第 49 回日本理学療法学術大会 (横浜) 5 月 30 日 (金)16 : 15∼17 : 05 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 基礎!身体運動学 3】 0525 変形性膝関節症患者の歩行における股関節周囲筋の筋活動の特徴 澳 昂佑1),福田 章人1),奥村 伊世1),川原 勲1),田中 貴広2) 1) 阪奈中央病院リハビリテーション科,2)阪奈中央リハビリテーション専門学校 key words 変形性膝関節症・筋電図・股関節 【はじめに,目的】本邦の変形性膝関節症患者数は約 3000 万人と推測され(平成 20 年介護予防の推進に向けた運動器疾患対策 に関する検討会" 厚生労働省) ,膝関節機能不全によって,歩行能力の障害を呈することが多く,生活機能の低下を引き起こして しまう。このため,膝 OA の病態を把握し,適切な理学療法を模索することは重要である。とりわけ内側型変形性膝関節症 (膝 OA)患者の立脚期における膝関節内反モーメントの増加は膝関節内側のメカニカルストレスや痛みの増加に関与していること が報告されている(Schipplenin OD.1991) 。これに対して,外側広筋は筋活動を増加することによって側方不安定性に寄与し, 膝関節内反モーメントを制動することが知られている(Cheryl L.2009)。一方,股関節は体幹を立脚側に側屈することにより, 立脚側へ重心を保持する代償動作を行い(Hunt MA.2008) ,股関節内転モーメントが減少することが知られている(Janie L.2007) 。さらにこの戦略によって股関節外転筋は不使用による筋力低下を引き起こし,二次障害を誘発すると考えられている (Rana S.2010) 。これらの知見は膝 OA 患者に対して膝関節のみではなく,股関節の筋にも着目したトレーニングを行う必要性を 示唆している。しかしながら,膝 OA 患者において歩行中の股関節の筋活動の特徴は明らかとなっていない。そこで本研究の目 的は膝 OA 患者における歩行中の股関節の筋活動の特徴を明らかにすることとした。 【方法】対象者は健常成人 7 名(25 歳±4.5)とデュシェンヌ歩行を呈する片側・両側膝 OA 患者 4 名(85 歳±3.5)とした。膝 OA の重症度は Kellgren" Lawrence 分類(K! L 分類)にて,II が 4 側,III が 1 側,IV が 2 側であった。対象者には筋電図の記 録電極を外側広筋,中殿筋,内転筋に設置し,足底にフットスイッチを装着させた。筋活動の測定には表面筋電計(Noraxson 社製 MyoSystem1400)を使用した。歩行中の筋活動の測定は,音の合図に反応して快適な歩行速度で歩行させた。歩行計測終 了後,各被検筋の最大随意収縮(Maximal Voluntary contraction : MVC)を等尺性収縮にて 3 秒間測定した。解析は得られた波 形を整流化し,5 歩行周期を時間にて正規化した。各筋の 1 歩行周期における平均 EMG 振幅,MVC の平均 EMG 振幅を算出し た。各歩行周期の平均 EMG 振幅は%MVC にて正規化した。統計処理は健常成人と OA 患者の EMG 振幅を Mann" Whitney U" test にて比較した。健常成人,OA 患者それぞれの外側広筋と中殿筋,内転筋の EMG 振幅を Paired t" test にて比較した。OA 患者の EMG 振幅と K! L 分類の関係を Spearmann 順位相関係数にて検証した。有意水準は 0.05 とした。 【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,阪奈中央病院倫理委員会の承認を 得て実施された。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。 【結果】 OA 患者における外側広筋,中殿筋,内転筋の EMG 振幅は健常成人と比較して有意な増加を認めた。健常成人の外側広 筋と中殿筋,内転筋の EMG 振幅は有意差を認めなかった。他方,OA 患者は外側広筋と比較して,内転筋の EMG 振幅は有意 な増加を認めた。OA 患者の K! L 分類と外側広筋(r=0.79,p>0.05) ,内転筋(r=0.83,p>0.05)の EMG 振幅は有意な正の相 関関係を認めた。 【考察】 健常成人は外側広筋と内転筋,中殿筋の筋活動に差がないにも関わらず,膝 OA 患者においては外側広筋の筋活動より, 内転筋の筋活動が増加した。これは健常成人と膝 OA 患者の歩行中の筋活動パターンが異なることを示している。OA 患者の外 側広筋の筋活動が増加し,K! L 分類と相関関係を認めたことは OA の進行による側方不安定の増加に対して外側広筋が制動に 寄与しようとした結果であり,先行研究(Cheryl L.2009)と一致した。OA 患者の内転筋の筋活動が増加し,K! L 分類と相関関 係を示したことは膝 OA の進行による側方不安定の増加に対し,内転筋が遠心性収縮に作用することによって,体幹を立脚側に 側屈(デュシェンヌ歩行)し,メカニカルストレスを軽減しようとした結果であると考える。しかしながらこれらの結果は筋活 動であり,筋力を反映していないため,今後,筋活動と筋力の関係を調査する必要があると考える。 【理学療法学研究としての意義】膝 OA 患者の歩行中の外側広筋と内転筋が同時に代償的に活動していることは新たな知見であ り,理学療法として膝関節のみではなく,股関節の筋活動にも着目したトレーニングを行う必要性が示唆された。
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