安心オペレーションズ アイ・ティー・シー

[特集]2 0 1 5 年 市 場 予 測 ①
経営/運営企業に聞く:
2015年の注力ポイント
手間・コスト・魅力の
バランスを重視し
商品力を維持する
原点回帰でサービスと
ラブニーズ演出を強化し
運営店舗の増加も進める
㈱アイ・ティー・シー
㈱安心オペレーションズ
代表取締役
村井文男
代表取締役
田中政美
■ 2014 年の総括
■ 2014 年の総括
消費税増税後の消費の冷込みは、予想以上に厳しかったと感
4月の消費税増税で、組数減少を懸念しながら一部店舗を除
じています。当社は、東北・関東・中国と幅広いエリアに 10
き値上げを実施。結果は休憩が前年並み、宿泊が増加で組数減
店舗を展開していることもあって、店舗ごとの差も大きかった。
少にはつながりませんでした。しかし、9月中旬以降に伸びが
東北で小規模ながら常連客の多い店舗は前年並みで安定。震災
鈍り前年比微減のホテルも見られた。一方、9月以降も前年比
復興で人・金が集まっている地域は前年比増。一方、関東の集
増で推移したホテルもあり、近隣ホテルの改装など、商圏内の
積地でオーナーチェンジ・改装が多かったエリアの店舗は、苦
市場環境の変化が売上を左右する主要因だったといえます。
戦を余儀なくされ前年比減、といった状況でした。
また、運営店舗数は、所有者のホテル売却に伴い5店舗減少、
いま、時代の変わり目だと思います。この数年で消費意識・
グループ企業等が取得した3店舗増加。今後は、グループ企業
行動が変わり、人口構成も変わり、情報収集の仕方も変わった。
所有による運営店舗の増加も進めていきたい。年末に2店舗を
そのなかでレジャー・ラブホテルは集客・売上が低下し、訴求
リニューアルし、人口の少ないエリアの店舗は営業しながらの
力となる新たな要素が見当たらない状況が続いています。コス
改装で、常連客に改装後の魅力をアピール。もう1店舗はイメー
トを抑えながら品質や魅力を維持し収益を確保していかなけれ
ジチェンジを重視し、工事開始でクローズさせ同時に前面道路
ばならないという難しい時代になっているといえます。
に向けてオープン日を告知。ともに、改装後は好調な立ち上が
■ 2015 年の市場動向予測
りです。改装の内容だけでなく、改装の仕方も立地やホテルの
業界全体として下げ止まり感はありますが、一般消費が急激
状況に合わせて取り組むことが必要な時代です。
に上向くことはないと思います。この数年のデフレの中で消費
■ 2015 年の市場動向予測
に対する抵抗感が根付いている。そのなかで集客を図っていく
予測は難しい。12 月の衆院選で自民が圧勝しアベノミクス
ためには、お客様が価値を感じる価格と内容の提供が必要。さ
の継続で、大局的には景気は上向きで動くとは思いますが、ど
らに従来のような高売上が難しいだけに、手間とコストと魅力
こまで一般消費者の賃金が増加し消費が上向くか。それにより
のバランスがこれまで以上に重要となるでしょう。同時に都市
ホテルの売上も左右される。現状では、まだ不透明です。
部においては、シティ・ビジネスホテルとの競合も進み、その
■ 2015 年の注力ポイント
なかでいかにレジャー・ラブホテルの魅力を打ち出し集客でき
まず、管理店舗の増加を進めたい。売買の動きも進むと思わ
るかが問われることになると思います。
れますが、売却価格の高騰と、低価格でも求める利回りが難し
■ 2015 年の注力ポイント
い店舗の増加もあり、とくに新規参入者においては、実際の利
お客様に常に変化を感じさせることが集客維持のために必
回りを慎重に見極めることが重要です。
要。客室内の表装や装飾の変更を、コストを抑えながら実施し
既存店舗に関しては、まず、コストを抑えた部分的な変更を
ていくことを重視しています。工事関連業者との関連性を強め、
継続しお客様に変化をアピールしていく。同時に、お客様目線
小規模な変更やメンテナンスがスムーズに早く安くできるよう
でのオペレーションの見直しを進めます。接客・清掃・メンテ
にする。経営者自身も工事等に関する知識が必要となります。
ナンスの基本をより確実にするとともに、不倫客などメンバー
さらにコストを抑えて品質を維持するうえで、比較的に簡単な
カードを持たない常連客を大切にするオペレーションやサービ
修繕や変更等は、DIY 的に経営者やスタッフが自らこまめに行
スに注力。同時に、シティ・ビジネスホテルにはない4号営業
なうことも必要です。同時に、肌に直接触れる寝具やリネンは
だからできるラブニーズの演出も重視。また、宿泊の減少は飲
古さを感じさせる前に入替える。地方でも都会の最新トレンド
酒運転取締強化の影響も大きい。ホテルで飲酒を楽しめるよう
の情報を収集して取入れていく、といったことも必要です。ま
に酒類やおつまみメニューの強化を進める。景気の動向は不透
た、将来の売却の可能性も考えれば、ホテルの商品力(収益力
明でもホテルがやるべきことはたくさんある。それらにより売
と建物価値)を維持していくことが重要だと考えています。
上増加を目指します。
LH-NEXT 2015 ● vol.23
27
[2015年 市場予測]
基本へのこだわりと
現代人のニーズを掴み
新方向を見い出す時期
利用者の価値志向に
対応した魅力を強化し
店舗数拡大にも注力
内宮商事㈱
AtoZグループ(富岡開発㈱)
代表取締役
内宮則一
代表取締役
松本 暢
■ 2014 年の総括
■ 2014 年の総括
既存 13 店舗の実績は、税別比較で8月までは前年比微増、
当社は長野県中心に 11 店舗を展開しており、昨年の状況は
10 月以降は微減で、通年では前年比微減の状況でした。サー
2月が2度の大雪で前年比減となりましたが、その他の月は前
ビスの強化あるいは価格の若干の値下げ等の対策を店舗ごとに
年比増で推移。通年でも税抜きで前年比微増の結果でした。た
施しましたが、店舗により異なる客層・ニーズに合致している
だ地域によって利用者の動きが大きく異なった。工場閉鎖の
かどうかで結果が左右された。店舗ごとの客層を把握した特色
あった地域の店舗はやはり前年比減、新たに企業の進出があっ
の打ち出し方の重要性を再認識しました。
た地域などは前年比 30%増といった店舗もありました。商圏
その一方、6月にオープンしたリゾートホテルは順調に推移。
内人口の限られた地方では、店舗間格差が大きくなっています。
高単価・1日1回転のビジネスモデルで、回転ゆえにかかるコ
リニューアルした店舗としていない店舗、細部まで施設管理が
ストがないことからアメニティやリネンにコストを掛けられ、
できている店舗とできていない店舗、経費をかけてサービスを
さらにインルームダイニングなどラブホテルのノウハウが非常
充実させている店舗と経費削減を優先している店舗、その差が
に好評。このホテルの評価やニーズをラブホテルにどう活かし
明確に集客力に現れてきています。
ていくか、今後の課題の一つだと捉えています。
■ 2015 年の市場動向予測
■ 2015 年の市場動向予測
経済状況がどのように変化するか、まだ不透明感が残ります。
ラブホテルという宿泊業態全体の集客力・売上は、下げ止まっ
しかし、消費者の志向が変わってきていることは間違いありま
ていないと認識しています。この数年のデフレの進行のなかで、
せん。昨年までは低価格志向がまだありましたが、今年は、確
単価低下と過剰サービスが進み、その結果、品質の低下を招き、
実に低価格でも魅力のないものは選ばれない方向に進むと思い
人員削減下でのサービス強化でスタッフも疲弊しホスピタリ
ます。ホテル選択でも同様。料金よりも満足できるホテルを選
ティも低下……。マイナスのスパイラルから脱却できてはいな
ぶ利用者が増えはじめていると感じます。当社ホテルでも飲食
いと思います。いま、何かやらなければならないと思いながら、
売上が増加傾向で、信州牛を使った 2,500 円のしゃぶしゃぶな
今後の店舗づくり・運営の方向を見極めることが非常に難しい、
ど高単価メニューも好調。これは、お客様の志向が価格から価
そういった状況が続くと思います。
値へ変化していることを裏付けているといえます。このような
■ 2015 年の注力ポイント
変化を追い風に、既存店舗の今年の売上は、前年比 105%以上
既存店舗は、基本的に前年度比3%増が目標。そのために、
を目標に臨みます。
まず、清潔・快適・安全・安心の基本4要素については徹底し
■ 2015 年の注力ポイント
てこだわり続ける。当社は1ホテルの社員数が平均 6 人。こ
これまで同様、多様な異空間と飲食を中心に充実したサービ
れは基本要素を満たすために必要な体制と考えています。今年
スを提供し、商圏内で高単価ながらお客様に選ばれるホテルづ
はさらに快適性に力を注ぐ考えですが、4号営業としてのラブ
くりを進めていきます。また、今春に2店舗の改装を予定。新
ニーズ演出と相反する部分もあり、今後の方向をどうするのか、
規取得も年内に県内で4店舗を計画しています。大都市圏に比
カップルにとってのラブホテルの位置づけといった根本部分か
べれば地方の景気動向は決してよくはありません。しかし、地
ら再検討を進めています。シティホテルのグレードで多彩な設
方では取得費が低く、当社の強みである内部の建築部門や企画・
備を備え、ラブニーズ演出もあり、プライバシーも確保される
販促物制作部門を活用することで、コストを抑えながら集客力
業態であることを考えれば、高料金で当たり前であるはず
のあるホテルづくりができる。地方でも十分に高利回りの事業
……。それをどのように打ち出すか。景気や消費動向ではなく、
展開が可能です。初期投資を5年で回収しその後の5年で収益
現代人の性意識・行動も捉えたなかで新たな方向を見い出さな
を蓄え次の追加投資をすることで、中長期的に安定した収益確
ければならない時期にきていると思います。もちろん今年も、
保を継続できます。この考え方を基本に、長野県内を中心に今
事業自体は、新規出店も含め積極的に取り組んでいきます。
年も前向きに積極的に事業に取り組みます。
28
LH-NEXT 2015 ● vol.23
[特集]2 0 1 5 年 市 場 予 測 ①
経営/運営企業に聞く:
2015年の注力ポイント
清潔さの徹底追求と
流行への敏感な対応で
回転より単価で売上構築
景気変動への対応よりも
商圏内の限られた需要を
取込み収益を確保する
LVG グループ
㈱カイリゾート
専務取締役
品川尚子
経営企画室
松長一志
■ 2014 年の総括
■ 2014 年の総括
都内および神奈川の店舗とも、9月頃までは好調に推移しま
2013 年と比べて市場環境に大きな変化はないと思います。
したが 10 月以降は低調に転じました。秋以降に消費税増税の
昨年はアベノミクスによる景気回復のイメージもありました
影響が出始はじたように感じています。
が、一般サラリーマンの可処分所得は増えておらず、都心部の
一昨年に1店舗を改装し、昨年は1店舗の7室を表装変更し
一部ホテルを除けば、追い風にはなっていないでしょう。そも
ました。どちらも改装前に比べ 10%前後の売上の伸びを示し
そも景気の変動に個々のホテルは対応のしようがない。それよ
ています。
りも商圏内の限られた需要をいかに取り込み、収益を出してい
現在、多くのホテルがすでに設備もサービスも充実させてい
くか。それが勝負だと考えています。2014 年は費用対効果を
ます。そのなかで、集客につながる方法として選択したのが「当
考え改装等の大きな費用をかけませんでした。そのため売上実
たり前のこと」の徹底です。なかでも、清潔さを再度見直し、
績は、運営管理9店舗のトータルでみると、前半は消費税増税
地域で一番キレイなホテルを目指す取組みをスタートさせまし
分をやや上回る伸びをみせましたが、後半は伸びが止まり横ば
た。とくに直接身体に触れる食器や寝具などはどのように清潔
いの状況、通年では税抜きでほぼ横ばいでした。
にして提供しているのか、お客様に告知することも重視。また、
■ 2015 年の市場動向予測
改装時には自分たちでメンテナンスができることを重視した施
ホテルは労働集約的産業であり、何らかの技術革新で市場が
工を要望。不備のための客室売止を防ぎ修繕コストの抑制にも
急激に変化することのない産業です。そのなかでシティ・ビジ
つながります。
ネスホテルがカップル利用の獲得にさらに積極的に動いてく
■ 2015 年の市場動向予測
る。これは想定内です。一方、小規模の単独店は厳しさが増し
若者層のカップルレス化が進行しているように思われます。
てくると思います。グループ化によるスケールメリットは、仕
昨年のクリスマスも街中のカップル数も少なかった印象です。
入れコストだけではなく、運営ノウハウの情報力といった面か
女子会などのパーティ利用を促進し、その利用者から新規顧客
らも、重要度がさらに増してくると思われます。
を開拓していくような取組み方など、新しい利用の提案や顧客
■ 2015 年の注力ポイント
開拓の戦略が必要だと思います。待ちの商売では組数は減少し
老朽化が進んだホテルであれば、低コストの改装でも売上を
ていきます。
200%以上に伸ばすことは可能です。ただし、商圏内の状況を
■ 2015 年の注力ポイント
的確に捉えて、投資コストと改装後の売上増加を見極めて臨む
昨年に続き「当たり前のこと」の徹底を継続していきます。
ことが必要です。また、単価を向上させる宿泊の増加を目指す
また、最新流行のモノ・コトを取込み続けることも重要だと思っ
といっても、商圏内の宿泊ニーズは限られている。無理に獲得
ています。「王様のブランチ」や深夜の通販番組をチェックし、
しようとすれば価格競争や過剰サービス競争に陥ってしまいま
話題のカフェやブティックに足を運び装飾手法やアイテムを参
す。そういった不毛の戦いは避けなければなりません。
考にする。また「東急ハンズ」ではホテルで活用できるさまざ
当社は別業種から参入した企業ゆえに、業界の既成概念や各
まなアイテムが探し出せます。スタッフとともに流行を捉えホ
種関連企業も知らないでスタートし、改装・修繕なども自社で
テルに採入れていくことに力を注ぎます。このような方向で大
取り組んできました。それがコストを抑えながらホテルを再生
きなコストを掛けずに新鮮さを維持し、回転よりも単価重視で
させる手法につながったともいえます。ひと昔前の高売上・高
売上をつくる方向を目指します。
収益の時代も知りません。それだけに現在の市場環境下で十分
また、人手不足が進んでいますが、当社では大学生のスタッ
な収益を確保できる事業との認識で取り組んでいます。他の業
フを採用し卒業時には後輩を紹介してもらう方法で人手を確保
種業態と比べれば十分に魅力的な事業です。当社としては、今
しています。都市部のホテルならこのような取組み方も有効だ
後も、商圏内の状況とニーズを見極めて「自前で何でもやる」
と思います。
方向で、収益に結び付く集客力の維持に取り組んでいきます。
LH-NEXT 2015 ● vol.23
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[2015年 市場予測]
地方では人がカギ
お客様の喜びを共有し
スタッフ力を高める
看板規制の影響は大きい
中高年層への訴求力を
強化し固定客化を進める
㈲久保田商会
三光開発㈱
代表取締役
久保田正義
代表取締役
加藤 透
■ 2014 年の総括
■ 2014 年の総括
4月の消費税増税で3%分を上乗せしましたが、集客にはほ
昨年の京都は、全体的に売上低下が続くなか、4月に消費税
とんど影響しませんでした。昨年の当社3店舗の売上は、税込
増税、8月に市の景観条例施行による看板撤去と大きな問題が
比較で前年比微増。当社ホテルは、この数年、安定した集客・
二つ重なりました。
売上を持続しています。利用者数の限られた地方都市では、と
消費税増税については、増税3%分の値上げを実施し、当初
くにブランディングが重要。これまで、他ホテルにはないこだ
は集客の変化はありませんでしたが、秋以降に集客が減少傾向
わりの客室空間とサービスの提供を続けてきたことで、お客様
となり、半年遅れで増税の影響が出てきたと思われます。一方、
の評価が定着し安定売上につながっていると思っています。た
市条例に基づく看板撤去によって、単独立地のホテル等は撤去
だし、お客様のニーズは右肩上がりです。一昨年秋に一部客室
直後に 10 ∼ 20%の売上減少となったケースもあります。当社
にベランダ追加などのリフレッシュを施したり、各種サービス
店舗も、近隣の交差点から見えていた塔屋看板を撤去。ただ、
のブラッシュアップを常に行なうなど、日々、成長するホテル
リピーター比率が高いこともあって昨年は目立った影響はあり
を目指した取組み方が、集客力を維持するうえで不可欠です。
ませんでした。しかしリピーター客中心とはいえ新規客の獲得
■ 2015 年の市場動向予測
がなければ集客は維持できませんから、今年以降、確実に影響
売上目標は、前年度比3%増。人口減少が続き、アベノミク
が出てくると思っています。このような状況下、当社ホテルの
ス効果もほとんどみられない地方都市ながら、一昨年のリフ
売上は、残念ながら前年比で微減の結果となりました。
レッシュの効果等も引き続きあり売上の微増は可能だと思って
■ 2015 年の市場動向予測
います。ただし、一般消費者からのラブホテルのイメージはま
人口の減少に伴い需要は減少していく。そのなかでホテル数
だまだ低い。また、今後も行政による規制強化もあるはず。こ
の減少も続く。今年もこの大きな流れのなかで、景気回復、一
ういった状況には個々の店舗では対応できない。事業として取
般庶民の収入増加があるのかどうかがカギとなりますが、まだ
組む以上、自社の収益確保は重要ですが、同時に、ラブホテル
まだ不透明な状況です。また、京都では外国人観光客が大きく
産業を衰退化させないような業界全体の取組みが求められま
増えています。しかし、現在のレジャー・ラブホテルは、一般
す。やはり協会等の組織の充実と活動の強化が重要との意識が
ホテルと利用システムが異なり、語学力のあるスタッフもいな
個々の経営者に必要だと思います。それが次の世代の経営者育
い状況で、その受入れは難しいというのが実情です。さらに、
成にもつながるはずです。
京都市内では今後もシティ・ビジネスホテルが増加していく。
■ 2015 年の注力ポイント
レジャー・ラブホテルにとってはそれらとの競合もさらに厳し
昨春に店舗を第3者的な視点からチェックできるように企画
くなっていくと思います。
開発部を設けました。各店舗のマネージャーとこの部署で、従
■ 2015 年の注力ポイント
来以上に、お客様視点で細部の見直しを続けていきます。また、
当社ホテルは改装後8年を経過し、次の改装が求められる時
とくに地方では、人がカギを握ります。スタッフからのマイナ
期。しかし、従来のような大規模改装をすれば、現在の市場環
スの口コミは致命傷になり、お客様の気持ちを捉えたひと言が
境では投資を回収できない。コストを抑えたなかで古臭さを排
ファンをつくる。これまで以上にスタッフ力の強化を進めます。
除し魅力を付加していくことが必要です。しかし、コスト抑制
とくに、お客様からのお褒めの声の共有が重要。それがスタッ
を優先し一般家庭と同じような空間になっては、夢を売る商売
フの気持ちに火をつけます。具体的な施策としては、例えば、
ではなくなってしまう。コストの掛け方が重要です。また、従
冬季でも冷やし中華を提供するなど極めて少数のニーズにも応
来のラブホテルの主要客層であった団塊の世代はリタイアして
え、コアなファンを増やしていく。それにより、売上1∼2%
もまだまだ元気です。中高年層に訴求力のあるホテルづくりで、
増を目指す。手間がかかり効果は小さくても、こういったきめ
この世代を呼び戻すなどで、看板告知のできない状況下、リピー
細かな取組みを積み重ねていきたいと思っています。
ターを確保して売上を維持する方向で臨んでいく考えです。
30
LH-NEXT 2015 ● vol.23
[特集]2 0 1 5 年 市 場 予 測 ①
経営/運営企業に聞く:
2015年の注力ポイント
適正な料金のもと
カップルのデート空間として
質の向上を進めていく
修繕と魅力付加を継続
単価向上による
売上増を目指す
サン産業㈱
サンモリッツグループ
専務取締役
山本正博
代表取締役社長
山岸栄一
■ 2014 年の総括
■ 2014 年の総括
関西地区は、昨年も値下げ競争が続きました。チェーン展開
東京・鴬谷のホテル集積地は、全体的にリーマンショック以
のホテル等が低価格訴求で臨み、周辺ホテルも追随してしまう。
降に売上低下が進み東日本大震災でさらに低下、一昨年頃から
その結果、値下げをしてリニューアルオープンをするといった
お客様が戻りはじめましたがリーマンショック前の売上までは
状況も散見されました。売買で所有者が交代しても、質の向上
戻っていないという状況です。
で売上の回復を図るのではなく、従来路線の価格訴求を引き継
また、エリア内のホテル密度が高く近隣店舗の改装等の影響
いでしまうケースが少なくない状況が続いています。
が大きい。金融機関が融資に前向きに取り組みはじめた背景も
4月の消費税増税時に、私としては「ここで値上げができな
あり、昨年から改装店舗が増えてきました。当社はエリア内で
ければ経営者の資格はない」と強く思い、料金全体を見直しトー
4店舗を営業しており、昨年は、1店舗で全室を表装改装、1
タルで5∼6%の値上げを実施。その結果、2店舗は前年比
店舗で1室を改装、1店舗で3室のバルコニーを改装しました。
10%前後の売上増となりましたが、1店舗は減少を余儀なく
これまでも、客室ごと、客室の部分ごとに修繕や新たな魅力と
されました。減少店舗の立地エリアは値下げが進み、周辺各店
なる変更を、随時、継続的に実施することで集客力の維持を図っ
舗と大きな料金差が生じており、どうしても組数減少につな
てきました。そのため前年比較が難しいのですが、全店舗トー
がってしまいました。
タルでの売上は消費税増税分を除くとほぼ横ばいといった状況
■ 2015 年の市場動向予測
でした。
アベノミクス効果といっても株や為替に関連する富裕層しか
■ 2015 年の市場動向予測
恩恵は受けていない。レジャー・ラブホテルの主要客層の一般
鴬谷は、いわゆるデリヘル利用が多いエリアです。休憩が高
庶民は収入が増えていません。さらに、関西地区では価格訴求
回転し宿泊が苦戦という状況が続いており、収益性は低下傾向
もさらに続いていくと思います。しかし、将来への事業継続の
といえます。この傾向はまだ続くと思いますが、2020 年の東
ためには、ホテルの質を上げ適正な単価での営業が求められま
京オリンピック・パラリンピックに向けての各種規制の強化も
す。そのためには、私も含めて経営者自身がもっと勉強し経営
想定した取組みが求められているといえます。
の質的向上が必要だといえます。現在の関西では、経営者の子
■ 2015 年の注力ポイント
供たちが後を継がないケースも少なくありません。業界自体が
これまで同様に、一般カップルの宿泊獲得および固定客化を
将来に継続していくためにも、価格競争から価値競争への転換
重視した方向の取組みを推し進め、昨年に追加投資をした店舗
が求められる時期に来ていると思います。
は5%前後の売上増加を見込んでいます。すでに設備での差別
■ 2015 年の注力ポイント
化は難しい状況です。不備のない清潔な空間という基本を徹底
レジャー・ラブホテルは、カップルのデートの場所であるは
しアメニティなどの充実を図っていきます。また。イベントや
ず。カップルが快適に楽しい時間を過ごす空間をいかにつくり
キャンペーンは、直接的な集客効果よりもフロントとお客様の
あげ提供するか。あくまでこの視点を重視して臨みます。収益
コミュニケーションのきっかけづくりを目的に実施。お客様と
率が低下するなかでも営繕コストを重視して、クロス張替え、
の会話は固定客化に有効であり、同時に改善すべき部分の情報
什器備品・設備器具の入替え等をこまめに実施し不備のない空
収集にもつながります。
間を提供していく。営繕コストは、質の維持・向上に不可欠で
大きな課題は人手不足の対策。今後は、管理と教育の手間が
あり、いわば商品仕入れのコストだと捉えています。そのうえ
増加しても、コンビニのように多数のスタッフを抱え短時間の
で飲食やイベントなどのサービスを進めていく。また、新規客
シフトを組む運営体制も必要になってくると思っています。さ
の誘客のために、これまでネットでの情報発信を重視してきま
らに人件費の上昇も続くので、やはり単価アップが求められま
したが、郊外店舗ではやはり看板も重要。料金の見せ方、魅力
す。そのためにも宿泊や長時間休憩につながる魅力の追加、運
の告知など看板の見直しも進める考えです。
営の強化に力を注いでいきます。
LH-NEXT 2015 ● vol.23
31
[2015年 市場予測]
親切さを徹底追求し
ホスピタリティ日本一の
ホテルづくりを進める
市場縮小は続くが
新たな投資家も参入し
活性化がはじまる
㈱GHP
㈱J&M HOLDINGS
代表取締役社長兼COO
宮田啓光
代表取締役社長
永田賢治
■ 2014 年の総括 ■ 2014 年の総括
昨年の当社実績は、1月∼6月が好調、後半は宿泊が伸び悩
一昨年から昨年にかけて、長年にわたり営業してきたホテル
みましたが通年で予算比、前年比をクリアしています。宿泊が
が売却に動きました。それが昨年後半になると、取得希望者が
伸ばせなかった要因の一つは、レジャー・ラブホテルではなく
増加。その背景には、この業界に融資をする金融機関が増えた
シティ・ビジネスホテルやネットカフェ、自宅を選ぶ利用者が
こともあります。他業界からの参入や新しいアイディアをもっ
増えていること。また、カップル数の減少により繁忙期である
た人たちの参入は、業界にとって刺激になり活性化につながっ
はずのクリスマスが低調で、友人同士で楽しむハロウィンが盛
ていくと思います。当社の所有物件は、前年比 10 ∼ 15%の売
り上がっている。こういった若者の行動・価値観の変化に対応
上増を示し、改装店舗においてはさらに大幅な伸びを示してい
できなかったこと。しかし、一部の店舗では海外の旅行サイト
ます。その状況が評価され3店舗が売却に結び付いています。
と連携してインバウンド需要への対応にも着手。チェックイン
■ 2015 年の市場動向予測
時間を早め、iPad による外国語インフォメーションを提供し
外資も含めて新たな投資家の動きが活発になってきていま
て外国人観光客を取り込み、減少した組数を高単価で補うこと
す。しかし、優良な投資物件が少ない状態。投資家は基本的に
ができました。外国人からは客室のデザイン性や浴槽の大きさ
リスクヘッジとハイリスクハイリターンを組合せた投資を行な
などが好評ですので、今後、このマーケットへの対応をさらに
いますが、レジャー・ラブホテルはリスクが小さくリターンが
推し進めます。
大きい業種。当然、この分野に目が向き始めています。今後、
■ 2015 年の市場動向予測 その受皿となる優良な運営企業の重要度がさらに高まってくる
店舗やエリアにより違いはあっても昨年より全体で増収増益
でしょう。ただ、数年前の外資の流入・撤退という状況を鑑み、
を見込んでいます。しかし、従来と同じ営業方法なら利用者は
慎重な対応が必要です。業界全体としては、人口減少で市場は
減少します。業界全体として人手不足も深刻な問題となるで
縮小の方向に進みます。そのなかで、増加する高齢者の利用に
しょう。このままでは顧客も従業員も、つまり「人が集まらな
対してサービス内容をどう変えていくのか。インバウンド需要
い、人で負ける」業態になってしまいます。「人が人を呼ぶホ
にどう対応するのか。さらに、季節別・日別で大きく料金が違
テル」とするために従業員の評価手法や労働環境の見直しで従
うシティホテルのように高需要期に単価アップを図る利用シス
業員満足の向上に努め、一同でお客様をお迎えするマネジメン
テムがあってもいいと思います。ビジネスは、需要と供給の問
トの実現を目指します。
題。変化する、あるいは新しいお客様の需要を捉え、適正な価
■ 2015 年の注力ポイント
格で提供できる企業が、今後伸びていくと思います。
今年の最重視テーマは、親切さを徹底追求して「ホスピタリ
■ 2015 年の注力ポイント
ティ日本一」のホテルを目指すこと。ホテル側は当たり前と思っ
当社としては、店舗の取得と既存店舗の売上向上で事業のス
ていても新規の利用者には分からないことが少なくない。客室
ケールアップを進めていきます。ただし、商業施設の一つとし
内の用品備品、サービス品の位置や使い方なども含め、ストレ
てレジャー・ラブホテルを捉えているので、それぞれのロケー
スなくスムーズに使えるようにインフォメーションを見直す。
ションで最も収益性の高い施設づくりを目指します。取得した
昨年から取組みはじめたスマホ利用のスムーズチェックインシ
ラブホテルの複合化や他業態への転換もあるでしょう。また、
ステムの導入も進める。また、フロントのお客様への声掛けを
人口の多さと密度から首都圏の魅力は高い。しかし、地方でも
日ごと・天候ごとに変えるようにもしました。親切さとは具体
首都圏ほどの売上がなくても取得費と経費の低さから高収益が
的に何をすればよいのか、それを示したホスピタリティブック
可能なケースが少なくありません。また、レジャー・ラブホテ
をつくり全スタッフに配布しました。大規模投資で単価・集客
ルのビジネスモデルは海外でも通用すると思っています。レ
の大幅向上を狙うには、まだリスクが大きい。今年は、親切さ
ジャー・ラブホテルに関する事業の発展性は幅広く可能性も大
の追求でホテルの価値の向上を進めます。
きいので、広い視野から積極的に取り組んでいきます。
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LH-NEXT 2015 ● vol.23