ASEAN経済共同体(AEC)がもたらすインパクト

BEYOND MAINSTREAM
ASIAN NEWS LETTER
7
MARCH 2015
ASEAN 経済共同体 (AEC) がもたらすインパクト
THINK ACT
ASEAN経済共同体がもたらすインパクト
THE BIG 3
1
AEC=チャンス&複雑化
> チャンス=ヒト ・ モノ ・ カネの国境を越えた移動が活性化
> 複雑化=ミクロ (各国事情) +マクロ (ASEAN 全域の動向) が事業を左右
2
AEC≠遠い将来
> 完全な統合は当初予定の 2015 年末より遅れる見込み
> ただし、緩やかに自由化が進む中、ASEANの競合はしたたかに行動
3
日本企業が今やるべきこと
> マクロ ・ ミクロの視点を両方持つ
> チャンスを引き寄せる (未来はまだ動かせる)
> チャンスに備えて構える (引き寄せたチャンスを確実にものにする)
2
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THINK ACT
ASEAN経済共同体がもたらすインパクト
1. ASEAN 経済共同体 (AEC) の現状 各戦略目標のうち、「単一の市場と生産基地」 における 「物品
の自由な移動」 について、関税の撤廃は順調に進んでいる。 シ
ASEAN地域の成長に向けて各国が一体となった取り組みと
ンガポールやタイ、マレーシア等の先発加盟国では、2010 年に
して、2008 年から ASEAN 経済共同体 (AEC) 構想が進められて
既に関税 0 %が達成されており、ベトナムやミャンマー等の後発
いる。AECとして 8 年後の 2015年末までに実現すべきものとして、
加盟国でも、2015 年内に原則関税 0 % を達成する予定である。
以下の 4 つの戦略目標が設定されている。 A
しかしながら、貿易における数量制限や自動輸入の禁止等、非
関税障壁は各国で依然として多く残されており、実質的な貿易の
各戦略目標が実現すれば、ASEAN 域内におけるヒト ・ モノ ・
円滑化に向けての道のりは遠い。
カネの移動はより自由になる。 自由な経済活動が対外投資も呼
び込み、ASEAN 経済は更なる発展が期待される。
また、物品以外の投資や熟練労働者の自由な移動について
但し、現状、2015 年末の時点で各戦略目標を実現すること
は、完全な自由化が滞っている。 「投資」 のうち観光やヘルスケ
は課題が多く、難しいだろう。 2013 年 10月の第 23 回首脳会議
ア等の優先分野、ロジスティクス分野については 2013 年までに
の議長声明において、進捗は 79.7 %と発表されている。 B
ASEANの外資資本比率が 70 %まで容認された。 しかし、その
A
AEC における 4 つの戦略目標
B
進捗
完了
未完了
ASEAN Economic Community Scorecard( 2012)
1
2
34 .1%
Single Market and Production Base
>
>
>
>
物品の自由な移動
サービスの自由な移動
投資の自由な移動
資本の自由な移動
> 熟練労働者の自由な移動
> 優先統合分野
> 食料 ・ 農業 ・ 林業
67. 9 %
32 .1%
66 .7 %
33 . 3 %
競争力のある経済地域
Competitive Economic Region
> 競争政策
> 消費者保護
> 知的財産権
3
65 . 9 %
単一の市場と生産基地
> インフラ開発 (輸送 ・
エネルギー・情報通信等)
> 税制
> 電子商取引
公平な経済発展
Equitable Economic Development
> 中小企業
> ASEAN 統合イニシアチブ
4
85 .7 % 14 . 3 %
グローバル経済への統合
Integration into the Global Economy
> 対外関係における経済的なリレーション
Total
ASEAN Economic Community Scorecard( 2012)
67. 5 %
32. 5 %
首脳会議 議長声明 (2013)
79.7% 20. 3 %
出所 : ASEAN Economic Community Scorecard( 2012)、第 23 回首脳会議議長声明 ( 2013 年) よりローランド ・ ベルガー作成
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3
THINK ACT
ASEAN経済共同体がもたらすインパクト
他のサービス分野は予定より遅れている。 また、そもそも、この「外
C
ASEAN 各国の一人あたり GDP [USD、2014 年]
資容認比率」 の計測方法が疑問視されており (※注記 1)、目標
値自体が無実化する可能性も指摘されている。 「ヒト」 の移動に
55,099
ついては、そもそも全労働者が対象ではなく、熟練労働者に限
定されている。 現在、特定 8 業種 (※注記 2) で専門家サービ
スの域内移動について各国間の相互承認協定が締結されている
が、いずれも実際の発行には至っておらず、進捗は滞っている。
「競争力のある経済地域」 においてはインフラ開発や法整備
等がテーマとして挙げられているが、インフラ開発は資金不足や
40,084
政治的混乱により停滞、法整備に至っては後発加入国におい
て特に進んでいない。
「公平な経済発展」 については中小企業支援の各種施策や
50
人材育成等のソフトインフラを中心とした ASEAN 統合イニシアチ
ブ上のプログラムを展開しているが、効果が出るのはまだ先にな
倍以上
ろう。 2014 年時点の一人あたり GDPの ASEAN加盟国間の格差
は最大で 50 倍以上に達する。 C
もっとも進展しているのは 「グローバル経済への統合」 で、
ASEAN は既に周辺地域と FTA ネットワーク (自由貿易協定) を
構築している。
2. AECはどのようなビジネスチャンスをもたらすのか
1
10,983
AECの完全な実現はまだ先とはいえ、着実に自由化は進んで
きている。 その変化は ASEAN 全域の事業構造を変え、多くの
5,670
3,658
ビジネスチャンスをもたらすだろう。 ビジネスチャンスは、①モノ ・
2,960
ヒトの移動に伴う障壁低減に伴うもの、②モノ ・ ヒトの移動量が増
1,971
加することによるもの、③ AECによる経済成長の押し上げによる
1,620 1,297
1,067
もの、の 3 つの観点から生まれると考えられる。
カンボジア
ミャンマー
ラオス
ベトナム
フィリピン
インドネシア
タイ
マレーシア
ブルネイ
容易になれば、特に製造業において生産拠点の最適化等によ
シンガポール
①について、AECの進展により域内でのモノ ・ ヒトの移動がより
るコスト削減効果が見込める。 また、他国への輸出負荷が軽減
されることによる事業拡大や、 熟練労働者の流動化を生かした
関連サービスの新規展開も考えられる。
れば容認とみなされる
生産拠点の最適化により削減されるコストは、 関税 ・ 非関税
措置の負担軽減による取引コストのみならず、 生産 ・ 調達の規
4
1) 外資容認比率は、その分野における詳細品目のうちの一つでも該当す
2) エンジニアリング ・ サービス、看護サービス、建築サービス、測量技師、
会計サービス、開業医、歯科医、観光専門家の 8 業種
出所 : Euromonitor
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ASEAN経済共同体がもたらすインパクト
模拡大によるスケールメリット、 安価な人材を活用できる地域へ
メーカーにも供給を始めた事例がある。 また、今後熟練労働者
の労働集約型事業の集積による人件費削減、ロジスティクス ・
の移動自由化政策が進めば、医療や介護等の関連サービスを
ルートの最適化、それに伴う在庫の縮小による物流コスト等が見
ASEAN内で展開していく動きが加速するだろう。
込まれる。
②について、モノ ・ ヒトの移動量が増加すれば、物流 ・ インフラ
たとえば自動車産業においては、タイに製造拠点を持つトヨタ
関連での事業機会が拡大する。ASEAN域内におけるクロスボー
紡績がラオス、 矢崎総業や住友電装がカンボジアに労働集約
ダー物流ニーズの増大のほか、特に後発国における、鉄道 ・ 空
型の部品製造を一部移転しており、「タイ ・ プラス ・ ワン」 としての
港 ・ 道路 ・ 港湾等、交通インフラ整備ニーズの拡大、セメントや
生産拠点の分散を進めている。 また、アパレル業では、ベトナム
建材、輸送用トラック ・ 建機等、物流インフラ周辺ニーズの拡大
を調達 ・ 輸送拠点、カンボジアを生産拠点とすることで、ベトナム
が見込めるだろう。
の輸出インフラとカンボジアの安い労働コスト、及び税制優遇を
享受する域内分業が進んでいる。
クロスボーダー物流については特に、メコンデルタ地域の国々
(タイ ・ ミャンマー ・ ラオス ・ カンボジア等) 間の物流量が増加し
ており D 日系流通企業もメコンデルタの後発加盟国への進出
AECによる事業機会の増加という観点では、ある日系電機メー
を加速させている。 ただし、各国の交通インフラや法規制の整
カーが自社向けにタイで製造していた電気機器部品を、 関税
備は途上であり、効率的な陸路物流の完成には未だ時間を要
撤廃によるコスト競争力の拡大を生かして ASEAN 他国の現地
すと思われる。
D
タイからのクロスボーダー物流市場推移 1) [Bn USD]
年平均成長率
27.0
5.0
27.6
5.5
28.0
相手国
(' 09 ~'13)
6.0
23.3
ミャンマー
+ 9. 9 %
カンボジア
+19. 9 %
ラオス
+18 . 8 %
4.2
1.9
19.2
4.1
1.7
2.4
1.4
2.0
3.1
17.0
2.5
4.0
15.6
15.1
2.8
4.0
15.2
11.7
マレーシア
2009
2010
2011
2012
+ 6 .7%
2013
1) 輸出、輸入を含む国境貿易 出所 : Bureau of Trade and Investment Cooperation, Department of Foreign Trade
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5
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ASEAN経済共同体がもたらすインパクト
E
ASEAN における、年平均可処分所得別世帯数の推移 (100万世帯)
可処分所得
656
626
593
25
86
17
55
268
CAGR
37
3 . 5万ドル以上
+7. 8 %
125
1.5 ~
3 . 5万ドル以上
+8 . 5 %
323
0.5~
1 . 5万ドル以上
所得層別の消費性向イメージ
1 . 5万ドル~
> ヘルスケア分野への消費性向
の高まり
298
3.4
4.8
億世帯
+1. 9 %
億世帯
> 日本の平均世帯年収は 7 万ドル
富裕層
中間層
5 千ドル~ 1万ドル~
> 外食や教育、レジャー等サービス
への消費性向が上昇
> ラグジュアリー消費性向が上昇
> 新車の保有率が急上昇
5 千ドル~
> 中間層の下限
> 洗濯機や冷蔵庫等、各電化製
品の保有率が上昇
> 1960 年代前半の日本の水準
254
216
172
0 . 5万ドル以下
-3.8%
低所得層
2010
2015
2020
出所 : 経済産業省 「通商白書 2013」 「新中間層獲得戦略」 よりローランド ・ ベルガー作成
③について、AECによる経済成長の押し上げ、各国の経済水
ASEAN は人種 ・ 宗教 ・ 経済力等による各国間の差異が大き
準の向上に伴う中間層の増加は、各セクターにおける ASEAN 市
い、多様性を持った地域であり、事業戦略も各国単位で語られ
場規模の拡大をもたらす。 ASEAN内外企業の資金需要の増大
る傾向があった。 ただし、今後は AECの進展により、ASEAN全
に伴い、投資機会も増加するだろう。 ASEANにおける中間層 ・
体の動向も事業環境にインパクトを与える。 また、 企業のオペ
富裕層世帯の数は 2010 年時点の 3.4 億世帯から 2020 年には
レーション領域や対象市場自体も、ASEAN広域に拡大していく。
4 . 8 億世帯と、10 年で 1. 5 倍近くまで拡大すると見込まれてい
ASEANで事業を行う日本企業は、いかなる規模でも、① ASEAN
る。 一般的な中間層の定義となる年間可処分所得が 5, 000 ド
全体最適での舵取りと、②各国 ・ 産業単位の個別事情の双方
ルという水準を超えると、電化製品やサービス、ラグジュアリー分
を考慮していく必要がある。
野での消費やヘルスケアへの関心が高まる等、消費性向も変化
し、ASEANの消費構造が大きく変化することが見込まれる。 E
また、AEC が目指す統合は 2015 年末に一気に完了するもの
ではなく、 時間をかけて進んでいくものであり、 未成熟な行政
等、課題も山積している。 その中で戦略を構築していくには、③
ASEANの課題を理解した上で、AECの段階的な進展にあわせ
て適宜戦略を見直していくことが重要になろう。 F
3 . AEC がもたらす複雑化とは ①の ASEAN 全体最適での舵取りについて、たとえば事業基
AECの進展により、ビジネスチャンスが広がる一方、事業戦略
の構築 ・ 実行にあたり考えるべきことは複雑化しており、事業は
盤の構築においては、以下のポイントについて域内での全体最
適を重視していくべきである。
より難しい舵取りが求められるようになる。
6
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F
AEC 時代に必要な視点
1
AEC の実現に伴う、 ASEAN 全体最適での舵取り
> 一企業のオペレーション領域や対象市場は ASEAN
全域に拡大
> 企業を取り巻く環境も、一国単位ではなく ASEAN
全体の動向に左右される
2
各国 ・ 産業別 個別事情への
配慮
> 人種 ・ 宗教 ・ 経済力等における各国間
の差異は引き続き大きく、戦略には各
国事情を考慮すべき
> AECの進捗も、各産業 ・ 各国によって
ばらつきが生じる
> ただし、ASEAN各国 ・ 産業の市場
規模は未だ小さい
3
課題の理解と、AEC の段階的な進展にあわせた戦略の見直し
> AECが目指す統合は 2015年末に一気に完了するものではなく、時間をかけて
進んでいくものであり、未成熟な行政等、未だ課題も山積
> 戦略構築にあたっては、適宜、取り組みにおける最新状況をふまえたアップデート
が必要
出所 : ローランド ・ ベルガー作成
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7
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ASEAN経済共同体がもたらすインパクト
②について、欧州の ECとは異なり、AECは統合が進んでも各
資本戦略
>
出資母体の国籍
財務戦略
>
>
外部資本の受入れの有無
ASEAN 域内の利益回収モデル構築
(統括会社の設置による利益最大化等)
>
最も有利な地域/条件での資金調達等
を鑑みたキャッシュマネジメント
域内統一の人事制度の導入
人材戦略
>
リスク分散
>
>
ガバナンス
>
人的リソースの域内最適配分
各国が抱える様々なリスクの、地域全体
における分散 ・ 軽減
域内レポーティングラインの構築
>
責任権限の配分
ポイントについて域内最適を追求していくべきである。
売上拡大
資本投下戦略
国をまたいだ生産 ・ 物流 ・ 販売体制の
最適化
>
ロジスティクス最適化、労働力の質 ・ 量
からの調達最適化、原材料や中間財の
調達の最適化等
複数国市場への販売拡大
>
て将来的に統合される領域が小さいためである (例えば、AEC
には共通通貨は存在せず、ヒトの移動も限定的 )。 また、AECに
は EC のような共通ガバナンス機能や強制執行能力がなく、 統
合に向けた取り組みは各国単位で進められることから、各国 ・
産業において進捗にバラつきが生じやすい。
例えば、AEC の進展によるコネクティビティの改善は、 海路 ・
メコン川流域の陸国は前向きな一方、インドネシア・ フィリピンな
どの島国は消極的な傾向がある。 また、AECの進展は、域内経
>
>
済力等の各国間の差異が大きく、また、AECは欧州 ECと比較し
空路と比較して陸路が圧倒的に大きいことから、タイを中心とする
また、ASEAN 事業の収益体制を強化する観点では、以下の
コスト削減
国間の差異は大きく残ると考えられる。 もともと人種 ・ 宗教 ・ 経
最も収益率が高い地域や事業へ、十分
な資本が配分される仕組みの構築
済格差の固定化、 人材流出を招きかねないとの懸念が後発国
を中心に広がっている。 更に、各国とも、 卸 ・ 小売などの中小
企業が多い産業には、保護色が強い。 クロスボーダーで事業を
手がけて利益を享受し得るプレイヤーが少ない製薬など、 産業
界が AEC のメリットを強く感じておらず取り組みが進んでいない
業界もある。
企業の戦略構築にあたっては、特に以下のような観点におい
G
経済発展
の偏り
ASEAN の事業環境における課題
最適な労働力
調達の困難さ
インフラの
未整備
行政 ・ 制度設計
の未熟による予見
の困難さ
8
> クロスボーダー物流における、
ASEAN 国間の産業格差による
片荷問題の発生 (主にタイと
CLMV 間で発生)
> 教育 ・ 訓練を受けた労働者の不足 > 急速な経済成長による労働力の高騰
> 基本インフラ : 特に後発国において、電気 ・ 水 ・ 工業団地が不足
> 交通インフラ : ハードインフラ (道路等) のみならず、ソフトインフラ
(交通規制等) も未整備。 非効率なロジスティクス、リードタイム
予見可能性の低下を招く
> 金融インフラ : 資金調達手段が不足
> 急な法制度変更、属人的な制度運用や汚職の横行のリスク
(特にタイや CLMV (カンボジア ・ ラオス ・ ミャンマー ・ ベトナム) で顕著)
> AEC による関税撤廃を補充するための、他分野の増税リスク
(特に CLMV は関税収入への依存度が高く、高付加価値税や外資徴税が
強化されるリスクが存在)
> AEC 進展に伴う、産業政策の見直しのリスク
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て、各国 ・ 産業別の個別事情を考慮する必要が出てくる。
の域内移動が実現すれば、域内医療事業の発展の後押しにな
> 国別マーケティングによる顧客 ・ 市場の見える化、それをふ
るだろう。
「域内モノ ・ ヒト移動量の増加」 という観点では、アヤラや SM
まえた商品企画
> 国別の事情をふまえた調達 ・ 販売ネットワークの構築
グループ、サンミゲルなど、フィリピンの大手コングロマリットが国内
> 国別の人材獲得 ・ 育成
の交通インフラ事業を強化している。 また、タイのサイアム ・ セメ
> 国別の資金回収ノウハウ
ントは域内のインフラ投資に伴うセメントの需要拡大を踏まえてタ
> 各現地パートナーとの協業検討
イ国内外にセメント工場を急ピッチで増設している。
> 各国政府へのロビー活動の検討 等
また、各国ごとに異なる AECの進捗度の適宜確認、各産業に
おける AECへの取り組み状況の見極めも重要である。
「AEC による経済成長押し上げ」 については、各小売大手が
ASEAN広域展開に向けた動きを強めている。 タイのコングロマ
G
③について、ASEANの事業環境の具体的における課題は をご参照いただきたい。
リットである CPグループは、2013 年に約 66 億ドルで大手ディス
カウントストアのサイアム・ マクロを買収し、ベトナムやミャンマー、カ
ンボジア、ラオス等、タイ周辺国への展開を急いでいる。 また、フィ
課題が山積するなか、AEC が目指す統合は時間をかけて進
リピンの小売系コングロマリット、SM グループは、今後 5 年で、4
んでいく。 各課題を理解した上で、AECの段階的な進展にあわ
千億ペソ (約 90 億ドル) を投資し、フィリピンのみならずカンボジ
せて、適宜戦略を見直していくことが ASEANの事業においては
アやその他各国へのショッピングモール展開を目指している。
重要である。
5 . 日本企業への示唆 4 . 競合となる ASEAN 企業の取り組み 3
2
日本企業は、今までは ASEANにおいて優位性を保っていた
AECの進捗が想定よりも滞る中、事業環境へのインパクトにつ
存在であった。 しかし今後の AEC の進展とともに複雑化する
いては、「事業環境は何も変わらない」 「AECの実現は未だ先で
ASEANにおいての立ち位置は、 磐石とは言えない。 事業環境
ある上に、有効性には疑問が残る」 等の意見も存在する。
が大きく変わる中で、 過去からの事業モデルや保有アセットは
かえってレガシーとして企業の足かせとなる可能性もあり、今後の
但し、ASEANの大企業は、AECを踏まえ足元でしたたかに体
制を構築している。
ASEANの事業環境を見据えた、迅速で適格な判断力が求めら
れている。
「モノ ・ ヒト移動に伴う障壁の低減」 の観点では、ASEAN で広
一方、欧米 ・ 中韓企業は一部の企業を除き、従来は ASEAN
くハンバーガー等のファーストフードチェーンを展開する Jollibee
への展開について日本企業に遅れをとっていた存在であった。
社 (フィリピン) が、AEC を活用して調達先を ASEAN 域内で最
しかし、 新しい市場へ彼らがゼロベースで進出してくる中、 効率
適化し、原材料 ・ 物流コストの最小化に成功している。 例えば、
的に事業を構築し、日本企業の強力なライバルとなる可能性もある。
コーヒーはベトナムから、スパイスはマレーシアやインドネシアか
更に、ASEAN企業は最も有利な状況にある。 ASEAN企業は、
ら直接調達している。 同社 CEOはメディアインタビューにおいて、
従来中小規模のものが多く、ドメスティックな事業展開が主であっ
AEC による貿易障壁の解消でサプライチェーンがより効率化さ
た。 しかし、AECは ASEAN企業 ・ ASEAN人に有利な仕組みで
れ、ASEANでの事業成長が加速したと語っている。
ある。 特に、華人を中心とした ASEANのコングロマリットは豊富
な資金力、各国政府との関係や事業ネットワークを生かし、一気
また、インドネシアのコングロマリットである Lippo グループは、
に域内の勢力を拡大する可能性がある。
今後成長が見込まれる ASEANの医療事業に先行投資する方
針であり、2014 年にはミャンマーの現地企業と同国内の病院ネッ
より複雑化が進み、競争環境が激しくなる中でも、日本企業が
トワーク開発について提携。 今後 AECの進展により熟年労働者
勝ち抜いていくために考えるべきことは、①マクロ ・ ミクロの視点
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9
THINK ACT
ASEAN経済共同体がもたらすインパクト
H
日本企業が勝ち抜いていくために考えるべきこと
チャンスに備えて構える
> 引き寄せたチャンスを、スピーディーに
ものにする
> ASEAN 全体での生産性向上 ・ 効率化
> 各国のニーズに効率的に答える事業
戦略
マクロ ・ ミクロの視点を両方持つ
> 現地化 ・ 体制構築
> AEC の進展で ASEAN 全体最適での
事業の舵取りがより重要に
> 但し、各国 ・ 産業別の視点も不可欠
チャンスを引き寄せる
> AEC の進展は道半ば
出所 : ローランド ・ ベルガー作成
> 各国政府や ASEAN 有力企業への働きかけ
で、今後の方向性は大きく変わりうる
を両方持つこと、②チャンスを引き寄せること、③チャンスに備え
て構えること、の 3点と考える。 H
> 引き寄せたチャンスを、スピーディーにものにしていくべく、早
急に体制を整えておく必要がある。 AEC の進捗が遅いという
理由で今行動しなければ、ASEAN その他の競合に先を越さ
①マクロ ・ ミクロの視点を両方持つこと
れる可能性もある。
> AEC の進展により、企業は ASEAN 全体の動向に左右され、
> マクロの観点では、地域統括機能を設置して ASEAN 全体で
ASEAN 全体最適での事業の舵取りがより重要になる。 但し、
の生産性向上 ・ 効率化を図る、タイムリーな意思決定がで
各国 ・ 各産業の事業環境には引き続き差異が大きく、個別
きるように日本の本社から一定権限を委譲する、等の取り組
の視点も不可欠である。
みが考えられる。 また、常時の情報収集のための体制構
> なお、AEC はあくまでも ASEAN 企業向けの取り組みであるた
め、各国政府や ASEAN 企業が積極的でないと進まない一
方、両社がしっかり組めば一気に進む可能性がある。
築も重要である。
> ミクロの観点では、各国にマーケティング機能を置き現地化
を進める。 一方で各国のニーズに効率的に応えられるよう、
共通化する部分と個別に作りこむ部分を分けた商品設計を
②チャンスを引き寄せること
する、等の取り組みが挙げられる。
> AEC の進展は道半ばであり各国政府や ASEAN 有力企業の
AECの進展には今後も紆余曲折があるだろうが、ASEANは今
意向で方向性は大きく変わりうる。
> 今からロビー活動や現地財閥とのアライアンス等でその輪に
入り込んでいけば、自社に有利な方向に導ける可能性もある。
後も日本企業にとって重要な市場であり、行動が遅れては環境
変化後の市場で勝ち抜いていくことが難しくなる。 この重要な岐
路において、マクロ ・ ミクロの観点に立ち、チャンスを引き寄せ、
③チャンスに備えて構えること
10
来るべきチャンスに備え、構えておくことが重要である。
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ローランド ・ ベルガーはドイツ、ミュンヘンに本社を置き、ヨーロッパを代表する戦略立案とその実行支援に特化した経営
コンサルティング ・ファームです。 1967年の創立以来、成長を続け、現在 2 ,700 名を超えるスタッフと共に、世界 36 カ国 51
事務所を構えるまでに至りました。 日本におきましては、1991年にオフィスを開設し、日本企業及び外資系企業の経営上
の課題解決に数多くの実績を積み重ねております。 製造、流通 ・ サービス、通信業界等数多くのプロジェクトはもとより、5
~ 10 年後を予測する各種トレンドスタディの実施や学術機関との共同研究などを行うことにより常に最先端のノウハウを蓄
積しております。
アジアジャパンデスクのご紹介
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地域の主要国に経験豊富な日本人コンサルタントを配置すること
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アジアジャパンデスクでは、製造業、消費財、運輸、ヘルスケア、
エネルギーなど、幅広い産業についての知見に加え、新規参入
戦略、クロスボーダーアライアンス・M&A、販売戦略、ブランド戦略、
事業再構築、コスト最適化など、幅広いテーマにおけるプロジェク
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コンサルタント 石毛 陽子 Yoko Ishige
株式会社 ローランド・ベルガー
E-mail:
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東京大学文学部卒業後、日系証券会社に入社。日本・シンガポールにて
広報担当: 西野、山下
経営企画・投資銀行業務に従事した後、ローランド・ベルガーに参画。金
〒107-6023 東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル23階
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融、商社、メーカー等幅広いクライアントを対象に、成長戦略、市場参入戦
略、技術戦略、営業・マーケティング戦略のプロジェクト経験を多数有す
る。2015年より、シンガポール・ジャパン・デスク在籍
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