全文 - 産学官の道しるべ

2015
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Journal of Industry-Academia-Government Collaboration
Vol.11 No.3 2015
http://sangakukan.jp/journal/
工学系研究科 教授/
橋本和仁 東京大学大学院
産業競争力会議 議員/総合科学技術・イノベーション会議 議員
成長戦略
次のテーマは国立大学改革
特集 1
産学連携に関する平成27年度予算
文部科学省/農林水産省/経済産業省/ 環境省/科学技術振興機構
特集 2
未来のふるさとを紡ぐ
―研究者が向き合う大震災被災地―
創刊 10 周年 特別企画 “連携人”100人が発信してきたこと
産学官3月号.indb
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後編
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巻 頭 言
地方大学の充実で若者の還流を
山本健慈… ……… 3
成長戦略 次のテーマは国立大学改革
橋本和仁… ……… 4
特 集 1 産学連携に関する平成 27 年度予算
文部科学省
科学技術イノベーションの推進に向けて
─産学官連携施策および地域科学技術の振興─
… …… 11
農林水産省
知の集積による産学連携強化に向けた新たな仕組みづくり
… …… 14
経済産業省
産学官連携の強化によるイノベーション推進
… …… 16
環境省
環境研究・環境技術開発の一層の推進に向けた取り組みについて
… …… 17
科学技術振興機構
産学連携事業の取り組みについて
… …… 19
特 集 2 未来のふるさとを紡ぐ─ 研究者が向き合う大震災被災地 ─
身体表現で“自分である”実感取り戻す
―コトの復興としての居場所づくり―
CONTENTS
三輪敬之… …… 21
ふくしまサイエンスぷらっとフォーム 合言葉は「ふくしまは、
“どこでも科学”」
失われた風景を映像・音楽で再現し体感
―風景と心の修景および創景事業―
オープンイノベーション時代に向けた
「技術研究組合」制度の改正と効果
… …… 25
宮廻正明/伊東順二… …… 28
経済産業省 技術振興・大学連携推進課… …… 30
福岡バイオバレープロジェクトの推進
こんにゃくを世界へ―大学と新技術開発―
藤田和博… …… 32
石橋 渉… …… 35
ナノテクノロジー研究設備の活用 研究効率 最大化に向けて
酒井尚子… …… 36
キャリアとしての産学官連携コーディネーター
中武貞文… …… 39
イベントレポート
細野秀雄・東京工業大学教授が JST「知的財産特別貢献賞」を受賞
… …… 41
アーカイブ
産学官連携ジャーナル創刊 10 周年 特別企画
“連携人”100 人が発信してきたこと
後編 2010 ~ 2014 年:問われるイノベーションシステム
… …… 43
科学技術イノベーションへの道(7)
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イノベーションと事業をつなぐ「産学官+金融」連携
… …… 52
視点 / 編集後記
… …… 55
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巻
頭
言
■地方大学の充実で若者の還流を
山本 健慈
やまもと けんじ
和歌山大学 学長
今、国立大学法人の第 3 期中期目標期間(2016 年から 6 年間)における運営費交付金等の配
分の制度設計に関わる議論が霞が関で行われている。2004 年の法人化後、大学運営についても
財政的効率化が求められ、イノベーションに資する研究の選択と資金の集中が進められてきた。
東京を中心とする大企業・経済界からは「国立大学は多すぎる。護送船団的に国立大学を守ろう
とするのか」という声がこの間一貫して発せられている。
先の第 3 期の交付金等の配分の議論の舞台も、この流れで進んでいるように思われる。しかし
この議論においては、「地方の企業・経済界」「地方自治体」「地方国立大学」の視点が顧慮されて
いないように思われる。
現在議論されている枠組みが現実化するならば、誤解を恐れずに言えば、早晩地方国立大学は
壊死(えし)し、ひいては日本の高等教育のシステムが崩壊に至ると思う。
この事態の深刻さを認識された本学はじめ幾つかの国立大学の経営協議会外部委員(自治体の
長、地方経済界の代表等で構成される)は、現在進行する作業に疑念を表明されている。(和歌山
大学経営協議会外部委員声明等 https://www.wakayama-u.ac.jp/post_711.html)
また地方の経済人からは「大企業の主張がわが国の産業界全体を代表しているわけではない」
という声も聴く。
今、「消滅する市町村」の予測が関心を呼び、「地方創生」が声高に唱導されている。しかし、
真に地方・地域の再生を実現しようとするならば、地方国立大学に対して「競争と評価」を通し
て選択的集中による資金配分をするのではなく、各地方国立大学の財政的基盤を充実させること
によって多彩多様な研究に支えられた高等教育を実現し、都市の若者の地方への還流を大胆に進
めるべきであろう。
国立大学長在任5年余の反省として言えば、今後の国立大学は、個別事業体としての努力とと
もに国立大学総体としての努力が重要で、「個性あふれる地方の集合体である」と自己規定した全
国知事会が『日本再生デザイン~分権と多様化による、日本再生~(増補版)』(2013 年 11 月)
を提案しているように、「個性あふれる国立大学の集合体」として国立大学経営協議会外部委員等
の方々と共に、責任ある提案をしていく必要があると思う。
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橋本和仁 東京大学大学院 工学系研究科 教授
内閣官房日本経済再生本部 産業競争力会議 議員
内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 議員
成長戦略 次のテーマは国立大学改革
1955 年生まれ。1980 年東京大学大学院理学系研究
科修了。分子科学研究所技官、助手を経て 1989 年
東京大学工学部講師、助教授を経て 1997 年東京大
学先端科学技術研究センター教授。2004 年より現
職。理学博士。日本学術会議会員。研究分野は光触媒、
微生物電気化学、電極触媒、人工光合成など。2004
年、内閣総理大臣賞、2006 年、恩賜発明賞、2012 年、
日本化学会賞などを受賞。著書に「光触媒のしくみ」
(共著、日本実業出版社、2000 年)
、
「材料概論」
(共
著、岩波書店、2005 年)
、
「田んぼが電池になる」
(ウ
エッジ、2014 年)など。
日本経済を再生させ、日本を元気にするために“科学技術イノベーション”への期待が大きい。産学官の連携
をどう進めるのか、大学は期待にどう応えるのか。安倍政権の成長戦略を検討する産業競争力会議の議員と内閣
府総合科学技術・イノベーション会議の議員を兼ねる、橋本和仁東京大学大学院工学系研究科教授に聞いた。
(聞き手:本誌編集長 登坂和洋)
教育、研究現場の意向を吸い上げる
― 先生は、政府の日本経済再生本部の下に 2013 年1月に発足した産業競争力会議の議
員であり、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(以下「CSTI」
)の議員でも
あります。
橋本 産業競争力会議は、安倍政権の経済財政政策の 3 本の矢の一つ、成長戦
略をつくる役割を担っています。国の重要政策を決める会議の一つといって良い
と思います。一方、CSTI はいうまでもなく国の科学技術政策の指令塔です。安
倍政権では、成長戦略のど真ん中に科学技術イノベーション政策が位置付けられ
ています。具体的には産業競争力会議が設置されたおととしの最初の会議で、成
長戦略の“一丁目一番地”
、すなわち最重要の施策が規制改革とされ、その次に
科学技術イノベーションの環境整備が挙げられました。また、今年に入っても 2
月 12 日に行われた施政方針演説で、
安倍総理は「日本を世界で最もイノベーショ
ンに適した国にする。世界中から超一流の研究者を集めるため、世界最高の環
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境を備えた新たな研究開発法人制度をつくります。IT やロボット、海洋や宇宙、
バイオなど、経済社会を一変させる挑戦的な研究を大胆に支援してまいります」
と述べられています。
― 大学で研究教育に携わると同時に、両会議の議員として重責を担われているのは大変
ですね。
橋本 私は東大の教授として研究室を率いている大学人です。現在、研究室には
学部生と大学院生合わせて 25 名、ポスドクやスタッフを入れると 45 名ほどの
メンバーがいます。もちろん学部と大学院で授業もしています。このように教育、
研究の最前線にいる現役です。私のような現役の大学人がなぜ政府の重要な政策
を議論する産業競争力会議や CSTI の議員になっているのか。それは現場の意向
をしっかり吸い上げた上で科学政策をつくるべきだ、と政府が考えているためと
理解しています。私のミッションは、教育、研究現場の視点を持ちながら、国全
体の政策を決める産業競争力会議と、科学技術政策を専門的に検討する CSTI を
しっかりつなぐこと。総理からそういう指示を受けています。
指令塔機能の強化
― 成長戦略における科学技術イノベーションの取り組みの経過を解説していただけますか。
橋本 2013 年 6 月に成長戦略、
「日本再興戦略」が出されました。この中でイ
ノベーション政策は重要な政策課題の一つとして位置付けられています。その中
でも、まず取り組むべきは
「総合科学技術・イノベーション会議の司令塔機能強化」
とされました。また、成長戦略と連携する形で CSTI では「科学技術・イノベー
ション総合戦略」を策定し、それに基づき司令塔機能強化に向け次の三つに取り
組みました。
一つ目は、政府全体の科学技術予算の調整機能強化です。科学技術予算と一口
に言いますが、実際には各府省庁がそれぞれ要求して確保し、縦割りで事業が行
われています。その各府省庁の科学技術予算に横串を刺して調整を行うため、予
算戦略会議というものを新たに設けました。CSTI 主導の下、各省庁の科学技術
政策に関わる局長クラスを一堂に集め、予算要求の方向性について議論するよう
になりました。
二つ目は、府省横断型のプログラムの新設です。内閣府が新たにまとまった予
算、約 500 億円を確保し、内閣府の下に文部科学省や経済産業省などが集まり、
大学、公的研究機関、さらに産業界の研究者が一体で研究を行うという府省連携・
横断型の新しいプログラムをつくりました。
「戦略的イノベーション創造プログ
ラム(SIP)
」といいますが、それが今、本格的に動き始めたところです。
三つ目はハイリスク・ハイインパクトの研究プログラムの構築です。これはか
つての「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)
」の後継の「革新的研究開発
推進プログラム(ImPACT)
」として予算化しました。ハイリスクだけれども、
うまくいけば社会に対する非常に大きな貢献が期待できるものです。これも内閣
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府が府省横断型でリードします。まずプログラムマネジャー
(以下
「PM」
)
を選び、
その人が産学官の研究者をまとめ上げるという仕組みをつくりました。PM は現
在 12 人選定され、その人たちが研究計画を立てて人を集め、チームをつくり上
げました。これもまさに動き出したところです。
― 2 年目の 2014 年度はどうだったのですか。
橋本 2014 年 6 月に日本再興戦略の改訂版が出ました。この改訂版を作る際に
話題となったのは、わが国は基礎研究が強いにもかかわらずイノベーションにう
まくつながっていない、また、産学官連携がうたわれて久しいが、その連携があ
まりスムーズにいっていないのでは、といったことでした。連携で期待されるの
は人の流れであったり、お金の流れであったり、知識の流れであったりするわけ
ですが、そこがうまくいっていない。この問題を解決するための主役として、産
業技術総合研究所、理化学研究所、物質材料研究機構などの公的研究機関に登場
してもらおう、ということになりました。
イノベーションの芽を出す役割は主にアカデミアに期待されています。また、
そこでの基礎研究成果を産業界が事業として展開するまでには長い道のりが必要
です。その共同作業(共同研究、価値創造)の場として、これらの公的研究機関
を明確に位置付けたのです。これが公的研究機関の橋渡し機能の強化です。
クロスアポイントメント制度を創設
― 具体的にはどうするのですか。
橋本 橋渡し機能強化に向け、さまざまな制度や仕組みを導入しました。その一
つは、優れた研究者が大学と公的研究機関の両方に身分を持つクロスアポイント
メント制度の創設です。例えば、
大学の教授が公的研究機関の研究者を兼ねます。
従来も、併任という形はあったのですが、今回のクロスアポイントメント制度で
は両機関と契約し、両方にオブリゲーション(義務)を持ちます。兼務の比率は
5 対 5 でもいいし 1 対 9 でも 9 対 1 でもいいのですけど、その比率に応じてそ
れぞれに義務が生じ、またお給料をもらうことになります。
期待しているのは次のようなことです。大学の教授が公的研究機関の研究者を
兼ね、研究機関にも研究室を設けます。そして、その大学の研究室に所属する大
学院生は、講義は大学で受けますが、研究はできる限り公的研究機関の研究室の
方で行ってもらうのです。そこに産業界からの研究者が参画すれば、企業と大学
と公的研究機関の研究者が同じところで研究を行うことになる。そうすると、そ
こで育った大学院生が企業に就職する機会が増えるだろうし、逆に産業界から来
ている人たちがそこで行った研究で学位を取るという道も容易となる。このよう
に人の流れと知識の流れ、さらにお金の流れまで誘導しようという狙いです。も
ちろん逆に公的研究機関の研究者が大学の教員を兼ねるということも想定してい
ます。その場合、当然その研究者の大学での研究室にも同じように大学院生が配
属されなければなりません。
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このようなクロスアポイントメント制度を 4 月から国の制度として導入します。
― 東大は 2013 年 4 月からクロスアポイントメント制度を導入して、独立行政法人、他
の国立大学、私立大学、海外の大学等の間で実績があります。
橋本 確かにこれまでもクロスアポイントメント制度はありました。しかし、こ
れはどちらか一方の組織とのみ雇用契約がなされており、他方は兼務、すなわち
お客さんなのですね。しかし、新たな制度では両方と雇用契約を結ぶこととなり
ます。しかも大学と公的研究機関の間だけではなくて、企業、海外の組織などと
も契約できるようになるのです。
大学の教授が 5 対 5 で企業の研究者を兼ねると、半分は民間の人になります
から、大学と企業の間が随分近くなりますね。大学の方からいうと、支払う給料
が半分になるので、残りの半分を、若い研究者を雇用するなどの研究インフラの
整備に使えることになります。
この制度をどのように使うのか、いろいろ知恵を絞っていただきたい。うまく
使ってぜひ産学官連携を進化させてもらいたい。大学もドラスチックに変われる
と思います。
イノベーションの視点からの改革
― 成長戦略の今後のテーマは何ですか。
橋本 今年の成長戦略は 6 月ごろに出ると思いますが、それに向けて現在、検
討を進めています。今回の最大のテーマはイノベーションの視点からの国立大学
改革です。産業界での研究開発は極めて目先の投資にならざるを得ない。産業界
の研究開発投資は、90%以上が 3 年から 5 年先の製品につながるようなテーマ
が対象という調査報告があります。
それに対して、イノベーションを創出するためには 10 年、20 年先、あるい
は 50 年先を見る必要があります。それぐらい先のための仕込みというのが重要
なのです。それは公的資金に支えられたアカデミア、特に国立大学に期待すると
ころが非常に大きいわけですね。貴重な税金を使うわけですから、イノベーショ
ンの芽が少しでも効率的に出てくるように、大学を変えていきましょう、という
のが現在検討されている国立大学改革の視点です。
― 大学にはいろいろな役割があります。
橋本 当然のことながら、イノベーションの芽を出すこと
だけが大学の役割ではありません。それはさまざまある大
学の役割の一つにすぎません。最も重要なのは人材育成で
しょう。もちろんイノベーション人材だけでなく、いろん
なタイプの人材です。また、文化の継承や人々の知的好奇
心に応えるなどさまざまな形で社会に貢献することも期待
されています。このように大学は極めて多様な役割を持っ
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ています。しかし、それを理解した上で、あえてイノベーションの一翼を担うと
いうことも重要な役割の一つと申し上げたいのです。経済再生に国を挙げて取り
組んでいるときに、その要請に応えていくことは主として税金によって運営され
ている国立大学にとって当然だと思います。またそれは国立大学の多様な存在意
義を一般に広く知らしめることにも役立つのではないでしょうか。
産、学、官ともに大学の現状に不満
― 大学改革の焦点は何ですか。
橋本 今、大学はいろいろな問題を抱えています。大学の外から、特に産業界か
らよく聞く不満は「グローバル化への乗り遅れ」
「ガラパゴス化」でしょうか。今、
世界の大学は大きく変革し、国際的に激しい人材獲得競争、研究開発競争が行わ
れています。日本の大学はその流れから取り残されているのではないか、と。ま
た、大学で行われている研究や教育と産業界の興味とのずれもよく指摘されます。
一方、大学人、特に執行部からは何よりも今問題なのは財政面である、との声
が強く聞こえます。運営費交付金がどんどん減らされ、その対応だけで手いっぱ
い、という悲鳴です。確かに国立大学法人化後、この 10 年間で約 10%、総額
1,300 億円ぐらいが削減されました。これは東大と京都大学が受け取る運営費交
付金の合計額にほぼ相当します。両大学は運営費交付金の多い上位 2 大学ですが、
金額の少ない方から数えると三十何大学だか四十何大学の合計に相当するそうで
す。しかも大学に交付される運営費交付金は、東大でもその 90%近くが人件費
に使われ、地方大学ではその割合が 120%にまで達しているところがあるそう
です。これではとても改革になど手を出せないと、大学執行部は途方に暮れてい
ます。大学をこれだけ痛めつけておきながら、イノベーションのために変われと
言ったって不可能だ、というわけです。国立大学協会も日本学術会議もまず基盤
的経費、すなわち運営費交付金を増やすことが先だと主張しています。
一方、国の立場でいうと、運営費交付金は確かに減額させてきたが、一方で競
争的資金は増額させたではないか、
ということになります。
確かに国立大学に入っ
てきた国費総額という観点で見ると、確かにここ 10 年間、少しずつですが増え
ているのです。国の財政がこれほど厳しい中、国立大学関係経費は社会保障関連
費と同じように特別扱いされてきたといえるでしょう。国の政策全体を議論する
ような会議に出ていると、これだけ国立大学は特別扱いしてきたのに、ただ運営
費交付金を増やしてほしいとは、何を言っているんだ、自分たちは身を切る努力
をしてきたのか、というような雰囲気があります。
― 産学官それぞれに言い分があるわけですね。
橋本 国の政策を担っている人たちも、産業界の人も、そして大学人自身も、み
んな現状に不満を持っているのです。これは極めて不幸なことです。大変な状況
だなというのが、私の現状認識です。ですから、今、国立大学改革は必須なのです。
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交付金と競争的資金を一体に考える
― そうした国立大学の資金についてはどう改革をしていくのですか。
橋本 ポイントは運営費交付金と競争的資金を一体に考えて改革をすると
いうことだと思います。現在国立大学に入っている運営費交付金は、年
間1兆 1 千億円弱です。一方、科研費や研究開発費などの競争的資金と
して大学に入っているのがざくっと言って 4 千億円で、合わせて1兆 5
千億円です。これを一体的に捉え、配分するのです。
― その時の課題は何ですか。
橋本 お金を増やして改革するというなら比較的簡単でしょうが、現在の財政状
況と大学に対する社会の厳しい視線の下ではそれは困難と思われます。そこで大
学への投資を増額することに意味があるとの社会的コンセンサスを得ることがで
きるまで、まずは総額一定の境界条件の下で改革する必要があります。これは大
変難しいことです。どんなに良い改革をしても、必ず痛みを伴う部分が出てくる
ことを意味していますから。
少し具体的に問題を考えてみましょう。これまで競争的資金が増えたといっても、
そのほとんどは研究者個人へ行っています。研究者は潤うけれども、その研究者が
所属する組織が使える資金が増えるわけではない。すなわち研究インフラの整備に
使えるわけではないのです。また、競争的資金は 3 年から 5 年の時限付きですから、
いつも期限に追われながら研究をすることになる。しかも同じテーマでは次の資金を
得ることは一般的に困難ですから、次々と研究テーマを変えていかなければならな
い。さらに、多額の資金を得ることのできる研究者は限られていて、そこに入らない
多くの研究者は資金が過度に集中していることへの不満を持つことになる。
これらを解決するために一つ検討していることがあります。それは競争的資金に
付随する間接経費の利用です。これをインフラの整備に充てる。すなわち、大学
執行部が一括して運用するのです。研究インフラの中には人件費も含みます。交
付金が減額されていく中で、若手研究者の雇用が、競争的資金の直接経費という
不安定な資金による雇用に変わってしまった。2 年から 5 年の短期雇用が急激に
増えてしまったのです。もし間接経費を大学の執行部がまとめて運用すれば、年
度により多少のでこぼこはあるにせよ、ある程度の定常的な額は見込める。それ
を使って交付金雇用と同じような安定的な若手雇用ポストを作るなどするのです。
ある資金が切れて次の資金が取れるまでのつなぎ研究資金として融資するといっ
た使い方も有効でしょう。もちろんそれ以外の研究インフラ整備も当然ですし、あ
るいは競争的資金が全く取れないような分野への投資も行うべきです。これこそ
がガバナンス強化でしょう。現在、間接経費は競争的資金の種類によって異なり、
30%とか 10%、中には認めていないものも多くあります。すべての競争的資金に
間接経費を付け、さらに執行部のガバナンス強化経費として使用すべきです。
しかし、これは簡単ではないのです。総額を変えないで間接経費を増額すると
いうことは、直接経費を減らすということを意味します。研究者から、しかも多
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額の研究費を得ている有力研究者から猛烈な反対の声が出ることが予想されま
す。研究の遅れをとってよいのか、と。しかし、考えてください。その減った研
究費は、インフラ整備に使われるのです。回り回って、必ず研究成果につながる
はずです。また競争的資金が取れないような分野を援助することもアカデミアに
は重要な任務のはずです。ぜひとも理解いただきたいと思っています。
― 競争的資金といってもさまざまなものがあります。
橋本 ここまでは主として文科省資金を念頭において話してきました。これは、
まずは文科省の中で最適化をやらないといけないと思うからです。しかし、競争
的資金の一部で研究インフラを支えるというのは、文科省資金に限らず、経産省
や厚生労働省、内閣府など他の府省の研究資金でも、その研究を国立大学を場と
して行うのであれば、当然だと思います。また、ここでは国立大学改革の流れで
話してきましたから、大学の研究インフラと言ってきましたが、この状況は公的
研究機関でも同様のはずです。他の府省にも理解を求めていくことになります。
さらに言えば企業との共同研究費や財団の助成金なども同様です。ぜひコンセン
サスを得たいと思っています。
米国では 1980 年代に大学改革
― 国立大学改革というのは大きなテーマです。展望は? 橋本 慶応義塾大学の上山隆大教授によれば、1970 年代後半のアメリカの大学
は今の日本の国立大学と同じような課題を抱えていたそうです。すなわち 77 年
に、当時のハーバード大学学長のデレック・ボック氏がアメリカの大学、研究者
の現状について次のように嘆いています。
「研究者は多くの研究資金申請に追わ
れている」
「極度に詳細なプロジェクト/変更への行政当局からの承認が必要」
「研
究事務の仕事が研究者の時間の 20%以上を奪っている」
「ターゲットが狭く明確
なプロジェクトしか選別されない」
「研究環境の悪化が若い研究者をアカデミッ
クから遠ざけている」──などと。
どうです。今の日本と同じでしょう。
― 日本の大学、研究者を取り巻く環境の課題とされていることと本当にそっくりですね。
橋本 80 年代にアメリカは、危機感を持って必死に大学改革をやった。その結
果が、世界最高の圧倒的な競争力のある現在の大学になったのですね。ですから、
私はそれに今すごく力づけられているのです。
本当に落ち込んでどうしようもなかったときに、アメリカの大学は危機を乗り
越えようと必死に取り組み、血を見る改革を成し遂げているのです。
日本の国立大学も、今、歴史的な試練を受けているのでしょう。ここを乗り切
れるかどうか。今度の改革は試金石じゃないかと思います。
― ありがとうございました。
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産学連携に関する平成 27 年度予算
特 集1
特集
文部科学省
科学技術イノベーションの推進に向けて
─産学官連携施策および地域科学技術の振興─
文部科学省では、科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革に係る
取り組みとして、主に以下のような取り組みを実施する。
文部科学省
科学技術・学術政策局
産業連携・地域支援課
■イノベーション・スーパーブリッジ
大学発ベンチャーは、大学に潜在する研究成果を掘り起こし、新規性の高い製
品を生み出すことで新市場を創出する「イノベーションの担い手」として期待さ
れている。一方で販路の開拓、事業の核となる知的財産の取り扱い、資金調達等
に関して潜在的な問題を抱えており、特に近年その設立数は非常に低調である。
市場を開拓し、イノベーションを実現する、強い大学発ベンチャーの創出を加
速させるためには、知財の集約・強化、創業前の段階からの経営人材との連携や、
起業に挑戦し、イノベーションを起こす人材の育成がそれぞれ重要である。文部
科学省では、基本特許を新産業の創出につなげるこれらの取り組みを「イノベー
ション・スーパーブリッジ」と名付け、一体的に推進している。
強い大学発ベンチャーの創出加速(イノベーション・スーパーブリッジ)
大学発ベンチャーが抱える課題
平成27年度予定額
:5,693百万円
(平成26年度予算額
:6,358百万円)
※運営費交付金中の推計額含む
強い大学発ベンチャーの創出を加速させるためには、知財の集約・
強化、創業前段階からの経営人材との連携や、起業に挑戦し、イノ
ベーションを起こす人材の育成がそれぞれ重要であり、研究成果を
新産業の創出につなげるこれらの取組を一体的に推進していく。
◆事業の核となる知財戦略の不足
◆ベンチャーの成長を支える事業化支援人材の不足
◆起業に挑戦する人材の不足
大学発新産業創出プログラム(START)【H27予定額:2,290百万円】
大学発新産業創出拠点プロジェクト【2,878百万円】
ベンチャー起業
創業前の段階から、大学の革新的技術の研究開発支援と、民間の事業化ノウハウを
もった人材による事業育成を一体的に実施し、新産業・新規市場のための大学発日
本型イノベーションモデルを構築。またシーズ発掘のための場を設置。
新市場を開拓する
「強い」大学発
ベンチャーの創出
大学発ベンチャー
を支えるエコ
システムの創生
PBLを中心としたイノベーション創出人材の育成
グローバルアントレプレナー育成促進事業
(EDGEプログラム)【H27予定額:865百万円】
海外機関や企業等と連携し、起業に挑戦する人
材や産業界でイノベーションを起こす人材の育
成プログラムを開発・実施する大学等を支援し、
イノベーション・エコシステムの創生を目指す
知財活用支援事業【H27予定額:2,538百万円】
特許群化やパッケージ化を進めることで活用が見込まれる国策上重要な特
許をJSTが発掘し、集約・強化することにより活用の促進を図る
施策連携:「プログラム・マネージャー(PM)の育成・活躍推進プログラム」
⇒ イノベーション・エコシステムの創生に向けて、イノベーション創出人材の育成と流動化の観点から連携
強い大学発ベンチャーの創出加速(イノベーション・スーパーブリッジ)
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具体的には、(1)特許群化やパッケージ化を進めることで活用が見込まれる
国策上重要な特許を発掘し、
集約・強化することにより、
特許の活用促進を図る
「知
財活用支援事業」
、
(2)創業前の段階から、大学の革新的技術の研究開発支援と、
事業化ノウハウをもった経営人材による事業育成を一体的に実施する「大学発新
産業創出プログラム〔START(スタート)
〕
」
、
(3)起業に挑戦する人材や産業
界でイノベーションを起こす人材の育成プログラムを開発・実施する大学等を支
援し、イノベーション・エコシステムの創生を目指す「グローバルアントレプレ
ナー育成促進事業〔EDGE(エッジ)プログラム〕
」
、
等の取り組みを実施している。
今後も積極的に大学発ベンチャーを取り巻く環境を整備し、イノベーションを
実現する強い大学発ベンチャーの創出を促していく。
■我が国の研究開発力を駆動力とした地方創生
地域の特性を生かした科学技術イノベーションの推進は、地域産業の高付加価
値化や新産業・雇用創出につながることから、極めて重要である。
文部科学省では、
これまでも「地域イノベーション戦略支援プログラム」など、
地域の発展ビジョンと主体性を重視した施策を通じて、地域イノベーションの創
出を支援してきた。
平成 27 年度においては、昨年末に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生
総合戦略」を踏まえつつ、我が国の研究開発力を駆動力とした地方創生に貢献す
るための新規事業を開始する予定である。
我が国の研究開発力を駆動力とした地方創生イニシアティブ
平成27年度予定額 : 2,620百万円(新規)
※運営費交付金中の推計額
 地方の創生と人口減少克服には、地域が現在抱える課題の解決・ビジョンの実現が必要。
 ビジョンの実現に向けた研究開発を行うとともに、マッチングプランナーなどを活用し、大学等の技
術シーズを基に地域から世界で戦える技術・産業を創出する。
マッチングプランナープログラム
マッチングできる!?
地域企業の困り事
大学での研究
マッチング
プランナー
個別から共創へ
個別に育成したシーズの
うち他とのシナジーが
見込めるものを取り込む。
世界に誇る地域発研究開発・実証拠点
(リサーチコンプレックス)推進プログラム
地域の将来ビジョンに基づき、地方自治体、技術
シーズを有する大学・研究機関、企業が結集して
拠点を形成
一体的に推進
共同研究・課題解決へ
・地域企業のニーズのくみ取り
・JSTのネットワークでニーズを解決し得るシーズを全国の
大学等を探索
・これらのマッチング&研究支援
・大学等の技術シーズや研究を活用した、商品開発等に
係る共同研究から事業化のサポート
スピンオフ
副産物的成果のうち
見込みのあるものを
個別育成。
【地域の課題の解決】
企業
大学等
研究機関
地 域
・成果の社会実装・地域産業の発展についてのビジョン
を基に、バックキャスティング手法※により、必要な要素
技術を特定。
・地域内外の研究開発力を拠点に統合し、研究開発→
実証→実用化へつなげる。
※バックキャスティング:あるべき将来の状態を設定し、そこから
逆算して現時点で必要となる技術を特定する手法
【ビジョンの実現】
我が国の研究開発力を駆動力とした地方創生イニシアティブ
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特集
新規事業の「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)
推進プログラム」では、地域の将来ビジョンに基づき、先端研究設備等優位性の
ある研究開発資源を核に、地方自治体、技術シーズを有する大学・研究機関、企
業が結集し、人材や技術等が組織を越えて統合的に運営されるプラットホームの
形成を通じて、
国内外から新たなパートナーや投資等を呼び込むイノベーション・
エコシステムの実現を目指す。
また、
「マッチングプランナープログラム」においては、
科学技術振興機構(JST)
の目利き人材(マッチングプランナー)が、
地域企業のニーズを探索し、
当該ニー
ズを解決するのに最適な技術シーズを JST のネットワークなどを活用して、全
国の大学等から見つけ出し、産学の最適マッチング、共同研究を支援する。これ
らの取り組みにより、
日本の産業競争力強化に貢献する、
新たな科学技術イノベー
ションの創出につなげていく。
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Vol.11 No.3 2015
産学官3月号.indb
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特 集1
産学連携に関する平成 27 年度予算
農林水産省
知の集積による産学連携強化に向けた
新たな仕組みづくり
農林水産省では、民間企業、大学、独立行政法人、公設試験研究機関(以下「公
設試」)等と協力し、基礎から実用化まで継ぎ目なく研究開発を推進する「農林
水産業・食品産業科学技術研究推進事業」を実施している。
農林水産省
農林水産技術会議事務局
研究推進課 産学連携室
この他、農林水産業・食品産業の成長産業化のため、平成 26 年度補正予算お
よび平成 27 年度予算において、民間活力を生かしつつ、現場の実態を踏まえた
研究開発を強力に支援することとしている。特に、ロボットやメタボローム解析
の革新的技術を開発する研究を強化する。
農林水産省の研究開発資金制度の仕組み
実証ステージ・事業化
研究開発ステージ
基礎段階
実用化段階
応用段階
農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(競争的資金)
(平成27年度5,238百万円)
農林水産・食品分野における産学連携による研究開発を基礎から実用化段階まで継ぎ目なく支援。
発展融合ステージ
実用技術開発ステージ
【一般型】
【産学機関結集型】
【現場ニーズ対応型】
【重要施策対応型】
【重要施策対応型】
シーズ創出ステージ
【重要施策対応型】
【育種対応型】
実証段階
(産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)
産学官の英知を活かした新品種・新技術等を導
入し、コスト低減・所得増大を実現するため、先
端技術を経営体レベルで実証する研究を実施し普
及を促進。
独法(農研機構等)・
大学・民間企業
○生産現場強化のための研究開発(2,486百万円)
(新規課題)
・農業の収益力向上に向けた技術開発(900百万円)
・生産・流通システムの革新に向けた技術開発(469百万円)
・異常気象による被害を回避・軽減する技術開発(585百万円)
※研究戦略を作成し、これに基づき研究開発を推進
○需要フロンティア拡大のための研究開発(220百万円)
○バリューチェーン構築のための研究開発(1,915百万円)
普及を担う組織
研究グループ・
協力体制の構築
委託プロジェクト研究(平成27年度5,377百万円)
農林水産政策上の必要性に基づき、農林水産省自らが研究課題を企画・推進。
事業化段階
農林水産業の革新的技術
緊急展開事業
(平成26年度補正1,400百万円)
都道府県等公設試
農業者等
(主な内容)
・畜産飼養管理技術体系の確立(400百万円)
・マグロ養殖システム、機能性成分安定化技術等の確立
・メタボローム解析研究拠点の形成(600百万円)
農林水産業におけるロボット技術
開発実証事業(研究開発)
(平成26年度補正1,150百万円)
ロボット技術の農林水産業・食品産業現場への適用
に向けた研究開発を推進。
革新的技術創造促進事業(平成27年度1,050百万円)
事業化促進研究
異分野融合研究
医療や工学などの異分野の産学との共同研究を推進。
生産現場や民間のニーズに基づく、民間企業等の事
業化に向けた研究開発を推進。
農林水産省の研究開発資金制度の仕組み
■農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業
(
平成 27 年度概算決定額:52 億円)
目 的:農林水産・食品産業における研究開発を提案公募方式により基礎段階
から応用段階まで継ぎ目なく支援。平成 27 年度予算では、府省連携
の取り組みを拡充
実施主体:大学、独立行政法人、民間企業、公設試の研究者から構成される研究
グループ
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特集
■事業化促進研究
(平成 27 年度概算決定額:11 億円の内数)
目 的:民間活力を用いた革新的な技術の早期実現化
のための返還義務のある研究を支援
知の集積による産学連携推進事業
○
農林水産・食品産業にイノベーションを起こし、商品化・事業化を促進する
ため、企業、大学等による「知の集積」を通じた技術革新の仕組みを検討。
○ 「知の集積」による産学連携の強化に向けた仕組みの検討や、コーディネー
ターを活用した「橋渡し」機能の強化を実施。
オランダ・フードバレー
実施主体:民間企業等
集積、連携
公募期間:平成 27 年 4 月以降
返済要件:研 究費を成功時に 100%、不成功時に 10%
を研究終了後、5 ~ 10 年間で返還
フードバレーの構築により、
・自動環境制御型の園芸用
ガラスハウス開発
・トマト等の園芸品種開発
・新たな機能性食品の開発
1,500以上の
企業、研究機関等が
我が国においてもイノベーションが必要
知の集積による
産学連携推進事業
「知の集積」による産学連携の強化に向けた新たな仕組み
(イメージ:調査事業により具体化)
(H27年度)
研究プラットフォームA
攻めの農林⽔産業を⽀える
知の集積調査推進事業【新規】
■知の集積による産学連携推進事業
(平成27年度概算決定額:2 億円)
目 的:コーディネーターを全国に配置し、生産現場
(1)現状把握・分析
・国内外の市場性調査・事例調査
(2)基本構想の検討
・知の集積の場で行うべき研究
テーマ
・効果的な連携調整方法
・知の集積の運営体制
等
事業化を加速する
産学連携⽀援事業
把握するとともに、民間企業、独立行政法人、
コーディネーターを全国に配置
し、事業化ニーズに対応した研究
開発とその事業化を支援。
更なる強化に向けた新たな仕組みの検討や民
事業化に直結する
食品産業
農家・
生産組織
産学連携の更なる強化に向けた 新
仕組みを民間企業・生産者等の関 た
な
係者と一体となって調査・検討
や民間ニーズ、
研究機関の技術シーズを収集・
大学等が持つ「知」を結集させた産学連携の
世界有数の
農産物輸出国へ
流通業界
新たな
技術・アイデア
コーディネーター
県、
普及組織
産
学
連
携
の
仕
組
み
成果
派生した
技術・アイデア
研究開発組織
(独法・公設試)
メカトロニクス産業
コーディネーターと連携し、民間ニーズ、
研究シーズ、最新の研究開発情報の集積、橋渡し
研究プラットフォームB
食品産業
農家・
派生した 生産組織
技術・アイデア
事業化に直結する
成果
県、
普及組織
流通業界
新たな
技術・アイデア
コーディネーター
メカトロニクス産業
研究開発組織
(独法・公設試)
知の集積により課題解決に向けた議論から生まれる
技術・アイデアが新たな技術・アイデアとして派生
し、次々と新たな成果を生み出す機能
次々に生まれる事業化・商品化を目指した
革新的な研究成果
間企業等の市場性調査を実施
世界市場を見据えた
日本の食と農の産業競争力強化
実施主体:民間団体等
公募期間:平成 27 年 3 月以降
知の集積による産学連携推進事業
■農林水産業の革新的技術緊急展開事業
1.産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立(平成 26 年度補正予算額:8 億円)
目 的:農林水産業の活力創造を図るため、民間企業、大学、独立行政法人な
どの英知を結集し、革新的な技術体系を導入した実証研究を推進
2.技術革新を加速化する最先端分析技術の応用
(平成 26 年度補正予算額:6 億円)
目 的:最先端の解析機器を導入したメタボローム解析、分析データのデータ
ベース化およびバイオインフォマティックスの人材育成を行い、メタ
ボローム解析の農林水産分野・食品分野における応用研究を推進
■農林水産業におけるロボット技術開発実証事業(うち研究開発分)
平成 26 年度補正予算額:11.5 億円)
(
目 的:ロボット技術の農林水産業・食品産業現場への適用や実用化に向けた
ロボット工学など異分野との連携による研究開発を支援
※上記の事業で公募期間が終了しているものは事業主体、公募期間を明示してい
ない。
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12:01:41
特 集1
産学連携に関する平成 27 年度予算
経済産業省
産学官連携の強化によるイノベーション推進
平成 27 年度経済産業省関連予算案では、
「イノベーション促進」を重点分野に
位置づけ、イノベーションが次々と生まれる国を目指し、研究機関の機能強化や
制度面の環境整備、重点分野に対する支援、人材育成等、わが国のイノベーショ
経済産業省
産業技術環境局
大学連携推進室
ンシステムの改革を総合的に進めていくこととしている。
大学連携推進室では、以下の事業を通じて、産学官の連携の強化による「イノ
ベーションの推進」に取り組む。
■中長期研究人材交流システム構築事業
(平成 27 年度予算案:0.6 億円)
高度な専門性のみならず、広い社会的視野やプロジェクト管理等の実践的能力
を持った高度理系人材の育成と産学間の人材流動化によるイノベーションの創出
を目指し、理系修士課程・博士課程在籍者等を対象にした企業の研究現場におけ
る中長期(2 カ月以上)の研究インターンシップの枠組み構築を支援する。
事業イメージ
中⻑期研究人材交流システム構築事業(2/3補助)
産学コンソーシアム等
研究テーマ提案
企業
マッチング
システム
大学
○研究テーマ、企業側ニーズの集約
○雇用契約、秘密保持契約等の雛形の作成・共有
企業
業界団体
大学
大学
研究テーマに応じた研究人材等の受入
企業
イノベーション創出人材の育成
産学連携・
人材流動化の促進
■シーズ活用研究開発事業
(平成27年度予算案:革新的ものづくり産業創出連携促進事業〔128.7億円〕の内数)
中小企業・小規模事業者と大学等とのライセンスを加速するため、新事業につ
ながる技術開発を支援する。
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特 集1
産学連携に関する平成 27 年度予算
特集
環境省
環境研究・環境技術開発の
一層の推進に向けた取り組みについて
■環境省の科学技術関係予算
東日本大震災から4年がたち、被災地は復興に向けた歩みを進めているが、原
環境省
総合環境政策局 総務課
環境研究技術室
発事故に伴って放出された放射性物質に汚染された地域があり、ふるさとから避
図1
難されている方々や放射線への不安を抱えておら
れる方々が今なお大勢いらっしゃる。住民の皆様
環境省 平成27年度科学技術関係予算案の概要
が安全に安心して生活できる姿へ地域を戻すこと
単位(億円)
を最優先に、復興に全力で取り組む。
平成 27 年度においては、東日本大震災からの
復興、新たな時代の循環共生型の地域社会の構築、
26年度
当初予算
26年度
補正予算
27年度
予算案
総額
635
32
622
1.科学技術振興費
250
16
240
16
230
(1)一般会計
わが国の実績ある環境政策・環境技術の海外需要
239
①競争的研究資金
54
53
を捉えた国際展開、オリンピック・パラリンピッ
②地球環境保全等に係る試験研究費
(一括計上予算)
3
3
ク東京大会に向けた取り組み、という四つの大き
③環境政策基盤の整備
(①②を除く調査、研究開発等)
な柱で、持続可能な社会づくりに向けた各種の施
策を展開することとしている。
環境省(原子力規制庁分を含む)における平成
27 年度科学技術関係予算案については、総額約
④科学技術関係機関の充実
(国立環境研究所運営費交付金等)
56
4
47
126
2
127
8
・衛星観測経費(GOSAT)
・子どもの健康と環境に関する全国調査
(エコチル調査)
(2)復興特別会計
10
17
10
19
11
0
10
201
0
195
622 億円となっている。震災対応に係る研究開
2.その他の科学技術関係費
発についての予算(復興庁一括計上分)は若干減
(1)一般会計
32
33
(2)復興特別会計
33
12
少しているが、地球温暖化対策技術の開発に係る
予算などは増額となっている(図1)
。
環境研究・環境技術開発に関しては、
「環境研究・
環境技術開発の推進戦略について」(平成 22 年
(3)エネルギー対策特別会計
136
3.原子力規制庁分
185
150
16
187
図 1 環境省 平成 27 年度科学技術関係予算案の概要
6 月中央環境審議会答申)において、脱温暖化・循環・自然共生・安全の各領域
について向こう 5 年間で重点的に取り組むべき課題に加え、全領域に共通する
重点課題や領域横断的な重点課題を設定し、技術・システムの社会実装によるイ
ノベーションの推進を目指して進めてきたところである(図 2)
。平成 26 年 11
月には、同戦略についての総括的なフォローアップ結果を公表した。この結果等
を踏まえて、中央環境審議会総合政策部会環境研究・技術開発推進戦略専門委員
会において新たな環境研究・技術開発の方向性に関する検討を進め、平成 27 年
夏頃をめどに取りまとめを行うこととしている。
■環境技術実証事業
環境省は環境技術の社会への適用を一層進める観点から、環境技術実証事業を
実施している。
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重点課題の考え方
「環境研究・環境技術開発の推進戦略について」
(平成22年6月中央環境審議会答申)より
①全領域共通分野の創設による各研究領域へのあるべき社会像の明示
②領域横断分野の創設による課題解決
③技術・システムの社会実装によるイノベーション
Ⅱ.領域横断
【重点課題4】複数領域に同時に寄与するWin-Win型の研究開発
【重点課題5】複数領域間のトレードオフを解消する研究開発
【重点課題6】環境要因による社会への影響と適応
(例)コベネフィット型技術・システムの開発
(例)温暖化対策製品の3R技術の開発
(例)気候変動等による生態系への影響の解明
Ⅲ.個別領域
脱温暖化
循環
Ⅱ.領域横断
【重点課題7】低炭素で気候変動に柔軟に対応するシナリオ
づくり
【重点課題8】エネルギー需要分野での低炭素化技術の推進
【重点課題9】エネルギー供給システムの低炭素化技術の推進
【重点課題10】地球温暖化現象の解明と適応策
【重点課題11】3R・適正処理の徹底
【重点課題12】熱回収効率の高度化
【重点課題13】レアメタル等の回収・リサイクルシステム
の構築
Ⅰ.全領域共通
Ⅱ.領域横断
【重点課題1】長期的な国家ビジョンの中でのあるべき社会(持続可能社会)に係る研究
【重点課題2】持続可能社会への転換に係る研究
【重点課題3】アジア地域を始めとした国際的課題への対応
【重点課題14】生物多様性の確保
【重点課題15】国土・水・自然資源の持続的な保全と利用
Ⅱ.領域横断
Ⅱ.領域横断
【重点課題16】化学物質等の未解明なリスク・脆弱性を
考慮したリスクの評価・管理
【重点課題17】健全な水・大気の循環
自然共生
安全
図 2 「環境研究・環境開発の推進戦略について」で示された重点課題の考え方
本事業は、既に適用段階にあるものの、環境保全効果等についての客観的な評
価が行われていないがために、地方公共団体、企業、消費者等のエンドユーザー
への普及が進んでいない先進的環境技術に対し、その環境保全効果等を第三者機
関が客観的に実証することにより、ベンチャー企業等が開発した先進的環境技術
の普及を促進し、環境保全と地域の環境産業の発展による経済活性化を企図する
ものである。平成 25 年度末までに 556 の技術が実証されている。
実証の流れは、対象技術の実証を希望する開発者等の申請に基づき、信頼でき
る第三者機関の下、学識経験者、ユーザー等を構成する専門家による会
合において、実証方法・評価項目が選定され、これに沿って、環境保全
の効果、維持・管理に係るコスト・労力等の調査を含めて、実証試験が
実施される。また、この会合では、実証上の技術的なアドバイス等のサ
ポートも実施しており、これは、開発者の技術開発にも寄与している。
実証された技術に対し、実証番号および環境技術実証事業ロゴマーク
(図 3)を交付するとともに、実証試験結果報告書を環境省の環境技術事
図 3 環境技術実証事業ロゴマーク
業のウェブサイト*1で公表することで、実証技術の普及を図っている。
平成 25 年度から中小水力発電技術、平成 26 年度から昼光導入装置(天窓等)
の実証試験を開始している。今後も環境技術のより一層の普及に向けた活動を実
*1
http://www.env.go.jp/policy/
etv/
施していく。
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特 集1
産学連携に関する平成 27 年度予算
特集
科学技術振興機構
産学連携事業の取り組みについて
独立行政法人科学技術振興機構(以下「JST」
)の産学連携事業には(1)大
独立行政法人科学技術振興
機構 産学連携展開部
学等と企業との連携を通じて、
大学等の研究成果の実用化を促進し、
イノベーショ
ンの創出を目指す競争的資金である「研究成果展開事業」
(2)大学等特許の海
外出願支援や、その事業活用促進などの各種施策により、大学等の研究成果の技
術移転活動や知的財産活動に対する専門的な支援を実施する
「知財活用支援事業」
等の事業がある。ここでは、
平成 27 年度における JST の主な取り組みを紹介する。
■研究成果展開事業
研究成果展開事業では、大学等の研究成果の実用化を促進し、イノベーション
の創出を目指すため、特定企業と特定大学(研究者)による知的財産を活用した
研究開発、および複数の大学等研究者と産業界によるプラットホームを活用した
研究開発を実施している。
平成 27 年度は、
従来の取り組みに加え、
研究成果最適支援プログラム
(A-STEP)
において、戦略的な課題育成の観点から、JST 戦略創造事業等の成果を基にテー
マを設定した研究開発を実施する「戦略テーマ重点タイプ」および産業界に共通
する技術課題解決のための基盤的研究開発を実施する「産業基盤創成タイプ」を
新設する。
また、地域の抱える課題の解決・ビジョンの実現に向け、①地域企業の課題・
ニーズを発掘し、全国各地の大学等の技術シーズとの最適なマッチングを図り、
実用化に向けたサポートを行う
専門人材を配置することによ
り、共同研究から事業化に至る
展開を支援する「マッチングプ
ランナープログラム」
②地域
の将来ビジョンに基づき、地方
自治体、技術シーズを有する地
域内外の大学・研究機関、企業
が結集して拠点を形成し、研究
開発から実用化につなげる「地
域発研究開発・実証拠点
(リサー
チコンプレックス)
プログラム」
を新たに開始する。
さらに、平成 24 年度より文
部科学省において実施してきた、
大学の革新的技術の研究開発支
研究成果展開事業
概要
大学等における有望な技術シーズの発掘から事業化に至るまでの研究開発段階や分野に応じ、最適な支援タイプの組み合わせによる中長期的な研究
開発、大学発ベンチャーの育成支援、地域の優位性ある研究開発資源の統合的運用や地域内外の研究資源を集積した産学官連携プラットフォームの
形成、最先端かつ独創的な研究開発成果の創出に資する先端計測分析技術・機器の開発等を推進する。
大学等と企業との連携による
成果展開
大学等の研究成果
イノベーション
大学等と企業との連携を通じて、大学等の研究成果の実用化を促進し、イノベーションの創出を目指す。
研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)
知的財産を活用した産学による共同研究開発
産学連携活動の基盤となる技術移転プログラム。課題や研究分野の特性に応じた最適なファンディングを設定し、研究開発ステージに応じシームレスに支援。
マッチングプランナープログラム 【新規】
マッチングプランナーを介した企業ニーズ解決による地域科学技術イノベーション創出
JSTのネットワークを活用して地域の企業ニーズと全国の大学等発シーズとをマッチングプランナーが結びつけ、共同研究から事業化に係る取組を支援。
大学発新産業創出プログラム(START)【文科省から移管】
民間の事業化ノウハウを活用した起業前段階からの事業化支援
民間の事業化ノウハウを活用し、大学発ベンチャーの起業前段階から、市場や出口を見据えた研究開発・事業育成による事業化を支援。
センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム
ビジョン主導型のチャレンジング・ハイリスクな研究開発
10年後を見通した革新的な研究開発課題について基礎研究段階から実用化を目指した産学連携によるアンダーワンルーフでの研究開発を集中的に支援。
世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム【新規】
地域内外の研究資源を集積した産学官連携
プラットフォームの形成
地域の優位性ある研究開発資源(人材、シーズ、先端研究設備等)を組織を超えて統合的に運用するとともに、地域外の優れた資源も取り込み、革新的技術
シーズの創出と関連分野の優れた若手人材の育成を行う産学官連携のプラットフォームを形成。
先端計測分析技術・機器開発プログラム
ユーザーニーズを踏まえた計測分析技術・機器・システムの開発
最先端計測分析機器開発に向けた、産学連携での要素技術・先端機器開発を推進。震災からの復興・再生に貢献する放射線計測分析機器開発の実用化を
支援。
図 1 研究成果展開事業
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援と民間の事業化ノウハウをもった人材による事業育成を一体的に実施し、大学
発ベンチャーの創出等により新産業・新規市場のための日本型イノベーションモ
デルを構築する「大学発新産業創出拠点プログラム」を JST に移管して実施する。
■知財活用支援事業
知財活用支援事業は、大学等の海外特許出願関連経費の支援や産学マッチング
の場の提供等、大学等の研究成果の権利化から企業への技術移転に至るまでの知
的財産活動に対する専門的な支
援を実施している。
本事業においては、大学等単
独では活用へのハードルが高い
が、特許群化やパッケージ化を
進めることで活用が見込まれる
国策上重要な特許を JST が発
知財活用支援事業
現 状 認 識 ・ 課 題
大学等に散在する知的財産や死蔵されている知的財産の戦略的な集約・パッケージ化等による、知財活用促進の必要性(科学技術イノベーション総
合戦略)、 研究開発の成果を死蔵・休眠させることなく積極的に有効活用することの必要性(「日本再興戦略」改訂2014)
重要知財集約活用制度
大学等単独では活用へのハードルが高いが、特許群化やパッケージ化を進めることで活用が見込まれる国策上重要な特許を、(独)科学技術振興機構
(JST)が発掘し、集約・一元管理することにより活用促進(重要知財集約)。また、事業化のためには周辺特許を取得する必要があると判断し
た場合、新たに研究開発費を投入することで当該知財の価値を高めることも実施(スーパーハイウェイ)。
各大学等に散在しており、有効活用出
来ていない知財(活用率約3割未満)
掘し、集約・一元管理すること
A大学等
重要知財集約(譲受)
スーパーハイウェイ
知財活用
市場の視点から散在している
知財を集約
知財の価値を高めるよう研究
開発を実施し、権利を強化
ライセンスや現物出資等有
効な手段を選択して活用
B大学等
により活用促進を図る「重要知
世界で活用促進
財集約活用」を平成 26 年度よ
り開始した。本制度では、事業
化のために周辺特許を取得する
必要があると判断した場合、新
たに研究開発費を投入すること
で当該知財の価値を高める取り
組みも実施する。
知
財
F
S
型
大学等の保有特許について、外国特許取得に向けた出願支援や、評価や助言、特許相談等の支援を行
う制度。
・大学等が保有する方が将来的に芽が出る可能性の高い重要な特許について、大学保有のまま外国
特許出願関連経費を支援。
・特許主任調査員が、大学等に対して必要に応じて権利強化のために助言。
大学等
技術移転のための環境整備等
・技術移転目利き人材育成(大学等の技術移転従事者への研修会開催)
・研究成果展開推進、技術移転等促進等(大学見本市、新技術説明会等)
図 2 知財活用支援事業
また、知財フィージビリティ・スタディ(FS)型として、大学等の保有特許
について、外国特許取得に向けた出願支援や、評価や助言、特許相談等の支援も
継続する。
大学見本市「イノベーション・ジャパン」や新技術説明会についても、必要な
見直しを行いつつ、より一層の充実を図る。
これらの取り組みに加え、平成 27 年度より、研究開発法人を中核として産学
官の垣根を越えた人材糾合の場(イノベーションハブ)を構築するため、研究開
発法人の飛躍性ある優れた取り組みを選択的に支援・推進する取り組みを新たに
開始する。また、東日本大震災の被災地域発の科学技術イノベーション創出に貢
献するため、JST 復興促進センターにおいて、マッチングプランナーを活用した
被災地企業の産学連携支援等の取り組みを継続する。
さらに、JST の研究開発成果を事業活動において活用しようとする大学等発
ベンチャー等に対し、金銭出資および JST が保有する知的財産権、設備等の現
物出資を行う「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)
」を平成 26 年 4
月より開始したところである。
なお、平成 27 年度に関する記述は、平成 27 年度政府予算の成立を前提とし
ており、予算の成立状況によっては事業内容や実施内容を変更する場合がある。
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特 集2
未来のふるさとを紡ぐ─研究者が向き合う大震災被災地─
特集
身体表現で“自分である”実感取り戻す
―コトの復興としての居場所づくり―
大学の研究者らが宮城県石巻や東松島を月1回訪問し、東日本大震災で被災した
子どもや家族と共に、手合わせ表現を中心にした身体表現のワークショップを開催
している。手合わせ表現とは、向かい合った2人が手のひらと手のひらを直接触れ
合わせながら、身体全体を使って互いに思いを伝え合い、一緒に表現をつくってい
くこと。それによって、つながっている感覚、生き生き感が創出されるという。
(聞き手:本誌編集長 登坂和洋)
― 三輪先生は共存在の科学技術に関する研究をなさってきたとのことですが、共存在と
は何ですか、また、その科学技術とはどういうことですか。
三輪 共存在とは生きとし生けるものがつながりあいながら、共にあるというこ
三輪 敬之
みわ よしゆき
早稲田大学 創造理工学部
総合機械工学科 教授
とです。その科学技術とは、一口にいえば、これまでのように個と世界を分けて
考えるのではなく、分けない論理によってデザインしていこうとするものです。
例えば、「家族」それぞれが一緒に暮らしていくには、
「家庭」という場の働きが
必要になりますね。
「家庭」があって「家族」があるわけで、それらを分けるこ
とはできません。今、
被災地では、
モノの復興と並んで、
共に生きていくという
“コ
ト”の復興が強く求められています。そこで必要とされるのが共存在の科学技術
です。私がこれまで取り組んできた研究のテーマでいうと、場を伝え合うコミュ
ニケーション、共創表現メディア技術、植物のコミュニケーション、などです。
― 場を伝え合うコミュニケーションというのは何となく分かりますが、植物のコミュニ
ケーションの研究というのもあるのですね。
三輪 植物も人間も共存在ということでは変わりがないですから(笑)。 15 年ほ
ど前まで、植物の情報システム論的研究をしていました。自分で自分の形をつくっ
ていく植物の形態形成や環境応答、 森の樹木群における集団形成のダイナミク
スなど、それらには場の働きが存在するに違いないと考えてのことです。
― 興味深いですね。現在のテーマは共創と身体表現とのことですが、共創とは何ですか。
三輪 共創については、20 年余り前から取り組んでいます。共創は、一口でい
うと、背景や価値観の異なる多様な人々が夢や思いを形にしていく集団的な創造
活動です。英語では co-creation です。似たような言葉に collaboration があ
りますが、これは、目的があらかじめ設定されており、私とあなたが役割分担し
て共同作業するというものです。共創の場合に大事なポイントは、
「私」から「私
たち」といった共存在感が生まれ、
そこから「私たち」の表現、
さらには「私たち」
のドラマが持続的に創出されていくということです。もともと、共創はわが国に
おける自動車とか電機などの創造的なモノづくりの現場から出てきた言葉です。
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― 身体表現との関わりの経緯を教えてください。
三輪 東洋英和女学院大学の西洋子教授が始めた「手合わせ表現」を中心とした
身体表現の研究を知り、興味を持ったのが始まりです。手合わせ表現とは、向か
い合った2人が手のひらと手のひらを直接触れ合わせながら、身体全体を使って
互いに思いを伝え合い、一緒に表現をつくっていくことです。それによって、つ
ながっている感覚、生き生き感が創出されます。西先生はそれを「共振」と表現
されています。私は、この共振が共創において重要な役割を担っているに違いな
いと直観し、共振のメカニズムについて一緒に研究しましょうということになっ
たのです。共に生きていくことは、共に表現することであり、それが共創では重
要だと気付いたのです。
― 最初に手合わせ表現を知ったとき、どう思われましたか。
三輪 「すごい」の一言ですね。最初は、
「私」と「あなた」が分かれているので
すが、手合わせ表現を続けていくと、そういった境界が消えていって、するでも
されるでもない、包みつつ包まれるような感覚が生まれてきます。まさに、それ
は「場」の働きそのものであり、共創だと思いました。共創システムの研究で、
身体表現に焦点を当てたものはそれまでほとんどありませんでした。身体表現と
共創を関連づけることができれば、居場所づくりやわが国における豊かなコミュ
ニケーションの文化を支える科学技術が生まれるのではないかと考えたのです。
― 東日本大震災被災地で身体表現のワークショップを開催するようになった背景は?
三輪 大震災によって、居場所、つまり、それぞれの人が寄って立つ場所がなく
なってしまったわけですね。私は科学技術振興機構(JST)の CREST * 1 の研究
に参加し、子どもたちの身体表現を活発にするようなメディアを開発していたも
のですから、それを被災地へ持っていきたいと思いました。子どもも大人もみん
*1
戦略的創造研究推進事業
(CREST)
な身体の内側が硬くなってしまっているので、それを柔らかくして“自分である”
という実感を取り戻す、そういうことに役立てられるのではないかと考えました。
― その CREST の研究とメディアについて解説してください。
三輪 研究課題は「人を引き込む身体性メディ
図4 影メディアによる園児の身体表現
粒子影
二重残像影
骨格影
ポリゴン影
ア場の生成・制御技術」(研究代表者:渡辺富
夫氏、2006 年 10 月~ 12 年 3 月)で、私は
その中の「身体的空間・映像メディア技術の
研究開発」グループの代表でした。ここでは、
身体を通じて自身の中の感性を育み、他者と
の多様な関係性の土壌を耕していく「共創表
現メディア」を構想しました。そこで着目し
たのが、自身と切り離すことができない「身
体の影」です。
写真 1 影メディアによる園児の身体表現
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特集
― 自分の身体があってその影があります。その影を変容させるとのことですが……。
三輪 そうです。影を変容させて、自身の身体と自身の影の間に空間的、時間的
なズレをつくりだすことにより、感性を刺激し、身体表現の創出を促そうという
ものです。これを
「影メディア」
(写真1)
と呼んでいます。この影メディアによっ
て、自身の中の「もう一人の自分」の存在に気付いたり、共振に似た感覚が得ら
れたりします。
― 影メディアはどういう効果をもたらしていますか。
三輪 一番の効果は、影メディアを介して出会い、つながりあうことによって、
共存在感が生まれるということですね。影メディアはまさに共存在メディアなの
です。影メディアのパフォーマンスで印象的なのは、普段あまり身体を動かさな
い子どもが、影メディアの前ではおのずと表現し、他の子どもたちとおのずとつ
ながっていくことです。
― 身体表現のワークショップはいつからですか。
三輪 2011 年 10 月から宮城県石巻や東松島を月1回訪問し、被災した子ども
や家族らと共に、西先生の主導で「手合わせ表現ワークショップ」
(写真2)を
実施しています。当初はこぢんまりしたものでしたが、2012 年 10 月に、仙台
市の美術や映像文化の活動拠点である
「せんだいメディアテーク」
で開催したワー
クショップから参加者が 30 ~ 40 人規模に拡大しました。この時は影メディア
のパフォーマンスも行いました。
― どんな様子ですか。
三輪 集まってくる子どもの中には支援学校の子どもも
数多くいて、実に多彩です。「違い」がある場合、よく
あるシステム論だとその差異をなくし、調整しようとし
ます。しかし、
われわれのワークショップのポイントは、
みんなの違いは違いのままということです。障がいの有
無、性別、年齢、舞踊の経験などの違いがあっても、そ
れによって参加者の表現を差異化しない平等感がありま
す。自閉症の子がいる、ダウン症の子がいる、発達障害、
脳性まひの子がいる、健常な子どもがいる、また、被災
がトラウマになっている人、ワークショップが終われば
首都圏などに帰る人、そういう多様な人たちが表現で出
会い、表現でつながる。その結果、誰しもの顔が生き生
きと輝き出します。そして、みんなが「場」を強く感じ
るようになります。
うまくいっている一番のポイントは、手合わせ表現
には、場の働きを生み出す力が間違いなくあるという
ことです。それは同時にインクルーシブ性をもたらし
ます。そして、お互いの差異を担保し、多様を多様な
写真 2 手合わせ表現ワークショップ(宮城県石巻市、東松島市)
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まま維持しつつ、何か新しいものをつくり出していく。止まっていた時間が動
きだしていく。時が生まれ、未来に向かい始めるのです。共創の居場所づくり
を進めていく上で、被災地はとりわけインクルーシブ性が強く求められる現場
であるといえましょう。
― インクルーシブ性ですか。
三輪 私は「インクルーシブ・センス」と名付けました。簡単にいえば、これは、
多様な人々における差異を包み込むような感覚のことです。少し難しくいえば、
意識と無意識、モノとコトのように異質の働きを橋渡しするような感覚といって
よいかもしれませんね。手合わせ表現は、このような感覚を耕していくのです。
― 影メディアは表現でつながることを支援するものですが、共創を検証する科学技術に
はどのようなものがありますか。
三輪 手合わせ表現によってお互いにどのくらい深いところでつな
がっているかを調べる装置を 5 年前に開発しました(写真3)
。意
識に上る手のひらの動きと意識に上らない身体全体の動きを同時に
計測するものです。その結果、無意識的領域の働きが手合わせによ
る「私たち」の創出に重要な役割を果たしていることが分かりまし
た。そこで、このような無意識的領域の働きに自分自身で気付くた
め、自己触発的な一人手合わせ表現システムを昨年開発しました。
これはインクルーシブ・センスを育むことも可能です。これらによ
り、共創のダイナミクスの解明や評価を行っていく予定です。
写真 3 手合わせ表現計測システム
また、手合わせ表現における各人の身体動作を三次元計測し、互いの関係性の
深化過程を5段階に分類しました。モード1の段階から徐々に身体が開かれてい
き、モード3ではコラボレーション的表現が、4以上で、インクルーシブ・セン
スによる共創表現が生まれます。
さらに現在、研究室では地理的に離れた場所にいる人々と舞台を共有して行う
共創表現のネットワーク化にも取り組んでいます。
― 被災地の方々の居場所づくりは?
三輪 被災地では「モノ」の復興から「コト」の復興に移っています。生きてい
く“コト”が大事になってきているのです。それにはまず、多様な人々が安心し
てつながりあう居場所が必要です。表現の場を耕し、つながりを深化させていく
必要があり、その手法として、手合わせ表現や影メディアによる共創表現は有効
であると思います。ワークショップの参加者は身体表現を経験することで「自然
=場所」とつながっているという感性が回復し、
内部が柔らかくなってきました。
そして、今では参加者の中から「モノ」と「コト」を橋渡しするファシリテータ
も誕生してきました。私たちの研究が「コト」の復興としての居場所づくりに貢
献できることを願っています。
― ありがとうございました。
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特 集2
未来のふるさとを紡ぐ─研究者が向き合う大震災被災地─
特集
ふくしまサイエンスぷらっとフォーム
合言葉は「ふくしまは、
“どこでも科学”」
東日本大震災をきっかけに、国民との間の科学コミュニケーションの大切さが再認
識されている。社会と結び付いた総合的な科学理解の基盤をどう築いていくのか。
7年前から福島県内で科学コミュニケーション活動に取り組んでいるネットワーク
組織「ふくしまサイエンスぷらっとフォーム」を紹介する。
7 年前から福島県内で科学イベント開催、指導者研修などによる科学コミュニ
ケーション活動に取り組んでいるネットワーク組織がある。
「ふくしまサイエン
スぷらっとフォーム(以下「spff」
)
」だ。現在、連携しているのは県内の科学館、
博物館、公設試験研究機関(公設試)
、大学、経済団体、企業、自治体(福島県)
などおよそ 30 機関で、事務局は福島大学共生システム理工学類内にある。
合言葉は「ふくしまは、
“どこでも科学”
」だ。
■ 3 年間 JST の支援事業
この活動のキーパーソンは福島大学
副学長(地域連携担当)・同大学院共
生システム理工学類人間支援システム
専攻(機械・電子学系)教授の小沢喜
仁氏と同大学総合教育研究センター教
授の岡田努氏の 2 人である。小沢氏
は大学での教育の他に、17 年前から
小沢喜仁教授
岡田努教授
地区の公民館をベースとして主に小学
校 4 ~ 6 年生を対象に科学教室を続けている。一方の岡田氏は科学教育、ミュー
ジアムマネジメントなどに関心を持ち幅広く活動してきた。
この 2 人が十数年前に出会ったことがこの取り組みのそもそものきっかけだっ
た。その数年後、科学技術振興機構(JST)の地域の科学舎推進事業「地域ネッ
トワーク支援」に「地域の自然と文化と科学にふれて学ぶ“ふくしまサイエンス
ぷらっとフォーム”の構築」という提案企画で応募して採択された。支援を受け
た期間は 2008 ~ 10 年度の 3 年間。こうして spff が誕生した。事務局は小沢氏
(事務局長)と岡田氏(コーディネーター)と常駐スタッフ 1 人だ。
「地方の科学館の職員、学芸員には専門家が少ない。小中高校の先生は多忙で、
学校以外の地域の教育資源の活用に目を向ける余力がない。このため行政、学校
教育、社会教育の枠を取り払ってアイデアやプログラムを共有したり、公設試の
スタッフや大学の教員が支援する仕組みをつくれないか、と考えました」と岡田
氏は狙いを説明する。
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当初は、県の中央部にある四つの科学館(ふくしま森の科学体験センター、郡
山市ふれあい科学館、磐梯山噴火記念館、福島市子どもの夢を育む施設こむこむ)
と工業、農業、環境、林業の各公設試を中心とした「サイエンスコミュニケーショ
ン活動のネットワークづくり」に取り組んだ。
■異分野連携でアプローチ
活動の特徴は、①県域が東西に広がって多様な自然、文化を有する同県の特徴
を生かした科学コミュニケーション ②科学に対する関心層だけでなく、無関心
層にも働き掛けようとしていること──の二つ。
例えば、イベントで草木染めをする場合(写真1)
、一般的なイベントでは化
学の教員が講師となることが多いが、spff ではさらに美術館学芸員、農業セン
ター研究員、歴史の教員らが加わって講師陣となる。そうすると化学の話だけで
なく、美術作品、農作物、さらには歴史の話もあるので多様な興味をもつ参加者
に受け入れられやすくなる。しかし、それだけが目的ではないと
いう。「異なった分野の講師が草木染めのプログラムを共有すれ
ば、例えば、美術館の学芸員は自分のところでその企画を独自に
展開、発展させることができる。そういう活動を続けていくこと
でレパートリーを増やしていった」
(岡田氏)
。こうした方法を広
げていくためにグリッドシートというものを開発した。
「いろんな専門分野から見るイベント企画の最初の素材は植物
のウコンでした。子どもたちの興味はいろいろですから、窓口を
広げて嫌いにさせないようにする必要があります。接点は多いほ
どいい。無関心層という一番厚い層に関心を持ってもらおうとい
写真1 農業と芸術分野が連携した草木染め
う発想で、異分野の連携をスタートさせました」
(小沢氏)
。
spff は 2 年目、3 年目と連携機関が徐々に増え、視察や研修、
サイエンスカフェ(写真 2)などを行った。
メンバー全員が集まる、年に一度の大きなイベントが「サイエ
ンス屋台村」である。屋台のように個々の参加者と双方向でやり
取りができる小さな企画を集めた中規模の科学イベントだ。第 1
回は 2010 年 12 月、福島市で実施した。サイエンス屋台村はそ
の後県内各地を巡回している。
写真2 サイエンスカフェ(郡山駅前)
■サイエンス屋台村が巡回
2011 年 3 月 11 日、東日本大震災とそれによる東京電力福島第一原子力発電
所の事故が発生。科学館や博物館は建物に多少の損傷があっただけで開店休業状
態。一方、避難所の子どもたちは不安な日々を送っていた。それなら黙っている
手はないと、spff 参加機関のメンバーが幾つかのチームを組み各地の避難所で小
さな科学イベントを開催(写真 3)。4 ~ 5 月のゴールデンウイークにかけては
みんなで回ったという。3 年間でつくったネットワークが生きたわけである。
2011 年 12 月、会津若松市の福島県立博物館で 2 回目のサイエンス屋台村、
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特集
翌 12 年 12 月には南相馬市の南相馬市博物館でその 3
回目を開催した。南相馬は大学や社会教育施設が少ない
地域で、市外へ避難した子どもたちはまだ 6 割ほどし
か学校に戻っていない時期だった。
「南相馬のサイエン
ス屋台村には 250 人の子どもが来ました。それを見た
科学館・博物館の方々が『こんなに子どもがいるんだ』
と感激していました。その直後、県の出先の相双地方振
興局(福島県沿岸部である浜通りの相馬地域と双葉地域
を所管)から、このイベントを各地でやりたいのでノウ
写真3 避難所訪問
ハウを教えてほしいと要請がありました。同振興局が自主的にやるようになった
のです。同じことが喜多方市でも始まりました」
(岡田氏)
。
サイエンス屋台村の県内巡回は、参加機関を増やすという効果の他、県内各地
に spff のシステムのミニチュア版をつくることに結び付いている。ネットワーク
が幾重にも広がったのである。
JST の支援事業は 2010 年度で終了。その後、spff は毎年さまざまな外部資金
を獲得して事務局機能を維持し、活動を継続している。ただ、全員参加のサイエ
ンス屋台村以外のイベント等は参加機関の“緩い連携”によって実施している。
毎年、年度末の 3 月には各科学館・博物館、公設試の翌年度の事業計画がま
とまる。それを spff 事務局が把握し、
その情報を参加機関で共有する。
そうすると、
例えば A 科学館が B 公設試に「うちのイベントに協力してください。その代わ
りそちらのイベントにはうちが出前で行きます」というように 2 者、あるいは 3
者の連携の話が網目状に広がっていく。
要請があれば本部がコーディネートする。
■復興支援のプログラムが増加
震災後、福島県の科学教育・学校の理科教育で大きな課題だったのは、自然災
害に関することと、そして何よりも、原子力発電所事故による放射能汚染問題を
目の前にして県内で生活していくことを決めた県民に、放射線や除染作業、農産
物等の放射線モニタリングといった食の安全に関わることなどをいかに理解して
もらうかということだった。学校教育では、県の教育委員会の義務教育課が放射
線教育の指導資料を毎年作成・更新しているが、spff 参加機関の中には実際に除
染作業や放射線モニタリング等に取り組んでいるところがある。
「われわれは公設試を含む行政機関に、放射線モニタリングの様子を市民に見
せたらどうかとか、spff のイベントで放射線を学ぶために霧箱実験をやったらど
うか、などと提案してきました。当初は、デリケートな問題だけに理解が得られ
ないこともありましたが、徐々に、放射線の基礎知識を学ぶイベントや放射線モ
ニタリング室の見学ツアーなど一般向けのプログラムが増えるなどの変化が表れ
てきました」
(岡田氏)
。
今後は、震災からの復興を実現するため、社会のあらゆる要素と結び付いた総
合的な科学理解の基盤構築と普及を目指したいという。福島県民の未来を開くサ
イエンスコミュニケーション活動。それを担う spff に期待したい。
(本誌編集長 登坂和洋)
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特 集2
未来のふるさとを紡ぐ―研究者が向き合う大震災被災地―
失われた風景を映像・音楽で再現し体感
―風景と心の修景および創景事業―
津波で破壊された被災地の景観。かつての風景を記録したフィルム、写真、音源、
スケッチなどを集め、そのデータベースを基に最新技術を用いて映像と音楽で再現
する。よみがえった心のふるさとは人々に何をもたらすのか。
■乏しい心理的被災の救済
東京藝術大学社会連携センターが中心となって行っている「風景と心の修景お
よび創景事業―共時空体験的ふるさと再生と創造」事業は、災害によって失われ
たふるさとの風景を、風景のデータベース(収集した過去の資料やたくさんの断
片的な記憶など)を基に、最新のテクノロジーを用いて映像・音楽として再現し、
それを体感した人々の“未来のふるさと創造”に役立ててもらうのが目的である。
東日本大震災のような極めて大きい災害において、最も深刻で長期に持続する
宮廻 正明
みやさこ まさあき
東京藝術大学 大学院美術
研究科 文化財保存学専攻
教授/社会連携センター長
〔学長特命(社会連携担当)〕
研究代表者
精神的被災を軽減する方法論を策定し、それを形にするシステムをつくり、試行
する取り組みである。
過去の同様な災害である関東大震災、阪神・淡路大震災においても物理的な復
興や、産業復興は迅速に展開され、被災経験は進化した形で継承されてきた。そ
の一方で、家族の尊い命や財産の喪失、コミュニティーの崩壊、さらに文化、教
育を育んできた風景、風土の喪失などによる心理的被災は、大規模災害の最も大
きな悲劇的要素である。時間が経過すると軽減するものの、長期間にわたって持
続するということは各地で行われている慰霊祭の存続を見れば理解できるだろう。
こうした目に見えぬ被害である心理的被災に関しては、被災者の自助的な努力
に任され、その公的救済は端緒にすら就
伊東 順二
いとう じゅんじ
東京藝術大学 社会連携セン
ター 特任教授 研究代表者
けていないのが現実であるといえる。
特に、今回の大震災においては、かつ
てないスケールで景観が破壊・喪失し、
街並みの消失も含めて、人々の心理的被
災が類を見ないスケールで発生したこと
は想像に難くない。精神的な「ふるさと」
再生の実感は、復興に欠くべからざるも
のであろう。
写真 1 「新しい東北」官民連携推進協議会 会員交流会
■フィルム、写真、音源等を収集
この事業の最初のステップは「風景の収集」である。個人の目を通して記録さ
れた映像フィルムや写真、音源、スケッチなどを収集しアーカイブ化する。
次の段階は、アーカイブ化された風景の記録を基に、各世代の思い出とリンク
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特集
する映像・音楽の作品を制作する。具体
的には、三次元 CG(コンピューターグラ
フィックス)を含めた映像作品の制作、ス
ケッチ、描画等の絵画的方法と地元に残る
音源記録を要素とした音楽制作などであ
る。このように、津波で失われた風景を時
間的、立体的に再現(再生)することを「風
写真 2 かつての風景を記録したフィルム
景の修景」と呼んでいる。
特定非営利活動法人(NPO 法人)20 世紀アーカイブ仙台と協力し、大正、
昭和時代に人々が残した伝統、文化の歴史資料を収集して、その映像を各自治体
の避難所や仮設住宅集会所において上映する「昔を語る会」を実施している(写
真2、3)
。この取り組みは途絶えがちな世代間コミュニケーションの場を提供
するとともに、熟年の方には、ご自身の思い出が鮮明によみがえる「回想」効果
をもたらしている。
思い出を語り合うという取り組みで強く感じられたのは、認知症の傾向のある
高齢者の中には、いわゆる「ふるさとロス(ふるさとを喪失した悲しみ)
」が過
去の忘却の遠因になっている人もいるのではないかということである。それ故、
例え話の中であってもふるさとが感覚的に再生できればロス症候群が緩和する可
能性があり、さらにいえば、環境の変化にも適応できるかもしれないのである。
そのような現況を見て、心の復興を目指すこの事業が復興そのものに貢献すると
確信できた次第である。
そのためにはやはり、風景の共時空間的体験(時間的な推移と日常的な広がり
を持つ時間的、立体的な再現を体感すること)を醸成するシステムデザインと最
先端テクノロジーと個人の記憶という、かけ離れていると思われるものを合成す
るイマジネーションとクリエーションの能力が必要不可欠である。
写真 3 昔を語る会
■「減災」を目指す
本事業は、大規模災害の精神的被害を「減災」する具現的な方法を確立するこ
とで東日本大震災からの真の復興に貢献することを目指している。また、その東
北から発信することで世界各地で起こる同様の災害にも役立ててほしいと考え
る。この復興経験を価値あるものとするため、目標実現に向けて事業を継続して
いきたい、と思っている。
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オープンイノベーション時代に向けた
「技術研究組合」制度の改正と効果
経済産業省
産業技術環境局
技術振興・大学連携推進
課
「技術研究組合」は半世紀以上前に創設された制度であるが、2009 年に大幅な改
正を行った。その後、一定の期間を経て、株式会社に組織変更する組合が現れる
など、着実な効果が認められるところである。ここでは制度改正の経緯とその効
果についてご紹介する。
■技術研究組合の概要
■ 「技術研究組合法」への抜本改正
技術研究組合は、複数の企業等が組合員となり、協同して試
験研究を行うために組織する法人である。
法人格を有するが、資本・持分概念を持たない非営利法人で
ある。長期にわたる研究開発の基盤を維持するため、剰余が生
じた場合にも構成員(組合員)に配当せず、さらなる研究開発
に充当することとしている。また、株式会社形態とは異なり、
構成員からの拠出金(賦課金)により欠損金が相殺されるため、
2009年 6月 : 「鉱工業技術研究組合法」の抜本改正
<具体的改正事項>
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
設立組合員数の緩和
研究対象の拡大
大学の組合員資格の明確化
独立行政法人の組合員資格の明確化
預託金制度の創設
株式会社への組織変更等
技術研究組合の分割
創立総会の廃止等の手続き緩和
基本的に収益を生まない研究開発事業に適した組織となってい
る。
法改正時組合数
現在の組合数
(平成27年1月)
累計組合設立数
32
62
247
■制度改正と効果
旧法(昭和36年)施行以降の
この間の組合設立数 62
0
図 1 「技術研究組合法」への抜本改正
図2 法改正の効果 (改正事項ごとの実績)
1961 年、わが国の研究開発促進のために「鉱工業技術研究
組合法」が制定され、産業界の研究開発力強化の手段として、
また、さまざまな大規模国家プロジェクトの推進母体としても
活用されてきた。
昨今、外部資源を活用したオープンイノベーションへの期待
が高まる中、多種多様な企業が一つの研究開発目標の下に法人
を組織する技術研究組合は、その意義が再注目されることとな
り、2009 年に抜本的な法律改正が行われた。その結果、大学
や独立行政法人の参加資格の明確化や、組織再編等を可能とす
る「技術研究組合法」として再スタートを切ったところ(図 1)
。
法律改正から約 6 年が経過し、次第に制度として普及・定
着してきた。改正当時と比較して、組合数はおおむね倍増して
おり、材料、機械、情報通信、エネルギー、ライフサイエンス
等の幅広い研究分野に活用されている。改正事項ごとには以下
のような効果が見られる(図 2)。
(平成27年1月現在)
①設立組合員数の緩和
→ 組合員2者による設立組合:4組合
②研究対象の拡大
→ サービス分野の組合の設立:2組合
③大学の組合員資格の明確化
→ 大学が組合員となった組合:15組合
→ 組合員となった大学:21大学
④独立行政法人の組合員資格の明確化
→ 独立行政法人が組合員となった組合:32組合
<うち、法改正前設立組合への参加が3組合>
→ 組合員となった独立行政法人:7法人
⑤預託金制度の創設(賦課金の前払いが可能)
→ 法改正前設立組合による制度導入実績:4組合
※法改正後設立組合は基本的に導入
⑥株式会社・合同会社への組織変更・新設分割
→ 組織変更実績:1組合
⑦技術研究組合の分割
→ 分割実績:1件
⑧創立総会の廃止等の手続き緩和
→ 各項目の効果もあり、技術研究組合の設立数
が大幅に増加
※表中の組合数、法人数は特に断りの無い限り、現在も活動中の組合数、組合参加中の法人数
■技術研究組合の株式会社化
図 2 法改正の効果(改正事項ごとの実績)
2009 年の法律改正の中でも特筆すべきは、組合から株式会社への組織変更や、
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図3 技術研究組合が可能な組織再編のパターン
新たな組合や株式会社の新設分割を可能とした点である
(図 3)。
旧来の技術研究組合には、研究開発終了後に研究成果
をそのまま共同で実用化することができず、組合を解散
区 分
1.
組
織
変
更
しなければならなかった(研究成果を各社が持ち帰り)
。
また、組織の分割ができないので、得られた研究成果の
一部についてのみ実用化することや、
「選択と集中」に
より研究ポートフォリオを最適化することができなかっ
概 念 図
株式
会社
技術研究組合
合同
会社
技術研究組合
(解散)
(解散)
A技術研究組合
組合
2.
新
設
分
割
た。
である。
この組織再編制度を利用し、2014 年 5 月に技術研究
組合から株式会社への組織変更第 1 号として、
「グリー
ンフェノール・高機能フェノール樹脂製造技術研究組合」
が、「グリーンフェノール株式会社」に組織変更を行っ
株式会社
組織
変更
合同会社
新設
分割
a技術研究組合
新設
分割
株式会社
新設
分割
合同会社
吸収
合併
A’技術研究
組合
(設立)
(設立)
(変更)
株式
会社
技術研究組合
合同
会社
技術研究組合
(変更)
(変更)
こうした問題点を解消し、一層の研究開発や実用化を
シームレスに実現するために制度の見直しを行ったもの
組織
変更
A技術研究組合
吸収
合併
(設立)
(設立)
(変更)
B技術研究組合
3.
合
併
(設立)
(解散)
A技術研究組合
新設
合併
(解散)
B技術研究組合
新設
合併
C技術
研究組合
(設立)
(解散)
図 3 技術研究組合が可能な組織再編のパターン
た(図 4)。同組合は、2009 年の法律改正以降に設立し、研究活動に取り組ん
できた。その結果、一定の成果が見られたことから、その実用化に向けて株式会
社化に踏み切ったもの。
図2 グリーンフェノール・高機能フェノール樹脂製造技術研究組合(GP組合)の株式会社化
○GP組合は、2010年に設立し、非可食の植物資源の糖類から、遺伝子組換微生物(RITE菌)を活用して、「グリーンフ
ェノール」を生成し、その樹脂の製造する技術開発に取り組んできた。
○その結果、採算性が見込める生産方法を確立できたことから、今後これをスケールアップし、グリーンフェノールの本
格的製造に取り組むため、2014年5月、技術研究組合を「グリーンフェノール開発株式会社」に組織変更した。
○なお、株式会社への組織変更は、2009年の技術研究組合法改正以来、初の案件。
GP組合
設立
2010年年2月15日
組合員
住友ベークライト株式会社
公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)
研究
概要
植物資源(非可食)の糖類と遺伝子組換微生物(RITE
菌)を活用した合成樹脂原料のグリーンフェノールの生
成・グリーンフェノール樹脂の製造技術開発
2014年5月
組織変更
GP開発株式会社
商号
グリーンフェノール開発株式会社
所在地
京都府木津川市
事業
概要
グリーンフェノール生産プロセスの実証事業
グリーンフェノールの製造・販売
図 4 グリーンフェノール・高機能フェノール樹脂製造技術研究組合(GP 組合)の株式会社化
オープンイノベーションによる研究開発は今後もますます重要となっていく。
技術研究組合はその一つの形態として、今後も研究開発成果の円滑な実用化を促
進していくことが期待される。
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福岡バイオバレープロジェクトの推進
2001 年に産学官で設立した 「福岡県バイオ産業拠点推進会議」 が推進している
「福岡バイオバレープロジェクト」 がベンチャー企業の創出で成果を挙げている。
■福岡バイオバレープロジェクトの概要
福岡県では、県南の中核都市である久留米市を中心にバイオクラスターの形成
藤田 和博
ふじた かずひろ
を目指す「福岡バイオバレープロジェクト」を推進している。
2001 年に産学官で構成する福岡県バイオ産業拠点推進会議(事務局:株式会社
久留米リサーチ・パーク〔以下「KRP」
〕
)を設立し、事業を推進してきた。会員
数は設立時の 72 会員から 509 会員(企業 313、行政・研究機関 42、大学研究者
株式会社久留米リサー
チ・パーク バイオ産業
振興プロデューサー
154、2015 年 1 月時点)へと増加し、バイオ関連企業の集積が順調に進んでいる。
推進会議は、研究開発支援、ベンチャー育成、人材育成、交流・連携、情報発
信を柱にクラスター形成に関する総合的な事業を実施している。創薬、医療機
器、バイオツール、機能性食品、環境バイオ等の産業分野を重点的に支援してい
る。特筆すべき成果としては、九州大学発ベンチャーが実用化した眼科手術用染
色剤が挙げられる。本製品は欧州の大手医療機器メーカーとの契約締結により欧
州全土で広く販売され、医療現場で使用されている。福岡発の技術が世界展開に
までつながった好事例である。この他、遺伝子導入試薬、眼底血流画像化装置な
ど 112 件の製品化を達成している。
■主な支援事業
1.研究開発支援
大学、企業等の共同研究開発チームに対して、可能性試験から実用化ま
での各段階に応じた切れ目のない研究開発費の支援、また、製薬会社や
医療機器メーカー OB などによるハンズオン支援も行う。これらにより、
バイオ関連分野のベンチャー創出、新規参入および企業誘致を目指している。
2.ベンチャー育成
研究開発を行う実験室と事務所を備えた「福岡バイオインキュベーショ
ンセンター」
(写真 1)
、試作や小規模製造を行うバイオ専用貸し工場の
「福岡バイオファクトリー」を整備し、ベンチャーを育成している。また、
KRP 内にオープンラボを設置しているので、企業は研究用機器を低料金
で利用でき、専門相談員が技術相談にも応じている。
ソフトインフラとしては、九州大学、久留米大学、産業医科大学、福
岡 大 学 の 県 内 4 大 学 病 院 を 中 核 に、
「NPO 法 人 治 験 ネ ッ ト ワ ー ク 福
岡」を構築し、治験(臨床試験)環境を整備している。CIRB(Central
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写真 1 福岡バイオインキュベーションセンター
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Institutional Review Board:多施設で臨床試験を行う場合の中央治験審査委
員会)が整備されており、審査の効率化を図っている点に特徴がある。
3.人材育成
2010 年に久留米バイオカレッジを設立し、地域のバイオ産業を支える研究・
技術者の育成に取り組んでいる。
「バイオ技術者養成講座」
、
「臨床研究人材育成
セミナー(日本臨床試験学会と共催)
」を開講し、地域の企業や医療従事者に好
評を博している。
* 1
■国の大型事業を活用したプロジェクトの推進
文部科学省の「地域イノベーション戦略支援プログラム(2009~13 年度)
」
を活用し、がんペプチドワクチン* 1 の実用化研究、バイオツール(蛍光試薬、
高速タンパク質生産システム)の研究開発を推進してきた。
久留米大学のがんペプチドワクチンの研究成果は株式会社グ
外科手術、抗がん剤、放射線
に次ぐ第四の治療法で、その
中でも、久留米大学の伊東恭
悟教授が開発した「テーラー
メード型」は、個々の患者に
ふさわしいペプチドを選択す
ることで、重い副作用がなく、
より高い効果の期待できる画
期的な治療法。
リーンペプタイドへ技術移転され、同社が実用化に向けた開発を
進めている。
前立腺がん患者を対象とするこのワクチンの国内第Ⅲ相臨床試
験が、導出先
(ライセンス供与先)
の富士フイルム株式会社によっ
て実施されている。富士フイルムの開発には独立行政法人科学技
術振興機構(JST)の「研究成果最適展開支援プログラム」の採
択を受けている。
さらに地域イノベーション戦略支援プログラムで久留米大学が
実施した臨床研究において、膀胱(ぼうこう)がん患者のワクチ
ン投与群の全生存期間が対照群と比較して約 2 倍延びるという
写真 2 がんワクチンセンター
大きな成果が出ており、前立腺がんに続くがん種として開発が期待さ
れている。
これらの実用化を加速するため、久留米大学は 2013 年に研究開発
と治療を一元的に行う世界初の拠点である「がんワクチンセンター」
(写真 2)を開設。延べ 2 万人以上に対する臨床研究によりデータを
蓄積するなど実績を挙げている。
次に、バイオツールの分野では、最も多く利用されている海外製と
比較して、安定性、光輝性に優れた蛍光試薬「Fluolid」を九州産業
大学が開発し、免疫染色分野での普及が期待される。2014 年 11 月
写真 3 細胞の仮足の蛍光免疫染色
より大手試薬会社を通じて販売を開始している(写真 3)
。
九州産業大学は、本成果をさらに発展するべく、大学独自の予算を
投じ、2014 年に「医療診断技術開発センター」を設立し、蛍光電子
顕微鏡、診断薬等の開発を推進することとしている。
さらに、高速タンパク質生産システムにおいては、福岡県工業技術
センターの研究成果を元に、県内企業の株式会社アステックをはじめ
4 社が遺伝子導入試薬、無血清培地(写真 4)
、さらにガス透過性に
優れたバックを用いた高効率な培養装置を実用化した(写真 5、6)
。
写真 4 無血清培地
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アステックは事業展開を強化するため、2013 年に研究所を開設、2014 年には
工場を増設した。
このように国事業の活用により、プロジェクトを大きく進展させることができた。
写真 5 ガス透過性培養バック
写真 6 自動バック培養装置
■近年の重点的な取り組みと今後の展開
創薬分野では、がんペプチドワクチンに続き、次世代医薬品として期待されて
いる核酸医薬分野の企業育成に注力している。核酸医薬は、がんをはじめ希少疾
病や難病治療薬として期待される医薬品である。従来品よりも副作用が少ないと
され、高い効果が期待されている。核酸医薬に関する特許は、ほぼ欧米企業に独
占されていたが、福岡バイオファクトリーで創業した株式会社ボナックは、欧米
企業の特許に依存しないボナック核酸を開発し、特許化した。2013 年に住友化
学株式会社と核酸医薬原薬の製造・販売に関する提携を実現、2014 年に久留米
大学と包括的研究連携協定を締結しており、同大学の動物実験施設の利用により
非臨床試験に向け研究開発を加速させている。
医療機器分野については、世界的に今後も高い成長が見込まれている。医療機
器開発支援の専門機関である九州大学先端医療イノベーションセンターと連携し
た企業育成モデル事業に取り組んでおり、異分野参入の成功モデル創出を目指し
ている。
食品分野では、
新たな機能性表示制度の導入が予定されていることを踏まえて、
2014 年度から「機能性食品開発相談窓口」をいち早く開設し、専門家が開発戦
略や臨床試験について、適切なアドバイスを行っている。2015 年度の本格施行
に対応し、企業のシステマティックレビュー対応など今後も支援の拡充を図るこ
ととしている。
福岡バイオバレープロジェクトでは、今後もこのような取り組みをさらに強化
し、ベンチャー企業の創出等福岡県の強みを生かしたバイオクラスターの形成を
促進していく。
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こんにゃくを世界へ
―大学と新技術開発―
こんにゃくの伝統製法「バタ練り」を活用し、産学連携で新製品開発を進めている。
20 カ国に輸出している。
当社は 1877(明治 10)年創業のこんにゃく製造業で、私は 4 代目である。
1990 年代半ばから業界は機械化による大量生産が急速に進んだ。当社も機械化
を進めたが、取引先から「以前はおいしかったのに……」と言われた上、他社の
石橋 渉
高度な機械と勝負しても厳しいと痛感し、伝統製法の「バタ練り」に戻し量産品
いしばし わたる
とは一線を画すことに活路を求めた。バタ練りは、金属の羽根が取り付けられた
有限会社石橋屋 代表取締
役
箱の中に原料を入れて手で練り上げていく製法で、バタバタと音がするのが名前
の由来といわれている。丁寧にこねることで細かな気泡ができ、これが適度な食
感と味染み具合の良さを生む。
こんにゃくの可能性を追求するために、バタ練り技術を活用し、コンニャクの
粉をさらに細かく加工したコンニャクパウダー(写真 1)を食品添加材として新
製品開発ができないかと考え、2007 年に福岡大学の門をたたいた。
最初に同大学薬学部の藤岡稔大教授らと共に「コンニャクグルコマンナン
における糖尿病の予防効果」を共同研究、その後、精華女子短期大学の庄野
千鶴准教授と共に食品添加材としての用途開発に取り組んだ。さらに九州大
学や中村学園大学、大手食品メーカーとコンソーシアムを組んで、コンニャ
クグルコマンナンを微細化する技術を活用し、食品成分を吸収促進する特徴
を有した従来にない食機能増強食品を研究開発したのである。
写真 1 コンニャクパウダー
■雑穀こんにゃく麺を開発
海外への販売に力を入れている。初進出は 2002 年にシンガポール大丸で開か
れた日本フェアへの出店。現地の方に手作りならではの食感が受け入れられ、手
応えをつかんだ。3 カ月後、東京で開催された海外展開向けの商談会に参加、こ
こで米国ニューヨーク郊外の日系スーパーから実演販売のチャンスを頂いた。こ
の実演販売では、持参した 3 千個を完売し、定番化の契約が取れた。
その後は香港、オーストラリア、韓国、ヨーロッパと市場を開拓。こんにゃく
に抵抗感が強かった欧米向けに、試行錯誤して開発したのが「雑穀
こんにゃく麺」(写真 2)である。現在、欧米、アジア、中東など 20
カ国のスーパーやレストランなどに輸出している。
お客様は買う時は「値段」かもしれないが、食べる時は「味だ!」
。
これは先代から引き継いだ言葉だ。品質のいいものを提供し続けるこ
とで、必ず「この商品でないと駄目だ!」となってくる。今も毎日考
えることは最高のものを提供すること、誰にも負けない最高のこん
にゃくを作ることである。
写真 2 雑穀こんにゃく麺
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ナノテクノロジー研究設備の活用
研究効率 最大化に向けて
大学、公的研究機関等が保有するナノテクノロジーに関する最先端の研究設備の
利用を促進する文部科学省のナノテクノロジープラットフォーム事業。年間利用
件数は 3 千件を超えるまでに伸びている。秘密保持や研究成果の取り扱いはどう
なっているのか。
酒井 尚子
さかい なおこ
独立行政法人科学技術振
興機構 産学基礎基盤推進
部 企画課 係長
■はじめに
文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(以下「NPJ」
)*1という
事業があることをご存じだろうか。
ナノテクノロジーに関する最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する大
学、公的研究機関等が連携して全国的な設備の活用体制を築いている。産学官の
研究者の利用を促進し、装置と情報を共有することにより、研究基盤の強化につ
なげることが狙いである。
独立行政法人科学技術振興機構(JST)は、開始当初から NPJ にセンター機
関として参画し、全国 5 カ所に産学官連携推進マネージャーを配置し、地域の
新規企業利用者開拓を担っている。
*1
NPJ は、2012 年 7 月 に ス
タートした設備共用事業で、
全国 25 機関 37 組織の大学
等公的研究機関が参画し、
「微
細構造解析」
「微細加工」
「分
子・物質合成」の三つの技術
領域における最先端の研究設
備とその活用のノウハウを、
広く多様な利用者に開放し、
産学官の研究開発課題の解
決に寄与することを目指して
いる。
http://nanonet.mext.go.jp/
前身事業(ナノテクノロジーネットワーク事業)での利用件数が平均して年間
約 1,300 件であったのに対し、NPJ では 2014 年度は 3 千件を超える見込みで
(図)、設備共用事業の利用が促進されてきたことを実感している。また、NPJ
では、特に若手や中小企業の研究者・技術者を対象に、旅費・利用料を支援する
試行的利用事業(FS)*2も実施しており、これまで NPJ を利用したことがない
研究者・企業にも積極的に利用を促している。
今回は、NPJ をより有効に活用いただくためのポイントをお伝えしたい。
3000
*2
現在、平成 27 年度公募準備
中。詳細は 4 月以降にホー
ムページをご確認下さい。
その他
公的機関
2500
大学
中小企業
2000
大企業
1500
1000
500
0
2007
H19
2008
H20
2009
H21
2010
H22
2011
H23
2012
H24
2013
H25
利用件数推移(2007 年~)
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■秘密保持と成果の取り扱い
産学官連携推進マネジャーが産学官、各方面の研究者に事業紹介を行っている
中で、最もよくいただく質問が「秘密保持」と「研究成果の取り扱い」である。
はじめに、「秘密保持」について述べる。機密保持、守秘義務は当然のことな
がら、本事業の関係者全員が順守しているところであり、利用者が意図しない形
で研究機密が外部に漏れることはない。また利用者から希望があれば秘密保持契
約締結も可能である。加えて実験中も、利用者が互いにどこの誰で今何をしてい
るのかも分からないように配慮するなど、ユーザーが安心して設備利用できる環
境を整備している。一方で、NPJ は、国の事業として支援を行うものであるため、
研究成果は公開が原則となる*3。利用報告書はホームページ上でも公開してい
る*4 が、利用者の利便性が大きく損なわれないよう、報告書は A4 判の用紙1
枚程度で、得られた結果を全面的に開示する形ではなく、設備利用報告書に近い
形で記載されるものも多い。
次に「研究成果の取り扱い」について述べる。本事業では設備を利用して得ら
れた成果は、原則すべて利用者に帰属する。一部共同研究タイプの支援では、支
援機関の寄与度に応じた権利を検討する場合もあるが、利用者側への完全譲渡も
*3
特許、論文発表等を予定して
いる場合には、報告書の公開
を 2 年程度猶予する制度も
設けられている。
*4
利用報告書閲覧には、プラッ
トフォームごとに会員登録が
必要。
含めて、事前に契約書や約款を確認いただき、途中で不都合が生じないよう十分
に調整するなど、柔軟な運用を行っている。
しかし、絶対に成果は公開したくないという場合には、設備利用料が若干高額
になるが、各実施機関で個別に行っている設備共用事業、あるいは共同研究に切
り替えて、設備を利用することも可能なので、ぜひ一度ご相談していただきたい。
■ファンディング事業との併用
次に JST の本業でもあるファンディング事業との連携について述べたい。JST
の多くのプログラムで、公募要項に NPJ の積極的な利用をうたっていることも
あり、材料/デバイス分野の採択者を中心に、NPJ の利用が進んでいる。
NPJ では、
「その道の匠」である支援員の指導の下、物性データ取得や反応機
構解明、試作品作りなど数回の実験を行うことができ、
ファンド応募前に基礎デー
タをそろえることができる。
また、採択後に JST 事業担当者からの紹介、あるいは特許出願準備として実
施例追加などに利用されるケースもあり、
「必要な実験を、安価で確実かつ効率
的に実施できる環境」や、「多方面から適切に技術支援を受けられる環境」を
NPJ では提供しているといえるだろう。
また、最近では材料、デバイス分野にとどまらず、必ずしもナノテクノロジー
分野に強くないバイオ、医薬系の利用者も増加しており、利用者ニーズに応える
形で、生物を対象とした案件に強い支援員を配置している実施機関もある。実際
の利用に当たっては、JST の産学連携推進マネジャーが利用者と一緒に、研究課
題の選定、実験計画の立案をサポートする他、互いに専門分野が異なる研究者と
技術支援者をつなぐ「通訳」の役割も兼ねる。こういったきめ細かいサポートに
より、ナノテクノロジー分野への新規参入や異分野融合を可能にしている。
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Vol.11 No.3 2015
産学官3月号.indb
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異分野向けのセミナー*5なども開催し、間口を広げるとともに、多方面のニー
ズに応えるべく、技術支援者も日々腕を磨いているので、分野を問わず課題を持
ち込んでいただきたいと思う。
■おわりに
「いかに効率的に確実に研究を進めていくのか」は、日本全体としても重要な
課題である。本事業の他にも多くの設備共用事業が進められており、その果たす
役割は大きい。
*5
「医薬・生物試料電顕観察セ
ミナー」
①開催日:2015 年 6 月 5 日
(金)
会 場:科学技術振興機構
別館 1 階 JST ホール
②開 催 日:2015 年 7 月 24
日(金)
会 場:トラストシティ カ
ンファレンス・新大阪
詳細はこちら
http://mms-platform.
com/archives/2693
NPJ では、研究資金の多寡や産学官の枠によらず、最先端の機器が利用でき
る環境と一流の技術支援者をそろえて、新規利用者を待っている。ぜひ皆様の抱
える研究開発課題を NPJ で解決し、国際競争力のある研究、製品開発を実現し
ていただきたい。
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産学官3月号.indb
Vol.11 No.3 2015
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キャリアとしての産学官連携コーディネーター
15 年前、NEDO フェロー事業を活用して「産学連携」の世界に飛び込んだ筆者が、
その後、大学でどう仕事を重ね、何を目指しているのか。
■コーディネーターになったきっかけ
大阪大学大学院で分析化学を学んだ筆者は、環境問題に携わりたいと考え、財
団法人日本気象協会
*1
に就職した。勤務地は福岡。駆け出しの筆者は、先輩や
上司の後ろに付いて、西日本の観測現場を駆け回り、会社に戻っては報告書を作
成する毎日を開始した。振り返ると、官公庁等からの環境調査を受託し、その結
果を報告書として納品するという比較的シンプルなビジネスだった。就職の前後
に気象業務法の改正(1994 年 5 月)や環境影響評価法の施行(1997 年 12 月)
があり、職場を取り巻く環境は大きく変化しようとしていた。こうした中筆者は、
中武 貞文
なかたけ さだふみ
鹿児島大学 産学官連携推
進センター 産学官連携部
門 准教授
* 1
2009 年から一般財団法人日
本気象協会へ移行している。
気象、大気質、騒音・振動、河川・海洋の各種調査と総合アセスメント業務の経
験を 1 年、また 1 年と積み上げていった。経験の蓄積とは逆に、職場の仕事量
は減少していたようで、どのような方向に職場が向かうのか不安を感じ、漠然と
新たな分野に進出すべきとの思いを持っていた。
そんな時に、大学時代の先輩から突然電話がかかってきた。
「NEDO フェロー*2」
募集開始の連絡であった。それを契機に NEDO フェローへの応募を決断、職場
を辞し、産学連携分野に飛び込んだ。受け入れ先は、九州大学先端科学技術共同
* 2
http://www.nedo.go.jp/
activities/CA_00188.html
研究センター(現産学連携センター)のリエゾン部門であった。安定した職(と
周囲からは見られていた)を投げ捨ててのこの判断は「無謀な挑戦」と言われた。
時は 2000 年、筆者は 30 歳だった。当時、イチロー選手がメジャーリーグへの
移籍を表明していた。この頃の職場の先輩、仲間とは今でも草野球でつながり、
毎年 1 回は一緒に白球を追っている。彼らからは「イチロー選手のような」で
はなく、同じくメジャーリーグへ移籍した「新庄選手のような」挑戦だったとい
まだに言われ、どうしても合点がいかないでいる。
■現在の職務内容
九州大学で NEDO フェローとして産学官連携に関するコーディネート活動を
開始し、以降、学術研究員、助教を経て、2008 年 2 月から鹿児島大学産学官連
携推進センターで准教授を務めている。産学連携のコーディネートに関する経歴
は、15 年目を迎えたところである。
以下、簡単に概要を記す。
1.産学連携実務:大学外の企業や組織から寄せられる相談を学内の研究者に仲
介し、共同・受託研究やアドバイスにつなげる活動。近年は企業だけでなく
自治体からの相談、理工系分野以外の研究者が対応する相談も増加している。
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この他、学内の研究者の研究成果の外部発信基盤の整備、発信も行っている。
2.大学運営:大学の産学連携全般に関わる計画策定や企画の立案、委員会など
の活動。
3.研究者支援(競争的資金獲得支援)
:知的財産部門とも連携した研究成果の
権利化や競争的資金提案の支援も行っている。近年、株式会社鹿児島 TLO
の強力なバックアップを受け、筆者を含むコーディネーター 3 名で科学技術
振興機構(JST)の「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)
【フィー
ジビリティスタディ(FS)
】ステージ探索タイプ」に提案する手順を確立した。
4.教育・研究:産学連携実務、大学運営、研究者支援・外部資金獲得の経験を
踏まえた講義を実施。2013 年度は、
全学技術経営
(MOT)
コースにおいて
「技
術経営と社会連携」を事業化支援部門と連携して実施した。
■キャリアという視点で意識していること
不安もある。それは産学官連携実務の体系化途上であることに起因する。こう
いったケースではどうすべきか、何を根拠に判断し行動するか? 悩みは尽きな
い。そのため行動を開始した。一つは実務事例が多く議論される産学連携学会* 3 や、
全国国立大学の産学連携担当教員の会議である専任教員会議* 4 に参加し、同様
の悩みを抱える諸先生方と交わることである。そしてもう一つは、鹿児島大学人
文社会科学研究科の博士課程に進学し、社会学を学び始めたことである。自己の
経験だけではなく、
積み上げられた知や他者の経験を得ようと考えたからである。
中でも学び始めた社会学では、社会学の「眼」で産学官連携を捉えると面白い題
材が多くあることに気が付いた。まずは博士論文が先行するが、必ずや産学官連
携の各所のシーンをこの「眼」で記述していきたい。
* 3
http://www.j-sip.org/
* 4
正式名称は、
「国立大学法人
共同研究センター等教員会
議」と言う。全国の国立大学
の産学連携を担う地域共同研
究センター等(産学官連携、
知財等)の専任教員が 1 年に
1 回情報交換や議論を行う会
議である。今年度は 8 月 28、
29 日に秋田大学にて開催さ
れた。
■今後のキャリア、目指すべきところ──
コーディネーター職は全国に拡大し、ネットワーク化も図られている。各地の
コーディネーターの地域特性に沿った多様な活動は「全国コーディネート活動
ネットワーク* 5」で知ることができる。近年では、コーディネーターの業務と
も密接に関係する URA * 6 制度や文部科学省の「地(知)の拠点整備事業(大
学 COC 事業)* 7」が動き出している。大学の「知」と「地」域のへの関与者・
協力者が増加する今、これらの人材と有機的かつ緩やかにつながって産業創出や
社会課題解決に向かうことは、自然な流れでもあり、これまでコーディネーター
が積み上げてきたノウハウを発揮・活用する好機であると感じている。それは社
会全体のニーズにも合致する。自己の能力向上は当然として、周囲との協調・連
携意識を今以上に持つことを心掛け、新たな価値の創出に貢献したい。
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* 5
http://www.sangakukanrenkei.
jp/
* 6
大学等における研究マネジメ
ント人材(リサーチ・アドミ
ニストレーター:University
Research Administrator の
略)
* 7
http://www.mext.go.jp/
a_menu/koutou/kaikaku/
coc/
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イベント
レポート
第 2 回知的財産特別貢献賞
細野秀雄・東京工業大学教授が
JST「知的財産特別貢献賞」を受賞
●概要
第 2 回知的財産特別貢献賞表
彰式
日時:2015年2月25日
(水)
会場:TKP 市ヶ谷
カンファレンスセンター
(東京都新宿区)
2 月 25 日の表彰式
独立行政法人科学技術振興機構(JST)の第 2 回「知的財産特別貢献賞」は、
東京工業大学フロンティア研究機構教授・同学元素戦略研究センター長の細野秀
雄氏が受賞し(受賞内容:高精細ディスプレイに適した酸化物半導体)
、2 月 25
日、東京都内で表彰式が行われた。当日は、受賞者の細野教授他、大学関係者や、
長年にわたり共同研究や実用化に取り組み製品化を実現した企業関係者ら多数が
出席した。
■ 2011 年度に創設
知的財産特別貢献賞は、大学や公的研究機関などの、真に独創的な研究成果に
基づく知的財産の創造と活用を通して、日本の科学技術の発展に寄与し経済社会
上大きな成果を挙げた特に優れた研究者に対し、その業績をたたえ表彰するもの
で、JST が 2011 年度に創設した。第 1 回の受賞は赤﨑勇氏(名城大学大学院理
工学研究科終身教授、
名古屋大学特別教授・名誉教授)
「青色発光ダイオード(LED)
および高性能青色レーザの開発」
(表彰式 2011 年 9 月)
。
■ ERATO プロジェクトから生まれた成果
授賞対象になったのは、In-Ga-Zn-O(インジウム・ガリウム・亜鉛からなる
酸化物)を用いた薄膜トランジスター(以下「IGZO-TFT」
)に関する技術で、
1999 年から細野教授がリーダーを務めた、
JST 創造科学技術推進事業(ERATO)
の「細野透明電子活性プロジェクト」から生まれた成果である。
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(
細野教授が開発した IGZO-TFT
)
薄いプラスチックの基板は指で簡単に曲がる。中央に光って見えるのが、
In-Ga-Zu-O で出来た薄膜トランジスター部分。
液晶ディスプレイの駆動 TFT に用いられる材料は従来アモルファス Si(シリ
コン)や多結晶 Si が主流だったが、
ディスプレイの高精細化や低消費電力化、
タッ
チパネルの高性能化を実現する新素材が求められていた。
細野教授は 1995 年に透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)の設計指針を
独自に提唱し、JST の ERATO、ERATO-SORST のプロジェクトにて In-GaZn-O を活性層に使った TFT を作製し、高い電子移動度、低いオフ・リーク電
流特性という優れた特性を初めて明らかにした。
IGZO-TFT は、高解像度・3 次元・大画面のディスプレイの他、スマートフォ
ンやタブレット端末の新しいタイプの液晶ディスプレイの駆動源として期待され
ているとともに、有機 EL ディスプレイへの適用も可能であるなど、エレクトロ
ニクス分野の革新的技術として期待されている。
国内外の多くの企業が In-Ga-Zn-O に注目し、IGZO-TFT を用いた高解像度
ディスプレイの実用化に向けて研究開発に着手し、既に数社で量産化されている。
本技術に関する一連の発明は、JST が保有する基本特許とともに東京工業大学
や企業が保有する周辺特許などを含めた数十件の特許群から構成され、JST が一
括でライセンスを提供している。
(独立行政法人科学技術振興機構 知的財産戦略センター)
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産学官連携ジャーナル創刊 10 周年 特別企画
“連携人”100人が発信してきたこと
後編
2010~2014年:問われるイノベーションシステム
本企画は、2005 年 1 月号の創刊以来小誌が掲載してきた記事の中から話題になった記事、歴史的な
証言となるインタビュー記事、科学技術イノベーションを推進する上で示唆に富む記事などを選んで紹
介しています。後編の対象は 2010 年から 2014 年までの 5 年間。この時期とほぼ重なる第 4 期科学
技術基本計画
(2011 ~ 2015 年度)
では科学技術政策とイノベーション政策の一体的展開が打ち出され、
科学技術イノベーション推進に向けたシステム改革がテーマの一つになりました。小誌では、イノベー
ションを生み出すシステムについての論考や、大型産学官連携の成功のポイントを研究者や企業に聞く
企画などを数多く掲載しました。
(本誌編集長 登坂和洋)
イノベーション創出に向けて
●現在のわれわれには、技術を生み出す供給サイドという従来型の取り組み以上に、出口サイドから見たイ
ノベーションシステムの再構築が求められている。それには、まず日本のあるべき将来像をビジョンとして
描き、広くコンセンサスを取り、ビジョンを実現するために必要な技術領域を定義し、これを開発するため
の基礎研究を方向付けることが必要である。
──小川紘一氏、2011 年 4 月号、特集「イノベーションシステムに欠けているもの」
技術・ビジネスモデル・政策の三位一体型イノベーションシステムを必要とする時代の登場
●グローバル競争がますます熾烈化するなか、天然資源の乏しいわが国が将来にわたり国際競争力を維持、
さらには成長・発展させていくためには、イノベーションの創出による産業競争力の強化が必須であり、そ
の鍵は、いかに優秀な人材を育成・確保できるかにある。
──川村 隆氏、2012 年 6 月号、巻頭言・高度イノベーション人材育成の必要性
●“ことづくり”とは、これまでの製造者視点での“ものづくり(ビジネスの入口論)”とは反対のマーケッ
ト側からの視点で、ものづくり・品質づくり・ビジネスづくり(ビジネスモデル・シナリオ・戦略・企画・
デザイン・サービス)を見直すことであり、ビジネスの出口論である。この“ことづくり”を担う人材に求
められるのは、市場を理解し、顧客経験とビジネスモデルの双方をデザインできる能力である。
──長島 徹氏、2012 年 10 月号、巻頭言・世界でビジネスに勝つための“ことづくり”人材の育成を
●熾烈な国際競争に打ち勝つためには、成長領域への事業転換とイノベーションによる新たな価値の創出が
不可欠である。成長領域として日本が注力する環境・エネルギーや医療・ヘルスケアなどの他産業と IT・エ
レクトロニクスの融合によって生まれる新たな市場は、国内のみならず、新興国をはじめ広く世界に貢献し
ていくことが期待される。
「ものづくりを中核とした通商国家」こそが、今後も日本が目指すべき姿と考える。
──中鉢良治氏、2013 年 4 月号、巻頭言・IT・エレクトロニクス業界の人材育成
●この三つ(持続的イノベーション、破壊的イノベーションおよび基礎・基盤技術の蓄積)に投入するリソー
スのバランスをどのように設定するか、また、イノベーションを創出するために多様な人材を戦略的に育成、
活用することが経営者の重要な役割である。特に、イノベーションの芽を創造する人材と事業化までをけん
引するプロデューサーの育成と発掘は、わが国の喫緊の課題である。
──久間和生氏、2014 年 9 月号、巻頭言・持続的イノベーションと破壊的イノベーション
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課題に向かう
●日本は課題先進国であり、温暖化のみならず多くの困難を抱えている。これらを同時に解決するために、
所得倍増計画、日本列島改造論に代わる新たな国づくりの方向性を示すビジョンをつくる必要がある。しか
も、それは、政府が産業を興し国民の暮らしを良くするという従来のものではなく、地域で暮らしを良くす
ることで新たな産業を興すという先進国型モデルでなければならない。私は、このように地域ごとに快適な
暮らしを実現しようとする社会をプラチナ社会と呼んでいる。プラチナとは次世代のキーワードである高齢
者、生態系、低炭素の 3 つの輝きを表している。
──小宮山 宏氏、2010 年 1 月号、巻頭言・
「プラチナ構想ネットワーク」の推進
●過去の趨勢(すうせい)、現在の状況のもとに、将来を延長線上に外挿する「フォアキャスティング」によ
る目標設定では、ボトムアップ的な発想に陥りがちで、研究開発プロジェクトは、個別に完結しかねず、大
きな成果は期待しにくい面がある。よって、トップダウンで、チャレンジングではあるが高い目標を設定し、
さかのぼって長・中・短期の目標を定め、ヒト・モノ・カネを効率的に活用し、素晴らしい成果を期待する「バッ
クキャスティング」により、温暖化問題克服に向けたイノベーションを推進すべきである。
──篠塚勝正氏、2010 年 1 月号、特集「希望の低炭素社会」
エコ・イノベーションできれいな地球を 22 世紀に
●日本の科学の将来について、もし 5 年前に質問されていれば「まったく問題ない」と答えていたでしょう。
でも最近、
問題が浮上しています。日本で 2009 年に発行された科学技術白書でも強調されていたと思いますが、
Nature が呼ぶ転機(ティッピング・ポイント)に、日本は近づいているのかもしれません。創造力ある個人の
若手科学者の雇用が不足していること、国際協力や海外への行き来が十分でないのは問題です。これらを奨励
するための枠組みはあるものの、
その牽引(けんいん)役として、
日本の学術界が十分に役割を果たしていません。
そのため、日本はその競争力を次第に失っていく、という実質的な危機に直面しているのです。
── フィリップ・キャンベル氏、2010 年 1 月号、インタビュー・エネルギー、環境で日本の指導力に期待
●よりよい生活の追求は止められないが、私は並行して新しいモラルを導入すべきと思っている。われわれ
は「(M)もっと」「(M)まだまだ」
「
(K)勝たなくちゃ」という MMK で突き進んできた。高度経済成長が
終焉(しゅうえん)しても、いい生活、便利さに慣れて夢を追い続けている。今必要なのは、節約する「(M)
もったいない」、自分さえよければいいということを戒める「(M)みっともない」、お互いに感謝し共生を目
指す「(K)かたじけない」という新 MMK ではないだろうか。これらは実は、日本の古くからの倫理、考え
方だが、今を生きる人々にもその DNA はあり共感できるはずだ。
──松本 紘氏、2010 年 6 月号、巻頭言・世界の成長戦略の先に起こること──新 MMK の勧め
●大学などの研究者がどんなにいい災害対応ロボットを開発しても、企業がそれを事業化し、世の中に送り
出して実用化されないと、
“役に立つ”とは言えません。
(略)しかし、企業が生産を始めるだけでは、実用
化に向けて歯車が 1 つ回るだけです。社会で役立てるためには、ロボットを操縦するオペレーターと、メン
テナンスする人が欠かせません。まあ、メンテナンスはメーカーが担当するとしても、オペレーターが決定
的に重要です。特にオペレーターが日ごろトレーニングを積んでおくことが大切なのです。
──小栁栄次氏、2011 年 8 月号、東日本大震災「災害対応ロボット・イノベーションに向けて」
「想定」は仕様書、欠かせないオペレーターの訓練
●テクノロジー・ベンチャーから大企業への迅速な技術移転を政府が下支えすることはもはや国家的課題で
ある。MIT で開発された軍事ロボットを開発製造する大学発ベンチャーが安価なお掃除ロボットを市場投入
したように、環境・介護・防災など低コスト高品質が求められる一般市場への民生品投入も可能になる。
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──瀬戸 篤氏、2011 年 9 月号、特集「深化する産学官連携とイノベーションの課題」
日本にテクノロジー・ベンチャーを育てる国家戦略を
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●部長クラスにしても研究者クラスにしても、今の企業の人は、ロードマップを作っています。ところが、
そのロードマップというのは、上司から「何年までにやれ!」と言われて、
「それなら何年までにできますよ」
と応えた形のロードマップでしかないのです。(略)しかし、本来のロードマップというのは、そうではあり
ません。研究開発にめどを付けるまでには、どのあたりに技術的に大変なことがあって、そこを解決すれば
次に進めることができ、また、ある段階まで開発すればどこどこまで行く、というのがロードマップです。
──川合知二氏、2012 年 9 月号、特集「新産業創造」
技術の解決課題を軸にロードマップを描け
ベンチャーの法則
●(大学発ベンチャー)育成環境の課題の 1 つは、
新産業創出のための公的資金投入の仕組み(ファンド)が、
うまく機能していないことである。コア技術を核とする新産業創出では、有力な差別化技術を創るための初
期投資を、いかに効果的に行うかが極めて重要である。
──南部修太郎氏、2011 年 10 月号、日本版エンジェルの創成が日本の新産業創出を活性化する!
●要所要所でチャンスを見逃さず、周りに惑わされずに判断してきたとは思っています。なので主要株主の
意見だからといって何も考えずに受け入れたりはしません。こう言うと怒られてしまいますが、私たちの研
究は投資家のためだけにやっているわけではないので、自分たちの選択が、人類社会のために大事だと判断
すれば、投資家とけんかをしてでもその選択を通してきていると思います。
──関山和秀氏、2014 年 4 月号、特集 1「ビジネス創造の歯車を回す」
志は強く、岐路では柔軟性を─「クモの糸」に賭けた起業家の決意─
連携の要諦
●共同研究相手企業とわれわれの研究グループの特色を生かした共同研究を目指したことが成功につながっ
た。われわれのグループでは菌の分離技術、構造決定など、確かな技術を持ち、相手企業(例えばメルク社)
は安全性試験、野外試験など、一連の開発研究に豊富な実績を持つ上に特許戦略などにも極めて優れていた。
──大村 智氏、2010 年 2 月号、特集「実用化への志と喜び ― 語り継ぐ昭和の産学連携」
天然有機化合物の動物、ヒト用医薬品 産学双方の研究グループの特色を生かす
●今後地方大学が産学官連携を進めていく上で、人材の外部化が戦略として重要である。限られた体制の地
方大学で、すべて大学内の人材で地域の課題や期待に応えていくことは至難の業である。地方において大事
な戦略は、必要なときに支援してくれる外部の人材を柔軟に幅広くネットワーク化しておくことであろう。
──小磯修二氏、2010 年 3 月号、地域の課題に向き合う─地方大学の挑戦─
●産学官連携は私たちの中の「風通し」「横通し」を良くするべく努めてきた。クローズな世界に閉じこもっ
ていた私たちを、よりオープンな存在とすべく努力してきたわけであり、その成果も着々と出つつある。な
らば、ここからは、その「横通し」の良くなった産学官の関係に、さらに「横串」を刺すアクションが必要
なのではないだろうか。
──小林喜光氏、2013 年 2 月号、巻頭言・横串
●現在日本を含め、世界経済が危機的状況に直面している。政治家やマスコミは、このような日本経済の危
機に直面するたびに、「日本には高い技術力がある」と繰り返してきた。確かに、現時点では、高いレベルの
技術力があることは、周知の事実であるが、果たして、この技術を活かせる社会構造になっているであろうか。
また、10 年後も 20 年後も高いレベルの技術を生み出し続ける国になっているであろうか。この点について
の議論は遅れている。
──山本貴史氏、2011 年 11 月号、巻頭言・分岐点に立たされた産学連携
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コーディネートの手法
●地域目線でのコーディネート活動は、まさに仏を作って魂を入れたようなもの。多くの制度が好もしそう
なお題目だけで実は現場に多大の負荷を掛けているのに対し、地域活動は担当者のフットワークと熱意によっ
て格段の発展を見た。この地域性と対面性に基づくコーディネート活動は全国でこれだけの成功を収めてき
たことでもあり、今後も形を変えつつ継承されることが期待される。
──村井眞二氏、2012 年 3 月号、特集「JST イノベーションプラザ・サテライトの成果を活かす」
JST イノベーションプラザが開拓した道
●大学や研究機関等アカデミックな分野を「川」、産業界を「海」とすると、弊社(九大 TLO)は「汽水域」
に存在していると言える。大学の産学連携組織との連携は、外部のコンサルティング企業よりも容易であり、
他大学も含めた地域活性化プロジェクトなど九州大学本体で直接対応することが難しい案件でも、弊社が窓
口(ハブ)となることにより、事がうまく運ぶ場合もある。
──坂本 剛氏、2012 年 3 月号、自立化目指す産学連携機構九州(九大 TLO)の新経営戦略
産業創造
●日本は世界有数の長寿国であり、がんや認知症をはじめ、数々の生活習慣病予防が急務となっている。中
国やインドなども 20 年ほど経つと、同じ状況を迎える。今のわが国の疾病予防への取り組みは、アジア諸国
の見本になる。この分野の研究成果は人類に貢献するだけでなく、同時に、わが国の大きな輸出産業にもな
──吉川敏一氏、2012 年 3 月号、巻頭言・疾病予防は有力産業
り得るのだ。
●「食」や「環境」の分野で高い優位性を有する北海道が、「健康」や「医療」に関する高度で先進的な知識
と技術を集積し、世界をリードする「健康科学・医療融合拠点」として先導的な取り組みを展開していくことは、
国が進める健康長寿社会の実現にも大きく貢献するものと考えている。
──高橋はるみ氏、2013 年 6 月号、巻頭言・健康科学・医療融合拠点の形成に向けて
●京都には歴史に培われた昔からの人々の「生き方の知恵」「暮らし方の知恵」「まちの在り方の知恵」が豊
富に蓄積されている。それらが文化の豊かさになり、進取の気性と創意工夫や独創力によって、さまざまな
高品位・高品質のモノづくりへと継承されてきた。
──立石義雄氏、2013 年 8 月号、巻頭言・知恵産業がイノベーションを支える
●岩手県の被災地の市町村長たちから三陸ブランドという言葉が出てくるようになりました。こういう雰囲
気になったのは今回が初めてです。やはり道路事業と国立公園の名称変更は大きかったと思いますね。ただ、
地域を形成する漁村集落は一つのコミュニティーとしてまとまり、お互いに助け合わなければやっていけな
い地域でもあります。コンパクト化した高層のアパートから漁場に通うわけにはいかないんです。第一次産
業で生きていくためのまちの形はあるわけですよ。そういうものを守りつつ、広域のまとまりをうまく形成
していくのが復興の方向だと思います。
──平山健一氏、2014 年 3 月号、特集 2「大震災から 3 年 挑戦が拓く産業復興」
三陸沿岸の広域連携、ブランド戦略の機運
科学技術の奥深さ
●工学の研究では、ある目標値を超えない限り、その技術は人間社会に貢献しない。そのレベルを「貢献限
度レベル」と私は呼んでいます。その根拠もきちんと説明できる目標値です。貢献限度レベルを研究者自身
がきちんと定めておかなければ駄目です。手書きの数字の読み取り率の目標が 97%以上というとき、ある方
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法で 85%ぐらいまでしかいかないとしたら、その方法論は捨てなければいけません。今まで一生懸命研究し
てきてもあえて捨てて、違う考え方、違う方法を見つけ出さなければならない。
──森 健一氏、2012 年 9 月号、特集「新産業創造」
日本語ワープロ開発に学ぶイノベーション
●かつては CPU だけだったのが、CPU とメモリーになった。そして今度は、CPU とメモリーと配線。配
線も主役になるのです。三者が主役となる時代が間もなくやってきます。しかし、今の電気配線だけですと、
その主役になり切れないという課題があるのです。理由は電磁的な干渉の問題が起きることで、そのために
高密度な配線ができないのです。ではどうするか。まず 1 つの伝送路でのスピードを上げればいい。でも、
それには限界がある。そういうところで、光が必要になってくるのです。
──荒川泰彦氏、2014 年 5 月号、インタビュー・時代が、光の技術を求めはじめた!
●基板上に鉄をまくかわりに鉄を浮遊させる、例えば電気炉を縦にして上から降らしてみました。そうした
ら、スポンジのようなものがたくさん塊となってできていました。すすではないんです。走査型電子顕微鏡
で調べたら、全部ファイバーでした。今日でいうカーボン・ナノチューブですね。すぐ企業と特許を出願し、
1987 年に特許化されました。製造コストが以前の方法の 100 分の 1 ぐらいと試算されたのです。工業化が
スタートしました。「幸運の女神は準備を整えた者にほほ笑みかける」というのは、たしかパスツールの言葉
ですね。それなんですよ。
──遠藤守信氏、2014 年 11 月号、インタビュー・ナノサイズの鉄の玉はどこから来た?
─カーボン・ナノチューブ発明秘話─
●無線通信はシャノンの限界を使った情報理論が成り立つ。ところが光通信は長い間そんなレベルまでには
行かず足元にも及ばなかったのです。基本的にのろし通信ですから、0 か 1。煙があるかないかで、のろし通
信が速くなっただけなのです。ところが、最近のように光の位相を制御した途端、光通信でもシャノンの限
界という言葉が使えるようになったんですよ。同じ電磁波ですから。そしてやっとわれわれも一人前になった。
無線の人は昔からこんなに面白い情報理論を駆使して通信をやっていたんです。しかし光通信に今までは深
い情報理論は必要なかったように思います。光通信はここ 5 年ほどで随分変わりました。
──中沢正隆氏、2014 年 9 月号、インタビュー・今日の高速・大容量光通信を実用化させた肝心の技術
研究の方法論
● SiC(シリコンカーバイド)のデバイス開発の仕事は、エネルギーや環境負荷低減に関するものですから、
特許を押さえて一企業とだけで実行できるものではありません。そのため、幾つもの国家プロジェクトの立
ち上げに関与して、国レベルでの展開を図ろうとしました。
──松波弘之氏、2010 年 12 月号、インタビュー・低炭素社会支えるシリコンカーバイド
デバイス実用化への道を切り開く
●毎日毎日、今までと連続しつつも、予想外の新しいことがどこかで起きる。それが新しい技術革新になる
わけです。今までのことを総合して、だからこうしようというのは、私はイノベーションじゃないと思う。
コンピューターを使って資料を集めるのは誰にでもできることです。誰も予測しなかった発見は膨大な資料
と議論から生まれるものではないのです。(略)菌類からコレステロール低下薬を探した前例はなかったし、
将来もこんな泥臭いことをする研究者は出てこないだろうと信じていました。
──遠藤 章氏、2011 年 1 月号、インタビュー・誠心誠意取り組んで、失敗しても悔やまない
●自分で作った結晶の特性を自分で調べる。こういう条件で作った結晶はこういう性質である、それを作り
方にフィードバックして、こういう性質を持たせるには次は温度を何度まで上げなければいけないといった
ようなことがわかる。そういうことをくり返して納得した結晶ができたとき、それを使ってデバイスを作る。
だから、デバイスだけをやろうという人にとって、結晶-物性-デバイスをすべて関連付けて研究すること
は一見遠回りで、効率的ではないように感じられるかもしれませんが、それらは相互に密接に関係していて、
独立に考えることはできません。
──赤﨑 勇氏、2011 年 4 月号、インタビュー・青色 LED 実現への道 未到の領域「われ一人荒野を行く」
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●産業界の人と一緒に研究するようになり新しいアイデアがどんどん出てくるようになったのです。それは
異分野、特に産業界の人とのインタラクションの過程で出てくることが多いのです。さらに重要なのは、応
用分野に対してのアイデアだけでなく、基礎的な、学術的な事柄に対してもアイデアが浮かんでくるように
──橋本和仁氏、2011 年 4 月号、特集「イノベーションシステムに欠けているもの」
なったのです。
社会的課題解決と研究者の役割
●シーズには 2 つあります。フィジカルバックグラウンドでのシーズと、エンジニアリング的に社会で生か
すシステムのためのシーズです。後者がまさしく工学的なアプローチです。こうしたアプローチが最近少な
過ぎるのではないでしょうか。大事なことは新しいシステムを生み出すことです。エンジニアリング的なア
プローチではただ新しいというだけでは十分でなく、将来、社会の中に埋め込まれる展望を持つ必要があり
ます。これが私からの提言です。
──末松安晴氏、2014 年 7 月号、インタビュー・大容量長距離光通信を切り開いた
半導体レーザ「この世にないものを創る」を信条に
独創的研究への発想
●炭素材料は窯業製品というよりは、特殊なシート状高分子と考えるべきだ。それを立証してみせる一番適
切な炭素製品が「ピッチ系炭素繊維」で、ピッチはその原料モノマーだ。この考え方に立てば、繊維以外に
も各種製品の開拓はできるはずだ。私はこのような炭素観で、炭素材料の基礎から応用製品にわたる新分野
を築くべく努力していた。
──大谷杉郎氏、2010 年 2 月号、特集「実用化への志と喜び─語り継ぐ昭和の産学連携」
ピッチ系炭素繊維 哲学を持った研究と企業の優秀なキーマンとの出会い
●垂直磁気記録方式という研究テーマは、(略)磁気記録の基礎的な研究を段階的に追究していく中で、おの
ずと見つかっていったものです。いわば、水平の研究を極限まで突き詰めていく中でそれ以外に方法はない
という形で出てきたテーマです。そのため垂直記録の原理、記録媒体、磁気ヘッドはすべて新しい発想に基
づくものになりました。まさに日本の独創技術と言えることを、私は誇りに思っています。
──岩崎俊一氏、2010 年 4 月号、特集「ハードディスク革命 岩崎俊一博士の 30 年」
磁気記録の研究を追究して生まれたテーマ─研究費に「成果」で応え社会貢献─
●自然免疫に入ったのはまったくの偶然でした。もし免疫学を詳しくやっていたら、こんな研究はしなかっ
たと思います。先日も、「お前は CpG-DNA を知らんからできたんや」って言われてしまいました。なぜか
というと、CpG-DNA の受容体は「細胞質内にある」という前提で進んでいた。取り込まれた後に反応が起
こるのだから、受容体は膜には存在せず、細胞質の中にあって、それが CpG-DNA と反応してシグナルが入る、
と考えられていたわけです。そこで細胞質成分を精製しようとしていたが、誰もうまくいかなかった。とこ
ろが僕は、そういう知識がなかったから突き止めることができたわけです。
──審良静男氏、2010 年 6 月号、インタビュー・免疫学の大革命が始まった!
●免疫学に関して全くの素人と言える天然物化学者が「冬虫夏草の免疫抑制成分の研究」をテーマに設定し
たのは、その周辺を化学的に研究していた者の直感と勘だけだ。強いて言えば、コオモリガ科の幼虫に菌フ
ユムシナツクサタケが侵入後、1 年間共生し子実体を発生させるという記述を読んで、菌が寄生している間、
幼虫の免疫様作用を抑制しているのではないかと、想像した。
──藤多哲朗氏、2010 年 6 月号、特集 2「ライフ・イノベーション」
冬虫夏草から新薬が生まれようとしている:直感でテーマ設定「培養」
「免疫抑制測定」は連携企業
●ソニー株式会社が LIB の開発に着手したのは 1980 年代の半ばのこと。当時、
ソニーが製造していた電池は、
乾電池、酸化銀電池などの一次電池のみだった。しかし、二次電池への要求が高まる中、ソニーも社内製品
に役立つ電池として、
二次電池を開発せよとの号令が盛田昭夫会長(当時)から下された。しかも、
「他社がやっ
ていない新しい電池をやれ」という注文付きだった。そのため、Ni-Cd や NiMH は最初からわれわれの視野
に入らなかった。
──西 美緒氏、2010 年 6 月号、特集1「グリーン・イノベーション」EV or not EV, that is a question
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●有機ホウ素化合物は反応性が弱いので、水があっても全然反応しない。溶媒の中の水不純物といった程度
ではなく、水そのものの中でも分解しないくらい反応性が低いのです。そういう優れた特徴がある。しかし、
有機ホウ素化合物は、パデュー大学の研究者仲間が言っていたように、安定な化合物だから有機合成には使
えないというのが大方の意見だったのです。(略)僕は、分解しないという長所を生かして、有機ホウ素化合
物を使った新しい有機合成の研究をしたいと考えました。1965 年にアメリカから北海道大学に戻り、この研
究をスタートさせたのです。
──鈴木 章氏、2011 年 9 月号、インタビュー・人生を決めた 2 冊の本
●ではなぜ特効薬ができていないかというと、それぞれのがんにおける本質的な増殖原因遺伝子が分かって
いないからで、何で分かってないかというと、異常遺伝子を見つける技術が世界にないからだと思ったわけ
です。その時、じゃあ自分たちの手でそれぞれのがん種における本質的な発がん原因を見つけることができ
るようなテクノロジーをつくろうと考えました。
──間野博行氏、2013 年 1 月号、特集 1「日本のがん研究から標的薬」
がん治療新時代 新手法で原因遺伝子を特定
●ファンダメンタルズ(基礎科学)に戻ることは非常に大切です。発見と発明の関係ですが、アインシュタ
インは光散乱の原理を発見しました。でも、光散乱ないしそれを上手に利用した製品を発明したわけではな
い。グラハム・ベルは電話を発明しました。でも、電話を発見したわけではない。発見とは、ニュートンの
重力の発見以来、真理の追究です。これにも私は大きなロマンを感じます。一方、発明とは社会貢献の追及で、
私はこれにも大きなロマンを感じるんです。
──小池康博氏、2013 年 8 月号、インタビュー・新たなイノベーションの、種はそろった!
プラスチック光ファイバーから、複屈折なしの液晶ディスプレーまで
●電解質溶液の中に二つの電極を入れて片方に光を当てると起電力が生じるという面白い反応があって、本
多(健一)先生はその研究をされていました。パリ大学の物理の先生が 1839 年に発見した現象で、その人
の名前をとって「ベクレル効果」と呼ばれています。ベクレルさんはもともと銀を使ってやったのですが、
その後、世界中の人がより光を感じやすい物質へと研究を進め、ちょうどゲルマニウムやシリコンなど半導
体の効果を調べる研究が始まっていました。アメリカのベル研究所などでも研究を始めていました。しかし、
光効果はあるけれど、これらの半導体ではすぐに水に溶けてしまうのが現実でした。私は特に、ベクレル効
果を発揮するもので水に溶けない物質を探し始めました。そんなとき偶然、酸化チタンと出会ったのです。
──藤嶋 昭氏、2014 年 9 月号、インタビュー・1,000 億円市場まで、育った光触媒
伝統を受け継ぐ
●昭和 46 年「アモルファス合金の研究」を学会等で発表しても、企業からの共同研究の申し込みは皆無の状
況であった。昭和 50 年代に入って、アモルファス合金の研究成果を一般新聞と共同通信に発表することを積
極的に行った。その結果、大学の研究成果が国内外に広く報道されるようになり、国内企業からの大学訪問
が急増し、また外国企業(米国、西ドイツ等)からの問い合わせが相次いだ。
──増本 健氏、2010 年 2 月号、特集「実用化への志と喜び―語り継ぐ昭和の産学連携」
アモルファス合金 官の支援「委託開発」で大企業と連携
● 20 年前「地域共同研究センター」として全国の大学に誕生した産学連携組織は、いま産学連携本部などと
して形を変えつつ管理運営組織の一角を占めるまでに成長した。その組織内にはネットワーク形成機能、知
的財産の管理・保護機能、そしてベンチャー企業育成機能を包含し、さらに産学連携研究のためのラボラトリー
運営機能をも担っているケースが多く見られる。TLO 組織との融合も進み、大学内部組織化や完全提携型に
移行している。しかし、産学官連携業務がまだ完全に大学のミッションとして大学内で認知されるところま
で成熟していないところに問題点が残っている。
──荒磯恒久氏、2010 年 2 月号、連載「産学官連携 15 年」
(後編)地域、グローバルを融合したイノベーションの創造
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● ATL は、疾患の概念の確立から、原因ウイルスの発見、発症メカニズムの確立、新たな治療薬の開発まで、
ずっと日本人研究者がリードしてきた特異な疾患であり、研究テーマです。
──上田龍三氏、2013 年 1 月号、特集 1「日本のがん研究から標的薬」
難病 ATL に向かう日本人研究者の執念
大学の役割・在り方
●電気自動車とこれまでの内燃機関自動車の違いを技術的側面で見ると、1 つは利用する科学的知識がより
広範囲に及ぶことである。第 2 に、使う技術の選択肢が増えることである。そして第 3 に、応用技術が大き
く発展する可能性を秘めているということである。これらのうち、まず第 1 の科学的知識という点では、こ
れまでの車では機械工学の知識が主だったが、これに加えて電磁気学、量子力学等の知識を基盤とする物理
学の総合的な成果が必要となる。
──清水 浩氏、2010 年 11 月号、特集 1「発進 次世代自動車」
次世代自動車と大学の役割
●多くの「知」が大学や学界には蓄積されている。あるいはこれからも蓄積されて行く。これらの「知」を
世の中に還元していくことにより、人が生き生きと生き、天寿を全うできる時代を創ることも、簡単ではな
いが決して夢物語ではないと思う。どうすれば人は自然災害や病と共生できるかを考え、このために科学や
技術を応用していくことにより人類の未来は明るく、平安なものとなるのではないかと思う。100 年先の基
盤を築くために、大学や学界関係者は、わが国はもちろんのこと人類の未来に責任を負っていることをいま
一度自覚する必要がある。
──平野俊夫氏、2012 年 5 月号、巻頭言・国家百年の計
●競争社会の中で共通の物差しが無いまま、点数主義化して論文数などで評価する傾向にある。論文の数が
目標になり小振りな研究になれば、創造性などに逆効果をもたらすのではと危惧している。人材を育てない
と研究成果も出ないので、研究はいわば教育の一環で派生するとも言える。上手くいかせて自信を持たせら
れるように、良いテーマや適切なアドバイス、設備の利用や情報の活用が自由にできるオープンな環境づく
りを心掛けている。ニーズに応え具体的に役立つものを実現し、社会に役立つことに誇りや喜びを感じても
らうように学生を教育している。
「良い子ぶりっこ」より「役に立つうれしさ」を大切にし、有用な人材を育て、
新産業の種になるような技術が大学から生まれるようにしていきたい。
──江刺正喜氏、2012 年 1 月号、マイクロシステムにおける産学連携
●既存の知識を伝授するだけでは大学として極めて不十分である。社会で現実に遭遇する局面では、幾つも
の要因が輻輳(ふくそう)した状況での対応が求められる。そこでは、状況を正しく分析する力とその先の
変化を読み取る先見性が要求される。このような状況での経験を積み重ねることで、より困難な状況に対応
できる力を蓄積していくことができる。このように自ら成長して行くことができる人材──これこそグロー
バル化した時代におけるリーダー──に必要な基礎力こそ大学教育の中核でなければならない。
──小畑秀文氏、2012 年 7 月号、巻頭言・グローバル人材の育成と大学教育の在り方
─迫られる自己変革─
●現場に行って、現物を見て、現実の解決方法を考えるというマイスター的な人材を養成することが必要で
すから、大学にはそういう場になっていただきたい。机の上でどうのこうのというのではなくて、いわば“大
学工場”というものがこれからの地方大学の一つの在り方ではないでしょうか。今の時代、なかなか現場に
行きたがらない。パソコンをたたいて喜んでいるというふうになりますからね。
──鈴木 修氏、2012 年 1 月号、白熱討論 浜松発:地域産業創造は教育・人材育成から
●文理対話能力をもった理系の人材が社会を考えて科学技術を推進し、文理対話能力をもった文系の人材が
その産業化と社会化を進める。それぞれの人材が対話し、連携することで、科学技術は科学の世界にとどま
らず、社会的課題を解決することに向かう。これが高等教育の目指すべき方向であろう。
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──山内 進氏、2012 年 11 月号、巻頭言・文理共鳴―文理の対話と連携
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●「大学の自治」という言葉がこちら(フィンランドの首都ヘルシンキの Aalto University)の副学長、副
学長補佐、工学部長との会話で何度か使用された。それを聞いていると、「大学の自治」の意味が日本と彼ら
とでは異なることに気が付いた。外部から干渉されないという意味では共通性を持っているが、日本で「大
学の自治」と言う場合、自分たちを外部干渉から守るという意味合いが強い。しかし、ここでは、自分たち
で生き抜くための自分たちに与えられた権利、という意味で使用している。
──村上敬宜氏、2014 年 1 月号、特集 1「世界と戦うために」
日本の大学は変われるか─フィンランドの大学改革、産学連携が教えること─
●本学の人事の仕組みはわれわれが自ら考えて、自主的に採り入れているわけです。国の委員会の答申とか
文科省の方針とかは一切関係ないんです。自分たちで考えることが重要なんです。うちだからできたんです。
ですから電通大がこれをやったから、皆さん、電通大の方式を採りましょうというのは駄目なんです。
──梶谷 誠氏、2014 年 10 月号、インタビュー・社会の発展への寄与と大学改革
モデル探しをやめ、自ら考え一歩ずつ前へ
求められる人材
●何年か経てば、今の若者が我々の立場になる。だから、若者には立派に成長して欲しい。そういう若者に今、
最も大切なことは、これまでの自分の居た社会とは異なる社会に身を置いて、「様々な経験をしながら、真摯
にものを考え、自らを磨くことである」と私は思っている。
──金澤一郎氏、2011 年 1 月号、巻頭言・若者に今最も大切なこと
●今目指しているのは、農と工の両分野が分かる人材です。例えば、農の分野の食料とか環境の専門家であ
ると同時に、工の分野の電池とかエネルギー問題にも一定以上の知見のある人間です。両方分かる人材は少
ない。しかし、行政、企業、あるいはいろいろな研究所などで方針を決めるときに、広い知見が求められます。
──松永 是氏、2012 年 1 月号、連載「東京農工大学の産学官連携」
(第 5 回)オープンイノベーション・ラボ生かし研究大学の機能強化
●わが国に必要なのは、異分野の人とチームを組み、多様な領域の知見を融合してイノベーションを創出し、
新産業に結び付けられる人材である。
──髙橋 実氏、2013 年 11 月号、巻頭言・工学のイノベーションハブを目指す
●いま社会、産業界が求める人材の資質は次の 3 つである。第 1 に、自分の専門分野の基礎学力をしっかり
身に付け、その能力を磨くだけでなく、周辺の科学技術の分野が、わが国および世界で、今後どうなっていか
なければならないのかについての視点――俯瞰力――を備えていること。第 2 に、
世界中の人とグループでディ
スカッションし、課題解決に向けて共同作業ができる協調性やコミュニケーションスキルを持つこと。第 3 に、
国籍、文化、宗教という垣根を越えて活躍する“理工人”となるために、人文系の教養、異文化理解のための
素養を身に付けること。こうした人材を育てるには産業界と連携して進める視点が必要である。
──三島良直氏、2013 年 5 月号、巻頭言・グローバル人材養成で産業界と連携
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産学官連携
ジャーナル
アーカイブ
科学技術イノベーションへの道(7)
イノベーションと事業をつなぐ
「産学官+金融」連携
イノベーションによる新産業創出、雇用拡大への期待が高まっており、産学官連携プロ
ジェクトではますます出口(事業化等)戦略、成果が求められている。そこで重要なの
が、金融機関の役割、すなわち事業化を目指す企業をファイナンスで支援することだ。
「産学官プラス金融」連携の記事を振り返る。
(編集長:登坂和洋)
9.金融機関は事業評価や技術評価のノウハウを学ぶ
開発段階へ進んだプロジェクトをさらに事業化段階へ進めるための関門がいわゆる
「死の谷」である。事業化を目指すには開発よりさらに多くの経営資源を投入する必
要があり、とりわけ資金確保は重要だ。
これは産学官連携プロジェクトにおいても、また大学発ベンチャーの育成でも
同様だが、ファイナンス機能の脆弱
(ぜいじゃく)性が指摘されている。産業界
(産)、大学等
(学)
、行政・公的機関
(官)
の連携の輪に金融機関
(金)
も加わるので、
産学官金連携とか「産学官+
(プラス)
金」連携といったキーワードで表される。
小誌の創刊 2 号目で以下のような特集が組まれている。
● 2005 年 2 月号 特集「ファイナンス」の立場から見た産学官連携と地域イノベーションの展開方向
・山口泰久氏 「産学官+金-イノベーションと事業を繋ぐ仕組み-」
・丹治規行氏 「信用金庫はなぜ産学連携組織「コラボ産学官」を支援するのか」
・松田一敬氏 「ベンチャーキャピタルと戦略的シンクタンクによる産学連携の
推進と地域興し」
山口泰久氏は上記の記事で、米国シリコンバレーの仕組みを紹介しながら、社会
的ネットワークと資金調達という切り口から、標題のテーマについて論じている。
「(わが国でも)徐々にではあるが、新しいタイプの社会的ネットワークやハイ
テク・ベンチャー・キャピタルは誕生しつつある」として、日本半導体ベンチャー
協会にベンチャー・キャピタル(以下「VC」
)や金融機関が参加していること、
東北や福岡県で VC が立ち上がったこと、さらに大企業の中にある「技術」を
事業化するためのカーブアウト(事業切り出し)ファンドについてさまざまな形
で検討が進んでいることを紹介し、次のように締めくくっている。
事業化に対して特にセンシティブな金融機関の関与と触媒としての機能、す
なわち「産学官+金」という社会的ネットワークが、各地で多層的に必要となっ
てきていると言えよう。さらには、そのようなシステムを早く、かつ、多数作っ
た地域が、これからの熾烈な地域間競争に勝ち抜いていくものと見られる。
山口泰久氏「産学官+金-イノベーションと事業を繋ぐ仕組み-」
地域における産学官金連携の先駆けを紹介したい。東京都八王子市に本部を置
く一般社団法人首都圏産業活性化協会(略称:TAMA 協会)という産学官連携
推進組織の取り組みである。同協会は東京・多摩地区を中心に北は埼玉県川越市、
南は神奈川県相模原市までの製造業者等の支援を目的としている。2003 年にこ
の地域を地盤とする西武信用金庫と組んで「TAMA ファンド」を創設し、地域
企業へのファイナンスの支援強化に乗り出したのである。
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次の特集はその関係者にインタビューしたものだ。
● 2005 年 11 月号
特集 TAMA クラスターの新展開-
「産学官+金融」を中心に-
・岡崎英人氏 「8年目を迎える TAMA 地域の新展開を聞く」
・山﨑正芳氏 「リレバンに先駆けた地域金融機関の挑戦」
・半澤佳宏氏 「ハンズオンで TAMA の起業家を支援する」
クラスターとは「ブドウの房」のことで、一粒一粒では出せない力を房として
出す、つまり連携、ネットワークを目指す新しい考え方。TAMA 協会は 1998
年4月の設立(当初は任意団体)時からクラスターという言葉を使用して、産学
官連携による新しいイノベーションシステムづくりを目指していた。経済産業省
が 2001 年度から始めた「産業クラスター政策」はこの TAMA 協会の取り組み
がモデルだった。
TAMA 協会事務局長の岡崎氏と西武信用金庫理事長の山﨑氏は TAMA ファ
ンドの背景についてこう説明する。
これまでさまざまな産学官連携事業をコーディネーションしてきました
が、最大の問題点は、製品のプロトタイプまではできるのですが、なかなか
商品化、市場化まで繋げることができません。性能は出るけれど、サイズが
大きすぎる、
重量が重い、
コストがかかる、
といったところを何とかして、
マー
ケットが望むところまで落とし込まないといけない。そのためには、事業化
のための追加の研究開発が必要ですが、国の公的資金のメニューには、事業
化資金のメニューがほとんどありません。
岡崎英人氏「8 年目を迎える TAMA 地域の新展開を聞く」
きっかけは、第一に、産学官連携に金融面からの支援を加えてほしいとい
う要請が、地域の金融機関に対してあったこと、第二に、当金庫でもちょう
ど 2002 年頃から、先の理事長が先頭に立って、顧客である中小企業の事業
支援を本格的に行っていこうという機運が高まっていました。TAMA 協会
さんとの連携によって、事業評価や技術評価のノウハウを学ぶとともに、事
業支援機能の相互補完を行っていきたいという考えがありました。
山﨑正芳氏「リレバンに先駆けた地域金融機関の挑戦」
その後、産学官金連携は各地に広がっていった。小誌は以下のような特集を組
んだ。
● 2010 年 8 月号
特集 地域金融・新モデル-産学金連携を探る
・大阪信用金庫 企業と大阪府立大との連携をコーディネート
・鹿児島銀行 農業関連の融資残高を5年で2倍に伸ばす
・米沢信用金庫 地域金融機関と山形大学で
「産学金連携コーディネーター研修」
● 2010 年 11 月号
特集 続 地域金融・新モデル
・いわて産学連携推進協議会(リエゾン-Ⅰ)企業の新事業創出を後押し
・山梨中央銀行 大学教授の研究成果を行員がレポートに
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・青い森信用金庫 自治体、支援機関、大学と協力し相談機能強化
・埼玉縣信用金庫 コーディネータとして企業を支援
銀行、銀行持株会社および各地の銀行協会を会員とする全国銀行協会は 2009
年 12 月、
「ニュービジネスの創出・育成に向けた産学官連携と銀行界が果たす
べき役割」と題するレポートを公表した。同協会に、銀行の取り組み状況やこの
提言について寄稿してもらった。
● 2010 年 4 月号~ 8 月号
連載 全国銀行協会 金融調査部「ニュービジネス創出・育成に向けた銀行界の役割」
・第 1 回 関係者からの銀行への期待
・第 2 回 銀行の産学官連携への取り組み状況(その 1)
・第 3 回 銀行の産学官連携への取り組み状況(その 2)
・第 4 回 産学官連携にかかわる銀行界の今後の取り組み
・第 5 回 産学官連携にかかわる銀行界の今後の取り組み(提言 その 2)
第1回で、同レポート作成の狙いを説明している。
産・学・官といったメインプレーヤーの取り組みに加え、銀行の持つ仲介
機能を通じた支援も、今後の産学官連携においては重要な役割を担っていく
ものと考えられる。銀行は、足元の経済情勢を踏まえ中小企業向けの金融円
滑化に最大限努力しているところではあるが、将来わが国経済の支えとなる
ビジネスの創出・育成を見据えて、産学官連携に取り組むことも銀行界に期
待されている役割であると認識している。
連載 「ニュービジネス創出・育成に向けた銀行界の役割」
第 1 回 関係者からの銀行への期待
この他小誌は、2012 年に各地の信用金庫の事例を 4 回連載で紹介した。
● 2012 年7月号~ 9 月号、11 月号
連載 「地域で頑張る信用金庫」
・7 月号 「取引先企業と研究者のマッチングから近く「製品」誕生-呉信用
金庫の産学官金連携-」
「伝統物産の桐たんすの廃材が化粧石鹸としてよみがえる―埼玉縣
・8 月号 信用金庫の産学官連携―」
「かけがえのない郷土「十勝」のために―帯広信用金庫の産学官金
・9 月号 連携―」
・11 月号 「西武信用金庫 相模原市藤野地区特産ユズの残渣を商品化」
以上、主に地域の産学官金連携に関する記事を紹介してきたが、イノベーション創
出を目指す現場では、一部の金融機関が構想していたようなダイナミックな展開には
なっていない。技術などについての「目利き」の難しさという課題もあるが、金融機
関のビジネスが財務・担保主義から脱却して、事業評価・技術評価による融資へ転
換できていないからである。このことは特にベンチャー育成、新産業創出で顕著であ
る。これを補うためにやがて「官製ファンド」の創設が盛んになるのである。
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視 点
流れを変え、日本から世界を変えたい
ひとが生きていくために大切なこと
★おととしが 3D プリンター、昨年はウェア
★土手に残った雪の間からフキノトウが芽吹い
ラブル端末、今年はドローン(マルチコプ
ター)。大学の研究成果をベースに生み出さ
れた技術やサービスが時代をどんどん変えて
いく。ゴールドラッシュさながらに数多くの
ベンチャーが設立され、大企業も参入して巨
額の民間資金が投入される。政府はその動き
に遅れまいと規制・制度をつくり、世界のイ
ニシアチブを取る。残念ながらこれは海の向
こうの話。日本はいつまでたっても蚊帳の外。
大学の研究もものづくり企業のレベルも世界
トップクラスなのに新しい時代に乗り切れな
いし、時代を作り出せない。この流れを変え
て、日本から世界を変えたい。そのネタはた
くさん大学にあるのだ。
松田 一敬 合同会社 Science & Research for Reconstruction
代表執行社員 医学博士
編 集 後 記
ている。 雪解けの水をゆったりたたえる川面
にネコヤナギが揺れる。自然は毎年変わらず
季節の移り変わりを知らせてくれる。 時の流
れを自然が教えてくれる。
ひとが生きていくために変わらぬものがあ
る。ひと・まち・しごと。 住み続けるふるさと
で仕事を得、生きていくにはどうしたらよいの
か。 今、大切なのは人のつながりの再生では
ないだろうか。 支え合う人間関係ではないだ
ろうか。 ひとはひとと離れて一 人では生きて
いけない。 考えてみれば当たり前のことを忘
れてしまいがちなこの頃である。
息づく春の兆しにふとわれに返る。
山本 外茂男 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学
産学官連携総合推進センター 教授
イノベーションと大学の役割
イノベーション創出に向け大学の役割に大きな期待が寄せられていますが、安倍政権の
成長戦略づくりを担っている産業競争力会議議員である橋本和仁東京大学大学院教授のお
話を伺うと(今号記事「成長戦略 次のテーマは国立大学改革」
)
、状況が一段と切迫して
いることが分かります。大学改革はこの 2 年ほど小誌が取り上げてきたテーマです。村上
敬宜氏「日本の大学は変われるか─フィンランドの大学改革、産学連携が教えること─」
(2014 年1月号)
、梶谷誠氏「社会の発展への寄与と大学改革 モデル探しをやめ、自ら考
え一歩ずつ前へ」
(同 10 月号)
、結城章夫氏「山形大学の有機エレクトロニクス研究 伝
統の強み生かし世界と戦う拠点整備」
(2015 年1月号)なども併せて読むと現場の課題を
つかんでいただけると思います。
今号でお薦めしたいのは東日本大震災復興特集の三輪敬之早稲田大学教授「身体表現で
“自分である”実感取り戻す」
。被災地で毎月ワークショップを開催しています。こういう
面白い話を発掘し研究者と記事をつくれるのは編集者冥利(みょうり)につきます。
なお 3 月末で編集長を卒業いたします。かれこれ 100 号近くつくってきたでしょうか。
産学官連携の世界の激しく変わる潮流はお伝えできたかなと思っています。読者の皆さま
のご支援に感謝申し上げます。
産学官連携ジャーナル(月刊)
2015 年 3 月号
2015 年 3 月 15 日発行
PRINT ISSN 2186 - 2621
ONLINE ISSN 1880 - 4128
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55
Vol.11 No.3 2015
産学官3月号.indb
55
2015/03/10
12:02:38
産学官連携ポータルサイト
産学官の道しるべ
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