「みんなで考える白内障手術 ~QOV にこだわろう~」

第 29 回 JSCRS 学術総会 インストラクションコース・シラバス
「みんなで考える白内障手術 ~QOV にこだわろう~」
オーガナイザー: 大内雅之
(大内眼科)
三戸岡克哉(北戸田駅前みとおか眼科)
演者:
小川智一郎(東京慈恵医大)
飯田嘉彦(北里大学)
大内雅之(大内眼科)
後藤憲仁(獨協医大)
オーガナイザーから
眼内レンズ度数精度の向上、小切開化による医原性乱視の減少、LRI(輪部減張切開)・ト
ーリック眼内レンズの登場による、術中乱視矯正、さらには多焦点眼内レンズの登場など、
従来では考えられなかった術後視機能の向上、再建が、白内障手術の目指すゴールとなっ
てきました。そのため、新しい技術が登場するたびに、それらを上手く使いこなすための
コツや注意点は、学会をはじめ、多くのセミナーで取り上げられ、豊富な解説がなされて
います。
しかし、これら、屈折を含めた視機能の質と、そのメカニズムには、未だ解明されてい
ないものや、現在のテクノロジーでは、対応が十分とは言えない部分もあり、今でも我々
は、時に悩ましい症例に遭遇します。
これら術後屈折に関するトラブル症例では、結果的に術者が取るべき方向が示唆されるケ
ースもあれば、「正解」が分からないまま過ぎて行くケースもあり、この様なケースでは、
当然ながら、施設や術者によって、戦略、対応も異なってきます。
本コースでは、演者が実際に遭遇した、術後屈折を中心とした悩ましい症例を供覧し、
ディスカッションを加える形式です。いずれも、rare case では無く、明日にも皆さんが迷
うかも知れない、日常的に遭遇する症例です。中には、答えの出るものもあれば出ないも
のもありますが、これらの症例を中心に、聴講者のみなさんと、多くの経験を共有し、互
いに屈折矯正白内手術戦略の引き出しを増やせる事が出来れば幸いです。
長眼軸例の片眼手術、黄斑疾患症例の目標屈折、多焦点の適応関連
症例 1,2,3
眼軸長の左右差、眼優位性、mono vision の適応関連
症例 4,5,6,7,8
円錐角膜症例の眼内レンズ選択関連
症例 9,10
症例1
長眼軸眼の片眼白内障手術。眼内レンズ、目標屈折値について
42 才 男性
RV=0.04(1.5×-9.00D
cyl-1.25D Ax5°)
LV=0.08(0.7×-6.50D
cyl-2.75D Ax10°)
前嚢下白内障
角膜乱視 R:+1.00D Ax90°
L: +1.00D Ax95°
眼軸長 R: 27.68mm
L: 26.93mm
時々DSCL 使用している。出来れば遠方視したい。多焦点眼内レンズにも興味がある。
Q、本症例の、眼内レンズの選択および術後目標屈折値は?
症例2
長眼軸眼の白内障手術。眼内レンズ、目標屈折値について
63 才 男性
RV=0.03(1.2×-7.75D
cyl-0.75D Ax75°)
G1、軽度 PSC
LV=0.04(1.0×-7.00D
cyl-0.50D Ax95°)
G1、軽度 PSC
角膜乱視 R:+0.25D Ax10°
L: +0.25D Ax5°
眼軸長 R: 27.35mm
L: 26.08mm
両眼底 豹紋状、小乳頭
友人が多焦点レンズを挿入し非常に喜んでいる。どうしても多焦点眼内レンズをいれてほしい。
白内障の程度の割に見えにくさの訴えが強い。
Q.眼内レンズの選択および術後目標屈折値は。
症例3
黄斑機能不良、白内障術後矯正視力不良が予想される症例の目標屈折値について
78 才男性
右手術希望
RV=0.01 (0.1×s-0.5D=c-1.0Ax90°)
G2
LV=0.4 (0.8×s-0.5D=c-0.75Ax90°) G2
右眼底
AMD
右眼が暗くなってきたから、少しでも明るくしてほしい。
眼軸長 R: 24.20mm
L: 23.98mm
Q
右眼の術後目標屈折値は?
症例 4
核性白内障により不同視となっている症例の白内障手術
74 歳女性
Vd=0.06 (0.5×-2.75D=cyl-1.50D Ax95°)
LV=0.6 (0.8×+0.75D=cyl-1.25D Ax85°)
右眼は GII-III 程度の核性白内障、左眼は GII および皮質白内障を認めている。
眼軸長は右)24.12mm、左)23.87mm、優位眼は右眼、近見眼位は 10Δの外斜位である。
Q.この症例の手術計画を立てるにあたり、患者より聴取しておきたい情報は?
Q.得られた情報も踏まえて、この症例の目標屈折値はどうしますか?
症例 5
眼軸長 R<L
差 1.0mm、長眼軸眼が優位眼の症例
44 才 男性
RV=0.1 (0.6× s-6.5)
核白内障(++)
LV=0.08 (1.5×s-6.5)
手持ち眼鏡
R:s-4.5D、L: -6.0D 4~5 年前は、
オートレフ値
R: s-17.5=c-0.25 Ax 95
L: s-6.75=c-0.25 Ax28
眼軸長 R: 26.23mm
L: 27.25mm
前房深度
R: 4.34mm
L: 4.23mm
優位眼:左
SCl ユーザーで、出来れば遠方視したい
本症例の、右手術術後屈折ターゲットは?
1,術後 SCl 矯正する場合
2,術後眼鏡かけても良い場合
3, 左の手術も考えて良い場合
この眼鏡で、左右同じように見えていた。
症例 6
他院より紹介された白内障術後不満症例の原因は?
68 歳女性 「左右がアンバランスで疲れる、斜視が前よりもひどくなった気がする。」
幼少期より斜視の指摘あり、複視の自覚なし。28 歳時に斜視手術を受けたが、2~3 年で戻って
しまった。7 年ほど前より両眼の緑内障を指摘され点眼治療している。
徐々に白内障が進行し、他院で monovision を勧められ、白内障手術を施行。
術後より左右の違和感、アンバランスを自覚。斜視もひどくなった自覚あり。
とにかく日々の生活を送るのがつらくて仕方ないとのことで当院紹介受診。
Vd=(0.5xIOL)(0.7xIOL=-0.25=cyl-0.50Ax160)
Vs=(0.1xIOL)(0.6xIOL=-3.25=cyl-1.00Ax160)
20Δ 外斜視、左固視が多い。複視の自覚なし。
Dominant eye は左眼「以前から左眼で見ている感じ」
眼軸長 : 右 28.49mm, 左 27.67mm
Q.白内障手術前に、この症例の目標屈折値はどうすればよかったのでしょうか。
Q.この後、この症例に対してはどうアプローチすればよいでしょうか。
症例 7
眼軸差と眼優位性の考慮が足りなかった症例
51 才男性 右白内障手術希望
RV=0.01 (0.9×-16.0 =C-1.75 Ax 180°)
LV=0.09 (1.5×-5.75 =C- -1.25 Ax 160°)
右眼底 豹紋状、conus (+)、staphyloma (-),
OCT 上 CNV (-)
眼軸長 R: 31.50mm
L: 26.59mm
手持ち眼鏡 power
R: s-5.25D
L: s-5.50=c-1.25D Ax155
上記眼鏡を、不都合無く装用していた。
本例は、先ず Cl 装用練習を行い、術後、左 SCl 装用予定で右 emmetropia を taget に、白内
障眼内レンズ手術施行。
術後 RV=1.0 ×IOL(n.c)
LV=1.0 ×SCl
しかし、両眼視で強い違和感を訴える。
不等像検査(New Aniseconia test) R>L 7%
眼位: 遠見 6△、近見 20△ Exphoria< Extropia
立体視能:Fly (+)、Animal 2/3 (200”)、Circle 6/9 (80”)
Q1
僚眼の屈折が等価球面約-6D で、手術予定無し。病眼は、眼軸が 5mm 長い症例です。
最初に手術戦略、目標屈折をどうしますか?
Q2
上記のような結果になったあと、次の一手はどうしましょう?
症例 8
70 才男性
上下斜視があり、非優位眼が emme になってしまった僚眼の IOL ターゲット
右手術希望
RV=0.01 (0.3× s-30.0)
LV=指数弁 (0.5×s-24.5=c-1.5Ax95)
両眼底
黄斑部網脈絡萎縮
R/L 上外斜視(+++) Hess 複像検査:スライド参照
先ず、左 HCl 処方で LV=(0.6×HCl)、全く両眼視は出来ないため、右は-3.0D target でモノジ
ョンを予定するも、屈折ずれを起こし、
術後:RV=0.8×IOL (n.c.)
NRV=0.15×IOL (0.7×IOL=S+3.0)
LV=0.6×HCl
今回、左手術を希望
現在、L/R 上外斜視で、右が固視眼。交代視は可能、
両眼視は全く出来ず、不等像検査不可
Q.この様な症例に、左近方狙いの、モノビジョンは勧められるでしょうか?
症例 9 円錐角膜に対するトーリック IOL 選択に悩む症例
63 才男性 両眼白内障手術希望
RV=0.06 (0.08 × s-3.00D =c-5.00D Ax90) (0.2 x HCL)
LV=0.15 (0.2 × s+1.50D =c-5.00D Ax75) (0.3 x HCL)
CASIA による Ectasia Screening: R=95%Similarity, L=95%Similarity (円錐角膜合併)
CASIA によるフーリエ解析(3mm)
Regular Astigmatism:
R=3.76D 159°
L=2.75D 49°
Asymmetry:
R=10.16D 270°
L=2.09D 280°
Higher order irregularity:
R=0.81D
L=0.45D
白内障進行以前より右眼は HCL による矯正が必要(眼鏡矯正では 0.1 以下)、
左眼は眼鏡による矯正が可能であった。
現在は 1~2 回/週程度で HCL を使用している。
この様な症例に、トーリック IOL は勧められるでしょうか?
症例 10
長眼軸眼、円錐角膜(片眼のみ)合併の白内障手術。目標屈折値の設定について
55 歳男性
Vd=0.04 (0.6x-10.00D=cyl-4.00 Ax60°)、GII+皮質白内障あり
Vs=0.05 (1.2×-6.75D=cyl-1.00Ax170°)、GI 程度軽度白内障あり
右のみ円錐角膜を合併、昨年までは HCL を装用していた。保育園のバスを運転している。
「これを機に遠方に合わせたい」
角膜曲率 : (右眼) K1 45.86D, K2 48.91D、(左眼) K1 41.21D, K2 41.87D
眼軸長 : (右眼)30.17mm、(左眼)29.29mm
右トポグラフィー
左トポグラフィー
Q.この症例の手術計画はどうしますか?
(片眼のみ?、両眼?、目標屈折値や術後の屈折矯正は?、乱視矯正、トーリックの可否は?)