2 階双曲型方程式 2 最初は、波動方程式に代表される 2 階の双曲型偏微分方程式の解析と数値計算に注目する。 2.1 定義 次の微分作用素 P を考える: Pu = ただし、 u(t, x) Ai,j , Ai , Hi ... ... n N ... ... n n n ∑ ∑ ∂2u ∂2u ∂u ∑ ∂2u ∂u + A + A + 2Hi + H0 + A0 u. i,j i 2 ∂t ∂x ∂x ∂x ∂x ∂t ∂t i j i i i,j=1 i=1 i=1 (1) 未知のベクトル値関数 (u1 (t, x), u2 (t, x), . . . , uN (t, x))T , (t, x) の滑らかな関数である N × N 行列, 空間次元, 未知関数の個数. 問題 2.1. 以下の作用素に対して、作用素 P の上記の定義にある n と N を特定し、行列 A と H の具体的な形 を書け。 1. 波動オペレータ utt − K∆u (∆u = (ux1 x1 , . . . , uxn xn )) 2. 3 次元空間における弾性方程式オペレータ ρutt − α∆u − β∇div u 作用素 P の 主要部 は次のように定義される: P0 = n n ∑ ∑ ∂2 ∂2 ∂2 + 2H + Ai,j . i 2 ∂t ∂xi ∂t i,j=1 ∂xi ∂xj i=1 λ ∈ C と ξ = (ξ1 , ξ2 , . . . , ξn ) ∈ Rn に対して、P の 特性多項式 は n n ∑ ∑ p0 (t, x, λ, ξ) = det λ2 IN + 2 Hi (t, x)ξi λ + Aij (t, x)ξi ξj i=1 i,j=1 と定義され、変数 λ の多項式として考えると 2N -次である。. 特性多項式 p0 (t, x, λ, ξ) = 0 の根 λk (t, x, ξ), k = 1, 2, . . . , 2N を偏微分作用素 P の 特性根 とよぶ。 双曲型作用素 定義 2.2. 任意のパラメータ (t, x, ξ) に対して P の特性根がすべて実数であるとき、式 (1) により与えられ る 2 階編微分作用素 P は t-方向に 双曲型 であるという。 さらに、条件 inf t∈R,x∈Rn ,|ξ|=1 |λk (t, x, ξ) − λj (t, x, ξ)| > 0 がすべての k 6= j に対して満たされるとき、P は 狭義双曲型 であるという。 問題 2.3. 以下の偏微分方程式に対し特性多項式を書き、特性根を求めよ: 1. 波動方程式 utt − K∆u = 0 2. 弾性方程式 ρutt − α∆u − β∇div u = f 12 領域 U ⊂ R × Rn において 1 階編微分が連続な実数値関数 Φ(t, x) が条件 (Φt , ∇Φ) 6= 0 を満たし、さらに次 の条件を満たすとする: p0 (t, x, Φt (t, x), ∇x Φ(t, x)) = 0 (t, x) ∈ U. このとき、Φ(t, x) = C = const を満たす (t, x) の集合は C 1 -曲面であり、特性曲面 と呼ばれる。不連続性など 解の主な性質が特性曲面に沿って伝播するので、特性曲面が重要な概念である。 問題 2.4. 波動方程式 utt − K∆u = 0 の特性曲面を記述する関係式を書け。 2.2 波動方程式の解の公式 この節では、波動方程式の初期値問題(つまり、境界条件のない全空間 Rn で与えられる問題)の解の式を紹 介する: ∂2u − v 2 ∆u = f (t, x) ∂t2 ∂u u(0, x) = ϕ(x), (0, x) = ψ(x) ∂t (t, x) ∈ (0, ∞) × Rn , x ∈ Rn . (2) (3) 波動方程式は 2 階双曲型偏微分方程式の基本的な例であるため、その解の公式が一般の方程式に関する考察の参 考になると期待できる。2 次元と 3 次元の問題の解の公式を挙げる。 波動方程式の解の公式 定理 2.5. f ≡ 0 のとき、初期値問題 (2)-(3) の解 u(t, x) は次の式で示される。ただし、ϕ ∈ C 3 (Rn ) と ψ ∈ C 2 (Rn ) を仮定する。 • 3 次元の場合: Kirchhoff の解 ( ) ∫ ∫ ∂ 1 1 u(t, x) = ϕ(y) dS(y) + ψ(y) dS(y) ∂t 4πv 2 t |y−x|=vt 4πv 2 t |y−x|=vt • 2 次元の場合: Poisson の解 ( ) ∫ ∫ ∂ 1 ϕ(y) 1 ψ(y) √ √ u(t, x) = dy + dy ∂t 2πv 2 t |x−y|<vt v 2 t2 − |x − y|2 2πv 2 t |x−y|<vt v 2 t2 − |x − y|2 これらの公式の導出は [Evans, 6] で紹介されている。また、[Ikawa, 1] では公式の正しさを直接の計算により 確認しているので、細かい計算はそれらの参考書を参考していただくことにし、ここでは上の公式の意味につい て考察することにする。 • 3 次元の場合:初期値の ϕ, ψ が半径 ε、中心 x0 の小さな球のなかにサポートを持つと仮定すると、Kirchhoff の公式より次が言える。 u(t, x) 6= 0 ⇒ vt − ε ≤ |x − x0 | ≤ vt + ε. ε → 0 とすることによって、 x0 での初期データが時刻 t > 0 においては球面 {x; |x − x0 | = vt} での解 の値にしか影響しないということが言える。すなわち、初期値の効果がちょうど v という速度で伝播する。 この場合は、Huygens(ホイヘンス)の原理 が成り立つという。 • 2 次元の場合: ここでは x0 での初期データの影響範囲は {x; |x − x0 | ≤ vt} という球になる。時間が経過 してもその影響は点 x0 の近くで残る。 13 外力項 f ∈ C 2 ([0, ∞) × R3 ) がある場合について考え、次の問題の解の式を決定する。 u = f in (0, ∞) × R3 , u(0, x) = 0, ut (0, x) = 0. ただし、 はダランベール作用素(またはダランベルシアン)の記号である: u = ∂t2 u − ∆u. 解の式を見つけるために、Duhamel の原理を適用する。 以下のように置く: ∫ t u(t, x) = 0 1 2 4πv (t − s) ∫ f (s, y) dS(y) ds |y−x|=v(t−s) 時間についての積分の中身が同次波動方程式の時刻 t − s における解であることに注意しよう(そのときの初期 条件は ϕ = 0, ψ = f (s))。よって、この非積分関数を簡単のため M (t − s, s, x) とおくと、M (t − s, s, x) = 0 が成り立つ。 次に u を計算しよう。 • ∫ t ∆M (t − s, s, x) ds ∆u(t, x) = 0 • ∂u (t, x) = ∂t ∂2u (t, x) = ∂t2 ∫ ∫ t ∂ ∂ M (t − s, s, x) ds = M (t − s, s, x) ds ∂t ∂t 0 0 ∫ t 2 ∫ t 2 ∂ ∂ ∂ M (t − t, t, x) + M (t − s, s, x) ds = f (t, x) + M (t − s, s, x) ds 2 2 ∂t ∂t ∂t 0 0 t M (t − t, t, x) + したがって、 ∫ t u(t, x) = f (t, x) + M (t − s, s, x) ds = f (t, x) 0 が得られる。初期条件が満たされていることは用意に確かめることができる。 問題 2.6. 以下の問題の解の公式を書け: u = f in (0, ∞) × R3 , u(0, x) = ϕ(x), ut (0, x) = ψ(x). (つまり、外力項も非同次な初期値を含む問題で、上の結果を組合せることになる) 問題 2.7. (a) R 上で定義される 2 つの関数 f と g が存在し、以下の 1 次元波動方程式 u(t, x) = ∂2u ∂2u (t, x) − (t, x) = 0 2 ∂t ∂x2 の解が u(t, x) = f (x − t) + g(x + t) と書けることを示せ。 ヒント: ξ = x − t, η = x + t の変数変換を行う。 14 (b) 次の式 1{ ϕ(x − t) + ϕ(x + t) + 2 u(t, x) = ∫ x+t } ψ(s) ds , x−t を以下の 1 次元波動方程式に対する初期値問題の解の公式として導け。 u = 0 (t, x) ∈ (0, ∞) × R, u(0, x) = ϕ(x), ut (0, x) = ψ(x). ヒント: (a) を用いて、初期条件から f と g の具体的な形を求める。 (c) R 上で定義される関数 f が存在し、境界値問題 u = 0 (t, x) ∈ (−∞, ∞) × (0, ∞), u(t, 0) = 0, の解が次のように表されることを示せ: u(t, x) = f (x + t) − f (x − t). (d) 初期値境界値問題 u = 0 (t, x) ∈ (0, ∞) × (0, ∞), u(t, 0) = 0, u(0, x) = ϕ(x), ut (0, x) = ψ(x) x ∈ (0, ∞), の解を表せ。ただし、ϕ(0) = ψ(0) = 0 と仮定する。 ヒント: (c) を用いる。また、f (x) − f (−x) が奇関数であることに注意する。 問題 2.8. ω が |ω| = 1 を満たす R3 の元であると仮定する。さらに、h が 2 階までの微分が連続な関数であると する。 外力がない場合に、 √ ( u (t, x) = ωh x · ω − P ) α+β t ρ が次の弾性方程式の解であることを示せ。 ρ ∂2u = α∆u + β∇div u. ∂t2 また、η ∈ R3 が ω に直交するとき、 ( u (t, x) = ηh x · ω − S √ α t ρ ) が弾性方程式の解であることを示せ。 問題 2.9. 次の初期値問題を考える: ∂2u ∂2u ∂2u ∂2u − a11 2 − a22 2 − a33 2 = 0 2 ∂t ∂x1 ∂x2 ∂x3 u(0, x) = 0, ut (0, x) = ψ(x). in (0, ∞) × R3 , ただし、係数は定数で a11 ≥ a22 ≥ a33 > 0 を満たし、さらに ψ ∈ C 2 (R3 ) であるとする。次の問いに答えよ。 15 (a) 解の公式を書け。 (b) ψ のサポートが球 {x; |x| ≤ ε} のなかにあるとする。時刻 t > 0 に対して u(t, ·) のサポートを評価せよ。 問題 2.10. マクスウェル方程式において ε0 = µ0 = 1 とする。j と q が div j = ∂q/∂t の関係にあるとする。初 期データ E 0 (x) と B 0 (x) がそれぞれ、以下の式を満たすと仮定する。 div E 0 (x) = q(0, x), div B 0 (x) = 0. さらに、B(t, x) が初期値問題 B(t, x) = −rot j, B(0, x) = B 0 (x), ∂B (0, x) = −rot E 0 (x). ∂t の解であると仮定する。E(t, x) を ∫ E(t, x) = t { } rot B(s, x) + j(s, x) ds + E 0 (x), 0 によって定義したとき、E(t, x), B(t, x) が E 0 (x), B 0 (x) を初期値にもつマクスウェル方程式の解であることを 示せ。 ヒント: u = div B と置いて、最初に u ≡ 0 が成り立つことを示す。u がゼロの初期条件を満たす波動方程式 の解であることによって示される。次に、rot rot B = −∆B に注意して、E の定義式に回転作用素をかける。 16 2.3 基本的性質 本節では双曲型方程式の基本的な性質、特に有限伝播速度を示す。スカラー値関数に作用するオペレータにつ いてのみ考える(つまり、以前の定義で N = 1 とする)。 P = n n n ∑ ∑ ∑ ∂2 ∂ ∂2 ∂ ∂2 h (t, x) − a (t, x) + ai (t, x) + h0 (t, x) + a0 (t, x). + 2 i i,j 2 ∂t ∂xi ∂t i,j=1 ∂xi ∂xj ∂xi ∂t i=1 i=1 (4) 係数はすべての微分が存在し有界である R × Rn 上で定義される関数であると仮定する。さらに、主要部の係数 hi , aij が実数値関数で、aij が次の楕円性条件を満たすとする。 n ∑ aij (t, x)ξi ξj ≥ c0 i,j=1 n ∑ ξi2 , (5) i=1 ただし、上式はすべての (t, x) と任意の ξ = (ξ1 , ξ2 , . . . , ξn ) ∈ Rn について成り立ち、c0 は正の定数である。 P の特性多項式は p0 (t, x, λ, ξ) = λ2 + 2 n ∑ n ∑ hi ξi λ − i=1 aij ξi ξj i,j=1 となり、特性根 λ+ , λ− は以下のように書ける。 λ± (t, x, ξ) = n ∑ hi ξi ± n {( ∑ i=1 )2 hi ξi + i=1 n ∑ }1/2 aij ξi ξj . i,j=1 係数 aij が楕円性条件を満たすので、λ± は実数であり、次が成り立つ: √ |λ+ − λ− | ≥ 2 c0 |ξ|. よって、P は狭義双曲型である。 今、滑らかな境界 Γ をもつ領域 Ω ⊂ Rn における初期値境界値問題を考える: ((t, x) ∈ (0, ∞) × Ω), P u(t, x) = f (t, x) Bu(t, x) = 0 ((t, x) ∈ (0, ∞) × Γ), u(0, x) = u0 (x), ut (0, x) = u1 (x) (x ∈ Ω). (6) 境界作用素 B は次のようなものが考えられる: • ディリクレ条件 BD u = u • ロバン条件 BN u = n ∑ aij (t, x)νj (x) i,j ∂u ∂u ∂u ∂u − σ0 (t, x) =: − σ0 ∂xi ∂t ∂νA ∂t ここで、ν(x) = (ν1 (x), . . . , νn (x)) は x ∈ Γ における Ω への外向き単位法線ベクトルを表す。また、滑らか な実数値関数 σ0 が次の条件を満たすと仮定する: σ0 (t, x) ≤ n ∑ hi (t, x)νi (x) i=1 以降では、ロバン境界条件のみ考えることにする。 17 ((t, x) ∈ R × Γ). (7) 2.3.1 エネルギー評価 今後の予定は、問題 (6) の解に対しある種の評価を導き、その評価を用いて方程式により支配される現象が有 限な伝播速度をもつことを示すことである。 エネルギー評価を得る基本的な方法として、方程式に ∂u ∂t をかけて、その結果を時空内のある円錐で積分する 方法がある。 ステップ 1. 方程式に ∂u ∂t をかけて、得られる式を整理する。 かけると、次の等式が得られる。 Pu n n ∑ ∑ ∂u ∂ 2 u ∂u ∂ 2 u ∂u ∂ 2 u ∂u = 2 +2 − hi (t, x) ai,j (t, x) ∂t ∂t ∂t ∂xi ∂t ∂t i,j=1 ∂xi ∂xj ∂t i=1 ( )2 n ∑ ∂u ∂u ∂u ∂u ∂u + h0 (t, x) + a0 (t, x)u =f . + ai (t, x) ∂xi ∂t ∂t ∂t ∂t i=1 上の式に登場する項を使いやすい形に変形する。 ( ) 2 ∂ 2 u ∂u ∂ ∂u 2 2 = , ∂t ∂t ∂t ∂t ( ) 2 ∂u 2 ∂ 2 u ∂u ∂ ∂hi ∂u 2hi = hi − , ∂xi ∂t ∂t ∂xi ∂t ∂xi ∂t ( ) ( ) ∂u 2 ∂ 2 u ∂u ∂ ∂u ∂u ∂ + 2 ∂aii ∂u ∂u − 2 ∂aii −2aii 2 = −2 aii + aii ∂xi ∂t ∂xi ∂xi ∂t ∂t ∂xi ∂xi ∂xi ∂t ∂t ( ) ( ) ( ) ∂ ∂u ∂u ∂ ∂u ∂u ∂ ∂u ∂u ∂ 2 u ∂u = − aij − aij + aij −2aij ∂xi ∂xj ∂t ∂xi ∂xj ∂t ∂xj ∂xi ∂t ∂t ∂xi ∂xj ∂aij ∂u ∂u ∂aij ∂u ∂u ∂aij ∂u ∂u + + − . ∂xi ∂xj ∂t ∂xj ∂xi ∂t ∂t ∂xi ∂xj ∂u 2 ∂xi , 上の式を用いると次のようの書ける: 2P u ただし、 e(u; t, x) = Xi (u; t, x) = Z(u; t, x) = n ∑ ∂u ∂ ∂ = e(u; t, x) + Xi (u; t, x) + Z(u; t, x), ∂t ∂t ∂x i i=1 2 ∑ ∂u ∂u ∂u (t, x) + (t, x) (t, x), aij (t, x) ∂t ∂xi ∂xj i,j=1 2 n ∑ ∂u ∂u ∂u 2hi (t, x) (t, x) − 2 (t, x) (t, x), aij (t, x) ∂t ∂x ∂t j j=1 2 n n n ∑ ∑ ∑ ∂aij ∂u ∂u ∂hi ∂u ∂aij ∂u ∂u − −2 + 2 ∂t ∂x ∂x ∂x ∂t ∂t ∂xi ∂xj i i j i,j=1 i=1 i,j=1 ( )2 n ∑ ∂u ∂u ∂u ∂u +2 ai + 2h0 + 2a0 u . ∂xi ∂t ∂t ∂t i=1 コーシーの不等式と楕円性の仮定 (5) を用いると、e と Z を次のように評価できる: ( ) n ∂u 2 ∑ ∂u 2 2 |Z(u; t, x)| ≤ C + ∂xi + |u| , ∂t i=1 ( ) n ∂u 2 ∂u 2 ∑ e(u; t, x) ≥ c + c = min{c0 , 1} > 0. ∂xi , ∂t i=1 18 (8) (9) ステップ 2. 前ステップで得られた方程式を時空内の部分領域 V で積分する。 この領域 V を定義するために、 vmax = sup |λ+ (t, x, ξ)| t∈R,x∈Ω,|ξ|=1 とおく。 問題 2.11. vmax = |λ+ (t, x, ξ)| = sup t∈R,x∈Ω,|ξ|=1 |λ− (t, x, ξ)| sup t∈R,x∈Ω,|ξ|=1 が成り立つことを示せ。 ¯ を任意に選んで、2 つの時刻 t1 , t2 を t0 > t2 > t1 を満たすように任意に選ぶ。そのと 点 (t0 , x0 ) ∈ R × Ω き、次のような領域を定義する(図を参照) : Λ(t0 , x0 ) = {(t, x); |x − x0 | ≤ vmax (t0 − t)}, D(τ ) = Λ(t0 , x0 ) ∩ {t = τ }, V (t1 , t2 ) = τ ∈ [t1 , t2 ], ∪ Λ(t0 , x0 ) ∩ ([t1 , t2 ] × Ω) = D(τ ), S(t1 , t2 ) = ∂Λ(t0 , x0 ) ∩ ([t1 , t2 ] × Ω), Sb (t1 , t2 ) = ¯ 0 , x0 ) ∩ ([t1 , t2 ] × Γ). Λ(t τ ∈[t1 ,t2 ] ∂V = D(t1 ) ∪ D(t2 ) ∪ S ∪ Sb となることに注意しよう。 V 上で積分し、発散定理を適用すれば、 ∫ ∫ ∫ ∑ ∫ n ∂u dt dx = e(u; t2 , x) dx − e(u; t1 , x) dx + (10) 2P u Xi (u; t, x)νi dS ∂t D(t2 ) D(t1 ) Sb i=1 V } ∫ { ∫ n ∑ + e(u; t, x)η + Xi (u; t, x)µi dS + Z(u; t, x) dt dx, S i=1 V ただし、ベクトル (η, µ1 , . . . , µn ) ∈ Rn+1 は S への外向き単位法線ベクトルで、ν = (ν1 , . . . , νn ) ∈ Rn は Γ への単位法線ベクトルである。 19 ステップ 3. 方程式 (10) の右辺にある項をそれぞれ評価する。 • 第 3 項:境界作用素 B の定義と仮定 (7) より、 n n n ∑ ∑ ∑ ∂u ∂u ∂u Xi νi = − aij νi − hi νi ∂xj ∂t ∂t i=1 i,j=1 i=1 ) ( n ∑ ∂u 2 ∂u = −2Bu · + hi νi − σ0 ∂t ∂t i=1 ≥ −2Bu ∂u . ∂t • 第 4 項: 問題 2.12. 任意のベクトル ξ, ψ ∈ Rn に対し次が成り立つことを示せ: 1/2 1/2 ∑ n n ∑ ∑ n aij ξi ξj aij ψi ψj . aij ξi ψj ≤ ij i,j=1 i,j=1 証明では aij の楕円性をベクトル ξ + λψ にに対して用いて、λ ∈ R をうまく選べばよい。 ∂u 問題の主張をベクトル ξi = ∂x , ψj = µj ∂u ∂t に対して適用すると、次がわかる: i 2 2 n n n n ∑ ∑ ∑ ∑ ∂u ∂u ∂u ∂u ∂u ∂u eη + +2 Xi µi = η + hi µi − 2 µi aij aij ∂t ∂x ∂x ∂t ∂x ∂t i j j i=1 i=1 i,j=1 i,j=1 2 2 n n ∑ ∑ ∂u ∂u ∂u ∂u +2 hi µi ≥ η + aij ∂t ∂xi ∂xj ∂t i=1 i,j=1 1/2 1/2 n ∑ ∂u ∂u ∂u aij µi µj −2 aij ∂xi ∂xj ∂t i,j=1 i,j=1 2 ∂u ∂u (η + 2N ) − 2L1/2 M 1/2 + ηL, ∂t ∂t = n ∑ ここで以下の記号を導入した: L= n ∑ i,j=1 aij ∂u ∂u , ∂xi ∂xj n ∑ M= aij µi µj , i,j=1 N= n ∑ hi µi . i=1 最後の式は | ∂u ∂t | についての 2 次式である。もし、 (L1/2 M 1/2 )2 ≤ (η + 2N )ηL が満たされれば、この 2 次式はすべての | ∂u ∂t | に対し非負になる。上の条件式は次の式に変形できる: η 2 + 2N η − M ≥ 0. しかし、この左辺はちょうど特性多項式 p0 (t, x, η, µ) である。さらに、(η, µ1 , . . . , µn ) が Λ(t0 , x0 ) へ の法線ベクトルなので、 ( η = vmax n ∑ )1/2 µ2i i=1 が成り立つ。よって、vmax の定義を思い出すと、不等式 η 2 + 2N η − M ≥ 0 が常に成り立つことが 従う。 以上の議論の結果、(10) における S 上の積分が非負であることがわかった。 20 • 最後の項: V = ∪ t∈[t1 ,t2 ] D(t) であるから、次のように書き直せる: ∫ ∫ t2 ∫ Z(u; t, x) dt dx = Z(u; t, x) dx dt. V t1 D(t) 評価 (8) と (9) を用いると、定数 C が存在し、 ∫ ∫ Z(u; t, x) dt dx ≤ C V t2 ∫ t1 ( ) e(u; t, x) + |u(t, x)|2 dx dt D(t) が成り立つことがわかる。同様にして、以下の不等式が得られる: ∫ ∫ ∫ 2 ∂u ∂u 2 dt dx 2 ≤ P u dt dx |P u| dt dx + ∂t V V V ∂t ∫ t2 ∫ ∫ t2 ∫ 2 ≤ |P u| dx dt + e(u; t, x) dx dt. t1 D(t) t1 D(t) e˜(u; t, x) = e(u; t, x) + |u(t, x)|2 とおいて、 ∫ t |u(t, x)| = |u(t1 , x)| + 2 2 t1 ∂ |u(t, x)|2 ds ≤ |u(t1 , x)|2 + ∂s 2 ∫ t ∫ t ∂u (s, x) ds + |u(s, x)|2 ds ∂s t1 t1 に注意して、上で出した評価を (10) に適用すると、次の結果が示されたことになる。 エネルギー評価 ¯ 0 , x0 ) 上で定義される関数で、2 階編微分までが連続であると仮定する。このとき、 補題 2.13. 関数 u が Λ(t t1 < t2 < t0 を満たす任意の t1 と t2 に対し以下の不等式が成立する: ∫ ∫ ∫ t2 ∫ e˜(u; t2 , x) dx ≤ e˜(u; t1 , x) dx + C D(t2 ) D(t1 ) t1 ∂u +2 Bu ∂t dS + Sb ∫ e˜(u; t, x) dx dt D(t) ∫ t2 ∫ t1 (11) |P u|2 dx dt. D(t) この補題を使って、考えている双曲型方程式の重要な性質を示す。 同次問題の解 ¯ とする。さらに、関数 u ∈ C 2 (R × Ω) ¯ が以下の関係式を満たすと 定理 2.14. t1 < t0 であるとし、x0 ∈ Ω する。 in Λ(t0 , x0 ) ∩ ([t1 , ∞) × Ω), Pu = 0 Bu = 0 on Λ(t0 , x0 ) ∩ ([t1 , ∞) × Γ), for x ∈ D(t1 ). u(t1 , x) = 0, ∂u ∂t (t1 , x) = 0 (12) そのとき、次が成り立つ: u=0 in Λ(t0 , x0 ) ∩ {t ≥ t1 }. 21 証明 不等式 (11) の右辺にある項は 2 項目を除いてすべてゼロになる。言い換えると、 ∫ ∫ e˜(u; t2 , x) dx ≤ C t2 ∫ e˜(u; t, x) dx dt D(t2 ) t1 ∀t2 ∈ (t1 , t0 ). D(t) ∫ つまり、 γ(t) = e˜(u; t, x) dx D(t) と置くと ∫ t γ(t) ≤ C γ(s) ds ∀t ∈ [t1 , t0 ) t1 と言える。以下で紹介するグロンウォールの不等式(補題 2.15)を適用すると、 ∀t ∈ [t1 , t0 ). γ(t) = 0 すなわち、 ∀x ∈ D(t), e˜(u; t, x) = 0 ∀t ∈ [t1 , t0 ). よって、e˜ の定義を見ると、u が V において恒等的にゼロであることがわかる。 グロンウォールの不等式 補題 2.15. 関数 γ(t) と ρ(t) が区間 [0, a] 上で定義される非負の関数であるとし(a > 0)、γ(t) が [0, a] の上で 可積分で ρ(t) が単調増加であるとする。さらに、µ(t) が [0, a] 上の連続な実数値関数であるとする。τ ∈ [0, a) のとき、 ∫ γ(t) ≤ c ∫ t t γ(s) ds + ρ(t) + µ(s) ds τ が成り立つとき、 ∀t ∈ [τ, a], c>0 τ ∫ γ(t) ≤ ec(t−τ ) ρ(t) + t ec(t−s) µ(s) ds ∀t ∈ [τ, a] τ が成立する。 22 次の初期値境界値問題を考える: P u(t, x) = f (t, x) Bu(t, x) = g(t, x) u(0, x) = u0 (x), ut (0, x) = u1 (x) ((t, x) ∈ (0, ∞) × Ω), ((t, x) ∈ (0, ∞) × Γ), (x ∈ Ω). (13) 点 (t0 , x0 ) ∈ (0, ∞) × Ω を任意に選ぶ。これからの目標は、問題 (13) の解 u がどのようにデータ (u0 , u1 , f, g) に 依存するかを調べることである。集合 D(t) が (x0 , t0 ) に依存することを強調するために、D(t0 , x0 ; t) と書くこと にする。また、Sb と V の場合も同じ書き方を使う。 依存領域 定理 2.16. 問題 (13) の解 u の点 (t0 , x0 ) での値は次のデータによりのみ決まる: • 初期データ u0 , u1 の D(t0 , x0 ; 0) における値 • f の V (t0 , x0 ; 0, t0 ) における値 • g の Sb (t0 , x0 ; 0, t0 ) における値 証明 2 組のデータを (u0 , u1 , f, g) と (˜ u0 , u ˜1 , f˜, g˜) とする。関数 u と u ˜ がそれぞれこのデー タに対応する解であるとする。そのとき、2 組のデータが u0 (x) = u ˜0 (x), u1 (x) = u ˜1 (x) ∀x ∈ D(t0 , x0 ; 0), f (t, x) = f˜(t, x) ∀(t, x) ∈ V (t0 , x0 ; 0, t0 ), g(t, x) = g˜(t, x) ∀(t, x) ∈ Sb (t0 , x0 ; 0, t0 ), という条件をみたすとき、 u(t0 , x0 ) = u ˜(t0 , x0 ) となることを示したい。しかし、それは明らかである。実際、 z(t, x) = u(t, x) − u ˜(t, x), と置くと、 in V (t0 , x0 ; 0, t0 ), Pz = 0 Bu = 0 on Sb (t0 , x0 ; 0, t0 ), for x ∈ D(t0 , x0 ; 0), z(0, x) = 0, ∂z ∂t (0, x) = 0 が従うので、定理 2.14 により z(t, x) = 0 ∀(t, x) ∈ V (t0 , x0 ; 0, t0 ) が成り立つ。特に、z(t0 , x0 ) = 0 も成り立つ。 解の各点での値がある有界領域でのデータの値だけで決まり、この領域の外でのデータの値に依存しないとい うことを、この定理が示している。このことを基に次の定義をする。 23 依存領域 定義 2.17. 初期値境界値問題 (13) に対し、集合 W は次の2つの性質をもつとき、(t, x) ∈ (0, ∞) × Ω にお ける解の 依存領域 と呼ぶ。 ˜ に対し、W ˜ の外部でデータをどのように変えても (t, x) における解の値が変わら (i) W の任意の近傍 W ない。 (ii) 上の性質を満たしながら W より小さい集合が存在しない。 例として、点 (t0 , x0 ) に対する波動方程式の依存領域 W (t0 , x0 ) を挙げる。 • (3 次元) 円錐の境界: W (t0 , x0 ) = {(t, x) ∈ [0, ∞) × R3 ; |x − x0 | = v(t0 − t)} • (2 次元) 内部を含む円錐: W (t0 , x0 ) = {(t, x) ∈ [0, ∞) × R2 ; |x − x0 | ≤ v(t0 − t)} 次元などによって依存領域が劇的に変化することがわかる。よって、一般には依存領域を決定することが難しい。 しかし、問題 (13) に対し、定理 2.16 より以下の包含関係が従う: W (t0 , x0 ) ⊂ V (t0 , x0 ; 0, t0 ). 次に、依存領域に対する相補的な概念を導入する。 影響領域 定義 2.18. 初期値境界値問題 (13) に対し、集合 Y は次の2つの性質をもつとき、(t, x) ∈ (0, ∞) × Ω にお ける解の 影響領域 と呼ぶ。 (i) 任意の ρ ∈ Y と点 (t, x) の任意の近傍 U に対し、U におけるデータの値をうまく変えれば、ρ での 解の値が変わる。 (ii) 上の性質を満たしながら Y より大きい集合が存在しない。 点 (t0 , x0 ) に対する波動方程式の影響領域 Y (t0 , x0 ) は • (3 次元) 円錐の境界: Y (t0 , x0 ) = {(t, x) ∈ [0, ∞) × R3 ; |x − x0 | = v(t − t0 )} • (2 次元) 内部を含む円錐: Y (t0 , x0 ) = {(t, x) ∈ [0, ∞) × R2 ; |x − x0 | ≤ v(t − t0 )} 影響領域 定理 2.19. 問題 (13) に対し、点 (t0 , x0 ) の影響領域は以下の集合の部分集合である: Y˜ = {(t, x); |x − x0 | ≤ vmax (t − t0 )}. 証明 点 (t1 , x1 ) を Y˜ に属さない任意の点とし、点 (t0 , x0 ) の近傍 U を U ∩Λ(t1 , x1 , 0, t1 ) = ∅ となるように選ぶ。そのとき、定理 2.16 により、U でのデータをどのように変えて も点 (t1 , x1 ) での解の値は変わらないことがわかる。つまり、点 (t1 , x1 ) は (t0 , x0 ) における影響領域に属さないことになる。 考えている双曲型方程式に支配される現象が時間の経過とともに vmax を超えない速度で周りに広がっていくこ とを、定理が 2.19 が示している。この事実を、初期値境界値問題 (13) が有限伝播速度を持つという。 24 2.3.2 解の存在定理 解の存在を Hille-Yosida の定理を用いて証明する。 Hille-Yosida の定理 定理 2.20. H を内積 (·, ·) をもつヒルベルト空間であるとし、稠密な定義域 D(A) をもつ作用素 A : H → H が以下の条件を満たすものだとする: (HY1) 定数 M > 0 が存在し、次が成り立つ 2(Ax, x) ≤ M kxk2 ∀x ∈ D(A) (HY2) 次が成り立つような定数 λ0 ∈ R が存在する λ ≥ λ0 なら (λ − A)−1 が存在する そのとき、以下の性質をもつ H 上で有界な作用素の族 {U (t)} が存在する: (i) すべての t, s ∈ [0, ∞) に対し、 U (t)U (s) = U (t + s), U (0) = I. (ii) すべての x ∈ H にたいし、U (t)x は t ∈ [0, ∞) について H の強位相で連続である。 (iii) x ∈ D(A) なら、U (t)x は強位相で t ∈ (0, ∞) について連続な微分があり、次を満たす: dU (t)x = U (t)Ax = AU (t)x. dt 証明 主張 (iii) を見ると、U (t) = exp(tA) とおけばよい。しかし、A が有界作用素とは限 らない(よって、その指数関数が定義されない)ので、A を有界作用素の列 AJλ で 近似してから、Uλ (t) = exp(tAJλ ) とし、U (t) を λ → ∞ のときの極限として定義 する。 ステップ 1 (A の有界な近似を構成) (HY2) の仮定のもと、次が成り立つことをまず示す: k(λ − A)−1 k ≤ 1 λ−M ∀λ > λ1 := max(λ0 , M ). (14) これは、λ ≥ M に対し λ2 − λM ≥ (λ − M )2 であることに気づいて、 k(λ − A)xk2 = λ2 kxk2 − 2λ(Ax, x) + kAxk2 ≥ (λ2 − λM )kxk2 ≥ (λ − M )2 kxk2 と評価すれば示される。λ ≥ λ1 + 1 に対して次のように定義する: Jλ := λ(λ − A)−1 = (I − λ1 A)−1 . (14) より、 kJλ k ≤ 25 λ . λ−M x ∈ D(A) であれば、x − Jλ x = −(λ − A)−1 Ax であるから、λ → ∞ のとき Jλ x → x と収束することがわかる。{Jλ }λ≥λ1 +1 が H 上の作用素の有界集合 で、D(A) が稠密であるから、 Jλ x → x (λ → ∞) ∀x ∈ H (15) を得る。今、 AJλ = λJλ − λ, (16) に注目すると、AJλ が H の有界作用素になることがわかる。 ステップ 2 (U の近似の Uλ を定義) Uλ (t) = exp(tAJλ ) = I + tAJλ + 1 (tAJλ )2 + . . . 2! (16) を用いると、Uλ (t) を次のように表現できる: Uλ (t) = exp(tλJλ − tλ) = exp(tλJλ ) exp(−tλ). k exp(tλJλ )k ≤ exp(tλkJλ k) が成立し、また kUλ (t)k ≤ exp(tλ(1 − M −1 λ ) exp(−tλ) ≤ exp(tM (1 − M −1 ) λ ) と評価できるので、定数 C > 0 が存在し、次が成り立つ: kUλ (t)k ≤ exp(Ct) ∀t ≥ 0 ∀λ ≥ λ1 + 1. (17) さらに、指数関数の性質より、 Uλ (t + s) dUλ (t) dt = Uλ (t)Uλ (s), = (AJλ )Uλ (t) = Uλ (t)AJλ . (18) (19) ステップ 3 (λ → ∞ の極限で U を定義) µ > λ1 + 1 とする。Jµ Jλ = Jλ Jµ という事実より Uµ (s)Jλ = Jλ Uµ (s) がわか る。一方では、 ) d( Uλ (t − s)Uµ (s) = Uλ (t − s)(−AJλ + AJµ )Uµ (s) ds が成り立つので、両辺を (0, t) 上で積分し、右辺の作用素がお互い可換である ことに注意すれば、x ∈ D(A) に対し以下の関係式が得られる: ∫ t Uµ (t)x − Uλ (t)x = Uλ (t − s)Uµ (s)(Jµ − Jλ )Ax ds. 0 (17) を使うと、右辺の被積分関数が exp(Ct)k(Jµ − Jλ )Axk で抑えられるこ とがわかる。(15) より右辺の積分が λ, µ → ∞ のとき零に収束する。従って、 x ∈ D(A) に対して、λ → ∞ のとき Uλ (t)x が H のある元に収束することが言 える。今、 U (t)x = lim Uλ (t)x λ→∞ と定義する。{Uλ (t)} が一様有界((17) より)で、D(A) が稠密であるから、任 意の x ∈ H に対し上の式で U (t)x が定義できる。 26 Uλ (t) の性質よりすぐに (i) が従い、次も成り立つ: kU (t)xk ≤ exp(Ct)kxk. また、Uλ (t)x が t ≥ 0 において連続で、x ∈ D(A) を固定すれば、t の任意の 有限区間において Uλ (t)x が U (t)x に一様収束する。従って、U (t)x は t ≥ 0 において連続である。U (t)x の上記の評価と D(A) の稠密性を用いれば、この 連続性をすべての x ∈ H に拡張できる。 さて、(19) の両辺を t について積分すると、 ∫ t Uλ (t)x − x = Uλ (s)AJλ x ds 0 を得る。x ∈ D(A) であれば、λ → ∞ のとき以下の式が導かれる: ∫ t U (t)x = x + U (s)Ax ds. 0 U (s)Ax が連続関数であるから、上式の右辺が t について微分ができることが すぐにわかる。よって、(iii) が示された。 初期値境界値問題 Pu = f Bu = 0 u(0, x) = u0 (x), ut (0, x) = u1 (x) in (0, ∞) × Ω, in (0, ∞) × Γ, (20) x∈Ω の解の存在を示す方法として、ヒルベルト空間 H と作用素 A を適切に設定して、Hille-Yosida の定理と Duhamel の原理から従う次の結果を用いる。 外力項つきの解 系 2.21. f (t) ∈ D(A)、そして f (t), Af (t) ∈ C([0, ∞); H) とする。x0 ∈ D(A) のとき、 ∫ t U (t − s)f (s) ds x(t) = U (t)x0 + 0 とおく。そのとき、x(t) は (0, ∞) の強位相で連続微分可能で、以下の式を満たす: { dx(t) (t ∈ (0, ∞)) dt = Ax(t) + f (t) x(0) = x0 . (21) 問題 (20) の解の存在を示すには、ヒルベルト空間(以下で H と表す)と作用素(以下で A と表す)をうま く選んで、定理の仮定が満たされることを示せばよい。 • ヒルベルト空間 H H = H 1 (Ω) × L2 (Ω) とおく。すなわち、H は関数の 2 組からなる。H の二つの元 X = {v0 , v1 }, Y = {w0 , w1 } に対し内積を以 下のように定義する: (X, Y )H = n ∫ ∑ i,j=1 aij Ω ∂v0 ∂w0 dx + ∂xi ∂xj 27 ∫ (v0 w0 + v1 w1 ) dx. Ω 係数 aij の楕円性より、 ( ) ( ) C −1 kv0 k2H 1 (Ω) + kv1 k2L2 (Ω) ≤ (X, X)H ≤ C kv0 k2H 1 (Ω) + kv1 k2L2 (Ω) (22) をみたす定数 C > 0 が存在することがわかる。 • 作用素 A まず、作用素 A の定義域を定める: { } ∂v0 D(A) = {v0 , v1 }; v0 ∈ H 2 (Ω), v1 ∈ H 1 (Ω), and − σ0 v1 = 0 on Γ . ∂νA このとき X = {v0 , v1 } ∈ D(A) に対して AX = {v1 , Av0 − Hv1 } と置く。ここでは、A と H は作用素 P に現れる作用素である: Pu = ∂u ∂2u +H − Au, ∂t2 ∂t つまり、 A = H = n ∑ i,j=1 n ∑ 2 ∑ ∂2 ∂ − − a0 (t, x) ai (t, x) ∂xi ∂xj ∂xi i=1 n ai,j (t, x) hi (t, x) i=1 ∂ + h0 (t, x). ∂xi よって、A は D(A) から H への線形写像である。 今、X(t) = {u(t, ·), ut (t, ·)}, F (t) = {0, f (t, ·)} とおけば、問題 (20) を次のように書き換えることができる: { dX(t) = AX(t) + F (t), dt (23) X(0) = {u0 , u1 }. • Hille-Yosida の定理の仮定 確認することは、(AX, X) の評価、D(A) の稠密性と (λ − A)−1 の存在である。 1. 定数 M > 0 が存在し、すべての X ∈ D(A) に対して次が成立する: (AX, X)H ≤ M kXk2H . 証明 内積の定義より (AX, X)H = n ∫ ∑ i,j=1 aij Ω ∂v1 ∂v0 dx + ∂xi ∂xj ∫ ∫ (Av0 − Hv1 )v1 dx. v1 v0 dx + Ω Ω 第一項で部分積分を適用すれば、 n ∫ ∑ i,j=1 ∂v1 ∂v0 aij dx = ∂xi ∂xj Ω ∫ n ∫ ( ∑ ∂v0 ∂ ( ∂v0 )) v1 dS + v1 − aij dx ∂νA ∂xi ∂xj Γ i,j=1 Ω が得られる。 28 一方では、最後の項については ) ∫ (∑ n { ∂ ∂hi 2 } 2 2 − (Hv1 )v1 dx = − (hi v1 ) − v + h0 v1 dx ∂xi ∂xi 1 Ω Ω i=1 ∫ ( ∑ ∫ (∑ n n ) ) ∂hi = − hi vi v12 dS + − h0 v12 dx. ∂xi Γ Ω i=1 i=1 ∫ と変形できる。したがって、 ∫ (AX, X)H = v1 ( ∂v Γ + 0 − ∫ { n ) } ∑ ∂ ( ∂v0 ) hi νi v1 dS + − v1 aij + (Av0 )v1 dx ∂xi ∂xj Ω i=1 i,j=1 n ∑ ∂νA ∫ (∑ n Ω i=1 ) ∂hi − h0 v12 dx. ∂xi 右辺の第一項は v1 ( ∂v 0 ∂νA − n ) ( ) ( ∂v ) ∑ 0 hi νi v1 = v1 − σ0 v1 + σ0 − hi νi v12 ∂νA i=1 i=1 n ∑ のように書けるので、X ∈ D(A) と σ0 におかれた仮定より、この項が正にならない ことがわかる。 さらに、第 2 項と第 3 項はともに C(kv1 k2L2 (Ω) + kv0 k2H 1 (Ω) ) で上から抑えられるの で、(22) を考慮すれば主張が示された。 2. D(A) は H に稠密である 証明 X = {v0 , v1 } ∈ H を勝手に選ぶ。そのとき、{v0j } ⊂ C ∞ (Ω) と {v1j ⊂ C ∞ (Ω) が 存在し、次が成り立つ: v0j → v0 in H 1 (Ω), v1j → v1 in L2 (Ω). 次に、関数 gj ∈ C ∞ (Γ) を ( gj = ) ∂v0j − σ0 v1j Γ ∂νA と定義する。 ∂wj |Γ = gj ∂νA and kwj kH 1 (Ω) ≤ 1 j を満たす関数 wj ∈ C ∞ が存在することが知られている。 よって、Xj = {v0j − wj , v1j } とおけば、Xj ∈ D(A) が成立し、 Xj → X in H (j → ∞) が得られる。 3. (λ − A)−1 の存在 λ − A : D(A) → H が全単射(bijection)であることを示せばよい。 問題 2.22. (14) を導くときの考察を参考にして、λ > M に対して上の写像が単射(injection)であ ることを示せ。 29 したがって、あと示さなければならないのは、この写像が全射(surjection)にもなるということであ る。つまり、任意の F = {f0 , f1 } ∈ H に対して次を満たす X = {v0 , v1 } ∈ D(A) が存在することを 示せばよい: (λ − A)X = F. 上式が成り立つのは λv0 − v1 = f0 かつ −Av0 + (λ + H)v1 = f1 が同時に成り立つときとそのときだ けであるから、以下の楕円型境界値問題を解くことと同値である: −Av0 + λHv0 + λ2 v0 = f1 + (λ + H)f0 ∂v0 − λσ0 v0 = σ0 f0 on Γ. ∂νA in Ω この問題の解の存在の証明はテクニカルなので、[1, Ikawa] を参照されたい。 以上の解析により、考えている問題 (20) を書き換えた形の (23) に Hille-Yosida の定理を適用できる。正則性に 関する考察と a priori 評価を加えることで(ここでは省略)、次の結果を得る。 存在定理 定理 2.23. 初期値 u0 ∈ H 2 (Ω) と u1 ∈ H 1 (Ω) が ∂u0 − σ0 u1 = 0 ∂νA on Γ を満たすとする。そのとき、f ∈ C 1 ([0, ∞); L2 (Ω)) に対して、問題 (20) がただ一つの解 u∈ 2 ∩ C 2−j ([0, ∞); H j (Ω)) j=0 をもつ。 30 2.4 数値計算について 本節では 2 階双曲型方程式の差分法による数値計算に関することを紹介する。 差分法を以下の弦の振動方程式を用いて説明する: ∂2u ∂2u = +f in QT = (a, b) × (0, T ) ∂t2 ∂x2 u(t, a) = A(t), u(t, b) = B(t) for t ∈ (0, T ) u(0, x) = g 0 (x), ut (0, x) = g 1 (x) for x ∈ (a, b) (24) (25) (26) 差分法は三つの主なステップを含む。すなわち、格子の構成、節点での微分の近似、そして差分方程式の導出 である。 • 格子の構成 時空領域 QT の格子を作るには、十分大きい自然数 N と R をとり、次のように置く。 τ T , tk = kτ k = 0, . . . , R R b−a , xi = a + ih i = 0, . . . , N N = h = ¯ T において節点 (tk , xi ), k = 0, . . . , R, i = 0, . . . , N を考える。 領域 Q • 節点における微分の近似 方程式 (24) に現れる微分を内側にある節点 (tk , xi ) ∈ QT においてのみ近似する(つまり、k = 1, . . . , R − 1, ¯ T ) であれば、テーラー展開により i = 1, . . . , N − 1)。u ∈ C 4 (Q ∂2u u(tk , xi−1 ) − 2u(tk , xi ) + u(tk , xi+1 ) (tk , xi ) = + εxh (tk , xi ) ∂x2 h2 と書ける。ただし、誤差は |εxh (tk , xi )| ≤ Kh2 h ∈ (0, h0 ) を満たし、h0 < (b − a)/2 で、K は h, k, i に無関係である。同様にして、 ∂2u u(tk−1 , xi ) − 2u(tk , xi ) + u(tk+1 , xi ) (tk , xi ) = + εth (tk , xi ) 2 ∂t τ2 を得る。ただし、 |εth (tk , xi )| ≤ Kτ 2 τ ∈ (0, τ0 ) において τ0 < τ /2、そして K は τ, k, i に無関係である。 記号 uki := u(tk , xi ), fik := f (tk , xi ) を導入すれば、微分方程式は以下のように書きなおせる。 ) ) 1 ( k+1 1 ( ui − 2uki + uk−1 = 2 uki−1 − 2uki + uki+1 + fik + ετ h (tk , xi ) i 2 τ h (27) ここで、|ετ h (tk , xi )| ≤ K(τ 2 + h2 )。 • 差分式の導出 差分方程式は (27) における誤差項 ετ h を無視し、真の解 uki を節点 (tk , xi ) での近似解 Uik で置き換える ことによって得られる。そうすると、 ) ) 1 ( k+1 1 ( k k Ui − 2Uik + Uik−1 = 2 Ui−1 − 2Uik + Ui+1 + fik , 2 τ h 31 k = 1, . . . , R − 1, i = 1, . . . , N − 1. (28) 境界条件は次のように離散化される: U0k = A(tk ), ukN = B(tk ) k = 1, . . . , R. また、初期条件は Ui0 = g 0 (xi ) i = 0, . . . , N となる。上の差分方程式 (28) は、k-番目と (k − 1)-番目の時刻での近似解の値を用いて (k + 1)-番目の時刻 での近似解 Uik+1 を求める構造になっている。したがって、計算をスタートさせるには Ui0 , i = 1, . . . , N − 1 と Ui1 , i = 1, . . . , N − 1 とが必要になってくる。そこで、Ui1 を ut に対する初期条件より決める。 Ui1 の値の決定 テーラー展開より u(t1 , xi ) = u(t0 , xi ) + τ ∂u τ 2 ∂2u ˜ (t0 , xi ) + (t0 , xi ), ∂t 2 ∂t2 t˜0 ∈ [0, τ ] (29) 初期条件を用いると、 u1i = g 0 (xi ) + τ g 1 (xi ) + εtτ (t0 , xi ), i = 1, . . . , N − 1 ただし、|εtτ (t0 , xi )| ≤ Kτ 2 and τ ∈ (0, τ0 )。よって、Ui1 の近似は Ui1 = g 0 (xi ) + τ g 1 (xi ), i = 1, . . . , N − 1. このようにして、陽解法のスキームが完成した(つまり、前の時間ステップで得られた近似解の値を用いて次の 時間ステップでの近似解の値を、連立方程式を解くことなく、直接求める方法)。 上で紹介した t = t1 における初期条件の近似が十分正確かどうかが問題である。実際、(29) より ∂u uk+1 − uki τ ∂2u ˜ (0, xi ) = i − (t0 , xi ) ∂t τ 2 ∂t2 が成り立つので、誤差は O(τ ) のオーダーしかなく、微分方程式の差分誤差 O(τ 2 + h2 ) と比べると不十分な精度 である。 より正確な近似を導いてみよう。(29) により u1i = u0i + τ ∂u τ 2 ∂2u (0, xi ) + (0, xi ) + O(τ 3 ). ∂t 2 ∂t2 (30) ¯ T ) と仮定してい 右辺の第 3 項は未知であるが、微分方程式を使えば計算できる。より正確に言うと、u ∈ C 4 (Q ¯ T 全体に拡張した方程式を使う。すると、 るから Q u0 − 2u0i + u0i+1 ∂2u ∂2u (0, xi ) = (0, xi ) + fi0 = i−1 + fi0 + O(h2 ). 2 2 ∂t ∂x h2 これを (30) に代入すれば、 u1i τ2 = g (xi ) + τ g (xi ) + 2 0 1 ( g 0 (xi−1 ) − 2g 0 (xi ) + g 0 (xi+1 ) + fi0 h2 ) + O(h2 τ 2 + τ 3 ) を得る。よって、2 番目の時刻での近似解の値のより正確な近似は次のようになる: ( ) τ 2 g 0 (xi−1 ) − 2g 0 (xi ) + g 0 (xi+1 ) 0 + f i = 1, . . . , N − 1. Ui1 = g 0 (xi ) + τ g 1 (xi ) + i 2 h2 次に 陰解法スキームの導出について簡単に述べる。そのため、節点 (tk , xi ) ∈ QT における微分を次のように 禁じする: 1 ∂2u (tk , xi ) = 2 ∂x 2 ( ) ∂2u ∂2u (t , x ) + (t , x ) + O(τ 2 ). k+1 i k−1 i ∂x2 ∂x2 32 ここで、 k±1 uk±1 + uk±1 ∂2u i−1 − 2ui i+1 (t , x ) = + O(h2 ). k±1 i ∂x2 h2 このようにして、以下のアルゴリズムを得る: ) ) 1 ( k+1 1 ( k+1 k+1 k−1 k−1 U − 2Uik + Uik−1 = 2 Ui−1 − 2Uik+1 + Ui+1 + Ui−1 − 2Uik−1 + Ui+1 + fik , τ2 i 2h i = 1, . . . , N − 1. i = 1, . . . , N − 1 に対する式を離散化した境界条件と初期条件と合わせると、(N − 1) 本の線形連立方程式になる。 問題 2.24. 次の膜の方程式に対する差分スキーム(陽解法と陰解法)を書け。 ∂2u = ∆u + f ∂t2 in (0, 1)2 × (0, T ). 行列表記 上の差分スキームを行列の記号を用いて表す。準備として、(N − 1) × (N − 1) 行列を以下のように定義する: 2 −1 0 . . . 0 −1 2 −1 0 .. 1 .. . Ah = 2 0 −1 (31) . h . . . . . .. .. .. . . .. 0 ... ... −1 2 さらに、近似解の k-番目の時刻における未知の値を次のようにベクトルにまとめる: k T nh U kh = (U1k , . . . , UN −1 ) ∈ R , nh = N − 1. 行列 Ah は対称で正定値行列である。 この記号を用いると、陽解法と陰解法の式を次のように書きなおすことができる。 ) 1 ( k+1 k k−1 U − 2U + U + Ah U kh = F kh , k = 1, . . . , R − 1 h h h τ2 ( ) ( ) 1 1 k+1 k k−1 k+1 k−1 U − 2U + U + A U + U = F kh , k = 1, . . . , R − 1 h h h h h h τ2 2 ここで、F kh ∈ Rnh は fik の値と境界値により与えられる。 陰解法の式を整理すると、 ( 1 τ2 I ) ) 1 ( + 12 Ah U k+1 = F kh − 12 Ah U k−1 + 2 2U kh − U k−1 . h h h τ 係数行列が対称で正定値なので、この連立方程式は唯一の解を持つ。 この事実は以下の定理に基づいている。 33 定義 2.25. 行列 A = (aij )n i,j=1 が(狭義)対角優位であるとは、 n ∑ |aij | < |aii | i=1,i6=j がすべての i = 1, . . . , n に対して成り立つことである。 定理 2.26. A が(狭義)対角優位行列または既約対角優位行列であるとする。その とき次が成り立つ: (i) A は正則である。 (ii) aii > 0 ∀i = 1, . . . , n であれば、A のすべての固有値の実部は正である。 定理 2.27. A を n × n の実数値対称行列とする。そのとき、A の固有ベクトルで 形成される Rn の正規直交基底が存在する。 上の考察を一般的な双曲型方程式に拡張できる。 ∂2u = Lu + f ∂t2 in QT = Ω × (0, T ) ただし、適切な初期条件と境界条件が与えられているとする。作用素 L は楕円型作用素である(すなわち、2 階 微分の係数は楕円性条件を満たしている)。 陽解法スキーム: ) 1 ( k+1 U h − 2U kh + U k−1 + Ah U kh = ϕh , k = 1, 2, . . . h 2 τ ここで、Ah は楕円型作用素 L の近似に当たる nh × nh 行列で、nh は k-番目の時刻における近似解の未知な値 の数である。さらに、U 0h と U 1h は初期条件より決まり、ϕh は関数 f の値と境界値により与えられる。 陰解法スキーム: ) 1 ( ) 1 ( k+1 k−1 k k+1 k−1 + U + U − 2U A U + U = ϕh , h h h h h h τ2 2 Ah が対称で正定値行列であれば、係数行列 対称行列であると仮定する。 2.4.1 1 τ2 I k = 1, 2, . . . + 12 Ah は正則になる。この理由で、以下では Ah が正定値の 差分法の安定性 安定性とは一般的には、下位の時刻での微小な摂動によりもたらされる誤差が上位の時刻に進むにつれて拡大 しない、という数値スキームの性質のことを指す。もうちょっと詳しく解説しよう。 陽解法を考えて、 ) 1 ( k+1 k k−1 + Ah U kh = ϕh , U − 2U + U h h h τ2 k = 1, 2, . . . 正確に計算した近似解を U kh とする。すなわち、この近似解は正確な初期値 U 0h = g 0h , U 1h = g 1h k ˜ を摂動を加えた以下の初期条件からスタートして計算される近似 を用いて求められるものである。一方で、U h 解とする: ˜ 1 = g 1 + ϑ1 . U h h h ˜ 0 = g 0 + ϑ0 , U h h h 34 k ˜ − U k とおけば、Z k が次の式を満たすことが容易にわかる: Z kh = U h h h ) 1 ( k+1 Z h − 2Z kh + Z k−1 + Ah Z kh = 0 k = 1, 2, . . . h 2 τ Z 0h = ϑ0h , Z 1h = ϑ1h . (32) (33) 興味があるのは、k が大きくなるにつれて Z kh がどのような挙動をするか、ということである。すなわち、 ⇔ スキームは安定である {Z kh }k=0,1,... が有界である フーリエの方法を用いて、陽解法の安定性を調べてみよう。Ah が対称行列であるから、その固有ベクトルで 形成される Rnh の正規直交基底がある。その基底の一つを z 1 , . . . , z n とする。つまり、 Ah z j = λj z j , j = 1, . . . , nh . ただし、λj は Ah の固有値である。 {zj }nj=1 が基底なので、Z kh を次のように表現できる: Z kh = n ∑ (k) αj z j k = 0, 1, . . . . j=1 ここで、 (k) αj = (Z kh , zj ) (Rnh における内積) はいわゆるフーリエ係数である。 この Z kh の形を (32) に代入すると、 nh nh (∑ ) 1 ∑ (k+1) (k) (k−1) (k) (α − 2α + α )z + A α z = 0 j h j j j j τ 2 j=1 j j=1 ( (k+1) ) (k) (k−1) nh ∑ αj − 2αj + αj (k) z j = 0. + λj αj τ2 j=1 ベクトル z j が独立であるから、 (k+1) αj (0) (1) が従う。ただし、αj , αj (k) (k−1) − 2αj + αj τ2 (k) + λj αj ∀j = 1, . . . , nh =0 は初期摂動 ϑ0h , ϑ1h により与えられる。よって、上記は定数係数の線形連立差分式で ある。 固定した j に対し σj = λj τ 2 /2 とおくと、上の差分式を次のように整理できる: (k+1) αj (k) − 2(1 − σj )αj (k−1) + αj = 0. 対応する特性方程式は ηj2 − 2(1 − σj )ηj + 1 = 0 になるため、特性根は √ ηj± = 1 − σj ± σj2 − 2σj と求まる。まとめると、以下の三つのケースが考えられる。 a) σj > 2 このとき、ηj− < 1 と ηj+ ∈ (−1, 0) が成り立ち、解は (k) αj = Aj (ηj− )k + Bj (ηj+ )k となる。ここで、Aj , Bj は初期条件により決まる。 35 k = 0, 1, . . . b) σj = 2 このとき、ηj± = −1 が成り立ち、解は (k) αj = Aj (−1)k + Bj k(ηj )k . c) σj ∈ (0, 2) √ このとき、ηj± = 1 − σj ± i σj (2 − σj )、そして |ηj± | = 1。解は (k) αj = Aj (ηj− )k + Bj (ηj+ )k k = 0, 1, . . . . (k) 目標は {Z kh }h が有界になるための条件を調べることであるが、それは {αj }k=0,1,... が j = 1, . . . , n に対して 有界であることと同値である。 安定性 (k) (k) 定義 2.28.Ad c) : |αj | ≤ |Aj | + |Bj | が k = 0, 1, . . . に対し成り立つから、フーリエ係数 αj は有界で ある。 スキームが 安定 であるとは、0 < σj < 2 がすべての j = 1, . . . , nh に対して満たされるということで ある。つまり、 2 τ<√ λj 2 τ<√ ρ(Ah ) または ただし、ρ(Ah ) は Ah のスペクトル半径である。 (k) Ad b) : |αj | ≤ |Aj | + k|Bj | が成り立つから、誤差は k について線形的に増大する(これはスキームとし て認めることができる)。 スキームが 弱安定 であるとは、0 < σj ≤ 2 がすべての j = 1, . . . , nh に対し満たされるということで ある。つまり、 2 τ≤√ . ρ(Ah ) Ad a) : このとき、|αj | = |Aj (ηj− )k +Bj (ηj+ )k | となり、Aj 6= 0 のとき最初の項が指数的に増大する(|ηj− | > 1 であるため)。Aj = 0 であっても、丸め誤差などで最終的に Aj 6= 0 になってしまう。 (k) スキームが 不安定であるとは、σj > 2 となるような j が存在するということである。つまり、 2 τ>√ λj がある j で成り立つ. 注:行列の最大値ノルム A = (aij )n i,j=1 を kAk∞ = max i=1,...,n n ∑ |aij | j=1 で定義すると、ρ(A) ≤ kAk∞ が成り立つことが知られている。よって、安定性のための十分条件として、次の ようなものがある: 2 . 0<τ < √ kAh k∞ (最大値ノルムはスペクトル半径に比べ計算しやすい。) 36 例えば、弦の振動方程式 utt = uxx + f 行列 Ah は (31) の形になり、kAh k∞ = 4 h2 と簡単に計算できる。し たがって、この場合は安定性条件は以下の通りになる: ( CFL 条件 = Courant-Friedrichs-Lewy の条件). 0<τ <h 最後に陰解法の安定性を調べる。この場合は、誤差ベクトル Z kh に対して次のような問題になる: ) 1 ( ) 1 ( k+1 k k−1 k+1 k−1 − 2Z + Z + A Z + Z = 0, Z h h h h h h τ2 2 Z 0h = ϑ0h , Z 1h = ϑ1h . (k) フーリエ係数 αj k = 1, 2, . . . (34) (35) に対する差分式は (k+1) (k−1) (k) − 2αj + αj 1 (k+1) (k−1) + λj (αj + αj ) = 0 2 τ 2 ( ) ( ) 2 2 λj τ λj τ (k+1) (k) (k−1) 1+ αj − 2αj + 1 + αj = 0 2 2 αj (k+1) (1 + σj ) αj (k) − 2αj (k−1) + (1 + σj ) αj = 0 となり、対応する特性方程式は (1 + σj )ηj2 − 2ηj + (1 + σj ) = 0 と書けるので、根は ηj± √ 1 ± i σj (σj + 2) = . 1 + σj すべての特性根が虚部を含み |ηj± | = 1 を満たすことがわかる。よって、αj (k) = Aj (ηj− )k + Bj (ηj+ )k はすべての j に対して有界である。このことは、ベクトルの列 {Z kh }k=0,1,... は τ > 0 の選択によらず、有界になることを意味 する。このとき、陰解法スキームが 無条件安定であるという。 問題 2.29. 1 次元の熱方程式に対する陽解法と陰解法アルゴリズムを書き、それぞれの安定性をフーリエの方法 を用いて調べよ。 37
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