インプラントオーバーデンチャーシステム紹介 タ ム 耐久性特殊ナイロン製義歯床用材料(TUM デンチャー※)を用いた インプラントオーバーデンチャーシステム − 編集部レポート − 従来のナイロンデンチャーというと、ポリアミド樹 脂をベースとしたノンメタルクラスプデンチャーが想 起される。今回紹介する TUM デンチャーも、本来は 既存のナイロンデンチャーの欠点を補った後発のノン メタルクラスプデンチャーとして臨床に登場し、すで に 2 万 5 千症例以上の実績を誇っている。 ポリアミド樹脂をベースとしたナイロンデンチャー には「バルプラスト」 「フレキサイト」 「ルシトーン FRS」など多種の製品があり、既に臨床でも広く採用 されている。材質的にもポリカーボネートや PET と比 較して耐久性があり、弾性を有することからクラスプ の代替が可能である。しかし、リベースや即重による 修理が困難などといったデメリットも存在し、製品に よっては適合性や耐変色性にも問題があるという声も 聞かれていた。 TUM デンチャーはそれらの問題点を解決していく 過程で、耐久性を大幅に向上させるとともに、リベー スや修理にも対応が可能となっている。それらの特徴 を活かして、義歯床自体に一体型の維持装置を形成し、 インプラントオーバーデンチャーの支持に使用できる ようにしているのが今回紹介するシステムである。以 下に、TUM デンチャーの特徴と臨床的な有用性を検証 したい。 ※ 薬事認証番号:225AKBZX00086000 特許第 51009185 号 The Journal of Oral Implants 2014 No.59 1 2 インプラントオーバーデンチャーシステム紹介 Information of Implant Over Denture System TUM ノンメタルクラスプデンチャー TUM デンチャーによるインプラント オーバーデンチャーシステムを紹介す る前に、従来のノンメタルクラスプデ ンチャー(以下 NMC デンチャー)の 術前の口腔内正面観 TUM デンチャー装着後の 口腔内正面観 術前の口腔内咬合面観 TUM デンチャー装着後の 装着後 5 年が経過した 口腔内咬合面観 TUM デンチャー 臨床的有用性について整理してみたい。 NMC デンチャーは、ノンメタルで あるがゆえに軽くて金属アレルギーの 問題は解消済であり、加えて装着時の 審美性が大幅に向上したエステティッ クデンチャーと考えられる。患者の審 美的欲求が高まってきた現在、クラウ ンブリッジの設計や選択が不可能な欠 図 A:上顎両側遊離端症例に TUM デンチャーを応用したケース。装着後 5 年が経過したが劣化な 損補綴において、通常の床義歯とイン どは認められない。 (臨床写真:兵庫県開業 西端先生ご提供) プラント治療の間に位置する補綴処置 じめ、力に対する配慮は重要となる。 の選択肢となり得る。また、弾性や柔 TUM デンチャーは、口腔内において 軟性を有することから、メタルクラス 直接法によるリベースや即重の追補も プの様に厳密なサベイイングと着脱方 専用のプライマーを使用することで可 向の制限も少ない。つまり、残存歯の 能となっている(図 B) 。また間接法で 歯軸が多少ばらばらでも装着が可能で のリベースや増歯などへの対応におい あり、クラスプ自体が歯肉縁形態とし ては、同一材料で完全に一体化した修 て審美的にデザインされるので、イン 理・リペアが可能である。これは、患 プラント治療の前段階の補綴処置とし 者の口腔内の状況に合わせた対応が可 て、あるいは抜歯後にインプラントオー 能ということであり、患者の背景に合 バーデンチャーを予定しているケース わせて審美的な目的で使用するのか、 で の、 イ ン プ ラ ン ト 埋 入 後 の 治 癒 期 機能面重視で使用するのか、次の治療 間における残存歯を利用したテンポラ ステップへの橋渡しとして使用するの リーデンチャーとしての利用も有効で かなどと選択肢も広がってくる。 あ る と 考 え ら れ る( 図 A)。 た だ し、 NMC デンチャーに関する現時点にお TUM デンチャーの耐久性 ける(社)日本補綴歯科学会としての TUM デンチャーは、その耐久性を 見解として、「外観を重視したレストを 立証するために、多くの他社製品を同 付与しない軟性の義歯床は、後に重大 一条件で成型し、大阪市立工業研究所 な障害を起こす可能性がある」と警告 で耐久性試験を実施している。その実 しているので、レストの付与などをは 験内容は、インプラントオーバーデン インプラントジャーナル 2014 No.59 図 B:TUM デンチャーは、口腔内において直 接法によるリベースや即重の追補も専用のプ ライマーを使用することで可能となっている。 耐久性特殊ナイロン製義歯床用材料(TUM デンチャー)を用いたインプラントオーバーデンチャーシステム 図 C:TUM デンチャーの耐久性試験。インプラントオーバーデンチャー の着脱をイメージして、アンダーカットを付与した金属片に維持装置を 模した成型体を毎秒一回抜き差しして耐久性を検証した。 チャーの着脱をイメージして、アンダー カットを付与した金属片に維持装置を 模した成型体を毎秒一回抜き差しして 図 D:TUM デンチャーの耐久性試験の結果。他社製品すべてが数千回以 耐久性を検証している (図 C) 。 その結果、 内で破折したのに対し、TUM デンチャーは 40000 回でも破折なしとい 他社製品すべてが数千回以内で破折し う結果を示している。 たのに対し、TUM デンチャーは 40000 回でも破折なしという結果が出ている (図 D) 。これらの成績が TUM インプラ ントオーバーデンチャーシステムの開 発のきっかけになっている。 また、適合性に関しても大阪大学第 二補綴学教室で検討がなされ、TUM デ ンチャーは常温重合レジンと比較して も十分な適合性を有し臨床における有 用性の高さを示すと発表されている 1)。 埋入されたケースであっても、埋入角度 45˚ ま 図 F- ①:例としてロケーターアタッチメント を示すが、他のアタッチメントの場合、通常 では許容できる。 は即重にてフィメールを設置する必要がある 図 E:インプラント同士の平行性が損なわれて ためチェアタイムが長くなる。 さらに同じポリアミド樹脂ベースの他 社ナイロンデンチャーと比較した場合、 約 1mm 近くの差が生じており、その適 合性の高さも注目に値する。 メリット①:フィクスチャー同士の平 行性は 45˚ まで許容できる(図 E) 。 TUM インプラントオーバーデンチャー メリット②:一体型成型によりチェア システム サイドの操作時間を大幅に短縮(図 F) TUM イ ン プ ラ ン ト オ ー バ ー デ ン メリット③:金属やフィメール側のコ チャーの特長としては、以下の 3 つが ンポーネントを使用しないので、コス 挙げられる。 トが抑えられる(図 G) 。 図 F- ②:TUM デンチャーはフィメールが一 体成形されているので装着時間が大幅に削減 される。 インプラントジャーナル 2014 No.59 3 4 インプラントオーバーデンチャーシステム紹介 既存のオーバーデンチャー TUM オーバーデンチャー 図 G:既存のオーバーデンチャーはレジン系の材質が主なので、無口蓋にする場合は耐久性を考慮 して金属床が必要となる。TUM デンチャーは軽くて非常に耐久性のある材質であるため、無口蓋 設計にしても金属床にする必要がなく、かなりのコストダウンにつながる。 図 H- ①:インプラント体の埋入。 ⓐ ⓑ 図 H- ②:ヒーリングアバットメントを参考に 歯肉貫通部の距離を決定する。 図 H- ③:TUM アバットメントの選択と製作。 現行は、術者が使用しているシステムのアバットメントスクリューを利用し、チタン製の TUM ア バットメントをスクリューに合着加工した技工物としての「TUM カスタムアバットメント」を製 作している(左上段ⓐ)。左下段ⓑはノーベルリプレイスのアバットメントスクリューにチタン製 のヘッドを合着した「TUM カスタムアバットメント」である。 図 H- ④:TUM アバットメントの装着。 TUM オーバーデンチャー製作の流れ を図 H- ①∼⑨に示す。 TUM デンチャー着脱時の維持力は自 図 H- ⑥:アナログ模型の作製。 図 H- ⑤:個人トレーにて通常のシリコン印象 もしくはトランスファー印象(どちらでも可 由に設定が可能である。また、TUM オー 能)を採得し、そのままラボへ送付。 バーデンチャーの特徴として、アバッ *図 H 臨床写真:和歌山県開業 上西先生ご提供 トメントの上方空間に 0.5mm の可動域 を付与し、咬合圧がフィクスチャーに 集中し過重負担にならないように支持 インプラントジャーナル 2014 No.59 図 H- ⑦:咬合採得後に排列試適。 耐久性特殊ナイロン製義歯床用材料(TUM デンチャー)を用いたインプラントオーバーデンチャーシステム 図 H- ⑧:口腔内試適で問題がなければ完成。 図 H- ⑨:TUM デンチャーを口腔内に装着する。 力に対してクッションを設けている(図 I) 。これにより圧力が分散され粘膜と フィクスチャーへの適正な咬合圧負担 が期待できる。 何らかの理由でフィメールを交換す る必要があっても部分的に簡単に処置 が可能である(図 J) 。また、総義歯に 関しては、高いレベルで患者さんに満 足していただくために定期的(1 年に 一度程度)にリベースとフィメール交 換を同時に行うことが推奨されている。 現行ではアバットメントスクリュー TUM オーバーデンチャー装着前 アバットメントの上方空間に この可動域によって圧力が分散 の状態。フィメールのツメ(白 0.5mm の可動域(白矢印)を付 され粘膜とフィクスチャーへの 矢印)を調整することで着脱時 与している。 適正な咬合圧負担が期待できる。 の維持力を自由に調整できる。 図 I:TUM オーバーデンチャーフィメールの構造。 一体型のカスタムアバットメントの提 供だが、近日中にセパレート型のカス タムアバットメントが製作可能になり 2 種類の方法を選択できるとのことで ある。また、カスタムアバット対応イ ンプラントメーカー(種類 / サイズ) フィメール部分を削合して フィメール部分を簡単に シリコン印象を行う 交換できる についても製品ラインナップを増やし 図 J:フィメールの交換手順。 各メーカーに幅広く対応していく予定 参考文献 とのことなので、詳細は(株)T·U·M までお問い合わせいただきたい。 その他、臨床的なディテールについ ては、次号以降に TUM インプラント オーバーデンチャーシステムの臨床報 告も掲載する予定である。 1)宮永裕彰,安藤貴則,田内義人,岡田政俊,前田芳信:ノンクラスプデンチャー用床用材料の適合性の検討.日補綴 会誌 3·120 回特別号,2011. 問い合わせ先 株式会社 T·U·M 〒 567-0851 大阪府茨木市真砂 2 丁目 13 番 6 号 TEL. 072-637-3511 Fax. 072-6373521 http://www.tum-dental.co.jp E-mail: [email protected] インプラントジャーナル 2014 No.59 5
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