共感性と EC の関係について

共感性と EC の関係について
藤本明日美
(美作大学大学院人間発達学研究科)
キーワード:共感性,エフォートフル・コントロール,調和性
An influence of Effortful Control on empathy
Asumi FUJIMOTO
(Guraduate School of Human Development Mimasaka Univ.)
Key Words:Empathy,Effortful Control,Agreeableness
目 的
Rothbart,Ahadi, & Hershey(1994)の 6~7 歳児またその親
を対象とした研究において,気質に含まれる EC(エフォートフル・
コントロール:アクションの開始と抑制,自発的な注意の集中と移
行等を行う自己調整システム;Ahadi & Rothbart,1994)と共感性と
の間に正の相関を示した.しかし,Evans & Rothbart (2007)の研
究においては EC と,共感性の要素を含むと考えられている調和性
(Big Five の因子)及び日本語で協調と訳される Cooperation(TCI の
因子)との間に,成人では有意な関係はなかった.
幼児期から成人期の間で,共感性と EC との関係が変化するとい
う可能性はある.しかし,Evans & Rothbart (2007)の研究は直接
共感性との関係を調べたものではなく,調和性また協調性と EC と
の間の関係のみ調べられている.そのため,直接的に共感性と EC
との関連を検討することにより,関係を明らかにすることができる
のではないか.さらに,なぜ共感性を含むと考えられている調和性
また協調性と EC との間では関係が見出されなかったのかという点
についても疑問が残るため,詳細に下位尺度との関係まで分析し,
共感性と EC の間の関係,調和性及び協調性における共感性につい
て検討した.
方 法
鈴木・木野(2008)により作成された“想像性”
,
“被影響性”
,
“他
者指向的反応”
,
“自己指向的反応”
,
“視点取得”の下位尺度を含む
多次元共感性尺度(MES),Rothbart et al.(2000)の作成した Adult
Temperament Questionnaire のうち,山形・高橋・繁桝・大野・
木島(2005)が翻訳した,
“行動抑制の制御”
,
“注意の制御”
,
“行動始
発の制御”の下位尺度を含む日本語版成人用 EC 尺度,Cloninger et
al.(1993)が作成し,
木島ら(1996)が翻訳した日本語版 TCI 尺度 125
項目版のなかの“社会的受容性”
,
“共感”
,
“協力”
,
“同情心”
,
“純
粋な良心”を下位尺度とする協調尺度,和田(1996)によって開発さ
れたBig Fiveの調和性尺度の4つの尺度を合わせた質問紙を作成し
た.分析対象は質問紙の回答に不備のない大学生 123 名とした.
結 果
大学生を対象とした共感性と EC との関連を検討するため,EC
を独立変数,調和性尺度また協調の各下位尺度を従属変数とする重
回帰分析を行った.その結果,EC からの影響について調和性は有
意であり,協調では社会的受容性下位尺度が有意であった(表 1).た
だし,有意に影響した独立変数は EC の行動抑制の制御であった.
また,共感性についても気質に含まれる EC からの影響を検討する
ため,EC を独立変数とし,MES の各下位尺度を従属変数とする重
回帰分析を行ったところ,下位尺度である被影響性また視点取得に
おいて,重回帰が有意であった(表 2).ただし,影響した独立変数は
被影響性では注意の制御であり,また視点取得では行動の抑制の制
御であった.
表 1 協調の各下位尺度を従属変数とする重回帰分析
β
独立変数
社会的
受容性
協力
共感
同情心
純粋な良心
EC 行動抑制の制御
.299**
.091
-.008
.168
-.003
EC 行動始発の制御
-.065
.041
.090
.043
-.209△
.080
.131
-.004
-.055
.025
.101**
.047
.007
.029
.040
EC 注意の制御
R²
Δ :p<.10, *:p<.05, **:p<.01, ***:p<.001
さらに,共感性と調和性また協調との関連についても分析を行っ
た.共感性と協調または調和性についてはどちらを独立変数とする
べきかについて理論的根拠がないため,重回帰分析ではなく MES
と調和性については相関分析を行い,MES と協調については協調
の下位尺度を制御変数とした偏相関分析を行った.その結果,調和
性においては MES の視点取得また他者指向的反応と相関があった.
また,MES と協調においては,MES の視点取得と協調の共感およ
び同情心との間に偏相関があり,また,MES の他者指向的反応と
協調の共感および協力との間で偏相関があった.
表 2 MES 各下位尺度を従属変数とする重回帰分析
β
独立変数
被影響性
視点
他者指向
自己指向
取得
的反応
的反応
想像性
EC 行動抑制の制御
-.088
.253*
.117
-.138
EC 行動始発の制御
-.107
.097
.043
-.015
.074
EC 注意の制御
-.309*
-.059
-.029
.060
-.107
.179***
.080*
.017
.034
.047
R²
-.177△
Δ :p<.10, *:p<.05, **:p<.01, ***:p<.001
考 察
以上の結果から,幼児期と同様に成人期においても共感性を含む
と考えられている調和性と EC また協調と EC との間で有意な関連
があること,また,共感性と EC との直接的な関連も検出された.
これは Evans & Rothbart (2007)の先行研究とは一致しない結果で
あり,気質に含まれる EC が性格因子である調和性また協調さらに
共感性に何らかの影響を及ぼしていることが示された.先行研究に
おいて共感性と EC に関連がなく,本研究では関連が見出されたこ
とについて,Big Five の尺度が先行研究と異なること,EC の下位
尺度を用いて分析を行ったことが考えられる.しかし,EC からの
影響があったものの他に,EC からの影響がなかったものや分析結
果にははっきりと表れなかったが EC と関連がありそうなものなど,
今回の分析では明らかでないものがある.それらについて検討する
ことが今後の課題である.