A-2 EL 画像解析による太陽電池モジュールの出力特性評価の基礎的検討 中川 池田 航至* 一昭 岡島 大関 敬一(筑波大学) 崇(産業技術総合研究所) Fundamental study on the output characteristics evaluation of the photovoltaic module by EL image Koji. Nakagawa*, Keiichi. Okajima (University of Tsukuba) Kazuaki. Ikeda ,Takashi. Oozeki (AIST) Abstract In this study, the effect of cracks in the cells of the thirty PV modules working for nine years in the AIST on Pmax, Rs have been studied by analyzing electro-luminescence (EL) images of PV modules. The cracked area in a cell was defined as the area, which conductively got apart by the cracks from main body of the cell and the cracked area in a module was calculated as the sum of the cracked area of the cells. The cracked cells, those have cracked area were mechanically distinguished by the estrangement degree between normal area and cracked area in EL image analysis. The cracked cell number was defined as the number of the cracked cells in a module. The maximum power Pmax of the PV modules decreased by 0.012 W per unit cracked area and by 0.25 W per cracked cell, repectively. Their ratios of Pmax decrease is calculated with 0.009 % and 0.2 % respectively in compersion with factory data. キーワード:太陽エネルギー, 太陽電池モジュール, セルクラック, エレクトロルミネッセンス, 画像解析 (solar energy, PV module, cell fracture, electroluminescence, image analysis) 1. 本研究では、PV セルのクラックによって導電性が悪くな まえがき った部分をクラック部分、クラック部分を有するセルをクラ PV システムには発電時に稼働部分がないため、他の発電 ックセルと称し、1 つのモジュール内において、クラック部 システムに比べて故障しにくく長寿命であると言われている 分の面積の総和をクラック面積、クラックセルの数をクラッ が、発電システムの最小単位である PV モジュールでは設置 クセル数と定義し、PV モジュールの EL 画像から輝度や面積 数年間で様々な不具合が近年になって報告されてきている。 の定量的情報を抽出することによって、モジュール内のクラ 2012 年、国民生活センターの報告によれば PV システムの不 ック面積とクラックセル数を算出し、それらがモジュール出 具合の件数は 1,487 件発生しており、前年度の 1,027 件と比べ 力低下に与える影響を定量的に評価した。 1) て大幅に増大している 。また近年、欧州では多数の PV モ EL 画像解析 ジュールで出力低下が起こり、品質問題が浮上している 2)。 2. モジュールの不具合や出力低下は PV モジュール内部状況が 〈2・1〉対象モジュールと EL 計測方法 影響しており、中でもセルの温度変化や物理的負荷がかかる 業技術総合研究所つくばセンター内に設置されている 30 枚 ことによって生じるセルのひび割れ(クラック)が影響して のモジュール(単結晶シリコン系, 運用 9 年)を評価対象と いる例が盛んに報告されている 3)。既往のモジュールの評価 した。 このモジュールは5 inch 角セル54枚が直列に接続され、 方法として、I-V 特性計測法や IR サーモグラフィ、エレクト セル表面のフィンガー電極は中央で分割されている。このセ ロルミネッセンス(以下、EL)法などがあり 4)、その中で、 ルの概略図を Fig. 1 に示した。 本研究では、産 EL法はモジュール内部のセルのクラックを計測する手法の1 EL の測定には太陽電池 EL 検査装置(ITES, PVX300)を用い つとして近年注目を浴びている。しかし一方で、EL 法によっ た。モジュールに短絡電流値 Isc 相当の電流を流し、発光した て検出されたクラックがモジュールの出力低下に与える影響 モジュールの画像を取得した。 は明らかにされていない。 1/4 セルの乖離度が低いほどそのセル内のクラック面積が大き い傾向を示す。Fig.3 に RGB チャンネルにおけるセルの乖離 度に対する R、G、B の各チャンネルにおけるセルの乖離度 5 inch の分布を示す。RGB チャンネルの乖離度が 100 %付近にある セルでは、他のチャンネルの乖離度もほぼ 100 %であり、 RGB チャンネルの乖離度が低下するに従い、各チャンネル において異なる低下度合いが見られ、R チャンネル、B チャ ンネル、G チャンネルの順に乖離度は低くなる結果が得られ た。よって、RGB および R、G、B チャンネル計 4 種の中で、 Fig.1 Schematic diagram of a cell G チャンネルの乖離度が最もクラックを明瞭に特定できるこ とが明らかとなり、以後クラックセルの特定に Gチャンネル 〈2・2〉クラック面積の算出 EL 画像では同じモジュール を用いた。 内でもセルごとに発光強度が異なって見えるため、セル単位 で正常部分とクラック部分の判別を行った。まず、セル内で 1.02 1 を基準として、基準から上位 12.5%までに該当する範囲を正 0.98 常部分とした。なお、バスバー電極を含んだ領域をセル 1 枚 の全体部としたため、電極部分はクラック部分に含まれる。 セルの領域選択の例を Fig. 2 に示す。 Estrangement Degree の輝度が高い部分を正常部分と仮定し、最も輝度が高い箇所 0.96 0.94 0.92 R channel G channel B channel 0.9 0.88 0.86 0.86 0.88 0.9 0.92 0.94 0.96 0.98 1 1.02 Estrangement degree (RGB) Fig. 3 Estrangement Degrees on R, G, B channels compared with those on RGB channel 次に、G チャンネルにおいて乖離度を 95 %から 99 %まで (a) Raw image 1 %ごと変化させてそれぞれクラックセル数を判定し、目視 観測による結果との比較を行った。その結果を Fig. 4 に示す。 乖離度の閾値を 98 %と設定した場合、標準偏差は 1.6 と最小 となった。従って、G チャンネルでの乖離度が 98 %より低 くなったセルを本研究ではクラックセルと判定した。 Fig. 2 EL image and extraction of normal part 〈2・3〉クラックセルの判定 クラックセルを特定するた めの指標として、乖離度(Estrangement Degree)を以下の式で導 入した。 Number of cracked cells 60 (b) Whole of a cell (Awhole) (c) Normal part of a cell (Anormal) 50 40 0.95 0.96 0.97 0.98 0.99 eyesight 30 20 10 0 0 G Estrangement Degree [%] whole 100 Gnormal (1) 10 20 30 40 50 60 Number of cracked cells under visual observation Fig. 4 Number of the cracked cell depends on the estrangement degrees compared to visual observation ここで Gwhole はセル全体の平均輝度であり、Gnormal はセル内 の正常部分の平均輝度である。 2/4 3. モジュールの出力測定 〈4・2〉クラックセル数が出力低下に与える影響 モジュ 対象としたモジュールには、出荷時の特性パラメータが明 ール内のクラックセル数と⊿Pmax および Rs との相関を Fig. 6 記された検査成績書がメーカーから提供されており、本研究 に示す。外れ値として確認できる 4 枚のモジュールを除外し ではこのデータを初期における特性パラメータとした。I-V 回帰分析を行った結果、⊿Pmax とクラックセル数は前項のク カ ー ブ 測 定 に は ソ ー ラ ー シ ミ ュ レ ー タ (Spire, SPI-SUN ラック面積の場合と同様に高い相関を示し、モジュール内の SIMULATORTM 1116N)を用いた。測定は標準状態を満たす条 クラックセル数が増大することにより出力が低下し、クラッ 2 件下(モジュール温度 25±1℃、日射強度 1000±10 W/m 、JIS クセル 1 枚あたり Pmax が 0.25 W 低下した。また、Rs も 0.61 C 8912 に規格する等級 B のソーラーシミュレータ)におい と低かったが、クラックセル数との相関が示された。 て実施し、それぞれのモジュールの最大出力 Pmax について、 0 た I-V 曲線において、I = 0 の近傍のデータを直線回帰したと -5 きの X 軸との切片から開放電圧 Voc を求め、Voc を求めたとき -10 の直線の傾きの逆数をモジュールの直列抵抗値 Rs と定義し -15 5) た 。 4. クラックがモジュールの出力低下に与える影響 〈4・1〉クラック面積が出力低下に与える影響 ⊿Pmax [W] 検査成績書記載値と測定値の変化量⊿Pmax を求めた。測定し -20 -25 -30 -35 クラック -40 0 面積と⊿Pmax および Rs との関係を Fig. 5 に示す。外れ値とし 10 20 30 40 The number of failure cells て確認できる 4 枚のモジュールを除外して回帰分析を行った 結果、⊿Pmax,はクラック面積との高い相関を示し、クラック (a) Pmax 面積が増大することにより出力が低下し、単位クラック面積 (cm2)あたり Pmax が 0.012 W 低下していた。また、Rs では線形 1200 近似における相関係数は 0.69 と低い値ではあったが、Rs にお 1000 いてもクラック面積との相関を示された。 Rs [mΩ] 800 0 -5 400 200 -10 ⊿Pmax [W] 600 0 -15 0 -20 10 20 30 The number of failure cells 40 -25 -30 (b) Rs -35 -40 0 500 1000 Cracked area[cm2] Fig. 6 Relationship between the number of crack cells in each 1500 module and parameters for the Pmax, Rs (included 4 outliers) (a) Pmax Rs [mΩ] 5. 考察 1200 Table 1 にクラック面積とクラックセル数の⊿Pmax および Rs 1000 との相関係数の比較を示す。クラックセル数よりもクラック 800 面積のほうが⊿Pmax および Rs とより高い相関係数を示した。 600 「クラックセル数」ではクラック面積に関わらず、クラック 400 があるセルを全て同様にクラックセルとして見なしてしまっ 200 ているのに対して、「クラック面積」ではセル内のクラック の面積を考慮した、より連続性の高い指標となる。よって、 0 0 200 400 600 800 1000 Cracked area[cm2] 1200 1400 これらの相関係数の違いが生じたと考えられる。 (b) Rs Fig. 5 Relationship between the cracked area of each module and parameters for the Pmax, Rs (included 4 outliers) 3/4 Table 1 Comparison of the coefficients of correlation for two indicators Cracked area Number of cracked cells ⊿P max 0.904 0.898 Rs 0.688 0.607 クラック面積やクラックセル数が増大することによって直 列抵抗 Rs が増大していることが測定結果で示されており(Fig. 5(b))、Pmax が低下する理由の一つとして考えられる。しかし ながら、相関は高くないため Rs の影響のみではない可能性 も残る。Voc 付近の傾きの逆数から導出した Rs の値がモジュ ールの直列抵抗値を十分に反映していない場合もあり得るこ とから 5) 、Rs の導出方法についても今後検討する必要があ る。 なお、外れ値となっている 4 枚のモジュールはすべてバス バー電極の不良に起因していることが予想される 6)。 6. まとめ モジュールの EL 画像においてセル毎に画像解析を行い、 セルのクラック部分を導出した。また、乖離度を定義し、G チャンネルにおける解析でクラックセルの判別精度が高くな ることを見いだし、乖離度の閾値を 98%とすることにより、 クラックセルを機械的な判別でほぼ特定することができた。 クラック面積およびクラックセル数と Pmax との相関から、 Pmax が単位クラック面積(cm2)あたり 0.012 W 低下し、クラッ クセル 1 枚あたり0.25 W低下する結果を得た。これらの出力 低下を工場出荷時検査成績書記載値に対する割合に換算する と、単位クラック面積(cm2)あたり 0.009 %の低下、またクラ 参考文献 [1] 独立行政法人国民生活センター, http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/solar.html, 2014.1.14. 確認 [2] 日刊工業新聞「欧州発メガソーラー出力低下問題-日 本勢、独自基準で備え」, http://www.nikkan.co.jp/dennavi/topix/nkx20120822qtka.h tml, 2014.1.14. 確認 [3] M. Kontges, I. Kunze, S. Kajari-Schroder, X. Breitenmoser, B. Bjørneklett, “The risk of power loss in crystalline silicon based photovoltaic modules due to micro-cracks”, Solar Energy Material & Solar Cells, Vol. 95, pp. 1131-1137, 2011 [4] Cl. Buerhop, D. Schlegel, M. Niess, C.Vodermayer, R. Weismann, C.J. Brabec, “Realability of IR-imaging of PV-plants under operating condition”, Solar Energy Material & Solar Cells, Vol. 107, pp. 154-164, 2012 [5] 池田一昭、金永模、土井卓也、「等価回路モデルを用 いた PV セル内の不具合解析」、太陽/風力エネルギ ー講演論文集、pp. 543-546、2010 [6] 鈴木聡、池田一昭、佐川友彦、土井卓也、「サーモカ メラを用いた産総研 MST の PV モジュール観察」、 太陽/風力エネルギー講演論文集、pp. 247-250、 2011 ックセル 1 枚あたり 0.2 %の低下と算出された。 4/4
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