ナシ黒斑病菌およびリンゴ斑点落葉病菌の病原性検定法

ナシ黒斑病菌およびリンゴ斑点落葉病菌の病原性検定法
765
特集:果樹病原体の病原性検定法
ナシ黒斑病菌およびリンゴ斑点落葉病菌の病原性検定法
農研機構 果樹研究所 カンキツ研究領域
足 立 嘉 彦
感受性を示す品種が存在し,その中に ふじ ,王林 ,陸
は じ め に
奥 , 北斗 , 金星 等現役の栽培品種が含まれているこ
ナシ黒斑病は,ニホンナシの重要病害である。これは,
今日でも主要品種の一つである 二十世紀 が感受性を示
とによる。これらの品種の栽培には,やはり本病の対策
が必要になる。
し,対策に困難を極めたことによる。本病感受性の品種
さらに,近年,リンゴ斑点落葉病菌は,セイヨウナシ
間差は極めて明確で, 二十世紀 などの特定品種には激
黒斑病の病原としても同定された。すなわち,セイヨウ
しい病徴が現れるが, 幸水 , 豊水 等抵抗性品種には
ナシの品種 ル・レクチェ および ゼネラル・レクラー
全く発病しない。このメカニズムは,黒斑病菌が感受性
ク に特異的に黒斑病を引き起こす病原でもある(棚橋
品 種 の み に 作 用 す る 宿 主 特 異 的 毒 素(host-specific
ら,2004;小笠原・荒井,2004)
。
toxin ; HST),AK 毒素を放出して病気を引き起こすとい
ナシ黒斑病およびリンゴ斑点落葉病ともに,当初,固
う性質に基づいている(NISHIMURA and KOHMOTO, 1983)。
有の新種として同定された。その後,両者の分生子の形
こうした背景から,本病抵抗性は育種の最大の目標とさ
態が Alternaria alternata と一致することから,宿主特
れ, 二十世紀 の血を受け継いで育成された 幸水 , 豊
異的毒素の生産性の付加によって,各々の宿主への病原
水 は 抵 抗 性 で あ り,現 在,広 く 普 及 し て い る(壽,
性を獲得した A. alternata の種内変異系統(病原型)と
植物防疫
2003)
。また,黒斑病に強い 二十世紀 を獲得するため,
の 位 置 づ け が 提 案 さ れ た(NISHIMURA and K OHMOTO ,
放射線育種も利用された。すなわち, 二十世紀 へのガ
1983;図―1)
。これは,分子系統学的にも支持される結
ンマ線照射と AK 毒素を用いた耐病性の突然変異体の選
果となっている(KUSABA and TSUGE, 1994 ; 1995 ; 1997)
。
抜によって育成された品種が ゴールド二十世紀 である
したがって,胞子形成法など両者の取扱いは,重複する
(壽,2003)。今日,本病は抵抗性品種の栽培で完全に防
ところが多い。そこで,本稿ではナシ黒斑病およびリン
除できる病害となっている。
ゴ斑点落葉病の病原性検定法をあわせて述べる。また,
リンゴ斑点落葉病は,1950 年代の初発生を端緒に,
瞬く間に全国の産地に拡大した。これは, スターキン
両者とも HST を産生する点に特徴があり,毒素感受性
検定についても簡単に付記することとした。
グ・デリシャス に代表されるデリシャス系品種の普及
なお,二つの病気についての基本的性質については北
に端を発している。本病に対する感受性も品種間差が明
島(1989 a ; 1989 b),分離法などの取扱については,最
確であり,デリシャス系品種や 印度 が高度感受性で激
近の澤村(1995)
,渡辺(1995)
,棚橋(2009)および對
しい病徴が現れるのに対し,抵抗性の 紅玉 , さんさ ,
馬(2009)の優れた解説もあり,本稿でも適宜引用させ
つがる 等にはほとんど発生しない。このメカニズムも,
斑点落葉病菌が生産する HST である AM 毒素に起因す
る(NISHIMURA and KOHMOTO, 1983)。抵抗性の評価では,
分生子の接種試験のほか,AM 毒素を利用した検定も用
いられた。こうした成果から,我が国で近年,育成され
たリンゴ品種の多くが斑点落葉病に抵抗性を有する(副
島,2003)
。にもかかわらず,本病は依然として防除を
欠かすことのできない病害である。これは,ナシ黒斑病
と異なり,高度感受性と抵抗性の間に様々な中間程度の
Evaluation Method for Pathogenicity and Host-specific Toxicity of
the Japanese Pear and Apple Pathotypes of Alternaria alternata. By Yoshihiko ADACHI
(キーワード:ナシ黒斑病,リンゴ斑点落葉病,宿主特異的毒素)
― 49 ―
図− 1 ナシ黒斑病菌の分生子