生命科学博士学位論文 ショウジョウバエ神経筋シナプス伝達調節機構における Centaurin gamma 1A の機能解析 東京 薬 科大 学 本間 瑞穂 生命 科 学研 究科 脳 神 経機 能学 研究 室 目 次 ------------------------------------------------------------------------------------------------------- 2 I 背 景 -------------------------------------------------------------------------------------------------- --3 II 研 究 方 法 ----------------------------------------------------------------- ------------------------------12 1. 使 用 系 統 -------------------------------------------------------------------- -----------------------12 2. RNA 干 渉 法 (RNA interference)------------------------------------ ------------------------------13 3. Gal4-UAS system------------------------------------------------------ ------------------------------13 4. 電 気 生 理 学 的 解 析 ---------------------------------------------------------------------------------14 4-1. 細 胞 内 電 位 記 録 法 -----------------------------------------------------------------------------14 4-2. Paired pulse stimulation (PPS) ------------------------------------------------------------- ----16 4-3. 高 頻 度 反 復 刺 激 に よ る シ ナ プ ス プ ー ル サ イ ズ の 測 定 -----------------------------------16 4-4. 電 気 生 理 学 的 手 法 に お け る 解 析 方 法 -------------------------------------------------------17 5. 形 態 観 察 -------------------------------------------------------------- ------------------------------18 III 実 験 結 果 ---------------------------------------------------------------- ------------------------------19 1. P 因 子 挿 入 に よ る cenG1A 変 異 体 に お け る 電 気 生 理 学 的 解 析 ------------------------------19 2. RNA 干 渉 法 に よ り 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 ----------------------------21 2-1. 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お け る 電 気 生 理 学 的 解 析 ------------21 2-2. 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お け る シ ナ プ ス 形 態 解 析 ------------25 2-3. 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お け る 放 出 確 率 の 解 析 ---------------28 2-4. 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お け る シ ナ プ ス 小 胞 数 の 解 析 -----31 IV 考 察 ------------------------------------------------------------------ ----------------------------------33 1. 神 経 細 胞 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 --------------------------------------------33 2. 筋 肉 細 胞 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 --------------------------------------------35 3. negative regulator と し て の CenG1A 機 能 ---------------------------------------- --------------36 V 謝 辞 ---------------------------------------------------------------------- ------------------------------38 VI 引 用 文 献 --------------------------------------------------------------- ------------------------------39 I, 背 景 シナプス伝達の概要 神経細胞同士、あるいは神経細胞と筋肉細胞がつながり、情報を伝達している 場所をシナプスという。化学シナプスにおける情報伝達は、神経細胞が発生した 活 動 電 位 が シ ナ プ ス 前 終 末 へ と 伝 播 す る こ と に よ り 、 電 位 依 存 性 Ca 2 + チ ャ ネ ル が 開 く こ と か ら 始 ま る 。 こ の チ ャ ネ ル の 開 口 に よ り シ ナ プ ス 前 細 胞 内 へ Ca 2 + が 流 入 し 、 細 胞 内 Ca 2 + 濃 度 が 上 昇 す る 。 そ れ に よ り シ ナ プ ス 前 細 胞 に あ る 神 経 伝 達 物 質 を 含 ん だ シ ナ プ ス 小 胞 が シ ナ プ ス 前 膜 に 融 合 し 、 シ ナ プ ス 間 隙 に 開 口 放 出 (エ キ ソ サ イ ト ー シ ス )さ れ る 。 放 出 さ れ た 神 経 伝 達 物 質 は 、 シ ナ プ ス 間 隙 を 拡 散 し 、 シ ナ プス後細胞の神経伝達物質受容体に結合する。この結合によって受容体が活性化 さ れ る こ と で 、 シ ナ プ ス 伝 達 が 行 わ れ て い る (図 1)。 シナプス前 細 胞 活動電位 Ca 2+ チャネル Ca 2+ シナプス小 胞 Ca 2+ 神経伝達物質 受容体 シナプス後 細 胞 図 1. シナプス伝達の模式図 シナプス前細胞に活動電位が伝わると、Ca2+チャネルが開口し、Ca2+が細胞内に流入する。シナプス小 胞がシナプス前膜に融合し、エキソサイトーシスによって神経伝達物質が放出される。神経伝達物質は シナプス間隙を拡散し、シナプス後細胞の受容体に結合する。 3 シナプス前細胞に存在する神経伝達物質を含んだシナプス小胞は、放出可能プ ー ル (RRP: Readily releasable pool) と 、 貯 蔵 プ ー ル (RP: reserve pool)の 主 に 二 種 類 の プ ー ル に 分 か れ て い る 。 RRP の 小 胞 は シ ナ プ ス 前 膜 に 付 着 し た 状 態 で 存 在 し 、 シ ナ プ ス 前 膜 の 脱 分 極 に よ る Ca 2 + の 流 入 に よ り 、 直 ち に シ ナ プ ス 前 膜 の 放 出 活 性 体 (active zone)に 融 合 す る こ と が で き る 。 こ の シ ナ プ ス 小 胞 の 前 膜 へ の 付 着 と 融 合 の メ カ ニ ズ ム と し て SNARE 仮 説 が 提 唱 さ れ て い る 。 SNARE 仮 説 と は 、 小 胞 の 膜 へ の 付 着 が 、小 胞 膜 上 に 存 在 す る v-SNARE、シ ナ プ ス 前 膜 側 に 存 在 す る t-SNARE と 細 胞 質 タ ン パ ク 質 で あ る SNAPs や NSF 等 と の 相 互 結 合 に よ る も の だ と す る と い う 仮説である。他にも、シナプトタグミン等の多くのタンパク質が関与し、標的膜 へ の 付 着 と 融 合 を 達 成 し て い る と 考 え ら れ て い る (Cowan et al, 2001)。一 方 、RP の 小胞は、アクチンで構成された細胞骨格に結合しており、シナプス前膜の脱分極 に よ る 細 胞 内 へ の Ca 2 + の 流 入 後 直 ち に は 放 出 さ れ ず 、 RP か ら RRP へ と 移 動 す る 。 こ の 二 種 の プ ー ル (RP と RRP)は 更 に 分 類 す る こ と が で き 、 放 出 さ れ る 能 力 を 持 つ が 前 膜 に 付 着 し て い な い‘ non-RRP’で あ る 小 胞 の プ ー ル を 、リ サ イ ク リ ン グ プ ー ル と 呼 び 、小 胞 は RP、 リ サ イ ク リ ン グ プ ー ル 、 RRP の 3 つ の プ ー ル に 分 け ら れ る と 考 え ら れ て い る 場 合 も あ る (図 2A)(Zucker and Regehr, 2002)。 図 2. シナプス小胞プール A, シナプス小胞は、貯蔵プール (RP: Reserve pool)、リサイクリングプール (Recycling pool)、即時放出 可能プール(RRP: Readily releasable pool )、の 3 つのプールにわけられると考えられている。B. ショウジ ョウバエ神経筋接合部のシナプス小胞プール。プールサイズと混入率(mixing rate)を示す。青い矢印は エンドサイトーシス、赤い矢印はプール間の混入を示す。(Rizzoli and Betz, 2005 を参照) 4 シ ナ プ ス 伝 達 で は 、神 経 伝 達 物 質 が 放 出 さ れ る と 、細 胞 膜 と 融 合 し た 小 胞 膜 が 、 エンドサイトーシスにより再び取り込まれ、神経伝達物質をつめられて再利用さ れ る リ サ イ ク リ ン グ と い う 現 象 が お き て い る 。シ ナ プ ス 小 胞 リ サ イ ク リ ン グ に は 、 2 つ の 反 応 の 速 い 経 路 と 1 つ の 遅 い 経 路 の 計 3 つ の 経 路 が あ る 。1 つ め は 、active zone に 小 胞 が 結 合 し た ま ま 神 経 伝 達 物 質 を 最 充 填 す る kiss and stay。 2 つ め は 、 局 所 的 な リ サ イ ク リ ン グ で ク ラ ス リ ン 非 依 存 的 に 行 わ れ る Kiss and run。 3 つ め は 、 ク ラ ス リ ン 依 存 的 な エ ン ド サ イ ト ー シ ス に よ る endosomal recycling で あ る (図 3)。 こ の 3 つ め の 経 路 で は 、ク ラ ス リ ン と い う タ ン パ ク 質 が 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る 。ク ラ スリンは膜の細胞質に面した側にかご状の網目構造を組み上げ、細胞膜を出芽さ せる。出芽した小胞の根元を囲むようにダイナミンタンパク が並び、小胞を膜か らくびり切ることにより、小胞は前膜からエンドサイトーシスされ細胞内に回収 される。これらの経路によりシナプス小胞は再びプールに充填される。このシナ プス小胞リサイクリングの過程にも多くの分子が関与しており、たとえば、低分 子 量 G タ ン パ ク で あ る Rab5 や Rab11 な ど が 関 与 し て い る こ と が 報 告 さ れ て い る (Maxfield and McGraw, 2004)。Rab5 は endosome の 形 成 と 機 能 に 関 与 し て お り (Lawe et al., 2002)、Rab11 は 、エ ン ド サ イ ト ー シ ス に よ り 取 り 込 ま れ た 分 子 の リ サ イ ク リ ン グ を 制 御 し て い る と い う 報 告 が あ る (Chen et al., 1998; Ren et al., 1998)。こ れ ら 多 くの因子が働き、シナプス小胞放出過程が適切に行われることで、シナプス伝達 が達成されている。 脳が正常に機能するためには、シナプスの構造・機能を適切に調節し、正しい 標的に対し、適切な量の情報伝達を行う必要があり、その構造形成、機能調節異 常によってアルツハイマー病、統合失調症などの様々な神経疾患が引き起こされ る 事 が 知 ら れ て い る (Busche et al., 2008; Lewis and Chetkovich, 2011)。そ の た め 、シ ナプス形成、シナプス機能調節の分子メカニズムを調べる事は非常に重要である が、まだ不明な点が多い。 5 図 3. シナプス小胞リサイクリング経路 Active zone に結合したまま伝達物質を充填される(Kiss-and-stay)。クラスリン非依存的で局所的なエンド サイトーシス(Kiss-and-run)。膜融合の後、クラスリン依存的なエンドサイトーシス(Endosomal recycling)。 (Südhof et al., 2004 を参照) 6 ショウジョウバエについて モデル生物としてのショウジョウバエ ショウジョウバエは、ライフサイクルが短く扱いやすいため、古くからモデル 生物として多くの研究で使われてきた。そのため、数々の遺伝学的、分子生物学 的手法が確立されており、分子レベルにおいても個体レベルにおいても解析が可 能である。これらの理由から優れたモデル生物となっており様々な研究に用いら れ て い る (Keshishian et al., 1996; Kazama et al., 2003; Marqués and Zhang, 2006; Uytterhoeven et al., 2011; Müller et al., 2011)。 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ で 用 い る 遺 伝 学 的 手 法 の 代 表 例 と し て GAL4 エ ン ハ ン サ ー ト ラ ッ プ 法 が あ る (Brand and Perrimon, 1993)。 こ れ は 、 ゲ ノ ム 上 に 存 在 す る 組 織 特 異 的 な エ ン ハ ン サ ー 活 性 を 利 用 し て 、 酵 母 由 来 の 転 写 因 子 GAL4 を 発 現 さ せ る 手 法 で あ る 。 エ ン ハ ン サ ー と は 遺 伝 子 の 前 後 や イ ン ト ロ ン の 中 な ど に 位 置 し 、付 近 の DNA 領 域 の 転 写 活 性 を 調 節 す る DNA 領域のことを示す。ショウジョウバエのゲノムには少なく とも数千以上のエンハ ンサーが存在することがわかっている。また、ショウジョウバエはトランスポゾ ン の 一 種 で あ る P 因 子 を も っ て い る 。P 因 子 は P 因 子 転 移 酵 素 に よ り ゲ ノ ム 内 を ジ ャ ン プ す る こ と が で き る 。 酵 母 由 来 の 転 写 調 節 因 子 で あ る gal4 遺 伝 子 を こ の P 因 子 に 組 み 込 む こ と に よ っ て 、 ゲ ノ ム 内 の さ ま ざ ま な 位 置 に gal4 遺 伝 子 が 挿 入 さ れ たエンハンサートラップ系統が作成できる。それぞれのエンハンサートラップ系 統 で は 、P 因 子 挿 入 位 置 の 近 く に あ る エ ン ハ ン サ ー の 調 節 を 受 け て GAL4 タ ン パ ク 質 が 発 現 す る 。 こ の GAL4 タ ン パ ク 質 は 、 UAS (upstream activator sequence) と 呼 ば れ る DNA 配 列 に 連 な る 遺 伝 子 の 発 現 を 誘 導 す る 。 任 意 の 遺 伝 子 を UAS の 下 流 に 組 み 込 ん だ 系 統 と 、GAL4 エ ン ハ ン サ ー ト ラ ッ プ 系 統 を 掛 け 合 わ せ る こ と に よ り 次 の 世 代 の 個 体 は GAL4 タ ン パ ク 質 が 発 現 し て い る 組 織 で の み 、 UAS 下 流 の 任 意 の 遺 伝 子 が 発 現 す る 個 体 と な る 。 様 々 な GAL4 エ ン ハ ン サ ー 系 統 、 UAS 系 統 が ゲ ノムプロジェクトにより作成され、ストックセンターに保存されている (Bloomington Stock Center、 National Institute of Genetics、 Drosophila Genetic Resource Center (DGRC) 京 都 )。 7 ショウジョウバエ幼虫神経筋接合部位 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 幼 虫 の 神 経 筋 接 合 部 位 は 、 A2-A7 の 各 体 節 に 片 側 あ た り 30 個 の筋肉細胞が規則正しくならび、腹部神経節から伸びた運動ニューロンがどの筋 肉 細 胞 に シ ナ プ ス を 形 成 し て い る か が 明 ら か に な っ て い る (keshishian et al., 1996) (図 4)。 そ の た め 、 シ ナ プ ス の 応 答 と 形 態 を 単 一 シ ナ プ ス レ ベ ル で 解 析 す る こ と が 可能であり、シナプス形成、機能調節の分子メカニズムの解明に適した実験系で あると考えられている。 ショウジョウバエ神経筋接合部位における情報伝達も、神経終末膜の脱分極に より、シナプス小胞のエキソサイトーシスがおき、受容体が活性化されることに よって行われている。ショウジョウバエ神経筋シナプスでは、シナプス間隙に放 出される神経伝達物質はグルタミン酸である。ショウジョウバエ幼虫の筋肉細胞 に は 、2 種 の グ ル タ ミ ン 酸 受 容 体 が 存 在 す る 。細 胞 内 電 位 記 録 法 を 用 い 、筋 肉 細 胞 の静止電位から、受容体への伝達物質結合によって生じた筋 肉細胞膜電位変化を 記録することによって、シナプス機能について解析を行うことが可能である。ま た、ショウジョウバエの神経筋シナプスのシナプス前細胞には、ターミナルに約 84,000 の 量 子 (小 胞 )を 含 ん で お り 、 全 シ ナ プ ス 小 胞 の 約 80% が 貯 蔵 プ ー ル に (Reserve pool: RP)、14~ 19% が リ サ イ ク リ ン グ プ ー ル (Recycling pool)、約 0.4% が 即 時 放 出 可 能 プ ー ル (readily releasable pool: RRP)に 貯 蔵 さ れ て い る と い わ れ て い る (Rizzoli and Betz, 2005)(図 2B)。 図 4. ショウジョウバエ神経筋接合部位 ショウジョウバエ幼虫神経筋接合部位は、半体節に約 35 のモーターニューロンが 30 個の筋肉細胞に投 射している。ISN: intersegmental nerve, SN: segmental nerve, vm: ventral midline, dm: dorsal midline. (keshishian et al., 1996 を参照) 8 ショウジョウバエ神経筋接合部位を用いた研究 神経筋接合部位をモデル系として、様々な因子のシナプスでの機能が研究され て い る 。 例 え ば 、 Phoshoinositide 3-kinase (PI3K)が 神 経 筋 シ ナ プ ス 伝 達 の negative regultor で あ る 可 能 性 を 示 唆 す る 研 究 や (Howlett et al., 2008)、細 胞 接 着 因 子 で あ る Fasciclin II (FasII)の 神 経 筋 シ ナ プ ス 発 達 や 可 塑 性 に お け る 機 能 な ど が 研 究 さ れ て い る (Davis et al., 1997; Sánchez-Soriano and Prokop, 2005 )。最 近 の 研 究 で は 、FasII が 足 場 タ ン パ ク 質 で あ る Discs large (Dlg)と 共 に 機 能 し 、 活 動 依 存 的 な シ ナ プ ス 発 達 を 調 節 し て い る と い う こ と も 明 ら か に な っ た (Beumer et al.,2002; Kazama et al., 2007; Morimoto et al., 2010)。ま た 、シ ナ プ ス 後 細 胞 か ら 、前 細 胞 に 働 き か け 伝 達 物 質 放 出 過 程 を 調 節 す る 逆 行 性 シ グ ナ ル (Retrograde signal) が 存 在 す る こ と が 明 ら か に な っ て お り (Davis and Goodman, 2002; Davis, 2006)、bone morphogenetic protein (BMP)と い う シ グ ナ ル 分 子 が 同 定 さ れ て い る (Aberle et al., 2002; Marqués et al., 2002; Marqués and Zhang, 2006)。 こ の よ う に 、 神 経 筋 接 合 部 位 を 用 い た 研 究 で 多 く の知見が得られている。 Centaurin に つ い て 本 研 究 で は 、 シ ナ プ ス 機 能 と 調 節 に 関 わ る 分 子 と し て 、 Centaurin と い う 分 子 に 着 目 し た 。 centaurin 遺 伝 子 は 共 通 ド メ イ ン と し て 、 GTPase (GTP を GDP に 変 換 す る )、 PH (脂 質 に 結 合 す る )、 ANK (ankyrin repeat, タ ン パ ク 質 と タ ン パ ク 質 間 の 相 互 作 用 に 関 わ る )、Arf GAP (ADP ribosylation factors GAP, GTPase を 活 性 化 す る ) を も ち 、 family を 形 成 し て い る (Jackson et al,. 2000) (図 5)。 哺 乳 類 に お い て は サ ブ フ ァ ミ リ ー が 4 種 (α, β, γ, δ)存 在 し 、 そ れ ぞ れ の 遺 伝 子 か ら 多 く の isoform が 産 生 さ れ る 。現 在 ま で に Centaurin family member が 、樹 状 突 起 分 化 や 、神 経 突 起 伸 長 に 関 与 し て い る と い う 報 告 が あ る (Moore et al., 2007; Kobayashi and Fukuda, 2012) 。ま た 、 gamma subgroup に 属 し て い る Centaurin family member は 、Phosphoinositide 3-kinase enhancers (PIKE)と 呼 ば れ 、 脳 発 達 な ど に お い て 機 能 を も つ と い う 報 告 (Chan and Ye, 2011)も あ り 、 Centaurin が シ ナ プ ス 発 達 に お い て 重 要 な 機 能 を 持 つ 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る 。 更 に 、 Centaurin は PtdIns (3,4,5)P3 (PIP3) の 標 的 候 補 で あ り 、 Arf-GTPase activating protein (Arf-GAP)と し て ADP ribosylation factor (Arf) と 相 互 作 用 す る と い う 報 告 も あ る (Jackson et al., 2000)。 Arf は small G protein family の ひ と つで、小胞輸送や神経細胞でのリサイクリングに関与しているという報告がある (Krauss et al., 2003; Klassen et al., 2010)。一 方 、PIP3 の 生 成 に 関 わ る Phoshoinositide 3-kinase (PI3K) は 神 経 細 胞 の 様 々 な 機 能 、 た と え ば 、 synapse 小 胞 の 数 の 調 節 や 、 樹 状 突 起 形 成 に 関 わ っ て い る と 報 告 が あ る (Rizzoli and Betz, 2002)。 ま た 、 ヒ ト の centaurin gamma2 は 、自 閉 症 患 者 の 欠 損 領 域 に 含 ま れ て い た 遺 伝 子 で あ る と い う 報 9 告 も あ る (Wassink et al., 2005) 。し か し 、Centaurin 遺 伝 子 の シ ナ プ ス に お け る 機 能 、 自 閉 症 と の 関 連 は ま だ 明 ら か に な っ て い な い 。Centaurin が ArfGAP や PH な ど の ド メ イ ン を も つ こ と か ら 、 私 は Centaurin family が 小 胞 の リ サ イ ク リ ン グ に 関 係 し て いる可能性があると考えた。 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ に お い て centaurin 遺 伝 子 は 、 遺 伝 子 が 2 種 (β, γ)、 1 つ の 遺 伝 子 か ら 産 生 さ れ る isoform も 3 つ (A, B, C)の み で 哺 乳 類 と 比 較 す る と 圧 倒 的 に 分 子 の 数 が 少 な い 。 本 研 究 で は 、 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ の 2 つ の centaurin 遺 伝 子 の う ち 、 centaurin gamma 1A (cenG1A) に 着 目 し た 。 cenG1A 遺 伝 子 は 、 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 幼 虫の筋肉細胞にも神経細胞にも存在し、発生段階において運動ニューロンが筋肉 細胞に投射していく過程で、運動ニューロンの投射に依存して筋肉細胞内で発現 量 が 増 加 し て い た 遺 伝 子 で あ る こ と が わ か っ て い る (Flybase, Fukui et al., 2012)。そ の た め 、CenG1A は 神 経 筋 シ ナ プ ス に お い て も 何 ら か の 機 能 を も つ こ と が 期 待 で き る分子である。 図 5. Centaurin family Centaurin family member の共通ドメインを示す。4 つの Centaurin subfamilyα, β, γ, δにおける配列相 同性によってグループ化した。Jackson et al., 2000 を参照。 10 本研究について 本 研 究 で は 、 CenG1A の シ ナ プ ス 伝 達 に お け る 機 能 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し 、 細 胞 内 膜 電 位 記 録 法 (Intracellular Recording 法 )を 用 い た 電 気 生 理 学 的 解 析 に よ り 、 cenG1A 遺 伝 子 の シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 神 経 筋 シ ナ プ ス に お け る 機 能 を 調 べ た 。cenG1A 遺 伝 子 の 変 異 体 に て 解 析 を 行 っ た 結 果 、CenG1A が シ ナ プ ス 伝 達 に お い て 機 能 を も つ 可 能 性 が 高 い こ と が わ か っ た 。そ の た め 、CenG1A の シ ナ プ ス 伝 達 に お け る 機 能 を 解 明 す る た め に 、組 織 特 異 的 (シ ナ プ ス 前 細 胞 、後 細 胞 特 異 的 ) に cenG1A 遺 伝 子 の発現を抑制した個体を用いて電気生理学的解析を行った。その結果、どちらの 系統においても、対照個体と比較してシナプス前細胞からの神経伝達物質放出量 が増加している可能性が高いことがわかり、神経細胞と筋肉細胞のどちらの CenG1A も 神 経 伝 達 物 質 放 出 過 程 に お い て 関 与 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 CenG1A を 抑 制 す る こ と に よ り 神 経 伝 達 物 質 放 出 量 が 増 加 し た こ と か ら 、 cenG1A 遺 伝 子 は 、シ ナ プ ス 伝 達 に お け る negative regulator と し て の 機 能 を も つ 可 能 性 が 示 唆された。 11 II 研 究 方 法 1, 使 用 系 統 全 て の 実 験 に お い て キ イ ロ シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ (Drosophila melanogaster)の 25℃ で 飼 育 し た 3 齢 幼 虫 を 実 験 動 物 と し て 用 い た 。 cenG1A 遺 伝 子 の シ ナ プ ス 機 能 へ の 影 響 を 調 べ る た め に 、P 因 子 挿 入 に よ り cenG1A 遺 伝 子 に 変 異 が お き て い る 個 体 (20232, 12957)(図 6)と 、Gal4-UAS system (Brand and Perrimon, 1993) を 用 い て 、組 織 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 調 節 し た 個 体 (図 6)を 使 用 し た 。 Gal4-UAS system と は 、 Gal4 系 統 と UAS(upstream activating sequence) 系 統 を か け あ わ せ る こ と で 、 任 意 の 分 子 を 特 定 の 組 織 に 発 現 さ せ る こ と が で き る 実 験 系 で あ る (後 述 )。 本研究では、以下の系統の個体を実験に使用した。 ・ Yellow White (yw) cenG1A 遺 伝 子 の 変 異 体 の 遺 伝 的 バ ッ ク グ ラ ウ ン ド に な っ て いる個体。対照個体として用いた。 ・ 20232, 12957 P 因 子 挿 入 に よ り cenG1A 遺 伝 子 に 変 異 が 起 き て い る 個 体 (Bellen et al., 2004)。 ・ elav-Gal4 全 神 経 細 胞 特 異 的 に GAL4 タ ン パ ク 質 を 発 現 し て い る GAL4 系 統 。 ・ 24B-Gal4 全 筋 肉 細 胞 特 異 的 に GAL4 タ ン パ ク 質 を 発 現 し て い る GAL4 系 統 。 ・ UAS-31811R-2(X)RNAi UAS 配 列 の 下 流 に cenG1A 遺 伝 子 に 対 す る RNA 干 渉 を 起 こ す 配 列 を も つ UAS 系 統 。 Centaurin gamma 1A IsoformB IsoformA 20232 (P element) IsoformC 12957(P element) 図 6. cenG1A 遺伝子の isoform と変異体 cenG1A 遺伝子と、P 因子挿入による cenG1A 遺伝子の変異体(20232, 12957)における P 因子の挿入 部位を示す。青い四角形はエキソンを示す。 12 2, RNA 干 渉 (RNAi: RNA interference) RNAi と は 、遺 伝 子 を 不 活 性 化 す る こ と が で き る 手 法 で あ る 。細 胞 ま た は 生 物 に 不 活 性 化 し た い 遺 伝 子 と 塩 基 配 列 が 一 致 す る 二 本 鎖 RNA 分 子 を 導 入 す る 。二 本 鎖 RNA は Dicer と い う 二 本 鎖 合 成 酵 素 に よ っ て 21bp 程 度 に 小 さ く 切 断 さ れ る 。こ の 断 片 が RISK と い う タ ン パ ク 複 合 体 と 結 合 し 、 標 的 遺 伝 子 か ら つ く ら れ る mRNA とハイブリット形成し、分解、または翻訳を阻害する。分解によって生じた短い 断 片 RNA は 新 た な 二 本 鎖 RNA 分 子 作 り に 使 わ れ 、 標 的 遺 伝 子 の mRNA は 絶 え ず 分 解 さ れ る (Alberts et al., 2002)。こ の よ う な メ カ ニ ズ ム に よ り 、RNAi を 用 い る こ と で 標 的 遺 伝 子 を 不 活 性 化 す る こ と が で き る 。シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ に は 2 つ の Dicer (Dicer-1, Dicer-2)が 存 在 す る 。 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ RNAi 機 構 に お い て は ,細 胞 内 に 取 り 込 ま れ た 外 来 二 本 鎖 RNA が Dicer-2 お よ び そ の 結 合 因 子 R2D2 依 存 的 に 小 分 子 RNA( small interfering RNA; siRNA) に 切 断 さ れ , 一 本 鎖 siRNA が RISC 中 核 因 子 AGO2 に 取 り 込 ま れ る こ と で RISC が 形 成 さ れ る 。 様 々 な 遺 伝 子 に 対 し て RNA 干 渉 を 起 こ す 配 列 を も つ UAS 系 統 が 作 成 さ れ 、stock center に 保 存 さ れ て い る (Drosophila Genetic Resource Center (DGRC) 京 都 )。 ま た 、 こ れ ら の 系 統 に Dicer を 共 発 現 さ せ る こ と で 、 RNA 干 渉 が 促 進 さ れ る (Dietzl et al., 2007)。 本 研 究 で は 、 centaurin 遺 伝 子 に 対 す る RNAi 配 列 を も つ UAS-31811R-2(X)RNAi と い う 系 統 を 使 用した。 3, Gal4-UAS system Gal4 系 統 は シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ ゲ ノ ム 内 の 様 々 な 位 置 に 酵 母 由 来 の 転 写 因 子 gal4 が 挿 入 さ れ た 系 統 で あ り 、 UAS 系 統 は 、 GAL4 タ ン パ ク 質 が 結 合 す る こ と に よ り 、 下 流 の 特 定 遺 伝 子 の 発 現 調 節 を 行 う UAS 配 列 を も つ 系 統 で あ る 。Gal4-UAS system と は 、こ の Gal4 系 統 と UAS 系 統 を 掛 け 合 わ せ る こ と に よ り 、GAL4 タ ン パ ク 質 が 発 現 し て い る 場 所 の み で UAS 配 列 の 下 流 の 目 的 遺 伝 子 を 発 現 さ せ る こ と が で き る 実 験 系 で あ る (Brand and Perrimon, 1993) 。 実 験 に は 、 UAS-31811R-2(X)RNAi と elav-Gal4 を 掛 け 合 わ せ る こ と で 、 全 神 経 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 が 抑 制 さ れ て い る 個 体 (elav-CentRNAi)、ま た 、UAS-31811R-2(X)RNAi と 24B-Gal4 を 掛 け 合 わ せ る こ と で 、全 筋 肉 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 が 抑 制 さ れ て い る 個 体 (24B-CentRNAi)を 使 用 し た (図 7)。そ れ ぞ れ に 対 す る 対 照 個 体 と し て 、遺 伝 的 バ ッ ク グ ラ ウ ン ド を あ わ せ る た め に ヘ テ ロ 接 合 体 を 使 用 し 、 UAS-31811R-2(X)RNAi× elav-Gal4 で は 、 elav-Gal4 × yw (elav) と UAS-31811R-2(X)RNAi×yw (CentRNAi)、 UAS-31811R-2(X)RNAi × 24B-Gal4 で は 、 24B-Gal4 × yw UAS-31811R-2(X)RNAi × yw (CentRNAi) を 使 用 し た 。 13 (24B) と 図 7. GAL4-UAS system Gal4 タンパク質が発現している場所でのみ、UAS の下流の任意の配列の発現を調節できる実験系。本 研究では、神経細胞特異的に Gal4 タンパクを発現している elav-Gal4、筋肉細胞特異的に Gal4 タンパク を発現している 24B-Gal4。cenG1A 遺伝子に対する RNAi 配列をもつ UAS-31811R-2(X)RNAi。 4, 電 気 生 理 学 的 解 析 4-1, 細 胞 内 電 位 記 録 法 細 胞 内 電 位 記 録 法 と は 、細 胞 内 に 電 極 を 挿 入 し て 、細 胞 内 外 の 電 位 差 を 測 定 す る 方法のことである。本研究では、神経細胞から放出された神経伝達物質が筋肉細 胞に存在する受容体に結合することによって生じる筋肉細胞の静止状態からの膜 電位変化を測定した。解剖は、筋収縮を防ぎ、細胞を静止状態に保つために、カ ル シ ウ ム free の HL3(70mM Nacl, 5mM KCl, 20mM MgCl2 ・ 6H2O, 10mM NaHCO3, 5mM Trehalose, 115mM Sucrose, 5mM HepeS) 溶 液 中 で 行 っ た 。 3 齢 幼 虫 の 頭 と 尾 を 虫 ピ ン で 固 定 し 、背 側 か ら ト ラ キ ア (気 管 )の 間 を 解 剖 ハ サ ミ で 切 断 し 、切 断 面 を 引 っ張りながら四隅を虫ピンで留め、筋肉が露出するように開いた。トラキアを傷 つけないように内臓を取り除き、腹部神経節から各体節に伸びている神経束を切 り 離 し た (図 8 下 図 )。 神 経 束 刺 激 は 、 ガ ラ ス の 刺 激 電 極 (内 径 6-7μm)を 用 い て 、 切 り 離 し た 神 経 束 の 端 を 図 8A,B の よ う に 吸 い 込 み 2- 4mV の 刺 激 を 与 え る こ と で 行 った。膜電位の記録は刺激電極により吸い込んだ神経束が支配している体節の筋 肉 細 胞 (6 番 も し く は 7 番 筋 肉 細 胞 )に 、 3mM KCl で 満 た し た ガ ラ ス 記 録 電 極 (内 径 14 2μm 以 下 、抵 抗 15MΩ 以 上 )を 挿 入 し て 行 っ た (図 8 下 図 )。1 個 体 か ら は 1 体 節 の み を 使 用 し た 。 増 幅 器 は Multiclamp700A (Axson instruments Inc., CA, USA)、 AD 変 換 機 は Digidata1322A (Axson instruments Inc., CA, USA) を 使 用 し た 。 記 録 測 定 時 の 外 液 は カ ル シ ウ ム 濃 度 を 二 種 類 (CaCl 2 1.5mM , CaCl 2 0.375mM) に 変 化 さ せ た 。刺 激 電 極 か ら 吸 い 込 ん だ 神 経 束 に 2- 4mV, 0.2Hz の 刺 激 を 10 回 与 え て 、 刺 激 に よ る 神 経 伝 達 物 質 放 出 に 伴 う 膜 電 位 の 変 化 (Excitatory junctional potentials: EJPs)を ガ ラ ス 記 録 電 極 に よ り 記 録 し た 。 静 止 膜 電 位 か ら ピ ー ク 電 位 ま で の 差 異 を EJP の 大 き さ (EJPs amplitude)と し 、10 回 の 刺 激 に よ る 応 答 を 1 個 体 の EJPs amplitude と し た 。 さ ら に 、 個 体 ご と に 得 ら れ た EJPs amplitude を 平 均 し 、 そ の 系 統 の EJPs amplitude の 値 と し て 使 用 し た 。ま た 、0.375mM の CaCl 2 を 含 む HL3 溶 液 下 で 刺 激 を 行 わ ず に 、 自 発 的 な 神 経 伝 達 物 質 放 出 に 伴 う 膜 電 位 の 変 化 (Miniatur junctional potentials: mEJPs)を 3 分 間 記 録 し た 。3 分 間 中 の 任 意 の 30 秒 間 に 生 じ た 各 応 答 の 静 止 膜 電 位 か ら ピ ー ク 電 位 ま で の 差 異 の 大 き さ (応 答 数 100 以 上 )を 1 個 体 に お け る mEJPs amplitude と し 、個 体 ご と に 得 ら れ た mEJPs amplitude の 平 均 値 を 、そ の 系 統 の mEJPs amplitude の 値 と し て 使 用 し た 。 図 8. 細胞内膜電位記録法 上図 A,B, ガラス刺激電極によって神経束 を吸い込む様子。Scale bar は 50μm。 (Macleod, G. T et al., 2002) より抜粋した。下 図, 吸い込んだ神経束が支配している体節 の筋肉細胞に下図のようにガラス記録電極 を挿入し、筋肉膜電位を記録する。 Stimulati ng R e c or di ng 15 4-2, Paired Pulse Stimulation (PPS) Paired Pulse Stimulation (PPS)は 、数 十 ミ リ 秒 の 時 間 間 隔 で 二 回 刺 激 を 行 い 、シ ナ プス伝達を誘起させる手法である。一般に、一回目の刺激による応答に対し、二 回 目 の 刺 激 に よ る 応 答 が 増 大 す る 。こ れ を Paired pulse facilitation (PPF) と い い 、残 存 Ca 2 + に 起 因 す る 現 象 で あ る と い わ れ て い る (Zucker and Regehr, 2002)。 PPS に お い て 、 2 回 目 の 応 答 に 対 す る 1 回 目 の 応 答 の 比 を と り 、 Paired pulse ratio;PPR を 算 出 す る 。こ れ は 、Ca 2 + 依 存 的 な 放 出 確 率 の 増 減 の 指 標 と し て 用 い ら れ る (McNaughton, 1982; Manabe et al., 1993)。 対 照 個 体 と 比 較 し て 放 出 確 率 が 高 い 個 体 は 、 一 回 目 の 刺激によって多くの小胞が放出されてしまい、二回目の刺激に対して放出される 小 胞 が 少 な く な っ て し ま う た め 、PPR は 対 照 個 体 と 比 較 し 小 さ く な る 。そ の た め 、 対 照 個 体 と 比 較 し て 、 PPR が 大 き い 個 体 は 、 放 出 確 率 が 低 く 、 PPR が 小 さ い 個 体 は 、 放 出 確 率 が 高 い 個 体 と 考 え ら れ て い る 。 3 種 の 時 間 間 隔 (25ms, 50ms, 100ms)の 2 回 連 続 刺 激 を 与 え 、 応 答 を 記 録 し た 。 そ れ ぞ れ の 時 間 間 隔 の 二 回 連 続 刺 激 で 10 回 刺 激 を 行 い 、 そ の 10 回 の PPR を 1 個 体 の PPR と し 、 全 個 体 の 平 均 値 を 、 そ の 系 統 の PPR の 値 と し て 算 出 し た 。 4-3, 高 頻 度 反 復 刺 激 に よ る シ ナ プ ス 小 胞 プ ー ル サ イ ズ の 測 定 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ の 神 経 筋 シ ナ プ ス に お い て 、RRP の シ ナ プ ス 小 胞 は 10Hz 程 度 の 刺 激 を 5~ 10 回 行 う だ け で 枯 渇 す る が 、 RP に 貯 蔵 さ れ て い る シ ナ プ ス 小 胞 は 少 な く と も 30Hz 以 上 の 高 頻 度 刺 激 が 必 要 で あ る (Rizzoli and Betz, 2005)。そ こ で 、RRP の シ ナ プ ス 小 胞 だ け で な く 、 RP に 貯 蔵 さ れ て い る シ ナ プ ス 小 胞 の 放 出 も 促 す た め に 、50Hz の 高 頻 度 刺 激 を 行 っ た 。こ れ に よ り 、高 頻 度 刺 激 下 に お い て RP か ら RRP へ 移 行 し 放 出 さ れ る 、 放 出 さ れ る 能 力 を も つ シ ナ プ ス 小 胞 の 総 数 (本 研 究 で は こ れ を 、 放 出 可 能 シ ナ プ ス 小 胞 数 と よ ぶ )を 知 る こ と が で き る 。 本 研 究 で は 、 放 出 可 能 シ ナ プ ス 小 胞 数 を 測 定 す る た め に 、外 液 の Ca 2 + 濃 度 を 高 濃 度 (2.5mM)に し た 状 態 で 50Hz の 高 頻 度 刺 激 を 30sec 行 い 、 EJP amplitude を 測 定 し た 。 刺 激 を 行 う に つ れ て EJP amplitude は 徐 々 に 減 衰 し て い く (図 9)、こ の 減 衰 度 合 が 大 き い も の は 、減 衰 度 合が少ないものと比較して、放出可能シナプス小胞数が少ないと判断できる。こ こ で は 、刺 激 開 始 後 に み ら れ た 最 大 amplitude (Max peak)か ら 、30sec 後 刺 激 終 了 時 の amplitude (Last peak) が ど れ だ け 減 衰 し た か 、 減 衰 度 合 を 測 定 す る た め に 、 Max peak に 対 す る Last peak の 割 合 を % で 算 出 し 、放 出 可 能 シ ナ プ ス 小 胞 数 の 指 標 と し て使用した。 16 図 9. 高頻度刺激による放出可能シナプス小胞数の測定 50Hz の高頻度刺激を 30sec 行ったときの EJPs 記録。刺激開始から 刺激終了時にかけて EJPs amplitude は徐々に減衰してくる。Scale bar は 5000ms, 10mV。 4-4, 電 気 生 理 学 的 手 法 に お け る 解 析 方 法 EJPs amplitude, mEJPs amplitude の 算 出 は 全 て Mini analysis (Synaptosoft Inc., NJ USA)を 使 用 し た 。膜 電 位 が -55mV~ -76mV の デ ー タ を 使 用 し た 。PPS、高 頻 度 刺 激 に お け る amplitude は 、 Clamp fit 9.0 (Axson instruments Inc., CA, USA ) を 用 い て 静 止 膜 電 位 か ら 、最 大 の ポ イ ン ト を 手 動 で 測 定 し た (図 10)。全 て の デ ー タ は 、one-way analysis of variance (ANOVA)に よ り 統 計 処 理 を 行 っ た 。 図 10. EJP における amplitude の測定 Baseline (-55mV~-76mV)から Peak amplitude までを EJP amplitude と し て 測 定 し た 。 Scale bar は 100msec,5mV。 17 5, 形 態 学 的 解 析 CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 際 に シ ナ プ ス 形 態 に 与 え る 影 響 を 解 析 す る た め に 、抗 体 染 色 を 用 い て 、生 理 学 実 験 に 用 い た 6 番 筋 肉 を 含 む 、6,7 番 筋 肉 の シ ナ プ ス の 形 態 観察を行った。 一次抗体として、 goat anti-horse radish peroxides (HRP), mouse anti-GluRIIA, mouse anti-nc82 二次抗体として donkey anti-mouse Alexa488, donkey anti-goot Alexa594 (Molecular Probes, Engene, OR, USA, ) を 使 用 し た 。 観 察 は 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 (Olympus FV1000D IX81 confocal laser scanning microscope, Olympus, Tokyo, Japan) を 用 い て 行 い 、 解 析 は IPLab software (Scanalytics, Fairfax, VA, USA) を 用 い て 行 っ た 。 シ ナ プ ス 前 細 胞 の マ ー カ ー と し て 使 用 し た 抗 HRP 抗 体 を 用 い る こ と に よ り 染 色 さ れ た 神 経 細 胞 (図 11A 上 図 )の 面 積 を そ の 神 経 が 投 射 し て い る 筋 肉 細 胞 の 面 積 で 割 り 付 け た 値 を 神 経 の 面 積 と し て 使 用 し た 。ま た 、GluRIIA 抗 体 を 用 い る こ と に よ り 染 色 さ れ た 6,7 番 筋 肉 の シ ナ プ ス の GluRIIA(図 11A 下 図 )の 蛍 光 強 度 を GluRIIA 量 と し て 用 い た 。HRP に 対 す る 抗 体 で 染 色 さ れ た エ リ ア の 面 積 、GluRIIA の 蛍 光 強 度 の 値 は 、そ れ ぞ れ CentRNAi の 個 体 か ら 得 ら れ た 値 で ノ ー マ ラ イ ズ し 、そ れ ぞ れ の 系 統 の 値 と し て 使 用 し た 。さ ら に active zone の マ ー カ ー で あ る nc82 を 用 い る こ と に よ り 染 色 さ れ た puncta の 数 は 、6.7 番 筋 肉 に 投 射 し て い る シ ナ プ ス か ら ラ ン ダ ム に 4 つ の bouton (図 11B)を 選 択 し 、そ の bouton 内 に 観 察 で き る nc82 positive puncta を 測 定 、 bouton 一 つ 分 の puncta 数 の 平 均 を そ の 個 体 の puncta 数 と し て 用 い た 。 A, B, HRP HRP GluRIIA 図 11. 抗体染色による形態観察 A,上図, HRP に対する抗体によって染色された 6,7 番筋シナプスの神経細胞。下図, GuRIIA 抗体によ って染色された 6,7 番筋シナプスの GluRIIA 受容体。Scale bar は 50μm。B, NC82 によって染色され た active zone。円は 1 つの bouton を示す。1 サンプルからランダムに 4 つの bouton を選択して puncta を数えた。Scale bar は 10μm。 18 III, 実 験 結 果 1, P 因 子 挿 入 に よ る cenG1A 変 異 体 に お け る 電 気 生 理 学 的 解 析 cenG1A 遺 伝 子 が シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 神 経 筋 シ ナ プ ス に お い て 機 能 を も つ か ど う か を 調 べ る た め に 、ま ず cenG1A の 変 異 個 体 (20232, 12957)の NMJs お い て 、筋 肉 細 胞 か ら 細 胞 内 電 位 記 録 法 を 行 っ た 。20232, 12957 は ど ち ら も ト ラ ン ス ポ ゾ ン の 一 種 で ある P 因子の挿入による変異体であり、機能喪失型の変異体であると考えられる (FlyBase)。 図 12-A は 、 実 際 に 記 録 さ れ た EJPs で あ る 。 こ の よ う に 、 神 経 線 維 を 刺 激 す る と 潜 時 2.5ms 以 下 で 細 胞 膜 電 位 の 変 化 、 EJPs が 記 録 で き る 。 対 照 個 体 、 お よ び 変 異 体 20232, 12957 に お い て 、 EJPs を 比 較 し た と こ ろ 、 図 12A か ら も わ か る よ う に 、変 異 体 で は EJPs amplitude が 増 大 し て い る こ と が わ か っ た 。個 体 ご と に 得 ら れ た EJPs amplitude を 平 均 し た 値 か ら も 、 20232, 12957 共 に EJPs amplitude は 対 照 個 体 と 比 較 し て 有 意 に 増 大 し て い る こ と が 示 さ れ た (図 12A, yw; 31.63±1.78 mV, n=22, 20232; 49.49±1.73 mV, n=20, 12957; 46.74±2.90 mV, n=13, **P<0.00 01, ANOVA) 。次 に 、 自 発 的 な 応 答 で あ る mEJP を 測 定 し た (図 12B)。mEJPs は 、小 胞 1 個 の 放 出 に よ る 膜 電 位 の 変 化 の 指 標 と 考 え ら れ 、シ ナ プ ス 後 細 胞 に あ る 神 経 伝 達 物 質 受 容 体 の 感 受 性 の 変 化 に よ っ て 変 化 す る と 考 え ら れ て い る (Yamaguchi et al, 1997)。 図 1B の よ う に 、 無 刺 激 状 態 で も 自 発 的 な 神 経 伝 達 物 質 放 出 に 伴 う 細 胞 膜 電 位 変 動 が 記 録 で き る 。 mEJPs amplitude の 平 均 値 を 対 照 個 体 と 変 異 体 と の 間 で 比 較 し た と こ ろ 有 意 な 変 化 は 見 ら れ な か っ た (図 12B, yw; 1.32±0.08 mV, n=24, 20232; 1.27±0.07 mV, n=20, 12957; 1.14±0.03 mV, n=31, P=0. 09, ANOVA) 。 ま た 、 同 一 個 体 か ら 記 録 さ れ た EJP/mEJP で 算 出 で き る Quantal content (QC)を 算 出 し た と こ ろ 、 変 異 体 は 対 照 個 体 と 比 較 し QC が 有 意 に 増 大 し て い る こ と が わ か っ た (図 12C, yw; 25.64±2.26, n=11, 20232; 42.39±3.87, n=9, 12957; 43.06±3.36, n=7, *P<0.01, ANOVA)。 QC は 、 神 経 細 胞 が 刺 激 を 受 け た 際 に 、 シ ナ プ ス 前 細 胞 か ら 放 出 さ れ た シ ナ プ ス 小 胞 数 の 放 出 量 の 指 標 と し て 用 い る こ と が で き る 。 cenG1A 遺 伝 子 の 二 種 類 の 変 異 体 で は 、mEJPs amplitude に 差 異 が 見 ら れ な か っ た こ と か ら 、小 胞 サ イ ズ 、 神 経 伝 達 物 質 受 容 体 の 感 受 性 に は 変 化 が な い 可 能 性 が 考 え ら れ 、 EJPs amplitude、 QC が 増 大 し て い る こ と か ら 、シ ナ プ ス 前 細 胞 か ら の 神 経 伝 達 物 質 放 出 量 が 増 加 し て い る 可 能 性 が あ る こ と が わ か っ た 。 cenG1A 遺 伝 子 の 二 種 類 の 変 異 体 を 用 い て 得 ら れ た こ れ ら の 結 果 か ら 、CenG1A が シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 神 経 筋 シ ナ プ ス の 伝 達 機 構 において何らかの機能をもつことが示唆された。 19 図 12. P 因子挿入による cenG1A 変異体における電気生理学的解析 A, 上図:0.2Hz で 10 回刺激した時の刺激に伴う神経伝達物質放出による筋肉細胞膜電位変化 (EJPs: excitatory junctional potentials)の 10 回のトレース。対照個体(左:Yw)と二種の cenG1A 変異体(中央:20232、 右:12957)を示す。Scale bar: 100ms, 10mV。下図:それぞれの系統から得られた EJPs amplitude の平均値 のグラフを示す。二種の cenG1A 変異体(中央:20232、右:12957)は対照個体(左:yw)と比較して EJPs amplitude が有意に増大している (yw, n=22; 20232, n=20; 12957, n=13. **P<0.0001, ANOVA)。 B, 上図: 実際に記録された自発的な神経伝達物質放出による筋肉細胞膜電位変化 (mEJPs: miniature junctional potentials)。対照個体(左:yw)と二種の cenG1A 変異体(中央:20232、右:12957)を示す。Scale bar: 100ms, 1mV。 下図:それぞれの系統から得られた mEJPs amplitude の平均値のグラフを示す。cenG1A のどちらの変異 体も対照個体と比較して差異はみられなかった (yw, n=24; 20232, n=20; 12957, n=31; P=0.09. ANOVA)。 20 C, Quantal content の平均値のグラフを示す。二種の cenG1A 変異体(中央:20232、右:12957)は対照個体 (左:Yw)と比較して QC が有意に増大している (yw, n=11; 20232, n=9; 12957, n=7. *P<0.01, ANOVA)。Bars は平均値±標 準 誤 差 。 2, RNA 干 渉 法 に よ り 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 cenG1A 遺 伝 子 の 変 異 体 に お け る 電 気 生 理 学 的 解 析 の 結 果 か ら 、 CenG1A が 神 経 筋シナプス伝達機構において機能をもつ可能性が高いことが示唆された。ショウ ジ ョ ウ バ エ 神 経 筋 シ ナ プ ス に お い て CenG1A は 、 シ ナ プ ス 前 、 後 細 胞 の 両 方 に 発 現 し て い る こ と が わ か っ て い る (Flybase, Fukui et al., 2012)。そ の た め 、シ ナ プ ス 前 細 胞 に 発 現 し て い る cenG1A 遺 伝 子 、 シ ナ プ ス 後 細 胞 に 発 現 し て い る cenG1A 遺 伝 子 そ れ ぞ れ の シ ナ プ ス 伝 達 に お け る 機 能 を 解 明 す る た め に 、 RNAi 干 渉 法 (RNAi 法 )を 用 い て cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 組 織 特 異 的 に 抑 制 し た 個 体 で シ ナ プ ス 機 能 解 析 を 行 っ た 。組 織 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 す る た め に Gal4-UAS system を 用 い 、 全 神 経 細 胞 で cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 (31811R-2(X)RNAi×elav-Gal4 (elav-CentRNAi)) 、全 筋 肉 細 胞 で cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 (31811R-2(X)RNAi×24B-Gal4 (24B-CentRNAi))、 そ れ ぞ れ に 対 す る 対 照 個 体 (31811R-2(X)RNAi×yw (CentRNAi) 、 31811R-2(X)RNAi×elav (elav) 、 31811R-2(X)RNAi×24B (24B))を 用 い 、 そ れ ぞ れ に つ い て 電 気 生 理 学 的 解 析 と 形 態 学 的解析を行った。 2-1, 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 の 電 気 生 理 学 的 解 析 神 経 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 (elav-CentRNAi)に つ い て 細 胞 内 電 位 記 録 法 を 行 っ た 結 果 、elav-CentRNAi で は 、EJPs amplitude と QC が 、対 照 個 体 と 比 較 し て 有 意 に 増 大 し て い る こ と が 示 さ れ た ( 図 13A, CentRNAi; 34.53±3.78 mV, n=7, elav; 36.67±2.23 mV, n=11, elav-CentRNAi; 44.11±1.50 mV, n=16, *P<0.01, ANOVA, 図 13C, CentRNAi; 30.78±2.57, n=6, elav; 28.51±3.88, n=4, elav-CentRNAi; 48.00±3.24, n=5, *P<0.0 1, ANOVA)。 一 方 、 mEJP amplitude に お い て は 、 elav-CentRNAi は 対 照 個 体 と 比 較 し て mEJP が 有 意 に 減 少 し て い る こ と が わ か っ た ( 図 13B, CentRNAi; 1.23±0.04 mV, n=11, elav; 1.21±0.08 mV, n=15, elav-CentRNAi; 0.94±0.04 mV, n=8, *P<0.0 2, ANOVA)。 mEJP は 減 少 し て は い た が 、 EJP amplitude と QC が 増 大 し て い た た め 、 elav-CentRNAi で は 、 シ ナ プ ス 前 細 胞 か らの神経伝達物質放出量が増加している可能性が高いことが示唆された。 elav-CentRNAi で の mEJP amplitude の 減 少 は シ ナ プ ス 前 細 胞 か ら の 神 経 伝 達 物 質 放 出量の増加の原因にはなり得ないものの、この個体では、シナプス後細胞の感受 21 性の変化や、シナプス小胞サイズなどに変化が生じている可能性が考えられる。 次 に 、筋 肉 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 (24B-CentRNAi)に お け る EJPs amplitude を 測 定 し た 。 24B-CentRNAi に お い て も 、 対 照 個 体 と 比 較 し て EJP amplitude が 有 意 に 増 大 し て い た (図 14A, CentRNAi; 34.53±3.78 mV, n=7, 24B; 35.84±2.63 mV, n=21, 24B-CentRNAi; 46.26±1.82 mV, n=15, *P<0.0 1, ANOVA)。ま た 、 QC も 対 照 個 体 と 比 較 し て 有 意 に 増 大 し て い た (図 14C, CentRNAi; 30.78±2.57, n=6, 24B; 41.09±4.22, n=11, 24B-CentRNAi; 58.52±3.61, n=7, **P< 0.001, ANO VA)。こ の こ と か ら 、 24B-CentRNAi に お い て も 、 シ ナ プ ス 前 細 胞 か ら の 神 経 伝 達 物 質 放 出 量 が 増 加 し て い る 可 能 性 が 高 い こ と が 考 え ら れ る 。一 方 、mEJP amplitude は 、一 つ の 対 照個体と比較すると有意に減少しているがもう一方の対照個体と比較して差異が み ら れ な い こ と が 示 さ れ た (図 14B, CentRNAi; 1.23±0.04 mV, n=11, 24B; 0.91±0.03 mV, n=15, 24B-CentRNAi; 0.96±0.04 mV, n=18, **P<0.001, ANOVA) 。こ の よ う に 、対 照 個 体 間 に 差 異 が み ら れ る の で 、mEJP の 減 少 を 表 し て は い な い と 考 え ら れ る 。 以 上 の よ う に 、 筋 肉 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お い て も 、 神 経 細 胞 特 異 的 に 発 現 抑 制 し た 個 体 に お い て も 、 EJPs、QC が 増 大 し て い る と い う 結果が得られたため、どちらの個体においてもシナプス前細胞からの神経伝達物 質放出量が増加している可能性が高いことがわかった。 22 図 13 . 神経細胞特異的に CenG1A 発現を抑制した個体における電気生理学的解析 A, 上図:0.2Hz で 10 回刺激した時の刺激に伴う神経伝達物質放出による筋肉細胞膜電位変化 (EJPs: excitatory junctional potentials)の 10 回のトレース。対照個体 (左:CentRNAi、中央:elav)と神経細胞特異的 に CenG1A の発現を抑制した個体 (右:elav-CentRNAi) を示す。Scale bar: 100ms, 10mV。下図:それぞれ の系統から得られた EJPs amplitude の平均値のグラフを示す。elav-CentRNAi は対照個体 (CentRNAi, elav) と比較して EJPs amplitude が有意に増大している (CentRNAi, n=7; elav, n=11; elav–CentRNAi, n=16. *P<0.01, ANOVA)。 B, 上図:実際に記録された自発的な神経伝達物質放出による筋肉細胞膜電位変化 (mEJPs: miniature junctional potentials)。対照個体 (左:CentRNAi、中央:elav)と神経細胞特異的に CenG1A の発現を抑制した個体 (右:elav-CentRNAi) を示す。Scale bar: 100ms, 1mV。下図:それぞれの系統から 得られた mEJPs amplitude の平均値のグラフを示す。elav-CentRNAi は対照個体 (CentRNAi, elav)と比較 して mEJP amplitude が有意に減少していた(CentRNAi, n=11; elav, n=15; elav–CentRNAi, n=8. *P<0.05, ANOVA)。C, Quantal content の平均値のグラフを示す。elav-CentRNAi は対照個体 (CentRNAi, elav) と比 較して QC が有意に増大している(CentRNAi, n=6; elav, n=4; elav-CentRNAi, n=5. *P<0.05, ANOVA)。Bars は平均値±標 準 誤 差 。 23 図 14 . 筋肉細胞特異的に CenG1A 発現を抑制した個体における電気生理学的解析 A, 上図:0.2Hz で 10 回刺激した時の刺激に伴う神経伝達物質放出による筋肉細胞膜電位変化 (EJPs: excitatory junctional potentials)の 10 回のトレース。対照個体 (左:CentRNAi、中央:24B)と筋肉細胞特異的 に CenG1A の発現を抑制した個体 (右:24B-CentRNAi) を示す。Scale bar: 100ms, 10mV。下図:それぞれ の系統から得られた EJPs amplitude の平均値のグラフを示す。24B-CentRNAi は対照個体 (CentRNAi, 24B) と比較して EJPs amplitude が有意に増大している (CentRNAi, n=7; 24B, n=21; 24B-CentRNAi, n=15. *P<0.01, ANOVA)。 B, 上図:実際に記録された自発的な神経伝達物質放出による筋肉細胞膜電位変化 (mEJPs: miniature junctional potentials)。対照個体 (左:CentRNAi、中央:24B)と筋肉細胞特異的に CenG1A の発現を抑制した個体 (右:24B-CentRNAi) を示す。Scale bar: 100ms, 1mV。下図:それぞれの系統から 得られた mEJPs amplitude の平均値のグラフを示す。24B-CentRNAi の mEJP は:CentRNAi と比較して、 有意に減少しているが、もう一つの対照個体である 24B とは有意な差異はみられなかった(CentRNAi, n=11; 24B, n=15; 24B-CentRNAi, n=18. **P<0.001, ANOVA)。C, Quantal content の平均値のグラフ。 24B-CentRNAi は対照個体である:CentRNAi、24B と比較して QC が有意に増大していた (CentRNAi, n=6; 24B, n=11; 24B-CentRNAi, n=7. **P< 0.001, ANOVA) 。Bars は平均値±標準誤差。 24 2-2, 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お け る シ ナ プ ス 形 態 解 析 組織特異的に発現を抑制した個体で、シナプスの機能に与える影響として、シ ナプス前細胞からの神経伝達物質放出量が増加している可能性が高いことが示さ れた。これらの個体におけるシナプスの形態を解析するために、抗体染色による 形 態 観 察 を 行 っ た ( 図 15A) 。 グ ル タ ミ ン 酸 受 容 体 の サ ブ ユ ニ ッ ト の 一 つ で あ る GluRIIA に 対 す る 抗 体 、 神 経 細 胞 の マ ー カ ー と し て 使 わ れ て い る 抗 HRP 抗 体 を 用 い て 、GluRIIA 量 、神 経 の 面 積 に つ い て 解 析 を お こ な っ た 。神 経 細 胞 の 面 積 と し て 、 染色された神経細胞が投射している筋肉細胞の面積に対する神経細胞の面積の割 合 を 算 出 し た が 、elav-Cent RNAi, 24B-CentRNAi と も に 対 照 個 体 と 比 較 し て 有 意 な 差 異 は 見 ら れ な か っ た (図 15B,C, 左 HRP CentRNAi; 1.00±0.05, n=32, elav; 1.37±0 .45, n=33, elav-CentRNAi; 0.87±0.06, n=33, P=0.38, ANOVA, Fig. 4C left, CentRNAi; 1.00±0.09, n=40, 24B; 1.05±0.10, n=36, 24B -CentRNAi; 1.28±0.10, n=40, P=0.10, ANOVA)。 ま た 、 GluRIIA 量 と し て 、 GluRIIA の 蛍 光 強 度 を 比 較 し た が 、 ど ち ら の 個 体 に お い て も 差 異 は み ら れ な か っ た ( 図 15B,C, 中 央 GluRIIA, CentRNAi; 1.00±0.02, n=27, elav; 1.06±0.04, n=30, elav -CentRNAi; 0.99±0.04, n=27, P=0.23, ANOVA, Fig. 4C middle, CentRNAi; 1.00±0.01, n=39, 24B; 1.11±0.08, n=36, 24B-CentRNAi; 1.06±0.07, n=37, P=0.44, ANOVA )。 更 に 詳 し く 形 態 を 観 察 す る た め に 、 シ ナ プ ス の 活 性 部 位 (active zone)の マ ー カ ー で あ る nc82 を 用 い て 、 active zone の 数 を 比 較 し た が 、神 経 細 胞 ま た は 筋 肉 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 発 現 を 抑 制 し た 個 体 の ど ち ら に お い て も 対 照 個 体 と 比 較 し て 有 意 な 差 異 は 見 ら れ な か っ た (図 15B,C, 右 nc82, CentRNAi; 6.34±0.65, n=80 boutons, elav; 6.89±0.35, n=88, elav-CentRNAi; 6.77±0.53, n=84, P=0.74, ANOVA, Fig. 4C right panel, CentRNAi; 7.04±0.65, n=68, 24B; 7.27± 0.53, n=60, 24B-CentRNAi; 7.20±0.24, n=72, P=0.95, ANOVA)。 こ れ ら の こ と か ら cenG1A 遺 伝 子 を 抑 制 し て も 、 シ ナ プ ス 形 態 に は 影 響 を与えないことが示された。 25 図 15 . 組織特異的に CenG1A 発現を抑制した個体における形態学的解析 A, 共焦点レーザー顕微鏡により実際に CentRNAi, elav, elav-CentRNA1, 24B, 24b-CentRNAi において撮 影した画像を示す。使用した抗体は左;HRP に対する抗体、中央:GluRIA に対する抗体、右:NC82 に対 する抗体。Scale bar は 50 μm, 5 μm。B, 左図:対照個体 (左:CentRNAi、中央:elav)と神経細胞特異的 に CenG1A の発現を抑制した個体 (右:elav-CentRNAi) における HRP に対する抗体によって染色された 面積の平均値のグラフ (HRP, CentRNAi, n=32; elav, n=33; elav-CentRNAi, n=33; P=0.38, ANOVA)。中央 図:GluRIIA 抗体によって染色された蛍光強度の平均値のグラフ (GluRIIA, CentRNAi, n=27; elav, n=30; 26 elav-CentRNAi, n=27; P=0.23, ANOVA)。右図:NC82 陽性の puncta の数の平均値のグラフ ( nc82, CentRNAi, n=80; elav, n=88; elav-CentRNAi, n=84; P=0.74, ANOVA)。C, 対照個体 (左:CentRNAi、中央:24B) と筋肉細胞特異的に CenG1A の発現を抑制した個体 (右:24B-CentRNAi) における HRP に対する抗体に よって染色された面積の平均値のグラフ (HRP, CentRNAi, n=40; 24B, n=36; 24B-CentRNAi, n=40; P=0.10, ANOVA)。中央図:GluRIIA に対する抗体によって染色された蛍光強度の平均値のグラフ ( GluRIIA, CentRNAi, n=39; 24B, n=36; 24B-CentRNAi, n=37; P=0.44, ANOVA)。右図:NC82 陽性の puncta の数の平 均値のグラフ (nc82, CentRNAi, n=68; 24B, n=60; 24B-CentRNAi, n=72; P=0.95, ANOVA)。Bars は平均値± 標準誤差。 27 2-3, 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お け る 放 出 確 率 の 解 析 こ れ ま で の 結 果 か ら 、 神 経 細 胞 、 ま た は 筋 肉 細 胞 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 した個体どちらにおいても、神経伝達物質放出量の増加がおきていたが、シナプ スの形態には影響がみられないことがわかった。伝達物質放出量が増加する要因 として、一般に、シナプスサイト数の増加、放出確率の増加、シナプス小胞数の 増 加 な ど が 考 え ら れ る 。 上 述 の nc82 に よ る 抗 体 染 色 に お い て 、 active zone 数 に 差 異 が 見 ら れ な か っ た こ と か ら 、CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 で サ イ ト 数 が 変 化 し て いる可能性は低い。そこで残る神経伝達物質放出量増加の要因である放出確率と シナプス小胞数について解析をおこなうことにした。 ま ず 、 放 出 確 率 を 調 べ る た め に 、 Paired pulse stimulation (PPS)を 行 っ た 。 PPS に おいて一回目の刺激に対する応答と二回目の刺激に対する応答の相対比により算 出 さ れ る Paired pulse ratio (PPR)は Ca 2 + 依 存 的 な 放 出 確 率 の 指 標 と し て 用 い ら れ て い る (McNaughton, 1982; Manabe et al., 1993)。 一 般 的 に 、 対 照 個 体 と 比 較 し て PPR が 大 き い 個 体 は 、 放 出 確 率 が 低 く 、 PPR が 小 さ い 個 体 は 放 出 確 率 が 高 い 個 体 で あ る と 判 断 さ れ て い る 。 実 験 で は 、 3 種 の 刺 激 間 隔 (25, 50, 100ms)に お け る PPR を 組 織 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お い て 比 較 し た ( 図 16A) 。 24B-CentRNAi に お い て は 、 全 て の 刺 激 間 隔 (25, 50, 100ms)で 対 照 個 体 と 比 較 し て PPR が 有 意 に 小 さ く な っ て い る こ と が わ か っ た ( 図 16C, 25ms; CentRNAi; 1.21±0.03, n=10, 24B; 1.25±0.06, n=10, 24B -CentRNAi; 1.10±0.02, n=10, 50 ms; CentRNAi; 1.19±0.02, n=10, 24B; 1.18±0. 07, n=10, 24B-CentRNAi; 1.04±0.02, n=10, 100 ms; CentRNAi; 1.11±0.02, n=10, 24B; 1.15±0.04, n=10, 24B-CentRNAi; 0.99±0.02, n=10, *P<0.05, **P<0.001, ANOVA)。 こ の 結 果 か ら 、 24B-CentsRNAi で は 、 対 照 個 体 と 比 較 し て 放 出 確 率 が 高 く な っ て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。次 に 、elav-CentRNAi に お い て 測 定 を 行 っ た と こ ろ 、50ms, 100ms の 刺 激 間 隔 で 対 照 個 体 と 比 較 し て PPR が 有 意 に 低 く な っ て い る と い う 結 果 が 得 ら れ た 。こ の こ と か ら 、 elav-CentRNAi で も 、対 照 個 体 と 比 較 し て 放 出 確 率 が 高 く な っ て い る こ と が 示 さ れ た (図 16B, 50 ms; CentRNAi; 1.19±0.02, n=10, elav; 1.21±0.02, n=10, elav-CentRNAi; 1.05±0.03, n=10, 100 ms; CentRNAi; 1.11±0.02, n=10, elav; 1.13±0.01, n=10, elav-CentRNAi; 1.02±0.01, n=10, **P<0.001, ANOVA)。し か し 、刺 激 間 隔 が 25ms の 時 は 対 照 個 体 と 比 較 し て 有 意 な 差 異 は 見 ら れ な い こ と が わ か っ た (図 16B, 25ms; CentRNAi; 1.21±0.03, n=10, elav; 1.23±0.04, n=10, elav-CentRNAi; 1.14±0.06, n=10, ANOVA)。 PPS で は 、 一 回 目 の 刺 激 に よ っ て 流 入 し た Ca 2 + の 残 存 量 が 二 回 目 の 刺 激 に 対 す る 応 答 に 影 響 を 与 え る 。刺 激 間 隔 が 25ms と 100ms で は 、初 め の 刺 激 に よ っ て 流 入 し た Ca 2 + 残 存 量 が 異 な る と 考 え ら れ る 。そ の た め 、elav-CentRNAi で は 、残 存 Ca 2 + の 影 響 を 強 く 受 け る 放 出 確 率 以 外 の 何 ら か の Ca 2 + 依 存 的 な 要 因 の 作 用 に よ っ て 、刺 激 間 隔 25ms の 際 に 対照個体と比較して有意な差異が見られなかったことが考えられる。一方、刺激 28 間 隔 50, 100ms の 際 に は 、残 存 Ca 2 + 量 の 違 い か ら 、こ の Ca 2 + 依 存 的 な 何 ら か の 要 因 の 影 響 を 受 け ず 、 PPR が 対 照 個 体 と 比 較 し て 減 少 し 、 放 出 確 率 が 増 加 し て い る 現 象のみが現れた可能性が考えられる。 29 図 16 . 組織特異的に CenG1A 発現を抑制した個体における放出確率 A, 三種の刺激間隔(25ms, 50ms, 100ms) において paired pulse stimulation (PPS)を行った際に記録された実 際の応答。上図: 対照個体(CentRNAi)、中央図: 神経細胞特異的に CenG1A 発現を抑制した個体 (elav-CentRNAi)、下図: 筋肉脂肪特異的に CenG1A 発現を抑制した個体(24B-CentRNAi)。 Scale bar は 100ms, 10mV。B, 三種の刺激間隔での PPS により算出された paired pulse ratio (PPR)の比較。 elav-CentRNAi では、刺激間隔 25ms の際には差異がみられないが、50ms, 100ms の際は対照個体 (CentRNAi, elav) と比較して PPR が有意に低くなっていた (CentRNAi 25 ms, n=10; 50 ms, n=10; 100 ms, n=10; elav 25 ms, n=10; 50 ms, n=10; 100 ms, n=10; elav-CentRNAi 25 ms, n=10; 50 ms, n=10; 100 ms, n=10. **P<0.001, ANOVA)。C, 三種の刺激間隔での PPS により算出された PPR の比較。24B-CentRNAi では、 全ての刺激間隔において、対照個体(CentRNAi, 24B) と比較して PPR が有意に低くなっていた (CentRNAi 25 ms, n=10; 50 ms, n=10; 100 ms, n=10; 24B 25 ms, n=10; 50ms, n=10; 100 ms, n=10; 24B-CentRNAi 25ms, n=10; 50 ms, n=10; 100 ms, n=10. *p<0.05, **P<0.001, ANOVA)。Bars は平均値±標準 誤差。 30 2-4, 組 織 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お け る シ ナ プ ス 小 胞 数 の 解 析 神 経 伝 達 物 質 放 出 量 増 加 の 要 因 の う ち 、PPS に よ り 放 出 確 率 が 増 加 し て い る 可 能 性が高い事が確認できた。次に残る要因である、シナプス小胞数について解析を お こ な っ た 。 シ ナ プ ス 小 胞 は RP と RRP の 2 つ の プ ー ル に わ け ら れ 、 リ サ イ ク リ ン グ さ れ て い る 。高 頻 度 刺 激 下 で は 、RRP の シ ナ プ ス 小 胞 と 、RPR か ら RP へ と 移 行 し た シ ナ プ ス 小 胞 が 放 出 さ れ る 。RRP と RP の シ ナ プ ス 小 胞 を 放 出 さ せ る た め に 50Hz の 高 頻 度 刺 激 を 行 い 、 応 答 を 測 定 す る こ と で 、 放 出 可 能 シ ナ プ ス 数 に つ い て 解 析 を お こ な っ た 。図 17A の よ う に 50Hz の 刺 激 を 30sec 行 う と 、EJP amplitude が 徐々に減衰してくる。この減衰はシナプス小胞の枯渇を示している。シナプス小 胞数の増加、またはリサイクリング速度の増加、あるいはこの両方がおきている 個体では、この減衰度合が弱く、これらが減少している個体では、減衰度合が強 い こ と が 予 想 で き る 。そ こ で 実 験 で は 、刺 激 開 始 時 に 得 ら れ た 最 大 の EJP amplitude か ら 、30sec 後 刺 激 終 了 時 の EJP amplitude が ど れ だ け 減 衰 し た か 、そ の 減 衰 度 合 を % で算出し、放出可能シナプス小胞数の指標として使用した。 24B-CentRNAi で は 、こ の 減 衰 度 合 に 対 照 個 体 と 比 較 し て 有 意 な 差 異 は み ら れ な い こ と が わ か っ た (図 17B 右 図 , CentRNAi; 28.70±7.50 %, n=10, 24B; 39.89±4.76 %, n=10, 24B-CentRNAi; 33.22±5.29 %, n=10, P=0.42, ANOVA )。し か し 、elav-CentRNAi で は 、 減 衰 度 合 が 対 照 個 体 と 比 較 し て 有 意 に 小 さ い こ と が わ か っ た (図 17B 左 図 , CentRNAi; 28.70±7.50 %, n=10, elav; 33.82±6.06 %, n=10, elav-CentRNAi; 51.40±5.10 %, n=10, *P<0.05, ANOVA)。 こ の こ と か ら 、 elav-CentRNAi に お い て 、 放出可能プールに充填されているシナプス小胞数および、高頻度刺激中に貯蔵プ ールから放出可能プールへ充填されるシナプス小胞数、つまり放出可能小胞数が 多 い た め 、 amplitude が 減 衰 し に く く な っ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、神 経 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 に お い て は 、放 出 確 率 と 放 出 可 能 シ ナ プ ス 小 胞 数 の 増 加 、筋 肉 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝子の発現を抑制した個体においては、放出確率の増加によってシナプス前細胞 からの神経伝達物質放出量の増加がおきている可能性が高いということが示唆さ れ た (図 18)。 31 図 17 . 組織特異的に CenG1A 発現を抑制した個体におけるシナプス小胞数の解析 A, 50Hz の高頻度刺激を30msec 行った際に記録される実際のデータ。 CentRNAi, elav, eval-CentRNAi,24B, 24B-CentRNAi。Scale bar は 5000ms, 10mV。B, 高頻度開始後にみられた最大 amplitude に対する刺激終 了時の amplitude の割合(Last peak/Max peak)をグラフ化した。左図: 神経細胞特異的に CenG1A 発現を抑 制した個体における Last peak/Max peak。elav-CentRNAi は対照個体(CentRNAi, elav)と比較して Last peak/Max peak の割合が有意に大きい(CentRNAi, n=10; elav, n=10; elav-CentRNAi, n=10. *P<0.05, ANOVA)。 右図: 筋肉細胞特異的に CenG1A 発現を抑制した個体における Last peak/Max peak。24B-CentRNAi は対 照個体(CentRNAi, 24B)と比較して Last peak/Max peak の割合に有意な差異はみられなかった(CentRNAi, n=10; 24B, n=10; 24B-CentRNAi, n=10. P=0.42, ANOVA)。Bars は平均値±標準誤差。 32 IV, 考 察 シ ナ プ ス 伝 達 は 多 く の 段 階 に よ っ て 成 り 立 ち 、多 く の 分 子 に よ っ て 調 節 を う け て い る 。 本 研 究 で は 、 シ ナ プ ス 伝 達 に 関 わ る 可 能 性 の あ る 分 子 と し て Centaurin に 着 目 し 、シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 神 経 筋 シ ナ プ ス に お け る centaurin gamma 1A 遺 伝 子 の 機 能 解 析 を お こ な っ た 。 P 因 子 挿 入 に よ る cenG1A 遺 伝 子 の 変 異 体 で 、 EJPs amplitude と QC が 対 照 個 体 と 比 較 し て 有 意 に 大 き く な る こ と 、 mEJPs amplitude に 差 異 が み られないことを示した。このことから、変異体において、シナプス後細胞の神経 伝達物質受容体の感受性に変化がなく、シナプス前細胞からの神経伝達物質放出 量 が 増 加 し て い る こ と が 考 え ら れ 、CenG1A が シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 神 経 筋 シ ナ プ ス に お い て 何 ら か の 機 能 を 持 つ 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 cenG1A 遺 伝 子 は 神 経 細 胞 に も 筋 肉 細 胞 に も 発 現 し て い る こ と が わ か っ て い る( Flybase, Fukui et al., 2012)。CenG1A のシナプス伝達における機能を詳しく解析するために、組織特異的(神経細胞の み 、筋 肉 細 胞 の み )に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 を 用 い て 電 気 生 理 学 的 解 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、神 経 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 (elav-CentRNAi) で も 、 筋 肉 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 (24B-CentRNAi)に お い て も 、EJPs amplitude、QC が 有 意 に 増 大 し て お り 、シ ナ プ ス 前細胞からの神経伝達物質放出量が増加している可能性が高いことが示唆された。 更 に 、神 経 、ま た は 筋 肉 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 抑 制 し た 個 体 ど ち ら に お い て も 、Ca 2 + 依 存 的 な 放 出 確 率 が 高 く な っ て い る こ と が わ か っ た 。加 え て 、神 経 細胞特異的に発現を抑制した個体においては、放出可能シナプス小胞数が増加し ている可能性が高いことがわかった。これらの結果は、シナプス前細胞でも、後 細 胞 で も CenG1A が シ ナ プ ス 伝 達 機 構 に お い て 伝 達 量 を 負 に 調 節 す る よ う な negative regulator と し て の 機 能 を も っ て い る こ と を 示 し て い る 。 1, 神 経 細 胞 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 elav-CentRNAi で は 、 放 出 確 率 の 増 加 に 加 え て 、 シ ナ プ ス 小 胞 数 の 増 加 が み ら れ た 。 CenG1A の も つ ド メ イ ン に は ArfGAP ド メ イ ン が 存 在 す る 。 Arf family protein は神経細胞でのシナプス小胞リサイクリングや、樹状突起の伸張などの、細胞膜 の 伸 展 に 関 与 す る 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ て い る (Ashery et al., 1999; Krauss et al., 2003; Jaworski, 2007)。た と え ば 、Arf6 は 、Phosphatidylinositol phosphate kinase type I の 活 性 化 に よ っ て clathrin/AP-2 に よ る シ ナ プ ス 細 胞 膜 の 取 り 込 み を 刺 激 す る と い う 報 告 が あ る (Krauss et al., 2003)。 こ れ ら の こ と か ら 、 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 幼 虫 運 動 神 経 の CenG1A が 、ArfGAP と し て 、RRP へ の 小 胞 の 充 填 を 含 む 、シ ナ プ ス 小 胞 リ サイクリングを負に調節しているという仮説を考えた。この仮説が正しいとする と 、 CenG1A を 抑 制 す る こ と で 、 シ ナ プ ス 小 胞 リ サ イ ク リ ン グ が 活 発 に な り 、 RP と RRP に 貯 蔵 さ れ て い る シ ナ プ ス 小 胞 数 が 増 え る こ と が 予 想 さ れ る 。 実 際 、 神 経 33 細 胞 で CenG1A を 抑 制 す る こ と に よ っ て 、 高 頻 度 刺 激 に よ る EJP の 減 衰 が 抑 制 さ れ 、放 出 可 能 シ ナ プ ス 小 胞 数 が 増 加 し て い る 可 能 性 が 高 い と い う 結 果 が 得 ら れ た 。 こ の 結 果 か ら 、CenG1A が シ ナ プ ス 小 胞 リ サ イ ク リ ン グ に 関 与 し て い る 可 能 性 が 考 えられる。 ま た 、elav-CentRNAi で は mEJP amplitude が 対 照 個 体 と 比 較 し て 減 少 し て い る こ と が わ か っ た 。mEJP の 減 少 は 、シ ナ プ ス 後 細 胞 の 感 受 性 、ま た は シ ナ プ ス 小 胞 サ イ ズ の 減 少 に 起 因 す る と 考 え ら れ る が 、 シ ナ プ ス 後 細 胞 の GluRIIA 量 に は 変 化 が み ら れ な か っ た 。そ の た め 、こ の 個 体 で み ら れ た mEJP の 減 少 は 、シ ナ プ ス 後 細 胞 の感受性の変化によるものではなく、シナプス小胞サイズの減少、つまりシナプ ス小胞内に充填されている神経伝達物質量の減少によるものだと考えられる。こ の 1 つ の 小 胞 内 の 神 経 伝 達 物 質 量 の 減 少 は CenG1A の 抑 制 に よ り 、 リ サ イ ク リ ン グが活発になることによって、充分な量の神経伝達物質が充填されず、未成熟な シナプス小胞が放出されているために生じた可能性が考えられる。 一 方 、 CenG1A は small G protein と 作 用 す る GTPase ド メ イ ン を も つ こ と か ら 、 Arf 以 外 の small G protein と 関 与 し て い る 可 能 性 も 考 え ら れ る 。 こ れ ま で 、 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 神 経 筋 接 合 部 を 用 い た 先 行 研 究 で 、 Arf 以 外 の small G protein が シ ナ プ ス 伝 達 に 関 与 し て い る と い う 報 告 が あ る 。 た と え ば 、 Rab3 と Rab3-GAP は 、 シ ナ プ ス 伝 達 の ホ メ オ ス タ テ ィ ッ ク な 調 節 に お い て 機 能 を も つ こ と や (Müller et al., 2011)、 GAP で あ る Skywalker が Rab35 GTPase 活 性 を 調 節 す る こ と に よ っ て シ ナ プス小胞のエンドソームを介した輸送を促進することがわかっている (Uytterhoeven et al., 2011)。更 に 、CenG1A 発 現 を 抑 制 す る と 、放 出 確 率 の 増 加 が み ら れ た が 、Rab5 も endosomal trafficking を 受 動 的 に 調 節 し 、放 出 確 率 を 増 加 さ せ る と い う 報 告 も あ る (Wucherpfenning et al., 2003)。そ れ ゆ え 、CenG1A は そ れ ら の ほ か の small G protein と crosstalk す る こ と に よ っ て シ ナ プ ス 伝 達 調 節 に 関 与 し て い る 可 能 性 も 考 え ら れ る 。 ま た 、 Centaurin family protein は PI3K に よ っ て 生 成 さ れ る PIP3 と 結 合 す る PH ド メ イ ン を 含 ん で い る (Jackson et al., 2000) 。 さ ら に Centaurin superfamily の gamma1 subgroup は PIKE と 呼 ば れ 、 PI3K を 活 性 化 す る こ と が わ か っ て い る (Chan and Ye, 2011)。そ の た め 、CenG1A も PIKE と 同 様 に 、PI3K 活性を調節する機能をもつ可能性もある。ショウジョウバエ幼虫神経筋接合部位 に お い て も 、PI3K が foxo 経 路 を 介 し て 神 経 興 奮 を 負 に 調 節 す る と い う 報 告 も あ る こ と か ら (Howlett et al., 2008)、 CenG1A が Arf を 介 さ ず に 、 PI3K 経 路 を 介 し て 神 経 伝 達 物 質 放 出 過 程 を 負 に 調 節 し て い る 可 能 性 も 考 え ら れ る 。CenG1A の も つ ド メ イ ン の そ れ ぞ れ の 神 経 伝 達 物 質 放 出 過 程 に お け る 機 能 を 解 析 す る こ と で 、 CenG1A のシナプス伝達における機能の詳細が解明できるだろう。 34 2, 筋 肉 細 胞 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 筋 肉 細 胞 特 異 的 に cenG1A 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 し た 個 体 で は 、放 出 確 率 の 増 加 に よ っ て 、神 経 伝 達 物 質 放 出 量 が 増 加 し て い た こ と が わ か っ た 。Centaurin family は 、 神 経 細 胞 に も 、 非 神 経 細 胞 に も 存 在 し て お り (Tanaka et al., 1997; Yamamoto-Furusho et al., 2006; Chan and Ye, 2011)、 培 養 細 胞 に お い て Centaurin family と Arf6 が AMPA 受 容 体 の 輸 送 を 調 節 し て い る 可 能 性 が あ る と い う 報 告 が あ る (Oku and Huganir, 2013)。そ の た め 、シ ナ プ ス 後 細 胞 の CenG1A は 、グ ル タ ミ ン 酸 受 容 体 の 輸 送 に お い て 機 能 を 持 つ 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 し か し 、 24B-CentRNAi で 、GluRIIA 染 色 に よ る 蛍 光 強 度 に 差 異 が み ら れ な か っ た こ と か ら 、受 容 体 の 発 現 量 に は 影 響 を 与 え な い こ と が 示 さ れ た 。 そ の た め 、 シ ナ プ ス 後 細 胞 の CenG1A が 受容体輸送には関与していないことが考えられる。このように本研究では、 CenG1A を シ ナ プ ス 後 細 胞 の み で 抑 制 し た 時 に 、後 細 胞 に は 影 響 を 与 え ず に 、シ ナ プ ス 前 細 胞 の み に 影 響 し 、神 経 伝 達 物 質 放 出 量 が 増 加 す る と い う 結 果 が 得 ら れ た 。 こ の こ と か ら 、 シ ナ プ ス 後 細 胞 の CenG1A は 、 シ ナ プ ス 後 細 胞 か ら シ ナ プ ス 前 細 胞に働きかけるような逆行性シグナルの分泌に関与している可能性が考えられる。 現在までに、シナプス前細胞の機能に影響を与えるような多くの種類の逆行性シ グ ナ ル が 同 定 さ れ て い る (Fitzsimonds and Poo, 1998; Tao and Poo, 2001) 。 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 幼 虫 の 神 経 筋 接 合 部 位 に お い て も 、 FasII、 BMP signal 等 が シ ナ プ ス 伝 達 調 節 に お い て 機 能 し て い る 逆 行 性 シ グ ナ ル と し て 同 定 さ れ て い る (Aberle et al., 2002; Davis and Goodman, 2002; Marqués et al., 2002; Davis, 2006; Marqués and Zhang, 2006)。 加 え て 、 哺 乳 類 の 海 馬 で は 、 逆 行 性 シ グ ナ ル が シ ナ プ ス 前 細 胞 の 放 出 確 率 を 増 加 さ せ る こ と に よ っ て シ ナ プ ス 前 細 胞 の 長 期 増 強 (long term potentiation) を 引 き 起 こ す と い う 報 告 が あ る (McNaughton, 1982)。 こ れ ら の 報 告 か ら も 、 シ ナ プ ス 後 細 胞 の CenG1A は 、逆 行 性 シ グ ナ ル の 分 泌 過 程 を negative に 調 節 す る こ と で シ ナ プス前細胞の放出確率を調節している可能性が考えられる。 35 図 18. 組 織 特 異 的 に CenG1A を 抑 制 し た 個 体 に お け る 結 果 の ま と め 左 図 , シ ナ プ ス 前 細 胞 特 異 的 に CenG1A 発 現 を 抑 制 し た 個 体 で は 、放 出 確 率 の 増 加 と シ ナ プ ス 小 胞 数 の 増 加 が 生 じ て い る 可 能 性 が 高 い 。 右 図 , シ ナ プ ス 後 細 胞 特 異 的 に CenG1A 発現を抑制した個体では、放出確率の増加が生じている可能性が高い。 3, negative regulator と し て の CenG1A 機 能 本 研 究 で は 、CenG1A 発 現 を 抑 制 す る こ と に よ り 、シ ナ プ ス 伝 達 が 増 加 し た こ と か ら 、CenG1A は 、シ ナ プ ス 伝 達 過 程 お け る negative regulator と し て の 機 能 を も つ こ と が 示 唆 さ れ た (図 18)。 神 経 細 胞 に お い て 情 報 伝 達 を 適 切 な 範 囲 内 に 保 ち 、 過 剰興奮を避けるためにシナプス伝達を負に調節することは非常に重要である。実 際にてんかんをはじめとする多くの神経疾患において、神経細胞の過剰興奮がみ ら れ る (Gibson et al., 2008; Lewis and Chetkovich, 2011) 。 近 年 、 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ を モ デ ル と し た 研 究 で も 、神 経 過 剰 興 奮 を 負 に 調 節 す る negative regulator の 重 要 性 が 示 唆 さ れ て お り 、 神 経 疾 患 の 一 つ で あ る 脆 弱 X 染 色 体 症 候 群 (fragileX symdrome) の 応 答 遺 伝 子 が 神 経 筋 接 合 部 位 に お け る シ ナ プ ス 形 成 の negative regulator で あ る と い う 報 告 も あ る (Zhang et al., 2001)。ま た 、先 行 研 究 で 、哺 乳 類 の centaurin gamma 2 は 自 閉 症 関 連 遺 伝 子 で あ る と い う 報 告 が あ る (Wassink et al., 2005)。自 閉 症 と Centaurin の 関 連 は ま だ 明 ら か に な っ て い な い が 、自 閉 症 の 発 症 に 関 与 し て い る と い わ れ て い る neuroligin3/neuroligin4、 SHANK3、 CNTNAP2 な ど を 含 む 多 く の 分 子 は 、 シ ナ プ ス の 形 成 と 機 能 に 関 わ っ て い る (櫻 井 武 2010)。 更 に 、 自閉症は、神経の過剰興奮によって引き起こされる可能性のある常同行動や感覚 過 敏 な ど の 症 状 を 示 す た め 、神 経 活 動 の 調 節 機 構 に お け る negative regulator が 重 要 な役割を担っている可能性が十分考えられる。これらのことから、シナプス伝達 機 構 の negative regulator と し て の 機 能 を も つ 可 能 性 の あ る Centaurin の シ ナ プ ス に お け る 機 能 を 解 明 す る こ と で 、シ ナ プ ス 伝 達 に お け る negative regulator と 自 閉 症 と の関係を解明することにつながるかもしれない。 36 図 19 . CenG1A 機能モデル シナプス前細胞の CenG1A はシナプスリサイクリングに関与することで神経伝達物質放出過程の negative regulator として機能し、シナプス後細胞の CenG1A は逆行性シグナルの分泌に関与している可 能性が考えられる。 37 V, 謝 辞 本 研 究 を 進 め る に あ た り 、御 指 導 を 頂 い た 森 本 高 子 准 教 授 、関 洋 一 助 教 に 心 よ り 感謝いたします。熱心な研究指導や助言をして頂いた宮川博義教授、井上雅司講 師、田中弘文教授、上川内あずさ教授ならびに脳神経研究室の皆様に厚く感謝い たします。また、実験を行うにあたって熱心に指導してくださった分子生化学研 究室の柳茂教授、福田敏史講師、長島駿助教、尹永淑助教、ならびに分子生化学 研究室、分子生物化学研究室の皆様に厚く感謝いたします。ありがとうございま した。 38 VI, 引 用 文 献 Aberle, H., Haghighi, A.P., Fetter, R.D., McCabe, B.D., Magalhaes, T.R., and Goodman, C.S., (2002) Wishful thinking encodes a BMP type II receptor that regulates synaptic growth in Drosophila. Neuron, 33, 545 –558. Alberts, B., Johnson, A., Lewis, J., Raff, M., Roberts, K., and Walter, P., (2002) Molecular Biology of The Cell, Garland Science; 4th edition. Ashery, U., Koch, H., Scheuss, V., Brose, N., and Rettig, J., (1999) A presynaptic role for the ADP ribosylation factor (ARF) -specific GDP/GTP exchange factor msec7-1. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 1094-1099. 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