Chapter6-CQ7 班名:その他の脳血管障害 大項目:脳静脈・静脈洞閉塞症 推奨 1. 抗凝固療法が第一選択となる(グレードB)。出血を伴う例でもヘパリンの使用は禁 忌ではない(グレードC1)。 2. 血栓溶解療法の効果は十分立証されていないが、重症例あるいは抗凝固療法によって ン ト用 改善のみられない症例に血栓溶解薬(ウロキナーゼあるいは組織プラスミノゲンアク チベーター(t-PA) の局所投与を試みても良い(グレードC1)。頭蓋内出血を伴う例 では、ヘパリンとt-PAの併用は出血を助長する危険があり、使用すべきでない(グレ ードD)。 3. 痙攣を生じた場合には抗痙攣薬を投与する(グレードB)。 4. 頭蓋内圧亢進症状のある場合、グリセロールなどを使用する(グレードC1) メ エビデンス 本症に対する抗凝固薬の有用性を検討したRCTはこれまで2つの比較的少数例での報告 がある1、2) 。Einhäuplら1) は、1991年、RCTの結果ヘパリン(未分画へパリン)の静注がプ コ ラセボに比し有意に機能ならびに生命予後を改善したと報告している(レベル2)。また、 retrospective studyであるが、頭蓋内出血を伴う症例でもヘパリンを使用したほうが予後 ク は良好であった(レベル4)。2011年のAHA/ASAの脳静脈洞血栓症のエビデンスレベルに基 づいた推奨治療 1-1) に関しても治療前の頭蓋内出血の有無にかかわらず、脳静脈洞血栓症 リッ における抗凝固療法を支持している(レベル3)。発症数日以内の急性期の症例で、側頭 葉出血がなく、少なくとも24時間血腫の増大がない例では、抗凝固療法は安全に施行でき るという3) (レベル4)。一方、低分子ヘパリンとプラセボの二重盲検試験の結果では、 ヘパリン治療がやや有効な結果であったが、両者間に有意差を認めなかった2) 。しかし、 この治療によって脳内出血を伴う症例が増悪したり、新たな出血が出現したりすることは ブ なく、ヘパリンの安全性は確認された。これらの報告は、いずれも症例数が十分ではなく、 メタアナリシスによる有効性の証明はなかったが、いずれの報告も抗凝固治療によって本 パ 症の死亡や後遺症が減少することを示していた4、5) (レベル5)。 しかし、その後、脳静脈洞血栓症の未分画ヘパリン、および低分子ヘパリン治療群を対 象とした無作為比較試験のメタアナライシスが行われ、その結果、死亡率および後遺症の 明らかな軽減を認めた。また新出する症候性頭蓋内出血性病変は観察されなかった(レベ ル2)4,5-1)。 未分画へパリン(静注)と低分子へパリン(皮下注)の効果は一般にはほぼ同等と考え られ、いずれもが安全、かつ効果的に使用できると思われていたが5) 、近年、未分画ヘパ リンと低分子ヘパリンの比較検討が行われた。 脳静脈洞血栓症の治療における未分画ヘパリンと低分子ヘパリンとの有効性と安全性 1 に関する RCT では、低分子ヘパリンが未分画ヘパリンに比し、より有効かつ安全であるこ とが示唆された(レベル3)5-1) 。一方、Misra らの同様の RCT では、未分画ヘパリンと低 分子ヘパリンとの有効性に有意差はなかったが、低分子ヘパリンは未分画ヘパリンに比し あきらかに死亡率が低かった(レベル3)5-2) 。 以上、現在、脳静脈洞血栓症の治療においては低分子ヘパリンが未分画ヘパリンに比べ、 有効性かつ安全性に優れていると考えられる。 経口の抗凝固薬(ワルファリン)についての、比較対照試験はこれまで施行されていな いが、日常臨床の場で広く用いられている。ヘパリンから経口抗凝固薬への切り替えの時 期、さらにはどの位の期間経口薬を継続するかについてのコンセンサスはないが、De ン ト用 Bruijnの報告2)では、ヘパリンを3週間、ついで経口抗凝固薬を10週間使用している。経 口抗凝固薬は、アンチトロンビン欠乏症や2回以上のエピソードがあって再発のリスクが高 いと考えられる例では、永続的に内服を継続することが推奨されている4)(レベル5)。3 ~6か月間の経口抗凝固薬に引き続き、抗血小板薬の内服を推奨する意見もある 6)が十分な 根拠はない。 抗凝固療法の短期、および長期における有益性を評価するための前向きコホート研究で は、急性期ヘパリン療法を施行され、続いて少なくとも3か月間ワルファリンを投与された。 6〜12か月の経過で予後良好(mRS 0-2)な結果であった。(レベル3)2-1) 。 メ 血栓溶解療法については、全身的あるいはカテーテルを用いて局所的にウロキナーゼ、 t-PA などを投与し良好な結果を得たとする報告があるが、いずれも症例報告の域を出てい 4) コ ない。これまでに RCT による検討はなく、その有効性、安全性は確立されていなかった (レベル5)、7、8) (レベル4)。その後、ヘパリンでの抗凝固療法を 4 日間施行された ク にもかかわらず、神経学的異常所見の残存(頭痛、視野異常、視野欠損)や神経症状の増 悪、皮質出血を認める進行性の脳静脈洞血栓症患者に対する t-PA の局所動注療法は、安全 かつ有効な治療法であることが示された(レベル4)4,7,8-1) 。また、頸静脈カテーテルを リッ 介してウロキナーゼを静脈洞内に直接投与した血栓溶解療法は、重篤な脳静脈洞血栓症に 対して有効であったが、脳出血が増大し病状が悪化するおそれもあり、広範な脳梗塞や脳 ヘルニアを呈した患者に対しては有効ではないとされる(レベル4)4,7,8-2) 。また、ウロ キナーゼ、t-PA の局所線溶療法は患者予後を左右するような頭蓋内出血を含めた主要な出 ブ 血性合併症の発症率に関連することも示唆された(レベル1)4,7,8-3) 。ヨーロッパ神経学 会のガイドライン 4,7,8-4) でも、脳静脈洞血栓症における local thrombolysis は、ヘパリ ンによる抗凝固療法や基礎疾患の治療をしっかり行っても悪化するような症例でのみ考慮 パ すべきであると述べている。以上、血栓溶解療法は適応をかなり選んで行う治療法といえ る。 ヘパリン静注にt-PAの局所投与を併用したFreyらの報告9) では、血流の再開とともに症 状が改善する例が見られたが、一方治療開始前に頭蓋内出血を伴っていた例ではさらに出 血を助長するので併用はすべきでないとしている。現段階では、抗凝固薬の使用によって も症状が増悪する場合、あるいは入院時に昏睡を呈し予後不良と思われる場合などに、血 栓溶解療法が選択肢の一つになる4、7) (レベル5)。 なお、抗凝固療法と血栓溶解療法を比較した報告はなされていないが、血管内治療とへ パリンの抗凝固療法との有効性を比較するRCTが現在進行中である4,7,8-5) 。 2 抗痙攣薬の一次予防、二次予防についての比較対照試験はこれまで施行されていない 10) ものの、一般に、痙攣を認める例では、抗痙攣薬の投与はほぼ必須と考えられている4)(レ ベル5)。痙攣を認めない例でも、診断が確定した場合には予防的に抗痙攣薬の投与を行 う場合もある。しかし、少なくとも1種類以上の抗痙攣薬の治療をうけた群とプラセボ群 をコントロール群としたRCTのシステマティックレビューでは、脳静脈洞血栓症に関連した 痙攣の1次・および2次予防のための抗痙攣薬の明らかな有効性を示すエビデンスは認めな かった(レベル3)4-1) 。 脳静脈洞血栓症の診断初期の痙攣発作のリスクはあまり知られてなく、急性期における 予防的抗痙攣薬の使用に関しては議論中である。多施設での前向き観察研究では、テント ン ト用 上病変を有する脳静脈洞血栓症は発症時・初期ともに高い痙攣発症リスクがあった。一方、 発症時けいれんを認める者は、高い頻度で2週間以内にけいれん発作が再発した結果から、 急性期の脳静脈洞血栓症患者に抗痙攣薬を投与することを考慮してよいと考えられる(レ ベル3)4-2) 。 浸透圧利尿薬の有効性についても比較対照試験によるデータは得られていない。しかし、 本症では高頻度に頭蓋内圧亢進・脳浮腫を伴うことから、そのような場合浸透圧利尿薬の 投与が必要となる。わが国では 5%果糖加 10%グリセリン液(グリセロールなど)、D-マ ンニトールなどの浸透圧利尿薬が用いられるが、一般には rebound 現象が弱い点で前者が メ より好んで使用されている。 また、開頭減圧術を施行された脳静脈洞血栓症の文献検索での検討では、致命的な重症 コ 例においては開頭減圧術を治療法として考慮すべきであるとされるが、十分なエビデンス はない(レベル4)11) 。 ク 最近のトピックで、脳静脈洞血栓症の治療に新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulants:NOAC)である直接的抗トロンビン薬のdabigatranが奏功したとする症例 報告があり(レベル5)12)、大変興味深いが、NOACによる脳静脈洞血栓症の治療に関して 引用文献 リッ は今後の検討課題である。 1) Einhäupl KM, Villringer A, Meister W, Mehraein S, Garner C, Pellkofer M, et al. ブ Heparin treatment in sinus venous thrombosis. 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