清水(2010-2012) - 大阪大学大学院理学研究科数学教室

局所類体論とその高次元化
大阪大学大学院理学研究科数学専攻 博士前期 2 年
清水 浩介
平成 24 年 1 月 23 日
はじめに
局所類体論とは, 一言ではなかなか説明できないものであるが, あえて簡潔に述べるならばそれは
「素数が見せる新しい世界を示した理論」といえる. その世界はある意味で実数体 R に良く似てお
り, 一方でそれとは大きく異なる側面も見せてくれる不思議な空間である. この新しい空間は素数 p
をひとつ固定したときに生まれる p 進数が支配しており, その全体は Qp と表される. この Qp は整
数や有理数と深く関わってくる空間である. その顕著な例が, Hasse 原理と呼ばれる次の例である:
a, b, c を整数の定数とするとき, 方程式 aX 2 + bY 2 = cZ 2 が整数解をもつかどうかは,
この方程式が実数解と各素数 p に対する p 進数解を持つかどうかを調べることに帰着
される.
このように p 進数は整数や有理数と密接に関わる数であるが, その全体 Qp は整数や有理数を含
む集合であり, 体となることが知られている. このことから次に関心が向くのは, Qp が有理数体 Q
や実数体 R とどのくらい似ているのか, あるいはどこが異なっているのかについてである. これを
調べるひとつの手掛かりとして Qp の拡大体を探るということが浮かび, 局所類体論が生まれる動
機のひとつとなった. 一方で, 有理数体 Q の Abel 拡大体を統制する, 大域類体論と呼ばれる理論も
ある. この大域類体論と局所類体論が対をなし, 類体論という代数学の一分野が築き上げられてい
るわけである.
本稿で述べる一番の主張は, 局所類体論の主定理と呼ばれるもの, あるいはそれを 2 次元に一般化
したものである. それは, 局所体あるいは 2 次元局所体の Abel 拡大体が, もとの体の乗法群 (2 次元
の場合は Milnor K-群) の部分群によって統制されるというものである. これにより局所体の Abel
拡大体をある程度記述することができ, 有理数体や実数体との違いが見えてくることとなる. この
主定理を理解し証明を与えることが, 本稿の大きな目的である. なお, 一般の n 次元に拡張した高次
元局所類体論も確立されているが, これはかなり難解なものである. 例えば 3 次元以上の局所体に
ついては, その Milnor K-群に適切な位相を導入しても位相群とはならず, 1, 2 次元での議論をそ
のまま応用することができないなどの困難がある. そのため本稿では難解な n 次元局所類体論には
立ち入らず, 剰余体の元の記述なども容易な 2 次元局所類体論を丁寧に記述する立場をとった.
次に, 本稿を執筆するにあたって筆者が重点をおいた箇所を述べる:
・ 2 章や 5 章において, [S] や [Kat] には取り上げられていない数学的概念を記載した. 具体的に
は, 射影的極限や帰納的極限, カップ積, 微分加群, Cartier 作用素, 被約ノルムなどがある. と
くに Cartier 作用素については写像の定義さえほとんどの文献には記されていなかったので,
本稿で用いる条件のもとで筆者が定義を考え, みたすべき性質を示した.
・ 3 章において, 相互写像の双対写像である ΨK の同型性を示すところで, 最後に five lemma を
用いるところまで丁寧に記述した.
・ 3 章での局所体の相互写像について, Brauer 群を用いた構成を述べたあとに Galois コホモロ
ジーを用いた別の構成方法を紹介した. 文献ではどちらか一方のみを記載しているものが多
いが, 本稿ではどちらの方法も述べた上で, これらが一致した概念であることを示した.
1
・ 4 章で述べた混標数 2 次元局所体の典型例 K{{T }} について, これが体であることの証明を与
えた. ほとんどの文献では証明が与えられていないため, ここでは筆者独自の証明を載せるこ
とにした.
・ 5 章において, 混標数 2 次元局所体 K の位相を, [MZ] に記載されているものとは別の表記を
筆者が考え紹介した.
・ 6 章での証明の流れを, [Kat] を参考にしながらもかなり修正を加えた. これは [S] を参考にし
た 3 章と揃えるためであり, また証明の流れをわかりやすくするためでもある.
・ 6 章では, 位相 Milnor K-群を用いた高次元局所類体論の主定理についても述べた. これは
[Kat] には記載されていない内容であり, [Fe] をもとに筆者が独自の証明を与えた.
・ 6 章での主定理を用いて Qp {{T }} の有限次 Abel 拡大体を考察し, いくつかの興味深い結果を
得ることができた.
・ Hensel 体や離散付値体の不分岐拡大に関する議論なども紹介することにした. これらは局所
類体論の主定理と直接的に関わるわけではないが, 数学的に重要な概念である.
上記でも少し触れたが, 本稿を執筆する上で最も念頭に置いたのは, 局所類体論 (1 章∼3 章) と混
標数 2 次元局所類体論 (4 章∼6 章) を対比させ 1 冊にまとめることである. これまでの文献では局
所類体論, 2 次元局所類体論とそれぞれ独立して書かれているものが多く, 1冊にまとまっているも
のはなかなか見当たらないのが現状である. そこで本稿では [S] (局所類体論), [Kat] (高次元局所類
体論) を中心に, 両理論の証明の流れを対比させながら記述することを心掛けた. 具体的には, 相互
写像の構成から同型定理, 存在定理と続く流れを統一し, 記号の置き換えのみで同じ議論が進むよ
うに記述した. これにより読者は 4 章∼6 章を効率良く読み進めることができ, 比較的短期間で混標
数 2 次元局所類体論の概要までを理解できるものと思われる. なお本稿は, 学部 3, 4 回生からでも
読み始められるように必要な数学的概念を 2 章や 5 章で丁寧に記載しており, 局所類体論の入門書
として, これから局所類体論を学ぼうという方々に一人でも多く読んで頂ければ幸いである.
謝辞
最後に, 学部 4 回生から本稿を書き終えるまでの 3 年間ご指導頂いた落合理先生, また同じ数学専
攻の仲間として, さまざまな助言を頂いたり互いに切磋琢磨したりとかけがえのない日々を過ごし
た大学院の先輩方や同期の方々に, 深く感謝します.
2
目次
第 1 章 局所体の定義と局所類体論
1.1
1.2
完備離散付値体と Hensel の補題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
8
13
1.3
応用例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
14
局所体と局所類体論
第 2 章 主定理の証明のための準備
15
15
15
2.1
2.2
体上の中心的単純環
2.3
2.4
巡回多元環
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
位相群の射影的極限・帰納的極限と副有限群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
19
20
2.5
2.6
2.7
指標群とその双対 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Galois 群の指標群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Galois コホモロジーと Brauer 群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
23
24
26
2.8 高次単数群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.9 完備離散付値体の不分岐拡大と完全分岐拡大 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.10 可換環上の微分加群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
30
32
38
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Brauer 群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
第 3 章 主定理の証明
44
3.1
3.2
3.3
相互写像の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3.4
3.5
相互写像の性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Hilbert 記号, 記号 [ ·, · ) と写像 ΨK の性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
54
56
3.6
Galois コホモロジーによる相互写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
76
同型定理の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
存在定理の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
44
48
50
第 4 章 高次元局所体と
混標数 2 次元局所類体論
4.1
4.2
高次元局所体の定義
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
混標数 2 次元局所類体論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
第 5 章 混標数 2 次元局所類体論のための準備
80
80
83
5.1
Milnor K-群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
85
85
5.2
5.3
Milnor K-群における高次単数群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
多元環上の被約ノルムと被約トレース . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
90
94
5.4
混標数 2 次元局所体の乗法群 K × と K2 (K) における位相 . . . . . . . . . . . . . .
98
3
第 6 章 混標数 2 次元局所類体論の証明
6.1
6.2
6.3
6.4
6.5
6.6
110
相互写像の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 110
同型定理の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 116
存在定理の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 119
相互写像の性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 121
写像 ΦK , ΨK の性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 123
Qp {{T }} の有限次 Abel 拡大についての考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 130
4
記号と言葉の定義
・ N0 で 0 以上の整数全体の集合を, N+ で 1 以上の整数全体の集合を表すものとする.
・ 有限集合 A に対し, ♯(A) で A の元の個数を表す.
・ 集合 A に対し, idA : A → A で恒等写像を表す. 単に id と表すこともある.
・ Fq で元の個数が q 個(q = pn ) の有限体を表す.
・ n, m ∈ N+ とするとき, g.c.d(n , m) ∈ N+ で n と m の最大公約数を表す.
・ 環 D が 0 以外の任意の元に対し逆元を持つとき, D を斜体という. 特に D の乗法が可換なと
き D を体という.
・ A を環とするとき, Mn (A) で A 上の n 次正方行列全体を表すものとする.
・ R を可換環とするとき, a ∈ R が生成する単項イデアルを (a) と表す.
・ R を可換環, S を R の積閉集合とするとき, S による R の商環を RS −1 と表す.
・ R を可換環とするとき, 乗法単位元 1A をもつ環 A が R 上の多元環であるとは, 次の (i)(ii) を
みたすときにいう:
(i) A は R 上の加群としての構造をもつ.
(ii) 任意の r ∈ R, a ∈ A に対し (r·1A )·a = a·(r·1A ) = r·a.
(※) r·1A = s·1A ∈ A であっても r = s ∈ R とは限らないので注意が必要である.
・ 体 K 上の多元環 A に対し, K-ベクトル空間としての A の次元を [A : K] で表す.
{
}
・ 環 A とその部分集合 S に対し CA (S):= a ∈ A 任意の x ∈ S に対し ax = xa と定め, これ
を S の中心化環という. とくに C(A) := CA (A) とおき, これを A の中心という.
・ 加法群や環の族 {Aλ }λ∈Λ について, その直積集合を
∏
λ∈Λ
⊕
⊕
Aλ で表し, 直和集合
Aλ を
λ∈Λ
{
}
∏
Aλ := (aλ )λ∈Λ ∈
Aλ aλ ̸= 0 となる λ ∈ Λ は有限個
λ∈Λ
λ∈Λ
と定めておく.
・ 体 K に対し, K の代数的閉包を K, 分離閉包を K sep で表す. 本稿では, K を与えるごとに K
を一つ固定しておくものとする.
・ 体 K と a ∈ K に対し, a の n 乗根のひとつを
5
√
n
a ∈ K と表す.
・ 有限次拡大 L/K に対し体のノルム写像, トレース写像をそれぞれ
NL/K : L× → K × ,
TL/K : L → K
で表す. これらは乗法群または加法群としての準同型である.
・ L/K を Galois 拡大とするとき, その Galois 群を G(L/K) で表す. とくに K sep /K の中間体
L に対し G(L) := G(K sep /L) とおいて, これを M の絶対 Galois 群という. 絶対 Galois 群は
Krull 位相 (射影的極限によって定まる位相, 2 章 2.4 節参照) を備えた位相群である.
・ Galois 拡大 L/K の Galois 群 G(L/K) が Abel 群であるとき, L/K を Abel 拡大という.
・ 体 K を与えるごとに 1 ∈ K の原始 n 乗根をひとつずつ固定し, それを ζn ∈ K と表す. また
1 ∈ K の n 乗根全体を µn ( ⊂ K ) と表す.
・ 体 K とその部分整域 R に対し, (R)K で R の K における整閉包を表す.
・ M, N を環 R 上の加群, T を加法群とするとき, 写像 µ : M × N → T が R-平衡写像である
とは, 次の (i)∼(iii) をみたすときにいう:
(i) µ(m1 + m2 , n) = µ(m1 , n) + µ(m2 , n)
(∀m1 , m2 ∈ M, ∀n ∈ N )
(ii) µ(m, n1 + n2 ) = µ(m, n1 ) + µ(m, n2 )
(∀m ∈ M, ∀n1 , n2 ∈ N )
(iii) µ(rn, m) = µ(n, rm)
(∀r ∈ R, ∀n ∈ N, ∀m ∈ M )
とくに R = Z のときは, 双加法的写像と呼ぶ.
(※)R-平衡写像 µ は, 自然にテンソル積の準同型 µ : M ⊗R N → T を引き起こすことに注意
する.
・ R-平衡写像 µ : M × N → T が非退化であるとは, 次の (i)(ii) をみたすときにいう:
(i) x ∈ M が任意の y ∈ N に対し µ(x, y) = 0 をみたすならば, x = 0.
(ii) y ∈ N が任意の x ∈ M に対し µ(x, y) = 0 をみたすならば, y = 0.
・ G を群, M を加法群とするとき, M が G-加群であるとは次の (i)(ii) をみたすときにいう:
(i) G は M に作用している.
(ii) 任意の σ ∈ G, m, n ∈ M に対し σ·(m + n) = σ·m + σ·n.
とくに G が位相群で M が位相加法群であり, さらに M における G の作用が連続であると
き, M を位相 G-加群という. M の位相が離散位相であるときは, M を離散的 G-加群という.
{
}
・ 位相 G-加群 M に対し, M S := x ∈ M 任意の σ ∈ S に対して σx = x と定める.
・ 位相群 G, H に対し, Homc (G, H) := {f ∈ Hom(G, H) f は連続} と定める.
・ 可換環 R 上の多項式 f (X) ∈ R[X] について, f の係数たちの最大公約元が 1 ∈ R のとき f
は R 上原始的であるという.
・ 可換環 R 上の多項式 f (X) ∈ R[X] について, f の次数を deg f で表す.
6
・ 加法群 A と素数 ℓ, 自然数 n に対し,
An := {a ∈ A n·a = 0}, A{ℓ} := {a ∈ A n ∈ N+ が存在して ℓn ·a = 0}
と定める. 2 章で述べる帰納的極限を用いれば, 自然に A{ℓ} ≃ lim Aℓm となることがわかる.
−→
m
・ 加法群 A の各元のが全て位数有限であるとき, A をねじれ加法群という. A をねじれ加法群
とするとき,
⊕
A=
A{ℓ}
ℓ:素数
となることが素因数分解によりわかる.
・ 体 K と素数 p に対し, ℘(K) := {xp − x x ∈ K} と定める.
・ 群 G の元 g ∈ G に対し, ⟨g⟩ := {g m ∈ G m ∈ Z} と定める.
・ G を位数 n の有限群, p を素数とし, n を割り切る p の最大巾を m とする. このとき G の部
分群で位数 pm のものを, G の p -Sylow 群という. 群の一般論より, 有限群の p-Sylow 群は必
ず存在することが知られている.
・ 環 R 上の加群による完全列
u
v
0 −→ N −→ M −→ L −→ 0
が分裂するとは, 次の (i)(ii) のどちらかをみたすときにいう:
(i) R 準同型 r : M → N が存在して, r ◦ u = idN .
(ii) R 準同型 s : L → M が存在して, v ◦ s = idL .
(※) この条件のもとで, (i) の r に対し
r × v : M → N × L , m 7→ (r(m), v(m))
は群同型を与え, (ii) の s に対し
u⊕s:N
⊕
L → M , (n, ℓ) 7→ u(n) + s(ℓ)
は群同型を与えることが知られている.
・ p を素数, R を整域とするとき, W [R] で p に関する R 上の Witt 環を表す. W [R] は, 集合とし
ては R の点列 {an }n∈N0 の全体に等しいが, 特別な和と積を備えた環であり, 0 := {0, 0, · · · }
を零元に, 1 := {1, 0, 0, · · · } を単位元にもつ. R が整域なら W [R] も整域となることが知ら
れている. より詳しい定義や性質については [Fu] に記載されている.
7
第1章
局所体の定義と局所類体論
この章では局所体の定義を行い, 局所類体論の主定理を紹介する. 内容は基礎的なものが多いの
で証明は省略するが, 途中の Hensel 体については, 記載されている文献が少ないのであえてここで
述べることにした. Hensel 体に関する主張の証明は筆者が考え, 工夫したものである.
1.1
完備離散付値体と Hensel の補題
定義 1.1.1. K を体とする.
(i) 写像 φ : K → R≥0 が次の (ア)∼(ウ) をみたすとき, φ を K の非 Archimedes 的付値と
いう:
(ア) φ(x) = 0 ⇐⇒ x = 0 .
(ウ) φ(x + y) ≤ max{φ(x), φ(y)} .
(イ) φ(xy) = φ(x)φ(y).
本稿では, 単に付値と述べたときは非 Archimedes 的付値を指すものとする.
また, 上記の写像 φ が (ア)∼(ウ) に加え次の (エ) もみたすとき, φ を (乗法) 離散付値という:
(エ) φ(K × ) ≃ Z .
(この φ(K × ) を φ の値群と呼ぶことがある)
(ii) 非 Archimedes 的付値または離散付値 φ が与えられた体 K をそれぞれ非 Archimedes 的付
値体, 離散付値体という. とくに離散付値 φ の引き起こす距離が完備であるとき, K を完備離
散付値体という.
(iii) oK := {x ∈ K | φ(x) ≤ 1}, pK := {x ∈ K | φ(x) < 1} と定めると, oK は K の部分環, pK は
その極大イデアルとなるが, これらをそれぞれ付値環, 付値イデアルという. また κ := oK /pK
を剰余体といい, pK = (π) なる π を K の素元という ( K が離散付値体のときは, oK は単項
イデアル整域となるのでこのような π ∈ oK は存在する) .
oK の商体は K であり, oK は K の極大部分環となる. また, oK は付値による距離から定まる
位相でコンパクト位相環となることもわかる (コンパクト性については 2.4 節を参照) .
(※) K の離散付値 φ に対し, φ˜ : K × → Z を pK
付値の加法化と呼ぶことにする.
φ(x)
˜
= (x) なるものとして定めておく. これを乗法
本稿では剰余体 κ の元は, x ∈ oK に対し x ∈ κ と表すことにする. ただし, 煩雑さを避けるため
x mod pK ∈ κ の表記を用いることもある.
定義 1.1.2. 体 K の二つの付値 φ1 , φ2 が
φ1 (a) ≤ 1 ⇐⇒ φ2 (a) ≤ 1
8
( ∀a ∈ K )
をみたすとき φ1 と φ2 は同値であるといい, φ1 ∼ φ2 と表す.
命題 1.1.3. 体 K の二つの付値 φ1 , φ2 について, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) φ1 ∼ φ2 .
(ii) φ1 (a) = φ2 (a)c (∀a ∈ K ) となる c ∈ R≥0 が存在する.
例 1.1.4. (p 進付値) p ∈ N を素数とするとき, 写像 | · |p : Q → R≥0 を
a
:= p−(n−m)
b p
(ただし n, m ∈ N はそれぞれ a, b ∈ Z を割り切る p の最大巾)
と定めると, これは Q の離散付値となるが完備ではない. この離散付値体の完備化を Qp と表し,
p 進数体という. Qp の付値環を Zp と表す.
(※) Z の代わりに単項イデアル整域 R を用いたときも, R の素元 p ∈ R に対する p 進付値が同様
に定義でき, R の商体 K を p 進付値体とみなすことができる.
定義 1.1.5. 非 Archmedes 的付値体 K とその付値 φ に対し写像 φ : K[X] → R≥0 を,
φ(f ) := max{φ(a0 ), · · · , φ(an )} (ただし f (X) = an X n + · · · + a0 ∈ K[X] )
と定めておく.
(※) この写像は次をみたすことが容易にわかる:
任意の f, g ∈ K[X] に対し, φ(f ·g) = φ(f ) · φ(g) .
次に, 付値論で重要な定理を 2 つ述べる.
定理 1.1.6. ( π 進展開) K を完備離散付値体, π を K の素元とし, R ⊂ oK を剰余体 κ の完全代
表系とする. このとき任意の a ∈ K × に対し, N ∈ Z と R の点列 {an }∞
n=N がともに一意的に存在
して,
a=
∞
∑
an π n かつ, aN ∈
/ pK
n=N
が成り立つ. この表示を a ∈ K × の π 進展開という.
定理 1.1.7. (Hensel の補題) K を完備離散付値体とし, 多項式 f (X) ∈ oK [X] と µ(X), λ(X) ∈
κ[X] が次の (a)∼(c) をみたすと仮定する:
(b) f (X) = µ(X)λ(X) ∈ κ[X].
(a) f (X) は oK 上原始的.
(c) µ(X) と λ(X) は互いに素.
このとき, 次の (i)∼(iii) をみたす g(X), h(X) ∈ oK [X] が存在する:
(i) f (X) = g(X)h(X).
(ii) g(X) = µ(X), h(X) = λ(X).
(iii) deg g = deg µ.
Hensel の補題より, ただちに次の系を得る:
系 1.1.8. K を完備離散付値体とし, 多項式 f (X) ∈ oK [X] と λ1 (X), · · · , λn (X) ∈ κ[X] が次の
(a)∼(c) をみたすとする:
(a) f はモニック多項式.
(b) f (X) = λ1 (X) · · · λn (X).
(c) i ̸= j のとき λi と λj は互いに素.
このとき, 次の (i)∼(iii) をみたす g1 (X), · · · , gn (X) ∈ oK [X] が存在する:
9
(i) f (x) = g1 (X) · · · gn (X).
(ii) g i (X) = λi (X) ( i = 1, · · · , n ).
(iii) deg gi = deg λi ( i = 1, · · · , n ).
また, 次の系も得られる ([Mo] を参照):
系 1.1.9. K を完備離散付値体とするとき, 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) f (X) =
n
∑
ai X i ∈ oK [X] が環 oK [X] の既約元ならば,
i=0
φ(f ) = max{φ(an ), φ(an−1 ), · · · , φ(a0 )} = max{φ(an ), φ(a0 )}.
(ii) g(X) =
m
∑
bj X j ∈ K[X] が K 上既約ならば,
j=0
φ(g) = max{φ(bn ), φ(bn−1 ), · · · , φ(b0 )} = max{φ(bn ), φ(b0 )}.
次に, 代数拡大 L/K における L と K の付値の関係について述べる.
定理 1.1.10. φ を体 K の完備離散付値, L/K を代数拡大とする. このとき L の付値 φL : L → R≥0
で K への制限が φ に一致するものは
1
φL (α) := φ(NK(α)/K (α)) [K(α):K]
(α ∈ L)
に限る. この付値 φL を φ の L への延長という. さらに L/K が有限次拡大なら φL は完備離散付値
となる.
(※) L/K が無限次拡大であるときには一般に完備とも離散とも限らない. 例えば Qp における p
進付値の Qp への延長を考えると, この付値の値群は Q と同型であるから離散付値ではない.
以降, 完備離散付値体 K と有限次拡大 L/K が与えられたとき, L は定理 1.1.10 による完備離散
付値 φL を備えているものとする.
命題 1.1.11. K を完備離散付値体, L/K を有限次拡大とするとき, oL = (oK )L ( L における oK の
整閉包) が成り立つ.
次に, 必ずしも完備離散でない付値の延長について述べておく. これは [S] には記載されていない
内容であるが, 2.9 節で用いることがあるためここで述べておく.
n
n
∑
∑
以降, f (X) =
ai X i ∈ κ[X] と定めておく.
ai X i ∈ oK [X] に対し f (X) :=
i=0
i=0
定義 1.1.12. 非 Archimedes 的付値体 (必ずしも完備離散でない) K が Hensel の補題の主張をみた
すとき, K を Hensel 体という. Hensel の補題により, 完備離散付値体は Hensel 体である.
(※) Hensel 体は系 1.1.8, 系 1.1.9 の主張をみたす.
定理 1.1.13. 非 Archimedes 的付値体 K について, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) K は Hensel 体である.
(ii) K の任意の代数拡大体 L に対し, K の付値 φ は L の付値に一意的に拡張できる.
証明. (i)⇒(ii) L/K を代数拡大とする. φ の L への拡張が存在することについては,
1
φL (α) := φ(NK(α)/K (α)) [K(α):K]
10
( α ∈ L)
が L の付値となることから, 定理 1.1.10 の証明 ([Mo] を参照) と同様に系 1.1.9 を用いて示すこと
ができる.
次に一意性について示す. φ の L への任意の拡張 φ′L をとる. φL = φ′L を言えばよいが, これ
は oL ⊂ o′L (ただし, o′L は φ′L による付値環) を示すことに帰着される. 実際, これが言えれば oL ⊂
o′L ( L と oL の極大性より oL = o′L となって φL ∼ φ′L がわかり, 命題 1.1.3 と φL |K = φ = φ′L |K
により φL = φ′L が成り立つ.
さて, oL ⊂ o′L を示す. いまもし oL ̸⊂ o′L と仮定すると, α ∈ oL − o′L なる α ∈ L をとることがで
n−1
∑
きる. この α の K 上の最小多項式を f (X) = X n +
ai X i とすると, 仮定 (i) より K は Hensel
i=0
体だから系 1.1.9 により
φ(f ) = max{φ(an ), φ(an−1 ), · · · , φ(a0 )}
= max{φ(1), φ(a0 )} = max{1, φ(a0 )}
≤1
(ただし, 最後の不等号は φ(a0 ) = φ((−1)n ·NK(α)/K (α)) = φL (α)[K(α):K] ≤ 1 によるもの)
となる. よって f (X) ∈ oK [X] であり, f (α) = αn +
n−1
∑
i=0
ai αi = 0 と α−1 ∈ p′L より
1 = −(an−1 α−1 + an−2 α−2 + · · · + a0 α−n ) ∈ p′L
(φ′L による付値イデアル)
となるが, これは 1 ̸∈ p′L に矛盾する. したがって oL ⊂ o′L が成り立つ.
続いて (ii)⇒(i) を証明する前に, 補題を 1 つ用意する:
補題 1.1.14. K を非 Archmedes 的付値体, f (X) = an X n + · · · + a0 ∈ oK [X] を oK 上原始的か
つ K 上既約な多項式とし, L を f (X) の K 上の分解体とする. さらに K の付値 φ は L の付値 φL
へ一意的に拡張できるとする. このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) an ∈ o×
K ならば deg f = deg f であり, さらに m ∈ N+ , u(X) ∈ oK [X] が存在して, u(X) ∈
κ[X] はモニックかつ κ 上既約な多項式で f [X] = an ·u(X)m .
×
(ii) an ∈
/ o×
K ならば, f (X) = a0 ∈ κ .
証明. (i) まず, an ∈ o×
K であるから deg f = deg f は成り立つ.
後半の主張について. いま L は f の分解体だから, α1 , · · · , αn ∈ L を用いて f (X) = an (X −
α1 ) · · · (X − αn ) と表せる. すると αi の K 上の最小多項式は f となるから, K-同型 σi : L → L で
σi (α1 ) = αi
( i = 1, · · · , n)
となるものが存在する. このとき,φ の L への拡張が φL のみであることを用いると φL ◦ σi = φL
となるので,
φL (α1 ) = φL (αi ) ( i = 1, · · · , n)
が成り立つ. すると, φ(a0 ) = φ(an )·φL (α1 ) · · · φL (αn ) = φL (α1 )n と a0 ∈ oK により φL (α1 ) ≤ 1
となるので, αi ∈ oL (i = 1, · · · , n) が成り立つ.
ここで, 先ほどの K-同型 σi : L → L について考えると, これは κ-同型 σ i : κL → κL を引き起こ
し σ i (α1 ) = αi をみたすことがわかる. よって α1 ∈ κL の κ 上の最小多項式を u(X) (u ∈ oK [X])
とすると, これは α2 , · · · , αn の κ 上の最小多項式でもあり, モニックな多項式 u0 (X) ∈ κ[X] が存
在して
11
f (X) = an ·u(X) · u0 (X)
となる. もし deg u0 = 0 なら u0 = 1 だから, これが求める形となる. deg u0 ≥ 1 のときは, 先ほど
の等式より u0 (X) の根は α1 , · · · , αn に限るので, 再びモニックな多項式 u1 (X) が存在して
u0 (X) = u(X) · u1 (X), そして f (X) = an ·u(X)2 · u1 (X)
となる. これを繰り返すことにより m ∈ N+ が存在して
f (X) = an ·u(X)m
となり, 求める形を得る.
(ii) まず, (i) と同様に α1 , · · · , αn ∈ L を用いて f (X) = an (X − α1 ) · · · (X − αn ) と表しておく.
このとき, 解と係数の関係より
∑
an−k = an ·
(−1)k ·αi1 · · · αik ( k = 1, · · · , n )
i1 ,··· ,ik
となるから,
φ(an−k ) = φ(an ) · φL
( ∑
(−1)k ·αi1 · · · αik
)
i1 ,··· ,ik
≤ φ(an ) · max{φL (αi1 · · · αik ) i1 < · · · < ik }
(..
)
. (i) と同様に φL (αi ) = φL (α1 ) である
= φL (α1 )k
が成り立つ. よってもし φL (α1 ) ≤ 1 であるとすると, φ(an ) < 1 と併せて
φ(an−k ) < φL (α1 )k ≤ 1 ( k = 1, · · · , n )
となるので f (X) = 0 を得るが, これは f が oK 上原始的であることと矛盾する. よっていまの場合
φL (α1 ) > 1 であるから, k < n のとき
φ(an−k ) < φ(an ) · φL (α1 )n = φ(a0 ) ≤ 1
となる. したがって f (X) = a0 ̸= 0 が成り立つ.
定理 1.1.13 の証明続き. 仮定 (ii) のもとで, K が Hensel の補題の主張をみたすことを示す.
いま f, g0 , h0 ∈ oK [X] が次の (a)∼(c) をみたすとする:
(a) f (X) は oK 上原始的.
(b) f (X) = g 0 (X)h0 (X) ∈ κ[X].
(c) g 0 (X) と h0 (X) は互いに素.
これらの条件のもとで, Hensel の補題の主張をみたす g(X), h(X) ∈ oK [X] を構成していく.
まず, f (X) = f1 (X) · · · f (X)r ∈ K[X] と既約元分解する. このとき φ を定義 1.1.5 による写像
とすると
1 = φ(f ) = φ(f1 ) · · · φ(fr )
が成り立つので, a1 , · · · , ar ∈ K × があって
a1 · · · ar = 1 かつ, φ(ai fi ) = 1 (i = 1, · · · , r)
となることが r ∈ N+ に関する帰納法によりわかる. よってはじめから φ(fi ) = 1 (i = 1, · · · , r) と
して考えてよい. このとき fi ∈ oK [X] となり, fi は oK 上原始的かつ K 上既約となる. すると補題
1.1.14 により
12
f i (X) = bi ∈ κ× または, deg fi = deg f i かつ f i (X) = bi ·ui (X)mi
(
)
mi ∈ N+ , ui ∈ κ[X] はモニックかつ κ 上既約
と表せる. このとき, 必要なら番号を付け替えることにより
f 1 (X) = b1 ·u1 (X)m1 , · · · , f s (X) = bs ·us (X)ms , f s+1 (X) = bs+1 , · · · , f r (X) = br
(s ≤ r)
とできる. すると
ms
1
g 0 (X)h0 (X) = f (X) = b1 · · · br ·um
1 (X) · · · us (X)
が f (X) ∈ κ[X] の既約元分解となるので, 分解の一意性と g 0 , h0 が互いに素であることにより, 必
要なら番号を付け替えて
mt
1
g 0 (X) = c1 ·um
1 (X) · · · ut (X),
m
t+1
s
h0 (X) = c2 ·ut+1
(X) · · · um
s (X)
(ただし c1 c2 = b1 · · · br , t ≤ s)
と表せる. そこで
g(X) := c1 (b1 · · · bt )−1 ·f1 (X) · · · ft (X), h(X) := c−1
1 b1 · · · bt ·ft+1 (X) · · · fr (X) ∈ oK [X]
と定めると, これらが条件をみたすものとなる. 実際, f (X) = g(X)h(X), g(X) = g 0 (X), h(X) =
h0 (X) は明らかで, deg g = deg f1 + · · · + deg ft = deg f 1 + · · · + deg f t = deg g 0 が成り立つ.
系 1.1.15. K を完備離散付値体, L/K を代数拡大とするとき, L は Hensel 体である.
証明. 定理 1.1.13 と定理 1.1.10 によりわかる.
1.2
局所体と局所類体論
この節では, 局所類体論の主定理を紹介する. これらの定理の証明を行うのが, 本稿での目標のひ
とつである.
定義 1.2.1. 完備離散付値体 K が有限体を剰余体にもつとき, K を局所体という.
局所体は, Qp または Fp ((T )) の有限次拡大 (p は素数) と同型であることが知られている.
次の定理が, 局所類体論の主定理である:
定理 1.2.2. (局所類体論の主定理) K を局所体とするとき. 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) 相互写像と呼ばれる写像 ρK : K × → G(K ab /K) を構成することができ, この写像は次の
(a)(b) をみたす:
(a) ρK は連続な単射群準同型.
(b) ρK(K × ) は G(K ab /K) の中で稠密.
(※) ただし K には付値から定まる位相が, G(K ab /K) には Krull 位相 (後述の定義 2.4.10 を
参照) が入っているものとする.
(ii) (同型定理) L/K を有限次 Abel 拡大とするとき,(i) の相互写像 ρK は群同型
ρL/K : K × /NL/K (L× ) → G(L/K)
13
を引き起こす. ただし, NL/K (L× ) はノルム写像 NL/K : L× → K × の像である.
(iii) (存在定理) L/K を有限次 Abel 拡大とするとき, NL/K (L× ) は K × の開かつ指数有限な部分
群であり,K の有限次 Abel 拡大体と K × の開かつ指数有限な部分群は
L ←→ NL/K (L× )
によって1対1に対応する.
これらの定理の証明は, 多元環の一般論や体の Brauer 群, 群の指標群,Galois コホモロジーの理
論などを用いてなされる. それらについては次章以降で述べることにし, この節の最後に言葉の定
義をひとつ紹介する.
定義 1.2.3. K を局所体, H を K × の開かつ指数有限な部分群とするとき, 上記の定理によって対
応する K の有限次 Abel 拡大体 L を H の類体という.
1.3
応用例
この節では, Qp について, 1.2 節の主定理を用いて得られる応用例を述べる. 証明は省略するが,
いくつかの系については 6 章 6.6 節でも同様の応用例を挙げるので, そちらの証明を参考にしても
らいたい.
系 1.3.1. Qp の 2 次拡大について, 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) p ≥ 3 のとき, Qp の 2 次拡大体は
√
√
√
Qp ( p), Qp ( u), Qp ( pu)
2
の 3 つのみである. ただし u ∈ Z は, u ̸∈ (Z×
p ) なるものをひとつ固定している.
(ii) p = 2 のとき, Q2 の 2 次拡大体は
√
√
√
√
√
√
√
Q2 ( 2), Q2 ( 3), Q2 ( 5), Q2 ( 6), Q2 ( 10), Q2 ( −1), Q2 ( −2)
√
√
の 7 つのみである ( Q2 ( −3) = Q2 ( 5) などが成り立つ) .
これは Q の 2 次拡大体が無限個存在することに比べると, 極端な違いとなっている.
系 1.3.2. ℓ を素数, p を p ≡ 1 (mod ℓ) なるものとするとき, Qp の ℓ 次 Abel 拡大体, すなわち ℓ 次
ℓ
巡回拡大体は ℓ + 1 個存在する. さらに u ∈
/ (Z×
p ) なる u ∈ Z をひとつ固定すると, Qp の ℓ 次巡回
拡大体と Z/ℓZ × Z/ℓZ における位数 ℓ の巡回部分群 C は
√
(ただし, mod ℓZ は省略している)
Qp ( ℓ pi uj ) ←→ C = ⟨ (i , j) ⟩
によって 1 対 1 に対応する.
系 1.3.3. Qp の異なる p 次巡回拡大の個数は p ≥ 3 なら 1 + p 個,p = 2 なら 7 個である.
系 1.3.4. ζn を 1 の原始 n 乗根とするとき, Qab
p =
14
∞
∪
n=1
Qp (ζn ) が成り立つ.
第2章
主定理の証明のための準備
この章では, 局所類体論の証明のために必要な数学的概念をまとめて紹介する. 量が多いので全
ての主張に証明は与えないが, 一部の命題や定理は筆者自身が考えた証明を記しておくことにする.
この章での話の流れなどは [S] を参考にしたが, 2.4 節以降は [S] の内容を超えるものもいくつか記
載した. これは局所類体論の全体像を掴みやすくし, 議論をより分かりやすくするためである.
2.1
体上の中心的単純環
定義 2.1.1. K を体とし, A を K 上の多元環とする.
(i) A の環としての両側イデアルが {0} または A に限るとき, A は単純環であるという.
(ii) A の中心 C(A) について, C(A) = K が成り立つとき, A は K 上中心的であるという.
さらに, 上記 (i)(ii) をみたす A を K 上の中心的単純環という.
中心的単純環について, 本稿で用いる重要な定理は次の2つである:
定理 2.1.2. (単純環の基本定理) A を体 K 上の単純多元環とするとき, K 上の斜体 D と n ∈ N+
が存在して,
A ≃ Mn (D)(K 上の多元環としての同型)
が成り立つ. とくに A が K 上中心的なら, この D も K 上中心的となる.
さらに, このような D と n は一意的である. すなわち,D, E を K 上の斜体, n, m ∈ N+ とすると
き, Mn (D) ≃ Mm (E) ならば D ≃ E, n = m が成り立つ.
定理 2.1.3. (Skolem-Noether) A, B を K 上の有限次元単純環とし, とくに A は K 上中心的で
あるとする.
このとき, 多元環の任意の K 準同型 f : B → A, g : B → A に対し, u ∈ A× が存在して
g(β) = uf (β)u−1
(∀β ∈ B)
が成り立つ.
2.2
Brauer 群
体 K 上の Brauer 群とは, 大まかに述べると“ K 上の中心的単純環全体 ”をある同値関係で割っ
たものである. ただしこの“ 中心的単純環全体 ”というのは, 厳密には集合であるかどうかわからな
い. そこで本稿では, これに代わる集合を用意する. 具体的には, 次の命題を用いる:
15
命題 2.2.1. A を K 上の有限次多元環とし, n := [A : K] とおく. A の K-ベクトル空間としての
底をひとつ固定する. このとき α ∈ A に対し lα : A → A , x 7→ α·x は K-線形写像であり,
fA : A → Mn (K) , α 7→ R(lα ) ( R(lα ) は先ほど固定した底に関する lα の表現行列)
は多元環の単射準同型である. これによって A ⊂ Mn (K) とみなすことができる.
以降 K 上の中心的単純環 A が与えられたとき, A はある Mn (K) の部分多元環であるとみなす
ことにする.
この命題 2.2.1 を踏まえ, 以下のように K 上の Brauer 群を定義する. まずはじめに, 命題と定義
を準備しておく:
命題 2.2.2. K を体とし,
∞
{
}
∪
cs
Mcs
:=
Mcs
n := A ⊂ Mn (K) A は Mn (K) の部分多元環で, K 上の中心的単純環 , M
n と
n=1
おく. そして Mcs に関係 ∼ を
def
A ∼ B ⇐⇒ K 上の斜体 DA , DB と n, m ∈ N+ が存在して,
A ≃ Mn (DA ), B ≃ Mm (DB ), かつ DA ≃ DB
として定める. このとき, 関係 ∼ は同値関係となる.
命題 2.2.3. A, B ∈ Mcs に対し, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) A ∼ B.
(ii) r, s ∈ N+ が存在して, Mr (A) ≃ Ms (B).
証明. (i)⇒(ii) まず仮定 (i) により K 上の斜体 DA , DB と自然数 n, m ∈ N+ があって
A ≃ Mn (DA ) ≃ Mn (K) ⊗K DA ,
B ≃ Mm (DB ) ≃ Mm (K) ⊗K DB ,
D A ≃ DB
が成り立つ. すると
Mm (A) ≃ Mm (K) ⊗K A ≃ Mm (K) ⊗K Mn (K) ⊗K DA
≃ Mmn (K) ⊗K DA ≃ Mmn (DA ) ≃ Mmn (DB )
≃ Mmn (K) ⊗K DB ≃ Mn (K) ⊗K Mm (K) ⊗K DB
≃ Mn (K) ⊗K B ≃ Mn (B)
となるので, r = m, s = n とすればよい.
(ii)⇒(i) r, s ∈ N+ が存在して Mr (A) ≃ Ms (B) が成り立つと仮定する. いま単純環の基本定理
(定理 2.1.2) により K 上の斜体 DA , DB と n, m ∈ N+ が存在して
A ≃ Mn (DA ) ≃ Mn (K) ⊗K DA ,
B ≃ Mm (DB ) ≃ Mm (K) ⊗K DB
となるから, これらを用いると
Mrn (DA ) ≃ Mr (K) ⊗K Mn (K) ⊗K DA ≃ Mr (K) ⊗K A
≃ Ms (K) ⊗K B ≃ Ms (K) ⊗K Mm (K) ⊗K DB ≃ Msm (K) ⊗K DB
が成り立つので, 再び単純環の基本定理により DA ≃ DB , rn = sm となる. よって A ∼ B が成り
立つ.
16
定義 2.2.4. 体 K 上の多元環 A について, A の新たな積を a, b ∈ A に対し
a ·op b := ba
として定めると, この積でも A は多元環になる. この多元環を A の反多元環と言い, Aop と表す.
定義 2.2.5. (Brauer 群) 命題 2.2.2 での同値関係 ∼ による Mcs の商集合を Br(K) と表し,
A ∈ Mcs の類を [A] ∈ Br(K) と表す.
Br(K) は次のような演算を備えており, この演算で群となっている:
[A] + [B] := [A ⊗K B].
この群 Br(K) を, K の Brauer 群という.
演算の well-defined 性, Br(K) が群となることは証明すべきことだが, ここでは省略する. また,
[A] は [Aop ] を逆元にもつことが知られている.
命題 2.2.6. L/K を体拡大とする.
(i) A を K 上の多元環とするとき, L -ベクトル空間 A ⊗K L は自然に L 上の多元環となる.
とくに A が K 上の中心的単純環ならば, A ⊗K L もまた L 上の中心的単純環となる.
(ii) 写像
ResL/K : Br(K) → Br(L), [A] 7→ [A ⊗K L]
は well-defined で群準同型となる. これを Brauer 群の制限写像という. この写像の核を
Br(L/K) := Ker(ResL/K )
と表すことにする.
ResL/K は, 次の写像と共に用いられることが多い:
定理 2.2.7. L/K を有限次分離拡大とするとき, transfer 写像と呼ばれる群準同型
CorL/K : Br(L) → Br(K)
を構成することができ, この写像は次の (i)(ii) をみたす:
(i) M を L/K の中間体とするとき, CorL/K = CorM/K ◦ CorL/M .
(ii) 任意の ξ ∈ Br(K) に対し, (CorL/K ◦ ResL/K )(ξ) = [L : K]·ξ .
Brauer 群は, 局所類体論を述べる上で基本的な役割を果たす. 以下, その Brauer 群に関するいく
つかの定理を紹介する.
以降この節の終わりまで, K を体, A を K 上の有限次元中心的単純環とする.
定義 2.2.8. (分解体) L/K を体拡大とする. K 上の中心的単純環 A が L で分解するとは, 次の条
件をみたすときにいう:
自然数 n ∈ N+ が存在して, A ⊗K L ≃ Mn (L)
17
(L 上の多元環としての同型) .
またこのとき, L を A の K 上の分解体という. この条件は, [A] ∈ Br(L/K) と同値であることが容
易にわかる.
定理 2.2.9. B ⊂ A を単純部分環とするとき, 次の (i)∼(v) が成り立つ:
(i) CA (B) ⊗K Mn (K) ≃ A ⊗K B op (多元環の K-同型). ただし n = [B : K].
(ii) [ CA (B) : K] · [B : K] = [A : K].
(iii) CA (B) は単純環.
(iv) C(CA (B)) = C(B).
(v) CA (CA (B)) = B.
次の定理は [S] に記載されている証明が不完全なため, 筆者が修正を加えた.
定理 2.2.10. L を K ⊂ L ⊂ A なる体とするとき, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) CA (L) = L.
(ii) [A : K] = [L : K]2 .
さらに, この条件のもとで L は A の分解体となる.
また, とくに A が斜体のときは, 上の (i)(ii) は次の (iii)(iv) とも同値である:
(iii) L は A の分解体である.
(iv) L は A の部分体のうち, 包含関係について極大なものである.
証明. ((i) と (ii) の同値性について)
(i)⇒(ii) CA (L) = L とすると, 定理 2.2.9(ii) により L⊗K Mn (K) ≃ A⊗K L (ただし n = [L : K] )
となるので, この両辺について L 上の次元を調べればよい.
(ii)⇒(i) [A : K] = [L : K]2 とすると, 再び定理 2.2.9(ii) により [CA (L) : K] = [L : K] となり,
L ⊂ CA (L) と併せて L = CA (L) を得る.
(条件 (i) または (ii) のもとで, L が A の分解体となることについて)
分解体であることを示すには, A ⊗K L ≃ Mn (L)(多元環の L-同型, n := [L : K])をいえばよ
い. [S] ではこの証明として定理 2.2.9(i) を用いればよいと記してあるが, (i) での同型は K-同型で
あるため, ここで用いたとしても不十分だと思われる. そこで本稿では, 新たに別証明を与えること
にする.
具体的には, 上記の L-同型を実際に構成する.
まず, L ⊂ A だから環 A は自然に L -ベクトル空間となり, [A : L] ≤ [A : K] が成り立つ. さらに
条件 (ii) を用いると, [L : K]2 = [A : K] = [A : L] · [L : K] により [A : L] = [L : K] = n が成り
立つ.
いま A の L 上の底を一つ固定し, L-線形写像 rα : A → A , x 7→ x · α の表現行列 (固定した底に
付随するもの) を R(rα ) ∈ Mn (L) と表す. このとき, K-平衡写像
Φ : A × L → Mn (L) , (α, λ) 7→tR(rα ) · λEn
が引き起こす群準同型
Φ : A ⊗K L → Mn (L) , α ⊗ λ 7→tR(rα ) · λEn
18
は多元環の L-準同型となる. さらに, A ⊗K L が単純環であることから Φ は単射となり, K 上の次
元を比べて全射性もわかる.
よって, この Φ が求める L-同型を与える.
(A が斜体のときの (i)∼(iv) の同値性について)
すでに (i)⇒(iii) は示したので, あとは (iii)⇒(i) と (i)⇔(iv) を示せばよいが, これらは容易に示せ
る.
定理 2.2.11. L/K を有限次拡大とするとき, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) L は A の K 上の分解体である, つまり [A] ∈ Br(L/K).
(ii) K 上の中心的単純環 B と K ⊂ L′ ⊂ B なる体 L′ が存在して,
[A] = [B] ∈ Br(K),
L ≃ L′ (K 上の同型),
[B : K] = [L : K]2 = [L′ : K]2 .
定理 2.2.12. 有限次分離拡大 L/K が存在して, L は A の分解体となる.
系 2.2.13. Br(K) =
が成り立つ.
2.3
∪
Br(L/K) (ただし, L は K のすべての有限次 Galois 拡大体をわたる)
L
巡回多元環
巡回多元環は, 中心的単純環の典型的な例として挙げられる. ここでは後の議論に必要となる主
張のみを簡単に紹介する.
定義 2.3.1. L/K を n 次巡回拡大とし, その群 G(L/K) の生成元を σ とする. さらに b ∈ K × とす
る.
このとき L 係数多項式全体のなす集合 L[X] に次のような演算 ·σ を導入する:
m
∑
i=0
a i X i ·σ
l
∑
bj X j :=
j=0
m+l
∑{
k=0
∑
}
ai σ i (bj ) X k
i+j=k
するとこの演算で L[X] は環となり, (X n − b)·L[X] はこの環の両側イデアルとなる. そこで L[X]
をこの両側イデアルで割り
/
(b, L/K, σ) := L[X]
(X n − b) · L[X]
とおくと, これは K 上の n2 次元の多元環となることがわかる. これを巡回多元環という.
√
(※) 巡回多元環は, 四元数環の一般化とみなすことができる. 実際, H ≃ (−1, R( −1)/R, σ) が
√
成り立つ. ただし H はハミルトンの四元数環, σ は G(R( −1)/R) の生成元である.
定理 2.3.2. L/K を n 次巡回拡大, σ を G(L/K) の生成元, b ∈ K × とする. このとき (b, L/K, σ)
は K 上の n2 次元中心的単純環であり, L は (b, L/K, σ) の分解体となる. すなわち [b, L/K, σ] :=
[(b, L/K, σ)] ∈ Br(L/K) が成り立つ.
定理 2.3.3. 定理 2.3.2 の記号のもとで, 次の (i)(ii) は同値である:
(ii) b ∈ NL/K (L× ).
(i) (b, L/K, σ) ≃ Mn (K).
19
定理 2.3.4. L/K を n 次巡回拡大, σ を G(L/K) の生成元とするとき, 写像
θL/K,σ : K × → Br(L/K) , b 7→ [b, L/K, σ]
は全射群準同型で, Ker θL/K,σ = NL/K (L× ) が成り立つ. すなわち, θL/K,σ は群同型
/
∼
θL/K,σ : K × NL/K (L× ) → Br(L/K)
を引き起こす.
2.4
位相群の射影的極限・帰納的極限と副有限群
この節では, 位相群の射影的極限, 帰納的極限と副有限群について述べる. 定義の詳細や具体例は,
[S] ではなく [Ne] を参照してもらいたい.
定義 2.4.1. (射影系) A を有向集合とする. すなわち, A は順序集合で, 任意の α, β ∈ A に対し
γ ∈ A が存在して α ≤ γ, β ≤ γ となるようなものとする.
{
}
位相群の族 {Gα }α∈A とその間の連続な群準同型の族 fα,β : Gβ → Gα α, β ∈ A, α ≤ β が次
の (i)(ii) をみたすとき, これらの組 {Gα , fα,β } を位相群と連続な群準同型からなる A 上の射影系と
いう:
(i) 任意の α ∈ A に対し fα,α = idGα .
(ii) 任意の α, β, γ に対し, α ≤ β ≤ γ ならば fα,γ = fα,β ◦ fβ,γ .
定義 2.4.2. (射影的極限) {Gα , fα,β } を位相群と連続な群準同型からなる A 上の射影系とするとき,
{
}
∏
lim Gα := (xα )α∈A ∈
Gα β ≤ γ なる任意の β, γ ∈ A に対し, fβ,γ (xγ ) = xβ
←−
α∈A
α∈A
と定め, これを {Gα , fα,β } の射影的極限という. 射影的極限は自然に
∏
Gα の部分位相群となる.
α∈A
lim Gα は単に lim Gα と表すこともある.
←−
←−
α∈A
例 2.4.3. L/K を無限次 Galois 拡大とし,
{
}
Mgal
L := M ⊂ L M は L/K の中間体で, M/K は有限次 Galois 拡大
とおく. このとき包含関係 ⊂ によって, Mgal
L は有向集合となる.
さらに, M1 ⊂ M2 なる M1 , M2 ∈ Mgal
L に対し fM1 ,M2 : G(M2 /K) → G(M1 /K) , σ 7→ σ|M1 と定
めるとこれは well-defined な群準同型となり, {G(M/K), fM1 ,M2 } は射影系となる. そして写像
Φ : G(L/K) → lim G(M/K) , σ 7→ (σ|M )M
←−
M
は群同型となる.
定理 2.4.4. {Gα , fα,β } を位相群と連続な群準同型からなる A 上の射影系とし, 写像 pβ : lim Gα →
←−
Gβ を pβ ((xα )α∈A ) := xβ と定める. このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
20
(i) pβ は連続な群準同型であり, β ≤ γ のとき pβ = fβ,γ ◦ pγ .
(ii) 位相群 H と連続な群準同型の族 {hα : H → Gα }α∈A が
hβ = fβ,γ ◦ hγ
( ∀β, γ ∈ A )
/ lim Gα
HE
EE ←−
EE
EE
pβ
hβ EE
" Gβ
h
をみたすなら, 連続な群準同型 h : H → lim Gα がただひとつ存在して
←−
hβ = pβ ◦ h
( ∀β ∈ A )
が成り立つ.
定義 2.4.5. (帰納系) A を有向集合とする. 位相群の族 {Gα }α∈A とその間の連続な群準同型の族
{
}
fα,β : Gα → Gβ α, β ∈ A, α ≤ β (α と β が先ほどとは入れ替わっていることに注意) が次の (i)(ii)
をみたすとき, これらの組 {Gα , fα,β } を位相群と連続な群準同型からなる A 上の帰納系という:
(i) 任意の α ∈ A に対し fα,α = idGα .
(ii) 任意の α, β, γ に対し, α ≤ β ≤ γ ならば fα,γ = fβ,γ ◦ fα,β .
定義 2.4.6. (帰納的極限) {Gα , fα,β } を位相群と連続な群準同型からなる A 上の帰納系とする.
∪
(Gα × {α}) 上の関係 ∼ を
いま,
α∈A
def
(xα , α) ∼ (xβ , β) ⇐⇒ γ ∈ A が存在して, α ≤ γ, β ≤ γ かつ fα,γ (xα ) = fβ,γ (xβ )
と定めると, これは同値関係となる. このときに
∪
(Gα × {α})/ ∼
lim Gα :=
−→
α∈A
(商集合)
α∈A
とおいて, これを {Gα , fα,β } の帰納的極限という.
以下, lim Gα の元である同値類 [(xα , α)] を [xα , α] ∈ lim Gα , または単に xα ∈ lim Gα と表すこ
−→
−→
−→
α∈A
α∈A
α∈A
とがある. そして, lim Gα は単に lim Gα と表すこともある.
−→
−→
α∈A
次の命題によって lim Gα は群構造を持ち, さらに一定の条件のもとで位相群となることがわかる:
−→
命題 2.4.7. {Gα , fα,β } を位相群と連続な群準同型からなる A 上の帰納系とする. このとき, lim Gα
−→
に演算 · を次のように定める:
[xα , α], [xβ , β] ∈ lim Gα に対し, α ≤ γ, β ≤ γ なる γ ∈ A をひとつとり,
−→
[xα , α] · [xβ , β] := [fα,γ (xα )·fβ,γ (xβ ), γ]
(右辺の積は Gγ 内での演算).
するとこれは γ ∈ A の取り方によらずに定まり, この演算で lim Gα は群となる.
−→
また写像 πα : Gα → lim Gα , xα 7→ [xα , α] (α ∈ A) を用いて lim Gα の位相を
−→
−→
{ }
O := W 任意の α ∈ A に対し πα−1 (W ) ∈ OGα
(ただし OGα は Gα の位相)
と定めると, 各 fα,β が全て開写像なら群 lim Gα は位相群となる.
−→
21
証明. 演算が γ の取り方によらないことと lim Gα が群になることは容易に示せる. 後半の主張は,
−→
まず各 fα,β が全て開写像であるという条件から πα も開写像となることをいえば, 積と逆元をとる
操作はともに連続であることがわかる.
次に πα が開写像であることをいうために, 任意の Vα ∈ OGα をとる. πα (Vα ) ∈ O をいうために
は任意の β ∈ A に対し πβ−1 (πα (Vα )) ∈ OGβ であることを示せばよいが, いま
∪
−1
πβ−1 (πα (Vα )) =
fβ,γ
(fα,γ (Vα ))
であり各 fα,γ は開写像だから,
∪
α,β≤γ
α,β≤γ
−1
fβ,γ
(fα,γ (Vα )) ∈ OGβ , 従って πβ−1 (πα (Vα )) ∈ OGβ が成り立
つ. よって πα は開写像である.
例 2.4.8. N+ に次のような順序 ≺ をいれ, 有向集合 ( N+ , ≺ ) を考える:
def
n, m ∈ N+ に対し, n ≺ m ⇐⇒ n m.
m
·a mod m と定めると,
n
これは well-defined な群準同型で {Z/nZ, fn,m } は帰納系となる. そして写像
このとき, n ≺ m なる n, m に対し fn,m : Z/nZ → Z/mZ , a mod n 7→
xn
Φ : lim Z/nZ → Q/Z , [xn , n] 7→
+Z
−→
n
n
が群同型 lim Z/nZ ≃ Q/Z を与える.
−→
n
定理 2.4.9. {Gα , fα,β } を位相群と連続な群準同型からなる A 上の帰納系とし, 各 fα,β は開写像で
あるとする (このとき lim Gα には位相群の構造が入る). また, 写像 πβ : Gβ → lim Gα を前命題と
−→
−→
同じものとする. このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) πβ は連続な群準同型であり, β ≤ γ のとき πβ = πγ ◦ fβ,γ .
(ii) 位相群 H と連続な群準同型の族 {hα : Gα → H}α∈A が
hβ = hγ ◦ fβ,γ
( ∀β, γ ∈ A )
Gβ
EE
EE hβ
EE
EE
E"
h
/H
lim Gα
−→
πβ
をみたすなら, 連続な群準同型 h : lim Gα → H がただひとつ存在して
−→
hβ = h ◦ πβ
( ∀β ∈ A )
が成り立つ.
次に, 射影的極限と関連する数学的概念を 2 つ紹介する.
定義 2.4.10. (Krull 位相) L/K を Galois 拡大とするとき, 命題 2.4.3 によって G(L/K) は lim G(M/K)
←−
と群同型なので, 射影的極限からくる位相を G(L/K) に入れることができる. この位相を Krull 位
相という. L としては K sep , K ab などを主に用いる.
定義 2.4.11. (副有限群) 位相群 G が有限群の射影的極限と同型であるとき, G を副有限群という.
命題 2.4.3 によって, 例えば G(K sep /K), G(K ab /K) などは副有限群であることがわかる. また
完備離散付値体 K の付値環 oK についても, oK ≃ lim oK /piK が成り立つことから oK は副有限群
←−
とわかり, 次の定理によりとくに oK はコンパクト Hausdorff 位相群となることもわかる.
22
定理 2.4.12. 位相群 G について, 次の (i)∼(iii) は同値である:
(i) G は副有限群.
(ii) G はコンパクト Hausdorff 全不連結な位相群である.
{
}
(iii) G はコンパクト Hausdroff 位相群で, N := N ⊂ G N は G の正規部分群 は G の単位元
1G の基本近傍系となる.
}
{
命題 2.4.13. G を位相群とし, N := N ⊂ G N は G の正規部分群で [G : N ] < +∞ とおく.
def
このとき N, N ′ ∈ N に対し N ≤ N ′ ⇐⇒ N ⊃ N ′ と定めることにより, (N , ≤) は有向集合と
なる.
そして N ≤ N ′ なる N, N ′ に対し
fN,N ′ : G/N → G/N ′ , g mod N 7→ g mod N ′
と定めると, これは well-defined な群準同型で {G/N, fN,N ′ } は射影系となり, lim G/N は副有限群
←−
N
となる.
ˆ := lim G/N とおき, これを G の副有限完備化という.
定義 2.4.14. 前命題の記号のもとで G
←−
N
2.5
指標群とその双対
この節では群の指標群について紹介する. 一般的に指標群は位相群に対して定義されるが, ここで
は簡単のため有限群に限って述べることにする. 次節でとくに Galois 群の指標群を扱うことにする.
定義 2.5.1. G を有限群とするとき, G∨ := Hom(G, Q/Z) とおいてこれを G の指標群という. G∨
は自然に Abel 群となる.
一般の位相群に対しても G∨ := Hom(G, Q/Z) と定めることにする. G∨ の元は連続性を仮定し
ていないことに注意しておく.
定義 2.5.2. G, H を有限群, f : G → H を群準同型とするとき, 写像
f ∨ : H ∨ → G∨ , χ 7→ χ ◦ f
を f の双対写像という. これは群準同型である.
命題 2.5.3. G を有限群とするとき,
σG : G → (G∨ )∨ , x 7→ σG (x) (ただし, σG (x)(χ) := χ(x) (∀χ ∈ G∨ ))
とおくと, これは well-defined で群準同型となる. とくに G が有限 Abel 群のとき, σG は群同型と
なる.
この σG を標準写像という.
命題 2.5.4. G を有限 Abel 群, H を G∨ の部分群とするとき, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) H = G∨ .
(ii)
∩
Ker h = {0}.
h∈H
定理 2.5.5. G1 , G2 を有限 Abel 群, µ : G1 × G2 → Q/Z を双加法的写像とする. このとき,
fµ : G1 → G∨
2 , x 7→ fµ (x) ,
23
gµ : G2 → G∨
1 , y 7→ gµ (y)
をそれぞれ
fµ (x)(y) := µ(x, y) ,
gµ (y)(x) := µ(x, y)
と定めると, これらは群準同型となる. さらに, µ が非退化ならば fµ , gµ はともに群同型となる.
∨
定理 2.5.6. {Gα , fα,β } を有限 Abel 群の帰納系とするとき, {G∨
α , fα,β } は有限 Abel 群の射影系と
なり,
Φ : (lim Gα )∨ → lim G∨
, χ 7→ (χ ◦ ια )α
−→
←− α
(ただし, ια : Gα → lim Gα は自然な包含写像)
−→
は群同型となる.
2.6
Galois 群の指標群
Galois 群の指標群は, 局所類体論の証明においてとくに重要な概念である. ここでは [S] を参考に
しながら, 指標群と Kummer 拡大, Artin-Schreier 拡大との関連性などを述べることにする.
定義 2.6.1. L/K を有限次 Galois 拡大とするとき,
X(L/K) := G(L/K)∨
と定める. さらに自然な帰納系 {X(L/K), ιL1 ,L2 } を用いて
(
)
ただし ιL1 ,L2 : X(L1 /K) → X(L2 /K) は fL1 ,L2 : G(L2 /K) → G(L1 /K) , σ 7→ σ L の双対写像
1
X(K) := lim X(L/K)
−→
(L は K の有限次 Galois 拡大体をわたる)
L
と定め, X(L/K) ⊂ X(K) とみなす. L1 ⊂ L2 ならば, X(K) の部分群として X(L1 /K) ⊂ X(L2 /K)
が成り立つことに注意する.
また, χ ∈ X(L/K) に対し χ : G(K) → Q/Z , σ 7→ χ(σ L ) と定め, これを χ と同一視することも
ある. これを用いると, X(K) は
{
}
ω ∈ Hom(G(K), Q/Z) 有限次 Galois 拡大 L/K が存在して ω(G(L)) = 0
と同一視できる.
命題 2.6.2. K を体, H を G(K) の部分群とし, 有限次分離拡大 M/K で G(M ) ⊂ H なるものが
存在すると仮定する. このとき K sep /K の中間体 L がただ一つ存在して,
G(L) = H かつ [L : K] < +∞
が成り立つ. とくに H が G(K) の正規部分群なら, この L は K の有限次 Galois 拡大体となる.
定義 2.6.3. χ ∈ X(K) とし, H := Ker(χ) ⊂ G(K) を考える. これは G(K) の正規部分群であり,
χ ∈ X(L/K) なる L を用いると G(L) ⊂ H となる.
すると H は命題 2.6.2 の仮定をみたすので, 有限次 Galois 拡大 Kχ /K で
H = Ker(χ) = G(Kχ )
なるものがただ一つ存在する. この Kχ を χ に対応する K の拡大体という.
(※) χ と χ
を同一視することにより, χ ∈ X(Kχ /K) とみなせることに注意する.
G(Kχ /K)
24
この有限次 Galois 拡大 Kχ /K は次のような性質を持っている:
命題 2.6.4. 有限次 Galois 拡大 Kχ /K は巡回拡大である.
系 2.6.5. X(K) ≃ lim X(L/K)
−→
(L は K の有限次 Abel 拡大をわたる) が成り立つ.
L
系 2.6.6. 任意の χ ∈ X(K) に対し, χ の位数は [Kχ : K] である.
定義 2.6.7. L/K を有限次拡大とするとき, 写像 ResL/K : X(K) → X(L) を, χ ∈ X(M/K)
(M/K は有限次 Galois 拡大)に対し
ResL/K (χ) := χG(M·L/L) ∈ X(M·L/L) ⊂ X(L)
と定め, これを指標群の制限写像という.
Brauer 群の場合と同様に, ResL/K と対をなす写像 CorL/K が存在する:
定理 2.6.8. L/K を有限次分離拡大とするとき, transfer 写像と呼ばれる群準同型 CorL/K :
X(L) → X(K) を構成することができ, この写像は次の (i)(ii) をみたす:
(i) M を L/K の中間体とするとき, CorL/K = CorM/K ◦ CorL/M .
(ii) 任意の χ ∈ X(K) に対し, (CorL/K ◦ ResL/K )(χ) = [L : K]·χ .
次に, 相互写像のもととなる基本双対写像を紹介する.
定義 2.6.9. K を体とするとき, 写像 [ ·, ·]K : X(K) × K × → Br(K) を
( χ ∈ X(K), a ∈ K × )
[ χ, a ]K := [ a, Kχ /K, σχ ]
と定め, これを K の基本双対写像という. ただし σχ ∈ G(Kχ /K) は
χ(σχ ) =
1
+Z
[Kχ : K]
をみたす G(Kχ /K) の生成元とする (このような σχ は χ ∈ X(K) を決めるごとにただ一つ存在す
ることがわかる).
命題 2.6.10. 基本双対写像は次の (i)∼(v) をみたす:
(i) [ χ1 + χ2 , a ]K = [ χ1 , a ]K + [ χ2 , a]K
(ii) [ χ, ab ]K = [ χ, a ]K + [ χ, b ]K
( χ1 , χ2 ∈ X(K), a ∈ K × ).
( χ ∈ X(K), a, b ∈ K × ).
(iii) L/K を有限次分離拡大とするとき,
ResL/K ([ χ, a ]L ) = [ ResL/K (χ), a]K
(∀χ ∈ X(K), ∀a ∈ K × ).
(iv) L/K を有限次分離拡大とするとき,
(
)
CorL/K [ ResL/K (χ), α]L = [ χ, NL/K (α) ]K
(∀χ ∈ X(K), ∀α ∈ L× ).
(v) L/K を有限次分離拡大とするとき,
CorL/K ([ ω, a ]L ) = [ CorL/K (ω), a]K
(∀ω ∈ X(L), ∀a ∈ K × ).
(※) ただし (iii)(iv) において, [ ·, · ]L の外側の CorL/K は Brauer 群の transfer 写像である.
25
この節の最後に, 特に名前の付いている指標を2つ紹介し, その性質を述べておく.
定義 2.6.11. K を体, n ∈ N+ とし, ζn ∈ K と仮定する. このとき a ∈ K × に対し写像 χa
( √
)
G K( n a)/K → Q/Z を
(n)
:
√
√
i
+ Z , ただし i ∈ N0 は σ( n a) = ζni · n a なるもの
n
√
(n)
と定め, これを a に関する Kummer 指標という. χa ∈ X(K( n a)/K) であることが容易に示
せる.
√
(※) 巡回拡大 K( n a)/K は Kummer 拡大と呼ばれるものである ([Fu] 参照) .
(n)
χa (σ) :=
命題 2.6.12. 次の (i)∼(iv) が成り立つ:
√
(i) 任意の n ∈ N+ , a ∈ K × に対し, Kχ(n) = K( n a) .
a
(ii) 任意の n ∈ N+ , a ∈ K × に対し, m := [Kχ(n) : K] とおいて n′ ∈ N+ を n = m·n′ なるもの
a
√
′ √
とすると, σχ(n) ( n a) = ζnn · n a .
a
(iii) 任意の a ∈ K × に対し, [ χa , 1 − a ]K = [ χa , −a ]K = 0.
(n)
(n)
(iv) 任意の a, b ∈ K × に対し, [ χa , b ]K = −[ χb , a ]K .
(n)
(n)
定義 2.6.13. K を標数 p (> 0) の体とする. このとき b ∈ K に対し写像 ωb : G(K(β)/K) → Q/Z (た
だし β ∈ K は X p − X − b の根のひとつ) を
ωb (σ) :=
i
+ Z , ただし i ∈ N0 は σ(β) = β + i なるもの
p
と定め, これを b に関する Artin-Schreier 指標という. ωb ∈ X(K(β)/K) であることが容易に示
せる.
(※) 巡回拡大 K(β)/K は Artin-Schreier 拡大と呼ばれるものである ([Fu] 参照) . また β ∈ K を
X − X − b の根のひとつとしたとき, 他の根は β + i (i = 0, · · · , p − 1 ) で表されることに注意する.
p
命題 2.6.14. 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) 任意の b ∈ K に対し, β ∈ K を X p − X − b の根とすると, Kωb = K(β) .
(ii) 任意の b ∈ K に対し, β ∈ K を X p − X − b の根とすると, σωb (β) = β + 1 .
(iii) 任意の b ∈ K に対し, [ ωb , −b ] = [ ωb , b ] = 0 .
2.7
Galois コホモロジーと Brauer 群
この節では Galois コホモロジーと Brauer 群の関係について述べる. [S] では有限群のコホモロ
ジーについてのみ記載されているが, ここではより一般的な, 位相群のコホモロジーを取り扱うこ
とにする.
定義 2.7.1. (位相群のコホモロジー) G を位相群, M を位相 G-加群とする. このとき M のコチェ
イン群を
Cc0 (G, M ) := M,
Ccn (G, M ) :=
{
}
f ∈ Map(Gn , M ) f は連続写像
26
と定める. さらに, コバウンダリー作用素 dn : Ccn (G, M ) → Ccn+1 (G, M ) を
d0 (x)(σ) := σ(x) − x
(x ∈ M, σ ∈ G),
n
i
∑
dn (f )(σ1 , · · · , σn+1 ) := σ1 f (σ2 , · · · , σn+1 ) +
(−1)i f (σ1 , · · · , σ\
i σi+1 , · · · , σn+1 )
i=1
+ (−1)n+1 f (σ1 , · · · , σn )
(f ∈ Ccn (G, M ), σ1 , · · · , σn+1 ∈ G)
と定め,
{
n
n
n
Z (G, M ) := Ker(d ), B (G, M ) :=
/
H n (G, M ) := Z n (G, M ) B n (G, M )
Im (dn−1 )
(n ≥ 1)
{0}
(n = 0)
,
とおいてそれぞれ M の n 次コサイクル群, n 次コバウンダリー群, n 次コホモロジー群という.
命題 2.7.2. 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) H 0 (G, M ) = Z 0 (G, M ) = M G .
(ii) M が自明な G-加群ならば, B 1 (G, M ) = 0 かつ H 1 (G, M ) = Homc (G, M ).
(iii) M1 , M2 をともに位相 G-加群とし u : M1 → M2 を連続な G-準同型とする.
このとき u はコホモロジー群の準同型
u∗ : H n (G, M1 ) → H n (G, M2 ) , [f ] 7→ [u ◦ f ]
を引き起こす. この u∗ を, u のコホモロジー群への誘導写像という.
命題 2.7.3. G を位相群, M を G-加群とし, M を離散位相で位相加法群とみなす. このとき次の (i)
∼(iii) は同値である:
(i) M は位相 G-加群 (つまり, 離散的 G-加群) .
(ii) 任意の x ∈ M に対し, Gx := {σ ∈ G σx = x} は G の開部分群.
∪
(iii) M = {M H ⊂ M H は G の開部分群 }.
定理 2.7.4. (コホモロジー長完全列)
u
v
0 −→ M1 −→ M2 −→ M3 −→ 0
を位相 G-加群の完全列とする (u, v は連続な G-準同型).
このとき連続写像 (準同型でなくてもよい) s : M3 → M2 で v ◦ s = idM3 なるものが存在すれば,
各 n ごとに δ : H n (G, M3 ) → H n+1 (G, M1 ) があって
δ
u
v
δ
u
∗
∗
∗
· · · −→ H n (G, M1 ) −→
H n (G, M2 ) −→
H n (G, M3 ) −→ H n+1 (G, M1 ) −→
···
は群の完全列となる.
(※) この δ : H n (G, M3 ) → H n+1 (G, M1 ) を n 次の連結準同型という.
27
u
v
証明. まず完全列 0 −→ M1 −→ M2 −→ M3 −→ 0 はコチェイン群の完全列
u
v
∗
∗
0 −→ C n (G, M1 ) −→
C n (G, M2 ) −→
C n (G, M3 )
を引き起こす. さらに v ◦ s = idM3 を用いると v∗ : C n (G, M2 ) → C n (G, M3 ) は全射となることが
わかり, 次の可換図式と完全列 (縦・横の列はすべて完全) を得る:
0
0
0
/ Z n (G, M1 )
u∗
0
/ C n (G, M1 )
u∗
0
/ C n+1 (G, M1 )
dn
/
/ Z n (G, M2 )
v∗
/ C n (G, M2 )
v∗
dn
/ C n+1 (G, M2 )
u∗
w
C n+1 (G,M1 ) B n+1 (G,M1 )
u∗
0
/
/
C n+1 (G,M2 ) B n+1 (G,M2 )
/ Z n (G, M3 )
/ C n (G, M3 )
dn
/ C n+1 (G, M3 )
v∗
v∗
/
/
C n+1 (G,M3 ) B n+1 (G,M3 )
よって snake lemma([Kaw] 参照) を用いることで, 求める準同型 δ : H n (G, M3 ) → H n+1 (G, M1 )
(上図の破線で示した写像) を得る.
定義 2.7.5. G を位相群, H を G の部分群, M を位相 G-加群とする. このとき写像 ResG/H :
H n (G, M ) → H n (H, M ) を [f ] ∈ H n (G, M ) に対し
ResG/H ([f ]) := [ f H n : H n → M ]
と定め, これを群コホモロジーの制限写像という.
Brauer 群の場合と同様に, ResG/H と対をなす写像 CorG/H が存在する (実は, Brauer 群の CorL/K
はこの CorG/H をもとに構成される):
定理 2.7.6. G を位相群, H を G の部分群, M を位相 G-加群とし, とくに H は指数有限であると
する. このとき transfer 写像と呼ばれる群準同型 CorG/H : H n (H, M ) → H n (G, M ) を構成する
ことができ, この写像は次の (i)(ii) をみたす:
(i) K を H ⊂ K ⊂ G なる部分群とするとき, CorG/H = CorG/K ◦ CorK/H .
(ii) 任意の [f ] ∈ H n (G, M ) に対し, (CorG/H ◦ ResG/H )([f ]) = [G : H]·[f ] .
さてここからは, 位相群 G として Galois 群を適用したときの性質を述べていく.
定義 2.7.7. (Galois コホモロジー) L/K を Galois 拡大, M を位相 G(L/K)-加群とするとき,
H n (L/K, M ) := H n (G(L/K), M )
とおいてこれを n 次 Galois コホモロジー群という.
(※) G(L/K)-加群の例としては L× , Z/nZ などがある. ただし前者は σ ∈ G(L/K), x ∈ L× に対し
σ · x := σ(x) によって定まる作用, 後者は自明な作用であり, 位相はともに離散位相である.
28
/0
/0
/0
以降, L/K を Galois 拡大とするとき
ResL/K := ResG(K sep /K)/G(K sep /L) ,
CorL/K := CorG(K sep /K)/G(K sep /L)
と定めることにする.
定理 2.7.8. (Hilbert の定理 90) L/K を有限次 Galois 拡大とし, L× を自然に G(L/K)-加群と
みなす. このとき H 1 (L/K, L× ) = 0 が成り立つ.
定理 2.7.9. L/K を有限次巡回拡大, σ を G(L/K) の生成元の一つとし, L× を自然に G(L/K)-加
群とみなす. このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) 任意の α ∈ K に対し, NL/K (α) = 1 ⇐⇒ ある β ∈ L× が存在して α = σ(β)β −1 .
(ii) 任意の α ∈ K に対し, TL/K (α) = 0 ⇐⇒ ある β ∈ L が存在して α = σ(β) − β.
次に, 有限次 Galois 拡大による Galois コホモロジー群の帰納的極限をとることを考える.
定理 2.7.10. G を副有限群, M を離散的 G-加群とするとき,
∪
M = {M N ⊂ M N は G の正規開部分群 }
が成り立ち,
Φ : lim H n (G/N, M N ) → H n (G, M ) ,
−→
N
[f ] 7→ [f : Gn → M , (σ1 , · · · , σn ) 7→ f (σ1 mod N, · · · , σn mod N )]
は well-defind 群同型となる.
系 2.7.11. K を体とするとき, G(K) の正規開部分群と K の有限次 Galois 拡大は1対1に対応し,
Φ
lim H n (L/K, L× ) ≃ lim H n (G(K)/G(L), ((K sep )× )G(L) ) ≃ H n (K sep /K, K sep )
−→
−→
L
L
が成り立つ. ただし左側の群同型は
G(L/K) ≃ G(K)/G(L), L× = ((K sep )× )G(L)
によるものである.
(※) この群同型によって自然に, H n (L/K, L× ) ⊂ H n (K sep /K, K sep ) とみなすことができる.
次の定理が, この節で最も重要な主張である:
定理 2.7.12. L/K を有限次 Galois 拡大とするとき,
H 2 (L/K, L× ) ≃ Br(L/K)
(群同型)
が成り立つ. とくに L/K が n 次巡回拡大であるときは, この群同型によって巡回多元環の類
[a, L/K, σ] ∈ Br(L/K) が
i+j
j
[ λ : G(L/K) × G(L/K) → L× , (σ i , σ j ) 7→ a(⌊ n ⌋−⌊ n ⌋−⌊ n ⌋) ] ∈ H 2 (L/K, L× )
と対応する (ただし, x ∈ R に対し ⌊x⌋ := max{m ∈ Z m ≤ x} と定める) .
また, 両辺の L に関する帰納的極限をとることにより
29
i
H 2 (K sep /K, (K sep )× ) ≃ Br(K)
(群同型)
が成り立つ.
最後に, カップ積と呼ばれる特別な積を紹介する. これは 3 章において相互写像の定義に用いら
れる, 重要な写像である.
定義 2.7.13. (カップ積) G を位相群, M1 , M2 , M3 を位相 G-加群とし, 写像 ⟨ · , · ⟩ : M1 ×M2 → M3
が次の (i)∼(iii) をみたすとする:
(i) ⟨ x1 + x2 , y ⟩ = ⟨ x1 , y ⟩ + ⟨ x2 , y ⟩.
(iii) ⟨ σx, σy ⟩ = σ⟨ x, y ⟩.
(ii) ⟨ x, y1 + y2 ⟩ = ⟨ x, y1 ⟩ + ⟨ x, y2 ⟩.
(ただし x, x1 , x2 ∈ M1 , y, y1 , y2 ∈ M2 , σ ∈ G )
このとき写像 ∪ : C n (G, M1 ) × C m (G, M2 ) → C n+m (G, M3 ) を, f ∈ C n (G, M1 ), g ∈ (G, M2 ) に
対し
(f ∪ g)(σ1 , · · · , σn+m ) := ⟨ f (σ1 , · · · , σn ), σ1 · · · σn · g(σn+1 , · · · , σn+m ) ⟩
と定め, この写像をコチェインのカップ積という.
命題 2.7.14. 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) dn+m (f ∪ g) = dn (f ) ∪ g + (−1)n · f ∪ dm (g). (ただし, dn はコバウンダリー作用素)
(ii) コチェインのカップ積は, コホモロジーのカップ積
∪ : H n (G, M1 ) × H m (G, M2 ) → H n+m (G, M3 ) , ([f ], [g]) 7→ [f ∪ g]
を引き起こす. この写像は well-defined な双加法的写像である.
2.8
高次単数群
この節では完備離散付値体 K の特別な部分群を定義し, それらの部分商について考える. 以降,
oK , pK , κ をそれぞれ K の付値環, 付値イデアル, 剰余体とし, κ の標数が p ( > 0) のときには e ∈ N+
e
を (p) = peK なるものとして e˜ := p−1
と定めておく. この章でのいくつかの命題は完備性がなくと
も成立するが, 煩雑さを避けるため全て完備性を仮定することにする.
(i)
定義 2.8.1. K の部分集合の列 {UK }i∈N0 を
UK = UK := o×
K,
(0)
(i)
UK := 1 + piK = {1 + x ∈ K x ∈ piK }
(i)
(i)
(1)
(2)
(i)
と定め, この UK を K の i 次単数群という. {UK }i∈N0 は UK ⊃ UK ⊃ UK ⊃ · · · をみたし, UK
は UK の部分群となる. また K の付値による位相で
(i)
UK
は自然にコンパクト Hausdorff 位相群と
なる.
命題 2.8.2. 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) UK /UK ≃ (oK /piK )×
(i)
(i ≥ 0).
(i)
(i+1)
(ii) UK /UK
30
≃ oK /pK = κ
(i ≥ 1).
命題 2.8.3. i ∈ N+ とするとき,
(i)
(i)
(i+n)
Φ : UK → lim UK /UK
←
−
n
(i+n)
, x 7→ (x mod UK
)n
は位相群の同型写像となる.
定理 2.8.4. κ の標数を p (≥ 0) とし, n ∈ N+ を p - n なるものとする. このとき次の (i)(ii) が成り
立つ:
(i)
(i)
(i) 任意の i ∈ N+ に対し, UK = (UK )n .
n
n
→ κ× /(κ× )n , x mod UK
7→ x mod (κ× )n は well-defined で群同型.
(ii) Φ : UK /UK
定理 2.8.5. K の標数を 0, κ の標数を p とするとき,
任意の i >
e
p−1 ,
(en+i)
n ∈ N+ に対し UK
(i)
= (UK )p
n
が成り立つ.
(i)
(i)
次に, この UK を用いて群の列 {VK }i∈N0 ∪{−1} を定義する. この群は後に Hilbert 記号の非退化
性 (3.5 節) を示す際に用いる.
(i)
定義 2.8.6. κ の標数を p (> 0) とする. このとき群の列 {VK }i∈N0 ∪{−1} を
(−1)
VK
:= K × /(K × )p ,
(−1)
と定める. 自然に VK
(0)
(0)
p
,
VK := UK /UK
(i)
(i)
p
p
(i ≥ 1)
/UK
VK := UK · UK
(1)
(˜
e+1)
⊃ VK ⊃ VK ⊃ · · · とみなすことができ, 定理 2.8.5 により VK
= {0}
となることに注意する.
(i)
(i+1)
この群の列から作られる部分商 VK /VK
は, 次のような構造をもつ:
定理 2.8.7. κ の標数を p (> 0) とし, π を K の素元とする.
(i)
(i+1)
(i) K の標数を 0 とし, e ∈ N+ を (p) = peK なるものとする. このとき部分商 VK /VK
て, 次の群同型が得られる:
・ i = −1 のとき,
∼
(−1) /
Fp −→ VK
VK , n + pZ 7→ π n ·(K × )p mod VK .
(0)
(0)
・ i = 0 のとき,
∼
(0) /
κ× /(κ× )p −→ VK
p
VK , x·(κ× )p 7→ x·UK
mod VK .
(1)
(1)
・1 ≤ i <
pe
p−1
かつ p - i のとき, ξ ∈ oK を (ξ) = piK なるものとすると
∼
(i) / (i+1)
(i+1)
p
κ −→ VK VK
mod VK
, x 7→ (1 + ξx)·UK
.
・1 ≤ i <
pe
p−1
かつ p | i のとき, η ∈ oK を (η) = pK なるものとすると
∼
(i) / (i+1)
(i+1)
p
κ/κp −→ VK VK
mod VK
, x + κp 7→ (1 + η p x)·UK
.
i/p
31
につい
(˜
e) /
(˜
e+1)
・ i = e˜ ∈ N+ のとき, VK
るときは, η ∈ oK
(˜
e)
VK
= VK は一般に複雑な形をとる. しかし ζp ∈ K であ
e˜/p
を (η) = pK なるものとすると群同型
∼
(˜
e)
p
κ/℘(κ) −→ VK , x + ℘(κ) 7→ (1 + η p x)·UK
(
)
ただし ℘(κ) := {αp − α α ∈ κ}
が得られる.
(i) /
(ii) K の標数を p とする. このときは VK
・ i = −1 のとき,
∼
(−1) /
Fp −→ VK
(i+1)
VK
について次の群同型が得られる:
VK , n + pZ 7→ π n ·(K × )p mod VK .
(0)
(0)
・ i = 0 のとき,
∼
(0) /
κ× /(κ× )p −→ VK
p
VK , x·(κ× )p 7→ x·UK
mod VK .
(1)
(1)
・ i ≥ 1 かつ p - i のとき, ξ ∈ oK を (ξ) = piK なるものとすると
∼
(i+1)
(i) / (i+1)
p
mod VK
.
κ −→ VK VK
, x 7→ (1 + ξx)·UK
i/p
・ i ≥ 1 かつ p | i のとき, η ∈ oK を (η) = pK なるものとすると
∼
(i) / (i+1)
(i+1)
p
κ/κp −→ VK VK
, x + κp 7→ (1 + η p x)·UK
mod VK
.
3 章 3.5 節では, この定理を用いて Hilbert 記号を計算することになる.
2.9
完備離散付値体の不分岐拡大と完全分岐拡大
ここでは, 完備離散付値体の不分岐拡大と完全分岐拡大について述べる. この節でも K を完備離
散付値体とし, φ, oK , pK , κ をそれぞれ K の付値, 付値環, 付値イデアル, 剰余体とする. さらに代
数拡大 L/K が与えられたとき, φL を φ の L への延長とし oL , pL , κL をそれぞれ L の付値環, 付
値イデアル, 剰余体とする. 定理 1.1.10 でも述べたように, 一般に φL は完備とも離散とも限らない
が, L/K が有限次拡大なら φL は完備離散付値となることに注意する.
定義 2.9.1. L/K を有限次拡大とするとき,
e(φL /φ) := [φL (L× ) : φ(K × )],
f (φL /φ) := [κL : κ]
とおいて, それぞれ L/K の分岐指数, 剰余次数という. これらがともに有限の値をとることは, 後述
の補題 2.9.3(ii) よりわかる. また K, L の素元をそれぞれ π ∈ K, πL ∈ L とするとき, e := e(φL /φ)
は φL (π) = φL (πL )e をみたす.
定理 2.9.2. L/K を有限次拡大とするとき, e(φL /φ)·f (φL /φ) = [L : K] が成り立つ.
この定理の証明は, 次の補題に帰着される:
補題 2.9.3. L/K を有限次拡大, π, πL をそれぞれ K, L の素元とし, e := e(φL /φ), f := f (φL /φ)
とおく. このとき次の (i)∼(iii) が成り立つ:
32
(i) φL (1), φL (πL ), φL (πL )2 , · · · , φL (πL )e−1 ∈ φL (L× ) は, φL (L× )/φ(K × ) の完全代表系とな
る.
(ii) κL の κ 上の底を ω 1 , · · · , ω f ∈ κL とすると,
e−1
e−1
ω1 , · · · , ωf , ω1 πL , · · · , ωf πL , · · · , ω1 πL
, · · · , ω f πL
∈L
は K 上一次独立となる.
(iii) (ii) での ef 個の L の元について, oL =
f
e−1
∑ ∑
i=0 j=1
i
.
oK · ωj πL
(※) もし f = 1 なら ω1 = 1 とすることができ, 上記は oL = oK [πL ] となる.
証明. (i) は容易に示すことができ, (ii) は [S] p. 160 で証明が与えられている. (iii) について. ここ
では [Ne] を参考にしながら, より丁寧な証明を与える.
f
e−1
∑ ∑
i
まず M :=
oK · ωj πL
( ⊂ oL ) とおく. oL = M をいうには次の (ア)(イ) を示せばよい:
i=0 j=1
(ア) oL = M
(oL の中での位相的閉包).
(イ) M は oL の閉集合.
((ア) について)
はじめに, 任意の m ∈ N+ に対し oL = M + pme
L が成り立つことを示す. N :=
e−1
∑
i
いて M =
N · πL
と表しておく.
f
∑
oL · ωj とお
j=1
i=0
さて, 任意の α ∈ oL をとる. ω 1 , · · · , ω f は κL の κ 上の底なので
α = c1 ω 1 + · · · + cf ω f ∈ κL
( ci ∈ oK )
と表せる. このとき α − (c1 ω1 + · · · + cf ωf ) ∈ pL だから, N の定め方より α ∈ N + pL となり, し
たがって oL = N + pL = N + πL oL が成り立つ. すると,
2
oL = N + πL (N + πL oL ) = N + N πL + πL
oL = · · ·
となるので, これを繰り返すと
e−1
2
e
oL = N + N π L + N π L
+ · · · + N πL
+ πL
oL = M + peL
が成り立つ. そしてこの式を用いると先ほどと同様の議論で, 任意の m ∈ N+ に対し oL = M + pme
L
となることがわかる.
この準備のもと, oL = M を示す.
m ∈ N+ } は位相環 oL における α の基本近傍系だから,
任意の α ∈ oL をとる. いま {α + pme
L
α の任意の近傍 V ( ⊂ oL ) をとったとき, m ∈ N+ が存在して α ∈ α + pme
L ⊂ V となる. 一方, こ
me
の m についても α ∈ oL = M + pL だから, α = x + β ( x ∈ M, β ∈ pme
L ) と表せる. すると,
x = α + (−β) ∈ α + pme
L ⊂ V により x ∈ M ∩ V となり, M ∩ V ̸= ∅ であるとわかる. よって閉包
の定義より α ∈ M となるので, oL = M が成り立つ.
((イ) について)
oL の部分距離空間としての M の完備性をいえばよい (一般に, 距離空間 X の完備部分空間は X
の閉集合である) .
f
e−1
∑ ∑
i
いま V :=
K · ωj πL
( ⊂ L ) とおくと, 補題 2.9.3(ii) よりこれは ef 次元の K-ベクトル空
i=0 j=1
間である. そして自然な全単射
33
Φ : K ef → V , (ci,j ) 7→
∑
i
ci,j ωj πL
i,j
−1
を考えると, これは一様同相な写像, つまり Φ, Φ
がともに一様連続な写像となる. よって Φ を oef
K
へ制限した全単射 Φ : oef
K → M も一様同相写像である. すると oK は完備だから M も完備となり,
M は oL の閉集合であるとわかる.
(※) 一般に, 一様同相な二つの距離空間は完備性を保つが, 位相同型では完備性は保たれないこ
とに注意する.
定理 2.9.2 の証明. まず補題 2.9.3(ii) により ef ≤ [L : K] とわかる. 次に (iii) の等式と
f
e−1
∑ ∑
i
oL = (oK )L から L =
K · ω j πL
が示せるので, ef ≥ [L : K] もわかる. よって ef = [L : K]
i=0 j=1
が成り立つ.
ここから, 不分岐拡大や完全分岐拡大について述べていく.
定義 2.9.4. (不分岐拡大と完全分岐拡大) L/K を有限次拡大とする. このとき,
def
L/K が不分岐拡大 ⇐⇒ e(φL /φ) = 1 かつ κL /κ は分離拡大
def
L/K が完全分岐拡大 ⇐⇒ f (φL /φ) = 1 (つまり κL = κ)
と定める.
命題 2.9.5. K ⊂ M ⊂ L を体の拡大列で [L : K] < +∞ なるものとする. このとき, 次の (i)(ii) は
同値である:
(i) L/K は不分岐拡大 (resp. 完全分岐拡大).
(ii) L/M, M/K はともに不分岐拡大 (resp. 完全分岐拡大).
次に, 不分岐拡大の性質を詳しく述べる. 以降, 1 章でも述べたが, f (X) =
対し f (X) :=
n
∑
n
∑
ai X i ∈ oK [X] に
i=0
ai X i ∈ κ[X] と定める.
i=0
補題 2.9.6. f (X) ∈ oK [X] をモニックな多項式で, f (X) ∈ κ[X] は分離多項式であるとする. この
とき次の (i)(ii) は同値である:
(i) f (X) ∈ K[X] は K 上既約.
(ii) f (X) ∈ κ[X] は κ 上既約.
定理 2.9.7. L/K を有限次拡大とするとき, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) L/K は不分岐拡大.
(ii) α ∈ L, f (X) ∈ oK [X] が存在して, f はモニックかつ f ∈ κ[X] は分離多項式であり,
f (α) = 0, L = K(α) が成り立つ.
さらに, 条件 (ii) のもとで α ∈ (oK )L = oL , oL = oK [α], κL = κ(α) が成り立つ.
例 2.9.8. p を素数, n ∈ N+ を p - n なるものとしたとき, Qp (ζn ) は不分岐拡大で, 付値環は Zp [ζn ]
となる. 拡大次数 m = [Qp (ζn ) : Qp ] は, p ∈ (Z/nZ)× の位数で与えられる.
34
系 2.9.9. 有限次不分岐拡大は分離拡大である.
不分岐拡大は, Galois 拡大と次のように関係している:
定理 2.9.10. L/K を有限次不分岐拡大とするとき, 次の (i)∼(ii) は同値である:
(i) L/K は Galois 拡大.
(ii) κL /κ は Galois 拡大.
また, この条件のもとで写像
rL/K : G(L/K) → G(κL /κ) , σ 7→ σ
(ただし σ : κL → κL , α 7→ σ(α) )
は群同型となる.
命題 2.9.11. M1 /K, M2 /K を有限次拡大とする. このとき, M1 /K が不分岐拡大なら M1 ·M2 /M2
も不分岐拡大となる. さらに, M1 /K, M2 /K がともに不分岐拡大なら M1 ·M2 /K も不分岐拡大と
なる.
ここからは一部, [S] の内容を超えるものを紹介していく.
定義 2.9.12. L/K を代数拡大とするとき,
Lu = (L/K)u := {α ∈ L K(α)/K は有限次不分岐拡大 }
と定めると, 命題 2.9.11 によってこれは L/K の中間体となることがわかる. この体を L における
K の最大不分岐拡大体という. とくに L = K のときは単に K の最大不分岐拡大体といい, K ur と
表す.
定理 2.9.13. L/K を代数拡大とし, Lu を L における K の最大不分岐拡大体とする. さらに Lu の
剰余体を κu とする. ( κ ⊂ κu ⊂ κL である.) このとき,
κu = (κL /κ)s
( κL における κ の分離閉包)
が成り立つ. とくに L = K のときは κu = κsep となる.
証明. (⊂) 不分岐拡大の定義より明らか.
(⊃) α ∈ (κL /κ)s (α ∈ oL ) とする. いま K は完備だから, 付値 φ は K の任意の代数拡大体へ一意
的に拡張できる. すると L の付値 φL もまた L の任意の代数拡大体へ一意的に拡張できるので, 定
理 1.1.13 によって L は Hensel 体とわかる. そこで α の κ 上の最小多項式を f (X) ∈ κ[X] (ただし
f (X) ∈ oK [X] がモニックとなるようにとる) と表すと, これは分離多項式であり, κL [X] において
f (X) = (X − α)·λ(X)
( λ(X) ∈ κL [X] )
と分解できる. このとき f (X) の分離性により X − α と λ(X) は互いに素だから, Hensel の補題よ
り g(X), h(X) ∈ oL [X] があって
f (X) = g(X)h(X), g(X) = X − α, h(X) = λ(X), deg g = deg(X − α) = 1
となり, deg g = 1 により g(X) = X − α′ ( α′ = α ∈ κL ) と表すことができる.
すると f はモニックで f は分離多項式, さらに f (α′ ) = 0 だから, 定理 2.9.7 によって K(α′ )/K は
不分岐拡大となる. ゆえに α′ ∈ Lu , したがって α = α′ ∈ κu が成り立つ.
35
命題 2.9.14. K ur /K は Galois 拡大である.
証明. 分離性は系 2.9.9 を用いれば示せる. 正規性も容易に示せる.
次の定理は, 不分岐拡大の性質の中でもとくに強調しておきたい主張である:
定理 2.9.15. K ur /K の中間体と κsep /κ の中間体は
M ←→ κM
によって 1 対 1 に対応する.
定理を証明する前に, 補題を 1 つ用意する:
補題 2.9.16. 写像 rK ur /K : G(K ur /K) → G(κsep /κ) , σ 7→ σ は群同型であり, K ur /K の任意の
中間体 M に対し
rK ur /K (G(K ur /M )) = G(κsep /κM )
が成り立つ.
証明. rK ur /K が群同型であることは, 定理 2.9.10 での写像の群同型性を用いれば示せる. 後半の主
張も容易に示せる.
定理 2.9.15 の証明. まず µ を κsep /κ の中間体としたとき, κM = µ となる K ur /K の中間体 M が
存在することを示す.
いま M := {α ∈ K ur κK(α) ⊂ µ} とおき, これが条件をみたすものであることをいう. 実際, M
が体となることは容易にわかる. κM = µ について. M の定義より κM ⊂ µ であるから, κM ( µ
であると仮定して矛盾を示す.
β ∈ µ − κM なる β ∈ oK ur が存在すると仮定する. このとき κ(β)/κ は有限次分離拡大だか
ら, β の κ 上の最小多項式 λ[X] ∈ κ[X] は分離多項式である. そこでいま f (X) ∈ oK [X] を, モ
ニックな多項式で f (X) = λ(X) なるものとする. すると, f (β) = λ(β) = 0 より f (X) = (X −
..
β)λ′ (X) ( λ′ (X) ∈ κsep [X] ) と表せるので, K ur が Hensel 体であること ( . 系 1.1.15) を用いると,
α ∈ oK ur , g(X) ∈ oK ur [X] が存在して
f (X) = (X − α)g(X),
α = β ∈ κsep ,
g = λ ∈ κsep [X]
が成り立つ. すると, 定理 2.9.11 より K(α)/K は不分岐拡大で κK(α) = κ(α) となるから, α ∈ M ,
そして β = α ∈ κK(α) ⊂ κM が成り立つ. しかしこれは β ̸∈ κM に矛盾する. よって κM = µ が成
り立つ.
次に, M1 , M2 をともに K ur /K の中間体で κM1 = κM2 なるものとする. このとき M1 = M2 が
成り立つことを示す.
いま仮定より κM1 ⊂ κM2 だから, G(κsep /κM1 ) ⊃ G(κsep /κM2 ) が成り立つ. すると補題 2.9.16
より G(K ur /M1 ) ⊃ G(K ur /M2 ) がとなるので, M1 ⊂ M2 が成り立つ. 同様にして M1 ⊃ M2 も示
せるので, M1 = M2 が成り立つとわかる.
以上より, M ←→ κM の対応は 1 対 1 である.
系 2.9.17. L/K を有限次拡大, M1 , M2 をともに L/K の中間体とし, M1 /K, M2 /K はともに有
限次不分岐拡大であるとする. このとき
36
κM1 ·κM2 = κ(M1 ·M2 ) ,
κM1 ∩ κM2 = κ(M1 ∩M2 )
が成り立つ.
証明. 定理 2.9.15 を用いれば容易に示せる.
不分岐拡大は, 局所類体論の証明において直接的ではないが一定の役割を果たす. とくに次の 4 つ
の定理は 3 章で用いることになるので, ここで紹介しておく:
×
定理 2.9.18. L/K を n 次不分岐拡大とし, NκL /κ (κ×
L ) = κ であると仮定する.
このとき NL/K (UL ) = UK が成り立ち, 写像
Φ : K × /NL/K (L× ) → Z/nZ , a·NL/K (L× ) 7→ m + nZ
(ただし m ∈ Z は (a) = pm
K なるもの)
は well-defined で群同型となる.
定理 2.9.19. K を完備離散付値体とし, 剰余体 κ は完全体であるとする. さらに, A を K 上の n2
次元中心的単純環とする. このとき K の拡大体 L が存在して,
L/K は有限次不分岐拡大かつ [A] ∈ Br(L/K)
が成り立つ.
定理 2.9.20. K を完備離散付値体, 剰余体 κ の標数を p ( > 0 ) とし, ζp ∈ K と仮定する. さらに
e ∈ N+ を (p) = peK なるものとし, e˜ :=
pe
p−1
と定めておく ( ζp ∈ K により e˜ ∈ N+ となる) . この
とき任意の a ∈ UK に対し次の (i)∼(iii) は同値である:
( (˜e) p )/ p
√
(˜
e)
p
(i) K( p a)/K は不分岐拡大である.
(ii) a·UK
∈ VK = UK ·UK
UK .
√
√
p
(˜
e
)
(iii) a′ ∈ UK が存在して K( p a) = K( a′ ).
(˜
e)
また, θ := ζp − 1 ∈ pK と b ∈ oK を用いて a = 1 + θp ·b ∈ UK と表したとき, X p − X − b = 0
√
の根 β ∈ K について K( p a) = K(β) が成り立ち, その剰余体は κ(β) となる. とくに κ(β)/κ は
Artin-Schreier 拡大となる.
定理 2.9.21. K を標数 p ( > 0 ) の完備離散付値体, b ∈ K とし, β ∈ K を X p − X − b の根のひと
つとして L := K(β) とおく. このとき次の (i)(ii) は同値である:
(i) L/K は不分岐拡大である.
(ii) b ∈ {x + cp − c ∈ K x ∈ oK , c ∈ K} .
さて次に, 完全分岐拡大の性質について述べる.
定義 2.9.22. (Eisenstein 多項式) K 上のモニックな多項式 f (X) = X n +
の条件をみたすとき, f を Eisenstein 多項式という:
n−1
∑
ai X i ∈ K[X] が次
i=0
0 ≤ i ≤ n − 1 なる任意の i に対し ai ∈ pK かつ, a0 ∈ pK − p2K .
(※) Eisenstein の判定法 ([Fu] p. 38 参照) などから, f は K 上既約であることがわかる.
37
定理 2.9.23. L/K を有限次拡大とするとき, 次の (i)∼(iii) は同値である:
(i) L/K は完全分岐拡大である.
(ii) L の任意の素元 πL に対し oL = oK [πL ] が成り立ち, πL の K 上の最小多項式は Eisenstein 多
項式となる.
(iii) モニックな Eisenstein 多項式 f (X) ∈ oK [X] と α ∈ L が存在して, f (α) = 0 かつ L = K(α)
が成り立つ.
さらに, 条件 (iii) をみたす α について α ∈ (oK )L = oL が成り立ち, とくにこれは oL の素元となる.
例 2.9.24. m ∈ N+ とするとき, Qp (ζpm )/Qp は pm−1 (p − 1) 次完全分岐拡大である.
この完全分岐拡大の Galois 群については G(Qp (ζpm )/Qp ) ≃ (Z/pm Z)× が成り立ち, さらに
Qp (ζpm ) の付値環は Zp [ζpm ], そして ζpm − 1 は Qp (ζpm ) の素元となることがわかっている.
完全分岐拡大についても, 3 章で用いる定理をひとつ述べておく:
定理 2.9.25. ℓ を素数, L/K を ℓ 次完全分岐巡回拡大とする. このとき, n ∈ N+ が存在して
(n)
UK ⊂ NL/K (UL ) が成り立つ.
2.10
可換環上の微分加群
微分加群は, 解析的な演算操作である“ 微分 ”の代数的な性質に着目し構成された概念である. 具
体的な演算である微分が, 抽象的な対象となって局所類体論に利用できるのは興味深いものである.
本稿では微分加群は 3 章 3.5 節や 5 章 5.2 節に登場する.
なお, ここでの内容は [S] には全く記載されていないことに注意しておく. 証明のないものは [Na]
を参照してもらうことにし, この節での目標である形式的べき級数環の微分加群については, [Na]
や [Mat] では明示されていなかったので筆者が考えた証明を記した.
定義 2.10.1. R を可換環, A を R 上の多元環, M を左 A-加群とする. 写像 D : A → M が次の (i)
∼(iii) をみたすとき, D を R-導分という:
(i) 任意の a, b ∈ A に対し, D(a + b) = D(a) + D(b).
(ii) 任意の a, b ∈ A に対し, D(ab) = a·D(b) + b·D(a).
(iii) 任意の r ∈ R に対し, D(r) = D(r·1A ) = 0.
この定義により例えば, 通常の意味での関数の微分は R-導分のひとつであることがわかる.
以降, とくに断らない限り R を可換環, A を R 上の可換多元環とし, A の乗法単位元を単に 1 ∈ A
と表す.
定義 2.10.2. (微分加群) 次の作用で A ⊗R A を A 上の可換多元環とみなす:
a, b, a′ , b′ ∈ A に対し (a ⊗ b)·(a′ ⊗ b′ ) := aa′ ⊗ bb′ ,
a′ ·(a ⊗ b) := a′ a ⊗ b.
/
このとき A-準同型 ψ : A⊗R A → A を ψ(a⊗b) = ab なるものとして定め, I := Kerψ, ΩA/R := I I 2
とおく. この A-加群 ΩA/R を A の R-微分加群という.
38
微分加群については, 次の性質が重要である:
定理 2.10.3. 写像 δA/R : A → ΩA/R を a ∈ A に対し
δA/R (a) := 1A ⊗ a − a ⊗ 1A + I 2
なるものとして定めると, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) δA/R は R-導分である. この δA/R を標準的 R-導分という.
(ii) ΩA/R は A-加群として {δA/R (a) ∈ ΩA/R a ∈ A} で生成される.
(iii) 任意の A-加群 M , 任意の R-導分 D : A → M に対し, A-準同型 h : ΩA/R → M がただ一つ
存在して D = h ◦ δA/R が成り立つ.
微分加群の具体的な例としては次が挙げられる:
例 2.10.4. R を可換環とし, A := R[X1 , · · · , Xn ] (n 変数多項式環) とおく. このとき ΩA/R は
δA/R (X1 ), · · · , δA/R (Xn ) を基底にもつ自由 A-加群となる.
多項式環の微分加群は, このように自由加群となることがわかった. では, これとよく似た形式的
べき級数環の微分加群についてはどうだろうか. これを調べるのがこの節での目標である.
まず, 準備として微分加群の基本事項を述べていくことにする.
命題 2.10.5. B を A 上の可換多元環とする. このとき, B-準同型
vB/A/R : B ⊗A ΩA/R → ΩB/R ,
uB/A/R : ΩB/R → ΩB/A
で, 任意の a ∈ A, b ∈ B に対し
vB/A/R (b ⊗ δA/R (a)) = b·δB/R (a·1B ),
uB/A/R (δB/R (b)) = δB/A (b)
が成り立ち, さらに
B ⊗A ΩA/R
vB/A/R
/ ΩB/R
uB/A/R
/ ΩB/A
/0
を完全列にするものがそれぞれただひとつずつ存在する.
以降 vB/A/R , uB/A/R という記号は, この定理によって存在する B-準同型として用いる.
命題 2.10.6. B を A 上の可換多元環とし, i : A → B , a 7→ a·1B と定める. このとき次の (i)(ii) は
同値である:
(i) B-準同型 r : ΩB/R → B ⊗A ΩA/R が存在して r ◦ vB/A/R = id.
(ii) 任意の B-加群 M , 任意の R-導分 D : A → M に対し, B-導分 ∆ : B → M が存在して
∆ ◦ i = D が成り立つ. すなわち, A 上の導分は B 上に拡張できる.
(※) (i) の条件のもとで vB/A/R は単射となるから,
0
/ B ⊗A ΩA/R
vB/A/R
/ ΩB/R
uB/A/R
/ ΩB/A
/0
(
)
は分裂完全列となることがわかる. よってこのとき ΩB/R ≃ B ⊗A ΩA/R × ΩB/A が成り立つ.
39
命題 2.10.7. 命題 2.10.6 の記号のもとで, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) vB/A/R : B ⊗A ΩA/R → ΩB/R は B-同型.
(ii) A 上の R-導分は, B 上の R-導分に一意的に拡張される.
次に, 命題 2.10.5∼命題 2.10.7 での A 上の可換多元環 B の具体例として, 商環と剰余環を取り
扱ったものをそれぞれ紹介する.
命題 2.10.8. S を A の積閉集合とするとき, 商環 AS −1 は自然に A 上の可換多元環となり,
vAS −1/A/R : AS −1 ⊗A ΩA/R → ΩAS −1/R , (a/s) ⊗ δA/R (a′ ) 7→ (a/s)·δAS −1/R (a′ /1)
は AS −1 同型となる.
この命題より例えば, R 上の n 変数有理関数体 K := R(X1 , · · · , Xn ) の微分加群 ΩK/R は, 例
2.10.4 により δK/R (X1 ), · · · , δK/R (Xn ) を基底にもつ K-ベクトル空間であることがわかる.
命題 2.10.9. J を A のイデアルとし, C := A/J とおくと, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) 写像 C × J/J 2 → J/J 2 , (a , b mod J 2 ) 7→ ab mod J 2 は well-defined で, この演算により
J/J 2 は C-加群となる.
(ii) 写像 θ : J/J 2 → C ⊗A ΩA/R , a mod J 2 7→ 1 ⊗ δA/R (a) は well-defined であり, C-準同型と
なる.
(iii) 次の列は C-加群の完全列となる:
J/J 2
θ
/ C ⊗A ΩA/R
vC/A/R
/ ΩC/R
/0
さて, ここからは標数 p( > 0) の体における微分加群の性質について述べていく. 重要なのは, 微
分基底という概念 (定義 2.10.14) である. これは形式的べき級数環の微分加群の構造を調べる際に
も有用なものである, 微分基底に関しては, [Na] の他に [Fu] にも記載がある.
以降とくに断らない限り, この節の終わりまで K を標数 p( > 0) の体とする.
定義 2.10.10. (p -独立) L/K を体拡大とする. L の部分集合 S が次をみたすとき, S は K 上 p 独立であるという:
任意の s1 , · · · , sn ∈ S に対し, L の部分集合
{si11 · · · sinn ∈ L 0 ≤ i1 , · · · , in ≤ p − 1}
(
)
は K(Lp ) 上一次独立. ただし K(Lp ) ⊂ L は K に Lp := {αp α ∈ L} を添加した体である.
命題 2.10.11. L/K を体拡大, S を L の部分集合とするとき, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) S は K 上 p -独立.
(ii) 任意の s1 , · · · , sn ∈ S に対し, [K(Lp )(s1 , · · · , sn ) : K(Lp )] = pn .
定義 2.10.12. (p -基底) L/K を体拡大とする. L の部分集合 S が次の (i)(ii) をみたすとき, S を
L/K の p -基底であるという:
(ii) L = K(Lp )(S).
(i) S は K 上 p -独立.
40
例 2.10.13. L := Fq ((T )), K := Lp とおくとき, {T } は L/K の p -基底である.
定義 2.10.14. (微分基底) L/K を体拡大とする. L の部分集合 S について, {δL/K (s) s ∈ S} が
L -ベクトル空間 ΩL/K の基底となるとき, S を L/K の微分基底であるという:
次の定理が, 基本的かつ重要である:
定理 2.10.15. L/K を体拡大, S を L の部分集合とするとき, 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) 次の (a)(b) は同値である:
(a) S は K 上 p -独立.
(b) {δL/K (s) ∈ ΩL/K s ∈ S} は L 上一次独立.
(ii) 次の (c)(d) は同値である:
(c) S は L/K の p -基底.
(d) S は L/K の微分基底.
次に, 微分加群と直接の関係は無いが, 後述の定理の証明に用いる補題を1つ用意する:
補題 2.10.16. R を局所整域, m を R のただ 1 つの極大イデアル, K を R の商体, M を R-加群と
(
)
する. このとき n := dim(R/m) R/m ⊗R M = dimK K ⊗R M < +∞ ならば, M は階数 n の自
(
)
由 R-加群となる. とくに 1 ⊗ x1 , · · · , 1 ⊗ xn を R/m -ベクトル空間 R/m ⊗R M の基底とすると,
x1 , · · · , xn は R-加群 M の基底となる.
証明. 環上の加群の一般論より
(
)
R/m ⊗R M → M/mM , r ⊗ x 7→ rx
は R/m -同型であるから,
(
)
n = dim(R/m) R/m ⊗R M = dim(R/m) M/mM
(
)
となる. そこで 1 ⊗ x1 , · · · , 1 ⊗ xn を R/m -ベクトル空間 R/m ⊗R M の基底とすると, R/m -同
型の元の対応から x1 , · · · , xn は R/m -ベクトル空間 M/mM の基底となることがわかる.
このとき, n 個の元 x1 , · · · , xn は M の R 上の底となることを示す.
まず M を生成することについては, N := {r1 x1 + · · · + rn xn ∈ M r1 , · · · , rn ∈ R} とおくと
M = N + mM となるので, 中山の補題 ([Mo] p. 38 参照) により M = N が成り立つ.
次に一次独立であることについて示す. 先ほど述べたことにより 1 ⊗ x1 , · · · , 1 ⊗ xn は K ⊗R M
を生成することがわかるが, 仮定より n = dimK K ⊗R M であるから, これらは K-ベクトル空間
K ⊗R M の基底となる. このことを用いると, x1 , · · · , xn ∈ M は R 上一次独立であることがわか
る.
さて, これらの準備のもと形式的べき級数環の微分加群の構造を調べる.
定理 2.10.17. K を標数 p( > 0) の完全体, すなわち K p = K なるものとし, A := K[[X1 , · · · , Xn ]]
(n 変数形式的べき級数環) とおく. このとき, ΩA/K は δA/K (X1 ), · · · , δA/K (Xn ) を基底にもつ自由
A-加群となる.
証明. まず, A = K[[X1 , · · · , Xn ]] は局所整域であり J := (X1 , · · · , Xn ) をただ 1 つの極大イデア
ルにもつことに注意しておく. いま補題 2.10.16 を R = A, M = ΩA/K として適用し,
41
δA/K (X1 ), · · · , δA/K (Xn )
が A-加群 ΩA/K の基底となることを示す. そのためにまず L := K((X1 , · · · , Xn )) を A の商体と
し, dim(A/J) (A/J) ⊗A ΩA/K = n = dimL L ⊗A ΩA/K が成り立つことをいう.
いま命題 2.10.8 により L ⊗A ΩA/K ≃ ΩL/K であるから, n = dimL ΩL/K を示す. とくに
δL/K (X1 ), · · · , δL/K (Xn ) が L -ベクトル空間 ΩL/K の基底であることをいう. 定理 2.10.15 を用
いれば, {X1 , · · · , Xn } が L/K の p -基底となることを示せばよい. いま仮定より K p = K である
ことに注意する.
(K 上 p -独立であることについて)
{X1i1 · · · Xnin ∈ L 0 ≤ i1 , · · · , in ≤ p − 1} が K(Lp ) = Lp 上一次独立であることを示せばよい
が, これは容易にわかる.
(L = K(Lp )(X1 , · · · , Xn ) = Lp (X1 , · · · , Xn ) について)
∑
任意の f =
ai1 ,··· ,in X1i1 · · · Xnin ∈ L をとると,
i1 ,··· ,in
p−1
∑
f=
=
···
p−1
∑
∑
j1 =0
jn =0 i1 ,··· ,in
p−1
∑
p−1 ( ∑
∑
j1 =0
···
jn =0
api1 +j1 ,··· ,pin +jn X1pi1 +j1 · · · Xnpin +jn
)
api1 +j1 ,··· ,pin +jn (X1i1 )p · (Xnin )p · X1i1 · · · Xnin ∈ Lp (X1 , · · · , Xn )
i1 ,··· ,in
となるので L = Lp (X1 , · · · , Xn ) が成り立つ.
これらより {X1 , · · · , Xn } は L/K の p -基底となるので, δL/K (X1 ), · · · , δL/K (Xn ) は L -ベクト
ル空間 ΩL/K の基底となり, 先ほどの議論から dim(A/J) (A/J) ⊗A ΩA/K = dimL L ⊗A ΩA/K が成
り立つ.
さて, 次に 1 ⊗ δA/K (X1 ), · · · , 1 ⊗ δA/K (Xn ) が A/J-ベクトル空間 (A/J) ⊗A ΩA/K の基底とな
ることを示す. これが言えれば, 補題 2.10.16 により δA/K (X1 ), · · · , δA/K (Xn ) が A-加群 ΩA/K の
基底となることがわかる.
まず, A/J ≃ K を用いると Ω(A/J)/K ≃ ΩK/K = 0 となるから, 命題 2.10.9 (iii) により
θ : J/J 2 → (A/J) ⊗A ΩA/K , a mod J 2 7→ 1 ⊗ δA/K (a)
は全射 A/J-準同型となる. さらにこの θ は A/J-同型であることを示す. 逆写像を構成する.
いま
D : A → J/J 2 ,
∑
ai1 ,··· ,in X1i1 · · · Xnin 7→ a1,0,··· ,0 X1 + · · · + a0,··· ,0,1 Xn mod J 2
i1 ,··· ,in
と定めると, これは K-導分となる. よって定理 2.10.3 により A-準同型 h : ΩA/K → J/J 2 がただ 1 つ
存在して D = h ◦ δA/K が成り立つので, この h を用いて λ : A/J × ΩA/K → J/J 2 , (a, ω) 7→ a · h(ω)
と定めると, これは A-平衡写像となる. すると λ は
λ : (A/J) ⊗A ΩA/K → J/J 2 , a ⊗ δA/K (b) 7→ a · h(δA/K (b)) = a · D(b)
を引き起こし, D の定義により λ ◦ θ = id, θ ◦ λ = id をみたすことがわかる. よって θ は A/J-同型
となる.
ここで, J の定め方から
K ·X1 + · · · K ·Xn → J/J 2 , c1 X1 + · · · cn + Xn 7→ c1 X1 + · · · cn + Xn mod J 2
42
は A/J-同型, すなわち K-同型となる. よって J/J 2 は X1 mod J 2 , · · · Xn mod J 2 を A/J 上の底にも
つので, θ の同型対応により 1⊗δA/K (X1 ), · · · , 1⊗δA/K (Xn ) は A/J-ベクトル空間 (A/J)⊗A ΩA/K
の基底となる.
したがって, ΩA/K は δA/K (X1 ), · · · , δA/K (Xn ) を基底にもつ自由 A-加群となる.
次の系は定理の中で証明しているが, 後で用いるのであらためて述べておく:
系 2.10.18. K を標数 K を標数 p( > 0) の完全体とし, L := K((X1 , · · · , Xn )) とおく. このとき,
ΩL/K は δL/K (X1 ), · · · , δL/K (Xn ) を基底にもつ L -ベクトル空間である.
また, 次の性質も後ほど用いる:
命題 2.10.19. K を標数 K を標数 p( > 0) の完全体とし, L := K((X)) とおく. このとき, 任意の
∞
∑
N ∈ N+ ,
ai X i ∈ L に対し
i=N
δL/K
∞
(∑
∞
) ∑
ai X i =
i·ai X i−1 δL/K (X)
i=N
i=N
が成り立つ.
証明. 写像 D : L → ΩL/K を
D
∞
(∑
ai X
i
)
:=
i=N
∞
∑
i·ai X i−1 δL/K (X)
i=N
と定めるとこれは K-導分となる. よって K-準同型 h : ΩL/K → ΩL/K があって D = h ◦ δL/K が
成り立つ. すると
(
)
h δL/K (X) = D(X) = δL/K (X)
となり, δL/K (X) が ΩL/K の K 上の底であることを用いると h = id, すなわち D = δL/K が成り
立つ.
実は形式的べき級数環というのは正則局所環とよばれる環の具体例であり, [Mat] では正則局所
環と導分の関係などの一般論が記載されている.
この節の最後に, 微分加群と不分岐拡大との関係について紹介する.
定義 2.10.20. (共役差積) R を可換環, A を R 上の可換多元環とするとき,
{
}
DA/R := Ann(ΩA/R ) = a ∈ A a·ΩA/R = {0}
とおいてこれを A の R 上の共役差積という.
定理 2.10.21. K を完備離散付値体, L/K を有限次拡大とし, L の付値環を oL とする. このとき次
の (i)∼(iii) は同値である:
(i) L/K は不分岐拡大である.
(ii) ΩoL /oK = {0}.
(iii) DoL /oK = {0}.
共役差積は大域類体論でも判別式の計算などで活躍する. これについては [Mo] や [Ne] などに記
載されている.
43
第3章
主定理の証明
この章では, 前章の準備をもとに局所類体論の証明を与える. まずは相互写像の構成から始める
が, これは巡回多元環を用いる方法と Galois コホモロジーを用いる方法がある. ここでははじめに
前者の構成方法を紹介し, 局所類体論 (1 章定理 1.2.2) の証明を行う. その後 Galois コホモロジーを
用いた相互写像の構成方法を紹介し, それが前者と一致することを示す. 証明の一部は [S] を参考に
しながらも, 自身でより良い証明を与えたところが多い. なお, ここでの議論の流れは 6 章で大いに
参考になるので, とくに丁寧に記述することを心掛けた.
以降この章の終わりまで, K は局所体であるとし
{
}
J ab (K) := L ⊂ K L は K の有限次 Abel 拡大体
と定める. また φ, oK , pK , κ をそれぞれ K の付値, 付値環, 付値イデアル, 剰余体とし, κ の標数を
p (> 0 ) とする.
相互写像の構成
3.1
ここでは, 主定理のもととなる相互写像を構成する. そのためにまず, いくつか準備を行う.
定理 3.1.1. κ = Fq ( q = pm , m ∈ N+ ) であるとする. このとき次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) K(ζqn −1 )/K は n 次不分岐巡回拡大であり, K(ζqn −1 ) の剰余体は Fq (ζ qn −1 ) = Fqn となる.
(ii) K ur /K の中間体で K の n 次不分岐拡大となるものは K(ζqn −1 ) に限る.
(iii) G(K(ζqn −1 )/K) の生成元 σn として
σ n : κ(ζ qn −1 ) → κ(ζ qn −1 ) , α 7→ σn (α) = αq
となるものがとれる (この σn を q 乗 Frobenius 写像という). さらにこの写像は
σn (ζqn −1 ) = ζqqn −1 をみたす.
(※) 以降, σn という記号は上の条件をみたす写像として用いる.
証明. (i) L := K(ζqn −1 ) とおき, まず L/K が n 次不分岐拡大となることを示す. いま f (X) =
Xq
n
−1
− 1 ∈ oK [X] はモニックな多項式で ζqn −1 を根にもち, f (X) = X q
n
−1
− 1 ∈ κ[X] は分離多
項式である. よって 2 章定理 2.9.7 より L/K は不分岐拡大であり, κL = Fq (ζqn −1 ) が成り立つ. L/K
..
が n 次巡回拡大であることは, G(L/K) ≃ G(Fq (ζ qn −1 )/Fq ) = G(Fqn /Fq ) ( . 2 章定理 2.9.10) と
G(Fqn /Fq ) が n 次巡回群であることからわかる.
(ii) Fq の n 次拡大体は Fqn のみであることと, 2 章定理 2.9.15 よりわかる.
(iii) G(Fqn /Fq ) の生成元として Frobenius 写像 α 7→ αq がとれるので, これに対応する
G(K(ζqn −1 )/K) の生成元を σn とすればよい. またこの σn について, i が存在して σn (ζqn −1 ) = ζqi n −1
44
q
i
が成り立ち, この両辺の剰余類をとると ζ qn −1 = σ n (ζ qn −1 ) = ζ qn −1 となる. すると ζ qn −1 は 1 の
原始 (q n − 1) 乗根だから i = q となり, σn (ζqn −1 ) = ζqqn −1 が成り立つ.
以降, κ = Fq となる局所体 K に対し Kn := K(ζqn −1 ) と定める. n m なる n, m ∈ N+ に対し
Kn ⊂ Km となることに注意する.
定理 3.1.2. Kn を K のただ一つの n 次不分岐拡大体とする. このとき
Br(K) =
∞
∪
Br(Kn /K)
n=0
が成り立つ. このことから, 自然な帰納系 (添字集合 N+ は例 2.4.8 による有向集合とする) をとると
Br(K) = lim Br(Kn /K)
−→
n
が成り立つ.
証明. 2 章定理 2.9.19 よりわかる.
定義 3.1.3. Kn を K のただ一つの n 次不分岐拡大体とする. このときに
−1
invn := Φ ◦ θK
: Br(Kn /K) → Z/nZ
n /K,σn
と定め, ここから n に関して自然な帰納的極限をとることで得られる写像を
invK : Br(K) → Q/Z
と定める. ただし,
m
∼
・ lim Z/nZ −→ Q/Z , m + nZ 7→
+ Z は例 2.4.8 による群同型,
−→
n
/
∼
・ θKn /K,σn : K × NKn /K (Kn× ) −→ Br(Kn /K) , b 7→ [b, Kn /K, σn ]
は 2 章定理 2.3.4 における群同型,
∼
・ Φ : K × /NKn /K (Kn× ) −→ Z/nZ , a·NKn /K (L× ) 7→ m + nZ
(ただし m ∈ Z は (a) = pm
K なるもの)
は 2 章定理 2.9.18 における群同型
である.
(※) 写像の作り方から, invK は群同型であることがわかる.
この群同型 invK は次の性質をもつ:
命題 3.1.4. 次の (i)(ii) が成り立つ:
(
) m
(i) 任意の n ∈ N+ , a ∈ K × に対し, invK [a, Kn /K, σn ] =
+ Z . ただし m ∈ Z は (a) = pm
K
n
なるものである.
(ii) L/K を有限次分離拡大とするとき, 次の2つの図式は可換である:
Br(K)
invK
Br(K)
O
×[L:K]
ResL/K
Br(L)
/ Q/Z
invL
/ Q/Z
CorL/K
Br(L)
45
/ Q/Z
nn7
n
n
nnn
nnninvL
n
n
n
invK
証明. (i) invn の定義により
)
(
)
invK ([a, Kn /K, σn ]) = invn ([a, Kn /K, σn ]) = invn ◦ θKn /K,σn (a·NKn /K (Kn× )
) m
1 (
+Z
= ·Φ a·NKn /K (Kn× ) =
n
n
となるのでよい.
(ii) まず L/K の分岐指数, 剰余次数をそれぞれ e, f ∈ N+ とする. このとき任意の m ∈ N+ をと
り n := mf とおくと, Kn ·L/L は m 次不分岐拡大となるので Kn ·L = Lm が成り立つ.
すると, 2 章命題 2.6.10 などから次の可換図式を得る:
Br(K) o
ResL/K
Br(L) o
Br(Kn /K) o
θKn /K,σn
/
K × NKn /K (Kn× ) o
Br(Lm /L) o
ι
θ
f
Lm /L,σn
Φ−1
Z/nZ o
/
o
L× NLm /L (L×
m)
×e
Φ−1
Z/mZ o
×n
×m
1
Z/Z
n
×ef
1
Z/Z
m
/
/
×
ただし ι : K × NKn /K (Kn× ) → L× NLm /L (L×
,→ L× から引き起こされ
m ) は, 包含写像 ι : K
る群準同型である.
よって
ℓ
+ Z ∈ Q/Z とすると, invK , invL の定義と上の可換図式より
m
(
)
ℓ
ℓ
(ResL/K ◦ inv−1
+ Z) = inv−1
+Z
K )(
L [L : K]·
m
m
−1
となるので, ResL/K ◦ invK
= inv−1
L ·[L : K], すなわち invL ◦ ResL/K = [L : K]·invK が成り立つ.
同様に次の可換図式を用いれば, invL = invK ◦ CorL/K も成り立つことがわかる.
Br(K) o
O
CorL/K
Br(L) o
Br(Kn /K) o
θKn /K,σn
/
K × NKn /K (Kn× ) o
O
Br(Lm /L) o
NL/K
θ
f
Lm /L,σn
Φ−1
/
o
L× NLm /L (L×
m)
Z/nZ o
O
i1
Φ−1
Z/mZ o
×n
×m
1
Z/Z
n O
i2
1
Z/Z
m
ただし,
i1 : Z/mZ → Z/nZ, , a mod m 7→ a mod n,
i2 :
1
a
af
1
Z/Z → Z/Z ,
+ Z 7→
+Z
m
n
m
n
である.
以上により与えられた2つの図式の可換性が示された.
次に, 相互写像のもととなる双加法的写像を構成する. これは 2 章定義 2.6.9 の基本双対写像を用
いることで得られる.
命題 3.1.5. 写像 ( ·, ·)K : X(K) × K × → Q/Z を
( χ, a )K := invK ([ χ, a ]K )
と定める. このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
46
( χ ∈ X(K), a ∈ K × )
(i) ( ·, ·)K は Abel 群の双加法的写像である.
(ii) L/K を有限次分離拡大とするとき, 次の (a)(b) が成り立つ:
(a) ( ResL/K (χ), α )L = ( χ, NL/K (α) )K
(b) ( ω, a )L = ( CorL/K (ω), a )K
( ∀χ ∈ X(K), ∀α ∈ L× ).
( ∀ω ∈ X(L), ∀a ∈ K × ).
証明. (i) 2 章定理 2.6.10 (i)(ii) より明らか.
(ii) 命題 3.1.4 と 2 章定理 2.6.10 (iii)(iv) を用いると,
(
)
( ResL/K (χ), α)L = invL ([ ResL/K (χ), α ]L ) = invK CorL/K ([ ResL/K (χ), α ]L )
= invK ([ χ, NL/K (α) ]K ) = ( χ, NL/K (α) )K ,
(
)
( ω, a )L = invL ([ ω, a ]L ) = invK CorL/K ([ ω, a ]L )
= invK ([ CorL/K (ω), a ]K ) = ( CorL/K (ω), a )K
となるので与式が成り立つ.
これらの準備のもと, 相互写像を次のように定義する:
定義 3.1.6. (相互写像) 命題 3.1.5 による写像 ( ·, ·)K は双加法的だから, 2 章定理 2.5.5 より群準
同型
ρK : K × → X(K)∨ ≃ G(K ab /K) , a 7→ ( ·, a )K
(ただし X(K)∨ =
(
)∨
lim X(L/K) ≃ lim X(L/K)∨ ≃ lim G(L/K) ≃ G(K ab /K)
−→ab
←−ab
←−ab
)
L∈J
(K)
L∈J
(K)
L∈J
(K)
を得る. これを K の相互写像という.
a ∈ K × , χ ∈ X(L/K) とするとき, ρK (a)(χ) = χ(ρK (a)) となることに注意する. ただし右辺は
ρK (a) ∈ G(L/K) ⊂ G(K ab /K) とみなしたときの表記である.
ここから, 1 章定理 1.2.2 で述べた局所類体論の主定理の証明に入る.
証明は (同型定理)−→(存在定理)−→(相互写像の性質) の順に行う. ここでは証明の前に, ひとつ
重要な定理を述べる:
定理 3.1.7. 写像
ΨK : X(K) → (K × )∨ , χ 7→ ( χ, · )K
(相互写像 ρK の双対)
は単射準同型であり, Im ΨK = Homc (K ×, Q/Z) =: D(K × ) が成り立つ. ただし
{
}
Homc (K ×, Q/Z) = f ∈ Hom(K ×, Q/Z) f は連続
である.
この定理の証明は 3.5 節で与えることにする.
47
3.2
同型定理の証明
この節では, 主定理のひとつである同型定理の証明を与える. 後に述べる混標数 2 次元局所体の
場合と並行させるために, [S] とは異なる方法で証明を行う.
定理 3.2.1. (同型定理) L/K を有限次 Abel 拡大 (すなわち L ∈ J ab (K) ) とするとき, 写像
/
ρL/K : K × NL/K (L× ) → G(L/K) , a·NL/K (L× ) 7→ ρK (a)L
は well-defined な群同型である.
証明. (well-defined 性)
(
)
α ∈ L とするとき ρK NL/K (α) = idL が成り立つことを言えばよい. いま任意の χ ∈ X(L/K)
L
(
)
をとると, ρK NL/K (α) ∈ X(L/K)∨ と見なしたとき命題 3.1.5 から
(
)
(. .
)
. χ ∈ X(L/K)
ρK NL/K (α) (χ) = ( χ, NL/K (α) )K = ( ResL/K (χ), α )K = 0
(
)
(
)
が成り立つので, ρK NL/K (α) = 0 ∈ X(L/K)∨ , つまり ρK NL/K (α) = idL が成り立つ.
L
(準同型性)
明らかである.
(全射性)
( /
)
H := ρL/K K × NL/K (L× ) とおき, H = X(L/K)∨ が成り立つことを示す. 2 章命題 2.5.4 よ
∩
Ker h = {0} を示せばよい.
り
h∈H
(
)
∩
任意の χ ∈
Ker h ⊂ X(L/K) をとる. いま定理 3.1.7 より ΨK は単射だから, ΨK (χ) = 0
h∈H
をいえば χ = 0 が成り立つ. そこで任意の a ∈ K をとると, ρL/K (a·NL/K (L× )) ∈ H だから
ΨK (χ)(a) = ( χ, a )K = ρL/K (a·NL/K (L× ))(χ) = 0
∩
Ker h = {0} となり,
が成り立つ. よって ΨK (χ) = 0, つまり χ = 0 が成り立つ. したがって
h∈H
ρL/K は全射である.
(単射性)
これまでの議論で ρL /K は全射群準同型とわかったので, 単射性をいうには
[ K × : NL/K (L× ) ] ≤ ♯(G(L/K)) = [ L : K ]
(⋆)
を示せばよい.
いま, L/K は有限次 Abel 拡大だから G(L/K) は有限 Abel 群である. よって Abel 群の基本定理
([Ko] p. 83 参照) を用いると, 部分群の列 {Hi }m
i=0 で
G(L/K) = H0 ⊃ H1 ⊃ · · · ⊃ Hm−1 ⊃ Hm = {id} かつ, Hi /Hi−1 は素数位数の巡回群
なるものが存在することがわかる. このとき Ki := LHi = {α ∈ L 任意の σ ∈ Hi に対し σ(α) = α}
とおくと,
K = K0 ⊂ K1 ⊂ · · · ⊂ Km−1 ⊂ Km = L かつ, Ki /Ki−1 は素数次巡回拡大
48
となる. すると,
×
×
)]
[ Ki−1
: NKi+1 /Ki−1 (Ki+1
×
×
)) ]
= [ Ki−1
: NKi /Ki−1 (Ki× ) ]·[ NKi /Ki−1 (Ki× ) : NKi /Ki−1 (NKi+1 /Ki (Ki+1
×
×
≤ [ Ki−1
: NKi /Ki−1 (Ki× ) ]·[ Ki× : NKi+1 /Ki (Ki+1
)]
が成り立つので, これを繰り返すことにより
×
×
[ K × : NL/K (L× ) ] ≤ [ K0× : NK1 /K0 (K1× ) ] · · · [ Km−1
: NKm /Km−1 (Km
)]
となる. よって L/K を素数次の巡回拡大として, 不等式 (⋆) を示せば十分である.
そこで ℓ を素数, L/K を ℓ 次巡回拡大とし, σ を G(L/K) の生成元とする. このとき ρL/K は単
射であることを示す.
任意の a ∈ K をとり, ρL/K (a · NL/K (L× )) = idL ∈ G(L/K) と仮定する. いま G(L/K) と
X(L/K)∨ を同一視すると ρL/K (a · NL/K (L× )) = 0 ∈ X(L/K)∨ となるので, とくに X(L/K) の元
χ : G(L/K) → Q/Z , σ i 7→
i
+Z
ℓ
に対しても ρL/K (a·NL/K (L× ))(χ) = 0 が成り立つ. すると
0 = ρL/K (a·NL/K (L× ))(χ) = ( χ, a )K = invK ([ χ, a ]K )
であるから, invK の同型性と併せて [ a, Kχ /K, σχ ] = [ χ, a ]K = 0 を得る. このとき 2 章定理 2.3.4
より a ∈ NKχ /K (Kχ× ) が成り立つ. すると χ の定め方より L = Kχ となるから, 結局 a ∈ NL/K (L× )
が成り立ち, ρL/K は単射となる. したがって ℓ 次巡回拡大 L/K について不等式 (⋆) が成り立つ.
同型定理からは, 次の系が得られる:
系 3.2.2. L1 , L2 ∈ J ab (K) とするとき, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
×
(i) NL1 ·L2 /K ((L1 ·L2 )× ) = NL1 /K (L×
1 ) ∩ NL2 /K (L2 ).
×
(ii) NL1 ∩L2 /K ((L1 ∩ L2 )× ) = NL1 /K (L×
1 ) · NL2 /K (L2 ).
×
(iii) L1 ⊂ L2 ⇐⇒ NL1 /K (L×
1 ) ⊃ NL2 /K (L2 ).
証明. (i) 定理 3.2.1 より容易に示せる.
(ii) まずノルムの連鎖律より
(
)
×
×
NLi /K (L×
i ) = NL1 ∩L2 /K NLi /L1 ∩L2 (Li ) ⊂ NL1 ∩L2 /K ((L1 ∩ L2 ) )
(i = 1, 2)
×
が成り立つので, NL1 ∩L2 /K ((L1 ∩ L2 )× ) ⊃ NL1 /K (L×
1 ) · NL2 /K (L2 ) となる. 次に定理 3.2.1 を用
いて K × の部分群としての指数を求めると,
×
[K × : NL1 /K (L×
1 ) · NL2 /K (L2 )] =
×
×
[K × : NL1 /K (L×
1 )] · [K : NL2 /K (L2 )]
×
×
[K × : NL1 /K (L1 ) ∩ NL2 /K (L2 )]
[L1 : K] · [L2 : K]
= [L1 ∩ L2 : K]
[L1 ·L2 : K]
= [K × : NL1 ∩L2 /K ((L1 ∩ L2 )× )]
=
(注:Galois 群を考える)
×
となるので NL1 ∩L2 /K ((L1 ∩ L2 )× ) = NL1 /K (L×
1 ) · NL2 /K (L2 ) が成り立つ.
49
(iii) (左辺)=⇒(右辺) は明らかなので, 逆を示す.
×
×
×
いま NL1 /K (L×
1 ) ⊃ NL2 /K (L2 ) と仮定すると, (ii) より NL1 ∩L2 /K ((L1 ∩ L2 ) ) = NL1 /K (L1 )
が成り立つ. よって定理 3.2.1 より
[L1 ∩ L2 : K] = [K × : NL1 ∩L2 /K ((L1 ∩ L2 )× )] = [K × : NL1 /K (L×
1 )] = [L1 : K]
となるので L1 ∩ L2 = L1 , すなわち L1 ⊂ L2 が成り立つ.
3.3
存在定理の証明
この節ではまず, 有限次 Abel 拡大のノルム群が指数有限な開部分群であることを示し, そのあと
存在定理の証明に入る.
以降, 局所体 K に対し
{
}
Of (K × ) := H ⊂ K × H は K × の開部分群で, [ K × : H ] < +∞
と定める.
命題 3.3.1. π を K の素元, H ⊂ K × を部分群とするとき, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) H ∈ Of (K × ) .
(n)
(ii) m, n ∈ N+ があって UK ·⟨π m ⟩ ⊂ H.
証明. (i)⇒(ii) H は K × の開集合だから, n ∈ N+ があって UK ⊂ H となる. また m := [ K × : H ]
(n)
とおくと ⟨π m ⟩ ⊂ (K × )m ⊂ H である. この2つから UK ·⟨π m ⟩ ⊂ H が成り立つ.
(n)
(n)
(n)
(ii)⇒(i) UK · ⟨π m ⟩ ⊂ H と仮定する. まず UK
⊂ UK · ⟨π m ⟩ ⊂ H により, H は K × の開
(n)
部分群である. 次に指数有限であることを示す. [ K × : UK · ⟨π m ⟩ ] < +∞ をいえばよい. いま
(n)
(n)
UK ·⟨π m ⟩
⊂
(n−1)
UK
·⟨π m ⟩
(i)
UK ·⟨π m ⟩
⊂ · · · ⊂ UK ·⟨π m ⟩ ⊂ K × であり
/
(i+1)
(i) / (i+1)
UK ·⟨π m ⟩ ≃ UK UK
≃
{
κ
κ×
(i ≥ 1)
,
(i = 0)
/
K × UK ·⟨π m ⟩ ≃ Z/mZ
(
)
a·UK ·⟨π m ⟩ ↔ ν + mZ による対応. ただし ν ∈ Z は (a) = pνK なるもの
となるので,
{
(i)
[ UK ·⟨π m ⟩
:
(i+1)
UK ·⟨π m ⟩ ]
=
♯(κ) < +∞
(i ≥ 1)
,
×
♯(κ ) < +∞ (i = 0)
[ K × : UK · ⟨π m ⟩ ] = ♯(Z/mZ) < +∞
が成り立つ. よってこれらより [ K × : UK ·⟨π m ⟩ ] < +∞ が成り立つので, H は K × の指数有限な
(n)
部分群である. 以上より H ∈ Of (K × ) が成り立つ.
(※) この命題と 2 章定理 2.8.4 により例えば, p を剰余体 κ の標数, n ∈ N+ を p - n なるものと
したとき (K × )n ∈ Of (K × ) であることがわかる.
50
次の定理が, 有限次 Abel 拡大のノルム群について述べたものである:
定理 3.3.2. L/K を有限次分離拡大とするとき, NL/K (L× ) ∈ Of (K × ) が成り立つ.
この定理を証明する前に, 補題を2つ用意する:
補題 3.3.3. L/K を有限次 Abel 拡大とするとき, ノルム写像 NL/K : L× → K × は連続写像となる.
証明. 位相群の一般論より, 1 ∈ L× での連続性を示せば十分. よって 1 ∈ L× の基本近傍系を用い
ることにより, 次を示せばよいことがわかる:
(j)
(i)
任意の i ∈ N+ に対して, j ∈ N+ が存在して NL/K (UL ) ⊂ UK .
まず π, πL をそれぞれ K, L の素元とし, e ∈ N+ を L/K の分岐指数としておく. このとき ε ∈ o×
L
e
= επ となる.
があって πL
(ei)
(i)
すると, 任意の i ∈ N+ をとったとき NL/K (UL ) ⊂ UK となることがわかる. 実際, n := [L : K]
とし, σ1 , · · · , σn : L → K を相異なる中への K-同型とすると,
ei
ei
ei
NL/K (1 + πL
x) = σ1 (1 + πL
x) · · · σn (1 + πL
x) = (1 + π i σ1 (εi x)) · · · (1 + π i σn (εi x))
= 1 + π i ·TL/K (εi x) + π 2i ·y
(∃ y ∈ oL )
であり, さらにこの等式より y ∈ oL ∩ K = oK となるので
(
)
(i)
ei
NL/K (1 + πL
x) = 1 + π i · TL/K (εi x) + π i y ∈ UK
(ei)
(i)
が成り立つ. よって NL/K (UL ) ⊂ UK となり, NL/K は連続である.
補題 3.3.4. L/K を有限次分離拡大とするとき, [ UK : NL/K (UL ) ] < +∞ が成り立つ.
証明. まず一般に L/K を有限次拡大, M をその中間体とするとき
[UK : NM/K (UM )] ≤ [UK : NL/K (UL )] ≤ [UK : NM/K (UM )]·[UM : NL/M (UL )]
(⋆)
が成り立つことに注意する.
いま L/K の Galois 閉包をとって式 (⋆) を考えることにより, はじめから L/K は有限次 Galois
拡大としてよい. 剰余体 κ の標数を p ( > 0 ) とし, n := [L : K] とおく.
(K の標数が 0 のとき)
p - n のときは, 2 章定理 2.8.4 (i) などから
( (1) )n
(1)
n
UK = UK
⊂ UK
⊂ NL/K (UL ) ⊂ UK ,
(1)
[UK : UK ] = ♯(κ) < +∞
となるので, [UK : NL/K (UL )] < +∞ が成り立つ.
p | n のときも 2 章定理 2.8.5 を用いれば同様の議論で示すことができる.
(K の標数が p のとき)
p - n のときは上と同様に示せるので p | n のときのみを考えることにし, n = pν ·m ( ν ≥ 1, p - m )
と表しておく.
いま G(L/K) の p-Sylow 群に対応する L/K の中間体を M とすると, [L : M ] = ♯(G(L/M )) =
pν , [M : K] = m が成り立つ. このとき式 (⋆) により, [UK : NL/K (UL )] < +∞ を示すには
[UK : NM/K (UM )] < +∞, [UM : NL/M (UL )] < +∞ をいえばよいことがわかる.
前者については p - m だからすでに示した. 後者について. いま M ′ := (L/M )u とおくと, 再び式
(⋆) より
51
[UM : NM ′ /M (UM ′ )] < +∞, [UM ′ : NL/M ′ (UL )] < +∞
を示せば十分なことがわかる.
まず M ′ /M について. これは有限次不分岐拡大だから, 2 章定理 2.9.18 より NM ′ /M (UM ′ ) = UM
となる. よって [UM : NM ′ /M (UM ′ )] = 1 < +∞ が成り立つ.
次に L/M ′ について. いま定理 2.9.13 より κM ′ = (κL /κM )s だから κL /κM ′ は純非分離拡大であ
るが, 一方で κL は有限体だからこれは分離拡大でもある. よって κL = κM ′ が成り立つので, L/M ′
(
)
′
は完全分岐拡大となる. すると ♯ G(L/M ′ ) = [L : M ′ ] = pν (∃ ν ′ ≤ ν ) だから, 有限群の一般論に
′
より部分群の列 {Hi }νi=0 で
(
)
G(L/M ′ ) = H0 ⊃ H1 ⊃ · · · ⊃ Hν ′ −1 ⊃ Hν ′ = {id} かつ ♯ Hi−1 /Hi = p
なるものが存在することがわかる. このとき各 Hi に対応する L/M ′ の中間体を Mi とすると,
M ′ = M0 ⊂ M1 ⊂ · · · ⊂ Mν ′ −1 ⊂ Mν ′ = L かつ [Mi : Mi−1 ] = p
となる. そこでもう一度式 (⋆) を用いると,
[UMi−1 : NMi /Mi−1 (UMi )] < +∞ (i = 1, · · · , ν ′ )
を示せばよいことがわかる.
さて, いま Mi /Mi−1 は p 次完全分岐巡回拡大だから, 2 章定理 2.9.25 より ni ∈ N+ が存在して
(n )
i
UMi−1
⊂ NMi /Mi−1 (UMi ) ⊂ UMi−1
(n )
i
となる. よって [UMi−1 : UMi−1
] < +∞ により [UMi : NMi /Mi−1 (UMi ] < +∞ が成り立ち, 題意が示
される.
定理 3.3.2 の証明. π を K の素元とする. 命題 3.3.1 により, UK · ⟨π m ⟩ ⊂ NL/K (L× ) となる
(n)
n, m ∈ N+ の存在をいえばよい. まず m := [ L : K ] とおくと (K × )m ⊂ NL/K (L× ) となるので,
(n)
⟨π m ⟩ ⊂ NL/K (L× ) が成り立つ. あとは UK ⊂ NL/K (L× ) となる n ∈ N+ が存在すること, すなわ
ち NL/K (L× ) が K × の開部分群であることをいえばよい.
いま NL/K (UL ) ⊂ NL/K (L× ) を用いて, NL/K (UL ) が K × の開部分群であることを示す. 一般
に, 空でない開集合を含む部分群は開部分群であることに注意しておく.
..
まず UL はコンパクトで NL/K は連続 ( . 補題 3.3.3 ) だから, NL/K (UL ) もコンパクトである.
よって Hausdorff 空間 UK のコンパクト部分集合 NL/K (UL ) は UK の閉部分群となる. すると, 補
( /
)
/
題 3.3.4 より ♯ UK NL/K (UL ) = [ UK : NL/K (UL ) ] < +∞ だから, 商位相群 UK NL/K (UL ) の
位相は離散位相となり, NL/K (UL ) は UK の開部分群とわかる. よって UK 自身が K × の開部分群
であることと併せると, NL/K (UL ) は K × の開部分群となる.
次に, 存在定理を示すための補題を 1 つ用意する:
{
}
補題 3.3.5. F(K) := A ⊂ X(K) A は X(K) の有限部分群 とおく.
このとき写像
Φ : J ab (K) → F (K) , L 7→ X(L/K)
は全単射である.
52
証明. まず任意の L ∈ J ab (K) をとると, X(L/K) ∈ F(K) が成り立つことに注意しておく. 実
(
)
(
)
(
)
際, ♯ X(L/K) < +∞ であることを示しておけばよいが, これは ♯ X(L/K) = ♯ G(L/K)∨ =
(
)
♯ G(L/K) = [L : K] < +∞ により従う.
(単射性)
X(L1 /K) = X(L2 /K) と仮定する. L1 = L2 をいうには, G(L1 ) = G(L2 ) が成り立つことを示
せばよい.
(
)
任意の σ ∈ G(L1 ) ⊂ G(K) をとる. σ ∈ G(L2 ) であること, すなわち σ L = id であることを
2
(
)
示す. いま任意の χ ∈ X(L2 /K) = X(L1 /K) をとると, σ ∈ G(L1 ) により
χ(σ L2 ) = χ(σ) = χ(σ L1 ) = 0
(. .
)
∩
となるので, σ L ∈
Kerχ = {0} が成り立つ . X(L2 /K) = G(L2 /K)∨ と 2 章命題 2.5.4 .
2
χ∈X(L2 /K)
よって σ L = id であるから σ ∈ G(L2 ) が成り立ち, G(L1 ) ⊂ G(L2 ) となる. 逆向きの包含関係も
2
同様に示せ, したがって L1 = L2 が成り立つ.
(全射性)
任意の A = {χ1 , · · · , χm } ∈ F(K) をとる. いま HA :=
∩
Ker χ とおくと, HA は G(K) の正規
χ∈A
部分群となる. そこで M := Kχ1 ·Kχ2 · · · Kχm とおくと,
M ∈ J ab (K), χi ∈ X(M/K) (i = 1, · · · , m), G(M ) = HA
となることが容易に示せる. このとき X(M/K) = A が成り立つことをいう.
まず M の定め方より A ⊂ X(M/K) = G(M/K)∨ である. 等号を示すには 2 章命題 2.5.4 より
(
)
∩
Ker χ = {0} ⊂ G(M/K) をいえばよいが, これは G(M ) = HA により成り立つ. したがって
χ∈A
Φ は全射である.
定理 3.3.6. (存在定理) n ∈ N+ とし,
Of (K × )n := {H ∈ Of (K × ) [ K × : H ] = n},
{
}
J ab (K)n := L ⊂ K L は K の n 次 Abel 拡大体
と定める. このとき写像
Φn : J ab (K)n → Of (K × )n , L 7→ NL/K (L× )
は全単射となる.
証明. まず任意の L ∈ J ab (K)n をとると, NL/K (L× ) ∈ Of (K × )n であることに注意する. 実際こ
れは, 定理 3.2.1 より [K × : NL/K (L× )] = [L : K] = n となることから従う.
(単射性)
系 3.2.2(iii) より従う.
(全射性)
/
任意の H ∈ Of (K × )n をとる. s : K × → K × H を自然な射影とすると, s の双対写像 s∨ :
( ×/ )∨
K H → (K × )∨ は単射であり
(( / )∨ )
s K× H
⊂ Homc (K × , Q/Z) = D(K × )
53
が成り立つ. するといま定理 3.1.7 より ΨK : X(K) → D(K × ) は群同型だから, ΨK の定義域を制
限することにより群同型
( (( ×/ )∨ )) ∼ (( ×/ )∨ )
ΨK : Ψ−1
H
−→ s K H
K s K
(
((
/
)
))
∨
×
を得る. このとき Ψ−1
H
は X(K) の有限部分群となることが,
K s K
(
( (( ×/ )∨ )))
(( / )∨ )
( / )
H
= ♯ K × H = n < +∞
♯ Ψ−1
= ♯ K× H
K s K
( (( ×/ )∨ ))
によりわかる. よって補題 3.3.5 より, L ∈ J ab (K) があって X(L/K) = Ψ−1
H
が成
K s K
∼ ( ×/ )∨
∨ −1
り立つ. すると, 群同型 (s ) ◦ ΨK : X(L/K) −→ K H について次の図式は可換となる:
K×
s′
/
/ K × NL/K (L× )
ρL/K
/ G(L/K)
≀
s
K
/
×
H
∼
/ ((
/ )∨ )∨
K× H
/ X(L/K)∨ = (G(L/K)∨ )∨ .
/
(ただし s′ : K × → K × NL/K (L× ) は自然な射影)
((s∨ )−1 ◦ ΨK )∨
よって Φn (L) = NL/K (L× ) = Ker(ρL/K ◦ s′ ) = H が成り立つので, Φn は全射である.
相互写像の性質
3.4
この節では, 主定理で述べた相互写像の性質について調べる. はじめに補題を 1 つ用意する:
{
}
補題 3.4.1. G を位相群とし, N を N ⊂ N ⊂ G N は G の正規部分群 なるものとする. さらに
N は次の (a)(b) をみたすと仮定する:
(a) 任意の N1 , N2 ∈ N に対し, N3 ∈ N があって N3 ⊂ N1 ∩ N2 .
(b)
∩
N = {1}.
def
このとき N1 , N2 ∈ N に対し N1 ≤ N2 ⇐⇒ N1 ⊃ N2 と定めることにより, (N , ≤) は有向集合
となる. さらに 2 章命題 2.4.13 と同様の射影系 {G/N, fN1 ,N2 } と射影的極限 lim G/N を考えると,
←−
N
写像
θ : G → lim G/N , g 7→ (g mod N )N
←−
N
は連続な単射群準同型となり, 像 θ(G) は lim G/N の中で稠密となる.
←−
N
証明. (N , ≤) が有向集合であることは容易に示せる. 写像 θ について.
いま N ∈ N に対し θN : G → G/N を自然な射影とすると, 任意の N1 , N2 ∈ N に対し θN1 =
fN1 ,N2 ◦ θN2 が成り立つので {θN } は連続な群準同型 θ : G → lim G/N を引き起こす. すると仮定
←−
(b) により θ は単射であるとわかる.
次に像が lim G/N の中で稠密となることについて示す. これは θ(G) = lim G/N をいえばよい.
←−
←−
任意の g = (gN mod N )N ∈ lim G/N と lim G/N の開集合 W をとり, g ∈ W と仮定する. g ∈
←−
←−
θ(G) を示すには W ∩ θ(G) ̸= ∅ をいえばよい. いま lim G/N の開集合の定め方より, N1 , · · · , Nm ∈ N
←−
と G/Ni の開集合 Vi が存在して
54
(
)
∏
g = (gN mod N )N ∈ VN1 × · · · × VNm ×
G/N ∩ lim G/N ⊂ W
←−
N ̸=N1 ,···Nm
N
が成り立つ. すると仮定 (a) より N0 ⊂ N1 ∩ · · · ∩ Nm , つまり N0 ≥ Ni (i = 1, · · · , m ) なる N0 ∈ N
が存在するので, この N0 を用いると, gN0 ≡ gNi mod Ni と上の包含関係より θ(gN0 ) ∈ W が成り
立つ. よって W ∩ θ(G) ̸= ∅ となるので g ∈ θ(G) であり, θ(G) = lim G/N が成り立つ.
←−
さて, この準備のもと相互写像の性質を示す.
定理 3.4.2. 相互写像 ρK : K × → G(K ab /K) は連続な単射群準同型で, 像 ρK (K × ) は G(K ab /K)
の中で稠密となる.
(. .
)
証明. G = K × , N = {NL/K (L× ) L ∈ J ab (K)} = Of (K × ) . 存在定理 (定理 3.3.6) として補
題 3.4.1 を用いることを考える. まずこの N が補題 3.4.1 の仮定 (a)(b) をみたすことを確かめる.
((a) について)
これは系 3.2.2 (i) より明らか.
((b) について)
∩
(n)
NL/K (L× ) = {1} を示せばよい. いま Hn,m := UK ·⟨π m ⟩ ∈ Of (K × ) とおき, Hn.m の類体
L∈J ab (K)
を Ln,m とする. このとき Hn,m = NLn,m /K (L×
n,m ) であるから,
∩
∩
∩
NL/K (L× ) ⊂
NLn,m /K (L×
Hn,m = {1}
n,m ) =
となり,
∩
n,m
L
n,m
×
NL/K (L ) = {1} が成り立つ.
L
以上より N は補題 3.4.1 の仮定 (a)(b) をみたすので, 写像
(
)
/
(
)
θ : K × → lim K × NL/K (L× ) , a 7→ a·NL/K (L× ) L
←−
L
(
)
/
は連続な単射群準同型であり, 像 θ(K × ) は lim K × NL/K (L× ) の中で稠密となる.
←−
/
ここで, 同型定理 (定理 3.2.1) による群同型 ρL/K : K × NL/K (L× ) → G(L/K) について, L ∈
J ab (K) に関する射影的極限をとって得られる位相群の同型
(
)
/
lim ρL/K : lim K × NL/K (L× ) → lim G(L/K) ≃ G(K ab /K)
←−
←−
←−
L
L
L
を考える. この写像は上記の θ と合成することで写像 ρK を与えることがわかる. よって ρK は連続
な単射群準同型であり, 像は G(K ab /K) の中で稠密となる.
注 3.4.3. K の標数が 0 のときは
{
}
Of (K × ) = H ⊂ K × H は K × の指数有限な部分群 (開でなくともよい)
(
)
/
が成り立ち, lim K × NL/K (L× ) は K × の副有限完備化となる.
←−
L
55
3.5
Hilbert 記号, 記号 [ ·, · ) と写像 ΨK の性質
この章では定理 3.1.7 を証明することを目標とする. そのための準備として Hilbert 記号や記号
[ ·, · ) を定義し, それらが非退化であることを述べる.
以降, 1 ∈ K の原始 n 乗根 ζn と m ∈ Z/nZ に対し, ζnm := ζnm と定める (これは well-defined で
ある) .
定義 3.5.1. (Hilbert 記号) n ∈ N+ を K の標数と互いに素な自然数とし, ζn ∈ K と仮定する.
/
/
このとき写像 ( · , · )n : K × (K × )n × K × (K × )n → µn を
√
ρK (b)( n a)
× n
× n
√
( a·(K ) , b·(K ) )n :=
(a, b ∈ K × )
n
a
と定めると, これは a, b ∈ K × のとり方, a の n 乗根のとり方によらずに決まる. この写像 ( · , · )n
を Hilbert 記号という.
以降, ( a·(K × )n , b·(K × )n )n を単に ( a, b )n と表すことにする.
( √
)
: G K( n a)/K → Q/Z を a ∈ K × に
関する Kummer 指標とする (2 章定義 2.6.11 参照) . このとき任意の a, b ∈ K × に対し,
(n)
命題 3.5.2. n ∈ N+ とし, ζn ∈ K と仮定する. さらに χa
{a, b}ζn
( a, b )n = ζn
(n)
, ただし {a, b}ζn := n·( χa , b )K ∈ Z/nZ
が成り立つ ( n1 Z/Z の元を n 倍したものを, Z/nZ の元とみなしていることに注意する).
√
√
証明. まず {a, b}ζn = i + nZ , ρK (b)( n a) = ζnj · n a と表しておく. i ≡ j mod n を示せばよい.
√
いま, 2 章命題 2.6.12 (i) により Kχ(n) = K( n a) であることに注意すると,
a
(n)
( χ(n)
a , b )K = ρK (b)(χa )
(
)
√
n
= χ(n)
ρ
(b)
K
K( a)
a
=
(. .
)
. ρK (b) の定義, ρK (b) ∈ X(K)∨ とみなしたときの表記
)
(
)
( √
...
n
n a) ∈ G K(
a)/K とみなしたときの表記
ρK (b) K( √
j
+Z
n
であるから
(n)
i + nZ = {a, b}ζn = n·( χa , b )K = j + nZ
が成り立つ. よって i ≡ j mod n となるので, 与式が成り立つ.
命題 3.5.3. Hilbert 記号 ( · , · )n は次の (i)∼(iv) をみたす:
(i) ( ab, c )n = ( a, c )n · ( b, c )n .
(iii) ( a, 1 − a )n = ( a, −a )n = 1.
(ii) ( a, bc )n = ( a, b )n · ( a, c )n .
(iv) ( a, b )n = ( b, a )−1
(ただし a, b, c ∈ K × )
n .
(※) とくに (i)(ii) より, Hilbert 記号は双加法的写像であることがわかる.
証明. 命題 3.5.2 による Hilbert 記号の表記に注意して, 2 章命題 2.6.10 (i)(ii), 2 章命題 2.6.12 を用
いればよい.
次に, この Hilbert 記号が非退化であることを示す. K の標数と n の条件で場合を分ける.
定理 3.5.4. K の標数を 0 とし, ζn ∈ K, p - n と仮定する. このとき Hilbert 記号 ( ·, · )n は非退化
である.
56
定理を証明する前にまず, 次の補題を示す:
補題 3.5.5. 写像 τ : K × × K × → κ× を, a, b ∈ K × に対し
( β)
(
)
αβ
a
β
τ (a, b) := (−1) · α
ただし α, β ∈ Z はそれぞれ (a) = pα
K , (b) = pK なるもの
b
と定めると, 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) τ は双加法的写像であり, 任意の a, b ∈ K × に対して τ (a, b) = τ (b, a)−1 が成り立つ.
(ii) 定理 3.5.4 の仮定のもとで q := ♯(κ) とおくと, n | (q − 1) が成り立ち, さらに任意の a, b ∈ K ×
に対し
( a, b )n = τ (a, b)
q−1
n
が成り立つ.
(※) この τ は Tame 記号と呼ばれる写像を引き起こす. これについては 5 章定義 5.1.4 で述べる.
証明. (i) 容易に示せる.
(ii) まず ζn ∈ κ は分離多項式 X n − 1 ∈ κ[X] の根なので, ζn ∈ κ は 1 ∈ κ の原始 n 乗根, つまり ζn
の位数は n である. 一方で ♯(κ× ) = q − 1 により ζn
q−1
= 1 である. よって n | (q − 1) が成り立つ.
次に後半の等式を示す. いま π を K の素元とし, a = u(−π)α , b = vπ β = vπ·π β−1 (u, v ∈ UK )
と表しておくと, 命題 3.5.3 (i)(ii)(iv) と τ の双加法性から
( a, b )n = ( u, b )n · ( −π, b )α
n
αβ
= ( u, vπ )n · ( u, π )nβ−1 · ( v, −π )−α
n · ( −π, π )n ,
τ (a, b) = τ (u, vπ) · τ (u, π)β−1 · τ (v, −π)−α · τ (−π, π)αβ
となる. よって各項ごとに調べることにより, 等式を示すには次の (a)(b) を示せばよいことがわかる:
q−1
(a) K の任意の素元 π に対し, ( −π, π )n = τ (−π, π) n (= 1 ∈ κ×).
q−1
(b) K の任意の素元 π と任意の u ∈ UK に対し, ( u, π )n = τ (u, π) n .
((a) について)
これは命題 3.5.3 (iii) と τ の定義より成り立つ.
((b) について)
まず定義より, τ (u, π)
q−1
n
= (−1)0 ·u
q−1
n
=u
q−1
n
である. そこで左辺の計算を行う. 命題 3.5.2 に
より
{u, π}ζn
( u, π )n = ζn
(n)
, ただし {u, π}ζn = n·( χu , π )K
であることに注意する.
√
..
いま X n − u ∈ κ[X] は分離多項式であるから ( . p - n), 2 章定理 2.9.7 により K( n u)/K は不
√
分岐拡大である. すると m := [K( n u) : K] とおいたとき, 不分岐拡大の一意性 (定理 3.1.1) により
√
√
(n)
K( n u) = Km となる. ここで, χu ∈ X(K( n u)/K) = X(Km /K) を u に関する Kummer 指標,
1
σm を q 乗 Frobenius 写像 (定理 3.1.1 参照) とし, χm ∈ X(Km /K) を χm (σm ) =
+ Z なるもの
m
57
として定めておく. このとき σu := σχ(n) は G(Km /K) の生成元だから σm = σuj と表すことがで
u
(n)
き, この j を用いると χu
= j ·χm が成り立つことがわかる. すると, 命題 3.1.4 により
( χ(n)
u , π )K = j ·( χm , π )K = j ·invK ([π, Km /K, σm ])
1
j
= j· + Z =
+Z
m
m
となる. ここで m の定め方から m | n となることに注意して, n = m·n′ と表しておくと
(n)
n·( χu , π )K =
nj
+ nZ = jn′ + nZ
m
′
となるので, ( u, π )n = ζnjn が成り立つ.
よってあとは
jn′
ζn
=u
q−1
n
√
′√
を示せばよい. いま, σm = σuj と σu ( n u) = ζnn ·n u に注意すると
√
√
′√
σm ( n u) = σuj ( n u) = ζnjn ·n u
となるので, σ m ∈ G(κ(ζ qm −1 )/κ) の性質より
√ q
√
jn′ √
( n u) = σ m ( n u) = ζ n ·n u
jn′
が成り立つ. よってこの式より ζ n
=u
q−1
n
となるので, 与えられた等式が成り立つ.
定理 3.5.4 の証明. ( a, b )n = ( b, a )−1
n であるから, 片側の非退化性のみ示せば十分せある. そこ
で任意の a ∈ K × をとり, ( a, b )n = 1 (∀ b ∈ K × ) と仮定する. a · (K × )n = (K × )n , すなわち
a ∈ (K × )n を示せばよい. π を K の素元とし, q := ♯(κ) とおく.
いま a = uπ α (u ∈ UK , α ∈ Z) と表し, 仮定をとくに b = π として適用すると, 補題 3.5.5 より
1 = ( a, π )n = τ (a, π)
つまり u
q−1
n
= (−1)
α(q−1)
n
q−1
n
= (−1)
α(q−1)
n
·u
(q−1)
n
,
が成り立つ. また, 仮定を b = −1 として適用すると
q−1
n
1 = ( a, −1 )n = τ (a, −1)
が成り立つ. よってこの2つの式より u
q−1
n
= (−1)
α(q−1)
n
= 1 ∈ κ× となるので, κ× が位数 q − 1 の巡回群であ
ることにより u ∈ (κ× )n が成り立つ. すると p - n と 2 章定理 2.8.4 (ii) により, v ∈ UK を用いて
u = v n と表せることがわかる.
次に, 仮定を b = ζq−1 として用いると
′
′
−αn
1 = ( a, ζq−1 )n = τ (a, ζq−1 )n = ζq−1
(ただし n′ :=
q−1
∈ N+ )
n
となるが, ζ q−1 ∈ κ× の位数が q − 1 であることから
−αn′ = (q − 1)·m = nn′ m (m ∈ N+ ) ,
つまり α = n·(−m) と表せる.
以上より a = uπ α = (vπ −m )n ∈ (K × )n が成り立つ. したがって p - n のとき Hilbert 記号 ( ·, · )n
は非退化である.
系 3.5.6. K の標数を 0 とし, ζn ∈ K, p - n と仮定する. このとき定理 3.1.7 での写像 ΨK : X(K) →
(K × )∨ を制限した写像
ΨK n : X(K)n → D(K × )∨
n
は群同型である.
58
1
Z/Z ⊂ Q/Z である. すると Hilbert 記号は
n
/
/
( ·, · )n : K × (K × )n × K × (K × )n → Q/Z
証明. まず, ζn ∈ K だから µn ≃
とみなすことができ, 非退化性と 2 章定理 2.5.5 により群同型
(
)∨
/
/
∼
K × (K × )n −→ K × (K × )n , a · (K × )n 7→ ( a, · )n
が引き起こされる.
/
K × (K × )n
(
すると右の可換図式を得る:
≀
/
K × (K × )n
∼
)∨
∼
/ X(K)n
ΨK |n
/ D(K × )n
ただし, 上段と下段の群同型はそれぞれ
/
∼
(n)
K × (K × )n −→ X(K)n , a·(K × )n 7→ χa ,
(
)∨
/
(
/
)
∼
−→ D(K × )n , λ 7→ λ ◦ s
s : K × → K × (K × )n は自然な射影
K × (K × )n
である.
この可換図式から, ΨK n は群同型であるとわかる.
次に, n = p での Hilbert 記号について述べる.
定理 3.5.7. K の標数を 0 とし, ζp ∈ K と仮定する. このとき Hilbert 記号 ( ·, · )p は非退化である.
(i) /
この定理の証明には, 2.8 節で紹介した部分商 VK
(i+1)
VK
を用いる. そのためにまず, 定理 3.5.7
の仮定のもとでのこの部分商の構造を確認する.
以降定理 3.5.7 の証明が終わるまで, K の標数を 0 とし, ζp ∈ K と仮定する. さらに e ∈ N+ を
pe
(p) = peK なるものとし, e˜ := p−1
と定める ( ζp ∈ K により e˜ ∈ N+ である) .
定理 3.5.8. 次の (i)∼(v) が成り立つ:
(−1) / (0)
(0)
(i) Fp → VK
VK , n + pZ 7→ π n ·(K × )p mod VK は群同型.
(0) / (1)
(0)
(1)
(ii) VK VK = {0}, すなわち VK = VK .
(iii) 1 ≤ i < e˜ かつ p - i なる任意の i に対し, ξ ∈ oK を (ξ) = piK なるものとすると
(i) /
κ → VK
(i+1)
VK
(i+1)
p
mod VK
, x 7→ (1 + ξx)·UK
は群同型.
(i)
(i+1)
(iv) 1 ≤ i < e˜ かつ p | i なる任意の i に対し, VK = VK
.
e˜/p
(v) η ∈ oK を (η) = pK なるものとすると
(˜
e)
p
κ/℘(κ) → VK , x + ℘(κ) 7→ (1 + η p x)·UK
(
)
ただし ℘(κ) = {αp − α α ∈ κ}
は群同型.
証明. 2 章定理 2.8.7 と κ = κp , κ× = (κ× )p により明らかである.
次に, Hilbert 記号の定義域を上記の部分商に制限した写像を考える. 定理 3.5.7 の証明は, これら
の写像の非退化性を示すことに帰着される.
59
定理 3.5.9. Hilbert 記号の定義域を制限した写像について, 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) 1 ≤ i < e˜ かつ p - i なる任意の i に対し, 写像
(i)
(˜
e−i) /
( ·, ·)p : VK
(i) /
(˜
e−i+1)
× VK
VK
(˜
e−i+1)
p
(a·UK
mod VK
(i+1)
VK
→
(i+1)
p
, b·UK
mod VK
µp ,
) 7→ ( a, b )p
は well-defined で非退化な双加法的写像である.
(ii) 写像
(˜
e)
(−1)/
( ·, · )p : VK
(0)
(˜
e)
(0)
p
p
VK × VK → µp , (a·UK
mod VK , b·UK
) 7→ ( a, b )p
は well-defined で非退化な双加法的写像である.
証明の前に, 補題を 2 つ用意する:
補題 3.5.10. i, j ≥ −1 を i + j > e˜ なるものとするとき, 任意の x ∈ piK , y ∈ pjK に対して
( 1 + x, 1 + y )p = 1
が成り立つ.
証明. i + j > e˜, x ∈ piK , y ∈ pjK とし, ε := −1/(1 + xy)(1 + x) とおく. このとき簡単な計算により
2
−1
−1
2
−1
( 1 + x, 1 + y)p = ( 1 + xy, −x )−1
p · ( 1 + εx y, −x )p · ( 1 + xy, 1 + y )p · ( 1 + εx y, 1 + y )p
(i+j)
が成り立つが, いま 2 章定理 2.8.5 により UK
p
⊂ UK
となることに注意すると,
(i+j)
1 + xy, 1 + εx2 y ∈ UK
p
⊂ (K × )p
⊂ UK
となるので ( 1 + xy, −x )p = ( 1, −x )p = 1 などが成り立ち, 題意が示される.
e/p−1
補題 3.5.11. θ := ζp − 1 とおいたとき (θ) = pK
( 1 + xθp , b )p = ζpm
であり, 任意の x ∈ oK , b ∈ K × に対し
(
)
m := ν ·Tκ/Fp (x)
が成り立つ. ただし ν ∈ Z は (b) = pνK なるものである.
e/p−1
証明. (θ) = pK
となることは計算により容易に示せる. 後半の主張について.
√
(˜
e)
まず a := 1 + xθ ∈ UK とおくと, 2 章定理 2.9.20 により K( p a)/K は Kummer 拡大となる. さ
√
√
らに β ∈ K を X p − X − x = 0 の根のひとつとしたとき, K( p a) = K(β) が成り立ち, K( p a) の
p
剰余体 κ(β) について κ(β)/κ は Artin-Schreier 拡大となる.
√
ここで, K( p a)/K の拡大次数について場合分けする. 拡大次数は 1 または p である.
√
√
(a) K( p a) = K のとき. このとき p a ∈ K ×, つまり a ∈ (K × )p となり, ( 1 + xθp , b )p = ( 1, b )p =
1 が成り立つ. 一方, いまの場合 β ∈ oK であるから, Tκ/Fp の定義と簡単な計算により
p
p
Tκ/Fp (x) = Tκ/Fp (β − β) = Tκ/Fp (β ) − Tκ/Fp (β) = 0 ∈ Fp
60
が成り立ち, m = ν ·Tκ/Fp (x) = 0 によって ζpm = ζp0 = 1 となる. したがってこの場合, 与式が成り
立つ.
√
√
(b) [K( p a) : K] = p のとき. このとき K( p a) は K のただひとつの p 次不分岐拡大 Kp に一
√
(p)
致する. そこで χa ∈ X(K( p a)/K) を a に関する Kummer 指標とし, q := ♯(κ), σa := σχ(p) ∈
a
√
G(K( p a)/K) = G(Kp /K) とおいて σp ∈ G(Kp /K) を q 乗 Frobenius 写像とする. ここで σa は 2
√
章定義 2.6.9 で述べた G(K( p a)/K) の生成元であり, σp = σaj ( j ∈ N+ ) と表せることに注意して
おく.
いま χp ∈ X(Kp /K) を χp (σp ) =
1
(p)
+Z なるものとして定めると, 先ほどの j について χa = j·χp
p
p·(χ(p)
a , b)K
となる. このとき命題 3.5.2 により ( a, b )p = ζp
であり, invK の性質などから
(
)
(
)
p·( χ(p)
a , b )K = pj ·( χp , b )K = pj ·invK [ χp , b ]K = pj ·invK [b, Kp /K, σp ]
( ν
)
= p· j · + Z = j ·ν + pZ
(ただし ν ∈ Z は (b) = pνK なるもの)
p
√
が成り立つ. 一方 K( p a) = Kp の剰余体 κ(β) について, ωx ∈ X(κ(β)/κ) を x に関する ArtinSchreier 指標とすると, 2 章定理 2.9.20 により
(p)
χa = ωx ◦ rKp /K
(ただし, rKp /K : G(Kp /K) → G(κ(β)/κ) は 2 章定理 2.9.10 による群同型)
となることがわかる. よって
(p)
ωx (σ p ) = (ωx ◦ rKp /K )(σp ) = χa (σp ) = j ·χp (σp ) =
j
+Z
p
となるので,
(p)
p·( χa , b )K = j ·ν + pZ = ν · p · ωx (σ p )
が成り立つ. そこでこの右辺を計算する. いま σ p (β) = β + i ( 1 ≤ i ≤ p − 1 ) と表したとき
(
i
ωx )(σ p ) = + Z であり, n := [κ : Fp ], つまり q = pn と定めておくと
p
q
i = σ p (β) − β = β − β
p
n−1
= (β − β)p
= xp
n−1
n−2
+ xp
p
+ (β − β)p
n−2
p
+ · · · + (β − β)
+ · · · + x = Tκ/Fp (x)
が成り立つので,
ν · p · ωx (σ p ) = ν · (i + pZ) = ν ·Tκ/Fp (x)
p·(χ(p)
a , b)K
となる. 以上より ( 1 + xθp , b )p = ( a, b )p = ζp
ν·Tκ/Fp (x)
= ζp
が成り立つ.
定理 3.5.9 の証明. (i) well-defined 性は補題 3.5.10 を用いれば示すことができ, また双加法性は明
らかである. 非退化性を示す.
いま次の図式を考えると, これは可換図式となることが計算によって示せる:
( ·,· )(i)
p
(˜
e−i) / (˜
e−i+1)
(i) / (i+1)
/ µp
VK
VK
× VK VK
O
O
O
≀
κ
≀
≀
×
Bi
κ
61
/ Fp
ただし,
・ 左側の縦の群同型は定理 3.5.8 によるもの,
∼
・ 右側の縦の群同型は Fp −→ µp , m + pZ 7→ ζpm なるもの,
・ Bi : κ × κ → Fp は Bi (x, y) := −i·Tκ/Fp (xy) によって定まる双加法的写像.
(i)
するといま Tκ/Fp の性質より Bi は非退化だから, 図式の可換性により ( ·, · )p も非退化であるこ
とがわかる.
(ii) well-defined 性は補題 3.5.11 によりわかり, 双加法性は明らかである. 非退化性について.
今度は次の可換図式を用いる:
e)
( ·,· )(˜
p
(−1) / (0)
/ µp
VK
VK × VK(˜e)
O
O
O
≀
Fp
≀
≀
×
Be˜
κ/℘(κ)
/ Fp
ただし,
・ 左側の縦の群同型は定理 3.5.8 によるもの,
∼
・ 右側の縦の群同型は Fp −→ µp , m + pZ 7→ ζpm なるもの,
(
)
・ Be˜ : Fp × κ/℘(κ) → Fp は Be˜ m + pZ , x + ℘(κ) := m·Tκ/Fp (x) によって定まる well-defined
な双加法的写像.
(˜
e)
するといま Tκ/Fp の性質より Be˜ は非退化だから, 図式の可換性により ( ·, · )p も非退化である
ことがわかる.
これらの準備のもと, n = p における Hilbert 記号の非退化性を示す.
定理 3.5.7 の証明. 片側の非退化性を示せば十分である. いま任意の a ∈ K × をとり, ( a, b )p =
/
1 ( ∀ b ∈ K ×) と仮定する. a·(K × )p = 1·(K × )p ∈ K × (K × )p を示せばよい.
はじめに, (·, ·)p の非退化性により a·(K × )p ∈ VK , つまり c ∈ UK があって a·(K × ) = c·(K × )p
(0)
(˜
e)
となる. このとき
p
c·UK
∈
(i)
VK
(1 ≤ i ≤ e˜) が成り立つことを i について帰納的に示す.
まず i = 1 については, 定理 3.5.8(ii) により従う. 次に i での成立を仮定し, i + 1 のときを考え
(i)
(i+1)
る. p | i のときは, 定理 3.5.8(iv) により VK = VK
(˜
e−i)
( ·, · )p
(i+1)
p
∈ VK
だから c·UK
(i+1)
p
は,
の非退化性により c·UK
∈ VK
となる.
(˜
e)
p
この議論を続けると, c·UK ∈ VK となることがわかる.
p
p
p
c·UK
= 1·UK
, つまり c ∈ UK
が成り立つ.
× p
× p
× p
となる. p - i のとき
(˜
e)
すると今度は ( ·, · )p の非退化性により,
以上より a·(K ) = c·(K ) = 1·(K ) となり, Hilbert 記号 ( ·, · )p は非退化である.
系 3.5.12. K の標数を 0 とし, ζp ∈ K と仮定する. このとき定理 3.1.7 での写像 ΨK : X(K) →
(K × )∨ を制限した写像
ΨK p : X(K)p → D(K × )∨
p
は群同型である.
証明. 系 3.5.6 と同様に示せる.
62
次に, K の標数が p かつ n = p であるときに Hilbert 記号の代わりとなるものを定義する.
定義 3.5.13. K の標数を p とし, ωb ∈ X(K) を b ∈ K に関する Artin-Schreier 指標とする (2 章
定義 2.6.13 参照) .
/
/
このときに写像 [ ·, · ) : K ℘(K) × K × (K × )p → Q/Z を
[ b + ℘(K), c·(K × )p ) := invK ([ ωb , c ]K )
と定めると, これは b ∈ K, c ∈ K × のとり方によらずに決まる双加法的写像である.
以降, [ b + ℘(K), c·(K × )p ) を単に [ b, c ) と表すことにする.
命題 3.5.14. 記号 [ · , · ) は次の (i)∼(iii) をみたす:
(i) [ ab, c ) = [ a, c ) + [ b, c ).
(ii) [ a, bc ) = [ a, b ) + [ a, c ).
(iii) [ a, −a ) = [ a, a ) = 0.
(ただし a, b, c ∈ K × )
1 /
(※) とくに (i)(ii) より記号 [ · , · ) は双加法的写像であり, [ · , · ) の像は Z Z に含まれることがわ
p
かる.
証明. 2 章命題 2.6.10 (i)(ii), 2 章命題 2.6.14 を用いれば容易に示せる.
Hilbert 記号と同様に, この写像の非退化性を示すことが次の目標である.
定理 3.5.15. 写像 [ ·, · ) は非退化である.
(i) /
この定理の証明には, 先ほどと同様に 2.8 節で紹介した部分商 VK
(i+1)
VK
を用いるが, いまの場
合はさらに微分加群を用いた計算も行う. まずは, その微分加群との関係について述べる.
いま K の標数は p なので, 以降定理 3.5.15 の証明の終わりまで K = Fq ((T )) としておく. この
とき K の Fq -微分加群 ΩK/Fq は δK/Fq (T ) を K 上の底にもつ 1 次元 K-ベクトル空間で, 2 章命題
2.10.19 により
δK/Fq
(∑
) ∑
ai T i =
iai T i−1 · δK/Fq (T )
i
i
が成り立つことに注意する.
以降, 標準的 Fq -導分 δK/Fq による f ∈ K の像について df := δK/Fq (f ) と定める.
命題 3.5.16. 2 つの写像
dlog : K × → ΩK/Fq , f 7→ f −1 · df
∑
Res : ΩK/Fq → Fq ,
ai T i · dT 7→ a−1
i
について, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(ii) Res は Fq -線形写像である.
∑
(iii) K の任意の素元 π ∈ K と任意の f = ai π i ∈ K ( π 進展開による表示) に対し,
(i) dlog は群準同型である.
i
(∑
)
(
)
Res f ·dlog(π) = Res
ai π i ·dlog(π) = a0 .
i
63
証明. (i)(ii) は容易に示せる. (iii) については, 証明の前にまず次の 2 つの等式を示す:
∑
∑
(a) K の任意の素元 π に対し, d( ai π i ) =
iai π i−1 · dπ .
i
i
(b) 任意の f ∈ K に対し, Res(df ) = 0 .
((a) について)
まず K の π 進展開による表示を用いて,
D : K → ΩK/Fq ,
∑
ai π i 7→
i
∑
iai π i−1 · dπ
i
と定めると, これは Fq -導分となる. よって 2 章定理 2.10.3 により K-線形写像 h : ΩK/Fq → ΩK/Fq
があって D = h ◦ d が成り立つ. すると dπ は ΩK/Fq の底でありこの h は h(dπ) = dπ をみたすの
で, h = id となり与式が成り立つ.
((b) について)
(∑
)
∑
これは, f =
ai T i ∈ K と表したとき Res(df ) = Res
iai T i−1 ·dT = 0·a0 = 0 となること
i
から従う.
i
さて, これらを用いて (iii) を示す. f ∈ oK のときは明らかなので, f ∈
/ oK とする.
∞
∑
i
いま f =
ai π ∈ K (N ∈ N+ ) と表すと
i=−N
∞
(∑
)
(
)
Res f ·dlog(π) = Res
ai π i−1 ·dπ
i=−N
= Res
−1
(∑
ai π
i−1
)
·dπ + Res(a0 π
−1
·dπ) + Res
∞
(∑
ai π i−1 ·dπ
)
i=1
i=−N
))
( (∑ 1
))
1
·ai π i + a0 ·Res(π −1 ·dπ) + Res d
·ai π i
i
i
i=1
i=−N
(
)
..
= a0 ·Res(π −1 ·dπ) . 上で述べた等式 (b)
( (
= Res d
∞
−1
∑
となるので, あとは Res(π −1 ·dπ) = 1 を示せばよい.
∞
∑
−2
いま π = u·T (u ∈ UK ), u =
bj T j (b0 ̸= 0) と表しておくと, u−1 = b−1
0 − b0 b1 T + · · · とな
j=0
るので
π −1 ·dπ = u−1 T −1 ·
∞
∞
∑
∑
−2
(j + 1)bj T j ·dT = (b−1
−
b
b
T
+
·
·
·
)
·
(j + 1)bj T j−1 ·dT
1
0
0
j=0
j=0
が成り立ち, Res の定義により Res(π −1 ·dπ) = b−1
0 ·b0 = 1 となる.
(
)
以上により Res f ·dlog(π) = a0 ·1 = a0 が成り立つ.
定理 3.5.17. 任意の f, ∈ K, g ∈ K × に対して
(
)
[ f, g ) = [ Res f ·dlog(g) , T )
が成り立つ.
64
−1
∑
証明. まず f =
ai T i + f0 ( ただし N ∈ N+ , ai ∈ Fq , f0 ∈ Fq [[t]] ), g = u · T m ( ただし
i=−N
m ∈ Z, u ∈ UK ) と表すと
[ f, g ) =
−1
∑
[ a i T i , g ) + [ f0 , g )
i=−N
=
−1
∑
−1
∑
[ ai T i , T m−1 ) +
i=−N
[ ai T i , u·T ) + [ f0 , T m−1 ) + [ f0 , u·T )
i=−N
−1
−1
∑
∑
(
)
(
)
(
)
[ Res f ·dlog(g) , T ) =
[ Res ai T i ·dlog(T m−1 ) , T ) +
[ Res ai T i ·dlog(u·T ) , T )
i=−N
i=−N
(
)
(
)
+[ Res f0 ·dlog(T m−1 ) , T ) + [ Res f0 ·dlog(u·T ) , T )
となるので, 各項ごとに等しいことを示せばよい.
(第 1 項について)
(
)
−N ≤ i ≤ −1 のとき Res ai T i ·dlog(T m−1 ) = 0 だから,
−1
∑
(
)
[ Res ai T i ·dlog(T m−1 ) , T ) = 0
i=−N
となる. そこで [ ai T i , T m−1 ) = (m − 1) · [ ai T i , T ) = 0 を示す. いま ai = 0 なら [ ai T i , T m−1 ) = 0
となるので, ai ̸= 0 なる i についてのみ調べる.
まず, p - i と仮定する. このとき命題 3.5.14 (iii) により
i·[ ai T i , T ) = [ ai T i , T i ) = [ ai T i , ai T i ) − [ ai T i , ai ) = −[ ai T i , ai )
/ × p
× p
× p
× p
×
× p
(K ) であり,
となるが, いま ai ∈ F×
q = (Fq ) ⊂ (K ) だから ai ·(K ) = 1·(K ) ∈ K
i·[ ai T i , T ) = −[ ai T i , ai ) = −[ ai T i , 1 ) = 0
となる. よって p - i により [ ai T i , T ) = 0 が成り立つ.
× p
次に p | i と仮定する. いま i = pν ·j ( ν ≥ 1, p - j ) と表しておくと, ai ∈ F×
により
q = (Fq )
ν
ν
ai = bp (b ∈ Fq ) と表せる. このとき
ν
ν
ai T i = (bT j )p = (bT j )p − (bT j )p
j p2
ν−1
+ (bT j )p
ν−1
− (bT j )p
+(bT ) − (bT ) + (bT ) − bT + bT
s
j p
と式変形できるが, いま (bT j )p − (bT j )p
s−1
j p
j
ν−2
+ ···
j
∈ ℘(K) (s = 1, · · · , ν) であるから
ai T i + ℘(K) = bT j + ℘(K) ∈ K/℘(K)
となる. よって p - i の場合に示したことにより [ ai T i , T ) = [ bT j , T ) = 0 が成り立つ.
以上により
−1
∑
i=−N
[ ai T i , T m−1 ) = 0 =
−1
∑
(
)
[ Res ai T i ·dlog(T m−1 ) , T ) となり, 第 1 項は等しい
i=−N
ことがわかる.
65
(第 2 項について)
これは, 第 1 項と同様の議論で
−1
∑
−1
∑
[ ai T i , u·T ) = 0 =
i=−N
(
)
[ Res ai T i ·dlog(u·T ) , T ) となる
i=−N
ことが示せる.
(第 3 項について)
∞
∑
まず f0 =
ai T i ∈ Fq [[T ]] と表しておくと, 命題 3.5.16 (iii) により
i=0
(∑
(
)
)
[ Res f0 ·dlog(T m−1 ) , T ) = (m − 1) · [ Res
ai T i ·dlog(T ) , T ) = (m − 1) · [ a0 , T )
となる. 一方で, Hensel の補題 ( 1 章定理 1.1.7) を用いると T ·Fq [[T ]] ⊂ ℘(K) となることがわかる
ので, f0 − a0 ∈ ℘(K) が成り立つ. すると
(
)
[ f0 , T m−1 ) = [ a0 , T m−1 ) = (m − 1) · [ a0 , T ) = [ Res f0 ·dlog(T m−1 ) , T )
が成り立つ.
(第 4 項について)
(
)
これは, π := uT とおくことにより第 3 項と同様に [ f0 , u·T ) = [Res f0 ·dlog(u·T ) , T ) が示
せる.
(
)
以上の議論により [ f, g ) = [ Res f ·dlog(g) , T ) が成り立つ.
この定理を用いると, 次の定理が得られる:
定理 3.5.18. 任意の f, ∈ K, g ∈ K × に対して
(
(
))
p·[ f, g ) = Tκ/Fp Res f ·dlog(g)
が成り立つ.
(
)
証明. まず b := Res f ·dlog(g) とおき, ωb ∈ X(K) を b に関する Artin-Schreier 指標とする. この
とき定理 3.5.17 により
(
)
p·[ f, g ) = p·[ b, T ) = p·invK [ ωb , T ]K
(
))
(
が成り立つので, この右辺が Tκ/Fp Res f ·dlog(g) に等しいことをいう.
いま b ∈ Fq ⊂ Fq [[T ]] = oK であるから, β ∈ K を X p − X − b の根のひとつとして L := K(β)
と定めると, 2 章定理 2.9.21 により L/K は不分岐拡大である. よって m := [L : K] ∈ {1, p} とおく
(
)
と, 局所体の不分岐拡大の一意性 定理 3.1.1 (ii) により L = Km となる. そこで, m の条件で場合
を分ける.
(a) m = 1 のとき. このとき L = K だから b ∈ ℘(K) となり, [ f, g ) = [ b, T ) = 0 が成り立つ. 一
方, b ∈ oK により β ∈ oK で,
p
p
Tκ/Fp (b) = Tκ/Fp (β − β) = Tκ/Fp (β ) − Tκ/Fp (β) = 0
となる. これらにより p·[ f, g ) = 0 = Tκ/Fp (b) が成り立つ.
(b) m = p のとき. σp を q 乗 Frobenius 写像 (定理 3.1.1 参照) とし, χp ∈ X(Kp /K) を χp (σp ) =
1
+ Z なるものとして定める. このとき G(Kp /K) の生成元 σb := σωb を用いて σp = σbj と表すこ
p
とができ, この j について ωb = j ·χp となることがわかる. すると, 命題 3.1.4 により
66
(
)
(
)
(
) j
invK [ ωb , T ]K = j ·invK [ χp , T ]K = j ·invK [ T, Kp /K, σp ] = + Z
p
が成り立つ. 一方, σp = σbj と σb (β) = β + 1 に注意すると σp (β) = β + j が成り立つので,
σ p ∈ G(κ(ζ qp −1 /κ) の性質により
q
j = σ p (β) − β = β − β
p
= (β − β)p
n−1
n−2
p
+ · · · + (β − β)p
(ただし q = pn )
= Tκ/Fp (b)
となる. よって
p
+ (β − β)p
(
)
p·[ f, g ) = p·invK [ ωb , T ]K = j + pZ = Tκ/Fp (b)
が成り立つ.
(i) /
さて次に, 部分商 VK
(i+1)
VK
/ −i+1
/
の構造を確認し, 群 p−i
, oK ℘(oK ) := {ap − a ∈ oK a ∈
K pK
oK } について述べる.
定理 3.5.19. 次の (i)∼(vi) が成り立つ:
(−1) / (0)
(0)
(i) Fp → VK
VK , n + pZ 7→ T n ·(K × )p mod VK は群同型.
(0) / (1)
(0)
(1)
(ii) VK VK = {0}, すなわち VK = VK .
(iii) p - i なる任意の i ∈ N+ に対し, ξ ∈ oK を (ξ) = piK なるものとすると
(i) /
κ → VK
(i+1)
VK
(i+1)
p
mod VK
, x 7→ (1 + ξx)·UK
は群同型.
(i) / (i+1)
(i)
(i+1)
(iv) p | i なる任意の i ∈ N+ に対し VK VK
= {0}, すなわち VK = VK
.
/
−i+1
(v) 任意の i ∈ N0 に対し κ → p−i
, x 7→ x·T −i mod p−i+1
は群同型.
K
K pK
/
(vi) oK ℘(oK ) → κ/℘(κ) , x mod ℘(oK ) 7→ x mod ℘(κ) は群同型.
証明. (i)∼(iv) は 2 章定理 2.8.7 と κ = κp , κ× = (κ× )p により明らかである. (v) は容易に示せる.
(vi) は全射群準同型であることが容易にわかり, 単射性も Hensel の補題 (1 章定理 1.1.7) を用いて
示すことができる.
(i) /
ここから, 記号 [ ·, · ) の定義域を部分商 VK
(i+1)
VK
に制限した写像を考える. 定理 3.5.15 の証明
は, これらの写像の非退化性を示すことに帰着される.
定理 3.5.20. 記号 [ ·, · ) の定義域を制限した写像について, 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) 写像
/
(−1) / (0)
(0)
[ ·, · )(−1) : oK ℘(oK ) × VK
VK → Q/Z , (f mod ℘(oK ), g·(K × )p mod VK ) 7→ [ f, g )
は well-defined で非退化な双加法的写像である.
67
(ii) 任意の i ∈ N+ に対し, p - i ならば
/ −i+1
(i) / (i+1)
(i+1)
p
[ ·, · )(i) : p−i
× VK VK
→ Q/Z , (f mod p−i+1
, g·UK
mod VK
) 7→ [ f, g )
K pK
K
は well-defined で非退化な双加法的写像である.
定理を証明する前に, 補題を 3 つ用意する:
補題 3.5.21. 任意の f ∈ oK = Fq [[T ]], g ∈ K × に対し,
p·[ f, g ) = m·Tκ/Fp (f )
(
)
ただし m ∈ Z は (g) = pm
K なるもの
が成り立つ.
証明. 任意の f =
∑
ai T i ∈ oK , g ∈ K × をとり, g = T m ·g0 ( m ∈ Z, g0 ∈ UK ) と表す. このとき
i
dlog(g) = dlog(T m ) + dlog(g0 ) = mT −1 ·dT + dlog(g0 ) が成り立つので,
(
)
(
)
Res f ·dlog(g) = Res(mT −1 f ·dT ) + Res f ·dlog(g0 ) = m·a0 + 0 = m·a0
となる. よって定理 3.5.18 により
(
(
))
p·[ f, g ) = Tκ/Fp Res f ·dlog(g) = Tκ/Fp (m·a0 ) = m·Tκ/Fp (f )
が成り立つ.
補題 3.5.22. 任意の i, j ∈ N+ , f ∈ p−i
K , g ∈ UK に対し, i < j ならば [ f, g ) = 0 が成り立つ.
(j)
証明. f = T −i ·f0 , g = 1 + T j ·g0 ( f0 , g0 ∈ UK ) と表すと, dlog(g) = g −1 ·dg = g −1 ·(jT j−1 g0 ·
dT + T j ·dg0 ) となるので
f ·dlog(g) = f0 ·g −1 ·(jT j−i−1 g0 ·dT + T j−i ·dg0 )
が成り立つ. すると f0 g −1 , T j−i−1 ·g0 , T j−i ∈ oK = Fq [[T ]], dg0 ∈ Fq [[T ]]·dT であるから
(
)
Res f ·dlog(g) = 0 となる.
(
(
)
よって定理 3.5.18 により [ f, g ) = Tκ/Fp Res f ·dlog(g) = 0 が成り立つ.
補題 3.5.23. p - i なる任意の i ∈ N+ と任意の a, b ∈ Fq ⊂ oK に対し,
[ aT −i , 1 + bT i ) = i·Tκ/Fp (ab)
が成り立つ.
証明. まず 1 + bT i ∈ UK であるから (1 + bT i )−1 = 1 + T ·f0 ( f0 ∈ UK ) と表すことができる. こ
(i)
のとき
(
)
(
)
Res aT −i ·dlog(1 + bT i ) = Res (1 + T ·f0 )·i·abT −1 ·dT = i·ab
(
)
(
となるから, 定理 3.5.18 により [ f, g ) = Tκ/Fp Res f ·dlog(g) = i·Tκ/Fp (ab) が成り立つ.
68
定理 3.5.20 の証明. (i) well-defined 性は Tκ/Fp (℘(κ)) = {0} と補題 3.5.21 を用いて容易に示すこ
とができる. 非退化性について. いま, 次の図式を考えると, これは可換図式となることが補題 3.5.21
によって示せる:
/
/
oK ℘(oK ) × VK(−1) VK(0)
O
O
≀
[ ·,· )(−1)
/
/ 1Z Z
p O
1
×p
≀
×
κ/℘(κ)
B−1
Fp
/ Fp
ただし,
・ 左側の縦の群同型は定理 3.5.19 によるもの,
・ B−1 : κ/℘(κ) × Fp → Fp は B−1 (f + ℘(κ) , m + pZ) := m·Tκ/Fp (f ) によって定まる双加法
的写像.
するといま Tκ/Fp の性質より B−1 は非退化だから, 図式の可換性により [ ·, · )(−1) も非退化であ
ることがわかる.
(ii) well-defined 性は補題 3.5.22 を用いて容易に示すことができる. 非退化性について. 今度は次
の図式を考えると, これも可換図式となることが補題 3.5.23 によって示せる:
/ −i+1
/
p−i
× VK(i) VK(i+1)
K pK
O
O
≀
κ
[ ·,· )(i)
1
×p
≀
×
/
/ 1Z Z
p O
Bi
κ
/ Fp
ただし,
・ 左側の縦の群同型は定理 3.5.19 によるもの,
・ Bi : κ × κ → Fp は Bi (f , g) := i·Tκ/Fp (f g) によって定まる双加法的写像.
するといま Tκ/Fp の性質より Bi は非退化だから, 図式の可換性により [ ·, · )(i) も非退化であるこ
とがわかる.
定理 3.5.15 の証明. はじめに任意の f ∈ K をとり, [ f, g ) = 0 ( ∀g ∈ K × ) と仮定する. f ∈ ℘(K)
であることを示す.
まず f ∈ oK となることをいう. いまもし f ∈
/ oK であるとすると, (f ) = p−i
K ( i ∈ N+ ) と表せる.
このとき [ ·, · )(i) の非退化性により f ∈ p−i+1
となってしまうが, これは i の定め方に反する. よっ
K
て f ∈ oK となる. すると今度は [ ·, · )(−1) の非退化性により f ∈ ℘(oK ) ⊂ ℘(K) が成り立つ.
次に任意の g ∈ K × をとり, [ f, g ) = 0 ( ∀f ∈ K ) と仮定する. g ∈ (K × )p であることを示す.
いまもし g ∈
/ (K × )p であるとすると, dlog(g) = g −1 · dg ̸= 0 となるので, h ∈ K × があって
dlog(g) = h·dT が成り立つ. ここで a ∈ Fq を Tκ/Fp (a) = 1 + pZ なるものとすると,
(
)
Res a(T ·h)−1 ·dlog(g) = Res(aT −1 ·dT ) = a と定理 3.5.18 により
0 + Z = [ a(T ·h)−1 , g ) =
(
(
)) 1
1
1
·Tκ/Fp Res a(T ·h)−1 ·dlog(g) = ·Tκ/Fp (a) = + Z
p
p
p
となるが, これは矛盾である. よって g ∈ (K × )p が成り立つ.
以上により [ ·, · ) は非退化である.
69
系 3.5.24. K の標数を p とするとき, 定理 3.1.7 での写像 ΨK : X(K) → (K × )∨ を制限した写像
ΨK p : X(K)p → D(K × )∨
p
は群同型である.
証明. まず [ ·, · ) の非退化性と 2 章定理 2.5.5 により群同型
)∨
(
/
/
∼
K ℘(K) −→ K × (K × )p , b + ℘(K) 7→ [ b, · )
が引き起こされる.
(
すると右の可換図式が得られる:
ただし, 上段と下段の群同型はそれぞれ
/
∼
K ℘(K) −→ X(K)p , b + ℘(K) 7→ ωb ,
(
)∨
/
∼
K × (K × )p
−→ D(K × )p , λ 7→ λ ◦ s
(
/
K ℘(K)
∼
≀
/
K × (K × )p
)∨
∼
/ X(K)p
Ψ K |p
/ D(K × )p
/
)
s : K × → K × (K × )p は自然な射影
(
)∨
/
であるが, 下段の群同型について λ ∈ K × (K × )p
のとき λ ◦ s ∈ D(K × )p であること, とくに
λ ◦ s が連続であることは以下のようにしてわかる:
まず左側の群同型により, f ∈ K があって λ = [ f , · ) と表せる. すると, f ∈ p−i
K となる最小の
i ∈ N0 を i0 としたとき
( (i )
)
(i )
(i )
(λ ◦ s) UK 0 ·⟨ T p ⟩ = λ(VK 0 ) = [ f , VK 0 ) = {0}
が成り立ち, λ ◦ s は連続である.
よってこの可換図式から, ΨK p は群同型となる.
さて, これらの準備のもと写像 ΨK の性質 (定理 3.1.7) を示す. 補題を適宜挿入することで, 証明
を簡単な場合に帰着していく.
定理 3.5.25. (定理 3.1.7) 写像
ΨK : X(K) → (K × )∨ , χ 7→ ( χ, · )K
(相互写像 ρK の双対)
は単射群準同型であり, Im ΨK = Homc (K × , Q/Z) =: D(K × ) が成り立つ.
証明. 証明は 4 段階に分けて行う.
(Step. 1) ここでは, 加法群 X(K), D(K × ) の構造を調べる.
補題 3.5.26. X(K), D(K × ) はねじれ加法群である. したがって
⊕
⊕
X(K) =
X(K){ℓ}, D(K × ) =
D(K × ){ℓ}
ℓ:素数
ℓ:素数
が成り立つ.
証明. まず任意の χ ∈ X(K) をとると, χ の位数は 2 章系 2.6.6 により [Kχ : K] < +∞ と一致
するので, X(K) はねじれ加法群である. 次に D(K × ) について示す. π を K の素元とし, 任意の
λ ∈ D(K × ) をとる. いま
70
m′
+ Z (m, m′ ∈ N+ )
m
と表わせるので, この m を用いると λ(π m ) = 0 である. 一方, λ の連続性よりある i ∈ N+ が存在し
( (i) )
(i)
て λ UK = {0} となる. すると命題 3.3.1 より H := UK ·⟨π m ⟩ ∈ Of (K × ), とくに [K × : H] < +∞
であるとわかり, また H の定め方から λ(H) = {0} となるので, λ は位数有限となる. よって D(K × )
λ(π) =
もねじれ加法群である.
この補題に加え2つの群同型
X(K){ℓ} ≃ lim X(K)ℓn , D(K × ){ℓ} ≃ lim D(K × )ℓn
−→
−→
n
n
を用いると, 写像 ΨK : X(K) → D(K × ) の群同型性を示すには n ∈ N+ と素数 ℓ に関して
ΨK ℓn : X(K)ℓn → D(K × )ℓn
の群同型性を示せばよいことがわかる.
(Step. 2) ここでは, 局所体 K の条件を良いものに帰着することを考える.
補題 3.5.27. ℓ を K の標数と互いに素な素数とし, L := K(ζℓ ) とおく. さらに ι : K × ,→ L× を自
然な包含写像とする. このとき任意の n ∈ N+ に対して
(
)
(
)
∨
NL/K
D(K × )ℓn ⊂ D(L× )ℓn , ι∨ D(L× )ℓn ⊂ D(K × )ℓn
が成り立ち, 次の図式は可換となる:
ResL/K
X(K)ℓn
ΨK |ℓn
D(K × )ℓn
∨
NL/K
/ X(L)ℓn
CorL/K
ΦL |ℓn
/ D(L× )ℓn
ι
∨
/ X(K)ℓn
ΨK |ℓn
/ D(K × )ℓn .
また, とくに ResL/K : X(K)ℓn → X(L)ℓn は単射, ι∨ : D(L× )ℓn → D(K × )ℓn は全射となる.
証明. (前半の主張について)
まず λ ∈ D(K × )ℓn とすると ℓn ·λ = 0 であり, 補題 3.3.3 より NL/K は連続だから
∨
NL/K
(λ) = λ ◦ NL/K ∈ D(L× )
∨
∨
∨
が成り立つ. すると ℓn · NL/K
(λ) = NL/K
(ℓn · λ) = 0 であるから NL/K
(λ) ∈ D(L× )ℓn となり,
(
)
(
)
∨
NL/K
D(K × )ℓn ⊂ D(L× )ℓn が成り立つ. 同様の議論で ι∨ D(L× )ℓn ⊂ D(K × )ℓn も示すことが
できる.
(図式の可換性について)
これは次の等式を示せばよい:
∨
NL/K
◦ ΨK = ΦL ◦ ResL/K ,
ΨK ◦ CorL/K = ι∨ ◦ ΦL .
前者について. いま任意の χ ∈ X(K), α ∈ L× をとると, 命題 3.1.5(ii) の (a) により
(
)
∨
(NL/K
◦ ΨK )(χ)(α) = ΨK (χ) ◦ NL/K (α) = ( χ, NL/K (α) )K = ( ResL/K (χ), α )L
(
)
= ΦL ResL/K (χ) (α) = (ΦL ◦ ResL/K )(χ)(α)
71
∨
となるので NL/K
◦ ΨK = ΦL ◦ ResL/K が成り立つ. 後者についても, 命題 3.1.5(ii) の (b) を用いれ
ば同様の議論で示すことができる.
(ResL/K の単射性について)
任意の χ ∈ X(K)ℓn をとり, ResL/K (χ) = 0 と仮定する. いま χ の位数を ℓm とすると, 2 章定理
2.6.8(ii) により [L : K]·χ = (CorL/K ◦ ResL/K )(χ) = 0 となるので, ℓm | [L : K] が成り立つ. 一方
(
)
L = K(ζℓ ) だから, Galois 理論の一般論より [L : K] = ♯ G(L/K) は ℓ − 1 の約数となる. すると
この2つの関係式より ℓm | (ℓ − 1) となるので, m = 0, すなわち χ の位数は 1 となる. よって χ = 0
が成り立ち, ResL/K は単射である.
(ι∨ の全射性について)
任意の λ ∈ D(K × )ℓn をとる. 先ほど述べたように [L : K] は ℓ − 1 の約数だから, ℓn と [L : K]
は互いに素である. よって s, t ∈ Z があって s·[L : K] + t·ℓn = 1 が成り立つ. このとき
∨
)(sλ)
λ = s·[L : K]·λ + t·ℓn ·λ = [L : K]·sλ = (ι∨ ◦ NL/K
..
( . ℓn ·λ = 0 )
となるので, ι∨ は全射である.
この補題からは, ΦL ℓn が群同型なら ΨK ℓn も群同型となることがわかる. よってはじめから
ζℓ ∈ K であるとして証明を行えばよい.
(Step. 3) ここでは次の (Step. 4) のための準備として, 補題を2つ用意する.
補題 3.5.28. ℓ を K の標数と互いに素な素数とし, ζℓ ∈ K であると仮定する. このとき任意の
n ∈ N+ に対し
δK,ζℓ : X(K)ℓn → Br(K)ℓ , χ 7→ [ χ, ζℓ ]K
と定めると,
×ℓ
ι
δK,ζ
0 −→ X(K)ℓ −→ X(K)ℓn+1 −→ X(K)ℓn −→ℓ Br(K)ℓ
は加法群の完全列となる (ただし ι は包含写像) .
証明. はじめに, χ ∈ X(K)ℓn とすると ℓ · [ χ, ζℓ ]K = [ χ, ζℓℓ ]K = [ χ, 1 ]K = 0 より [ χ, ζℓ ]K ∈
Br(K)ℓ であることに注意する.
さて, 与えられた列が完全であることを示す. 左側の完全性は明らかなので, 右側について示す. ま
ず δK,ζℓ (ℓ·χ) = ℓ·δK,ζℓ (χ) = 0 により, ℓ·X(K)ℓn+1 ⊂ Ker δK,ζℓ が成り立つ.
逆に, 任意の χ ∈ Ker δK,ζℓ をとる. χ = ℓ·χ′ となる χ′ ∈ X(K)ℓn+1 の存在を示せばよい.
いま χ の位数を ℓm とすると, 2 章系 2.6.6 より [Kχ : K] = ℓm が成り立つので Kχ /K は ℓm 次
巡回拡大である. そこでいま, Kχ の拡大体 L で L/K が ℓm+1 次巡回拡大となるものを構成する.
まず χ ∈ Ker δK,ζℓ により 0 = [ χ, ζℓ ]K = [ ζℓ , Kχ /K, σχ ] となるので (σχ については 2 章定義
2.6.9 を参照) , 2 章定理 2.3.3 より ζℓ ∈ NKχ /K (Kχ× ), つまり α ∈ Kχ があって ζℓ = NKχ /K (α) が
成り立つ. すると NKχ /K (αℓ ) = ζℓℓ = 1 であるから, 2 章定理 2.7.9 により
β ∈ Kχ× が存在して αℓ = σχ (β)β −1 , すなわち σχ (β) = αℓ β
√ /
√
となる. このとき ℓ β ̸∈ Kχ で, Kummer 理論より Kχ ( ℓ β) Kχ は ℓ 次巡回拡大となる. ただし,
√
√
ℓ
β ̸∈ Kχ であることは次のようにしてわかる:いまもし ℓ β ∈ Kχ であるとすると,
√
)ℓ
( √
σχ ( ℓ β) = σχ (β) = αℓ β = (α ℓ β)ℓ
72
により, i ∈ N+ があって
√
√
σχ ( ℓ β) = ζℓi ·α ℓ β
となる. この両辺のノルムをとると,
√
√
(左辺):NKχ /K (σχ ( ℓ β)) = NKχ /K ( ℓ β),
√
√
√
√
m
(右辺):NKχ /K (ζℓi ·α ℓ β) = ζℓiℓ ·NKχ /K (α)·NKχ /K ( ℓ β) = ζℓ · NKχ /K ( ℓ β) ̸= NKχ /K ( ℓ β)
√
であるから矛盾が起こる. よって ℓ β ̸∈ Kχ が成り立つ.
√
そこで, L := Kχ ( ℓ β) とおく. このとき L/K は ℓm+1 次巡回拡大であり, とくに G(L/K) の生成
元として σχ を拡張した σ χ ∈ G(L/K) がとれることを示す.
L/K が Galois 拡大であることは容易に示せる. 巡回拡大であることについて.
いま [L : K] = ℓm+1 となることから, G(L/K) の元で位数が ℓm+1 となるものを見つければよ
い. そこで σχ ∈ G(Kχ /K) の L への拡張 σ χ ∈ G(L/K) を考え, これが位数 ℓm+1 の元となること
をいう.
σ χ の位数を ℓi とする. このとき σχ の定め方より i ∈
/ {0, 1, · · · , m − 1} であることがわかるが,
さらに i ̸= m であることを示す.
√
√
√
( √ )ℓ
いま σ χ ( ℓ β) = σχ (β) = αℓ β = (α ℓ β)ℓ により, j ∈ N0 が存在して σ χ ( ℓ β) = ζℓj ·α ℓ β とな
る. すると,
√
√
m √
m
m
m
σ ℓχ ( ℓ β) = σ ℓχ −1 (ζℓj ·α ℓ β) = σχℓ −1 (ζℓj α) · σ ℓχ −2 (ζℓj ·α ℓ β)
) √
( m
m
= · · · = σχℓ −1 (ζℓj α) · σχℓ −2 (ζℓj α) · · · σχ (ζℓj α) · ζℓj α · ℓ β
√
√
j·[K :K]+1 ℓ
= NKχ /K (ζℓj α) · ℓ β = ζℓ χ
· β
√
√
= ζℓ ℓ β ̸= ℓ β
m
となるので, σ ℓχ ̸= id が成り立つ. よって σ χ の位数は ℓm+1 となり, L/K は ℓm+1 次巡回拡大とな
る. そして G(L/K) の生成元として σ χ がとれる.
さてこの準備のもとで, χ = ℓ·χ′ となる χ′ ∈ X(K)ℓn+1 の存在を示す. いま χ′ : G(L/K) → Q/Z
を, G(L/K) の生成元 σ χ を用いて
χ′ (σ iχ ) :=
i
ℓm+1
+Z
と定める ( χ′ ∈ X(L/K) ⊂ X(K) に注意) . このとき任意の i ∈ N0 をとると
i
i
+ Z = ℓ· m+1 + Z = (ℓ·χ′ )(σ iχ )
m
ℓ
ℓ
となるので, χ = ℓ·χ′ が成り立つ. さらに χ のとり方から χ′ ∈ X(K)ℓn+1 となる.
χ(σ iχ ) = χ(σχi ) =
したがって Ker δK,ζℓ ⊂ ℓ·X(K)ℓn+1 も成り立ち, 右側の列も完全である.
補題 3.5.29. K の標数を p とする. このとき任意の n ∈ N+ に対し
×p
ι
0 −→ X(K)p −→ X(K)pn+1 −→ X(K)pn −→ 0
は加法群の完全列となる (ただし, ι は包含写像) .
73
証明. 列の左側の完全性は明らかなので, 右側について示す. p 倍写像の全射性を示せばよい.
任意の χ ∈ X(K)pn をとり, χ の位数を pm とする. このとき 2 章系 2.6.6 より [Kχ : K] = pm
が成り立つので, Kχ /K は pm 次巡回拡大である. そこでいま, 前補題と同様に Kχ の拡大体 L で
L/K が pm+1 次巡回拡大となるものを構成する.
まず, Kχ /K はとくに分離拡大だから, 体の一般論よりトレース写像 TKχ /K : Kχ → K は全射で
ある. よって α ∈ Kχ が存在して TKχ /K (α) = 1 が成り立つ. すると ℘(α) = αp − α について
(
m
)
TKχ /K ℘(α) = TKχ /K (α ) − TKχ /K (α) =
p
p
∑
σχi (αp ) − TKχ /K (α)
i=1
=
pm
(∑
)p
(
)p
σχi (α) − TKχ /K (α) = TKχ /K (α) − TKχ /K (α) = 1 − 1 = 0
i=1
であるから, 2 章定理 2.7.9 より
β ∈ Kχ が存在して ℘(α) = σχ (β) − β, すなわち σχ (β) = ℘(α) + β
となる. このとき γ ∈ K χ を ℘(γ) = β なるものとすると γ ∈
/ Kχ で, Artin-Schreier 理論より
Kχ (γ)/Kχ は p 次巡回拡大となる. ただし, γ ∈
/ Kχ であることは次のようにしてわかる:いまもし
γ ∈ Kχ であるとすると,
(
)p
σχ (γ) − σχ (γ) = σχ (γ p − γ) = σχ (β) = αp − α + β,
すなわち
(
)p (
)
σχ (γ) − α − σχ (γ) − α − β = 0
により, i ∈ N0 があって
σχ (γ) − α = γ + i
となる. この両辺のトレースをとると,
(左辺):TKχ /K (σχ (γ) − α) = TKχ /K (γ) − TKχ /K (α) = TKχ /K (γ) − 1,
(右辺):TKχ /K (γ + i) = TKχ /K (γ) + i·[Kχ : K] = TKχ /K (γ) ̸= TKχ /K (γ) − 1
..
( . [Kχ : K] = pm )
であるから矛盾が起こる. よって γ ∈
/ Kχ が成り立つ.
そこで, L := K(γ) とおく. このとき補題 3.5.28 の証明と同様の議論で, L/K は pm+1 次巡回拡
大であり, とくに G(L/K) の生成元として σχ を拡張した σ χ がとれることがわかる.
この準備のもとで, χ = p·χ′ となる χ′ の存在を示す. いま χ′ : G(L/K) → Q/Z を, G(L/K) の
生成元 σ χ を用いて
χ′ (σ iχ ) :=
i
pm+1
+Z
と定める ( χ′ ∈ X(L/K) ⊂ X(K) に注意) . このとき χ = ℓ·χ′ が成り立ち, さらに χ のとり方から
χ′ ∈ X(K)ℓn+1 となることがわかる. よって p 倍写像 X(K)pn+1 → X(K)pn は全射となるので, 右
側の列も完全である.
74
(Step. 4)
これまでの準備のもと, いよいよ ΨK : X(K) → D(K × ) の群同型性を示す. (Step. 1) により, ℓ
を任意の素数とし,
ΨK ℓn : X(K)ℓn → D(K × )ℓn
が群同型であること示せばよい. ℓ ̸= p のときは系 3.5.6 により群同型とわかるので, ℓ = p のとき
を n ∈ N+ の帰納法で示す. K の標数で場合分けする.
(a) K の標数が 0 のとき.
(Step. 2) により ζp ∈ K としてよい.
・n = 1 のとき. これは系 3.5.12 で示されている.
・n での成立を仮定する. n + 1 のとき. (Step. 3) で示した完全列を用いて, 次の図式を考える:
/ X(K)p
0
Ψ K |p
/ D(K × )p
0
×p
/ X(K)pn+1
ι1
ΨK |pn+1
/ D(K × )pn+1
ι2
/ X(K)pn
ΨK |pn
/ D(K × )pn
×p
δK,ζp
/ Br(K)p
id
/ Br(K)p
η
(
)
(ただし η : D(K × )p → Br(K)p は η(λ) := inv−1
K λ(ζp ) と定めた準同型であり,
ι1 , ι2 は包含写像)
すると, この図式は各行が完全な可換図式であることがわかる.
実際, 可換性は容易に示すことができる. 完全性についても上段は (Step. 3) で示しており, 下段に
..
ついては図式の可換性と ΨK n の群同型性 ( . 帰納法仮定) からいえる.
p
このとき, 帰納法の仮定からこの図式と写像は five lemma ([Kaw] 参照) の仮定をみたすことが
わかる. よって中央の上段から下段への写像 ΨK pn+1 : X(K)pn+1 → D(K × )pn+1 も群同型となり,
n + 1 でも成り立つことがわかる.
したがってこの場合, 任意の n ∈ N+ に対し ΨK pn は群同型である.
(b) K の標数が p のとき.
・n = 1 のとき. これは系 3.5.24 で示されている.
・n での成立を仮定する. n + 1 のとき. (Step. 3) で示した完全列を用いて, 次の図式を考える:
0
0
/ X(K)p
ΨK |p
/ D(K × )p
ι1
ι2
/ X(K)pn+1
×p
ΨK |pn+1
/ D(K × )pn+1
×p
/ X(K)pn
ΨK |pn
/ D(K × )pn
/0
/0
(ただし ι1 , ι2 は包含写像)
すると, (a) での議論と同様にこの図式と写像は five lemma の仮定をみたすので, 写像
ΨK pn+1 : X(K)pn+1 → D(K × )pn+1
も群同型となり, n + 1 でも成り立つことがわかる.
したがってこの場合も, 任意の n ∈ N+ に対し ΨK pn は群同型である.
75
3.6
Galois コホモロジーによる相互写像
この章では, 定義 3.1.6 で述べたものとは異なる方法をとった相互写像の表示を考える. 具体的に
は Galois コホモロジーを用いて定義を行い, それがすでに述べたものと一致することを示す. [Kat]
などでは局所体の相互写像の定義として, ここで述べる Galois コホモロジーによるものを採用して
いる.
この節でのみ, K の標数は 0 とする. この場合 K sep = K であり, 任意の n ∈ N+ に対し ζn ∈ K
となることに注意する.
まず準備として, 補題をいくつか示す.
×
補題 3.6.1. n ∈ N+ とし, G := G(K/K) とおく. このとき K , µn は自然に離散的 G-加群であり,
ι
1 −→ µn −→ K
× n乗
−→ K
×
×
−→ 1 (ただし ι : µn ,→ K は包含写像)
は位相 G-加群の完全列となる. さらに, この完全列によるコホモロジー長完全列をとると, 1 次の連
結準同型 δ : K × = H 0 (K/K, µn ) → H 1 (K/K, µn ) について
δ(a) = [fa ] (∀ a ∈ K × )
(ただし fa : G → µn , σ 7→
√
σ( n a)
√
)
n
a
が成り立つ.
証明. K の標数が 0 であることに注意すると, 列の完全性は明らかである. δ(a) = [fa ] については,
snake lemma による連結準同型の構成方法からわかる.
注 3.6.2. ζn ∈ K と仮定すると, Kummer 指標の定め方により補題 3.6.1 の δ は
(n)
(n·χa
(σ))
δ(a) = [fa : G → µn , σ 7→ ζn
]
(n)
(ただし χa は a に関する Kummer 指標)
をみたすことがわかる.
補題 3.6.3. 補題 3.6.1 の δ は群同型
/
δ : K × (K × )n → H 1 (K/K, µn ) , a·(K × )n 7→ [fa ]
を引き起こす. また
×
ι∗ : H 2 (K/K, µn ) → H 2 (K/K, K ) , [f ] 7→ [ι ◦ f ]
は単射群準同型となる.
証明. まず補題 3.6.1 での完全列を用いると, コホモロジー長完全列
×
(n乗)∗
×
∗
H 0 (K/K, K ) = K × −→ K × −→ H 1 (K/K, µn ) −→
H 1 (K/K, K )
ι
δ
×
(n乗)∗
δ
ι
×
∗
−→ H 1 (K/K, K ) −→ H 2 (K/K, µn ) −→
H 2 (K/K, K )
が得られる. するといま 2 章定理 2.7.8 (Hibert の定理 90) と 2 章系 2.7.11 により
×
H 1 (K/K, K ) ≃ lim H 1 (L/K, L× ) = 0
−→
L
/ × n
×
となるから, 列の完全性により群同型 δ : K (K ) → H 1 (K/K, µn ) が引き起こされ,
×
ι∗ : H 2 (K/K, µn ) → H 2 (K/K, K ) は単射群準同型となることがわかる.
76
:完全
補題 3.6.4. 写像 ⟨ ·, · ⟩ : µn × Z/nZ → µn を
⟨ α, m ⟩ := α−m
と定めると, これは G-双加法的である. したがってカップ積 (2 章定義 2.7.13)
∪ : H 1 (K/K, µn ) × H 1 (K/K, Z/nZ) → H 2 (K/K, µn )
が引き起こされる.
証明. 容易に示せる.
さてこの準備のもと, 相互写像の構成に用いる双加法的写像を構成する.
定義 3.6.5. n ∈ N+ に対し cn : X(K)n → H 1 (K/K, Z/nZ) , χ 7→ [n·χ] と定め, 双加法的写像
⟨ ·, · ⟩n を
/
δ×c
⟨ ·, · ⟩n : K × (K × )n × X(K)n −→n H 1 (K/K, µn ) × H 1 (K/K, Z/nZ)
∪
ι∗
×
∼
−→ H 2 (K/K, µn ) ,→ H 2 (K/K, K ) −→ Br(K)
invK
−→ Q/Z
と定める. また, この写像が引き起こす群準同型
/
× n
× n
gn : K × (K × )n → X(K)∨
n , a·(K ) 7→ ⟨a·(K ) , · ⟩n
の n ∈ N+ に関する射影的極限をとったものを
(
)
(
)∨
/
g : lim K × (K × )n → lim X(K)∨
≃
lim
X(K)
≃ X(K)∨ ≃ G(K ab /K)
n
n
←−
←−
−→
n
n
n
とおく.
ただし N+ の順序は 2 章例 2.4.8 によるものであり, この順序で n ≺ m のときに
/
/
fn,m : K × (K × )m → K × (K × )n , a·(K × )m 7→ a·(K × )n ,
ιn,m : X(K)n ,→ X(K)m
(包含写像)
/
∨
とすると {K × (K × )n , fn,m }, {X(K)∨
n , ιn,m } はともに射影系となっていることに注意する.
(
)
/
この群準同型 g : lim K × (K × )n → G(K ab /K) を用いて, 相互写像の別の表示を与えるのが
←−
次の定理である:
n
(
)
/
(
)
定理 3.6.6. 上記の g と群準同型 s : K × → lim K × (K × )n , a 7→ a·(K × )n n∈N との
+
←−
n
合成写像 ρ′K := g ◦ s : K × → G(K ab /K) は, 相互写像 ρK と一致する.
定理を証明する前にまず, 定義 3.6.5 での双加法的写像に関する補題を示す. この補題が定理の本
質的な部分である:
/
補題 3.6.7. 双加法的写像 ⟨ ·, · ⟩n : K × (K × )n × X(K)n → Q/Z について, 任意の a ∈ K × , χ ∈
X(K)n に対し
⟨ a·(K × )n , χ ⟩n = ( χ, a )K
(
)
ただし ( ·, · )K : X(K) × K × → Q/Z は基本双対写像
が成り立つ.
77
2
証明. まず与式の両辺をそれぞれ inv−1
K で写し, さらに Br(K) ≃ H (K/K, µn ) による同型対応を
考えると, 2 章定理 2.7.12 により
(
)
×
× n
2
Br(K) ∋ inv−1
K ⟨ a·(K ) , χ ⟩n 7→ [fa ∪ (n·χ)] ∈ H (K/K, K ),
Br(K) ∋ inv−1
K (( χ, a )K )
×
= [ χ, a ]K = [a, Kχ /K, σχ ] 7→ [λ] ∈ H 2 (Kχ /K, Kχ× ) ⊂ H 2 (K/K, K ) ,
(
ただし, λ : G(Kχ /K) × G(Kχ /K) → Kχ× , (σχi , σχj ) 7→ a(⌊
i+j
j
i
m ⌋−⌊ m ⌋−⌊ m ⌋)
, m := [Kχ : K]
)
となるので, この右辺について [fa ∪ (n·χ)] = [λ] が成り立つことを示せばよい. いま χ ∈ X(K)n で
あるから n = mn′ (n′ ∈ N+ ) と表しておく.
j
i
まず ⌊ i+j
m ⌋ − ⌊ m ⌋ − ⌊ m ⌋ ∈ Z については, 次の議論により別の表示が与えられる:
いま, 自明な G(Kχ /K)-加群からなる完全列
0 −→ Z −→ Q −→ Q/Z −→ 0
によるコホモロジー長完全列を考える. この長完全列での 2 次の連結準同型
δ ′ : X(Kχ /K) = H 1 (Kχ /K, Q/Z) → H 2 (Kχ /K, Z)
を用いると, 写像 f : G(Kχ /K) × G(Kχ /K) → Z を δ ′ (χ) = [f ] ∈ H 2 (Kχ /K, Z) なるものとした
とき
j
i
1
i
j
⌊ i+j
m ⌋ − ⌊ m ⌋ − ⌊ m ⌋ = − m f (χ)(σχ , σχ )
が成り立つ. 実際, 任意の χ ∈ X(Kχ /K) をとったとき写像
χ : G(Kχ /K) → Q を
χ(σ) mod Z = χ(σ) ∈ Q/Z
(
)
∀ σ ∈ G(Kχ /K)
なるものとすると, δ ′ の構成方法より
f (χ)(σχi , σχj ) = χ(σχi+j ) − χ(σχi ) − χ(σχj ) ∈ Z
となる. すると i + j ≤ m − 1 のときは
j
i
⌊ i+j
m ⌋ − ⌊ m ⌋ − ⌊ m ⌋ = 0 − 0 − 0 = 0,
χ(σχi+j ) − χ(σχi ) − χ(σχj ) = i + j − i − j = 0
により等式が成り立ち, i + j ≥ m のときは
j
i
⌊ i+j
m ⌋ − ⌊ m ⌋ − ⌊ m ⌋ = 1 − 0 − 0 = 1,
χ(σχi+j ) − χ(σχi ) − χ(σχj ) = (i + j − m) − i − j = −m
により等式が成り立つ.
さて, 任意の σ, τ ∈ G(K/K) をとる. このとき i, j ∈ N+ をそれぞれ
σ K = σχi , τ K = σχj ∈ G(Kχ /K)
χ
χ
78
j
+ Z であり,
m
√
√
(
)
⟨
⟩ ⟨ σ( n a) ′
⟩ ( σχi ( n a) )−jn′
√
√
fa ∪ (n·χ) (σ, τ ) = fa (σ), σ·nχ(τ ) =
, n ·j + nZ =
n
n
a
a
√
√
√
√
i m
−j m
j
n′
m
n
= σχ ( a) ·( a) (ただし a := ( a) )
√
√
j
j
= σχi ( m a)−χ(σχ ) ·( m a)χ(σχ ) ,
なるものとしておくと, σχ の定め方より χ(τ ) =
j
i
)(⌊ i+j
( √
i+j
j
i
m ⌋−⌊ m ⌋−⌊ m ⌋)
λ(σ, τ ) = a(⌊ m ⌋−⌊ m ⌋−⌊ m ⌋) = ( m a)m
√
√
√
√
i
j
i+j
i
j
= ( m a)−f (χ)(σχ ,σχ ) = ( m a)−χ(σχ ) ·( m a)χ(σχ ) ·( m a)χ(σχ )
となるので
√
√
√
i+j
i
j
( m a)−χ(σχ ) ·( m a)χ(σχ ) ·( m a)χ(σχ )
λ(σ, τ )
(
)
=
√
√
j
j
χa ∪ (n·χ) (σ, τ )
σχi ( m a)−χ(σχ ) ·( m a)χ(σχ )
√
√
√
j
i+j
i
= σχi ( m a)χ(σχ ) ·( m a)−χ(σχ ) ·( m a)χ(σχ )
(
√
i )
= d1 (g)(σχi , σχj ) ただし g : G(Kχ /K) → Kχ× , σχi 7→ ( m a)χ(σχ )
)
(
×
= d1 (g)(σ, τ ) g を g : G(K/K) → K に拡張
が成り立つ. すると
(
λ
×
) ∈ B 2 (K/K, K )
fa ∪ (n·χ)
となるから, [fa ∪ (n·χ)] = [λ] が成り立つ. したがって求める等式を得る.
定理 3.6.6 の証明. 任意の a ∈ K × , χ ∈ X(K) に対し ρ′K (a)(χ) = (g ◦ s)(a)(χ) = ρK (a)(χ) とな
ることを示せばよい. G(K ab /K) と X(K)∨ を同一視していることに注意する.
いま a ∈ K × とすると, 補題 3.6.7 により
(
)
ρ′K (a) = (g ◦ s)(a) = ⟨ a·(K × )n , · ⟩n n∈N+ ∈ lim X(K)∨
n
←−
(
)
= ( ιn ( · ), a )K n∈N+ (ただし ιn : X(K)n ,→ X(K) は包含写像)
..
∨
= ( ·, a )K
( . lim X(K)∨
n ≃ X(K) による同一視, 2 章定理 2.5.6 を参照)
←−
となる. よって任意の χ ∈ X(K) をとったとき
ρ′K (a)(χ) = ( χ, a )K = ρK (a)(χ)
が成り立つので, ρ′K : K × → G(K ab /K) は相互写像と一致する.
この定理によって得られる相互写像のメリットは, その構成方法が簡潔であるということにある.
直観的に相互写像を理解したい場合は, この ρ′K を定義として採用することが多いようである.
なお, 4.2.1 章で述べる 2 次元局所体での相互写像は, Galois コホモロジーを用いた構成方法を考
える. ここで述べた ρ′K がその際の参考になるだろう.
79
第4章
高次元局所体と
混標数 2 次元局所類体論
この章では高次元局所体の定義とその特徴づけを行い, とくに 2 次元局所体についての局所類体
論の主定理を紹介する. 局所類体論そのものは一般の n 次元局所体について確立されているが, こ
こでは後の応用も考えて 2 次元で取り扱うことにする. 一般の n 次元についての記述は [Z] に記載
されている.
4.1
高次元局所体の定義
定義 4.1.1. 完備離散付値体 K が n 次元局所体であるとは, 次のように帰納的に定義する:
・ n = 0 のとき,0 次元局所体とは有限体のこととする.
・ 一般の自然数 n に対して,K が n 次元局所体であるとはその剰余体が (n − 1) 次元局所体と
なるときにいう (n = 1 の場合が通常の局所体にあたる) .
(※) n 次元局所体 K について, K と K の剰余体 K1 , K1 の剰余体 K2 , · · · , Kn−2 の剰余体 Kn−1
の標数が全て等しいとき, K は等標数であるという. そうでないとき K は混標数であるという.
高次元局所体は, 次のように分類できることが知られている.
定理 4.1.2. (分類定理) n ≥ 2 のとき, n 次元局所体 K について次の (i)∼(iii) のうちどれか一つが
成り立つ:
(i) K は Fq ((T1 ))…((Tn )) と同型である.
(ii) K は k((T1 ))…((Tn−1 )) と同型である (ただし k は Qp の有限次拡大体).
(
(iii) K は k{{T1 }}…{{Ti }}((Ti+2 ))…((Tn )) の有限次拡大体である ただし k は Qp の有限次拡大
)
体で, i は 1≤i≤n − 1 なる自然数, そして n = 2 のときは (( )) の部分を無視して考える . さ
′
らに K の有限次拡大体で k ′ {{T1′ }}…{{Ti′ }}((Ti+2
))…((Tn′ )) の形のものが存在する (ただし
k ′ は k の有限次拡大体).
この節では, 上記の定理に現れる {{ }} について解説する.
以降この節の終わりまで, K を完備離散付値体, φ をその付値とし, oK , pK , κ, π をそれぞれ K
の付値環, 付値イデアル, 剰余体, 素元とする.
80
定理 4.1.3. 集合 K{{T }} を
{ ∑
∞
K{{T }} :=
ai T i
i=−∞
}
ai ∈ K, lim ai = 0, sup φ(ai ) < +∞
i→−∞
i
と定め, この集合に和 + , 積 · を
∞
∑
∞
∑
ai T i +
i=−∞
(ただし c
j
bi T i :=
i=−∞
:=
∞
∑
∞
∑
∞
∑
(ai + bi )·T i ,
i=−∞
aj+i b−i +
i=0
∞
∑
ai T i ·
i=−∞
∞
∑
∞
∑
bi T i :=
i=−∞
cj T j
j=−∞
)
aj−i bi ∈ K, 極限は K の付値に関するもの
i=1
と定める. するとこれらは well-defined であり, この演算で K{{T }} は体となる.
[Z] ではこの事実を述べているのみで, 証明は記載されていない. そこで本稿では, 筆者独自の証
明を与えることにする.
証明. 演算の well-defined 性と K{{T }} が可換環であることは, 容易に示せる. 体であることを示す
ため, 補題を 3 つ用意する:
{ ∑
}
∞
補題 4.1.4. oK {{T }} :=
ai T i ∈ K{{T }} ai ∈ oK
と定めると, これは K{{T }} の部分環
i=−∞
となる.
証明. 部分加法群であることは明らか. また部分環であることも, oK がコンパクトであることを用
いれば容易に示せる.
{
}
補題 4.1.5. oK {{T }} の部分群の族 Vn,m := π n oK {{T }} + T m ·oK [[T ]]
を 0 の近傍基と
n,m∈N+
して, oK {{T }} に位相を定める. このとき, oK {{T }} は Hausdorff 位相環となる.
証明. 位相環であることは容易に示せる. Hausdorff 性について. f ∈ oK {{T }} を f ̸= 0 なるものと
∑
し, f =
ai T i と表しておく. いま φ(ai ) → 0(i → −∞)だから, {i ∈ Z φ(ai ) = max φ(ai )} は
i
i
最小元をもつ. そこで φ(ai ) = max φ(aj ) なる最小の i を i0 とすると, (ai0 ) = pn
K となる n ≥ 0 が
j
存在し, この n について (f + Vn+1,i0 +1 ) ∩ Vn+1,i0 +1 = ∅ が成り立つ. よって f の近傍 f + Vn+1,i0 +1
と 0 の近傍 Vn+1,i0 +1 は共通部分をもたないことがわかり, この位相で oK {{T }} は Hausdorff 位相
環となる.
補題 4.1.6. 補題 4.1.5 による位相のもとで, oK {{T }} の点列 {fn }∞
n=1 について次の (i)(ii) は同値
である:
(i)
∞
∑
fn は oK {{T }} の元に収束する.
n=1
(ii) lim fn = 0.
n→∞
証明. まず補題 4.1.5 により oK {{T }} は Hausdorff 空間であるから, oK {{T }} の点列の収束先は存
在すればただひとつであることに注意しておく.
(i)⇒(ii) 明らかである.
∑ (n) i
(ii)⇒(i) fn =
ai ·T と表しておき, lim fn = 0 と仮定する. このとき位相の定め方から, oK
n→∞
i
{ ∑
}
n
∞
(m)
の点列
ai
は i < 0 なる i ∈ Z に関して一様コーシーの条件をみたすことがわかる.
m=0
n=1
81
{ ∑
}∞
n
(m)
よって完備性より, oK の点列 {αi }i<0 が存在して, i < 0 なる i ∈ Z に関して
ai
は
n=1
m=0
{ ∑
}∞
n
(m)
αi に一様収束する. また i ≥ 0 のときは
ai
はコーシー列となるので, 再び完備性より
各 i について極限 αi :=
で
∞
∑
n=1
m=0
∞
∑
m=0
(m)
ai
∈ oK が存在する. このとき f :=
∑
αi T i とおくと, f ∈ oK {{T }}
i
fn = f が成り立つ.
n=1
さて, これらの準備のもとで K{{T }} が体であることを示す.
∑
任意の f =
ai T i ∈ K{{T }} をとり, f ̸= 0 と仮定する. いま φ(ai ) → 0(i → −∞)により
i
{ i ∈ Z φ(ai ) = max φ(aj ) } は最小元をもつので, それを i0 とすると
j
f = a i0 T i0 (
となる. そこで g :=
∑
i<i0
∑
i−i0
a−1
+1+
i0 ai T
i<i0
ai−1
ai T i−i0
0
i−i0
a−1
) , a−1
i0 a i T
i0 ai ∈ pK
i>i0
∑
+
∑
i>i0
i−i0
a−1
i0 a i T
∈ π · oK {{T }} + T ·oK [[T ]] とおくと,
( h1 ∈ oK {{T }} , h2 ∈ oK [[T ]] )
f = ai0 T i0 (1 + g) , g = π·h1 + t·h2
と表せ, さらに lim (−g)n = 0 が成り立つことがわかる. すると補題 4.1.6 により
h :=
∞
∑
n→∞
(−g) ∈ oK {{T }} が成り立ち,
n
n=0
(1 + g)(1 − g + g 2 − · · · + (−g)n ) = 1 − (−g)n+1
の両辺を n → ∞ とすることにより (1 + g) · h = 1 を得る.
−i0
このとき f = ai0 T i0 (1 + g) は逆元 a−1
·h ∈ K{{T }} をもつので, K{{T }} は体となる.
i0 ·T
定理 4.1.7. これまでの記号のもとで
φ : K{{T }} → R≥0 ,
∑
ai T i 7→ max φ(ai )
i
i
と定めると, これは K{{T }} の付値であり K{{T }} は完備離散付値体となる. さらに付値環は oK {{T }},
素元は π, 剰余体は κ((t)) となる.
証明. いずれも容易に示せる.
注 4.1.8. K = Qp としたとき, 1 + p−1 ·T ∈ Qp {{T }} の逆元は
p·T −1 − p2 ·T −2 + p3 ·T −3 − · · ·
である. これは, Qp ((T )) の元としての逆元 1 − p−1 ·T + p−2 ·T 2 − p−3 ·T 3 + · · · とは異なるもので
ある (後者は Qp {{T }} の元ではない) .
この章の最後に, {{ }} に関する性質を 1 つ述べておく:
命題 4.1.9. K を完備離散付値体とするとき,
Φ : K((Y ))((X)) → K((X)){{Y }} ,
∞ ( ∑
∞
∑
i>−∞
j>−∞
は well-defined で, 付値体としての同型写像となる.
82
)
)
∞ ( ∑
∞
∑
ai,j Y j X i 7→
ai,j X i Y j
j>−∞
i>−∞
混標数 2 次元局所類体論
4.2
この節では混標数 2 次元局所体の局所類体論について, その主定理を述べる. 定理 4.1.2 により混
標数 2 次元局所体は
k{{T }} の有限次拡大体かつ k ′ {{T ′ }} の部分体
(ただし k, k ′ は Qp の有限次拡大体)
となっている. さらに k{{T }} 自身も混標数 2 次元局所体であるが, これについては定理 4.1.7 に
より κ((T )) ( κ は k の剰余体, つまり有限体) を剰余体にもつことがわかっている. そしてこれは
[ κ((T )) : κ((T ))p ] = p (ただし p (> 0) は κ の標数) をみたす剰余体である.
定理 4.2.1. (主定理その 1) K を混標数 2 次元局所体, 剰余体 F の標数は p (> 0) であるとする. そ
して K2 (K) を 2 次 Milnor K-群 (後述の定義 5.1.1 を参照) とする. このとき次の (i)∼(iii) が成り
立つ:
(i) 相互写像と呼ばれる写像 ρK : K2 (K) → G(K ab /K) を構成することができ, この写像は次の
(a)(b) をみたす:
(a) ρK は連続な群準同型. (単射とは限らない)
(
)
(b) ρK K2 (K) は G(K ab /K) の中で稠密.
(※) ただし, K2 (K) には後述の定義 5.4.23 による位相が, G(K ab /K) には Krull 位相が入っ
ているものとする.
(ii) (同型定理) L/K を有限次 Abel 拡大とするとき,(i) の相互写像 ρK は群同型
ρL/K : K2 (K)/NL/K (K2 (L)) → G(L/K)
を引き起こす. ただし, NL/K (K2 (L)) は Milnor K-群におけるノルム写像 (後述の定義 5.1.10
を参照) NL/K : K2 (L) → K2 (K) の像である.
(iii) (存在定理) L/K を有限次 Abel 拡大とするとき, NL/K (K2 (L)) は K2 (K) の開かつ指数有限
な部分群であり,K の有限次 Abel 拡大体と K2 (K) の開かつ指数有限な部分群は
L ←→ NL/K (K2 (L))
によって1対1に対応する.
定理 4.2.2. (主定理その 2) 定理 4.2.1 の記号と仮定のもとでさらに, K2top (K) を 2 次位相 Milnor
K-群 (後述の定義 5.4.24 を参照) とする. このとき次の (i)∼(iii) が成り立つ:
top
ab
(i) 相互写像 ρK : K2 (K) → G(K ab /K) は自然に ρtop
K : K2 (K) → G(K /K) を引き起こし,
この写像は次の (a)(b) をみたす:
(a) ρtop
K は連続な単射群準同型.
( top
)
ab
(b) ρtop
K K2 (K) は G(K /K) の中で稠密.
(※) ただし, K2top (K) には後述の定義 5.4.24 による位相が入っているものとする.
(ii) (同型定理) L/K を有限次 Abel 拡大とするとき,(i) の相互写像 ρtop
K は群同型
83
top
top
ρtop
L/K : K2 (K)/NL/K (K2 (L)) → G(L/K)
を引き起こす. ただし, NL/K (K2top (L)) は位相 Milnor K-群におけるノルム写像 NL/K :
K2top (L) → K2top (K) の像である.
(iii) (存在定理) L/K を有限次 Abel 拡大とするとき, NL/K (K2top (L)) は K2top (K) の開かつ指数
有限な部分群であり,K の有限次 Abel 拡大体と K2top (K) の開かつ指数有限な部分群は
L ←→ NL/K (K2top (L))
によって1対1に対応する.
これらの定理の証明は, 1 次元局所体のときと同様の議論で行うことができる. 次章で証明のため
の準備を行い, そのあと証明を述べる.
84
第5章
混標数 2 次元局所類体論のための準備
この章では 1 次元のときと同様, 2 次元局所類体論の記述や証明に必要な数学的概念を紹介する.
証明は筆者が考えたものだけを述べることにし, それ以外のものについては参考文献の該当箇所を
記しておくことにする.
5.1
Milnor K-群
この節では, 体 K 上の Milnor K-群と呼ばれる加法群を紹介する. これは K × の一般化であると
考えられ, 代数的 K-理論と呼ばれる分野の概念である. K-理論そのものの詳しい内容は [R] など
に載っているが, ここでは代数的なものに限定して考えることにする. 前半部分は [Mag] を参考に
し, 途中からは [FV] を参考にした.
定義 5.1.1. K を体, n ≥ 2 とするとき,
/
Kn (K) := K × ⊗ Z · · · ⊗ Z K × Jn ,
{z
}
|
n個
ただし Jn は
{
}
a1 ⊗ · · · ⊗ an ∈ K × ⊗ Z · · · ⊗ Z K × ai ∈ K ×, i ̸= j なる i, j があって ai + aj = 1
で加法的に生成される部分群,
と定めてこれを K 上の n 次 Milnor K-群という. n = 1 のときには K1 (K) := K × と定める.
(※) Kn (K) は K × の自然な拡張とみなすことができる ( [R] での K-理論の一般論を参照) .
また, a1 , · · · , an ∈ K × に対し
{a1 , · · · , an } = {a1 , · · · , an }K := a1 ⊗ · · · ⊗ an + Jn ∈ Kn (K)
と定めておく. さらに, Milnor K-群の直和における次数つき環 ([Kaw] 参照) としての積
Kn (K) × Km (K) → Kn+m (K)
×
を, a1 , · · · , an , b1 , · · · , bm ∈ K に対し
{a1 , · · · , an } · {b1 , · · · , bm } = {a1 , · · · , an , b1 , · · · , bm }
をみたすものとして定めておく.
Milnor K-群は次のような性質をもつ:
命題 5.1.2. K を離散的付値体とするとき, Kn (K) は
{
{u1 , · · · , un−1 , a} ∈ Kn (K) ui ∈ UK , a ∈ K × }
で加法的に生成される.
85
証明. K の素元 π を用いて a ∈ K × を a = uπ n (u ∈ UK ) と表しておけば, 容易に示すことができ
る.
命題 5.1.3. 有限体 Fq の Milnor K-群について, K2 (Fq ) = {0} が成り立つ.
証明. [FV] p. 285 を参照.
次に, Milnor K-群のノルムを紹介する. これは体のノルム写像の一般化ととらえることができる
が, その構成方法はやや煩雑である. まず準備として拡張 Tame 記号について述べる:
定理 5.1.4. (拡張 Tame 記号) K を離散付値体, φ を K の離散付値, n ≥ 2 とするとき, 群準同型
τ : Kn+1 (K) → Kn (κ) で, 任意の ui ∈ UK , a ∈ K × に対し
(
)
τ ({u1 , · · · , un , a}) = m · {u1 , · · · , un } ただし m ∈ Z は (a) = pm
K なるもの
をみたすものがただ一つ存在する. この τ を拡張 Tame 記号という.
(※) n = 1 のときは, 3 章補題 3.5.5 の τ : K × × K × → κ× が引き起こす群準同型
( β)
αβ
a
×
τ : K2 (K) → κ , {a, b} 7→ (−1) · α
b
(
)
β
ただし α, β ∈ Z はそれぞれ (a) = pα
K , (b) = pK なるもの
を Tame 記号という. これは τ ({u, a}) = α·u ( u ∈ UK , a ∈ K × ) をみたす写像である.
証明. [Mag] p. 542 を参照.
以降この節の終わりまでとくに断らない限り, K を体として I ⊂ K[X] を
{
}
I := p(X) ∈ K[X] p(X) はモニックな既約多項式
と定めておく.
定理 5.1.5. K を体, n ≥ 1 を自然数とする. さらに p(X) ∈ I に対し p(X) 進付値 φp(X) を考え, K(X)
/(
)
を p(X) 進付値体 (例 1.1.4 参照) とみなしてその剰余体を κp(X) と表す. κp(X) ≃ K[X] p(X) で
あり, 自然に K ⊂ κp(X) とみなせることに注意しておく.
このとき2つの写像
j : Kn+1 (K) → Kn+1 (K(X)) , {a1 , · · · , an+1 } 7→ {a1 , · · · , an+1 },
τ : Kn+1 (K(X)) →
(
∏
(
)
Kn (κp(X) ) , α 7→ τp(X) (α) p(X)∈I
p(X)∈I
ただし, τp(X) : Kn+1 (K) → Kn (κp(X) ) は p(X) 進付値体 K における拡張 Tame 記号
について Im τ =
⊕
Kn (κp(X) ) が成り立ち,
p(X)∈I
j
τ
0 −→ Kn+1 (K) −→ Kn+1 (K(X)) −→
⊕
Kn (κp(X) ) −→ 0
p(X)∈I
は分裂する完全列となる.
証明. [Mag] pp. 543∼545 を参照.
86
)
定理 5.1.5 の完全列により, τ は群同型
⊕
/
∼
τ : Kn+1 (K(X)) Im j −→
Kn (κp(X) )
p(X)∈I
を引き起こすことがわかる. 以降, τ はこの群同型を表すものとする.
次に, p(X) ∈ I を 1 つ固定したときの p(X) -ノルムと呼ばれるものを定義したいが, その前に補
題を 1 つ用意する:
補題 5.1.6. 写像 φ∞ : K(X) → R≥0 を, c > 1 なる c ∈ R を用いて
(f )
φ∞
:= c−(deg g−deg f ) ( f, g ∈ K[X], g ̸= 0 )
g
と定めると, これは K(X) の離散付値であり K を剰余体にもつ. さらに φ∞ による離散付値体 K(X)
における拡張 Tame 記号を τ∞ : Kn+1 (K(X)) → Kn (K) とするとき, τ∞ ◦ j = 0 が成り立ち, τ∞
は群準同型
/
τ∞ : Kn+1 (K(X)) Im j → Kn (K)
を引き起こす.
証明. 前半は容易に示せる. 後半も φ∞ (K) = {1} に注意すれば容易に示せる.
定義 5.1.7. ( p(X) -ノルム) p(X) ∈ I, n ≥ 1 とするとき, 写像 Np(X) : Kn (κp(X) ) → Kn (K) を
)
(
⊕
Kn (κp(X) )
Np(X) (α) := (−τ∞ ◦ (τ )−1 )(α)
α ∈ Kn (κp(X) ) ⊂
p(X)∈I
と定め, これを p(X) -ノルムという.
p(X) -ノルムについて重要なのは次の2つの命題である:
命題 5.1.8. n ≥ 1 とするとき, 次の (i)∼(iv) が成り立つ:
(i) p(X) ∈ I に対し写像 ιp(X) : Kn (K) → Kn (κp(X) ) を
ιp(X) ({a1 , · · · , an }) = {a1 , · · · , an }
なるものとして定めておくと, 任意の p(X) ∈ I, α ∈ Kn (K) に対し
(Np(X) ◦ ιp(X) )(α) = [κp(X) : K] · α .
(ii) 任意の f1 , · · · , fn+1 ∈ K(X)× に対し, τp(X) ({f1 , · · · , fn+1 }) ̸= 0 となる p(X) ∈ I は有限個
であり, そのような p(X) のすべてを p1 (X), · · · , pm (X) ∈ I とすると
−τ∞ ({f1 , · · · , fn+1 }) =
m
∑
(
)
Npj (X) ◦ τpj (X) ({f1 , · · · , fn+1 }) .
j=1
ただし, τp(X) は定理 5.1.5 で定めた Tame 記号である.
(iii) p(X) -ノルムの族 {Np(X) }p(X)∈I は, (ii) の性質をみたすただ1組の写像の族である. すなわ
{ ′
}
ち, 写像の族 Np(X)
: Kn (κp(X) ) → Kn (K) p(X)∈I が
87
−τ∞ ({f1 , · · · , fn+1 }) =
∑ (
)
′
Np(X)
◦ τp(X) ({f1 , · · · , fn+1 }) ( ∀f1 , · · · , fn+1 ∈ K(X)× )
p(X)∈I
′
をみたすなら, Np(X) = Np(X)
( ∀p(X) ∈ I) となる.
×
(iv) n = 1 での p(X)-ノルム Np(X) : κ×
p(X) → K は, 体のノルム Nκp(X) /K に等しい.
証明. (i) φ∞ (p(X)) = c− deg p(X) , deg p(X) = [κp(X) : K] を用いれば容易に示せる.
(ii) 任意の f1 , · · · , fn+1 ∈ K(X)× をとる. まず, 有理関数 fn+1 (X) の分母, 分子の多項式をそれ
ぞれ考えたとき, それらの多項式の因数として現れない p(X) ∈ I については φp(X) (fn+1 ) = 1 と
なるので τp(X) ({f1 , · · · , fn+1 }) = 0 が成り立つ. よってそれ以外の p(X) のみを考えればよく, そ
のような p(X) ∈ I は明らかに有限個である. それらを p1 (X), · · · , pm (X) としておく.
⊕
次に ip(X) : Kn (κp(X) ) ,→
Kn (κp(X) ) を自然な包含写像とする. このとき Np(X) の定義など
p(X)∈I
から
m
∑
(
m
∑
)
(
)
Npj (X) ◦ τpj (X) ({f1 , · · · , fn+1 }) =
(−τ∞ ◦ (τ )−1 ◦ ipj (X) ◦ τpj (X) ({f1 , · · · , fn+1 })
j=1
j=1
= (−τ∞ ◦ (τ )−1 )
m
(∑
(
)
)
ipj (X) ◦ τpj (X) ({f1 , · · · , fn+1 })
j=1
)
= (−τ∞ ◦ (τ )−1 ◦ τ )({f1 , · · · , fn+1 })
= −τ∞ ({f1 , · · · , fn+1 })
となるので, 与式が成り立つ.
(iii) Np(X) ◦ τ = −τ∞ を用いれば容易に示せる.
(iv) 体のノルムの族 {Nκp(X) /K }p(X)∈I が (iii) をみたすことを示せば良い. 詳細は [Mag] pp. 549∼
551 を参照.
命題 5.1.9. (projection formula) 任意の a1 , · · · , an ∈ K × と u1 , · · · , um ∈ Up(X) (ただし Up(X)
は p(X) 進付値体の単数群) に対して,
Np(X) ({a1 , · · · , an , u1 , · · · , um }) = {a1 , · · · , an }·Np(X) ({u1 , · · · , um })
が成り立つ.
証明. [Mag] p. 554 を参照.
さて, これらの準備のもとで Milnor K-群のノルムを定義する. なお, ここからは [FV] を参考文献
として挙げる.
定義 5.1.10. (Kn -ノルム) L/K を有限次拡大とし, L = K(α1 , · · · , αm ) と表す.
さらに Ki := Ki−1 (αi ), K0 := K と帰納的に定め, αi の Ki−1 上の最小多項式を fi (X) ∈ Ki−1 [X]
とする. このとき
/
κfi (X) ≃ Ki−1 [X] (fi ) ≃ Ki−1 (αi ) = Ki
によって Kn (κfi ) と Kn (Ki−1 ) を同一視し,
NL/K := Nf1 (X) ◦ · · · ◦ Nfm (X) : Kn (L) → Kn (K)
88
と定めてこれを L/K の Kn -ノルム写像という. 体のノルム写像と同じ記号を用いることに注意する.
この NL/K は, m ∈ N+ , α1 , · · · , αm ∈ L のとり方によらずに定まる写像である ([FV] p. 300 を
参照) .
定理 5.1.11. L/K を有限次拡大とするとき, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) (連鎖律) M を L/K の中間体とすると, NL/K = NM/K ◦ NL/M .
(ii) n = 1 のとき, NL/K は体のノルム写像と一致する.
(iii) jL/K : Kn (K) → Kn (L) , {a1 , · · · , an } 7→ {a1 , · · · , an } とするとき,
NL/K ◦ jL/K = [L : K]·id .
証明. [FV] pp. 300∼301 を参照.
定理 5.1.12. (projection formula) L/K を有限次拡大とするとき, 任意の a1 , · · · , an ∈ K × ,
b1 , · · · , bm ∈ L× に対し
NL/K ({a1 , · · · , an , b1 , · · · , bm }) = {a1 , · · · , an }·NL/K ({b1 , · · · , bm })
が成り立つ.
証明. 定理 5.1.9 を用いれば示せる.
この節の最後に, 2 次の Milnor K-群について計算のための公式を挙げておく:
命題 5.1.13. 任意の x, y, z ∈ K × に対し, 次の (i)∼(vi) が成り立つ:
(i) {xy, z} = {x.z} + {y, z}.
(iv) {x, −x} = 0 .
(ii) {x, yz} = {x, y} + {x, z}.
(v) {x, −xy} = {y −1 , −xy}.
(iii) {x, 1 − x} = 0 .
(vi) {y, x} = −{x, y}.
証明. (i)(ii) はテンソル積の性質により明らか. (iii) は Milnor K-群の定義により従う.
(iv) について. x = 1 のときは明らかなので, x ̸= 1 とする. このとき −x = (1 − x)/(1 − x−1 ) だ
から,
{x, −x} = {x, 1 − x} − {x, 1 − x−1 } = −{x, 1 − x−1 } = {x−1 , 1 − x−1 } = 0
となって求める等式を得る.
(v) これは {x, −xy} = {xy, −xy} − {y, −xy} = {y −1 , −xy} により従う.
(vi) これは
{x, y} = {x, y} + {x, −x} = {x, −xy} = {y −1 , −xy} = −{y, −xy}
(
)
= − {y, x} + {y, −y} = −{y, x}
により従う.
89
5.2
Milnor K-群における高次単数群
この節では, 局所体での高次単数群に相当するものを紹介する. 2.8 節と同様に, 高次単数群を用
いた群の列において部分商を計算すること (定理 5.2.7) が主目的である.
今回の混標数 2 次元局所体の場合, そこには微分加群 (2 章 2.10 節参照) が登場する. さらに Cartier
作用素と呼ばれる, 微分加群同士を結ぶ写像も関わってくる. そこではじめに準備として, この Cartier
作用素について述べる.
定理 5.2.1. F を標数 p ( > 0) の体とし, さらに [F : F p ] = p であるとする. また ΩF/Z を F の Z 微分加群とし, 標準的 Z -導分 δF/Z による x ∈ F の像について dx := δF/Z (x) と定める. このとき
次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) ΩF/Z → ΩF/F p , dx 7→ δF/F p (x) は F -同型であり, ΩF/Z は 1 次元 F -ベクトル空間となる.
とくに F = F p (t) と表したとき dt ∈ ΩF/Z は F 上の底となり, ΩF/Z の元は
(ap0 + ap1 t + · · · + app−1 tp−1 )·dt (a0 , · · · , ap−1 ∈ F )
と一意的に表せる.
(ii) F = F p (t) なる t ∈ F をひとつとり, 写像
cF : ΩF/Z → ΩF/Z , (ap0 + ap1 t + · · · + app−1 tp−1 )·dt 7→ ap−1 ·dt
を考えると, これは t のとり方によらずに定まり, 全射群準同型となる. さらに
Ker cF = {da a ∈ F } =: dF が成り立つ.
(※) この群準同型 cF を F 上の Cartier 作用素という. cF は上記の t と a ∈ F に対し
(
)
cF ap ·dt/t = a·dt/t をみたす写像である. また, 上記のような F の例としては Fq ((T )) がある.
証明. (i) ΩF/Z ≃ ΩF/F p については, 標準 Z -導分 d = δF/Z が
d(ap ) = p·ap−1 da = 0
..
( . F の標数は p である)
をみたすことによりわかる. 次に, F -ベクトル空間 ΩF/Z ≃ ΩF/F p の基底と元の表示についての主
張を示す. いま F/F p は p 次の単拡大だから, F = F p (t) なる t ∈ F はつねに存在することに注意
しておく.
上記のように t をとる. このとき 1, t, · · · , tp−1 は F p 上一次独立だから, F = F p (t) と併せると
{t} は F/F p の p -基底となる. よって 2 章定理 2.10.15 により {t} は F/F p の微分基底となるから,
ΩF/Z についても
ΩF/Z = F ·dt = F p (t)·dt
が成り立つ. したがって ΩF/Z は dt ∈ ΩF/Z を底にもつ 1 次元 F -ベクトル空間であり, その元は与
式のように一意的に表せることがわかる.
90
(ii) まず t のとり方によらないことを示す. いま F = F p (t) = F p (s) とすると, h(X) =
p−1
∑
ci X i ∈
i=0
F p [X] があって s = h(t) = c0 + c1 t + · · · + cp−1 tp−1 と表せる. このとき ds = h′ (t)dt であり,
ω = (bp0 + bp1 s + · · · + bpp−1 sp−1 )·ds ∈ ΩF/Z (ただし bj ∈ F ) は
ω = (bp0 + bp1 ·h(t) + · · · + bpp−1 ·h(t)p−1 )h′ (t)·dt
(
)
1
1
(h(t)p−1 )′ + bpp−1 ·h(t)p−1 h′ (t) ·dt
= b0 ·h′ (t) + bp1 · (h(t)2 )′ + · · · + bpp−2 ·
2
p−1
(⋆)
p−1
(
)
∑
と変形できる ただし h′ (X) :=
i·ci X i−1 とする . このとき bp−1 ·ds = bp−1 h′ (t)·dt に注意する
i=0
と, cF が t のとり方によらないことをいうには
(
((⋆) における tp−1 の F p 上の係数)= bp−1 h′ (t)
)p
を示せばよい. これは煩雑な計算となるのでここでは省略するが, 等式が成り立つことを示すこと
ができる. よって cF は t のとり方によらずに定まる.
次に全射群準同型であることをいう. 群準同型であることは (a + b)p = ap + bp (a, b ∈ F ) を用
いれば示せる. また全射性も ΩF/Z = F ·dt と cF (ap tp−1 ·dt) = a·dt (a ∈ F ) により成り立つ.
最後に Ker cF = dF を示す.
いま ω = (ap0 + ap1 t + · · · + app−1 tp−1 )·dt ∈ Ker cF とすると,
0 = cF (ap0 + ap1 t + · · · + app−1 tp−1 )·dt) = ap−1 ·dt
により ap−1 = 0 となる. このとき
)
(
1
1
app−2 tp−1 ∈ dF
ω = (ap0 + ap1 t + · · · + app−2 tp−2 )·dt = d ap0 t + ap1 t2 + · · · +
2
p−1
となるので, Ker cF ⊂ dF が成り立つ. 同様に Ker cF ⊃ dF も示すことができ, Ker cF = dF が成
り立つ.
次に, 体の微分加群に関する命題をここで述べておく. これは, このあとの部分商の計算で用いる
ことになる.
命題 5.2.2. F を体とするとき, 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) 加法群と乗法群によるテンソル積 F ⊗Z F × は
a · x ⊗ y := ax ⊗ y
(a, x ∈ F, y ∈ F × )
によって F -ベクトル空間となり, 部分集合
{(x + y) ⊗ (x + y) − x ⊗ x − y ⊗ y x, y ∈ F ×, x + y ̸= 0}
で加法的に生成される F ⊗Z F × の部分群 J は, 部分 F -ベクトル空間となる.
/ ∼
(ii) 群同型 Φ : (F ⊗Z F ×) J −→ ΩF/Z で
Φ(x ⊗ y + J) = x·
dy
y
(x ∈ F, y ∈ F × )
をみたすものがただ 1 つ存在する.
{ dy
}
(※) (ii) により, ΩF/Z は x·
∈ ΩF/Z x ∈ F, y ∈ F × で加法的に生成されることがわかる.
y
91
証明. (i) F ⊗Z F × が F -ベクトル空間となることは容易に示せる. J が部分 F -ベクトル空間となる
ことも計算によって示せる.
(ii) まず双加法的写像
Φ1 : F × F × → ΩF/Z , (x, y) 7→ x·
dy
y
が引き起こす群準同型 Φ2 : F ⊗Z F × → ΩF/Z , x ⊗ y 7→ x· dy
y を考えると, これは Φ2 (J) = 0 をみ
たすので, 上記の群準同型 Φ が引き起こされることがわかる. これが群同型であることを示すため
に, 逆写像を構成する.
/
いま写像 D : F → (F ⊗Z F ×) J を
D(0) := 0,
D(x) := x ⊗ x + J (x ∈ F ×)
と定めると, これは Z -導分となることがわかる. よって 2 章定理 2.10.3 により D は F -線形写像
/
Ψ : ΩF/Z → (F ⊗Z F × ) J , dx 7→ D(x)
を引き起こし, この Ψ が Φ の逆写像となる. したがって Φ は群同型である.
さて, ここからは Milnor K-群における高次単数群の性質について述べる. これは通常の局所体に
おける高次単数群に相当する概念である.
以降この節の終わりまで, K を標数 0 の完備離散付値体, π を K の素元とし, 剰余体 κ の標数を
p ( > 0) とする. さらに [κ : κp ] = p であると仮定し, e ∈ N+ を (p) = peK なるもの, e˜ :=
ておく.
e
p−1
とし
定義 5.2.3. Milnor K-群の部分群 Ui K2 (K) を, 集合
(i)
{{x, y} ∈ K2 (K) x ∈ UK , y ∈ K × }
で加法的に生成されるような部分群とし, この Ui K2 (K) を Milnor K-群の i 次単数群と呼ぶこと
(i)
にする. 命題 5.1.2 と UK の性質から K2 (K) = U0 K2 (K) ⊃ U1 K2 (K) ⊃ U2 K2 (K) ⊃ · · · が成り
立つことに注意する.
命題 5.2.4. 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i)
(j)
(i) 任意の α ∈ UK , β ∈ UK に対して {α, β} ∈ Ui+j K2 (K).
(ii) 任意の x ∈ piK −{0}, y ∈ pjK に対して {1 + x, 1 + y} + {1 + xy, −x} ∈ Ui+j+1 K2 (K).
証明. 計算により容易に示すことができる.
命題 5.2.5. 4 つの写像
/
u : K2 (κ) → U0 K2 (K) U1 K2 (K) , {x, y} 7→ {x, y} + U1 K2 (K),
/
v : U0 K2 (K) U1 K2 (K) → K2 (κ) , {xπ n , yπ m } + U1 K2 (K) 7→ {x, y},
(ただし x, y ∈ UK , n, m ∈ Z)
/
s : κ× → U0 K2 (K) U1 K2 (K) , x 7→ {x, π} + U1 K2 (K),
/
t : U0 K2 (K) U1 K2 (K) → κ× , {x, y} + U1 K2 (K) 7→ τ ({x, y})
(ただし τ は定義 5.1.4 による Tame 記号)
について, これらはすべて well-defined な群準同型であり,
92
v ◦ u = id,
t ◦ s = id,
t ◦ u = 0,
u ◦ v + s ◦ t = id
が成り立つ. このことから
/
t
u
0 −→ K2 (κ) −→ U0 K2 (K) U1 K2 (K) −→ κ× −→ 0
/
は分裂する完全列となることがわかり, K2 (κ) ⊕ κ× ≃ U0 K2 (K) U1 K2 (K) が成り立つ.
証明. まず前半部分について示す. s が well-defined な群準同型であることは容易に示せる. また
u, v, t については同様の議論で well-defined 性が示せるので, u についてのみ示す.
/
いま u1 : κ× × κ× → U0 K2 (K) U1 K2 (K) , (x, y) 7→ {x, y} + U1 K2 (K) を考えると, これは
well-defined な双加法的写像となることがわかる. よって u1 は群準同型
/
u2 : κ× ⊗Z κ× → U0 K2 (K) U1 K2 (K) , x ⊗ y 7→ {x, y} + U1 K2 (K)
を引き起こす. さらにこの u2 は u2 (x ⊗ 1 − x) = {x, 1 − x} + U1 K2 (K) = 0 をみたすので, 群準
同型
/
u : K2 (κ) → U0 K2 (K) U1 K2 (K) , {x, y} 7→ {x, y} + U1 K2 (K)
を得る. よって u は well-defined な群準同型である.
次に 4 つの関係式を示すが, v ◦ u = id, t ◦ s = id, t ◦ u = 0 については容易に計算できるので省
略し, u ◦ v + s ◦ t = id を示す.
いま x, y ∈ UK , n, m ∈ Z とすると
(
)
(
)
(u ◦ v) {xπ n , yπ m } + U1 K2 (K) + (s ◦ t) {xπ n , yπ m } + U1 K2 (K)
(
/
)
nm
= u({x, y}) + s (−1) · ((xπ n )m (yπ m )−n )
= {x, y} + {(−1)nm xm y −n , π} + U1 K2 (K)
となるが, {−1, π} = {−1, π} + {−π, π} = {π, π} であるから
{(−1)nm xm y −n , π} = nm·{−1, π} + m·{x, π} − n·{y, π}
= nm·{π, π} + m·{x, π} + n·{π, y}
= {xπ n , yπ m } − {x, y}
が成り立つ. よってこれらにより
(
)
(
)
(u ◦ v) {xπ n , yπ m } + U1 K2 (K) + (s ◦ t) {xπ n , yπ m } + U1 K2 (K) = {xπ n , yπ m } + U1 K2 (K)
となるので, u ◦ v + s ◦ t = id が成り立つ.
次に, この Ui K2 (K) を用いて加法群の列 {Vi K2 (K)}i∈N0 ∪{−1} を定義する. この群は後に相互写
像のもととなる双加法的写像の非退化性 (6.5 節) を示す際に用いる.
定義 5.2.6. 加法群の列 {Vi K2 (K)}i∈N0 を
/
V0 K2 (K) := K2 (K) p·K2 (K),
(
)/
Vi K2 (K) := Ui K2 (K) + p·K2 (K) p·K2 (K) (i ≥ 1)
と定める. 自然に V0 K2 (K) ⊃ V1 K2 (K) ⊃ V2 K2 (K) ⊃ · · · とみなすことができ, 2 章定理 2.8.5 に
より Ve˜+1 K2 (K) = {0} となることに注意する.
93
/
この加法群から作られる部分商 Vi K2 (K) Vi+1 K2 (K) は, 次のような構造をもつ:
/
定理 5.2.7. 部分商 Vi K2 (K) Vi+1 K2 (K) について, 次の群同型が得られる:
・ i = 0 のとき,
/
∼
κ×/(κ× )p −→ V0 K2 (K) V1 K2 (K) , x·(κ× )p 7→ {x, π} + p·K2 (K) mod V1 K2 (K).
・ 1 ≤ i < e˜ かつ p - i のとき, ξ ∈ oK を (ξ) = piK なるものとすると
/
dy
∼
Ωκ/Z −→ Vi K2 (K) Vi+1 K2 (K) , x·
7→ {1 + ξx, y} + p·K2 (K) mod Vi+1 K2 (K).
y
(
)
dy
命題 5.2.2 により, Ωκ/Z の元は x·
の形の有限和で表わされることに注意
y
i/p
・ 1 ≤ i < e˜ かつ p | i のとき, η ∈ oK を (η) = pK なるものとすると
/
∼
κ/κp −→ Vi K2 (K) Vi+1 K2 (K) , x + κp 7→ {1 + η p x, π} + p·K2 (K) mod Vi+1 K2 (K).
/
・ i = e˜ ∈ N+ のとき, Ve˜K2 (K) Ve˜+1 K2 (K) = Ve˜K2 (K) は一般に複雑な形をとる. しかし
e˜/p
ζp ∈ K であるときは, η ∈ oK を (η) = pK なるものとすると群同型
(
/
)
/
∼
Ωκ/Z (1 − cκ )Ωκ/Z ⊕ κ/℘(κ) −→ Ve˜K2 (K) Ve˜+1 K2 (K) ,
dy
+ (1 − cκ )Ωκ/Z , z + ℘(κ)) 7→ {1 + η p x, y} + {1 + η p z, π}
y
(ただし (1 − cκ )Ωκ/Z := {ω − cκ (ω) ω ∈ Ωκ/Z }, また ℘(κ) = {αp − α α ∈ κ})
(x·
が得られる.
証明. [Kat] §2 を参照. いくつかの段階に分けられており, かなり複雑な証明となっている.
6 章 6.5 節では, この定理を用いた計算を行う.
5.3
多元環上の被約ノルムと被約トレース
この節では, 体のノルムやトレースに近い概念である, 被約ノルムと被約トレースについて述べ
る. [G] を参考文献として挙げておく.
以下この節の終わりまで, n ∈ N+ を自然数, K を体, A を K 上の n2 次元中心的単純環とする.
まず補題を 1 つ用意し, その後被約ノルムと被約トレースを定義する.
補題 5.3.1. L/K を有限次 Galois 拡大で L が A の K 上の分解体 (2 章定義 2.2.8 参照) となるも
∼
のとし, ψ : Mn (L) −→ A ⊗K L を L -同型とする (2 章系 2.2.13 により, このような L は存在する).
このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
(
)
(
)
(i) 任意の a ∈ A に対し det ψ −1 (a ⊗ 1) ∈ K, tr ψ −1 (a ⊗ 1) ∈ K.
94
(ii) L′ /K を別の有限次 Galois 拡大で L′ が A の K 上の分解体となるものとし,
∼
ψ ′ : Mn (L′ ) −→ A ⊗K L′ を L′ -同型とする. このとき任意の a ∈ A に対して
(
)
( −1
)
(
( −1
))
det ψ −1 (a ⊗ 1) = det ψ ′ (a ⊗ 1) , tr ψ −1 (a ⊗ 1) = tr ψ ′ (a ⊗ 1) .
証明. (i) K = LG(L/K) = {x ∈ L 任意の σ ∈ G(L/K) に対し σ(x) = x} であるから,
det(ψ −1 (a ⊗ 1)), tr(ψ −1 (a ⊗ 1)) ∈ LG(L/K)
を示せばよい.
∼
∼
任意の σ ∈ G(L/K) をとる. いまこの σ に対し群同型 σ : A ⊗K L −→ A ⊗K L, σ : Mn (L) −→
Mn (L) をそれぞれ
σ(a ⊗ x) := a ⊗ σ(x),
σ([ai,j ]1≤i,j≤n ) := [σ(ai,j )]1≤i,j≤n
と定め, σ ◦ ψ −1 ◦ σ −1 ◦ ψ : Mn (L) → Mn (L) を考えると, これは L -同型となる. すると Mn (L) は
L 上の中心的単純環で id : Mn (L) → Mn (L) も L -同型だから, Skolem-Noether の定理 (2 章定理
2.1.3) により, Uσ ∈ Mn (L)× があって任意の M ∈ Mn (L) に対し
(σ ◦ ψ −1 ◦ σ −1 ◦ ψ)(M ) = Uσ · M · Uσ−1
が成り立つ. よってこれを M = ψ −1 (a ⊗ 1) について適用すると,
Uσ · ψ −1 (a ⊗ 1) · Uσ−1 = (σ ◦ ψ −1 ◦ σ −1 ◦ ψ)(ψ −1 (a ⊗ 1)) = (σ ◦ ψ −1 )(a ⊗ 1)
により
(
)
(
)
..
σ det(ψ −1 (a ⊗ 1)) = det (σ ◦ ψ −1 )(a ⊗ 1) ( . det の定義)
(
)
= det Uσ · ψ −1 (a ⊗ 1) · Uσ−1
= det(ψ −1 (a ⊗ 1)) ,
(
)
(
)
..
σ tr(ψ −1 (a ⊗ 1)) = tr (σ ◦ ψ −1 )(a ⊗ 1) ( . tr の定義)
(
)
= tr Uσ · ψ −1 (a ⊗ 1) · Uσ−1
= tr(ψ −1 (a ⊗ 1))
となる. したがって det(ψ −1 (a ⊗ 1)), tr(ψ −1 (a ⊗ 1)) ∈ LG(L/K) が成り立つ.
(ii) L0 := L·L′ とおくと, L0 /K もまた有限次 Galois 拡大で2つの L0 -同型
∼
ψ ⊗ idL0 : Mn (L0 ) ≃ Mn (L) ⊗L L0 −→ A ⊗K L ⊗L L0 ≃ A ⊗K L0
∼
ψ ′ ⊗ idL0 : Mn (L0 ) ≃ Mn (L′ ) ⊗L′ L0 −→ A ⊗K L′ ⊗L′ L0 ≃ A ⊗K L0
を得る. すると再び Skolem-Noether の定理により, U ∈ Mn (L0 )× があって任意の ω ∈ A ⊗K L0 に
対し
(ψ ⊗ idL0 )−1 (ω) = U · (ψ ′ ⊗ idL0 )−1 (ω) · U −1
が成り立つので, ω = a ⊗ 1 としてこれを適用すると
ψ −1 (a ⊗ 1) = (ψ ⊗ idL0 )−1 (a ⊗ 1) = U · (ψ ′ ⊗ idL0 )−1 (a ⊗ 1) · U −1 = U · ψ ′
となる. よって (i) と同様に
95
−1
(a ⊗ 1) · U −1
(
)
( −1
)
det ψ −1 (a ⊗ 1) = det ψ ′ (a ⊗ 1) ,
(
( −1
))
tr ψ −1 (a ⊗ 1) = tr ψ ′ (a ⊗ 1)
が成り立つことがわかる.
定義 5.3.2. (被約ノルムと被約トレース) L/K を有限次 Galois 拡大で L が A の K 上の分解体
∼
となるものとし, ψ : Mn (L) −→ A ⊗K L を L -同型とする. このとき NrdA/K : A → K , TrdA/K :
A → K をそれぞれ
NrdA/K (a) := det(ψ −1 (a ⊗ 1)),
TrdA/K (a) := tr(ψ −1 (a ⊗ 1))
( a ∈ A)
とおくと, 補題 5.3.1 によりこれらは K の元であり, L や ψ のとり方によらずに定まる.
この NrdA/K , TrdA/K をそれぞれ被約ノルム, 被約トレースという.
次に, 被約ノルム, 被約トレースについての性質をいくつか紹介していく.
命題 5.3.3. 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) NrdA/K (A× ) ⊂ K × であり, NrdA/K : A× → K × は乗法群としての群準同型である.
(ii) L を K ⊂ L ⊂ A なる体で [L : K] = n なるものとしたとき, 任意の α ∈ L に対し
NrdA/K (α) = NL/K (α),
TrdA/K (α) = TL/K (α).
証明. (i) a ∈ A とするとき ψ −1 (a ⊗ 1) · ψ −1 (a−1 ⊗ 1) = ψ −1 (1 ⊗ 1) = En (単位行列) であるから,
NrdA/K (a) = det(ψ −1 (a ⊗ 1)) ̸= 0 となる. また群準同型性は明らかである.
(ii) [G] p. 39 を参照.
命題 5.3.4. 任意の r ≥ 1 に対し, NrdA/K (A× ) = NrdMr (A)/K (Mr (A)× ) が成り立つ.
証明. [G] p. 46 を参照.
系 5.3.5. B を K 上の中心的単純環で [A] = [B] ∈ Br(K) なるものとすると, NrdA/K (A× ) =
NrdB/K (B × ) が成り立つ.
証明. [A] = [B] のとき, 2 章命題 2.2.3 により r, s ∈ N+ があって Mr (A) ≃ Ms (B) となる. すると
命題 5.3.4 により
NrdA/K (A× ) = NrdMr (A)/K (Mr (A)× ) = NrdMs (B)/K (Ms (B)× ) = NrdB/K (B × )
が成り立つ.
命題 5.3.6. x ∈ K × とするとき, 次の (i)(ii) は同値である:
(i) x ∈ NrdA/K (A× ) .
(ii) 有限次拡大 L/K が存在して, x ∈ NL/K (L× ) かつ [A] ∈ Br(L/K).
証明. (i)⇒(ii) まず単純環の基本定理により, K 上の中心的斜体 D と自然数 r ∈ N+ があって
A ≃ Mr (D) が成り立つ. するといま
x ∈ NrdA/K (A× ) = NrdMr (D)/K (Mr (D)× ) = NrdD/K (D× )
だから, ξ ∈ D があって x = NrdD/K (ξ) となる. このとき L を K(ξ) ⊂ L ( D となるような D の
極大部分体とすると, 2 章定理 2.2.10 により [A] ∈ Br(L/K), [L : K] = n となり, さらに命題 5.3.3
(ii) により
96
x = NrdD/K (ξ) = NL/K (ξ) ∈ NL/K (L× )
が成り立つ.
(ii)⇒(i) まず 2 章定理 2.2.11 により, K 上の中心的単純環 B と K ⊂ L′ ⊂ B なる体 L′ があって
[A] = [B],
L ≃ L′ ,
[B : K] = [L : K]2 = [A : K]
となる. すると系 5.3.5 と命題 5.3.3 (ii) により
×
x ∈ NL/K (L′ ) = NL′/K (L′ ) ⊂ NrdB/K (B × ) = NrdA/K (A× )
が成り立つ.
系 5.3.5 と命題 5.3.6 を踏まえて, 次の記号を定義する:
定義 5.3.7. ω ∈ Br(K) に対し, ω = [A] となる K 上の中心的単純環 A をひとつとって
Nrd(ω/K) := NrdA/K (A× )
とおく. これは K 上の中心的単純環 A のとり方によらずに定まることが系 5.3.5 によりわかる.
この節の最後に, Milnor K-群のノルムと被約ノルムの関係についての定理を示す. 記号は 2 章も
参照してもらいたい.
(
/ )
定理 5.3.8. 任意の χ ∈ X(K), a, b ∈ K × に対し, a ∈ Nrd [ χ, b ]K K ならば {a, b} = {a, b}K ∈
(
)
NKχ /K K2 (Kχ ) が成り立つ.
(
/ )
証明. a ∈ Nrd [ χ, b ]K K = Nrd[ χ,b ]K/K ([ χ, b ]×
K ) とすると, 命題 5.3.6 により有限次拡大 L/K
があって
a ∈ NL/K (L× ) かつ [ χ, b ]K ∈ Br(L/K)
となる. すると c ∈ L を用いて a = NL/K (c) と表すことができ, また
..
0 = ResL/K ([ χ, b ]K ) = [ ResL/K (χ), b ]L ( . 2 章命題 2.6.10)
が成り立つ. よって χL := ResL/K (χ) とおき, σ を σ K = σχ なるものとすると
χ
/
0 = [ χL , b ]L = [(b, Kχ ·L L, σ)] ( LχL = Kχ ·L であることに注意)
(
)
となるので, 2 章定理 2.3.4 により b ∈ NKχ·L/L (Kχ ·L)× が成り立ち, よって d ∈ (Kχ ·L)× を用
いて b = NKχ·L/L (d) と表せる.
これらにより
..
{a, b}K = {NL/K (c), b}K = NL/K ({c, b}L ) ( . 定理 5.1.12 と命題 5.1.13 (vi))
= NL/K ({c, NKχ ·L/L (d)}Kχ ·L ) = (NL/K ◦ NKχ ·L/L )({c, d}Kχ ·L )
= NKχ ·L/K ({c, d}Kχ ·L )
(
)
(
)
= NKχ /K NKχ ·L/Kχ ({c, d}Kχ ·L ) ∈ NKχ /K K2 (Kχ )
が成り立つ.
97
5.4
混標数 2 次元局所体の乗法群 K × と K2 (K) における位相
この節では, 混標数 2 次元局所体 K の 2 次 Milnor K-群 K2 (K) に位相を入れることを考える.
K2 (K) の位相は K × の位相を用いて構成するのが一般的だが, その K × には付値からくる位相より
も弱い位相を入れる必要があり, そのために少し複雑な議論となる. ここではまず K × に位相を定
め, その後 K2 (K) の位相を入れる. なおここで与える K × の位相は, 4 節補題 4.1.5 で述べた位相の
一般化となっていることを後に述べる (定理 5.4.15) . またこの節の後半では筆者が独自に考えた位
相を紹介し, それがすでに知られている [MZ] や [Z] による位相と一致することを示す. なお, [MZ]
や [Z] では一般の n 次元局所体についての位相が述べられているが, ここでは n = 2 に限定して考
えている. 筆者が考えた位相は, 4 節補題 4.1.5 で述べた位相の一般化となっていることが良くわか
るという点が特長的である.
以降この節の終わりまで, K を混標数 2 次元局所体, oK , pK , πK をそれぞれ K の付値環, 付値イ
デアル, 素元とし, K の剰余体を F で表す. さらに局所体 F の標数を p ( > 0) とし, oF , pF , κF を
それぞれ F の付値環, 付値イデアル, 剰余体とする. また, e ∈ N+ を (p) = peK なるものとしておく.
はじめに, 剰余体 F の元を代表する K の特別な元について述べる.
定義 5.4.1. (乗法的代表) a ∈ oK , α ∈ F とするとき, a が K における α の乗法的代表または
Teichm¨
uller 代表であるとは,
a=α∈F
∞
∩
a∈
かつ
n
Kp
n=0
をみたすときにいう.
命題 5.4.2. 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) α ∈ F は乗法的代表をもつ ⇐⇒ α ∈
∞
∩
n
Fp .
n=0
(ii) α ∈ F の乗法的代表は, 存在すればただ 1 つである.
(iii) α, β ∈ F, a, b ∈ oK とするとき, a, b がそれぞれ α, β の乗法的代表ならば, ab ∈ oK は
αβ ∈ F の乗法的代表である.
(※) F が完全体であるときには, (i) により F の元はいつでも乗法的代表をもつことがわかる. 以
降, α ∈ F の乗法的代表が存在するときそれを [α] ∈ oK と表すことにする. なお乗法的代表につい
ては, 一般の完備離散付値体でも同様に定義できることに注意しておく.
証明. (i) まず α ∈ F が乗法的代表をもつと仮定すると, a ∈ oK があって a = α かつ a ∈
となるので, 明らかに α = a ∈
∞
∩
逆に α ∈
n=0
∞
∩
n
F
が成り立つ.
n=0
n
n
F p と仮定する. このとき各 n ∈ N0 に対し an ∈ oK があって α = apn が成り立つ
n−m
n−m
コーシー列となることがわかるので, 完備性からこの点列の極限 a′m := lim apn
る. このとき
Kp
n=0
pn
ので, このような an をひとつずつ固定する. すると, 任意の m ∈ N+ に対し {apn
a′0
∞
∩
n→∞
が α の乗法的代表となる.
}∞
n=m は K の
∈ oK が存在す
(ii) a, b ∈ oK をともに α の乗法的代表とする. このとき (i) と同様に, 各 n ∈ N0 に対し an , bn ∈ oK
n
n
n
pn
で a = apn , b = bpn となるものがそれぞれひとつずつとれる. すると apn = a = α = b = bn となる
98
ので, an = bn , つまり an ≡ bn mod pK が成り立つ. このとき簡単な計算により, 任意の n ∈ N0 に
n
n
対し a = apn ≡ bpn = b mod pn+1
となることがわかるので, a = b が成り立つ.
K
(iii) 容易に示せる.
命題 5.4.3. t ∈ oK を t ∈ pF なるものとするとき, F の部分体 Ft で次の (i)(ii) をみたすものがた
だ 1 つ存在する:
(i) 局所体 F の付値を Ft に制限したとき Ft もまた局所体であり, F/Ft は有限次拡大, そして Ft
と F の剰余体は一致する.
(ii)
∞
∩
n=0
n
opF ⊂ Ft , t ∈ Ft であり, t は Ft の素元となる.
(※) この Ft を t ∈ oK に付随する局所体と呼ぶことにする. t が F の素元であるときは, 明らかに
Ft = F である.
証明. F は標数 p の局所体だから, F = Fq ((T )) と表してよい. すると
{∑
}
i
Ft :=
ai t ∈ Fq ((T )) ai ∈ Fq
i
とおいたとき, これは F の部分体で条件 (i)(ii) をみたすものとなる.
∞
n
∩
また別の部分体 F ′ が条件 (i)(ii) をみたすとすると, Fq =
opF ⊂ F ′ , t ∈ F ′ と完備性により
n=0
Ft ⊂ F ′ となる. さらに有限次拡大 F ′ /Ft の分岐指数と剰余次数を調べることにより F ′ = Ft が成
り立つ.
注 5.4.4. 命題 5.4.3 の記号のもとでは
∞
∩
n=0
くと
∞
∩
n
opFt =
∼
Φt : M ((X)) −→ Ft ,
n=0
∑
n
opF となることがわかり, M :=
ai X i 7→
i
∑
ai t
∞
∩
n=0
n
opF とお
i
i
2
という付値体の同型写像 (位相同型かつ体の同型) が得られる. また Ft は, 1, t, t , · · · , t
p−1
を Ftp
上の底にもつことがわかる.
次に, oK の元と F の元を結びつける概念としてリフトを定義する. これは K × に位相を入れる際
に役立つものである.
定義 5.4.5. (リフト) t ∈ oK を t ∈ pF なるものとし, Ft を t に付随する局所体とする. このとき
写像 ht : Ft → oK がリフトであるとは, 任意の α ∈ Ft に対し h(α) = α が成り立つときにいう.
(※) Ft = F が成り立つとき, ht (F ) = {ht (α) ∈ oK α ∈ F } は F = oK /pK の完全代表系となる.
定理 5.4.6. t ∈ oK を t ∈ pF なるものとし, Ft を t に付随する局所体とする. このときリフト
Ht := Ht,K : Ft → oK で
Ht
( p−1
∑
i=0
)
i
αip ·t
=
p−1
∑
Ht (αi )p ·ti
(αi ∈ Ft )
i=0
をみたすものがただ 1 つ存在する. このリフト Ht を t に付随するリフトと呼ぶことにする.
99
証明. ここでは後の議論のため, 証明の概略を述べる. 詳しくは [MZ] pp. 5∼6 を参照してもらい
たい.
まずはじめに, 各 α ∈ Ft に対し aα = α となる aα ∈ oK をひとつずつとり,
H0 : Ft → oK , α 7→ aα
と定めると, これはリフトとなる. そして n ∈ N+ に対し写像 Hn : Ft → oK を帰納的に
Hn
p−1
(∑
αi ·t
i
)
:=
i=0
p−1
∑
Hn−1 (αi )p ·ti
i=0
と定めると, これもまたリフトであり Hn (α) − Hn−1 (α) ∈ pn
K ( ∀n ≥ 1, ∀α ∈ Ft ) が成り立つ. そこ
で写像 Ht : Ft → oK を
Ht (α) := lim Hn (α)
n→∞
と定めると, これが求めるものとなる.
Ht は, 次のような性質をもつ:
命題 5.4.7. t ∈ oK を t ∈ pF なるもの, Ft を t に付随する局所体とし, Ht をリフトとする. さらに
∞
n
∩
M :=
opFt とおく. このとき任意の θ ∈ M, α ∈ Ft に対し,
n=0
Ht (α · t) = Ht (α) · t,
Ht (θ · α) = [θ] · Ht (α)
が成り立つ.
証明. 前者の等式について. いま α =
(αp−1 ·t)p +
p−1
∑
i=1
p−1
∑
i=0
i
αip · t ∈ Ft (αi ∈ Ft ) と表すと, α · t =
p−1
∑
i=0
αip · t
i+1
=
i
p
αi−1
·t だから
Ht (α·t) = Ht (αp−1 ·t)p +
p−1
∑
Ht (αi−1 )p ·ti
i=1
となる. 一方, Ht の定め方により Ht (α)·t = Ht (αp−1 )p·tp +
p−1
∑
Ht (αi−1 )p·ti となる. ここで n ∈ N+
i=1
の帰納法により, 任意の n ∈ N+ に対して Ht (αp−1 ·t)p − Ht (αp−1 )p ·tp ∈ pn
K となることがわかる
ので,
Ht (αp−1 ·t)p − Ht (αp−1 )p ·tp ∈
∩∞
n=1
pnK = {0}
が成り立ち, Ht (αp−1 ·t)p = Ht (αp−1 )p ·tp となる. よって Ht (α·t) = Ht (α)·t が成り立つ.
後者の等式も同様に示せる.
t に依存するリフトは Ht の他にも定義することができ, それは K × の位相と関わってくる. ここ
ではその定義を与える前に,Witt 環と呼ばれる環についての重要な定理をひとつ述べておく. Witt
環そのものの定義は少し煩雑なので, [Fu] を参照してもらいたい.
定理 5.4.8. F を標数 p ( > 0) の完全体, W [F ] を p に関する Witt 整域とし, W [F ] の商体を k とす
る. このとき写像 φ : k → R≥0 を, 0 ∈ W [F ], a = {an }n∈N0 , b = {bn }n∈N0 ∈ W [F ]−{0} に対し
(a)
(
)
:= p−(w(a)−w(b))
ただし w(a) := min{n ∈ N0 an ̸= 0}
φ(0) := 0,
φ
b
100
と定めると, これは well-defined な k の付値であり, k は完備離散付値体となる. さらに付値環は
W [F ], 素元は p = p·1, 剰余体は F となる.
証明. [Fu] pp. 446∼448 を参照.
ここでは有限体 κF についての Witt 環を考え, 特別なリフトを定義する.
以降 W [κF ] を p に関する κF の Witt 整域, その商体を k0 とし, K0 := k0 {{T }} と定める. K0 の
剰余体は κF ((T )) である.
定義 5.4.9. HT : FT = κF ((T )) → oK0 を T に付随するリフトとし
∑
∑
h : κF ((T )) → oK0 = ok0 {{T }} ,
αi T i 7→
[αi ]·T i
i
(αi ∈ κF )
i
{
}∞
と定める. そして写像の列 λi : κF ((T )) → κF ((T )) i=0 を次の関係式で定める:
h(α) =
∞
∑
(
)
HT λi (α) ·pi
(
)
α ∈ κF ((T )) .
i=0
∼
さらに t ∈ oK を t ∈ pF なるものとし, Ψt : κF ((T )) −→ Ft ,
∑
αi T i 7→
i
λ′i := Ψt ◦ λ ◦ Ψ−1
t : Ft → Ft と定めておく.
∑
αi T i を用いて
i
このときに t に付随するリフト Ht : Ft → oK を用いて
ht : Ft → oK , α 7→
∞
∑
)
(
Ht λ′i (α) ·pi
i=0
と定める.
次にこのリフト ht を用いて, K0 = k0 {{T }} を K に埋め込む写像を構成する.
定理 5.4.10. 定義 5.4.9 の記号のもとで t ∈ oK を t ∈ pF なるものとし, 写像 ft : K0 → K を
(∑
) ∑ (
)
(
)
ft
HT (αi )·pi =
Ht Ψt (αi ) ·pi
αi ∈ κF ((T ))
i
i
なるものとして定める. このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) ft は連続な単射環準同型, すなわち体の埋め込み写像となる. さらに ft (T ) = t.
(∑
) ∑ (
)
(
)
(ii) ft
h(αi )·pi =
ht Ψt (αi ) ·pi
αi ∈ κF ((T )) .
(
i
i
)
(
)
(※) HT κF ((T )) , h κF ((T )) はともに κF ((T )) の完全代表系であるから, K0 の元は
∑
∑
HT (αi )·pi や h(αi )·pi の形に p 進展開できることに注意する.
i
i
証明. (i) [MZ] p. 10 の証明本文を参照. ここでの ft は [MZ] での f1 に相当する.
(ii) ft の定義などから
ft
(∑
∞
) ∑ (
)
∑ (∑
(
) )
ft h(αi ) ·ft (pi ) =
ft
h(αi )·pi =
HT λj (α) ·pj ·pi
i
i
=
i
∞
∑(∑
i
j=o
)
∑ (
(
)
)
Ht (Ψ ◦ λj )(αi ) ·pj ·pi =
ht Ψt (αi ) ·pi
j=0
i
となるので, 与式が成り立つ.
101
さていよいよ, K × の位相を定める. これは, まず K に特別な位相を定めてそれを UK に制限し,
群同型 K × ≃ UK × Z (ただし Z は離散位相による位相群) を用いることで定義される ([Z] p. 14 を
参照).
ここでは UK の位相の定め方を 2 通り紹介する. ひとつは [MZ] や [Z] に記載されている K の位
相を UK に制限したものであり, もうひとつは筆者が考えた位相である. この 2 通りのやり方が同
じ位相を定めているということが, この節で述べたい重要な事実である.
初めに, [MZ] や [Z] に記載されている位相を紹介する. ただし K の剰余体である局所体 F には,
付値から定まる位相が入っているものとする.
定理 5.4.11. t ∈ oK を t ∈ pF なるもの, K の元の列 {πi }i∈Z を (πi ) = piK なるものとし,
e1 , · · · , ed ∈ oK を e1 , · · · , ed ∈ F が Ft 上の底となるようなものとする. さらに {Ui }i∈Z を F
における 0 ∈ F の近傍の列で i が十分大きいとき Ui = F となるようなものとし,
{∑
}
∞
d
∑
U{Ui }i∈Z :=
πi ·
ej ·ht (ai,j ) ai,j ∈ Ui , i0 ∈ Z
i=i0
j=1
と定める. このとき, Bt,{πi },{ej } を
{
Bt,{πi },{ej } := U{Ui }i∈Z {Ui } は F における 0 ∈ F の近傍の列で,
i が十分大きいとき Ui = F となるようなもの
}
と定めると, これを 0 ∈ K の近傍基として K に位相が定まる. さらにこれは t, {πi }, {ej } のとり方
によらず同じ位相を定める.
証明. [MZ] pp. 10∼20 を参照. ただし, 与えられた集合族が近傍基の公理 (注 5.4.12 を参照) をみた
すことは容易に示せる.
注 5.4.12. (近傍基の公理) X を空でない集合とし, 各 x ∈ X に対し X の部分集合の族 Vx が与え
られているとする. さらにこれらを集めた集合族 {Vx }x∈X が次の (i)∼(iii) をみたすとする:
(i) 任意の x ∈ X, V ∈ Vx に対し, x ∈ V .
(ii) 任意の x ∈ X, V1 , V2 ∈ Vx に対し, V3 ∈ Vx が存在して V3 ⊂ V1 ∩ V2 .
(iii) 任意の x ∈ X, V ∈ Vx , y ∈ V に対し, W ∈ Vy が存在して W ⊂ V .
このとき
{
}
O := U ⊂ X 任意の x ∈ U に対し, V ∈ Vx が存在して V ⊂ U
とおくと O は X の開集合系となり, この位相で X は位相空間となる. さらに各 x ∈ X に対し, Vx
は x の近傍基となる.
いまは, 定理 5.4.11 による K の位相を UK に制限したものについて考えたい. UK のこの位相は
次のような性質をもつ:
定理 5.4.13. 定理 5.4.11 の記号のもとで
{
}
∞
d
∑
∑
′
ai,j ∈ Ui
1 + U{U
:=
1
+
π
·
e
·h
(a
)
∈
U
i
j
t
i,j
K
i }i∈Z
i=0
j=1
102
と定め, BUK を
{
′
BUK := 1 + U{U
{Ui } は F における 0 ∈ F の近傍の列で,
}
i i∈Z
i が十分大きいとき Ui = F となるようなもの
}
と定める. この BUK を 1 ∈ UK の近傍基とする位相は, 定理 5.4.11 による K の位相を UK に制限
したものと一致する.
証明. 容易に示せる.
次に, 筆者が考えた UK の位相を紹介する:
定理 5.4.14. t ∈ oK を t が F の素元となるようなもの, ft : K0 ,→ K を定理 5.4.10 による埋め込
み写像とし, K の元の列 {πi }i∈Z を (πi ) = piK なるものとする.
このとき, UK の部分集合の族
{∑
}
∞
(t)
(t)
n
{1 + πK
·oK + Am }n,m∈N+ , ただし Am :=
πi ·ft (ai ) ai ∈ T m ·ok0 [[T ]]
i=0
を 1 ∈ UK の近傍基として, UK に位相が定まる.
証明. 与えられた集合族が近傍基の公理をみたすことを示せばよいが, それは容易である.
この定理による位相は, 実は 4 章補題 4.1.5 による位相の一般化となっている. このことを述べて
いるのが次の定理である:
定理 5.4.15. k を Qp の有限次拡大, K = k{{T }} とするとき, 定理 5.4.14 による UK の位相を
i
t = T, πi = πK
として適用すると, UK の部分集合の族
{
}
1 + πkn ·ok {{T }} + T m ·ok [[T ]]
n,m∈N+
はこの位相で 1 ∈ UK の近傍基となる.
定理を証明する前に, 補題を 1 つ用意する:
補題 5.4.16. k を Qp の有限次拡大, 有限体 Fq を k の剰余体とし, k0 を p に関する Witt 整域 W [Fq ]
の商体とする. さらに K := k{{T }}, K0 := k0 {{T }} と定め, ok0 (= W [Fq ]), ok における α ∈ Fq の
乗法的代表をそれぞれ [α]0 ∈ ok0 , [α]1 ∈ ok と表すことにする. このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) T ∈ K, T ∈ K0 にそれぞれ付随するリフト HT,K0 : Fq ((T )) → ok0 {{T }}, HT,K : Fq ((T )) →
ok {{T }} について, 任意の α ∈ Fq に対し
HT,K0 (α) = [α]0 ,
HT,K (α) = [α]1 .
(ii) fT : k0 {{T }} ,→ K を定理 5.4.10 による埋め込み写像とすると, fT (ok0 ) ⊂ ok . とくに任意の
α ∈ Fq に対し, fT ([α]0 ) = [α]1 .
証明. (i) 前者について示す. 定理 5.4.6 の証明において, とくに H0 : Fq ((T )) → ok0 {{T }} を
(∑
)
∑
H0
[αi ]0 ·T i
αi T i :=
i
i
103
と定めて HT を構成すると, 任意の α ∈ Fq をとったとき H0 (α) = [α]0 が成り立つ. さらに任意
( √ )
√
の n ∈ N+ をとると, Hn の定義より Hn (α) = Hn ( p α)p = Hn−1 ( p α)p であるから帰納的に
Hn (α) = [α]0 となる. よって HT (α) = lim Hn (α) = [α]0 が成り立つ. 後者も同様の議論で示せる.
n→∞
{
}
(ii) (i) により HT,K0 (Fq ) = [α]0 ∈ ok0 α ∈ Fq は Fq の完全代表系であるから, 任意の a ∈ oK
∞
∑
をとると a =
HT,K0 (αi )·pi ( αi ∈ Fq ) と表せる. すると
i=0
fT (a) = fT
∞
(∑
∞
) ∑
(
)
HT,K0 (αi )·pi =
HT,K ΨT (αi ) ·pi
i=0
=
∞
∑
i=0
∞
∑
HT,K (αi )·pi =
[αi ]1 ·pi ∈ ok
i=0
i=0
となるので, fT (ok0 ) ⊂ ok が成り立つ.
また α ∈ Fq とすると, いまの場合 ΨT = idFq ((T )) であるから
(
)
(
)
(
)
fT [α]0 = fT HT,K0 (α) = HT,K ΨT (α) = HT,K (α) = [α]1
が成り立つ.
定理 5.4.15 の証明. K = k{{T }} により oK = ok {{T }} であるから, 主張を示すには
(T )
(T )
Am = T m ·ok {{T }} を言えばよい. 補題 5.4.16 (ii) により Am ⊂ T m ·ok {{T }} は明らかであるか
ら, 逆を示す.
∞
{
}
∑
T m·
ai T i ∈ T m ·ok {{T }} とする. いま [α]1 ∈ ok α ∈ Fq は Fq の完全代表系だから,
i=0
ai =
∞
∑
j=0
[αi,j ]1 ·πkj ( αi,j ∈ Fq ) と表せる. すると
T m·
∞
∑
ai T i = T m ·
i=0
i=0 j=0
=
∞
∑
∞
∑
j=0
i=0
∞
(∑
)
πkj · fT
[αi,j ]0 ·T i+m
j=0
であり,
∞ ∑
∞
∞ (∑
∞
)
∑
∑
[αi,j ]1 ·T i ·πkj =
[αi,j ]1 ·T i+m ·πkj
i=0
[αi,j ]0 ·T i+m ∈ T m ·ok0 [[T ]] であるから, T m ·
j=0
∞
∑
(T )
ai T i ∈ Am となる. 従って
i=0
(T )
T m ·ok {{T }} ⊂ Am が成り立つ.
次の定理は, 定理 5.4.13 による UK の位相が筆者の考えた位相 (定理 5.4.14) と一致することを主
張するものである:
定理 5.4.17. t ∈ oK を t が F の素元となるようなもの, ft : K0 ,→ K を定理 5.4.10 による埋め込
i
み写像とし, πi := πK
と定める. また e1 := 1 と定めておく ( F = Ft により d = 1 である) .
このとき, この {πi }i∈Z を用いた定理 5.4.14 による位相で, 定理 5.4.13 での BUK は 1 ∈ UK の近
傍基となる.
′
証明. まず BUK の元 1+U{U
∈ B をとったとき, Ui′ :=
i}
BUK となるので, はじめから Ui ⊂ Ui+1 としてよい.
いま, UK の部分集合の族 B ′ を
104
∞
∩
j=i
′
′
Uj とおくと Ui′ ⊂ Ui+1
かつ 1+U{U
′} ∈
i
{ni }i∈Z は N0 ∪ {−∞} の点列で,
i∈Z
{
′
B ′ := 1 + U{p
ni
}
F
ni ≥ ni+1 かつ i が十分大きいとき ni = −∞ となるようなもの
}
と定める. このとき BUK と B ′ は同値な近傍基となる.
′
実際, B ′ ⊂ BUK によりまず B ′ の元は BUK による位相で 1 ∈ UK の近傍となる. さらに 1+U{U
∈
i}
BUK とするとき, 点列 {ni }i∈Z を
{
(
)
−∞
i ∈ Z が Ui = F をみたすとき
(
)
ni :=
min{n ∈ N0 pnF ⊂ Ui } 上記以外
′
′
と定めておくと U{p
⊂ U{U
が成り立つので, BUK は B ′ による位相で 1 ∈ UK の近傍基となる.
ni
}
i}
F
よって題意を示すには, B ′ が定理 5.4.14 による位相で 1 ∈ UK の近傍基となることをいえばよ
い.
′
まず B ′ の元 1 + U{p
が 1 ∈ UK の近傍であることを示す. いま {ni }i∈Z の条件により i0 ∈ Z
ni
}
F
があって, i ≥ ei0 なる任意の i ∈ Z に対して ni = −∞ が成り立つ. そこでこの i0 を用いると
ei0
′
1 + πK
·oK + An0 ⊂ 1 + U{p
ni
}
(t)
F
となることをいう.
(t)
ei0
e
1 + x ∈ 1 + πK
·oK + An0 とする. このとき (p) = peK = (πK
) であることに注意し εi,j ∈ UK を
ei+j
i j
n0
πK = εi,j ·p πK なるものとすると, y ∈ oK と ai ∈ T ·ok0 [[T ]] があって
1 + x = 1 + pi0 ·y +
∞
∑
πi ·ft (ai ) = 1 + pi0 ·y +
i=0
= 1 + pi0 ·y +
e−1
∑
e−1 ∑
∞
∑
ei+j
ft (aei+j )·πK
j=0 i=0
ft
j=0
∞
(∑
)
j
aei+j ·pi εi,j ·πK
i=0
(
)
と表せる. ここで ht (F ), h κF ((T )) はそれぞれ F, κF ((T )) の完全代表系であるから
y=
∞
∑
i
( αi ∈ F ),
ht (αi )·πK
i=0
∞
∑
aei+j ·pi =
i=0
と表せるが, aei+j ∈ T
n0
∞
∑
i
ht (αi )·πK
=
i=0
(
)
h(βi,j )·pi βi,j ∈ κF ((T ))
i=0
·ok0 [[T ]] によりとくに βi,j ∈ T
pi0 ·y = pi0 ·
∞
∑
e−1 ∑
∞
∑
n0
·κF [[T ]] となることがわかる. すると
j
ht (αei+j )εi,j ·pi+i0 πK
j=0 i=0
=
e−1 ∑
∞
∑
j
ht (αe(i−i0 )+j )εi−i0 ,j ·pi πK
,
j=0 i=i0
e−1
∑
j=0
ft
∞
(∑
e−1 ( ∑
∞
)
)
∑
j
j
aei+j ·pi εi,j ·πK
=
ft
h(βi,j )·pi εi,j ·πK
i=0
=
j=0
i=0
e−1 ∑
∞
∑
(
)
j
ht Ψt (βi,j ) εi,j ·pi πK
j=0 i=0
105
となるので,
1 + x = 1 + pi0 ·y +
e−1
∑
ft
∞
(∑
j=0
= 1+
e−1 ∑
∞ (
∑
)
j
aei+j ·pi εi,j ·πK
i=0
(
) )
j
ht (αe(i−i0 )+j )εi−i0 ,j + ht Ψt (βi,j ) εi,j ·pi πK
j=0 i=i0
|
{z
}
(⋆)
+
e−1 i∑
0 −1
∑
(
)
j
ht Ψt (βi,j ) εi,j ·pi πK
j=0 i=0
= 1+
e−1 ∑
∞
∑
ei+j
ht (γi,j )·πK
+
j=0 i=i0
e−1 i∑
0 −1
∑
(
) ei+j
ht Ψt (βi,j ) ·πK
j=0 i=0
と表せる. ただし γi,j ∈ F は (⋆) 部の πK 進展開により得られる元である. すると i ≥ i0 のときは
ei + j ≥ ei0 によって nei+j = −∞ となるので, γi,j ∈ F = p−∞
が成り立ち, また 0 ≤ i ≤ i0 − 1
F
nei+j
n0
′
のときは nei+j ≤ n0 だから, Ψt (βi,j ) ∈ pF ⊂ pF
が成り立つ. よって 1 + U{p
の定め方によ
ni
}
F
ei0
′
′
が成り立つ.
り 1 + x ∈ 1 + U{p
となるので, 1 + πK
·oK + An0 ⊂ 1 + U{p
ni
ni
}
}
(t)
F
F
′
これにより, B の元は 1 ∈ UK の近傍であることがわかった. 次に B ′ が 1 ∈ UK の近傍基となっ
ていることを示す.
任意の n, m ∈ N+ をとる. このとき点列 {ni }i∈Z で
′
n
1 + U{p
⊂ 1 + πK
·oK + Am
ni
}
(t)
F
となるものが存在することをいう.
いま ni ∈ N0 ∪ {−∞} を
{
ni :=
−∞
m
(i ≥ n)
(i < n)
と定めると, これが条件をみたすものとなる. 実際 1 + x = 1 +
∞
∑
i=0
′
πi · ht (ai ) ∈ 1 + U{p
とす
ni
}
F
i
ると, αi ∈ pn
K を用いて ai = Ψt (αi ) と表すことができ, さらに i < n のときは ni = m により
∞
∑
αi =
αi,j ·T j+m (αi,j ∈ κF ) と表せる. このとき
j=0
1+x=1+
∞
∑
∞
(
) ∑
(
)
πi · ht Ψt (αi ) =
πi · ft h(αi )
i=0
=1+
∞
∑
i=0
(
)
πi · ft h(αi ) +
n−1
∑
i=n
となるが,
∞
∑
i=n
i=0
∞
(∑
)
[αi,j ]0 ·T j+m
j=0
∞
n−1
(
)
(∑
)
∑
n
πi · ft h(αi ) ∈ πK
·oK ,
πi · f t
[αi,j ]0 ·T j+m ∈ A(t)
m が成り立つので, 1 + x ∈
(t)
n
1 + πK
·oK + Am
基となる.
πi · f t
i=0
となる. よって
′
1 + U{p
ni
F }
⊂
j=0
n
1 + πK
·oK
106
+ Am が成り立ち, B ′ は 1 ∈ UK の近傍
(t)
系 5.4.18. 定理 5.4.14 の記号のもとで, 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) UK の部分集合族
{1 +
n
πK
·oK
+
(t)
Am }n,m∈N+ ,
ただし
(t)
Am
:=
∞
{∑
}
πi ·ft (ai ) ai ∈ T m ·ok0 [[T ]]
i=0
を 1 ∈ UK の近傍基とする UK の位相は, t ∈ oK , {πi } のとり方によらず同じものとなる.
(ii) L/K を有限次拡大とするとき, (i) による UL の位相を UK へ制限したものと (i) による UK
の位相は一致する.
証明. (i) は定理 5.4.11 と定理 5.4.17 によりわかる. (ii) は [MZ] p. 20 を参照.
系 5.4.19. 定理 5.4.14 による位相で UK は Hausdorff 位相群となる.
証明. 4 章定理 4.1.2 により K の有限次拡大 k{{T }} が存在し, 4 章補題 4.1.5 により k{{T }} の位相
の Uk{{T }} への制限で Uk{{T }} は Hausdorff 位相群となるので, UK もまたそうである.
ここまでの議論により, UK に位相を定めることができた. K × の位相は, 群同型 K × ≃ UK × Z
が位相群の同型となるようなものとして定める.
次にこの位相を用いて K2 (K) に位相を定めるが, その前にいくつか言葉の定義などを述べる:
定義 5.4.20. (sequential saturation) X を位相空間, OX をその開集合系とするとき, X の部
˜X を
分集合の族 O
{
˜X := U ⊂ X 任意の x ∈ U と, OX に関して x に収束する X の点列 {xn }∞ に対し,
O
n=0
十分大きな n ∈ N+ について xn ∈ U
}
˜X は開集合系の条件を満たし X に新たな位相が定まるが, この O
˜X を OX の
と定める. このとき O
seq
˜X を備えた位相空間 X をとくに X と表すことにする
sequential saturation という. 位相 O
(集合としては X seq = X である) .
定義 5.4.21. G1 , G2 を位相群とするとき写像 f : G1 → G2 が点列連続であるとは, 任意の α ∈ G1
と G1 の任意の点列 {an }∞
n=0 に対し, lim an = a ならば lim f (an ) = f (a) が成り立つときにいう.
n→∞
i→∞
sequential saturation に関する性質のうちいくつかは [Fe] p. 63 に記載されている. それ以外で重
要な性質を述べておく:
命題 5.4.22. 次の (i)∼(v) が成り立つ:
(i) (X seq )seq = X seq .
(ii) 自然な写像 X seq → X , x 7→ x は連続写像である.
seq
(iii) 任意の x ∈ X と X の点列 {xn }∞
n=0 に対し, X の元として lim xn = x であることと X
n→∞
の元として lim xn = x であることは同値である.
n→∞
(iv) Y を位相空間とするとき, 写像 f : X → Y について, f が点列連続であることと f : X seq → Y
が連続であることは同値である (点列連続については注 5.4.21 を参照).
(v) X が Hausdorff 空間なら X seq もまた Hausdorff 空間である.
107
証明. いずれも容易に示せる.
この準備のもと, K2 (K) に位相を定める.
定理 5.4.23. K2 (K) の位相 O を, 次の 3 つの写像が点列連続となるような最も強い位相とする:
・ h : K × × K × → K2 (K) , (a, b) 7→ {a, b}K .
・ K2 (K) × K2 (K) → K2 (K) , (α, β) 7→ α + β.
・ K2 (K) → K2 (K) , α 7→ −α.
このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) O の sequential saturation は O 自身に等しい.
(ii) O によって K2 (K) は位相 Abel 群となる.
証明. はじめに, このような位相が存在することは確認すべきだが, それは容易に示せる. そして (i)
は O の定義により明らかで, (ii) は (i) と命題 5.4.22 を用いれば示せる.
次章以降では, K2 (K) にはこの位相が定められているものとして話を進めていくことになる. こ
の位相を備えた K2 (K) がどのような位相群であるか, 例えば局所コンパクト群であるかどうかな
どは興味深い問題である. この節の最後に, Minor K-群を少し変形したものである位相 Milnor K-群について述べる. これ
は 4 章定理 4.2.2 で触れた概念であり, 6 章でも用いることになる.
定義 5.4.24. (位相 Milnor K-群) K2 (K) の部分集合 Λ2 (K) を
Λ2 (K) :=
∩
{U ⊂ K2 (K) U は K2 (K) における 0 ∈ K2 (K) の近傍 }
と定める. このとき Λ2 (K) は K2 (K) の部分群となっているが, これを用いて
/
K2top (K) := K2 (K) Λ2 (K)
と定め, この K2top (K) を K の位相 Milnor K-群という. K2top (K) は K2 (K) からくる商位相を備
えた位相群である.
Λ2 (K) は次のような性質をもつ:
命題 5.4.25. 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) Λ2 (K) は K2 (K) の閉部分群であり, したがって K2top (K) は Hausdorff 位相群となる.
}
∩{
(ii) Λ2 (K) =
H ⊂ K2 (K) H は K2 (K) の開部分群で [K2 (K) : H] < +∞ .
(iii) Λ2 (K) =
∞
∩
n·K2 (K) .
n=1
証明. それぞれ [Fe] p. 64, p .68, p .69 を参照.
108
次の命題は, 位相 Milnor K-群とノルム写像の関係を述べている:
命題 5.4.26. L/K を有限次拡大とするとき, Milnor K-群のノルム NL/K : K2 (L) → K2 (K) につ
いて次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) NL/K は位相 Milnor K-群のノルム写像
NL/K : K2top (L) → K2top (K) , α + Λ2 (L) 7→ NL/K (α) + Λ2 (K)
を引き起こす. この写像もまた K2 -ノルム写像と呼ぶことにする.
(ii) 自然な写像
/
(
)
/
(
)
K2 (K) NL/K K2 (L) → K2top (K) NL/K K2top (L) ,
(
)
(
)
(
)
α + NL/K K2 (L) 7→ α + Λ2 (K) + NL/K K2top (L)
は well-defined な群同型である.
(
)
証明. (i) NL/K Λ2 (L) ⊂ Λ2 (K) を示せばよいが, それは命題 5.4.25 (iii) により明らかである.
(
)
(
)
(ii) まず NL/K K2top (L) = {α + Λ2 (K) ∈ K2top (K) α ∈ NL/K K2 (L) } が成り立つことか
ら, この写像は well-defined である. そして全射群準同型であることは明らか. 単射性については
(
)
Λ2 (K) ⊂ NL/K K2 (L) を示すことに帰着されるが, これは n := [L : K] とおいたとき命題 5.4.25
(iii) により
Λ2 (K) =
∞
∩
(
)
m·K2 (K) ⊂ n·K2 (K) ⊂ NL/K K2 (L)
m=0
となることからわかる.
109
第6章
混標数 2 次元局所類体論の証明
この章ではいよいよ, 2 次元局所類体論の証明を与える. ここでは最も興味深い場合である, 混標
数の場合を扱うこととする. この章での内容の多くは, 3 章で述べた主張を混標数 2 次元局所体の場
合に拡張したものである. そのため全体の議論の流れを 3 章と統一し, 丁寧な記述を心掛けた. ただ
し紙面の都合上, 証明は一部の命題や定理にのみ与えることにする.
以降とくに断らない限り, K を混標数 2 次元局所体とし
{
}
J ab (K) := L ⊂ K L は K の有限次 Abel 拡大体
と定める. また φ, oK , pK , πK をそれぞれ K の付値, 付値環, 付値イデアル, 素元とし, K の剰余
体を F で表す. F は標数 p ( > 0) の局所体であるから F = Fq ((T )) と表すことができ, さらに
[F : F p ] = p をみたすことに注意しておく. そして oF , pF , π F (ただし πF ∈ K) をそれぞれ F の
付値環, 付値イデアル, 素元とし, e ∈ N+ を (p) = peK なるものとしておく.
6.1
相互写像の構成
まず 3 章と同様に, 相互写像の構成を行う. そのための準備としていくつか重要な写像を紹介する.
定理 6.1.1. K を体, n ∈ N+ を K の標数で割り切れない自然数とし,
δ : K × → H 1 (K sep /K, µn ) を 3 章補題 3.6.1 での群準同型とする. このとき写像
∪
δ×δ
hn : K × × K × −→ H 1 (K sep /K, µn ) × H 1 (K sep /K, µn ) −→ H 2 (K sep /K, µn ⊗Z µn ),
(a, b)
7→
([fa ], [fb ])
7→
[fa ∪ fb ]
(ただし fa : G(K
sep
√
σ( n a)
√
/K) → µn , σ →
7
n
a
)
について, 次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) hn は双加法的写像であり, 任意の a ∈ K × − {1} に対し hn (a, 1 − a) = 0 をみたす. これによ
り hn は群準同型
hn : K2 (K) → H 2 (K sep /K, µn ⊗Z µn ) , {a, b} 7→ [fa ∪ fb ]
を引き起こす.
(ii) (i) で引き起こされた hn は hn (n·K2 (K)) = 0 をみたす. これにより hn は群準同型
/
hn : K2 (K) n·K2 (K) → H 2 (K sep /K, µn ⊗Z µn ) , {a, b} + n·K2 (K) 7→ [fa ∪ fb ]
を引き起こす.
/
(※) (ii) における群準同型 hn : K2 (K) n·K2 (K) → H 2 (K sep /K, µn ⊗Z µn ) を Galois 記号という.
110
定理を証明する前にまず, 補題を 1 つ用意する:
補題 6.1.2. L/K を有限次分離拡大, n ∈ N+ を K の標数で割りきれない自然数とし,
δK := δ : K × → H 1 (K sep /K, µn ) を 3 章補題 3.6.1 での群準同型とする. このとき次の (i)(ii) が成
り立つ:
(i) 次の 2 つの図式はともに可換である:
K×
δK
/ H 1 (K sep /K, µn )
ι
L×
δL
L×
ResL/K
δL
NL/K
K×
/ H 1 (K sep /L, µn )
/ H 1 (K sep /L, µn )
CorL/K
δK
/ H 1 (K sep /K, µn ) .
(ただし ι : K × ,→ L× は包含写像であり, ResL/K , CorL/K は 2 章 2.7 節で述べた写像)
(ii) 任意の [f ] ∈ H 1 (K sep /K, µn ), [g] ∈ H 1 (K sep /L, µn ) に対し,
(
)
CorL/K ResL/K ([f ]) ∪ [g] = [f ] ∪ CorL/K ([g]) .
証明. [G] p. 76, p. 107 を参照.
定理 6.1.1 の証明. (i) hn が双加法的であることは, カップ積が双加法的であることから成り立つ.
次に, 任意の a ∈ K × − {1} に対し hn (a, 1 − a) = 0 が成り立つことを示す.
いま K 上の多項式 X n − a ∈ K[X] を考え, これを X n − a = f1 (X) · · · fm (X) と既約元分解し
αi ∈ K sep を fi (X) の根のひとつとする ( n の条件により X n − a は分離多項式であることに注意
しておく) . さらに Ki := K(αi ) とおく. このとき αi の K 上の最小多項式は fi (X) であり, ノルム
の性質から
1 − a = f1 (1) · · · fm (1) = NK1 /K (1 − α1 ) · · · NKm /K (1 − αm )
となる. すると
m
m (
( ∏
) ∑
(
))
hn (a, 1 − a) = hn a,
NKi /K (1 − αi ) =
hn a, NKi /K (1 − αi )
i=1
i=1
が成り立つ. ここで補題 6.1.2 を用いると,
(
)
(
)
hn a, NKi /K (1 − αi ) = δK (a) ∪ δK NKi /K (1 − αi )
(
)
= δK (a) ∪ CorKi /K δKi (1 − αi )
(
)
= CorKi /K ResKi /K (δK (a)) ∪ δKi (1 − αi )
となるが, いま
ResKi /K (δK (a)) = δKi (a) = δKi (αim ) = 0
(
)
でるから, これらにより hn a, NKi /K (1 − αi ) = 0 となる. よって hn (a, 1 − a) = 0 が成り立つ.
(ii) これは hn (n·{a, b}) = hn ({an , b}) = δK (an ) ∪ δK (b) = 0 ∪ δK (b) = 0 により従う.
Galois 記号は, ζn ∈ K であるときには次のような性質をもつ:
111
定理 6.1.3. 定理 6.1.1 の仮定のもとでさらに ζn ∈ K とする. このとき次の (i)(ii) が成り立つ:
(i) 2 つの G(K sep /K)-同型
∼
∼
µn −→ Z/nZ , ζni 7→ i + nZ,
µn ⊗Z µn −→ µn , α ⊗ ζni 7→ αi
はそれぞれ群同型
H 1 (K sep /K, µn ) ≃ H 1 (K sep /K, Z/nZ),
H 2 (K sep /K, µn ⊗Z µn ) ≃ H 2 (K sep /K, µn )
を引き起こす. とくに前者の群同型は
[fa : G(K sep /K) → µn , σ 7→
√
σ( n a)
√
] ∈ H 1 (K sep /K, µn )
n
a
を [n·χa ] ∈ H 1 (K sep /K, Z/nZ) に写す. ただし a ∈ K × であり, χa は a に関する Kummer
(n)
(n)
指標である.
(ii) (i) での群同型によって 2 つのコホモロジーをそれぞれ同一視すると, 任意の a, b ∈ K × に対し
(
)
( (n)
)
hn {a, b}K + n·K2 (K) = (ι∗ )−1 [χb , a]K .
×
∼
ただし (ι∗ )−1 : Br(K)m ≃ H 2 (K/K, K )m −→ H 2 (K/K, µm ) は 3 章補題 3.6.3 での群準
同型 ι∗ から引き起こされる群同型である.
証明. (i) 容易に示せる.
(ii) まず (i) での群同型を同一視して次の図式を考えると, これは可換であることがわかる:
∪
H 1 (K sep /K, µn ) × H 1 (K sep /K, µn )
/ H 2 (K sep /K, µn ⊗Z µn ) = H 2 (K sep /K, µn )
∪
H 1 (K sep /K, µn ) × H 1 (K sep /K, Z/nZ)
′
×(−1)
/ H 2 (K sep /K, µn )
(ただし, 下段のカップ積 ∪′ は 3 章補題 3.6.4 によるもの)
すると, 任意の a, b ∈ K × をとったとき [fb ∪ fa ] = −[fb ∪′ n · χa ] となることがわかり,
(n)
(
)
(
)
(invK ◦ ι∗ ) hn ({a, b}K + n·K2 (K)) = (invK ◦ ι∗ ) − hn ({b, a}K + n·K2 (K))
(
)
= (invK ◦ ι∗ ) − [fb ∪ fa ]
(
)
= (invK ◦ ι∗ ) [fb ∪′ n · χ(n)
a ]
..
= ⟨ b·(K × )n , χ(n)
( . 3 章定義 3.6.5)
a ⟩n
..
= ( χ(n)
( . 3 章補題 3.6.7)
a , b )K
( (n)
)
= invK [ χa , b ]K
となる. よって invK が群同型であることから, 与式が成り立つ.
定理 6.1.4. 定理 6.1.1 の仮定のもとでさらに ζn ∈ K とすると, Galois 記号
/
hn : K2 (K) n·K2 (K) → H 2 (K sep /K, µn )
は群同型である.
112
証明. [Kat] p. 329 や [G] p. 255 を参照. とくに [G] では, ζn ∈ K を仮定しなくても Galois 記号は
群同型であると主張している.
次に, 3 章での invK に相当する写像について述べる.
定理 6.1.5. 任意の n ∈ N+ に対し, 次の (i)(ii) をみたす標準的な群同型
/
∼ 1
ηn,K : H 3 (K/K, µn ⊗Z µn ) −→ Z Z
n
を構成することができる:
(i) m ∈ N+ を自然数, L/K を有限次拡大とするとき, 次の2つの図式はともに可換である:
H 3 (K/K, µm ⊗Z µm )
ηm,K
ResL/K
H 3 (K/L, µm ⊗Z µm )
ηm,L
/
/ 1Z Z
m
H 3 (K/L, µm ⊗Z µm )
×[L:K]
CorL/K
/
/ 1Z Z
m
id
H 3 (K/K, µm ⊗Z µm )
/
/ 1Z Z
m
ηm,L
ηm,K
/
/ 1 Z Z.
m
(ii) 自然数 n, m ∈ N+ を m | n なるもの, G(K/K) -準同型 sm,n : µm ⊗Z µm → µn ⊗Z µn を
sm,n (α ⊗ β n/m ) = α ⊗ β
( ∀ α ∈ µm , ∀ β ∈ µn )
なるものとすると, 次の図式は可換である:
H 3 (K/K, µm ⊗Z µm )
ηm,K
/
/ 1Z Z
m
ι
(sm,n )∗
ηn,K
1 /
3
/
H (K/K, µn ⊗Z µn )
Z Z.
n
1 /
1 /
ただし (sm,n )∗ は sm,n のコホモロジー群への誘導写像であり, ι : Z Z ,→ Z Z は
m
n
(
)
1
1 n
ι
+Z = · +Z
m
n m
なる単射群準同型である (自然な包含写像).
証明. [Kat] pp. 340∼341 を参照.
これらの準備のもと, 相互写像の定義などに必要な双加法的写像を 2 つ構成する. その構成方法
は, 3 章定義 3.6.5 とよく似たものである:
定義 6.1.6. m ∈ N+ とする.
(i) 写像
/
(射影)
K × × Br(K)m −→ K × (K × )m × Br(K)m
∪
(⋆)
−→ H 1 (K/K, µm ) × H 2 (K/K, µm ) −→ H 3 (K/K, µm ⊗Z µm )
/
/
ηm,K 1
−→
Z Z ,→ Q Z
m
において, m に関する帰納的極限をとることにより得られる双加法的写像を
113
/
⟨ · , · ⟩K : K × × Br(K) → Q Z
と表す. ただし, (⋆) の部分は
/
δ : K × (K × )m → H 1 (K/K, µm )
(
)
3 章補題 3.6.1 での群準同型
×
∼
(ι∗ )−1 : Br(K)m ≃ H 2 (K/K, K )m −→ H 2 (K/K, µm )
(
)
3 章補題 3.6.3 での群準同型 ι∗ から引き起こされる群同型
によるものである.
(ii) 写像
/
(射影)
K2 (K) × X(K)m −→ K2 (K) m·K2 (K) × X(K)m
hm × m
−→ H 2 (K/K, µm ⊗Z µm ) × H 1 (K/K, Z/mZ)
∪
−→ H 3 (K/K, µm ⊗Z µm )
/
/
ηm,K 1
−→
Z Z ,→ Q Z
m
において, m に関する帰納的極限をとることにより得られる双加法的写像を
/
⟨ · , · ⟩K : K2 (K) × X(K) → Q Z
(
)
と表す [Kat] での記号の使い方に従い, (i) と同じ記号を用いる .
ただし m : X(K)m → H 1 (K/K, Z/mZ) は m 倍写像であり, カップ積は
µm ⊗Z µm × Z/mZ → µm ⊗Z µm , (α, i + Z) 7→ −i·α
(α ∈ µm ⊗Z µm , i ∈ Z )
によって引き起こされるものとする.
これらの写像は, 次の性質をみたす:
命題 6.1.7. L/K を有限次拡大とするとき, 次の (i)∼(iv) が成り立つ:
(i) 任意の a ∈ L× , ω ∈ Br(K) に対し, ⟨ a, ResL/K (ω) ⟩L = ⟨ NL/K (a), ω ⟩K .
(ii) 任意の a ∈ K × , ω ∈ Br(L) に対し, ⟨ a, ω ⟩L = ⟨ a, CorL/K (ω) ⟩K .
(iii) 任意の α ∈ K2 (K), χ ∈ X(K) に対し, ⟨ α, ResL/K (χ) ⟩L = ⟨ NL/K (α), χ ⟩K .
(iv) 任意の α ∈ K2 (K), χ ∈ X(L) に対し, ⟨ α, χ ⟩L = ⟨ α, CorL/K (χ) ⟩K .
証明. [Kat] p. 349 を参照.
次の命題は [Kat] では明確に述べられていないが, 重要な性質なのでここで述べる:
命題 6.1.8. m ∈ N+ を自然数とするとき, 任意の a, b ∈ K × , χ ∈ X(K)m に対し
⟨ a, [ χ, b ]K ⟩K = ⟨ {a, b}K , χ ⟩K
が成り立つ. ただし [ χ, b ]K ∈ Br(K) は基本双対写像による像 (2 章定義 2.6.9 参照) である.
114
証明. まず χ ∈ X(K)m とするとき [ χ, b ]K ∈ Br(K)m であることに注意する. いま 3 章補題 3.6.7
×
の証明本文によると, Br(K) ≃ H 2 (K/K, K ) という同型対応によって [ χ, b ]K ∈ Br(K)m は
×
[fb ∪ (m·χ)] ∈ H 2 (K/K, K ) と対応するので, 与式左辺は
(
)
⟨ a, [ χ, b ]K ⟩K = ηm,K [fa ∪ (fb ∪ m·χ)]
√ /√
となる (ただし fa は fa : G(K/K) → µm , σ 7→ σ( m a) m a なる写像) . 一方で与式右辺は
(
)
⟨ {a, b}K , χ ⟩K = ηm,K [(fa ∪ fb ) ∪ m·χ]
である. よって与式を示すには
[fa ∪ (fb ∪ m·χ)] = [(fa ∪ fb ) ∪ m·χ]
が成り立つことをいえばよい. とくに fa ∪ (fb ∪ m·χ) = (fa ∪ fb ) ∪ m·χ ∈ C 3 (G(K/K, µm ⊗Z µm )
となることを示す.
いま任意の σ1 , σ2 , τ ∈ G(K/K) をとると,
(
)
(
)
fa ∪ (fb ∪ m·χ) (σ1 , σ2 , τ ) = fa (σ1 ) ⊗ σ1 · (fb ∪ m·χ)(σ2 , τ )
(
)
iτ
= fa (σ1 ) ⊗ fb (σ2 )−iτ
ただし, iτ は χ(τ ) =
+ Z なる整数
m
= −iτ · fa (σ1 ) ⊗ fb (σ2 ) ,
(
)
(fa ∪ fb ) ∪ m·χ (σ1 , σ2 , τ ) = −iτ · (fa ∪ fb )(σ1 , σ2 )
= −iτ · fa (σ1 ) ⊗ fb (σ2 )
となる. よって fa ∪ (fb ∪ m·χ) = (fa ∪ fb ) ∪ m·χ ∈ C 3 (G(K/K, µm ⊗Z µm ) であり, 与式が成り
立つ. これらのもと, 相互写像を次のように定義する:
定義 6.1.9. 定義 6.1.6 (ii) の双加法的写像が引き起こす群準同型を
ρK : K2 (K) → X(K)∨ ≃ G(K ab /K) , α 7→ ⟨ α, · ⟩K
と表し, これを K の相互写像という. X(K) = lim X(K)m と 5 章命題 5.4.25(iii) により
−→
(
)
ρK Λ2 (K) = {0} となるので, ρK は群準同型
/
top
∨
ab
ρtop
K : K2 (K) = K2 (K) Λ2 (K) → X(K) ≃ G(K /K) , α + Λ2 (K) 7→ ⟨ α, · ⟩K
を引き起こすことがわかる. この ρtop
K もまた K の相互写像と呼ぶことにする.
3 章と同様に, ここから 4 章定理 4.2.1, 4 章定理 4.2.2 で述べた主定理の証明に入る. 証明の流れ
も 3 章と同様である. ここではまず, 定理の証明に必要な写像を用意する:
定理 6.1.10. 定義 6.1.6 での 2 つの双加法的写像が引き起こす群準同型
ΦK : Br(K) → (K × )∨ , ω 7→ ⟨ · , ω ⟩K ,
ΨK : X(K) → K2 (K)∨ , χ 7→ ⟨ · , χ ⟩K
について, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) ΦK を制限した写像 ΦK p : Br(K)p → (K × )∨ は単射群準同型である.
115
(ii) ΨK は単射群準同型であり,
{
}
Im ΨK = Homc (K2 (K), Q/Z) = f ∈ Hom(K2 (K), Q/Z) f は連続 .
(
)
(iii) 任意の ω ∈ Br(K) に対し, Ker ΦK (ω) = Nrd(ω/K) .
(※) [Kat] p. 348 や p. 366 ではより一般的な次の事実を主張している:
・ΦK は単射群準同型であり,
{
}
Im ΦK = Homc (K × , Q/Z) = f ∈ Hom(K × , Q/Z) f は連続 .
しかし本稿ではここまでの主張は不要なので, 必要な部分のみを述べた.
3 章ではこれに相当する定理 (3 章定理 3.1.7) の証明を後回しにした. ここでも同様に, 定理 6.1.10
を認めて先に進む. なお, 証明は 6.5 節で与えることにする.
)
(
(
)
以降 D K × := Homc (K × , Q/Z) , D K2 (K) := Homc (K2 (K), Q/Z) と定めておく.
6.2
同型定理の証明
この節では, 主定理のひとつである同型定理の証明を与える. 3 章 3.2 節も参考にしながら, 証明
を進めていく.
定理 6.2.1. (同型定理その 1) L/K を有限次 Abel 拡大 (すなわち L ∈ J ab (K)) とするとき, 写像
/
(
)
(
)
ρL/K : K2 (K) NL/K K2 (L) → G(L/K) , α + NL/K K2 (L) 7→ ρK (α)L
は well-defined な群同型である.
定理を証明する前に, 補題を 1 つ用意する:
補題 6.2.2. ℓ ∈ N+ を素数とするとき, 任意の α ∈ K2 (K) に対し a, b ∈ K × が存在して
α ≡ {a, b}K
mod ℓ·K2 (K)
が成り立つ.
証明. ℓ ̸= p と ℓ = p のときで場合を分ける.
(ℓ ̸= p のとき)
(1)
まず Milnor K-群 K2 (K) の 1 次単数群 U1 K2 (K) や剰余体である局所体 F の 1 次単数群 UF
などについて, 2 章定理 2.8.4 と 5 章命題 5.1.3 により次の (i)∼(iv) が成り立つ:
(i) U1 K2 (K) ⊂ ℓ·K2 (K) .
(ii) U1 K2 (F ) ⊂ ℓ·K2 (F ) .
/ ℓ
p
× p
× p
(iv) UF UF → κ×
F/(κF ) , a·UF 7→ a·(κ ) は群同型.
すると, これらに加え 5 章命題 5.2.5 による 2 つの群同型
/
K2 (K) U1 K2 (K) ≃ K2 (F ) ⊕ F × ,
/
×
K2 (F ) U1 K2 (F ) ≃ K2 (κF ) ⊕ κ×
F = κF
116
(iii) K2 (κF ) = {0} .
と局所体 F に関する自然な群同型
/
F × (F × )ℓ ≃ UF /UFℓ × Z/ℓZ , επFn ·(F × )ℓ 7→ (ε·UFℓ , n + ℓZ)
(ただし ε ∈ UK , n ∈ Z)
などを用いることにより, 次の群同型を得る:
(
)/(
)
/
/
/
∼
f : K2 (K) ℓ·K2 (K) −→ K2 (K) U1 K2 (K)
ℓ·K2 (K) U1 K2 (K)
)/(
)
∼ (
−→ K2 (F ) ⊕ F ×
ℓ·K2 (F ) ⊕ (F × )ℓ
/
/
∼
−→ K2 (F ) ℓ·K2 (F ) × F × (F × )ℓ
(
)/(
)
/
/
∼
−→ K2 (F ) U1 K2 (F )
ℓ·K2 (F ) U1 K2 (F ) × UF /UFℓ × Z/ℓZ
∼
× ℓ
×
× ℓ
−→ κ×
F/(κF ) × κF/(κF ) × Z/ℓZ .
(
)
そこで, f {a, b}K + ℓ·K2 (K) について調べる.
×
m
n
いま巡回群 κ×
F の生成元を θ mod pF ∈ κF ( θ ∈ UK ) とし, a = ε1 πK , b = ε2 πK , (ε1 ) =
′
′
pnF , (ε2 ) = pm
F と表す. このとき θ を用いて
i
′
j
′
ε1 = θ · π nF · (1 + x·πF ), ε2 = θ · π m
F · (1 + y·πF )
(ただし i, j ∈ N+ であり, また x, y ∈ UK は x, y ∈ oF なるもの)
(1)
i
′
j
′
m
ℓ
と表すことができ, UF ⊂ UFℓ により ε1 ≡ θ · π n
F , ε2 ≡ θ · π F mod UF が成り立つ. すると, 上記
による群同型 f の定め方から
}
(
) (
)
× ℓ
ℓ
′
′
f {a, b}K + ℓ·K2 (K) = (c mod pF )·(κ×
F ) , (d mod pF )·(κF ) , mn − m n + ℓZ ,
(
) (⋆)
′
′
′
′
ただし c = (−1)n m · θim −jn , d = (−1)nm · θim−jn ∈ UK
となることがわかる.
さて, 任意の α ∈ K2 (K) をとる. α ≡ {a, b}K mod ℓ·K2 (K) となる a, b ∈ K × の存在をいうに
(
)
× ℓ
×
× ℓ
は, f の単射性により f α + ℓ·K2 (K) ∈ κ×
F/(κF ) × κF/(κF ) × Z/ℓZ が (⋆) での右辺の形で表す
ことができればよい. これは, 計算によって示すことができる.
したがってこの場合, α ≡ {a, b}K mod ℓ·K2 (K) となる a, b ∈ K × が存在する.
(ℓ = p のとき)
この場合の証明は複雑であるため, ここでは省略することにする. 証明は [Kat] pp. 356∼357 に記
載されている.
定理 6.2.1 の証明. 性質をひとつずつ順番に示していく.
(well-defined 性)
(
)
α ∈ K2 (L) とするとき ρK NL/K (α) = idL が成り立つことを言えばよい. いま任意の χ ∈
L
(
)
X(L/K) をとると, ρK NL/K (α) ∈ X(L/K)∨ と見なしたとき命題 6.1.7 から
)
(
)
(. .
. χ ∈ X(L/K)
ρK NL/K (α) (χ) = ⟨ NL/K (α), χ ⟩K = ⟨ α, ResL/K (χ) ⟩K = 0
(
)
(
)
が成り立つので, ρK NL/K (α) = 0 ∈ X(L/K)∨ , つまり ρK NL/K (α) = idL が成り立つ.
L
(準同型性)
明らかである.
117
(全射性)
(
/
)
H := ρL/K K2 (K) NL/K (K2 (L)) とおき, H = X(L/K)∨ が成り立つことを示す. 2 章命題
∩
2.5.4 より
Ker h = {0} を示せばよい.
h∈H
(
)
∩
任意の χ ∈
Ker h ⊂ X(L/K) をとる. いま定理 6.1.10 より ΨK は単射だから, ΨK (χ) = 0
h∈H
(
)
をいえば χ = 0 が成り立つ. そこで任意の α ∈ K2 (K) をとると, ρL/K α + NL/K (K2 (L)) ∈ H だ
から
(
)
ΨK (χ)(α) = ⟨ α, χ ⟩K = ρL/K α + NL/K (K2 (L)) (χ) = 0
∩
が成り立つ. よって ΨK (χ) = 0, つまり χ = 0 が成り立つ. したがって
Ker h = {0} となり,
h∈H
ρL/K は全射である.
(単射性)
これまでの議論で ρL /K は全射群準同型とわかったので, 単射性をいうには
(
)
[ K2 (K) : NL/K K2 (L) ] ≤ ♯(G(L/K)) = [ L : K ]
(⋆)
を示せばよい. これは 3 章定理 3.2.1 の証明と同様に, L/K を素数次の巡回拡大として不等式 (⋆) を
いえば十分である.
そこで ℓ を素数, L/K を ℓ 次巡回拡大とし, σ を G(L/K) の生成元とする. このとき ρL/K は単
射であることを示す.
(
)
任意の α ∈ K をとり, ρL/K α + NL/K (K2 (L)) = idL ∈ G(L/K) と仮定する. いま補題 6.2.2 に
(
)
より a, b ∈ K × があって α ≡ {a, b}K mod ℓ·K2 (K) が成り立ち, また ℓ·K2 (K) ⊂ NL/K K2 (L)
となるので,
(
)
(
)
α + NL/K K2 (L) = {a, b}K + NL/K K2 (L)
(
)
(
)
が成り立つ. すると 0 = ρL/K α + NL/K (K2 (L) = ρL/K {a, b}K + NL/K (K2 (L)) ∈ X(L/K)∨
により, とくに X(L/K) の元
i
χ : G(L/K) → Q/Z , σ i 7→ + Z
ℓ
(
)
に対しても ρL/K ({a, b}K + NL/K K2 (L)) (χ) = 0 が成り立つ ( Kχ = L であることに注意する).
このとき命題 6.1.8 により
(
(
)
0 = ρL/K {a, b}K + NL/K (K2 (L)))(χ) = ⟨ {a, b}K , χ ⟩K = ⟨ a, [ χ, b ]K ⟩K = ΦK [ χ, b ]K (a)
であるから,
(
)
(
/ )
a ∈ Ker ΦK ([ χ, b ]K ) = Nrd [ χ, b ]K K
(
)
(
)
が成り立つ. よって 5 章定理 5.3.8 により {a, b}K ∈ NKχ /K K2 (Kχ ) = NL/K K2 (L) となるので,
(
)
(
)
α + NL/K K2 (L) = {a, b}K + NL/K K2 (L) = 0
が成り立ち, ρL/K は単射となる. したがって ℓ 次巡回拡大 L/K について不等式 (⋆) が成り立つ.
同型定理からは, 次の系が得られる:
系 6.2.3. L1 , L2 ∈ J ab (K) とするとき, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(
)
(
)
(
)
(i) NL1 ·L2 /K K2 (L1 ·L2 ) = NL1 /K K2 (L1 ) ∩ NL2 /K K2 (L2 ) .
118
(
)
(
)
(
)
(ii) NL1 ∩L2 /K K2 (L1 ∩ L2 ) = NL1 /K K2 (L1 ) + NL2 /K K2 (L2 ) .
(
)
(
)
(iii) L1 ⊂ L2 ⇐⇒ NL1 /K K2 (L1 ) ⊃ NL2 /K K2 (L2 ) .
証明. 3 章系 3.2.2 と全く同様に示せる.
次に, 位相 Milnor K-群を用いた同型定理について述べる.
定理 6.2.4. (同型定理その 2) L ∈ J ab (K) とするとき, 写像
/
( top
)
( top
)
top
top
ρtop
L/K : K2 (K) NL/K K2 (L) → G(L/K) , α + NL/K K2 (L) 7→ ρK (α) L
は well-defined な群同型である.
証明. ρL/K が well-defined な群同型であることと 5 章命題 5.4.26 (ii) により, 明らかである.
この同型定理からも先ほどと同様に, 次の系が得られる:
系 6.2.5. L1 , L2 ∈ J ab (K) とするとき, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(
)
(
)
(
)
(i) NL1 ·L2 /K K2top (L1 ·L2 ) = NL1 /K K2top (L1 ) ∩ NL2 /K K2top (L2 ) .
)
)
(
)
(
(
(ii) NL1 ∩L2 /K K2top (L1 ∩ L2 ) = NL1 /K K2top (L1 ) + NL2 /K K2top (L2 ) .
(
)
(
)
(iii) L1 ⊂ L2 ⇐⇒ NL1 /K K2top (L1 ) ⊃ NL2 /K K2top (L2 ) .
証明. 3 章系 3.2.2 と全く同様に示せる.
6.3
存在定理の証明
この節では, はじめに有限次 Abel 拡大による K2 -ノルム写像の像について述べ, そのあと存在定
理の証明に入る. [Kat] では存在定理の証明が簡潔に記載されているが, ここではそれを詳しく説明
することにする.
以降, 混標数 2 次元局所体 K に対し
(
)
{
}
Of K2 (K) := H ⊂ K2 (K) H は K2 (K) の開部分群で, [ K2 (K) : H ] < +∞
}
(
)
{
Of K2top (K) := H ⊂ K2top (K) H は K2top (K) の開部分群で, [ K2top (K) : H ] < +∞
と定める.
定理 6.3.1. L ∈ J ab (K) とするとき, ノルム写像 NL/K : K2top (L) → K2top (K) について次の (i)(ii)
が成り立つ:
−1
(i) K2top (K) の任意の開部分群 H に対し, NL/K
(H) は K2top (L) の開部分群である.
(ii) K2top (L) の任意の閉部分群 H ′ に対し, NL/K (H ′ ) は K2top (K) の閉部分群である.
(
)
(
)
(iii) NL/K K2top (L) ∈ Of K2top (K) .
119
証明. (i)(ii) は [Fe] p. 73 を参照. (iii) について. いまとくに K2top (K) 自身が K2top (K) の閉部分
(
)
群であるから, (ii) により NL/K K2top (L) は K2top (K) の閉部分群である. すると同型定理から
(
)
)
(
[K2top (K) : NL/K K2top (L) ] = [L : K] < +∞ となるので, NL/K K2top (L) は K2top (K) の開部分
(
)
群にもなる (一般に, 位相群の指数有限な閉部分群は開部分群でもある) . よって NL/K K2top (L) ∈
)
(
Of K2top (K) が成り立つ.
系 6.3.2. L ∈ J ab (K) とするとき, ノルム写像 NL/K : K2 (L) → K2 (K) について次の (i)(ii) が成
り立つ:
−1
(i) K2 (K) の任意の開部分群 H に対し, NL/K
(H) は K2 (L) の開部分群である.
(ii) K2 (L) の任意の開部分群 H ′ に対し, NL/K (H ′ ) は K2 (K) の開部分群である.
(
)
(
)
(iii) NL/K K2 (L) ∈ Of K2 (K) .
証明. (i) sK : K2 (K) → K2top (K) , sL : K2 (L) → K2top (L) をそれぞれ自然な射影とする. いま
K2 (K) の任意の開部分群 H をとると, sK は開写像だから sK (H) は K2top (K) の開部分群となり,
(
)
−1
定理 6.3.1(i) によって NL/K
sK (H) は K2top (L) の開部分群となる. このとき Λ2 (K) の定義より
Λ2 (K) ⊂ H であることに注意すると
( −1 (
))
−1
NL/K
(H) = s−1
L NL/K sK (H)
−1
であることがわかるので, NL/K
(H) は K2 (L) の開部分群となる.
(ii) (i) と同様に示せる.
(iii) 定理 6.3.1(iii) の証明と同様の議論で示すことができる.
(※) 系 6.3.2(ii) では条件を開部分群に限って述べた. これは, sL が閉写像であるとは限らず (i) と
同じやり方では証明できないことへの対処である.
定理 6.3.3. (存在定理その 1) n ∈ N+ とし,
(
)
(
)
Of K2 (K) n := {H ∈ Of K2 (K) [ K2 (K) : H ] = n},
}
{
J ab (K)n := L ⊂ K L は K の n 次 Abel 拡大体
と定める. このとき写像
(
)
(
)
Φn : J ab (K)n → Of K2 (K) n , L 7→ NL/K K2 (L)
は全単射となる.
(
)
(
)
証明. まず任意の L ∈ J ab (K)n をとると, NL/K K2 (L) ∈ Of K2 (K) n であることに注意する.
(
)
実際これは, 定理 6.2.1 より [K2 (K) : NL/K K2 (L) ] = [L : K] = n となることと定理 6.3.2(iii) か
ら従う.
(単射性)
系 6.2.3(iii) より従う.
(全射性)
/
(
)
任意の H ∈ Of K2 (K) n をとる. s : K2 (K) → K2 (K) H を自然な射影とすると, s の双対写
(
/ )∨
(
)∨
像 s∨ : K2 (K) H → K2 (K) は単射であり
120
((
/ )∨ )
(
)
s K2 (K) H
⊂ Homc (K2 (K), Q/Z) = D K2 (K)
(
)
が成り立つ. するといま定理 6.1.10 より ΨK : X(K) → D K2 (K) は群同型だから, ΨK の定義域
を制限することにより群同型
( ((
/ )∨ )) ∼ ((
/ )∨ )
ΨK : Ψ−1
−→ s K2 (K) H
K s K2 (K) H
( ((
/ )∨ ))
を得る. このとき Ψ−1
は X(K) の有限部分群となることが,
K s K2 (K) H
(
)
(
((
/
)
))
((
/ )∨ )
(
/ )
∨
♯ Ψ−1
= ♯ K2 (K) H
= ♯ K2 (K) H = n < +∞
K s K2 (K) H
( ((
/ )∨ ))
によりわかる. よって 3 章補題 3.3.5 より, L ∈ J ab (K) があって X(L/K) = Ψ−1
K s K2 (K) H
/ )∨
∼ (
が成り立つ. すると, 群同型 (s∨ )−1 ◦ ΨK : X(L/K) −→ K2 (K) H について次の図式は可換と
なる:
K2 (K)
s′
/
(
)
/ K2 (K) NL/K K2 (L)
ρL/K
/ G(L/K)
s
/
K2 (K) H
∼
/ ((K2 (K)/H )∨ )∨
((s∨ )−1 ◦ ΨK )∨
≀
/ X(L/K)∨ = (G(L/K)∨ )∨
/
(
)
(ただし s′ : K2 (K) → K2 (K) NL/K K2 (L) は自然な射影)
(
)
よって Φn (L) = NL/K K2 (L) = Ker(ρL/K ◦ s′ ) = H が成り立つので, Φn は全射である.
次に, 位相 Milnor K-群を用いた存在定理について述べる.
定理 6.3.4. (存在定理その 2) 定理 6.3.3 の記号のもとでさらに
)
)
(
(
Of K2top (K) n := {H ∈ Of K2top (K) [ K2top (K) : H ] = n},
と定める. このとき写像
(
)
(
)
Φn : J ab (K)n → Of K2top (K) n , L 7→ NL/K K2top (L)
は全単射となる.
証明. s : K2 (K) → K2top (K) を自然な射影とする. Φn の全単射性を示すには, 定理 6.3.3 により
写像
(
)
(
)
Of K2 (K) n → Of K2top (K) n , H 7→ s(H)
(
)
の全単射性をいえばよいが, これは任意の H ⊂ Of K2 (K) に対し Λ2 (K) ⊂ H であることを用い
れば容易に示せる.
6.4
相互写像の性質
この節では 3 章 3.4 節と同様に, 相互写像 ρK , ρtop
K の性質について調べる. はじめに, 3 章でも用
いた補題を再度述べておく:
{
}
補題 6.4.1. (3 章補題 3.4.1) G を位相群とし, N を N ⊂ N ⊂ G N は G の正規部分群 なるも
のとする. さらに N は次の (a)(b) をみたすと仮定する:
121
(a) 任意の N1 , N2 ∈ N に対し, N3 ∈ N があって N3 ⊂ N1 ∩ N2 .
(b)
∩
N = {1}.
def
このとき N1 , N2 ∈ N に対し N1 ≤ N2 ⇐⇒ N1 ⊃ N2 と定めることにより, (N , ≤) は有向集合
となる. さらに 2 章命題 2.4.13 と同様の射影系 {G/N, fN1 ,N2 } と射影的極限 lim G/N を考えると,
←−
N
写像
θ : G → lim G/N , g 7→ (g mod N )N
←−
N
は連続な単射群準同型となり, 像 θ(G) は lim G/N の中で稠密となる.
←−
N
この補題を用いて, 次の定理を証明する.
定理 6.4.2. 次の (i)(ii) が成り立つ:
( top
)
top
ab
(i) 相互写像 ρtop
K : K2 (K) → G(K /K) は連続な単射群準同型で, 像 ρK K2 (K) は
G(K ab /K) の中で稠密となる.
(
)
(ii) 相互写像 ρK : K2 (K) → G(K ab /K) は連続な群準同型で, 像 ρK K2 (K) は G(K ab /K) の
中で稠密となる (単射とは限らない).
(
)
証明. (i) G = K2top (K), N = {NL/K K2top (L) L ∈ J ab (K)} として補題 6.4.1 を用いることを
考える. まずこの N が補題 6.4.1 の仮定 (a)(b) をみたすことを確かめる.
((a) について)
これは系 6.2.3 (i) より明らか.
((b) について)
∩
α + Λ2 (K) ∈ N とすると, 任意の L ∈ J ab (K) に対し βL ∈ K2 (L) があって
(
)
α + Λ2 (K) = NL/K βL + Λ2 (L) = NL/K (βL ) + Λ2 (K)
(
)
(
)
となるので, α ∈ NL/K K2 (L) + Λ2 (K) ⊂ NL/K K2 (L) が成り立つ. ただし 5 章命題 5.4.25 (ii)
(
)
により Λ2 (K) ⊂ NL/K K2 (L) であることに注意する. このとき存在定理 (定理 6.3.3) と 5 章命題
5.4.25 (ii) を用いると
α∈
となるので,
∩
∩
(
) ∩ (
)
NL/K K2 (L) = Of K2 (K) = Λ2 (K)
L∈J ab (K)
N = {0} が成り立つ.
以上より N は補題 3.4.1 の仮定 (a)(b) をみたすので, 写像
(
/
(
(
(
))
))
θ : K2top (K) → lim K2top (K) NL/K K2top (L) , α 7→ α·NL/K K2top (L) L
←−
L
(
(
)
/
(
))
は連続な単射群準同型であり, 像 θ K2top (K) は lim K2top (K) NL/K K2top (L) の中で稠密と
←−
L
なる.
/
( top
)
top
ここで, 同型定理 (定理 6.2.4) による群同型 ρtop
L/K : K2 (K) NL/K K2 (L) → G(L/K) につ
いて, L ∈ J ab (K) に関する射影的極限をとって得られる位相群の同型
(
/
( top
))
top
K
:
lim
(K)
N
K
→ lim G(L/K) ≃ G(K ab /K)
lim ρtop
(L)
L/K
2
2
←−
←− L/K ←−
L
L
L
122
top
を考える. この写像は上記の θ と合成することで写像 ρtop
K を与えることがわかる. よって ρK は連
続な単射群準同型であり, 像は G(K ab /K) の中で稠密となる.
top
(ii) ρK は ρtop
K と自然な射影 K2 (K) → K2 (K) の合成写像であるから, (i) により題意が示され
る.
6.5
写像 ΦK , ΨK の性質
この節では定理 6.1.10 の証明を行う. この定理の証明は, 3 章 3.5 節と同様にまず Hilbert 記号の
代わりとなるものを用意し, その非退化性を示すことから始める.
定理 6.5.1. ζp ∈ K と仮定するとき, 定理 6.1.6 (i) の写像を用いて構成した双加法的写像
/
/
1 /
εp,1 : K2 (K) p·K2 (K) × K × (K × )p → Z Z ,
p
(
)
(
)
× p
α + p·K2 (K) , a·(K ) 7→ ⟨ a , (ι∗ ◦ hp ) α + p·K2 (K) ⟩K
(ただし ι∗ は定理 6.1.3 で用いた群同型)
と定理 6.1.6 (ii) の写像を用いて構成した双加法的写像
/
/
1 /
εp,2 : K2 (K) p·K2 (K) × K × (K × )p → Z Z ,
p
(
)
(p)
α + p·K2 (K), a·(K × )p 7→ ⟨ α , χa ⟩K
について, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) 任意の a, b, c ∈ K × に対し
(
)
(
)
εp,1 {b, c}K + p·K2 (K) , a·(K × )p = εp,2 {a, b}K + p·K2 (K) , c·(K × )p .
(ii) εp,1 = εp,2 .
(iii) εp := εp,1 = εp,2 は非退化な双加法的写像である.
証明. (i) 任意の a, b, c ∈ K × をとると, 定理 6.1.3 (ii) と命題 6.1.8 により
(
)
(
)
εp,1 {b, c}K + p·K2 (K) , a·(K × )p = ⟨ a, (ι∗ ◦ hp ) {b, c}K + p·K2 (K) ⟩K
= ⟨ a, [ χ(p)
c , b ]K ⟩K
= ⟨ {a, b}K , χ(p)
c ⟩K
(
)
× p
= εp,2 c·(K ) , {a, b}K + p·K2 (K)
となるので与式が成り立つ.
(ii) 任意の a, b ∈ K × をとると, (i) と {a, b}K = −{b, a}K により
(
)
(
)
εp,1 {b, c}K + p·K2 (K) , a·(K × )p = εp,2 {a, b}K + p·K2 (K) , c·(K × )p
(
)
= εp,2 − {b, a}K + p·K2 (K) , c·(K × )p
(
)
= −εp,2 {b, a}K + p·K2 (K) , c·(K × )p
(
)
= −εp,1 {a, c}K + p·K2 (K) , b·(K × )p
(
)
= εp,1 {c, a}K + p·K2 (K) , b·(K × )p
(
)
= εp,2 {b, c}K + p·K2 (K) , a·(K × )p
となるので, εp,1 = εp,2 が成り立つ.
123
(iii) 証明は 3 章定理 3.5.7 と同様に, 2 章定理 2.8.7 と 5 章定理 5.2.7 で紹介した部分商
/
(i) / (i+1)
, Vi K2 (K) Vi+1 K2 (K)
VK VK
を用いて, εp の定義域を制限した写像に帰着して考える. まず, ζp ∈ K の仮定のもとでの部分商
/
(i) / (i+1)
, Vi K2 (K) Vi+1 K2 (K) の構造を確認しておく:
VK VK
定理 6.5.2. 次の (i)∼(vi) が成り立つ:
(−1) / (0)
(0)
(i) Fp → VK
VK , n + pZ 7→ π n ·(K × )p mod VK は群同型.
/
(0) / (1)
(1)
p
(ii) F × (F × )p → VK VK , x·(F × )p 7→ x·UK
mod VK は群同型.
(iii) 1 ≤ i < e˜ かつ p - i なる任意の i に対し, ξ ∈ oK を (ξ) = piK なるものとすると
(i) /
F → VK
(i+1)
VK
(i+1)
p
, x 7→ (1 + ξx)·UK
mod VK
は群同型.
i/p
(iv) 1 ≤ i < e˜ かつ p | i なる任意の i に対し, η ∈ oK を (η) = pK なるものとすると
/
(i) / (i+1)
(i+1)
p
F F p → VK VK
, x + F p 7→ (1 + η p x)·UK
mod VK
は群同型.
e˜/p
(v) η ∈ oK を (η) = pK なるものとすると
/
(˜
e)
p
F ℘(F ) → VK , x + ℘(F ) 7→ (1 + η p x)·UK
(
)
ただし ℘(F ) = {αp − α α ∈ F }
は群同型.
証明. 2 章定理 2.8.7 により明らか.
定理 6.5.3. 次の (i)∼(iv) が成り立つ:
/
(i) F ×/(F × )p → V0 K2 (K) V1 K2 (K) , x·(F × )p 7→ {x, πK } + p·K2 (K) mod V1 K2 (K)
は群同型.
(ii) 1 ≤ i < e˜ かつ p - i のとき, ξ ∈ oK を (ξ) = piK なるものとすると
/
dy
ΩF/Z → Vi K2 (K) Vi+1 K2 (K) , x·
7→ {1 + ξx, y} + p·K2 (K) mod Vi+1 K2 (K)
y
は群同型.
i/p
(iii) 1 ≤ i < e˜ かつ p | i のとき, η ∈ oK を (η) = pK なるものとすると
/
/
F F p → Vi K2 (K) Vi+1 K2 (K) , x + F p 7→ {1 + η p x, πK } + p·K2 (K) mod Vi+1 K2 (K)
は群同型.
e˜/p
(iv) η ∈ oK を (η) = pK なるものとすると
124
/
)
/
(
ΩF/Z (1 − cF )ΩF/Z ⊕ F ℘(F ) → Ve˜K2 (K) ,
(x·
(ただし cF
dy
+ (1 − cF )ΩF/Z , z + ℘(F )) 7→ {1 + η p x, y} + {1 + η p z, πK }
y
: ΩF/Z → ΩF/Z は Cartier 作用素, そして
(1 − cF )ΩF/Z := {ω − cF (ω) ω ∈ ΩF/Z }, ℘(F ) = {αp − α α ∈ F })
は群同型.
証明. 5 章定理 5.2.7 により明らか.
次に, εp の定義域を制限した写像について述べる:
定理 6.5.4. 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) 写像
(0) /
(0)
εp : Ve˜K2 (K) × VK
(1)
VK →
1 / (
(1) )
p
Z Z , α + p·K2 (K) , a·UK
mod VK 7→ ⟨ α , χ(p)
a ⟩K
p
は well-defined で非退化な双加法的写像である.
(ii) 1 ≤ i < e˜ なる任意の i に対し, 写像
/
1 /
(i) / (i+1)
(i)
→ Z Z,
εp : Ve˜−i K2 (K) Ve˜−i+1 K2 (K) × VK VK
p
(
(i+1) )
(p)
p
α + p·K2 (K) mod Ve˜−i+1 K2 (K) , a·UK
mod VK
7→ ⟨ α , χa ⟩K
は well-defined で非退化な双加法的写像である.
(iii) 写像
/
1 /
(˜
e)
(˜
e)
εp : V0 K2 (K) V1 K2 (K) × VK → Z Z ,
p
(
(p)
p)
α + p·K2 (K) mod V1 K2 (K) , a·UK
7→ ⟨ α , χa ⟩K
は well-defined で非退化な双加法的写像である.
証明. well-defined 性はすべて, 5 章命題 5.2.4 (i) と定理 6.5.1 (i) での関係式を用いれば示せる. 非
退化性について. いま F = Fq ((T )) と表せることに注意して, 写像 λ : ΩF/Z → Fp を
λ := TFq /Fp ◦ Res (Res : ΩF/Z → Fq は 3 章命題 3.5.16 による Fq -線形写像)
と定める. このとき [Kat] pp. 352∼353 によると, 定理 6.5.2 と定理 6.5.3 による群同型を用いた次
の可換図式が得られる:
・ i = 0 のとき,
Ve˜K2 (K)
O
×
(0) /
VK
≀
O
(1)
VK
≀
(
ε(0)
p
/
/ 1Z Z
p O
1
×p
)
/
/
/
B0
/ Fp ,
ΩF/Z (1 − cF )ΩF/Z ⊕ F ℘(F ) × F × (F × )p
(
)
/
/
/
ただし, B0 : ΩF/Z (1 − cF )ΩF/Z ⊕ F ℘(F ) × F × (F × )p → Fp は
125
(
)
( dy )
B0 ω + (1 − cF )ΩF/Z , x + ℘(F ) , y·(F × )p := λ(ω) + λ x ·
y
によって定まる well-defined な双加法的写像.
・ 1 ≤ i < e˜ かつ p - i のとき,
/
/
Ve˜−i K2 (K) Ve˜−i+1 K2 (K) × VK(i) VK(i+1)
O
O
≀
≀
×
ΩF/Z
ε(i)
p
F
/
/ 1Z Z
p O
1
×p
Bi
/ Fp ,
ε(i)
p
/
/ 1Z Z
p O
ただし, Bi : ΩF/Z × F → Fp は
Bi (ω, x) := −i·λ(x · ω)
によって定まる well-defined な双加法的写像.
・ 1 ≤ i < e˜ かつ p | i のとき,
/
/
Ve˜−i K2 (K) Ve˜−i+1 K2 (K) × VK(i) VK(i+1)
O
O
≀
≀
/
F Fp
×
/
/
ただし, Bi : F F p × F F p → Fp は
/
F Fp
Bi
1
×p
/ Fp ,
Bi (x + F p , y + F p ) := λ(x · dy)
によって定まる well-defined な双加法的写像.
・ i = e˜ のとき,
/
V0 K2 (K) V1 K2 (K) × VK(˜e)
O
O
≀
/
F × (F × )p
×
/
/
ただし, Be˜ : F × (F × )p × F ℘(F ) → Fp は
e)
ε(˜
p
≀
/
F ℘(F )
Be˜
Be˜(x·(F × )p , y + F p ) := λ(y ·
/
/ 1Z Z
p O
1
×p
/ Fp ,
dx
)
x
によって定まる well-defined な双加法的写像.
すると, 証明は Bi (0 ≤ i ≤ e˜) の非退化性を示すことに帰着されるが, まず 1 ≤ i < e˜ なる i につ
いては, Ker TFq /Fp = ℘(Fq ) ( Fq を用いれば非退化であるとわかる. また i = e˜ のときは, 3 章定理
3.5.18 を用いると Be˜ = p·[ ·, · ) となることがわかるので, 3 章定理 3.5.15 により Be˜ は非退化であ
る. そして i = 0 のときは, Be˜ の非退化性を用いて B0 は非退化であることが示せる.
(i)
定理 6.5.1 (iii) の証明. εp の非退化性を用いれば, 3 章定理 3.5.7 と同様に示すことができる.
126
系 6.5.5. K の標数を 0 とし, ζp ∈ K と仮定する. このとき定理 6.1.10 での写像 ΦK : Br(K) →
(K × )∨ , ΨK : X(K) → K2 (K)∨ を制限した写像について,
ΦK p : Br(K)p → (K × )∨
は単射群準同型であり,
ΨK p : X(K)p → D(K2 (K))p
は群同型である.
証明. まず εp の非退化性と 2 章定理 2.5.5 により, 2 つの群同型
(
)∨
/
/
∼
K2 (K) p·K2 (K) −→ K × (K × )p , α + p·K2 (K) 7→ εp (α, · ) ,
(
)∨
/
/
∼
K × (K × )p −→ K2 (K) p·K2 (K) , a·(K × )p 7→ εp ( ·, a)
が引き起こされる. すると次の 2 つの可換図式が得られる:
/
K2 (K) p·K2 (K)
(
)∨
/
K × (K × )p
/ Br(K)p
≀
/
K × (K × )p
∼
ΦK |p
/ (K × )∨
(
∼
≀
/
K2 (K) p·K2 (K)
)∨
∼
/ X(K)p
ΨK |p
( )
/ D K2 (K)
p
ただし, 上段と下段の写像はそれぞれ
/
(
)
∼
・ K2 (K) p·K2 (K) −→ Br(K)p , α + p·K2 (K) 7→ (ι∗ ◦ hp ) α + p·K2 (K) ,
(
)
∼
ι∗ : H 2 (K/K, µp ) ≃ H 2 (K/K, µp ⊗Z µp ) −→ Br(K)p は定理 6.1.3 で用いた群同型
(
)∨
/
(
/
)
・ K × (K × )p −→ (K × )∨ , θ 7→ θ ◦ s1
s1 : K × → K × (K × )p は自然な射影 ,
/
∼
(p)
・ K × (K × )p −→ X(K)p , a·(K × )p 7→ χa ,
(
)∨
/
(
)
∼
・ K2 (K) p·K2 (K) −→ D K2 (K) p , θ 7→ θ ◦ s2
(
/
)
s2 : K2 (K) → K2 (K) p·K2 (K) は自然な射影
(
)∨
/
である. ここで [Kat] pp. 361∼362 により, 任意の θ ∈ K2 (K) p·K2 (K) をとったとき θ ◦ s2 は
連続写像となることに注意しておく.
これらの可換図式から, ΦK p は単射であり ΨK p は群同型であるとわかる.
さてこの準備のもと, 定理 6.1.10 の証明を行う. 補題を適宜挿入することで, 証明を簡単な場合に
帰着していく.
定理 6.5.6. (定理 6.1.10) 定義 6.1.6 での 2 つの双加法的写像が引き起こす群準同型
ΦK : Br(K) → (K × )∨ , ω 7→ ⟨ · , ω ⟩K ,
ΨK : X(K) → K2 (K)∨ , χ 7→ ⟨ · , χ ⟩K
について, 次の (i)∼(iii) が成り立つ:
(i) ΦK を制限した写像 ΦK p : Br(K)p → (K × )∨ は単射群準同型である.
127
(
)
(ii) ΨK は単射群準同型であり, Im ΨK = D K2 (K) .
(
)
(iii) 任意の ω ∈ Br(K) に対し, Ker ΦK (ω) = Nrd(ω/K) .
証明. (i) 証明は ζp ∈ K の場合に帰着される.
実際 L := K(ζp ) とおき, ω ∈ Br(K)p を ΦK (ω) = 0 なるものとすると, ⟨ · , ω ⟩K = 0 であるから
命題 6.1.7 によって ⟨ · , ResL/K (ω) ⟩L = 0 となることがわかる. このとき, ΦL : Br(L)p → (L× )∨
p
の単射性を認めると ResL/K (ω) = 0 となるので,
(
)
[L : K]·ω = CorL/K ResL/K (ω) = 0
が成り立ち, p - [L : K] と併せて ω = 0 を得る.
よって ζp ∈ K と仮定して単射性をいえばよいが, これは系 6.5.5 により示されている.
(ii) 2 章定理 3.1.7 と同様にいくつかの段階に分けて示す.
(
)
(Step. 1) ここでは, 加法群 X(K), D K2 (K) の構造を調べる.
(
)
補題 6.5.7. X(K), D K2 (K) はいずれもねじれ加法群である. したがって
⊕
⊕ (
(
)
)
X(K) =
X(K){ℓ}, D K2 (K) =
D K2 (K) {ℓ}
ℓ:素数
ℓ:素数
が成り立つ.
(
)
証明. X(K) については 3 章定理 3.1.7 の証明と同様の議論で示すことができる. D K2 (K) につ
(
)
いては, [Kat] p. 373 において D K2 (K) の任意の元は位数有限であることが示されている.
この補題に加え 2 つの群同型
(
)
(
)
X(K){ℓ} ≃ lim X(K)ℓn , D K2 (K) {ℓ} ≃ lim D K2 (K) ℓn
−→
−
→
n
n
を用いると, 写像 ΨK の群同型性を示すには n ∈ N+ と素数 ℓ に関して
(
)
ΨK ℓn : X(K)ℓn → D K2 (K) ℓn
の群同型性を示せばよいことがわかる.
(Step. 2) ここでは, ℓ ̸= p のときに写像 ΨK ℓn が群同型であることを示す. いま [Kat] p. 350 に
よると, スペクトル系列を用いることにより可換図式
0
0
α
(
)
/ Hom F ×, 1 Z/Z
n
ℓ
(
)
/ Hom κ× , 1 Z/Z
F
ℓn
/ X(K)ℓn
/ X(F )ℓn
ΨK |ℓn
(
)
/ Hom K2 (K), 1 Z/Z
n
ℓ
/0
β
(
/ )
/ Hom K2 (F ), 1 Z Z
n
ℓ
/0
(ただし α は 3 章定理 3.1.7 での写像 ΨK が引き起こす群同型であり,
β は 5 章定理 5.1.4 での Tame 記号 τ が引き起こす群同型)
が得られる. すると図式の可換性と α, β の群同型性により, 中央の縦の写像 ΨK ℓn は群同型であ
ることがわかる.
128
(Step. 3) ここでは, ℓ = p のときに写像 ΨK pn が群同型であることを示すため, K の条件を良
いものに帰着することを考える. 具体的には, ζp ∈ K と仮定しても良いことを示す.
補題 6.5.8. L := K(ζp ) とおき, ι : K × ,→ L× を自然な包含写像とする. このとき任意の n ∈ N+
に対して
(
)
(
)
∨
NL/K
D(K2 (K))pn ⊂ D(K2 (L))pn , ι∨ D(K2 (L))pn ⊂ D(K2 (K))pn
が成り立ち, 次の図式は可換となる:
ResL/K
X(K)pn
ΨK |pn
D(K2 (K))pn
∨
NL/K
/ X(L)pn
ΦL |p n
/ D(K2 (L))pn
CorL/K
ι
/ X(K)pn
ΨK |pn
/ D(K2 (K))pn .
∨
また, とくに ResL/K : X(K)pn → X(L)pn は単射, ι∨ : D(K2 (L))pn → D(K2 (K))pn は全射と
なる.
証明. (前半の主張について)
まず θ ∈ D(K2 (K))pn とすると, pn ·θ = 0 かつ Ker θ は K2 (K) の開部分群となる. このとき系
−1
6.3.2 (i) により NL/K
(Ker θ) は K2 (L) の開部分群となるから,
∨
NL/K
(θ) = θ ◦ NL/K ∈ D(K2 (L))
∨
∨
∨
が成り立つ. すると pn ·NL/K
(θ) = NL/K
(pn ·θ) = 0 であるから NL/K
(θ) ∈ D(K2 (L))pn となり,
(
)
(
)
∨
∨
NL/K D(K2 (K))pn ⊂ D(K2 (L))pn が成り立つ. 同様の議論で ι D(K2 (L))pn ⊂ D(K2 (K))pn
も示すことができる.
(図式の可換性について)
命題 6.1.7 を用いれば容易に示せる.
(ResL/K の単射性, ι∨ の全射性について)
3 章補題 3.5.27 と同様の議論で示せる.
この補題によって, はじめから ζp ∈ K であるとして証明を行えばよい.
(Step. 4) ここでは次の (Step. 5) のための準備として, 補題を 1 つだけ用意する:
補題 6.5.9. ζp ∈ K のとき, 任意の n ∈ N+ に対し
δK,ζp : X(K)pn → Br(K)p , χ 7→ [ χ, ζp ]K
と定めると,
×p
ι
δK,ζp
0 −→ X(K)p −→ X(K)pn+1 −→ X(K)pn −→ Br(K)p
は加法群の完全列となる (ただし ι は包含写像) .
証明. 3 章補題 3.5.28 と同様に示せる.
129
(Step. 5) これまでの準備のもと,ΨK pn : X(K)pn → D(K2 (K))pn の群同型性を n ∈ N+ の帰
納法で示す. ζp ∈ K と仮定する.
・n = 1 のとき. これは系 6.5.5 で示されている.
・n での成立を仮定する. n + 1 のとき. (i) で述べた単射群準同型 ΨK p と (Step. 4) で示した完
全列を用いて, 次の図式を考える:
0
/ X(K)p
0
ΨK |p
/ D(K2 (K))p
ι1
ι2
/ X(K)pn+1
ΨK |pn+1
/ D(K2 (K))pn+1
×p
×p
/ X(K)pn
Ψ K |p n
/ D(K2 (K))pn
δK,ζp
η
/ Br(K)p
ΦK |p
/ (K × )∨ .
(ただし η : D(K2 (K))p → (K × )∨ は η(θ) := θ({ · , ζp }K ) と定めた準同型であり,
ι1 , ι2 は包含写像)
すると, この図式は各行が完全な可換図式であることがわかる.
実際, 可換性は命題 6.1.8 を用いて容易に示すことができる. 完全性についても上段は (Step. 3) で
..
示しており, 下段については図式の可換性と ΨK n の群同型性 ( . 帰納法仮定) からいえる.
p
このとき, 帰納法の仮定からこの図式と写像は five lemma ([Kaw] 参照) の仮定をみたすことが
わかる. よって中央の上段から下段への写像 ΨK pn+1 : X(K)pn+1 → D(K × )pn+1 も群同型となり,
n + 1 でも成り立つことがわかる.
したがって, 任意の n ∈ N+ に対し ΨK pn は群同型である.
(
)
(iii) まず Ker ΦK (ω) ⊃ Nrd(ω/K) を示す.
任意の a ∈ Nrd(ω/K) をとると, 5 章命題 5.3.6 により有限次拡大 L/K があって
a ∈ NL/K (L× ) かつ ω ∈ Br(L/K)
となる. すると b ∈ L× を用いて a = NL/K (b) と表せ, 命題 6.1.7 により
ΦK (ω)(a) = ⟨ a, ω ⟩K = ⟨ NL/K (b), ω ⟩K = ⟨ b, ResL/K (ω) ⟩K = 0
(
)
となるので, a ∈ Ker ΦK (ω) が成り立つ.
(
)
次に Ker ΦK (ω) ⊂ Nrd(ω/K) についてであるが, これは証明が複雑なのでここでは省略するこ
とにする. 詳細は [Kat] pp. 354∼pp. 355 に記載されている.
6.6
Qp {{T }} の有限次 Abel 拡大についての考察
.
この節では 6 章で得た主定理の応用として, Qp {{T }} の有限次 Abel 拡大について調べる. とくに
1 章 1.3 節で得た結果も用いて, いくつかの具体的な自然数 n に対する Qp {{T }} の n 次 Abel 拡大
の表示を与えることが目標である.
はじめに準備として, 補題を 3 つ用意する:
/
補題 6.6.1. n ∈ N+ とし, s : K2 (K) → K2 (K) n·K2 (K) を自然な射影とする. このとき
/
/
(
/
)
Of K2 (K) n·K2 (K) n := {W ⊂ K2 (K) n·K2 (K) W は K2 (K) n·K2 (K) の開部分群で,
[
/
]
K2 (K) n·K2 (K) : W = n}
130
と定めておくと, 写像
(
)
(
/
)
s˜ : Of K2 (K) n → Of K2 (K) n·K2 (K) n , H 7→ s(H)
は, well-defined な全単射である.
証明. s が開写像であることなどを用いれば, 容易に示せる.
補題 6.6.2. p - n なる任意の n ∈ N+ に対し,
/
× n
×
× n
K2 (K) n·K2 (K) ≃ κ×
F /(κF ) × κF /(κF ) × Z/nZ
≃ Z/dZ × Z/dZ × Z/nZ
(
)
ただし d := g.c.d(n , q − 1) ∈ N+ , q := ♯(κF )
が成り立つ.
証明. 補題 6.2.2 の証明と同様に示せる.
補題 6.6.3. L/Qp を n 次 Abel 拡大とするとき, 自然な包含写像
∑
∑
ai T i 7→
ai T i
ι : Qp {{T }} ,→ L{{T }} ,
i
i
/
によって Qp {{T }} ⊂ L{{T }} とみなすと, L{{T }} Qp {{T }} もまた n 次 Abel 拡大となる.
証明. まず n 次拡大であることを示す. いま πL ∈ L を L の素元, e, f ∈ N+ をそれぞれ L/K の
分岐指数, 剰余次数 (2 章定義 2.9.1 参照) とし, L の剰余体 κL の元 ω 1 , · · · , ω f ∈ κL を Fp 上の底
とする. このとき ef = n であり, ω 1 , · · · , ω f ∈ κL ((T )) は Fp ((T )) 上の底となるので, 2 章補題
2.9.3 (iii) の証明と同様に
oL {{T }} =
f
e−1 ∑
∑
i
Zp {{T }}·ωj πL
i=0 j=1
が成り立つ. すると L{{T }} =
f
e−1
∑ ∑
i=1 j=0
i
Qp {{T }}·ωj πL
が成り立ち,
e−1
e−1
ω1 , · · · , ωf , ω1 πL , · · · , ωf πL , · · · , ω1 πL
, · · · , ω f πL
∈ L{{T }}
/
が Qp {{T }} 上一次独立であることと併せて L{{T }} Qp {{T }} は ef 次拡大, すなわち n 次拡大とな
ることがわかる.
次に, Abel 拡大となることを示す. いま L/Qp は Abel 拡大であるから L = Qp (α) と表せるが,
/
この α を用いると L{{T }} = Qp (α){{T }} = Qp {{T }}(α) が成り立つ. よって L{{T }} Qp {{T }} は
Galois 拡大であり, とくに群同型
(∑
)
∑
(
/
)
∼
σ(ai )T i
G(L/Qp ) −→ G L{{T }} Qp {{T }} , σ 7→ σ , ただし σ
ai T i :=
/
が得られるので, L{{T }} Qp {{T }} は Abel 拡大となる.
i
i
これらの補題を用いて, Qp {{T }} の Abel 拡大について調べていく. はじめに 2 次拡大について調
べる.
131
定理 6.6.4. p ≥ 3 のとき Qp {{T }} の 2 次拡大体は 7 個存在し, それらは次のように表せる:
√
√
√
Qp {{T }}( u) , Qp {{T }}( p) , Qp {{T }}( pu) ,
√
√
√
√
Qp {{T }}( T ) , Qp {{T }}( p·T ) , Qp {{T }}( u·T ) , Qp {{T }}( pu·T ) .
2
ただし u ∈ Z は u ∈
/ (Z×
p ) なるものであり, このような u をひとつ固定している.
証明. 上段の 3 つの拡大体が相異なる 2 次拡大体であることは 1 章系 1.3.1 と補題 6.6.3 によりわ
かり, 下段の 4 つについては, 容易に示すことができる. そして上段と下段, 下段同士のどの 2 つの
体も相異なることがわかるので, Qp {{T }} の 2 次拡大体は少なくとも 7 個存在する.
一方, d = g.c.d(2 , p − 1) = 2 であるから補題 6.6.2 により
/
K2 (Qp {{T }}) 2·K2 (Qp {{T }}) ≃ Z/2Z × Z/2Z × Z/2Z
となる. すると上式右辺における指数 2 の部分群は 7 個であることがわかるので, 補題 6.6.1 と存在
定理により 2 次拡大の個数もちょうど 7 個である.
(※) p = 2 のときは後述の定理 6.6.6 により, Q2 {{T }} の 2 次拡大体は無限個存在することがわ
かる.
さて次に, n ≥ 3 のときも含めた一般の n 次 Abel 拡大について調べる.
定理 6.6.5. n と p − 1 が互いに素であるとき, Qp {{T }} の n 次 Abel 拡大体は Qp {{T }}(ζpn −1 ) の
みである.
証明. まず Qp の n 次 Abel 拡大体として Qp (ζpn −1 ) が挙げられるので, 補題 6.6.3 により
/
Qp {{T }}(ζpn −1 ) Qp {{T }} は n 次 Abel 拡大である. そして, d = g.c.d(n , p − 1) = 1 と補題 6.6.2
により
/
K2 (Qp {{T }}) n·K2 (Qp {{T }}) ≃ Z/nZ
/
であるから, K2 (Qp {{T }}) n·K2 (Qp {{T }}) における指数 n の部分群は {0} のみとなり, Qp {{T }}
の n 次 Abel 拡大体は Qp {{T }}(ζpn −1 ) のみであることがわかる.
定理 6.6.6. Qp {{T }} の p 次 Abel 拡大体, すなわち p 次巡回拡大体は無限個存在する.
証明. とくに Qp {{T }} の p 次不分岐巡回拡大体が無限個存在することをいう. 2 章定理 2.9.10, 2 章
定理 2.9.15 により, これは剰余体 Fp ((T )) の p 次巡回拡大体を調べることに帰着される.
さていま Fp ((T )) の p 次巡回拡大 L/Fp ((T )) は Artin-Schreier 拡大であるから, b ∈ Fp ((T )) と
X − X − b ∈ Fp ((T ))[X] の根 β ∈ Fp ((T )) を用いて L = Fp ((T ))(β) と表すことができる. このよ
うな L が無限個あることをいうために, [Fu] による次の事実を用いる:
p
K を標数 p( > 0 ) の体, a, b ∈ K とし, α, β ∈ K をそれぞれ X p − X − a, X p − X − b ∈ K[X]
の根のひとつとする. このとき次の (i)(ii) は同値である:
(i) K(α) = K(β) .
(ii) n ∈ {1, · · · , p − 1}, c ∈ K があって, b = na + cp − c .
この事実により, 各 i ∈ Z に対し X p − X − T i ∈ Fp ((T ))[X] の根のひとつを βi とすると, i ̸= j
かつ p - i, p - j のとき Fp ((T ))(βi ) ̸= Fp ((T )(βj ) であることがわかるので, Fp ((T )) の p 次巡回拡
大体は無限個存在する.
したがって Qp {{T }} の p 次巡回拡大体も無限個存在する.
132
次の主張は定理 6.6.4 の一般化となっているものであるが, 筆者が一番に述べたい応用例である:
定理 6.6.7. ℓ を素数, p を p ≡ 1 (mod ℓ) なるものとするとき, Qp {{T }} の ℓ 次 Abel 拡大体, すな
ℓ
わち ℓ 次巡回拡大体は ℓ2 + ℓ + 1 個存在する. さらに u ∈
/ (Z×
p ) なる u ∈ Z をひとつ固定すると,
Qp {{T }} の ℓ 次巡回拡大体と M := Z/ℓZ × Z/ℓZ × Z/ℓZ における位数 ℓ の巡回部分群 C は
√
Qp {{T }}( ℓ pi uj ·T ν ) ←→ C = ⟨ (i , j , ν) ⟩
(ただし, mod ℓZ は省略している)
によって 1 対 1 に対応する.
証明. まず ℓ 次巡回拡大の個数について調べる. いま d = g.c.d(ℓ , p − 1) = ℓ と補題 6.6.2 により
/
K2 (Qp {{T }}) ℓ·K2 (Qp {{T }}) ≃ Z/ℓZ × Z/ℓZ × Z/ℓZ = M
が成り立つので, 加法群 M における指数 ℓ の部分群, すなわち位数 ℓ2 の部分群 H の個数を調べれ
ばよい. すると M の形からこのような H は位数 ℓ の巡回部分群 2 つで生成されているので, まず
は位数 ℓ の巡回部分群の個数を確認する.
いま, M の元で位数が ℓ のものは ℓ3 − 1 個ある. そのうち ℓ − 1 個が同じ巡回部分群を生成する
ので, 位数 ℓ の巡回部分群の個数は
ℓ3 − 1
= ℓ2 + ℓ + 1
ℓ−1
となる.
次に, これを用いて位数 ℓ2 の部分群 H の個数を調べる. いま H は位数 ℓ の巡回部分群 2 つで生
成されており, 位数 ℓ のとりうる部分群は 2 項係数を用いて
(
)
ℓ2 + ℓ + 1
(ℓ2 + ℓ + 1)(ℓ2 + ℓ)
ℓ(ℓ + 1)
=
= (ℓ2 + ℓ + 1)·
2
2
2
通りある. しかしこのうちいくつかは重複していることがわかる. 実際ひとつの H をとると, H ≃
Z/ℓZ × Z/ℓZ により H は位数 ℓ の巡回部分群を ℓ + 1 個もち, そのような巡回部分群 2 つで生成さ
れる部分群は全て H に等しい. よって
(
ℓ+1
2
)
=
ℓ(ℓ + 1)
2
通りの組み合わせが M において同じ部分群を定めている. したがって重複を除くと, 位数 ℓ2 の部
分群はちょうど
ℓ(ℓ + 1)
2
= ℓ2 + ℓ + 1
ℓ(ℓ + 1)
2
(ℓ2 + ℓ + 1)·
個あることがわかる. したがって Qp {{T }} の ℓ 次巡回拡大体もちょうど ℓ2 + ℓ + 1 個存在する.
ℓ
次に u ∈
/ (Z×
p ) なる u ∈ Z をひとつ固定し, Qp {{T }} の ℓ 次巡回拡大体と M = Z/ℓZ×Z/ℓZ×Z/ℓZ
における位数 ℓ の巡回部分群 C との対応が 1 対 1 であることを示す. p ≡ 1 (mod ℓ) により ζℓ ∈ Qp
となるので, Qp {{T }} の ℓ 次巡回拡大はすべて Kummer 拡大であることに注意しておく.
133
さて, はじめに M における位数 ℓ の巡回部分群 C = ⟨ (i , j , ν) ⟩ をひとつとる ( mod ℓZ は省略し
√
ている). このとき Qp {{T }}( ℓ pi uj ·T ν ) は明らかに ℓ 次巡回拡大体であり, この拡大体は i, j, ν ∈ Z
のとり方によらないことが, [Fu] による次の事実からわかる:
√
K を ζn ∈ K なる体, a, b ∈ K × とし, n = [K( n a) : K] であると仮定する. このとき次の
(i)(ii) は同値である:
√
√
n
(i) K( n a) = K( b) .
(ii) c ∈ K ×, m ∈ Z があって, g.c.d(m , n) = 1 かつ b = am cn .
次に 2 つの巡回部分群 C1 = ⟨ (i1 , j1 , ν1 ) ⟩, C2 = ⟨ (i2 , j2 , ν2 ) ⟩ をとり,
√
√
Qp {{T }}( ℓ pi1 uj1 ·T ν1 ) = Qp {{T }}( ℓ pi2 uj2 ·T ν2 )
であると仮定する. このとき C1 = C2 であることを示す.
はじめに i1 ̸≡ 0 (mod ℓ) の場合について示す. いま先ほど述べた事実を用いると, α ∈ Qp {{T }}× ,
m ∈ Z があって
g.c.d(m , ℓ) = 1 かつ pi1 uj1 ·T ν1 = (pi2 uj2 ·T ν2 )m αℓ
となり, 両辺の p のべきを比較すると i1 ≡ mi2 (mod ℓ) が成り立つ. このとき
√
√
Qp {{T }}( ℓ pmi2 uj1 ·T ν1 ) = Qp {{T }}( ℓ pi1 uj1 ·T ν1 )
√
..
= Qp {{T }}( ℓ pi2 uj2 ·T ν2 ) ( . 仮定)
√
= Qp {{T }}( ℓ pmi2 umj2 ·T mν2 )
であるから,
√
ℓ
umj2 −j1 ·T mν2 −ν1
√
ℓ
√
pmi2 umj2 ·T mν2
ℓ
∈
Q
{{T
}}(
= √
pi1 uj1 ·T ν1 )
p
ℓ
mi
j
ν
2
1
1
p u ·T
が成り立つ.
√
ℓ
ここで, もし j1 ̸≡ mj2 (mod ℓ) または ν1 ̸≡ mν2 (mod ℓ) ならば, Qp {{T }}( umj2 −j1 ·T mν2 −ν1 )
は ℓ 次巡回拡大体となるので
√
√
ℓ
Qp {{T }}( umj2 −j1 ·T mν2 −ν1 ) = Qp {{T }}( ℓ pi1 uj1 ·T ν1 )
が成り立つ. しかし i1 ̸≡ 0 (mod ℓ) により右辺は分岐拡大体, 左辺は不分岐拡大体であるからこれ
は矛盾である. したがってこの場合 j1 ≡ mj2 (mod ℓ) かつ ν1 ≡ mν2 (mod ℓ) となり, C1 = C2 が
成り立つ.
次に, i1 ≡ 0 (mod ℓ) かつ ν1 ̸≡ 0 (mod ℓ) の場合について示す. このときは先ほどの議論と同様
に i2 ≡ 0 (mod ℓ) となり, 仮定より
√
√
ℓ
ℓ
Qp {{T }}( uj1 ·T ν1 ) = Qp {{T }}( uj2 ·T ν2 )
が成り立つ. すると, 両辺の剰余体をとったとき
(√
(√
ℓ
ℓ
ν1 )
ν2 )
Fp ((T )) uj1 ·T
= Fp ((T )) uj2 ·T
134
となるので, T が Fp ((T )) における素元であることと ν1 ̸≡ 0 (mod ℓ) に注意すると, 先ほどの議論
と同様に m′ ∈ Z があって j1 ≡ m′ j2 (mod ℓ) かつ ν1 ≡ m′ ν2 (mod ℓ) となり, C1 = C2 が成り
立つ.
最後に i1 ≡ 0 (mod ℓ) かつ ν1 ̸≡ 0 (mod ℓ) の場合についてであるが, このときは自然に C1 = C2
が成り立つ.
これにより, 巡回部分群 C が異なれば対応する ℓ 次巡回拡大体も異なることがわかった. さらに,
Qp {{T }} の ℓ 次巡回拡大体と M における位数 ℓ の巡回部分群 C の個数はともに ℓ2 + ℓ + 1 個であ
√
ることを用いると, 与えられた C = ⟨ (i , j , ν) ⟩ ←→ Qp {{T }}( ℓ pi uj ·T ν ) による対応は 1 対 1 であ
ることがわかる.
これまで述べた定理を用いると, 例えば Qp {{T }} の 3 次巡回拡大は全て記述できることがわかる.
実際, p = 3 のときは定理 6.6.6 により Q3 {{T }} の 3 次巡回拡大体は無限個存在し, p ̸≡ 1 (mod 3)
のときは定理 6.6.5 により Qp {{T }} の 3 次巡回拡大体は Qp {{T }}(ζp3 −1 ) のみである. そして p ≡ 1
(mod 3) のときは定理 6.6.7 の系として次の事実が得られる:
系 6.6.8. p を p ≡ 1 (mod 3) なるものとするとき, Qp {{T }} の 3 次 Abel 拡大体, すなわち 3 次巡
回拡大体は 13 個存在し, それらは次のように表せる:
√
√
√
√
Qp {{T }}( 3 p) , Qp {{T }}( 3 u) , Qp {{T }}( 3 pu) , Qp {{T }}( 3 p2 u) ,
√
√
√
3
3
Qp {{T }}( T ) , Qp {{T }}( u·T ) , Qp {{T }}( 3 p·T ) ,
√
√
√
Qp {{T }}( 3 pu·T ) , Qp {{T }}( 3 p2 ·T ) , Qp {{T }}( 3 p2 u·T ) ,
√
√
√
3
Qp {{T }}( u·T 2 ) , Qp {{T }}( 3 pu·T 2 ) , Qp {{T }}( 3 p2 u·T 2 ) .
3
ただし u ∈ Z は, u ∈
/ (Z×
p ) なるものをひとつ固定している.
証明. 定理 6.6.7 により, Z/3Z × Z/3Z × Z/3Z における位数 3 の巡回部分群を調べればよい. する
と, 位数 3 の巡回部分群として次の 13 個が得られる:
⟨ (1, 0, 0) ⟩, ⟨ (0, 1, 0) ⟩, ⟨ (1, 1, 0) ⟩, ⟨ (2, 1, 0) ⟩,
⟨ (0, 0, 1) ⟩, ⟨ (0, 1, 1) ⟩, ⟨ (1, 0, 1) ⟩,
⟨ (1, 1, 1) ⟩, ⟨ (2, 0, 1) ⟩, ⟨ (2, 1, 1) ⟩,
⟨ (0, 1, 2) ⟩, ⟨ (1, 1, 2) ⟩, ⟨ (2, 1, 2) ⟩
(ただし, mod 3Z は省略している)
これらと対応する 3 次巡回拡大体を考えることにより, 与えた 13 個が Qp {{T }} の 3 次巡回拡大体
の全てとなる.
135
参考文献
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