廃熱回収熱交換器の設計

廃熱回収熱交換器の設計
屋良 朝康
沖縄工業高等専門学校 技術室
1. はじめに
近年,我が国のエネルギー政策は化石燃料資源や環境問題などから,風力,太陽光や地熱などの再生可能エネルギー
に移行しようとしている.最近は373K(100℃)未満の比較的低温の温泉水や工場排水の廃熱を熱源として用い,低沸
点の作動媒体を蒸発させ,その蒸気でタービンを駆動して発電する小規模のバイナリー発電が実用化され,発電システ
ムも市販されている.また,家庭や事業所から出される廃棄物(可燃性ゴミ)の焼却に伴い発生する熱で水蒸気を発生
させて発電するゴミ発電施設1)も増えている.しかしながら,我々の身近にある処理能力 50 kg/h 程度の小型のゴミ焼
却炉からの廃熱回収は,設備の大きさ,燃料となるゴミの量が原因となる燃焼温度の安定性の問題や,排ガス浄化の環
境問題などからほとんど行われていない.しかしながら,離島や山間部などでの電気エネルギー供給を考えた場合,分
散型発電システム(エネルギーの地産・地消)としてゴミの燃焼熱を利用できれば,自然エネルギーと組み合わせて,
特に夜間に一定量の安定した電力が得られると考えられる.
本研究では,小型ゴミ焼却炉からの廃熱回収のため,作動媒体として HC 系媒体あるいは HFC フロン系媒体などの低
沸点成分を組み合わせた混合媒体を用いた廃熱利用技術について検討し、熱回収システムの熱交換器の設計計算を行う.
2. 予測計算方法
冷水
媒体液
図 1 に廃熱回収の概念図を示す.燃焼排ガスを排気する内径
Di = 300 mm の煙突内に,廃熱回収用に銅管
( 外径 do = 12.7 mm,
廃熱回収
熱交換器
(銅管)
内径 di = 9.7 mm ),巻き数 n の螺旋熱交換器を設置する.H は
設置高さで,次式で算出する.
H = n ×π( Di – do )× tan(θ)
Di
θ
H
螺旋角
(銅管)
(1)
温水
媒体蒸気
ここに,θは熱交換器の螺旋角である.
本研究では,プレートフィン型熱交換器内での水‐HFC ある
廃熱
排
気
いは HCFC フロン系混合媒体の蒸発伝熱性能予測計算法 2)の熱
伝達及び物質伝達モデルを,円管螺旋状熱交換器内での排ガス
(空気)‐HFC 系と HC 系媒体との混合媒体用蒸発伝熱性能予
測計算プログラムに修正し適用する.
燃焼室
予測計算では,熱交換器の媒体の入口温度及び出口過熱度を
与え,排ガスの入口温度及び流速,媒体の質量流量及び圧力を
図 1 廃熱回収の概念図
パラメータとして,媒体と排ガスの熱収支式と物質収支式を解
き 3) 熱交換器の長さを求める.供試媒体として,HFC 系フロン媒体 R245FA 単一媒体と,R245FA と HC 系媒体 Propane
(R290)及び Butane (R600)との混合媒体を用いる.媒体及び排ガスである空気の熱力学的性質の算出は NIST Refprop
Version 94) によった.
2.1 予測計算条件
表 1 に計算条件を示す.表中の yb は低沸点成分 R290,R600 の質量分率,P は媒体圧力,TFin 及び WF は,媒体の熱交
換器入口温度及び質量流量,ΔTF は媒体の熱交換器出口過熱度,TGin 及び UG は,排ガスの熱交換器入口温度及び速度で
ある.なお,排ガスの圧力は大気圧力とした.計算では熱交換器の螺旋角θを 5 ° として圧力損失 5)を見積もった.
表 1 予測計算条件
yb
R245FA
R290/ 245FA
0.5
R600/ 245FA
0.5
P
MPa
2.0
1.0
媒体
TFin
K
293
WF
kg/h
80
40
ΔTF
K
50
排ガス
TGin
UG
K
m/s
1000
4
800
2
Di
mm
熱交換器
do
di
mm
mm
θ
300
12.7
5
9.7
3.予測計算結果
3.1 圧力-比エンタルピー線図
図 2 は,圧力 P-比エンタルピーh 線図である.図中の T
は,等温線,等クオリティ線,等比エントロピー線を示す.
1’
5
4
は温度,x はクオリティ,s は比エントロピーであり,実線
1
3
図中破線の点 1~1’は廃熱回収システムの状態点を示す.
2
2’
点 1 は熱交換器出口,点 2 は凝縮器入口となり,発電シス
T [K]
s [kJ/kgK]
テムの場合はこの区間にタービンを設置する.点 3 は凝縮
器出口となり,点 2’は飽和蒸気(露点)で,2’-3 は凝縮
域(気液二相域)である.点 4-1 は廃熱回収用の熱交換器
入口,出口となり,
この区間で排ガスからの熱回収を行い,
(a) R245FA 単一媒体
媒体は加熱されて蒸気となる.点 5 は飽和液(沸点)
,点 1’
飽和液線
は露点であり,5-1’は蒸発域(気液二相域)となる.点 3
飽和蒸気線
液単相域
及び点 4 は,それぞれポンプ入口及び出口となる.図(a)は
1’
4 5
R245FA 単一媒体,図(b)は 50wt% R290 / 50wt% R245FA 混
1
合媒体,図(c)は 50wt% R600 / 50wt% R245FA 混合媒体の線
3
図である.図(a)の場合,飽和液線と飽和蒸気線との間の気
2
2’
T [K]
s [kJ/kgK]
気液二相域
液二相域において,圧力一定で,温度は一定となる.図(b)
蒸気単相域
の場合,圧力一定でも,露点と沸点の温度が異なり,二相
域において温度変化が生じる.このような媒体を非共沸混
合媒体という.図(c)の場合,圧力によって,露点と沸点と
の温度差が 0.5K 程度から 0K となる.このように温度差が
(b) 50wt% R290/50wt% R245FA 混合媒体
生じない共沸点が存在する混合媒体を共沸混合媒体という.
図中の破線のサイクルは,熱交換器圧力 1MPa,凝縮器
圧力を 0.2MPa の場合であるが,蒸発温度(点 5-1’)は
350K,50wt%R290 は約 335K と低くなる.凝縮温度(点 2’
1’
5
4
R245FA 単一媒体が約 363K と最も高く,50wt%R600 は約
1
3
-3)は,R245FA と 50wt%R600 の場合は約 293K であるが,
2’
図(b)の 50wt%R290 場合,凝縮器出口温度は約 253K であり,
2
T [K]
s [kJ/kgK]
凝縮器冷却水用に冷却装置が必要となる.また,本計算条
件では熱交換器入口温度を 293K としているため,点 3 か
ら点 4 の過程で加熱装置が必要となる.
本研究の廃熱回収量は,熱交換器での交換熱量 Q となる
(c) 50wt% R 600/50wt% R 245FA 混合媒体
が,その熱量は蒸発過程での比エンタルピー差と媒体質量
図2
流量 WF との積であり,次式で求める.
P - h 線図
Q = WF×cP×(TFout - TFin) = WF×(hFout - hFin) = WF×ΔhF
(2)
ここに,cP は定圧比熱であり,TFout は熱交換出口温度で飽和蒸気温度に過熱度ΔTF を加算して得られる.hFout は熱交換
器出口(点 1)での比エンタルピー,hFin は熱交換器入口(点 4)での比エンタルピーである.
表2に hFin ,hFout 及び出入口の比エンタルピー差ΔhF の予測計算結果を示す.hFin の値は,媒体入口温度を一定にし
ているため,圧力一定においては同じ値となる.また,媒体の圧力に対して飽和蒸気温度が決まるので、ΔTF を与える
と TFout は一定となるため,hFout の値は媒体と圧力を決めれば同じ値となる.本計算結果において,hFout の値が変動して
いるのは,熱交換器内での圧力損失を考慮しているため,媒体質量流量により出口の圧力が変化することによる.
媒体によってΔhF の値や,蒸発及
表 2 比エンタルピーの予測計算結果
び凝縮温度,露点と沸点の温度差,
R600/R245FA
は大きく異なっている.このような
媒体の熱力学的性質が廃熱回収シス
テムの開発や,廃熱回収用熱交換器
の設計に大きな影響を与えるため,
媒体の選定は重要となる.
P
hFout
1.0
657.32~
658.17
2.0
699.18~
699.53
R290/R245FA
1.0
606.42~
607.68
2.0
634.87~
635.55
R245FA
1.0
527.40~
528.27
2.0
554.14~
554.65
hFin
248.08
248.57
257.13
257.32
226.14
226.46
ΔhF
409.25~
410.10
450.61~
450.97
349.19~
350.55
377.55~
378.23
301.26~
302.13
327.68~
328.20
3.2 熱交換器長さ,交換熱量及び排ガス出口温度の予測計算結果
表 3 に予測計算結果を示す.L は熱交換器長さ,Q は熱交換器での交換熱量で式(2)より求める.TGout は排ガスの熱交
換器出口温度である.n は熱交換器の巻き数,H は式(1)で求める熱交換器の設置高さ(図 1 参照)である.
単一媒体,混合媒体いずれの媒体においても,P が一定の場合,媒体質量流量 WF が 40 から 80 に増えると,交換熱
量 Q は約 2 倍となる.これは,Q は式(2)に示すように,WF とΔhF との積となるが,ΔhF がほぼ同じ値で,WF が 2 倍と
なるためである.WF が同じで P が 1.0 から 2.0 と高くなると Q が大きくなるのは,熱交換器出口温度が高くなり,ΔhF
が大きくなることによる.P 及び WF が同じ場合,単一媒体に比して混合媒体の Q は大きくなるが,これは,図 2 に示
したように蒸発過程の比エンタルピー差の特性により,表中のΔhF の値が大きくなることによる.本予測計算では,媒
体の圧力,質量流量,熱交換器入口及び出口温度を与えているため,交換熱量の結果には,排ガスの速度 UG 及び入口
温度 TGin の影響は見られない.
一方,排ガス側からの結果を見ると,WF = 40 の場合,UG が 2 から 4 と速くなると,排ガスの入口温度によらず Q の
値はほぼ同じであるが,排ガス熱交換器出口温度 TGout は高くなる.これは,排ガス側からの交換熱量 Q は式(3)で求め
るが,密度及び定圧比熱はほぼ同じ値であり,Q が一定の場合は UG が速くなると排ガスの熱交換器出入口温度差が小
さくなることによる.また,排ガス入口温度一定において,UG = 2,WF = 40 から UG = 4,WF = 80 と UG 及び WF ともに
2 倍に増えると,Q は 2 倍となり,TGout はほぼ同じ値となる.これは,WF が 2 倍となると Q が 2 倍に増えるが,同時に
UG も 2 倍に増えることで,式(3)より温度差が一定となることによる.
π (D i − 2 d o )
× c PG × (TGin − TGout )
4
2
Q = U G × ρG ×
(3)
ここに, ρ G 及び c PG は,それぞれ排ガスの密度及び定圧比熱である.
本計算条件において熱交換器長さ L と設置高さ H は,R600/R245FA 混合媒体では L は 2.6m~14.9 m で H は 0.22m~
1.30m,R290/R245FA 混合媒体では L は 2.1m~11.7 m で H は 0.19m~1.02m,R245FA 単一媒体では L は 1.9m~10.4 m で
H は 0.17m~0.91m となる.混合媒体の熱交換器長さ L は単一媒体に比して 1.10 倍~1.44 倍程度長くなるが,これは,
混合媒体の交換熱量が,R600/R245FA 混合媒体では 1.35~1.37 倍となり,R290/R245FA 混合媒体では 1.15~1.16 倍とな
ることによる.
4.まとめ
小型ゴミ焼却炉からの廃熱回収のため銅管螺旋熱交換器について, R245FA 単一媒体と,50wt%R290 / 50wt% R245FA
混合媒体及び 50wt%R600 / 50wt%R245FA 混合媒体の蒸発伝熱性能予測計算を行った.計算では,熱交換器の排ガスの入
口温度及び流速,媒体の質量流量及び圧力をパラメータとして,熱交換器内での熱収支式と物質収支式を解き,熱交換
器長さ,交換熱量及び排ガス温度を検討し,以下の結論を得た.
(1)
R290/R245FA を用いる場合,圧力 1MPa において,蒸発温度は約 331K~335K と低い排ガス温度で熱回収できるが,
圧力 0.2MPa での凝縮温度が 288K~253K となり,媒体の冷却には冷却装置が必要となる.
(2)
凝縮圧力を 0.2MPa とした場合,R245FA 及び R600/R245FA の場合は凝縮器出口でほぼ 293K となるが,R290/R245FA
(3)
圧力一定の場合,質量流量が 2 倍になると,本計算条件においては媒体によらず交換熱量は約 2 倍となる.
(4)
質量流量が一定の場合,圧力が 2 倍になると,媒体によらず熱交換器出口温度が高くなることにより,交換熱量は
の場合は,蒸発器入口に加熱器(予熱器)が必要となる.
増加する.
(5)
圧力と媒体質量流量が同じ場合,蒸発過程での比エンタルピーの特性から,交換熱量は R245FA に比して, R600/
R245FA では 1.35~1.37 倍となり,R290/R245FA では 1.15~1.16 倍となる.
(6)
排ガスの出口温度は,交換熱量一定の場合は,排ガス速度が速くなると高くなる.つまり,排ガスの出入り口温度
差が小さくなる.
(7)
媒体質量流量及び排ガス速度がともに 2 倍になると,排ガスの出口温度はほぼ同じとなる.つまり,排ガスの出入
り口温度差が同じとなる.
(8)
本計算条件において熱交換器長さ L と設置高さ H は,R600/R245FA では L は 2.6m~14.9 m で H は 0.22m~1.30m,
R290/R245FA では L は 2.1m~11.7m で H は 0.19m~1.02m,R245FA では L は 1.9m~10.4 m で H は 0.17m~0.91m
となる.
本計算結果は混合媒体を用いると熱交換器長さが長くなるが,これは,混合媒体の熱力学的性質により交換熱量が増
えているためであり,計算条件で混合媒体と同程度の廃熱回収量となる場合は,R245FA 単一媒体は熱交換器長さが必
要となることを示している.廃熱回収システムの開発には,廃熱量の見積もりと媒体の熱力学的性質を考慮した予測計
算を行い,熱交換器の最適設計を行うことが重要となる.
表 3 予測計算結果
yb
P
TGin
UG
WF
L
Q
TGout
MPa
K
m/s
kg/h
m
W
K
800
2
1.0
1000
R600 / R245FA
4
4
2
0.5
800
4
2
2.0
1000
4
2
800
2
1.0
1000
R290 / R245FA
4
4
2
0.5
800
4
2
2.0
1000
4
2
800
2
1.0
1000
R245FA
4
4
2
1.0
800
4
2
2.0
1000
4
2
n
H
ΔhF
m
kJ/kg
80
12.99
9114.1
720.2
14.34
1.13
410.10
40
5.89
4530.3
760.6
6.50
0.51
409.32
40
7.07
4530.1
720.8
7.80
0.62
409.29
80
5.67
9101.3
904.1
6.26
0.49
409.53
40
2.58
4529.6
952.5
2.85
0.22
409.26
40
2.98
4529.5
904.7
3.28
0.26
409.25
80
14.92
10013.5
712.5
16.47
1.30
450.97
40
6.74
5005.9
756.4
7.44
0.59
450.66
40
8.18
5005.8
712.3
9.02
0.71
450.64
80
6.43
10004.4
894.7
7.10
0.56
450.75
40
2.92
5005.1
947.5
3.22
0.25
450.62
40
3.40
5005.1
894.4
3.76
0.30
450.61
80
10.50
7818.7
731.7
11.59
0.91
350.55
40
4.83
3882.6
766.2
5.33
0.42
349.29
40
5.71
3883.0
732.1
6.30
0.50
349.29
80
4.63
7781.9
918.1
5.11
0.40
349.72
40
2.14
3880.4
959.4
2.36
0.19
349.19
40
2.43
3880.5
918.4
2.69
0.21
349.19
80
11.71
8417.3
726.4
12.93
1.02
378.23
40
5.36
4196.4
763.5
5.92
0.47
377.61
40
6.39
4196.5
726.6
7.05
0.56
377.61
80
5.12
8400.5
911.7
5.65
0.45
377.82
40
2.36
4195.2
956.0
2.60
0.21
377.55
40
2.69
4195.2
911.8
2.97
0.23
377.55
80
9.24
6714.0
741.3
10.20
0.81
302.13
40
4.36
3348.0
770.9
4.81
0.38
301.32
40
5.05
3348.1
741.4
5.57
0.44
301.33
80
4.01
6701.9
929.5
4.43
0.35
301.59
40
1.91
3347.3
964.9
2.11
0.17
301.26
40
2.13
3347.3
929.5
2.35
0.19
301.26
80
10.41
7293.3
736.2
11.49
0.91
328.20
40
4.90
3641.3
768.3
5.40
0.43
327.71
40
5.70
3641.3
736.3
6.29
0.50
327.72
80
4.47
7286.3
923.3
4.94
0.39
327.88
40
2.12
3640.9
961.8
2.34
0.19
327.68
40
2.38
3640.9
923.3
2.63
0.21
327.68
参考文献
1) 松村 眞,ごみ焼却発電の拡大と発電効率の向上,SCE・Net エネルギー研究会・エネルギーレポート, (2007).
2) 屋良 朝康,小山 繁,流下液膜式プレートフィン蒸発器内での二成分混合冷媒の伝熱特性の予測計算法,日本冷凍空
調学会論文集,Vol.24,No.4,pp.441 – 421,(2007).
3) J. Yu, Experimental Study on Flow Boiling of Pure and Mixed Refrigerant in Smooth and Microfin Tubes,
九州大学博士論文,(1994).
3) Eric W. Lemmon, Marcia L. Huber and Mark O. McLinden, NIST REFPROP Ver.9, (2010).
4) 富田 幸男,山崎 愼三,水力学,産業図書,pp.150 – 153,(1980).