クラスター形成過程における埋め込みの機能と展開-北海 道におけるワイン産業の事例研究- Title Author(s) Citation 地域活性研究 (2013), 4: 171-180 Issue Date URL 長村, 知幸 2013-03 http://hdl.handle.net/10252/5128 Rights This document is downloaded at: 2015-01-31T21:50:17Z Barrel - Otaru University of Commerce Academic Collections クラスター形成過程における埋め込みの機能と展開 クラスター形成過程における埋め込みの機能と麗開 一北海道におけるワイン産業の事桝研究一 T h eF u n c t i o na n dD e v e l o 問l e n to fE m b e d d e d n e s si nt h eB u iI d i n g u pP r o c e s so ft h eC l u s t e r AC a s eS t u d yo ft h eW i n eI n d u s t r yi nH o k k a i d o 長村知幸(小樽商科大学大学院) T o m o y u k iO s a m u r a( G r a d u a t eS c h o o lo fC o m m e r c e .O t a r uU n i v e r s i t yo fC 郎官n e r c e ) 要量 本稿は、クラスター形成過穂における埋め込みの機能と展開について分析したものである。本稿では、埋め込みの観 点から、お毎道のワイン・クラスター形成動向に関する軒!附究を行った 林高の発見事実としては、ワイン・クラス O ター形成過程におし、て、制度的要素の存症が、地縁関係の発達とスモールワーノレド・ネットワークの形成に貢献し、正 の効果をもたらすことが判明した。つまり、制度的要素の存在がクラスター内の埋め込みの機能を強化し、信頼関係、 職業的連帯意識やソーシャル・キャピタノレの蓄積に大きく貢献すると考えられる。 ド クラスター、理め込み、スモールワールド、ソーシャル キャピタル E 1 .1 まじめに ネットワークに注目している。たとえば、稲垣 ( 2 0 0 3 ) 1.研究冒的 や加藤 ( 2 0 0 9 ) は、ラディカノレな変化を伴わない閉鎖的 知識経済への移行に伴い、クラスターの形成を目指す な規範を前提とした特定地域の産業集積について議論 ことが、地域経済政策や科学技術政策¢領域で世界的な 2 0 0 3 : 1 3 5 ) は、起業家がど、のようなネ している。稲垣 ( 潮流となっている(坂田・梶)1, 2 0 0 9 : 6 7 )。そのため成長 ットワーク構造に埋め込まれている ( e m b e d d e d ) のかと o r t e r( 19 9 0, 19 9 8 ) のクラスター理論 しい地域では、 P いう社会学的アフ。ローチに研・究関心に自を向けている。 の影響を受けて、例外なくクラスターが形成されている。 つまり、社会的文脈が企業家(あるいは起業家)ネット クラスターとは、「ある特定の分野における関連企業、 ワークに与える影響の大きさを示唆している(相原・ 向性の高い供給業者、サービス提供者、関連業者に属す 秋庭,2 0 0 6 : 7 4 )。こうした論者の台頭によって、 i 邸玄関係 る企業、関連機関が地理的に集中し、競争しつつ同時に に依拠した共同体の成立とクラスター形成に関する理 協力している状態」のことを指す ( p 側 民1 9 9 8 : 6 7 )。 論的蓄積を実現してきたと言える。 近年では、様々な分野からクラスター研究が行われて そこで、、本稿では、理め込みの概念を応用して、北海 いる。たとえば、 P o 託e r( 19 9 0 , 1 9 9 8 ) のクラスター理論 道のワイン・クラスター形成動向に関する事例研究を行 2 0 0 7 ) が食料産業クラスターの概念 に依拠して、斉藤 ( う。特に、クラスター形成過程において、埋め込まれた を提示している。また、クラスター研究の台頭によって、 諸関係がどのように構築され、し、かなる効果をもたらす 社会ネットワーク理論やソーシヤノレ・キャヒ。タノレ理論な のかとしづ問題に焦点を当てて考察する。 どの研究分野が発達している。こうした動向に伴い、 業クラスターに関する研究は、経営学明g E 済学の多様な 分野で行われ、一定の理論的蓄積を見せている(金 井 ,2 0 0 5 : 1 5 )。 しかしながら、クラスター研究は、未だ理論的蓄積が 2 . 対象事例 本稿の分析対象である北海道のワイン産業は、明治初 期から生産が試みられており、日本を代表するワイン産 地である山梨県と並んで麗史的にも古いと記録が残され 少ない分野が多く存在する。その中でも、クラスターを ている。北海道のワイン産業は、平成以降(特に、 2 0 0 0 社会学の観点から分析した研究は、今後の研究蓄積が望 年以降)、様々な規模のワイナリー・ヴ、インヤードが集積 まれている分野である。 し、ワイナリ一同士、あるいはワイナリーと関連・支援 近年では、企業家研究の分野において、社会学の概念 との連携が見られるようになっている。そのため、 である「埋め込み ( e m b e d d e d n e s s )Jを用いた実証研究が ワイナリー・ヴィンヤードの問で、同業者の交流によっ 台頭しつつある。理め込みアフローチでは、特定剛腕t て技術者ネットワークが形成されつつある。こうした動 に根付いた地縁関係に依拠した起業の連鎖現象や企業家 向に伴って、ワイン産業に対する行政の支援も顕著にな 1 7 1 事例研究報告 っており、ワイン・クラスター形成の萌芽が芽生えつつ 業家は、社会的文脈に影響を受け、よりパーソナノレなネ ある。 ットワークに根ざした要因によって支えられてし、ると そこで、、ワイン@クラスター形成過程におけるリサー チ・クェスチョンとして、以下の 2点を提示し、埋め込 え る ( 稲 : E e : ,2 0 0 3 )。 特に、企業家のネットワークは、その地域の価値観や みの観点から議論を行う。 不文律を理解する上で、の手助けになるため、起業の成功 RQ( J ) :1 t i ! 本ぎのグイン屋ヨぎでは、ク三テスター芳成語躍で、 に結びつくと考えられている 2)。したがって、企業家の JのよラまJ六y メグークz 5 S 形成主f tでL唱 の れ RQ( } l ):ググン産業j ごf 3f プ3活鋭的要葉 ( f I ! f j 鮮の貨宮こ?ノル 群亡の f J t E )/ 才 、 Jの存型昔、産英五線j ご 一ノ.//,業界E 寄与す3の れ 個人的なつながりなどの「埋め込まれたJ関係は重要な 経営資源であると考えられる(中野ヱ0 1 2 : 1 9 7 )。 このように、企業家は、哩め込みのプロセス 3)を通じ て、社会的な結びつきを作りながら、信用、知識、経験 0 0 6 : 6 9 )。つまり、社 等の資源を獲得する。(相原・秋庭,2 3 論文の構成 会的文脈へどの程度、埋め込まれているかは、企業家が 本稿の構成は、以下の通りである。まず、第 E節では、 利用できる経営資源や事業機会の認知に影響を与える 4 L 埋め込みの理論的変遷と何故について整理する。第狙節 特に、ワイン産業を含めた農業では、仲間に本認され V 節で では、オ同高の調査概要と研究方「法を提示する。第I ることによって、社会的・経済的義務関係が構築され、 は、ね毎道の歴史的魅緯に触れ、それに付随した形で、 相互扶助やサービスの交換が行われる傾向が強い 2 0 1 3年3月現在のワイン@クラスター形成状況について概 ( P u t n a me ta l1 9 9 3 ) 0C o l e m a n( 19 8 8 : 1 1 7 ) によると、 吋 観する。そして、第 V宣告では、先行研究に触れながら、 ある相手を信頼するかどうかは、過去の経験や実績が重 ワイン・クラスターの形成過程における埋め込みの機能 要な根拠になると述べている。また、 G r 加 o v e t t e r( 19 8 5 ) について理論的な検討を加えてし、く。最後に、第V I 節で も同様に、過去の実績が分かっている個人や企業との取 は、語論と今後の課題について述べる。 引が女子まれる{頃向があると示日変している。 上述したように、特定の相手との関係性の発達は、文 1I.先行頭究レ t a c i tk n o w l e d g e ) の蓄積や集 脈に埠め込まれた暗黙知 5) ( 1 . 埋め込みの理論的変遷と特轍 団的アイデンティテイ 6)の形成に貢献する。伊丹 まず、埋め込みの理論的変遷について整理を行う。埋 ( I9 91 : 16 ) は、人縁を、アイデンティティの基礎的要件 o l a n y i( 19 5 7 : 1 0 0 ) の著書『大転換』 め込みの概念は、 P になると指摘している。 S a x e n i a n( 19 9 4 : 2 4 ) も同様に、 で、社会的諸関係が経済システムの中に埋め込まれてい 企業向士が相互交流を横み重ねる中で、共通のアイデン ると指摘したことを起源としている。その後、Gr司a n o v e 投. e r ティティと相互信頼が生まれると述べている。 ( 19 8 5 )や U z z i( 19 9 7 ) が埋め込みの概念を理論的に e s t o r( 2 0 0 4 ) の『築地』研究では、地域 たとえば、 B 発展させた。特に、 G r a n o v e 乱e r( 19 8 5 ) は、経済活動が 文化に根付いたアイデンティティについて考察している o 社会的文脈・社会集団に埋め込まれており、そのよう B e s t o r( 2 0 0 4 : 6 8 )によれば、築地のアイデンティティは、 なネットワークが信頼を生み、規範を作り出すと主張 昔の商人のライフスタイル・文化の追求・商業的慣留や、 している。そのため、埋め込みの論理では、経済活動 彼らと武士階級・徳川幕府との歴史的関係の上に、そし の基礎になる社会的な関係構造(ネットワークやコミ て、東京の下町地区を「正統な j 都市文化の宝庫として ュニティなど)に注目すべきであると考えられている。 見直すという 2 0世紀後半の動向の上に成立していると また、埋め込みの具体例としては、地域文化の不文 律、保統、業界のルール、慣習などがあげられる O たと えば、業界のルールは、その業界に参入している各企業 が互いに影響しあいながら行動していく中で生まれる (野中・遠山・平田,2 0 1 0 : 9 4 )。すなわち、地域文化に根 論じている。このように、ある集団にアイデンティティ があるからこそ、そのアイデンティティを核に共同体と しての意識を持つ(伊丹ラ 1 9 9 1 : 1 3 )。 したがって、クラスター形成過程においては、個人や 札織が社会ネットワークに埋め込まれていることが、 付いた制度は、~,立織成員の協働を促進する源泉であり、 頼関係を醸成する土台となり、暗黙知の蓄積や集団的ア 社会秩序を担う重要な基盤になっている。 イデンティティの形成に貢献すると考えられる。 さらに、企業家が、その地域の社会的文脈勺こ埋め込 まれていることが、地元のルールの理解や社会的支援の 0 0 6 : 6 8 )。換言すると、企 享受につながる(柏原・秋庭,2 172 2 . 埋め込みの観点から晃たワイン産業の特性 上述したように、埋め込みの論理では、特定集団の内 クラスター形成過程における埋め込みの機能と展開 部で¥単一の規範が共布されていることが前提になる。 特に、勝沼地域では、メーカ一間の連撲が活発である(斉 本項では、埋め込みの概念に基づいて、ワイン産業への 0 0 7: 30 6 )。このような地元での「顔の見える j 付き合 藤 ,2 適合性について考察する。ワイン製造では、「立地(土壌・ いの濃厚さは、埋め込まれた機諸情報へのアクセス性に 気候)・原材料(ブドウの品質)・人(技術者)Jが必要条 効果があるため、クラスターの競争力に大きく影響を与 共 件とされる。多くの産地では、これらの要素が地元でT 2 0 0 8 : 4 4 45 ) は、行政や山梨 えると考えられる。山本 ( 給される。その中でも、ブド、ウの生育環境や技術水準が 大学、技制措が一体となって「葡萄語技術研究会Jを通 ワインの品質1 こ大きな影響を与える。鹿取 ( 2 0 1 1 : 4 9 )に じて、技術の向上に努めていると主張している。 割、技術が2害I Jと よると、ワインの品質は、「ブドウが8 特に、ワイン産業では、経済活動に埋め込まれた知識 言われ、原料であるブドウによって製品の大部分を決定 (文書化・システム化しにくい知識やノウハウ、技術的 づけられると指摘している。つまり、ワインの生産要因 知識・経験など)が産業発展に寄与すると予関される。 は、地理条件と環境条件によって大きく規定されるため、 そのため、ワイン造りとし寸仕事を上手く成し遂げるた 埋め込み効果が高いと考えられる。 めには、誠実で信頼のおける関係構築が必要不可欠で、あ また、道内では、醸造技術者自らが、気候や土質・地 ると言えよう。ここで論じたように、山梨県は、県産マ 形などを考慮して、ブド、ウ和音をするのが一般的になっ ークの整備など産学官連携による取り組みが積極的に行 ている。ワイナヲーは、畑で収穫したブドウを醸造し、 われており、国産ワインを代表する先進的なクラスター ワインとし、う製品を生み出すオ幾能を持つ(西川,2 0 0 8 : 2 4 )。 形成を実現するに至っているはり毎道空知総合振興局・ そのため、ワイナリーは、社会的 制度的な環境に埋め ズコーシャ,2 0 1 2 : 1 8 9 )。 a 込まれた地域性の高い前主であると言えよう。 i l l . 調査概要と研究方法 1 . 調査概要 3 . ワイン揺クラスターの先行研究レビュー ワイン・クラスターは、ワイナリーとヴィンヤードお 本稿では、文献調査とインタビュー調査を実施し、定 よびワイン製造とブドウ和音に関する関連・支援産業か 性的百回処に基づいて、 ~tr毎道のワイン産業に関する“分 ら構成される ( P o r t e r , 1 9 9 8 : 7I)。ワイン・クラスターの具 、記述"を試みる。北海道のワイン産業は、 1 8 6 8( 明 体例としては、カリフオノレニア州ナパ・バレーや山梨県 治元)年を発端とすると約 1 4 0年近い歴史を有するため、 のワイン・クラスターなどがあげられる。 多くの公式資料が宿生する。そこで、公式的な記録であ ここで、わが国におけるワイン・クラスターの代表例 る『北海道果樹百年史』および『北海道果樹百二十年史』 である山梨県のワイン産業を取り上げる。山梨県のワイ 3年度醸造用ぶどうと空知産ワインの振興に や『平成 2 ン産業の歴史は、日本のワインの歴史と言われている(北 係る基瞬周査Jなどの調査報告書、北海道のワイン史に 0 1 2 : 1 8 9 )。山梨県は、 海道空知総合振興局。ズ、コーシャ,2 関わる書籍の文献一調査を行い、これらの資料や文献から、 原料の産地化が進展したことから、わが国の代表的なワ ワイン産業に関する記録を抽出し、第N節であるヰ出毎道 0 0 7・ 2 9 7 )。 イン@クラスターとして評価されている(斉藤,2 のワイン産業の歴史的脇緯を作成した。 8年に、欧州、│系樹種に寄生したフイロキセラによ 明治 1 また、上述した文献調査と並行して、ワイナリ一、ヴ って、日本のワイン醸造の歴史は一旦頓挫するものの、 インヤードや行政機関の闘系者(計 1 9名)に対して、イ 当時、唯一アメリカ種のぶどうに拠った山梨県は、この ンタビュー調査を実施した。まず、 2012 年 5 月 ~2012 禍を逃れることができ、今日の降盛の慌になったとされ 年 7月に、北海道のワイン産業の全体像を把握するため、 ている(北海道空知総合振興局・ズ、コーシャ,2 0 1 2 : 1 8 9 )。 ワイナリーやヴィンヤードに対して対面調査および寵百 昭和に入ると、山梨県で、は、ワインの研究・指導の役 調査を胎o t調査(第一次質的調査)として行った O 割を持つ山梨県ワインセンターの開設や山梨大学ワイン が行った?なo t調査では、ワイン農業における技術者同士 科学研究センターの設置といったワイン産業に関する知 の連携は、非公式で自発的な相談や助け合いによる場合 的インフラの劉恥滑油に進むことになった また、 2 0 0 6 が多いことが判明した。 O 年度から、 1 1 1 梨大学ワイン科学研究センターでは、山梨 その後、 2 0 1 2年 8月' " ' " ' 1 0月にかけて、行政機関の関係 県と山梨県ワイン酒崩旦合と協力し、「地或再生人材創出 者に対して、ワイン・クラスター形成動向に関するイン 拠点の形成 j プロジェクトに取り組んでいる(山 タビュー調査を実施した。このインタビュー調査の結果、 本 ,2 0 0 8 : 4 6 )。 北海道のワイン産業では、道産ワイン懇談会やそらちワ 現在、山梨県には、約 8 0社のワイナリーが存在する。 イナリー・ヴィンヤード連絡会議(空知総合服興局が管 173 :事例研究報告 轄)などの業界団体が、間業者の公式的な社交ネットワ な記i 拠を扱うことができる点にある(加藤,2 0 0 9 : 1 2 )。ま こなった。 ーク形成を促進していることが明らかl た、藤本・河口 ( 2 0 1 0 ) の京都伏見漉造業研究でも、企 業数の少なさから徹底した個別調査を行っている。 2 . 探説の設定調分析視角と研究方法 そこで¥材高では、加藤 ( 2 0 0 9 )や藤本・河口 ( 2 0 1 0 ) ( 1)鍛説の設定 m 分析視角 の議論に依拠し、北海道のワイン・クラスター形成過程 ここで、材高の仮説および分析視角を提示する O 北海 道のワイン産業では、交流のインフラ(業界団体など) における埋め込みの機能を考察するためには、事例研究 が最適であると考える。 を通じて、成員開のアイデンティティ形成と場 ηの共有 を図っている。伊丹 ( 1 9 9 1 : 1 3 ) は、アイデンティティの 耳工事例硯究 存在が共同体意識につながり、情報共有のためには場の 1.北海道のワイン産業の歴史的掛毒 共有が必要になると指摘している。日常的な相互作用の 北海道のワイン産業は、 1 8 6 8 (明治元)年に、北海道 場での知識は、文脈依存的な性質を持つ。つまり、こう 南部の亀田郡七重村(現・七飯町)周辺でプロシア人ガ した「場」を通じて、専門的な知識の共有を行うことは、 ルトネルが土地を粧借して農場(りんごやブドウなどを 埋め込みの強化に高い効果があると考えられる。 導入)を開き、ここに母国から果梶苗木を取り寄せて植 また、図 1に示されるように、成員聞の共同体意識と 情報共有が実現されることによって、社会的文献の共有 j えつけたことが洋平霊果樹耕音の始まりとされてし、る(北 海道果樹百年史編集委員編 1 9 7 3 : 1 3 ) 01 8 8 5 (明治 1 8 ) そして、社会的文脈が人々に共有されるこ には、国内の欧州品種が、フィロキセラの発生によって とで、埋め込みを通じたある謹の行動カ , { ) J : 進される。こ 壊滅的被害を受けることになる(北海道空知総合振興 につながる O の結果、埋め込みが強化され、*Jt~哉間協働が促進される ・ズ、コーシャラ2 0 1 2 : 3 7 )。その結果、明治初期に、 と予測される。上記で論じた仮定に基づいて、 2つの仮 い助成策を講じてブドウ耕音に力を入れ、普及奨励に努 説を設定した上で、分析する。 めたものの、道内のブドウ生産は停滞へ向かうことにな り、ワイン産業の歴史が一度断ち切られることになる。 図 1 本研究の分析視角 地縁関係 制度的要素 その後、 1 9 6 0年には、十勝管内池田町において醸造用 ブドウの耕音が進められ、寒害でほぼ全滅の創幾に如、 ながらも、ワインが醸造・販売されたことによって、 内各地で醸造用ブドウ栽培の気運が醸成されてきた(北 海道果樹百二十年編集委員会編ラ 1 9 9 2 : 41 )01 9 6 3年には、 池田町ブドウ・ブドウ酒研究所が設立し、お毎道のワイ ン産業が「夜明けj を迎えることになる。池田町ブドウ・ ブド、ウ酒研究所の設立によって、道東の池田町に端を発 したワインブームが省道に拡大し、道内における昭和の . c ワイン複興のキッカケとなっ t o 1 9 6 0年代後半には、道内各地でブドウ老齢制瀬植的に 進められ、余市町・仁木町を中心とした北後志地域では、 稲作転換の縮策も相まって、ブドウの新植が急速に増加 した。特に、余市町では、 1 9 7 0年頃から国営の事業とし 91 )1 7頁に基づいて筆者一部修正。 (出所)伊丹(19 て醸造用ブドウの市闘去が開始され、様々な品種の植栽試 験などが進められたことによって、ブドウの栽培面積が 政説 1:企業家の理念業献般か芽β古賀&がぴレフjプ00 手成費; : t 都度的要薬企遁どでJ六クメグーク形成 仮説 2:t εf A 産す0 0 次第に拡大することになった。 1 9 7 0年代頃には、稲作の生産調整が開始されたことに よって、鶴沼(浦臼町)の生産者の集いで欧州│品種を植 える動きが顕著になった。こうした動向に伴って、道内 ( 2 ) 研究方法 本稿では、事例研究法を採用する。事例研究に特有の 強みとしては、文書、人工物、面接、観察としりた多様 174 における醸造用ブドウを和音する気運が次第に醸成され ることになった O そして、 1 9 7 3年には、醸造用ブドウに関する本格的試 クラスター形成過程における埋め込みの機能と展開 験研究が開始された(北海道果樹百二十年編集委員会 ね毎道の冷涼な気候と土壌の良さに惚れ込み、多くの高 9 9 2 : 8 2 )。その後、 1 9 7 5年までの期間に、ブドウの栽 編 ,1 度闘時が流入している。このように、道内に有能な醸 培技術の研実強関である中央農業試験場は、而横き│生や収 造家(高度技術者)を誘引し、小規模ながら道産原料に 量等から 1 6品目を選抜して、北海道に適した醸造用ブド こだ、わったワイン造りに取り組むことによって、 ウ品種の適性調査や和音方法の調査などが実施された。 インに対する言刊簡が高まっていると考えられる。 以上をまとめると、北海道におけるワイン産業の強み この時期には、道内における立地の可官酎生に着目し、 9 7 2年)や北海道ワイ 良野市ぶどう果樹研究所惰リ業:1 としては、①安価な土地価格と一枚統きの畑の入手容易 ン株式会社 8) (創業:1 9 7 4年)などの北海道を代表する 性に基づく自社畑の保有、②欧州、│品種の品質の高さ、③ ワイナリーが設立されている。このような動向に伴って、 地球温援イヒに伴う冷涼な土壌を起因とした高度技術者の 北海道のワイン産業は更なる発展を遂げることになった。 点に集約される。 誘引、とし、う 3 1 9 8 1年には、寒冷地における適性関験を経て、ツヴ、ア イゲノレトレーべやミュラートウノレガウなどの「準奨励品 種j がね毎道の醸造用ブドウの主要品種として普及する 2 . 北海道のワイン産業に対する行政の支援 上記で論じたように、近年では、北海道におけるワイ ことになり、これに伴って、宗知音農家が増加することに ン・クラスター形成の可能性が増している。本項では、 なったはり毎道空知総合振興局・ズ、コーシャ,2 0 1 2 )。そ 北海道におけるクラスター政策に関して整理する。 9 7 0 年代まで、生食用品種が多かった のため、道内では、 1 まず、 2 0 1 0年 5月に、北海道経済連合会、 JA北海道 9 8 0 年代以降は、醸造用ブドウとして和音された欧 が 、 1 中央会、 j回毎道経済産業局、北海道庁の 4者を設立発起 州品種の比率が高まることになり、ワイン需要の増大に 人として、北海道における食の総合産業化の実現を目的 伴って、富良野市、池田町、浦臼町などで醸造用ブドウ とする「食クラスター連携協議体j を発足している。食 の産地化が進展することになる(北海道果樹苔二十年編 クラスター連携協議会は、食の総合産業の確立に向けた 集委員会編ラ 1 9 9 2 : 5 9 )0 ①高付加価値化の抱隼、②マーケティング・販売促進、 ③企業誘致など、道タトカミらの投資促進等のフ。ロジェクト 表 1 醸造用ブドウの生産状況(平成 2 1年度) l j 憤 { 立 ω を「連携・協働j で生み出していくことに主な目的があ る 。 f 食クラスター連携協議体j では、 2 0 1 1" " ' 1 2年度を 都湖守果 和音面積 ( h a ) 北海道 3 5 9. 1 1 , 4 3 0. 2 「基盤強化+発展形成期J と位置づけ、参画者の拡大や 2 長野県 1 1 2 . 5 1 , 0 3 4. 3 ネットワーク強化に加え、有望フ ロジェクトの創出・推 3 山形県 1 1 4 . 6 7 0 9 . 0 進に努めている。これは、「食Jに関わる幅法い産業と関 4 兵庫県 4 0 . 5 2 7 6 . 5 係機関が緊密に連携・協働できる体制(農商工連携)を 4 5 1 2 0 . 6 2 0 6. (出所)北海道空知総合振興局・ズ、コーシャ ( 2 0 1 2 ) し、北海道ならではの食の総合産業化を実現するこ 仕向量 4 7頁に基づいて筆者作成。 O とを目指すものである。 また、 2 0 1 1年 1 1月には、構造改革特別区域として f 北 のフルーツ王国よいちワイン特区(北海道余市郡余市 そして、表 iに示されるように、北権道における醸造 町)Jが国から認定されている。規制の特例措置の活用 用ブドウの栽培面積と仕向最は、現在に至るまで、臨場 霞類動量免許に により、構造改革特別区域内において、 i や設備の整嬬など行政による支援を受けた形で、日本一 関わる最低製造数量基準 ( 6 1 d ) が果実酒では 2 k lに下げ 0 0 0年以昨、新たに の要素条件へと成長を遂げてきた。 2 られ、より小規模な主体も酒類製造免許を受けることが 設立された中小ワイナリーでは、自社畑でのブドウ耕音 可能になった。余市で、の小規模ワイナリーの起業が容易 に注力している所が多く、和、技術者たちがブドウ耕音 になったことで、果樹の生産振興や就農者の確保など、の に本腰を入れだし、自社畑の拡大や改植が今日に至るま 形でワイン産地として地域活性化を限ることが可能に で積極的に進められている。具体的には、直営農場の確 なり、クラスター化の一歩を踏み出したと言える。さら 保、新品種の導入・耕音技術に関する普及指導などの努 に、よいちワイン特区の設置は、ソーシヤノレ・キャピタ 力によって、北海道におけるブドウの質的向上が顕著に ルの蓄積に貫献する可能性を持っている。 なっている(斉藤,2 0 0 7 : 1 3 6 ・ 1 3 7 )。 さらに、北海道のワイン産業では、地球温暖化の影響 を受けて、寒冷地でのブドウ耕一音は注目を集めており、 本項で論じたように、北海道のワイン産業は、行政の 支援を受けることで、異なる産業との結びつきに貢献し ていると考えられる。稲垣・高橋 ( 2 0 1 1 : 2 4 ) によれば、 175 事例研究報告 地域内の成員は、産業クラスターという目標が掲げられ れると指摘されている。山倉(19 9 3 : 2 6 8 ) は、地域社会 ることによって、そこから得られる効果を期待して、関 における出国哉間ネットワークがタイトに連結していれば 連@支護産業との関係構築を行うと論じている。 いるほど、地域社会全体がイノベーティブになると述べ ている。特に、企業家は、地元の人々と深いつながりを V司分析と考繋 持つことで、創業のインセンティブを高めるとともに、 1 . ワイン産業!こおける“つながザ, I こ関する考察 共通のアイデ、ンティティを構築することができる。 以上で論じてきた事十河を踏まえ、本稿のリサーチ・ク また、北海道のワイン産業では、関係者による地域内 ェスチョンに対する考察を行う。まず、リサーチ・クェ のイベント(([醸造用ぶどうセミナ一、②そらちワイン スチョンの l番目であるワイン@クラスター形成過程に ピクニック)への参加も顕著である。こうしたイベント おけるネットワーク構造について分析する。ワイン産業 は、同業者(特に、若刊支術者)同士の情報共有(栽培、 を含めた農業では、地域性カミ重視されるため、近所づき 醸造、苗木入手に関する情報)を促進する効果を持つ。 あいが重要になる。 行政機関が同業者ネットワーク作りのイベントを開催す 本稿の分析対象である北海道のワイン産業では、間業 ることによって、「専門性と地理的な近さ jに依拠した協 者同士が比較的付き合いが良く、積極的に情報取得しよ 力関係を促進し、社会的に根付いたコミュニティの形成 うとする額向が見られた。特に、筆者が行ったインタビ に貢献することができる。 W e n g e re ta . l( 2 0 0 2 : 1 4 1 )は 、 ュー調査では、道内におけるワイン・コミュニティの生 定期的イベントには、コミュニティを「し、かり」でしっ 成要悶として、①ブドウ作りの理治:類似性、②サクセス・ かりと回定させる効果があると論じている。 ストーリーへの憧償、などに起因していることが明らか 以上で論じたことをまとめると、北海道のワイン産業 になった。これは、物理的に近接した地域内に同様の思 では、同業者や様々な関連業者が、特定の共同体の中に 想、をもっ成員や成功事例が存在することに依拠している。 埋め込まれた社交ネットワークに基づいた相互作用を行 実際に、北海道のワイン産業では、新規就農者は、成 うことが重要で、あり、技術者コミュニティのメンバーを 功しているワイナリーで修業・研笹を行い、和音方法に 団結させる地域ベースの強い忠誠心を育む必要性がある。 ついて学習するうちに、家族的な交流を行い、関係を構 U z z i( 1 9 9 7 ) は、埋め込まれた紳を通じて特定のパー 築する傾向にある。これは、有機、無農薬とし、った栽培 トナーとつながっていれば、特別のチャンスを獲得す 方法や思念類似性に依拠するものである。その後、ヴィ ることができると述べている。特に、新規参入者は、社 ンヤードとして独立し、ブドウ都音について直接ワイナ 会的文脈への理解と埋め込みを通じて、社会的支援を受 リー〈イ子き、アドバイスを受けることによって、関係強 0 0 6 : 6 9 )。また、藤本・ けることができる(相原・秋庭,2 化に努める。したがって、地縁関係は、文脈依存的であ 何口 ( 2 0 1 0 : 1 1 2 ) は、多くの経験を持つ先輩技術者や同 ると言える。さらに、ワイン産業では、共通の経験や理 地域での酒造技術情報は、非常に重要であると指摘して 解を通じて、成員同とが打ち解けあうことが多い。すな いる。つまり、ワイン造りは、地理的近接性を前提とし わち、道内のワイン・コミュニティでは、助けが必要な た特定の技術者との密度の高い共同作業によって生ま ' 貰が散見され、会議やイベントなどが特 時に相談する習1 れ、それは関係特殊的資産に近いものである。 になくても、頻繁に会うとしづ行為が信頼関係の鞠或に つながっていると考えられる。そして、成員間で信頼関 係を醸成することによって、「文脈依存的な知識Jと「共 通価値Jの共有を実現することが可能になる。 2 0 0 3 : 1 4 6 )によると、成員間の横のつながりは、 稲垣 ( 2 . 帝j 産的要素i こ関する考察 次に、リサーチ・クェスチョンの 2番目である制度的 要素(暗黙の慣習とルール、業界団体の存在)に関する 2 0 0 6 : 1 9 6 )によると、制度的媒介は、 考察を行う。若林 ( 日常の頻繁な接触を通じて形成され、個人の技術的・ クローズド・ネットワーク内の「埋め込みj 水準を向上 門的能力における信頼関係が基盤になっていると述べて させる効果を持っと指捕している。そのため、羽毎道の いる。そのため、地域文化に「埋め込まれたj人間関係、 ワイン産業における制度的要素は、「信頼のネットワー 社会規範や社会ネットワークを通じて、「顔の見える」顔 クj を強固にする機能を持っと言える。 繁な接触と対話を行うことで、互恵的行動に関する信頼 関係を発達させることができる。 そこで、本項では、制度的要素として業界団体の機能 、②成員 目する。業界団体は、①清報交換の「場J 干のように、先行研究では、人々の多様な集合の間で 需の「当事者意識j の醸成、③つながりを制度化する、 頻繁な相互作用が行われると、相互扶助の規範が形成さ ④自らが位置する事業農境を整備する、とし、う 4つの機 176 クラスター形成過程における埋め込みの機能と展開 能を持つ。 S a x e n i a n( 19 9 4 : 2 9 ) は、業界団体を「社会的 i n n o v a t i o n ) を実現する役割を果たすJ と主張している。 対話のパターン(共通認識や慣習など)を作り出し、そ また、北海道のワイン産業では、技術者が公式的な「場J れを維持する機能がある Jと論じている。さらに、 P o r t e r だけでなく、非公式な特定のコミュニティに属していた 15 2 ) は、多くの中小企業で構成されるワイン産 ( 1 9 9 8: ことによって、信頼と情報共有規範を獲得する基礎的条 業の場合には、その立地の産業発展に貢献する業界団体 件が整っていたと考えられる。 が果たす機能が重要になると指摘している。以上の内容 こうした考え方占は、新制度派紘織理論でも展開されて を踏まえた上で、図 2に示されるように、北海道のワイ いる。新制度派1 剖哉理論の代表的な論者である D i M a g g i o ン産業における 2つの業界団体の機能について整理する。 &P o w e l l (1983) は、 1*J1~;哉フィールねという概念を用 いて、一つの業界や産業としてのまとまりが形成されて 国2 北海道のワイン産業の関連団体 し、くプロセスについて分析している。出品織フィールドと 同業者の 道産ワイン懇談会 は、ある共通の生産活動に関わる組織や機関が全体とし 交流支援 そらちワイナリー・ヴィンヤード連絡会議 て構成する影響関係の「場j を意味し、組合屈体や専門 販売支掻 北海道経済部食関連産業室 職自体、行政機関などを含まれる(佐藤・ I J J田 ,2 0 0 4 : 2 2 8 )。 営農支援 相毎道農政部食の安全十倍隼局 さらに、金井 ( 2 0 0 5: 17 )は、地理的近接性と多諜な「場j 持は訂正五JXVI リ 道総研食d' p } J日工研究センター の存在が、ソーシヤノレ・キャピタノレを形成する要件で、あ 耕音技術 道総冊中央農業的験場 ると論じている。そのため、制度的要素は、企業家が関 北海道ワインツーリズム推進協議会 係性を構築する「場j をf 創共することによって、 食クラスタ一連民協議体 ミュニティを形成し、ソーシャル・キャヒ。タノレの蓄積に 政策立案 (出所)インタビュー調査に基づいて筆者作成。 貢献すると考えられる。そして、ソーシャル・キャピタ ルの蓄積によって、地域社会のネットワークを強化し、 1 9 8 4年に発足した道産ワイン懇談会は、道内のワイナ リー 1 5社で、構成される振興組織で、ある。道産ワイン懇談 凝集的なコミュニティの創出や秩序形成に貰i 耽ずること ができるため、制度的要素は重要であると言えよう。 会は、北海道最大のワインイベントである「北を拓く 産ワインの夕べj を 1 9 9 3年以来開催し、道産ワインの 3 . 分析結果のまとめ 品質向上と消費拡大に貢献している(北梅道空知総合振 本項では、ネットワークやコミュニティの生成・強化 興局・ズコーシャ,2 0 1 2 : 1 7 0 )。そのため、道産ワイン懇 に関わる埋め込みの機能について、地縁関係と制度的要 談会の主な役割としては、①道産ワインの品質向上と消 素という 2つの側面から考察した。 費拡大を実現すること、②他のワイナリーとのネットワ ークづくりを促進すること、に集約される。 まず、地縁関係について分析してみると、地域性が強 z z i いネットワークが形成されていると言える o U 一方、 2 0 1 1年5月に発足したそらちワイナリー・ヴィン 1 9 9 7 ) によると、頻繁な「顔の見える Jコミュニ ( 1 9 9 6, ヤード連絡会議は、空知管内のワイナリ一関係者による ケーションは、濃密な情報交換に寄与すると述べている。 情報共有や意見交換 ( 2 0 1 1年5 月と 2 0 1 2 年3月に実施)を また、じz z i&G i l l e s p i e( 2 0 0 2 ) は、「埋め込まれた」社会 促進し、ワイナリー経営の課題解決に貢献する機能を持 的つながりや多様な制度の存在が、情報や知識などの無 つ業界団体である。具体的には、 KONDOヴィンヤード 形資産の獲得に影響を与えると論じている。 と歌右内太陽ファーム、ナカザワヴィンヤードとlORワ イナリーとのつながりを促進している。 クラスターに関する先行研究では、その形成過程にお 筆者が実施したインタビュー調査によると、北海道 のワイン産業では、日常的な交流を通じて、集団内凝集 性を高める行動が散見された。すなわち、 ~b毎道のワイ いて、様々な成員が「場」を通じて相互交流を行うこと ン産業では、個人間の接触と協力頻度の高さによって、 が産業発展に重要な要因であると考えられている。道産 社会的文脈の形成や埋め込みの強化を実現していると考 ワイン懇談会やそらちワイナリー・ヴィンヤード連絡会 えられる。したがって、地理的近接性に基づく「現め込 議のような交流支援機関は、技制時同士の公式および非 まれたJ諾関係を強化する出丑みがクラスター形成にお 公式な「顔の見える J対話を促進し、部分的信頼関係の いて重要である。本稿の分析によると、埋め込みの強化 構築に貢献する機能を果たしている。藤本・河口 計旦う f 姑t が制度的要素であると予部される。 ( 2 0 1 0 : 8 6 ) は、同業者集問を「均質な規範的秩序や類似 的知識を共有することで、漸進的革新Ci n c r e m e n t a l 次に、制度的要素について分析を行う。地域の企業家 を中心としたネットワークの形成・連結させるためには、 177 事例研究報告 成員間伺士で相互作用するための機会を用意することが としてのアイデンティティと信頼を育むことが必要で、あ 有効である。北海道のワイン産業では、同業者同士が、 ると指摘している。空知地方では、企業家同士が、 道産ワイン懇談会やそらちワイナリー・ヴィンヤード連 や生活を通じた関係構築が顕著であり、空知総合振興局 絡会議などの「場Jを通じて、 5 齢、紐帯 9)の形成や職業 による“つながり"を支譲する体制が整備されている。 的連帯意識の音頭戒を鴎っている。つまり、北梅道のワイ こうした制度的要素の整備は、企業家活動を活性化させ、 ン産業における業界団体の機能は、人々の協働を促すも 地域に根付いたネットワーク形成に貢献する。 のであると考えられる。社会ネットワークカ司郎、紐帯を 以上をまとめると、クラスター形成過程における埋め 数多く持つ場合には、そこでのやり取りに多くの時間が 込みの機能は、地域における地縁関係をスモールワール 費やされ、感情的な結合が強まるため、長期的に協働す ド化し、長期的で親密な協力規範と職業的連帯意識を醸 ると成果の出る経済活動において大きな意義を持つ(若 成する。具体的には、業界団体のような制度的要素を通 林 ,2 0 0 6, 2 0 0 9 )。 じて、公式的なネットワークの強化を行い、非公式なネ また、 P i o r e& S a b e !( 19 8 4 ) の研究においても、産業 ットワークの構築をワイン造りに関する棺談や地域内 集積内に埋め込まれた協力関係は、ソーシャル・キャピ イベントへの参加によって、向業者の f スモールワーノレ タルの蓄積につながることを示唆されている。そのため、 ド化Jを促進していることが判明した 10)。しかしながら、 齢、紐帯は、 情緒的なつながりや長年の付き合いといった5 B u r t( 2 0 0 4 )は 、 5 齢、経替に基づくネットワークに理め コミュニティ内の信頼を高め、取引費用(取引相手との 込まれた成員開では、顔繁な情報交換を通じて同じ情報 契約費用や不正行為を監視する費用など)の削減とソー が循環してしまう可能性が高いため、同一化の圧力が高 シャル・キャヒ。タルの蓄積を実現し、クラスター内のグ くなると強調している。 レードアッフ。に寄与する関係資糠で、あると言えよう。特 さらに、道内では、地理的近接性が見られないワイナ に、関係資源としての信頼樹系は、地j 針土会において、 リーもあるため、有機的な連携を進めるためには、クラ 機会主義的な行動を抑制し、長期的な互恵関係や協調関 スター支援政策を意図的に展開する必要性がある。した 係を捉進する機能を持つ ( O u c h i1 9 81)。したがって、い がって、今後は、既存の地縁関係や業界関係者のネット かにしてコミュニティ内のネットワークを結びつけ、ソ ワークをリワイヤリングし、複数のコミュニティを架橋 ーシヤノレ・キャヒ。タルを蓄積するかが乱題になろう。 する「橋渡し役」を介して、ワイン・クラスター形成を ラ 実現していくことが求められると言えよう。 V I . 結論と今後の課題 1.結論 科高では、クラスター形成過程における埋め込みの機 2 . 今後の課題 本稿では、埋め込みの観点から北海道のワイン産業 能と展開について論じた。近年、 ~b毎道のワイン産業は、 に対する事例研究を行ったが、最後に、残された課題 地元食材との連携によるワイン・クラスター形成を促進 について二つほど提示する。 する試みが行われており、ワイナリーやヴィンヤードの 開で、協力関係が整備されつつある。 第一に、北海道のワイン産業に関する課題である。 北海道のワイン産業では、産学連携の重要性が叫ばれる O 出 r( 19 9 8 ) は、既存のネットワークを発 たとえば、 P 中で、ワイナリー・ヴィンヤードを中心とした連携の取 展させる形でクラスターが生じる可能性が高いと論じて り組みは始まっているものの、まだ緒についたばかりで いる。実際に北海道のワイン産業では、地縁ベースのヒ ある。北海道のワイン産業が抱える問題点としては、① ューマン・ネットワ}クを構築され、多様な主体が相互 ブランドカの確立、②安定した収量の確保、③ワイナリ 作用を行っている。 W e n g e re ta . l( 2 0 0 2 : 7 3 ) によれば、長 ー設立に向けた資金的なハードソレ(初期設備投資の多さ)、 期にわたる相互交流は、共通の歴史やコミュニティとし ④高度な研究機関の少なさ、⑤原産地呼称制度の不整備、 てのアイデンティティを生み出すと主張している。同様 などがあげられる。 o l a n y i( 19 5 7 : 81)も、社会的紐帯を維持する重要性 に 、 P を指摘している。このようなコミュニティの存在は、仕 のアイデンティティや帰属意識を築く軸となる ( C o h e n& Pms a k ,2 0 01 : 9 9 )。 また、 S a x e n i a n( 19 9 4 : 2 8 3 ) は、地主苅窒業を盛り立てる ためには、地域ネットワークの構築と発展を支える集団 178 z z i( 1 9 9 7 : 5 7 ) 埋め込みに関する課題である。 U は、強車結・凝集的なネットワークが硬度化しやすく、 革新しづらくなってしまうことを「過剰な埋め込み ( o v e r 巴m b e d d n e s s )J現象と呼んでいる。このように、ス 関長で閉鎖的 モールワールド・ネットワークのような近E な交流は、同様の情報共有を行う傾向があると同時に、 クラスター形成過程における埋め込みの機能と展開 事業内容や技術、販路の固定化などのデメリットを含ん でいる。そのため、「過剰な埋め込み」現象を引き起こさ ないためにも、し、かにして「遠く j の 世 界 に 架 橋 し て 情 報を獲得するかが言県琶になると言えよう(西口,2 0 0 7 : 3 5 8 )。 まれることによって、事業を創造すると述べている。 9 ) 強し、紐帯(埋め込まれた紐帯)とは、信頼関係に基づいて高 い頻度で取引が行われている状態を指す。 i f w 関係の有無にかかっているが、地縁関係が l 町信頼関係は、生也 また、本稿で、用いた埋め込みアプローチは、制度の生 あれば自動的に信頼が得られるわけではなく、商売を持続さ 成・変更などの動態的分析にはそぐわないと考えられ せるために、一一定の努力や資源の投入がなされる必要がある ている。そのため、「埋め込まれたエージェンシーのパ (間口,2 0 0 7 : 3 6 7 )。 ラドクスj などの諸課題を考察するには、新制度派組 織理論を応用したアプローチが今後の調査研究では求 参考文献 められると考えられる。 [ 1 ]相原基大・秋庭太 ( 2 0 0 6 )r 企業者ネットワークに関する経 験的研究の現伏と展望J~経情祭研究』第 56 巻第 1 7'},pp.57-75. [ 2 ]B e s t o r . 工 ( 2 0 0 4 ) TSU Kl J l :7 恥 F i s hM a r k e ta tt h eC e n t e ro ft h e 註 1 ) 文脈(∞n t e x t ) とは、物事やデータが置かれた状況・環境と の関係 ↑生である(野中,2 0 1 1 :1 O) oS c o t t( 19 9 8 : 2 1 6 )によると、 d 文脈は時とともに変化し、ある特定の文脈の中で組織や比 較的広し、組織システムが発達・機能している場合、その文 脈は京町議に影響を与えると述べている。 近年では、企業家活 ;変化を引き起こす効果があると考えられている。 動は、文脈σ 2 ) そのため、企業家の結びつきは地i 或資糠と言言える。 3 ) 訳『築主叫木楽念2 0 0 7年。) [ 3 ]加i,R.S .( 2 0 0 4 ) “S 加 c t u r a lH o l e sa n dGoodI d e a s ,"がl e n c a n ゐu r n a l o f S o c i o l o 郡1l0 ( 2 ) 押 . 3 4 93 9 9 . 田 , J .S .( 19 8 8 ) “S ∞i a lC a p i ぬ1i nt h eC r e a t i o no fHuman [ 4 ]C o l e m a n C a p i t a l , "A m e r i c a nJ o u r n a lo f S o c i o l o g y , 9 4 , S 9 5 δ 1 2 0 . [ 5 ]C o h e n , D .&L . P r u 鈎 k( 2 0 0 ] )l nGoodCompany , H a r v a r dB u s i n e s s 相原・秋庭 ( 2 0 0 6 : 6 9 ) によると、企業家が社会に埋め込まれ S c h o o lP r e s s . (沢崎冬日訳『人と人の「つながり」に投資す る過程は、①地域の社会構造の性質を瑚干する、②現行の社 る企業』ダイヤモンド t t , 2 0 0 3年。) 会構造に働きかけ、新しい結びつきをつくる、⑩古びつき、 社会情造を維持していく、という 3 つから成立すると含う。 t ω或の めまた、知識や助言、サポートなどを得る場合には、 ( 社会的文脈に埋め込まれることや)企業家自身が地元の人々 に認知・信頼されている必要がある(相原・秋底2 0 0 6 : 6 9 )。 幻暗黙知とは、飼人の技能の中に埋め込まれており、熟達者が 持つ知識・スキルのことを指す(松尾,2 0 0 6 却)。特に、 6 ) W o r l d , Th eU n i v e r s i t yo fC a l i f o m i aP r e s s . (和波雅子・福岡伸一 [ 6 ]DiM a , 箆i o , P . J .& W .P o w e l l( 19 8 3 ) 'Th eI r o nC a g eR e v i s i t e d : I n s むt u t i o n a l I s o m o p h i s m a n d C o l l e c t i v e Ra t i o n a l i t y i n 仁 > r g a r せz a t i o n a l F i e l d s , " A m e r i c a n S o c i o l o g i c a l R e v i 四 ,円4 8, p p. l4 7 1 6 0 . [ 7 ]藤本昌代・河口充勇 ( 2 0 1 0 ) ~産業集穣地の総統と革新京 都伏見酒造業への社会学的接近文民生 [ 8 ]G r a n o v e t t e r , M . S .( 19 8 5 ) “E c o l 1 o m i cA c t i o na n dS o c i a lS t r u c t u r e σ コ経験は、人間の感性を磨き直観力を高め、豊かな暗黙知の 1 1 1 e P r o b l e m o f Embedd 吋n e s ピ American Journal of 形成を促進する。 S o c i o l o g y , 9 1, p p. 48 1 5 1 0 . 集団的アイデンティティとは、共同体の一員であるというア イデンティティを相互規定することを意味する ( S a x e n i a n , 1 9 9 4 )。たとえば、シリコンパレーでは、集団的ア イデ、ンティティとして、長期的な協力士見範や社会的制裁のメ 7 3 ) ~相毎道果樹百年史』 [ 9 ]北海道果樹百年史編集委員編(19 北海道百年事業会。 [ 1 0 ]北海道果樹百二十年編集委員会編(19 9 2 ) ~北海道果樹百 一}年史』北海道果樹窃会。 カニズ、ムが共有されている。 清成(19 9 5・ 1 0 ) は、「集毘とし [ 1 1 ] ~協道空知総合振興局・ズコーシャ (2012) ~平成 23 年度 てのアイデンティティ J が存在することによって、企業開の 醸造用ぶどうと空知産ワインの振興に係る基臨周査』北海 インフォーマルな交流が活発になり、ライノ《ノレとの簡でも協 道空知総合振興局報告書。 力関係が生じると主張している。 η 場とは、人々の開に情報的な相互作用がおきるコンテクスト [ 1 2 ]稲埼京輔 ( 2 0 0 3 ) ~イタリアの起業家ネットワーク 産業 集積プロセスとしてのスピンオフの連鎖-~ である(伊丹, 1 9 9 1 : 1 2 )。場の内部、あるいは近い;場同士にお [ 1 3 ]稲垣京輔・高橋勅徳 ( 2 0 1 1 )r 産業クラスター形成におけ いては、参加者陪に緊密な相互作用が行われ、暗黙知が共有 る地理的近接に基づく関係構築プロセス J~組織科学』 。 される可能性が高い(野中・遠山・平田,2 0 1 0 , 7 5 )。金井 0 0 3 : 6 7 ) も同様に、多様な主体が「場j を通じて、相互作 用を行うことで、諸関係の活性{むを知見で、きると述べている。 自)稲垣 ( 2 0 0 3 : 2 4 8 ) によれば、オーナー企業は、環境に埋め込 4 4巻第 3, %pp.2136 回 [ 1 4 ]伊丹敬之(19 9 ] )r ネットワーク・マネジメントの本特且みj 『車脚桝学』第 2 4巻第 4号 ,p p . lO 1 8 . 制<r:金憲・阿久根鑑子 ( 2 0 0 6 )r ワイン産業の [ 1 5 ]影山将洋・ 1 179 事例研究報告 期責とワイン・クラスターの形成:山梨県勝沼崎域を事例 として J~フードシステム研究J 第 12 巻第 3 号,pp.39-50. 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RNan 廷 e 仕 他i( J9 9 3 )M ゐ ' a k i r 型 怒 ;D ε eη m 1 釘 0c r α a の q ,y f a c t o r shadp o s i t i v ee 能c tont h eb u i l d i n g u pp r o c e s soft h e W o r k :C i v i c7 子 v d i t i o n si nM o d e r nI t a l y ,P r i n c e t o nU n i v e r s i t y winec l u s t e r .1 np a r t i c u l a ζ t h e巴x i s t e n c eofi n s t i t u t i o n a lf a c t o r s P r 悶 .( 阿国j 間一訳『哲学ずる民主主義jN 廿出版,2 0 0 1年。) wi 1 l conなibuteωestablish strong cOlmmmity-based ラ [ 3 4 ]P u t n a m , R .D .( 2 0 0 0 )B o w l i n g A l o n e .刀l eC o l l a s p eandR e v i v a lo f 何 o rks.τ1ms , i twaso b s e r v e d r e l a t i o n s h i p sands m a l l w o r l dne ,S imon& S c h u s t e r . (柴内康文訳『孤独 A m e r i c a nC o m m l l n i t y 拠 出eo fi n s t i t u t i o n a lf a c t o r sr e i r 由r c e d自己負mc t 10n t h a t t h ee x i 0 0 6年。) なボウリング』粕書房,2 巴s si nt h ec l u s t e randc o n t r i b u t e dd e v e l o p i n g ofembeddedn [ 3 5 ]斉藤修 ( 2 0 0 7 ) ~食料産業クラスターと地域ブランドー食 農連携と新しいフードビジネス 180 』農林漁業文化協会。 r e l a t i o n s h i p sofmutualなu s tands o c i a lc a p i 匂 1 .
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