥備調査 3.1.目的 研究1の予備調査では,シャイネス傾向の高い実験協力者を収集するために,既存のシ ャイネスを多面的に測定することのできる尺度によって,実験協力者を選択することを目 的とする。 一20一 その際に本研究におけるシャイネスの定義である,「現実の,あるいは想像上の対人場面 において,他者からの評価に直面したり,もしくはそれを予測したりすることから生じる 不安状態であり,’その対人不安の反応は,主観的(認知的)な要素と生理的な要素,さら た行動的な要素の3つから構成されており,その3つの側面を総合的に判断するべきもの である」という定義に合致した自己記述式の質問紙を用いて実験協力者を選択する。 32.方法 3.2.1.材料 シャイネスを測定する尺度は,これまでに多く作成されている。例えば欧米でに,Cheek &Bus8(1981)のshyhess scaleや, Leary(1983b)のlnteraction anxiousロess scaleまた, Watson&Friend(1969)のSQcial avoidance a臓d distress scaleなどがある。しかし,この ような尺度には,以下のような問題が挙げられる。例えば,Cheek&Buss(1981)のshyness scaleは,シャイネスの経験や行動に限定した項目で構成されており, Leary(1983b)の Interaction anxiousness scal白や, Watso益&恥iend(1969)のSocial avoidahce alld distress scaleは,故意に行動的要素が排除され,社会的状況での不安傾向のみ測定してい る。 さらに本邦では,今井・押見(1987)が,シャイネス尺度を作成しているが,項目の選 定基準に疑問が残るとともに,妥当性の検討が十分ではないように思える。また,桜井・ 桜井く1991)はJones&Russell(1982)の作成したSocial Reticence Scaleを邦訳したシャイ ネス尺度目本語版を作成したが,項目全体相関の低い項目が含まれており,さらに累積寄 与率も高くなく,今後改善が待たれる尺度であると考えられる。さらに,相川(1991)の作 成した特性シャイネス尺度は,近年の不安の3側面という多面的測定の視点の一つである 認知的側面が検討されていない。 このような問題点を考慮した質問紙として,鈴木・山口・根建(ig97)の早稲田シャイネ ス尺度似下;WSS)がある。 WSSは,本研究におけるシャイネスの定義である,「現実 の,あるいは想像上の対人場面において,他者からの評価に直面したり,もしくはそれを 予測したりすることから生じる不安状態であり,そのシャイネス反応は,主観的(認知的) な要素と生理的な要素,さらに行動的な要素の3つから構成されており,その3つの側面 一2レ 々総合的に判断するべきもの」という内容を尺度作成の際の定義として用いており,項目 についても内的整合性や臨床的妥当性などを検討し,おおむね満足のいく結果を得ている ことから,本研究で用いるに十分な尺度であると判断した。そこで本研究では,WSSを用 いて対人不安傾向を測定することとした。 WSSは,全25項目から構成されている。項目は,5因子で構成され,各因子とも5項 目の下位尺度からなっており,因子1:行動(消極性),因子2:感情(緊張),因子3: 感情(過敏さ),因子4:認知(自信のなさ),因子5:認知(不合理な墨考)となってい る。回答形式は,1:まったく当てはまらない,2:あまり当てはまらない,3:どちら ともいえない,4:だいたい当てはまる,5;ぴったり当てはまる,の5件法であり,合 計得点は各因子とも5点から%点の間に分布し、得点が高いほどシャイネス傾向が強い ということになる。なお,全25項目のうち10項目は逆転項目である。 また,WSSは上記のような5因子によって,認知,感情,行動の3側面を個別に測定 することもできるが,全俸でシャイネスという一つの概念を測定することも可能である。 本研究は,シャイネス全般を研究対象としているので,合計得点を基にシャイネスを測定 することにした。WSSによる臨床群と健常群のカットオフ値:は存在しないため,本研究に おいては対象者の平均得点よりも高い得点の実験協力者をシャイネス傾向高群とした。 3.2.2.対象者 大学生および大学院生173名に実施し,そのうち有効回答は1物名で,男性77名(平 均年齢21.44歳,標準偏差1.81),女性95名(平均年齢21.23歳,標準偏差1.65)であ った。なお有効回答率は99.4%であった。 3.2.3.手続き WSS調査用紙を大学生および大学院生に,講義の時間や,個別に調査用紙を配布し,回 答を依頼した。調査用紙には,後の実験に参加してもらうために,氏名,年齢性別およ び連絡先を記入する欄を設けてあった(資料1,参照)。 一22一 4.結果および考察 4。1.WSS合計得点に関する性差による検討 本研究で得られた結果を分析する統計パッケージは,SPSS(15.OJ fbr windows, SPSS 社)を用いて分析を行った.WSSの得点の平均点を実験協力者の性別ごとに算:出した.結 果をTable。2に示す。 Table.2 WSSの得点の平均値と標準偏差(ハ句72) 男性(ハ潭77) 女性(ハ犀95) 全体(飛172> 性別 平均値: 70.40(15.42) 74.14(12.45) 72.47(13.94> ()内は標準偏差を示す 鈴木他(1997)によると,WSSの得点に関して性別による得点の差は存在しない。本研究 の実験論力者においても,性差が現われないかどうか確認するために,性別によるWSS の得点の一元配置分散分析を試みた。その結果,本研究の実験協力者のWSSの得点にお いても,有意な性別による得点差は存在しなかった(双1,170)=3.086,p>.1)。そのため, WSS の得点については性別の要因を除いて今後の検討を行うこととした。・ 4。2.WSS合計得点による対人不安傾向高群および対人不安傾向山群への弁別 本研究におけるWSSの平均得点である72.47点より得点の低い実験協力者をシャイネ ス傾向低回とし,平均得点より高い実験協力者をシャイネス傾向高群という2群に弁別し た。その結果をTable3に示す。. Table,3 WSSの得点上位群と下位群の王均値と標準偏差(A』172) 得点下位群(ハ』86) 得点上立群(ハ揖87) 性別 男性(薙36) 平均値 82.97(9.20) 女佐(ハ局1) 男性(ハβ41) 女性(ム島44) ε3.02(9.04) 年9。37(10.5φ) 63,84(6.46) ()内は標準偏差を示す 一23一 WSSの得点によって弁別したシャイネス傾向高群とシャイネス傾向低群の問には,有意 な得点の差が存在すると予測される。そこで・弁別したWSSの得点の高低および,性別 による二元配置の分散分析を行った。結果,シャイネス傾向高低の主効果が(夙1,168)離 244.764,〆.001)で有意であった。また、性別とシャイネス傾向高低の交互作用は有意で はなかった。 以上の結果より,今回WSSを用いて抽出した実験協力者は,シャイネス傾向の高低に よって有意に,弁別がなされていると考えることができる。そこで,本調査の結果より, 今後の実験における実験協力者として妥当であると判断し,WSSの得点が73点以上のも のをシャイネス傾向高群として今後の実験協力者とした。 5.研究1本実験 5.1.目的 想起する記憶を操作することが,シャイネス傾向高群に対するRDIの効果にどのような 影響を及ぼすかを検討することを目的とした。 5.2.方法 5.2ユ.実験協力者 予備調査で選別したシャイネス傾向の高い大学生及び大学院生32名を実験協力者とし て選別した。内訳は,男性18名(平均年齢23.06歳,標準偏差1.44),女性14・名(平均年齢 22.31歳標準偏差1.25)であった。Table.4に内訳を示す。 、Table.4実験協力者の平均年齢とWSSの平均得点(傘32) 男性(ハ』18) 女性(ハと14) 平均年齢 23.06(1←44) 22.31(1.25) WSS平均 79.67(7.20) 79.?9(6.99) 〈)内は標準偏差を示す 一24一 5.2.2.材料 (1)日本語版:Positive and Nega七lve A施ct Scale 日本語版Posiもive and Negative A伽ct Scale(以下;PANAS)は, Watson, Clark,& 艶1至egen(1988)を基に,佐藤・安田(2001)によって邦訳された実験室状況で簡便に使用で きる感情ならびに気分評定尺度である。PANASは}快感情と不快感情は独立した次元を 構成するという立場から作成された尺度であり,快:感情8項目(以下;PANAS・P),不快感 情8項目(以下;PANAS・N)の2因子で,合計16項目から構成されている。尺度の信頼性 及び妥当性も十分に検討されており,快感情及び不快感情を実験室内で測定できるという 点より本研究においての使用が妥当であると考えられた。回答形式は,1:全く当てはま らない,2:当てはまらない,3:どちらかといえば当てはまらない,4:どちらかとい えば当てはまる,5:当てはまる,6:非常によくあてはまる,の6件法であり,合計得 点は各因子とも6,点から36点の問に分布し,得点が高いほど快感情,不快感が強いこと を示す。実際に用いた調査用紙は,RDIの実施前後の評定において項目をランダムに配置 することで,項目の順序効果を相殺した。具体的な項目は資料6に示す(資料6,参照)。 (2)想起する内容を区分したRDI実施用紙 実験者3がRDIを実施する際に用いる記録用紙を自作して実験を行った。作成に際して は,EMDR及びRDIに関する指導の資格を有している臨床心理学を専門とする大学教員 との協議の上で作成した。具体的には,RDIに用いる記憶を記憶の同一線一非同一線とい う次元と,実体験一モデルという2つの次元の組み合わせによって,4種類のRDI実施用 紙を作成した。 記憶の同一線一非同一線及び実体三一モデルの組み合わせによる4種類のRD1全てに共 通して,実験に用いる記億を想起してもらう目的で,初めに「人は誰でも対人関係の中で, 何か不安になったり,.恥ずかしいと感じるといったような認知的な変化や,心臓がドキド 3EMDRを実施する際には, EMDRの専門的なトレーニングを受けた資格をもつ臨床家が行う必要があ る。本実騨の実験者は,日本EMDR学会認定のEMDR大学院コース(EMDR P良rt 1&2トレーニングと 同等)の全過程を終了している。 一25一 キしたり手のひらに汗をかいたりといった生理的な変化,もしくは緊張して固まってしま ったり,変な行動をしてしまうというような行動的な変化を感じたり体験することが有り ます1貴方にとっての苦痛な対人場面について教えて下さい。」という教示を用いた。 その後,実験協力者が実際に経験したシャイネズを誘発するような対人場面について具 体的なエピソードを求めた。 続いてジRDIを実施するために,必要な内容を回答するように求めた。具体的には,先 に想起した対人場面についての苦痛度を主観的に評定してもらうSUDs,そめ苦痛となっ た対人場面に対処するために必要な能力の回答を求めた。 その後,RDIに甫いる記憶を区分して想起してもらうために4群に対して個別の教示を 行った。具体的な教示の内容:はTable,5に記す。 群、 Table,5RIにおける4群それぞれの具体的な教示内容 示内覧 先ほど想起してもらった,対人場面でうまく対処するたあの能力を想起し’ ていただいた対人場面と同様の対人場面で私は確かに持っていて,うまく対 ム場面で対処できたという経験はありませんか? 先ほど想起してもらった,対人場面でうまく対処するための能力を想起し ていただいた対人場両と同様の対人場面でうまく対処するための能力をあな ②同一同一モデル ため周りで持っている人はいませんか?もしくはそれを持っているアニメの キャラクターや有名人などはいませんか? 先ほど想起してもらった,対人場面でうまく対処するための能力を想起し ③非同一線一実体験ていただいた対人場面と類似の対人場面以外であなたが確かに持っていたと いう経験はありませんか? 先ほど想起してもらった,対人場面でうまく対処するための能力を想起し ①同一線一実体験 ④非同一線一モデル議獣血管難製霧塑囎難縛準專寵簸 どはいませんか? 各群に記憶を想起するように教示を行った後,全ての群に対してその記憶をイメージし たときに生じる内容を,「何が見えていますか?一」,「どんな声や音が聞こえますか?」,「ど んなにおいがし奪すか?」,「空気の感じはどうですか?」,「肌で感じる触覚的なものはあ りますか?」,「今,この経験を思い出してみて,どんな感情が湧いてきますか?」,「その 感情を体のどこで感じていますか?」の順で確認し,それらの鮮明度についてそれぞれ0 を全く鮮明でないから,10を非常に鮮明であるとした場合の得点を確認した。 続いて,「貴方にとって今感じてもらった記憶はどの程度重要な記憶ですか?1が全く重 一26一 要ではない,10が非常に重要であるとしたらどのくらいですか?」と確認し,「今この時 点でこの記憶がどのくらい役立ちそうな感じがしますか?1が全く役に立たない,7が非 常に役立ちそうだとしたらどのくらいですか?」と確認した。 さらに実際にRDIを行う際に眼球運動の回数を6セットと固定し,1セットの眼球運動 の数を12往復と設定するなどの限定を行った。実験者の行う発言や行動などは全て,こ の実施用紙を基に行った(資料2∼5,参照)。 5.2.3.手続き 実験は,周囲の雑音の届かない静かな部屋で,実験者と実験協力者の2名で実施した。 実験協力者は,一まず, 「貴方にとっての苦痛な対人場面について教えて下さいrと教示 され,苦痛を感じた対人場面を自南に想起するよう教示された。その後,気分調査票とし て配布されたPANASに「想起してもらった対人場面を感じた今現在の気分を回答してく ださい」という教示のもとで,PANASに記入してもらった。記入が終了してから,:RDI の実験を行い,実験終了後再び今現在の気分をPANASによって確認してもらった。最後 に,実験を終了した際に不快感が残っていないかを確認し,実験を終了した。・実際に実験 終了後に不快感を報告した実験鴇力者はいなかった。実験に要した時間は教示も含め45 分程度であった。 6.結果 6.1.想起した記憶の同一線一非同一線及び実体験一モデルの妥当性の確認 本研究で用いた想起する内容:を区分した:RDI実施用紙によって想起した記憶は,同一線 一非同一線及び実体三一モデルという次元で区分されていることが予測される。そこで, 実際に同一線一非同一線という次元で区分できているかを確認するために,2名の臨床心 理学を専攻し,宜MD:Rのトレーニングを実施している独立した評定二間一致率を算出した。 Landis&Koch(1977)によると,一致率の指標であるκが.60一.80の範囲の場合かなり の一致率であり,.80以上でよい一致の指標であると述べている。 一27一 その結果,κ=.767であり,本研究で用いた想起する内容を区分したRDI実施用紙によ って想起した記億は,かなりの一致率であった。この結果より,本研究における同一線一 非伺一線という次元での記憶の区分は妥当であったと考えられた。 同様に,実体験一モデルという次元で区分できているかどうかを確認するために,2名 の独立した評定者による評定問の一致率を算出した。 その結果.κ;.875であり,本研究で用いた想起する内容を区分したRDI実施用紙によ って想起した記憶は,良い一致の指標を示した。この結果より,本研究における実体験一 モデルという次元での記憶の区分は妥当であったと考えられた。、 6.2.各群の等質性の確認 RDIを実施する前は,全ての群において実験協力者は等質であることが仮定された。 そこで,4群全てにおいてRDI実施前のSUDs・Vo:R・PANAS・P・:PANAS・Nの得点 が等質であるかどうかを確認するために,群(同一線×実体験・同一線×モデル・非同一線 ×実体験・非同一線×モデル〉×各尺度(SUDs・VoR・PANAS・P・PANAS・N)の一元配置 分散分析を行った。その結果,SUDsにおいて,双3,31)=289, VoRにおいて,夙3,31)=.420, PANAS・Pにおいて,∫(3,31)=,騎9, PANAS・Nにおいて,萩3,31)=.255で,全ての群の RDI実施前の尺度に有意な差は見られなかった。この結果よりRDI実施前の4群全ての 実験協力者は等質であったと考えられる。 、6.3.RDIの効果における性別の要因の検討 これまでRDIの効果に関して性別の要因ごとに検討した研究は見られない。しかしなが らBrad1彫Greenwald, Pet堀&Lang(1992)によると,性別の要因において快感情及び不 快感情の記憶を再生する課題に有意な差が生じている。このことから考えて,RDIの効果 に関して性別の要因が有意な影響を示すかどうかの検討を行った。 RDIの効果の指標であるVbR, SUDs, PANAS・P及びPANAS・Nの各尺度得点を従属変 数として,性別(男・女)×各尺度の測定時期(盟e・Post)による反復測定の分散分析を行った。 その結果,全ての尺度間において性別の関ってくる交互作用は有意ではなかった (双珍,28>rO98)。また,全ての尺度において性別の主効果は有意ではなかった。具体的には, 一28.一 VbRにおいて,双1,30)=.625, SUDsにおいて,双1,30)=.270, PANAS・Pにおいて, ∫〈1,30)獄,306,PANAS・Nにおいて,双1,30)=1.311であった。そのため,今後の分析に関 して,性別の要因の検討を除くことの妥当性は確認された。 6.4.想起する記憶を操作したRDIによるVoRの変化の検討 想起する記憶を操作したRDIによってRDI実施前後のVoRの変化に影響があるかどう かを検討するために,群(同一線×実体験・同一線×モデル・非伺一線×実体験・非同一線 ×モデル)を独立変数とし,RDI実施前後のVoRの得点を従属変数とした反復測定の分散 分析を実施した。その結果をT舞ble.6に示す。 Table。6想起する記憶の異なるRDIによるVoRの変化に関する分散分析表 59 要因 RDIの種類 ガ 2.875 3 誤差(RDIの種類) 68.875 Pre−Po串t 28 56.250 1 誤差(Pre−Post) 0390 0.958 2.460‘ 138.462 56.250 28 0.478 4.375 3 1.458 13.375 RI)1の種類×Pre一》ost 諭G鮒あ *** 3.590 * 吹メD001 *ρ<.05 *** 分散分析の結果,想起する記憶の異なるRDIとRDI実施前後の交互作用(π3,28)=3.590, 」〆.σ5)が有意であった。 そこで,Bon艶rrohiの単純主効果の検定を行った結果,想起する記憶の異なるRDIの 各群の簡には有意な差は存在せず,各群共にRDI実施に伴い有意なVoRの増加が確認さ れた。具体的には,同一線×実体験において,双1,28)=44.462,1〆.001,同一線×モデル において,∫〈1,28)=39.385,∫K.001,非同一線×実体験において,夙1,28)=55.538,∫K。001, 非同一線×モデルにおいて双1,28>=9.846,、ρ<.01であった。各群においてのRDI実施前後 のVoRの平均値をFigure.4に示す。 ・29一 7 6 .4 5 げ .’” ../ ,ノ◆ ノ ノニ・”響 」66一唖 ,.≡!≡ヨ・一’ニンブ’ 4 ガ’ニプ” ^/ノ ,〆’ 3 ◆・・〆 2 一同一線+実体験 一+一同一線+モデル F・・非伺一線+案体験 一四一非同一線十モデル 1 ・・ 0 Pre V。R 、 Post VgR Figure.4想起する記憶の異なるR団によるVoRの変化 6.5.想起する記憶を操作したRDRこよるSUDsの変化の検討 想起する紀憶を操作したRDIによってRDI実施前後のSUDsの変化に影響があるかど うかを検討するために,群(同一線×実体験・同一線×モデル・非同一線×実体験・非岡一 線×モデル〉を独立変数とし,RDI実施前後のSUDsの得点を従属変数とした反復測定の 分散分析を実施した。その結果をTable.7に示す。 Table.7想起する記憶の異なるRDIによるSUDsの変化に関する分散分析表 要因 ‘が 卵 RDIの種類 誤差(RDIの種類) Pre−Post 2.422 3 0,807 75.313 2.690 123.766 言呉差(Pre−Post) 17.563 RDIの種類XPre−P鈴t 痂G鮒面 28 1 28 9.172 3 0.300 197.320 123.766 0.627 4.874 ** 3,057 *** 一30. *** Y、001**〆。01 分散分析の結果,想起する記憶の異なるRDIとRDI実施前後の交互作用(∫(3,28)自4.874, 」〆.61)が有意であった。 そこで,Bon丑∋rroniの単純主効果の検定を行った結果,想起する記憶の異なるRDIの各 群の間には有意な差は存在せず,各群共にRDI実施に伴い有意なSUDsの低下が確認さ れた。 具体的には,同一線×実体験において,双1,28)寓72.641,p<.001,同一線×モデルにお いて,双1,28)=35.972,∫K.001,非同一線×実体験において,∫〈1,28)=83.801,〆.001,非 同一線×モデルにおいて,夙1,28)=19.530,〆.001であった。寸寸においてのRDI実施前 後のSUDsの平均値をFigure.5に示す。 10 一同一線+実体験 一噸トー同一線+モデル 9 …勘・非同一線+実体験 一鯛一非同一線+モデル 8 7 6 扇・㌦. 厨、さご弧、 、● 5 、、 .、馬 、’窺=、 いこや ㌦:}\、_ 、, く、、 、 ○、9、 、 4 .\こ響 3 2 1 0 Pre SU[〕冶 Post SUDs Figure.5想起する記憶の異なるRD夏によるSUDsの変化 6.6.想起する記憶を操作したRDIによるPANAS・Pの変化の検討 想起する記憶を操作したRDIによってRDI実施前後のPANAS・:Pの変化に影響がある かどうかを検討するために、群く同一線×実体験・同一線×モデル・非同一線×実体験・非 一31一 同一・線×モデル)を独立変数とし,RDI実施前後のPANAS−Pの得点を従属変数とした反 復測定の分散分析を実施した。その結果をTable。8に示す。 Table.8想起する記憶の異なるRDIによるPANAS−Pの変化に関する分散分析表 。∫ 卵 要因 RDIの種類 誤差(RDIの’種類> Pre−Post 誤差(Pre−Post) RDIの種類×Pre−Post 藩G鮒幽 573.125 3 191.042 1664.625 28 59.451 1827.563 1 1827.563 531.125 28 18.969 315.313 3 105.104 3.213 96.346 崩 5.541 ” 桝ρく.001蝉ρく.01〒ρ<.10 分散分析の結果,想起する記憶の異なるRDIとRDI実施前後の交互作用(1尺3,28)=6.829, ρく.001)が有意であった。 そこで,Bonfbrroniの単純主効果の検定を行った結果,非同一・・線×実体験の記憶でRDI を行った群が非同一線×モデルの記憶を用いてRDIを実施した鮮と比較して有意に PANAS・Pが増加する傾向が示された(」〆.10)。伺時に歯群共にRDI実施に伴い有意な PANAS・Pの増加が確認された。具体的には,同・線×実体験において,双1,28)ニ39.726, ρ<.001,同一・線×モデルにおいて,双1,28)=17.920,」〆.001,非同一線×実体験において, 萩1,28)=76.540,〆.001,非同一線×モデルにおいて,双1,28)=7.442,〆.05であった。各 群においてのRDI実施前後のPANAS・Pの平均値をFigure.6に示す。 一32一 45 40 35 3b ..’▲ 25 ,・・’ 20 __粍で7一’あ” 暴二…”閥一’づ’一’ 15 % _一て適 ,__・一’一一 厨 一←一同一線+実体験・ 一+一同一線+モデル 10 5 ・一 Kー非同一線+実体験 一函一三同噸線十モデル 0 Pre PANAS−P P◎st PANAS−P Figuゼe.6想起する記憶の異なるRD1によるPANAS−Pの変化 6.7.想起する記憶を操作したRDIによるPANAS・Nの変化の検討 想起する記憶を操作したRDIによってRDI実施前後のPANAS・Nの変化に影響がある かどうかを検討するために,群(同一線×実体験・同一線×モデル・非同一線×実体鹸・非 同一線又モデル)を独立変数とし,Rbl実施前後のPANAS・Nの得点を従属変数とした反 復測定の分散分析を実施した。その結果をTable.9に示す。 Table・9想璽する起憶の異なるRDIに峯るPANAS塵Nの変化に関する分散分析 要因 RDIの種類 誤差(RDIの種類) Pre−Post 誤差(Pre−Post) RDIの種類×Pre−Post 認 詔 伽(6卿あ 159.188 3 53,063 164425 28 58.723 855,563 ,1 855.563 197.750 28 7,063 144.688 3、 48.229’ 0。904 121.142 *** 6.829 *** F・oo専 *** 一33一 分散分析の結果,想起する記憶の異なるRI)1とRDI実施前後の交互作用(汐く3,28)=3,213, 、ρ<,05)が有意であった。 そζで,Bon魚rroniの単純主効果の検定を行った結果,非同一線×実体験の記憶を用い てRDIを実施した群が,同一線×実体験の記憶を用いてRDIを実施した群と比較して有 意に:PANAS−Nの得点がRDI実施後に低下していた(〆.01)。また,非同一線×実体験の 一億を用いてRDIを実施した群が,同一線×モデルの記憶を用いてRDIを実施した群と 比較して有意にPANAS・Nの得点がRDI実施後に低下することが示された(ρ<.05)。・ さらに,全ての群においてRDIの主効果が示され, RDI実施後にPANAS・Nが低下し ていることが示された。具体的には垂同一線X実体験において,双1,28)零6.379,〆.05, 同一線×モデルにおいて,双1,28)=12260,ρ<.01,非同一線×実体験において, 双1,28)寓60.049,〆。001,非同一線×モデルにおいて,∬(1,28)魔34.280,∫K.001であった。 各群においてのRDI実施前後のPANAS・Nの平均値をFigure.7に示す。 一←一陶一線+実体験 }卜一 ッ一線+モデル 45 …企・・非周一線+実体験 40 一鼠一非岡一線十モデル 35 謄. 30 、・ト、 『隔__ ☆モここト 、h噛 25 20 翌 ㌦▲ 15 灌0 5 0 Pre PANAS−N P◎st PANAS−N Figure.7想起する記憶の異なるRD韮によるPANAS−Nの変化 ・34一 罰 7.研究1の考察 本章での目的は,想起する記憶の内容を操作的に定義し,同一線×実体験・同一線xモ デル・非同一線×実体験・非同一線×モデルの4群におけるRDIの効果の検討を行うこと であった。 上原(2005)及び岡田(2006)の研究では,同一線一非同一線及び実体験一モデルの各次元 における検討は試みられているものの,これらの要因を4群に操作的に定義した上での効 果の検討は行なわれていない。そこで本研究ではこれら4つの群を操作的に定義し,同一 線×実体験・同一線×モデル・非同一線×実体験及び非同一線×モデルという想起する記 憶の内容を変化させたRDIによるシャイネスの改善についての検討を行った。 その結果,全ての群においてR1)1の効果が有意に示された(Figure.4,5,6,7参照)。具体 的には,SUDs・PANAS・Nの得点において有意な低下及び, VbR・PANAS・Pの得点にお いて有意な増加が見られた。この結果は本研究の仮説1である,シャイネスに対するRDI の効果の可能性を支持した結果であるといえよう。 シャイネ冬の研究においては,Alfbno, eta1.(1994)力弐抑うつとの正の相関を示しており, 挿うつに対して効果が報告されているRDIが同様に効果を示したものであると考えられ る。市井(2007)は,RDIについてEMDRの処理を促進するために肯定的な記憶を強化し, ポジティブな感情を強化する方法と述べているが,本研究の結果から肯定的な記憶の強化 のみならず,ネガティブ感情の減少も示されたことは新たな発見であったと考えられる。 また,木村(2004)は不快な思考の抑制を試みるとかえって関連する思考の侵入が増加す るという抑制の逆説的効果について怒りや抑うつといったネガティブな思考を低減させる 要因を検討している。その結果,誘導されたネガティブな内容との関連性に関わらず,ポ ジティブな内容を用いて代替思考を行った群はネガティブな思考数が低下することを示し ている。 同様に木村く2004)は,代替思考を行ったこどによる抑制後のネガティブ思考のリバウン ド効果を検討している。その結果,単純に思考を抑制した群と比較して,ポジティブな内 容を用いて思考を抑制した群はリバウンドの効果は示されなかった。この結果より,代替 思考を用いてネガティブな思考の抑制をすることは長期的に見ても効果があると報告して いる。本研究でRDIに用いた記憶は実験協力者にとってポジティブな記憶であったためネ 一35一 ガティブな思考を抑制する効果を示す結果となり,シャイネスの改善に効果的であったと 考えられる。 さらに,実験協力者のPANAS・Pの得点において,非同一線×実体験の記憶を用いたRPI が,非同一線×モデルの記憶を用いたRDIと比較して有意な得点の増加の傾向を示した。 この結果より,直接不安を感じる対人場面とは無関係であり自分自身が肯定的な感情を感 じることの出来た体験を用いてRDIを実施するほうがより肯定的な感情を高めることが できる可能性が示唆された(Figure.6参照)。 上原(2005)によると,RDIに用いる実体験の記憶とモデルの記憶の間には有意な差は生 じていないが、本研究においてはPA:NAS−Pの得点間において有意傾向が示され先行研究 と異なる結果となった。この結果は,榊(2007)の記銘内容によって記憶の水準に差が存在 するという結論を示唆するものである。具体的には,ヒモデルとしての記憶と比較して,実 体験の記憶のほうがより感情・知覚的な水準で保痔されていたためにRDIによる記憶の強 化によってよりポジティブ感情を増加させた可能性が示唆される。また,榊(2007)は,自 伝的記憶の構造を検討し,手がかりイベントと同じテーマに関する記憶が想起されやすい と述べている。本研究でRDIに用いる記憶を想起してもらう前に,噴方にとっての苦痛 な対人場面について教えてください」という教示を行っていることから,この教示が手が かりとなり,自分自身についての記憶がより想起しやすくなり,RDI実施時に効果を示し た可能性も示唆される。 また,実験協力者のPANAS・Nの得点に関しては,非同一線x実体験の記憶を用いて RDIを実施した群が嗣一線×実体験及び同一線×モデルの記憶でRDIを実施した群よりも 有意にRPI実施後のPANAS・Nの得点が減少していた(Figμre.7参照)。この結果は,実 体験一モデルという実験協力者の実際の経験もしくは,お手本となりうる他者のイメージ のいずれをRDIにおいて想起してもらうかという記憶の内容よりもむしろ,同一線一非同 一線といった,シャイネスを感じた場面に直接関連する可能性のある揚面での例外的な成 功体験と比較して,シャイネスを感じる場面で十分に対処を行うために必要な能力として 実験協力者が挙げた資源がシャイネスを感じうる場面と非関連に想起する場合により RDIはより効果的である可能性を示唆している。岡田(2006)は,同一線の記憶の中で例外 的に対処が成功した記憶を用いてRDIを実施する場合よりも,ネガティブな記憶と直接関 連性の低い記憶を用いた方がRDIの効果が示される可能性を報告しているが,本研究も同 様の結果を示したと考えられる。 一36一 シャイネスに対して同一線の記憶と比較して,非同一線の記憶を用いたRDIが効果的で あったことは,Mogg, et aL(1987)の提唱しているVigilanoe・A》oidance Theory及びEUis &Ashbro』k(1988)の検討しているResource Allocation Theαyが関連している可能性が 示唆される。つまり,シャイネス傾向の高い実験協力者は,対人場面での不安を発見する ことを促進するために,不安に関する注意バイアスを示すことになり(吉里・皆川,2005), 問題となっている対人場面と同一線の記憶を想起してもらうRDIを実施した際には,ポジ ティブな感情が想起され強化されるのと同時に,何か不安になりうる状況はないかに注意 の資源を配分してしまうために,十分にRDIにおいてネガティブ感情を低下させることが 出来なかったと考えられる。 また,守谷他(2007)は,対人不安高群は対人場面を否定的に判断する傾向があると述べ ており,今回RDIで用いた記憶が問題となっている対人場面と同様の場面でうまくいった 場面を想起してもらった同一線の記憶においては,この判断バイアスのためにRDIの効果 が低減した可能性が示唆される。 本研究において,シャイネスに対して効果的なRDIに用いる記憶が,問題となっている 対人場面と非同一線にある記憶である可能性が示唆されたことは,これまでRDIに用いる 記憶の内容の要因分析が十分になされていなかった点を考慮すると非常に意義深いもめで あると考えられる。また,RDI実施前後で全ての群において介入の効果が示されたことよ り本研究の仮説H及び皿はおおむね支持されたと考えられる。 以上のようにシャイネス傾向の高い大学生・大学院生に対するRDIはある程度の効果を 示したと考えられる。研究Hにおいては,想起する記憶の鮮明度及び重要度という要因を 用いてRDIの効果を検討する。 .37. 第3章研究耳 1。研究H全体の目的 研究Hでは,RDIに用いる記憶の鮮明度及び重要度の高低においてRDIの効果にどの ような影響があるかを検討することを目的とする。榊(200昏)は,自伝的記憶の記銘時にお けるポジティブ度・想起時のポジティブ度・重要度という要因を用いて感情制御を促進す る自伝的記憶の性質を検討している。その結果,実験協力者にとって,いかにポジティブ な記憶かというよりもむしろ,いかに重要な記憶かという点が出来事の想起による気分の 変化に有意な影響を示したことを報告している。この結果から,RDIに用いる記憶を選択 する際にも対象者にとってその記憶の重要度は,「 qDIの効果に関連すると考えられる。 また,東郷(2006)は,高校生の自尊感情を高める目的でRDIを実施レ,その際に記憶の ポジティブ度・重要度・鮮明度といった要因による検討を行っている。その結果,RDIの 効果に影響のある要因として,記憶のポジティブ度及び記憶の重要度を挙げ,記憶の鮮明 度は影響しないことを明らかにしている。しかしながら,小泉(1997)が,スピーチ不安に 関してイメージの鮮明度が不安の喚起に影響を及ぼすと述べていることから,RDIに用い る記憶の鮮明度についても何らかの効果があることが予測される。そこで研究Hでは,記 憶の鮮明度及び重要度がRDIの効果にどのような影響を示すかを検討することを目的と する。 2.仮説 研究Hにおける仮説としては,以下の2点が考えられる。 1.実験協力者にとって重要度の高い記憶を用いたRDIの方が実験協力者にとって重要度 の低い記憶を用いたRDIと比較してより効果的である。 2.実験協力者にとって鮮明度の高い記憶を用いたRDIの方が実験協力者にとって鮮明度 一38一 の低い記憶を用いたRDIと比較してより効果的である。 3.方法 3。1。実験協力者 研究童に参加した実験協力者32名に対して実験を行った。 3.2.材料 研究1と同様の材料を使用した。 4.結果 4.1.RDIに用いた記憶の重要度に関する弁別 本研究で得られた結果を分析する統計パッケージは,sPss(15.oJ fbr wind6ws, sPss 社)を用いて分析を行った。 初めに,RDIに用いた記憶の重要度によって弁別が可能かどうかを確認した。各実験協 力者には,RDI実施時に想起してもらった記憶に対して,「貴方にとって今感じてもらっ た記憶はどの程度重要な記憶ですか?1が全く重要ではない,10が非常に重要であるとし たらどのくらいですか?」と教示した。その際の得点の平均値である7点を基準に重要度 高群と重要度低群に区分した。具体的な人数はTable.10に示す。 一39一 Table.10 RDIに用いた記憶の重要度による分類(準32)1 人数 平均得点 総計 重要 円群(八』16) 重 男性 男性 9 女性 7 8.67〈1.22) 度 9 920(0.95)’ 8.93(1.12) 君羊 (2>ヒ16) 女性 7 5.20(1.30) 5.40(0.79) 5.31(1.07) ()内は標準偏差を示す RDIに用いた記憶の重要度の高群と低群の間に得点の差があるかどうかを確認ナるた めに一元配置分散分析を実施した。その結果,双1,31)=86.7Q1,〆.001で重要度高群と重 要度低群の間に有意な差が示された。よって,本研究における重要度高群と重要度丁丁の 間には記憶の重要度において有意な差が存在し,重要度においての弁別ができたと考えら れる。ゆえに,今後の分析においでRDIに用いる記憶の重要度に関する検討を行う妥当性 が確認された。’ 4。2.RDIに用いた記憶の鮮明度に関する弁別 RDIに用いた記憶の鮮明度によって弁別が可能かどうかを確認した。各実験協力者には RDI実施時に想起してもらった記憶に対して,「何が見えていますか?」,「どんな声や音 が聞こえますか?」,「どんなにおいがしますか?」,「空気の感じはどうですか?」,「肌で 感じる触覚的なものはありますか?」,「今,この経験を思い出してみて,どんな感情が湧 いてきますか?」,「その感情を体のどζで感じていますか?」の7項目を確認し,それら の鮮明度についてそれぞれ0を全く鮮明でないから,10を非常に鮮明であるとした際の得 点を確認した。鮮明度の合計得点の範囲は,0点から70点の間になる。その際の得点の平 均値である36点を基準にRDIに用いる記憶の鮮明度高群と鮮明度低群に区分した。具体 的な人数はTable.11に示すb 一40d Table.ユ1RDIに用いた記憶の鮮明度に.よる分類(準32) 明度低群(ハβ15) 魚羊明度『』碧羊 (ハ1』17) 女性 男性 人数 7 10 11 平均得点 42.57(6.16) 46.20(6.61) 総計 女墜 男性 4 27.09(5.38) 44。71(6.5{〕) 29.50(2.46) 27.73(4.8ξB> ()内は標準偏差を示す 鮮明度の高群と一群の間に得点の差があるかどうかを確認するために一元配置分散分析 を実施した。結果,双1,31)=68β97,」〆.001で鮮明度高群と鮮明丁丁群の間に有意な差が 示された。よって,本研究における鮮明度高群と鮮明度低群の間には記憶の鮮明度におい て有意な差が存在し,鮮明度の高低によって弁別ができたと考えられる。ゆえに,今後の 分析においてRDIに用いる記憶の鮮明度に関する検討を行う妥当性が確認された。 4.3.想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によるRDI後のVbRの変化の検討 想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によってRDI実施前後のVoRの変化に影響が あるかどうかを検討するために,群(重要度の高低x鮮明度の高低)を独立変数とし,RDI 実施前後のVoRの得点を従属変数とした反復測定の分散分析を実施した。結果をTable.12 に示す。 Table.i2想起する記憶の重要度と鮮明度の異なるRDIによるVoRの変化に関する分散分析表 要因 卵 認 伽(下面 55.042 1 11、290 28 1.164 1 3.766 1 3.766 ,338 1 338 .14盆 鮮明度高低×Pre−Post .026 1 .026 .065 鮮明度高低×重要度高低 3β45 1 3.645 66。750 28 2.3S4 Pre{PQst 誤差(Pfe−Post) 重要度高低 重要度高低×Pre−Post 鮮明度高低 誤差(鮮明度高低×重要度高低) 重要度高低×鮮明度高低×Pre−Post 。436 1 55.042 136.512 .403 1.164 .488 9.合41 ** 1.529 1.081 .436 *** 一4レ 牢** マく・001**ρくρ1 分散分析の結果,重要度の高低・鮮朋度の高低及びRDI実施の時期による2次の交互作 用は有意ではなかった双1,28)=1.081,,ρ〉.10)。 また,重要度の高低とRDI実施前後の時期の交互作用が有意であった(∫〈1,28)=9.341, 1〆.01)。具体的には,重要度高群が重要度低群と比較してRDI実施後のVoRの増加が有 意に高いことが示された。この交互作用の様相をFigure.8に示す。 さらに,鮮明度とRDI実施前後の時期の有意な交互作用は認められなかった (夙1,28)=.065,p>.10)。また, RDI実施前後の時期の主効果が有意であった (1べ1,28)==136.512,∫)<.001)。 :1 一重要度高群i 一層一一重要度低群1 51 _一国 4 ,偶〒 図一’ 3 2 1 0 Pre VoR Post VoR Figure.8想起する記憶の重要度の高低によるVoRの変化 一42・ 4.4.想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によるRDI後のSUDsの変化の検討 想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によってRDI実施前後のSUDsの変化に影響 があるかどうかを検討するために,群(重要度の高低×鮮明度の高低)を独立変数とし,RDI 実施前後のSUDsの得点を従属変数とした反復測定の分散分析を実施した。結果を Table.13に示す。 Table,13想起する記憶の重要度と鮮明度の異なるRDIによるSUDsの変化に関する分散分析 要因 田 畑’ 誌面, 1評, 124.021 1 11.049 28 .395 ,635 1 .635 15。328 1 15β28 .145 1 .145 。819 鮮明度高低×Pre−Post .005 1 .005 .012 鮮明度高低×重要度高低 .397 1 397 .146 28 2.730 1 ;666 Pre−Post 誤差(Pre−Post) 重要度高低 重:要度高低×Pre−Post 鮮明度高低 誤差(鮮明度高低x重要度高低〉 76.430 重要度高低×鮮明度高低XPre−Posも 。666 124.021 314.300 *** .2,39 38.844 *** 1.688 榊ρく.001 その結果,重要度の高低・鮮明度の高低及びRDI実施の時期による2次の交互作用は有 意ではなかった(双1,♀8)=1.688,p>.10)。 また,重要度の高低とRDI実施前後の時期の交互作用が有意であった(双享,28)霜8.844, 〆.001)。具体的には,重要度高群が重要度低群と比較して:RDI実施後のSUDsの低下が 有意に大きいことが示された。この交互作用の様相をFigure.9に示す。 さらに,鮮明度とRDI実施前後の時期の有意な交互作用は認められなかった (双1,28)=.012,一ρ〉.10)。また,RDI実施前後の時期の主効果が有意であった (1て1,28)=314.300,1γく.001)o ’43一 lG 一+一重要度低群 9 8 7 6 塵一、、 5 、一 ス 4 3 2 1 0 Pre SUDs Pd$t SUDs Figure.9想起する記憶の重要度の高低によるSUDsの変化 「44一 4.5.想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によるRDI後のPANAS・Pの変化 想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によってRDI実施:前後のPANAS・Pの変化に影 響があるかどうかを検討するために,群(重要度の高低×鮮明度の高低)を独立変数とし, RDI実施前後のPANAS・Pの得点を従属変数とした反復測定の分散分析を実施した。結果 をTable.14に示す。 Table.14想起する記憶の重要度と鮮明度の異なるRDIによるPANAS−Pの変化に関する分散分 要因 卵 Pre−Post 、 誤差(Pre−Post) 重要度高低 重要度高低×P艶一Post 鮮明度高低 鮮明度高低×Pre−Post 鮮明度高低×重要度高低 誤差(鮮明度高低×重要度高低) 1 152.989 28 泌鯉 858.411 157.106 39.174 39.174 185.253 1 185.253 92.290 1 92.290 1,545 7.192 1 7,192 1.316 8.314 1 8。314 .139 .003 28 1 .656 33.905 ’*** 59.750 .003 0.001 *** マく.001 分散分析の結果,重要度の高低・鮮明度の高低及びRDI実施の時期による2次の交互作 用は有意ではなかった(夙1,28>=.001,p>.10)。 また,重要度の高低とRDI実施前後の時期の交互作用が有意であった(∫〈1,28)=33.905, 〆.001)。具体的には,重要産高群が重要度低群と比較してRDI実施後のPANAS・Pの増 加が有意に高いことが示された。ζの交互作用の様相をFigure.10に示す。 さらに,鮮明度とRDI実施前後の時期の有意な交互作用は認められなかった (∫〈1,28)=1.316.ρ〉.10)。さらに,RDI実施前後の時期の主効果が有意であった (汐〈1,28>=157.106,p<.001)o 一45一 *** 5.464 1 1673。013 重要度高低×鮮明度高低×Pre−P(賊 誰 858.411 一重要度高群 45 一尋一重要度低群 40 35 30 25 20 15 10 5 0 Pre PANAS−P 』 Post PANAS−P Figure.絶想起する記憶の重要度の高低によるP州AS−Pの変化 一46・ 4.6.想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によるRDI後のPANAS・Nの変化 想起した記憶の重要度及び鮮明度の高低によって:RDI実施前後のPANAS−Nの変化に影 響があるかどうかを検討するために,群(重要度の高低×鮮明度の高低)を独立変数とし, RDI実施前後のPANAS・Nの得点を従属変数とした反復測定の分散分析を実施した。結果 をTable.15に示ず。 Table.15想起する記憶の重要度と鮮明度の異なるRDIによるPANAS・Nの変化に関する分散 鐙 要 護 .磁詔d ユ867.260 1 700.430 28 25.015 6.409 1 6.409 .773 .134 1 .134 .005 .084 1 .084 .001 鮮明度高低×Pre−Post 3.256 1 3.256 .130 鮮明度高低x:重要度高低 120.958 1 120.958 2106。188 28 、14L405 1 Pre−Post 誤差(Pre−Post) 重要度高低 重要度高低×P∫e−Post 鮮朋度高低 誤差(鮮明度高低×重要度高低〉 重要度高低×鮮明度高低×Pfe−Post 1867.260 74.645 *** 1.608 75221 141.405 *** 5.653 * マ<.001*ρ<.05 分散分析の結果,重要度の高低・鮮明度の高低及びRDI実施の時期による2次の交互作 用が有意であった(∫(1,28)叢5、653,1〆,05)。2次の交互作用が有意であったため,鮮明度の 高低及び,重要:度の高低の2要因のうち1家妻を固定して反復測定の分散分析を行った。 その結果,重要度の侭群において,鮮明度の高い群の方がRDI実施後に有意にPANA串・N の得点が減少することが示されだ(双1,14)寓46。371,」〆.05)。 この交互作用の様相を Figure.11に示す。 また,鮮明度の高低を固定した上での重要度の高低×RDI実施前後の時期の交互作用は 有意ではなかった(鮮明度高群(∫〈1,15)=2.886,.ρ〉.10),鮮明度隠魚(双1,13)=2.863,p>.10)。 さらに,重要度の高低とRDI実施前後の時期の交互作用(∫〈128)=.005, p>.10),鮮:明度 とRDI実施前後の時期の交互作用は有意ではなかった(双1,28)=・130。ρ〉・10>・また, RDI 実施前後の時期の主効果が有意であった(夙1,28)=74.645,1〆.001)。 一47’ 1州レー鮮明度高群1 45 一鮮明度肝群 40 35 30 25 、、、 20 秩 15 10 5 0 Pre PANAS−N Post PANAS−N Figμre.11重要度低群における鮮明度の高低によるPANAS−Nの変化 5、研究Hの考察 本章での目的は,シャイネス傾向高群における想起する記憶の重要度及び鮮明度の高低 によるシャイネスに対するRDIの効果の検討を行うことであった。 その結果、重要度・鮮明度及びRDI実施の前後における2次の交互作用が有意であった のは,PANAS−Nにおいてのみであった(Figure.11参照)。具体的には,重要度の低い記憶 を用いてRDIを実施した場合,鮮明度が高い記憶を用いた方がよりPANAS・Nの得点が 減少することが示された。そして,PANAS−Nにおいては,上記の交互作用以外には,重 要度と時期の交互作用及び鮮明度と時期の交互作用は有意ではなく,時期の主効果のみが 有意であった。この結果は,RDI実施に関して記憶の重要度が高い場合にはう鮮明度の要 因はさほど影響を与えないが,重要度が低い場合にはその記憶を鮮明に想起できるほうが よりネガティブ感情を低下させる効果がある可能性を示している。 また,その他の指標であるVbR・SUDs・PANAS?においては,重要度の高低とRDI 実施の前後の交互作用が有意であったく:Figure.8,9,10参照)。この結果よりシャイネスに対 しては,重要度の高い記憶を用いた方がRDIの効果がより示されると考えられる。この結 一48一 果は,榊(2005)の述べている重要度が高い記憶を想起したほうが想起後の気分がポジティ ブに変化することとほぼ同様の結果と考えられる。 この重要度の高い記憶のほうが感情制御に効果的であるという結果について榊(2005)は, 以下のように述べている。自伝的記憶においては,概念レベルという言語的な情報の保持 水準と感覚・知覚レベルという感情情報・知覚的な情報の保持という水準が考えられる。 これらの水準のうち,重要度の高い記憶というものは,感覚・知覚レベルの情報が豊かな 記憶と考えられるために,より当時の感情を再体験しやすく,ポジティブ感情の増加につ ながったと考えられる。 kom&Leeds(2002)は, RDIの治療プロトコルの第3段階において感覚・知覚的に想 起してもらったポジティブな記憶を体験するという手順を述べそいるが,それと同時に記 慮自体の保持水準が感覚・知覚レベルで保たれていた際には,このRDIのプロトコルにお ける処理が行いやすくなるために,より効果が示されたのかもしれない。 以上の結果より,本研究の仮説1である,実験協力者にとって重要度の高い記憶を用い たRDIの方が実験協力者にとって重要度の低い記憶を用いたRDIと比較してより効果的 が示されるということは,VbR・SUDs・PANAS・Pにおいては支持されたといえよう。 しかし,鮮明度の高低については,PANAS福において重要度が低い場合にのみ鮮明度 が高い群が,鮮明度が低い群と比較して有意に得点の減少を示す以外は,VbR・SUDs及 びPANAS−PにおいてRDI実施前後との交互作用は有意ではなかった。この結果は,ほぼ 東郵(2006)の結果と一致している。 以上の結果より,本研究の仮説2である,鮮明度の高い記憶を用いたRDIの方が実験協 力者にとって鮮明度の低い記憶を用いたRDIと比較してより効果が示されるということ は部分的に支持されるのみであったと考えられる。鮮明度がRDIの効果に有意な影響を示 さなかったことについて東郷(2006)は,記憶の鮮明度は間接的に作用していると述べてい る。本研究における鮮明度の高低もRDIの効果に間接的に影響を及ぼしている可能性も考 えられるだろう。 本研究の結果より,重要度や鮮明度にかかわらずどのような記憶を用いた場合にもRDI はシャイネスに対してある程度の改善を示す可能性があることが示された。しかし,特に シャイネスに対してRDIを実施する際に用いる記憶が,対象者にとって重要度の高い記憶 を用いた場合に特に効率的であるということが考えられる。先述したとおり,先行研究に おいてRDIに用いる記憶を重要度の高低と鮮明度の高低という要因に区分して効果の検 ・49三 討をした研究は見受けちれない。本研究における結果は,RDIを行う際の記憶の第1選択 肢についての示唆を与える点において臨床的な意義があったと考えられる。 一50一 第4章総合考察 1.本研究の概要 本稿では,Resource Developmeht and Installation(資源の開発と植え付け;以下RDI) について想起する記憶を操作的に定義した上での効果を検討することを目的として検討を 行った。Eye movement Desehsitization and Reprocessing(眼球運動による脱感作と再処 理法;以下EMDR)及びRDIは,近年Post Traulnatic Stress Diso楓er(心的外傷後スト レス障害;以下やTSD>を初めとした様々な心理的障害に対してのアプローチが検討され 始め,行動療怯や認知行動療法などとの効果の比較研究が検討され始めている心理療法で ある(e.g., Van E枇en&Taylo罵1998;Devi11y&Spence,1999;Bradley;e七.al.,2005; Muris, et.al.,1995;1997;1998;Twomb取2000;Fensterheiln,1996;鈴木,2003;K6搬& Leeds,2002;Ichii,2003;城開,2004;上原,2005;岡田,2006;東郷,2007)。 しかしながらこれらの研究は,・事例検討的な内容の研究(e.g.,鈴木,2003)や,実験者が EMDRのトレーニングを適切に受けていないもしくは,適切なEMDRの手続きに則って いない研究(e.g., Devilly&Spe丑ce,1999),または, RDIに用いる記憶¢)内容の検討が不十 分であるといった問題(e.g.ラ上原,2005;岡田,2006)などが存在し, EMPR及びRDIに用 いる記憶の効果についての検討の必要性が残されていた。 また,先行研究におけるRDIの効果検討での実験協力者は,抑うつ傾向の高い大学生・ 大学院生の実験協力者に限定されており,今後抑うつ傾向以外の対象についてもRDIの効 果を検討する必要性が考えられる。このように,RDIにおいて,想起する記憶を操作的に 定義した上での要因分析の検討は本邦では見当たらず欧米においても見受けられない上に 上記のような問題が山積していた。 そこで本研究では,A1{b塾。, et.a1.(1994)において,抑うつ傾向との相関の高いシャイネ スという個人差要因に対して想起する記憶の内容によるRDIの効果を検討することを目 的として研究を行った。 まず,本研究で用いるシャイネスの定義を,先行研究(e.g., Cheek&Buss,1981;Cheek &Melchio蔦真990;Cheek&Watso駐,1989;Lang,1968;Lang,1977;Leary;1983; ・51一 Leary;1986;Pilkoロis,1977;菅原,1998;Watson&:Friend,1969)をレビューした上 で「現実の,あるいは想像上の対人場面において,他者からの評価に直面したり,もし くはそれを予測したりすることから生じる不安状態であり,そのシャイネスの反応は, 認知・生理・行動といった3側面から構成されており,その3側面を総合的にとらえる .べきものである」と定義を行った。 そして,実験協力者の選別のために既存のシャイネスを測定する尺度のうちで,上記 の定義に適した形で認知・感情・行動というシャイネスの3側面を多面的に測定するこ との可能な尺度としてWaseda Shyness Scale(早稲田シャイネス尺度;以下WSS)を用 いて,シャイネス傾向の高い実験協力者を選別した。 さらにRDI忙用いる記憶を操作的に定義するために,対処したい問題と関連の強い記 憶として,「同一線上の記憶」,関連の無い記憶としで「非同一線上の記憶」,そして, 対象者が実際に体験したことのある記憶としそ,「実体験の記憶」,対象者が実際に体験 したわけではなく他者やアニメのキャラクターなどの対処し旧い問題に対して高い能力 を有すると被験者が感じる「モデルとしての記憶」という記憶を定義してRDIによる介 入を行った(Figure.3,参照)。 さらに榊(2005)は,想起する記憶の重要度が感情の制御に有効であると述べているこ とから,RDIに用いた記憶の重要度の高低及び,東郷(2006)の述べている記憶の鮮明度 の高低におけるRDIの効果を検討することも目的として研究を進めた。 2.本研究における成果 2,1.研究1における成果 研究1では,先に述べたRDIの先行研究の問題点のうち, RDIに用いた記憶の内容の 混在に着自し,記憶の内容を操作的に定義した上でRDIの効果の検討を試みた.その結果, 想起する記億が異なる4群全てにおいて,SUDsの低下, VbRの増加, PANAS?の増加 及びPANAS・Nの低下というRDIの効果が示された。また,本来ポジティブ感情の増進 という目.的で行うことの多いRDIにおいて, PANAS・Nの得点の減少というネガティブ感 一52一 情が減少するという効果が示されたことは,今後のRDIの実施に際して重要な示唆を与え るものと思われる。 また,これまで想起する記憶を操作的に定義した上でのRDIの効果の検討は不十分な検 討に終わっていた(e.9.,上原,2005;岡田,2006)。本研究の結果より,実体三一モデルと いった要因よりもむしろ,シャイネスを感じた場面に直接関連する可能性のある場面での 例外的な成功体験という同一線の記憶よりも,シャイネスを感じる場面と非関連にポジテ ィブな記憶という非同一線の記憶のほうが,RDIは効果を示すという結果が見られた。こ の結果は,これまでRDIに用いる記憶の選択を対象者に委ねていたことを考えると,治療 者がより効果的な記憶を選択できる可能性を示唆しているという点で,研究1は非常に意 義深い結論であったと考えられる。 2、2.研究耳における成果 研究Hにおいては,:RDIに用いる記憶を実験協力者にとっての重要度の高低と鮮明度の 高低という要因によって区分したうえで,RDIの効果の検討を行った。 その結果,鮮明度の高低というよりもむしろ重要度が高い記憶を用いてRDIを実施した ほうがより効果が高いことが示された(Figure.8,9,10参照)。自伝的記憶の保持には質的に 異なる複数の水準があると考えられ(Christianson&Engelberg,1999;Healy& Williams,199の、重要度の高い記憶は重要度の低い記憶とは異なる水準で保持されていた と考えられる。この重要度の高い記憶のほうが感情制御に効果的であるという結果につい て榊(2005)は,重:要度の高い記憶というものは,感覚・知覚レベルの保持がなされており,・ そのために重要度の高い記憶のほうがより当時の感情を想起させやすいと述べている。ま た,Conway&Pleydell・Pearce(2000)1ま,感覚・知覚レベルの記憶のほうがよりあたかも 今その出来事を体験しているかのように感情を再体験することが出来ると述べている。こ れらのことから,本研究において重要度の高い記憶を用いて1もDIを実施した群のほうがよ り当時の感情を想起することができ,結果としてポジティブ感情の増加につながったので はないかと考えられる。 本研究の結果は,RDIによる自尊:心の向上の検討を目的として行った東郷(2006)と剛叢 の結果となり,RDIを行う際には用いる記憶を重要度の高い記憶で行ったほうがより効果 的であるという先行研究を支持した。これらのことより,本研究の結論は,シャイネスに .53. 対してもRDIによってポジティブな自伝的記憶を想起する介入により,ポジティブ感情の 増加が示された点や,研究1と同様にRDIに用いる記憶をより効率よく選択することの出 来る可能性を高めたという点において非常に意義深いと考えられる。 3.今後の検討すべき課題 3.1.さらなる要因分析 本研究においては,同一線一非同一線及び実体験一モデルという2次元及び,重要度と 鮮明度の高低においてRDIに用いる記憶を操作的に区分してRDIの効果の測定を行った。 しかしながら,自伝的記憶と感情との関連は上記のような2次元のみで区分されるもの ではない。例えば,自伝的記憶について榊(2007)は,階層線形モデルによる分析を行って いる。その結果,自己嫌悪や恥ずかしさといった感情は,友人関係についての記憶よりも 勉強に関する記憶領域において関連が強いことを示している。したがって,これらの感情 を感じている場合には,勉強に関する記憶領域は感情の影響を受けやすく,ポジティブな 記憶の想起と同時にネガティブな記憶も同時に想起してしまう可能性が示唆される。その ため,自己嫌悪や恥ずかしさを感じているときには,勉強に関する記憶ではなく,友人関 係に関する記憶に注意を向けることで悪循環を回避できると述べている。 この結果は,対象者個々人の問題に応じてポジティブ感情を促進し,ネガティブ感情を 抑制しうる適切な記憶があることを示唆しており,今後このような自伝的記憶の領域構造 についての検討も必要であると考えられる。 また,西村・長瀬・寺田・王(2004>は,自伝的記憶と非自伝的記憶の想起に伴う脳神経 活動について,fUnctional Magnetic Resonance Imaging(以下;fMRI)を用いて検討して いる。その結果,自伝的記憶の方がより脳の活動範囲が広いことを明らかにするのと同時 に,新しく否定的な記憶く新しく肯定的な記憶く古く否定的な記憶く古く肯定的な記憶の順 で脳の活動範囲が広くなることを明らかにしている。この結果より,RDrに用いる記憶に ついても記憶の貯蔵された時期という要因での分析が必要になってくるだろう。 また,本研究はRDIに用いる両側性の刺激として眼球運動を用いている。しかし, 一54・ Shapiro(1993)は,クライエントが外的な刺激と内的なイメージに同時に注意を向けるた めの方法として「両側性の刺激を用いており,眼球運動が一般的にEMDRで用いられ ているが,タッピングや両耳に対する両側性の刺激も用いられるとしている。しかしなが ら,Max葺eld(2002)は, EMDRにおいては様々な種類の両側性の刺激が用いられているが, 両側性の刺激の臨床的意義や,特定の臨床的問題たついてはどのタイプの両側性の刺激が より有効かなどの検討はなされておらず今後の検討の必要性を挙げている。それと同時に, 両側性の刺激の速さ・強度などの要因についての検討も今後望まれると述べている (M鋸負eld,2002)。従来のRDIの効果研究においても,両側性の刺激として対象者がタッ ピングを用いて効果を示しているもの(e.g.,上原,2005)や,両側性の刺激を用いない場合 でも効果が示されたという研究(e.g.,城間,2004)がある。今後どのような両側性の刺激が 効果的かの検討や,両側性の刺激の必要性についての検討も必要であろう。 321RDIの効果のフォローアップについて RDIの長期的な維持の検討は抑うつ傾向の大学生に対する研究においていくつか報告 されている(e。g,,城間,2004;上原,2005)。これらの研究においては,介入段階で数回の RDIセッションを実験協力者自身で行っている。 また,木村(2004>は,代替思考を行ったことによる抑制後のネガティブ思考のリバウン ド効果を検討している。その結果,単純に思考を抑制した群と比較して,ポジティブな内 容を用いて思考を抑制した群はリバウンドの効果は示されなかった。この結果より,代替 思考を用いてネガティブな思考の抑制をすることは長期的に見ても効果が有ると報告して いる。 しかしながら本研究では,特性シャイネスの高い実験協力者に対して実験室内で苦痛を 伴った対人場面を想起してもらうことでネガティブな気分に誘導した上で実験を行い、 RDIの効果の測定を行った。そのため,一度の介入における状態変化のみについて検証し ており,:Follow Upを含めた特性的な変化については検討していない。シャイネスについ ては,危険に対して対応するための一時的な感情状態である状態シャイネス(lzard& Hyson,1986)と,比較的安定した人格特性としての特性シャイネス(Crozie鵯1979)という概 念が存在することが明らかになっている。そのため,今後はRDIの効果が定着するために 必要な介入の回数の検討や,長期的な介入を行いFdlow Upを含んだ検討が必要であると 一55一 考えられる。 3.3.他の技法とのパッケージ療法について Muris, et a1.(1997)によると, EMDRを用いてクモ恐怖症の子どもに対して介入を行っ た際には,1彊DRの効果は, SUDsなどの主観的な指標においては効果を示したが,実際 の行動の変容という部分については,in Vivo Exposureなどとのパッケージ療法を行う必 要性を示唆している。 本研究は,特性シャイネスの高い実験協力者に対して,実験室で簡便にシャイネスを感 じた場面を想起してもらい状態シャイネスを増加させた時点からのRDIによる介入を行 っており,特性シャイネスへの介入をしていないが,実際にシャイネスやその他の不安障 害などにRDI及びEMDRを実施する際には,エクスポージャーなどとのパッケージ療法 を考慮する必要があると考えられ,今後,検討が必要になるだろう。また同時に本研究は, RDIのみでの検討であるために今後は他の技法との効果の比較などを行っていく必要が あるだろう。 シャイネスの研究においては,シャイネス傾向を認知・感情?行動といった側面の多面 的症状であると考えている(Cheek&Watson,1989)。 Muris, et al。〈1997)の結果よりRDI の効果は主観的な認知的側面に対しては効果的であったが,行動的な側面については効果 が見出せなかったと考えられる。そのため,今後はRDIの効果が実験協力者のどの部分に 効果的なのかどうかの検討も必要であろう。 3。4.アナログ研究の限界 本稿では,シャイネスを示しやすい青年期をサンプルとするため,大学生及び大学院生 を対象に,シャイネス傾向の高い実験協力者に対して想起する記憶を操作的に定義した RDIの効果の検討を行った。しかしながら,本研究は健常な範囲の大学生及び大学院生を 用いてRDIの効果の検討を行ったアナログ研究である。今後は,臨床的に対人場面で悩ん でいる実験協力者を用いた検討が望まれるだろう。 脅威的な内容を含んだ刺激とそうでない刺激を用いた記憶のバイアスについての先行研 究では,パニック障害やPTSDの患者は一般健常者と比較して有意に脅威刺激を再生する 一56一 ことが明らかになっている(e.g., McNa1培Foa,&Donne11,1989)、これらのことより,臨 床的な問題を抱えているものは,健常者の域のシャイネス傾向高群とは質的に異なる刺激 反応バイアスを示す可能性もあるため,今後検討が必要であると考えられる。 一57一 引用文献 相川充(1991).特性シャイネス尺度の作成及び信頼性と妥当性の検討に関する研究心理 学研究,62,149・155. 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A: ・5・ 4.その経験をイメージしてみて ①何が見えていますか? 得、1隷、→曳 ) A: ②どんな声や音が聞こえますか? 得点→( ) ③どんなにおいがしますか? 得点→( ) ④、空気の感じはどうですか? 得点→( ) 得点→( ) ⑥今,この経験を思い出してみて,どんな感晴が湧いてきますか? 得点→( ) ⑦その感情を体のどこで感じていますか? 得点→( ) A: A: ⑤肌で感じる触覚的なものはありますか? A: A: 5.貴方にとって今感じてもらった記圓まどの程度重要な記憶ですか?1が全く重要ではない,10 重要度→ が非常に重要であるとしたらどのくらいですか? 6.今この時点でこの記憶がどのくらい役立ちそうな感じがしますか?1が全く役に立たない,7 が非常に役立ちそうだとしたらどのくらいですか? VOR→ ・6・ 7.(資源のイメージの描写を繰り返す)に意識を向けるにまかせて,(感情,感覚,匂い,音など の資源の描写を繰り返す)に気づいてください. では,(資源のイメージをそのまま繰り返す)に集中しながら,私の指を追ってください. EMは1セット12往復と固定する EM1 EM2 EM3 EM 4 8.その記憶に名前をつけてみましょう.どのような名前がしっくりきますか? 名前 9.その体験を思い出しながら,今の貴方について言える最も肯定的な言葉は何ですか? A: 10.その言葉も一緒に思いながら,私の指を追ってください. EMは1セット12往復と固定する E騨5 EM6 11.今の時点でこの記憶がどのくらい役立ちそうな感じがしますか?1が全く役に立たない,7が 非常に役立ちそうだとしたらどの程度ですか? VOR→ 12.初めに考えた不安を感じた対入場面をこの記憶(ポジティブな記憶を繰り返す)と一緒に考え てください.今感じる不安感はどのくらいでしょうか?0が全く不安を感じない,10が考えられる 最大の不安だとしたらどのくらいですか? SUDs→ 以上で本日の実験を終了します.ご協力ありがとうございました, ・7・ 資料3 シャイネスに対するRDIのプロトコル (同一線の記憶+モデル驚r) 1.人は誰でも対人関係の中で,何か不安になったり,恥ずかしいと感じるといったような認知的 な変化や,心臓がドキドキしたり手のひらに汗をかいたりといった生理的な変化,もしくは緊張し て固まってしまったり,変な行動をしてしまうというような行動的な変化を感じたり体験すること が有ります.貴方にとっての苦痛な対人場面について教えて下さい. その場面を考えると今その場面があなたにとってどのくらい苦痛ですか?0が全く苦痛を感じな い,10が考えられる最大の苦痛としてお答えくださいSUDs→ 一 2,問題となる対人関係の中で,その状況にうまく対処できるためには自分に何が必要ですか?例 えば,勇気・自信・厳しさなどの性格的なことを挙げてください. A二 3.(2で答えた内容を繰り返す)という先ほど想起してもらった,対人場面でうまく対処するため の能力を想起していただいた対人場面と同様の対人場面でうまく対処するための能力をあなたの周 りで持っている人はいませんか?もしくはそれを持っているアニメのキャラクターや有名人などは いませんか?をあなたの周りで持っている人はいませんか? A: 一3・ 4.(3で答えたモデルを繰り返す)と貴方が(2で答えた内容を繰り返す)を一緒に体験するとこ ろをイメージしてみてください. 熊鷹えて嚇か?, 得点一( ) A: 得点:;( ②.どんな声や音が聞こえますか? ) x: ③どんなにおいがしますか? 得点→( 〉 .得点→( ) A: ④空気の感じはどうですか? A: ⑤脈感じる触点なものはありますか? ’繍_( ) A:‘ ⑥や経塑咄してみ轍騨弐齪ますか?繍→() ヒA: ⑦そ噂融体さどこで感じて、怯すか♀ 噛 得点_( ) A: 5.貴方にとって今感じてもらった記憶はどの程度重要な記憶ですか?1が全く重要ではない,10 重要度→ が非常に重要であるとしたらどのくらいですか? 6.今この時点でこの記憶がどのくらい役立ちそうな感じがしますか?1が全く役に立たない,7 が非常に役立ちそうだとしたらどのくらいですか? VOR→ ・g一 7.(資源のイメージの描写を繰り返す)に意識を向けるにまかせて,(感清,感覚,匂い,音など の資源の描写を繰り返す)に気づいてくださレ\ では,(資源のイメージをそのまま繰り返す)に集中しながら,私の指を追ってください, EMは1セット12往復と固定する EM1 EM2 EM3 EM 4 8.その記憶に名前をつけてみましょう.どのような名前がしっくりきますか? 名前 9.その体験を思い出しながら,今の貴方について書える最も肯定的な言葉は何ですか? A: 10.その言葉も一緒に思いながら,私の指を追ってください. EMは1セット12往復と固定する EM5 EM6 11.今の時点でこの記憶がどのくらい役立ちそうな感じがしますか?1が全く役に立たない,7が 非常に役立ちそうだとしたらどの程度ですか?VOR→ 12.初めに考えた不安を感じた対人揚面をこの記憶(ポジティブな記憶を繰り返す)と一緒に考え てください.今感じる不安感はどのくらいでしょうか?0が全く不安を感じない,10が考えられる 最大の不安だとしたらどのくらいですか? SUDs→ 以上で本日の実験を終了します.ご協力ありがとうございました. ・10・ 資料4 シャイネスに対するRDIのプロトコル (非同一線上の記憶十実体験Vb1う 1.人は誰でも対人関係の中で,何か不安になったり,恥ずかしいと感じるといったような認知的 な変化や,.心臓がドキドキしたり手のひらに汗をかいたりといった生理的な変化,もしくは緊張し て固まってしまったり,変な行動をしてしまうというような行動的な変化を感じたり体験すること が有ります:貴方にとっての苦痛な対人場面について教えて下さい. A: その場面を考えると今その場面があなたにとってどのくらい苦痛ですか?0が全く苦痛を感じな い,10が考えられる最大の苦痛としてお答えくださいSUDs→ 2.問題となる対人関係の中で,その状況にうまく対処できるためには自分に何が必要ですか?例 えば,勇気・自信・厳しさなどの性格的なことを挙げてください. 3,(2で答えた内容を繰り返す)という先ほど想起してもらった,対人糸面でうまく対処するため の能力を想起していた煩・た対人場面と類似の対人場面以外であなたが確かに持っていたという経 験はありませんか? ・11・ 4.その経験をイメージしてみて ①何が見えていますか? 得点→( ) ②どんな声や音が聞こえますか? 得点→( ) ③どんなにおいがしますか? 得点→( 〉 ④空気の感じはどうですか? 得点→( ) ⑤肌で感じる触覚的なものはありますか? 得点一→( !「 A: A: ⑥今,この経験を思い出してみて,どんな感晴が湧いてきますか? 得点→( ⑦その感清を体のどこで感じていますか? 得点ら( ) ) A: 5.貴方にとって今感じてもらった記憶はどの程度重要な記憶ですか?1が全く重要ではない,10 重要度→ が非常に重要であるとしたらどのくらいですか? 6。今この時点でこの記億がどのくらい役立ちそうな感じがしますか?1が全く役に立たない,7 が非常に役立ちそうだとしたらどのくらいですか? VOR→ ・12・ 7.(資源のイメージの描写を繰り返す)に意識を向けるにまかせて,(感情,感覚,匂い,音など の資源の描写を繰り返す)に気づいてください. では,(資源のイメージをそのまま繰り返す)に集中しながら,私の指を追ってください. EMは1セット12往復と固定する EM1 EM2 EM3 EM 4 8.その記憶に名前をつけてみましょう,どのような名前がしっくりきますかウ 名前 9.その体験を思い出しながら,今の貴方について言える最も肯定的な言葉は何ですか? A: 10,その言葉も一緒に思いながら,私の指を追ってください. 猛Mは1セット12往復と固定する EM5 EM6 11.今の時点でこの記憶がどのくらい役立ちそうな感じがしますか?1が全く役に立たない,7が 非常に役立ちそうだとしたらどの程度ですか? VOR→ 12.初めに考えた不安を感じた対人場面をこの記憶(ポジティブな記憶を繰り返す)と一緒に考え てください。今感じる不安感はどのくらいでしょうか?0が全く不安を感じない,10が考えられる 最大の不安だとしたらどのくらいですか? SUDぽ→ ・ 以上で本日の実験を終了します.ご協力ありがとうございました. ・13・ 資料5 シャイネスに対するRDIのプロトコル (非同一線上の記憶+・モデル∼br) 1.人は誰でも対人関係の中で,何か不安になったり,恥ずかしいと感じるといったような認知的 な変化や,心臓がドキドキしたり手めひらに汗をかいたりといった生理的な変化,もしくは緊張し て固まってしまったり,変な行動をしてしまうというような行動的な変化を感じたり体験すること が有ります.貴方にとっての苦痛な対人場面について教えて下さい. A: その場面を考えると今その場面があなたにとってどのくらい苦痛ですか?0が全く苦痛を感じな い,10が考えられる最大の苦痛としてお答えくださいSUDs→ 2.問題となる対人関係の中で,その状況にうまく対処できるためには自分に何が必要ですか?例 えば,勇気・自信・厳しさなどの性格的なことを挙げてください. 3.(2で答えた内容を繰り返す)という先ほど想起してもらった,対人場面でうまく対処するため の能力を想起しでいただいた対人場面と類似の対人場面以外であなたの周りで持っている人はいま せんか?もしくはそれを持っているアニメのキャラクターや有名入などはいませんか? A: 44一 4.,(3で答えたモデルを繰り返す)と貴方が(2で答えた内容を繰り返す)を一緒に体験するとζ ろをイメージしてみてください. 得点→( ) ②.どんな声や音が聞こえますか? 得点→( ) ③どんなにおいがしますか? 得点→( ) 得点→( ) 得点→( ) 得点→( ) 得点→( ) ①.何が見えていますか? A; A: ④.空気の感じはどうですか? A: ⑤.肌で感じる触覚的なものはありますか? A: ⑥今,この経験を思い出してみて,どんな感祷が湧いてきますか? A: ⑦その感情を体のどこで感じていますか? A: 5.貴方にとって今感じてもらった記憶はどの程度重要な記憶ですか?1が全く重要ではない,10 が非常に重要であるとしたらどのくらいですか? 重要度→ 6.今この時点でこの記憶がどのくらい役立ちそうな感じがしますか?1が全く役に立たない,7 が非常に役立ちそうだとしたらどのくらいですか? VOR→ 一15・ 7.(資源のイメージの描写を繰り返す)に意識を向けるにまかせて,(感情,感覚,匂嬉音など の資源の描写を繰り返す)に気づいてください. では,(資源のイメージをそのまま繰り返す)に集中しながら,私の指を追ってください。 EMは1セット12往復と固定する 「EM1 EM2 EM3 EM 4 8,その記憶に名前をつけてみましょう.どのような名前がしっくりきますか? 名前 9.その体験を思い出しながら,今の貴方について言える最も肯定的な言葉は何ですか? A: 10,その言葉も一緒に思いながら,私の指を追ってください EMは1セット12往復と固定する EM5 EM6 11.今の時点でこの記憶がどのくらい役立ちそうな感じがしますか?1が全く役に立たない,7が 非常に役立ちそうだとしたらどの程度ですか? VOR→ 12.初めに考えた不安を感じた対人場面をこの記憶(ポジティブな記憶を繰り返す)と瀦に考え てください.今感じる不安感はどのくらいでしょうか?0が全く不安を感じない,10が考えられる 最大の不安だとしたらどのくらいですか? SUDs→、 以上で本日の実験を終了します.ご協力ありがとうございました. ・16・ 資料6 先ほど想起していただいた未安や心配を感じたエピソードを思い患してみて.今現往のあなたの気分に一致している程度について以下の質問に答えてく把さい.正しい答えとか固違った答えなどはありませんので,あまり考え込まずに回答するようにお願いします. く当てはまらない てはまちない てち てち Mら ワか ヘら ワか 驍ニ @い @え ば 轤ニ ネい 「え てはまる て常 ヘ1; ワよ 驍ュ @ば びくび した 1 2 3 4 5 6 のあ 1 2 3 4 5 6 誇らしい 1 2 3 41 5 6 いら繹,た 1 2 3 噛4 5 6 した 1 2 3 4 5 6 わわ』た 1 2 3 4 おびえた 1 2 3 4 《の つた 、 1 2 3 4 5 6 ぴりぴりした 1 2 3 4 5 § 強な 1 2 3 4 5 6 うた廟た 1 2 3 4 5 6 4 、5 6 6 6 1§ な 1 2 ’じた 1 2 3 4 1 2 3 S 5 1 2 3 4 5 調 した ’ S した 6 、6 , り し一、 1 ・17一 2 3 4 5 資料7 2007年 様 月 日 兵庫教育大学大学院学校教育研究科臨床心理学コース吉里肇 連絡先:***一****一**** 本研究は,吉里肇・市井雅哉の共同研究として,市井の指導に基づき進められています. 本研究は,対人関係の改善に関する研究の一環として行われています.本研究では,①対人場面 について,いくつか思い出していただきまナ②その際,複数の心理テストや,課題を行っていた だきます. 実験の結果は,統計的に処理され,個人的なデータが公表されることは一切ありません.あなた のプライバシーを侵害するような結果の解釈を行うことは一切ありませんので,ご協力お願いいた します. また,実験の結果を確認したい場合は,下記のスペースに,添付ファイルの送付できるメーヲレアド レスもしくは,ご希望の連絡先をご記入ください.結果の報告は,2008年3月下旬を予定してお ります。 最後に,今後とも,同様な研究を進めていく予定ですので,実験内容については口外なさらない ようにお願いいたします. 承諾書 私は,本研究の主旨を理解した上で,実験の参加依頼を承諾します.また,実験結果は,個人的 なプライバシーの侵害を避けることを条件に,学術研究のために用いることを認めます.最後に, 実験の内容について,口外しないことを約束します.・ 2007年 遷先(希望者) ・18・ 月 日
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