J. Plasma Fusion Res. Vol.90, No.8 (2014)4 56‐461 小特集 高強度・高出力レーザーの物理的・技術的展開と,プラズマ・核融合研究開発 4.短波長光源の駆動に最適化された 高輝度・高平均出力レーザー技術の研究開発動向 4. High Brightness and High Average Power Laser Research with Optimization for Short Wavelength Light Sources 遠藤 彰1),2),溝 口 計3) ENDO Akira and MIZOGUCHI Hakaru チェコ科学アカデミー HiLase プロジェクト,2)早稲田大学理工学術院,3)ギガフォトン株式会社 1) (原稿受付:2 0 1 4年3月1 0日) レーザー生成プラズマを利用した EUV リソグラフィ光源では,基本要素の一つとしてピコ秒固体レーザー が使われている.このピコ秒レーザーは,10ミクロンサイズの錫ドロプレットをナノ秒パルス炭酸ガスレーザー 光の吸収の最適化のために均一にクラスターに分散する役割を担っている.レーザーの性能としては繰り返しが 100 kHz 以上のピコ秒パルスを 100 W 以上の高平均出力で,かつ数 μ メーターの空間安定性を保証するとともに 10ミクロンドロプレットへの集光が可能なビーム品質が求められている.このような性能を満たす固体レーザー の実現には最新の固体レーザー技術を採用して,かつ十分な最適化を行うことが必要であり,現在チェコ共和国 で進展しているレーザー研究プロジェクト"HiLase"でのディスクレーザーによる実施例を中心に紹介する. 10 kW 級 100 kHz 繰り返しナノ秒炭酸ガスレーザーについては研究開発の経緯と実施例について概要を紹介する. Keywords: EUV plasma, lithography, thin disc, picosecond solid state laser, HiLase 4. 1 はじめに ロプレットへのレーザー照射も時間的空間的な同期が必要 従来は大型のシンクロトロン施設を利用するか,あるい で,特にピコ秒レーザーの照射位置安定度はパルスエネル は出力の低い希ガスランプなどの光源しかなかった EUV ギーが mJ 以上で数 μm が要求される.よく知られているよ (Extreme Ultraviolet)領域での高出力光源として,100 W うに,ロッド型に代表される固体レーザー媒質はある程度 レベルのプラズマ光源が半導体リソグラフィーでの利用を の励起エネルギーを超えると光ビームの伝搬の際に媒質の 目標として2000年頃より研究開発が行われ最近の10年で著 発熱に伴う揺らぎが大きくなり(熱複屈折など) ,これに しく進展を遂げている.この研究開発については既に昨年 よりビーム品質が劣化して集光性能が低下する.この課題 本誌に最近の動向が報告されている [1, 2].そのためレー に対処するために本質的には効率的な冷却を実現すること ザープラズマを利用する EUV リソグラフィー光源の詳細 を主眼として,従来から欧州を中心にファイバー,薄型ス についてはこの報告では概要を述べるに留めるが,ター ラブ,ディスクレーザーが研究されてきている.最近では ゲットの初期化として錫液滴マイクロドロプレットをクラ 加工分野での連続光源としてファイバー,ディスクレー スターに一様分散させるためにピコ秒レーザーアブレー ザーが連続10 kW以上の出力でかつ高ビーム品質を実現し ションに伴う衝撃波が利用されている.またプラズマへの て普及し始めているが,パルス動作では端面の光損傷の制 エネルギー注入にはナノ秒炭酸ガスレーザーパルスが使わ 約を理由に大きな断面積の利用できるディスクレーザーの れている.プラズマ生成は 100 kHz 以上の高繰り返しであ 研究開発が盛んになってきている.欧州で進展している大 り,そのためにピコ秒固体レーザー,ナノ秒炭酸ガスレー 型レーザー施設の建設でも繰り返しの高いフェムト秒,ア ザー共にこの繰り返しで動作して,更に要求されるレー ト秒の超短パルスレーザーの励起光源としてディスクレー ザー光の性能を満足し,かつ装置サイズ,効率など光源全 ザーが選定され,現在では各種のパルスレーザー装置の研 体への負担を極力抑えることが必要である. 究開発が進んでいる.この励起レーザーの仕様は EUV 光 ターゲットとしての 10 μm 径錫ドロプレットは液体ノズ 源でのマイクロドロプレットへのプレパルスに必要なもの ルから 100 m/s 程度の高速で射出され,プラズマによる損 と同等であり,この技術開発を有効に利用できれば EUV 傷を防止するために周囲の構造物から数十 cm 離れた位置 光源装置のエンジニアリングにとって有用である. で時間,空間的に高精度に制御されている.このドロプ 一方のエネルギー注入を担う炭酸ガスレーザーでは,増 レット発生機にも高度な技術が必要であるが,マイクロド 幅器として従来から連続動作で10 kW級の出力で熱加工に Corresponding author’s e-mail: [email protected] 456 !2014 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research Special Topic Article 4. High Brightness and High Average Power Laser Research with Optimization for Short Wavelength Light Sources A. Endo and H. Mizoguchi 使われているマイクロ波励起低気圧装置をパルス増幅器と る Stuttgart 大学の Giesen 教授の始めたベンチャーである して利用することで10ナノ秒程度の連続パルスを発生でき Dausinger-Giesen(DG)社と,最近では Stuttgart 大学 る.波長が固体レーザーの10倍長いので,集光サイズを分 の研究所 IFSW(Institute fürStrahlwerkzeuge)より入手 散後のドロプレットの広がりに対応する 100 μm 程度に制 できる.これらは銅タングステンを基板として Yb:YAG 御することが必要であるが,レーザー媒質密度が低いので を接着した構造となっている(図1).一方で米国の光学 2 熱揺らぎの影響が少なく,必要な実効的ビーム品質 M <2 部品メーカーからはダイアモンドを基板として Yb:YAG の実現には軽微な影響しかない利点がある. を接着したものが入手できる(図2).ディスクではレー 本章では4. 2でピコ秒固体レーザーの欧州を中心とする ザー媒質の厚みを極限まで薄くして水冷熱伝導により温度 最近の研究状況の一部を概観し,著者の一人(遠藤)が参 上昇を低減することが設計上最も重要であるが,それでも 加しているチェコ共和国での HiLase プロジェクトでの Yb: ある程度の温度上昇とそれによる媒質の変形の課題が残っ YAG ディスクを増幅器とする 100 W,100 kHz のピコ秒 ている. レーザー光源の研究の現状と将来展望について述べる.パ レーザー動作の際にこの熱変形により共振器の条件が変 ルス炭酸ガスレーザーについては4. 3でギガフォトン社で 動して出力の減少やビームモードの劣化が発生するので, の研究開発の経緯と最近の関連論文などを中心にこのレー それぞれのディスクの励起パワーに応じた表面の変形をあ ザーの特徴について報告する. らかじめ測定してそれに対応した再生増幅器の構成を設計 しておくことが必要である.そのためにHiLaseプロジェク 4. 2 ピコ秒 thin disc レーザー トでは有限要素法によるモデル化と同時に実験的にディス 4. 2. 1 HiLase プロジェクトとピコ秒ディスクレーザー クの表面温度の測定,ディスクの表面形状の測定を行い, レーザー科学技術の研究分野では1990年代より欧州の指 それぞれのディスクを評価している.図3はレーザー発振 導的な役割に注目が集まっている.特に近年では ELI(Ex- 状態での DG 製ディスク(DG) ,ダイアモンド基盤の結晶 treme Light Infrastructure)に代表される基礎科学研究で (D Crystal) ,セラミック(D Ceramic)それぞれのディス の大型施設建設や,Trumpf,IPG などのレーザー光源メー クの表面温度の測定結果を示す.銅タングステン基盤に比 カー の 世 界 市 場で の 優 位 に は 瞠 目 す べ き も の が あ る. べダイアモンド基盤が熱伝導に優れ表面温度の上昇が軽微 「レーザー研究」誌では2014年2月特集号「欧州における超 であることを示している.Hartmann Shack 波面測定器は 高出カレーザー開発の最前線」でいくつかの代表的なプロ ビームの波面の測定に有用であり,プローブビームをレー ジェクトの紹介が行われ,HiLase プロジェクトについても ザー発振中のディスクに照射してその反射ビームの波面を リーダーのモチェック(Mocek)氏より「HiLASE: Devel- 測定することでディスクの変形と実効的な焦点距離の評価 opment of Fully Diode-Pumped, kW-Class Pulsed Lasers for も行っている.図4には波面測定器のセットアップを示 High-Tech Applications」と の 解 説 が 掲 載 さ れ て い る す.レーザー光学系と干渉しないように波面測定光学系は [3].またその中のピコ秒ディスクレーザーについてはや 垂直方向に配置されている.図5(a)は冷却水を停止して はり「レーザー研究」誌の2013年9月特集号「産業用固体 レーザーおよびファイバレーザーの新展開」で三浦泰祐氏 より「高エネルギー・高平均出力超短パルスディスクレー ザーの開発」との解説が紹介されている[4].したがって本 章では HiLase プロジェクトやピコ秒ディスクレーザーに ついては重複を避けて,EUV光源でのプレパルスとして重 要な 100 kHz ピコ秒ディスクレーザーの進展とその光源の 将来展望,特に ELI プロジェクトで期待されている OPCPA の励起光源としての展開,および中赤外光源の励起と 図1 その将来の利用展望などについて紹介する. 銅タングステン基板のディスク構成図. 4. 2. 2 ピコ秒 thin disc レーザーと評価技術 HiLase プロジェクトではディスクレーザーを再生増幅 器,マルチパス増幅器として繰り返しは kHz 級でパルスエ ネルギーが 500 mJ 以上のタイプと,100 kHz で 5 mJ 以上の パルス幅 1 ps,ビーム品質 M2<2 のディスクレーザー装置 の研究開発を進めている.前者は希ガスをターゲットとす る短波長光源の駆動を主な利用分野として想定している が,後者はまず高出力 EUV 光源でのプレパルス光源とし て,更にドットターゲットによるマイクロプラズマ光源や OPCPA 励起への応用,更に 10 W 以上の中赤外光源への応 用を想定している. 図2 ディスクレーザーの要であるディスクはその創始者であ 457 ダイアモンド基板のディスク構成図. Journal of Plasma and Fusion Research Vol.90, No.8 August 2014 図3 レーザー発振時の各ディスクの表面温度の励起パワー依存性. 図4 図5(a) 冷却水停止時の平坦なディスク表面. ディスク表面形状の熱変形の測定セットアップ. いる際のほぼ平坦なディスク形状を,図5(b)は冷却水を 供給している際の水圧によりディスクが外側に変形してい る形状が測定されている様子を示している.いずれの場合 も励起レーザーパワーは 0.1 W で,最大変位は (b)図の場 図5(b) 冷却水動作時の水圧でのディスク変形. 合,20 nm になる.次の図6はレーザー発振中の焦点距離 の測定結果で,DG ディスクの場合は励起パワーに正比例 して伸びるのに対して,ダイアモンド基盤のセラミック ディスクの場合には焦点距離が減少するが一定の励起パ ワー以上では一定値になることを示している.レーザー発 振のビームパターンの測定結果でもダイアモンド基盤の場 合が最も変形の少ない結果となり,このディスクの有望な ことが確認されている. 4. 2. 3 再生増幅器による 100 kHz,1 ps,1 mJ レーザー HiLase プロジェクトの開始は2 012年であるが,実験装置 の組み立てはその秋より開始している.ディスクとしては DG 社の連続出力が 200 W クラスのものを導入し,励起ダ イオードの波長は標準の 940 nm で実施している.レー 図6 ザーシステムの発振器としてはモード同期ファイバレー レーザー発振時の各ディスクの焦点距離の励起パワー依存 性,H,V はそれぞれ水平,垂直成分を示す. ザ ー(50 MHz,40 nJ,5 ps)を 用 い て 調 整 を 行 っ て き た.このレーザー装置では全体をコンパクトとすることを 目標としていて,そのために通常はスペースを占めるパル ス伸長,圧縮器に CVBG(Chirped Volume Bragg Grating) を採用している.励起ダイオードの波長はより量子効率の 高い zero phonon line の 969 nm でも試みている.図7は再 生増幅器としての構成を,また図8は実際の構成イメージ を示している.20 14年の初頭には圧縮前の測定で 100 kHz, 85 W の性能を得ることができ,また 969 nm での励起で焦 点距離の変位が少ない点も確認している.パルスエネル 図7 ギー安定度,集光点位置安定度なども測定されいずれも要 求レベルを満たしていることが確認されている.この段階 458 100 kHz ピコ秒再生増幅器の構成. Special Topic Article 4. High Brightness and High Average Power Laser Research with Optimization for Short Wavelength Light Sources A. Endo and H. Mizoguchi 応用の面から魅力的な研究課題であり,現在 100 W のピコ 秒ディスクレーザーの励起で 10 W 以上の出力を目標とし て研究開発を進めている.図9はその基本構成を示してい るが,非線形結晶の長時間にわたる使用による劣化など検 証するべき課題が多い.波長領域は 1.5 μm−3.5 μm で平均 出力 10 W のコンパクトな光源を実証する点にある.この 波長にはセンシングからバイオ,医療への応用,更にポリ マーの微細加工などの有用な利用があるが,従来の製品で は平均出力が 1 W 以下でビーム品質も良好とはいえず,さ 図8 100 kHz ピコ秒再生増幅器のイメージ. らに結晶の寿命の問題もある.今回の実験ではこれらの課 題の解決を目標としていて,事前の技術検討では 100 W で HVM(High Volume Manufacturing:大 量 生 産)EUV 励起による結晶の熱挙動や損傷閾値を考慮したビームパス 光源でのプレパルスレーザーとしての基本性能はほぼ達成 の設計,更にウォーキングオフに対応した構成を考慮し されているが,今後は装置組み込みでの対環境性などの実 た.実験では既に 10 mm 長非線形結晶 KTP および 3 mm 用化に対応したエンジニアリングが課題である. HiLase プロジェクトでは新規実験建屋の建設を進めて 長周期的分極反転ニオブ酸リチウム PPLNを使用したOPG (光パラメトリック発振器)による中赤外発生を試み技術 きたが,2014年5月の移転後はスペースの制約がなくなり 評価の妥当性を確認している [7].これ以降は OPA(光パ 高出力レーザーダイオードでの励起により 100 kHz,5 mJ, ラメトリック増幅器)によりフルパワーでの実験で長時間 1 ps をめざした研究開発を予定している.そのために既に の熱影響の検証に進み,最適な装置構成を確立すことにし 5 kW の励起ダイオードとこれに対応したディスクを準備 ている. している.この際の研究課題としてはコンパクト性と高平 4. 3 ナノ秒炭酸ガスレーザー 均出力の両立であり,各光学コンポーネントが熱負荷の増 加下で安定動作がどこまで可能か,を確認しながら進める EUV 光源へのエネルギー注入を担うのはパルス炭酸ガ 予定である.コンパクト性を犠牲にして主増幅段のマルチ スレーザーで,機械加工に幅広く使われている連続動作炭 パス化,直接増幅の可能なロングパルス化,ASE の影響を 酸ガスレーザーを増幅器としてナノ秒パルスの増幅に用い 低減できる MHz 繰り返しにより CW 増幅に近い条件では ることで大出力のパルスレーザー出力を取り出している 既に高ビーム品質で kW の出力が最近実証されているので [8].EUV 光源の出力として現在では最終的に kW との要 [5],今後はパルスエネルギーが 10 mJ 以上で繰り返しも 求があるので,それに必要な投入エネルギーは 100 kW 級 100 kHz 以上での安定動作が近い将来の研究開発課題とし となり,現状では固体レーザーではまだ及ばない.また て浮上してくるものと予想されている. EUV プラズマの物理の面からも長波長の炭酸ガスレー 4. 2. 4 100 kHz,ps レーザーによる OPA 励起 ザーが選定されている.現時点での HVMEUV 光源の出力 プラズマによりよく制御された粒子加速などの実験には は 13.5 nm で既に長時間動作で 100 W に迫っているが,そ 通常のフェムト秒レーザーの圧縮パルスに伴うペデスタル れでも半導体リソグラフィーの要求するレベルにはさらに を避ける手法が必要で,以前は増幅されたパルスを可飽和 格段の努力が必要とされている.1 kW EUV 光源の構成に 吸収体にうまく通すことでそれなりのコントラスト比を得 ついてはすでに検討されているが,その中で注意すべきは ていたが,最近では,途中の増幅過程で光パラメトリック プラズマからの EUV 光の伝送効率次第では実際 100 kW 増幅を採用することで,励起光が存在しない時間における の出力が繰り返し 100 kHz の性能で要求される可能性が排 利得をなくすことによる,余計なパルス列成分の増幅抑制 除できない点にある[9]. や,CPA を2段にして段間に可飽和吸収体を挿入して,十 4. 3. 1 ナノ秒炭酸ガスレーザーの 100 kHz 動作 分大きなエネルギーを高いコントラスト比で実現するよう パルス炭酸ガスレーザー(6 kW,100 kHz)で回転円盤 な手法がとられるようになっている.そのためにレーザー 錫ターゲットを照射して 60 W 相当の EUV 光の発生が確認 装置の構成として OPCPA(光パラメトリックチャープパ され,これによりプラズマ EUV 光源の基本方式が定まっ ルス増幅)を使ったり,CPA を2段化してコントラストを 高めることが基本となっている.アト秒領域のレーザーパ ルスを分光実験に使う場合にはデータ集積の要請から高繰 り返しが要求される.アト秒に特化しているハンガリーの ELI ビ ー ム ラ イ ン の 計 画 で は ALPS-HR と し て 7 fs, 100 kHz,平均出力 100 W が予定されている[6].この OPCPA の励起には平均出力が kW 級のディスクピコ秒レー ザーが必要と考えられていて,現時点での進展を見ながら 図9 近い将来には実際に使われることも想定されている. 一方でピコ秒の中赤外光源のパワー増加も各種の潜在的 459 100 kHz,100 W ピコ秒レーザー励起による中赤外光発生 装置. Journal of Plasma and Fusion Research Vol.90, No.8 August 2014 たのは2005年末のことである.この際の炭酸ガスレーザー ザーからのマイクロジュール級のパルスを常に飽和フルー では発振器には 100 W 導波路型炭酸ガスレーザーの Q ス エンスでの増幅として取り出し効率を上げることを目的 イッチ短パルス光源が用いられ,増幅器には Trumpf 社の に,ビーム面積を連続的に増加することで効率的な増幅を 高速軸流型の連続出力 5 kW タイプを4台使用していた. 実証している.連続出力炭酸ガスレーザーでも装置の小型 合計の連続出力に比べてパルスでの出力は低く,工学的に 化を目的としていくつかのスラブ型レーザーの研究開発が はより大きな効率での取り出しを実現して EUV 光源の総 進められ,製品レベルでも連続マルチモードで 8 kW の製 合効率を高くする必要があった.炭酸ガスレーザーでのパ 品が市販されている.工学的な利点としては伝導冷却方式 ルス増幅は1970年代にレーザー核融合ドライバー研究の一 のためにガス媒質の循環冷却が不要で軸流型のような大型 環として大気圧増幅器を対象に各種の研究が行われてい のポンプを使用せず,そのためにフロア面積が小さいこと る.この中で多くの基礎過程が明らかになり,そのデータ であるが,レーザー装置上は上記の特徴であるビーム面積 を検討することで増幅の効率化の指針を得ることができ を飽和フルーエンスに合わせて連続的に増加させる点が容 た.EUV 光源に利用するには 100 kHz での繰り返しで動作 易である.これについてもギガフォトンの Nowak 研究員 させる必要があり,それにはパルスパワー型ではないマイ のグループで研究が進展している.最近の報告では 8 kW クロ波励起型の低圧気体媒質を使うことになる.その場合 連続出力のスラブレーザーを使い,15 ns,100 kHz,連続 レーザー準位間のエネルギー緩和がより低速になり,10ナ 100 W(パルスエネルギー 1 mJ)入力をマルチパス増幅し ノ秒のパルス増幅でも複数のレーザー波長での同時増幅で てペデスタルを抑えて 2 kW(20 mJ)の出力を得ている 効率的な増幅が得られることが数値計算モデルで指摘され [11].同じ光学系でのシングルモード連続光増幅に対して た.その実証にはまず固体レーザーの波長変換で 10 μm 60%の取り出し効率となり,さらに2波長での同時増幅で 波長域での広帯域シード光による増幅で実験が行われ,モ 10%の増加となった.今後はシード光を4波長として更な デルの妥当性の検証がされた.しかし工学的にはシード光 る効率の上昇を図る予定である. の生成を非線形過程である OPA+DFG に頼る事は増幅シ 4. 3. 3 炭酸ガスレーザー主増幅器の最適化 ステムの安定性にとり不利である.これへの対応として近 エネルギーを取り出す段階である主増幅器での課題とし 年目覚ましい進展を見せている遠赤外半導体レーザーであ て指摘されていたのは,高速軸流型構造によるビーム断面 る量子カスケードレーザー(QCL)を活用することで工学 積の制約により,ダイアモンド窓の熱負荷とパルスエネル 的に安定な複数レーザー波長のシーダーを実現できる.こ ギーの制約がある.これへの対応としては大面積が可能な れについてはギガフォトン社の Nowak 研究員を中心とす 3軸直交型炭酸ガスレーザーをマルチパス増幅器として使 る研究が報告されている [10].図10は 100 W 導波路型 RF うアイディアが提案され,三菱電機とギガフォトンによっ 励起炭酸ガスレーザーへの4波長の注入同期のシステム図 て開発プロジェクトが企画された.この配置は1970年代の である. 大気圧増幅器での光学系の配置を想起させるものである 4. 3. 2 炭酸ガスレーザー前置増幅器の小型化 が,この試みは三菱電機の谷野,西前らのグループより報 次の課題として指摘されていたのは発振器からのビーム 告されている[12].報告によれば断面積 5 cm×5 cm の3 径がミリメーター程度のナノ秒ビームを口径1インチ程度 軸直交型炭酸ガスレーザーを5回のマルチパス増幅器とし の増幅器の飽和フルーエンスまで効率的に増幅することで て,8.5 W の入力により 3 kW の出力を得ている.この時の ある.固体レーザーではこれに相当するのがドイツのアー 入力パルス列は 13 ns,100 kHz であり増幅後のペデスタル ヘンのフラウンホーファー研究所で研究の進められた In- とパルス幅の増加も軽微であった.この時の入力電力から noSlab と言われる薄スラブレーザーである.ファイバレー 光出力への変換効率は3%レベルであり,増幅器としての 実用性を実証している.また図11はこの際の実験配置を示 している.図12の a,b,c ではそれぞれ軸流型,スラブ 型,3軸直交型炭酸ガスレーザーの構成図を示している. 最近の報告によればこの増幅器を3台繋いでシングルパ ス2波長増幅することで 3 kW の入力に対して 21 kW の出 力を得ている.この際の入力には 15 ns,100 kHz のパルス 列が使われている[13].この増幅器はビーム断面積が軸流 型の4倍程度あるので,原理的には 1 J レベルのパルスエ ネルギーを取り出すことが可能であるので,将来の拡張性 の点からも有望である. 4. 4 まとめ 波長 13.5 nm の EUVリソグラフィー光源に必要なプレパ ルスレーザーとして の 100 W 級ピコ秒固体レー ザーと 図1 0 100 W 導波路型 RF 励起炭酸ガスレーザーへの4波長の注 入同期のシステム図,炭酸ガス分子の振動回転遷移に対応 して波長がそれぞれ同定されている. 20 kW 級ナノ秒炭酸ガスレーザーについて経緯と現状を報 告した.炭酸ガスレーザーについては国内に研究と製造の 460 Special Topic Article 4. High Brightness and High Average Power Laser Research with Optimization for Short Wavelength Light Sources A. Endo and H. Mizoguchi 図1 2a 軸流型 CO2 レーザーのガス流とレーザービームの配置(同 軸型) . 図1 2b スラブ型 CO2 レーザーの励起とレーザービームの配置, 伝導冷却のためにガスは静止している. 図1 2c 3軸直交型 CO2 レーザーのガス流,レーザービーム,励起 の配置,それぞれが直交関係にある. 図1 1 3軸直交行型炭酸ガスレーザーのマルチパス増幅の構成. 基盤があり,NEDO プロジェクトを引き継いだ民間の研究 開発で実用機への展望が開けている.一方で1990年代に欧 州で進展した固体レーザーの革新に対応した研究基盤をも つ欧州でのレーザー研究と連携することで,EUV光源に必 要なピコ秒固体レーザーの基盤技術を確立する展望を得て いる. 本報告でのピコ秒ディスクレーザーに関してはチェコ共 和国文部省と欧州地域振興基金の支援を,また炭酸ガス レーザーに関しては NEDO の支援を受けていることに感 謝する. 参考文献 [1]東口武史 他:プラズマ・核融合学会誌 89, 341(2013). [2]東口武史 他:プラズマ・核融合学会誌 89, 669 (2013). [3]T. Mocek et al.:レーザー研究 42, 145 (2014). [4]三浦泰佑 他:レーザー研究 41, 703 (2013). [5]J.P Negel et al., Opt. Lett. 38, 5442 (2013). [6]White paper, ELI Hungary : http://www.eli-hu.hu/ [7]O. Nowak et al., SPIE Photonics Europe, 9135-17, 14-17 April (2014), Brussels. [8]A. Endo, CO2 LaserOptimisation and Application, 163, Intech (2012). [9]A. Endo, J. 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